(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】有害物質飛散防止装置、および有害物質飛散防止方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20240704BHJP
【FI】
E04G23/02 Z
(21)【出願番号】P 2020128018
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】513155448
【氏名又は名称】日本トリート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166051
【氏名又は名称】駒津 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】臼井 淳一郎
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3197063(JP,U)
【文献】特開2017-106258(JP,A)
【文献】登録実用新案第3131855(JP,U)
【文献】特開2009-235762(JP,A)
【文献】登録実用新案第3133310(JP,U)
【文献】特開平11-033463(JP,A)
【文献】特開2005-279454(JP,A)
【文献】特開2010-203054(JP,A)
【文献】特開2015-004223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00 -23/08
E04G 21/24 -21/32
B08B 3/00 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物が有する煙突の内側に取り付けられた有害物質を超高圧温水噴射手段で剥離することで生じる有害物質の飛散を防止する飛散防止装置において、
隔離手段によって前記建造物の外部から隔離密閉された前記煙突の頭部で、前記超高圧温水噴射手段を操作する作業を行うための煙突頭部作業室内の空気を集塵し、浄化した空気を前記建造物の外部に排出する
動作を作業時に継続して行う煙突頭部集塵排気手段と、
前記建造物内の他の区域と隔離手段によって隔離密閉された前記煙突の下部で、前記超高圧温水噴射手段の操作によって剥離した前記有害物質を取り出す作業を行うための煙突下部作業室内の空気を集塵し、浄化した空気を前記建造物内の他の区域に排出する煙突下部集塵排気手段と、
を備えることを特徴とする飛散防止装置。
【請求項2】
前記煙突の頭部および下部が前記煙突頭部作業室および煙突下部作業室によって密閉された密閉空間を所定の負圧状態で保持するために、前記密閉空間の外部から空気が前記密閉空間の内部に取り入れられる吸気手段、
を備えることを特徴とする請求項1記載の飛散防止装置。
【請求項3】
前記吸気手段の吸気量は、
前記煙突頭部集塵排気手段および煙突下部集塵排気手段が集塵した後に排気する排気量以下であること、
を特徴とする請求項2記載の飛散防止装置。
【請求項4】
前記吸気手段は、
前記密閉空間に入退室する部分に設けられたセキュリティゾーンに設けられること、
を特徴とする請求項2記載の飛散防止装置。
【請求項5】
前記吸気手段は、
前記隔離手段と他の前記隔離手段との接合部分に設けられること、
を特徴とする請求項2記載の飛散防止装置。
【請求項6】
前記吸気手段は、
前記隔離手段と前記建造物との接合部分に設けられること、
を特徴とする請求項2記載の飛散防止装置。
【請求項7】
建造物が有する煙突の内側に取り付けられた有害物質を超高圧温水噴射手段で剥離することで生じる有害物質の飛散を防止する飛散防止方法において、
隔離手段によって前記建造物の外部から隔離密閉された前記煙突の頭部で、前記超高圧温水噴射手段を操作する作業を行うための煙突頭部作業室内の空気
を集塵し、浄化した空気を前記建造物の外部に排出する
動作を作業時に継続して煙突頭部集塵排気手段が行う工程と、
前記建造物内の他の区域と隔離手段によって隔離密閉された前記煙突の下部で、前記超高圧温水噴射手段の操作によって剥離した前記有害物質を取り出す作業を行うための煙突下部作業室内の空
気を煙突下部集塵排気手段が集塵し、浄化した空気を前記建造物内の他の区域に排出する工程と、
