(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】マイクロインプリメント、および、マイクロインプリメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20240704BHJP
【FI】
A61M37/00 505
A61M37/00 530
(21)【出願番号】P 2023202457
(22)【出願日】2023-11-30
【審査請求日】2024-01-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523453112
【氏名又は名称】合同会社マイクロコンプレックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】弁理士法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飛永 芳一
(72)【発明者】
【氏名】高藤 恭胤
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 敏博
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-511124(JP,A)
【文献】特開2005-152180(JP,A)
【文献】特開2021-150097(JP,A)
【文献】特開2021-026849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物を混在させたマルトースで形成された1以上の微細針と、前記微細針を実装する基板と、からなるマイクロインプリメントの製造方法において、
前記微細針
の表面にマルトースの分子が重合した重合皮膜層が形成されるまで前記微細針にプラズマ光を照射する工程を含む、
マイクロインプリメントの製造方法。
【請求項2】
薬物を混在させたマルトースで形成された1以上の微細針と、前記微細針を実装する基板と、からなるマイクロインプリメントの製造方法において、
前記微細針の内部のマルトースの凝集体がプラズマ光を照射する前と比較して微細化されるまでプラズマ光を前記微細針に照射する工程を含む、
マイクロインプリメントの製造方法。
【請求項3】
先端が相互に対向するように配置され、直流電源の負極が印加される第1電極、及び、前記直流電源の正極が印加される第2電極と、
相互に離間して配置され、相互に対向する前記第1電極の先端と前記第2電極の先端の周囲に、ターゲットへ向かう方向の磁界を形成する第1磁石及び第2磁石と、
を備え、ターゲットに向かってプラズマ光を照射するプラズマ発生装置を使用して、
薬物を混在したマルトースで形成された1以上の微細針と、前記微細針を実装する基板と、からなるマイクロインプリメントの前記微細針
の表面にマルトースの分子が重合した重合皮膜層が形成されるまで前記微細針にプラズマ光を照射する工程を含む、
マイクロインプリメントの製造方法。
【請求項4】
先端が相互に対向するように配置され、直流電源の負極が印加される第1電極、及び、前記直流電源の正極が印加される第2電極と、
相互に離間して配置され、相互に対向する前記第1電極の先端と前記第2電極の先端の周囲に、ターゲットへ向かう方向の磁界を形成する第1磁石及び第2磁石と、
を備え、ターゲットに向かってプラズマ光を照射するプラズマ発生装置を使用して、
薬物を混在したマルトースで形成された1以上の微細針と、前記微細針を実装する基板と、からなるマイクロインプリメントの前記微細針
の内部のマルトースの凝集体がプラズマ光を照射する前と比較して微細化されるまでプラズマ光を前記微細針に照射する工程を含む、
マイクロインプリメントの製造方法。
【請求項5】
薬物を混在したマルトースで形成された1以上の微細針と、前記微細針を実装する基板と、からなるマイクロインプリメントにおいて、
前記微細針の表面にマルトースの凝集体が重合された重合皮膜層が形成されているマイクロインプリメント。
【請求項6】
薬物を混在したマルトースで形成された1以上の微細針と、前記微細針を実装する基板と、からなるマイクロインプリメントにおいて、
前記微細針を形成するマルトースの凝集体
の大きさが0.01μm~0.1μmに微細化されているマイクロインプリメント。
【請求項7】
前記微細針は、
円錐状の先端部と、
前記先端部と前記微細針を実装する基板との間に設けられた前記先端部と同径である円柱状の支柱部と、
からなる請求項5または6に記載のマイクロインプリメント。
【請求項8】
前記微細針は、
円錐状の先端部と、
前記支柱部と
前記支柱部と前記基板との間に設けられた前記支柱部の径より大きな計である円柱状の台座部と、
