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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】ヘッドホン装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20240704BHJP
   H04R 1/34 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
H04R1/10 101Z
H04R1/34 310
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023018784
(22)【出願日】2023-02-09
(65)【公開番号】P2023178512
(43)【公開日】2023-12-15
【審査請求日】2023-10-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502098259
【氏名又は名称】小泉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100114269
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貞喜
(72)【発明者】
【氏名】小泉 勇
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-103604(JP,A)
【文献】特開2020-088839(JP,A)
【文献】中国実用新案第205336492(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 1/34
H04R 5/00- 5/04
H04R 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を放射するスピーカと、該スピーカの音波放射面のすべてを覆い、前記スピーカから放射される音波を収束するための音波収束器を備えたヘッドホン装置であって、
前記音波収束器が、ほぼ円錐台の形状をしており、かつ、中空であって、前記音波収束器の底面の開口部が前記音波放射面をすべて覆うように設置され、
前記音波収束器の上面の開口部が、前記ヘッドホン装置を耳介に装着した状態において、前記上面の開口部から放射される音波が前記耳介のF領域又はFRAに向かうような位置に設けられていることを特徴とするヘッドホン装置。
【請求項2】
前記音波収束器の上面の開口部の周の一部に反射片を備え、前記開口部から放射された音波を該反射片で反射させて、前記音波を前記F領域又はFRAに導くように構成したことを特徴とする請求項1に記載のヘッドホン装置。
【請求項3】
前記音波収束器の上面の開口部の直径が10mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のヘッドホン装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のヘッドホン装置に用いられる音波収束器であって、前記音波収束器の底面の周の一又は複数個所に係止部材を備え、該係止部材によって前記音波収束器を前記音波放射面に係止することを特徴とする音波収束器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドホン装置に関し、特に、耳介の機能を活用して前方定位(頭外定位)の聴音を可能とするヘッドホン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間は前から来た音は目をつむっていても前から来たものと判断できる。同様に、後から来た音は後から来たものと判断できる。これは耳介の構造に関係するということが分かってきた。
従来のヘッドホンは、イヤーパッドを耳に押し当て、スピーカから発する音波が図1の矢印のように耳介全体に向かって放射されるので、耳介全体に当たって反射された後に外耳道口から外耳道内に導入される。従って、音は全て真横から来たものと判断され、左右の耳からの音波が合成されたものは、頭内で定位する。
その後の研究により、前方音を認識する耳介の反射位置と、後方音を認識する耳介の反射位置が判明し、そこに音波を向けて放射できるようなヘッドホンが、本発明者によっていくつか提案されている(例えば下記特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
図2は、人間の左耳の耳介の構造を表した図である。この図で、外耳道口は実際には耳珠の陰に隠れて見えないが、説明の都合上、見えるように記載している。珠間切痕とは、耳珠と対珠の間にある切れ込みのことである。
特許文献1に記載のヘッドホンは、前方音専用のスピーカと後方音専用のスピーカを一つのハウジング内に備え、前方音専用スピーカの音波放射軸が耳珠方向から耳甲介腔の方向に向くように前方音専用スピーカ配置し、かつ、後方音専用スピーカの音波放射軸が耳輪方向から耳甲介腔の方向に向くように後方音専用スピーカ配置することにより、前方音を前方定位し、後方音を後方定位して聴音可能にしたものである。
特許文献1に記載のヘッドホンは、前方定位の聴音という目的を達成するという点においては一定の効果を奏するものであるが、前方音専用のスピーカと後方音専用のスピーカを一つのハウジング内に備えなければならない点において、構造的、コスト的な難点がある。
【0004】
これに対して、特許文献2に記載のヘッドホン(以下「先行発明」という。)は、音波を放射するスピーカと、スピーカを収納するハウジングの上面部に音波放射孔を備えたヘッドホンであって、ヘッドホンを人間の耳介に装着した状態において、音波を主として耳介の耳甲介腔の対輪側領域に到達させるとともに、音波を耳介の耳甲介腔の耳珠側領域に到達させないようにするための反射部材を上記上面部の周の鼻側縁の一部に沿ってそこから所定の角度で耳輪方向に向けて斜めに立ち上げたことを特徴とするものである。
