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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】多層マイクロニードルパッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20240704BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240704BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240704BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240704BHJP
   A61Q 90/00 20090101ALI20240704BHJP
【FI】
A61M37/00 530
A61M37/00 505
A61K9/70 401
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/40
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/38
A61K47/42
A61K45/00
A61K8/02
A61Q90/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022020822
(22)【出願日】2022-02-14
(65)【公開番号】P2023082642
(43)【公開日】2023-06-14
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】110144965
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519452046
【氏名又は名称】怡定興生醫股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】劉 大佼
(72)【発明者】
【氏名】李 婉華
(72)【発明者】
【氏名】鄭 涵尹
(72)【発明者】
【氏名】廖 怡君
(72)【発明者】
【氏名】連 ▲ブン▼絮
(72)【発明者】
【氏名】尹 心怡
(72)【発明者】
【氏名】徐 英華
(72)【発明者】
【氏名】葉 修鋒
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112999297(CN,A)
【文献】国際公開第2014/077244(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/230175(WO,A1)
【文献】特開2014-018507(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0178138(US,A1)
【文献】国際公開第2017/104144(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179615(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0005606(US,A1)
【文献】国際公開第2010/140401(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第113288882(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
A61K 9/70
A61K 47/36
A61K 47/32
A61K 47/40
A61K 47/10
A61K 47/26
A61K 47/38
A61K 47/42
A61K 45/00
A61K 8/02
A61Q 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イクロニードルパッチの製造方法であって、
基準面と前記基準面から凹むことによって形成された複数の孔とを有するマスタ型を提供する工程(a)と、
針先溶液を前記複数の孔に入れる工程であって、前記針先溶液の固形分は、5wt%よりも大きく且つ40wt%よりも小さく、前記針先溶液は、ヒアルロン酸、ポリビニルピロリドン及び第1炭水化物を含み、ヒアルロン酸の分子量は、2000ダルトン~500000ダルトンの範囲であり、ポリビニルピロリドンに対するヒアルロン酸の重量比は、1:0.8~1:2である工程(b)と、
前記針先溶液を乾燥させて、針先を形成する工程であって、前記針先の表面は、基準面よりも低い工程(c)と、
耐拡散性溶液を前記複数の孔に入れる工程であって、前記耐拡散性溶液が前記針先及び前記基準面を覆うことによって前記耐拡散性溶液の表面と前記基準面との間の垂直距離は、600μm~1500μmであり、前記耐拡散性溶液の固形分は、30wt%より大きく且つ45wt%以下であり、前記耐拡散性溶液の粘度は106250センチポアズ~220000センチポアズであり、前記耐拡散性溶液は、第2炭水化物、ポリビニルアルコール及び2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含み、ポリビニルアルコールに対する前記第2炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3であり、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンに対する前記第2炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3である工程(d)と、
前記耐拡散性溶液を乾燥させて、耐拡散性層を形成する工程であって、前記耐拡散性層は、前記針先及び前記基準面上に形成される工程(e)と、
ベース溶液を前記複数の孔に入れる工程であって、前記ベース溶液が前記複数の孔の中の前記耐拡散性層及び前記基準面上の前記耐拡散性層を覆うことによって、前記ベース溶液の表面と前記基準面との間の垂直距離は、450μm~850μmであり、前記ベース溶液の固形分は、30wt%以上で且つ45wt%よりも小さく、前記ベース溶液の粘度は3000センチポアズ~90000センチポアズであり、前記ベース溶液は、第3炭水化物、ポリビニルアルコール及び2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含み、ポリビニルアルコールに対する前記第3炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3であり、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンに対する前記第3炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3であり、前記ベース溶液の固形分は、前記耐拡散性溶液の前記固形分よりも少ない工程(f)と、
