(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】植物総体の栽培装置および栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20240704BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
A01G31/00 611
A01G7/00 601Z
(21)【出願番号】P 2023571812
(86)(22)【出願日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2023038947
【審査請求日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2023075083
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522276079
【氏名又は名称】株式会社GCJ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100103012
【氏名又は名称】中嶋 隆宣
(72)【発明者】
【氏名】田中 國介
(72)【発明者】
【氏名】木下 明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 亮
(72)【発明者】
【氏名】山本 稜
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】実開昭50-026048(JP,U)
【文献】登録実用新案第3035880(JP,U)
【文献】特開2017-018004(JP,A)
【文献】国際公開第2003/042352(WO,A1)
【文献】特開平10-150871(JP,A)
【文献】特開2000-324951(JP,A)
【文献】特開2001-045895(JP,A)
【文献】特開平10-080232(JP,A)
【文献】特開2007-11(JP,A)
【文献】実開昭53-119341(JP,U)
【文献】登録実用新案第3102581(JP,U)
【文献】特開2002-186358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00-31/06
A01G 7/00
A01G 9/00- 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井面に少なくとも一つの貫通孔を備え、
底面に栽培液体を貯留
し、前記天井面、前記底面および内側面で形成された空間域内で土壌を使わずに気相根を育成する遮光筐体と、
前記遮光筐体の
前記空間域を形成する内面のうち、少なくとも
前記内側面の一部に設置した毛管力を示す内面体と、
からなることを特徴とする植物総体の栽培装置。
【請求項2】
遮光筐体に、栽培液体の水位を調整する水位調整手段を接続したことを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項3】
遮光筐体が、箱形状の遮光筐体本体と、この遮光筐体本体の上方開口部を被覆し、かつ、着脱可能な蓋体とからなることを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項4】
遮光筐体本体の開口縁部のうち、対向する開口縁部に架け渡した複数本の吊り下げ具に、蓋体を架け渡して吊り下げたことを特徴とする請求項3に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項5】
貫通孔が、スリット形状の長孔であることを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項6】
遮光筐体の側面のうち、少なくとも一つの側面に開閉可能な扉を設置したことを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項7】
遮光筐体の内側面全面に内面体を設置したことを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項8】
遮光筐体の蓋体の内面のうち、貫通孔を除く内面に内面体を設置したことを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項9】
遮光筐体の底面全面に、植物総体に栽培液体を供給できる保水力を有する内面体を敷設したことを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項10】
遮光筐体の内面のうち、少なくとも内側面に取り付けた少なくとも1つの保持具を介し、遮光筐体に内面体を脱着可能に設置したことを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項11】
遮光筐体の内側面に、内面体を立て掛けて斜めに配置したことを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項12】
遮光筐体の底面に、植物総体を載置する載置台を設置したことを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項13】
載置台を、内面体と同一の素材で形成したことを特徴とする請求項12に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項14】
載置台を、スノコで構成したことを特徴とする請求項12に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項15】
内面体が、非金属無機質固体材料の焼成物であって、空隙である連通孔を含み、焼成物全体に対する空隙率が10~80%(vol/vol)であり、前記空隙の平均孔径が3μm以下であって、孔径3μm以下の空隙が体積比で全空隙の70%以上であることを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項16】
遮光筐体に、前記遮光筐体の上面に向けて光を照射する光源を備えた照光筐体を積み重ねたことを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項17】
遮光筐体の上方に、前記遮光筐体の上面に向けて光を照射する光源を備えた照光ユニットを配置したことを特徴とする請求項1に記載の植物総体の栽培装置。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれか1項に記載の植物総体の栽培装置を用いる、植物総体の栽培方法であって、少なくとも
天井面、底面および内側面で形成され、かつ、栽培液体を貯留する遮光筐体の内面のうち、少なくとも
前記内側面の一部に毛管力を示す内面体を設置し、前記遮光筐体内に
土壌を使わずに前記植物総体の根系を包含できる空間域を形成する工程;
前記空間域を形成する工程の前または後、前記遮光筐体
の前記底面に栽培液体を給水
して貯留する工程;
前記遮光筐体内に貯留した栽培液体中で、液相から水分および養分を吸収する
液相根を生育する工程;および
前記遮光筐体の空間域の内部に存在する水分および酸素中で、気相から酸素を吸収する
気相根を生育する工程
を含む、植物総体の栽培方法。
【請求項19】
遮光筐体の底面に設置した載置台に、植物総体を設置して栽培することを特徴とする請求項18に記載の植物総体の栽培方法。
【請求項20】
遮光筐体に貯留する栽培液体は、水または栽培対象である植物総体の育成に要求される養分を含んだ養液であって、停滞水であることを特徴する請求項18に記載の植物総体の栽培方法。
【請求項21】
養分は、窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよび硫黄から選択される必須多量元素、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、モリブデン、銅、塩素、ニッケルから選択される必須微量元素、または、ケイ素、ナトリウム、コバルトなどから選択される有用元素であることを特徴とする請求項20に記載の植物総体の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物総体の栽培に利用できる栽培装置及びこれを用いた栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、現在の植物工場に使用される植物総体の栽培装置は、広大な土地、大型の設備や装置、そして、大型の設備や装置を稼働させるためのエネルギーを必要とする。さらには、光、水および酸素の供給のための管理システムを適切に運転しなければならない。
すなわち、現在の植物工場を運転するためには、高い技術力と豊富な資金力を兼ね備えることが求められる(特許文献1参照)。
一方、植物工場の設置が真に要求される場所としては、十分な水の補給が期待できない場所や、災害を受けた直後で作物を栽培することができない場所などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現在の植物工場を、水の補給ができても狭い土地や今後被災から復興する場所などに設置することは、経済的な観点から容易でないという課題がある。
【0005】
植物には、(1)幹、茎、枝、葉など、土壌栽培において地上部に存在する植物本体;(2)土壌栽培において地下部に存在する根系;(3)花、実、果実等;(4)種子;(5)香りなど;および(6)薬効成分等の生成物で構成され、ここでは、全体を「植物総体」という。なお、この明細書において、便宜上、(1)植物本体を構成する茎から、「地下茎」を除外し、(2)根系に「地下茎」を含ませることとする。
植物総体において「茎」とは、維管束植物において、植物本体の軸となり、葉や果実などを支持し、根からの水分や養分を葉や果実に送り、葉で生産された養分を根に送る器官である。養分を根に貯蔵する食用または薬用植物として、例えば、サツマイモ、ヤマイモ、ダイコン、ニンジン、カブ、ゴボウ、薬用人参などが挙げられる。
また、「地下茎」とは、土壌栽培において地下に発生する茎の変態のひとつであり、根と同様に植物総体を支持する機能があり、さらに、養分を貯蔵する機能を有する植物もある。養分を地下茎に貯蔵する食用または薬用植物として、例えば、ジャガイモ、キクイモ、コンニャク、サトイモ、クワイ、タマネギ、ショウガ、ユリネなどが挙げられる。
【0006】
植物総体のうち根系には、植物本体を支持する役割、植物総体の生育に必要な養分および水分を吸い上げる役割、地上部で光合成により産生されたデンプンを始めとする糖質や植物の生長調節物質、各種薬効成分を合成および貯蔵する役割があることが知られている。根系のうち、成熟した太い根は主に支持する役割を担い、若い根および根毛が、表面積を増やすことによって効率的に土壌から水分および養分を吸収することは知られている。さらに、酸素不足になると根腐れを起こして植物総体が枯れてしまうことが知られている。
【0007】
しかしながら、根系の役割について、根系は土壌中に隠れているので直接目視確認することができず、土粒を取り除いても土壌中での各種形態の根の分布が分からない。また、水耕栽培では根系の目視観察ができたとしても、根系の全体が流動する水中にあるため、水分吸収する部位と酸素吸収する部位とを区別できず、現在、詳細な究明はされていないのが実情である。
