(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】移動体間給電システム及び移動体間給電方法
(51)【国際特許分類】
H02J 50/20 20160101AFI20240704BHJP
H02J 50/23 20160101ALI20240704BHJP
H02J 50/27 20160101ALI20240704BHJP
B64U 10/13 20230101ALI20240704BHJP
B64U 50/35 20230101ALI20240704BHJP
【FI】
H02J50/20
H02J50/23
H02J50/27
B64U10/13
B64U50/35
(21)【出願番号】P 2023212064
(22)【出願日】2023-12-15
【審査請求日】2024-01-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512205223
【氏名又は名称】石川 容平
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 容平
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-047341(JP,A)
【文献】特開2020-178463(JP,A)
【文献】特開2019-135900(JP,A)
【文献】松室 尭之,両側レトロディレクティブシステムによる自己収束ビーム形成の基礎検討,信学技報,WPT2017-38,日本,電子情報通信学会,2017年10月,第13-16ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J50/00-50/90
B64U10/00-80/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1移動体及び第2移動体を含んで構成され、
前記第1移動体は、マイクロ波を移動状態で受電するマイクロ波受電部と、当該マイクロ波受電部による受電電力を入力する受電部と、を備え、
前記第2移動体は、発電部と、当該発電部による発電電力を移動状態でマイクロ波を送電するマイクロ波送電部と、を備え、
前記マイクロ波送電部は、複数の素子アンテナが配列された送電部側アレーアンテナを有し、
前記マイクロ波受電部は、複数の素子アンテナが配列された受電部側アレーアンテナを有し、
前記マイクロ波送電部は、前記マイクロ波受電部から送信された電波を受信することによる、前記マイクロ波送電部の素子アンテナの受信信号から、当該受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、当該位相共役信号で前記マイクロ波送電部の素子アンテナを駆動することで、前記マイクロ波受電部から送信された電波をパイロット信号とするレトロディレクティブ動作で送電電力を前記マイクロ波受電部へ送電する、送電部側素子アンテナ回路を備え、
前記マイクロ波受電部は、前記マイクロ波送電部から送信された電波を受信することによる、前記マイクロ波受電部の素子アンテナの受信信号から、当該受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、当該位相共役信号で前記マイクロ波受電部の素子アンテナを駆動することで、前記マイクロ波送電部から送電された電波をパイロット信号とするレトロディレクティブ動作で送信信号を前記マイクロ波送電部へ送信する、受電部側素子アンテナ回路を備え、
前記マイクロ波送電部でのレトロディレクティブ動作と前記マイクロ波受電部でのレトロディレクティブ動作とが繰り返されることで、前記送電部側アレーアンテナから送電される電波及び前記受電部側アレーアンテナから送信される電波のいずれも、漏洩エネルギーを常に最少状態に保ち、前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間に入る、電力伝送に対する障害物を避けるように、前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間に自己収束ビームを形成して、前記マイクロ波送電部から前記マイクロ波受電部へ給電する、
移動体間給電システム
であり、
前記マイクロ波受電部と前記マイクロ波送電部は、
前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの対向時に前記マイクロ波受電部から送信される前記パイロット信号が前記マイクロ波送電部で受信可となって、前記マイクロ波送電部でのレトロディレクティブ動作と前記マイクロ波受電部でのレトロディレクティブ動作との繰り返しにより、前記マイクロ波送電部から前記マイクロ波受電部への給電が行われ、
前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの非対向時に前記マイクロ波受電部から送信される前記パイロット信号が前記マイクロ波送電部で受信不可となって、前記マイクロ波送電部でのレトロディレクティブ動作と前記マイクロ波受電部でのレトロディレクティブ動作との繰り返しが停止されることで、前記マイクロ波送電部から前記マイクロ波受電部への給電が停止され、
前記第1移動体及び前記第2移動体は、前記自己収束ビームが上下方向に形成されるよう前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナの取り付け位置が決められている、
移動体間給電システム。
【請求項2】
少なくとも第1移動体及び第2移動体を含んで構成され、
前記第1移動体は、マイクロ波を移動状態で受電するマイクロ波受電部と、当該マイクロ波受電部による受電電力を入力する受電部と、を備え、
前記第2移動体は、発電部と、当該発電部による発電電力を移動状態でマイクロ波を送電するマイクロ波送電部と、を備え、
前記マイクロ波送電部は、複数の素子アンテナが配列された送電部側アレーアンテナを有し、
前記マイクロ波受電部は、複数の素子アンテナが配列された受電部側アレーアンテナを有し、
前記マイクロ波送電部は、前記マイクロ波受電部から送信された電波を受信することによる、前記マイクロ波送電部の素子アンテナの受信信号から、当該受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、当該位相共役信号で前記マイクロ波送電部の素子アンテナを駆動することで、前記マイクロ波受電部から送信された電波をパイロット信号とするレトロディレクティブ動作で送電電力を前記マイクロ波受電部へ送電する、送電部側素子アンテナ回路を備え、
前記マイクロ波受電部は、前記マイクロ波送電部から送信された電波を受信することによる、前記マイクロ波受電部の素子アンテナの受信信号から、当該受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、当該位相共役信号で前記マイクロ波受電部の素子アンテナを駆動することで、前記マイクロ波送電部から送電された電波をパイロット信号とするレトロディレクティブ動作で送信信号を前記マイクロ波送電部へ送信する、受電部側素子アンテナ回路を備え、
前記マイクロ波送電部でのレトロディレクティブ動作と前記マイクロ波受電部でのレトロディレクティブ動作とが繰り返されることで、前記送電部側アレーアンテナから送電される電波及び前記受電部側アレーアンテナから送信される電波のいずれも、漏洩エネルギーを常に最少状態に保ち、前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間に入る、電力伝送に対する障害物を避けるように、前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間に自己収束ビームを形成して、前記マイクロ波送電部から前記マイクロ波受電部へ給電し、
前記第1移動体は複数存在し、各第1移動体が有する前記受電部側アレーアンテナと前記送電部側アレーアンテナとで、それぞれ前記自己収束ビームを形成する、
移動体間給電システム。
【請求項3】
前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間隔は、速やかに前記自己収束ビームを形成させるために、
前記給電中は、前記送電部側アレーアンテナ又は前記受電部側アレーアンテナの幅の数倍から200倍の範囲内である、
請求項1
又は2に記載の移動体間給電システム。
【請求項4】
前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間隔は、速やかに前記自己収束ビームを形成させるために、前記給電中は、前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間隔
が、数10mから数100mの範囲内で、前記第1移動体と前記第2移動体との間隔がほぼ一定に保た
れる、
請求項1
又は2に記載の移動体間給電システム。
【請求項5】
前記第1移動体及び前記第2移動体はいずれも空中を飛行する飛行体であり、
前記第1移動体は上面方向を向く前記受電部側アレーアンテナを備え、前記第2移動体は下面方向を向く前記送電部側アレーアンテナを備え、
前記第1移動体は、飛行中に前記マイクロ波受電部で前記マイクロ波を受電し、
前記第2移動体は、飛行中に前記マイクロ波送電部が前記マイクロ波を送電し、
前記第1移動体及び前記第2移動体は上下関係で並行飛行中に前記給電を行う、
請求項
1に記載の移動体間給電システム。
【請求項6】
前記第1移動体は飛行中に前記マイクロ波受電部が受電した電力で空中を飛行する飛行体であり、前記第2移動体は海上を航行する船舶であり、
前記第1移動体は下面方向を向く前記受電部側アレーアンテナを備え、前記第2移動体は上面方向を向く前記送電部側アレーアンテナを備え、
前記第1移動体は、飛行中に前記マイクロ波受電部で前記マイクロ波を受電し、
前記第2移動体は、航行中に前記マイクロ波送電部が前記マイクロ波を送電し、
前記第1移動体が前記第2移動体の上空を飛行中に前記給電を行う、
請求項
1に記載の移動体間給電システム。
【請求項7】
前記受電部側アレーアンテナの面は前記第1移動体の飛行による気流が流れる方向に沿った面である、
請求項
5又は6に記載の移動体間給電システム。
【請求項8】
前記第1移動体の前記受電部側アレーアンテナは、折り曲げにより、前記受電部側アレーアンテナに対する平面視での面積を縮小化する折り曲げ部を有する、
請求項1
又は2に記載の移動体間給電システム。
【請求項9】
前記受電部側アレーアンテナは前記送電部側アレーアンテナより小さい、
請求項
1又は2に記載の移動体間給電システム。
【請求項10】
少なくとも第2移動体から第1移動体へ電力をマイクロ波で給電する移動体間給電方法であって、
前記第1移動体は、マイクロ波を移動状態で受電するマイクロ波受電部と、当該マイクロ波受電部による受電電力を入力する受電部と、を備え、
前記第2移動体は、発電部と、当該発電部による発電電力を移動状態でマイクロ波を送電するマイクロ波送電部と、を備え、
前記マイクロ波送電部は、複数の素子アンテナが配列された送電部側アレーアンテナを有し、
前記マイクロ波受電部は、複数の素子アンテナが配列された受電部側アレーアンテナを有し、
前記マイクロ波送電部は、前記マイクロ波受電部から送信された電波を受信することによる、前記マイクロ波送電部の素子アンテナの受信信号から、当該受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、当該位相共役信号で前記マイクロ波送電部の素子アンテナを駆動することで、前記マイクロ波受電部から送信された電波をパイロット信号とするレトロディレクティブ動作で送電電力を前記マイクロ波受電部へ送電する、送電部側素子アンテナ回路を備え、
前記マイクロ波受電部は、前記マイクロ波送電部から送信された電波を受信することによる、前記マイクロ波受電部の素子アンテナの受信信号から、当該受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、当該位相共役信号で前記マイクロ波受電部の素子アンテナを駆動することで、前記マイクロ波送電部から送電された電波をパイロット信号とするレトロディレクティブ動作で送信信号を前記マイクロ波送電部へ送信する、受電部側素子アンテナ回路を備え、
