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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/825 20060101AFI20240704BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20240704BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240704BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
B01J23/825 M
B01J37/03 B
B01J37/08
B01J37/02 101Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022052774
(22)【出願日】2022-03-29
(65)【公開番号】P2023145884
(43)【公開日】2023-10-12
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】山本 修身
(72)【発明者】
【氏名】海田 千晴
(72)【発明者】
【氏名】宇土 肇
(72)【発明者】
【氏名】椿 範立
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-192714(JP,A)
【文献】特開平05-068883(JP,A)
【文献】特開2010-022944(JP,A)
【文献】特開平05-154383(JP,A)
【文献】特表2017-518170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を水素化反応させて二酸化炭素を還元し炭化水素を生成する二酸化炭素還元触媒であって、
触媒金属として、FeZr及びGaを含み、
前記触媒金属中の前記Feの含有量は55質量%以上90質量%以下である、二酸化炭素還元触媒。
【請求項2】
前記触媒金属として更にNaを含む、請求項1に記載の二酸化炭素還元触媒。
【請求項3】
前記触媒金属中の前記Zrの含有量は0質量%超15質量%以下である、請求項1に記載の二酸化炭素還元触媒。
【請求項4】
前記触媒金属は、前記Fe前記Zr及び前記Gaにより形成されるFe-Ga-Zr複合酸化物を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の二酸化炭素還元触媒。
【請求項5】
請求項1に記載の二酸化炭素還元触媒の製造方法であって、
少なくとも前記Feの硝酸塩と前記Zrの硝酸塩とを所定量蒸留水に溶解させた水溶液から、共沈法により沈殿物を抽出する共沈工程を有する、二酸化炭素還元触媒の製造方法。
【請求項6】
前記共沈工程の次に、前記沈殿物にNaを含む水溶液を滴下して所定期間乾燥させ、得られた粉末を所定の温度で焼成する含浸工程を有する、請求項に記載の二酸化炭素還元触媒の製造方法。
【請求項7】
前記共沈工程において、少なくとも前記Feの硝酸塩と前記Zrの硝酸塩とGaの硝酸塩とを所定量蒸留水に溶解させた水溶液から、共沈法により沈殿物を抽出することを特徴とする、請求項又はに記載の二酸化炭素還元触媒の製造方法。
【請求項8】
二酸化炭素を水素化反応させて二酸化炭素を還元し炭化水素を生成する二酸化炭素還元触媒の製造方法であって、
前記二酸化炭素還元触媒は、Fe、Zr及びNaを含み、
少なくとも前記Feの硝酸塩と前記Zrの硝酸塩とを所定量蒸留水に溶解させた水溶液から、共沈法により沈殿物を抽出する共沈工程と、
前記共沈工程の次に、前記沈殿物にNaを含む水溶液を滴下して所定期間乾燥させ、得られた粉末を所定の温度で焼成する含浸工程と、を有する、二酸化炭素還元触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境上の悪影響を軽減するために、自動車の排気ガス規制が一段と進んでいる。とりわけ、内燃機関の排ガスに含まれる二酸化炭素は地球温暖化の一因であると言われており、二酸化炭素排出量の削減が求められている。
【0003】