からなる請求項7に記載のマイクロインプリメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、マイクロインプリメント、および、マイクロインプリメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロインプリメントは、生体内物質で形成された微細針を有する医療器具である。微細針は、薬物を混ぜたマルトース(麦芽糖)で形成されている。微細針は、太さが0.1mm程度で、長さが1mm程度である。マイクロインプリメントを皮膚に押圧することで、微細針は皮膚内に挿入される。皮膚内に挿入されたマルトースで形成された微細針は、水分によって溶解し、マルトースに混在されている薬物とともに体内に浸透される。金属製マイクロニードルやプラスチック製マイクロニードルの代わりにマイクロインプリメントを使用することにより、医療廃棄物の削減ができ、環境対策になる。
【0003】
マイクロインプリメントの微細針は、皮膚内に挿入される際の痛みを低減するために、先端が鋭利になった類錐形状に形成されることが多い。しかし、マイクロインプリメントの微細針はマルトースで形成されているので、微細針は空気中の水分を吸収しやすい。マルトースの微細針が空気中の水分を吸収すると、微細針の先端の鋭利な形状がくずれ、先端が丸みをおびた形状になりえる。微細針の先端が丸みをおびた形状になると、マイクロインプリメントを皮膚に押圧した際に、患者に与える痛みが強くなることが頻繁である。また、皮膚下の想定する深さまで薬が投与できなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、マイクロインプリメントの微細針の先端形状の崩れを抑制することを課題とする。また、本発明は、微細針を形成するマルトースが体内で浸透する時間を短縮することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本実施形態に係るマイクロインプリメントの製造方法は、薬物を混在したマルトースで形成された1以上の微細針と、微細針を実装する基板と、からなるマイクロインプリメントの製造方法である。本実施形態に係るマイクロインプリメントの製造方法は、微細針の表面にマルトースの分子が重合した重合皮膜層が形成されるまで微細針にプラズマ光を照射する工程を含む。
【0007】
また、本実施形態に係るマイクロインプリメントの製造方法は、薬物を混在したマルトースで形成された1以上の微細針と、微細針を実装する基板と、からなるマイクロインプリメントの製造方法である。本実施形態に係るマイクロインプリメントの製造方法は、微細針にプラズマ光を照射することで、微細針を形成するマルトースの凝集体を微細化する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1に係るプラズマ発生装置の斜視図である。
【
図3】実施形態1に係るプラズマ発生装置の断面図である。
【
図4】実施形態1に係る第2磁石の配置について説明するための図である。
【
図5】実施形態1に係るプラズマ発生装置の電気配線について説明するための図である。
【
図6】実施形態1に係るプラズマ発生装置の動作について説明するための図である。
【
図7】実施形態1に係るマイクロインプリメントのイメージ図である。
【
図8】実施形態1に係るマイクロインプリメントの微細針の特性改善処理について説明するためのフローチャートである。
【
図9】実施形態1に係るマイクロインプリメントの微細針の特性改善処理について説明するための図である。
【
図10】実施形態1に係るマイクロインプリメントの微細針の特性改善処理について説明するための図である。
【
図11】実施形態1に係るマイクロインプリメントの微細針の特性改善処理について説明するための図である。
【
図12】実施形態1に係るマイクロインプリメントの微細針の特性改善処理について説明するための図である。
【
図13】実施形態1に係るマイクロインプリメントの微細針の特性改善処理について説明するための図である。
【
図14】実施形態1に係るマイクロインプリメントの微細針の特性改善処理について説明するための図である。
【
図15】実施形態1に係るマイクロインプリメントの微細針について説明するための図である。
【
図16】実施形態1に係るマイクロインプリメントの微細針について説明するための図である。
【
図17】実施形態2に係るマイクロインプリメントの微細針について説明するための図である。
【
図18】実施形態3に係るマイクロインプリメントの微細針について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態を、図面を用いて説明する。説明には、適宜、相互に直交するX軸、Y軸、Z軸からなるXYZ座標系を用いる。
【0010】
(実施形態1)
<プラズマ発生装置>