【0008】
本発明者らは、「セラミック栽培装置」(特開平10-150871号公報)を開発したときの知見をもとに、植物総体のうち、特に、根系の働きに着目して、さらなる研究を続けたところ、そもそも植物の生育に土壌は不要であり、根部からの水分、養分および酸素を含む空気の吸収と、植物総体を物理的に支持する手段さえあれば、どこでも植物栽培は可能なのであることが確認された。
より詳しくは、セラミック筒の内壁に接触する根の部分からは水分を吸収するが、接触していない側には根毛が多く存在していた。すなわち、根には、水分の多い側、すなわち液相に向けて成長して、主に水分および養分を吸収する根部と、気相に向けて成長して、主に空気中の酸素を吸収すると推測される根部とが存在することが確認された。
本発明においては、主に水分および養分を吸収する役割を担う形態の根部を「液相根」と称し、主に酸素を吸収する役割を担う形態の根部を「気相根」と称する。
【0009】
従来の土壌栽培では、土粒が団粒構造を形成していることが理想的である。土粒または団粒同士の間に間隙があり、土壌中の水量が多いときは、根系全体が土粒または団粒に吸収された水分および間隙内に存在する液相から水分や養分を吸収し、水量が少ないときは、根の一部は、セラミック栽培のように土粒の表面に接して、液相根として水分や養分を吸収し、土粒または団粒同士の間隙では、気相根として空気中の酸素を吸収しているものと推察され、すなわち、土壌栽培された植物の根系には気相根と液相根とが無秩序に存在していると考えられる。
【0010】
本発明者らは、根系において、液相根の発生部位と気相根の発生部位とを分離して、それぞれの部位で、液相根で液相から水分や養分を吸収させ、気相根で気相から空気中の酸素を吸収することができれば、液相の溶存酸素が欠乏しても、気相根の存在により、植物総体の根系としては酸素不足になることがないと考えた。
そこで、本発明者らは、土壌を用いることなく、根系において液相根と気相根とを分離して発生させることができる植物総体の栽培装置及びそのような植物総体の栽培方法を提供することを課題とした。
ここで、「植物総体の栽培」とは、香りなど;酸素放出およびCO2吸収;周囲環境の湿度や温度の和らぎなどの目的で、植物総体を利用するために、植物を工業的に育成することを含む。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが新たに開発した植物総体の栽培装置は、前記課題を解決すべく、
天井面に少なくとも一つの貫通孔を備え、栽培液体を貯留する遮光筐体と、
遮光筐体の内面のうち、少なくとも内側面の一部に設置した毛管力を示す内面体と、からなる構成としてある。
すなわち、毛管力を示す内面体を内面に備えた遮光筐体内に、栽培液体である停滞水として貯留することを特徴とする。遮光筐体の内部空間域では、大量の根系が、内面体に接触することなく発育し、芋類や根菜類等が蓄積される。
本明細書において、毛管力とは、重力に逆らって水を上部に運ぶ能力、すなわち、毛管現象による吸引能をいう。毛管力を示す内面体の内部における微細構造および、その内面体の材質に対する水の濡れ性が、毛管力に影響する。
【0012】
本発明においては、毛管力を示す内面体を内面に設置した遮光筐体を使用するが、植物総体への水分供給は、遮光筐体内の栽培液体である停滞水を使い、内面体の毛管水は遮光筐体の内部空間域の湿度および温度を制御するために使用される。
本発明に係る栽培装置および栽培方法を用いると、根系のうち液相に存在する部位は、液相から水分および養分を吸収する液相根として生育し、気相に存在する部位は、気相から酸素を吸収する気相根として生育する。その結果、土壌栽培や従来の水耕栽培とは異なり、液相根および気相根のそれぞれを統合し、かつ、適切な相にて別々に生育することが可能となる。このため、栽培液体である停滞水の溶存酸素が欠乏して、液相根から酸素を吸収することができなくなっても、気相根が継続的に酸素を吸収するので、植物総体の根系が酸素不足になることがない。
また、本発明に係る栽培装置は、植物総体を支持するための手段として貫通孔を有するので、土壌栽培で必要とされる支持根は必須でなく、液相根および気相根の総量が大幅に増加する。
【0013】
したがって、本発明による植物総体の栽培装置は、植物の種類や大きさや、植物の形態に限定されることなく、様々な原基に対して適用することができる。植物の形態とは、根部を有する形態および、根部を有さないが、再生育可能な植物のあらゆる形態(例えば、種子、球根、地下茎、地上茎、芽、不定芽、腋芽、葯、花糸、穂、葉、挿し穂、小苗、大苗、りん片、子房、胚珠、胚、花粉、不定胚、不定根、培養植物体などの植物組織もしくは植物細胞)を含む。
【0014】
本発明に係る一態様の植物総体の栽培装置は、
天井面に少なくとも一つの貫通孔を備え、栽培液体を貯留する遮光筐体と、
遮光筐体の内面のうち、少なくとも内側面の一部に設置した毛管力を示す内面体と、からなる構成としてある。
【0015】
遮光筐体には、栽培液体の水位を調整する水位調整手段を接続しておいてもよい。
【0016】
遮光筐体は、箱形状の遮光筐体本体と、この遮光筐体本体の上方開口部を被覆し、かつ、着脱可能な蓋体とで構成しておいてもよい。
【0017】
遮光筐体本体の開口縁部のうち、対向する開口縁部に架け渡した複数本の吊り下げ具に、蓋体を架け渡して吊り下げおいてもよい。
【0018】
貫通孔は、スリット形状の長孔であってもよい。
【0019】
遮光筐体の側面のうち、少なくとも一つの側面に開閉可能な扉を設置しておいてもよい。
【0020】
遮光筐体の内側面全面に内面体を設置してもよい。
【0021】
遮光筐体の蓋体の内面のうち、貫通孔を除く内面に内面体を設置してもよい。
【0022】
遮光筐体の底面全面に、植物総体に栽培液体を供給できる保水力を有する内面体を敷設しておいてもよい。
【0023】
遮光筐体の内面のうち、少なくとも内側面に取り付けた少なくとも1つの保持具を介し、遮光筐体に内面体を脱着可能に設置しておいてもよい。
【0024】
遮光筐体の内側面に、内面体を立て掛けて斜めに配置しておいてもよい。
【0025】
遮光筐体の底面に、植物総体を載置する載置台を設置してもよい。
載置台は、内面体と同一の素材で形成してもよい。
載置台は、スノコで構成してもよい。
【0026】
内面体は、非金属無機質固体材料の焼成物であって、空隙である連通孔を含み、焼成物全体に対する空隙率が10~80%(vol/vol)であり、前記空隙の平均孔径が3μm以下であって、孔径3μm以下の空隙が体積比で全空隙の70%以上であることが好ましい。
【0027】
遮光筐体に、遮光筐体の上面に向けて光を照射する光源を備えた照光筐体を積み重ねておいてもよい。
【0028】
遮光筐体の上方に、前記遮光筐体の上面に向けて光を照射する光源を備えた照光ユニットを配置してもよい。
【0029】
本発明に係る一態様の植物総体の栽培方法は、
前述の植物総体の栽培装置を用いる、植物総体の栽培方法であって、少なくとも
栽培液体を貯留する遮光筐体の内面のうち、少なくとも内側面の一部に毛管力を示す内面体を設置し、前記遮光筐体内に前記植物総体の根系を包含できる空間域を形成する工程;
前記空間域を形成する工程の前または後、前記遮光筐体に栽培液体を給水する工程;
遮光筐体内に貯留した栽培液体中で、液相から水分および養分を吸収する根部を生育する工程;および
前記遮光筐体の空間域の内部に存在する水分および酸素中で、気相から酸素を吸収する根部を生育する工程
を含む、植物総体の栽培方法を提供する。
【0030】
遮光筐体の底面に設置した載置台に、植物総体を設置して栽培してもよい。
【0031】
遮光筐体に貯留する栽培液体は、水または栽培対象である植物総体の育成に要求される養分を含んだ養液であって、停滞水であってもよい。
【0032】
養分は、窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよび硫黄から選択される必須多量元素、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、モリブデン、銅、塩素、ニッケルから選択される必須微量元素、または、ケイ素、ナトリウム、コバルトなどから選択される有用元素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る栽培装置および栽培方法によれば、植物総体の育成に土壌は不要となるので、広大な土地、大型の設備や装置、そして、大型の設備や装置を稼働させるためのエネルギーを必要とすることなく、安価に、どんな場所でも誰でも植物工場を稼働させることができる。
土壌栽培では、特定の場所に束縛されるだけではなく、収穫した後、根系に付着した土を除去するための作業が必要となり、出荷までに手間がかかる。
しかし、本発明によれば、土壌による束縛も土壌からの不純物の影響も受けることがなくなれば、工業的に植物総体を製造し、その化学合成力を利用して目的の物質を収穫する技術の開発を活発化することができ、植物に目的物質を合成させるのに必要な養分を適宜補給し、効率的に目的の成分を合成させるために、根からの吸収が直接的かつ効率よく行うことができる。
要するに、本発明による土壌不要の植物栽培技術は究極のグリーンケミストリーの入口であり基礎となる技術である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明に係る植物総体の栽培装置の第1実施形態に係る全体斜視図である。
【
図2】
図1で図示した栽培装置の部分断面拡大斜視図である。
【
図3】
図1で図示した栽培装置の使用状態を示す部分断面拡大斜視図である。
【
図4】
図1で図示した栽培装置の使用状態を示す縦断面図である。
【
図5】本発明に係る植物総体の栽培装置の第2実施形態を示す縦断面図である。
【
図6】本発明に係る植物総体の栽培装置の第3実施形態を示す斜視図である。
【
図7】
図6に図示した栽培装置を正面から見た縦断面図である。
【
図8】
図6に図示した栽培装置を左側面から見た縦断面図である。
【
図9】本発明に係る植物総体の栽培装置の第4実施形態を示す斜視図である。
【
図10】
図9に図示した栽培装置の横断面斜視図である。
【
図11】本発明に係る植物総体の栽培装置の第5実施形態に係る縦断面図である。
【
図12】本発明に係る栽培装置の実施例1を示す写真である。
【
図13】実施例1において光源から照射された光量子束密度を測定した結果を示す平面図である。
【
図14】実施例1において光源から照射された光の波長を分析した結果を示す写真である。
【
図15】本発明に係る栽培装置の実施例1で使用された内面体である焼成体断面の電子顕微鏡写真である。
【
図16】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例1のジャガイモの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図18】本発明に係る栽培装置の実施例2を示す図である。
【
図19】実施例2において光源から照射された光量子束密度を測定した結果を示す平面図である。
【
図20】実施例2において光源から照射された光の波長を分析した結果を示す写真である。
【
