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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】圧迫圧推定システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20240704BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
A61B5/00 101N
G01L5/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020183404
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073429
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-10-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)第53回日本生体医工学会東北支部大会、国立大学法人弘前大学、令和元年11月9日講演で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100155882
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154678
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 博子
(72)【発明者】
【氏名】長縄 明大
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼階 淳子
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-082637(JP,A)
【文献】特開2005-227534(JP,A)
【文献】国際公開第2019/159493(WO,A1)
【文献】特表2019-526864(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0015272(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00- 5/01
5/06- 5/22
A61F 13/00-13/14
15/00-17/00
A61H 39/00-39/08
G01L 5/00- 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指に装着され、弾性着衣に対する指の押圧によって変化する値を測定する測定装置と、前記測定装置と接続され、前記測定装置によって測定される値に基づいて前記弾性着衣による圧迫圧の推定値を算出する算出装置と、によって構成される圧迫圧推定システムであって、
前記測定装置は、装置本体と、前記装置本体に取り付けられるひずみセンサとを備え、
前記装置本体は、可撓性かつ弾性特性を有する素材で構成されるとともに、湾曲したアーチ部と、前記アーチ部の両端に位置する一方の端及び他方の端と、前記一方の端及び他方の端にそれぞれ設けられ、互いに対向する方へ突出する突起部とを備え、
前記ひずみセンサは、前記アーチ部に設けられることを特徴とする圧迫圧推定システム。
【請求項2】
前記装置本体は、前記アーチ部にその湾曲に沿った空隙が設けられ、
前記空隙で前記ひずみセンサを保持可能であることを特徴とする請求項1に記載の圧迫圧推定システム。
【請求項3】
前記算出装置は、前記ひずみ電圧と前記圧迫圧との関係式を算出する第1初期設定処理を実行し、前記関係式に基づいて前記圧迫圧の推定値を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の圧迫圧推定システム。
【請求項4】
前記算出装置は、第1指に係る前記第1初期設定処理の後、前記第1指と異なる第2指に係る前記ひずみ電圧を用いて前記第1指に係る前記関係式を補正し、前記第2指に係る前記関係式を算出する第2初期設定処理を実行することを特徴とする請求項3に記載の圧迫圧推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンパ浮腫などの治療で用いられる弾性着衣を着用した際の患部における圧迫圧を推定する圧迫圧推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リンパ浮腫などの治療で用いられる弾性着衣は、リンパを流し易くするため、段階的に圧迫圧を与える必要がある。圧迫が足りない箇所は、弾性着衣の重ね着や、弾性着衣の上に弾性包帯を巻くなど、段階的に圧迫圧が生じるように工夫している。この圧迫圧の評価は、医師やリンパ浮腫セラピストが着衣の上から触診して感覚的に判断するか、又は皮膚と弾性着衣との間に圧迫圧測定装置のセンサ部を入れて圧迫圧を計っている。
【0003】
