(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】車輪構造およびロボット
(51)【国際特許分類】
B60B 33/00 20060101AFI20240704BHJP
【FI】
B60B33/00 Z
(21)【出願番号】P 2020557551
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2019045241
(87)【国際公開番号】W WO2020105625
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2018217139
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515337268
【氏名又は名称】GROOVE X株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 要
(72)【発明者】
【氏名】根津 孝太
(72)【発明者】
【氏名】高野 俊暁
(72)【発明者】
【氏名】高田 恵美
【審査官】松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-027158(JP,U)
【文献】実開昭60-188602(JP,U)
【文献】特開2013-241170(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012219(WO,A1)
【文献】特開2000-203206(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0267217(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 33/00-33/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、
前記車輪を部分的に覆うカバーと、
を備え、
前記カバーにおいて、前記車輪の周方向に交差する端部は、前記車輪の回転に連れて前
記車輪の周方向に移動する物体に対し、前記車輪の幅より狭い範囲で当接する当接部を有
し、
前記当接部は、前記車輪の周方向
と平行又はほぼ平行となるように凹状に形成されている車輪構造。
【請求項2】
車輪と、
前記車輪を部分的に覆うカバーと、
を備え、
前記カバーにおいて、前記車輪の周方向に交差する端部は、前記車輪の回転に連れて前記車輪の周方向に移動する物体に対し、前記車輪の幅より狭い範囲で当接する当接部を有し、
前記端部の凹んだ部分を相補するように弾性材料が充填されている車輪構造。
【請求項3】
車輪と、
前記車輪を部分的に覆うカバーと、
を備え、
前記カバーにおいて、前記車輪の周方向に交差する端部は、前記車輪の回転に連れて前記車輪の周方向に移動する物体に対し、前記車輪の幅より狭い範囲で当接する当接部を有し、
前記端部の凹んだ部分を相補すると共に前記当接部を覆う弾性材料からなる層を備え、
前記層の材料と厚さは、接触した指に対して前記当接部がある部分とない部分とで圧力差を生じさせるものである車輪構造。
【請求項4】
前記端部は、凹凸形状または波型形状である請求項1~3のいずれか1項に記載の車輪構造。
【請求項5】
前記端部は、曲線部分を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の車輪構造。
【請求項6】
前記車輪の幅方向における前記カバーの縁部に、前記端部に近づくに従って前記車輪から離隔する斜面を有するガイドが形成されている請求項1~5のいずれか1項に記載の車輪構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の車輪構造を備えるロボット。
【請求項8】
前記車輪構造は、前記車輪を駆動するインホイールモータを備え、前記車輪と前記インホイールモータと前記カバーとがユニット化されており、
