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特許7514563オルガノイドおよび抗炎症剤を含む炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】オルガノイドおよび抗炎症剤を含む炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/38 20150101AFI20240704BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240704BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240704BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 38/02 20060101ALN20240704BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALN20240704BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALN20240704BHJP
   A61K 47/68 20170101ALN20240704BHJP
   A61K 31/713 20060101ALN20240704BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20240704BHJP
【FI】
A61K35/38
A61P1/04
A61P29/00
A61K39/395 D
A61K39/395 U
A61K39/395 N
A61P43/00 121
A61K38/02
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K47/68
A61K31/713
A61K45/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022568869
(86)(22)【出願日】2022-09-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-29
(86)【国際出願番号】 KR2022013907
(87)【国際公開番号】W WO2023043272
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】10-2021-0124721
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519427985
【氏名又は名称】オルガノイドサイエンシーズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ORGANOIDSCIENCES, LTD.
【住所又は居所原語表記】(SAMPYEONG-DONG, KOREA PAPERLESS TRADE CENTER), 6F, 338 PANGYO-RO, BUNDANG-GU, SEONGNAM-SI, GYEONGGI-DO, 13493, REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジュン‐ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ヘミ
(72)【発明者】
【氏名】イム,テギュ
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ハヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハン・ギョン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヒョギョン
(72)【発明者】
【氏名】タク,ジ・ヘ
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/161089(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/179469(WO,A1)
【文献】特表2003-503360(JP,A)
【文献】国際公開第2020/235944(WO,A1)
【文献】医学のあゆみ,2021年02月06日,Vol.276, No.6,pp.662-666
【文献】Regenerative Therapy,2020年,Vol.13,pp.1-6
【文献】医学のあゆみ,2020年,Vol.275, No.2,pp.208-213
【文献】IBD Research,2020年,Vol.14, No.3,pp.166-171
【文献】医学のあゆみ,2019年,Vol.270, No.11,pp.1049-1052
【文献】医学のあゆみ,2021年03月,Vol.276, No.11,pp.1063-1066
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象体における体重減少、便の硬さ、および糞便潜血からなる群から選択される1つまたは複数の症状を改善または緩和するため、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を含む、薬学組成物であって、
ここで、TNFα抑制剤は、TNFαタンパク質に対して特異的に結合する抗体であり、
前記対象体は、虚血性大腸炎、ベーチェット大腸炎、クローン病、潰瘍性大腸炎および潰瘍性直腸炎からなる群より選ばれる一つ以上を有する、薬学組成物。
【請求項2】
前記組成物は、DAI(Disease activity index)を減少させるものである、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記組成物は、炎症による線維化を抑制または緩和させるものである、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤は、同時に、順次にまたは個別的に前記対象体に投与されるものである、請求項1に記載の薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を含む炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患は、大腸、直腸など、腸の多様な部位で炎症の発生および回復が繰り返される慢性疾患である。再発がありふれ、慢性的な下痢、腹痛、血便、体重減少などの症状を表し、炎症により腸粘膜に線維化が進行することが特徴である。腸線維化が発生すると、腸の長さが短くなり、かつ固くなるが、変化した腸組職により栄養分の吸収が遅延され、ひどい場合、腸狭窄が発生することもある。
【0003】