を備えることを特徴とする飛散防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質飛散防止装置、および有害物質飛散防止方法に関し、特に建造物が有する煙突の内側に取り付けられた有害物質を超高圧温水噴射手段で剥離することで生じる有害物質の飛散を防止する有害物質飛散防止装置、および有害物質飛散防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から建造物の資材にはアスベストが使われてきた。一般にアスベストと呼ばれる石綿は、天然にできた極めて細い鉱物繊維であり、耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性を備えており、1960年頃から1990年頃にかけて建設資材、摩擦材、シール材、断熱材など様々な用途に大量に使用されていた。
【0003】
しかし、極めて細い鉱物繊維のアスベストが粉塵となって気道から吸入されると、胸膜や気管支に障害を起こし、やがて肺ガンや中皮腫などのガンを発生させてしまう発ガン性が問題となっている。このため、現在では、アスベストの製造や使用が完全に禁止されている。
【0004】
アスベストは、現在では製造や使用が完全に禁止されているものの、長年にわたって建設資材など大量に使用されてきた。たとえば、一般的な住宅から学校などの公共施設まで、多様な建造物に幅広くアスベストが使用されてきた。このため、現存する多くの建物にも、アスベストを含有する建設資材が残っている。
【0005】
このように建設資材に多く使用されてきたアスベストは、露出したアスベストが粉塵となって飛散するだけではない。たとえば地震などの災害時に建造物が倒壊すると、建設資材に使用されたアスベストが大量に飛散する恐れもある。このため、アスベストを含有した建設資材を除去する対策が行われている。
【0006】
ところで、アスベストは耐熱性に優れているため、様々な断熱材として使用されてきた。たとえば煙突内に取り付けられる断熱材がアスベストである。
煙突は、ディーゼル機関や、ボイラー、風呂釜などの燃焼装置に取り付けられる。これらの燃焼装置が効率よく燃焼するための役割、および燃焼により発生する燃焼ガスを大気中に放出するための役割を煙突が担っている。
【0007】
煙突から放出される燃焼ガスには、燃焼させる燃焼物によって様々な組成物から構成される。たとえば、硫黄分を含む燃焼物を燃焼させると亜硫酸ガスが発生する。亜硫酸ガスは煙突内の熱により硫酸に変化する。このため、煙突内はこれらの組成物に対する耐薬品性が必要とされる。
【0008】
また、煙突から放出される燃焼ガスの温度は、燃焼装置の規模や、燃焼物によって異なるが、500℃以上になることもある。このため、煙突内は燃焼の高温に対する耐熱性が必要とされる。
【0009】
このように煙突は、発生する燃焼ガスや、熱による影響を受けるため、耐薬品性、耐熱性などを備えるアスベストを原料とする断熱材が煙突内に取り付けられてきた。これにより、煙突の長期使用が可能とされてきた。
【0010】
ところが、煙突を有する建造物の老朽化などにより、煙突が破損したり、アスベストを煙突内に含む建造物を解体したりする場合、アスベストを含まない建造物と同じように解体してしまうと、アスベストが飛散してしまう危険性がある。
【0011】
そこで、煙突内に取り付けられたアスベストを含む断熱材を除去する工事が行われている。また、煙突内のアスベストを除去する際に、煙突の頭部と煙突の下部とを、それぞれ隔離密閉する養生をすることで、アスベストの粉塵などの有害物質が作業区域外に飛散してしまうことを防止する方法がとられている。
【0012】
たとえば、煙突のアスベスト含有ライニング材に超高圧水を噴射して除去する工法により発生するアスベストを含有する汚泥水を廃棄処理する汚泥水廃棄処理システムが開発されている(たとえば、特許文献1)。
【0013】
図5は、特許文献1で開示された汚泥水廃棄処理システム全体を示す図である。
図5に示すように、汚泥水廃棄処理システム10は、煙突のアスベストを含むライニング材に、超高圧水を噴射することでアスベストを除去する際に発生するアスベストを含んだ汚泥水12を廃棄処理する汚泥水廃棄処理システムである。
【0014】
具体的には、隔離密閉された煙突頭部から超高圧水噴射装置を煙突内に挿入し、煙突のアスベストを含むライニング材に超高圧水を噴射することで、煙突内に取り付けられたアスベストを剥離させる。
【0015】
汚泥水廃棄処理システム10は、第一隔離養生区域14、第二隔離養生区域16、および空気搬送機18を備えている。
第一隔離養生区域14は、煙突下部の掻き出し口20に設けられており、超高圧水の噴射によって剥離されたアスベストを含む汚泥水12を吸引する作業を行うために設けられた区域である。
【0016】
第二隔離養生区域16は、第一隔離養生区域14とは別の場所に設けられ、第一隔離養生区域14で吸引されたアスベストを含む汚泥水12の廃棄する作業を行うために設けられた区域である。
【0017】
空気搬送機18は、煙突下部の掻き出し口20に設けられた第一隔離養生区域14で吸引された汚泥水12を、第二隔離養生区域16が有する貯留タンク22に吸引して搬送するための装置である。
