(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】経皮電流制御装置及び方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240704BHJP
【FI】
A61N1/36
(21)【出願番号】P 2021557742
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 EP2019076785
(87)【国際公開番号】W WO2020200498
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2019/058113
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500372821
【氏名又は名称】バイオ-メディカル リサーチ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】コナー ミノーグ
(72)【発明者】
【氏名】プラサド デシュパンデ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル コールマン
(72)【発明者】
【氏名】グレン シアラー
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/178946(WO,A1)
【文献】特表2006-525062(JP,A)
【文献】特表2012-532672(JP,A)
【文献】国際公開第2011/155089(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極インピーダンスの変化に応答して経皮電気刺激器具の電力出力を制限する装置であって、
皮膚に取り付けることを意図する少なくとも2つの電極を含む回路を介して、パルス電流を供給するための出力端子を有するパルス発生手段と、
前記パルス発生手段に接続され、印加電流に応答して前記出力端子に加わる電圧を測定するように構成された測定手段と、
前記測定手段に接続され、パルス中に測定された電圧を電圧閾値と比較するように構成された比較手段と、
前記比較手段に接続され、前記測定された電圧が前記電圧閾値を超えるとき、前記パルスの相電荷を制限するように構成された制御手段と、
を備え、
各パルスは、
前記出力端子に加わる電圧が前記パルスに対する前記電圧閾値を超えた時点で切頂される、装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記パルス発生手段は定電流制御発生器である、装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の装置において、前記パルス発生手段は二相電流パルスを発生するよう構成されている、装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の装置において、前記パルス発生手段による各パルスは所定の相電荷を有する、装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の装置において、前記パルス発生手段により発生される各パルスは所定のパルス持続時間を有する、装置。
【請求項6】
請求項3に記載の装置において、前記制御手段は、前記パルスの先導位相が切頂されている状況であっても、前記パルスの第2位相の相電荷が前記パルスの先導位相の相電荷と同一になるように制限するように構成される、装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の装置において、前記電圧閾値は、前記パルス全体にわたり一定であり、前記相電荷及び使用中の前記電極に対する予測最終電圧に設定される、装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の装置において、前記電圧閾値は、前記パルス中の時点毎に、各時点までに供給される予測蓄積電荷に応じて、アップデートされる、装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の装置において、前記比較手段は、前記測定された電圧と前記電圧閾値とを比較する電圧比較器を有し、前記電圧比較器は、前記測定された電圧が前記電圧閾値を超えたとき出力信号を発生するよう構成されている、装置。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の装置において、前記測定された電圧をデジタル信号に変換する変換手段をさらに備える、装置。
【請求項11】
請求項10に記載の装置において、前記比較手段は、前記測定された電圧を表す前記デジタル信号を、前記電圧閾値を表すデジタル信号と比較するデジタル比較器を有し、前記デジタル比較器は、前記測定された電圧を表す前記デジタル信号が前記電圧閾値を表すデジタル信号を超えるとき出力信号を発生するよう構成されている、装置。
【請求項12】
