(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】分離装置
(51)【国際特許分類】
B01D 21/24 20060101AFI20240704BHJP
B01D 21/06 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
B01D21/24 T
B01D21/24 V
B01D21/24 D
B01D21/24 G
B01D21/06 A
(21)【出願番号】P 2020162093
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】520098497
【氏名又は名称】株式会社エイブルテクニカルサポート
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】橋本 覚
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-110726(JP,A)
【文献】特許第2505719(JP,B2)
【文献】特開平10-277311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D21/00-34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥と上澄み液とに分離する分離処理の対象である被処理液を収容可能な処理槽を備え、
前記処理槽は、
前記被処理液を前記汚泥と前記上澄み液とに分離可能な処理領域と、
前記上澄み液を回収可能な回収領域と、
を有し、
前記回収領域は、前記処理槽の側壁における位置のうち前記上澄み液の定水位よりも下方にある位置から、前記処理槽の内部における位置のうち前記定水位よりも上方にある位置に向けて設けられる仕切り部により第1領域と第2領域とに隔てられており、
前記第1領域は、前記処理領域で分離された前記上澄み液が浸入可能な領域であり、
前記仕切り部は、前記定水位よりも下方において、前記第1領域から前記第2領域に連通する連通孔を含んで構成され、
前記第2領域は、前記第1領域に浸入した前記上澄み液が前記連通孔を通じて流入可能な領域であり、
前記分離処理が行われている場合において、前記連通孔における前記第1領域の側と前記第2領域の側との間の差圧が200Pa以上であ
り、
前記仕切り部は、前記定水位よりも上方において切欠きをさらに含んで構成され、
前記切欠きは、前記連通孔の略真上に配置される、分離装置。
【請求項2】
前記連通孔は、前記第1領域から前記第2領域に向けて略水平又は下り勾配に設けられる、請求項1に記載の分離装置。
【請求項3】
前記連通孔が複数設けられ、
前記上澄み液が通過する向きから見た前記連通孔のそれぞれの断面積が0.5平方センチメートル以上4平方センチメートル以下である、請求項1又は2に記載の分離装置。
【請求項4】
前記上澄み液が通過する向きから見た前記連通孔の断面は、扁平率が0.5以下の略円形及び略楕円形、並びに内角の大きさが全て90度を超える略凸多角形から選択される1種以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水、汚水その他の被処理液を処理する方法の一つとして、被処理液から汚泥と上澄み液とを分離する分離処理が知られている。被処理液を処理する場合、懸濁物質、繊維質、油脂質、微生物その他の物質が気体を伴って被処理液の上方に浮上し、スポンジ状の気泡の塊となったスカム塊を生成し得る。被処理液の上方から上澄み液を回収する場合、被処理液の上方に浮かぶスカム塊が上澄み液を回収する回収領域を塞いでしまい、上澄み液の回収を妨げ得る。したがって、被処理液の上方に浮かぶスカム塊を破壊及び/又は除去し、上澄み液の回収効率を改善する要望がある。
【0003】
被処理液の上方に浮かぶスカム塊を破壊及び/又は除去し、上澄み液の回収効率を改善することに関し、生物学的処理法で処理対象水を処理する汚水処理システムであって、最初沈殿池と、処理対象水に対して生物学的処理を実施する生物学的処理部の前段とを備えた前処理槽と、前記生物学的処理部の後段と、最終沈殿池とを備えた後処理槽とを備え、前記最終沈殿池の上部に、駆動装置によって回転駆動される円筒スクリーン及び円筒スクリーンに水を噴射してスカムを除去する洗浄スプレー等を用いてスカムを除去して処理対象水を排出する越流機構が備えられている、汚水処理システムが提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載の技術によれば、スカム塊を除去して処理された水を排出し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、駆動装置によって円筒スクリーンを回転駆動する。したがって、円筒スクリーンを回転駆動する際の駆動装置のエネルギー消費に改善の余地がある。また、洗浄スプレーから噴射される水の消費にも改善の余地がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スカム塊を破壊及び/又は除去するときのエネルギー及び/又は水の消費に対する上澄み液の回収効率を向上可能な分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、上澄み液を回収する回収領域を第1領域と第2領域とに隔てる仕切り部に連通孔を設け、分離処理が行われている場合において連通孔における第1領域の側と第2領域の側との間の差圧が200Pa以上であるよう構成することで、上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
