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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】電気刺激装置および電気刺激システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20240704BHJP
   A61N 1/04 20060101ALI20240704BHJP
   A61N 1/08 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N1/04
A61N1/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020148367
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042782
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】599083411
【氏名又は名称】株式会社 MTG
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】武居 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】スン ボ
(72)【発明者】
【氏名】バイディラ ラマダン マルリン
(72)【発明者】
【氏名】白井 智之
(72)【発明者】
【氏名】成田 高世
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0123568(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0269903(US,A1)
【文献】特表2009-502399(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151136(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/126080(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0173325(US,A1)
【文献】特表平08-508897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0015989(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
A61N 1/04
A61N 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの筋肉に電気刺激を付与するための第1、第2刺激用電極と、
ユーザのインピーダンスを測定するための複数の測定用電極であって、少なくとも1つは前記第1刺激用電極と前記第2刺激用電極との間に設けられる、複数の測定用電極と、
を備える電気刺激装置。
【請求項2】
前記第1、第2刺激用電極による電気刺激を制御する制御部を備え、
前記制御部は、測定されたインピーダンスに基づいて決定される強度の電気刺激を前記第1、第2刺激用電極によって付与させる請求項1に記載の電気刺激装置。
【請求項3】
前記第1、第2刺激用電極による電気刺激を制御する制御部を備え、
前記制御部は、測定されたインピーダンスに基づいて決定されるタイミングで前記第1、第2刺激用電極による電気刺激を終了させる請求項1に記載の電気刺激装置。
【請求項4】
測定されたインピーダンスに基づいてユーザの筋肉の回復度合いを推定する制御部を備える請求項1に記載の電気刺激装置。
【請求項5】
ユーザの筋肉に電気刺激を付与するための第1、第2刺激用電極と、
ユーザのインピーダンスを測定するための複数の測定用電極であって、少なくとも1つは前記第1刺激用電極と前記第2刺激用電極との間に設けられる、複数の測定用電極と、
前記第1、第2刺激用電極による電気刺激および前記複数の測定電極によるインピーダンスの測定を制御する制御部と、
を備える電気刺激システム。
【請求項6】
前記制御部は、測定されたインピーダンスに基づいてユーザの断層画像を再構成する請求項に記載の電気刺激システム。
【請求項7】
前記断層画像は、導電率分布、誘電率分布または位相分布である請求項に記載の電気刺激システム。
【請求項8】
前記制御部は、測定されたインピーダンスに基づいて決定される強度の電気刺激を前記第1、第2刺激用電極によって付与させる請求項からのいずれかに記載の電気刺激システム。