前記車輪を被走行面に接触させる第1の状態と、前記車輪を収納する第2の状態との間で、前記ユニット化された車輪構造を回動する回動部を備える請求項7に記載のロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪構造およびロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車輪を有する玩具が知られている。特許文献1は、タイヤを備えたオートバイ玩具の発明を開示している。この文献は、タイヤが高速で回転しているときにタイヤの外周に手指を触れると、手指がタイヤの回転に巻き込まれて思わぬ怪我をしてしまうという課題を解決する発明を開示している。この発明はフェンダーの後端にタイヤと同方向に回転するローラを設け、ローラによって手指を外方向に逃がす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した特許文献1とはローラとは異なる方法によって、手指の挟み込みを低減する車輪構造およびこれを備えたロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車輪構造は、車輪と、前記車輪を部分的に覆うカバーとを備え、前記カバーにおいて、前記車輪の周方向に交差する端部は、前記車輪の回転に連れて前記車輪の周方向に移動する物体に対し、前記車輪の幅より狭い範囲で当接する当接部を有している。 前記当接部は、前記車輪の周方向に凹状に形成されていてもよい。また、前記端部の凹んだ部分を相補するように弾性材料が充填されていてもよい。また、前記端部の凹んだ部分を相補すると共に前記当接部を覆う弾性材料からなる層を備え、前記層の材料と厚さは、接触した指に対して前記当接部がある部分とない部分とで圧力差を生じさせるものであってもよい。
また、本発明のロボットは、上記の車輪構造を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の構成によれば、カバーと車輪との間に指が挟み込まれにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0008】
【
図1A】第1の実施の形態の車輪構造を備えたロボットを示す正面図である。
【
図1B】第1の実施の形態の車輪構造を備えたロボットを示す右側面図である。
【
図5B】車輪構造の変形例の他の例を示す図である。
【
図5C】車輪構造の変形例のさらに他の例を示す図である。
【
図6A】第2の実施の形態の車輪構造を示す図で、
図3と同方向からみた図である。
【
図6B】第2の実施の形態の車輪構造を示す図で、
図6Aの部分拡大図である。
【
図6C】第2の実施の形態の車輪構造の変形例にかかる端部を示す図である。
【
図7】第3の実施の形態の車輪構造を示す図である。
【
図8】第3の実施の形態の車輪構造を部分的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施の形態の車輪構造は、車輪と、前記車輪を部分的に覆うカバーとを備え、前記カバーにおいて、前記車輪の周方向に交差する端部は、前記車輪の回転に連れて前記車輪の周方向に移動する物体に対し、前記車輪の幅より狭い範囲で当接する当接部を有している。
【0010】
この構成により、カバーと車輪との間に指が挟み込まれにくくなる。これは車輪の回転に連れて指がカバーと車輪との間に挟み込まれる力を、車輪の幅より狭い当接部で受け止めるためと考えられる。
【0011】
本実施の形態の車輪構造において、前記端部は、凹凸形状または波型形状であってもよい。この構成により、凹凸形状の凸部または波型の高くなった部分により形成された凸部が指と当接することで、カバーと車輪との間に指が挟み込まれにくくなる。
【0012】
本実施の形態の車輪構造において、前記端部は、曲線部分を有してもよい。車輪の回転に連れて指がカバーと車輪との間に移動したときに、指と当接するカバーの端部が曲線部分を有しているため、指が端部の全体に当たるのではなく、その一部と当接する。これにより、車輪の回転に連れて指がカバーと車輪との間に挟み込まれる力を、端部全体よりも狭い範囲で指を受け止めるためと考えられる。なお、曲線部は、車輪の外周に沿って突出する凸部によって構成されるものであってもよいし、また、凹部を構成することにより凹部の両端が指に当接するものであってもよいし、それ以外の構成でもよい。
【0013】
本実施の形態の車輪構造は、前記端部の凹んだ部分を相補するように弾性材料が充填されていてもよい。この構成により、凹んだ部分に充填された材料がクッションとなるので、端部に当接したときに指が受ける力を分散できる。
【0014】