請求項9に記載の装置において、前記制御手段は、前記比較手段からの前記出力信号を受信し、前記出力信号に基づいて前記パルスの相電荷を制限するか否かを決定するよう構成されている、装置。
【請求項13】
請求項1に記載の装置において、前記制御手段は、前記比較手段から出力された信号を検出するソフトウェア手段を有し、前記制御手段は、前記ソフトウェア手段が検出した信号に基づいて前記パルスの電流振幅を制限するか否かを決定するよう構成されている、装置。
【請求項14】
請求項1に記載の装置において、前記制御手段は、前記比較手段からの出力信号に基づいて
、定電流回路に利用可能な電圧を減少するよう構成されている、装置。
【請求項15】
請求項1に記載の装置において、前記電圧閾値は予め決定されている、装置。
【請求項16】
請求項1に記載の装置において、前記電圧閾値は、同一電極構成の複数ユーザーからのデータ分析によって決定される、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経皮電流制御装置及び方法に関する。とくに、本発明は、経皮電気刺激に使用するための経皮電流制御装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮電気刺激(TES:transcutaneous electrical stimulation)において、電気信号が皮膚を通して下層組織内に伝達されるとともに、皮膚に対するダメージを回避し、また疼痛(ペイン)受容体の刺激に起因するいかなる苦痛又は不快感をも軽減するよう、皮膚に対する良質な電気的接触を得ることは重要である。皮膚電極は、一般的に5~200cm2の範囲での皮膚面積にわたり延在するよう設計される。皮膚に通電することは、刺激器具システムのワイヤ及び金属電極内における電子の電流フローと、身体内におけるイオンの電流フローとの間での変換を伴う。この変換は、部分的には電解質によって生じ、またひいては電解質は金属(又は他の導電材料)電極と皮膚との間における界面に存在することが必要となる。通常、経皮刺激では電流密度が少なくなるようにするのが望ましく、これはすなわち、このことが皮膚の単位面積あたりのワット損を減少し、また皮膚における疼痛受容体を刺激する可能性を減少するからである。したがって、通常、電解質は、皮膚内への電流密度が接触表面積にわたり確実に均一となるよう、電極の全体面積にわたり延在させることを必要とする。さらに、電極の利用可能面積全体が皮膚に接触することも重要である。例えば、電極が皮膚から部分的に持ち上がることに起因して有効電極面積が減少する場合、接触面積が減少する。定電流制御発生器を使用するとき、この事態は残存接触面積における電流密度が増加することを意味する。この事態は、皮膚のヒリつき、不快感又は痛みを引き起こすことがあり得る。同じことは、電解質が接触表面積にわたり不均一に分布されている場合、又は皮膚が部分的に油脂又はほこりで覆われている場合にも当てはまる。
【0003】
刺激電極はユーザーが装用する密着衣類又は他の装具内にますます内蔵されてきており、これはすなわち、それらが便利であり、また使用を直感で理解できるからである。電極面積にわたる皮膚との電気的接触を維持する粘着性ヒドロゲルの代わりに圧力に依存する衣類に一体化された電気刺激には、特別な問題がある。衣類の密着が劣る、又は電極が動いている間に瞬間的に皮膚から剥離する場合、電流が減少した皮膚接触面積を通して供給され、電流密度の増加を引き起こすとき、ユーザーは不快感を体験することになり得る。
【0004】
電気刺激用の衣類における導体、例えば、導電性の糸、ポリマー、インク及び粘着剤の電気的抵抗は、電気刺激デバイスに伝統的に使用される銅ワイヤのような従来型導体よりも相当高価なものになり得る。さらに、これら材料の抵抗は、伸長、撓み、及びエイジとともに変化し得る。洗浄は、水及び洗剤に曝されることになる導体の抵抗に影響を及ぼすことになり得る。これらの理由のために、所定電流を得るよう自動的に出力電圧を調整する刺激器具を使用するのが好ましい。このような一定電流パルス発生器は、電子機器分野で周知であり、また所定電流を得るよう出力電圧を調整する電子制御システムとして定義することができる。好適には、一定電流発生器は、0~200mA、又はより好適には0~100mAの範囲内で動作する。一定電流コントローラは、必ずしも波形として電流が経時的に一定であることを意味するものではなく、むしろ制御システムが電流を所定値に維持し、時間とともに変化するとしてもその所定値を維持するよう作用することを意味する。
【0005】
これとは反対に、一定電圧刺激器具は所定電圧波形を維持し、また電流は負荷のインピーダンスによって決定される。
【0006】
一定電流手法の主な欠点は、電極剥離中に高電流密度を生ずるおそれがある点であり、またこのことの生起を保護するシステムに対する必要性がある。
【0007】
したがって、有痛性又は有害効果が生ずる前に、非常に速やかに剥離電極を検出するシステムに対する必要性がある。このことは、増加した負荷インピーダンスに応答して電流パルスの振幅及び/又は刺激パルスの位相期間を減少することによって行うことができる。いずれの手法も相電荷の減少に至り、これにより電極におけるrms電流及びひいては電流密度の減少に至る。
