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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】増幅装置
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/45 20060101AFI20240704BHJP
   H03F 3/345 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
H03F3/45 210
H03F3/345 220
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020049141
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021150821
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】399011195
【氏名又は名称】ザインエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】久保 俊一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 賢
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0219514(US,A1)
【文献】特開2010-129895(JP,A)
【文献】特開2004-282506(JP,A)
【文献】特表2018-506197(JP,A)
【文献】特開2007-184688(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0293215(US,A1)
【文献】特開昭56-071313(JP,A)
【文献】特開2004-266309(JP,A)
【文献】特開2004-343212(JP,A)
【文献】特開平08-116222(JP,A)
【文献】特開2004-140728(JP,A)
【文献】米国特許第06157259(US,A)
【文献】黒田 忠広 監訳,”アナログCMOS集積回路の設計 応用編”,日本,丸善株式会社,2003年03月30日,p.460-462, 785-787
【文献】黒田 忠広 監訳,”アナログCMOS集積回路の設計 基礎編”,日本,丸善株式会社,2003年03月30日,p.170, 230-231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力差動対を構成する第1導電型のMOSトランジスタM11,M12と、MOSトランジスタM11のドレインと第1電位供給端との間に設けられた抵抗器R11と、MOSトランジスタM12のドレインと第1電位供給端との間に設けられた抵抗器R12と、MOSトランジスタM11,M12それぞれのソースと第2電位供給端との間に設けられた第1導電型のMOSトランジスタM13と、を含む増幅部と、
前記増幅部のMOSトランジスタM13のゲートにバイアス電位を与えるバイアス電位付与部と、
を備え、
前記バイアス電位付与部は、
第1導電型のMOSトランジスタM21,M22,M23と、第2導電型のMOSトランジスタM24,M25,M26と、抵抗器R2とを含み、
MOSトランジスタM21,M23それぞれのソースが第2電位供給端に接続され、
MOSトランジスタM22のソースが抵抗器R2を介して第2電位供給端に接続され、
MOSトランジスタM24,M25,M26それぞれのソースが第1電位供給端に接続され、
MOSトランジスタM21,M22それぞれのゲートおよびMOSトランジスタM21,M24それぞれのドレインが互いに接続され、
MOSトランジスタM24,M25,M26それぞれのゲートおよびMOSトランジスタM22,M25それぞれのドレインが互いに接続され、
MOSトランジスタM23のゲートおよびMOSトランジスタM23,M26それぞれのドレインが互いに接続され、
MOSトランジスタM23のゲートが前記増幅部のMOSトランジスタM13のゲートに接続され
MOSトランジスタM22が、同一設計の複数個のMOSトランジスタが並列配置された構成であり、
MOSトランジスタM11,M12,M21,M22それぞれを構成するMOSトランジスタのβは、互いに等しく、MOSトランジスタM13,M23それぞれを構成するMOSトランジスタのβと異なる、