図21】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例2のジャガイモの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図23】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例3に係るウコンの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図26】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例4に係るショウガの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図29】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例5に係るトウモロコシの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図32】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例6に係るダイズの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図35】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例7に係るナタネの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図40】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例8に係るバジルの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図45】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例9に係るハッカの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図49】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例10に係るアオシソの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図54】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例11に係るイチゴの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図57】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例12に係るカラタチの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図59】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例13に係るチャノキの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図62】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例14に係るパッションフルーツの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図65】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例15に係るイチジクの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図68】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例16に係るウラルカンゾウの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図71】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例17に係るワタの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図74】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例18に係るミニトマトの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図77】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例19に係るキュウリの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図80】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例20に係るナスの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図83】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例21に係るキンレンカの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図86】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例22に係るキキョウの状態変化を示す写真を含む図表である。
【
図89】本発明の栽培装置および栽培方法を用いて栽培した実施例23に係るダイズの状態変化を示す写真を含む図表である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明に係る栽培装置の第1実施形態を、
図1ないし
図4の添付図面に基づいて説明する。
第1実施形態に係る栽培装置10は、遮光筐体11と、栽培液体25を一定の水位で供給する水位調整手段20とからなり、図示しない光源と共に使用される。そして、第1実施形態に係る栽培装置10では、植物総体50のうち、根菜植物であるジャガイモを栽培する場合について説明する。
遮光筐体11の底面には載置台30が設置され、その内側面および蓋体15の内面には内面体31,32が設置されている。
【0036】
本発明に係る植物総体50の栽培装置10および栽培方法を用いれば、土壌不要なので、場所の制限がなく、いつでもどこでも誰にでも所望する植物を栽培することができる。
また、根系が土壌に隠されていないため、根系のなかでも、特に、根毛の働きを直接観察することができるので、植物の生態の研究がより一層発展する。
さらに、研究開発から商品化、事業化まで(地域実装、社会実装)一貫した「同じ製造方法」で成長させるので、実装化および産業化するまでの期間が短縮され、あらゆる最先端技術(ITはもちろん光技術、ナノテク、遺伝子の編集技術など)と簡単にコラボ可能である。特に、植物の移動はもちろん、同一性、同質性、清潔性、再現性など科学的な手法を取り入れることができ、そのことが新しい技術開発につながる。
したがって、本発明を基礎として、新たなコンセプトの「植物工場」を立ち上げることができ、植物の栽培が地上に限定されず、光合成に必要な光さえあれば、豊富な水の供給が期待できない乾燥地帯や被災地のみならず、車両、貨車、船舶、航空機等の限られた空間、さらには、宇宙ステーションや他の惑星など宇宙空間での設置を実現する発明を生み出す推進力となるという利点がある。
【0037】
遮光筐体11は、遮光筐体本体12と、この遮光筐体本体12の上方開口部を被覆する蓋体15とで形成されている。
遮光筐体本体12は、断面略コ字形の箱体であり、その片側側面に設けた開口部13には上開きで開閉可能な扉14が設置されているが、扉14は必要に応じて設けることが好ましい。扉14を開閉することにより、遮光筐体11内において栽培される植物総体50、例えば、ジャガイモの種イモ51の観察・管理が容易となり、発生・成長した子イモ54の収穫が容易になる。
なお、遮光筐体本体12と蓋体15との境界、開口部13と扉14との境界は、外部から光が射し込まない密閉構造となっている。
【0038】
遮光筐体11の形状・大きさは、栽培対象となる植物総体50に依存するが、植物総体50の根系および生育した地下貯蔵器官(貯蔵根(例えば、サツマイモ、ヤマイモ、ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ、高麗人参)、地下茎(例えば、ジャガイモ、サトイモ、タマネギ、ニンニク、ウコン)など)を包含することができる空間域を有していればよく、限定されない。
さらに、栽培対象となる植物総体50の根系、生育した地下貯蔵器官および地下茎を包含できる空間域を有していれば、特に限定されず、直方体形状にかぎらず、例えば、立方体形状、円柱形状、円錐台形状、四角錐台形状、あるいは、縦断面において、例えば、略半円形、略三角形、略台形、略六角形の筒形状であってもよく、栽培植物および栽培環境に応じて適宜、選択できることは勿論である。
【0039】
蓋体15は、前記遮光筐体本体12の上方開口部を被覆して遮光できる形状を有し、2分割可能な2枚の板状体で構成されているが、1枚の単板で形成してもよい。蓋体15が2分割可能であれば、栽培対象である植物総体50の管理・出し入れが容易になる。特に、根系が肥大したときに扉14を開放して植物総体50の根系を観察でき、回収することが容易になるので好ましい。蓋体15は、その中央に植物総体50の茎52が通過できる貫通孔16を設けてある。貫通孔16は、例えば、丸穴、楕円孔、三角孔、四角孔、スリット形状の長孔、または、これらを適宜組み合わせて形成してもよい。
前記貫通孔16は、植物総体50の茎52を支持するために、植物総体50の地上部を貫通させるだけではなく、光を取り入れる役割も担っている。前記貫通孔16の位置は、特に限定されないが、前記遮光筐体11の中心軸上にあることが好ましい。前記貫通孔16の形状は特に限定されず、その外形寸法は、栽培対象とする植物総体50の幹や茎52が収まる大きさであればよく、例えば、1~10cmである。本発明の栽培装置では、例えば、ジャガイモを栽培する場合、貫通孔16の直径を15ないし65mmに成形できる。
なお、遮光筐体11は、貫通孔16を除き、外部からの光の射し込みを防止できるように密閉されている。
また、貫通孔16がスリット形状の長孔である場合には、植物総体50の茎が成長して貫通孔16から葉を出したときには、植物総体50の茎の部分を除いて遮光シートを貼り、光の射し込みを防止することが好ましい。ジャガイモから発生したストロンが光に当たって茎に変成することを防止するためである。
【0040】
水位調整手段20としては、例えば、ボールタップが挙げられるが、必ずしもこれに限らず、例えば、水位センサーと電磁弁とを組み合わせて調整するものであってもよい。
遮光筐体11内の底面には、水位調整手段20で水位を調整された栽培液体25が貯留される。
水位調整手段20は遮光筐体11内に図示しない給水口を介して直接、栽培液体25を注入してもよく、補給管23を介して遮光筐体11内の奥側にも栽培液体25を給水してもよい。栽培液体25の養分の偏りを防止し、植物総体50の生育を均一にするためである。
【0041】
前記栽培液体25は、水、または、水に栽培対象である植物総体の生育に要求される養分を含んだ養液であってよい。
前記栽培液体25は停滞水でよく、前記栽培装置10に流水機構や酸素補給機構は不要であるが、それらの機構を付加することは排除しない。
【0042】