前記マイクロ波送電部でのレトロディレクティブ動作と前記マイクロ波受電部でのレトロディレクティブ動作とが繰り返されることで、前記送電部側アレーアンテナから送電される電波及び前記受電部側アレーアンテナから送信される電波のいずれも、漏洩エネルギーを常に最少状態に保ち、前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間に入る、電力伝送に対する障害物を避けるように、前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間に自己収束ビームが形成されて、前記マイクロ波送電部から前記マイクロ波受電部へ給電され、
前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとを対向させることによって前記マイクロ波受電部から送信される前記パイロット信号を前記マイクロ波送電部で受信可とさせ、前記マイクロ波送電部でのレトロディレクティブ動作と前記マイクロ波受電部でのレトロディレクティブ動作との繰り返しを開始させることで、前記マイクロ波送電部から前記マイクロ波受電部への給電を行い、
前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとを非対向させることによって前記マイクロ波受電部から送信される前記パイロット信号を前記マイクロ波送電部で受信不可とし、前記マイクロ波送電部でのレトロディレクティブ動作と前記マイクロ波受電部でのレトロディレクティブ動作との繰り返しを停止させることで、前記マイクロ波送電部から前記マイクロ波受電部への給電を停止させる、
移動体間給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動体と移動体との間で電気エネルギーを伝送する移動体間給電システム及び移動体間給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動の飛行体は、充電電池をエネルギー源としてモーターでプロペラを回転させる。この充電電池は陸地に駐機している状態で充電される。当然のことながら、充電量及びモーターの消費電力に応じて、飛行体の飛行距離、飛行時間、飛行時間等が定まる。上記モーターの消費電力は飛行体の本体及び積載物の合計重量に相関する。
【0003】
上記電動飛行体の運用方法は、モーター及びプロペラによる推進力並びに充電電池のエネルギー密度及び充電速度に大きく依存する。
【0004】
特許文献1には、無人の飛行体を所定の位置に制御する係留型飛行体及びその利用システムが開示されている。このシステムは、例えば、比較的高度位置に係留型飛行体(飛行船)を係留した状態で、目的場所における画像等の情報を取得するシステムとして利用される。
【0005】
特許文献2には、無人給電車から無線で送電される電力波を無人飛行体で受電するように構成し、複数の無人飛行体を給電場所に移動させずに給電することができる無人飛行体用給電システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-289695号公報
【文献】特開2020-138658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在の充電電池のエネルギー密度や充電速度の性能は次第に向上してきている。しかし、充電電池をエネルギー源とする飛行体の運用内容によっては、その性能がまだまだ足りない。特に、大電力を使用する飛行体においてその運用方法は、モーター及びプロペラによる推進力並びに充電電池のエネルギー密度及び充電速度に制限される。
【0008】
例えば無人航空機(無人ドローン)を用いて、航空機の飛行高度から陸地、海洋、空中の状態を監視するためには、静粛性及び安全性の面で、その無人航空機が電動飛行体であることが必須である。しかし、既述どおり、電動飛行体はモーター及びプロペラによる推進力並びに充電電池のエネルギー密度及び充電速度に制限されるので、その監視時間や監視範囲が定まってしまう。
【0009】
また、一般に、航空機の性能として、航続距離、巡航速度、離陸速度、着陸速度、高度などが挙げられるが、無人の電動飛行体の運用においては、特に飛行時間又は飛行距離が重要である。
【0010】
特許文献1に示されているように、比較的高高度の位置から監視を行うシステムの場合、固定位置から監視を行うこととなるので、監視位置を変更したり、例えば移動しつつ監視を行ったりするようなことはできない。
【0011】
また、特許文献2に示されているシステムでは、単に、レクテナが、無人給電車から送信されたマイクロ波を受信して直流電流に変換するだけであり、無人給電車から送信されたマイクロ波の漏洩(分散)については何ら考慮されていない。
【0012】
また、送電部から受電部へマイクロ波で電力を給電するシステムにおいては、送電部と受電部との間に、電力伝送に対する障害物(遮蔽物)が偶発的に侵入することがある。このような障害物の侵入があると、給電効率が低下するだけでなく、障害物に対してマイクロ波が照射される。このことにより、障害物がマイクロ波の影響で昇温することが問題になることも考えられる。
【0013】
本発明の目的は、上述の基本的な限界要因を回避するとともに、障害物の侵入による問題を解消し、移動体間でエネルギーの伝送を高効率で行い、移動体の飛行時間又は飛行距離を長くできるようにしたシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
電力を要する移動体が他の移動体から電力を受けることは重要であり、移動体の飛行時間又は飛行距離を長くする上で非常に効果的である。また、移動体の運用の多様性を高める意味においても重要である。
【0015】
本開示の一例としての移動体間給電システムは、
少なくとも第1移動体及び第2移動体を含んで構成され、
前記第1移動体は、マイクロ波を移動状態で受電するマイクロ波受電部と、当該マイクロ波受電部による受電電力を入力する受電部と、を備え、
前記第2移動体は、発電部と、当該発電部による発電電力を移動しつつマイクロ波で送電するマイクロ波送電部と、を備え、
前記マイクロ波送電部及び前記マイクロ波受電部は、それぞれ複数の素子アンテナが配列されたアレーアンテナを有し、
前記マイクロ波送電部は、前記マイクロ波受電部から送信された電波を受信することによる、前記マイクロ波送電部の素子アンテナの受信信号から、当該受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、当該位相共役信号で前記マイクロ波送電部の素子アンテナを駆動することで、前記マイクロ波受電部から送信された電波をパイロット信号とするレトロディレクティブ動作で送電電力を前記マイクロ波受電部へ送電する、送電部側素子アンテナ回路を備え、
前記マイクロ波受電部は、前記マイクロ波送電部から送信された電波を受信することによる、前記マイクロ波受電部の素子アンテナの受信信号から、当該受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、当該位相共役信号で前記マイクロ波受電部の素子アンテナを駆動することで、前記マイクロ波送電部から送電された電波をパイロット信号とするレトロディレクティブ動作で送信信号を前記マイクロ波送電部へ送信する、受電部側素子アンテナ回路を備え、
前記マイクロ波送電部でのレトロディレクティブ動作と前記マイクロ波受電部でのレトロディレクティブ動作とが繰り返されることで、前記マイクロ波送電部のアレーアンテナから送電される電波及び前記マイクロ波受電部のアレーアンテナから送信される電波のいずれも、漏洩エネルギーを常に最少状態に保ち、前記マイクロ波送電部のアレーアンテナと前記マイクロ波受電部のアレーアンテナとの間に入る、電力伝送に対する障害物を避けるように、前記マイクロ波送電部のアレーアンテナと前記マイクロ波受電部のアレーアンテナとの間に自己収束ビームを形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電力伝送に対する障害物の影響及び障害物に対する影響を避けて、移動体間でエネルギーの伝送を高効率で行い、移動体の飛行時間又は飛行距離を長くできるようにしたシステムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、第1移動体101と第2移動体201とを含んで構成される移動体間給電システム301の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2(A)は本実施形態における、両側レトロディレクティブ動作による電力伝送システムのビームパイロット信号と電力波との関係を示す図であり、
図2(B)は比較例としての片側レトロディレクティブ動作による電力伝送システムにおけるパイロット信号と電力波との関係を示す図である。
【
図3】
図3はビームパイロット信号と電力波との偏波の関係について示す図である。
【
図4】
図4は従来のフェーズドアレーアンテナ方式と最小ビーム導波路方式との比較例を示す図である。
【
図5】
図5は、受電部側アレーアンテナ110に接続される回路と、送電部側アレーアンテナ210に接続される回路の構成について示す図である。
【
図6】
図6は両側レトロディレクティブ動作によるマイクロ波ビームの収束の様子を示す図である。
【
図7】
図7は両側レトロディレクティブ動作によるマイクロ波ビームの収束の様子を示す図である。
【
図8】
図8はマルチパスがある状況での、ビームパイロット信号と電力波について、それぞれのビームの電界強度(デシベル値)を濃淡で示す図である。
【
図9】
図9は繰り返し回数Nに対するビーム収束率η及びエネルギー漏れとの関係を示す図である。
【
図10】
図10は、特に、上記繰り返し回数Nに対する伝送効率(上記ビーム収束率η)、伝送損失(上記エネルギー漏れ)及び、繰り返しごとの、伝送損失の前々回との差分の関係を示す図である。
【
図11】
図11は送電アンテナと受電アンテナとによるSマトリクスの一次元モデルを示す図である。
【
図12】
図12はマイクロ波の伝搬経路中に何らかの理由でマイクロ波の吸収体(障害物)が存在するときのマイクロ波の伝搬の様子を示す図である。
【
図13】
図13はマイクロ波の伝搬経路中に何らかの理由でマイクロ波の吸収体(障害物)が存在するときのマイクロ波の伝搬の様子を示す図である。
【
図14】
図14は、第1移動体101と第2移動体201とで構成される移動体間給電システムの外観上の概念的な図である。
【
図15】
図15は送電部側アレーアンテナ210と受電部側アレーアンテナ110との間におけるマイクロ波ビームの強度分布を示す図である。
【
図16】
図16は、第1移動体102,103と第2移動体202とで構成される移動体間給電システムの外観上の概念的な図である。
【
図17】
図17は、第2移動体202のマイクロ波送電部200(
図1に示したマイクロ波送電部200)から3つの第1移動体のマイクロ波受電部100A,100B,100C(
図1に示したマイクロ波受電部100)にそれぞれマイクロ波電力ビームを送電する例を示す図である。
【
図18】
図18(A)は第1移動体のマイクロ波受電部100A,100B,100Cにおけるエネルギー密度をリニアの濃淡で表した図であり、
図18(B)はマイクロ波受電部100A,100B,100Cにおけるエネルギー密度をグラフで表した図である。
【
図20】
図20の上部に示す図は第1移動体105の外観図である。
図20の中部と下部は、受電部側アレーアンテナ115だけを分離して示す図である。
【
図21】
図21(A)は、一つの素子アンテナの斜視図であり、
図21(B)はその内部を透視した斜視図である。
【
図23】
図23(A)は第1対の磁気結合プローブ(Px1,Px2)に接続される給電部の構成を示す図であり、
図23(B)は第2対の磁気結合プローブ(Py1,Py2)に接続される給電部の構成を示す図である。
【
図24】
図24(A)は
図23(A)に示した電流が流れるときに生じる磁束を示す図である。
図24(B)は