しかしながら、医師やリンパ浮腫セラピストによる触診では、経験からの定性的な判断になってしまい、定量的な評価ができていない。また、既存の圧迫圧測定装置による測定の場合、弾性着衣の段階的な圧迫圧を測定するためにはセンサ部の位置を変える必要があり、その都度弾性着衣を脱着しなければならず、患者にとって大きな負担となる。更に、既存の圧迫圧測定装置は高価であり、患者自身が購入し、自宅で日常的に利用することは困難である。
【0004】
そこで、患者自らが、弾性着衣の圧迫圧を定量的に評価できるシステムが望まれている。例えば、特許文献1には、化粧を行う際の指の動作を検出する動作検出センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5809452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の動作検出センサは、あくまでも化粧を行う際の指先の圧力や指先の動きを検出するものであり、弾性着衣の圧迫圧を評価する用途は想定されておらず、弾性着衣の圧迫圧を適切に評価することはできない。
【0007】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、患者に負担をかけず、弾性着衣を着用した際の患部における圧迫圧を定量的に評価することが可能な圧迫圧推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための本発明は、指に装着され、弾性着衣に対する指の押圧によって変化する値を測定する測定装置と、前記測定装置と接続され、前記測定装置によって測定される値に基づいて前記弾性着衣による圧迫圧の推定値を算出する算出装置と、によって構成される圧迫圧推定システムであって、前記測定装置は、装置本体と、前記装置本体に取り付けられるひずみセンサとを備え、前記装置本体は、可撓性かつ弾性特性を有する素材で構成されるとともに、湾曲したアーチ部と、前記アーチ部の両端に位置する一方の端及び他方の端と、前記一方の端及び他方の端にそれぞれ設けられ、互いに対向する方へ突出する突起部とを備え、前記ひずみセンサは、前記アーチ部に設けられることを特徴とする圧迫圧推定システムである。本発明によって、患者に負担をかけず、弾性着衣を着用した際の患部における圧迫圧を定量的に評価することが可能となる。
【0009】
前記装置本体は、前記アーチ部にその湾曲に沿った空隙が設けられ、前記空隙で前記ひずみセンサを保持可能であるようにしても良い。これによって、特別な固定装置がなくても、ひずみセンサを保持することができる。
【0010】
また、前記算出装置は、前記ひずみ電圧と前記圧迫圧との関係式を算出する第1初期設定処理を実行し、前記関係式に基づいて前記圧迫圧の推定値を算出するようにしても良い。これによって、患者自らが、自宅で日常的に圧迫圧を評価できる。
【0011】
また、前記算出装置は、第1指に係る前記第1初期設定処理の後、前記第1指と異なる第2指に係る前記ひずみ電圧を用いて前記第1指に係る前記関係式を補正し、前記第2指に係る前記関係式を算出する第2初期設定処理を実行するようにしても良い。これによって、測定装置の数が、関係式を算出する指の数よりも少ない場合であっても、効率的に関係式を算出することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、患者に負担をかけず、弾性着衣を着用した際の患部における圧迫圧を定量的に評価することが可能な圧迫圧推定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】圧迫圧推定システムの概要を示す図
図2】測定装置の装置本体の斜視図
図3】初期設定処理に用いる模型を説明する図
図4】初期設定処理を説明する図
図5】第1初期設定処理の流れを示すフローチャート
図6】第2初期設定処理の流れを示すフローチャート
図7】圧迫圧推定処理の流れを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は圧迫圧推定システムの概要を示す図である。図1に示すように、圧迫圧推定システム1は、指に装着され、弾性着衣に対する指の押圧によって変化する値を測定する1又は複数の測定装置2と、測定装置2と接続され、測定装置2によって測定される値に基づいて弾性着衣による圧迫圧の推定値を算出する算出装置3と、によって構成される。
【0015】
測定装置2は、図2に示す装置本体2aと、装置本体2aに取り付けられるひずみセンサとを備える。装置本体2aは、可撓性かつ弾性特性を有する素材で構成される。例えば、装置本体2aとして樹脂材料や金属材料を用いることができる。装置本体2aは、全体的にアーチ形状を呈し、一方の端21及び他方の端22と、これらの間に位置し湾曲したアーチ部23とを備える。ひずみセンサは、アーチ部23に設けられる。この実施形態においてアーチ部23は略半円形を呈する。また、装置本体2aは、一方の端21及び他方の端22にそれぞれ設けられ、互いに対向する方へ突出する突起部24及び突起部25を備える。
【0016】