【0008】
皮膚接触抵抗を測定するシステムは、周知であり、また直列接続された皮膚電極対の皮膚接触抵抗を推定するのに使用することができる。さらに、皮膚-電極間接続は
図1に示す回路網でモデル化できるのも周知である。直列抵抗Rsは、配線抵抗並びに経皮組織の抵抗の割合を大きく占める。RpCpの組合せは角質層のインピーダンスをモデル化する。一定電流パルスの結果である一般電圧波形は、十分実証されており、また
図2に示される。したがって、皮膚接触検出は、電極にかかる合成電圧を測定し、また容認閾値と比較することに帰する。閾値を超える場合、システムは、刺激を停止し、またアラーム又は他のインジケータによってユーザーに通知するようプログラムすることができる。
【0009】
しかし、電極品質に対する容認規準をどのように最良に定義及び実現するかには相当なバリエーションがある。
【0010】
特許文献1(ニエミ氏の米国特許第4,088,141号)は、経皮刺激用の電極の抵抗をモニタリングする回路について記載している。電流パルスに応答して生起する波形を示しているが、電極品質を評価するには初期段階電圧V1のみが必要であると記述している(第3欄第55~68行)。刺激の終了の」決定は、接触面積を大部分無視する前縁電圧に基づく。このようにして設定される容認閾値は、直列抵抗は高いがキャパシタンスが大きい状況では多くの誤判定を生ずるリスクがある。同様に、直列抵抗は低いが電極面積は小さくて小さいキャパシタンスになる問題を検出できなくなるおそれがある。
【0011】
特許文献2(ゴザニ氏らの米国特許第9,474,898号)において、刺激セッション中に測定されるインピーダンスがセッション開始時に測定されるベースラインインピーダンスで分割される、2つの電極の直列組合せに関する問題に対する解決策が提案されている。この場合、インピーダンスは、電流によりピーク電圧を分割することによってパルスの終了時に評価される「疑似抵抗」から推定される。ベースラインに対するインピーダンス比が所定値に基づく面積を越えて上昇する場合、1つの電極における接触面積が容認可能レベル以下に低下したと推定される。この場合、容認閾値は、基準抵抗が良好な接触電極を表していると想定される治療における異なる時点で評価される2つの擬似抵抗の比である。この手法の限界は、パルス幅の増加とともにピーク電圧が増加するため、擬似抵抗は異なるパルス幅を有して異なることになるという点である。したがって、ベースライン及びその後の波形は同一パルス幅でなければならない。さらに、評価はパルスの終了時で行うため、問題が発見されるときまでに電荷は既に供給されている。この文献は、測定されたインピーダンス比が容認閾値を超えるのに応答して刺激強度を逆比例的に変化させることを記載しているが、この変化する強度をどのように計算するかは明確ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第4,088,141号明細書
【文献】米国特許第9,474,898号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】Vargas Luna, J. L., M. Krenn, J. A. Cortes Ramirez and W. Mayr (2015). "Dynamic impedance model of the skin-electrode interface for transcutaneous electrical stimulation." PLoS One 10(5): e0125609.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上述の欠点を未然に防ぐ又は軽減するにある。
【0015】
したがって、経皮刺激中における電極インピーダンスの変化に対する改善した手法に対する必要性がある。本発明の1つの目的は、電流密度が所定限界を超えるときの苦痛又は組織ダメージを阻止する装置及び方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1態様において、電極インピーダンスの変化に応答して経皮電気刺激器具の電力出力を制限する装置を提供し、この装置は、皮膚に取り付けることを意図する少なくとも2つの電極を含む回路を介して、パルス電流を供給するための出力端子を有するパルス発生手段と、前記パルス発生手段に接続され、印加電流に応答して前記出力端子に加わる電圧を測定するように構成された測定手段と、前記測定手段に接続され、パルス中に測定された電圧を電圧閾値と比較するように構成された比較手段と、前記比較手段に接続され、前記測定された電圧が前記電圧閾値を超えるとき、前記パルスの相電荷を制限するように構成された制御手段と、を備える。
【0017】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記パルス発生手段は定電流制御発生器である。