図23(A)に示した電流が流れるときに生じる磁界強度の分布を示す図である。
【
図25】
図25(A)は、一つの素子アンテナの誘電体内に設けられる磁気プローブの斜視図であり、
図25(B)は一つの素子アンテナの平面図である。
【
図26】
図26は、
図23(A)、
図23(B)に示した2つの180°ハイブリッド回路のX偏波ポートとY偏波ポートに接続される回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を、本発明が適用される移動体間給電システムについて説明する。また、その移動体間給電システムを構成する要素毎に順に説明する。
【0019】
《移動体間給電システム》
先ず移動体間給電システムの全体的な構成について例示する。
【0020】
図1は、第1移動体101と第2移動体201とを含んで構成される移動体間給電システム301の構成を示すブロック図である。
【0021】
移動体間給電システム301は少なくとも第1移動体101及び第2移動体201を含んで構成されている。一つの例として、第1移動体101は飛行体であり、第2移動体201は船舶である。また、別の例として、第1移動体101、第2移動体201はいずれも飛行体である。
【0022】
例えば、陸地に設置されたアンテナと、島に設置されたアンテナと、の間でマイクロ波で電力伝送する構成とは異なり、第1移動体101、第2移動体201のいずれも移動する。そして、マイクロ波のビームは第1移動体101と第2移動体201とは、ほぼ鉛直方向を向く。
【0023】
また、移動体間給電システム301は、陸地に設置されたアンテナと、島に設置されたアンテナと、の間でマイクロ波で電力伝送するように、極めて長距離の電力伝送をするわけではなく、移動体間で電力伝送を行うシステムであって、送電部側アレーアンテナ210と受電部側アレーアンテナ110との間隔は、送電部側アレーアンテナ210又は受電部側アレーアンテナ110の幅の10倍から200倍の範囲内である。または、送電部側アレーアンテナ210と受電部側アレーアンテナ110との間隔は、数10mから数100mの範囲内である。
【0024】
第1移動体101は、マイクロ波を移動状態で受電するマイクロ波受電部100と、このマイクロ波受電部100による受電電力を入力する受電部120と、を備える。
【0025】
第2移動体201は、発電部220と、この発電部220による発電電力をマイクロ波で送電するマイクロ波送電部200と、を備える。
【0026】
マイクロ波送電部200は、複数の素子アンテナが配列された送電部側アレーアンテナ210と送電部側素子アンテナ回路20とを有する。マイクロ波受電部100は、複数の素子アンテナが配列された受電部側アレーアンテナ110と受電部側素子アンテナ回路10とを有する。
【0027】
送電部側素子アンテナ回路20及び受電部側素子アンテナ回路10の構成については後述する。
【0028】
第1移動体101は、受電部120が入力した電力で移動する移動用推進装置130と、受電部120が入力した電力を蓄電する蓄電装置140と、を備える。すなわち、第1移動体101の受電部120は第2移動体201から受電した電力で蓄電装置140を充電する。また、移動用推進装置130は蓄電装置140の電力又は受電部120の入力電力で第1移動体101を移動させる。
【0029】
第2移動体201の発電部220は発電機を備える。第2移動体201は、前記発電機を駆動する、内燃機関による発動機240と、当該発動機240による動力又は前記発電部220による電力で移動する移動用推進装置230を備える。すなわち、発動機240は、発電部220を駆動することで発電させ、その電力を送電部側素子アンテナ回路20へ入力する。また、移動用推進装置230は発動機240による動力又は発電部220による電力で第2移動体201を移動させる。
【0030】
発動機240は例えば内燃機関であり、往復運動型のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、回転運動型のロータリーエンジン、ガスタービン、ジェットエンジン等である。発電部220は回転運動エネルギーを電気エネルギーに変換する。
【0031】
マイクロ波送電部200とマイクロ波受電部100とは、後に示す両方向(双方向)レトロディレクティブ動作により、送電部側アレーアンテナ210から送電される電波及びマイクロ波受電部100の受電部側アレーアンテナ110から送信される電波のいずれも、漏洩エネルギーを常に最少状態に保つ。また、送電部側アレーアンテナ210とマイクロ波受電部100の受電部側アレーアンテナ110との間に入る、電力伝送に対する障害物を避けるように、送電部側アレーアンテナ210とマイクロ波受電部100の受電部側アレーアンテナ110との間に自己収束ビームCBを形成する。
【0032】
第1移動体101及び第2移動体201はいずれも移動しつつ、上記マイクロ波の自己収束ビームCBを介して、第2移動体201から第1移動体101へ電力を給電する。
【0033】
受電部側アレーアンテナ110の中心を通る垂線と送電部側アレーアンテナ210の中心を通る垂線とは、一致するとは限らない。
図1中の一点鎖線は受電部側アレーアンテナ110の中心と送電部側アレーアンテナ210の中心とを結ぶ直線の一部である。
【0034】
第2移動体201が船舶である場合、送電部側アレーアンテナ210の面は、通常、水平面であり、飛行体である受電部側アレーアンテナ110の面も通常は水平面である。第1移動体101、第2移動体201がともに飛行体である場合、両者は水平飛行するので、受電部側アレーアンテナ110の面も送電部側アレーアンテナ210の面も、通常は水平面である。したがって、受電部側アレーアンテナ110の中心を通る垂線が送電部側アレーアンテナ210を通るとは限らず、送電部側アレーアンテナ210の中心を通る垂線が受電部側アレーアンテナ110を通るとも限らないが、受電部側アレーアンテナ110の面と送電部側アレーアンテナ210の面とは平行又は略平行である。
【0035】
送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナの大きさが同等であると、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの間に生じるマイクロ波のビームの中間位置に、ビーム幅が最も小さくなるビームウエストが生じるが、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナの大きさが異なると、小さなアレーアンテナ寄りにビームウエストが生じる。送電部側アレーアンテナ210を、受電部側アレーアンテナ110より大型にすることにより、言い換えると、受電部側アレーアンテナ110を送電部側アレーアンテナ210より小型にすると、ビームウエストに近い位置に受電部側アレーアンテナが存在するように位置関係を保つことになるので、アンテナ面積を効率良く使用できる。
【0036】
《両側レトロディレクティブ動作》
図2(A)は本実施形態における、両側レトロディレクティブ動作による電力伝送システムのビームパイロット信号と電力波との関係を示す図であり、
図2(B)は比較例としての片側レトロディレクティブ動作による電力伝送システムにおけるパイロット信号と電力波との関係を示す図である。
【0037】
図2(B)に示す比較例の電力伝送システムでは、受電アンテナの中央部の極一部にパイロット信号送信用の受電部側アレーアンテナ110Cが設けられ、その周囲の大部分に電力波受電用の受電部側アレーアンテナ110Pが設けられている。また、送電アンテナの中央部の極一部にパイロット信号受信用アレーアンテナ210Cが設けられ、その周囲の大部分に電力波送電用のアレーアンテナ210Pが設けられている。受電局は受電アンテナのパイロット信号送信用の受電部側アレーアンテナ110Cを用いてパイロット信号を送信し、送電局では、送電アンテナのパイロット信号受信用アレーアンテナ210Cを用いてパイロット信号を受信することで、そのパイロット信号の到来方向を検知し、その方向に、電力波送電用のアレーアンテナ210Pを用いてビーム形成された電力波を送電する。
【0038】
このように、比較例の受電アンテナは、アレーアンテナの大部分(大面積)を電力伝送に利用するために、アレーアンテナの残りの一部の領域をパイロット信号の送受用に用いるので、受電局は言わば拡散パイロット信号を送信することになる。そのため、この比較例の電力伝送システムでは、散乱体でパイロット信号が反射して、送電局のパイロット信号受信用アレーアンテナ221Cに対するマルチパスが生じる。その結果、レトロディレクティブが不正確となって、電力伝送効率は大きく低下する。
【0039】
片側レトロディレクティブ動作だと、パイロット信号が拡がったまま固定であるので、距離に応じたガウス強度分布にし、しかも受電部がアンテナの中心を狙うだけであるので、送電部と受電部の双方が固定されていれば使えるが、移動体同士だとうまくいかない。
【0040】
また、片側レトロディレクティブ動作だと、パイロット信号がマルチパスすると、送波マイクロ波が分散してしまう。
【0041】
また、片側レトロディレクティブ動作で複数の第1移動体に対して給電を行う場合、パイロット信号の混信を避けるため、パイロット信号はすべて違う周波数信号を使用するように構成する必要があり、その申請も必要になる。
【0042】
また、片側レトロディレクティブ動作だと、パイロット信号のサンプリングポイントに応じたサイドローブ(干渉)の問題が生じ、電力送電波ビームの分散が問題となる。
【0043】
ここで、片側レトロディレクティブ動作と両側レトロディレクティブ動作とを対比すると、次の比較表のとおりである。
【0044】
【0045】
表1において、「新方式」は本発明で用いる両側レトロディレクティブ動作による電量伝送法であり、「従来方式」は従来、太陽発電衛星(Solar Power Satellite, 略称SPS)用無線電力伝送を中心に研究されてきた片側レトロディレクティブ動作による電力伝送法である。
【0046】
両側レトロディレクティブ動作だと、比較表のとおり、ビームフォーミングをパッシブに行うので、簡易な回路で構成できる。また、必要な方向にビームを方向制御する場合も、両側レトロディレクティブ方式で対応できる。また、パイロット信号のビームが自動変堂するので、電力波の漏れが少ない。また、マルチビームに対応するので、ビーム数に依存せずに最大伝送距離で電力伝送が可能である。さらに数波長以内の障害物はms単位で自走回避できる。また、実効伝送効率は常時高効率を保てる。
【0047】
また、水平、垂直、傾き、雨、霧などがあっても、それらの影響を受けない。
【0048】
また、後述するように、人や大型鳥等の障害物がマイクロ波電力伝送の経路内に入っても、電力給電システムは障害物の影響を殆ど受けないし、障害物はマイクロ波の影響を殆ど受けない。特に、送受間の距離が短いので応答速度が高速であって、影響を受けにくい。
【0049】
本実施形態の電力伝送システムでは、先ず、受電部側アレーアンテナ110の全面の素子アンテナを用いて、ビームパイロット信号を受電部側アレーアンテナ110から送電部側アレーアンテナ210へ送信する。このことにより、パイロット信号が拡散されずに送信される。送電部側アレーアンテナ210の各素子アンテナは上記ビームパイロット信号の受信による受信信号から、この受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、この位相共役信号で素子アンテナを駆動することで、結果的にビーム形成された電力波を送電する。すなわち、受電側アレーアンテナの全部又は大部分の素子アンテナを用いてビームパイロット信号が送信され、送電側アレーアンテナの全部又は大部分の素子アンテナを用いてビームパイロット信号の受信及び電力波の送電が行われる。その結果、レトロディレクティブが正確となって、高効率で電力伝送される。上記「大部分」とは、必ずしも全部の素子アンテナを用いてビームパイロット信号を生成することに限らないことを表すものであり、例えば90%以上の素子アンテナを用いてビームパイロット信号を生成してもよい。
【0050】