本実施の形態の車輪構造は、前記端部の凹んだ部分を相補すると共に前記当接部を覆う弾性材料からなる層を備え、前記層の材料と厚さは、接触した指に対して前記当接部がある部分とない部分とで圧力差を生じさせるものであってもよい。この構成により、端部に指が当接したときに痛みを感じにくいと共に、カバーと車輪との間に指が挟み込まれにくくなる。
【0015】
本実施の形態の車輪構造は、前記車輪の幅方向における前記カバーの縁部に、前記端部に近づくに従って前記車輪から離隔する斜面を有するガイドが形成されていてもよい。この構成により、指がガイドをまたいで車輪に触れた場合には、車輪の回転に連れて指が動くときに、車輪とカバーとの隙間から離れるように案内されるので、車輪とカバーとの隙間に指が挟み込まれることはない。
【0016】
本実施の形態の自律行動型ロボットは、上記の車輪構造を備える。この構成により、安全に走行できる自律行動型ロボットを実現できる。また、自律行動型ロボットは、人に抱っこされるロボットでもよい。自律行動型ロボットを抱き上げたときにも、駆動中の車輪とカバーとの間に指が巻き込まれにくく、安全である。
【0017】
本実施の形態の自律行動型ロボットにおいて、前記車輪構造は、前記車輪を駆動するインホイールモータを備え、前記車輪と前記インホイールモータと前記カバーとがユニット化されており、前記車輪を被走行面に接触させる第1の状態と、前記車輪を収納する第2の状態との間で、前記ユニット化された車輪構造を回動する回動部を備えてもよい。この構成により、自律行動型ロボットが移動しないときには、車輪を収納する第2の状態とするので、車輪とカバーの隙間に指が挟まれることがなく、安全性を高めることができる。
【0018】
以下、実施の形態の車輪構造およびこれを備えた自律行動型ロボットについて、図面を参照して説明する。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1は、本実施の形態の車輪構造を備えた自律行動型ロボット(以下、「ロボット」という)100の外観を示す図である。
図1Aは、ロボット100の正面外観図である。
図1Bは、ロボット100の側面外観図である。前輪102が本実施の形態の車輪構造を有するが、詳細については後述する。
【0020】
本実施の形態のロボット100は、外部環境および内部状態に基づいて行動や仕草(ジェスチャー)を決定する自律行動型のロボットである。外部環境は、カメラやサーモセンサなど各種のセンサにより認識される。内部状態はロボット100の感情を表現するさまざまなパラメータとして定量化される。
【0021】
ロボット100のボディ104は、全体的に丸みを帯びた形状を有し、ウレタンやゴム、樹脂、繊維などやわらかく弾力性のある素材により形成された外皮を含む。ロボット100に服を着せてもよい。丸くてやわらかく、手触りのよいボディ104とすることで、ロボット100はユーザに安心感とともに心地よい触感を提供する。
【0022】
ロボット100は、総重量が15キログラム以下、好ましくは10キログラム以下、更に好ましくは、5キログラム以下である。生後13ヶ月までに、赤ちゃんの過半数は一人歩きを始める。生後13ヶ月の赤ちゃんの平均体重は、男児が9キログラム強、女児が9キログラム弱である。このため、ロボット100の総重量が10キログラム以下であれば、ユーザは一人歩きできない赤ちゃんを抱きかかえるのとほぼ同等の労力でロボット100を抱きかかえることができる。生後2ヶ月未満の赤ちゃんの平均体重は男女ともに5キログラム未満である。したがって、ロボット100の総重量が5キログラム以下であれば、ユーザは乳児を抱っこするのと同等の労力でロボット100を抱っこできる。
【0023】
適度な重さと丸み、柔らかさ、手触りのよさ、といった諸属性により、ユーザがロボット100を抱きかかえやすく、かつ、抱きかかえたくなるという効果が実現される。同様の理由から、ロボット100の身長は1.2メートル以下、好ましくは、0.7メートル以下であることが望ましい。本実施の形態におけるロボット100にとって、抱きかかえることができるというのは重要なコンセプトである。
【0024】