【請求項9】
前記制御部は、測定されたインピーダンスに基づいて決定されるタイミングで前記第1、第2刺激用電極による電気刺激を終了させる請求項からのいずれかに記載の電気刺激システム。
【請求項10】
前記制御部は、測定されたインピーダンスに基づいて、ユーザの筋肉の回復度合いを推定する請求項からのいずれかに記載の電気刺激システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気刺激装置および電気刺激システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ユーザの筋肉に電気刺激を付与する電気刺激装置を開示する。この電気刺激装置は、筋肉に微弱な電流を流して筋肉を緊張および弛緩させることで、筋肉を運動させる。これにより、例えば筋力強化が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-6644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるような従来の電気刺激装置は、その効果を実感しにくいため、継続意欲の低下を招きやすい。
【0005】
本発明はこうした状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、筋肉を電気刺激することによる効果を実感できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の電気刺激装置は、ユーザの筋肉に電気刺激を付与するための第1、第2刺激用電極と、ユーザのインピーダンスを測定するための複数の測定用電極であって、少なくとも1つは第1刺激用電極と第2刺激用電極との間に設けられる、複数の測定用電極と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様もまた、電気刺激装置である。この装置は、ユーザの筋肉に電気刺激を付与するための電極を備える電気刺激装置であって、ユーザの導電率、誘電率または位相を測定可能である。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、電気刺激システムである。この電気刺激システムは、ユーザの筋肉に電気刺激を付与するための第1、第2刺激用電極と、ユーザのインピーダンスを測定するための複数の測定用電極であって、少なくとも1つは第1刺激用電極と第2刺激用電極との間に設けられる、複数の測定用電極と、第1、第2刺激用電極による電気刺激および複数の測定強電極によるインピーダンスの測定を制御する制御部と、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、筋肉を電気刺激することによる効果を実感できる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る電気刺激システムを示す模式図である。
図2図1の電気刺激装置の裏面図である。
図3図1の電気刺激装置が被装着部に装着された状態を示す図である。
図4図1の電気刺激装置の機能構成を示すブロック図である。
図5図1の端末の機能構成を示すブロック図である。
図6】被装着部の導電率分布を示す画面の一例を示す図である。
図7】実験結果を示す図である。
図8】実験結果を示す図である。
図9図1の電気刺激装置による電気刺激の終了後の筋肉の導電率の時間変化を示す図である。
図10】電気刺激強度と導電率の関係を示す図である。
図11】所定の周波数の電気刺激を筋肉に付与している最中の筋肉の収縮変化量の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
筋肉の筋繊維が収縮運動をすると、機械的な要因と化学的な要因により、外部から印加したときの電流密度(単位時間、単位断面積あたりに流れる電荷量)が大きくなる。すなわち、(1)機械的な要因としては、筋肉の内部に存在する動脈または静脈も収縮運動をおこし、一種のポンプ効果が現れ、流れる血流量(単位時間、単位断面積あたりに流れる血液の質量)が局所的に増加し、見かけ上、動脈または静脈内部の導電率も増加し、結果として筋肉の電流密度が大きくなる。一方、化学的な要因としては、(2)この筋繊維の収縮運動は嫌気性代謝で、大量の乳酸を生成し、アデノシン三リン酸(ATP)の加水分解により水素イオン(H+)が発生するなどの現象が発生し、結果として筋肉の電流密度が大きくなる。つまり、筋肉が運動すると、筋肉の導電率が局所的に上昇したこととなる。したがって、筋肉の導電率の変化を確認できれば、筋肉が運動したことを実感できる。