本実施形態によれば、パイロット信号を、送電部側アレーアンテナ210に鋭く指向するビーム(後述の自己収束ビーム)で送信するので、散乱する反射体などでの反射が少なく、マルチパスの殆ど無い状態でビームパイロット信号が送電部側アレーアンテナ210へ送信される。そのため、パイロット信号のマルチパスによる問題が解消される。
【0051】
図3は上記ビームパイロット信号と電力波との偏波の関係について示す図である。受電部側アレーアンテナ110の各素子アンテナは水平偏波用の素子と、垂直偏波用の素子とを備え、同様に、送電部側アレーアンテナ210の各素子アンテナも水平偏波用の素子と、垂直偏波用の素子とを備える。この例では、受電部側アレーアンテナ110は、ビームパイロット信号を送信し、送電部側アレーアンテナ210は電力波を送電する。このビームパイロット信号と電力波とは互いに直交関係の円偏波である。
【0052】
このようにビームパイロット信号と電力波とは偏波面が直交していて互いに独立しているので、受電部側アレーアンテナ110の各素子アンテナに接続されているパイロット信号給電用の回路が電力波に影響を受けることはない。また、送電部側アレーアンテナ210の各素子アンテナに接続されるパイロット信号受信用の回路が、自身の素子アンテナが送電する電力波の影響を受けることもない。
【0053】
《ビーム制御》
図4は従来のフェーズドアレーアンテナ方式と最小ビーム導波路方式との比較例を示す図である。従来のフェーズドアレーアンテナ方式では各アンテナ素子の電界強度がフラットに分布するので、電波の伝搬に伴いガウス基本モードが近軸に選択される。これに対して、最小ビーム導波路方式では中央ほど電界強度の強い分布で伝搬する。
【0054】
なお、
図4では、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの間隔がkm単位の長距離について示したが、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの間隔が50mや100m単位の短距離についても同様である。
【0055】
アレーアンテナの直径が50m、伝搬距離が10kmで、5.8GHzのマイクロ波を用いたとき、フェーズドアレーアンテナ方式では伝搬効率(補足率)が91.25%であるのに対し、最小ビーム導波路方式では伝搬効率(補足率)が99.996%である。
【0056】
図5は、受電部側アレーアンテナ110に接続される回路と、送電部側アレーアンテナ210に接続される回路との構成について示す図である。受電部側アレーアンテナ110は複数の素子アンテナを備える。これら各素子アンテナは垂直偏波用素子11Vと水平偏波用素子11Hとで構成される。また、送電部側アレーアンテナ210は複数の素子アンテナを備える。これら各素子アンテナは垂直偏波用素子21Vと水平偏波用素子21Hとで構成される。
【0057】
受電側アレーアンテナには受電部側素子アンテナ回路10が接続されている。定常状態において、受電部側素子アンテナ回路の位相共役回路14から出力される信号は電力増幅器で増幅され、垂直偏波用素子11Vへ供給される。
【0058】
各素子アンテナの垂直偏波用素子11Vに対して、このように信号が供給されることによって、受電部側アレーアンテナ110からビームパイロット信号が送信される。ビームパイロット信号の送信電力は例えば1kW(
図5では10kW)である。
【0059】
送電部側アレーアンテナ210の素子アンテナには送電部側素子アンテナ回路20が接続されている。素子アンテナのうち垂直偏波用素子21Vは上記パイロット信号を受信することで受信パイロット信号を出力する。位相共役回路24は受信パイロット信号に対して位相共役関係の信号を出力する。そのため、電力波の周波数はパイロット信号の周波数と同一周波数である。
【0060】
なお、位相共役回路14、位相共役回路24は、基本波発生回路及び二倍波発生回路を備えるが、この基本波発生回路及び二倍波発生回路の源振は共通のGPS衛星等の測位衛星からの電波を基に生成することが有効である。これにより、各送信回路と受信回路において実質的に同一周波数及び位相相関の揃った信号で相関をもった位相共役をとることができる。また、そのことで、マイクロ波受電装置は多数のマイクロ波送電装置からコヒーレントなマイクロ波電力を受電できる。
【0061】
なお、本実施形態において、「同一周波数」とは周波数が完全に同一であることを意味するのではなく、実質的に同一周波数であればよい。つまり、マイクロ波が非常に長い距離を伝搬してもコヒーレント性を失わない波で安定した発振状態が生じる周波数であればよい。
【0062】
上記位相共役回路24の出力信号は電力増幅器27で増幅され、水平偏波用素子21Hへ供給される。
【0063】
送電部側アレーアンテナ210の各素子アンテナが上記動作を行うことにより、ビーム形成された電力波が送電部側アレーアンテナ210から送電される。この電力波の送電電力は例えば1MWである。
【0064】
素子アンテナのうち水平偏波用素子11Hは送電部側アレーアンテナ210から送信された信号を受信する。この信号は分配器12で分配され、大部分の電力は整流器13で整流されて電力として取り出される。分配された残りの信号は位相共役回路14へ与えられる。位相共役回路14は、送電部側アレーアンテナ210から受けた信号に対して位相共役関係の信号を出力する。
【0065】
ここで、ビームパイロット信号のアンプ増幅率を30dBとし、ノイズレベルとして30dBのマージンを仮定すれば、アイソレーションレベルとして-60dB以下を達成することが重要である。したがって、送電部側アレーアンテナ210の各素子アンテナの垂直偏波用素子21Vと水平偏波用素子21Hとの入出力間は-60dB以下のアイソレーションを確保する。受電部側アレーアンテナ110の各素子アンテナの垂直偏波用素子11Vと水平偏波用素子11Hとの入出力間についても同様に、-60dB以下のアイソレーションを確保する。
【0066】
以上に示したように、受電部側アレーアンテナ110から送電部側アレーアンテナ210へ送信された信号はマイクロ波送電部200に対するビームパイロット信号として用いられ、送電部側アレーアンテナ210から受電部側アレーアンテナ110へ送電された電力波はマイクロ波受電部100に対するビームパイロット信号として用いられる。このようにして、両側レトロディレクティブシステムが構成される。
【0067】
そして、上記電力波からビームパイロット信号を生成するので、受電部側アレーアンテナ110からのビームパイロット信号→伝搬路→送電部側アレーアンテナ210→送電部側素子アンテナ回路20→送電部側アレーアンテナからの電力波→伝搬路→受電部側アレーアンテナ110→受電部側素子アンテナ回路10→受電部側アレーアンテナ110からのビームパイロット信号、という、経路による閉ループが構成される。この閉ループが一つの発振回路系を構成する。したがって、パイロット信号を生成するための専用の複雑な回路が不要であるので、装置の構成が簡素化され、低コスト化される。
【0068】
受電部側アレーアンテナ110及び送電部側アレーアンテナ210には、それら自体に、定常動作のためのビームフォーミング制御回路を備えていない。しかし、後に説明するように、送電部側アレーアンテナ210の各素子アンテナ及び送電部側素子アンテナ回路20の動作によって、送電部側アレーアンテナ210は結果的にフェーズドアレーアンテナとして作用する。同様に、受電部側アレーアンテナ110の各素子アンテナ及び受電部側素子アンテナ回路10の動作によって、受電部側アレーアンテナ110は結果的にフェーズドアレーアンテナとして作用する。
【0069】
送電部側アレーアンテナ210の各素子アンテナの垂直偏波用素子21V及び水平偏波用素子21Hがパイロット信号を受信することにより、その受信信号から、この受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号が生成され、この位相共役信号が増幅され、当該素子アンテナの水平偏波用素子21H及び垂直偏波用素子21Vが駆動される。このことにより、送電部側アレーアンテナ210の各素子アンテナはパイロット信号と位相共役の関係にある電力波を送信する。したがって、相反定理によって、電力波はビームパイロット信号の伝搬経路を逆戻りするように伝搬する。すなわち、ビームパイロット信号と同じ経路で、電力波が受電部側アレーアンテナ110へ伝搬する。
【0070】
同様に、受電部側アレーアンテナ110の各素子アンテナの水平偏波用素子11H及び垂直偏波用素子11Vが電力波を受電(受信)することにより、その受信信号から、この受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号が生成され、この位相共役信号が増幅され、当該素子アンテナの垂直偏波用素子11V及び水平偏波用素子11Hが駆動される。このことにより、受電部側アレーアンテナ110の各素子アンテナは電力波の位相共役の関係にあるパイロット信号を送信する。したがって、相反定理によって、ビームパイロット信号は電力波の伝搬経路を逆戻りするように伝搬する。すなわち、電力波と同じ経路で、ビームパイロット信号が送電部側アレーアンテナ210へ伝搬する。
【0071】
ビームパイロット信号と電力波は同じ周波数であるので、伝搬路が周波数依存性を有する場合でも、正確な相反性を期待できる。
【0072】
図6、
図7は両側レトロディレクティブ動作によるマイクロ波ビームの収束の様子を示す図である。これらの図中Nはパイロット信号ビームの伝搬及び電力ビームの伝搬の回数を示す。時刻t=0.000msのときN=1であり、時刻t=0.034msのときN=2である。
図6、
図7に表れているように、このパイロット信号の送受及び電力ビームの送受を繰り返す毎にパイロット信号ビーム及び電力ビームは自己収束する。
【0073】
なお、
図6、
図7では、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの間隔がkm単位の長距離について示したが、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの間隔が50mや100m単位の短距離であれば、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの往復距離が短いので、パイロット信号ビームの伝搬及び電力ビームの伝搬の回数が少ないうちに(より短時間のうちに)自己収束する。
【0074】
次に、マルチパスの影響について示す。
図8はマルチパスがある状況での、ビームパイロット信号と電力波について、それぞれのビームの電界強度(デシベル値)を濃淡で示す図である。
【0075】
これまでに説明した範囲では、先ず受電局からビームパイロット信号が送信されるように述べたが、
図8に示す例では、受電局は送電局から送信された起動パイロット信号をトリガーにしてビームパイロット信号を送信する。
図8に示すとおり、送電局に起動パイロット信号源がある。その起動パイロット信号を、送電アンテナの中央の直径3mの領域から、例えば強度が中心で100、外周で約10となるガウス分布で、開き角約2.9度で送信する場合、10km先の受電アンテナで直径500m、面積で約27,778倍となり、電力密度比は -44.4dB となる。
【0076】
受電局は、受電部側アレーアンテナ110の各素子アンテナによる受信信号の位相共役信号を生成し、各素子アンテナの駆動信号をゲインに分布をもたせる。(この分布については後述する。)このことにより、ビームパイロット信号を送信する。送電部側アレーアンテナ210の各素子アンテナはビームパイロット信号を受信し、この受信信号から、位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、この位相共役信号を増幅し、当該素子アンテナを駆動することで電力波を送電するので、電力波はビームパイロット信号の伝搬経路を逆戻りするように伝搬する。このとき、マルチパスが生じるが、マルチパスの反射係数は1未満であるので(反射体で損失するので)、両側レトロディレクティブの繰り返しにより、マルチパスによる影響は次第に抑制される。
【0077】