ロボット100は、3輪走行するための3つの車輪を備える。図示のように、一対の前輪102(左輪102a,右輪102b)と、一つの後輪103を含む。前輪102が駆動輪であり、後輪103が従動輪である。前輪102は、操舵機構を有しないが、回転速度や回転方向を個別に制御可能とされている。後輪103は、いわゆるキャスターからなり、ロボット100を前後左右へ移動させるために回転自在となっている。左輪102aよりも右輪102bの回転数を大きくすることで、ロボット100は左折したり、左回りに回転できる。右輪102bよりも左輪102aの回転数を大きくすることで、ロボット100は右折したり、右回りに回転できる。
【0025】
前輪102および後輪103は、駆動機構(回動機構、リンク機構)によりボディ104に完全収納できる。走行時においても各車輪の大部分はボディ104に隠れているが、各車輪がボディ104に完全収納されるとロボット100は移動不可能な状態となる。すなわち、車輪の収納動作にともなってボディ104が降下し、床面Fに着座する。この着座状態においては、ボディ104の底部に形成された平坦状の着座面108(接地底面)が床面Fに当接する。本書では、前輪102が床面Fに接触している状態を「第1の状態」、前輪102がボディ104に収納された状態を「第2の状態」という。
【0026】
ロボット100は、2つの手106を有する。手106には、モノを把持する機能はない。手106は上げる、振る、振動するなど簡単な動作が可能である。2つの手106も個別制御可能である。
【0027】
目110には、液晶素子または有機EL素子による画像表示が可能である。ロボット100は、音源方向を特定可能なマイクロフォンアレイや超音波センサ、ニオイセンサ、測距センサ、加速度センサなどさまざまなセンサを搭載する。また、ロボット100はスピーカーを内蔵し、簡単な音声を発することもできる。ロボット100のボディ104には、静電容量式のタッチセンサが設置される。タッチセンサにより、ロボット100はユーザのタッチを検出できる。
【0028】
ロボット100の頭部にはツノ112が取り付けられる。上述のようにロボット100は軽量であるため、ユーザはツノ112をつかむことでロボット100を持ち上げることも可能である。ツノ112には全天球カメラが取り付けられ、ロボット100の上部全域を一度に撮像可能である。次に、前輪102の車輪構造について説明する。
【0029】
図2は前輪102の車輪構造を側面から見た図、
図3は車輪構造をA-A方向から見た図、
図4は車輪構造をB-B方向から見た図である。車輪構造は、車輪120と、車輪120を駆動するインホイールモータ126と、車輪120及びインホイールモータ126を覆うカバー122とを備えている。車輪120と、インホイールモータ126と、カバー122とはユニット化されており、車輪構造は回動軸128を備えている。なお、
図2において、下方にグラデーションを付しているのは、車輪構造が曲面形状を有していることを表したものである(
図3等参照)。
【0030】
ボディ104側には、回動軸128を回動させる駆動機構(図示せず)が設けられている。駆動機構により回動軸128を回動させることで、車輪構造は第1の状態と第2の状態とが切り替わる。
図2は、前輪102が床面Fに接触している第1の状態を示しているが、車輪構造が
図2における時計回りに回動すると、車輪構造が収納される第2の状態となる。回動軸128は、車輪構造を第1の状態から反時計回りに回動させることもでき、これにより、ロボット100のボディ104が持ち上がり、ロボット100の高さを変えることができる。
【0031】
カバー122には、車輪120の外周を部分的に露出させる開口124が形成されている。開口124は、被走行面である床面Fの近傍から、ロボット100が前進する方向にかけて形成されている。ロボット100が前進する方向に向かって開口124が形成されているのは、ロボット100が前進するときに、床面Fにある凸部を乗り越えることができるようにするためである。一方、後進する方向については、開口124は床面Fの近傍にとどまる。ここで、「近傍」とは、開口124の端部124Rにおけるカバー122の床面Fからの高さが20mm、好ましくは14mm、さらに好ましくは10mmである。このように、後方については床面Fの付近までしか開口124を形成していないのは、手や指が車輪120に接触するリスクをなるべく低減するためである。
【0032】
車輪120とカバー122との隙間は、3mm以下であり、好ましくは1mm以下である。このように車輪120とカバー122との隙間を狭く構成しておくことにより、手や指が車輪120とカバー122との隙間に入り込んでしまうことがなく、安全性を高めることができる。
