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特許7514486木質培土を主材とする家庭園芸用の植物培養土
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】木質培土を主材とする家庭園芸用の植物培養土
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/23 20180101AFI20240704BHJP
   C05F 11/00 20060101ALI20240704BHJP
   C05D 9/02 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
A01G24/23
C05F11/00
C05D9/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022162546
(22)【出願日】2022-10-07
(65)【公開番号】P2024055531
(43)【公開日】2024-04-18
【審査請求日】2023-11-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390011567
【氏名又は名称】株式会社ハイポネックスジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角石 真弥
(72)【発明者】
【氏名】馬場 大輔
(72)【発明者】
【氏名】平尾 浩介
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-150820(JP,A)
【文献】特開2018-117589(JP,A)
【文献】特許第6503124(JP,B1)
【文献】国際公開第2020/158718(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 24/00-24/60
C05F 11/00-11/10
C05D 9/00- 9/02
C09K 17/00-17/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質培土を主材とする家庭園芸用の植物培養土であって、
前記木質培土は、堆肥化していない木材砕片からなり、前記木材砕片の絶乾重量に対して、0.15重量%以上0.35重量%以下の濃度の硫酸鉄を含むとともに6以上7以下のpHを有し、
前記木質培土よりもpHの低い水溶性の成分を含有する肥料と、植物を素材とする植物資材とが添加、混合されていて、
前記肥料は、粒子サイズが2mm以上の粒状であって、薬効を長く維持可能な高緩効性の第1肥料を含み、
前記植物資材が、6以上7以下のpHを有するとともに前記木質培土の色に対してマスキング可能な色を有する第1植物資材および前記木質培土よりも低いpHを有するとともに前記木質培土の色に対してマスキング可能な色を有する第2植物資材の少なくともいずれか一方を含むこと、及び/又は、前記肥料が、粒子サイズが1mm以下の粉状であって、前記第1肥料よりも薬効の維持性能が低い低緩効性の第2肥料を更に含むことにより、前記木質培土の脱色によって前記第1肥料の周囲に発生する斑模様がマスキングされていることを特徴とする、家庭園芸用の植物培養土。
【請求項2】
請求項1に記載の家庭園芸用の植物培養土において、
前記第1植物資材を10重量%以上含む、家庭園芸用の植物培養土。
【請求項3】
請求項1に記載の家庭園芸用の植物培養土において、
前記第2植物資材を5重量%より多く含む、家庭園芸用の植物培養土。
【請求項4】
請求項1に記載の家庭園芸用の植物培養土において、
前記第1植物資材を10重量%以上含み、かつ、前記第2植物資材を5重量%以上含む、家庭園芸用の植物培養土。
【請求項5】
家庭園芸用の植物培養土の製造方法であって、
堆肥化していない木材砕片に、その絶乾重量に対して、0.15重量%以上0.35重量%以下の濃度の硫酸鉄を含ませるとともに、pHを6以上7以下に調製して、主材となる木質培土を得るステップと、
前記木質培土よりもpHの低い水溶性の成分を含有するとともに、粒子サイズが2mm以上の粒状であって、薬効を長く維持可能な高緩効性の第1肥料を含む肥料と、植物を素材とする植物資材とを、前記木質培土に添加、混合するステップと、
を備え、