第1の特徴に係る発明は、汚泥と上澄み液とに分離する分離処理の対象である被処理液を収容可能な処理槽を備え、前記処理槽は、前記被処理液を前記汚泥と前記上澄み液とに分離可能な処理領域と、前記上澄み液を回収可能な回収領域と、を有し、前記回収領域は、前記処理槽の側壁における位置のうち前記上澄み液の定水位よりも下方にある位置から、前記処理槽の内部における位置のうち前記定水位よりも上方にある位置に向けて設けられる仕切り部により第1領域と第2領域とに隔てられており、前記第1領域は、前記処理領域で分離された前記上澄み液が浸入可能な領域であり、前記仕切り部は、前記定水位よりも下方において、前記第1領域から前記第2領域に連通する連通孔を含んで構成され、前記第2領域は、前記第1領域に浸入した前記上澄み液が前記連通孔を通じて流入可能な領域であり、前記分離処理が行われている場合において、前記連通孔における前記第1領域の側と前記第2領域の側との間の差圧が200Pa以上である、分離装置を提供する。
【0009】
分離処理においては、被処理液に含まれる懸濁物質、繊維質、油脂質、微生物その他の物質が気体を伴って回収領域に浮上し、スポンジ状の気泡の塊となったスカム塊を生成し得る。回収領域から上澄み液を回収する場合、回収領域に浮かぶスカム塊が回収領域を塞いでしまい、上澄み液の回収を妨げ得る。
【0010】
第1の特徴に係る発明によれば、分離処理が行われている場合に、第1領域の側と第2領域の側との差圧が200Pa以上で上澄み液が連通孔に流入し、回収領域に上澄み液の流れが生じる。このとき、回収領域にあるスカム塊は、上澄み液の流れを妨げる障害物となる。流れの中に障害物があるため、流れに対してスカム塊の前方に渦の列であるカルマン渦が発生する。このカルマン渦は、スカム塊を破壊し、除去し得る。スカム塊が連通孔を塞いだ場合には、スカム塊の第1領域の側と第2領域の側との間に200Pa以上の差圧が生じる。カルマン渦に加えて、この差圧も、スカム塊を破壊し、除去し得る。
【0011】
カルマン渦及び/又は差圧によってスカム塊を破壊し、除去し得る上澄み液の流れは、連通孔における差圧によって生じるため、駆動装置その他のエネルギーを消費する装置を必要としない。同様に、この上澄み液の流れは、洗浄スプレーから噴射される水等の消費を伴わない。したがって、第1の特徴に係る発明によれば、スカム塊を除去するときのエネルギー及び水の消費に対する上澄み液の回収効率を向上し得る。
【0012】
したがって、第1の特徴に係る発明によれば、スカム塊を破壊及び/又は除去するときのエネルギー及び/又は水の消費に対する上澄み液の回収効率を向上可能な分離装置を提供できる。
【0013】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記連通孔は、前記第1領域から前記第2領域に向けて略水平又は下り勾配に設けられる、分離装置を提供する。
【0014】
第2の特徴に係る発明によれば、連通孔が上り勾配でないため、連通孔における差圧をより効率よく生じさせることができる。これにより、エネルギーを消費することなく、スカム塊を破壊し、除去し得る差圧をより効率よく実現することが可能となる。該差圧が効率よく実現されるため、カルマン渦によってスカム塊を破壊し、除去し得る上澄み液の流れをより効率よく発生させられる。
【0015】
したがって、第2の特徴に係る発明によれば、スカム塊を除去するときのエネルギー及び/又は水の消費に対する上澄み液の回収効率を向上可能な分離装置を提供できる。
【0016】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、前記連通孔が複数設けられ、前記上澄み液が通過する向きから見た前記連通孔のそれぞれの断面積が0.5平方センチメートル以上4平方センチメートル以下である、分離装置を提供する。
【0017】
第3の特徴に係る発明によれば、連通孔が複数設けられることにより、連通孔を介して第2領域に流入する上澄み液の流量は、連通孔が1つである場合より増える。したがって、上澄み液の回収効率をより一層向上し得る。また、第3の特徴に係る発明によれば、連通孔のそれぞれは、断面積の上限が4平方センチメートル以下と差圧を生じさせやすい狭さを有する連通孔であるため、第1領域の側と第2領域の側との差圧をより効率よく生じさせることができる。これにより、エネルギーを消費することなく、カルマン渦及び/又は差圧によってスカム塊を破壊し、除去し得る上澄み液の流れがより効率よく発生する。
【0018】
第3の特徴に係る発明によれば、連通孔のそれぞれは、断面積の下限が0.5平方センチメートル以上と上澄み液の流れを妨げない程度に広いため、連通孔の狭さによって上澄み液の流れを妨げない。これにより、スカム塊の前方にカルマン渦を生成してスカム塊を破壊し、除去し得る上澄み液の流れがより効率よく発生する。
【0019】
したがって、第3の特徴に係る発明によれば、スカム塊を破壊及び/又は除去するときのエネルギー及び/又は水の消費に対する上澄み液の回収効率を向上可能な分離装置を提供できる。
【0020】
第4の特徴に係る発明は、第1から第3のいずれかの特徴に係る発明であって、前記上澄み液が通過する向きから見た前記連通孔の断面は、扁平率が0.5以下の略円形及び略楕円形、並びに内角の大きさが全て90度を超える略凸多角形から選択される1種以上である、分離装置を提供する。
【0021】
第4の特徴に係る発明によれば、スカム塊が連通孔の90度以下の内角に引っかかり、上澄み液の流れを妨げることを軽減し得る。また、連通孔が略楕円形である場合に、1-(短径/長径)によって定義される略楕円形の扁平率が0.5以下であるため、略楕円形の長径の両端付近において連通孔が著しく狭くなることを防ぎ、両端付近にスカム塊が引っかかり、上澄み液の流れを妨げることを軽減し得る。したがって、第4の特徴に係る発明によれば、スカム塊の前方にカルマン渦を生成してスカム塊を破壊し、除去し得る上澄み液の流れがより効率よく発生する。
【0022】
したがって、第4の特徴に係る発明によれば、スカム塊を破壊及び/又は除去するときのエネルギー及び/又は水の消費に対する上澄み液の回収効率を向上可能な分離装置を提供できる。
【0023】
第5の特徴に係る発明は、第1から第4のいずれかの特徴に係る発明であって、前記仕切り部は、前記定水位よりも上方において切欠きをさらに含んで構成され、前記切欠きは、前記連通孔の略真上に配置される、分離装置を提供する。