【0018】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記パルス発生手段は二相電流パルスを発生するよう構成されている。
【0019】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記パルス発生手段による各パルスは所定の相電荷を有する。
【0020】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記パルス発生手段により発生される各パルスは所定のパルス持続時間を有する。
【0021】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記制御手段は、前記パルスの先導位相が切頂されている状況であっても、前記パルスの第2位相の相電荷が前記パルスの先導位相の相電荷と同一になるように制限するように構成される。
【0022】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記電圧閾値は、前記パルス全体にわたり一定であり、前記相電荷及び使用中の前記電極に対する予測最終電圧に設定される。
【0023】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記電圧閾値は、前記パルス中の時点毎に、各時点までに供給される予測蓄積電荷に応じて、アップデートされる。
【0024】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記比較手段は、前記測定された電圧と前記電圧閾値とを比較する電圧比較器を有し、前記電圧比較器は、前記測定された電圧が前記電圧閾値を超えたとき出力信号を発生するよう構成されている。
【0025】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記装置は、前記測定された電圧をデジタル信号に変換する変換手段をさらに備える。
【0026】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記比較手段は、前記測定された電圧を表す前記デジタル信号を、前記電圧閾値を表すデジタル信号と比較するデジタル比較器を有し、前記デジタル電圧比較器は、前記測定された電圧を表す前記デジタル信号が前記電圧閾値を表すデジタル信号を超えるとき出力信号を発生するよう構成されている。
【0027】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記制御手段は、前記比較手段からの前記出力信号を受信し、前記出力信号に基づいて前記パルスの相電荷を制限するか否かを決定するよう構成されている。
【0028】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記制御手段は、前記比較手段から出力された信号を検出するソフトウェア手段を有し、前記制御手段は、前記ソフトウェア手段が検出した信号に基づいて前記パルスの電流振幅を制限するか否かを決定するよう構成されている。
【0029】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記制御手段は、前記比較手段からの出力信号に基づいて、前記定電流回路に利用可能な電圧を減少するよう構成されている。
【0030】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記電圧閾値は予め決定されている。
【0031】
1つ又はそれ以上の実施形態において、前記電圧閾値は、同一電極構成の複数ユーザーからのデータ分析によって決定される。
【0032】
本発明の第2態様において、電極インピーダンスの変化に応答して経皮電気刺激器具の電力出力を制限する方法を提供し、この方法は、皮膚に取り付けることを意図する少なくとも2つの電極を含む回路を介して、パルス電流を供給するための出力端子を有するパルス発生手段を使用するステップと、印加電流に応答して前記出力端子に加わる電圧を測定するステップと、パルス中に測定された前記電圧を電圧閾値と比較するステップと、前記測定された電圧が前記電圧閾値を超えるとき、前記パルスの相電荷を制限するステップと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明の実施形態を以下に添付図面につき説明する。
【
図2】一定電流パルス中の代表的な電圧及び電流の波形を示す。
【
図3】a)は相間インターバルを有する代表的対称二相方形電流波形を示し、b)は同一電流振幅を有する単相電流波形である。
【
図4】本発明に基づくバッテリー動作電気刺激器具の回路図を示す。
【
図5】コンパレータがANDゲート経由の刺激パルスの持続時間を制御するのに使用される回路の他の実施形態を示す。
【
図6】4つの異なる負荷条件下における電流パルス及び関連の電圧パルス列を示す。
【
図7】同一電流レベルにおける数人のユーザーから記録された実際の電圧波形を示す。パルス進行中に変化する電圧限界も示す。
【
図8】単一ユーザーからの電流振幅レンジにわたる実際の電圧波形を示す。
【