最初に、本実施形態に使用するプラズマ発生装置について説明する。
図1は、実施形態に係るプラズマ発生装置1の斜視図である。プラズマ発生装置1は、プラズマ発生部10と高圧電源30を備えている。プラズマ発生部10は、円筒形状のケース20と、ケース20に収容される第1電極11を備えている。
【0011】
図2は、プラズマ発生部10を、ケース20を省略して示す斜視図である。
図3は、
図1のAA断面を示す断面図である。
図2及び
図3に示されるように、プラズマ発生部10は、第1電極11、第2電極15、第1磁石17、8つの第2磁石18、金属部材19、ケース20を有している。
図2では、第2磁石18の記載が省略されている。
【0012】
図3に示されるように、ケース20は、ケース本体21とキャップ22を有している。ケース本体21は、上端部が閉塞され、下端部が開放された、ケーシングである。ケース本体21の上面(+Z側の面)の中央には、Z軸方向に貫通する開口21aが形成されている。ケース本体21は、例えば、樹脂からなり、厚さが約4mm、Z軸方向の寸法が約60mm、内径が約40mmである。また、開口21aの内径は、約5mmである。
【0013】
キャップ22は、中央部に開口22aが形成された環状の部材である。キャップ22は、外径がケース本体21の外径と同等になるように整形され、ケース本体21の-Z側端部に固定される。キャップ22は、例えば、樹脂からなる。
【0014】
図3に示されるように、第1電極11は、長手方向をZ軸方向とし、第1放電部11a、及び導電部11bの2部分を有する部材である。導電部11bは、下端部に雄ネジ部が形成されたM5サイズのボルトからなる。第1放電部11aは、直径が1mmで、長さが20mm程度の下端部が鋭利な部材である。第1放電部11aは、その上端部が導電部11bの下端に溶接されることで、導電部11bと一体化されている。第1電極11を構成する第1放電部11a、及び導電部11bは、鉄、ステンレス鋼などを素材とする。
【0015】
第1磁石17は、円形板状の部材である。第1磁石17の中央には、Z軸方向に貫通する貫通孔17aが形成されている。第1磁石17は、例えば、ネオジウム磁石などの磁力の強い磁石である。第1磁石17は、厚さが約5mmで外径が約30mmである。また、貫通孔17aの内径は約5mmである。第1磁石17は、上面側(+Z側の面)がS極となり、下面側(-Z側の面)がN極となるように着磁されている。
【0016】
図3に示されるように、上述のように構成される第1電極11は、ケース本体21の上方から、ワッシャ12を介して、開口21aに挿入される。第1磁石17の貫通孔17aに、ケース本体21の内部に突出する第1電極11を挿入した状態で、導電部11bにワッシャ13及びナット14を嵌合することで、ケース本体21、第1電極11、及び第1磁石17が一体化される。
【0017】
図2及び
図3に示されるように、第2電極15は、第2放電部15aと導電部15bを有している。導電部15bは、金属からなるメッシュである。導電部15bは、例えば、金属のメッシュを円形に切り出すことにより形成することができる。導電部15bの直径は、ケース本体21の内径よりやや大きく、約45mmである。導電部15bを構成する金属線の配列ピッチd1は、約5mmである。また、金属線の外径は約0.2mmである。導電部15bの中央には、第2放電部15aが溶接されている。
【0018】
第2放電部15aは、直径が1mmであり、長さが約8mm程度の上端部が鋭利な部材である。第2放電部15aは、その下端が導電部15bの中心部に溶接されることで、導電部15bと一体化されている。第2電極15を構成する第2放電部15a、及び導電部15bは、鉄、又はステンレス鋼などを素材とする。
【0019】
上述のように構成される第2電極15は、導電部15bの外縁部が、ケース本体21とキャップ22に挟持されることで、ケース20に組み付けられる。この状態のときには、第1電極11の第1放電部11aと、第2電極15の第2放電部15aは、
図3に示されるように、Z軸に平行な直線S上に配置される。また、第1放電部11aの先端と、第2放電部15aの先端とが、所定のギャップを介して対向することで、放電ギャップが形成される。
【0020】
金属部材19は、円筒状の部材である。金属部材19は、厚さが1mmの金属板を、ケース本体21の内周面に沿って湾曲させることにより形成されている。金属部材19の高さ(Z軸方向の寸法)は、約10mmであり、外径はケース本体21の内径とほぼ等しい。金属部材19は、例えば、外周面がケース本体21の内周面に接着されることで、ケース本体21に取り付けられている。金属部材19は、磁石が吸着する鉄などの金属からなる。
【0021】
