(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】引抜成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 70/52 20060101AFI20240704BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240704BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20240704BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240704BHJP
【FI】
B29C70/52
D03D1/00 A
B29C70/10
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2020176310
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000105899
【氏名又は名称】サカイ・コンポジット株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 一
(72)【発明者】
【氏名】野口 洋平
(72)【発明者】
【氏名】浅原 信雄
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-145117(JP,A)
【文献】実開平01-094517(JP,U)
【文献】特公昭62-023139(JP,B2)
【文献】特開2018-118440(JP,A)
【文献】特開平01-214427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/52
D03D 1/00
B29C 70/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差する経糸と緯糸からなる織物基材を積層して樹脂を含浸させたものを経糸方向に引き抜きながら成形してなる引抜成形品であって、最外層に配置される前記織物基材を構成する一の経糸は、隣接する他の経糸と並んで積層方向内側で一の緯糸と交差する交差点を必ず有することを特徴とする引抜成形品。
【請求項2】
前記経糸が、緯糸と交差する全交差点のうち半分以上の交差点において、隣接する他の経糸と並んで積層方向内側で一の緯糸と交差する、請求項1に記載の引抜成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物基材の積層体に樹脂を含浸させてなる引抜成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と成形用樹脂からなる成形品は、軽量で優れた力学特性を有するために、スポーツ用品用途、航空宇宙用途および一般産業用途に広く用いられている。成形品の製造方法としては、射出成形法、押出成形法、プリプレグ法、オートクレーブ法、引抜成形法等の方法が適用される。
【0003】
なかでも引抜成形法は、特許文献1に記載されるように、強化繊維と成形用樹脂を金型に連続的に通して含浸させつつ連続的に引き抜くことにより製造する製造方法であり、繊維強化複合材料を連続的に成形できるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-240317号公報
【文献】特開2008-038082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引抜成形法では通常、一方向に引き揃えられた強化繊維が引抜方向に沿って加熱成形金型に引き込まれる(特許文献2)。このようにして得られる引抜成形体は、引抜方向に配向した強化繊維を含むため、引抜方向の強度に優れる。しかし、該引抜成形体は、引抜方向以外の方向の強度は充分ではない。
【0006】
このため、引抜成形法においては、
図4に示すような引抜成形装置を用いて、織物に成形用樹脂を含浸させることにより高強度の成形品を効率的に製造することが期待されている。しかしながら織物を用いた引抜成形法では、
図5(A)に示すような織物組織を有する織物基材が金型内面に沿って引き抜かれるため、成形方向に連続した織物基材のヘコミに沿って発生する成形用樹脂の硬化物が金型内面に滞留し、硬化物引抜成形工程において成形品に凹みや擦れを生じさせる恐れがあった。
【0007】