前記ベース溶液を乾燥させて、ベースを形成する工程であって、前記耐拡散性層を、前記針先と前記ベースとに固着させ、前記針先と前記ベースとの間に配置させる工程(g)と、
互いに固着した前記針先、前記耐拡散性層及び前記ベースを前記マスタ型から脱型させて、前記マイクロニードルパッチを得る工程(h)とを含み、
前記マイクロニードルパッチは、
基材部と、
前記基材部から突出した複数の針部とを備え、
前記基材部は、耐拡散性層とベースとを有し、
前記針部のそれぞれは、針先と耐拡散性層とベースとを有し、
前記針部のそれぞれの前記耐拡散性層は、対応する前記針部の前記針先と前記ベースとの間に形成され、
前記基材部の前記耐拡散性層と前記針部の前記耐拡散性層とは、一体構造であり、
前記基材部の前記ベースと前記針部の前記ベースとは、一体構造であり、
前記針部のそれぞれの厚さは、300μm~1000μmであり、
前記基材部の厚さは、210μm~360μmであり、
前記基材部の前記ベースから前記針部の先端に向かう厚さ測定線に沿って、前記針部の厚さに対する、前記針部の前記ベースの厚さと前記針部の前記耐拡散性層の厚さとの合計の厚さ比は、0.54~0.81である、マイクロニードルパッチの製造方法。
【請求項2】
請求項に記載のマイクロニードルパッチの製造方法において、
前記針先溶液は、グリセリン及びポリソルベート20をさらに含むマイクロニードルパッチの製造方法。
【請求項3】
請求項に記載のマイクロニードルパッチの製造方法において、
前記針先溶液の全重量を基準にして、
グリセリンの含有量は、0.005wt%~0.2wt%であり、
ポリソルベート20の含有量は、0.001wt%~0.1wt%であるマイクロニードルパッチの製造方法。
【請求項4】
請求項乃至の何れか1つに記載のマイクロニードルパッチの製造方法において、
前記針先溶液の粘度は、8センチポアズ~25000センチポアズであるマイクロニードルパッチの製造方法。
【請求項5】
請求項乃至の何れか1つに記載のマイクロニードルパッチの製造方法において、
前記工程(b)において、前記第1炭水化物に対するヒアルロン酸の重量比は、1:5~1:8であるマイクロニードルパッチの製造方法。
【請求項6】
請求項乃至の何れか1つに記載のマイクロニードルパッチの製造方法において、
前記工程(d)において、前記耐拡散性溶液の表面と前記基準面との垂直距離は、600μm~850μmであるマイクロニードルパッチの製造方法。
【請求項7】
請求項乃至の何れか1つに記載のマイクロニードルパッチの製造方法において、
前記第1炭水化物は、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、マルトース、ラクトース、デキストリン、マルトデキストリン、β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、グルカン及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、
前記第2炭水化物は、トレハロース、アミロース、アミロペクチン、キチン質、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、キトサン及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、
前記第3炭水化物は、トレハロース、アミロース、アミロペクチン、キチン質、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、キトサン及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるマイクロニードルパッチの製造方法。
【請求項8】
請求項乃至の何れか1つに記載のマイクロニードルパッチの製造方法において、
前記工程(b)において、真空排気又は遠心分離によって前記針先溶液を前記複数の孔に入れる工程と、
前記工程(d)において、真空排気又は遠心分離によって前記耐拡散性溶液を前記複数の孔に入れる工程と、
前記工程(f)において、真空排気又は遠心分離によって前記ベース溶液を前記複数の孔に入れる工程とをさらに含むマイクロニードルパッチの製造方法。
【請求項9】
請求項乃至の何れか1つに記載のマイクロニードルパッチの製造方法において、
前記針先溶液は、有効成分を含み、
前記有効成分は、弱毒ワクチン、不活化ワクチン、ウイルス様粒子、精製サブユニット抗原、組換え抗原、合成ペプチド、組換えベクタ、DNAワクチン、核酸ワクチン、粘膜免疫又は混合ワクチンを含むマイクロニードルパッチの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルパッチ及びその製造方法、より具体的には、美容、医薬又はワクチン分野に適用可能なマイクロニードルパッチ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、経皮薬剤送達は、皮膚吸収によって薬又はワクチンのような有効成分の効果を発揮させる非侵襲的な、注目を集める薬物投与方法となってきている。経皮薬剤送達は、経口投与による、消化器系及び第1肝臓代謝によって生じる薬の分解を避け、皮下注射による恐怖及び苦痛を除去することもできるが、従来の経皮薬剤送達は、皮膚の角質層の疎水性及び負電荷特性のために、水溶性薬物又は水溶性ワクチンには適さない。
【0003】
前述の欠点のため、従来技術は、複数のミクロンサイズのマイクロニードル構造を基材の上に有するマイクロニードルパッチを発展させてきた。それらのマイクロニードル構造は、皮膚の角質層を突き刺すことができ、薬剤又はワクチンを表皮に送達しかつ解放することができる。マイクロニードルパッチによる薬物投与は、経口投与又は皮下注射により生じる多くの問題を解決するだけでなく、薬剤又はワクチンを送達する類型を脂溶性及び水溶性まで拡げることもでき、前述の異なる種類の薬剤又はワクチンを、痛みを生じさせることなく、マイクロニードルパッチのマイクロニードル構造によって表皮又は真皮に直接送達させ且つ解放することができる。
【0004】
マイクロニードルパッチの利点に基づいて、産業がマイクロニードルパッチの発展に活発に費やされている。例えば、特許文献1は、経皮薬剤送達用の埋め込み可能なパッチの製造方法を開示している。その方法は、下記の工程を含んでいる。生分解性キャリアを得るために薬剤を含む生分解性高分子ゲルを充填成形すること、複数の突出支持シャフトを有し、接着剤が塗布された支持基材を製造すること、経皮薬剤送達用の埋め込み可能なパッチを得るために支持基盤の表面の突出支持シャフトを生分解性キャリアに合わせて互いに固着させること。