従来、二酸化炭素を水素化反応させて燃料を生成する技術が知られている。例えば、二酸化炭素と水素の混合ガスからメタノールを合成する触媒として、Cu、Zn及びアルミナからなる触媒が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、二酸化炭素を水素化反応させて得られる燃料として、液体燃料として使用可能な、炭素数が例えば5以上の炭化水素を生成できることが求められる。このような技術として、FT(フィッシャー・トロプシュ:Fischer-Tropsch)合成反応におけるFe触媒に対しカリウムを助触媒として用いることで、高度に分岐したC5以上の生成物を調製する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭45-16682号公報
【文献】特表2005-537340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示された技術において助触媒として用いられるカリウムは、FT合成反応において二酸化炭素を捕捉する機能を有すると考えられる。しかし、助触媒としてのカリウムは、生成される炭化水素の炭素数の増大には直接寄与しないものと考えられる。このため、例えば内燃機関の排ガス等の高流速下で、炭素数が例えば5以上の炭化水素を高収率で生成することは不可能だった。
【0007】
こうした課題に対し、本発明者らは、ナトリウム鉄触媒にガリウムを助触媒として添加することにより、鉄が微粒子化されることで鉄触媒の反応サイトが増大し、FT合成反応の反応時間、すなわち生成される炭化水素の炭素鎖が成長する時間を確保できることを見出し、これにより、高流速下においても炭素数が5以上の炭化水素の収率を向上させることができることを報告している(特願2021-117832)。しかしながら、より少ないエネルギーで二酸化炭素を液体燃料に変換するために、二酸化炭素還元触媒における炭素数5以上の炭化水素の生成能力の更なる向上が要望されている。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高流速下においても炭素数が5以上の炭化水素をより高収率で生成可能な二酸化炭素還元触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、Fe(鉄)触媒においてZr(ジルコニウム)を添加することで、鉄粒子のカーバイド化を促進でき、それにより炭素鎖の成長が促進され、炭素数5以上の炭化水素を高収率で生成できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、以下の具体的態様等を提供する。
【0010】
[1]二酸化炭素を水素化反応させて二酸化炭素を還元し炭化水素を生成する二酸化炭素還元触媒であって、触媒金属として、Fe及びZrを含む、二酸化炭素還元触媒。
【0011】
[2]前記触媒金属として更にGaを含む、[1]に記載の二酸化炭素還元触媒。
【0012】
[3]前記触媒金属として更にNaを含む、[1]に記載の二酸化炭素還元触媒。
【0013】
[4]前記触媒金属中の前記Zrの含有量は0質量%超15質量%以下である、[1]に記載の二酸化炭素還元触媒。
【0014】
[5]前記触媒金属は、前記Fe及び前記Zrにより形成されるFe-Zr複合酸化物を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の二酸化炭素還元触媒。
【0015】
[6][1]に記載の二酸化炭素還元触媒の製造方法であって、少なくとも前記Feの硝酸塩と前記Zrの硝酸塩とを所定量蒸留水に溶解させた水溶液から、共沈法により沈殿物を抽出する共沈工程を有する、二酸化炭素還元触媒の製造方法。
【0016】
[7]前記共沈工程の次に、前記沈殿物にNaを含む水溶液を滴下して所定期間乾燥させ、得られた粉末を所定の温度で焼成する含浸工程を有する、[6]に記載の二酸化炭素還元触媒の製造方法。
【0017】
[8]前記共沈工程において、少なくとも前記Feの硝酸塩と前記Zrの硝酸塩とGaの硝酸塩とを所定量蒸留水に溶解させた水溶液から、共沈法により沈殿物を抽出することを特徴とする、[6]又は[7]に記載の二酸化炭素還元触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高流速下においても炭素数が5以上の炭化水素をより高収率で生成可能な二酸化炭素還元触媒を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例、比較例及び参考例に係るCO変換率を示すグラフである。