図9】50cm2電極の文献開示モデル(Vargas Luna, Krenn et al. 2015)に基づく計算した電圧波形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
パルス列特性/電力及び電流限界
【0035】
この文脈におけるパルスは、電気回路での時限電流フローとして定義することができる。電流が流れる持続時間は、パルス幅と称され、また一般的には10~1000μsのレンジであるが、数ミリ秒持続するパルスも電気刺激に使用される。通常、パルスはパルス列として順次に生成され、1秒あたりのパルス個数は周波数として知られる。パルスは、電流が流れている間に立ち上がる電圧又は電流の振幅の点で特徴付けることができる。しばしばパルスは波形により記述され、この波形は、電流又は電圧がパルス列の進行中に時間とともにどのように変化するかの図形的表現である。回路内における電流フローの方向は、波形における位相(フェーズ)によって与えられ、単相波形は、同一方向に流れるパルスのシーケンスを有する。二相性パルスは、電流フローの方向が相間で逆転する2つの位相を含む。この場合、パルス幅は、各パルス持続時間及び相間間隔の合計として定義される。
【0036】
パルスは矩形形状を有することができ、このことは、電流がこのパルス中に固定振幅にあるということを意味する。パルスは、三角形状、傾斜状、指数関数状、又は半正弦波状の形状もあり得るもので、このことは、所定振幅がこれら関数に従って変化しようとすることを意味する。
【0037】
周波数、パルス幅、パルス持続時間、及び振幅は、通常治療レジームにおいて予め決定される。意図するフェーズ持続時間で発生される各パルスに対して、パルス幅、及び電流振幅は各パルスの開始時に刺激器具でプリセットされる。(通常、振幅をプリセットするのはユーザーであり、またこの振幅は治療が進むにつれて変化し得る。)しかし、実際に供給されるパルスは、負荷及びハードウェアの制限に依存する。例えば、意図される電流が400μsにわたり50mAであり、20μCの電荷が1500Ωの負荷内に流入した場合、刺激器具は、必要とされるパルス周波数でこのような電荷を負荷内に供給することはできない。
【0038】
TESデバイスは通常、100~1000μsのレンジにおけるパルス持続時間で比較的低周波数のパルス列(0~150Hz)を使用する。パルスは、200mAにまでも達するが、より通常には100mA未満である振幅を有する単相又は二相型とすることができる。デューティサイクルは一般的には低いため、二乗平均平方根(rms)電流は通常、ピーク電流よりも相当少ない。組織ダメージは、電力密度が0.25W/cm2を超えるとき生ずると考えられる。安全基準ECC60601-2-10は、電流密度が2mA/cm2を超えることがあり得る状況にユーザーの注意が向けられることを必要とする。ユーザーの快適さは、電流密度を1mA/cm2又は0.5mA/cm2に制限することによって最良に確保されると発明者らは信じている。
【0039】
筋肉刺激向けの代表的TESデバイスの最大rms電流は1チャネルあたり10mA~30mA(rms)にわたる。代表的な電極は、25cm2程度の小さいものであり、したがって、どのくらいの電極剥離が苦痛を生じさせ得るかは容易に分かる。代表的な電極は、皮膚への固定を維持する粘着性ヒドロゲルを使用する。
【0040】
苦痛感覚は、約0.5mArms/cm2を超える持続する電流密度で生じ得る。しかし、2mA/cm2のピーク電流密度を有する単一パルスは容易に許容することができる。数100マイクロ秒しか持続しない瞬間的電流密度の増加は苦痛を伴う刺激又は温度上昇を生じない。このようなパルスのバーストは、周波数が高い場合にはrms電流が増加するので、より一層不快を感じさせる。運動中に電極が部分的に剥離を受けるが、その後十分即座に再接続する場合、刺激を停止させず、むしろインピーダンスが上昇するときrms電流を減少させ、またインピーダンスが回復するときrms電流を復元させるのが望ましい。このようにして、rms電流を電極におけるインピーダンスに比例して減少させる場合、苦痛及び不快感を制御することができる。このことは定電圧刺激器具においては至極自然に発生し、これはすなわち、増加インピーダンスは減少電流を生ずるからである。しかし、定電流刺激器具においては、駆動回路は、より高い電圧を印加することによってより高いインピーダンスを補償する。増加したインピーダンスが減少した電極接触面積に起因する場合、定電流を維持することは、結果として増加した電流密度を生ずる。
【0041】
したがって、苦痛及び不快感を防止するよう、定電流パルス経皮刺激デバイスにおいてrms電流を制御する必要性がある。
【0042】
周期的波形における二乗平均平方根電流は、次式、すなわち、
【数1】
である。
【0043】
ここで、i(t)は時間の関数としての電流であり、Tは周期的波形の期間である。負荷Rで消散される平均電力は、このとき次式、すなわち、
【数2】
である。
【0044】
大部分のNMES及びTENSデバイスは、パルスの持続時間がパルス間の間隔よりも相当短いパルス状電流を供給する。(