増幅装置。
【請求項2】
MOSトランジスタM13,M23およびM26の何れかのMOSトランジスタを構成するMOSトランジスタの個数が可変である、
請求項1に記載の増幅装置。
【請求項3】
前記増幅部の抵抗器R11,R12の抵抗値と前記バイアス電位付与部の抵抗器R2の抵抗値との比か可変である、
請求項1または2に記載の増幅装置。
【請求項4】
前記バイアス電位付与部のMOSトランジスタM23のゲートと前記増幅部のMOSトランジスタM13のゲートとの間に設けられたローパスフィルタを更に備える、
請求項1~3の何れか1項に記載の増幅装置。
【請求項5】
前記増幅部は、抵抗器R11を介して第1電位供給端に接続されたドレインを有する第1導電型のMOSトランジスタM14と、抵抗器R12を介して第1電位供給端に接続されたドレインを有する第1導電型のMOSトランジスタM15と、MOSトランジスタM14,M15それぞれのソースと第2電位供給端との間に設けられた第1導電型のMOSトランジスタM16と、を更に含み、MOSトランジスタM13,M16のゲートが互いに接続されており、
MOSトランジスタM11,M12,M14,M15,M21,M22それぞれを構成するMOSトランジスタのβが互いに等しく、
MOSトランジスタM14,M15それぞれのゲートが一定の電位とされる、
請求項1~4の何れか1項に記載の増幅装置。
【請求項6】
前記増幅部は、抵抗器R11を介して第1電位供給端に接続されたドレインを有する第1導電型のMOSトランジスタM14と、抵抗器R12を介して第1電位供給端に接続されたドレインを有する第1導電型のMOSトランジスタM15と、MOSトランジスタM14,M15それぞれのソースと第2電位供給端との間に設けられた第1導電型のMOSトランジスタM16と、を更に含み、MOSトランジスタM13,M16のゲートが互いに接続されており、
MOSトランジスタM11,M12,M14,M15,M21,M22それぞれを構成するMOSトランジスタのβが互いに等しく、
MOSトランジスタM11,M15それぞれのゲートが互いに接続され、
MOSトランジスタM12,M14それぞれのゲートが互いに接続されている、
請求項1~4の何れか1項に記載の増幅装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送信装置から送出され伝送線路を経て受信装置に到達する信号は、伝送線路により伝送される際に減衰する。伝送距離が長い場合や伝送速度が速い場合には、信号の減衰が大きく、通信への影響が大きい。それ故、減衰した信号を増幅装置により増幅する必要がある。
【0003】
高速動作が可能な増幅装置として図1に示されるものが知られている。この図に示される増幅装置2は、増幅部10およびバイアス電位付与部20Xを備える。増幅部10は、入力差動対を構成するMOSトランジスタM11,M12と、抵抗器R11,R12と、電流源として作用するMOSトランジスタM13とを含む。バイアス電位付与部20Xは、MOSトランジスタM23と抵抗器R2とを含み、増幅部10のMOSトランジスタM13のゲートにバイアス電位を与える。
【0004】
この増幅装置2では、MOSトランジスタM11,M12,M13,M23それぞれは、増幅部10およびバイアス電位付与部20Xそれぞれの要求仕様に基づいて、所要の特性を有するように適切に設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3543719号公報
【文献】特開2011-229073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の増幅装置は所望の利得を有するように設計することは容易でない。特許文献1,2に、所望の利得を有することができるとされる増幅装置の発明が開示されているが、これら何れの発明においても、増幅装置が所望の利得を有するには問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、所望の利得を有するように設計することが容易な増幅装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の増幅装置は、(1) 入力差動対を構成する第1導電型のMOSトランジスタM11,M12と、MOSトランジスタM11のドレインと第1電位供給端との間に設けられた抵抗器R11と、MOSトランジスタM12のドレインと第1電位供給端との間に設けられた抵抗器R12と、MOSトランジスタM11,M12それぞれのソースと第2電位供給端との間に設けられた第1導電型のMOSトランジスタM13と、を含む増幅部と、(2) 増幅部のMOSトランジスタM13のゲートにバイアス電位を与えるバイアス電位付与部と、を備える。