現在、炎症性腸疾患の治療は、炎症を減少させ、血便、下痢などの症状を改善することを主な目的とする。薬物としては、免疫調節剤、抗炎症剤、ステロイド剤などが使用されている。例えば、クローン病の治療には、抗炎症剤またはステロイドが多回投与される形態で使用されている。ただし、炎症性腸疾患は、原因が明らかではない慢性難治性疾患であるため、薬物治療により症状の改善効果がない場合が多く、根本的な治療ではなく炎症減少が主要治療機序である薬物であるので、持続的な薬物投与(寛解保持)および免疫力の減少により感染を引き起こす可能性がある。したがって、薬物治療で効果がないか、狭窄、穿孔、大腸癌などの余病が発生する場合には、手術が施行され、例えば、クローン病は、炎症が生じた一部分を切り出す手術、潰瘍性大腸炎は、大腸を除去する手術が行われている。手術の場合には、炎症部位を完全に除去するという点で治療効果は高いものの、日常生活に不便が従う問題点がある。
【0004】
これによって、炎症性腸疾患を根本的に治療するための薬物の開発が活発に研究されている。一例として、幹細胞などの生物学的製剤を活用して、繰り返した炎症により損傷した組職を再生する治療方法が研究されている。ただし、幹細胞治療剤の場合、幹細胞を投与した臨床試験の結果で損傷した組職の改善程度が微々たるか、またはその改善効果も長く持続できないという問題点が確認されており、長期追跡観察の結果、移植された成体幹細胞が移植後に生体内で長期間生存する割合が極めて低いという点等が限界として指摘されている。炎症性腸疾患の治療に使用される生物学的製剤の効能を増進させ、さらに再発率を低めた治療剤の開発が至急な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、炎症性腸疾患の治療に使用された既存の薬物の短所を改善することで、これを再発なしに治療する方法に対する研究を進めた。その結果、腸オルガノイドおよび抗炎症剤であるTNFα抑制剤を併用する場合、これらを単独で使用することに比べて体重減少、下痢、血便、腸線維化などの治療にシナジー効果を示し、特に、TNFα抑制剤を多回投与することより顕著に優れた治療効果を示すことができることを実験的に立証することから本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一様態は、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を含む炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0007】
本明細書において使用する「オルガノイド」なる用語は、3次元立体構造を有する細胞の塊を意味し、器官または組職から分離した細胞を3次元培養を通じて製造した臓器類似体を意味する。オルガノイドは、器官または組職を構成する特異的細胞集団を含んでおり、実際組職または器官と類似した形態で構造的組織化がなされているので、各組職または器官が有する特殊な形態および機能を再現することができる。
【0008】
本明細書において使用する「腸オルガノイド」なる用語は、腸から分離した細胞から由来したオルガノイドを意味する。好ましくは、前記腸(intestinal)は、小腸(small intestine)、大腸(large intestine)、結腸(colon)、直腸(rectum)および盲腸(caecum)をすべて含み、前記腸オルガノイドは、小腸オルガノイド、大腸オルガノイド、結腸オルガノイド、直腸オルガノイドおよび盲腸オルガノイドをすべて含む。
【0009】
本明細書において使用する「TNFα」なる用語は、腫瘍壊死因子-α(tumor necrosis factor-α)と呼ばれるサイトカインを意味する。
【0010】
好ましくは、前記TNFα抑制剤は、化合物、タンパク質、融合タンパク質、化合物-タンパク質複合体、薬物-タンパク質複合体、抗体、化合物-抗体複合体、薬物-抗体複合体、アミノ酸、ペプチド、ウイルス、炭水化物、脂質、核酸、抽出物、分画物などを制限なく含む。本明細書において、前記「抑制剤」は、「阻害剤」または「拮抗剤(antagonist)」と相互交換的に使用されることができ、「抑制」また「阻害」と相互交換的に使用されることができる。
【0011】
前記TNFα抑制剤は、例えば、TNFαタンパク質に特異的に結合する化合物、ペプチド、ペプチドミメティクス、融合タンパク質、抗体、アプタマー、抗体-薬物複合体(ADC;Antibody Drug Conjugate)などを含むことができ、これに制限されるものではない。
【0012】
本明細書において使用する「特異的」なる用語は、細胞内で他のタンパク質に影響を及ぼさず、目的タンパク質にのみ結合する能力を意味する。
【0013】
本明細書において使用する「抗体」なる用語は、単一クローン抗体、多クローン抗体、二重特異的抗体、多重特異的抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体を含み、新規抗体の他に既に当該技術の分野において公知になっているか、または市販の抗体も含まれる。前記抗体は、TNFαタンパク質に特異的に結合する限り、2本の重鎖と2本の軽鎖を含む全長の形態だけでなく、抗体分子の機能的な断片を含む。前記抗体分子の機能的な断片は、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、ここには、Fab、F(ab´)、F(ab´)、Fvなどが含まれ得るが、これに制限されるものではない。「ペプチドミメティクス(Peptide Minetics)」なる用語は、TNFαの活性化役目を行う、タンパク質結合ドメインを抑制するペプチドまたは非ペプチドである。「アプタマー(Aptamer)」なる用語は、それ自体で安定した三次構造を有しながら、標的分子に高い親和性と特異性で結合できる特徴を有する一本鎖核酸(DNA、RNAまたは変形核酸)を意味する。
【0014】
前記TNFα抑制剤は、例えば、TNFα遺伝子のDNAまたはmRNAに相補的に結合するアンチセンス核酸、siRNA、shRNA、miRNA、リボザイムなどを含むことができ、これに制限されるものではない。
【0015】