この実施形態においてアーチ部23にはその湾曲に沿って空隙26が設けられる。空隙26は装置本体2aの一方の側面27から他方の側面28へと貫通して形成され、この空隙26でひずみセンサを保持可能である。このような空隙26にひずみセンサを配置することによって、特別な固定装置がなくても、ひずみセンサを保持することができる。この実施形態において、空隙26は一方の側面27から他方の側面28へと貫通するようにしているが、一方の側面27又は他方の側面28のいずれかに開口していればよく、必ずしも貫通している必要はない。すなわち、空隙26にひずみセンサを挿入可能な構成であればよい。なお、空隙26は必須の構成ではなく、これが形成されない装置本体2aの場合には、アーチ部23の外側又は内側に直接ひずみセンサを貼り付けて固定することができる。このような測定装置2において、一方の端21及び他方の端22が初期の位置から互いに離間するように広がったとき、アーチ部23の曲率が変化しその変化がひずみセンサによって測定される。
【0017】
上記のような測定装置2は、測定者の手の指先に取り付けることができる。具体的にはひずみセンサを固定した装置本体2aにおいて、一方の端21における突起部24を指腹の一方の側に、他方の端22における突起部25を指腹の他方の側に位置させ、アーチ部23を爪側に位置させる。突起部24及び突起部25で指腹を挟むように測定装置2を測定者の指先に取り付ける。このように取り付けることによって、弾性着衣を着用した患者の患部を指先で押したときに、指腹が左右に広がり装置本体2aの一方の端21と他方の端22とが互いに離間するように移動し、その移動量をひずみセンサで電圧の値として測定することができる。以下では、ひずみセンサで測定される電圧を「ひずみ電圧」と表記する。
【0018】
ひずみセンサは、例えば、株式会社共和電業の「KFGS-1-120-C1-11 L1M2R」を用いることができる。これは、長さが5mm、幅が2mm、ゲージ長さが1mm、ゲージ幅が1mmであり、サイズが非常に小さく、安定性、耐久性もあり、比較的安価である。
【0019】
この実施形態では、ひずみセンサは、キーエンス社のマルチ入力データロガーNR500シリーズのひずみ計測ユニットNR-ST04に接続され、このひずみ計測ユニットが算出装置3に接続される。NR-ST04は、チャンネルが4ch、最大増設時24ch(6ユニット接続時)であるため、5本の指を同時に計測することができる。
【0020】
算出装置3は、PC(「Personal Computer」の略)、タブレット端末、スマートフォン等であり、制御部としてのCPU(「Central Processing Unit」の略)、主記憶部としてのメモリ、補助記憶部としてのHDD(「Hard Disk Drive」の略)やフラッシュメモリ、表示部としての液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ、入力部としてのキーボードやマウス、タッチパネルディスプレイ、有線通信部としての接続ケーブル又は無線通信部としての無線モジュール等を有する。
【0021】
補助記憶部としてのHDDやフラッシュメモリには、OS(「Operating System」の略)、アプリケーションプログラム、処理に必要なデータ等が記憶されている。CPUは、補助記憶部からOSやアプリケーションプログラムを読み出して主記憶部に格納し、主記憶部にアクセスしながら、その他の機器を制御し、後述する処理を実行する。すなわち、算出装置3は、後述する処理に特有のプログラムがインストールされる。
【0022】
測定装置2と算出装置3は、有線接続でも良いし、無線接続でも良い。無線接続の場合、測定装置2も無線通信部としての無線モジュールを有する。また、算出装置3は、インターネットやLAN(「Local Area Network」の略)等のネットワークを介して他のコンピュータと接続され、後述する処理の一部を他のコンピュータに実行させても良い。他のコンピュータは、例えば、データセンター等に配置されるクラウドサーバやLAN内に配置されるサーバ等である。
【0023】
次に、ひずみ電圧と圧迫圧との関係式を算出するための初期設定処理と、関係式を用いて圧迫圧の推定値を算出する圧迫圧推定処理について説明する。初期設定処理では、実際の患部でも良いが、患者への負担が大きいと考えられる場合には、人体の腕や足を模した模型と、既存の圧迫圧測定装置を用いても良い。
【0024】
図3に示すように、模型100は、人体の腕や足の骨を模したアクリル棒101と、人体の腕や足の皮膚表面から骨までの体内組織を模した樹脂102と、によって構成される。図3に示すアクリル棒101は、直径18mmで、硬さがアスカー硬度7.0である。また、図3に示す円筒状の樹脂102は、株式会社エリクシールの二液硬化型の超軟質造形用樹脂の人肌ゲルであり、長さが85mm、直径85mmである。アクリル棒101は、樹脂102の中心部に形成されている貫通孔103に差し込まれている。
【0025】