そこで本発明の課題は、凹みや擦れが少ない良外観の引抜成形品を安定的に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る引抜成形品は、互いに交差する経糸と緯糸からなる織物基材を積層して樹脂を含浸させたものを経糸方向に引き抜きながら成形してなる引抜成形品であって、最外層に配置される前記織物基材を構成する一の経糸は、隣接する他の経糸と並んで積層方向内側で一の緯糸と交差する交差点を必ず有することを特徴とするものからなる。このような本発明に係る引抜成形品によれば、最外層の織物基材の隣接する2本以上の経糸と積層方向外側で交差し積層体の最表面側に配置される緯糸が、金型内面に付着する樹脂を引抜成形工程においてかき取ることができるので、樹脂硬化物が金型内部に溜まることを効果的に防止することができる。
【0009】
上記引抜成形品において、前記経糸が、緯糸と交差する全交差点のうち半分以上の交差点において、隣接する他の経糸と並んで積層方向内側で一の緯糸と交差することが好ましい。金型内面に付着する樹脂をかき取るスクレーパとして機能する緯糸が、一本の経糸内の半分以上の交差点に存在することにより、樹脂の硬化物が金型内部に溜まることをより効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、織物基材積層体の最表面に配置される緯糸が金型内部への樹脂硬化物滞留を防止することができるので、凹みや擦れが生じにくく優れた外観を有する引抜成形品が提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施態様に係る引抜成形品の最外層に配置される織物基材の織物組織を示し、(A)は表面図、(B)は模式図である。
【
図2】本発明の他の実施態様に係る引抜成形品の最外層に配置される織物基材の織物組織のバリエーション(A)~(C)を示す模式図である。
【
図3】本発明のさらに他の実施態様に係る引抜成形品の最外層に配置される織物基材の織物組織のバリエーション(A)~(F)を示す模式図である。
【
図4】織物基材から引抜成形品を製造するための装置構成を示す概略図である。
【
図5】従来技術に係る引抜成形品の最外層に配置される織物基材の織物組織を示し、(A)は表面図、(B)は模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る引抜成形品の最外層に配置される織物基材の織物組織を示す。引抜成形品を製造するにあたっては、
図4に示す引抜成形装置1に織物基材2がセットされ、織物基材2が中子/賦形治具3を用いて複数層に束ねられた上でヒータを備えた金型4に引き込まれ、別途注入された成形用樹脂5と混合される。成形用樹脂5は金型4内で織物基材2に含浸されて硬化し、金型4から引き抜かれ、カッター6で所定の長さに切断されることにより引抜成形品となる。
【0013】
図1(A)は朱子織の織物組織を有する織物基材の外観表面図であり、矢印は引抜成形工程における引抜方向を示している。経糸は引抜方向と一致するように配置されており、積層された織物基材の最外層おもて面には経糸よりも緯糸が多く露出している。なお、織物組織の表記方法を説明する便宜上、
図1(B)の模式図と対応する繰り返し単位を白枠で囲んである。
【0014】
図1(B)は朱子織の織物組織を示しており、白枠で囲んだ
図1(A)の繰り返し単位を模式的に表記したものである。黒マスは経糸と緯糸の交差点のうち、経糸が最外層おもて面に露出し、緯糸が最外層裏面に隠れる交差点を示している。逆に白マスは、経糸が最外層裏面に隠れ、緯糸が最外層おもて面に露出する交差点を示している。隣接する白マスの間に記載された縦長の楕円は、最外層裏面(積層方向内側)で緯糸と交差する二本の経糸が隣接する部位を示す。当該部位において、積層体の引き抜き時に緯糸が金型内面と接触しながら移動するので、経糸間のヘコミに沿って発生する成形用樹脂の硬化物が金型内面に滞留した場合であっても当該部位で当該成形用樹脂硬化物をかき取ることができる。
【0015】
図2(A)~(C)は、本発明の他の実施態様に係る引抜成形品の最外層に配置される織物基材の織物組織のバリエーションを示す模式図である。当該模式図は、
図1(B)と同様の方法で織物組織の繰り返し単位を模式的に表記したものであり、
図2(A)は2/1綾織、
図2(B)は2/2綾織、
図2(C)は
図2(B)の2/2綾織を裏返したものを示す。
図1に示した朱子織の織物基材と同様に、縦長の楕円で示した部位の緯糸が金型内面と接触しながら移動するので、経糸間に樹脂硬化物が溜まって金型内面に付着した場合であっても樹脂硬化物をかき取ることができる。
【0016】
図3(A)~(F)は、本発明のさらに他の実施態様に係る引抜成形品の最外層に配置される織物基材の織物組織のバリエーションを示す模式図である。当該模式図は、
図1(B)と同様の方法で織物組織の繰り返し単位を模式的に表記したものであり、
図3(A)は3/1綾織、
図3(B)は4枚3飛び朱子織、
図3(C)は5枚2飛び朱子織、
図3(D)は5枚3飛び朱子織、
図3(E)は7枚2飛び朱子織、