本明細書において使用する「アンチセンス核酸」なる用語は、特定mRNAの配列に対して相補的な核酸配列を含有しているDNA、RNA、またはこれらの断片または誘導体を意味し、mRNAの配列に相補的に結合またはハイブリダイズしてmRNAのタンパク質への翻訳を阻害する作用をする。「siRNA(低分子の干渉RNA(small interfering RNA))」なる用語は、特定mRNAの切断(cleavage)を通してRNAi(RNA干渉(RNA interference))を誘導できる短い二重鎖RNAを意味する。siRNAは、標的遺伝子のmRNAと相同な配列を有するセンスRNA鎖と、これと相補的な配列を有するアンチセンスRNA鎖を含む。siRNAは、標的遺伝子の発現を抑制できるので、遺伝子ノックダウン方法または遺伝子治療方法などに使用される。「shRNA(短ヘアピンRNA(short hairpin RNA))」なる用語は、一本鎖RNAであって、水素結合により二重鎖部分を形成するステム(stem)部分と、環状を帯びるループ(loop)部分とに区分されるRNAを意味する。ダイサー(Dicer)などのタンパク質によりプロセッシングされてsiRNAに変換され、siRNAと同一の機能を遂行することができる。「miRNA(マイクロRNA(micro RNA))」なる用語は、標的RNAの分解を促進するか、またはこれらの翻訳を抑制させることで遺伝子発現を転写後に調節する21~23ntの非コーディングRNAを意味する。「リボザイム(ribozyme)」なる用語は、特定塩基配列を認識して自体的にそれを切断する酵素のような機能を有したRNA分子を意味する。リボザイムは、ターゲットメッセンジャーRNA鎖の相補的な塩基配列で特異性を有して結合する領域と、ターゲットRNAを切断する領域とで構成される。
【0016】
前記TNFαのDNAまたはmRNAに相補的に結合するアンチセンス核酸、siRNA、shRNA、miRNA、リボザイムなどは、TNFαの転写、細胞質内への転位(translocation)、成熟(maturation)、または翻訳など、他の任意のTNFαの生物学的機能に対する必須な活性を阻害できる。
【0017】
本発明による薬学組成物は、TNFα抑制剤を有効量で含み、炎症性腸疾患の予防または治療を必要とする対象体に投与されてよい。
【0018】
本明細書において使用する「予防」なる用語は、本発明による薬学組成物の投与により炎症性腸疾患を抑制または遅延させるすべての行為を意味する。また、「治療」なる用語は、本発明による薬学組成物の投与により炎症性腸疾患が好転するか、または完治されるすべての行為を意味する。
【0019】
本発明の薬学組成物が予防または治療できる炎症性腸疾患には、例えば、放射線性大腸炎(radiation colitis)、放射線性直腸炎(radiation proctitis)、虚血性大腸炎(ischemic colitis)、ベーチェット腸炎(Intestinal Behcet´s Disease)、クローン病(Crohn´s disease)、潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)および潰瘍性直腸炎(ulcerative proctitis)などが含まれ、これに制限されるものではない。
【0020】
また、前記薬学組成物は、DAI(疾患活動性指標(Disease activity index))を減少させるものであってよい。
【0021】
本明細書において使用する「DAI(Disease activity index)」なる用語は、炎症性腸疾患に対する疾患活動性指標を意味し、具体的に、体重減少(weight loss)、大便一貫性(stool consistency)および糞便潜血(fecal occult blood)などの炎症性腸疾患症状に対する重症度を示す。DAIが高いほど炎症性腸疾患症状は重症であり、DAIが低いほど炎症性腸疾患症状は軽症であり、具体的に0~1点のDAIは正常、2~4点のDAIは軽症、5~7点のDAIは重症、8~10点のDAIは危重症の炎症性腸疾患を意味する。好ましくは、前記薬学組成物は、DAIを2~3点以上減少させることができ、これは、重症および/または危重症の炎症性腸疾患を軽症の炎症性腸疾患に緩和させるものである。
【0022】
また、前記薬学組成物は、体重減少、大便一貫性(stool consistency)および糞便潜血(fecal occult blood)からなる群より選ばれる一つ以上の症状を改善または緩和させるものであってよい。前記「体重減少」は、炎症性腸疾患により食餌攝取および栄養分の吸収が円滑でなく、個体の体重が減少する症状を意味し、前記「大便一貫性」は、下痢症状を意味し、前記「糞便潜血」は、血便症状を意味する。
【0023】
また、前記薬学組成物は、炎症による線維化を抑制または緩和させるものであってよい。腸粘膜は、炎症により線維化が発生して、結果的に腸の長さが短くなり、かつ固くなる現象が発生する。線維化は腸組職の非正常的な変化を引き起こして栄養分の攝取などを妨げ、腸狭窄のような副作用を発生させるなど、疾患の完治を妨げる要素となる。したがって、炎症による腸粘膜の線維化を抑制するか緩和させることが炎症性腸疾患の再発を防いで、完治する結果を導き出すことができる。
【0024】
一方、前記有効量は、「治療有効量」または「予防有効量」であってよい。「治療有効量」なる用語は、薬物または治療剤が単独でまたは他の治療剤と組み合わされて使用される場合に、疾患症状の重症度減少、疾患症状のない期間の頻度および持続期間の増加、または疾患苦痛による損傷または障害の防止を示すことができる任意の量を意味する。「予防有効量」なる用語は、個体で炎症性腸疾患の発生または再発を抑制する任意の量を意味する。前記有効量の水準は、対象体の重症度、年齢、性別、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路および排出割合、治療期間、同時使用される薬物を含む要素およびその他の医学分野によく知られている要素などによって決定できる。
【0025】
本明細書において使用する「投与」なる用語は、関連技術分野における通常の技術者にとって公知になっている多様な方法および伝達システムのうち任意のものを使用して組成物を対象体に物理的に導入することを意味する。本発明の薬学組成物のための投与経路は、例えば、経口投与経路、または静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、脊髓または他の非経口投与経路、例えば、注射または注入による投与経路を含むが、これに制限されるものではない。本発明の組成物のための投与回数は、例えば、単回、複数回、および一つ以上の延長された期間に亘って遂行されることができる。
【0026】
本発明の薬学組成物は、対象体の年齢、性別、体重によって変わり、具体的に対象体の症状によって本発明の組成物を0.1~100mg/kgを一日単回~数回投与するか、または数日~数ヶ月間隔で投与することができる。また、その投与量は、投与経路、疾病の重症度、性別、体重、年齢などによって増減されることができる。
【0027】
本発明の薬学組成物は、薬学組成物の製造に通常的に使用される適切な担体、賦形剤および希薄剤をさらに含んでよい。組成物に含まれ得る担体、賦形剤および希薄剤は、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、澱粉、アラビアガム、アルジネイト、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、未晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートおよび鉱物油であってよいが、これに制限されない。
【0028】