【0009】
本発明の増幅装置において、バイアス電位付与部は、(a) 第1導電型のMOSトランジスタM21,M22,M23と、第2導電型のMOSトランジスタM24,M25,M26と、抵抗器R2とを含み、(b) MOSトランジスタM21,M23それぞれのソースが第2電位供給端に接続され、(c)MOSトランジスタM22のソースが抵抗器R2を介して第2電位供給端に接続され、(d) MOSトランジスタM24,M25,M26それぞれのソースが第1電位供給端に接続され、(e) MOSトランジスタM21,M22それぞれのゲートおよびMOSトランジスタM21,M24それぞれのドレインが互いに接続され、(f) MOSトランジスタM24,M25,M26それぞれのゲートおよびMOSトランジスタM22,M25それぞれのドレインが互いに接続され、(g) MOSトランジスタM23のゲートおよびMOSトランジスタM23,M26それぞれのドレインが互いに接続され、(h) MOSトランジスタM23のゲートが増幅部のMOSトランジスタM13のゲートに接続されている。
【0010】
本発明の増幅装置において、MOSトランジスタM11,M12,M21,M22それぞれを構成するMOSトランジスタのβは、互いに等しく、MOSトランジスタM13,M23それぞれを構成するMOSトランジスタのβと異なる。
【0011】
本発明の増幅装置において、MOSトランジスタM13,M23およびM26の何れかのMOSトランジスタの個数が可変であるのが好適である。また、増幅部の抵抗器R11,R12の抵抗値とバイアス電位付与部の抵抗器R2の抵抗値との比か可変であるのも好適である。
【0012】
本発明の増幅装置は、バイアス電位付与部のMOSトランジスタM23のゲートと増幅部のMOSトランジスタM13のゲートとの間に設けられたローパスフィルタを更に備えるのが好適である。
【0013】
本発明の増幅装置において、増幅部は、(a) 抵抗器R11を介して第1電位供給端に接続されたドレインを有する第1導電型のMOSトランジスタM14と、抵抗器R12を介して第1電位供給端に接続されたドレインを有する第1導電型のMOSトランジスタM15と、MOSトランジスタM14,M15それぞれのソースと第2電位供給端との間に設けられた第1導電型のMOSトランジスタM16と、を更に含み、(b) MOSトランジスタM13,M16のゲートが互いに接続されているのが好適である。この場合、本発明の増幅装置において、MOSトランジスタM11,M12,M14,M15,M21,M22それぞれを構成するMOSトランジスタのβが互いに等しい。また、MOSトランジスタM14,M15それぞれのゲートが一定の電位とされるのが好適である。或いは、MOSトランジスタM11,M15それぞれのゲートが互いに接続され、MOSトランジスタM12,M14それぞれのゲートが互いに接続されているのも好適である。
【0014】
なお、第1導電型のMOSトランジスタおよび第2導電型のMOSトランジスタのうち、一方はNMOSトランジスタであり、他方はPMOSトランジスタである。第1電位供給端および第2電位供給端のうち、一方は電源電位供給端であり、他方は接地電位供給端である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所望の利得を有するように設計することが容易な増幅装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、比較例の増幅装置2の構成を示す図である。
図2図2は、第1実施形態の増幅装置1Aの構成を示す図である。
図3図3は、抵抗値が可変である抵抗器R11の第1構成例を示す図である。
図4図4は、抵抗値が可変である抵抗器R11の第2構成例を示す図である。
図5図5は、並列配置の個数が可変であるMOSトランジスタM13の構成例を示す図である。
図6図6は、第2実施形態の増幅装置1Bの構成を示す図である。
図7図7は、第3実施形態の増幅装置1Cの構成を示す図である。