【0018】
空気搬送機18を動作させることで、第一隔離養生区域14、および第二隔離養生区域16の中で、超高圧水の噴射により剥離されたアスベストを含む汚泥水12を廃棄する処理を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、煙突頭部および煙突下部が隔離密閉された状態で、煙突内に取り付けられたアスベストを超高圧水の噴射により剥離すると、煙突頭部から超高圧水噴射装置を煙突内に挿入する作業者の作業環境が悪くなるという問題があった。
【0021】
特許文献1でも開示されているように、一般に、超高圧水は、汚れや塗膜を剥離しやすいように80℃程度の温水が使用される。もちろん煙突内のアスベストの剥離処理にも、アスベストや煙突内の汚れが剥離しやすいように超高圧の温水が使用される。
【0022】
ところが、この超高圧の温水で煙突内に取り付けられたアスベストを剥離しようとすると、煙突効果によって、剥離されたアスベストを含んだ粉塵が、煙突の頭部に向かって上昇してしまう。
【0023】
この煙突の頭部に向かって上昇したアスベストを含んだ粉塵は、隔離密閉された煙突頭部に滞留してしまう。このため、煙突頭部で作業する作業者の作業環境が悪化する問題が生じていた。
【0024】
この煙突効果とは、煙突の内部に外気よりも高い温度の空気が存在する場合、高温の空気は低温の空気よりも密度が低く軽いため煙突内で上昇する。このとき、煙突の下部では、空気を取り入れるための空気取入口から外部の空気が取り入れられる。これにより、煙突は、空気取入口から空気が取り入れられながら、温かい空気が上昇する現象である。
【0025】
煙突内に噴射される超高圧の温水は80℃と外気よりも高温であるため、煙突で超高圧の温水を噴射すると、それに伴って煙突内の空気は下から上に向かって上昇する。この上昇する空気によって、アスベストを含んだ空気も上昇する。
【0026】
特許文献1でも開示された汚泥水廃棄処理システムでは、煙突の頭部が隔離密閉されているため、上昇したアスベストを含んだ空気が煙突頭部の密閉空間に滞留してしまう。このため、煙突頭部から超高圧水噴射装置を煙突内に挿入する作業を行う作業者の作業環境が悪くなる。
【0027】
この煙突効果によって上昇した空気に含まれるアスベストを取り除くには、煙突内の温度が低下し、アスベストを含んだ空気が上昇しなくなるのを待ち、重力によって落下したアスベストを第一隔離養生区域14で吸引する方法が考えられる。
【0028】
この場合、超高圧水噴射装置による剥離処置を行っている間は、煙突内が高温状態のままであるため、超高圧水噴射装置による剥離処置が終了してから、煙突内の温度が低下するまで待たなければならない。このため、煙突内で煙突効果により上昇したアスベストをすべて集塵するためには多くの時間が必要となり、作業性能の低下につながってしまう。
【0029】
また、煙突効果を抑制し、アスベストを含んだ空気を上昇させない方法も考えられる。たとえば、超高圧水の温度を低くすることで、煙突内の温度が抑制され、外気と変わらない温度で剥離作業を行う。これにより、アスベストを含んだ空気の上昇を抑制することができる。
【0030】
ところが、超高圧水の温度を低くしてしまうと、アスベストの剥離に時間がかかってしまう問題が生じる。煙突内では、長年の仕様により、アスベストを含む断熱材の表層に汚れや、燃焼物の灰などが付着する。この表層に付着した汚れも一緒に剥離しなくてはならないため、短時間でアスベストの除去作業を行うには、超高圧の温水で汚れやアスベストを剥離するしかない。
【0031】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、作業区域内の作業環境を改善でき、かつ短時間でアスベストの除去作業を行うことができる有害物質飛散防止装置、および有害物質飛散防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明では上記問題を解決するために、建造物が有する煙突の内側に取り付けられた有害物質を超高圧温水噴射手段で剥離することで生じる有害物質の飛散を防止する飛散防止装置において、隔離手段によって前記建造物の外部から隔離密閉された前記煙突の頭部で、前記超高圧温水噴射手段を操作する作業を行うための煙突頭部作業室内の空気を集塵し、浄化した空気を前記建造物の外部に排出する煙突頭部集塵排気手段と、前記建造物内の他の区域と隔離手段によって隔離密閉された前記煙突の下部で、前記超高圧温水噴射手段の操作によって剥離した前記有害物質を取り出す作業を行うための煙突下部作業室内の空気を集塵し、浄化した空気を前記建造物内の他の区域に排出する煙突下部集塵排気手段とを備えることを特徴とする飛散防止装置が提供される。
【0033】