「対象体」なる用語は、ヒトまたは任意の非ヒト動物を含み、前記非ヒト動物は、脊椎動物、例えば、霊長類、犬、牛、馬、豚、齧歯類、例えば、マウス、ラット、モルモットなどであってよい。本明細書において、前記「対象体」は、「個体」および「患者」と相互交換的に使用される。
【0029】
本発明の薬学組成物に含まれる腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤は、同時に、順次にまたは個別的に投与されるように剤形化してよい。例えば、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤は、一つの製剤に同時に投与されてよく、または別個の製剤に同時に、順次にまたは個別的に投与されてよい。同時に、順次にまたは個別的に投与するために、本発明の薬学組成物に含まれる腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤は、それぞれ別途の容器に分離させて剤形化するか、または同じ容器で共に剤形化してよい。また、本発明の薬学組成物に含まれる腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤は、薬学的有効量、投与時間、投与間隔、投与経路、治療期間などが互いに同一であるか、または異なってもよい。
【0030】
また、本発明の薬学組成物は、他の治療剤と併用して投与されてよい。この場合、本発明の薬学組成物と他の治療剤は、同時に、順次に、または個別的に投与されてよい。前記他の治療剤は、炎症性腸疾患の予防、治療および改善効果を有する化合物、タンパク質などの薬物であってよいが、これに制限されるものではない。
【0031】
また、本発明の薬学組成物は、他の治療剤と同時に、順次にまたは個別的に投与されるように剤形化してよい。例えば、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤と他の治療剤は、一つの製剤に同時に投与されてよく、または別個の製剤に同時に、順次にまたは個別的に投与されてよい。同時に、順次にまたは個別的に投与するために、本発明の薬学組成物に含まれる腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤と他の治療剤は、それぞれ別途の容器に分離させて剤形化するか、または同じ容器で共に剤形化してよい。また、本発明の薬学組成物に含まれる腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤と他の治療剤は、薬学的有効量、投与時間、投与間隔、投与経路、治療期間などが互いに同一であるか、または異なってもよい。
【0032】
本発明の他の一様態は、炎症性腸疾患の予防または治療を要する対象体に臓オルガノイドおよびTNFα抑制剤を投与するステップを含む、炎症性腸疾患の予防または治療方法を提供する。
【0033】
本発明による炎症性腸疾患の予防または治療方法において、各用語は、特別に言及しない限り、前記炎症性腸疾患の予防または治療用薬学組成物で説明したところと同じ意味を有する。
【0034】
また、本発明による炎症性腸疾患の予防または治療方法において、前記腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤は、同時に、順次にまたは個別的に対象体に投与されてよい。
【0035】
また、前記腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤は、他の治療剤と同時に、順次にまたは個別的に対象体に投与されてよい。
【0036】
前記「同時」投与は、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を一つの製剤に一度に投与することを意味するか、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤と他の治療剤を一つの製剤に一度に投与することを意味する。また、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を別途の製剤に一度に投与することを意味するか、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤と他の治療剤を別途の製剤に一度に投与することを意味し、この場合、腸オルガノイド、TNFα抑制剤および/または他の治療剤の投与経路は、互いに異なってもよい。
【0037】
前記「順次」投与は、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を比較的連続的に投与することを意味するか、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤と他の治療剤を比較的連続的に投与することを意味し、投与間隔に消耗する時間として可能な最小限の時間を許諾する。
【0038】
前記「個別的」投与は、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を一定時間間隔を置いて投与することを意味するか、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤と他の治療剤を一定時間間隔を置いて投与することを意味する。前記腸オルガノイド、TNFα抑制剤および/または他の治療剤の投与方法は、対象体の治療効能、副作用などを考慮して、当業界の医師または専門家が適切に選択することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明による腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤の併用は、体重減少、下痢、血便などの炎症性腸疾患症状を緩和させることができ、炎症による腸粘膜の線維化を抑制することができる。特に、腸オルガノイドおよび抗炎症剤であるTNFα抑制剤を併用する場合、TNFα抑制剤を多回投与することより顕著に優れた治療効果を示すことができるので、炎症性腸疾患を予防または治療する物質として有用に活用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】DSSを使用した炎症性腸疾患の誘発、腸オルガノイド移植およびTNFα抑制剤投与方法に対する概要図。
図2】腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された腸組職に対するH&E染色、GFP/DAPI分析結果を示す像。
図3】炎症性腸疾患が発病された個体で、TNFα抑制剤単独単回投与、TNFα抑制剤単独多回投与、腸オルガノイド単独移植、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された個体の生存率を示すグラフ。