【0024】
第5の特徴に係る発明によれば、被処理液の水位が定水位より高い場合に、切欠きを介して上澄み液が第1領域から第2領域に流れ得る。したがって、被処理液の水位が定水位より高い場合における上澄み液の回収効率を向上し得る。
【0025】
切欠きを介して上澄み液が第1領域から第2領域に流れるとき、上澄み液の流れに沿って流れたスカム塊が切欠きの周囲の仕切り部に引っかかり、切欠きの周囲に集まり得る。切欠きが連通孔の略真上にあるため、切欠きの周囲に集まったスカム塊の略真下には、連通孔がある。したがって、連通孔を通る上澄み液の流れに伴うカルマン渦及び/又は差圧は、切欠きの周囲に集まったスカム塊を破壊し、除去し得る。
【0026】
したがって、第5の特徴に係る発明によれば、スカム塊を破壊及び/又は除去するときのエネルギー及び/又は水の消費に対する上澄み液の回収効率を向上可能な分離装置を提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、スカム塊を除去するときのエネルギー及び/又は水の消費に対する上澄み液の回収効率を向上可能な分離装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る分離装置1を水平方向から見た場合における分離装置1の内部構造を説明する概略模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る分離装置1を重力方向に対して上方から見た場合における分離装置1の内部構造を説明する概略模式図である。
【
図3】
図3は、重力方向に対して上方から見た場合における第1ピケットフェンス44の概略模式図である。
【
図4】
図4は、水平方向から見た場合における差圧Dによるスカム塊Sの破壊を説明する説明図である。
【
図5】
図5は、第1回収領域CA1から第2回収領域CA2へ向けて見た場合における仕切り部9の概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための好適な形態の一例について図を参照しながら説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0030】
<分離装置1>
図1は、本実施形態に係る分離装置1を水平方向から見た場合における分離装置1の内部構造を説明する概略模式図である。
【0031】
分離装置1は、被処理液Lを収容可能である処理槽2と、処理槽2に被処理液Lを供給する供給部3と、水平面上で処理槽2の周方向に旋回可能な旋回部4と、被処理液Lから分離された汚泥を排出する汚泥排出部5と、処理槽2の側壁から処理槽2の内方に向けて配置される整流板6と、スカム及び/又はスカム塊を除去可能に構成されたスカムスキマー7と、スカム及び/又はスカム塊を阻止可能に構成されたスカム阻止板8と、処理槽2の側壁における位置のうち上澄み液LSの定水位Nよりも下方にある位置から処理槽2の内部における位置のうち上澄み液LSの定水位Nよりも上方にある位置に向けて設けられる仕切り部9と、被処理液Lから分離された上澄み液LSを排出可能に構成された上澄み液排出部10と、を含んで構成される。
【0032】
本実施形態におけるスカムは、被処理液Lに含まれる懸濁物質、繊維質、油脂質、微生物その他の物質が気体を伴って浮上し、スポンジ状の気泡となったものである。また、本実施形態におけるスカム塊は、スカムが塊となったものである。
【0033】
〔処理槽2〕
処理槽2は、底部21と側壁22とを有し、これら底部21及び側壁22によって囲まれる領域に、汚泥と上澄み液LSとに分離する分離処理の対象である被処理液Lを収容可能に構成される。処理槽2は、汚泥と上澄み液LSとに分離する分離処理の対象である被処理液Lを収容可能な容器であれば、特に限定されず、従来技術の各種の容器でよい。
【0034】
〔供給部3〕
供給部3は、処理槽2に被処理液Lを供給可能に構成されれば特に限定されず、処理槽2に被処理液Lを供給可能な従来技術の各種の供給部でよい。供給部3は、分離装置1の外部から供給される被処理液Lを供給部3へ移送可能に構成された供給管31と接続されていることが好ましい。供給部3が分離装置1の外部から供給される被処理液Lを供給部3へ移送可能に構成された供給管31と接続されていることにより、分離装置1の外部から供給される被処理液Lを処理槽2に供給できる。
【0035】
供給部3が配置される位置は、処理槽2の上方であることが好ましい。供給部3から供給された被処理液Lは、上澄み液LSとの密度差によって、上方から下方に向かう流れを生成する。供給部3が処理槽2の上方に配置されることにより、密度差による流れによって、被処理液Lを処理槽2内部に行き渡らせることが可能となる。
【0036】
〔旋回部4〕
旋回部4は、重力方向に略垂直な水平面上で処理槽2の周方向に旋回可能に構成された部材である。旋回部4は、旋回部4を回転可能な駆動装置41と、重力方向に設けられた旋回部4の回転軸42と、処理槽2の底面側に配置され、重力方向に略垂直な水平面上で処理槽2の周方向に旋回可能に構成された旋回アーム43と、旋回アーム43から重力方向に対して上方に延在する第1ピケットフェンス44と、を有する。旋回部4を備えることにより、被処理液Lに含まれる粒子その他の物質が沈降した汚泥及び被処理液Lは、周方向に旋回可能な旋回アーム43及び第1ピケットフェンス44によって撹拌される。
【0037】
図2は、本実施形態に係る分離装置1を重力方向に対して上方から見た場合における分離装置1の内部構造を説明する概略模式図である。旋回部4は、略水平方向に延びる補助アーム45と、補助アーム45から重力方向に対して上方に延在する第2ピケットフェンス46とをさらに有することが好ましい。これにより、旋回アーム43及び/又は第1ピケットフェンス44が汚泥及び/又は被処理液Lから抗力を受けたときにおける旋回アーム43の向きの変化が軽減され、旋回アーム43から重力方向に対して上方に延在する第1ピケットフェンス44の向きを維持し得る。第1ピケットフェンス44の向きが維持されるため、より効果的に汚泥を撹拌できる。