【0005】
しかしながら、前述の方法は、支持基盤の複数の突出支持シャフトと複数の生分解性キャリアとの間の距離及び正確な位置合わせに関してさらなる考察が必要となり、それにより、製造過程を困難化させる。そのうえ、製造過程中に、支持基盤と生分解性キャリアとを付着させる前に接着剤を塗布する工程が必要であり、そのため、製造過程の複雑さとコストを増大させてしまう。
【0006】
それに加えて、マイクロニードルパッチが特に医薬品有効成分又はワクチン有効成分を送達するために使用される場合、それらの運搬量の管理の仕方が非常に重要になる。一般に、マイクロニードル構造の長さは、100マイクロメータ(μm)~1000μmの範囲にわたり、表皮の厚さは、種々の体の部分の皮膚に依存して変わり、30μm~300μmの範囲であり得る。有効成分の運搬量の所期の効果を発揮するために、運搬される有効成分は、目標の表皮に有効成分が正確に解き放たれるようにマイクロニードル構造の針の先端の近くに限定される必要がある。運搬される有効成分がマイクロニードル構造の全体に広がっている場合には、所期の効果は達成できない。その状況において、所期の効果を実現するために、有効成分の運搬量を増やさなければならず、それは有効成分を浪費することになる。前述の方法は、マイクロニードルパッチにおける医薬品有効成分又はワクチン有効成分の運搬量の効果的な管理方法について何の教示も示唆もなく、従来技術を改善する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】台湾特許出願公開第201400140号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の前述の欠点に基づき、本発明の目的は、有効成分をマイクロニードルパッチの針の先端に効果的に限定し、その運搬量を正確に管理し、製薬及びワクチン分野に適用可能なマイクロニードルパッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するために、本発明は、基材部と基材部から突出する複数の針部とを備えるマイクロニードルパッチを提供する。基材部は、耐拡散性層とベースとを有し、各針部は、針先と耐拡散性層とベースとを有し、各針部の耐拡散性層は、対応する針部の針先とベースとの間に形成され、基材部の耐拡散性層と針部の耐拡散性層とは、一体構造であり、基材部のベースと針部のベースとは、一体構造であり、各針部の厚さは、300μm~1000μmであり、基材部の厚さは、200μm~400μmであり、基材部のベースから針部の先端へ向かう厚さ測定線に沿った、針部の厚さに対する針部のベースの厚さと針部の耐拡散性層の厚さとの厚さ合計の厚さ比は、0.54~0.81であり、針先の材料は、ヒアルロン酸(HA)、ポリビニルピロリドン(PVP)及び第1炭水化物を含み、HAの分子量は、2000ダルトン~500000ダルトンであり、PVPに対するHAの重量比は、1:0.8~1:2であり、耐拡散性層の材料は、第2炭水化物、ポリビニルアルコール(PVA)及び2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)を含み、PVAに対する第2炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3であり、HP-β-CDに対する第2炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3であり、ベースの材料は、第3炭水化物及びPVAとHP-β-CDを含み、PVAに対する第3炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3であり、HP-β-CDに対する第3炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3である。
【0010】
針先、耐拡散性層及びベースの成分、針部及び基材部の厚さ、並びに、針部の厚さに対するベースの厚さと針部の耐拡散性層の厚さとの厚さ合計の厚さ比を同時に管理することによって、耐拡散性層は、耐拡散効果を発揮し、有効成分をベースへ拡散することを防止して針先に限定することができ、有効成分の運搬量を管理すること及び所期の効果の達成に貢献する。
【0011】
本発明によれば、「基材部のベースから針部の先端へ向かう厚さ測定線」は、針部の先端へ向かう、基材部上の針部の先端の突出点の最短距離が厚さ測定線として設定されることを示す。詳しくは、基材部は、針部と反対側の底面を有し、針部の先端へ向かう、底面上の針部の先端の突出点の最短距離が厚さ測定線として設定される。本明細書における「基材部のベースの厚さ」、「針部のベースの厚さ」、「針部の耐拡散性層の厚さ」及び「針先の厚さ」は、すべて厚さ測定線に沿って測定されることによって得られると理解されるべきである。
【0012】
本発明によれば、針層は、グリセロールと、ポリソルベート20(ツイン-20)とをさらに含む。
【0013】
本発明によれば、第1炭水化物は、グルコース、ガラクトース、スクロース、トレハロース、マルトース、ラクトース、デキストリン、マルトデキストリン、β-シクロデキストリン、HP-β-CD、グルカン及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0014】
本発明によれば、第2炭水化物は、トレハロース、アミロース、アミロペクチン、キチン質、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ゼラチン、キトサン及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0015】
本発明によれば、第3炭水化物は、トレハロース、アミロース、アミロペクチン、キチン質、CMC、カルボキシメチルセルロースナトリウム、MC、HEC、HPMC、HPC、ゼラチン、キトサン及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0016】
本発明によれば、針先は、有効成分をさらに含んでいる。有効成分は、医薬品有効成分又はワクチン有効成分であり得る。具体的には、医薬品有効成分は、小分子化合物、生物由来物質、バイオ後続品、蛋白質薬剤又は植物の一部から作られた薬品であってもよい。具体的には、ワクチン有効成分は、弱毒ワクチン、不活化ワクチン、ウイルス様粒子(VLP)、精製サブユニット抗原、組換え抗原、合成ペプチド、組換えベクタ、DNAワクチン、核酸ワクチン、粘膜免疫又は混合ワクチンであり得る。
【0017】