これにより、隔離手段によって建造物の外部から隔離密閉された煙突の頭部で、超高圧温水噴射手段を操作する作業を行うための煙突頭部作業室内の空気を煙突頭部集塵排気手段が集塵し、浄化した空気を建造物の外部に排出し、建造物内の他の区域と隔離手段によって隔離密閉された煙突の下部で、超高圧温水噴射手段の操作によって剥離した有害物質を取り出す作業を行うための煙突下部作業室内の空気煙突下部集塵排気手段を煙突下部集塵排気手段が集塵し、浄化した空気を建造物内の他の区域に排出する。
【0034】
また、本発明では、建造物が有する煙突の内側に取り付けられた有害物質を超高圧温水噴射手段で剥離することで生じる有害物質の飛散を防止する飛散防止方法において、隔離手段によって前記建造物の外部から隔離密閉された前記煙突の頭部で、前記超高圧温水噴射手段を操作する作業を行うための煙突頭部作業室内の空気を煙突頭部集塵排気手段が集塵し、浄化した空気を前記建造物の外部に排出する工程と、前記建造物内の他の区域と隔離手段によって隔離密閉された前記煙突の下部で、前記超高圧温水噴射手段の操作によって剥離した前記有害物質を取り出す作業を行うための煙突下部作業室内の空気煙突下部集塵排気手段を煙突下部集塵排気手段が集塵し、浄化した空気を前記建造物内の他の区域に排出する工程とを備えることを特徴とする飛散防止方法が提供される。
【0035】
これにより、建隔離手段によって造物の外部から隔離密閉された煙突の頭部で、超高圧温水噴射手段を操作する作業を行うための煙突頭部作業室内の空気を煙突頭部集塵排気手段が集塵し、浄化した空気を建造物の外部に排出し、建造物内の他の区域と隔離手段によって隔離密閉された煙突の下部で、超高圧温水噴射手段の操作によって剥離した有害物質を取り出す作業を行うための煙突下部作業室内の空気煙突下部集塵排気手段を煙突下部集塵排気手段が集塵し、浄化した空気を建造物内の他の区域に排出する。
【発明の効果】
【0036】
本発明の有害物質飛散防止装置、および有害物質飛散防止方法によれば、隔離手段によって建造物の外部から隔離密閉された煙突の頭部で、超高圧温水噴射手段を操作する作業を行うための煙突頭部作業室内の空気を煙突頭部集塵排気手段が集塵し、浄化した空気を建造物の外部に排出し、建造物内の他の区域と隔離手段によって隔離密閉された煙突の下部で、超高圧温水噴射手段の操作によって剥離した有害物質を取り出す作業を行うための煙突下部作業室内の空気煙突下部集塵排気手段を煙突下部集塵排気手段が集塵し、浄化した空気を建造物内の他の区域に排出するので、作業区域内の作業環境が改善される。
【0037】
具体的には、煙突効果によって剥離された有害物質を含む粉塵が煙突の頭部に向かって上昇するが、煙突頭部集塵排気手段が煙突頭部作業室内の空気を集塵するので、有害物質を含む空気が煙突頭部作業室に滞留することがない。
【0038】
さらに、有害物質を含む空気が煙突頭部作業室に滞留しないので、噴射した高圧力の温水によって上昇した煙突内の温度が下がって、有害物質を含む粉塵が降下するまで待つ必要がない。つまり、短期間で有害物質の除去作業を完了することができる。
【0039】
さらにまた、煙突効果が生じても煙突頭部作業室で作業する作業者の作業環境が悪化しないので、煙突内の汚れや断熱材が効率よく除去できる温水を使用することができる。このため、短期間で有害物質を含む断熱材の除去作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本実施の形態に係る有害物質飛散防止装置を示す断面図である。
【
図2】煙突下部作業室および煙突頭部作業室によって隔離密閉された密閉空間を示す断面図である。
【
図3】煙突内で超高圧の温水を噴射した際の、空気の流れの一例を示す断面図である。
【
図4】吸気手段の一例であるセキュリティゾーンの構造を示す断面図である。
【
図5】特許文献1で開示された汚泥水廃棄処理システム全体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る有害物質飛散防止装置を示す断面図である。
本実施の形態の有害物質飛散防止装置100は、建造物200が備える煙突210の内部に取り付けられた有害物質を含む断熱材220を作業者が除去する除去作業により、煙突210から剥離した際に生じる粉塵が周囲へ飛散することを防止するものである。有害物質の例としてはアスベストが挙げられる。
【0042】
図1に示すように、建造物200が備える煙突210の周面には、一般に建設工事において、高所で作業を行う人間の足がかりのために、仮に組立てた構造物である足場300が組み立てられている。
【0043】
なお、本実施の形態では、建造物200の屋上面であるRFL(Roof Slab Line)から上方に煙突210の頭部が突出するように設けられ、1階床面である1FL(Floor Line)に煙突210の下部が設けられる例で示す。このとき、足場300は、