8つの第2磁石18それぞれは、例えば、ネオジウム磁石などの磁力の強い磁石である。第2磁石18それぞれは、直径が約4mmの円形板状に整形されている。第2磁石18それぞれは、一側の面がS極となり、他側の面がN極となるように着磁されている。そして、第2磁石18それぞれは、N極が現れる面が金属部材19に接着されることで、金属部材19に取り付けられている。第2磁石18それぞれは、直線Sを中心に、金属部材19の内周面に沿って、等間隔に配列される。また、第2磁石18それぞれは、隣接する第2磁石同士が上下にオフセットするように配列される。
図4に示されるように、第2磁石18それぞれは、S極が現れる面が相互に対向するように配置される。
【0022】
プラズマ発生装置1では、
図2及び
図3に示されるように、金属部材19が、第1放電部11aの先端と第2放電部15aの先端との間の放電ギャップの下方に配置される。そのため、複数の第2磁石18は、第2放電部15aを包囲するように配置される。
【0023】
図1に示されるように高圧電源30は、ケース本体21に固定されている。高圧電源30は、例えば、DC/DCコンバータを備える電源である。高圧電源30は、例えば、商用電源からの電力を直流電力へ変換する直流電源100に接続される。そして、高圧電源30は、直流電源100から出力される出力電圧を昇圧して、プラズマ発生部10へ出力する。直流電源100としては、出力電圧が3V乃至5V程度のものを使用することが考えられる。
【0024】
図5は、プラズマ発生装置1の電気配線を示す図である。
図5に示されるように、高圧電源30は、負極が第1電極11に接続され、正極が第2電極15に接続されている。高圧電源30は、5万Vから100万Vの直流電圧を、第1電極11及び第2電極15に印加する。これによって、第1放電部11aと第2放電部15aの間の放電ギャップにアーク放電が生じる。第1放電部11aと第2放電部15aとの距離、第1放電部11aと第2放電部15aの先端の形状、気圧、湿度等の条件に応じて、高圧電源30の出力電圧が調整される。ここでは、例えば、高圧電源30の出力電圧が約40万Vに調整される。
【0025】
次に、プラズマ発生装置1の動作について
図6を参照しながら説明する。金属部材19は、第2磁石18によって磁化されている。具体的には、第2磁石18のN極が金属部材19と磁気的に接しているので、金属部材19は、第2磁石18のN極と接する内周面がS極に磁化される。
【0026】
図6の矢印に示されるように、ケース本体21の内部には、第1磁石17のN極から第2磁石18のS極及び金属部材19の内周面に向かう磁界が形成される。第2磁石18及び金属部材19が第1放電部11aの-Z側の先端よりも-Z側に位置しているので、第1放電部11a及び第2放電部15aの近傍には、開口22aへ向かう方向(-Z方向)の磁界が形成される。開口22aやその近傍では、一部の磁界が第2磁石18及び金属部材19側に向かって形成されるが、大部分の磁界は、第2放電部15aから開口22aへ向かって形成される。
【0027】
直流電源100から直流電圧が出力されると、高圧電源30は、約40万Vの直流電圧を出力する。これによって、約40万Vの直流電圧が第1電極11と第2電極15の間に印加される。そして、第1放電部11aと第2放電部15aとの間でアークが発生する。アークが発生すると、第1放電部11a及び第2放電部15aの周囲の大気を構成する分子の一部がプラスイオンと電子とに分離され、プラズマが生成される。高圧電源30の出力電力、第1電極11と第2電極15の間に印加する電圧、第1電極11と第2電極15の間の距離などにより、生成されるプラズマの量を調整することができる。
【0028】
上述したように、ケース本体21の内部には、第1放電部11a及び第2放電部15aから開口22aに向かう方向の磁界が形成されている。プラズマは、磁界の向きを示す磁力線に沿って移動する性質がある。したがって、生成されたプラズマの多くは、ケース20の内部に滞留することなく、開口22aからケース20の外に照射される。プラズマ発生装置1の開口22a近くには、プラズマを照射するターゲットであるマイクロインプリメント200が配置される。
【0029】
<マイクロインプリメント>
次に、マイクロインプリメントの構成について説明する。
図7は、マイクロインプリメント200の一例を示す斜視図である。マイクロインプリメント200は、薬物を混在したマルトースで形成された1以上の微細針210と、微細針210を実装する基板220と、を有する。基板220は、例えば、X軸とY軸方向の長さが10mm程度であり、Z軸方向の長さが1mm程度である。微細針210の直径は0.1mm程度であり、長さは1mm程度である。
図7では、16個の微細針210が記載されているが、微細針210の数は限定されない。基板220は、例えば、ポリビニールアルコール、プルラン、ポリエチレングリコールのようなプラスチック類およびヒアルロン酸のような多糖類あるいはコラーゲンのような蛋白質などの生体由来物質で形成される。