図9は上記繰り返し回数Nに対するビーム収束率η及びエネルギー漏れとの関係を示す図である。このように、パイロット信号ビームの伝搬及び電力ビームの伝搬の回数Nが6を超えるとビーム収束率ηは99%を超え、回数Nが6を超えるとエネルギー漏れは1%を下回る。
【0078】
図10は、特に、上記繰り返し回数Nに対する伝送効率(上記ビーム収束率η)、伝送損失(上記エネルギー漏れ)及び、繰り返しごとの、伝送損失の前々回との差分の関係を示す図である。
図10中に左矢印で示すように、繰り返し回数が100回から1000回の間で、伝送損失は0.01%未満となって、伝送効率が略100%に達する。
【0079】
図11は送電アンテナと受電アンテナとによるSマトリクスの一次元モデルを示す図である。S
i,j のiは受電側の素子アンテナの番号であり、jは送電側の素子アンテナの番号である。
図11の上部は素子アンテナが無限に広がったアレーアンテナであり、
図11の下部は仮想的な素子アンテナが存在する仮想アンテナ領域と、実際の素子アンテナが存在する実領域とを有するアレーアンテナである。
【0080】
図11において、白丸はアレーアンテナの素子アンテナ、黒丸はアレーアンテナの範囲外に無限に広がる領域に仮想的に配置された素子アンテナである。
【0081】
受電アンテナを入力端、送電アンテナを出力端としたときのSマトリクスをSj,i で表す。各端子は負荷と完全に整合しているものと仮定する。送電側で受けた第N波のパイロット信号は、次式のように、ゲインGjTx で増幅され、基準信号で位相共役操作を受ける。
【0082】
【0083】
そして、送電アンテナから再放射された電力を受電アンテナが受け取り、位相共役をとり、更に、増幅することにより、次式で示す第N+1波のパイロット信号となる。
【0084】
【0085】
ここで、もしGjTx が一定値Gconst
Tx とすると、第N波のパイロット信号の振幅の平均値と第N+1波のパイロット信号の振幅の平均値は次式で表される。ここでδm,i はクロネッカーのデルタ(単位行列)である。
【0086】
【0087】
送電側と受電側の増幅器で電磁界強度が維持されるなら、発振が持続することになる。したがって、発振条件は次式で表される。
【0088】
【0089】
このように、送電部側、受電部側のアレーアンテナと、その間の伝送路とで、構成される空間結合型の発振器を単一の発振器として扱って、一つのループゲインで発振条件が定まるものと見なせる。
【0090】
図11の下部に示したように、送電部側のアレーアンテナと受電部側のアレーアンテナが有限である場合は、この有限のアンテナからの放射波を、無限大のアンテナからの時間反転界の放射と仮想アンテナ領域からの逆相時間反転界とを組み合わせることで表現することができる。これは次式の関係で表される。
【0091】
【0092】
上式のうち結論の式中の第2項は仮想アンテナ領域からの逆相戻り波成分であり、スピルオーバー損失に対応する。ビーム形成が速く、スピルオーバー損失が0と見なせる場合は、上記第2項は0であるので、[数5]は上記[数3]と同じ扱いができる。
【0093】
アンテナが小さく、最適状態でもスピルオーバー損失が発生する場合は、まず上記第2項でパイロット信号の分布が最適化される。このことで、漏洩損失があっても、増幅器の増幅率の設定によって発振条件を満たすことができる。
【0094】
このようにして、仮想アンテナ領域からの戻り波成分を消すようにパイロット信号が修正され、仮想アンテナ方面への再放射成分が減衰する。この修正作用により、ビームが最も望ましい形に徐々に成形される。すなわち、自己修復作用がプログラムなどに頼らず自然な形で(パッシブに)達成される。
【0095】
図12、
図13はマイクロ波の伝搬経路中に何らかの理由でマイクロ波の吸収体(障害物)が存在するときのマイクロ波の伝搬の様子を示す図である。いずれの例でも直径50mの送電アンテナと直径25mの受電アンテナとが5km離れている。
図12の例では伝送経路の途中に直径5mのマイクロ波吸収体が存在する。この状態でパイロット信号とマイクロ波電力との98往復時間(2.5ms)後、前述の両側レトロディレクティブシステムの作用により、送電アンテナでは不均一な電力分布でマイクロ波が送電され、吸収体が存在する部分の場はマイクロ波エネルギーが相殺され、受電アンテナの位置では99.3%の伝送効率でマイクロ波電力を受ける。
【0096】
図13の例では、伝送経路の途中に直径10mのマイクロ波吸収体が存在する。この状態でパイロット信号とマイクロ波電力との148往復時間(3.8ms)後、前述の両側レトロディレクティブシステムの作用により、送電アンテナでは障害物を避けるようにマイクロ波が放射され、吸収体が存在する箇所ではマイクロ波の散乱と吸収を避けるように吸収体を包み込む場が形成され、受電アンテナの位置では98.2%の伝送効率でマイクロ波電力を受ける。受電アンテナの直径がもう少し大きければ100%に近い伝送効率が得られる。また、吸収体が存在する箇所でマイクロ波の散乱と吸収を避けるように吸収体(障害物)を包み込む場が形成されるので、マイクロ波伝搬経路中に吸収体(障害物)が入り始めてから、数ms程度のごく僅かな時間だけ、吸収体(障害物)がマイクロ波の送電電力を受けるだけとなる。したがって、吸収体(障害物)がマイクロ波の送電電力を受けることによる昇温問題や生物学的・医学的な危険性も回避できる。
【0097】
なお、
図13では、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの間隔がkm単位の長距離について示したが、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの間隔が、送電部側アレーアンテナ210又は受電部側アレーアンテナ110の幅の10倍から200倍の範囲内のような短距離であったり、10m単位や100m単位の短距離ならば、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの往復距離が短いので、より短時間のうちに漏洩エネルギーが最少状態に保たれ、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの間に入る、電力伝送に対する障害物を避けるように、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの間に自己収束ビームが形成される。
【0098】
《船舶と飛行体とによる移動体間給電システム》
図14は、第1移動体101と第2移動体201とで構成される移動体間給電システムの外観上の概念的な図である。
【0099】
図14に示す例では、第2移動体201は海上を航行する船舶(海上移動体)であり、第1移動体101は空中を飛行する飛行体である。第1移動体101は第2移動体201の上空を所定高さで飛行する。
【0100】
第1移動体101は例えば電動垂直離着陸機eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)であり、第2移動体201のヘリコプター甲板(後方甲板上のヘリポート)に離着陸する。例えば、第1移動体101は第2移動体201(船舶)の後方甲板から上空へ200mの高さで船舶に随伴する。
【0101】
船舶随伴型ドローンは高度200m相当の艦橋に相当するので、このような高度での監視が可能となる。また、荒天でも24時間安定姿勢を保ち、360度全角の視野で測定が可能である。つまり、高度200m相当の艦橋を備える船舶として航行し続けることや静止し続けることができる。
【0102】
上記eVTOLであるドローンは例えばフライングカーとしての有人ドローンや監視用無人ドローンである。フライングカーであれば、船舶に着陸することなく、船舶の上空を飛行する際に充電する、という適用が可能である。監視用無人ドローンであれば、全方向(全周囲)を光学的、電磁波的、音波的に常時監視する。
【0103】
有人ドローンにしても無人ドローンにしても、船舶の甲板に着地できるので、この船舶を、収容及び運航のために使用することも可能である。
【0104】
第1移動体101が随伴型ドローンである場合、例えば監視目的や監視すべき領域に応じて、第1移動体が主体的に、その位置を飛行する場合は、第2移動体201(船舶)は第1移動体(eVTOL)を追従するように、第1移動体101の真下付近を航行する。逆に、第1移動体101が追従型ドローンである場合、すなわち第2移動体(船舶)が主体的に航行する場合は、第1移動体(eVTOL)は第2移動体(船舶)を追従するように、第2移動体の上空を飛行する。
【0105】
第1移動体101はその基体の底部に円形の受電部側アレーアンテナ110を備える。第2移動体201はその上面(甲板)に円形の送電部側アレーアンテナ210を備える。
【0106】
第2移動体201の送電部側アレーアンテナ210は例えば直径10mの円偏波アンテナであり、上記ヘリポートを兼ねている。第1移動体101の受電部側アレーアンテナ110は例えば直径5mの円偏波アレーアンテナである。
【0107】
第2移動体201の送電部側アレーアンテナ210と、第1移動体101の受電部側アレーアンテナ110との間で、例えば10kWのビームパイロット信号及び1MWのマイクロ波を両サイドレトロ方式で電力伝送する。
【0108】
図15は送電部側アレーアンテナ210と受電部側アレーアンテナ110との間におけるマイクロ波ビームの強度分布を示す図である。このように、両側レトロディレクティブ動作により、送電部側アレーアンテナ210と受電部側アレーアンテナ110との間における伝搬路からのエネルギー漏れが少ない状態で、電力伝送できる。
【0109】
本実施形態によれば、第1移動体101(航空機)と第2移動体201(船舶)の揺れに対して、及び大気の揺らぎに対して99.9%以上の優れたビームトラッキングが期待できる。
【0110】
なお、
図14、
図15に示した例では、第2移動体201の送電部側アレーアンテナ210の真上に第1移動体101が飛行するように示したが、後に示すように、双方向(両方向)レトロディレクティブ動作により、第2移動体201の送電部側アレーアンテナ210は第1移動体101の受電部側アレーアンテナ110の方向に、拡散しないで自動的にビームが向くので、第1移動体101は第2移動体201から相対的に変位してもよい。この変位量が大きいほど、第2移動体201の送電部側アレーアンテナ210の中心から視た第1移動体101の受電部側アレーアンテナ110の実効面積は小さくなり、第1移動体101の受電部側アレーアンテナ110の中心から視た第2移動体201の送電部側アレーアンテナ210の実効面積は小さくなる。したがって、電力伝送効率が所定値を下回らない範囲で、第1移動体101は第2移動体201から相対的に変位してもよい。
【0111】
また、後に
図16を基に説明するように、第1移動体が複数存在し、各第1移動体が有する受電部側アレーアンテナと送電部側アレーアンテナとで、それぞれ自己収束ビームを形成してもよい。すなわち、この場合、送電部側アレーアンテナと複数の受電部側アレーアンテナとの間に自動的にマルチビームが形成されるので、第2移動体から複数の第1移動体へ同時に給電することができる。
【0112】
第1移動体101は第2移動体201から連続的に給電を受けることができるので、第2移動体201の移動に伴って非常に長時間連続飛行できる。なお、第1移動体101は、第2移動体201から給電を受けない状態で離着率することも必要であるので、充電電池を備えていて、第1移動体101が第2移動体から給電を受けつつ充電電池の充電を行う。
【0113】
このように、「船舶」から「飛行体」へ空中給電する利点を列挙すると、次のとおりである。
【0114】
(a)第1移動体101(飛行体)の受電部側アレーアンテナ110と第2移動体201(船舶)の送電部側アレーアンテナ210とがほぼ平行状態で電力給電可能であるので、電力伝送効率を高めることができる。
【0115】
(b)第1移動体101の受電部側アレーアンテナ110と第2移動体201の送電部側アレーアンテナ210との間に生じる、パイロット信号と電力波は直交関係の円偏波により伝送されるので、受電部側アレーアンテナ110の面と送電部側アレーアンテナ210の面とが対向しつつ、その面に対する垂線回りに回転しても、パイロット信号と電力波との独立性を保ったままそれらを伝送できる。