【0014】
本発明者らは、このような知見に基づいて、実施の形態の電気刺激システムに想到した。以下、具体的に説明する。
【0015】
図1は、実施の形態に係る電気刺激システム100を示す模式図である。電気刺激システム100は、電気刺激装置10と、端末12と、を備える。電気刺激装置10は、ユーザの腕、脚または腹などの身体部位に装着される。以下、電気刺激装置10が装着された身体部位を被装着部と呼ぶ。電気刺激装置10は、被装着部の筋肉に電気刺激を与える装置である。また、電気刺激装置10は、被装着部のインピーダンスを測定し、得られたインピーダンスデータを端末12に送信する。
【0016】
端末12は、表示部を備える種々の情報処理端末である。端末12は、例えば、スマートフォンやタブレット端末であってもよい。端末12は、有線または無線により、電気刺激装置10と接続される。端末12は、ユーザの操作に応じて電気刺激装置10を制御する。
【0017】
図2は、電気刺激装置10の裏面図である。図3は、電気刺激装置10が被装着部に装着された状態を示す図である。多くの場合、電気刺激装置10が装着される被装着部は、円柱形と見なすことができる。
【0018】
電気刺激装置10は、基材14と、被装着部の筋肉に電気刺激を付与するための第1刺激用電極16および第2刺激用電極18と、測定用電極20で総称される、被装着部のインピーダンスを測定するための測定用電極20_1~20_16と、制御ユニット22と、を備える。刺激用電極の数は、複数であればよく、2つに限定されない。また、測定用電極20の数は、複数であればよく、16に限定されない。
【0019】
基材14は、被装着部に装着される部材であり、展開時には平坦なシート状を呈する。第1刺激用電極16および第2刺激用電極18、基材14の裏面14aに設けられる。第1刺激用電極16および第2刺激用電極18は、被装着部の周囲を周回するX方向に延在する略矩形状を有し、X方向に直交するY方向に互いに離間する。第1刺激用電極16および第2刺激用電極18はそれぞれ、基材14の裏面14aに設けられる24によって制御ユニット22と電気的に接続される。
【0020】
複数の測定用電極20は、基材14の裏面14aに設けられる。複数の測定用電極20は、第1、第2刺激用電極16,18によって電気刺激される筋肉のインピーダンスを測定可能に設けられる。複数の測定用電極20のうちの少なくとも1つ(この例では6つ)の測定用電極20は、第1刺激用電極16と第2刺激用電極18との間に位置する。複数の測定用電極20は、X方向に一列に等間隔に並び、被装着部を環囲する。複数の測定用電極20はそれぞれ、基材14の裏面14aに設けられる配線26によって制御ユニット22と電気的に接続される。
【0021】
配線24,26は、被装着部に接触しないように絶縁膜でコーティングされる。配線24,26は、基材14に埋め込まれてもよく、この場合、基材14が絶縁体であれば配線24,26を絶縁膜でコーティングしなくてもよい。
【0022】
制御ユニット22は、第1、第2刺激用電極16,18への筋肉刺激用の電力供給を制御したり、複数の測定用電極20によるインピーダンスの測定を制御したりする電子ユニットである。制御ユニット22は、基材14内に保持される。
【0023】
図4は、電気刺激装置10の機能構成を示すブロック図である。図4に示す制御部ユニットの各ブロックは、ハードウエア構成としてはコンピュータのCPU(Central Processing Unit)やメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウエア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウエア、ソフトウエアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、本明細書に触れた当業者には理解されるところである。図5、6の各ブロックについても同様である。
【0024】
制御ユニット22は、電源部30と、装置側制御部32と、通信部34と、を備える。電源部30は、リチウムイオン電池等の二次電池であるが、交換可能な一次電池であってもよい。電源部30は、装置側制御部32および通信部34に電気的に接続され、それらに電力を供給する。なお、制御ユニット22に電源ボタンが設けられてもよく、その電源ボタンの操作に応じて電源部30をオン/オフしてもよい。
【0025】