【0033】
カバー122には、側方用の赤外線センサ130と前方用の赤外線センサ132が設けられている。側方用の赤外線センサ130は、床面Fまでの距離を計測する機能を有する。前方用の赤外線センサ132は、カバー122の進行方向側に設けられている。前方の床面Fまでの距離が所定の閾値以上ある場合には、前方に段差があることを検知し、ロボット100が段差から落下することを回避することができる。車輪構造はカバー122を有し、カバー122の上に赤外線センサ130,132を設けることで、赤外線センサ130,132を車輪120の極近くに配置でき、足元(車輪回り)をしっかり確認できる。
【0034】
この赤外線センサ130を利用し、前輪102が床面Fに接地している第1の状態にあるか否かを判定することも可能である。そして、ロボット100は、第1の状態にある場合に、インホイールモータ126を駆動可能としてもよい。これにより、前輪102が床面Fに接地していないときに車輪120が空回りすることを防止し、車輪120に手や指をぶつけるリスクを低減できる。
【0035】
図3に示すように、開口124の前方側の端部124Fは、波型形状を有している。波型の高くなった部分が車輪120の外周に沿って突出する凸部を形成している。この構成により、車輪120とカバー122との間に指が挟み込まれにくくしている。
【0036】
例えば、ロボット100がバックしているときにロボット100を抱っこして車輪120に指が触れると、指が車輪120の回転に連れてカバー122の端部124Fの方に移動することがある。端部124Fが波型形状に形成されているので、車輪120の外周に沿って突出した部分に指が当接する。これにより、端部124が直線形状である場合に比べ、指が当接する範囲が狭く、指が挟み込まれにくくなっている。
【0037】
図4に示すように、開口124の後方側の端部124Rは、車輪120の周方向に対して傾斜している。本実施の形態のロボット100は、抱っこされることを重要なコンセプトとしていることに鑑み、車輪120とカバー122との隙間を狭くしている。このため、車輪120とカバー122との隙間を狭くしているので、毛足の長い絨毯等の上を走行すると、絨毯等の毛足が車輪120とカバー122との狭い隙間に入り込むおそれがある。
【0038】
本実施の形態の車輪構造では、開口124の後方側の端部124Rが車輪120の周方向Cに対して傾いている構成を採用し、絨毯等の毛足が車輪120とカバー122との隙間に入り込みにくくしている。
【0039】
車輪120の回転に伴って絨毯等の毛足が後方に流されるが、毛足が開口124の端部124Rに至ると、周方向Cに対して傾いた端部124Rに沿って毛足が外側に流れるので、毛足が車輪120とカバー122との隙間に入り込む事態が生じにくい。なお、開口124の端部124Rの傾き方向は、毛足がロボット100のボディ104から離れる方向であることが好ましい。
図4の例において一点鎖線はロボット100のボディ104を示す。左右の前輪102a,102bの端部124Rの傾き方向は、左右対称になる。
【0040】
ここで、本実施の形態の車輪構造で採用している角度aについて説明する。角度aは、毛足の長い敷物の上を走行中に、端部124Rに当接した毛足を端部124Rに沿って車輪の幅方向に滑らせるだけの分力を発生させる角度である。本発明者は、80°の角度において、毛足を外側に流す効果が得られることを確認した。端部の傾きは、ロボットの走行性能に求められる要件や、端部の材質に応じて適宜調整されてよい。ただし、角度aを小さくすれば、絨毯等の毛足を外側に流す効果は高くなるが、開口124が大きくなってしまうので、必要以上に角度aを小さくすることは好ましくない。毛足の入り込み防止を重視するのであれば、角度aは40°~60°が好ましく、毛足の引き込みを低減させつつ開口が大きくなりすぎないようにするなら角度aは60°~80°が好ましい。
【0041】
また、開口124の端部124Rの傾き方向は、車輪120に形成されたトレッドパターンを構成する溝120Tの方向と平行ではない。開口124の端部124Rの角度とトレッドパターンの角度が平行だと、開口124の端部124Rと溝120Tとが重なったときに、車輪120の表面とカバー122との間の隙間が広がることになり、絨毯等の毛足を引き込みやすくなるおそれがある。本実施の形態の構成により、開口124の端部124Rとトレッドパターンの溝120Tとがぴったり重ならないようにし、絨毯等の毛足の引き込みを回避する。