載置台30は、栽培対象とする植物総体の根系の肥大部位、すなわち、貯蔵根(サツマイモ、ヤマイモ、ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ、高麗人参)や地下茎(ジャガイモ、サトイモ、タマネギ、ニンニク、ウコンなど)などが液体内に深く浸漬することを回避するため、肥大部位を載置しつつ、液相根が液体中に浸るように形成できることが好ましい。
載置台30は、後述する内面体31,32と同質の素材で形成してもよいが、必ずしもこれに限らず、例えば、ステンレス製棒材を、いわゆるスノコ状に形成したものであってもよい。
要するに、栽培する植物総体50、例えば、ジャガイモの種イモ51の下部表面が栽培液体25に深く浸漬せずに成長できればよく、その素材、形状は問わない。
【0043】
内面体31,32は、遮光筐体11に貯留する栽培液体25を毛管現象で吸い上げて蒸散させることにより、遮光筐体11内の湿度および温度を一定に維持するために使用される。
内面体31の素材は、有機質固体材料、非金属無機質固体材料、パルプ、紙、織布、不織布、微多孔質体などの単体もしくはこれらを組み合わせて製造することができる。
前記内面体31,32のひとつの具体例として、非金属無機質固体材料の焼成物であって、空隙である連通孔を含み、該空隙の平均孔径が3μm以下であり、孔径3μm以下の空隙が体積比で全空隙の70%以上であり、焼成物全体に対して10~80%(vol/vol)の空隙率を有する微多孔質焼成物であってもよい。
【0044】
前記内面体31,32は、遮光筐体11内部の湿度および温度を安定化させる機能を有する。
湿度は、植物総体50を育成するときの湿度範囲であって、20~100%の範囲で調節される。
温度は、育成対象とする植物総体50にとって適切な温度であって、自然または温度制御装置により、外部から調節される。本発明の栽培装置10には、温度制御装置を必ずしも付属させる必要はないが、必要に応じて付属させてもよい。
このような機能を有する内面体31,32として、例えば、20℃において、内面体31,32を形成する素材の単位重量あたり0.005~500倍量、好ましくは0.01~100倍量、さらに好ましくは0.025~50倍量、最も好ましくは0.05~5倍量(重量/重量)の水を保持し得る吸水能を有する。内面体31,32を形成する素材は、例えば、空隙径0.02~900μm、好ましくは0.05~80μm、さらに好ましくは0.1~9μm、最も好ましくは0.2~5μmの連通する孔を、当該微多孔質体に対して0.05~1、好ましくは0.2~0.4の空隙率(体積/体積)で有する微多孔質体であれば、特に限定されるものではない。
【0045】
また、前記内面体31,32は、前記の特性を有するものであればよいが、好ましくはオートクレーブなどの高温高圧滅菌処理や、強アルカリ性、強酸性、高温、低温、高塩濃度、加圧、減圧、有機溶媒、放射線照射または重力を加える等の種々の栽培条件または培地条件に耐性の材質からなり、例えば10号土、磁器2号土(城山セラポット株式会社)、村上粘土(新潟県産)、三河陶土(有限会社丸俊セラミック)などの非金属無機質固体材料などを通常の方法に従って混練、成型、焼成することによって得られる多孔質体や、ポリビニルアルコールフォーム、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、塩化ビニル樹脂フォーム、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、フェノール樹脂フォーム、ユリア樹脂フォームなどの連続気泡型プラスチックフォーム材料を材質とするものが挙げられる。特に非金属無機質固体材料を、微多孔質であって、水分を吸収および放出し易い多孔質体とする場合には、例えば、ペタライト、アルミナなどを50~60重量%含有させて焼成することが好ましい。なお、一般的に、前記のペタライトとしては、76.81重量%のSiO2、16.96重量%のAl2O2、4.03重量%のLiO2、0.26重量%のK2O、1.94重量%の不可避的不純物を含むものが好ましい。また、非金属無機質固体材料には、粉状無機質発泡体を含有させておいてもよい。さらに、本発明に係る栽培装置10に用いる内面体31,32は、吸水した場合においても実質的にその強度が低下しないもしくは形状が変化しない素材で構成されることが望ましい。非金属無機質からなる焼き物であれば構造が安定しているが、育成対象の植物によっては、紙製や布製からなる内面体31,32も有用である。
【0046】
非金属無機質固体材料の成型方法としては、例えば、鋳込み成型、押し出し成型、プレス成型、ろくろ成型などの当該技術分野で知られている成型方法が挙げられるが、特に大量生産およびコスト削減の見地から押し出し成型が好ましい。また、成型後の乾燥は、当該技術分野で知られている通常の方法および条件を用いて行うことができる。つづく成型体の焼成は、通常行われている条件および方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、所望の空隙が得られやすい酸化焼成などを選択し得、焼成温度は1000℃~2000℃、好ましくは1100℃~1500℃、より好ましくは1150~1250℃、最も好ましくは1200℃である。非金属無機質固体材料の焼成温度が1000℃未満である場合には硫黄成分が残留し易く、一方、2000℃を超える場合には所望の吸水性が得られない。
【0047】
一方、連続気泡型プラスチックフォームを材質とする微多孔質体の成型方法としては、例えば、溶融発泡成型、固相発泡成型、注型発泡成型などの方法が挙げられる。溶融発泡成型の主な工程は、溶融混練、未発泡シート成型、加熱発泡または押し出し発泡、冷却、裁断および加工である。固相発泡成型では、ポリマーを固相または固相に近い状態で発泡させる。また、注型発泡成型では、液状原料(モノマーまたはオリゴマー)を使用して大気中で反応させながら注型して発泡させる。また、連続気泡型プラスチックフォームを発泡させるためには、一般的に発泡剤が用いられる。
【0048】
本発明による栽培装置10は、植物総体50を支持するための支柱またはスリーブをさらに含むことができる。
また、栽培対象である植物総体50の栽培を種子,球根または種イモの形態から開始する場合、前記栽培装置10は、種子,球根または種イモ用の載置台30を設置してもよい。前記載置台30の寸法は、対象とする種子,球根または種イモが載置でき、かつ、前記遮光筐体11の内部に収容できればよい。前記種子,球根または種イモから発生した幹、茎、枝、葉など植物本体が、前記遮光筐体11の高さ未満である期間、前記蓋体15に形成された貫通孔16からの光に向かって成長するように誘導する支持体(図示せず)を備えていてもよい。
同様に、栽培対象である植物総体50の栽培を前記遮光筐体11の高さ未満の小苗の形態から開始する場合、前記蓋体15に形成された貫通孔16からの光に向かって成長するように誘導する支持体(図示せず)を備えていてもよい。
【0049】
栽培対象とする植物総体50の根系の肥大部位、すなわち、貯蔵根(サツマイモ、ヤマイモ、ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ、高麗人参)や地下茎(ジャガイモ、サトイモ、タマネギ、ニンニク、ウコンなど)などが栽培液体に接触することを回避するため、肥大部位を載置しつつ、液相根が栽培液体中に浸る載置台を設けてもよい。
【0050】
本発明に係る植物総体50の一例として、表1に示す。
[表1]
【0051】
本発明に係る植物総体の栽培方法について説明する。
本発明に係る植物総体の栽培方法は、
前述の植物総体の栽培装置を用いる、植物総体の栽培方法であって、少なくとも
液体を貯留する遮光筐体の内面のうち、少なくとも内側面の一部に毛管力を示す内面体を設置し、前記遮光筐体内に前記植物総体の根系を包含できる空間域を形成する工程;
前記空間域を形成する工程の前または後、前記遮光筐体に栽培液体を給水する工程;
遮光筐体内に貯留した栽培液体中で、液相から水分および養分を吸収する根部を生育する工程;および
前記遮光筐体の空間域の内部に存在する水分および酸素中で、気相から酸素を吸収する根部を生育する工程
を含む栽培方法を提供する。
【0052】
本発明による植物総体50の栽培方法は、遮光筐体11に貯留する栽培液体の底面に設置した載置台30に、植物総体50の根部、特に、肥大部位、すなわち、貯蔵根や地下茎などを載置し、植物総体50を育成するのに適した環境を形成することを主目的とする。
本発明において、「植物総体を育成するのに適した環境」とは、土壌不要としつつ、20~100%RHの湿度を保ち、栽培対象とする植物総体50の根に、主に水分および養分を吸収する「液相根」の領域と、主に酸素を吸収する「気相根」の領域とを、分離して育成できる空間域を意味する。この空間域には、前記遮光筐体11の底面に貯留する栽培液体25由来の水分および、酸素、窒素、二酸化炭素等の気体成分が含まれる。貫通孔16を介し、前記気体成分は遮光筐体11の内外での通気は可能である。また、空間域内の温度は、栽培対象とする植物総体50に適切な温度範囲にあればよく、根系が外気と不完全であるが隔離されているため、急激な温度変化がなく、特別な温度管理機構は必要ではないが、必要に応じて付属させてもよい。
【0053】
前記水分は、前記遮光筐体11の底面に貯留する栽培液体25から直接供給され、および/または、遮光筐体11の内側面に設置された前記内面体31,32に存在する空隙である連通孔から毛管作用により吸い上げられた前記栽培液体25からも供給される。
【0054】
前記内面体31,32を備えた遮光筐体11内では、液相根は前記遮光筐体11の底面に貯留する栽培液体25に浸り、気相根は栽培液体25に接しない。
なお、本発明者らが開発したセラミック栽培(特開平10-150871号公報)とは異なり、本発明による植物総体50の栽培方法では、いずれの根部も前記内面体31,32を備えた遮光筐体11の内側面に接して生育することを必要としない。ただし、徒長した根が遮光筐体11の内面に接することは排除しない。
【0055】
前記遮光筐体11に貯留する栽培液体25は、水または栽培対象である植物総体50の育成に要求される養分を含んだ養液であって、流動している必要はなく、溶存酸素が欠乏しやすい停滞水である。したがって、本発明において、酸素を補給するために、栽培液体25を流動させる流水機構も、栽培液体25に直接酸素を補給する酸素補給機構も必要がない。本発明による栽培方法によれば、主に酸素を吸収する「気相根」が十分に育成されるからである。
前記植物の育成に要求される養分は、炭素、水素および酸素の他、少なくとも窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよび硫黄の必須多量元素であり、さらに、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、モリブデン、銅、塩素、ニッケルの必須微量元素、ケイ素、ナトリウム、コバルトなどの有用元素を包含する。
【0056】
本発明による植物総体50の栽培方法において、前記植物総体50の栽培は種子,球根または種イモの形態から開始し、本発明による栽培装置10の中で発根および発芽させることができる。または苗の形態から開始することもできる。
【0057】