この実施形態では、既存の圧迫圧測定装置として、Microlab Elettronica Sas社(イタリア)が開発したPicoPress(ピコプレス)を用いる。ピコプレスでは、既知量の空気が入った循環式トランスデューサーが用いられており、トランスデューサーを患部と弾性着衣との間に挟み、空気を注入し検出された圧力を、マイクロプロセッサ・デジタルゲージで測定する。
【0026】
図4に示すように、初期設定処理では、測定者は、測定装置2を指に装着する。圧迫圧推定システム1が複数の測定装置2を備える場合、測定者は、測定装置2を複数の指に装着しても良い。図4に示す例では、測定者は、測定装置2を親指、人差し指、中指及び薬指に装着している。また、測定者又は測定補助者は、模型100に弾性着衣110を巻いた状態で、ピコプレスによって弾性着衣110の圧迫圧を測定できる状態とする。図4に示す弾性着衣110は、弾性包帯であるが、弾性ストッキングや弾性スリーブ等であっても良い。
【0027】
図5は、第1初期設定処理の流れを示すフローチャートである。図5に示すように、測定者は、測定装置2を測定対象の指に装着する(ステップS11)。次に、測定者又は測定補助者は、所定の圧迫圧で弾性着衣110を模型100に巻く(ステップS12)。測定者又は測定補助者は、ピコプレスの測定値を確認しながら、所定の圧迫圧になるように弾性着衣110の巻き具合を調整する。所定の圧迫圧の値は、例えば、20、30、50[mmHg]であり、この場合は、ステップS12からステップS14を3回繰り返すことになる。
【0028】
次に、測定者は、模型100に巻かれた弾性着衣110を指で押圧する(ステップS13)。指による弾性着衣110の押圧は、弾性着衣110の圧迫圧を確認するために行う動作であり、弾性着衣110の硬さを触感によって確認するものである。この実施形態では、この動作を測定に利用する。弾性着衣110の圧迫圧に応じて弾性着衣110の硬さが変化するので、弾性着衣110を押圧した時の指腹の膨らみ具合も変化する。すなわち、弾性着衣110の圧迫圧に応じて、ひずみセンサ2bによって測定されるひずみ電圧の値も変化する。尚、測定者は、測定ごとに押圧する力が変わらないように、一定の力で弾性着衣110を押圧する。
【0029】
次に、測定装置2は、ひずみセンサ2bのひずみ電圧を測定する(ステップS14)。測定装置2はひずみ電圧の値を算出装置3に送信し、算出装置3はひずみ電圧の値を受信し、記憶部に記憶する。
【0030】
算出装置3は、入力部を介して、測定時における弾性着衣110の圧迫圧の値の入力を受け付け、ひずみ電圧の値と圧迫圧の値とを対応付けて記憶部に記憶する。測定者又は測定補助者は、ピコプレスの測定値を確認し、算出装置3に弾性着衣110の圧迫圧の値を入力する。または、算出装置3は、測定対象とする弾性着衣110の圧迫圧の値を予め表示部に表示しておき、測定者又は測定補助者が表示部に表示される値になるように、ステップS12において弾性着衣110の圧迫圧を調整するようにしても良い。この場合、算出装置3は、測定装置2からひずみ電圧の値を受信すると、表示部に表示されている弾性着衣110の圧迫圧の値とひずみ電圧の値を対応付けて記憶部に記憶する。
【0031】
全ての圧力値で測定が終了していない場合(ステップS15のNo)、ステップS12から処理を繰り返し、全ての圧力値で測定が終了した場合(ステップS15のYes)、ステップS16に進む。
【0032】
次に、算出装置3は、記憶部に記憶されているひずみ電圧の値及び圧迫圧の値に基づいて、ひずみ電圧と圧迫圧との関係式を算出する(ステップS16)。
【0033】
ここで、ひずみ電圧と圧迫圧との関係式について説明する。発明者らによる検証によって、物体を指で押圧する力と、その指に装着されたひずみセンサ2bによって測定されるひずみ電圧は、比例関係にあることが分かった。同様に、模型100に巻かれた弾性着衣110の圧迫圧と、その弾性着衣110を測定装置2が装着された指によって押圧した時にひずみセンサ2bによって測定されるひずみ電圧は、比例関係にあることが分かった。そこで、この実施形態における算出装置3は、ひずみ電圧の値及び圧迫圧の値に対して回帰分析を行い、回帰直線式y=ax+b(x:説明変数としての圧迫圧、y:被説明変数としてのひずみ電圧、a:回帰直線式の傾き、b:回帰直線式の切片)をひずみ電圧と圧迫圧との関係式として導出する。
【0034】
測定者が測定装置2を1本の指に装着していた場合、算出装置3は、記憶部に記憶されているひずみ電圧の値及び圧迫圧の値に対して回帰分析を行う。また、測定者が測定装置2を複数の指に装着していた場合、算出装置3は、記憶部に記憶されているひずみ電圧の値を、圧迫圧ごとに平均し、ひずみ電圧の平均値及び圧迫圧の値に対して回帰分析を行っても良いし、指ごとのひずみ電圧の値及び圧迫圧の値に対して回帰分析を行っても良い。所定の圧迫圧が、20、30、50[mmHg]の3パターンであれば、データの組は3つであり、算出装置3は、これら3つのデータの組に対して回帰分析を行う。そして、算出装置3は、算出される回帰直線式の傾きaの値及び切片bの値を記憶部に記憶する。
【0035】