図2】実施例、比較例及び参考例に係るC含有成分選択率を示すグラフである。
図3】実施例、比較例及び参考例に係るC5+生成率を示すグラフである。
図4】CO変換率とZr含有量との関係を示すグラフである。
図5】C5+選択率とZr含有量との関係を示すグラフである。
図6】C5+生成率とZr含有量との関係を示すグラフである。
図7】実施例及び参考例に係るFe原子の状態測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒は、二酸化炭素を水素化反応させて二酸化炭素を還元するとともに炭化水素を生成することが可能な触媒である。特に、本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒は、従来の触媒と比較して、炭素数が5以上の炭化水素の生成割合や生成率が高い。二酸化炭素の供給源としては特に限定されないが、本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒は、内燃機関の排ガス等、高流速で二酸化炭素が供給される供給源に対しても、好ましく炭素数が5以上の炭化水素を生成できる。
【0021】
<二酸化炭素還元触媒>
本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒(以下、単に「触媒」と記載する場合がある。)は、触媒金属として、Fe(鉄)とZr(ジルコニウム)と、を含む。また、更にGa(ガリウム)を含むことが好ましい。また、更にNa(ナトリウム)を含むことが好ましい。本実施形態に係る触媒を用いた二酸化炭素還元反応は、H(水素)とCO(二酸化炭素)の混合ガスを原料とし、COがCO(一酸化炭素)に還元される逆シフト反応と、COが炭化水素へと転換されるFT合成反応と、を一段で行うことにより炭化水素を生成する反応である。本実施形態に係る触媒は、上記逆シフト反応と、FT合成反応との両方に寄与する。本実施形態に係る触媒を用いた二酸化炭素還元反応は、従来のFT合成反応と比較して、例えば空間速度SV(Space Velocity)=50,000h-1程度の高流速下においても、炭素数が5以上の炭化水素を高効率に生成できる。
【0022】
本実施形態に係る触媒金属に含有されるFeは、酸化物、炭酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物等の化合物であってもよく、酸化物であることが好ましい。これらの化合物は2種以上含有されてもよい。また、Feは、Fe及びZrにより形成されるFe-Zr複合酸化物として触媒金属に含有されることがより好ましい。Fe-Zr複合酸化物を含有する触媒金属を用いることで、FT合成反応においてFe粒子をよりカーバイド化させることができ、これにより触媒におけるCH成長反応が促進され、炭素鎖の成長が促進される。したがって、高流速下においても炭素数が5以上の炭化水素の収率を向上させることができる。
【0023】
本実施形態に係る触媒金属中におけるFeの含有量は、金属原子換算で55~90質量%の範囲内であることが好ましく、60~75質量%であることがより好ましい。
【0024】
本実施形態に係る触媒金属に含有されるZrは、Feと同様に、酸化物、炭酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物等の化合物であってよく、酸化物であることが好ましい。これらの化合物は2種以上含有されてもよい。Zrは、Fe及びZrにより形成されるFe-Zr複合酸化物として触媒金属に含有されることがより好ましい。
【0025】
本実施形態に係る触媒金属中におけるZrの含有量は、金属原子換算で0質量%超15質量%以下であることが好ましく、5~10質量%であることがより好ましい。Zrの含有量を15質量%以下とすることで、ZrがFeの反応サイトを被覆することによる悪影響を避けることができ、触媒活性の低下を防止することができる。
【0026】
本実施形態に係る触媒金属は、更にGaを含むことが好ましい。Gaは、FeやZrと同様に、酸化物、炭酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物等の化合物であってよく、酸化物であることが好ましい。これらの化合物は2種以上含有されてもよい。Gaは、Fe、Zr及びGaにより形成されるFe-Ga-Zr複合酸化物として触媒金属に含有されることがより好ましい。Fe-Ga-Zr複合酸化物は、鉄酸化物等の化合物と比較して、微粒子化されるため、Fe触媒の反応サイトが増大することで、FT合成反応の反応時間、すなわち生成される炭化水素の炭素鎖が成長する時間を確保できる。したがって、高流速下においても炭素数が5以上の炭化水素の収率を向上させることができる。