【0005】
次に、先行発明について更に詳しく説明する。先行発明は、特許文献2の図4に示すように、基本的には従来型のヘッドホンに反射部材(前記図4の304)を付加して、スピーカから放射された音波を、主として耳介の耳甲介腔の対輪側領域(F領域)に到達させるとともに、音波を耳介の耳甲介腔の耳珠側領域(R領域)に到達させないようにすることにより、理論的にはクリアな前方定位された聴音が可能となるものであった。
【0006】
なお、上記F領域及びR領域は、特許文献2の図2(B)に示すとおり、耳甲介腔のうち対輪に近い領域を「F領域」といい、耳珠に近い領域を「R領域」と称した。本発明者は、F領域が前方音を集音する領域であり、R領域が後方音を集音する領域であることをこれまでの経験により知得し、かつ、実験によって確認した。確認のため、本願の明細書に添付した図面の図3において、先行発明と同じ図を再掲する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-117594号公報
【文献】特開2017-103604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、先行発明においては、音波をR領域に到達させないように反射部材を設けて、F領域に向けて音波を放射したとしても、音波は空気の振動であるため、放射された音波は回折して、一部はR領域に到達してしまうことがどうしても避けられないことが判明した。
そのため、本願発明者は鋭意研究を重ねた結果、この回折をできるだけ低減するためには、上記スピーカから放射された音波をヘッドホン内で収束させてからF領域又は後述の前方音反射領域(FRA)に向けて放射すればよいことに着目した。
本発明は、上述のような事情に鑑みなされたものであり、前方定位(頭外定位)の効果をより向上させたヘッドホン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、音波を放射するスピーカと、該スピーカの音波放射面のすべてを覆い、前記スピーカから放射される音波を収束するための音波収束器を備えたヘッドホン装置に関し、本発明の上記目的は、前記音波収束器が、ほぼ円錐台の形状をしており、かつ、中空であって、前記音波収束器の底面の開口部が前記音波放射面をすべて覆うように設置され、前記音波収束器の上面の開口部が、前記ヘッドホン装置を耳介に装着した状態において、前記上面の開口部から放射される音波が前記耳介のF領域又はFRAに向かうような位置に設けられていることを特徴とするヘッドホン装置によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るヘッドホン装置によれば、スピーカから放射された音波をヘッドホン内で収束してから耳介のF領域又はFRAに向けて放射するので、前方定位効果が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来のヘッドホンによる聴音を示す図である。
図2】人間の左耳の耳介の構造を示す図である。
図3】人間の左耳の耳介の機能(F領域、R領域)を説明するための図である。
図4】人間の左耳の耳介の機能(FRA、RRA)を説明するための図である。
図5】音波収束器の実施例を示す図である。
図6】音波収束器をヘッドホンに装着した状態を示す図である。
図7】音波収束器の機能を説明するための図である。
図8】音波収束器の変形例を示す図である。
図9】音波収束器単独の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るヘッドホン装置(以下単に「ヘッドホン」という。)について詳細に説明する。
図3において、自然聴音の場合、前方から到来する音波は主として耳介のF領域で集音され、さらにF領域で反射後、収束しながら最終的におおよそ外耳道口の大きさにまで収束し、外耳道口へと導かれ、外耳道内に入るものと想定される。
同様に、後方から到来する音波は主として耳介のR領域で集音され、更にR領域で反射後、最終的おおよそ外耳道口の大きさにまで収束し、外耳道口へと導かれ、外耳道内に入るものと想定される。
【0013】
音波の収束によって、ほぼ外耳道口の大きさに収束される理由は、外耳道口より大きい音波では、外耳道口の大きさよりはみ出た音は生体にとっては無駄となり、せっかく耳介で集音した音響エネルギーの損失となるからである。生理学的に考察すれば、生体は最も効率の良い方向へと身体構造を進化させていることが知られており、耳介機能についても同様と考えられるからである。
従って、耳介で集音された音波は、外耳道口へ近づくにつれて外耳道口の大きさからはみ出さない程度に、あるいは外耳道口以下の大きさにまで収束されて外耳道口へと導かれているものと推定される。
【0014】
一方、外耳道口の面と耳介のおおよその面は相対していない部分もある為、耳介で集音された音波の一部は、収束しながら耳介の「ある部位」で反射してからでないと外耳道口へ到達できない。
また、F領域の一部は、解剖学的に外耳道口の水平面より上部に位置している。音波は障害物が無ければ直進して伝搬されるため、F領域で集音された音波の一部は一旦下方へ向かい、耳介の「ある部位」で反射されてからでないと外耳道口へと到達できない。
この耳介の「ある部位」を前方音反射領域(Front sound Reflex Area)と称し、以下「FRA」と略する。
【0015】
そこで、FRAの存在部位を調べるために、細かく耳介の局所の集音機能を解明した。耳介の細かい各部位の領域にのみ音波を放射してみると、耳甲介腔の下縁から対珠(antitragus)内側面に連なる領域(これがFRA)へ音波を放射すると前方音として聴取できることが判明した。
【0016】
また、後方からの到来音についても、同様に、耳珠の内側面および耳珠起始部領域に音波を放射すると後方音として聴取されることが判明した。