図4】炎症性腸疾患が発病された個体で、TNFα抑制剤単独単回投与、TNFα抑制剤単独多回投与、腸オルガノイド単独移植、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された個体の体重増減程度を示すグラフ。Aは体重の増減割合を示し、Bは最終測定された体重(g)を示す。
図5】炎症性腸疾患が発病された個体で、TNFα抑制剤単独単回投与、TNFα抑制剤単独多回投与、腸オルガノイド単独移植、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された個体のDAI(疾患活動性指標:disease activity index)増減程度を示すグラフ。AはDAIの増減割合を示し、Bは最終スコアリングされたDAIを示す。
図6】TNBSを使用した炎症性腸疾患の誘発、腸オルガノイド移植およびTNFα抑制剤投与方法に対する概要図。
図7】炎症性腸疾患が発病された個体で、TNFα抑制剤単独投与(Anti-TNFα)、腸オルガノイド単独移植(Organoid)、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された個体(Combination)の腸組職写真。
図8】炎症性腸疾患が発病された個体で、TNFα抑制剤単独投与、腸オルガノイド単独移植、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された個体の生存率を示すグラフ。
図9】炎症性腸疾患が発病された個体で、TNFα抑制剤単独投与、腸オルガノイド単独移植、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された個体の体重増減程度を示すグラフ。
図10】炎症性腸疾患が発病された個体で、TNFα抑制剤単独投与、腸オルガノイド単独移植、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された個体の変形された潰瘍性大腸炎の内視鏡重症度指数(Modified Ulcerative Colitis Endoscopic Index of Severity;Modified UCEIS)を示すグラフ。
図11】炎症性腸疾患が発病された個体で、TNFα抑制剤単独投与、腸オルガノイド単独移植、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された個体のDAI(疾患活動性指標:disease activity index)増減程度を示すグラフ。
図12】腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された腸組職に対するH&E染色、GFP/DAPI分析結果を示す像。
図13】炎症性腸疾患が発病された個体で、TNFα抑制剤単独投与、腸オルガノイド単独移植、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された個体の腸長さ増減程度を示すグラフ。
図14】炎症性腸疾患が発病された個体で、TNFα抑制剤単独投与、腸オルガノイド単独移植、または腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤が併用された個体の腸長さ増減程度を示す像。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明しようとする。これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例により制限されるものではない。
【0042】
実施例1.DSS誘導炎症性腸疾患に対する効果
実施例1-1.併用および移植
先ず、炎症性腸疾患マウスモデルに腸オルガノイドを移植し、抗炎症剤を投与して、腸オルガノイドおよび抗炎症剤の併用による炎症性腸疾患の予防または治療効能を確認した。
【0043】
具体的に、炎症性腸疾患マウスモデルは、C57BL/6マウス(Male、10株、平均体重24g)に4v/v%DSS(Dextran sulfate sodium)飲水を5日間食べさせた以後、一般飲水に変更して製作した。DSSを飲用水に混合して経口投与すると、浮腫、発赤、潰瘍および血便を伴った急性大腸炎が腸全般に亘って誘発され、組職に好中球の浸透が観察される。時間が経ちながらリンパ球などが浸潤して慢性炎症を示す。
【0044】
その次、GFPを発現するマウス腸オルガノイドを5×10細胞/匹の数で実験開始7日目(day7)と10日目(day10)に総2回の移植を進めた。移植は、内視鏡移植方法で進め、1次投与は、クラムプ(clump)形態の腸オルガノイドをフィブリノーゲン(fibrinogen)50μLに混合して投与し、2次投与は、トロンビン50μLを投与して移植を進めた。抗炎症剤としてはTNFα抑制剤を使用し、抗-マウスTNFα抗体(5mg/kg、BioLegend社)100μLを腹腔注射した。このとき、単回投与の場合、7日目、細胞移植後の一日後である8日目(day8)に遂行し、多回投与の場合、8日目を含んで二日間隔で総5回投与(day8、day10、day12、day14、day16)を遂行した。
【0045】
炎症性腸疾患の誘発、腸オルガノイド移植およびTNFα抑制剤投与の概要は図1に示し、対照群および実験群は、下記の表1に整理した。
【0046】
【表1】
【0047】
以後、実験開始日から1~2株間隔で大腸内視鏡を通じて腸粘膜の病便および移植された腸オルガノイドを確認した。
【0048】
その結果、図2に示したように、移植された腸オルガノイドは、腸組職によく生着されていることを確認した。
【0049】
実施例1-2.生存率
前記実施例1-1による方法で、腸オルガノイド移植およびTNFα抑制剤を投与し、これによる炎症性腸疾患の予防または治療効果として個体の生存率を確認した。
【0050】
具体的に、腸オルガノイド移植およびTNFα抑制剤投与による個体の生存率は、個体数が減少する度に各群ごとに下記のような式で計算しており、カプラン・マイヤー生存分析法を用いて評価した。
個体の生存率=生存動物数/総動物数×100(%)
【0051】
その結果、図3に示したように、炎症性腸疾患を病む陰性対照群は、実験開始10日目に全て死亡した。
【0052】
また、TNFα抑制剤のみを単独で単回または多回投与した実験群1および2、および腸オルガノイドのみを単独で移植した実験群3の場合、実験開始10日目(初単独使用2日または3日後)から死亡し始め、15日目(初単独使用7日または8日後)には半分以上の個体が死亡して約40%の生存率を記録した。
【0053】
これに対し、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用した実験群4の場合、実験開始10日目(初併用2日後)から死亡し始めたが、その後の期間には単独使用した個体に比べて生存した個体数が多く、18日目(初併用10日後)まで約50%の生存率を記録して、単独使用した場合に比べて、生存率が約10%程度顕著に増加することを確認した。