図8図8は、第4実施形態の増幅装置1Dの構成を示す図である。
図9図9は、第5実施形態の増幅装置1Eの構成を示す図である。
図10図10は、第6実施形態の増幅装置1Fの構成を示す図である。
図11図11は、変形例の増幅装置1Gの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下では、比較例の増幅装置の構成について説明した後に、実施形態の増幅装置の構成について説明する。
【0018】
(比較例)
図1は、比較例の増幅装置2の構成を示す図である。増幅装置2は、増幅部10およびバイアス電位付与部20Xを備える。
【0019】
増幅部10は、入力差動対を構成するMOSトランジスタM11,M12と、抵抗器R11,R12と、電流源として作用するMOSトランジスタM13とを含む。MOSトランジスタM11,M12は、同一設計のNMOSトランジスタであり、同一の特性を有する。MOSトランジスタM13もNMOSトランジスタである。抵抗器R11,R12それぞれの抵抗値は互いに等しい。
【0020】
MOSトランジスタM11のドレインは、抵抗器R11を介して電源電位供給端に接続されている。MOSトランジスタM12のドレインは、抵抗器R12を介して電源電位供給端に接続されている。MOSトランジスタM11,M12それぞれのソースは、MOSトランジスタM13のドレインに接続されている。MOSトランジスタM13のソースは接地電位供給端に接続されている。
【0021】
バイアス電位付与部20Xは、MOSトランジスタM23と抵抗器R2とを含み、増幅部10のMOSトランジスタM13のゲートにバイアス電位を与える。MOSトランジスタM23はNMOSトランジスタである。MOSトランジスタM23のドレインは、MOSトランジスタM23のゲートに接続されているとともに、抵抗器R2を介して電源電位供給端に接続されている。MOSトランジスタM23のソースは接地電位供給端に接続されている。バイアス電位付与部20XのMOSトランジスタM23のゲートは、増幅部10のMOSトランジスタM13のゲートに接続されている。
【0022】
バイアス電位付与部20Xにより増幅部10のMOSトランジスタM13のゲートにバイアス電位が与えられて、MOSトランジスタM13は電流源として作用し、増幅部10は増幅動作をすることができる。MOSトランジスタM11,M12それぞれのゲートに差動信号が入力され、増幅された差動信号がMOSトランジスタM11,M12それぞれのドレインから出力される。
【0023】
MOSトランジスタM11,M12のトランスコンダクタンスをgとし、抵抗器R11,R12の抵抗値をRとすると、増幅部10の利得Gは下記(1)式で表される。MOSトランジスタM13に流れる電流をIとすると、トランスコンダクタンスgは下記(2)式で表される。MOSトランジスタの電荷移動度をμとし、MOSトランジスタの単位面積あたりのゲート酸化膜容量をCoxとし、ゲート長をLとし、ゲート幅をWとすると、(2)式に現れるβは下記(3)式で表される。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
【数3】
【0027】
MOSトランジスタM23,M13はカレントミラーの関係を有している。したがって、MOSトランジスタM13に流れる電流Iは、MOSトランジスタM23に流れる電流と等しい。電源電位をVDDとし、抵抗器R2の抵抗値をRとし、MOSトランジスタM23の閾値電圧をVtとすると、MOSトランジスタM23に流れる電流(すなわち、MOSトランジスタM13に流れる電流I)は、下記(4)式で表される。したがって、利得Gは下記(5)式で表される。
【0028】
【数4】
【0029】
【数5】
【0030】
この増幅装置2では、通常、MOSトランジスタM11,M12,M13,M23それぞれは、増幅部10およびバイアス電位付与部20Xそれぞれの要求仕様に基づいて、所要の特性を有するように適切に設計される。すなわち、MOSトランジスタM13,M23は、カレントミラー回路を構成するものであることから、トランスコンダクタンスが小さいのが好ましい。これに対して、MOSトランジスタM11,M12は、入力作動対を構成するものであることから、トランスコンダクタンスが大きいのが好ましい。例えば、トランスコンダクタンスを小さくする場合は、(3)式から、MOSトランジスタのゲート長Lを大きくし、または、ゲート幅Wを小さくする。トランスコンダクタンスを大きくする場合は、MOSトランジスタのゲート長Lを小さくし、または、ゲート幅Wを大きくする。したがって、MOSトランジスタM13,M23それぞれのβは互いに異なることから、増幅装置2は、所望の利得Gを有するように設計することは容易でない。