【0038】
図1に戻る。旋回部4は、旋回アーム43の旋回に応じて汚泥を集めることが可能に構成された集泥部材47をさらに有することが好ましい。集泥部材47を有することにより、被処理液Lから分離された汚泥をより一層効率的に集められる。
【0039】
[駆動装置41]
駆動装置41は、旋回部4を重力方向に略垂直な水平面上で処理槽2の周方向に旋回するよう駆動可能な駆動装置であれば特に限定されず、従来技術の各種の駆動装置でよい。
【0040】
[回転軸42]
回転軸42は、重力方向に設けられ、重力方向に略垂直な水平面上で処理槽2の周方向に旋回部4を旋回可能にする回転軸であれば特に限定されず、従来技術の各種の回転軸でよい。
【0041】
[旋回アーム43]
旋回アーム43は、処理槽2の底面側に配置され、重力方向に略垂直な水平面上で処理槽2の周方向に旋回可能に構成されたアームであれば、特に限定されず、従来技術の各種のアームでよい。旋回アーム43を備えることにより、被処理液Lに含まれる物質が沈降した汚泥及び被処理液Lは、周方向に旋回可能な旋回アーム43によって撹拌される。
【0042】
[第1ピケットフェンス44]
本実施形態において、第1ピケットフェンス44は、旋回アーム43の長手方向左側から右側に向けて第1ピケットフェンス44A,44B,44C及び44Dと複数設けられている。符号44は、これら44A,44B,44C及び44Dを総括するものとする。
【0043】
第1ピケットフェンス44は、旋回アーム43から重力方向に対して上方に延在するピケットフェンスであれば特に限定されず、従来技術の各種のピケットフェンスでよい。第1ピケットフェンス44が旋回アーム43から重力方向に対して上方に延在することにより、被処理液Lに含まれる物質が沈降した汚泥及び被処理液Lがより一層効率的に撹拌される。
【0044】
第1ピケットフェンス44の数は、特に限定されないが、複数であることが好ましい。複数あることにより、被処理液Lに含まれる物質が沈降した汚泥及び被処理液Lがより一層効率的に撹拌される。
【0045】
図3は、重力方向に対して上方から見た場合における第1ピケットフェンス44の概略模式図である。第1ピケットフェンス44は、
図3に示すように、複数の棒状部材441を有することが好ましい。複数の棒状部材441を有することにより、被処理液Lに含まれる物質が沈降した汚泥及び被処理液Lをより一層効率的に撹拌し得る。
【0046】
複数の棒状部材441を平面視したときの形状は、旋回部4の旋回方向Rに対して山なりの形状であることが好ましい。平面視したときの形状が山なりの形状である棒状部材441は、例えば、
図3(A)に示す平面視したときの形状がL字状の柱体を旋回方向Rに対して山なりになるよう配置した棒状部材441、及び/又は、
図3(B)に示す円柱状の棒状部材441等が挙げられる。複数の棒状部材441を平面視したときの形状が旋回部4の旋回方向に対して山なりの形状であることにより、第1ピケットフェンス44を平面視したときの形状が旋回方向に対して垂直方向に広がりを持つ板状や、旋回方向の反対方向に対して山なりの形状に例示される、第1ピケットフェンス44が旋回して汚泥を撹拌するときに汚泥に対する抵抗が大きい形状である場合に比べて、撹拌を行うときの汚泥に対する抵抗を小さくできる。したがって、より一層効率的に汚泥を撹拌できる。
【0047】
[補助アーム45]
補助アーム45について、
図2を参照しながら説明する。本実施形態では、旋回アーム43から見て旋回方向Rに略90度回転させた位置に補助アーム45が設けられている。
【0048】
補助アーム45は、旋回アーム43が旋回するときに汚泥から受ける抵抗で旋回アーム43が向きを変えることを軽減する、旋回部4から略水平方向であって、旋回アーム43からみて旋回方向Rに所定角度回転させた位置に延在するアームである。補助アーム45は、略水平方向に延在すれば特に限定されず、従来技術の各種のアームでよいが、
図2に示すように、旋回アーム43の長手方向に略直行するアームであることが好ましい。これにより、旋回アーム43及び/又は第1ピケットフェンス44が汚泥及び/又は被処理液Lから抗力を受けた場合における旋回アーム43の向きの変化がより一層軽減され、旋回アーム43から重力方向に対して上方に延在する第1ピケットフェンス44の向きをより一層維持し得る。第1ピケットフェンス44の向きがより一層維持されるため、第1ピケットフェンス44は、より一層効率的に汚泥を撹拌できる。
【0049】
[第2ピケットフェンス46]
本実施形態において、第2ピケットフェンス46は、補助アーム45の略両端に第2ピケットフェンス46A,46Bと複数設けられている。符号46は、これら46A及び46Bを総括するものとする。
【0050】
第2ピケットフェンス46は、補助アーム45から重力方向に対して上方に延在するピケットフェンスであれば特に限定されず、従来技術の各種のピケットフェンスでよい。
【0051】
第2ピケットフェンス46の数は、特に限定されないが、複数であることが好ましい。複数あることにより、被処理液Lに含まれる物質が沈降した汚泥及び被処理液Lがより一層効率的に撹拌される。
【0052】
[集泥部材47]
集泥部材47について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。集泥部材47は、旋回アーム43の旋回に応じて汚泥を集めることが可能に構成されていれば特に限定されず、集泥レーキ、掻き寄せ板その他の従来技術の集泥部材でよい。
【0053】
本実施形態において、集泥部材47は、旋回アーム43の長手方向左側から右側に向けて集泥部材47A,47B,47C,47D及び47Eと複数設けられている。符号47は、これら47A~47Eを総括するものとする。
【0054】
集泥部材47の数は、特に限定されないが、複数であることが好ましい。複数あることにより、旋回部4の旋回に応じて汚泥が一層効率的に集められる。