【0054】
すなわち、生存率と関連しては、TNFα抑制剤の単回投与と多回投与間に効果の差はなく、TNFα抑制剤を単回投与しながら腸オルガノイドを併用する場合の効果は、TNFα抑制剤多回投与効果よりも約10%以上顕著に優れることを確認した。
【0055】
前記結果を通じて、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤の併用は、炎症性腸疾患の予防または治療に対して優れたシナジー効果を示すことが分かった。
【0056】
実施例1-3.体重
前記実施例1-1による方法で、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用し、これによる炎症性腸疾患の予防または治療効果として個体の体重増減程度を確認した。
【0057】
具体的に、DSS投与および治療剤処置によるマウス体重の変化推移を毎日追跡観察し、試験開始前に個体の体重を100%にしてDSS誘導腸疾患による体重の減少および治療剤処置による増加パターンをグラフで示した。試験終了時点、各群間のマウス体重差は、GraphPad Prism ver.3統計プログラムを使用して一元分散分析(one-way ANOVA)を行い、Tukey事後検定を遂行することで、治療剤効果に対する有意性を確認した(*p-value<0.05)。
【0058】
その結果、図4のAおよびBに示したように、炎症性腸疾患を病む陰性対照群は、実験開始10日目に正常対照群に比べて約30%の体重が減少し、その後にはすべての個体が死亡した。
【0059】
また、TNFα抑制剤のみを単独で単回または多回投与した実験群1および2、および腸オルガノイドのみを単独で移植した実験群3の場合、実験開始15日目(初単独使用7日または8日後)まで体重が減少して、正常対照群に比べて約30~40%の体重が減少したが、その後、体重が若干増加して実験23日目(初単独使用15日または16日後)には正常対照群に比べて約20~25%の体重減少率を示した。
【0060】
具体的に、実験23日目(初単独使用15日または16日後)には正常対照群に比べて、TNFα抑制剤を単独で単回投与した実験群1の場合、体重減少率が約20%であり、TNFα抑制剤を単独で多回投与した実験群2の場合、体重減少率が約25%であり、腸オルガノイドのみを単独で移植した実験群3の場合、体重減少率が約22%であることを確認した。
【0061】
これに対し、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用した実験群4の場合、実験開始10日目(初併用2日後)まで体重が減少して正常対照群に比べて約25%の体重が減少したが、その後、体重が顕著に増加して実験23日目(初併用15日後)には正常対照群に比べて約15%の体重減少率を示した。また、単独使用した場合に比べて、生存率が約10%程度顕著に増加することを確認した。
【0062】
前記結果を通じて、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤の併用は、炎症性腸疾患の予防または治療に対して優れたシナジー効果を示し、これは、TNFα抑制剤を多回投与することより顕著に優れた治療効果であることが分かった。
【0063】
実施例1-4.DAI(Disease activity index)
前記実施例1-1による方法で、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用し、これによる炎症性腸疾患の予防または治療効果として個体の疾患活動性指標(Disease activity index;DAI)に対する減少効果を確認した。
【0064】
具体的に、DAIは、体重減少、大便一貫性および分別潜血から構成されたパラメーターに対して分析した。各パラメーターに対する症状を観察した後、変化程度によってスコアリングし、これを合算して0~1点のDAIは正常、2~4点のDAIは軽症、5~7点のDAIは重症、8~10点のDAIは危重症の炎症性腸疾患に分類した。
【0065】
【表2】
【0066】
その結果、図5のAおよびBに示したように、腸オルガノイドまたはTNFα抑制剤を投与していない陰性対照群は、実験開始10日目に正常対照群に比べてDAIが約6まで増加する重症の炎症性腸疾患症状を示し、その後には、すべての個体が死亡した。また、TNFα抑制剤のみを単独で単回または多回投与した実験群1および2、および腸オルガノイドのみを単独で移植した実験群3の場合、実験開始15日目(初単独使用7日または8日後)までDAIが約6~7まで増加する重症の炎症性腸疾患症状を示した。実験23日目(初単独使用15日または16日後)には、DAIが約5~6程度に減少したが、依然として重症の炎症性腸疾患症状を示した。具体的に、実験23日目(初単独使用15日または16日後)には正常対照群に比べて、TNFα抑制剤を単独で単回投与した実験群1の場合、DAIが約5.5であり、TNFα抑制剤を単独で多回投与した実験群2のDAIが6であり、腸オルガノイドのみを単独で移植した実験群3の場合、DAIが5であることを確認した。
【0067】
これに対し、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用した実験群4の場合、実験開始13日目(初併用5日後)までDAIが約6まで増加する重症の炎症性腸疾患症状を示したが、その後、実験23日目(初併用15日後)には、DAIが約3程度に減少して炎症性腸疾患症状が軽症に緩和された。これは、腸オルガノイドまたはTNFα抑制剤を単独使用した場合に比べて、DAIが2~3程度に顕著に減少したものであって、重症から軽症に症状が顕著に緩和されたことを確認した。
【0068】
すなわち、DAIと関連しては、TNFα抑制剤の単回投与よりも多回投与の効果がさらに優れているが、TNFα抑制剤を単回投与しながら腸オルガノイドを併用する場合の効果は、TNFα抑制剤多回投与効果よりもDAIを2~3程度に減少させる顕著に優れた効果を示すことを確認した。
【0069】
特に、前記併用の実験群4の場合、実験開始13日目(初併用5日後)以後からDAIが急激に減少するが、単独使用の実験群1~3の場合には、実験開始15日目(初単独使用7日または8日後)からDAIが減少することを考慮すると、炎症性腸疾患の治療効果をより短期間に示すことができることを確認した。
【0070】
前記結果を通じて、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤の併用は、体重減少、大便一貫性(stool consistency)および糞便潜血(fecal occult blood)などの症状を示す炎症性腸疾患の予防または治療に対して優れたシナジー効果を示し、これは、TNFα抑制剤を多回投与することよりも顕著に優れた治療効果であることが分かった。
【0071】