図1に示すように屋上面RFLから組み立てられて、煙突210の周面に設置される。
【0044】
この他にも、地表面から上方に煙突210の頭部が突出するように設けられ、地下階に煙突210の下部が設けられる場合には、足場300が地表面から組み立てられ、作業員が煙突210の天頂部に到達できる高さで組み立てられる。
【0045】
この足場300に作業者が乗ることで、建造物200が備える煙突210の天頂部から、煙突210の内部に超高圧の温水を噴射する超高圧温水噴射装置400を挿入することができる。
【0046】
煙突210内に挿入された超高圧温水噴射装置400は、煙突210の内部で超高圧の温水を煙突210の内部に取り付けられた有害物質を含む断熱材220に噴射する。これにより、噴射された温水によって有害物質を含む断熱材220が煙突210から剥離されるので、煙突210内に取り付けられた有害物質を含む断熱材220を研削して除去を行う除去作業を行うことができる。
【0047】
なお、超高圧温水噴射装置400は、たとえば建造物200の外部に設置された超高圧温水発生ポンプ410から耐圧ホースHを介して超高圧の温水が供給される。耐圧ホースHの先端には、煙突210の内部に取り付けられた有害物質を含む断熱材220に向けて供給された高圧温水を噴射するための噴射ノズル420が取り付けられている。
【0048】
また、耐圧ホースHは、煙突210の頭部上方に設けられた滑車430を介して、煙突内に鉛直方向上部から下方に向かって挿入される。さらに、耐圧ホースHを巻きつけたホースリール440を回転させることで、耐圧ホースHの先端に取り付けられた噴射ノズル420を任意の高さに調節することができる。
【0049】
これにより、煙突210内に取り付けられた有害物質を含む断熱材220に対して、超高圧の温水を任意の高さで噴射することができ、噴射ノズルの高さを変化させることで、煙突210の内部に取り付けられた断熱材220を煙突210から剥離することができる。
【0050】
有害物質飛散防止装置100は、煙突210の下部に設けられる煙突下部作業室110と煙突下部集塵排気手段120、および煙突210の上部に設けられる煙突頭部作業室130と煙突頭部集塵排気手段140を備えている。
【0051】
煙突下部作業室110は、煙突210内で剥離された有害物質を含む断熱材220の取り出し作業を行うための空間であり、建造物200内の他の区域と養生シートで隔離密閉された空間である。
【0052】
具体的には、建造物200内の壁面、天井面、床面に養生シートが取り付けられて、建造物200内の他の区域から隔離密閉された構造で煙突下部作業室110は形成されている。
【0053】
養生シートは、たとえばプラスチックシート111であって、壁面や天井面に取り付けられる。また、隣り合うプラスチックシート111は重なるように接合され、煙突下部作業室110内の空気が外部に漏れないような密閉構造で取り付けられる。
【0054】
煙突下部作業室110の床面は、厚手、又は2枚以上に重ねられた2重プラスチックシート112が取り付けられる。これは作業者が歩いたり、道具を置いたり、移動したりした際に、養生シートが破損しないためである。
【0055】
また煙突下部作業室110は、煙突210の下部に設けられた掻き出し口211に連通するように設けられる。これにより、煙突210から剥離され、落下してきた有害物質を含む断熱材220を、煙突下部作業室110で取り出すことができる。なお、煙突下部作業室110で取り出された有害物質を含む断熱材220は、特別管理産業廃棄物などの基準に準じた処理方法で処理を行う。
【0056】
煙突下部集塵排気手段120は、たとえば、煙突下部作業室110と建造物200内の他の区域とをプラスチックシート111を介して隔てるように設けられる。また煙突下部集塵排気手段120は、煙突下部作業室110で発生する有害物質を集塵して、浄化した空気を建造物200内の他の区域に排出するためのものである。
【0057】
煙突頭部作業室130は、煙突210の内部に超高圧温水噴射装置400の噴射ノズル420を挿入する作業を行うための空間であり、足場300の周囲に養生シートを取り付けることで、建造物200の外部から隔離密閉された空間である。
【0058】
具体的には、足場300の周囲、天井面、踏み板、および建造物200の屋上面であるRFLに養生シートが取り付けられて、建造物200の外部から隔離密閉された構造で煙突頭部作業室130は形成されている。
【0059】
養生シートは、たとえばプラスチックシート131であって、足場300で囲われた内側面や内側天井面に取り付けられる。また、隣り合うプラスチックシート131は重なるように接合され、煙突頭部作業室130内の空気が外気に漏れないような密閉構造で取り付けられる。