本発明によれば、マイクロニードルパッチの針部の機械的強度は、0.058N/針(N/needle)よりも大きいので、本発明のマイクロニードルパッチは、破損することなく角質層を突き通すことができる。好ましくは、マイクロニードルパッチの針部の機械的強度は、0.14N/針よりも大きい。より好ましくは、マイクロニードルパッチの針部の機械的強度は、0.20N/針よりも大きい。
【0018】
本発明によれば、第1炭水化物に対するHAの重量比は、1:5~1:8である。
【0019】
一実施形態では、針部の厚さ、すなわち、針部の針長さは、400μm~1000μmである。別の実施形態では、針部の厚さは、600μm~900μmである。
【0020】
一実施形態では、針先の厚さは170μm~190μmである。別の実施形態では、針先の厚さは、210μm~240μmである。別の実施形態では、針先の厚さは、170μm~265μmである。別の実施形態では、針先の厚さは、200μm~265μmである。
【0021】
一実施形態では、基材部の耐拡散性層の厚さは、110μm~210μmである。基材部の耐拡散性層は、基材部のうち針部が形成された領域の外側の耐拡散性層を示すと理解されるべきであろう。
【0022】
一実施形態では、基材部の厚さは、200μm~360μmである。別の実施形態では、基材部の厚さは、210μm~360μmである。
【0023】
一実施形態では、基材部のベースの厚さと針部のベースの厚さと針部の耐拡散性層の厚さとの合計は、550μm~1100μmである。別の実施形態では、基材部のベースの厚さと針部のベースの厚さと針部の耐拡散性層の厚さとの合計は、570μm~1100μmである。
【0024】
本発明によれば、前記マイクロニードルパッチの製造方法は、以下の工程を含む。
【0025】
工程(a):基準面と、前記基準面から凹むことによって形成された複数の孔とを有するマスタ型を提供すること。
【0026】
工程(b):針先溶液を前記複数の孔に入れることであって、前記針先溶液の固形分は、5重量パーセント(wt%)よりも大きく且つ40wt%よりも小さく、前記針先溶液は、HA、PVP及び第1炭水化物を含み、HAの分子量は、2000ダルトン~500000ダルトンの範囲であり、PVPに対するHAの重量比は、1:0.8~1:2である。
【0027】
工程(c):前記針先溶液を乾燥させて、針先を形成することであって、前記針先の表面は、基準面よりも低い。
【0028】
工程(d):耐拡散性溶液を前記複数の孔に入れることであって、前記耐拡散性溶液が前記針先及び前記基準面を覆うことによって、前記耐拡散性溶液の表面と前記基準面との間の垂直距離は、600μm~1500μmであり、前記耐拡散性溶液の固形分は、30wt%より大きく且つ45wt%以下であり、前記耐拡散性溶液は、第2炭水化物、PVA及びHP-β-CDを含み、PVPに対する前記第2炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3であり、HP-β-CDに対する前記第2炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3である。
【0029】
工程(e):前記耐拡散性溶液を乾燥させて、耐拡散性層を形成することであって、前記耐拡散性層は、前記針先及び前記基準面上に形成される。
【0030】
工程(f):ベース溶液を前記複数の孔に入れることであって、前記ベース溶液が前記複数の孔の中の前記耐拡散性層及び前記基準面上に形成された前記耐拡散性層を覆うことによって、前記ベース溶液の表面と前記基準面との間の垂直距離は、450μm~850μmであり、前記ベース溶液の固形分は、30wt%以上で且つ45wt%よりも小さく、前記ベース溶液は、第3炭水化物、PVA及びHP-β-CDを含み、PVAに対する前記第3炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3であり、HP-β-CDに対する前記第3炭水化物の重量比は、1:1.8~1:3であり、前記ベース溶液の固形分は、前記耐拡散性溶液の前記固形分よりも少ない。
【0031】
工程(g):前記ベース溶液を乾燥させて、ベースを形成することであって、前記耐拡散性層を、前記針先と前記ベースとに固着させ、前記針先と前記ベースとの間に配置させること。
【0032】
工程(h):互いに固着した前記針先、前記耐拡散性層及び前記ベースを前記マスタ型から脱型させて、前記マイクロニードルパッチを得ること。
【0033】
マイクロニードルパッチの前記製造方法によれば、形成された前記マイクロニードルパッチは、前記有効成分を前記針先に限定して前記ベースへ拡散することを防止し、それにより、前記有効成分を解放する量を正確に管理することに貢献し、前記有効成分の浪費を防止することができる。
【0034】
本発明によれば、前記マスタ型は、硬質マスタ型であってもよく、前記硬質マスタ型の材料は、ガラス、石英、シリコンウェハ、金属、金属酸化物又は金属合金であり得る。前記金属は、それに限定されないが、アルミニウム、銅又はニッケルであり得る。別の実施形態では、前記マスタ型は、軟質マスタ型であってもよく、前記軟質マスタ型の材料は、重合体、金属箔又はフレキシブルガラスであってもよい。前記重合体は、それに限定されないが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)又はポリエーテルスルホン(PES)であり得る。
【0035】
本発明によれば、前記マスタ型の前記複数の孔の形状は、それに限定されないが、円錐形状、角錐形状又は尖塔形状であってもよい。前記マスタ型において、前記マスタ型は、基準面と複数の孔とを有し、各孔は、前記基準面から凹むことによって形成されている。各孔の深さは、75μm~1500μmであり、好ましくは、150μm~1200μmの範囲であり、より好ましくは、175μm~1000μmの範囲であり、より一層好ましくは、200μm~1000μmの範囲である。各孔の最大幅は、38μm~800μmの範囲であり、好ましくは、75μm~650μmの範囲であり、より好ましくは85μm~550μmの範囲である。
【0036】
前記マイクロニードルパッチにおいて、各針部の針形状は、それに限定されないが、円錐形状、角錐形状又は尖塔形状であってもよい。
【0037】
前記マイクロニードルパッチにおいて、前記針部の密度は、1針/cm(needle/cm)~1000針/cmの範囲であってもよく、好ましくは、1針/cm~500針/cmの範囲であってもよい。
【0038】
本発明によれば、針先溶液は、グリセリン及びポリソルベート20をさらに含んでいてもよい。
【0039】
本発明によれば、針先溶液の全重量を基準にして、グリセリンの含有量は、0.005wt%~0.2wt%であり、ポリソルベート20の含有量は、0.001wt%~0.1wt%である。