実施例2.TNBS誘導炎症性腸疾患に対する効果
実施例2-1.併用および移植
炎症性腸疾患マウスモデルに腸オルガノイドを移植し、抗炎症剤を投与して、腸オルガノイドおよび抗炎症剤の併用による炎症性腸疾患の予防または治療効能を確認した。
【0072】
具体的に、炎症性腸疾患マウスモデルは、次のような方法で製作した。C57BL/6マウス(雄(Male)、10株、平均体重24g)に1w/v%TNBS(Trinitrobenzene sulfonic acid)前感作溶液(presensitization solution)を背側肌に処理し、以後、8日間体重が減少するか、他の特異症状が発見されていないマウスのみを選別して使用した。以後、エタノール溶液に混合した2.5w/v%TNBSをマウスの直腸内に投与した。TNBSをエタノール溶液に混合して直腸内に投与すると、人体の炎症性腸疾患と類似した疾患が誘発されると知られている。エタノールは、腸粘膜障壁(Epithelial barrier)を破り、TNBSが障壁に入ることに主な役目をし、TNBSは、酸化的な損傷を通じて急性全階性壊死を起こす。
【0073】
TNBS直腸内投与の翌日、TNFα抑制剤として、抗-マウスTNFα抗体 (BioLegend社)100μgを腹腔注射した。また、TNFα抑制剤投与の翌日、GFPを発現するマウス腸オルガノイドを1×10細胞/匹の数でマウス腸内に移植した。移植は、内視鏡移植方法で進め、腸オルガノイドのスキャフォルドとしてはフィブリングルー(Fibrin glue)を使用した。一方、TNFα抑制剤および腸オルガノイド併用投与の場合、抗-マウスTNFα抗体100μgおよび1×10細胞/匹の腸オルガノイドをTNBS直腸内に投与した、翌日同時に投与および移植した。
【0074】
炎症性腸疾患の誘発、腸オルガノイド移植およびTNFα抑制剤投与の概要は、図6に示し、対照群および実験群は、下記の表3に整理した。
【0075】
【表3】
【0076】
以後、実験開始日から1~2株間隔で大腸内視鏡を通じて腸粘膜の病便および移植された腸オルガノイドを確認した。
【0077】
その結果、図7に示したように、陰性対照群の場合、TNBSによる炎症性腸疾患の誘発直後から深刻な程度の炎症および潰瘍病便(白色部分)が示され、発病4週次には大部分の個体が死亡して、製作されたモデルが激しい重症度のモデルであることを確認した。
【0078】
また、TNFα抑制剤のみを単独で投与した実験群5の場合、発病4週次には陰性対照群に比べて生存率が上がっているが、依然として多数の死亡個体が確認され、生存した個体でも炎症および潰瘍病便が一部残存していることが確認された。腸オルガノイドのみを単独で移植した実験群6の場合にも、発病4週次まで生存した個体で炎症および潰瘍病便が一部残存していることが確認された。
【0079】
これに対し、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用した実験群7の場合、実験開始直後には陰性対照群と類似した程度の炎症および潰瘍病便を示したが、発病4週次まで生存した個体で炎症および潰瘍病便がほとんど消え、一部写真から見られる凸凹の腸表面は、炎症または潰瘍が治療されながら示される過程のうち一部であることと観察された。
【0080】
前記結果を通じて、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤の併用は、炎症性腸疾患の予防または治療に対して優れたシナジー効果を示すことが分かった。
【0081】
実施例2-2.生存率
前記実施例2-1による方法で、腸オルガノイド移植およびTNFα抑制剤を投与し、これによる炎症性腸疾患の予防または治療効果として個体の生存率を確認した。
【0082】
具体的に、腸オルガノイド移植およびTNFα抑制剤投与による個体の生存率は、個体数が減少する度に各群ごとに下記のような式で計算しており、カプラン・マイヤー生存分析法を用いて評価した。
個体の生存率=生存動物数/総動物数×100(%)
【0083】
その結果、図8に示したように、炎症性腸疾患を病む陰性対照群は、実験開始2週次に大部分の個体が死亡して、生存率は約20%に過ぎなかった。
【0084】
また、TNFα抑制剤のみを単独で投与した実験群5の場合、実験開始1週次から死亡し始め、2週次には半分以上の個体が死亡して約40%の生存率を記録した。腸オルガノイドのみを単独で移植した実験群6の場合にも、実験開始1週次から死亡し始めて実験終了時に約60%の生存率を記録した。
【0085】
これに対し、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用した実験群7の場合、実験開始1週次には約90%に達する高い生存率を示し、実験終了時に約70%の生存率を記録して、単独使用した場合に比べて、生存率が約10%程度顕著に増加することを確認した。
【0086】
前記結果を通じて、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤の併用は、炎症性腸疾患の予防または治療に対して優れたシナジー効果を示すことが分かった。
【0087】
実施例2-3.体重
前記実施例2-1による方法で、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用し、これによる炎症性腸疾患の予防または治療効果として個体の体重増減程度を確認した。
【0088】
具体的に、DSS投与および治療剤処置によるマウス体重の変化推移を毎日追跡観察し、試験開始前に個体の体重を100%にしてDSS誘導腸疾患による体重の減少および治療剤処置による増加パターンをグラフで示した。試験終了時点、各群間のマウス体重差は、GraphPad Prism ver.3統計プログラムを用いて一元分散分析(one-way ANOVA)を行い、Tukey事後検定を遂行することで、治療剤効果に対する有意性を確認した(*p-value<0.05)。
【0089】
その結果、図9に示したように、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用した実験群7の場合、TNFα抑制剤のみを単独で投与した実験群5または腸オルガノイドのみを単独で移植した実験群6と類似した体重を示した。
【0090】
前記結果を通じて、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用しても、体重が顕著に減少するなどの生体毒性を示さないので、これらは、炎症性腸疾患の予防または治療に安全に使用され得ることが分かる。
【0091】
実施例2-4.UCEIS(潰瘍性大腸炎内視鏡的重症度指標:Ulcerative Colitis Endoscopic Index of Severity)