【0027】
本実施形態に係る触媒金属中におけるGaの含有量は、金属原子換算で10~30質量%であることが好ましく、20~30質量%であることがより好ましい。Gaの含有量を10質量%以上とすることで、触媒金属を十分に微粒子化させることができる。また、Gaの含有量を30質量%以下とすることで、GaがFeの反応サイトを被覆することによる悪影響を避けることができ、触媒活性の低下を防止することができる。
【0028】
本実施形態に係る触媒金属は、更にNaを含むことが好ましい。Naは、Fe及びZrを含む触媒金属において助触媒として機能し、COをNaCOとして捕捉することで、H及びCOからCOが生成する逆シフト反応を進行させ、CO変換率を向上させることができる。Naは、Fe-Zr複合酸化物やFe-Ga-Zr複合酸化物とは別に、酸化物等の形態でFe-Zr複合酸化物やFe-Ga-Zr複合酸化物の表面上に存在することが好ましい。なお、触媒金属は、Naに代えて、又はNaと共に、Li、K、Rb、Cs等のアルカリ金属を含有していてもよい。
【0029】
本実施形態に係る触媒金属中におけるNaの含有量は、0.5~1.5質量%であることが好ましく、1.0質量%であることがより好ましい。Naの含有量を0.5質量%以上とすることで、炭素数が5以上の炭化水素の生成効率を十分に向上させることができる。また、Naの含有量を1.5質量%以下とすることで、NaがFeの反応サイトを被覆することによる悪影響を避けることができ、触媒活性の低下を防止することができる。
【0030】
本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒は、例えば、触媒金属の粉体であってもよいし、触媒金属を加圧成型することで形成されるペレット状の成型体であってもよい。また、シリカ等の公知の触媒担体に触媒金属が担持されたものであってもよい。本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒は、上記以外に、触媒製造工程等で混入する不可避的不純物を含んでもよいが、できるだけ不純物を含まないことが好ましい。
【0031】
<二酸化炭素還元触媒の製造方法>
本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒の製造方法は、共沈工程を有する。また、共沈工程の次に、含浸工程を有することが好ましい。
【0032】
(共沈工程)
本実施形態における共沈工程は、Feの硝酸塩とZrの硝酸塩とを所定量蒸留水に溶解させた水溶液から、共沈法により触媒前駆体である沈殿物を抽出する工程である。共沈工程により、Fe-Zr複合酸化物が形成される。共沈工程において、FeとZrを含む上記水溶液に対し、NaCO水溶液を滴下することで、沈殿溶液が得られる。その後、沈殿溶液からろ過・洗浄等によって沈殿物を分離し、乾燥させることで、触媒前駆体である沈殿物(Fe-Zr複合酸化物)が得られる。
【0033】
別の態様における共沈工程は、Feの硝酸塩とZrの硝酸塩とGaの硝酸塩とを所定量蒸留水に溶解させた水溶液から、共沈法により触媒前駆体である沈殿物を抽出する工程である。共沈工程により、Fe-Ga-Zr複合酸化物が形成される。共沈工程において、FeとZrとGaを含む上記水溶液に対し、NaCO水溶液を滴下することで、沈殿溶液が得られる。その後、沈殿溶液からろ過・洗浄等によって沈殿物を分離し、乾燥させることで、触媒前駆体である沈殿物(Fe-Ga-Zr複合酸化物)が得られる。
【0034】
(含浸工程)
本実施形態における含浸工程は、上記共沈工程により得られた沈殿物にNaを含む水溶液を滴下して所定時間乾燥させ、得られた粉末を所定の温度で焼成する工程である。この含浸工程により、Fe-Zr複合酸化物の表面付近にNa化合物を偏在させることができる。Naを含む水溶液としては、例えば、NaNO水溶液が挙げられる。NaNO水溶液は、超音波加振の下、滴下することができる。これにより、Fe-Zr複合酸化物の表面付近にNa化合物を均一に偏在させることができる。焼成温度は例えば550℃とすることができ、焼成時間は例えば4時間とすることができる。