前記植物資材に、6以上7以下のpHを有するとともに前記木質培土の色に対してマスキング可能な色を有する第1植物資材および前記木質培土よりも低いpHを有するとともに前記木質培土の色に対してマスキング可能な色を有する第2植物資材の少なくともいずれか一方を含ませること、及び/又は、前記肥料に、前記木質培土よりもpHの低い水溶性の成分を含有するとともに、粒子サイズが1mm以下の粉状であって、前記第1肥料よりも薬効の維持性能が低い低緩効性の第2肥料を更に含ませることにより、前記木質培土の脱色によって前記第1肥料の周囲に発生する斑模様を、マスキングすることを特徴とする、家庭園芸用の植物培養土の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、木質培土を主材とする家庭園芸用の植物培養土に関する。
【背景技術】
【0002】
農業や園芸などでは、椰子殻の粉砕物やピートモス(苔などが堆積、腐植して形成された泥炭を原料としたもの)など、植物を素材とした培土が利用されている。これらは、通常の土に比べて、軽量で、燃やせることから廃棄が容易なうえに、保水性や透水性に優れ、植物の育成にも適しているといった利点がある。
【0003】
木材の粉砕物も、これらと同様の利点が得られることから、これらに代わる培土としての利用可能性がある(木材を素材とした培土を木質培土ともいう)。特に、建築資材などの製造時には、不要な端材が多量に発生する。従って、これら端材を利用すれば、廃棄物の有効活用、自然環境保護などの観点からも効果的である。しかも、自然由来でありながら、異物を含まないし、清潔で、いやな臭いも無い。
【0004】
しかし、木材は、植物の生長を阻害するタンニンを含む。そのため、木材の粉砕物は、そのままでは木質培土としては利用できない。木材の粉砕物を野積みして堆肥化すれば、タンニンを無効化できるが、長い保管期間と広大な保管場所が必要になる。
【0005】
それに対し、本出願人は、以前から、堆肥化することなく、木材を工業的に木質培土として利用する技術開発を行っている。そして、先に、堆肥化していない木材砕片であっても、所定の改質処理を施すことによって、木質培土の工業的な生産が可能になることを見出し、その技術を開示している。
【0006】
例えば、特許文献1には、クエン酸および硫酸鉄を含有する薬液を用いて、堆肥化されていない木材砕片を改質する方法を提案している。
【0007】
詳細には、硫酸鉄の重量に対するクエン酸の重量の含有比率が、0.05以上となるように薬液を調製する。その薬液で、堆肥化されていない木材砕片を改質し、木材砕片の絶乾重量に対し、硫酸鉄が、0.15重量%以上0.35重量%以下の濃度で含まれるようにする。
【0008】
それにより、植物を良好に栽培できる木質培土を低コストで実現可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6503124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在、本出願人は、上述した木質培土の実用化を進めている。すなわち、上述した木質培土を主材とし、軽量、易廃棄性、コストメリットなどの利点は維持しながら、これに肥料など、植物を育てるうえで有効な資材を添加、混合することで、そのまま栽培に用いても、植物を効果的に育成できる利便性に優れた家庭園芸用の培養土(植物培養土)の開発を行っている。
【0011】
その際、組み合わせる資材の種類や量によっては、商品として所定量を混合して袋詰めした後に、変色して識別可能な斑模様が出現することが判明した。
【0012】
具体的には、上述した木質培土では、木材砕片が含むタンニンを硫酸鉄と反応させることで、タンニンを不活性化している。その木材砕片は、タンニンと化合した硫酸鉄を含むことから、やや黒く変色する。また、改質した木質砕片のpHは、6~7となり、中性ないし微酸性となる。
【0013】
対して、一般的な植物は、pH5.5~6.5の弱酸性領域が至適範囲とされている。従って、それよりもpHの低い資材を木質培土に添加し、植物培養土のpHをこの至適範囲に調製するのが好ましい。
【0014】
ところが、木質培土は水分を含むため(例えば含水率で40~60重量%)、木質培土よりもpHの低い水溶性の成分を含有する肥料が、遅効性に有効な粒状の肥料を含むと、その肥料の周囲にその水溶性の成分が溶け出して、肥料の周囲のpHが低下する。それにより、肥料の周辺に有る木質培土が脱色されて赤茶色になり、局所的に変色する。
【0015】
