(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】防虫ネット
(51)【国際特許分類】
A01M 29/34 20110101AFI20240704BHJP
A01G 13/10 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
A01M29/34
A01G13/10 A
(21)【出願番号】P 2020084162
(22)【出願日】2020-05-13
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】室谷 浩紀
(72)【発明者】
【氏名】田代 こゆ
(72)【発明者】
【氏名】丸山 慧
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-026690(JP,A)
【文献】特開2005-151830(JP,A)
【文献】特開2000-217497(JP,A)
【文献】特開2011-254784(JP,A)
【文献】特開2014-023477(JP,A)
【文献】特開2008-237121(JP,A)
【文献】特開2007-037505(JP,A)
【文献】特開平11-262354(JP,A)
【文献】霜田政美,光と色を使った “光防除 ”技術 ―最近の進展と可能性―,北日本病虫研報(2018),第69号,日本,2018年,第1-9頁,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kitanihon/2018/69/2018_1/_pdf
【文献】八瀬順也,施設微小害虫の色彩誘引の特徴と色彩トラップの利用,植物防疫(2018),第72巻第3号,日本,2018年,第31-35頁,https://www.jppn.ne.jp/jpp/s_mokuji/20180309.pdf
【文献】村田未果 外1名,赤色光を昼間に作物に照射し、ミナミキイロアザミウマの誘引を抑制する,野菜花き研究部門 2017年の成果情報,日本,農研機構,2017年,第1-2頁,https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nivfs/2017/nivfs17_s11.html
【文献】大谷洋子 外2名,ミカンキイロアザミウマの走光性に関する作用スペクトルと複眼分光感度との関係,日本応用動物昆虫学会誌,第58巻第3号,日本,2014年,第177-185頁,https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010873265.pdf
【文献】防虫ネットの選び方とは?色や目合いによる効果の違いを解析!,施設園芸.com,日本,2019年12月10日,第1-4頁,https://shisetsuengei.com/news-column/pest-counterplan/pest-counterplan-008/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 29/34
A01G 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネット状体にて構成され、
ネット状体を構成する糸条がポリエステルからなるマルチフィラメント糸であり、ネットの目合いが
2.5cm以上かつ5cm以下であり、
赤色に着色されて
おり、防虫対象の虫がアザミウマであることを特徴とする防虫ネット。
【請求項2】
ネット状体を構成する糸条が、ポリエステルからなるマルチフィラメント糸を複数本合撚した合撚糸であり、合撚糸の繊度が1000~8000デシテックスであることを特徴とする請求項1記載の防虫ネット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防虫ネットに関し、たとえば農作物を虫害から防ぐためにこの農作物に掛けるようにされた防虫ネットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、農業土壌覆いマルチシート、畝間作業路シートなどの野外用軟質農業シートを赤色に彩色することで、防虫剤などを余分に付加することなしに害虫類を忌避できるようにしたものが記載されている。
【0003】
特許文献2には、経糸と緯糸とを織成してなる防虫ネットであって、赤色に着色されたものが記載されている。ネットの目合いは、0.8mm×0.8mm以上であることが記載されている(請求項3、段落0018)。特許文献2の段落0018には、ネットの目合いについて様々な範囲が記載されているが、いずれもミリメートルオーダーである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-151960号公報
【文献】特開2012-095617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、目合いがミリメートルオーダーであると、ネットを構成する糸の太さにもよるが、糸が密集する程度が高く、このためネットの剛性が必要以上に高くて、このネットを農作物に被せる際などにおいて、取り扱い性や作業性が悪いという課題がある。さらに、特許文献2の技術では、モノフィラメント糸を用いていることから剛性に優れるために、柔軟性に乏しいものである。