遮光筐体11の内面に配置する内面体31,32の一つの具体例としては、非金属無機質固体材料の焼成物であって、空隙である連通孔を含み、焼成物全体に対する空隙率が10~80%(vol/vol)であり、前記空隙の平均孔径が3μm以下であって、孔径3μm以下の空隙が体積比で全空隙の70%以上であることを特徴とする。
【0058】
本発明に係る栽培装置10の第2実施形態は、
図5に示すように、遮光筐体11に断面略T字形状の位置決め枠体42を介して照光筐体40を載置したものである。なお、必要に応じて、遮光筐体11と、照光筐体40と、位置決め枠体42とをそれぞれ分離できるように組み立てることが好ましい。
照光筐体40の天井面に設置された光源41は、遮光筐体11の蓋体15に向けて光を照射することにより、植物総体50を育成する。
照光筐体40は直方体形状に限らず、遮光筐体11に積み重ねることができ形状であることが好ましく、立方体形状の他、例えば、断面半円形、断面台形、断面逆台形、断面三角形、断面六角形の筒形状であってもよい。さらに、照光筐体40の形状は、他の遮光筐体11を積み重ねることができる形状であれば、より一層好ましい。
【0059】
光源41は照光筐体40の天井面に限らず、内側面に設置してもよく、設置する位置、本数、設置方向は必要に応じて適宜、選択できることは勿論である。また、光源41としては、長尺な形状を有する光源に限らず、スポット的に光を照射するもの、および、これらを組み合わせて使用してもよいことは勿論である。
光源41としては、第1実施形態で使用したものと同一であってもよいが、照光筐体40内の温度上昇を考慮し、第1実施形態で使用したものと同一である必要はなく、異なる光源を組み合わせて使用してもよい。
光源41としては、例えば、LEDランプ、蛍光灯、ハロゲンランプ、ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、紫外線ランプ等が挙げられる。
【0060】
なお、第2実施形態は、照光筐体40を除いて第1実施形態とほぼ同様であるので、同一部分に同一番号を付して説明を省略する。
【0061】
本発明に係る栽培装置10の第3実施形態は、
図6ないし
図8に示すように、前述の第2実施形態と同様、遮光筐体11に照光筐体40を搭載したものである。
遮光筐体11は、下開き構造の扉14を備えているとともに、蓋体15に3個の貫通孔16を所定のピッチで設けてある。遮光筐体本体12と水位調整手段20とは2つの給水口17,17(
図8参照)を介して連通している。
遮光筐体11の上面には照光筐体40が搭載されている。照光筐体40には、接続ホース24を介して水位調整手段20に接続され、かつ、栽培液体25を供給する貯水タンク43を取り付けてある。そして、照光筐体40の天井面には図示しない光源が設置される。
【0062】
なお、第3実施形態は、前述の第2実施形態とほぼ同様であるので、同一部分に同一番号を付して説明を省略する。
また、前述の実施形態において、温度は、育成対象とする植物総体50にとって適切な温度であって、自然または温度制御装置により、外部から調節される。このため、本発明の栽培装置10に温度制御装置を必ずしも付属させる必要はないが、必要に応じて付属させてもよい。
【0063】
第2,3実施形態に係る栽培装置10であれば、複数の栽培装置10を積み重ねることにより、土地を有効活用でき、狭い土地でも使用できるという利点がある。
【0064】
本発明に係る栽培装置10の第4実施形態は、
図9に示すように、支持フレーム60に遮光筐体11を搭載した場合である。
支持フレーム60は、長方形の底板61の四隅に立設した支柱62の上端部に天板として照光ユニット64を架け渡してある。底板61の外周縁部は曲げ起してリブを形成してある。機械的強度を高めるためである。さらに、隣り合う支柱62には補強板63を架け渡してある。
照光ユニット64は光源として、例えば、LED(図示せず)を内蔵するとともに、制御ユニット65を備えている。そして、照光ユニット64は、その下面に取り付けた散乱板(図示せず)を介し、内蔵するLEDの光を遮光筐体11に照射する。前記散乱板は光を乱反射させることにより、LEDが照射する光の光量を均一化する。
【0065】
また、第4実施形態は、
図10に示すように、遮光筐体11の内側面に断面T字形の保持具26と、断面L字形の保持具27とを取り付けてある。保持具26および保持具27を介して内面体31(図示せず)を挿入することにより、脱着可能に取り付けできる。
【0066】
本実施形態によれば、内面体31の取り付け作業および取り外しが簡便になり、作業性が向上する。このため、内面体31の交換やクリーニング作業が容易になり、メンテナンス性が向上するという利点がある。そして、保持具26,27は遮光筐体本体12の内側面に限らず、蓋体15の天井面に取り付けてもよいことは勿論である。さらに、遮光筐体11に保持具26だけを、または、保持具27だけを取り付けて使用してもよいことは勿論である。
【0067】
内面体31は必ずしも遮光筐体11の内側面および天井面だけでなく、底面の中央に、柱または仕切り壁のように立設してもよい。このように配置することにより、内部空間域の湿度をより均一に保持できるという利点がある。
また、内面体31は、遮光筐体11の底面に載置台として設置する場合に限らず、遮光筐体11の底面全面に敷設してもよい。この場合に使用される内面体31は、所望の毛管力だけでなく、植物総体に栽培液体を供給できる保水力を有するものが好ましい。内面体31としては、例えば、紙、不織布、発泡性樹脂、微多孔質体などが挙げられる。微多孔質体の具体例としては、例えば、国際公開番号WO2004/101736に開示されたものが挙げられる。
さらに、内面体31は、遮光筐体11の内側面に立て掛けることにより、斜めに配置してもよい。そして、内面体31を斜めに配置する場合には、蓋体15の貫通孔16は蓋体15の外周縁部に沿って設けておくことが好ましい。前述のように内面体31を配置すれば、例えば、ニンジン、ダイコン、ゴボウなどが栽培しやすくなる。
なお、同一部分には同一番号を付して説明を省略する。
【0068】
本発明に係る栽培装置10の第5実施形態は、
図11に示すように、遮光筐体本体12の開口縁部のうち、対向する両側縁部に、例えば、針金を屈曲して形成した複数本の吊り下げ具28を所定のピッチで架け渡した場合である。そして、吊り下げ具28に、例えば、2枚の黒色のプラスチック製ダンボールを突き合わせて吊り下げることにより、蓋体15を形成してある。また、プラスチック製ダンボールの突き合わせ端面の対向する位置に切り欠き部(図示せず)を形成して貫通孔を形成してある。
【0069】
使用するプラスチック製ダンボールは黒色に限らず、例えば、白色透光性を有するものであってもよい。なお、白色透光性のプラスチック製ダンボールを使用する場合には、その表面を、例えば、アルミホィールで被覆して遮光することが好ましい。
【0070】
本実施形態によれば、軽量のプラスチック製ダンボールを使用して蓋体15を形成するので、栽培装置全体を軽量化できるという利点がある。また、本実施形態によれば、栽培植物に応じて適正な高さの内部空間を簡便に形成できるので、1つの遮光筐体本体12を共用することにより、多種多様な植物を栽培できるという利点がある。このため、栽培植物ごとに遮光筐体11の形状を変える必要がなくなり、便利になるという利点がある。
なお、同一部分には同一番号を付して説明を省略する。
【0071】
以上、図面を参照して種々の実施形態を詳細に説明したが、本願発明に係る種々の態様について説明する。なお、以下の説明では、一例として、参照符号も添えて記載する。
【0072】
本発明に係る第1態様の植物総体の栽培装置は、
天井面に少なくとも一つの貫通孔16を備え、栽培液体25を貯留する遮光筐体11と、遮光筐体11の内面のうち、少なくとも内側面の一部に設置した毛管力を示す内面体31,32と、から構成してある。
【0073】
本発明に係る第2態様の植物総体の栽培装置10は、第1態様の植物総体の栽培装置10において、
遮光筐体11に、栽培液体25の水位を調整する水位調整手段20を接続した構成としてある。
【0074】
本発明に係る第3態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様または第2態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
遮光筐体11が、箱形状の遮光筐体本体12と、この遮光筐体本体12の上方開口部を被覆し、かつ、着脱可能な蓋体15とからなる構成としてある。
【0075】
本発明に係る第4態様の植物総体50の栽培装置10は、第3態様に記載された植物総体50の栽培装置10において、
遮光筐体本体12の開口縁部のうち、対向する開口縁部に架け渡した複数本の吊り下げ具28に、蓋体15を架け渡して吊り下げた構成としてある。
【0076】
本発明に係る第5態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様ないし第4態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
貫通孔16は、スリット形状の長孔であってもよい。
【0077】
本発明に係る第6態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様ないし第5態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
遮光筐体11の側面のうち、少なくとも一つの側面に開閉可能な扉14を設置しておいてもよい。
【0078】
本発明に係る第7態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様ないし第6態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
遮光筐体11の内側面全面に内面体31を設置してもよい。
【0079】
本発明に係る第8態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様ないし第7態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
遮光筐体11の蓋体15の内面のうち、貫通孔16を除く内面に内面体32を設置してもよい。
【0080】
本発明にかかる第9態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様ないし第8態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
遮光筐体11の底面全面に、植物総体に栽培液体を供給できる保水力を有する内面体32を敷設してもよい。
【0081】
本発明にかかる第10態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様ないし第9態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
遮光筐体11の内面のうち、少なくとも内側面に取り付けた少なくとも1つの保持具26,27を介し、遮光筐体11に内面体32を脱着可能に設置してもよい。
【0082】
本発明にかかる第11態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様ないし第10態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