【0055】
集泥部材47は、
図1及び
図2に示すように、旋回アーム43の下方に設けられることが好ましい。集泥部材47が旋回アーム43の下方に設けられることにより、処理槽2の底部21に沈殿した汚泥をより一層効率的に集められる。
【0056】
〔汚泥排出部5〕
図1に戻る。汚泥排出部5は、被処理液Lから分離された汚泥を排出する排出部であれば特に限定されない。汚泥排出部5は、分離装置1の外部に汚泥を移送可能な汚泥排出管51を有する。汚泥排出管51を有する汚泥排出部5を備えることにより、被処理液Lから分離された汚泥を排出し、分離装置1の外部に移送できる。
【0057】
汚泥排出部5は、処理槽2の底面側に設けられることが好ましい。汚泥排出部5が処理槽2の底面側に設けられることにより、沈降し、旋回アーム43及び/又は第1ピケットフェンス44によって撹拌された汚泥を効率よく排出できる。
【0058】
〔整流板6〕
整流板6は、処理槽2の側壁22から処理槽2の内方に向けて配置される整流板であれば特に限定されず、バッフルプレートその他の従来技術の整流板でよい。
【0059】
被処理液Lに含まれる物質が沈降した汚泥及び被処理液Lは、回転軸42を中心に処理槽2の周方向に旋回可能な旋回アーム43及び/又は第1ピケットフェンス44によって撹拌される。この旋回によって被処理液L中に流れが生じる。この流れのうち上下方向(重力方向、鉛直方向等ともいう。)に生じ得る乱流は、整流板6によって流れの向きを変えられ、水平方向に流れる層流となる。したがって、被処理液Lによる流れの乱れが軽減され得る。
【0060】
本実施形態において、整流板6は、底部21からみた第1高さの位置において、側壁22の周方向を取り囲むように配設される。この整流板6により、被処理液Lによる流れの乱れがより一層軽減され得る。
【0061】
第1高さに関し、整流板6は、第1ピケットフェンス44の上端よりも上方に配置されることが好ましい。第1ピケットフェンス44の上端から整流板6までの重力方向に対する高さは、0m以上であることが好ましく、0.1m以上であることがより好ましく、0.2m以上であることが最も好ましい。第1ピケットフェンス44の上端から整流板6までの重力方向に対する高さの下限が上述のように定められていることにより、整流板6は、第1ピケットフェンス44による汚泥の撹拌を阻害しない。したがって、汚泥を撹拌しつつ、被処理液Lの流れに含まれる乱流を軽減できる。
【0062】
第1ピケットフェンス44の上端から整流板6までの重力方向に対する高さは、1m以下であることが好ましく、0.7m以下であることがより好ましく、0.5m以下であることが最も好ましい。第1ピケットフェンス44の上端から整流板6までの重力方向に対する高さの上限が上述のように定められていることにより、整流板6は、第1ピケットフェンス44によって生じた乱流をより速やかに層流にし得る。したがって、被処理液Lによる流れの乱れが軽減され得る。
【0063】
整流板6は、供給部3よりも下方に配置されることが好ましい。被処理液Lが供給されるとき、被処理液Lの下方への流れが生じ得る。この流れに起因して被処理液Lの上下方向に乱れ(乱流)が生じ得る。整流板6が供給部3よりも下方に配置されることにより、旋回部4及び第1ピケットフェンス44の旋回によって生じた乱流だけでなく、供給部3からの被処理液Lの供給によって生じた乱流をも、整流板6によって軽減し得る。
【0064】
処理槽2の側壁22から処理槽2の内方に向けた方向における整流板6の長さの下限は、1cm以上であることが好ましく、2cm以上であることがより好ましく、3cm以上であることが最も好ましい。処理槽2の側壁22から処理槽2の内方に向けた方向における整流板6の長さの下限を上述のように定めることにより、整流板6は、被処理液Lによる流れの乱れをより一層軽減し得る。
【0065】
処理槽2の側壁22から処理槽2の内方に向けた方向における整流板6の長さの上限は、30cm以下であることが好ましく、20cm以下であることがより好ましく、10cm以下であることが最も好ましい。処理槽2の側壁22から処理槽2の内方に向けた方向における整流板6の長さの上限を上述のように定めることにより、整流板6は、被処理液Lによる流れを妨げることなく被処理液Lによる流れの乱れを軽減し得る。
【0066】
〔スカムスキマー7〕
スカムスキマー7は、スカム及び/又はスカム塊Sを除去可能に構成されたスカムスキマーであれば特に限定されず、従来技術の各種のスカムスキマーでよい。スカムスキマー7を含むことにより、スカム及び/又はスカム塊Sを除去し得る。スカムスキマー7は、定水位Nの上方から定水位Nの下方に向けて延在するよう配置されることが好ましい。これにより、スカム及び/又はスカム塊Sがスカム阻止板8を越えるのを防止でき、結果として上澄み液排出部10から排出される上澄み液LSにスカム及び/又はスカム塊Sが混入するのを防止でき得る。
【0067】
スカムスキマー7は、除去されたスカム及び/又はスカム塊Sを分離装置1の外部に移送可能なスカム排出管71と接続される。これにより、除去されたスカム及び/又はスカム塊Sを分離装置1の外部に移送できる。
【0068】
〔スカム阻止板8〕
スカム阻止板8は、スカム及び/又はスカム塊Sを阻止可能に構成されていれば特に限定されず、従来技術の各種のスカム阻止板でよい。スカム阻止板8を含むことにより、処理槽2の側壁22等へのスカム及び/又はスカム塊Sの付着を軽減し得る。
【0069】
スカム阻止板8は、定水位Nの上方から定水位Nの下方に向けて延在し、回転軸42より処理槽2の側壁22に近い位置に配置されたスカム阻止板であることが好ましい。また、スカム阻止板8は、底部21からみた第2高さの位置において、側壁22の周方向を取り囲むように配設されることが好ましい。これらにより、スカム及び/又はスカム塊Sがスカム阻止板8を越えるのを防止でき、結果として上澄み液排出部10から排出される上澄み液LSにスカム及び/又はスカム塊Sが混入するのを防止でき得る。