通信部34は、端末12の通信部42(後述)との間で情報を送受信する。通信部34は、無線通信、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信により情報を送受信してもよい。
【0026】
装置側制御部32は、端末12から受信する制御指示に応じて、第1、第2刺激用電極16,18への電力の供給を制御する。装置側制御部32は、所定の周波数(例えば20Hz)で第1刺激用電極16と第2刺激用電極18との間に電圧を印加したり、その電圧の印加を停止したりする。すなわち、装置側制御部32は、被装着部に電気刺激を付与したり、被装着部への電気刺激の付与を停止したりする。
【0027】
また、装置側制御部32は、複数の測定用電極20による被装着部のインピーダンスデータの取得を制御する。例えば、装置側制御部32は、複数の測定用電極20のうちの一対の測定用電極20(例えば、測定用電極20_1と測定用電極20_2との間)に微弱電流、例えばユーザが感知できない1mA以下の電流を供給する。装置側制御部32は、一対の測定用電極20に微弱電流を流す間に、他の測定用電極20(測定用電極20_3~20_16)のそれぞれの間に生じる電位差を測定する。電流を流す測定用電極20を測定用電極20_2と測定用電極20_3、測定用電極20_3と測定用電極20_4、・・・と順次変更しながら電位差を測定することで、被装着部の断層におけるインピーダンスデータを取得する。ここでのインピーダンスデータは、抵抗値(導電率の関数)と電気容量(キャパシタンス、誘電率の関数)とを含むデータである。装置側制御部32は、取得したインピーダンスデータを端末12に送信する。
【0028】
なお、電気刺激を付与している瞬間のインピーダンスデータは、電気刺激のために印加する電力に埋もれて取得できないときがある。そのため装置側制御部32は、所定の周波数の電気刺激を付与しているときにインピーダンスデータを取得する場合、電気刺激を付与する瞬間を避けたタイミングで、すなわち電気刺激と電気刺激の間のタイミングでインピーダンスデータを取得すればよく、あるいはフーリエ変換などのノイズ処理を適用すればよい。
【0029】
図5は、端末12の機能構成を示すブロック図である。端末12は、端末側制御部40と、通信部42と、表示部44と、を含む。表示部44は、液晶パネルや有機ELパネルなどのタッチパネル式表示装置であり、情報を画面に表示するとともに、ユーザの操作入力を受け付ける。
【0030】
端末側制御部40は、電気刺激装置10の制御ユニット22に電気刺激に関する制御指示を送信することにより、制御ユニット22ひいては電気刺激装置10による電気刺激を制御する。制御指示は例えば、電気刺激強度(すなわち電圧値)を含む電気刺激の開始指示や、終了指示である。
【0031】
また、端末側制御部40は、電気刺激装置10の制御ユニット22にインピーダンスデータの取得指示を送信することにより、制御ユニット22ひいては電気刺激装置10によるインピーダンスの取得を制御する。端末側制御部40は、電気刺激装置10からインピーダンスデータを受信すると、被装着部の導電率分布(すなわち断層画像)を再構成する。端末側制御部40による再構成は、公知の再構成方法によって実現されればよい。
【0032】
また、端末側制御部40は、表示部44への表示を制御する。例えば端末側制御部40は、被装着部の導電率分布を示す断層画像を表示部44に表示する。図6は、被装着部の導電率分布を示す画面の一例を示す図である。端末側制御部40は、図6に示すように、電気刺激を付与する前と電気刺激の付与を終了した後の導電率分布の画像を並べて(すなわち比較可能な態様で)表示してもよい。また、端末側制御部40は、所定の周波数の電気刺激を付与しているときの被装着部の導電率分布の画像を、リアルタイムに表示してもよい。ここでの「リアルタイムに表示」するとは、インピーダンスデータに基づく導電率分布の再構成が完了したら速やかに表示することを意味し、数秒、数十秒または数分遅れで被装着部の導電率分布を表示することを含む。
【0033】
以上が電気刺激システム100の基本構成である。続いてその動作を説明する。
【0034】
ユーザは、電気刺激装置10を装着後、端末12に電気刺激の開始指示を入力する。端末12は、電気刺激装置10に電気刺激の開始指示を送信する。電気刺激装置10は、電気刺激の開始指示を受信すると、まず、被装着部のインピーダンスデータを取得し、端末12に送信する。
【0035】