遮光筐体11の内側面に、内面体32を立て掛けて斜めに配置してもよい。
【0083】
本発明に係る第12態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様ないし第11態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
遮光筐体11の底面に、植物総体50を載置する載置台30を設置してもよい。
【0084】
本発明に係る第13態様の植物総体50の栽培装置10は、第12態様に記載された植物総体50の栽培装置10において、
載置台30を、内面体31,32と同一の素材で形成してもよい。
【0085】
本発明に係る第14態様の植物総体50の栽培装置10は、第12態様に記載された植物総体50の栽培装置10において、
載置台30を、スノコで構成してもよい。
【0086】
本発明に係る第15態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様ないし第14態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
内面体31,32が、非金属無機質固体材料の焼成物であって、空隙である連通孔を含み、焼成物全体に対する空隙率が10~80%(vol/vol)であり、前記空隙の平均孔径が3μm以下であって、孔径3μm以下の空隙が体積比で全空隙の70%以上であることが好ましい。
【0087】
本発明に係る第16態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様ないし第15態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
遮光筐体11に、前記遮光筐体11の上面に向けて光を照射する光源41を備えた照光筐体40を積み重ねてもよい。
【0088】
本発明にかかる第17態様の植物総体50の栽培装置10は、第1態様ないし第15態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10において、
遮光筐体11の上方に、前記遮光筐体11の上面に向けて光を照射する光源を備えた照光ユニット64を配置してもよい。
【0089】
本発明に係る第18態様の植物総体50の栽培方法は、
前述の第1態様ないし第17態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培装置10を用いる、植物総体50の栽培方法であって、少なくとも
栽培液体25を貯留する遮光筐体11の内面のうち、少なくとも内側面の一部に毛管力を示す内面体31,32を設置し、前記遮光筐体11内に前記植物総体50の根系を包含できる空間域を形成する工程;
前記空間域を形成する工程の前または後、前記遮光筐体11に栽培液体25を給水する工程;
遮光筐体11内に貯留した栽培液体25中で、液相から水分および養分を吸収する根部を生育する工程;および
前記遮光筐体11の空間域の内部に存在する水分および酸素中で、気相から酸素を吸収する根部を生育する工程
を含む。
【0090】
本発明に係る第19態様の植物総体50の栽培方法は、
第18態様に記載された植物総体50の栽培方法であって、
遮光筐体11の底面に設置した載置台30に、植物総体50を設置して栽培することを特徴とする。
【0091】
本発明に係る第20態様の植物総体50の栽培方法は、
第18態様または第19態様のいずれかに記載された植物総体50の栽培方法であって、
遮光筐体11に貯留する栽培液体25は、水または栽培対象である植物総体50の育成に要求される養分を含んだ養液であって、停滞水であることを特徴とする。
【0092】
本発明に係る第21態様の植物総体50の栽培方法は、
第20態様に記載された植物総体50の栽培方法であって、
養分は、窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよび硫黄から選択される必須多量元素、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、モリブデン、銅、塩素、ニッケルから選択される必須微量元素、または、ケイ素、ナトリウム、コバルトなどから選択される有用元素であることを特徴とする。
【実施例】
【0093】
以下に実施例を示して本発明の内容をさらに詳細に説明するが、この実施例は本発明のいくつかの実施形態の一例を示して本発明を説明することを目的とするものであって、本発明がこれらに限定されることを意図するものではない。当業者であれば、この実施形態の変形を容易に想起し得るであろうが、本発明の範囲は、以下に添付する特許請求の範囲およびその変形によって規定される。
【0094】
実施例1
(1)栽培装置
本発明に係る植物総体としては、根系が肥大する植物を育成対象とする。このため、栽培装置の遮光筐体は、育成する植物を支持し、かつ、肥大した根系を収容することができる形状、大きさおよび重量を有する必要がある。このため、実施例1に係る植物総体の栽培装置は、
図9に図示するように、長さ90cm、巾30cm、高さ30.5cmの遮光筐体と、栽培植物に光を照射する光源とで構成されている。
遮光筐体本体を被覆する着脱可能な蓋体は、植物を支持するために、その長さ方向の中心線に沿って巾5cm、長さ66cmの長孔からなる貫通孔を設けた。なお、ジャガイモの茎が伸びて貫通孔を通過した後は、茎が通過した貫通孔の部分を除き、その他の部分は遮光テープで閉鎖した。
なお、実施例1に係る遮光筐体には扉は設けられていない。
【0095】
遮光筐体の内側面および蓋体の天井面には、横18.0cm、縦30.8cm、厚さ1.0cmの内面体を適宜、寸法調整して貼着一体化した。なお、内面体の機能・特性の詳細は後述する。
遮光筐体の底面のうち、貫通孔の直下に位置する底面に載置台を所定のピッチで3か所に設置した。載置台は、前述の内面体を適宜、寸法調整したものを使用した。
なお、載置台の高さは、必要に応じて内面体の枚数を増やして調節した。
【0096】
(2)光源
遮光筐体の上面から高さ約35cmの位置に、3本のLEDランプ(6000K(ケルビン))を並設し、7時から19時まで点灯した。なお、当初、室内灯は24時間点灯していたが、試験23日目から7時から19時までの12時間点灯に切り換えた。
蓋体の上面に照射される光量子束密度を計測器(apogee社製、MQ-100)で測定した。測定結果を
図10に示す。光量子束密度の単位はμmol/m2/sである。
最大光量子束密度は111(μmol/m2/s)であり、最小光量子束密度は53(μmol/m2/s)であった。
光源に含まれる波長分布を波長分布計測器(Goyalab社製 Gospectro)で計測し、波長分布計測器の計測結果を示すモニターを写真撮影した。撮影結果を
図11に示す。横軸は波長(単位:nm)であり、縦軸はエネルギー量を示す分光放射照度(単位:mW/m2/nm)である。
計測結果から、波長451nmであるときに分光放射照度が最大となり、最大分光放射照度は393mW/m2/nmであることが判った。
【0097】
(3)栽培植物
防カビ対策として薬品処理した3個のジャガイモを載置台にそれぞれ設置した。なお、作業の効率化を図るべく、予め発芽したジャガイモを種イモとした。
【0098】
(4)栽培液体
種イモ3個が発根するまでは栽培液体として水を使用した。その場合の、栽培液体の水位は遮光筐体の底面に設置した載置台の表面を超え、種イモの下部が少し浸かる位置までとした。
発根後には、栽培液体を養液に変更するとともに、種イモの腐敗を防止すべく、合計2枚の内面体を積み重ねて載置台とした。種イモの下部表面と栽培液体の液面とがほぼ一致するように調整した。養液の成分・濃度はジャガイモの成長度合いに応じて調整した。
【0099】
(5)内面体
本発明において用いる焼成素材からなる内面体の素材には、三河陶器瓦用粘土R2-6を用いた。三河陶器瓦用粘土R2-6の定量分析(あいち産業科学技術総合センターにて実施)の結果を表2に示した。
【0100】
[表2]
三河焼窯元(有限会社丸俊セラミック)にて、微多孔質焼成素材(陶器瓦用粘土R2-6)を板状に形成し、ガス窯内で焼成温度1090℃×13時間焼き/窯出し30時間の焼成条件下で焼成して、微多孔質焼成体からなる内面体を製造した。内面体の製造条件及び製造した内面体の寸法を表3に示した。また、微多孔質焼成体断面の電子顕微鏡写真を
図12に図示した。
【0101】
【0102】
微多孔質焼成体からなる内面体の空隙率および空隙組成は、ろ過型遠心法により、サンプル1つにつき以下の手順で算出した。
(1)対象の微多孔質焼成体サンプルを破砕して、マイクロ遠心チューブ途中で引っかかる寸法のサンプル小片(5~8mm四方、約0.5g)を得る。
(2)サンプル小片を恒量になるまで乾燥し、乾燥重量Wsを測定し、マイクロ遠心チューブ乾燥重量Wtを測定する。
(3)サンプル小片を24時間蒸留水に浸漬する。
(4)サンプル小片を取り出し、ティッシュペーパーで表面に付着した水を軽く拭き取り、サンプル小片の含水重量Wを測定する。含水重量Wからサンプル小片の乾燥重量Wsを差し引いて、サンプル小片の総吸水量W0(=W-Ws)を求める。
(5)このサンプル小片をマイクロ遠心チューブに投入する。このとき、サンプル小片がチューブ途中で引っかかり、底部に接していないことを確認する。
(6)3,000rpmで5分間遠心した後、サンプル小片を取り出し、底部に水が貯留した状態のマイクロ遠心チューブの重量Waを測定する。この重量からマイクロ遠心チューブの重量Wtを差し引いて3,000rpmでの脱水量W3000(=Wa-Wt)を求める。
(7)貯留した水を維持したままのマイクロ遠心チューブに、再度、サンプル小片を投入し、5,500rpmで5分間遠心した後、サンプル小片を取り出し、底部に水が貯留した状態のマイクロ遠心チューブの重量Wbを測定する。この重量から底部に水が貯留した状態のマイクロ遠心チューブの重量Waを差し引いて5,500rpmでの脱水量W5500(=Wb-Wa)を求める。
(8)貯留した水を維持したままのマイクロ遠心チューブに、再度、サンプル小片を投入し、8,000rpmで5分間遠心した後、サンプル小片を取り出し、底部に水が貯留した状態のマイクロ遠心チューブの重量Wcを測定する。この重量から底部に水が貯留した状態のマイクロ遠心チューブの重量Wbを差し引いて8,000rpmでの脱水量W8000(=Wc-Wb)を求める。
(9)貯留した水を維持したままのマイクロ遠心チューブに、再度、サンプル小片を投入し、10,500rpmで5分間遠心した後、サンプル小片を取り出し、底部に水が貯留した状態のマイクロ遠心チューブの重量Wdを測定する。この重量から底部に水が貯留した状態のマイクロ遠心チューブの重量Wcを差し引いて10,500rpmでの脱水量W105000(=Wd-Wc)を求める。
(10)最後に総吸水量W0から脱水された合計量を差し引いて、10,500rpmでの遠心でも脱水されなかった残水量Wr(=W0-Wa-Wb-Wc-Wd)を求める。
(11)9個のサンプル小片について上記測定を行い、各測定値の合計を用いて、対象の微多孔質焼成体サンプルを空隙率および空隙組成を算出した結果を表4に示した。
【0103】
【0104】