【0116】
(c)第1移動体101(飛行体)の動きと第2移動体201(船舶)の動きとは完全に独立するため、荒天時でも第1移動体は、第2移動体の揺れの影響を受けることなく、それ単体で姿勢制御を行える。したがって、第1移動体と第2移動体とは一定の一状態を保てる。このことにより、荒天時でも第1移動体は給電を受け続けながら、通常監視が可能であり、正確な機能を実現化できる。
【0117】
(d)伝送距離がほぼ一定であり、かつ短いので、第1移動体101(飛行体)の受電部側アレーアンテナ110及び第2移動体201(船舶)の送電部側アレーアンテナ210をそれぞれ適度なサイズに収めることができる。
【0118】
(e)全体的サイズの大きな第2移動体201(船舶)の送電部側アレーアンテナ210のサイズを大きくできるので、全体的サイズの小さな第1移動体101(飛行体)の受電部側アレーアンテナ110のサイズを小さくしても所定電力を給電できる。そのため、第1移動体101(飛行体)の軽量化が容易である。
【0119】
(f)船舶に有人ドローン及び無人ドローンを多く積載できるので、安全な洋上飛行システムが構成できる。
【0120】
(g)船舶をドローンの洋上での発着インフラとして用いることができるので、地上の安全性を高めることができる。
【0121】
(h)離島において船舶をドローンの洋上での発着インフラとして容易に用いることができる。
【0122】
(i)第1移動体101はeVToL型ドローンであるので、夜間でも比較的静粛性を保って動作させられる。
【0123】
(j)第1移動体101の変位(移動)に対する電力のトラッキング速度は、伝送効率が99.99%に達するまで約200μs以下にできる。これを変位距離で表せば、相対速度100km/hであっても、アンテナ面内での変位(移動)が約5mm以内で電力ビームのトラッキングができる。したがって、第1移動体101と第2移動体201との相対速度の変位を意図的に遅くしなくても、マイクロ波電力伝送を常時高効率に保てる。
【0124】
図14に示した例では、第1移動体101が単数であるが、第1移動体は複数存在していてもよい。後に示すように、第2移動体201の送電部側アレーアンテナ210を共用して、複数の第1移動体が同時に、又は交互に給電することも可能である。
【0125】
上述の例では、第2移動体201は船舶とした。「船舶」は、浮揚性・移動性・積載性を満たす構造物と定義できるが、これらのうち、第2移動体201は「積載性」に関しては必須ではない。また、第1移動体101は空中静止できるマルチコプターに限らず、ヘリコプターであってもよい。また、有人ドローンであってもよい。
【0126】
また、第2移動体201はディーゼル発動機(エンジン)で推進力を得る船舶であってもよいし、排水量の大きな電動船舶であってもよい。
【0127】
《飛行体による移動体間給電システム》
図16は、第1移動体102,103と第2移動体202とで構成される移動体間給電システムの外観上の概念的な図である。この例では、第2移動体202は空中を飛行する航空機であり、第1移動体102,103は空中を飛行する電動航空機である。第2移動体202は第1移動体102,103より上空を所定高さで飛行する。
【0128】
第1移動体102,103は例えば電動ドローンであり、所定の離着陸場から離陸し、所定の離着陸場に着陸する。第2移動体202は比較的低速飛行可能な航空機である。
【0129】
第1移動体102はその基体の上面の一部に円形のアレーアンテナ112を備え、第1移動体103はその基体の上面の一部に円形のアレーアンテナ113を備える。第2移動体202はその下面に円形の送電部側アレーアンテナ211を備える。
【0130】
第2移動体202は、第1移動体102,103に対して給電する際、第1移動体102,103の高度より例えば25m~35m高い上空を飛行する。第2移動体202の送電部側アレーアンテナ211は例えば直径10mのアンテナである。第1移動体102,103のアレーアンテナ112,113はそれぞれ例えば直径3mのアレーアンテナである。
【0131】
第2移動体202の送電部側アレーアンテナ211と、第1移動体102のアレーアンテナ112との間で、例えば200kWのマイクロ波を両サイドレトロ方式で電力伝送する。同様に、第2移動体202の送電部側アレーアンテナ211と、第1移動体103のアレーアンテナ113との間で、例えば200kWのマイクロ波を両サイドレトロ方式で電力伝送する。
【0132】
第1移動体102,103はそれぞれ50kWhの充電電池を電源として飛行する。この充電電池を全固体電池で構成すると、充電電池は約150kgである。これを例えば100kWで充電すると30分で満充電状態となり、200kWで充電すると15分で満充電状態となる。実質的には10分までの急速充電とすることが可能である。その例であれば、第2移動体202が2つの第1移動体102,103の上空を10分間並行飛行することで、第1移動体102,103を同時に充電することができる。
【0133】
前述では、ビームパイロット信号と電力波とは互いに直交関係の円偏波である、としたが、
図16に示したように、第1移動体102,103及び第2移動体202が同方向に飛行する状態で給電することが前提であれば、ビームパイロット信号と電力波とは互いに直交関係の直線偏波であってもよい。
【0134】
また、第1移動体102,103は充電電池を電源として、第2移動体202とは独立して飛行できる。そのため、例えば第1移動体102が自ら第2移動体202から離れて飛行することも可能である。例えば、第1移動体102は第2移動体202より高高度を飛行することも可能である。このとき、第2移動体202の送電部側アレーアンテナ211と第1移動体102,103の受電部側アレーアンテナ112,113との間に生じていたマルチビームは自動的にシングルビームに変化する。すなわち、第1移動体102が自ら第2移動体202から離れて飛行し始めて、自己収束ビームが保てなくなると(発振回路系が構成されなくなると)、第2移動体202のマイクロ波送電部から第1移動体102のマイクロ波受電部への給電が自動的に瞬時に停止する。そして、第2移動体202の送電部側アレーアンテナ211と第1移動体103の受電部側アレーアンテナ113との間のビームのみが残ることとなる。つまりシングルビームでの給電に自動的に変化する。
【0135】
上記、第1移動体102が自ら第2移動体202から離れて飛行する状態とは、第1移動体102と第2移動体202とが所定距離離れた状態に限らない。例えば受電部側アレーアンテナ112の面の中心と送電部側アレーアンテナ211の面の中心とを結ぶ線が、受電部側アレーアンテナ112の面又は送電部側アレーアンテナ211の面に対して30度以上ずれた状態なども含まれる。
【0136】
このように、第1移動体が自ら第2移動体から、給電可能位置より離れて飛行すれば、自己収束ビームが保たれないので、例えば従来のフェーズドアレーレーダーのように高電力の電波を出し続けることがなく(電波のばらまきが無く)、他の通信システム等の電波システムに影響を与えることがない。
【0137】
第1移動体102,103及び第2移動体202が飛行体である場合の運用方法としては、第1移動体102,103が第2移動体202から給電を受けるために、第2移動体202の下部に接近するという運用がある。また、第2移動体202が第1移動体102,103の上方に接近するという運用も可能である。また、第1移動体102,103は充電のために第2移動体202の下方に戻り、充電が終われば再び第2移動体202より上方へ上昇する、という動作を繰り返すことも可能である。
【0138】
このような洋上監視ドローンの特長を列挙すると次のとおりである。
【0139】
(a)大電力で大型のステルスドローンを動かせるため、そのステルスドローンに多種の観測機材が搭載できる。
【0140】
(b)低背型艦船で高高度(例えば200m)から全周囲について遠方(例えば約53km)までのレーダー監視等が可能である。
【0141】
(c)第2移動体から給電を受け続けることにより24時間常時観測が可能であるが、短時間的には高高度(例えば10km)での動作も可能である。
【0142】
(d)電力マイクロ波は殆ど漏洩がなく、垂直方向放射漏洩が20W/200kW未満に抑えられた強い指向性を持つため、高い秘匿性が得られる。
【0143】
(e)マルチビームの放射により、複数の第1移動体に対して同時に給電できる。
【0144】
(f)電力ビームの向きはほぼ下向(例えば海面方向)であるので、電力ビームの指向が万一大きくずれたとしても、その漏れ波が衛星通信システムや他の地上の通信システムに届くことはなく、衛星通信システムとの干渉が防止できる。ちなみに、第2移動体202の下面に送電部側アレーアンテナ211が設けられているので、例えば第1移動体102が第2移動体202の上方に接近しても、送電部側アレーアンテナ211と受電部側アレーアンテナ112との間で自己収束ビームが生成されることはなく、電力ビームが上方を指向することは避けられる。
【0145】
(g)第1移動体102,103の充電電池を短時間で充電できるので、これら第1移動体102,103と第2移動体202との並行飛行時間を短縮化できる。
【0146】
図17は、第2移動体202のマイクロ波送電部200(
図1に示したマイクロ波送電部200)から3つの第1移動体のマイクロ波受電部100A,100B,100C(
図1に示したマイクロ波受電部100)にそれぞれマイクロ波電力ビームを送電する例を示す図である。第2移動体のマイクロ波送電部200は単一の第1移動体へマイクロ波電力ビームを送電することに限らない。マイクロ波送電部200は、パイロット信号の送受信に応じて、そのパイロット信号の方向へマイクロ波電力ビームを送電する。したがって、第1移動体のマイクロ波受電部100A,100B,100Cからパイロット信号を送信することにより、第2移動体のマイクロ波送電部200からマイクロ波電力を受電できる。
【0147】
図17に示す例では、マイクロ波送電部200は直径50mのアレーアンテナを備え、マイクロ波送電部200からマイクロ波受電部100A,100B,100Cまで10km離れている。また、マイクロ波受電部100Aとマイクロ波受電部100Bとの間隔は70m、マイクロ波受電部100Aとマイクロ波受電部100Cとの間隔は90mである。マイクロ波送電部200からマイクロ波受電部100Aへ1000kWのマイクロ波電力が伝送され、マイクロ波送電部200からマイクロ波受電部100Bへ360kWのマイクロ波電力が伝送され、マイクロ波送電部200からマイクロ波受電部100Cへ90kWのマイクロ波電力が伝送される。
【0148】
なお、
図17では、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの間隔がkm単位の長距離について示したが、送電部側アレーアンテナと受電部側アレーアンテナとの間隔が50mや100m単位の短距離についても同様である。
【0149】
図18(A)は第1移動体のマイクロ波受電部100A,100B,100Cにおけるエネルギー密度をリニアの濃淡で表していて、
図18(B)はマイクロ波受電部100A,100B,100Cにおけるエネルギー密度をグラフで表している。
【0150】
図19は、
図14に示した第1移動体101とは、受電部側アレーアンテナの構造が異なる、第1移動体104の外観図である。第1移動体104の受電部側アレーアンテナ114は折りたたみ部FSを備える。
【0151】
図19の上部に示す状態は、折りたたみ部FSを全開した状態、すなわち受電部側アレーアンテナ114の平面視での面積を最大化した状態である。
【0152】
図19の下部に示す状態は、折りたたみ部FSを全閉した状態、すなわち受電部側アレーアンテナ114の平面視での面積を最小化した状態である。
【0153】
この第1移動体104が船舶に着地(着艦)している状態では、
図19の下部に示す状態であり、平面サイズは最小化する。また、この第1移動体104が船舶から離陸(離艦)している状態では、
図19の上部に示す状態であり、受電部側アレーアンテナ114の平面視での面積は最大化する。
【0154】