【0060】
煙突頭部作業室130の床面となる踏み板には、厚手、又は2枚以上に重ねられた2重プラスチックシート132が取り付けられる。これは作業者が歩いたり、道具を置いたり、移動したりした際に、養生シートが破損しないためである。
【0061】
また煙突頭部作業室130は、煙突210の頭部に設けられた排気口212に連通するように設けられる。これにより、建造物200の外部から隔離密閉された煙突頭部作業室130内で煙突210の内部に超高圧温水噴射装置400の噴射ノズル420を挿入する作業を行うことができる。
【0062】
煙突頭部集塵排気手段140は、たとえば、煙突頭部作業室130と建造物200の外部とをプラスチックシート131を介して隔てるように設けられる。また煙突頭部集塵排気手段140は、煙突頭部作業室130で発生する有害物質を集塵して、浄化した空気を建造物200の外部に排出するためのものである。
【0063】
なお、足場300で囲われた外側面には、防火性能を備えた防火シート133を設置することができる。これにより、万が一、煙突210の中に燃焼ガスが残留していて引火したとしても、建造物200外部周辺への延焼を防火シート133が防止することができる。
【0064】
さらに、足場300で囲われた内側面や内側天井面に取り付けられたプラスチックシート131や2重プラスチックシート132の外側に、防火シート133を取り付けることで煙突頭部作業室130を2重構造で隔離密閉することができる。これにより、有害物質を含む断熱材220の粉塵が外部に飛散してしまうことを強固に防止することができる。
【0065】
また、足場300で囲われた内側天井面に取り付けられたプラスチックシート131の外側上面に取り付けられる防火シート133aは、足場300の周面の一方側に傾斜させた勾配を設けるとよい。これにより、勾配に沿って雨水が流れるため、雨天時でも天井面の養生シートに雨が貯まって養生シートが破損してしまうことを防止することができる。
【0066】
なお、
図1では、煙突頭部集塵排気手段140を足場300の中階に設けられた踏み板に設置した図で説明しているが、煙突頭部集塵排気手段140に接続されたダクトホースを延長することで、建造物200の屋上面であるRFLや地表面に設置してもよい。
【0067】
上記のように、煙突210の下部に設けられた掻き出し口211は、煙突下部作業室110が設置されて建造物200内の他の区域と隔離される。また、煙突210の頭部に設けられた排気口212は、煙突頭部作業室130が設置されて建造物200の外部と隔離される。
【0068】
これにより、煙突210は、周囲が煙突下部作業室110および煙突頭部作業室130によって隔離密閉された密閉空間を形成することができ、この密閉空間内で有害物質を含む断熱材220の除去作業を行うことができる。
【0069】
除去作業は、煙突210の頭部から超高圧温水噴射装置400の噴射ノズル420を挿入し、超高圧の温水を噴射させながら噴射ノズル420を下方に移動させる。これにより、煙突210の上方から下方に向かって、煙突210の内部に取り付けられた有害物質を含む断熱材220が剥離される。
【0070】
このとき、煙突効果によって剥離された有害物質を含む断熱材220の粉塵が、煙突210の頭部に向かって上昇してしまうことになる。そこで、煙突頭部作業室130に煙突頭部集塵排気手段140を設置することで、上昇した有害物質を含む断熱材220の粉塵を煙突頭部集塵排気手段140が集塵することができる。
【0071】
これにより、煙突効果によって上昇した有害物質を含む断熱材220の粉塵が煙突頭部作業室130内で滞留することがなくなる。よって、作業者は有害物質を含む断熱材220の粉塵が滞留することがない煙突頭部作業室130で快適に作業を行うことができる。
【0072】
また、超高圧温水噴射装置400によって剥離された有害物質を含む断熱材220の粉塵は、重力や落下する超高圧の温水によって下方に移動するものである。下方に移動した有害物質を含む断熱材220の粉塵は、煙突下部作業室110に設置された煙突下部集塵排気手段120によって落下した有害物質を含む断熱材220の粉塵を集塵することができる。
【0073】
これにより、下降してきた有害物質を含む断熱材220の粉塵が煙突下部作業室110内で滞留することがない。よって、作業者は有害物質を含む断熱材220の粉塵が滞留することがない煙突下部作業室110で快適に作業を行うことができる。
【0074】
なお、煙突210の周囲は、煙突下部作業室110および煙突頭部作業室130によって隔離密閉された密閉空間が形成されており、密閉空間内の空気を煙突下部集塵排気手段120および煙突頭部集塵排気手段140によって吸気すると、密閉空間内が負圧になる。これにより、密閉空間内で発生した有害物質を含む断熱材220の粉塵が外部に飛散することがない。