【0006】
そこで本発明は、このような課題を解決して、柔軟な構成であることにより、農作物に被せる際などにおいて取り扱い性や作業性が良好である防虫ネットを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため本発明の防虫ネットは、ネット状体にて構成され、ネット状体を構成する糸条がポリエステルからなるマルチフィラメント糸であり、ネットの目合いが2.5cm以上かつ5cm以下であり、赤色に着色されており、防虫対象の虫がアザミウマであることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の防虫ネットによれば、ネット状体を構成する糸条が、ポリエステルからなるマルチフィラメント糸複数本合撚した合撚糸であり、合撚糸の繊度が1000~8000デシテックスであることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防虫ネットは、ネットの目合いが2.5cm以上かつ5cm以下であるにもかかわらず、赤色に着色されているために、目合いよりもサイズの小さな害虫であっても、これを忌避することができて、この害虫がネット状体を通過することを効果的に防止することができる。そして、ネットの目合いが2.5cm以上かつ5cm以下であることで、目合いがこの範囲よりも小さなものと比べてネットを柔軟に構成することができ、このため農作物に被せる際などにおいて取り扱い性や作業性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態の防虫ネットの網地の構成を示す図である。
【
図2】防虫ネットの防虫性能の試験対象を示す図である。
【
図3】
図2の試験対象に防虫ネットを被せた様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態の防虫ネットは、たとえば
図1に示すような網地によるネット状体にて構成することができる。
図1に示される網地は、適当な糸条を用いて網成されるものであるが、網組織としては、無結節網であっても結節網であってもよく、具体的には、ラッセル網や蛙又網が挙げられる。網地を構成する糸条の素材としては、例えば、綿、麻等の天然繊維や、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維が挙げられる。また、糸条の形態としては、短繊維からなる紡績糸、長繊維からなるマルチフィラメント糸やモノフィラメント糸などが挙げられる。さらには、これらの糸を複数本引き揃えた糸や複数本合撚した糸でもよい。本発明においては、耐候性や強度、耐久性の観点から、ポリエステルからなるマルチフィラメント糸を好ましく用いることができ、また、さらにはポリエステルからなるマルチフィラメント糸を複数本合撚した合撚糸であることが好ましい。合撚糸の繊度は、耐候性や強度保持性の観点から、1000~8000デシテックスが好ましい。合撚する際の本数は、2~8本程度がよい。なお、マルチフィラメント糸は、糸繊度が150~2000、マルチフィラメント糸を構成するフィラメントの本数は50~300がよい。
【0013】
特に、この糸条は、赤色に着色されていることが必要である。そしてこの糸条は、染色されたものであってもよいが、原着糸であること、すなわち糸を構成するポリマー成分に顔料や染料を練り込んだものであることが好適である。また、マルチフィラメント糸は、複数本の繊維が束ねられたものであることから、赤色に着色されたマルチフィラメント糸は、乱反射によってと考えるが、より赤色が鮮明に発色する。これは、赤色に着色されたモノフィラメント糸と比較すると明確であり、モノフィラメント糸が透明性の高い赤色であるのに対して、マルチフィラメント糸は透明性がなくより鮮明に赤色を発色する。
【0014】
本発明において、赤色の染料や顔料としては、例えば、アリザリンレッド、アシッドブリリアントスカーレットR、カチオンブリリアントレッド4G、カチオンレッドGTL、カチオンレッドBLT、カチオンレッド6B、カチオンレッド5B、ファストスカーレットG、ディスパースレッドFL、ディスパースレッドGFL、リアクティブレッド3B、リアクティブスカーレット2G等の染料、ナフトールレッドFRR、レーキレッド4R、ナフトールカーミンFB、ナフトールカーミンFBB、ペリレンレッドBL,ナフトールレッドM、ブリリアントファストスカーレット、ナフトールレッドBS、ナフトールレッドRN、ピラゾロンレッド、パーマネントレッド2B、ブリリアントカーミン6B、ブリリアントカーミン3B、ブリリアントカーミンBS、チオインジゴボルドー、べんがら、モリブデートオレンジ、カドミウムレッド、ナフトールレッドFGR、キナクロドンマゼンダ、ペリレンバーミリオン、ペリレンレッドBL、クロモフタールスカーレット、アンスアンスロンレッド、ナフトールレッドF5RK、ジアントラキノリルレッド、ペリレンレッド、ペリレンマルーン、ベンズイミダゾロンカーミンHF4C、ペリレンスカーレット、キナクリドンレッドE等の顔料が挙げられる。