【0040】
本発明によれば、前記針先溶液の粘度は、25℃で1s-1のずり速度で測定され、前記針先溶液の粘度は、8センチポアズ(cP)~25000cPであり、好ましくは、8cP~20000cPである。
【0041】
本発明によれば、前記耐拡散性溶液の粘度は、25℃で1s-1のずり速度で測定され、前記耐拡散性溶液の粘度は、5000cP~220000cPであり、好ましくは、10000cP~200000cPであり、より好ましくは、30000cP~200000cPである。
【0042】
本発明によれば、前記ベース溶液の粘度は、25℃で1s-1のずり速度で測定され、前記ベース溶液の粘度は、3000cP~100000cPであり、好ましくは、5000cP~100000cPであり、より好ましくは、7000cP~90000cPである。
【0043】
本発明によれば、前記針先溶液、前記耐拡散性溶液及び前記ベース溶液の全ては、ポリマ水溶液であってもよく、前記針先溶液は、有効成分を含むポリマ水溶液である。好ましくは、前記針先溶液の前記固形分は、10wt%~35wt%である。
【0044】
本発明によれば、前記針先溶液、前記耐拡散性溶液及び前記ベース溶液に含まれる高分子材料は、溶解性又は膨潤性材料であってもよい。より具体的には、前記ポリマ材料は、生体適合性材料又は生分解性材料であってもよい。例えば、ポリマ材料は、それに限定されないが、アミロペクチン、でんぷん、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-無水マレイン酸)(PMVE/MA)、CMC、MC、HPMC、HPC、ゼラチン、PVA、PVP、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)、キトサン又はそれらの任意の組み合わせであってもよい。前記ポリマ材料がグルコース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトース、デキストリン、マルトデキストリン、β-シクロデキストリン、HP-β-CD又はグルカンを含む場合、マイクロニードルパッチの機械的強度が増強され得る。そのうえ、マイクロニードルパッチをワクチン分野に適用する場合、前記グルコース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトース又はデキストリン等は、アジュバントにもなり得る。
【0045】
好ましくは、前記工程(b)は、以下の工程をさらに含んでもよい。
【0046】
工程(b1):前記マスタ型上に前記針先溶液を形成し、前記基準面及び前記複数の孔を覆うように前記針先溶液を前記複数の孔に流入させること。
【0047】
工程(b2):前記基準面よりも上方の前記針先溶液を取り除き、前記針先溶液の表面を前記基準面に揃えること。
【0048】
本発明によれば、前記方法は、前記工程(b)において、真空排気又は遠心分離によって前記針先溶液を前記複数の孔に入れることを含む。一実施形態では、前記針先溶液及び前記マスタ型は、前記針先溶液に前記基準面及び前記複数の孔を覆わせるために排気用オーブン内に置かれてもよい。別の実施形態では、前記針先溶液及び前記マスタ型は、前記針先溶液に前記基準面及び前記複数の孔を覆わせるために、一緒に遠心分離されてもよい。ここで、オーブンの圧力は、-700mmHg~-800mmHg、好ましくは、-710mmHg~-760mmHgであってもよく、遠心分離の回転速度は、20xg~20000xg、好ましくは、20xg~12000xgであってもよい。
【0049】
好ましくは、工程(d)は、以下の工程をさらに含んでもよい。
【0050】
工程(d1):前記マスタ型の上に前記耐拡散性溶液を形成し、前記基準面及び前記複数の孔を覆うように前記耐拡散性溶液を前記複数の孔に流入させること。
【0051】
工程(d2):前記耐拡散性溶液のうち前記基準面よりも上方の部分を取り除き、前記耐拡散性溶液の表面と前記基準面との垂直距離を600μm~1500μmにすること。
【0052】
本発明によれば、前記方法は、前記工程(d)において、真空排気又は遠心分離によって前記耐拡散性溶液を前記複数の孔に入れることを含む。一実施形態では、前記耐拡散性溶液及び前記マスタ型は、前記耐拡散性溶液に前記基準面及び前記複数の孔を覆わせるために排気用オーブン内に置かれてもよい。別の実施形態では、前記耐拡散性溶液及び前記マスタ型は、前記耐拡散性溶液に前記基準面及び前記複数の孔を覆わせるために、一緒に遠心分離されてもよい。ここで、オーブンの圧力は、-700mmHg~-800mmHg、好ましくは、-710mmHg~-760mmHgであってもよく、遠心分離の回転速度は、20xg~20000xg、好ましくは、20xg~12000xgであってもよい。
【0053】
好ましくは、前記工程(f)は、以下の工程をさらに含んでもよい。
【0054】
工程(f1):前記マスタ型の上に前記ベース溶液を形成し、前記基準面の上の前記耐拡散性層及び前記複数の孔内の前記耐拡散性層を覆うように前記ベース溶液を前記複数の孔に流入させること。
【0055】
工程(f2):前記ベース溶液のうち前記基準面よりも上方の部分を取り除き、前記ベース溶液の表面と前記基準面との垂直距離を450μm~850μmにすること。
【0056】
本発明によれば、前記方法は、前記工程(f)において、真空排気又は遠心分離によって前記ベース溶液を前記複数の孔に入れることを含む。一実施形態では、前記ベース溶液及び前記マスタ型は、前記ベース溶液に前記基準面の上の前記耐拡散性層及び前記複数の孔内の前記耐拡散性層を覆わせるために排気用オーブン内に置かれてもよい。別の実施形態では、前記ベース溶液及び前記マスタ型は、前記ベース溶液に前記基準面の上の前記耐拡散性層及び前記複数の孔内の前記耐拡散性層を覆わせるために、一緒に遠心分離されてもよい。ここで、オーブンの圧力は、-700mmHg~-800mmHg、好ましくは、-710mmHg~-760mmHgであってもよく、遠心分離の回転速度は、20xg~20000xg、好ましくは、20xg~12000xgであってもよい。
【0057】
好ましくは、工程(b)、工程(d)及び工程(f)において、それぞれ、前記針先溶液、前記耐拡散性溶液及び前記ベース溶液は、それに限定されないが、スリット若しくはスロットダイ塗布、ブレード塗布、スライド塗布、浸漬塗布、インクジェット印刷、ノズル印刷、ディスペンサ又はそれらの任意の組み合わせによって前記マスタ型の上に形成されてもよい。前記工程(b)における前記針先溶液、前記工程(d)における前記耐拡散性溶液及び前記工程(f)における前記ベース溶液は、同じ方法又は異なる方法によって前記マスタ型の上に形成され得る。好ましくは、マイクロニードルパッチの製造方法において、前記針先溶液、前記耐拡散性溶液及び前記ベース溶液は、スリット又はスロットダイ塗布によって順次に前記マスタ型の上に形成されてもよい。より好ましくは、マイクロニードルパッチの製造方法において、前記針先溶液、前記耐拡散性溶液及び前記ベース溶液は、ディスペンサによって順次に前記マスタ型の上に形成されてもよい。