図3参照)
【0045】
各波形の期間は、Tであり、また代表的には位相持続時間t1又はt2よりも相当長い。波形の周波数はTの逆数である。
【0046】
図3bのような方形波に関しては、rms電流計算は、次式、すなわち、
【数3】
に簡略化される。
【0047】
又は
図3aのような代表的対称二相型波形に関しては、次式、すなわち、
【数4】
となる。
【0048】
rms電流は、したがって、変数I、t1、t2(適合可能であれば)、及びTのいずれか又はすべてを制御することによって調整することができる。
【0049】
本発明は、負荷インピーダンスにおける変化に応答してrms電流を調節するようt1及びt2を動的に制御する手段を提供する。
【0050】
定電流パルスに応答して電極にかかる代表的電圧特性を
図2に示す。電流パルスの開始時に段差(ステップ)型電圧上昇があり、これに続いて電極-皮膚界面におけるキャパシタンスが帯電するにつれて、電圧のより漸進的であるが定常増加がある。この増加率は、キャパシタンス並びに印加される電流に依存する。衣類における電極が剥離するときのようにキャパシタンスが減少する場合、電圧の変化率は上昇する。本発明は電極電圧に対して限界を設定し、また電圧がその限界を超えるとき電流を停止させる。このことは刺激を全体的に停止させるものではない。電極電圧が限界を超えた瞬間にパルス幅を削減することによって印加される電流を制限する。他の電流パルスが開始される前に正規のパルス間隔が続く。各パルスは、電極がそのパルスに対する電圧限界を超えるポイントで切頂することができる。
【0051】
ファームウェアは多数の因子を結合することによって電圧限界を決定する。第1因子は、電極に供給される期待電荷である。一実施形態において、これは、完了パルスによって供給されると期待される電荷であり、方形波電流の場合、プリセット電流振幅とプリセット位相持続時間との積である。それらの積はマイクロクーロンの電荷となる。代案的実施形態は、パルス内における任意なポイントで供給される電荷を、単に期待電流を積分することによって推定する。
【0052】
第2因子は、実質的に期待電極キャパシタンス及びシャント抵抗を決定するのに使用される電極対の面積に関する。接触面積を多数の被験者に対して調整するときに、この因子を電極に加わる電圧の測定により経験的に決定してきた。代案として、この因子は、ヴァーガス(Vargas Luna, Krenn et al. 2015)によるモデルのような電極インピーダンスの公開されたモデルを参考にすることによって決定することができる。
【0053】
位相持続時間のこの制御を完遂するやり方は多数ある。
図4は、単相パルスを発生するためのバッテリー動作電気刺激器具の簡単な概略図を示す。二相パルスは、従来周知のようなHブリッジ回路を設けることにより発生させることができる。高電圧源を創出するためDC:DCコンバータを有する。マイクロコントローラは、デジタル-アナログコンバータにより制御可能な振幅の時限パルスを生成する。これは、電流パルスを負荷に発生させる定電流発生器に供給する。単純な電圧比較器を設け、この比較器の一方の入力として、選択した電極にかかる電圧を表す信号を有する。他方の比較器入力は、マイクロコントローラからのデジタル-アナログコンバータにより同期される基準値を与える。比較器の出力はマイクロコントローラにフィードバックされる。実際の電圧がパルス中の任意な時点で基準電圧を超える場合、マイクロコントローラは即座に反応してパルスを終結させ、効果的にパルスの位相持続時間を減少させる。代案として、この比較は、アナログ-デジタルコンバータにおいて電極電圧方向をデジタル化し、それをマイクロコントローラ内又はファームウェア内のデジタル比較器において基準値と比較することによって行うことができる。いずれの方法も、必要であれば、ファームウェアが即座にパルスを終結させることを可能にする。これら方法の双方において、基準値は選択された電流及び位相持続時間に基づいてファームウェアによって調整される。このようにして、電極チェックは、電圧をサンプリングすること及び予め計算した基準値と比較することに帰結する。このことは、電極の問題発生の極めて迅速な検出及びパルス終結における遅延を最小限にすることを可能にする。比較器出力が刺激パルスをゲート処理するのに使用される他の実施例を
図5に示す。この効果を得るのに使用できる様々な他の回路バリエーションがあり、その基本的態様は、負荷にかかる電圧に応答して位相持続時間を変調することである。
【0054】
その効果を
図6に示し、上側電圧トレースにおける破線は、期待電流、位相持続時間、及び電極タイプに基づいてマイクロコントローラによって設定される閾値を示す。パルス1において、フルパルスが供給され、これはすなわち、電圧が閾値を超えなかったからである。その後のパルスは、それぞれ電圧が閾値を超えた瞬間に切頂される。この結果としてのパルスは減少した電荷を有し、またパルス列は減少したrms電流、及びひいては減少した電流密度を有する。
【0055】