【0042】
以上に説明した本実施の形態のロボット100は、カバー122の前側の端部124Fが波型の形状とされているため、ロボット100が後進しているときに車輪120に指が触れた場合に、車輪120とカバー122との間に指が挟み込まれにくく、安全性が高い。
【0043】
また、本実施の形態のロボット100は、カバー122に形成された開口124の後方の端部124Rが、車輪120の周方向Cに対して傾いているので、毛足が長い絨毯等の上を走行する際にも、毛足が端部124Rに沿って斜めに流れるので、毛足が車輪120とカバー122との隙間に入り込みにくい。これにより、ロボット100が、絨毯等の上もスムーズに移動できる。
【0044】
(第1の実施の形態の変形例)
上記した実施の形態では、少なくとも一つの凸部を有する端部の例として、波型形状を有する端部124Fの例をあげたが、端部124Fは、車輪120の回転に連れて端部124Fの方へ移動してきた物体(特に、指)に対して当接する当接部を有していればよく、端部124Fの形状はいろいろな変形例が考えられる。
図5A乃至
図5Cは、端部124Fの形状の変形例を示す図である。
図5Aは、車輪120の外周に沿った方向に3つの凸部を有し、全体として凹凸形状を有する端部124Fの例を示す図である。
図5Bは、端部の中央に車輪120の外周に沿った方向に膨らんだ膨出部を有する端部124Fの例を示す図である。いずれの例においても車輪120の回転に連れて指が端部124Fに押し当てられたときに、端部124Fの突出した部分が指に当接する。つまり、指と当接する範囲が狭い。この構成により、指が車輪120とカバー122との隙間に挟み込まれにくくなる。
図5Cは、中央が凹んだ端部124Fの例を示す図である。車輪120の回転に連れて指が端部124Fに押し当てられたときに、端部124Fの両端または片方の端部において指が当接する。この場合も指と当接する範囲が狭く、指が車輪120とカバー122との隙間に挟み込まれにくくなる。
【0045】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態の車輪構造について説明する。第2の実施の形態の車輪構造の基本的な構成は第1の実施の形態と同じであるが、端部124Fの構成が第1の実施の形態とは異なる。
【0046】
図6Aは、第2の実施の形態の車輪構造を
図3と同方向から見た図、
図6Bは
図6Aの部分拡大図である。
図6Aに示すように、開口124の前方側の端部124Fは、車輪120の周方向Cとは垂直な直線形状とされている。具体的には、端部124Fは、
図6Bに示すように、カバーと同じ材質からなる波型形状124F1に対して、波型の凹部を相補するように弾性材料124F2が充填されることにより、直線状に構成されている。弾性材料124F2は、ゴム等の弾性体であり、カバーとは異なる変形特性を有する材質で形成される。カバー122は、指が当接しただけでは変形しない硬さを有している。つまり、開口端部124Fに当接した指に対して反作用の力を与えるのは、主としてカバー122と同じ材質からなる波型形状124F1である。この構成により、車輪120とカバー122との間に指が挟み込まれにくくしている。
【0047】
例えば、ロボット100がバックしているときにロボット100を抱っこして車輪120に指が触れると、指が車輪120の回転に連れてカバー122の端部124Fの方に移動することがある。このとき凸部の間に充填された弾性材料124F2が凹み、波型形状124F1の高くなった部分で指からの力を受けることになるので、指が挟み込まれにくい。また、指からの力を受けて凹んだ弾性材料124F2の部分も指からの力を受けているので、指が感じる痛みを小さくできる。
【0048】
(第2の実施の形態の変形例)
図6Cは、第2の実施の形態の変形例に係る端部124Fを示す図である。変形例に係る端部124Fは、車輪120の周方向Cとは垂直な直線形状とされている。端部124Fは、カバーと同じ材質からなる波型形状124F1に対し、波型の凹部を充填すると共に波型の凸部を覆う弾性材料124F2によって、直線状に構成されている。波型の凸部を覆う弾性材料124F2で構成される層の厚さはdである。この層の材料及び厚さdは、車輪120の回転に連れて指が端部124Fに接触したときに、波型形状124F1の凸部とそうでない部分の圧力差が指に生じる材料および厚さである。指が端部124Fに接触したときには、実質的に、波型形状124F1の凸部によって指が支持されることになり、圧力差が生じて、