図3(F)は8枚3飛び朱子織を示す。
図3においては、縦長の楕円で示した部位が織物基材の経糸方向に5割以上の頻度で現れるので、金型内面に付着した樹脂硬化物を確実にかき取ることができる。
【0017】
本発明の効果が損なわれない限りにおいて、織物基材に用いられ得る繊維の種類に特に限定又は制限はない。例としては、Sガラス、S-1ガラス、S-2ガラス、S-3ガラス、E-ガラス、及びLガラス繊維などのガラス繊維、炭素繊維、及びアラミド繊維などの有機繊維、並びに天然/バイオ繊維が挙げられる。特に、炭素繊維を用いる場合、格段に高い強度及び剛性を有し、軽量でもある繊維強化プラスチック成形品が得られる。適切な炭素繊維の例は、東レ株式会社製の、約200~250GPaの標準的弾性率を有する炭素繊維(“トレカ”(登録商標)T300、T300B、T400HB、T700SC、Z600)、約250~300GPaの中間的弾性率を有する炭素繊維(“トレカ”(登録商標)T800SC、T800HB、T830HB、T1000GB、M30SC)、又は300GPa超の高い弾性率を有する炭素繊維(“トレカ”(登録商標)M35JB、M40JB、M46JB、M50JB、M55J、M55JB、M60JB)である。これらの炭素繊維の中でも、引張強度が4500MPa以上、及び1.5%以上の伸びを有する炭素繊維を経糸に用いることが好ましい。成形中の糸切れが発生しにくいことから、より成形が容易である。これらの繊維は、表面処理が施されているものであってもよい。表面処理としては、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、結束剤による処理、添加剤の付着処理などがある。また、これらの繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
織物基材に用いられる炭素繊維のフィラメント数は、1000~50000本の範囲のいずれでも良い。フィラメント数が50000本を上回ると成形時に樹脂含浸が難しいことがある。フィラメント数は、特に3000、6000、12000本のものが価格、製織性の面で好ましい。
【0019】
繊維強化樹脂は、強化繊維とマトリクス樹脂を含んで構成されるが、マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール(レゾール型)樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。なかでも、炭素繊維との接着性や、成形体の力学特性、成形性を考慮すると、ビニルエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0020】
また、繊維強化樹脂の炭素繊維の重量繊維含有率が15~80重量%の範囲であることが好ましい。含有量が15重量%未満であると、耐荷重性や剛性が失われ所定の目的の機能を果たすことできない。重量含有量が80重量%を超えると、前記繊維強化樹脂中にボイドが発生する問題が生じやすくなり、成形が困難となる。長尺品などで高弾性率かつ高強度が必要となる場合には、重量含有量の管理許容範囲を小さく設定することが好ましく、好ましくは重量含有率が30~75重量%、さらに好ましくは40~75重量%である。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
図4に示した引抜成形装置を用いて、
図3(B)の織物組織(4枚3飛び朱子織)を有する織物基材を複数積層して樹脂を含浸させたものを経糸方向に引き抜きながら成形して引抜成形品を製造した。
【0022】
凹みの発生した面を基準面としてデプスゲージを用いて凹み深さを測定したところ、目視可能な凹みはなく良好な外観を呈しており、デプスゲージを移動させて測定した凹み深さは最外層の織物基材厚みに対して5%未満であった。結果を表1に示す。
【0023】
[比較例1]
図4に示した引抜成形装置を用いて、
図5(B)の織物組織(平織)を有する織物基材を複数積層して樹脂を含浸させたものを経糸方向に引き抜きながら成形して引抜成形品を製造した。
【0024】
凹みの発生した面を基準面としてデプスゲージを用いて凹み深さを測定したところ、意匠面(最表面)に経糸方向に沿って凹みが発生しており、その深さは最外層の基材厚みに対して90%以上であった。結果を表1に示す。
【0025】
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る引抜成形品は、強度や軽量性が求められる各種素材として広く利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 引抜成形装置
2 織物基材
3 中子/賦形治具
4 金型
5 成形用樹脂
6 カッター