【0070】
処理槽2は、底部21、側壁22及びスカム阻止板8とによって、被処理液Lを処理する処理領域PAと、上澄み液LSを回収可能な回収領域CAとに画定される。
【0071】
〔仕切り部9〕
仕切り部9は、処理槽2の側壁22における位置のうち上澄み液LSの定水位Nよりも下方にある仕切り部接続位置P1から処理槽2の内部における位置のうち上澄み液LSの定水位Nよりも上方にある仕切り部上端位置P2に向けて設けられる。また、仕切り部9は、側壁22の周方向を取り囲むように配設される。
【0072】
回収領域CAは、処理槽2の側壁22における位置のうち上澄み液LSの定水位Nよりも下方にある仕切り部接続位置P1から、処理槽2の内部における位置のうち定水位Nよりも上方にある仕切り部上端位置P2に向けて設けられる仕切り部9により第1回収領域CA1(第1領域とも称する。)と第2回収領域CA2(第2領域とも称する。)とに隔てられている。
【0073】
回収領域CAは、上澄み液LSを回収可能な領域である。回収領域CAは、処理槽2の上方に位置し、処理槽2の側壁22とスカム阻止板8との間にある。回収領域CAが処理槽2の上方に位置する領域であることにより、被処理液Lより密度が低い上澄み液LSは、回収領域CAに浸入する。したがって、回収領域CAを介して上澄み液LSを回収できる。回収領域CAが処理槽2の側壁22とスカム阻止板8との間にあることにより、回収領域CAへのスカム塊Sの浸入が阻止され得る。
【0074】
第1回収領域CA1は、処理槽2の上方におけるスカム阻止板8と仕切り部9との間に位置する、処理領域PAで分離された上澄み液LSが浸入可能な領域である。仕切り部9は、定水位Nよりも下方において、第1回収領域CA1から第2回収領域CA2に連通する連通孔91を含んで構成される。そして、第2回収領域CA2は、仕切り部9と側壁22との間に位置する、第1回収領域CA1に浸入した上澄み液LSが連通孔91を通じて流入可能であり、流入された上澄み液LSを回収可能な領域である。第2回収領域CA2は、上澄み液LSを分離装置1の外部に移送可能に構成されることが好ましい。第2回収領域CA2が上澄み液LSを分離装置1の外部に移送可能に構成されることにより、上澄み液LSを分離装置1の外部で利用できる。
【0075】
仕切り部9は、定水位Nよりも下方において第1回収領域CA1から第2回収領域CA2に連通する連通孔91を含んで構成される。仕切り部9は、被処理液Lの定水位Nよりも上方において切欠き92を含んで構成されることが好ましい。
【0076】
[連通孔91]
連通孔91は、定水位Nよりも下方において第1回収領域CA1から第2回収領域CA2に連通する孔であり、第1回収領域CA1に浸入した上澄み液LSが第2回収領域CA2に流入可能であるよう構成される。
図4(A)及び
図4(B)は、水平方向から見た場合における差圧Dによるスカム塊Sの破壊を説明する説明図である。連通孔91は、
図4(A)及び
図4(B)に示すように、上澄み液LSの定水位Nよりも下方において第1回収領域CA1から第2回収領域CA2に連通し、第1回収領域CA1に浸入した上澄み液LSが第2回収領域CA2に流入可能であるよう構成された孔であれば特に限定されず、従来技術の各種の孔でよい。
【0077】
分離処理が行われている場合において、連通孔91は、連通孔91における第1回収領域CA1の側と第2回収領域CA2の側との間の差圧の下限が200Pa以上であるよう構成されることが好ましく、該差圧の下限が250Pa以上であるよう構成されることがより好ましく、該差圧の下限が300Pa以上であるよう構成されることが最も好ましい。
【0078】
図4(A)は、水平方向から見た場合における差圧Dにより生じたカルマン渦Kによるスカム塊Sの破壊を説明する説明図である。
図4(A)に示すように、差圧の下限を上述のように定めることにより、分離処理が行われている場合に、回収領域CAに上澄み液LSの流れFが生じる。外力のない非粘性・非圧縮性流体の定常な流れに関するベルヌーイの式より、この流れFの流速v(単位:m/s)は、以下の関係を有する。
【数1】
式(1)において、pは差圧の下限(単位:Pa)であり、ρは被処理液Lの密度(単位:kg/m
3)である。
【0079】
したがって、流れFの流速は、被処理液Lが水の密度とほぼ同じ密度を有するとき、差圧の下限が200Pa以上であれば約0.63m/s以上のスカム塊Sを破壊し、除去し得るカルマン渦Kを発生させ得る十分な流速となる。差圧の下限が250Pa以上であれば約0.71m/s以上のスカム塊Sを破壊し、除去し得るカルマン渦Kを発生させ得る十分な流速となる。差圧の下限が300Pa以上であれば約0.77m/s以上のスカム塊Sを破壊し、除去し得るカルマン渦Kを発生させ得る十分な流速となる。
【0080】
このとき、回収領域CAにあるスカム塊Sは、上澄み液LSの流れFを妨げる障害物となる。流れFの中に障害物となるスカム塊Sがあるため、
図4(A)に示すように、流れFに対してスカム塊Sの前方に渦の列であるカルマン渦Kが発生する。スカム塊Sがスポンジ状の気泡の塊であるため、流速が十分に高い場合、このカルマン渦Kがスカム塊Sを破壊し、除去し得る。差圧の下限を上述のように定めることにより、流れFの流速は、スカム塊Sを破壊し、除去し得るカルマン渦Kを発生させ得る十分な流速となる。
【0081】
図4(B)は、水平方向から見た場合における差圧Dによるスカム塊Sの破壊を説明する説明図である。差圧の下限を上述のように定めることにより、
図4(B)に示すように、スカム塊Sが連通孔91を塞いだ場合には、スカム塊Sの第1回収領域CA1の側と第2回収領域CA2の側との間に上述の下限以上の差圧Dが生じる。スカム塊Sがスポンジ状の気泡の塊であるため、カルマン渦Kに加えてこの差圧Dも、スカム塊Sを破壊し、除去し得る。
【0082】