木質培土は、脱色されても品質的には問題は無い。しかし、このような脱色が進むと斑模様が認められるようになる。その結果、ユーザに違和感を与える場合があり、商品の見た目を悪くするおそれがある。
【0016】
そこで開示する技術の目的は、木質培土を主材に用いる利点を損なうこと無く、見た目にも違和感のない家庭園芸用の植物培養土を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
開示する技術は、木質培土を主材とする家庭園芸用の植物培養土に関する。
【0018】
前記木質培土は、堆肥化していない木材砕片からなり、前記木材砕片の絶乾重量に対して、0.15重量%以上0.35重量%以下の濃度の硫酸鉄を含むとともに6以上7以下のpHを有している。
【0019】
前記植物培養土は、前記木質培土よりもpHの低い水溶性の成分を含有する肥料と、植物を素材とする植物資材とが添加、混合されている。前記肥料は、粒状の第1肥料を含む。
【0020】
そして、前記植物資材が、6以上7以下のpHを有するとともに前記木質培土の色に対してマスキング可能な色を有する第1植物資材および前記木質培土よりも低いpHを有するとともに前記木質培土の色に対してマスキング可能な色を有する第2植物資材の少なくともいずれか一方を含むこと、及び/又は、前記肥料が、粉状の第2肥料を更に含むこと、を特徴とする。
【0021】
すなわち、この植物培養土は、改質した木質培土を主材とする。従って、植物由来でありながら異物を含まず清潔でいやな匂いも無く、軽量で燃やせることから廃棄も容易であり、栽培にも好適で、原料コストも安価といった利点がある。そして、それに植物資材と肥料とが添加、混合されているので、木質培土の利点を損なうことなく、それ自体で植物を効果的に栽培できる。
【0022】
ところが、植物培養土が、木質培土よりもpHの低い水溶性の成分を含有する粒状の肥料(第1肥料)を含むことで、改質した木質培土に起因して、包装後に識別可能な斑模様が発生する、という問題が認められた。
【0023】
それに対し、本発明者らは、これに対する対策として、斑点が発生しても目立たなくすることを考え、検討を行った。その結果、植物資材が、所定の第1植物資材および第2植物資材の少なくともいずれか一方を含むこと、及び/又は、肥料が、粉状の第2肥料を更に含むようにすることで、斑模様をマスキングして目立たなくでき、斑模様を識別不能にできるということを見出した。開示する技術は、その検討成果に基づくものであり、その対応策を特徴とする。
【0024】
前記第1植物資材を10重量%以上含むようにしてもよいし、前記第2植物資材を5重量%より多く含むようにしてもよい。そうすれば、第1植物資材または第2植物資材により、植物培養土に発生する斑模様をマスキングでき、見た目の悪化を抑制できる。
【0025】
特に、前記第1植物資材を10重量%以上含み、かつ、前記第2植物資材を5重量%以上含むようにするのが好ましい。そうすれば、見た目の悪化を安定して抑制でき、植物の栽培に適したpHにしながら植物培養土の仕様に応じて多様な配合ができる。
【0026】
前記第1植物資材が椰子殻の粉砕物であり、前記第2植物資材がピートモスであれば、入手容易な普及品を用いて、木質培土を主材とした植物培養土の利点を損なうことなく、植物培養土に発生する斑模様をマスキングでき、見た目の悪化を抑制できる。
【発明の効果】
【0027】
開示する技術によれば、木質培土を主材に用いる利点を損なわずに、脱色による斑模様を目立たなくできるので、見た目も違和感の無い、商品性に優れた植物培養土を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】斑模様が発生した植物培養土の写真である。斑模様が識別できるように画像処理を施してある。
図2】木質培土および各植物資材の色に関する測定値をまとめた表である。
図3】植物培養土の配合例をまとめた表である。
図4】斑模様についての評価結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、開示する技術を説明する。ただし、以下の説明は本質的に例示に過ぎない。
【0030】
<植物培養土>
開示する技術は、植物の栽培に好適な培養土(植物培養土)に関する。植物培養土は、所定の木質培土を主材とし、これに植物を素材とする資材(植物資材)と肥料とを、それぞれ所定量、添加、混合することによって製造される。植物培養土はまた、従来の土や堆肥化した培養土と異なる特徴を有しており、植物を初めて取り扱う人や植物の取り扱いに不慣れな人でも扱い易い。従って、家庭園芸に最適な培養土である。