閾値電圧限界の選択は満足のいく結果を得るのに重要である。レベルが個人に対して低すぎる場合、偽陽性反応となるおそれがあり、又はその逆に閾値レベルを高くセットしすぎる場合、システムは電流密度を減少し損なうことがあり得る。理想電圧は電極のフル接触で期待電流を供給するに必要なだけにすぎないものである。
図9は、50cm
2電極に対して文献で報告された典型的負荷内に電流レベルレンジにわたり300μS持続時間の定電流方形波パルス中に立ち上がる期待電流を表している曲線群を示す。比較器に対する電圧閾値は、パルスの終了時における電圧であるよう選択することができる。剥離に関連する電極面積の減少は、電極キャパシタンスを減少させる効果を有し、これにより電圧の変化率を上昇させ、閾値がパルスにおいてより早期に達することになる。この時点でパルスは終結し、これにより負荷に供給されるrms電流及びひいては電流密度を制限することができる。
【0056】
所与の電極設計に対する期待電流は、異なる電流振幅での曲線群を導出するようユーザーでの実験により経験的に導き出すこともできる。単独ユーザーに対するこのような曲線群を電流レンジにわたり
図8に示す。同一レベルでのユーザー間の変動を
図7に示し、この図において供給された所与の電荷に対して期待電流及びこれによる閾値が人物間で変動し、また人物内での異なるセッション間でさえも変動し得ることを示している。グループ平均及びその平均の95%信頼区間に基づき、閾値限界を規定することができる。閾値は初期に信頼区間上端にセットすることができる。本発明は、電極が衣類内又は他の身体着用装具内に組み込まれている場合に特に関連していることが想定され、またこのようなことは同一ユーザーによって使用される。したがって、所与のユーザーに対する電流振幅及び位相持続時間のレンジにわたり印加されるべき期待電圧限界の改善した推定値に到達するよう、刺激パルス中の電圧をモニタリングする機械学習技術を採用することができる。これら推定値は、システムの精度を長期間にわたり改善するよう治療間で記憶することができる。
【0057】
最近の刺激器具は、しばしばインターネットに接続され、したがって、多くのユーザーからのデータを大集団に対する電極電圧に関する統計学的情報を得るよう収集することができる。このことは、特定電極構成に対する、並びに性別及びBMIのようなユーザー特性に対する、容認限界の最適化を可能にする。
【0058】
期待電圧は、さらに、予測電圧とも称することができる。閾値基準は、実質的に供給すべき電流パルスの特性及び負荷のモデルに基づく予測電圧である。
【0059】
この適応型技術は、刺激の快適さに関するユーザーからの入力を得ることによって向上させることができる。このことは、治療中又はセッション完了後にユーザー・インタフェースを介してユーザーからの快適度スコアを探索することによって容易に手配することができる。このスコアは、刺激器具に接続されたスマートフォン・アプリケーションのタッチスクリーンによる視覚的アナログスケール入力からのものとすることができる。このような入力によりシステムは測定された電圧を快適レベルに相関させることができる。
【0060】
本発明の他の実施形態において、出力は単に定電流回路に利用可能な電圧に制限し、これにより電流の振幅を減少することによって調節される。例えば、
図4の回路は、マイクロコントローラがDC:DCコンバータの電圧をセットできるようにする、又は電流コントローラとの接続前にマイクロコントローラがDC:DCコンバータの出力で利用可能な供給電圧を調節できるようにする電圧増幅器を使用する。
【0061】
我々発明者達は、適度な圧力が加わり、また皮膚が生理食塩水で濡れている衣類内の電極に対して徹底的な試験を実施した。我々発明者達は、60cm2より大きい皮膚接触面積を有することを意図する電極は、電圧限界をその電流及び位相持続時間のためのパルス終了時に期待電流にセットする場合、電流レンジにわたり快適に剥離できることを見出した。
【0062】
皮膚を通過するDC電流がほとんど又は全くないようなバランスのとれた電流波形を有する経皮刺激において、皮膚を通過するDC電流がほとんど又は全くないようにすることは極めて重要であり、これはすなわち、そうしないと望ましくない電解効果により皮膚のヒリヒリ感を生起し、またダメージさえも与えるおそれがあるからである。本発明により二相波形の先導位相を切頂する場合、第2の又は後続位相を同時に切頂すること、又はそうしない場合には転送される電荷全体が先導位相とバランスをとるようにすることは重要である。
図4においてこのことを行う簡単なやり方は、マイクロコントローラが先導位相の正確な持続時間を記録し、このデータを第2位相の持続時間制御に使用することである。
【0063】
電流制御機構の感度を改善するため、電圧閾値をパルス中に調整することができる。
図7において、初期的に低く、またパルス全体にわたり徐々に増加する電圧限界を示す。初期レベルは最終期待電圧よりも相当低く、ひいてはパルス中のより早期に電極不全を検出でき、例えば、電極に十分な電解質がなく、またしたがって、より高い初期ステップ電圧をもたらす高い抵抗のRsを有する場合を検出することができる。
【0064】
特許請求の範囲で定義される本発明の範囲内で変更は可能である。