【0030】
<マイクロインプリメントの製造方法>
次に、マイクロインプリメント200の製造方法について
図8を参照して説明する。
【0031】
最初に、薬物を混在したマルトースを製造する(ステップS11)。具体的には、市販の粉末状のマルトースに薬剤を混ぜる。マルトースに混在される薬物(医薬剤あるいは化粧品に用いる薬剤)は水溶性であればよい。好ましい医薬剤としては、例えば、リドカインのような局所麻酔剤を始めとして数多い。特に有効なのは高分子医薬剤である。例えば、生理活性ペプチド類とその誘導体、核酸、オリゴヌクレオチド、各種の抗原蛋白質、バクテリア、ウイルスの断片等が挙げられる。また、上記生理活性ペプチド類とその誘導体としては、例えば、カルシトニン、副腎皮質刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、hPTH(1→34)、EGF、インスリン、セクレチン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、インターフェロン、インターロイキン、G-CSF、エンドセリン、及びこれらの塩等が挙げられる。抗原蛋白質としては、HBs表面抗原、HBe抗原等が挙げられる。上記化粧品に用いる薬剤としては、例えば、コウジ酸、ルシノール、トラネキサム酸、ビタミンA誘導体等の美白成分、レチノール、レチノイン酸、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等の抗シワ成分、カプサイン、ノリル酸バニリルアミド等の血行促進成分、ラズベリーケトン、月見草エキス、海草エキス等のダイエット成分、イソプロピルメチルフェノール、感光素、酸化亜鉛等の抗菌成分、ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンK等のビタミン類などが挙げられる。
【0032】
次に、ステップS11で製造したマルトースで所定の大きさ・形状の微細針210を製造する(ステップS12)。具体的には、薬剤を混ぜた粉末状のマルトースを微細針210の金型に入れる。そして、粉末状のマルトースを加熱して溶融する。溶融された状態のマルトースを液相マルトースということもある。次に、微細針210の金型に入った状態の液相マルトースを冷却して固体化する。固体状態のマルトースを凝固(固相)マルトースということもある。
【0033】
図9は、微細針210を形成するマルトースの凝集体(粒子)のイメージ図である。ステップS12の処理で製造される微細針210を形成するマルトースの凝集体の大きさは、0.1μm~1.0μm程度である。溶融後に冷却したマルトース素材は、複数の分子の凝集体を内在している。ステップS12の処理後における微細針210を形成するマルトースの凝集体の大きさは、1個のマルトースの分子の大きさよりかなり大きくなっている。
【0034】
次に、複数の微細針210を基板220に実装し、
図7に示すようなマイクロインプリメント200を製造する(ステップS13)。
【0035】
次に、マルトース素材に内在する凝集体を微細化する処理を行う(ステップS14)。
図10に示すように、マイクロインプリメント200をプラズマ発生装置1の開口22a付近に配置し、例えば、マイクロインプリメント200の基板220(裏面)側からプラズマ光を照射する。
【0036】
プラズマは、数10KeVエネルギーを発生するアーク放電によってX線に至る短波長で発光する特徴を有している。したがって、「プラズマ光が照射される」という記載よりも、「プラズマの生成に伴うX線に至る短波長の光が照射される」という記載のほうが正確であるかもしれない。プラズマは、イオン分子から遊離した電子が励振し合う共同現象とともに、高い周波数を有する光の波動的性質も有しているので、どちらの特性に着目しているかで表現が異なってくる。本明細書では、「プラズマが照射される」もしくは「プラズマ光が照射される」といった表現を用いることとする。
【0037】
微細針210を形成するマルトースに高エネルギーを内在する短波長(高い周波数)のプラズマ光を照射することで、微細針210を形成するマルトースの分子を励起する。励起されたマルトースの分子は、隣接する分子との凝集力が弱くなるので、多くの分子同士が凝集した大きな凝集体を形成することが困難になる。したがって、プラズマ光を照射することで、微細針210を形成するマルトースの凝集体を微細化することができる。
図11は、プラズマ光を照射したことにより、微細針210を形成するマルトースの凝集体が微細化されたことを示すイメージ図である。プラズマ光を照射することで、
図11に示すマルトースの凝集体の大きさは、