スカム塊Sを破壊し、除去し得る差圧Dは、駆動装置その他のエネルギーを消費する装置を必要としない。カルマン渦Kによってスカム塊Sを破壊し、除去し得る上澄み液LSの流れFは、連通孔91における差圧Dによって生じるため、エネルギーを消費する装置を必要としない。差圧D及び上澄み液LSの流れFは、洗浄スプレーから噴射される水等の消費を伴うことなく生じる。したがって、差圧の下限を上述のように定めることにより、スカム塊Sを除去するときのエネルギー及び水の消費に対する上澄み液LSの回収効率を向上し得る。
【0083】
連通孔91は、第1回収領域CA1から第2回収領域CA2に向けて略水平又は下り勾配に設けられることが好ましい。連通孔91が上り勾配でないため、連通孔91における差圧Dをより効率よく生じさせることができる。これにより、エネルギーを消費することなく、スカム塊Sを破壊し、除去し得る差圧Dをより効率よく実現し得る。差圧Dを効率よく実現することにより、カルマン渦Kによってスカム塊Sを破壊し、除去し得る上澄み液LSの流れFをより効率よく発生させられる。
【0084】
連通孔91は、複数設けられることが好ましい。複数設けられることにより、連通孔91を介して第2回収領域CA2に流入する上澄み液LSの流量は、連通孔91が1つである場合より増える。したがって、上澄み液LSの回収効率をより一層向上し得る。連通孔91は、仕切り部9の周方向の長さ1mあたり2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましく、4個以上であることが最も好ましい。仕切り部9の周方向の長さ1mあたりにおける連通孔91の数の下限を上述のように定めることにより、連通孔91を介して第2回収領域CA2に流入する上澄み液LSの流量がさらに増え、上澄み液LSの回収効率をより一層向上し得る。
【0085】
連通孔91を介して第2回収領域CA2に流入する上澄み液LSの1時間あたりの流量は、300リットル以上であることが好ましく、400リットル以上であることがより好ましく、500リットル以上であることが最も好ましい。連通孔91を介して第2回収領域CA2に流入する上澄み液LSの1時間あたりの流量について、その下限を上述のように定めることにより、上澄み液LSの回収効率をより一層向上し得る。
【0086】
上澄み液LSが通過する向きから見た連通孔91のそれぞれについて、その断面積の下限は、0.5平方センチメートル以上であることが好ましく、1平方センチメートル以上であることがより好ましく、1.5平方センチメートル以上であることが最も好ましい。連通孔91のそれぞれについて、断面積の下限が上澄み液LSの流れを妨げない程度に広く定められているため、連通孔91の狭さによって上澄み液LSの流れを妨げない。これにより、エネルギーを消費することなく、カルマン渦K及び/又は差圧Dによってスカム塊Sを破壊し、除去し得る上澄み液LSの流れがより効率よく発生する。
【0087】
上澄み液LSが通過する向きから見た連通孔91のそれぞれについて、その断面積の上限は、4平方センチメートル以下であることが好ましく、3平方センチメートル以下であることがより好ましく、2平方センチメートル以下であることが最も好ましい。連通孔91のそれぞれについて、その断面積の上限が上述のように定められた差圧を生じさせやすい狭さを有する連通孔91であるため、第1回収領域CA1の側と第2回収領域CA2の側との差圧Dをより効率よく生じさせることができる。差圧Dを効率よく実現することにより、スカム塊Sをより効率よく破壊し、除去し得る。また、カルマン渦Kによってスカム塊Sを破壊し、除去し得る上澄み液LSの流れを、エネルギーを消費することなく、より効率よく発生させられる。
【0088】
上澄み液LSが通過する向きから見た連通孔91の断面は、扁平率が0.5以下の略円形及び略楕円形、並びに内角の大きさが全て90度を超える略凸多角形から選択される1種以上であることが好ましい。これにより、スカム塊Sが連通孔91の90度以下の内角に引っかかり、上澄み液LSの流れを妨げることを軽減し得る。また、連通孔91が略楕円形である場合に、1-(短径/長径)によって定義される略楕円形の扁平率が0.5以下であるため、略楕円形の長径の両端付近において連通孔91が著しく狭くなることを防ぎ、両端付近にスカム塊Sが引っかかり、上澄み液LSの流れを妨げることを軽減し得る。したがって、上澄み液LSが通過する向きから見た連通孔91の断面の形状を上述の形状から選択することにより、カルマン渦Kによってスカム塊Sを破壊し、除去し得る上澄み液LSの流れを、エネルギーを消費することなく、より効率よく発生させられる。
【0089】
[切欠き92]
図5は、第1回収領域CA1から第2回収領域CA2へ向けて見た場合における仕切り部9の概略模式図である。切欠き92は、被処理液Lの定水位Nよりも上方、かつ、連通孔91の略真上に配置される切欠きである。切欠き92は、被処理液Lの定水位Nよりも上方、かつ、連通孔91の略真上に配置される切欠きであれば特に限定されない。仕切り部9が切欠き92を有することにより、被処理液Lの水位が定水位Nより高い場合に、切欠き92を介して上澄み液LSが第1回収領域CA1から第2回収領域CA2に流れ得る。したがって、被処理液Lの水位が定水位Nより高い場合における上澄み液LSの回収効率を向上し得る。
【0090】
切欠き92を介して上澄み液LSが第1回収領域CA1から第2回収領域CA2に流れるとき、上澄み液LSの流れに沿って流れたスカム塊Sが切欠き92の周囲の仕切り部9に引っかかり、切欠き92の周囲に集まり得る。切欠き92が連通孔91の略真上にあるため、切欠き92の周囲に集まったスカム塊Sの略真下には、連通孔91がある。したがって、連通孔91を通る上澄み液LSの流れに伴うカルマン渦K及び/又は差圧Dは、切欠きの周囲に集まったスカム塊Sを破壊し、除去し得る。
【0091】
切欠き92は、下方から上方に広がる形状の切欠きであることが好ましい。切欠き92が下方から上方に広がる形状の切欠きであることにより、被処理液Lの水位が高ければ高いほど、切欠きを介して第1回収領域CA1から第2回収領域CA2に流れる上澄み液LSの流量が増え、上澄み液LSの回収効率を向上し得る。下方から上方に広がる形状の切欠き92として、例えば、