【0075】
また、密閉空間内の空気を煙突下部集塵排気手段120および煙突頭部集塵排気手段140によって吸気しつづけると、過剰な負圧によって煙突下部作業室110や煙突頭部作業室130を形成する養生シートが変形してしまう恐れがある。
【0076】
そこで、養生シートと養生シートとの間や、養生シートと建造物200との間、密閉空間に出入りするためのセキュリティゾーンなどに、外部の空気を取り入れる吸気手段を設けるとよい。セキュリティゾーンについては後述する。
【0077】
このとき、吸気手段から取り入れられる吸気量は、煙突下部集塵排気手段120および煙突頭部集塵排気手段140で集塵後に排気する排気量以下になるようにする。煙突下部集塵排気手段120および煙突頭部集塵排気手段140の排気量よりも、吸気手段から取り入れられる吸気量が小さければ、吸気手段の形状や設置数、設置場所などは任意に設定できる。
【0078】
このように、形成された密閉空間に、吸気手段を設けることで、煙突下部集塵排気手段120および煙突頭部集塵排気手段140で廃棄しながら、密閉空間内を適切な負圧状態に保つことができる。
【0079】
図2は、煙突下部作業室および煙突頭部作業室によって隔離密閉された密閉空間を示す断面図である。
図2に示すように、有害物質飛散防止装置100は、煙突210の頭部と下部とが、煙突下部作業室110および煙突頭部作業室130によって隔離密閉されており、1つの密閉空間C(
図2のグレー塗りつぶし部分)が形成されている。
【0080】
これにより、煙突210内に取り付けられた有害物質を含む断熱材220を剥離しても、有害物質を含む断熱材220の粉塵が建造物200の外部や、建造物200内の他の区域に飛散することがない。
【0081】
また、密閉空間Cの内部の空気を、煙突下部集塵排気手段120および煙突頭部集塵排気手段140で集塵し、密閉空間Cの外部に排気する。これにより、密閉空間Cの内部の気圧が外部の気圧よりも低くなる。このため、密閉空間Cの内部で発生した有害物質を含む断熱材220の粉塵が、密閉空間Cの外部に飛散することがない。
【0082】
図3は、煙突内で超高圧の温水を噴射した際の、空気の流れの一例を示す断面図である。
図3に示すように、超高圧温水噴射装置400によって剥離された有害物質を含む断熱材220の粉塵は、粉塵の重力や、落下する超高圧の温水と共に煙突210の下方に下降していく。下降した有害物質を含む断熱材220の粉塵は、矢印Dのように、煙突下部作業室110に設置された煙突下部集塵排気手段120によって集塵される。
【0083】
これにより、下降してきた有害物質を含む断熱材220の粉塵が煙突下部作業室110内で滞留することがない。よって、作業者は有害物質を含む断熱材220の粉塵が滞留することがない煙突下部作業室110で快適に作業を行うことができる。
【0084】
また、超高圧温水噴射装置400によって剥離された有害物質を含む断熱材220の粉塵は、煙突効果によって、剥離された有害物質を含む断熱材220の粉塵が、煙突210の頭部に向かって上昇する。上昇した有害物質を含む断熱材220の粉塵は、矢印Uのように、煙突頭部作業室130に設置された煙突頭部集塵排気手段140によって集塵される。
【0085】
これにより、煙突効果によって上昇した有害物質を含む断熱材220の粉塵が煙突頭部作業室130内で滞留することがない。よって、作業者は有害物質を含む断熱材220の粉塵が滞留することがない煙突頭部作業室130で快適に作業を行うことができる。
【0086】
図4は、吸気手段の一例であるセキュリティゾーンの構造を示す断面図である。
図4に示すように、密閉空間Cを一定の負圧状態に保つための吸気手段は、たとえば密閉空間Cに出入りするためのセキュリティゾーン150に設けられる。
【0087】
ここでいうセキュリティゾーン150は、剥離された有害物質を含む断熱材220除去作業を行う際の、密閉空間Cである煙突下部作業室110の出入り口に設置されるものであって、作業者が密閉空間Cに出入りする際に使用される出入り口である。
【0088】
煙突下部作業室110には密閉空間C内部の空気を集塵して排気する煙突下部集塵排気手段120が設置されている。煙突下部集塵排気手段120は煙突下部作業室110内の空気から有害物質を含む断熱材220の粉塵をフィルターで取り除き、浄化された空気を、建造物200内の他の区域、又は建造物200の外部に排出している。
【0089】
セキュリティゾーン150は、更衣室151、洗浄室152、および入出室153を備えている。また、更衣室151、洗浄室152、および入出室153は壁などでそれぞれ隔離されており、接合部分に設けられた扉Tを介して、それぞれの部屋を通行することができる。