【0031】
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態の増幅装置1Aの構成を示す図である。増幅装置1Aは、増幅部10およびバイアス電位付与部20を備える。この増幅装置1Aの増幅部10は、比較例の増幅装置2の増幅部10の構成と同じ構成を有する。
【0032】
バイアス電位付与部20は、MOSトランジスタM21,M22,M23,M24,M25,M26と、抵抗器R2とを含む。MOSトランジスタM21,M22,M23は、NMOSトランジスタである。MOSトランジスタM24,M25,M26は、PMOSトランジスタである。MOSトランジスタM21,M23それぞれのソースは、接地電位供給端に接続されている。MOSトランジスタM22のソースは、抵抗器R2を介して接地電位供給端に接続されている。MOSトランジスタM24,M25,M26それぞれのソースは、電源電位供給端に接続されている。
【0033】
MOSトランジスタM21,M22それぞれのゲートおよびMOSトランジスタM21,M24それぞれのドレインは、互いに接続されている。MOSトランジスタM24,M25,M26それぞれのゲートおよびMOSトランジスタM22,M25それぞれのドレインは、互いに接続されている。MOSトランジスタM23のゲートおよびMOSトランジスタM23,M26それぞれのドレインは、互いに接続されている。MOSトランジスタM23のゲートは、増幅部10のMOSトランジスタM13のゲートに接続されている。
【0034】
抵抗器R11,R12,R2それぞれは、抵抗値が固定であってもよいし、抵抗値が可変であってもよい。図3に示される第1構成例の抵抗器R11は、抵抗器RとスイッチSWとが直列に接続されたものを1組として、複数組が並列に設けられた構成を有している。図4に示される第2構成例の抵抗器R11は、複数の抵抗器Rが直列に接続されており、その一端と抵抗器Rの接続点との間にスイッチSWが設けられた構成を有している。何れの構成例においても、各スイッチのオン/オフが制御信号Rctl_1~Rctl_nにより設定されることで、抵抗器R11の抵抗値が設定される。各スイッチは、MOSトランジスタにより構成され得る。他の抵抗器についても同様である。
【0035】
MOSトランジスタM11,M12,M21,M13,M22,M23,M24,M25,M26それぞれは、1個のMOSトランジスタで構成されてもよいし、同一設計の複数個のMOSトランジスタが並列配置された構成であってもよい。また、並列配置の場合には、その個数が可変であってもよい。図5は、並列配置の個数が可変であるMOSトランジスタM13の構成例を示す図である。この構成例では、MOSトランジスタM13は、MOSトランジスタM、インバータINVおよびスイッチSW1,SW2を含む単位回路を複数個並列配置した構成を有する。各単位回路において、MOSトランジスタMのゲートは、スイッチSW1を介してMOSトランジスタM23のゲートに接続され、スイッチSW2を介して接地電位供給端に接続されている。各単位回路において、スイッチSW1は、制御信号によりオン/オフが設定され、スイッチSW2は、制御信号を入力するインバータINVから出力される論理反転信号によりオン/オフが設定される。各スイッチは、MOSトランジスタにより構成され得る。各単位回路のMOSトランジスタMのドレインは共通に接続され、各単位回路のMOSトランジスタMのソースは共通に接続されている。各単位回路のスイッチSW1,SW2のオン/オフが制御信号Mctl_1~Mctl_nにより設定されることで、MOSトランジスタM13を構成するMOSトランジスタMの個数が設定される。他のMOSトランジスタについても同様である。
【0036】
以下では、MOSトランジスタM21,M23それぞれは1個のMOSトランジスタで構成されるとする。MOSトランジスタM22は同一設計のK個のMOSトランジスタが並列配置された構成であるとする。また、MOSトランジスタM13は同一設計のN個のMOSトランジスタが並列配置された構成であるとする。Kは2以上の整数であり、Nは1以上の整数である。
【0037】