図6は、第2初期設定処理の流れを示すフローチャートである。第2初期設定処理では、算出装置3は、第1指に係る第1初期設定処理の後、第1指と異なる第2指に係るひずみ電圧の値を用いて第1指に係る関係式を補正し、第2指に係る関係式を算出する。これによって、測定装置2の数が、関係式を算出する指の数よりも少ない場合であっても、効率的に関係式を算出することができる。
【0036】
図6に示すように、測定者は、測定装置2を測定対象の指に装着する(ステップS21)。次に、測定者又は測定補助者は、所定の圧迫圧で弾性着衣110を模型100に巻く(ステップS22)。測定者又は測定補助者は、ピコプレスの測定値を確認しながら、所定の圧迫圧になるように弾性着衣110の巻き具合を調整する。所定の圧迫圧の値は、第1初期設定処理における所定の圧迫圧の値のいずれか、例えば、最小値である。
【0037】
次に、測定者は、模型100に巻かれている弾性着衣110を指で押圧し(ステップS23)、測定装置2は、ひずみセンサ2bのひずみ電圧を測定する(ステップS24)。測定装置2はひずみ電圧の値を算出装置3に送信し、算出装置3はひずみ電圧の値を受信し、記憶部に記憶する。
【0038】
次に、算出装置3は、記憶部に記憶されているひずみ電圧の値及び圧迫圧の値に基づいて、ひずみ電圧と圧迫圧との関係式を算出する(ステップS25)。
【0039】
ここで、第2初期設定処理における関係式の算出方法について説明する。発明者らによる検証によって、関係式である回帰直線式は、指によって切片bの値が変動するが、傾きaの値はほとんど変動しない場合があることが分かった。そこで、この実施形態における算出装置3は、第2初期設定処理において算出される第2指の回帰直線式の傾きa2を、第1初期設定処理において算出される第1指の回帰直線式の傾きa1と同じ値とし、第2指の回帰直線式の切片b2を補正する補正値mを算出する。補正値mは、第1初期設定処理及び第2初期設定処理に共通する圧迫圧(=ステップS21の圧迫圧)に関する両者のひずみ電圧の値の差である。そして、算出装置3は、第2指の回帰直線式の切片b2=第1指の回帰直線式の切片b1+補正値mの式によってb2を算出する。これによって、第2初期設定処理に係る第2指については、1つの圧迫圧に対してひずみ電圧を測定するだけで関係式を算出することができ、効率的である。
【0040】
図7は、圧迫圧推定処理の流れを示すフローチャートである。圧迫圧推定処理では、模型100やピコプレスは不要であり、患者が弾性着衣110を身に付けている状態で実行される。
【0041】
図7に示すように、測定者は、測定装置2を測定対象の指に装着する(ステップS31)。次に、測定者は、患部に着用されている弾性着衣110を指で押圧し(ステップS32)、測定装置2は、ひずみセンサ2bのひずみ電圧を測定する(ステップS33)。測定装置2はひずみ電圧の値を算出装置3に送信し、算出装置3はひずみ電圧の値を受信し、記憶部に記憶する。
【0042】
次に、算出装置3は、初期設定処理において導出されるひずみ電圧と圧迫圧との関係式に基づいて、弾性着衣110の圧迫圧の推定値を算出する(ステップS34)。算出装置3は、回帰直線式y=ax+bを変形した、x=(y-b)/aの式の変数yに、ステップS33において測定されるひずみ電圧の値を代入し、算出される変数xの値を弾性着衣110の圧迫圧の推定値とする。
【0043】
以上の通り、この実施形態における圧迫圧推定システム1によれば、患者に負担をかけず、弾性着衣110を着用した際の患部における圧迫圧を定量的に評価することができる。前述の初期設定処理及び圧迫圧推定処理は、患者が弾性着衣110の着脱を行う必要がないため、患者に負担がかからない。また、例えば、前述の初期設定処理は病院等で実施し、圧迫圧推定処理は患者自らが自宅で実施することができるので、患者自らが日常的に圧迫圧を評価できる。したがって、患者自らが、着用している弾性着衣110の圧迫圧が適切であるか否か、あるいは着用中にゆるんだりしていないか等を容易に確認することができる。また、算出装置3は、ひずみ電圧と圧迫圧との関係式に基づいて弾性着衣110の圧迫圧の推定値を算出するので、定量的な評価が可能となる。更に、測定装置2は比較的安価に製作することが可能であり、算出装置3は患者のノートパソコンやスマートフォンにプログラムをインストールすることによって構築することができるので、患者の金銭的な負担も少なくすることができる。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る圧迫圧推定システム等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0045】
1………圧迫圧推定システム
2………測定装置
2a………装置本体
3………算出装置
21………一方の端
22………他方の端
23………アーチ部
24………突起部
25………突起部
26………空隙
27………一方の側面
28………他方の側面
100………模型
101………アクリル棒
102………樹脂
103………貫通孔
110………弾性着衣
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7