遠心装置の回転中心から自由水面までの距離を回転半径として、表5に示す遠心力と空隙径の対応表に基づき、空隙組成を算出した。ここで、自由水面をマイクロ遠心チューブの上下中央の位置と設定し、それぞれ、3,000rpmでは3.5μm以上の空隙径を有する孔からの脱水、5,500rpmでは1.0μm以上の空隙径を有する孔からの脱水、8,000rpmでは0.5μm以上の空隙径を有する孔からの脱水、10,500rpmでは0.3μm以上の空隙径を有する孔からの脱水が起こるとして、空隙組成を算出した結果を表6にまとめた。さらに、この微多孔質焼成体である焼成物全体に対する空隙率は約13%であった。
【0105】
【0106】
【0107】
電子顕微鏡観察の結果および空隙組成の測定により、この微多孔質焼成体からなる内面体の表面には孔径0.2~5μm(平均孔径3μm)の連通孔が形成されていることが分かった。
【0108】
なお、内面体は焼成素材に限らず、繊維質素材、例えば、板状に構成した針金の枠組みに、紙、織物、不織布などの繊維質シートを巻き付けて形成してもよい。
また、パルプ、糸くずなどの繊維質を板状に押し固めて、内面体を形成することもできる。
【0109】
さらに、内面体は、樹脂素材を用いて、前記焼成体素材と同様、特定の連通孔が存在する微多孔質体を形成してもよい。
【0110】
(6)ジャガイモの栽培環境・期間
室温20℃、湿度50%に設定した屋内に前述の遮光筐体からなる栽培装置を設置し、表16に示すように、2022年11月23日~2023年3月19日までの116日間、栽培した後、子イモを収穫した。
【0111】
(7)試験結果
栽培開始から15日目には、
図17に示すように、種イモと茎との間で空中に位置する液相根の表面に、綿毛のような多数本の側根が生えていた。綿毛のような側根は、その先端が水中に没していないことから、気相根であると判断できた。水中では液相根が伸長し、地上部は枯れることなく成長していた。
27日目には、貫通孔から地上部が通過し、44日目に着花を確認できた。50日目に着果を確認するとともに、種イモに子イモが着果したことを確認した。
80日目に子イモが種イモを超える大きさまで肥大し、116日目に子イモを収穫した。子イモの重量は163.4g、89.1gであった。
【0112】
本発明による栽培装置を用いて栽培したジャガイモは良好に生長し、種イモから子イモが発生した。なお、栽培期間中、本発明の栽培装置を用いて栽培したジャガイモの液相根及び気相根の大部分は遮光筐体の内面に接触していなかった。取り出したジャガイモは、藻類などが付着しておらず綺麗な状態であった。
【0113】
実施例1から実証されるように、本発明による栽培装置および栽培方法によれば、栽培植物のために複雑な水循環設備を用いることなく、停滞水のみで、水面より上方に気相根を育成し、同時に、水中では液相根を育成できることが確認された。
すなわち、本発明によれば、植物の良好な生育に影響すると考えられてきた土壌の団粒構造の環境を、土壌を用いることなく再現することができた。
また、本発明は、土壌を用いないので、栽培終了時には、植物の根部には土壌や藻類などが付着しておらず綺麗な状態であり、煩雑な洗浄作業を行うことなく、そのまま出荷できることが分かった。
【0114】
実施例2
(1)栽培装置
実施例2は
図18に図示するように、実施例1とほぼ同様な遮光筐体からなる栽培装置を使用した。
遮光筐体の底面のうち、貫通孔の直下に位置する底面に1枚の内面体(厚さ:1.0cm)からなる載置台を所定のピッチで4ヶ所に設置した。載置台は、前述の内面体を適宜、寸法調整したものを使用した。
なお、載置台の高さは、種イモが十分に根を出して成長した後は、前記内面体と同一素材で植木鉢形状に形成した焼成体を逆さまに設置して載置台とし、底上げした。
【0115】
(2)光源
実施例1と同一のLEDランプ3本を並設し、7時から19時まで12時間、点灯した。なお、室内灯は8から18時まで10時間点灯した。
蓋体の上面に照射される光量子束密度を計測器(apogee社製、MQ-100)で測定した。光量子束密度の単位はμmol/m
2/sである。測定結果を
図19に示す。
最大光量子束密度は229(μmol/m
2/s)であり、最小光量子束密度は134(μmol/m
2/s)であった。
光源に含まれる波長分布を波長分布計測器(Goyalab社製 Gospectro)で計測し、波長分布計測器の計測結果を示すモニターを写真撮影した。撮影結果を
図20に示す。横軸は波長(単位:nm)であり、縦軸はエネルギー量を示す分光放射照度(単位:mW/m2/nm)である。
計測結果から、波長428nmであるときに分光放射照度が最大となり、最大分光放射照度は198mW/m2/nmであることが判った。
【0116】
(3)栽培植物
防カビ対策として薬品処理した4個のジャガイモを載置台にそれぞれ設置した。なお、作業の効率化を図るべく、予め発芽したジャガイモを種イモとした。
【0117】
(4)栽培液体
種イモ4個が発根するまでは栽培液体として水を給水した。栽培液体の水位は遮光筐体の底面に設置した載置台の表面を超え、種イモの下部が少し浸かる深さ(2cm)とした。
発根後には、栽培液体を養液に変更した。そして、十分に発根した後に、種イモの腐敗を防止すべく、内面体と同一素材で植木鉢形状に形成した焼成体をひっくり返して設置し、載置台(高さ:7cm)とした。ただし、液相根は養液に十分に浸かっている状態であった。
なお、養液の成分・濃度はジャガイモの成長度合いに応じて調整した。
【0118】
(5)内面体
実施例2に係る内面体は、実施例1と同一であるので、説明は省略する。
【0119】
(6)ジャガイモの栽培環境・期間
室温20℃、湿度50%に設定した屋内に前述の遮光筐体からなる栽培装置を設置し、表21に示すように、2022年11月8日から栽培を開始した。そして、栽培試験は、2023年4月28日現在においても継続中である。
【0120】
(7)試験結果
栽培開始から6日目に発根し、12日目には
図22に示すように、種イモから発生した液相根は、その先端部が水中に伸長するとともに、空中に位置する表面には綿毛のような多数の側根が出現していた。綿毛のような側根は、その先端が水中に没していないことから、気相根であると判断できた。22日目には、貫通孔から地上部が通過し、28日目には地上部が遮光筐体の表面に葉を展開した。42日目にストロンが出現し、63日目に貫通孔を遮光テープで閉鎖した。100日目に着花を確認するとともに、子イモが着果していることを確認できた。
【0121】
本発明による栽培装置を用いることにより、栽培したジャガイモは良好に生長し、種イモから子イモが発生した。本発明の栽培装置を用いて栽培したジャガイモの液相根は遮光筐体の内側面に設置した内面体まで延伸していた。
【0122】
実施例3
(ウコン)
温度22℃、湿度60%に設定した室内に実施例1と同一形状の遮光筐体(RB1型)を設置した。遮光筐体の上方に3本のLEDランプ(6000K(ケルビン))を配置し、14時間点灯して栽培した。
図23に示すように、2023年6月6日にRB1型の遮光筐体の底面に設置したセラミック板に芽出し済みの2個の種ウコンを載置し、蓋体で根部を遮光した。開始日から2日目に発根し、9日目に芽が伸長するとともに、気相根が出現した。21日目に地上部が貫通孔を通過した。43日目に根茎が肥大化を開始し、62日目に新葉が展開した。92日目に形成された根茎部が肥大化し続けた。121日目に収穫した。収穫した2株のウコンのうち、左側の株のウコンは計79.0g、右側の株のウコンは計70.4gであった。
参考のため、
図24に21日目の出現した気相根の拡大図を示し、
図25に121日目のウコンの根部の拡大図を示す。
【0123】
実施例4
(ショウガ)
温度22℃、湿度60%に設定した室内に実施例1と同一形状の遮光筐体(RB1型)を設置した。遮光筐体の上方に3本のLEDランプ(6000K(ケルビン))を配置し、14時間点灯して栽培した。
図26に示すように、2023年5月22日にRB1型の遮光筐体の底面に設置したセラミック板に芽出し済みの種ショウガを載置し、蓋体で根部を遮光した。開始日から8日目に発根し、30日目に液相根が伸長した。31日目に葉が貫通孔を通過し、36日目に気相根が発達した。58日目に新根茎から萌芽した。71日目に茎が伸長し、122日目に新たな根茎が形成された。136日目に収穫した。収穫したショウガは23.9gであった。
参考のため、
図27に36日目の発達した気相根の拡大図を示し、
図28に136日目の収穫したショウガの拡大図を示す。
【0124】
実施例5
(トウモロコシ)
2023年4月26日にポット苗で購入したトウモロコシ苗の根部を水洗いし、土を除去した。一方、温度25℃に設定した研究棟内に設置した栽培ボックス内にRB1型ボックスを設置した。栽培ボックス内は換気扇を備え、照明灯としては高圧ナトリウムランプ(岩崎電気株式会社製 FECサンルクスエース NH360LS)を12時間点灯した。
図29に示すように、5月1日にRB1型ボックスの底面に設置したスノコにクリップを介してトウモロコシ苗を立設した。このとき、トウモロコシ苗の根部の先端は栽培液体に浸かっていた。
開始日から4日目に液相根の伸長と、気相根の発生とを目視で確認した。35日目に雄穂を確認し、42日目に雄穂から花粉を採取した。46日目に雌穂を確認し、49日目に雌穂に人工授粉を行った。穎果が肥大化し、79日目に穎果(えいか)を確認した。
参考のため、
図30に4日目の根部の拡大図を示し、
図31に79日目のトウモロコシ全体の拡大図を示す。
【0125】
実施例6
(ダイズ)
2023年4月26日にポット苗で購入したダイズ苗の根部を水洗いし、土を除去した。一方、温度25℃に設定した研究棟内に設置した栽培ボックス内にRB1型ボックスを設置した。栽培ボックス内は換気扇を備え、照明灯としては高圧ナトリウムランプ(岩崎電気株式会社製 FECサンルクスエース NH360LS)を12時間点灯した。
図32に示すように、5月1日にRB1型ボックスの底面に設置したスノコにクリップを介してダイズ苗を立設した。このとき、ダイズ苗の根部の先端は栽培液体に浸かっていた。
開始日から4日目に液相根の伸長と、気相根の発生とを目視で確認した。21日目に開花して結実した。35日目に開花するとともに、肥大化した。51日目に肥大化が進み、56日目に収穫した。収穫したダイズの総重量は23gであった。
参考のため、
図33に4日目の根部の部分拡大図を示し、
図34に56日目に収穫したすべてのダイズの拡大図を示す。
【0126】
実施例7
(ナタネ)
図35に示すように、温度20.5℃、湿度70%に設定した室内にRB1型ボックスを設置した。そして、RB1型ボックスの底面に配置したセラミック板に、種から発根させたナタネ苗を載置した。ついで、底面から15cmの高さで厚さ4mmの黒色のプラスチック製段ボール2枚を突き合わせて吊り下げることにより、ナタネ苗の茎を支持するとともに、根部を遮蔽した。
照明灯としてはLED(SOLIDLITE社 EL-L01-LT104F-DQM-D2423)を12時間点灯し、2023年6月30日に栽培を開始した。開始日から7日目に気相根が出現した。35日目に下葉が枯れ始め、56日目に茎が2本に分岐していた。77日目に葉が上の棚段に達し、105日目においても葉が側方にも大きくはみ出した。
参考のため、
図36および
図37に7日目の生長する苗および出現した気相根の拡大図を示す。
図38および
図39に105日目の成長したナタネおよび根部の拡大図を示す。
【0127】
実施例8
(バジル)