続いて、電気刺激装置10は、被装着部の筋肉への電気刺激の付与を開始する。電気刺激装置10は、所定の周波数の電気刺激を付与しているときの被装着部のインピーダンスを、所定の周期(例えば1分周期)で取得し、得られたインピーダンスデータを端末12に送信する。端末12は、インピーダンスデータを受信するたびに、導電率分布を表示部44に表示する。すなわち、端末12は、被装着部に所定の周波数の電気刺激を付与しているときの被装着部の導電率分布をリアルタイムに表示する。
【0036】
電気刺激装置10は、所定の時間(例えば15分)が経過すると、あるいは端末12から電気刺激の終了指示を受信すると、所定の周波数の電気刺激の付与を終了するとともに、所定の周期でのインピーダンスデータの取得を終了する。
【0037】
電気刺激装置10は、電気刺激の終了後の被装着部のインピーダンスデータを取得し、端末12に送信する。端末12は、電気刺激を付与する前と電気刺激の付与を終了した後の被装着部の導電率分布を並べて表示する。
【0038】
以上が電気刺激システム100の動作である。続いて、本実施の形態が奏する効果について説明する。
【0039】
本実施の形態によれば、複数の測定用電極20のうちの少なくとも1つの測定用電極20は、第1刺激用電極16と第2刺激用電極18との間に設けられため、第1、第2刺激用電極16,18によって電気刺激されている/された筋肉のインピーダンスデータを取得できる。これにより、電気刺激されている/された筋肉の導電率の変化を確認することができるため、電気刺激によって被装着部の筋肉が運動したことを実感できる。
【0040】
また、本実施の形態によれば、複数の測定用電極20によって取得されるインピーダンスデータに基づく被装着部の局所的なあるいは全体的な導電率分布(すなわち断層画像)が得られる。これにより、電気刺激によって被装着部の筋肉が運動したことを視覚的に実感できる。また、被装着部の断層画像が得られるため、その断層の筋肉を評価できる。例えば、同じ断層における過去の断層画像と比較することで、筋肉量の変化を評価できる。
【0041】
続いて、本発明者らは、「筋肉が運動すると筋肉の導電率が上昇する」という実施の形態の大前提となる知見が正しいことを実験により確認した。実験は、7名の男性(年齢:30.0±3.0歳、身長:173.5±6.5cm、骨格筋量:35.6±4.8kg)と1名の女性(年齢:328歳、身長:167cm、骨格筋量:19.5kg)の計8名に対して実施した。被験者には、腓腹筋を電気刺激するように電気刺激装置10を下腿に装着し、20Hzで20分間の電気刺激を付与した。そして、電気刺激を付与する前、20分間の電気刺激の付与が終了した直後、および、電気刺激の付与の終了後に20分のマッサージを施した後、の各3回のタイミングで、700Hzと1000Hzの2つの交流周波数の電流を印加し、被装着部のインピーダンスを測定し、得られたインピーダンスデータから各タイミングにおける導電率分布を画像再構成した。
【0042】
図7は、各被験者の、電気刺激付与前、電気刺激付与の終了直後、マッサージ後の導電率分布を示す図である。図7より、いずれの被験者も、電気刺激付与前よりも電気刺激付与の終了直後の方が導電率の高さおよび導電率が高い領域のサイズが上昇していること、すなわち電気刺激を付与したことによりそれらが上昇していることが分かる。また、筋肉のどの部位の導電率が特に上昇しているか分かる。図7より、いずれの被験者も、電気刺激付与の終了直後よりも、それよりさらに時間が経過したマッサージ後の方が導電率が低下していることが分かる。また、図7より、トレーニングの効果が高い筋肉の部位が分かる。
【0043】
図8は、各被験者の被装着部の筋肉の導電率変化量を示すグラフである。図8において、Δ<α>afterは電気刺激付与前と電気刺激付与の終了直後の筋肉の導電率の空間平均の差を示し、Δ<α>relaxは電気刺激付与前とマッサージ後の筋肉の導電率の空間平均の差を示し、それぞれ式(1)、(2)により算出される。なお、式(1)、(2)によって筋肉の導電率の空間平均の差を算出するには、被装着部の導電率分布から筋肉のみの導電率分布を抽出する必要があるが、一般に筋肉は脂肪や骨よりも導電率が高いため、フィルタ処理によって被装着部の導電率分布から筋肉のみの導電率分布を抽出できる。
Δ<α>after={<α>after-<α>before}/<α>before ・・・(1)
Δ<α>relax={<α>relax-<α>before}/<α>before ・・・(2)