【0031】
(木質培土)
木質培土には、上述した特許文献1に開示されたものが用いられる。具体的には、木質培土は、堆肥化していない木材砕片からなり、所定の薬液で改質することにより、木材砕片の絶乾重量に対して、0.15重量%以上0.35重量%以下の濃度の硫酸鉄を含む。
【0032】
すなわち、木質培土は、堆肥化されていない細かな木屑状の木材砕片で構成されており、その主たる原料は、針葉樹の木材である。
【0033】
ここで、堆肥化されていないとは、発酵により、木材を構成している多糖類等が生分解されていないことを意味する。木質培土の原料には、スギ、アカマツ、ヒノキ、トドマツ等、国産の針葉樹が好適である。国産の針葉樹は、建築材料や木材加工材料などに多用されており、その製造時には多量の端材(木材の余分な切れ端)が発生する。その端材が、木質培土の原料に利用できる。従って、スギ材、アカマツ材、ヒノキ材、トドマツ材等、安価な原料を安定して確保することができる。
【0034】
木材砕片は、端材などを粉砕機で粉砕することによって形成される。それにより、木材砕片の大きさや形状などが、栽培対象の植物に応じた形態に設定される。具体的には、木材砕片は、粉砕方法の選択により、塊形状ないし繊維形状に形成され、それらの大きさが、植物培養土の仕様に応じて選別される。
【0035】
例えば、木材砕片は、10mmのメッシュを通過する大きさの塊形状や繊維形状にしてもよい。特定の形状および大きさの木材砕片を単独で植物培養土に用いてもよいし、複数の形状および大きさの木材砕片を組み合わせて、植物培養土に用いてもよい。保水性や保肥性など、植物の育成効果向上の観点からは、形状および大きさが異なる複数の木材砕片を組み合わせるのが好ましい。
【0036】
所定の薬液による改質により、木材砕片の表面に近い部分はタンニンが不活性化されている。具体的には、クエン酸/硫酸鉄比率が、少なくとも0.05以上となるように、硫酸鉄およびクエン酸を水に添加して混合し、クエン酸/硫酸鉄比率が0.3以下となるように薬液を調製する。木材砕片は、この薬液で改質される。
【0037】
すなわち、木材砕片の絶乾重量に対し、硫酸鉄が、0.15重量%以上0.35重量%以下の濃度で含まれるように、木材砕片を薬液に浸漬したり木材砕片に薬液を噴霧したりする。それにより、農業資材に見合う実用化可能な低コストで、植物を良好に栽培できる木材砕片(木質培土)が得られる。
【0038】
木質培土の表面は、タンニンが硫酸鉄と化合することにより、木材本来の淡い赤茶色からやや黒く変色する。木質培土は、褐色ないし黒褐色になる。また、木質培土のpHは、6~7となり、中性ないし微酸性となる。
【0039】
対して、植物培養土のpHは、一般的な植物の至適範囲とされている5.5~6.5の弱酸性領域に設定されている。従って、木質培土に、それよりもpHの低い植物資材および肥料を組み合わせることにより、植物培養土全体としてのpHがその至適範囲に収まるように調製される。
【0040】
(肥料)
植物培養土は、それ単独でも植物を効果的に栽培できるように、肥料が添加される。肥料は、植物の三大栄養素である、窒素、リン、カリウムを含有することが好ましい。
【0041】
更に、その効果を長く維持できるように、肥料は、緩効性を有する肥料(緩効性肥料)を含むのが好ましい。緩効性肥料には、弱酸性を示す水溶性の成分を含有するものがある。緩効性肥料は、特に、その薬効を長期にわたって発揮できるように、粒状であるのが好ましい。
【0042】
そのような粒状の緩効性肥料(第1肥料)の具体例としては、(株)ハイポネックス社製のマグァンプK中粒(マグァンプは登録商標)が好適である。マグァンプK中粒であれば、三大栄養素およびマグネシウムがバランスよく配合されており、水溶性の成分および不溶性の成分を含み、薬効も約1年持続できる。
【0043】
また、後述するように、植物培養土には、粉状の緩効性肥料を配合してもよい。そのような粉状の緩効性肥料(第2肥料)の具体例としては、(株)ハイポネックス社製のマグァンプKアンダーが好適である。ただし、この肥料は、粉状であるため、その薬効の維持性能は低い。従って、粉状の緩効性肥料は、後述する斑模様のマスキングを主たる目的として配合される。
【0044】
なお、マグァンプK中粒の粒子サイズは、概ね2mm以上4mm以下である。マグァンプKアンダーの粒子サイズは、1mm以下、つまり粉状である。