【0058】
一実施形態では、前記工程(b)における前記針先溶液の塗布にスリット又はスロットダイ塗布が適用された場合、コーティングギャップは、1μm~5000μmであってもよく、コーティング速度は、1m/min~100m/minであってもよい。工程のパラメータは、前記針先溶液の特性及び前記マイクロニードルパッチの仕様に応じて調整することができる。前記工程(d)における前記耐拡散性溶液の塗布にスリット又はスロットダイ塗布が適用された場合、コーティングギャップは、1μm~3000μmであってもよく、コーティング速度は、1m/min~100m/minであってもよい。さらに、前記工程(f)の前記ベース溶液の塗布にスリット又はスロットダイ塗布が適用された場合、コーティングギャップは、1μm~3000μmであってもよく、コーティング速度は、1m/min~100m/minであってもよい。工程のパラメータは、前記耐拡散性溶液及び前記ベース溶液の特性及び前記マイクロニードルパッチの仕様に応じて調整することができる。
【0059】
好ましくは、前記工程(b)において、コーティングギャップは、100μm~5000μmであってもよく、コーティング速度は、1m/min~100m/minであってもよく、前記工程(d)において、コーティングギャップは、100μm~3000μmであってもよく、コーティング速度は、1m/min~100m/minであってもよく、前記工程(f)において、コーティングギャップは、100μm~3000μmであってもよく、コーティング速度は、1m/min~100m/minであってもよい。
【0060】
本明細書において、「未乾燥膜厚」とは、液体が前記マスタ型の上に配置されて、前記マスタ型の前記複数の孔を覆った後の前記液体の表面と前記マスタ型の基準面との間の垂直距離を示す。例えば、「前記耐拡散性溶液の未乾燥膜厚が600μm~1500μmである」は、前記耐拡散性溶液が前記マスタ型に入れられて前記針先を覆った後に前記耐拡散性溶液の表面と前記マスタ型の前記基準面との間の垂直距離が600μm~1500μmであることを示す。好ましくは、前記工程(d)において、前記耐拡散性溶液の表面と前記基準面との間の垂直距離は、600μm~850μmである。
【0061】
本発明によれば、前記工程(c)、前記工程(e)及び前記工程(g)は、凍結乾燥又は室温での乾燥によってなされてもよい。好ましくは、前記工程(c)、前記工程(e)及び前記工程(g)における乾燥温度は、-80℃~100℃であってもよい。より具体的には、製薬分野のマイクロニードルパッチを製造する場合は、100℃を超える乾燥温度によって引き起こされる分子構造の破壊による医薬品有効成分の不活性化を防止するために、前記工程(c)、前記工程(e)及び前記工程(g)における乾燥温度は、-80℃~100℃であってもよい。一方、ワクチン分野のマイクロニードルパッチを製造する場合は、40℃を超える乾燥温度によって引き起こされるワクチンの不活性化を防止するために、前記工程(c)、前記工程(e)及び前記工程(g)における乾燥温度は、-80℃~40℃であってもよい。
【0062】
本明細書において、「前記ベース溶液の未乾燥膜厚が450μm~850μmである」は、前記ベース溶液が前記マスタ型に入れられて前記耐拡散性層を覆った後に前記ベース溶液の表面と前記マスタ型の前記基準面との間の垂直距離が450μm~850μmであることを示す。好ましくは、前記工程(f)において、前記ベース溶液の表面と前記基準面との間の垂直距離は、450μm~750μmである。
【0063】
適用において、前記針部の長さを調整することによって、前記マイクロニードルパッチが表皮の下の神経系に到達しないようにすることができる、それにより、使用時の恐怖及び痛みが低減される。
【0064】
本明細書では、特段の説明が無い場合、「下限値~上限値」で表される範囲は、下限値以上で且つ上限値以下の範囲を示す。例えば、「厚さが300μm~1000μmである」は、厚さの範囲が「300μm以上で且つ1000μm以下」であることを示す。
【0065】
本発明のその他の目的、利点及び新規の特徴は、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明からより明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1図1は、実施例に係るマイクロニードルパッチの耐拡散性層が所期の耐拡散効果を有することを説明するための概要図である。
図2図2は、比較例に係るマイクロニードルパッチの耐拡散性層が所期の耐拡散効果を有さないことを説明するための概要図である。
図3図3A図3Cは、本明細書における未乾燥膜厚の定義を説明するための概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
本発明の実施を説明するために、いくつかのマイクロニードルパッチ及びその製造方法を以下に例示する。当業者は、本明細書に開示された内容に従って、本発明の利点及び効果を容易に理解できる。本発明を実践又は適用するために、本発明の真意及び範囲を逸脱することなく、様々な変更及び変形がなされるだろう。
【0068】
〈試薬の解説〉
1.ヒアルロン酸(HA)、分子量:100000ダルトン、ECHO CHEMICAL CO.,LTD.から購入
2.ポリビニルピロリドン(PVP)、WEI MING PHARMACEUTICAL MFG.CO.,LTD.から購入
3.スクロース、ECHO CHEMICAL CO.,LTD.から購入
4.トレハロース、ECHO CHEMICAL CO.,LTD.から購入
5.ポリビニルアルコール(PVA)、YES TOP APPLIED MATERIALS CO.,LTD.から購入
6.2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)、製品名:Cavitron W7 HP7 Pharm、SHANG KO BIOMED CO.,LTD.から購入
7.グリセリン、ECHO CHEMICAL CO.,LTD.から購入
8.ポリソルベート20(ツイン-20)、製品名:MASEMUL PS 20、YUE BA ENTERPRISE CO.,LTD.から購入。
【0069】
〈ポリマ材料の準備〉