図9に示すプラズマ光を照射する前の凝集体の大きさに比べて小さくなる。ステップS14の処理で製造される微細針210を形成するマルトースの凝集体の大きさは、0.01μm~0.1μmに抑えることができる。
【0038】
使用するプラズマ発生装置から照射されるプラズマの量(プラズマ光の強さ)によって、粒子が微細化されるスピードは異なることになるが、プラズマ光を照射することでマルトースの凝集体を微細化さすることができる。プラズマ光の照射時間は、要求される粒子の微細化の程度、照射されるプラズマ光の強度、要求される微細針210が体内で溶ける速度(マルトースを形成する粒子の大きさ)、プラズマ光の照射時間(製造コスト)などの関係で決められる。ステップS14におけるプラズマ光の照射時間は、例えば、15分~30分程度である。
【0039】
次に、微細針210にプラズマ光を照射することで、微細針210の表面を強化(硬化)する処理を行う(ステップS15)。例えば、
図12に示すように、マイクロインプリメント200をプラズマ発生装置1の開口22a付近に配置し、マイクロインプリメント200の微細針210(表面)側からプラズマ光を照射する。プラズマ光を照射したことにより、
図13に示すように、微細針210の表面に重合皮膜層215が形成される。
【0040】
プラズマ光の照射を受けた微細針210の表面のマルトースの凝集体は、大気中の酸素とマルトースを構成する水素とが反応することで、水分が除去され、炭素濃度が高い状態となる。この状態では、炭素分子が結合しようとする働きが大きくなるため、マルトースの分子の重合(結合)が生じる。これにより、微細針210の表面には、マルトースの分子が重合した重合皮膜層215が形成される。
【0041】
使用するプラズマ発生装置から照射されるプラズマの量(プラズマ光の強さ)によって、マルトースの表面が強化されるスピードは異なることになるが、プラズマ光を照射することでマルトースの表面を強化することができる。要求されるマルトースの強度は、マイクロインプリメント200の保存状態(温度と湿度など)によっても異なってくる。ステップS15におけるプラズマの照射時間は、例えば、5分~15分程度である。
【0042】
図14は、ステップS14までの工程で製造されたマイクロインプリメント200の微細針210の先端部211を示すイメージ図である。マルトースは、空気中の水分を吸収しやすい。マルトースが空気中の水分を吸収すると、微細針210の先端の鋭利な形状がくずれ、
図15に示すように先端が丸みをおびた形状になりえる。微細針210の先端が丸みをおびた形状になると、マイクロインプリメント200を皮膚に押圧した際に、患者に与える痛みが強くなることが頻繁である。
【0043】
ステップS15の処理を行うことで、
図13に示すように、微細針210の表面に重合皮膜層215が形成される。これは一種の樹脂の紫外強化性による。重合皮膜層215が形成されることで、微細針210を形成するマルトースが周囲の水分を吸収することを抑制することができる。これにより、マイクロインプリメント200の微細針210の先端形状の崩れを抑制することができる。
【0044】
以上に説明したように、実施形態に係るマイクロインプリメント200は、微細針210にプラズマ光を照射することで、微細針210の表面を形成するマルトースの凝集体が重合皮膜層215を形成し、微細針210の表面が強化される。これにより、マイクロインプリメント200の微細針210の先端形状の崩れを抑制することができる。
【0045】
また、実施形態に係るマイクロインプリメント200は、微細針210にプラズマ光を照射することで、短波長のプラズマ光の高エネルギーにより、微細針210を形成するマルトースの凝集体が高エネルギーによって励起されることで、マルトースの凝集体が微細化される。マルトースの凝集体が小さいほど、マルトースは体内に浸透されやすくなる。したがって、マルトースの凝集体を微細化することで、マルトースに含まれている薬物が人体に浸透するために要する時間を短くすることができる。さらに、薬物を混在させる場合、アミノ基やアミン分子のような有機分子および、ヒアルロン酸のような多糖類、コラーゲンのような蛋白質などの生体由来物質が混在すると、窒素原子を含む有機分子であるので紫外線で軟化し、これらの分子を含む凝集体はさらに微細化が進み、生体への浸透性も良くなり、薬効が促進される。
【0046】
プラズマ光を照射することで、微細針210の内部のマルトースの凝集体は微細化される。一方、微細針210の表面のマルトースは重合皮膜層215を形成する。このように、プラズマ光を照射することで、マルトースの凝集体の微細化と微細針210の表面の強化を行うことができる。
【0047】