図5に示すような、底辺が仕切り部9の上端と一致する略直角三角形の切欠き、下方から上方に広がる形状である三角形の切欠き、下方から上方に広がる形状である台形の切欠き、直径が仕切り部9の上端と略一致する半円形の切欠き、等が挙げられる。
【0092】
〔上澄み液排出部10〕
図1に戻る。上澄み液排出部10は、被処理液Lから分離された上澄み液LSを排出可能に構成されていれば特に限定されず、従来技術の各種の上澄み排出部でよい。上澄み液排出部10を備えることにより、被処理液Lから分離された上澄み液LSを排出できる。上澄み液排出部10は、連通孔91を介して第2回収領域CA2に流入した上澄み液LSを排出可能に構成されていることが好ましい。これにより、差圧Dによってスカム塊Sが破壊された上澄み液LSをより一層効率的に集め、排出できる。
【0093】
<分離装置1の使用例>
以下、分離装置1の使用方法の一例について説明する。
【0094】
〔被処理液の供給〕
分離装置1の利用者は、供給部3を介して被処理液Lを処理槽2内部へ供給する。
【0095】
〔汚泥の撹拌〕
被処理液Lは、処理領域PAにおいて上澄み液LSと汚泥とに分離される。汚泥は、被処理液L及び上澄み液LSとの密度差により処理槽2の底部21に沈殿する。分離装置1の利用者は、駆動装置41を動作させ、旋回アーム43を重力方向に略垂直な水平面上で処理槽2の周方向に旋回させる。処理槽2の下方に設けられた旋回アーム43及び旋回アーム43から重力方向に対して上方に延在する第1ピケットフェンス44は、処理槽2の底部21に沈殿した汚泥を撹拌する。
【0096】
旋回アーム43の旋回によって被処理液L中に流れが生じる。この流れのうち上下方向(重力方向、鉛直方向等ともいう。)に生じ得る乱流は、整流板6によって流れの向きを変えられ、水平方向に流れる層流となる。したがって、被処理液Lによる流れの乱れが軽減され得る。整流板6が第1ピケットフェンス44の上端よりも上方に配置されるため、整流板6は、第1ピケットフェンス44による汚泥の撹拌を阻害しない。したがって、汚泥を撹拌しつつ、被処理液Lの流れに含まれる乱流を軽減できる。
【0097】
〔汚泥の排出〕
そして、汚泥排出部5は、撹拌された汚泥を排出する。汚泥及び/又は被処理液Lを撹拌することにより、汚泥の固化を防ぐ、及び/又は、汚泥の凝集が促される等の効果を実現し得るため、より効率よく汚泥を回収し得る。
【0098】
したがって、本実施形態によれば、汚泥及び/又は被処理液Lを撹拌することと、撹拌に伴って生じる被処理液Lの流れをできるだけ層流に近づけることとによって汚泥の回収効率をより一層改善可能な分離装置1を提供できる。
【0099】
〔スカム塊の除去〕
被処理液Lが処理領域PAにおいて上澄み液LSと汚泥とに分離されるとき、被処理液Lに含まれる懸濁物質、繊維質、油脂質、微生物その他の物質が気体を伴って浮上し、スポンジ状の気泡の塊となったスカム塊Sを生成し得る。スカムスキマー7は、生成されたスカム塊Sを除去する。
【0100】
〔スカム塊の阻止〕
スカムスキマー7によって除去されなかったスカム塊Sがある場合に、スカムスキマー7によって除去されなかったスカム塊Sの一部は、仕切り部9へ向かって移動する。スカム阻止板8は、仕切り部9へ向かって移動するスカム塊Sを阻止する。
【0101】
〔スカム塊の破壊〕
スカム阻止板8によって阻止されなかったスカム塊Sの一部が第1回収領域CA1に浸入し得る。連通孔91における差圧Dによって、回収領域CAに上澄み液LSの流れFが生じている。スカム阻止板8によって阻止されなかったスカム塊Sの一部が第1回収領域CA1に浸入した場合、第1回収領域CA1にあるスカム塊Sは、上澄み液LSの流れFを妨げる障害物となる。流れFの中に障害物となるスカム塊Sがあるため、流れFに対してスカム塊Sの前方に渦の列であるカルマン渦Kが発生する。スカム塊Sがスポンジ状の気泡の塊であるため、このカルマン渦Kは、スカム塊Sを破壊し、除去し得る。
【0102】
スカム塊Sが連通孔91を塞いだ場合には、スカム塊Sの第1回収領域CA1の側と第2回収領域CA2の側との間に上述の下限以上の差圧Dが生じる。スカム塊Sがスポンジ状の気泡の塊であるため、カルマン渦Kに加えてこの差圧Dも、スカム塊Sを破壊し、除去し得る。
【0103】
スカム塊Sを破壊し、除去し得る差圧Dは、駆動装置その他のエネルギーを消費する装置を必要としない。カルマン渦Kによってスカム塊Sを破壊し、除去し得る上澄み液LSの流れFは、連通孔91における差圧Dによって生じるため、エネルギーを消費する装置を必要としない。差圧D及び上澄み液LSの流れFは、洗浄スプレーから噴射される水等の消費を伴うことなく生じる。したがって、本実施形態によれば、スカム塊Sを破壊及び/又は除去するときのエネルギー及び/又は水の消費に対する上澄み液LSの回収効率を向上可能な分離装置1を提供できる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したものに過ぎず、本発明による効果は、本発明の各種実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0105】
また、上述した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0106】
1 分離装置
2 処理槽
21 底部
22 側壁
3 供給部
31 供給管
4 旋回部
41 駆動装置
42 回転軸
43 旋回アーム
44 第1ピケットフェンス
441 棒状部材
45 補助アーム
46 第2ピケットフェンス
47 集泥部材
5 汚泥排出部
51 汚泥排出管
6 整流板
7 スカムスキマー
71 スカム排出管
8 スカム阻止板
9 仕切り部
91 連通孔
92 切欠き
10 上澄み液排出部
PA 処理領域
CA 回収領域
CA1 第1回収領域
CA2 第2回収領域
D 差圧
F 流れ
K カルマン渦
L 被処理液
LS 上澄み液
N 定水位
P1 仕切り部接続位置
P2 仕切り部上端位置
R 回転方向
S スカム塊