MOSトランジスタM21,M22,M24,M25,M26および抵抗器R2はベータマルチプライヤの構成を有する。抵抗器R11,R12の抵抗値をRとし、抵抗器R2の抵抗値をRとする。MOSトランジスタM11,M12のβをβとし、MOSトランジスタM21,M22のβをβとする。このとき、MOSトランジスタM13に流れる電流Iは下記(6)式で表される。(1)式、(2)式および(6)式から、利得Gは下記(7)式で表される。βとβとが互いに等しいとすると、この(7)式は下記(8)式となる。この(8)式は、MOSトランジスタのβに依存しない。
【0038】
【数6】
【0039】
【数7】
【0040】
【数8】
【0041】
従来では、βとβとが互いに異なっていたことから、(7)式においてβの変動の影響を排除することができない。これに対して、本実施形態では、MOSトランジスタM11,M12,M21,M22それぞれを構成するMOSトランジスタのβを互いに等しくすることで、βの変動の影響を排除することができる。一方で、MOSトランジスタM11,M12,M21,M22それぞれを構成するMOSトランジスタのβは、MOSトランジスタM13,M23それぞれを構成するMOSトランジスタのβと異ならせることができる。
【0042】
なお、上記(3)式で表されるとおり、MOSトランジスタのゲート長L及びゲート幅W等により、該MOSトランジスタのβの値を調整することができる。βの定義は他にもあるが、何れにしてもβはμCoxL/Wに応じた値である。
【0043】
従来の設計思想では、バイアス電位付与部20のMOSトランジスタM21,M22は、電流源として用いられることから、チャネル長変調効果に因る電流誤差の影響を低減する為に、ゲート長が大きいものが用いられる。一方、増幅部10のMOSトランジスタM11,M12は、高速動作やトランスコンダクタンスを大きくする目的で、ゲート長が最小なものが用いられる。このように、MOSトランジスタM21,M22とMOSトランジスタM11,M12とは、要求される性能が異なるので、従来では同一の構成とされることはない。
【0044】
これに対して、本実施形態では、従来の設計思想とは異なり、MOSトランジスタM11,M12,M21,M22それぞれを構成するMOSトランジスタのβを互いに等しくすることにより、ベータマルチプライヤの性能が幾らか劣化するものの、所望の利得を有するように設計することが容易な増幅装置とすることができる。
【0045】
また、上記(8)式から分かるとおり、MOSトランジスタM22を構成するMOSトランジスタの個数K、MOSトランジスタM13を構成するMOSトランジスタの個数N、および、抵抗器R11,R12の抵抗値Rと抵抗器R2の抵抗値Rとの比(R/R)のうちの何れかを可変とすることで、利得Gを可変とすることができる。
【0046】
比較例の増幅装置2および本実施形態の増幅装置1Aについてシミュレーションを行って、MOSトランジスタの閾値電圧Vtを様々な値に設定したときの利得Gの変動幅を求めた。その結果、比較例の増幅装置2では、利得が5.7dB~8.3dBの範囲で変動し、利得の変動幅は2.6dBであった。これに対して、本実施形態の増幅装置1Aでは、利得が5.8dB~7.3dBの範囲で変動し、利得の変動幅は1.5dBであった。このように、比較例の増幅装置2と比べて、本実施形態の増幅装置1Aは、所望の利得を有するように設計することが容易である。
【0047】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態の増幅装置1Bの構成を示す図である。第1実施形態の増幅装置1Aの構成と比べると、第2実施形態の増幅装置1Bは、ローパスフィルタ30Bを更に備える点で相違する。
【0048】
ローパスフィルタ30Bは、バイアス電位付与部20のMOSトランジスタM23のゲートと増幅部10のMOSトランジスタM13のゲートとの間に設けられている。ローパスフィルタ30Bは、抵抗器R3および容量素子C3を含む。抵抗器R3は、MOSトランジスタM23のゲートとMOSトランジスタM13のゲートとの間に設けられている。容量素子C3は、MOSトランジスタM13のゲートと接地電位供給端との間に設けられている。
【0049】
本実施形態の増幅装置1Bは、電源電圧が高周波数で変動した場合であっても、MOSトランジスタM13のゲートに与えられるバイアス電位の変動を抑制することができるので、安定した増幅動作をすることができる。