図6Bの構成と同様に、カバー122と車輪120との間に指が挟み込まれにくくなる。また、全体が弾性材料124F2に覆われているので、弾性体124F2がないときよりも凸部との接触の圧力を低く抑え、端部124Fに指が当接したときに痛みを感じにくいという効果がある。
【0049】
以上では、波型形状124F1と弾性材料124F2とを組み合わせて、端部124Fを直線状にした例を示したが、
図5A及び
図5Bに示すような凸部の形状または
図5Cに示すような凹部に対して弾性材料を組み合わせてもよい。
【0050】
(第3の実施の形態)
図7は第3の実施の形態の車輪構造の構成を示す図、
図8は車輪構造を部分的に示す斜視図である。第3の実施の形態の車輪構造の基本的な構成は第1の実施の形態の車輪構造と同じであるが、第3の実施の形態の車輪構造は、車輪の周方向と平行な開口の両縁部に、端部124Fに近づくに従って車輪120から離隔する斜面を有するガイド124Gが形成されている。
図7において、カバー122は肉厚Tを有しており、隙間Sは、カバー122の内壁122Wと車輪120とのスペースを表している。ガイド124Gは端部124Fに至ったときに最も高くなっており、ガイド124Gの頂点は、端部124Fの底面(カバー122の肉厚Tを考えた場合に車輪120の表面側となる面)より上になる。
【0051】
この構成により、2つのガイド124Gをまたいで車輪120付近を把持した場合には、指が車輪120の回転に連れて端部124Fの方に移動したとしても、指はガイド124Gによって端部124Fから離れた位置に案内されるので、端部124Fとカバー122との隙間Sに指が挟み込まれることがない。
【0052】
また、2つのガイド124Gの間に指が入った場合には、上述した第1の実施の形態の場合と同様に、波型形状の端部124Fに指が当接するので、指の挟み込みのリスクを低減できる。
【0053】
以上、本発明の車輪構造およびこれを備えた自律行動型ロボットの構成について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではない。
上記した実施の形態では、いくつかの端部124Fの例を示したが、端部124Fの構成は上記した例に限定されるものではない。端部124Fは、端部が直線形状であった場合の幅(これは、ほぼ車幅に相当する)よりも狭い範囲で指に当接する当接部を備えていればよい。例えば、端部124Fの両側を波形の高い部分(凸部)で構成し、端部124Fの中央を波形の低い部分(凹部)で構成し、凹部の幅が所定の幅となるように構成してもよい。このように構成することで、指が凸部そのものか、指の側面が両側の凸部のそれぞれに当接するので、指が巻きまれにくくなる。上述した所定の幅は、多くの人のいずれかの指(例えば、人差し指)の幅を測定した値を基準として定められた幅であってもよい。
【0054】
上記した実施の形態では、前方の端部124Fが外周に沿った凸部を有する例を挙げたが、この構成は後方の端部124Rに適用することも可能である。上記した実施の形態では、毛足の巻き込みを低減すべく後方の端部124Rを車輪120の周方向Cに対して斜めにした例を説明したが、斜めにした状態の端部124Rに凹凸を形成してもよい。また、もし後方の端部124Rが被走行面から高い位置になるように開口が形成されているのであれば、端部124Rを斜めにしなくても毛足を巻き込む可能性が小さいので、周方向Cに対して垂直な端部として、当該端部に凹凸を形成してもよい。
【0055】
また、端部124Fは、車輪120の半径方向の厚みを一定とするのではなく、例えば、テーパ状にして、端部124Fから徐々に厚みを増す構成としてもよい。これにより、車輪120の回転に連れてカバー122の端部124Fに運ばれた指を、テーパに沿って、端部124Fと車輪120との間の隙間から離脱させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、例えば、ロボットに用いられる車輪構造として有用である。