上記構成により、船舶に対する第1移動体の格納スペースを小さくでき、格納スペースを有効活用できる。また、複数の第1移動体を艦載する場合は、その艦載量を増やすことができる。
【0155】
なお、
図19の下部に示したように、受電部側アレーアンテナ114を折りたたみ部FSで折りたたんだ状態、下方(船舶方向)に露出する面にもアレーアンテナを設けてもよい。そのこのことにより、受電部側アレーアンテナ114を折りたたんだ状態でも、受電部側アレーアンテナ114は小型のアレーアンテナとして作用する。また、このことにより、受電部側アレーアンテナ114が受ける風圧を最小化でき、余計な変位を抑えやすい。一方、
図19の上部に示したように、受電部側アレーアンテナ114を全開した状態で、船舶にある送電部側アレーアンテナ(
図12に示した210)からの受電電力を最大化できるので、船舶からの高度を高めることができる。
【0156】
図20の上部に示す図は、
図16に示した第1移動体102,103とは、受電部側アレーアンテナ112,113の構造が異なる、第1移動体105の外観図である。第1移動体105の受電部側アレーアンテナ115は折りたたみ部FSを備える。
【0157】
図20の中部と下部は、受電部側アレーアンテナ115だけを分離して示す図である。
【0158】
図20の中部に示す状態は、折りたたみ部FSを全開した状態、すなわち受電部側アレーアンテナ115の平面視での面積を最大化した状態である。
【0159】
図20の下部に示す状態は、折りたたみ部FSを最も閉じた状態、すなわち受電部側アレーアンテナ115の平面視での面積を最小化した状態である。
【0160】
この第1移動体105が飛行している状態では、
図20の上部に示す状態であり、平面サイズは最大である。また、この第1移動体105が着地(着艦)している状態では、
図20の下部に示す状態であり、受電部側アレーアンテナ115の平面視での面積は最小化する。
【0161】
上記構成により、第1移動体の格納スペースを小さくでき、格納スペースを有効活用できる。
【0162】
また、
図20の下部では、折りたたみ部FSを最も閉じた状態で、立ち上がった部分が基礎部に対して垂直に近い状態で立ち上がった例を示したが、立ち上がった部分が180度まで回転して、受電部側アレーアンテナ115全体が平面状となってもよい。その場合、受電部側アレーアンテナ115を最も折りたたんだ状態、上方(
図16に示した第2移動体202方向)に露出する面にもアレーアンテナを設けてもよい。そのこのことにより、受電部側アレーアンテナ115を折りたたんだ状態でも、受電部側アレーアンテナ115は小型のアレーアンテナとして作用する。また、このことにより、受電部側アレーアンテナ115が受ける風圧を最小化でき、余計な変位を抑えやすい。一方、
図20の上部に示したように、受電部側アレーアンテナ115を全開した状態で、第2移動体(
図16に示した第2移動体202方向)からの受電電力を最大化できるので、第2移動体202からの必要距離を離すことができる。
【0163】
なお、
図19,
図20に示した例では、一つのアレーアンテナに2つの折りたたみ部FSを設けたが、この折りたたみ部FSは単一でもよいし、3つ以上であってもよい。また、折りたたみ方向は一方向に限らず、2方向以上あってもよい。さらに、折りたたみ部FSの延びる方向は一方向に限らず、2方向以上あってもよい。
【0164】
図14,
図16、
図19、
図20に示した例では、平面形状が円形のアレーアンテナを示したが、各アレーアンテナの平面形状は楕円形や長円形であってもよいし、四角形等の多角形であってもよい。また、長円形のように、直線部と曲線部とを含む形状であってもよい。このアレーアンテナの形状は、第1移動体が給電状態でないときに飛行体としての影響を与えない(例えば推進力を低下させない)形状であることが好ましい。
【0165】
また、
図14,
図16、
図19、
図20に示した例では、飛行体のアレーアンテナは、揚力に関係のない形状や配置にしたが、飛行中に揚力を生じさせる翼にアレーアンテナを設けてもよい。
【0166】
以上に例示したアレーアンテナは、通信や給電のためのアレーアンテナ単体では通常は設計しない形状となる。
【0167】
また、折りたたみ部FSを折りたたんだ状態と、折りたたんでいない状態とで、それら状態が飛行に関与する場合、飛行状態に応じて折りたたみ部FSを制御してもよい。例えば、飛行用プロペラによる気流や飛行による気流に対して影響を与える場合、第2移動体からの給電の有無に関わらず、折りたたみ部FSの状態を選択してもよい。
図20に示した例で、アレーアンテナ115の折りたたみ部FSを開いた状態で、アレーアンテナ115が第1移動体105の4つのプロペラの気流に悪影響を与える場合は、第2移動体からの給電時にのみ折りたたみ部FSを開き、単独で飛行する場合に折りたたみ部FSを閉じるようにしてもよい。このことは、
図19に示した例でも同様であり、アレーアンテナ114の折りたたみ部FSを開いた状態で、アレーアンテナ114が第1移動体104の4つのプロペラの気流に悪影響を与える場合は、第2移動体からの給電時にのみ折りたたみ部FSを開き、単独で飛行する場合に折りたたみ部FSを閉じるようにしてもよい。
【0168】
また、
図19、
図20に示した折りたたみ部FSの駆動は自動的であってもよいし、送電部側からの制御によって行ってもよい。例えば、第1移動体104が離陸して、所定高度に達したときに、第1移動体が折りたたみ部FSを自動的に全開させてもよい。または第2移動体(
図14に示した201、
図16に示した202)の制御によって全開させてもよい。
【0169】
なお、一般的に、アンテナを保護するために、アンテナを覆うレドームが設けられる。このレドームは、電磁波に、気象的に、機械的に、影響を与えることなく、アンテナ系を覆うドーム形の構造物である。このようなレドームを上記受電部側アレーアンテナ114,115に設けると、空気抵抗による空力性能が劣化する。これに対し、
図19、
図20に示したように、受電部側アレーアンテナの折り曲げ部を折り曲げる構造であれば、レドームを設けることなく、アレーアンテナ全体の保護が可能となる。そのため、レドームの様に無駄な空間を省け、空力性能の劣化が激減する。
【0170】
図21(A)は、一つの素子アンテナの斜視図であり、
図21(B)はその内部を透視した斜視図である。素子アンテナ11,21は、導体平面GPから突出する誘電体DHと、この誘電体DH内に設けられた2対の磁気結合プローブ(Px1,Px2)(Py1,Py2)とを備える。
【0171】
誘電体DHは、全体の概形は半球状であり、導体平面GPの平面視では十字型である。つまり、
図21(A)に表れているように、半球状の誘電体の4箇所に切り欠きCOが形成されたような形状、又は半月切り形状の2つの誘電体片が十字型に組み合わされたような形状である。
図21(B)に示すように、誘電体DHの中心(導体平面GPに接する誘電体DHの面の中心)を直交x,y,z座標の原点とすると、上記2つの誘電体片の一方はx-z面に拡がり、他方はy-z面に拡がる。
【0172】
第1対の磁気結合プローブ(Px1,Px2)は、それらのループ面がx-z面内にあり、第2対の磁気結合プローブ(Py1,Py2)は、それらのループ面がy-z面内にある。
【0173】
図22は上記素子アンテナの各部の寸法を示す図である。この例では、誘電体DHの比誘電率εrは12.6であり、誘電体DHの直径dは16mm、磁気結合プローブPx1,Px2の半径rは1.75mm、磁気結合プローブPx1,Px2の半円状ループの中心高さhは1.35mm、中心から磁気結合プローブの給電点までのピッチPは6mmである。磁界結合プローブの高さhを調整することにより、入出力ポートとアンテナとの整合を調整することができる。磁気結合プローブPy1,Py2についても、各部の寸法は磁気結合プローブPx1,Px2と同様である。なお、素子アンテナ毎の導体平面GPは直径30mmの金属円板であり、例えば直径50mの金属板に所定間隔で二次元上に配列される。
【0174】
図23(A)は第1対の磁気結合プローブ(Px1,Px2)に接続される給電部の構成を示す図であり、
図23(B)は第2対の磁気結合プローブ(Py1,Py2)に接続される給電部の構成を示す図である。第1対の磁気結合プローブ(Px1,Px2)にはそれぞれ中心に近い端部が導体平面(グランド)に接続され、中心から離れた端部から給電される。磁気結合プローブPx1,Px2には、180°ハイブリッド回路から位相が180°異なる信号が給電されることにより、磁気結合プローブPx1,Px2は差動給電(平衡給電)され、矢印方向の電流が流れる。このことは第2対の磁気結合プローブ(Py1,Py2)についても同様である。
【0175】
図24(A)は
図23(A)に示した電流が流れるときに生じる磁束を示す図である。また、
図24(B)は
図23(A)に示した電流が流れるときに生じる磁界強度の分布を示す図である。このように、磁気結合プローブPx1,Px2を差動給電することによって、誘電体DHが磁気結合プローブPx1,Px2で励振されて、誘電体DHは(磁気ダイポールと等価な放射電磁界を持つ)TE
11
Xモードの誘電体共振器として作用する。このTE
11
Xモードの誘電体共振器がX偏波用の素子アンテナである。同様に、磁気結合プローブPy1,Py2を差動給電することによって、誘電体DHが磁気結合プローブ(Py1,Py2)で励振されて、誘電体DHは(磁気ダイポールと等価な放射電磁界を持つ)TE
11
Yモードの誘電体共振器として作用する。このTE
11
Yモードの誘電体共振器がY偏波用の素子アンテナである。TE
11
XモードとTE
11
Yモードとは互いに独立しているので、各素子アンテナはTE11 二重モード誘電体共振器として作用する。この例では、共振器の放射Q係数(Qrad)は約20である。このTE11 二重モード誘電体共振器は、直交二重モード誘電体共振器アンテナの一例である。
【0176】
次に、素子アンテナの別の構成について示す。
図25(A)は、一つの素子アンテナの誘電体内に設けられる磁気プローブの斜視図であり、
図25(B)は一つの素子アンテナの平面図である。この素子アンテナは、導体平面GPから突出する誘電体DHと、この誘電体DH内に設けられた2つの磁気結合プローブPx,Pyとを備える。
【0177】
誘電体DHの形状は
図21(A)、
図21(B)に示したものと同じである。磁気結合プローブPxは、そのループ面がx-z面内にあり、磁気結合プローブPyは、そのループ面がy-z面内にある。
【0178】
磁気結合プローブPx,Pyそれぞれの中点は導体平面(グランド導体)GPに接続されている。磁気結合プローブPx、Pyそれぞれは両端から差動給電(平衡給電)される。
【0179】
このようにクロスループ構造であっても、
図24(A)、
図24(B)に示したと同様の磁束が生じ、磁気結合プローブPxはY軸に磁気ダイポールモーメントを持つTE
11
X モードに結合し、磁気結合プローブPyはX軸に磁気ダイポールモーメントを持つTE
11
Yモードに結合する。
【0180】
以上に示した、直交二重モード誘電体共振器アンテナを用いることにより、パイロット信号と電力波とは充分に高い偏波アイソレーションが得られ、同一周波数を用いながらも、パイロット信号と電力波との干渉の無いシステムが構成できる。
【0181】
次に、各素子アンテナが円偏波でパイロット信号の送受信及び電力波の送受電を行う例を示す。
【0182】
図26は、
図23(A)、
図23(B)に示した2つの180°ハイブリッド回路のX偏波ポートとY偏波ポートに接続される回路を示す図である。
図26に示す90°ハイブリッド回路のInput-portは右旋円偏波の入出力ポートであり、90°ハイブリッド回路のIsolated-portは左旋円偏波の入出力ポートである。90°ハイブリッド回路の0°-portと90°-portとの位相差は90°であるので、
図23(A)、
図23(B)に示した2対の磁気結合プローブには90°位相差で給電される。この構成により、例えば右旋円偏波でパイロット信号の送信がなされ、それに直交する左旋円偏波で電力波が送電される。
【0183】
このようにして、パイロット信号と電力波とで旋回方向を異ならせても、受信信号と送信信号とは偏波が直交関係にあるので、同一周波数を用いながらも、パイロット信号と電力波とが干渉しない電力伝送システムが構成できる。