【0035】
別の態様における含浸工程は、上記共沈工程により得られた沈殿物にNaを含む水溶液を滴下して所定時間乾燥させ、得られた粉末を所定の温度で焼成する工程である。この含浸工程により、Fe-Ga-Zr複合酸化物の表面付近にNa化合物を偏在させることができる。Naを含む水溶液としては、例えば、NaNO水溶液が挙げられる。NaNO水溶液は、超音波加振の下、滴下することができる。これにより、Fe-Ga-Zr複合酸化物の表面付近にNa化合物を均一に偏在させることができる。焼成温度は例えば550℃とすることができ、焼成時間は例えば4時間とすることができる。
【0036】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例
【0037】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
表1に示す触媒金属1としてのFeの硝酸塩(Fe(NO・9HO)と、同じく触媒金属2としてのZrの硝酸塩(ZrO(NO・2HO)と、同じく触媒金属3としてのGaの硝酸塩(Ga(NO・6HO)とを、金属原子換算でFe:Zr:Gaの質量比が6:1:3となるように秤量し、蒸留水に溶解させた。次いで、上記水溶液を撹拌しながら、1.0M NaCO水溶液を2ml/min滴下し、pH8.5に固定することで、FeとZrとGaを沈殿物として含む沈殿溶液を得た。次いで、沈殿溶液を室温下、24時間エージングさせた後、ろ過、洗浄を繰り返すことで沈殿物を分離した。分離した沈殿物を60℃で12時間乾燥させることで、Fe-Ga-Zr触媒前駆体を得た。
【0039】
上記Fe-Ga-Zr触媒前駆体に対し、NaNO水溶液を92kHz超音波加振の下、Na含有量が1.0質量%となるように滴下した。次いで、5000Paの真空下で1時間乾燥させ、更に常圧下で60℃で12時間乾燥させ、粉末を得た。得られた粉末を550℃で4時間焼成することで、実施例1に係る触媒を得た。
【0040】
[実施例2~3、比較例1~4、参考例]
触媒金属1(Fe)の含有量、触媒金属2の種類及び含有量、及び触媒金属3(Ga)の含有量を、それぞれ表1に示すものとしたこと以外は実施例1と同様として、実施例2~3、比較例1~4、及び参考例に係る触媒を得た。比較例1は触媒金属2及び触媒金属3を用いず、Feの硝酸塩のみを用いた。また、参考例は触媒金属2を用いず、Feの硝酸塩及びGaの硝酸塩のみを用いた。なお、表1に触媒金属1、触媒金属2、及び触媒金属3の質量部を示しているが、各実施例及び比較例、並びに参考例に係る触媒金属には、表1に示す触媒金属1~3以外に1.0質量%のNaを含有する。
【0041】
【表1】
【0042】
[評価]
実施例1~3、比較例1~4及び参考例の二酸化炭素還元触媒について、以下の方法で二酸化炭素還元反応を行った。装置は、固定床流通式の反応装置を使用し、反応ガスはCO 2.8NL/h、H 8.4NL/h(CO/H=1/3)とした。各実施例及び比較例、並びに参考例に係る二酸化炭素還元触媒は0.4~0.8mm角のペレット状としたものを0.25g用いた。上記ペレットを、反応管(内径6mm)に5cmの長さで充填して用いた。W/F(触媒重量/ガス流量)は0.5g・h/mol、空間速度SV(Space Velocity)=50,000h-1とした。反応条件は温度380℃、圧力3MPa、反応時間4時間とした。触媒反応後のガス成分を、オンラインでのガスクロマトグラフィー(Shimadzu,GC-2014AT、検出器:熱伝導度検出器(TCD))及び水素炎イオン化検出器(FID)(Shimadzu,GC-2014AF)により定性・定量分析した。また触媒反応後の液体成分もオフラインでのガスクロマトグラフィー(Shimadzu,GC-2014AF、検出器:水素炎イオン化検出器(FID))により定性・定量分析した。
【0043】
(CO変換率)
上記二酸化炭素還元反応によるCOの変換率を、以下の式(1)により求めた。結果を図1に示す。
CO変換率(%)=((反応前のCO濃度)-(反応後のCO濃度))/(反応前のCO濃度)×100 …(1)
【0044】
(C含有成分選択率)
上記二酸化炭素還元反応により生成された各C含有成分(CO、CH、C2-4、C5+)の選択率を、以下の式(2)により求めた。なお、C2-4は、炭素数2~4の炭化水素を示し、C5+は、炭素数5以上の炭化水素を示す。結果を図2に示す。