ここで、<α>beforeは電気刺激付与前の導電率の空間平均を示し、<α>afterは電気刺激付与の終了直後の導電率の空間平均を示し、<α>relaxはマッサージ後の導電率の空間平均を示す。図8より、いずれの被験者も、電気刺激付与前と電気刺激付与の終了直後の導電率の空間平均の差が、電気刺激付与前とマッサージ後の導電率の空間平均の差よりも大きいこと、すなわち電気刺激を付与することにより導電率が上がり、電気刺激の付与を終了すると導電率が下がることが分かる。
【0044】
いずれにせよ、被装着部のインピーダンスに基づけば、電気刺激を付与することによって被装着部の筋肉が運動することを確認できる。
【0045】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0046】
(変形例1)
図9は、電気刺激装置10による電気刺激の終了後の筋肉の導電率の時間変化を示す図である。図6に示すように、筋肉の導電率は、時間経過とともに、すなわち筋肉が回復するとともに上昇する。したがって、筋肉の導電率は筋肉の回復度(疲労度)と捉えることができる。
【0047】
そこで本変形例では、端末側制御部40は、被装着部の筋肉の導電率が所定の回復閾値以上である場合、被装着部の筋肉が回復していると推定し、導電率が回復閾値未満である場合、被装着部の筋肉が回復していないと推定する。
【0048】
回復度合いの推定に用いられる導電率は、例えば、インピーダンスデータから再構成される被装着部の導電率分布の空間平均である。
【0049】
また例えば、導電率は、インピーダンスデータから再構成される被装着部の導電率分布のうちの筋肉のみの導電率分布の空間平均であってもよい。
【0050】
また例えば、導電率は、被装着部の筋肉のうちのユーザが指定した特定の筋肉(下腿であれば、例えば、腓腹筋またはヒラメ筋)のみの導電率分布の空間平均であってもよい。この場合、端末側制御部40は、インピーダンスデータから再構成される被装着部の導電率分布からフィルタ処理によって筋肉のみの導電率分布を抽出し、そこから例えば画像処理によって特定の筋肉のみの導電率分布を抽出すればよい。
【0051】
回復閾値は、所定日数(例えば3日間)以上、電気刺激も随意運動も行っていないときに電気刺激装置10を装着して取得されるインピーダンスデータに基づく導電率から決定してもよい。具体的には例えば、回復閾値は、当該導電率に余裕率を掛けた値であってもよい。また例えば、回復閾値は、ユーザに体重などの必要な情報を入力させ、そうした情報に基づいて決定されてもよい。
【0052】
端末側制御部40は、例えば表示部44に表示するなどして、推定結果をユーザに通知してもよい。端末側制御部40は、推定結果によらずに推定結果をユーザに通知してもよいし、回復していないとの推定結果が得られた場合のみ推定結果をユーザに通知してもよい。
【0053】
端末側制御部40は、例えば、回復しているとの推定結果が得られた場合のみ、電気刺激装置10による電気刺激を開始させてもよい。また例えば端末側制御部40は、回復していないとの推定結果が得られた場合、それでも電気刺激の付与を開始するか否かを所定の画面を表示部44に表示して選択させてもよい。
【0054】
本変形例によれば、筋肉が回復していない状態で筋肉に電気刺激を付与すること避けられ、効果的な筋肉のトレーニングを実現できる。
【0055】
(変形例2)
図10は、電気刺激強度(電圧値)と導電率の関係を示す図である。図10に示すように、筋肉への電気刺激の付与開始直後は、電気刺激強度を徐々に上げていくと電気刺激強度の上昇に伴って筋肉の導電率は上昇し、電気刺激強度がある値以上になると導電率の上昇は止まって一定の値に落ち着く。
【0056】
そこで本変形例では、端末側制御部40は、電気刺激強度を上げながら導電率を測定し、導電率が一定の値に落ち着いたときの電気刺激強度を、推奨の電気刺激強度と決定する。
【0057】
端末側制御部40は、例えば表示部44に表示するなどして、決定した推奨の電気刺激強をユーザに通知してもよい。
【0058】
また、端末側制御部40は、電気刺激装置10による電気刺激を開始させるときに送信する開始指示に含める電気刺激強度に、上述のようにして決定した推奨の電気刺激強度を設定してもよい。つまり、端末側制御部40が決定した推奨の電気刺激強度が自動で設定されてもよい。
【0059】
本変形例によれば、推奨される電気刺激強度による効率的な筋肉のトレーニングを実現できる。
【0060】
(変形例3)
図11は、所定の周波数の電気刺激を筋肉に付与している最中の筋肉の収縮変化量の時間変化を示す図である。筋肉の収縮変化量は、インピーダンスデータから再構成される被装着部の断層画像における筋肉の面積の変化量である。図11に示すように、筋肉の収縮変化量は、電気刺激装置10による電気刺激を開始した当初は上昇するが、電気刺激を継続していると筋疲労により次第に低下する。筋肉の収縮変化量がある程度以下になると、すなわち筋疲労がある程度以上進むと、それ以上の電気刺激にはトレーニング効果が見込めず、かえって逆効果にもなり得る。