【0050】
第1実施形態の増幅装置1Aおよび第2実施形態の増幅装置1Bについてシミュレーションを行って、PSRR(Power Supply Rejection Ratio)を比較した。PSRRは、回路に供給される電源電圧に変動(リップル)があるときに該回路が電源電圧の変動を除去できる能力であり、値が小さいほど好ましい。第1実施形態の増幅装置1AではPSRRの最悪値は1.7dBであった。これに対して、第2実施形態の増幅装置1BではPSRRの最悪値は-5.9dBであった。このように、第1実施形態の増幅装置1Aと比べて、第2実施形態の増幅装置1Bは、ローパスフィルタ30Aを備えていることにより、PSRRを小さくすることができる。
【0051】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態の増幅装置1Cの構成を示す図である。第1実施形態の増幅装置1Aの構成と比べると、第3実施形態の増幅装置1Cは、ローパスフィルタ30Cを更に備える点で相違する。
【0052】
ローパスフィルタ30Cは、バイアス電位付与部20のMOSトランジスタM23のゲートと増幅部10のMOSトランジスタM13のゲートとの間に設けられている。ローパスフィルタ30Cは、MOSトランジスタM3および容量素子C3を含む。MOSトランジスタM3は、MOSトランジスタM23のゲートとMOSトランジスタM13のゲートとの間に設けられている。MOSトランジスタM3は、ゲートにバイアス電位が与えられて抵抗器として用いられる。容量素子C3は、MOSトランジスタM13のゲートと接地電位供給端との間に設けられている。
【0053】
本実施形態の増幅装置1Cも、電源電圧が高周波数で変動した場合であっても、MOSトランジスタM13のゲートに与えられるバイアス電位の変動を抑制することができるので、安定した増幅動作をすることができる。また、MOSトランジスタM3が抵抗器として用いられていることにより、小さい回路面積で大きな抵抗値を実現することができるので、ローパスフィルタ30Bの特性を所望のものとすることができる。
【0054】
(第4実施形態)
図8は、第4実施形態の増幅装置1Dの構成を示す図である。第1実施形態の増幅装置1Aの構成と比べると、第4実施形態の増幅装置1Dは、増幅部10に替えて増幅部10Dを備える点で相違する。第1実施形態における増幅部10と比べると、第4実施形態における増幅部10Dは、MOSトランジスタM14,M15,M16を更に含む点で相違する。
【0055】
増幅部10Dはギルバートセルの構成を有する。MOSトランジスタM14,M15,M16は、NMOSトランジスタである。MOSトランジスタM14,M15は入力作動対を構成している。MOSトランジスタM14のドレインは、抵抗器R11を介して電源電位供給端に接続されている。MOSトランジスタM15のドレインは、抵抗器R12を介して電源電位供給端に接続されている。MOSトランジスタM16は、MOSトランジスタM14,M15それぞれのソースと接地電位供給端との間に設けられている。MOSトランジスタM13,M16のゲートは互いに接続されている。MOSトランジスタM14,M15それぞれのゲートは一定の電位が与えられる。
【0056】
MOSトランジスタM14,M15,M16それぞれも、1個のMOSトランジスタで構成されてもよいし、同一設計の複数個のMOSトランジスタが並列配置された構成であってもよい。以下では、MOSトランジスタM16は同一設計のM個のMOSトランジスタが並列配置された構成であるとする。Mは1以上の整数である。
【0057】
本実施形態では、MOSトランジスタM11,M12,M14,M15,M21,M22それぞれを構成するMOSトランジスタのβを互いに等しくすることにより、所望の利得を有するように設計することが容易な増幅装置とすることができる。
【0058】
MOSトランジスタM13を構成するMOSトランジスタの個数Nと、MOSトランジスタM16を構成するMOSトランジスタの個数Mと、の和L(=N+M)を一定にする。このようにすることで、利得Gを変更した場合であっても、電流Iを一定にすることができる。これにより、出力される差動信号のコモン電圧Vcm(下記(9)式)の変動を抑制することができる。
【0059】
【数9】
【0060】
(第5実施形態)