各C含有成分選択率(%)=(各C含有成分濃度)/((反応前のCO濃度)-(反応後のCO濃度))×100 …(2)
【0045】
(C5+生成率)
上記二酸化炭素還元反応により生成されたC5+(炭素数5以上の炭化水素)の生成率を、以下の式(3)により求めた。結果を図3に示す。
5+生成率(%)=CO変換率×C5+選択率/100 …(3)
【0046】
(Zr含有量とCO変換率との関係)
次に、表1に示すように触媒金属中のFeとZrとの質量割合を変化させた実施例1~3と、Zrを含有しない参考例の触媒を用いた二酸化炭素還元反応における、Zr含有量とCO変換率との関係を調べた。結果を図4に示す。図4において、縦軸は上記式(1)により求められるCO変換率(%)を示し、横軸はZr含有量(質量%)を示す。なお、各触媒には、Naが1.0質量%含有されるが、Zr含有量としては触媒金属中のFe、Ga及びZrの合計に対するZrの質量割合を近似値として用いることができる(以下同様)。
【0047】
(Zr含有量とC5+選択率との関係)
次に、図4と同様に実施例1~3及び参考例の触媒を用いた二酸化炭素還元反応における、Zr含有量とC5+選択率との関係を調べた。結果を図5に示す。図5において、縦軸は上記式(2)により求められるC5+選択率(%)を示し、横軸はZr含有量(質量%)を示す。
【0048】
(Zr含有量とC5+生成率との関係)
次に、図4と同様に実施例1~3及び参考例の触媒を用いた二酸化炭素還元反応における、Zr含有量とC5+生成率との関係を調べた。結果を図6に示す。図6において、縦軸は上記式(3)により求められるC5+生成率(%)を示し、横軸はZr含有量(質量%)を示す。
【0049】
次に、金属原子換算でZrを10質量%含有する実施例1の触媒と、Zrを含有しない参考例の触媒を用いた二酸化炭素還元反応における、反応後の触媒中のFe原子の状態を調べた。触媒中のFe原子の状態は、性能評価後の触媒を薄片加工したものに対し、メスバウア分光法による測定を行い、得られたスペクトルに対し、Fe、Fe、Feの寄与度をフィッティングにより求めることにより行った。結果を図7に示す。なお、メスバウア分光法による測定の詳細は以下のとおりである。
測定条件:等加速度モード、室温、常圧下
線源:57Co/Rh マトリクス、1.85[GBq]
【0050】
[考察]
図1~3から、実施例1の触媒は、従来の触媒金属としてFeのみを用いた比較例1、触媒金属としてFe及びGaのみを用いた参考例、及び触媒金属2としてZrの代わりに他の金属元素を用いた比較例2~4の触媒と比較して、CO変換率、炭素数5以上の炭化水素の選択率、及び炭素数5以上の炭化水素の生成率のいずれもが高く、触媒活性に優れることが明らかであった。なお、参考例の触媒も、比較例1~4と比較すると、CO変換率、C5+選択率、C5+生成率のいずれにおいても高い値を示したが、実施例1は参考例よりも更に高い値を示しており、Zrの添加により触媒の活性が更に向上することが示されたと考えられる。
【0051】
また、図4~6から、触媒金属としてのZrの含有量は、0質量%超15質量%以下の範囲が好ましく、5~10質量%の範囲がより好ましい結果が明らかであった。Zr添加量を増加させると、C5+を生成する触媒活性は向上し、Zr含有量が10質量%のときに最も活性が高くなる。一方、Zr含有量が15質量%を超える場合、ZrがFeの反応サイトを被覆することで、結果的に触媒活性が低下するものと考えられる。
【0052】
また、図7から、金属原子換算でZrを10質量%添加した実施例1では、Zrを添加しない参考例と比較して、FT合成反応における中間体とされるFe成分がより多く検出された。図4図6の結果と併せて考察すると、触媒金属にZrを添加することにより、触媒でのCH成長反応が促進され、その結果としてC5+生成率等の触媒活性が向上したと考えられる。また、Zr添加により触媒でのCH成長反応が促進される理由としては、Zrの4d軌道からFeの3d軌道への電子供与が生じることにより、Feの3d軌道において電子が過剰となり、その過剰な電子がFeに吸着した反応ガスCOの結合性軌道に流れることにより、COの分解が促進される結果によるものと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7