本発明は、針先の針先溶液、耐拡散性層の耐拡散性溶液及びベースのベース溶液を準備するために、ポリマ材料の3つの異なる混合物を準備した。表1は、A,B,Cで示されるポリマ材料の成分と重量比を示している。
【0070】
【表1】
【0071】
〈試験例1:粘度評価〉
この試験例では、適切な量のポリマ材料A,B,Cが異なる溶媒に溶かされ、異なる固形分を含む針先溶液、耐拡散性溶液及びベース溶液がそれぞれ準備された。その際に、グリセリン及びツイン-20が表2に従ってさらに加えられ、試験例が得られた。ここで、ポリマ材料Aは、リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶かされ、ポリマ材料B,Cは、脱イオン水(DI水)に溶かされた。例として実施例1の針先溶液を見ると、針先溶液は、10wt%のポリマ材料A、0.0067wt%のグリセリン、0.011wt%のツイン-20及びその他はPBSを含んでいた。また、例として実施例1の耐拡散性溶液を見ると、耐拡散性溶液は、40wt%のポリマ材料C及び60wt%のDI水を含んでいた。さらに、例として実施例1のベース溶液を見ると、ベース溶液は、35wt%のポリマ材料C及び65wt%のDI水を含んでいた。
【0072】
次に、試験例の粘度が、25℃で1s-1のずり速度で粘度計(モデル:MCR302、購入元:Anton Parr)によって測定され、表2に示された。
【0073】
〈実施例1~9:マイクロニードルパッチ〉
表2に示されるように、前述の針先溶液、耐拡散性溶液及びベース溶液が採用され、下記の方法によって実施例1~9のマイクロニードルパッチがそれぞれ用意された。
【0074】
まず、基準面及び複数の孔を有するマスタ型が採用された。複数の孔は、基準面から凹んで形成され、マスタ型上に配列されていた。マスタ型の材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であり、複数の孔の密度は、266孔/cmであり、配列された複数の孔の範囲は、直径1.5cmの円であり、各孔の形状は、角錐状であった。実施例1~8では、各孔の深さ、即ち、各孔の先端と基準面との垂直距離は、約580μm~620μmであり、各孔の最大幅、即ち、基準面に配列された各孔の断面の最大の内径は、約290μm~310μmであった。実施例9では、各孔の深さ、即ち、各孔の先端と基準面との垂直距離は、約880μm~920μmであり、各孔の最大幅、即ち、基準面に配列された各孔の断面の最大の内径は、約440μm~460μmであった。
【0075】
次に、ディスペンサによって、0.1mlの針先溶液がマスタ型に滴下され、その複数の孔を覆った。それから、針先溶液と共にマスタ型が真空排気のために真空オーブンに入れられ、圧力が-730mmHg~-760mmHgまで下げられ、これにより、針先溶液が基準面から複数の孔の中へ流下し、基準面及び全ての孔を覆った。ここで、この工程は、遠心分離によって実行されてもよい。例えば、針先溶液と共にマスタ型は、遠心機に入れられ、それから、2300xgで6分間遠心分離され、針先溶液が基準面から複数の孔の中へ流下し、基準面及び全ての孔を覆った。その後、基準面の上方の針先溶液がブレードによって全て取り除かれ、針先溶液と共にマスタ型が、30℃で相対湿度(RH)20%~65%の環境下に入れられ、針先溶液が針先になるように乾燥された。ここで、実施例1~9のマイクロニードルパッチの針先の厚さ(乾燥膜厚)は、孔の先端と針先の表面との垂直距離を示し、針先の表面が平面でなく凹面の場合、針先の厚さ(乾燥膜厚)は、孔の先端と凹面の最下点との垂直距離となるであろう。実施例1~9のマイクロニードルパッチのマスタ型の孔の深さに対する針先の厚さの比、即ち、針部の厚さに対する針先の厚さの比が以下の表3に示される。
【0076】
次に、針先が形成されたマスタ型にディスペンサによって0.8mlの耐拡散性溶液が滴下され、耐拡散性溶液が複数の孔を覆った。そして、耐拡散性溶液と共にマスタ型が遠心機に入れられ、それから、2300xgで6分間遠心分離され、耐拡散性溶液が基準面から複数の孔の中へ流下し、基準面及び全ての孔内の針先を覆った。その後、耐拡散性溶液のうち基準面の上方の部分がブレードによって取り除かれ、表2に示される、耐拡散性溶液の未乾燥膜厚が得られた。例えば、耐拡散性溶液の未乾燥膜厚が700μmであることは、基準面と耐拡散性溶液の表面との垂直距離が700μmであったことを示す。それから、耐拡散性溶液と共にマスタ型が、30℃でRH20%~65%の環境下に24時間~48時間入れられ、耐拡散性溶液が耐拡散性層になるように乾燥された。耐拡散性層は、針先及び基準面に固着し、針先及び耐拡散性層を有するマスタ型が得られた。
【0077】
次に、針先及び耐拡散性層が形成されたマスタ型にディスペンサによって0.8mlのベース溶液が滴下され、ベース溶液が複数の孔を覆った。そして、ベース溶液と共にマスタ型が遠心機に入れられ、それから、2300xgで40分間遠心分離され、ベース溶液が基準面から複数の孔の中へ流下し、基準面上の耐拡散性層及び全ての孔内の耐拡散性層を覆った。その後、ベース溶液のうち基準面の上方の部分がブレードによって取り除かれ、表2に示される、ベース溶液の未乾燥膜厚が得られた。それから、ベース溶液と共にマスタ型が、30℃でRH20%~65%の環境下に24時間~48時間入れられ、ベース溶液がベースになるように乾燥された。ベースは、耐拡散性層に固着し、すなわち、針部の耐拡散性層は、針部の針先とベースとの間に配置され、それらに固着し、最終生成物を有するマスタ型が得られた。ここで、ベースの表面における孔の先端の突出点の、先端に向かって延びる方向の最短距離が厚さ測定線として設定された場合、実施例1~9のマイクロニードルパッチの針部の厚さ(即ち、マスタ型の孔の深さ)に対する、針部のベースの厚さと針部の耐拡散性層の厚さとの合計(即ち、針先の表面と基準面との垂直距離)の厚さ比は、下記の表3に示される。さらに、実施例1~9のマイクロニードルパッチの基材部の厚さ(即ち、ベースの表面と基準面との間の垂直距離)も、下記の表3に示される。
【0078】
最後に、最終生成物を有するマスタ型から最終生成物が脱型され、実施例1~9のマイクロニードルパッチが得られた。説明のため、上述のマイクロニードルパッチの製造方法では、針先溶液は、医薬品有効成分又はワクチン有効成分を含み得る。
【0079】