【0184】
図27(A)、
図27(B)、
図27(C)は小規模のモデルとしてのアレーアンテナの構造を示す図である。
図27(A)はアレーアンテナの平面図、
図27(B)はアレーアンテナの正面図、
図27(C)はアレーアンテナの下面図である。このアレーアンテナは送電側アレーアンテナ又は受電側アレーアンテナとして用いられる。
【0185】
複数の素子アンテナ11(21)は導体平面GPに配列されている。この例では、合計177個の素子アンテナが0.7λ(36mm)ピッチで縦横に配列されている。
【0186】
図27(B)に表れているように、基準信号グリッド基板GBと導体平面GPとの間に多数のRFユニットRFUが配置されている。これらRFユニットRFUは素子アンテナ11(21)毎に設けられている。基準信号グリッド基板GBには配線パターンLPが形成されていて、この配線パターンLPを介して各RFユニットRFUに等振幅等位相の基準信号を供給する。
【0187】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形及び変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0188】
例えば、各図においては、第1移動体のアレーアンテナの面と第2移動体のアレーアンテナの面とが平行関係である例を示したが、第1移動体のアレーアンテナの面と第2移動体のアレーアンテナの面とが非平行であってもよい。
【0189】
また、以上に示した各アレーアンテナの表面に誘電体共振器などの素子アンテナを露出させた例を示したが、アレーアンテナ全体の表面に保護膜や保護層を形成して、腐食などの劣化を防止させてもよい。また、そのことによりアレーアンテナ表層の気流が滑らかになって空気抵抗を削減することができる。
【0190】
また、第2移動体から第1移動体への給電は、この両者が所定位置関係にあるときに成されるが、第1移動体と第2移動体とが常にセット状態で運用されるとは限らない。
図16を参照して既述したとおり、必要時点で給電を受け、それ以外の状態では第1移動体及び第2移動体は独立して移動することができる。
【0191】
また、
図14、
図16、
図19、
図20に示した例では、下面方向を向くアレーアンテナ又は上面方向を向くアレーアンテナを備える移動体を示したが、移動体の下面と上面の両方にアレーアンテナを備えていてもよい。そのことにより、第1移動体と第2移動体との上下方向の位置関係がどちらでも給電可能となる。
【0192】
また、以上に示した例では、単一の第2移動体と、単一のまたは複数の、第1移動体とで組となって、第2移動体から第1移動体へ給電するようにしたが、第2移動体が複数存在してもよい。この場合、複数の第2移動体のうち、第1移動体から短距離の第2移動体へ移動することで、より短時間のうちに給電を開始することができる。
【0193】
また、以上に示した例では、単一の第2移動体と、単一のまたは複数の、第1移動体とで組となって、第2移動体から第1移動体へ給電するようにしたが、第2移動体と同機能の装置を構成し、これを陸地に固定配置してもよい。このことにより、第1移動体は例えば陸地と船舶上の両方を行き来することも可能となる。
【0194】
本発明の移動体間給電システムは次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0195】
<1>
少なくとも第1移動体及び第2移動体を含んで構成され、
前記第1移動体は、マイクロ波を移動状態で受電するマイクロ波受電部と、当該マイクロ波受電部による受電電力を入力する受電部と、を備え、
前記第2移動体は、発電部と、当該発電部による発電電力を移動状態でマイクロ波を送電するマイクロ波送電部と、を備え、
前記マイクロ波送電部は、複数の素子アンテナが配列された送電部側アレーアンテナを有し、
前記マイクロ波受電部は、複数の素子アンテナが配列された受電部側アレーアンテナを有し、
前記マイクロ波送電部は、前記マイクロ波受電部から送信された電波を受信することによる、前記マイクロ波送電部の素子アンテナの受信信号から、当該受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、当該位相共役信号で前記マイクロ波送電部の素子アンテナを駆動することで、前記マイクロ波受電部から送信された電波をパイロット信号とするレトロディレクティブ動作で送電電力を前記マイクロ波受電部へ送電する、送電部側素子アンテナ回路を備え、
前記マイクロ波受電部は、前記マイクロ波送電部から送信された電波を受信することによる、前記マイクロ波受電部の素子アンテナの受信信号から、当該受信信号の位相共役の関係にある位相共役信号を生成し、当該位相共役信号で前記マイクロ波受電部の素子アンテナを駆動することで、前記マイクロ波送電部から送電された電波をパイロット信号とするレトロディレクティブ動作で送信信号を前記マイクロ波送電部へ送信する、受電部側素子アンテナ回路を備え、
前記マイクロ波送電部でのレトロディレクティブ動作と前記マイクロ波受電部でのレトロディレクティブ動作とが繰り返されることで、前記送電部側アレーアンテナから送電される電波及び前記受電部側アレーアンテナから送信される電波のいずれも、漏洩エネルギーを常に最少状態に保ち、前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間に入る、電力伝送に対する障害物を避けるように、前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間に自己収束ビームを形成して、前記マイクロ波送電部から前記マイクロ波受電部へ給電する、
移動体間給電システム。
【0196】
<2>
前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間隔は、速やかに前記自己収束ビームを形成させるために、前記送電部側アレーアンテナ又は前記受電部側アレーアンテナの幅の数倍から200倍の範囲内である、
<1>に記載の移動体間給電システム。
【0197】
<3>
前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの間隔は、数10mから数100mの範囲内で、前記第1移動体と前記第2移動体との間隔がほぼ一定に保たれている、
<1>又は<2>に記載の移動体間給電システム。
【0198】
<4>
前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの対向によって前記マイクロ波送電部でのレトロディレクティブ動作と前記マイクロ波受電部でのレトロディレクティブ動作との繰り返しが開始され、前記送電部側アレーアンテナと前記受電部側アレーアンテナとの非対向によって前記マイクロ波送電部でのレトロディレクティブ動作と前記マイクロ波受電部でのレトロディレクティブ動作との繰り返しが停止され、前記マイクロ波送電部から前記マイクロ波受電部への給電が瞬時に停止する、
<1>から<3>のいずれかに記載の移動体間給電システム。
【0199】
<5>
前記第1移動体及び前記第2移動体はいずれも空中を飛行する飛行体であり、
前記第1移動体は上面方向を向く前記受電部側アレーアンテナを備え、前記第2移動体は下面方向を向く前記送電部側アレーアンテナを備え、
前記第1移動体は、飛行中に前記マイクロ波受電部で前記マイクロ波を受電し、
前記第2移動体は、飛行中に前記マイクロ波送電部が前記マイクロ波を送電し、
前記第1移動体及び前記第2移動体は上下関係で並行飛行中に前記給電を行う、
<1>から<4>のいずれかに記載の移動体間給電システム。
【0200】
<6>
前記第1移動体は飛行中に前記マイクロ波受電部が受電した電力で空中を飛行する飛行体であり、前記第2移動体は海上を航行する船舶であり、
前記第1移動体は下面方向を向く前記受電部側アレーアンテナを備え、前記第2移動体は上面方向を向く前記送電部側アレーアンテナを備え、
前記第1移動体は、飛行中に前記マイクロ波受電部で前記マイクロ波を受電し、
前記第2移動体は、航行中に前記マイクロ波送電部が前記マイクロ波を送電し、
前記第1移動体が前記第2移動体の上空を飛行中に前記給電を行う、
<1>から<5>のいずれかに記載の移動体間給電システム。
【0201】
<7>
前記受電部側アレーアンテナの面は前記第1移動体の飛行による気流が流れる方向に沿った面である、
<5>又は<6>に記載の移動体間給電システム。
【0202】
<8>
前記第1移動体は複数存在し、各第1移動体が有する前記受電部側アレーアンテナと前記送電部側アレーアンテナとで、それぞれ前記自己収束ビームを形成する、
<1>から<7>のいずれかに記載の移動体間給電システム。
【0203】
<9>
前記第1移動体の前記受電部側アレーアンテナは、折り曲げにより、前記受電部側アレーアンテナに対する平面視での面積を縮小化する折り曲げ部を有する、
<1>から<8>のいずれかに記載の移動体間給電システム。
【0204】
<10>
前記受電部側アレーアンテナは前記送電部側アレーアンテナより小さい、
<1>から<9>のいずれかに記載の移動体間給電システム。
【0205】
<11>
前記第1移動体は飛行用のプロペラを有し、鉛直視で前記受電部側アレーアンテナは前記プロペラと重ならない位置に配置されている、
<1>から<10>のいずれかに記載の移動体間給電システム。
【0206】
<12>
前記第1移動体は、前記受電部が入力した電力を蓄電する蓄電装置と、当該蓄電装置の電力又は前記受電部が入力した電力で移動する移動用推進装置と、を備え、
前記第2移動体の前記発電部は発電機を備え、
前記第2移動体は、前記発電機を駆動する、内燃機関による発動機と、当該発動機によるエネルギー又は前記発電部による電気エネルギーで移動する移動用推進装置と、を備える、
<1>から<11>のいずれかに記載の移動体間給電システム。
【符号の説明】
【0207】
CB…自己収束ビーム
CO…切り欠き
DH…誘電体
GB…基準信号グリッド基板
GP…導体平面
LP…配線パターン
P…ピッチ
Px,Py…磁気結合プローブ
Px1,Px2…磁気結合プローブ
Py1,Py2…磁気結合プローブ
RFU…RFユニット
10…受電部側素子アンテナ回路
11,21…素子アンテナ
11H…水平偏波用素子
11V…垂直偏波用素子
12…分配器
13…整流器
14…位相共役回路
20…送電部側素子アンテナ回路
21H…水平偏波用素子
21V…垂直偏波用素子
24…位相共役回路
27…電力増幅器
100…マイクロ波受電部
100A,100B,100C…マイクロ波受電部
101,102,103,104,105…第1移動体
110…受電部側アレーアンテナ
110C…受電部側アレーアンテナ
110P…受電部側アレーアンテナ
112,113,115…受電部側アレーアンテナ
120…受電部
130…移動用推進装置
140…蓄電装置
200…マイクロ波送電部
201,202…第2移動体
210,211…送電部側アレーアンテナ
210C…パイロット信号受信用アレーアンテナ
210P…アレーアンテナ
220…発電部
221C…パイロット信号受信用アレーアンテナ
230…移動用推進装置
240…発動機
301…移動体間給電システム
【要約】
【課題】監視位置の変更許容やマイクロ波の分散などの限界要因を回避するとともに、障害物の侵入による問題を解消し、移動体間でエネルギーの伝送を高効率で行い、移動体の飛行時間又は飛行距離を長くできるようにしたシステムを構成する。
【解決手段】移動体間給電システム301は、第1移動体101及び第2移動体201を含む。第2移動体201のマイクロ波送電部200でのレトロディレクティブ動作と第1移動体101でのマイクロ波受電部100でのレトロディレクティブ動作とが繰り返されることで、送電部側アレーアンテナ210と受電部側アレーアンテナ110との間からの漏洩エネルギーを常に最少状態に保ち、送電部側アレーアンテナ210と受電部側アレーアンテナ110との間に入る、電力伝送に対する障害物を避けるように、送電部側アレーアンテナ210と受電部側アレーアンテナ110との間に自己収束ビームを形成する。
【選択図】
図1