また、実施形態に係るマイクロインプリメント200は、微細針210をマルトースで形成しているので、微細針210が体内で折れても医療事故になることはない。また、マイクロインプリメント200は、微細針210をマルトースで形成しているので、医療廃棄物を削減することができ、環境対策になる。
【0048】
上記の説明では、
図1等に示す小型のプラズマ発生装置1を使用してマイクロインプリメント200にプラズマ光を照射する場合について説明したが、使用するプラズマ発生装置は
図1等に示すプラズマ発生装置1に限定する必要はない。例えば、AC電源で動作する大型のプラズマ発生装置を使用してもよい。
【0049】
また、上記の説明では、ステップS14のマルトース粒子の微細化工程ではマイクロインプリメント200の基板220側からプラズマ光を照射し、ステップS15の微細針210の表面強化工程では、マイクロインプリメント200の微細針210側からプラズマ光を照射する説明をした。しかし、マルトースの凝集体の微細化工程と微細針210の表面強化工程を一つの工程で行うこともできる。例えば、マイクロインプリメント200の微細針210側からプラズマ光を照射する工程のみとすることもできる。例えば、
図12に示すようにマイクロインプリメント200の表面(微細針210側)にプラズマ光を照射する。この場合、微細針210の表面に重合皮膜層215が形成されるまで、プラズマ光を照射する。
【0050】
また、上記の説明では、微細針210の形状が円錐である場合について説明したが、微細針210の形状を円錐に限定する必要はない。例えば、微細針210の形状を三角錐、四角錐などの類錐体としてもよい。
【0051】
また、上記の説明では、微細針210の太さが0.1mm程度で、長さが1mm程度である場合について説明したが、微細針210の太さと長さをこれに限定する必要はない。供給する皮膚表面からの深さ、供給する薬の量、マイクロインプリメント200を皮膚に押圧したときに感じる痛みの程度などを考慮して微細針210の太さと長さを調整することができる。例えば、マイクロインプリメント200を馬などに使用する場合、太くて長い微細針210を用いることが考えられる。
【0052】
(実施形態2)
図16は、
図7に記載した微細針210の一つを抽出した図である。実施形態1では、微細針210の形状が円錐形である場合について説明した。実施形態2に係る微細針210を
図17に示す。実施形態2に係るマイクロインプリメント200の微細針210は、先端部211と基板220との間に設けられた先端部211と同径である円柱状の支柱部212とを有している。
図8に示すステップS12の工程で使用する金型を変えることで、
図17に示す形状の微細針210を製造することができる。支柱部212を設けることで、基板220から微細針210の先端までの長さを調整することができる。これにより、微細針210により薬を供給する皮膚表面からの深さを調整することができる。
【0053】
(実施形態3)
実施形態3に係るマイクロインプリメント200の微細針210を
図18に示す。実施形態3に係る微細針210は、円錐状の先端部211と、実施形態2で説明した支柱部212と、支柱部212と基板220との間に設けられた支柱部212の径より大きな径である円柱状の台座部213と、を有する。
図8に示すステップS12の工程で使用する金型を変えることで、
図18に示す形状の微細針210を製造することができる。台座部213を設けることで、微細針210により薬を供給する皮膚表面からの深さを調整することができる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施しうるものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1…プラズマ発生装置
10…プラズマ発生部
11…第1電極
11a…第1放電部
11b…導電部
11f…円盤部
12,13…ワッシャ
14…ナット
15…第2電極
15a…第2放電部
15b…導電部
17…第1磁石
17a…貫通孔
18,18b…第2磁石
18c…開口
19…金属部材
20…ケース
21…ケース本体
21a、22a…開口
22…キャップ
20f…穴
30…高圧電源
100…直流電源
200…マイクロインプリメント
210…微細針
211…先端部
212…支柱部
213…台座部
215…重合皮膜層
220…基板
230…支柱部
240…台座部
【要約】
【課題】マイクロインプリメントの微細針の先端形状の崩れを抑制する。
【解決手段】本実施形態に係るマイクロインプリメントの製造方法は、薬物を混在したマルトースで形成された1以上の微細針と、前記微細針を実装する基板と、からなるマイクロインプリメントの製造方法である。本実施形態に係るマイクロインプリメントの製造方法は、微細針にプラズマ光を照射することで、微細針の表面を強化する工程を含む。
【選択図】
図8