【0045】
(植物資材)
植物培養土では、木質培土を主材に用いる利点を損なわないように、少量の配合であっても、植物資材が組み合わされている。すなわち、上述したように、木質培土は、植物由来でありながら異物を含まず清潔でいやな臭いも無い。そして、軽量で燃やせることから廃棄も容易である。栽培にも好適で、原料コストも安価といった利点がある。すなわち、木質培土は、家庭園芸に最適である。植物資材には、このような利点を損なわないものが採用されている。
【0046】
それに加え、植物資材は、後述する、木質培土に起因して植物培養土で発生する斑模様のマスキングに利用できるものが採用されている。
【0047】
具体的には、ピートモスおよびココピートが、木質培土に添加する植物資材として採用されている。ピートモスは、苔などが堆積、腐植して形成された泥炭を原料としたものであり、脱水、粉砕、選別等して製造される。ピートモスの形態は、粉状ないし細かな繊維状である。ピートモスは、生分解されているため、保肥性および保水性にも優れる。
【0048】
ピートモスの色は、褐色ないし黒褐色である。ピートモスは、木質培土と同じ色相を有している。ピートモスは、木質培土と比較すると、やや黒く感じる程度であり、これら両者を混合しても違和感は無い。明度が多少変化する程度では、目視でこれらの色の違いを識別することは難しい。すなわち、ピートモスは、木質培土の色に対してマスキング可能な色を有している。
【0049】
ピートモスのpHは、4前後である。ピートモスは、木質培土よりもpHの低い酸性の植物資材(第2植物資材)であり、植物培養土のpH調整材として利用できる。一方、そのpHから、ピートモスの配合量には上限がある。
【0050】
ココピートは、椰子殻を原料とした加工品であり、椰子殻を粉砕し、発酵により堆肥化した後、ピートモスと同様に脱水、粉砕、選別等して製造される。従って、ココピートの形態はピートモスと同様である。
【0051】
ただし、ココピートは、木質培土と同様に中性ないし微酸性の植物資材であり、そのpHは6~7である。従って、ココピートは、木質培土と同等に扱え、木質培土と代替可能である。
【0052】
ココピートと同様に、椰子殻を原料にした植物資材に、ハスクチップがある。ハスクチップは、椰子殻を粉砕してチップ状にしたものである。すなわち、ハスクチップは、ココピートとは形態が異なる。しかし、ハスクチップのpHも6~7である。従って、ハスクチップも木質培土と代替可能である。
【0053】
ココピートおよびハスクチップも、ピートモスと同様に、褐色ないし黒褐色である。ココピートおよびハスクチップも、木質培土と比較すると、やや黒く感じる程度であり、これら両者を混合しても違和感は無い。明度が多少変化する程度では、目視でこれらの色の違いを識別することは難しい。すなわち、ココピートおよびハスクチップは、木質培土の色に対してマスキング可能な色を有している(第1植物資材)。
【0054】
(植物培養土の問題点)
上述したように、木質培土を構成している木材砕片の表面は、硫酸鉄がタンニンと化合することによって、やや黒く変色している。それに、木質培土よりもpHの低い水溶性の成分を含有する粒状の緩効性肥料が混合されていると、木質培土は水分を含有しているので、袋詰めした後に、その粒状の緩効性肥料の周囲にその水溶性の成分が溶け出す。その結果、粒状の緩効性肥料の周囲のpHが低下し、そこに有る木質培土が脱色されて赤茶色の斑点が発生する。
【0055】
粒状の緩効性肥料の添加量が多ければ、植物培養土の広い範囲が脱色されて、見た目の違和感は生じないかもしれない。しかし、植物培養土のpHおよび植物の栽培に適した配合との関係で、粒状の緩効性肥料の添加量は、植物培養土1Lに対して数g程度である。従って、粒状の緩効性肥料は、植物培養土に疎らに混合された状態になることは避けられない。
【0056】
図1に、斑模様が発生した状態の植物培養土の写真(画像処理済み)を示す。カラー写真では赤茶色の斑模様が識別できるが、モノクロ写真では識別できなかったため、識別できるように画像処理を施した。図1の写真は、赤茶色になるほど白くなるように処理されている。それにより、図1では斑模様が強調されているが、実際の斑模様は、脱色が進むことで識別が可能になる程度である。
【0057】
図2に、木質培土および各植物資材の色に関する測定値を示す。測定は、各サンプルを平らにした状態でその表面の5箇所をランダムに測定し、それらの平均値を測定値とした。
【0058】