図9は、第5実施形態の増幅装置1Eの構成を示す図である。第4実施形態の増幅装置1Dの構成と比べると、第5実施形態の増幅装置1Eは、増幅部10Dに替えて増幅部10Eを備える点で相違する。第4実施形態における増幅部10Dと比べると、第5実施形態における増幅部10Eは、MOSトランジスタM11,M15それぞれのゲートが互いに接続されている点、および、MOSトランジスタM12,M14それぞれのゲートが互いに接続されている点で相違する。その結果、MOSトランジスタM14,M15それぞれのゲートにも差動信号が入力される。
【0061】
本実施形態でも、和L(=N+M)を一定にすることで、利得Gを変更した場合であっても、電流Iを一定にすることができる。これにより、出力される差動信号のコモン電圧Vcmの変動を抑制することができる。
【0062】
本実施形態では、MOSトランジスタM11,M12のトランスコンダクタンスをgmmとし、MOSトランジスタM14,M15のトランスコンダクタンスをgmsとすると、利得Gは下記(10)式で表される。MOSトランジスタM11,M12,M14,M15それぞれを構成する個々のMOSトランジスタのトランスコンダクタンスをgとすると、gmmは下記(11)式で表され、gmsは下記(12)式で表される。したがって、(10)式は下記(13)式となる。
【0063】
【数10】
【0064】
【数11】
【0065】
【数12】
【0066】
【数13】
【0067】
NとMとが互いに等しい場合を除いて、NおよびMそれぞれを調整することにより、利得Gの調整の幅を大きくすることができる。N,Mのうち何れが大きくてもよく、利得Gを正負に亘って調整することができる。
【0068】
第4実施形態の増幅装置1Dでは、MOSトランジスタM14,M15それぞれのゲートに一定の電位を供給する回路が必要であるのに対して、第5実施形態の増幅装置1Eでは、このような一定電位供給回路が不要であるので、この点で回路規模を小さくすることができる。
【0069】
(第6実施形態)
図10は、第6実施形態の増幅装置1Fの構成を示す図である。第5実施形態の増幅装置1Eの構成と比べると、第6実施形態の増幅装置1Fは、増幅部10Eに替えて増幅部10Fを備える点で相違する。第5実施形態における増幅部10Eと比べると、第6実施形態における増幅部10Fは、インダクタL11,L12を更に含む点で相違する。
【0070】
インダクタL11は、抵抗器R11と電源電位供給端との間に設けられている。インダクタL12は、抵抗器R12と電源電位供給端との間に設けられている。増幅部10Fは、インダクタL11,L12を含むことにより、利得を有する周波数帯域を高周波側へ拡大することができる。
【0071】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、第4~第6の実施形態の構成において、バイアス電位付与部と増幅部との間に、ローパスフィルタ30Bまたはローパスフィルタ30Cが設けられてもよい。第1~第5の実施形態の構成において、増幅部にインダクタL11,L12が設けられてもよい。
【0072】
第1~第6の実施形態の構成に対してNMOSトランジスタとPMOSトランジスタとを入れ替えた構成とすることもできる。図11に示される増幅装置1Gは、第1実施形態の増幅装置1Aに対して、各MOSトランジスタの導電型を入れ替えた構成としたものである。この増幅装置1Gでは、増幅部10G内のMOSトランジスタM11,M12,M13、および、バイアス電位付与部20G内のMOSトランジスタM21,M22,M23は、PMOSトランジスタである。バイアス電位付与部20G内のMOSトランジスタM24,M25,M26は、NMOSトランジスタである。この場合にも、MOSトランジスタM11,M12,M21,M22それぞれを構成するMOSトランジスタのβを互いに等しくすることにより、所望の利得を有するように設計することが容易な増幅装置とすることができる。
【符号の説明】
【0073】
1A~1G…増幅装置、10,10D,10E,10F,10G…増幅部、20,20G…バイアス電位付与部、30B,30C…ローパスフィルタ、C3…容量素子、L11.L12…インダクタ、M11,M12,M13,M14,M15,M16,M21,M22,M23,M24,M25,M26,M3…MOSトランジスタ、R11,R12,R2,R3…抵抗器。
図1
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