前記実施例2-1による方法で、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用し、これによる潰瘍性大腸炎の予防または治療効果として個体の変形された潰瘍性大腸炎内視鏡的重症度指標(Ulcerative Colitis Endoscopic Index of Severity;Modified UCEIS)に対する減少程度を確認した。
【0092】
具体的に、Modified UCEISは、血管パターン(Vascular Pattern)、出血(Bleeding)、潰瘍(Ulcers)および生存(Survival)から構成されたパラメーターに対して分析した。各パラメーターに対する症状を観察した後、変化程度によってスコアリングし、これを合算して0~1点のUCEISは正常、2~4点のUCEISは軽症、5~6点のUCEISは重症、7~8点のUCEISは危重症の潰瘍性大腸炎に分類した。
【0093】
【表4】
【0094】
その結果、図10に示したように、腸オルガノイドまたはTNFα抑制剤を投与していない陰性対照群は、Modified UCEISが約8まで増加する重症の潰瘍性大腸炎症状を示した。また、TNFα抑制剤のみを単独で投与した実験群5の場合、Modified UCEISが約5~6まで増加する重症の潰瘍性大腸炎症状を示し、腸オルガノイドのみを単独で投与した実験群6の場合、DAIが約5まで増加する重症の潰瘍性大腸炎症状を示した。
【0095】
これに対し、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用した実験群7の場合、Modified UCEISが約3程度に軽症の潰瘍性大腸炎症状のみを示した。
【0096】
前記結果を通じて、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤の併用は、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の予防または治療に対して優れたシナジー効果を示し、炎症性腸疾患の症状を重症から軽症に顕著に緩和させ得ることが分かった。
【0097】
実施例2-5.DAI(Disease activity index)
前記実施例2-1による方法で、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用し、これによる炎症性腸疾患の予防または治療効果として個体の疾患活動性指標(Disease activity index;DAI)に対する減少効果を確認した。具体的に、DAIは、前記実施例1-4による方法と同一に分析した。
【0098】
その結果、図11に示したように、腸オルガノイドまたはTNFα抑制剤を投与していない陰性対照群は、実験開始10日目に正常対照群に比べてDAIが約8まで増加する重症の炎症性腸疾患症状を示した。
【0099】
また、TNFα抑制剤のみを単独で投与した実験群5の場合、DAIが約6~7まで増加する重症の炎症性腸疾患症状を示し、腸オルガノイドのみを単独で投与した実験群6の場合、DAIが約5まで増加する重症の炎症性腸疾患症状を示した。
【0100】
これに対し、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用した実験群7の場合、実験開始時からDAIが約3程度に軽症の炎症性腸疾患症状のみを示し、実験終了時までさらに悪化することなく症状が保持された。
【0101】
前記結果を通じて、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤の併用は、炎症性腸疾患の予防または治療に対して優れたシナジー効果を示し、炎症性腸疾患の症状を重症から軽症に顕著に緩和させ得ることが分かった。
【0102】
実施例2-6.腸粘膜再生
前記実施例2-1による方法で、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用し、これによる炎症性腸疾患の予防または治療効果として個体の腸粘膜再生促進効果を確認した。具体的に、腸組職に生着された腸オルガノイドおよび腸組職の構造を分析して、腸粘膜の再生程度を確認した。
【0103】
その結果、図12に示したように、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用した実験群7の場合、腸オルガノイドが腸粘膜に生着されており、損傷した組職に代替して正常組職を形成することを確認した。
【0104】
前記結果を通じて、炎症性腸疾患の治療に対する腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤の併用は、炎症が発生して損傷した組職に代替することで、体重減少、下痢、血便などの症状を示す炎症性腸疾患に対する予防または治療効果を示すことを確認した。
【0105】
実施例2-7.腸粘膜線維化
前記実施例2-1による方法で、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用し、これによる炎症性腸疾患の予防または治療効果として個体の腸粘膜線維化の抑制効果を確認した。
【0106】
具体的に、腸長さを測定することで、炎症による腸粘膜の線維化進行程度、および腸オルガノイドおよび/またはTNFα抑制剤による腸粘膜の線維化抑制程度を確認した。炎症性腸疾患を病む個体の場合、腸粘膜は炎症により線維化が発生して、結果的に腸の長さが短くなり、かつ固くなる現象が発生する。線維化は、腸組職の非正常的な変化を引き起こして、栄養分の攝取などを妨げるので、疾患の完治を妨げる要素となる。
【0107】
具体的に、TNBS投与および治療剤処置による腸線維化差を確認するための腸長さの変化は、試験終了時点でマウスを剖検して、盲腸から肛門までの長さを測定して観察した。各群間の腸長さの差は、GraphPad Prism ver.3統計プログラムを用いて一元分散分析(one-way ANOVA)を行い、Tukey事後検定を遂行することで、腸線維化抑制に対する治療剤効果の有意性を確認した(*p-value<0.05)。
【0108】
その結果、図13および14に示したように、TNFα抑制剤のみを単独で投与した実験群5および腸オルガノイドのみを単独で投与した実験群6の場合、炎症による線維化が進行して大腸の長さが短くなり、陰性対照群と類似した程度の長さを示した。
【0109】
これに対し、腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤を併用した実験群7の場合、炎症による腸粘膜の線維化が抑制され、これにより大腸の長さが短くならないため、正常対照群と類似した程度の長さを示した。
【0110】
前記結果を通じて、炎症性腸疾患の治療に対する腸オルガノイドおよびTNFα抑制剤の併用は、炎症が発生した部位で線維化の進行を抑制するか、または緩和させることで、体重減少、下痢、血便などの症状を示す炎症性腸疾患に対する予防または治療効果を示すことを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14