【0090】
有害物質を含む断熱材220の除去作業を行う作業者が密閉空間Cに入室する場合は、まず更衣室151で作業着に着替える。次に、洗浄室152でエアーシャワーを浴びてホコリ等を落とす。最後に入出室153を通過することで、密閉空間Cである煙突下部作業室110に入室する。
【0091】
逆に、作業者が密閉空間Cである煙突下部作業室110から退室する場合は、入出室153で作業着を脱衣し破棄する。次に、洗浄室152でエアーシャワーを浴びて有害物質を含むホコリ等を落とす。最後に更衣室151で手持ちの衣服に着替える。
【0092】
建造物200内の他の区域、又は建造物200の外部の空気は、密閉空間Cが負圧状態に保たれているため、更衣室151、洗浄室152、入出室153、煙突下部作業室110の順に流れる。
【0093】
煙突下部作業室110に流れ込んだ外部の空気は、煙突下部集塵排気手段120に吸い込まれ、フィルターを通して浄化された空気が建造物200内の他の区域、又は建造物200の外部に排出されるため、排出される空気に有害物質が含まれることはない。
【0094】
このように、セキュリティゾーン150を介して作業者が密閉空間Cに出入りすることで、建造物200内の他の区域、又は建造物200の外部の空気が密閉空間C内に取り込まれる。
【0095】
また、負圧状態の密閉空間Cには、セキュリティゾーン150に設けられた扉Tの隙間などを通って、建造物200内の他の区域、又は建造物200の外部の空気が、更衣室151、洗浄室152、入出室153、煙突下部作業室110の順に流入する。
【0096】
これにより、煙突下部集塵排気手段120および煙突頭部集塵排気手段140によって密閉空間C内が過剰な負圧状態になることを防止することができる。したがって、密閉空間C内が過剰な負圧状態にならないため、煙突下部作業室110や煙突頭部作業室130を形成する養生シートが過剰な負圧状態によって変形してしまうことを防止することができる。
【0097】
吸気手段は、密閉空間Cが過剰な負圧状態ならないように、建造物200内の他の区域、又は建造物200の外部から所定量の空気が吸気できればよく、養生シートと養生シートとの間や、養生シートと建造物200との間に形成された隙間であってもよい。
【0098】
このとき、吸気手段から取り入れられる吸気量は、煙突下部集塵排気手段120および煙突頭部集塵排気手段140で集塵した後に排気する排気量以下になるように、吸気手段の大きさや設置数が決定される。これにより密閉空間内が負圧状態に保つことができる。
【0099】
なお、
図4では、セキュリティゾーン150が煙突下部作業室110の出入り口部分に設けられる例で説明したが、この他にも密閉空間Cに出入りする場所であればよく、煙突頭部作業室130出入り口部分に設けることもできる。
【0100】
以上のように、密閉空間内Cの煙突下部作業室110で煙突下部集塵排気手段120が集塵し、煙突効果で上昇してしまった有害物質を含む空気を、密閉空間内の煙突頭部作業室130で煙突頭部集塵排気手段140が集塵することができる。
【0101】
これにより、煙突効果が生じても有害物質を含む空気が煙突頭部作業室130に滞留することがなく、煙突頭部集塵排気手段140が集塵して浄化した空気を外部に排出することができる。つまり、煙突頭部作業室130で作業する作業者も快適に作業を行うことができる。
【0102】
このため、噴射した高圧力の温水によって一旦上昇した煙突内の温度が下がって、有害物質を含む粉塵が降下するまで待つ必要がなくなり、短期間で有害物質の除去作業を完了することができる。
【0103】
また、煙突効果が生じても煙突頭部作業室130で作業する作業者の作業環境が悪化しないので、煙突210内の汚れや断熱材220が効率よく除去できる温水を使用することができる。これにより、短期間で有害物質を含む断熱材220の除去作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0104】
100 有害物質飛散防止装置
110 煙突下部作業室
111、131 プラスチックシート
112、132 2重プラスチックシート
120 煙突下部集塵排気手段
130 煙突頭部作業室
133、133a 防火シート
140 煙突頭部集塵排気手段
150 セキュリティゾーン
151 更衣室
152 洗浄室
153 入出室
200 建造物
210 煙突
211 掻き出し口
212 排気口
220 断熱材
300 足場
400 超高圧温水噴射装置
410 超高圧温水発生ポンプ
420 噴射ノズル
430 滑車
440 ホースリール
C 密閉空間
D 矢印
H 耐圧ホース
T 扉
RFL 屋上面
U 矢印