木質培土は、脱色前の状態のサンプルである。木質培土(脱色)は、脱色が進んだ状態のサンプルである。脱色により、木質培土は、明度が増加し、明らかに白っぽく変色することが判る。
【0059】
脱色しても木質培土の品質に問題は無い。タンニンの無効化は維持される。しかし、識別可能な斑模様は、ユーザに違和感を与えるおそれがある。そこで、本発明者らは、これに対する対応策として、斑点が発生しても目立たなくすることを考えた。
【0060】
具体的には、木質培土よりも低いpHを有するとともに木質培土の色に対してマスキング可能な色を有する植物資材(第2植物資材、ピートモス)を混合することにより、植物培養土が含む木質培土の広い範囲で、偏ることなくpHを下げて脱色させる。そうすることで、植物培養土の全体の色を斑点に近い色にシフトさせ、赤茶色の斑点が発生しても目立たなくさせる。
【0061】
また、木質培土と同等のpHを有するとともに木質培土の色に対してマスキング可能な色を有する植物資材(第1植物資材、ココピートないしハスクチップ)を混合する。そうすることで、脱色する木質培土の量を相対的に減らしてマスキング可能な色を有する植物資材の量を相対的に増やし、赤茶色の斑点が発生し難くするとともに赤茶色の斑点が発生しても目立たなくさせる。
【0062】
また、粉状の緩効性肥料(第2肥料、マグァンプKアンダー)を混合することにより、植物培養土が含む木質培土の広い範囲で、偏ること無くpHを下げて脱色させる。そうすることで、植物培養土の全体の色を斑点に近い色にシフトさせ、赤茶色の斑点が発生しても目立たなくさせる。
【0063】
ただし、植物培養土は、pHを至適範囲に調整する必要があり、植物の栽培に適するように肥料の配合量を調整する必要もある。更に、この植物培養土の場合、木質培土の利点を活かすことに主眼があるため、木質培土を主材としており、植物資材の配合量は抑制したいという要望がある。
【0064】
そこで、本発明者らは、これらの点を考慮しつつ、植物培養土の配合について検討を行った。その試験の一例を示す。
【0065】
(植物培養土の配合試験)
木質培土、ココピート、ピートモス、ハスクチップを様々な割合で配合し、複数の培地配合を作製した。そして、これら培地配合の各々に対して所定量(2g/L)のマグァンプK中粒を添加し、植物培養土とした。更に、所定の培地配合には、更にマグァンプKアンダーを所定量添加し、植物培養土とした。
【0066】
図3に、その主な植物培養土の配合例A~Hを示す。
【0067】
Aは、木質培土にマグァンプK中粒を添加した配合例であり、いわゆるコントロールに相当する。
【0068】
B,Cの配合例は、ココピートに関するものである。Bは、Aの配合例に対し、培地配合の10重量%を木質培土からココピートに置き換えた配合例である。Cは、Aの配合例に対し、培地配合の20重量%を木質培土からココピートに置き換えた配合例である。
【0069】
D,Eの配合例は、ピートモスに関するものである。Dは、Aの配合例に対し、培地配合の5重量%を木質培土からピートモスに置き換えた配合例である。Eは、Aの配合例に対し、培地配合の15重量%を木質培土からピートモスに置き換えた配合例である。
【0070】
F,Gの配合例は、粉状の緩効性肥料(マグァンプKアンダー)に関するものである。Fは、Aの配合に対して更にマグァンプKアンダーを、マグァンプK中粒よりも少ない割合(1g/L)で添加した配合例である。Gは、Aの配合に対して更にマグァンプKアンダーを、マグァンプK中粒以上の割合(2g/L)で添加した配合例である。
【0071】
Hの配合例は、組み合わせに関するものである。すなわち、Hは、Fの配合例に対し、培地配合の10重量%を木質培土からココピートに、培地配合の5重量%を木質培土からピートモスに、培地配合の10重量%を木質培土からハスクチップに、それぞれ置き換えた配合例である。
【0072】
各配合で混合した植物培養土1Lを、商品形態と同様に袋詰めしたものを2つずつ作製した。これらを40℃の保管庫で1週間保管した後、その外観を目視で観察し、斑模様について評価した。その結果を、図4に示す。
【0073】
コントロールに相当する配合例Aでは、識別可能な斑模様が認められた。それに対し、配合例B,Cではいずれも識別可能な斑模様は認められなかった。すなわち、ココピートを10重量%以上含むようにすれば、脱色によって斑点が発生しても、植物培養土全体として見た場合には、ココピートによってマスキングできる。その結果、斑点模様を、目立たなくでき、識別不能にできる。