【0015】
この糸条を用いた網地すなわちネット状体は、
図1に示すように、その目合い10が1cm以上かつ5cm以下であることが
好適である。1cm以上かつ5cm以下の目合いというのは、防虫対象の害虫のサイズ(たとえば害虫がアザミウマである場合には、その体長は1~2mm程度)に比べて格段に大きく、物理的には害虫がネット状体を問題無く通過可能な大きさである。しかし、本発明者らによれば、ネット状体を構成する糸条が赤色に着色されていることで、ネット状体の目合いが害虫のサイズよりも格段に大きくても、確実な防虫効果が発揮されることが見出された。
【0016】
すなわち、本発明は、このような知見にもとづいてなされたものであって、ネット状体の目合いを大きくしても害虫を確実に忌避することができるうえに、目合いが大きいことで、害虫が通過不能な小さな目合いでネット状体を形成した場合に比べて、すなわち小さな目合いであることで網糸の存在密度が上昇して、それにより剛な構成となる場合に比べて、ネット状体を柔軟に構成することができる。その結果、本発明の防虫ネットを農作物に被せる際などにおいて、取り扱い性や作業性が良好であるという、格別な効果を奏することができる。
【0017】
すなわち、
図1に示す目合い10が1cm未満であると、上述のように網糸の存在密度が上昇して、それにより剛な構成となってしまって、取り扱い性に劣るものとなる。反対に目合い10が5cmを超えると、目合いが大きくなり過ぎて、この場合も取り扱い性が良好とは言えなくなる。
【実施例】
【0018】
図2は、本発明の実施例の防虫ネットの防虫性能の試験対象を示すものである。ここで、「サンプル1」、「サンプル2」、「サンプル3」は、いずれも「きゅうり」の苗を240ミリリットルのポットで栽培したもので、それぞれ数枚の葉が育っているものである。11は、防虫ネットを被せるときの支えとなる、湾曲状態の支柱である。そして、これらのサンプル1~3が三角形の板12の頂点の位置となるように、65×40×33cmの樹脂製のケース13の内部に配置した。板12の中央には、害虫である「ミカンキイロアザミウマ」が200匹入った樹脂製のふた付き容器14を置いた。つまり、容器14からそれぞれのサンプル1、2、3のポットまでの距離が等距離となるようにした。
【0019】
図3は、サンプル1、2、3に、それぞれ、目合い2.5cmのネット状体にて構成された防虫ネットを被せた様子を示す。
【0020】
サンプル1に被せたネット状体は、比較例1としての、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるマルチフィラメント糸をラッセル網みしたもので、マルチフィラメント糸の構成は2000デシテックス/192フィラメントで2000T×5本格であり、ネットの目合いは2.5cmのものである。
【0021】
サンプル2に被せたネット状体は、比較例2としての、PETのマルチフィラメント糸の表面に防虫剤(大阪ガスケミカル社製 商品名「メルキットE55」)をポリウレタン樹脂をバインダーとして1.6質量%付着させたもので、糸の構成が2000デシテックス/192フィラメントで2000T×5本格であり、これを目合い2.5cmでラッセル網みしたものである。
【0022】
サンプル3に被せたネット状体は、実施例1としての、赤色の顔料をポリエチレンテレフタレート樹脂に練り込んだ1100デシテックス/96フィラメントのマルチフィラメント糸を用いて、これを3本合撚して合撚糸(100T/m)としたうえで、目合い2.5cmで蛙又網みにより網成したものである。防虫剤は含有していない。
【0023】
念のために注記すると、比較例2では糸は着色されておらず樹脂の色が表れており、比較例1では糸は防虫剤を含有せずかつ着色もされていない。
【0024】
試験に際しては、容器14のふたを外して害虫が容器14の外へ自由に出られる状態としたうえで、ケース13にメッシュ状のふたを被せ、25℃、16L8D(16時間明期8時間暗期)の条件下で24時間静置した。そして、24時間経過後に各ネットを外し、きゅうりの葉に寄生している害虫の数と、ネットやポットに存在している害虫の数とをカウントした。その結果を表1に示す。
【0025】
【0026】
表1に示すように、きゅうりの葉に寄生している害虫の数は、比較例1、比較例2(サンプル1、サンプル2)の順に少なくなり、実施例1(サンプル3)では比較例1、2に比べて格段に少ない数であった。ネットやポットに存在している害虫の数も、比較例1と比較例2とでは同程度であったが、実施例1ではこれらの比較例1、2と比べると格段に少ない数であった。また比較例1、2の防虫ネットを被せたサンプル1、2ではきゅうりの葉に食害痕が見受けられたが、実施例の防虫ネットを被せたサンプル3では食害痕は見受けられなかった。
【0027】
このことから、実施例1の防虫ネットは、ネット状体を構成する糸条を赤色に着色しただけであって、防虫剤は含まず、しかも害虫のサイズに比べてネットの目合いが格段に大きいものであるにもかかわらず、十分な防虫効果を有していることが確認された。