この耳珠内側面領域と耳珠起始部領域を後方音反射領域(Rear sound Reflex Area)と称し、以後単にRRAと略する。これらは本発明者が発見したことである。
従って、前方定位するヘッドホン装置を作成するためにはヘッドホンのスピーカから放射される音波をすべて一度集音、収束させてからFRAへ放射すれば前方音として聴取可能なヘッドホンとなる。同様にしてRRAにこの収束した音波を放射すれば後方音として聴取される。
図4は、以上説明したことを図示したものであり、図4(A)はFRA及びRRAの位置を示すものであり、図4(B)は、前方から来た音波がFRAで反射されて外耳道口へと導かれる様子を表したものである。なお、(B)図で、前方から来た音波が斜め上方から来たように表示しているのは、ヘッドホンを装着した状態において、音波収束器の開口部がFRAの上方に位置しているからであら、それに合わせるためである。
【0017】
これに対して、従来のヘッドホンの根本的な欠点は、図1に示すように、スピーカからの音波を耳介全体に放射していることである。このために複雑な立体構造を有する耳介各所で各様に乱反射され、その末に一部の音波は雑多な方向からの到来音波として外耳道口へ到達し、外耳道内へ導入されてしまう。このため前方音として聴取できないと考えられる。
さらに言えば、外耳道口へ到達できなかった音波は、ただの音響エネルギーの損失となってしまう。
【0018】
そこで、本発明に係るヘッドホンは、スピーカから放射された音波を収束し、FRAに効率よく導くための機能を備えた音波収束器を備えている。
図5は、本発明に係るヘッドホンが備える音波収束器の実施例を示す外観図である。図5(A)に示すとおり、この音波収束器は、底面側から上面側に向かって細くなるテーパー状をしている。図5(B)及び(C)に示すとおり、底面側及び上面側にはそれぞれ開口部が設けられている。
【0019】
図5(A)に示すように、この音波収束器は、ほぼ円錐台の形状をしているが、底面の円の中心と上面の円の中心がずれているという特徴がある。これは、上面の開口部から放射された(収束された)音波ができるだけFRAの方向に向かうようにするためである。
なお、ほぼ円錐台形状(テーパー状)にした目的は、スピーカから放射された音波を収束させることであるから、底面の円の中心と上面の円の中心がずれていることは必須ではない。また、円錐台の側面(斜面)は、図では直線になっているが、僅かに湾曲(上に凸)していても音波の収束効果はあるので、構わない。この場合も本発明の技術的範囲に属する。
さらに、上面の開口部の大きさは、小さいほど音が広がらないので好都合であるが、その分、中高音が低減する可能性がある。逆に、大きすぎると音が広がりすぎる。従って、直径は約2~10mm程度であることが好ましい。
なお、この実施例では、斜面が直線状の円錐台の場合について説明しているが、これに限るものではなく、例えばドーム形(半球状)であって、ドームの頂上付近に小さな開口部を設けたものであればよい。要するに、音波が収束されるように、上方に向かって細くなっていくものであればよい。
この音波収束器でスピーカの音波放射面をすべて覆い、スピーカからの音波が一様に耳介に放射されるのを防止することができる。
【0020】
次に、この音波収束器でスピーカ全体を覆ったヘッドホンについて説明する。図6は、スピーカのハウジングの音波放射面の全体に音波収束器の底面を被せた状態を示す図である。スピーカから放射された音波の大部分は、図の矢印(点線)で示すとおり、音波収束器の内壁の斜面に反射してから、上面の開口部からFRAの方向(太い矢印)に放射される。これにより、スピーカから放射された音波が収束されることになる。なお、矢印イで示したのは、斜面に反射せずに直接放射される音波であり、矢印ロで示したのは斜面の壁に反射して(収束されて)放射される音波を示している。
なお、音波収束器の底面とスピーカのハウジングの音波放射面との間に薄いクッションを入れることにより、音波収束器の振動を抑えることができる。
【0021】
次に、本発明に係るヘッドホンを頭に装着したときの音波の伝播の状態について、図7を参照しつつ説明する。図7は、人間の左耳にヘッドホンが装着された状態の水平方向の断面を示す図であるが、スピーカから放射された音波が、音波収束器で収束された後に、音波収束器の上面の開口部から放射され、耳甲介腔の一部にあるF領域又はFRAに当たって反射して外耳道内に導入される。これにより、人間は、音波が前方から放射されたものであると感じ、前方定位聴音が可能となる。
【0022】
図8は本発明に係るヘッドホンが備える音波収束器の変形例を示す図である。図5に示した実施例と異なる点は、上面の開口部の一部に反射片を設けたことである。この反射片を設けることにより、上面から放射された音波の伝播方向を所定の方向(F領域又はFRA)に向けることがさらに容易となる。
【0023】
本発明は、音波収束器を備えたヘッドホンに関するものであるが、必ずしも最初から(ヘッドホンの製造段階で)音波収束器を内蔵したヘッドホンに限るものではないことは言うまでもない。市販の従来のヘッドホンに音波収束器を後から付加したものでも同じ効果が得られる。
図9は、そのような需要に応えるためのものであり、図5に示した音波収束器の底面の周の一部に、図9に示すような係止部材(ストッパー)を1又は複数個設け、係止部材をスピーカの音波放射面とイヤーパッドに間に差し込むことによって後から付けた音波放射器を係止することが可能となる。
【0024】
本発明は、ヘッドホンのスピーカから放射された音波を広範囲で耳介に当てることにより迫力のある音の聴取ができるという常識を覆し、音波を絞り込んで(収束させて)、耳介の特定の領域(F領域又はFRA)に当てて反射させてから外耳道内に導入するための音波収束器を備えたものであり、音波を収束して絞り込んだ方が音が良くなる(クリアになる)ことを実験によって確認した。まさに逆転の発想である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9