【0074】
ココピートを20重量%含む場合も同様であり、よりいっそう斑点を目立たなくできる。しかし、植物培養土の20重量%を超える量を木質培土からココピートに置き換えると、木質培土を主材とする利点が大幅に低下する。従って、ココピートは、10重量%以上20重量%以下含むのが好ましい。
【0075】
ピートモスに関しては、5重量%の置き換え(配合例D)では、斑模様が軽微に認められ、マスキングは不完全であった。それに対し、15重量%の置き換え(配合例E)では、識別可能な斑模様は認められなかった。すなわち、ピートモスを5重量%より多く含むようにすれば、脱色によって斑点が発生しても、ピートモスによるマスキングで目立たなくでき、識別不能にできる。
【0076】
そして、ピートモスを15重量%含むようにすれば、斑模様を安定して識別不能にできる。ただし、ピートモスを多く配合すると、植物培養土全体としてのpHが低下する。ピートモスの配合量には上限がある。
【0077】
マグァンプKアンダーに関しては、マグァンプK中粒より少ない1gの追加(配合例F)では、斑模様のマスキングは不完全であった。それに対し、マグァンプK中粒と同量の2gの追加(配合例G)では、識別可能な斑模様は認められなかった。すなわち、マグァンプK中粒以上の割合で含むようにすれば、マグァンプK中粒に起因して局所的な脱色が発生しても、マグァンプKアンダーに起因する微細かつ拡散した脱色によって目立たなくでき、斑点模様を識別不能にできる。
【0078】
すなわち、粉状の緩効性肥料を粒状の緩効性肥料以上の割合で添加すれば、斑模様を安定して識別不能にできる。ただし、緩効性肥料を多く配合すると、植物培養土全体としてのpHが低下する。また、肥料は、過剰に添加すると植物の栽培を阻害するおそれがあるので、緩効性肥料の配合量には上限がある。
【0079】
これら複数の手段を組み合わせるのが最も効果的である。配合例Hは、その一例であり、識別可能な斑模様は認められなかった。配合例HにおけるマグァンプKアンダーの添加量は、配合例Fと同じであり、それ単独では斑模様のマスキングは完全ではない。同様に、ピートモスの配合割合も、配合例Dと同じであり、それ単独では斑点斑模様のマスキングは完全ではない。
【0080】
しかし、配合例Hでは、更に、ココピートおよびハスクチップ(椰子殻の粉砕物)が、それぞれ10重量%ずつ配合されている。ココピートの10重量%配合は、マスキング効果が認められた配合例Bに相当する。このように、少なくともいずれかの手段が有効であれば、他の手段が不十分であっても、斑模様をマスキングできる。
【0081】
すなわち、有効な手段を組み合わせることでより安定した、斑模様のマスキングが可能になる。複数の手段の組み合わせにより、配合の自由度が拡がる。従って、見た目の違和感も無い、多くの植物の栽培に適した植物培養土を容易に製造できる。
【0082】
例えば、この試験結果に基づけば、ココピートを10重量%以上20重量%以下含み、かつ、ピートモスを5重量%以上15重量%以下含むようにすれば、双方のマスキング効果が得られるし、pHの低下も抑制できる。従って、斑模様を安定してマスキングでき、かつ、植物培養土のpHを至適範囲に調整できる。
【0083】
更に、肥料の添加総量の観点から許容できる場合には、マグァンプKアンダーを添加するのが好ましい。その場合、マグァンプK中粒以上の割合で添加するのが、より好ましい。そうすれば、マグァンプKアンダーに起因する微細かつ拡散した脱色により、斑点模様をよりいっそう目立たなくできる。
【0084】
更に、ハスクチップを配合するのが好ましい。ハスクチップであれば、pHの影響もなく、木質培土を代替できる。ハスクチップはまた、ココピートとも代替できるので、植物培養土の仕様に応じて、適宜配合できる。ただし、ハスクチップの配合割合が多くなると、木質培土を主材とする利点が低下するので、ココピートおよびハスクチップの総量として20重量%以下が好ましい。
【0085】
なお、開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、図3の表では、マグァンプK中粒を2g/L添加した配合例を示したが、マグァンプK中粒の添加量は、植物培養土の仕様に応じて2g/L未満であってもよいし、2g/Lより多くてもよい。いずれにせよ、植物の生育を考慮すれば、マグァンプK中粒の添加量は、植物培養土に対しては数g程度であり、微量である。
図1
図2
図3
図4