図1に示されるように、本発明のマイクロニードルパッチは、基材部12と、基材部12から突出する複数の針部11とを備えている。基材部12は、基材部122の耐拡散性層と基材部123のベースとを有し、各針部11は、針先111と、針部112の耐拡散性層と、針部113のベースとを有し、針部112の耐拡散性層は、針先111と針部113のベースとの間に形成されている。基材部122の耐拡散性層及び針部112の耐拡散性層は、一体構造であり、基材部123のベース及び針部113のベースは、一体構造である。厚さ測定線Lは、基材部のうち針部と反対側の底面の上の針部の先端の突出点と先端との最短距離であり、厚さ測定線Lは、基材部123のベースの厚さH123、針部113のベースの厚さH113、針部112の耐拡散性層の厚さH112及び針先111の厚さH111を測定するために用いられる。図1に示されるように、厚さ測定線Lに沿って測定された場合、基材部123のベースの厚さH123は、基材部122の耐拡散性層と基材部123のベースとの合計厚さと等しく、基材部12の厚さと簡略化され得る。厚さ測定線Lに沿って測定された場合、針部113のベースの厚さH113、針部112の耐拡散性層の厚さH112及び針先111の厚さH111の合計は、針部11の厚さである。実施例1~9のマイクロニードルパッチにおける、マスタ型の孔の深さ(即ち、針部の厚さ)に対する、針部113のベースの厚さH113と針部112の耐拡散性層の厚さH112との合計の比も、表3に掲載されている。それに加えて、厚さ測定線Lに沿って測定された場合、基材部123のベースの厚さH123、針部113のベースの厚さH113及び針部112の耐拡散性層の厚さH112の合計は、550μm~1100μmであった。
【0080】
さらに、次のように、未乾燥膜厚の意味を具体的に説明するために、マイクロニードルパッチの耐拡散性層及びベースの製造工程並びに図3A図3Cが採用された。
【0081】
図3Aに示されるように、針先を含むマスタ型30は、基準面301と、基準面301から凹むことによって形成された複数の孔302と、複数の孔302の中に形成された針先311とを有していた。
【0082】
次に、図3Bに示されるように、耐拡散性溶液32Aが複数の孔302に入れられ、針先311の表面及び基準面301を覆った。ここで、耐拡散性溶液32Aの表面32Bと基準面301との垂直距離H1が、耐拡散性溶液32Aの未乾燥膜厚である。
【0083】
次に、図3Cに示されるように、耐拡散性溶液32Aは、針先311の表面の上に針部312の耐拡散性層、及び、基準面301の上に基材部322の耐拡散性層を形成した。その後、ベース溶液33Aが複数の孔302に入れられ、針部312の耐拡散性層の表面及び基材部322の耐拡散性層の表面を覆った。ここで、ベース溶液33Aの表面33Bと基準面301との垂直距離H2がベース溶液33Aの未乾燥膜厚である。
【0084】
〈比較例1,2:マイクロニードルパッチ〉
比較例1,2のマイクロニードルパッチの製造方法は、実施例8の製造方法と類似していた。主な違いは、比較例1,2のマイクロニードルパッチのベース溶液の未乾燥膜厚が実施例8と異なっていることであった。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
〈試験例2: 機械的強度評価〉
実施例1~9及び比較性1、2のマイクロニードルパッチは、2日間、防湿箱に入れられ、その後、万能試験機(モデル:3343、購入先:INSTRON)によって各マイクロニードルパッチの機械的強度が測定された。この試験例では、変位が10mmに設定され且つ速度が66mm/minに設定された圧縮試験が行われ、毎秒500圧縮応力値が同時に得られた。実施例1~9及び比較例1,2のマイクロニードルパッチの機械的強度は、表3に掲載されている。
【0088】
表3の結果によれば、実施例1~9のマイクロニードルパッチの機械的強度は全て、0.058N/針よりも高く、これにより、破損することなく角質層を突き通すことができるだろう。さらに、実施例2~9のマイクロニードルパッチの機械的強度は全て、0.2N/針よりも高く、実施例9のマイクロニードルパッチは0.3N/針という最高の機械的強度を有する。それに対し、比較例2のマイクロニードルパッチの機械的強度は、たった0.05N/針であり、明らかに角質層を突き通すことが難しく、破損しやすく、それにより、マイクロニードルパッチの仕様に悪影響を及ぼす。
【0089】
〈試験例3:耐拡散性評価〉
この試験例では、2色での蛍光観察方法が採用され、針先の有効成分がベースへ拡散することを耐拡散性層が効果的に防止し、それにより、マイクロニードルパッチの針先の有効成分の運搬量が管理できたか評価された。実施例1~9及び比較例1,2のマイクロニードルパッチの準備工程の際に、緑色蛍光が29.6μg/mlの濃度で針先溶液に加えられ、赤色蛍光が29.6μg/mlの濃度でベース溶液に加えられた。実施例1~9及び比較例1,2のマイクロニードルパッチが得られた後、各マイクロニードルパッチが倒立蛍光光学顕微鏡(モデル:NIB410-FL、購入元:NEXCOPE)に入れられ、層の間で拡散が起こったか観察された。倒立蛍光光学顕微鏡での観察によってベースが赤色蛍光を示すままであれば、針先の緑色蛍光が拡散しなかったことを意味する。図1に示されるマイクロニードルパッチ1の針部11のように、針部112の耐拡散性層は、有効成分を針先111に制限する耐拡散効果を有し、そのような結果は表3において“〇”で示された。一方、ベースがオレンジ蛍光を示す場合には、針先の緑色蛍光がベースに拡散し、ベースの赤色蛍光と混ざったことを意味する。図2で示されるマイクロニードルパッチ2の針部21のように、針部212の耐拡散性層は、耐拡散効果を有さないため、有効成分が針先211から基材部223のベースへ分散し、そのような結果は表3において“×”で示された。
【0090】
表3の結果によれば、実施例1~9の全てのマイクロニードルパッチは、有効成分が針先からベースに拡散することを効果的に防止できた。一方、比較例1,2のマイクロニードルパッチは両方とも、有効成分が針先からベースに拡散することを効果的に防止できなかった。特に、比較例1のマイクロニードルパッチは、角質層を突き通すことができる機械的強度を有するものの、それでも有効成分が針先からベースへ拡散することを防止することはできず、そのため、有効成分を備えるマイクロニードルパッチの効果に悪影響を及ぼす。
【0091】
結果として、針先、耐拡散性層及びベースの成分及び厚さを調整することによって、本発明に係るマイクロニードルパッチは、使用のためになる良好な機械的強度を有するだけでなく、運搬される有効成分を針先に限定するために有効成分が針先からベースへ拡散することを効果的に防止し、それにより、有効成分を目標の位置へ正確に解き放つことができると共に所期の効果を確実に達成することができる。
【0092】
本発明の多数の特質及び利点が本発明の詳細な構造及び特徴と共に前記説明で説明されたが、前記説明は例示に過ぎない。添付の請求の範囲で表現される用語の一般的な広い意味によって示される最大限の本発明の原理の範囲内で、細部、特に、部分の形状、大きさ及び配置において変更がなされてもよい。
図1
図2
図3A
図3B
図3C