【0061】
そこで本変形例では、端末側制御部40は、所定の周期でインピーダンスデータが取得されるたびに、インピーダンスデータから被装着部の筋肉の収縮変化量を算出し、算出した収縮変化量が所定の収縮変化量閾値以下である場合、電気刺激を終了することが推奨されるタイミングであることを判定する。
【0062】
端末側制御部40は、電気刺激を終了することが推奨されるタイミングと決定した場合、例えば表示部44に表示するなどして、その旨をユーザに通知してもよい。
【0063】
また、端末側制御部40は、電気刺激を終了することが推奨されるタイミングと決定した場合、終了指示を電気刺激装置10に送信してもよい。つまり、自動で電気刺激が終了されてもよい。
【0064】
本変形例によれば、効果的な筋肉のトレーニングを実現できる。
【0065】
(変形例4)
実施の形態では、複数の測定用電極20がX方向に一列に並ぶように設けられる場合について説明したが、これに限られず、X方向に複数列に並ぶように設けられてもよい。例えば、複数の測定用電極20は、第1刺激用電極16に対して第2刺激用電極18とは反対側、第1刺激用電極16と第2刺激用電極18との間、第2刺激用電極18に対して第1刺激用電極16とは反対側、に3列に並ぶように設けられてもよい。本変形例によれば、被装着部について複数層の断層画像が得られる。
【0066】
(変形例5)
実施の形態および上述の変形例では、インピーダンスデータに基づいて被装着部の導電率分布を得る場合について説明したが、インピーダンスデータに基づいて被装着部の誘電率あるいは位相の分布を再構成してもよい。この場合、実施の形態および上述の変形例において導電率を「誘電率」または「位相」に読み替えればよい。
【0067】
(変形例6)
電気刺激装置10の制御ユニット22の装置側制御部32が、実施の形態および上述の変形例における端末12の端末側制御部40の機能の少なくとも一部を有していてもよい。
【0068】
例えば装置側制御部32は、変形例1に記載した端末側制御部40の機能を有していてもよい。すなわち、装置側制御部32は、被装着部の筋肉が回復しているか否かをインピーダンスデータに基づいて推定したり、推定結果をユーザに通知したり、推定結果に応じて電気刺激を開始したりする機能を有していてもよい。
【0069】
また例えば装置側制御部32は、変形例2に記載した端末側制御部40の機能を有していてもよい。すなわち、装置側制御部32は、インピーダンスデータに基づいて、推奨の電気刺激強度を決定し、推奨の電気刺激強度をユーザに通知したり、推奨の電気刺激強度で電気刺激したりする機能を有していてもよい。
【0070】
また例えば装置側制御部32は、変形例3に記載した端末側制御部40の機能を有していてもよい。すなわち、装置側制御部32は、インピーダンスデータに基づいて、電気刺激を終了することが推奨されるタイミングであるか否か判定し、終了することが推奨される場合にその旨をユーザに通知したり、電気刺激を終了したりする機能を有していてもよい。
【0071】
また上述の変形例において、電気刺激装置10は、装置側制御部32がユーザに通知するための表示部を備えていてもよい。
【0072】
上述した実施の形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0073】
また、請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施の形態および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連係によって実現されることも当業者には理解されるところである。例えば請求項に記載の制御部は、端末側制御部40により実現されてもよいし、装置側制御部32により実現されてもよいし、端末側制御部40と装置側制御部32との組み合わせにより実現されてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 電気刺激装置、 12 端末、 16 第1刺激用電極、 18 第2刺激用電極、 20_1~20_16 測定用電極、 100 電気刺激システム。
図1
図2
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図9
図10
図11