図40に示すように、温度20.5℃、湿度70%に設定した室内にRB1型ボックスを設置した。そして、RB1型ボックスの底面に配置したセラミック板に、種から発根したバジル苗を載置した。ついで、底面から15cmの高さで厚さ4mmの黒色のプラスチック製段ボール2枚を突き合わせて吊り下げることにより、バジル苗の茎を支持するとともに、根部を遮蔽した。照明灯としてはLED(SOLIDLITE社 EL-L01-LT104F-DQM-D2423)を12時間点灯し、2023年6月30日に栽培を開始した。
開始日から7日目に気相根が出現した。49日目に花芽が出現し、56日目に花穂が伸長した。67日目に開花し、105日目に種子がほぼ成熟していた。
参考のため、
図41に7日目出現した気相根の拡大図を示す。
図42、
図43および
図44に105日目の成長したバジル、収穫した種子および根部の拡大図をそれぞれ示す。
【0128】
実施例9
(ハッカ)
図45に示すように、温度20.5℃、湿度70%に設定した室内にRB1型ボックスを設置した。そして、RB1型ボックスの底面に、挿し木で発根させたハッカ苗を直接、載置した。ついで、底面から10cmの高さで厚さ4mmの黒色のプラスチック製段ボール2枚を突き合わせて吊り下げることにより、ハッカ苗の茎を支持するとともに、根部を遮蔽した。照明灯としてはLED(SOLIDLITE社 EL-L01-LT104F-DQM-D2423)を12時間点灯し、2023年8月2日に栽培を開始した。
開始日から7日目に気相根が出現した。28日目に葉腋に花芽が出現し、33日目に開花した。35日目の側枝にも花芽が出現し、49日目にランナーが多数出現した。63日目に実の中で種子が成熟し、70日目に実の成熟が更に進んでいた。
参考のため、
図46に7日目に出現した気相根の拡大図を示す。
図47および
図48に70日目の成長したハッカおよび成熟しつつある種子の拡大図をそれぞれ示す。
【0129】
実施例10
(アオシソ)
図49に示すように、温度20.5℃、湿度70%に設定した室内にRB1型ボックスを設置した。そして、RB1型ボックスの底面に配置したセラミック板に、挿し木で発根させたアオシソ苗を載置した。ついで、底面から12cmの高さで厚さ4mmの黒色のプラスチック製段ボール2枚を突き合わせて吊り下げることにより、アオシソ苗の茎を支持するとともに、根部を遮蔽した。照明灯としてはLED(SOLIDLITE社 EL-L01-LT104F-DQM-D2423)を12時間点灯し、2023年7月13日に栽培を開始した。
開始日から7日目に新芽が生長し、14日目に気相根が出現した。21日目に花芽が出現し、腋芽も出現し、27日目に開花した。35日目に開花が進展するとともに、結実した。56日目に実が褐変し、種子を収穫した。
参考のため、
図50にアオシソ苗の設置状況を示す拡大図、
図51に14日目の出現した気相根の部分拡大図および
図52に56日目の根部の拡大図、
図53に56日目に収穫した種子の拡大図を示す。
【0130】
実施例11
(イチゴ)
図54に示すように、温度20.5℃、湿度70%に設定した室内にRB1型ボックスを設置した。そして、RB1型ボックスの底面に配置したセラミック板に、ランナーの子株を株分けして発根させたイチゴ苗を載置した。ついで、底面から12cmの高さで厚さ4mmの黒色のプラスチック製段ボール2枚を突き合わせて吊り下げることにより、イチゴ苗の茎を支持するとともに、根部を遮蔽した。照明灯としてはLED(SOLIDLITE社 EL-L01-LT104F-DQM-D2423)を12時間点灯し、2023年7月13日に栽培を開始した。
開始日から7日目にランナーが出現し、14日目に気相根が出現した。25日目に花芽が出現し、28日目に開花したので、人工授粉を行った。68日目に肥大化した花托が着色し始めた。70日目に成熟した花托を収穫した。
参考のため、
図55に14日目に出現した気相根の部分拡大図、
図56に70日目に収穫したイチゴの拡大図を示す。
【0131】
実施例12
(カラタチ)
図57に示すように、ポット苗で購入したカラタチ苗の根部を水洗いし、土を除去した。一方、温度22℃、湿度60%に設定した室内に栽培装置として遮光筐体を設置した。遮光筐体としては、貫通孔を丸穴とした点を除き、実施形態1と同一構造を有するもの(これをRB2型という)を使用した。そして、遮光筐体(RB2型)の上方に3本のLEDランプ(6000K(ケルビン))を配置し、14時間点灯して栽培した。
2023年8月31日にRB2型の底面に設置したセラミック板にカラタチの根部を載置し、蓋体で根部を遮光した。開始日から14日目に液相根が伸長し、28日目に新葉が展開した。35日目に液相根が発根し、42日目に気相根が出現した。
参考のため、
図58に42日目に出現した気相根の拡大図を示す。
【0132】
実施例13
(チャノキ)
図59に示すように、ポット苗で購入したチャノキ苗の根部を水洗いし、土を除去した。一方、温度22℃、湿度60%に設定した室内にRB2型を設置した。RB2型の上方に3本のLEDランプ(6000K(ケルビン))を配置し、14時間点灯して栽培した。
2023年8月31日に、RB2型の底面に設置したセラミック板に、チャノキの根部を載置し、蓋体で根部を遮光した。開始日から14日目に液相根が伸長し、28日目に蕾が肥大すると共に、気相根が出現した。35日目に液相根および気相根が更に発達し、40日目に開花した。
参考のため、
図60に35日目の発達した気相根および液相根の拡大図を示し、
図61に40日目の開花した花の拡大図を示す。
【0133】
実施例14
(パッションフルーツ)
図62に示すように、ポット苗で購入したパッションフルーツ苗の根部を水洗いし、土を除去した。一方、温度22℃、湿度60%に設定した室内にRB2型を設置した。RB2型の上方に3本のLEDランプ(6000K(ケルビン))を配置し、14時間点灯して栽培した。
2023年7月24日にRB2型の底面に設置したセラミック板にパッションフルーツ苗を載置し、蓋体で根部を遮光した。開始日から8日目に液相根の伸長を確認し、25日目に気相根の出現を確認した。59日目に脇芽が伸長し、80日目においても新葉が次々と形成されていることを確認した。今後も栽培を継続する。
参考のため、
図63に25日目の出現した気相根の拡大図を示し、
図64に73日目の発達した気相根の部分拡大図を示す。
【0134】
実施例15
(イチジク)
図65に示すように、ポット苗で購入したイチジク苗の根部を水洗いし、土を除去した。一方、温度22℃、湿度60%に設定した室内にRB2型ボックスを設置した。RB2型ボックスの上方に3本のLEDランプ(6000K(ケルビン))を配置し、14時間点灯して栽培した。
2023年7月24日にRB2型の底面に設置したセラミック板にイチジク苗を載置し、蓋体で根部を遮光した。開始日から8日目に液相根が発生し、30日目に最上位葉の葉面積が拡大し、36日目に気相根が出現した。44日目に新葉が発生し、66日目に液面から発達した気相根が出現し、79日目においても気相根が内面体に張り付いた根から発達していた。
参考のため、
図66に36日目に出現した気相根の拡大図を示し、
図67に66日目に液面から出現した気相根の拡大図を示す。
【0135】
実施例16
(ウラルカンゾウ)
図68に示すように、ポット苗で購入したウラルカンゾウ苗の根部を水洗いし、土を除去した。一方、温度22℃、湿度60%に設定した室内にRB2型を設置した。RB2型の上方に3本のLEDランプ(6000K(ケルビン))を配置し、14時間点灯して栽培した。
2023年7月20日にRB2型の底面に設置したセラミック板にウラルカンゾウ苗を載置し、蓋体で根部を遮光した。開始日から12日目に液相根が伸長し、18日目に気相根が出現した。40日目に直根部が肥大化して伸長した。56日目に萌芽し、82日目に根の最大直径が10mmまで肥大化した。
参考のため、
図69に18日目の出現した気相根の拡大図を示し、
図70に82日目の肥大化した根部の拡大図を示す。
【0136】
実施例17
(ワタ)
図71に示すように、ポット苗で購入したワタ苗の根部を水洗いし、土を除去した。一方、温度22℃、湿度60%に設定した室内にRB2型を設置した。RB2型ボックスの上方に3本のLEDランプ(6000K(ケルビン))を配置し、14時間点灯して栽培した。
2023年8月11日にRB2型の底面に設置したセラミック板にワタ苗を載置し、蓋体で根部を遮光した。開始日から12日目に液相根が伸長するとともに、蕾が出現した。26日目に気相根が液面上に出現し、37日目に第1花が開花した。41日目に第1花が着果し、第2花が開花した。61日目に第1果は肥大中であり、気相根が発達していた。
参考のため、
図72に26日目に出現した気相根の拡大図を示し、
図73に61日目の発達した気相根の拡大図を示す。
【0137】
実施例18
(ミニトマト)
2023年4月19日にポット苗で購入したミニトマト苗の根部を水洗いし、土を除去した。一方、温度25℃に設定した研究棟内に設置した栽培ボックス内にRB2型を設置した。前記栽培ボックス内は換気扇を備え、照明灯としては高圧ナトリウムランプ(岩崎電気株式会社製 FECサンルクスエース NH360LS)を12時間点灯した。
図74に示すように、4月24日にRB2型の底面に設置したセラミック板にミニトマト苗を載置し、栽培を開始した。開始日から9日目に液相根が伸長し、気相根が発生した。16日目に第1花房が開花するとともに、第2花房が出現した。21日目に第1花房が着果し、果実が肥大化した。39日目に第2花房が開花し、着果していた。56日目に第1花房の果実2個を収穫し、重量および糖度を測定した。74日目に第2花房の果実の着色を確認できた。
参考のため、
図75に9日目の根部の部分拡大図を示し、
図76に74日目のミニトマトの拡大図を示す。
【0138】
実施例19
(キュウリ)
図77に示すように、2023年4月19日にポット苗で購入したキュウリ苗の根部を水洗いし、土を除去した。一方、温度25℃に設定した研究棟内に設置した栽培ボックス内にRB2型を設置した。栽培ボックス内は換気扇を備え、照明灯としては高圧ナトリウムランプ(岩崎電気株式会社製 FECサンルクスエース NH360LS)を12時間点灯した。
4月24日にRB2型の底面に設置したセラミック板にキュウリ苗を載置した。このとき、セラミック板の表面は栽培液体の水面とほぼ同等の位置にあり、キュウリ苗の根部の先端部は滞留する栽培液体に浸かっていた。
開始から9日目に液相根の伸長と、気相根の発生とを目視で確認した。16日目に雌花を確認し、21日目に雌花の開花を確認し、28日目に着果を確認した。56日目に1果目(179.3グラム)を収穫し、63日目に2果目(156.2グラム)を収穫し、81日目に3果目を収穫し、107日目に4果目(121.5グラム)を収穫した。栽培開始日から148日目でも5果目が伸長かつ肥大し、液相根および気相根が繁茂していることを確認できた。
参考のため、
図78に9日目の根部の拡大図を示し、
図79に148日目の根部の部分拡大図を示す。
【0139】
実施例20
(ナス)
図80に示すように、2023年4月19日にポット苗で購入したナス苗の根部を水洗いし、土を除去した。一方、温度25℃に設定した研究棟内に設置した栽培ボックス内にRB2型を設置した。栽培ボックス内は換気扇を備え、照明灯としては高圧ナトリウムランプ(岩崎電気株式会社製 FECサンルクスエース NH360LS)を12時間点灯した。
4月24日にRB2型の底面に設置したセラミック板にナス苗を載置した。このとき、セラミック板の表面は栽培液体の水面とほぼ同等の位置にあり、ナス苗の根部の先端部は滞留する栽培液体に浸かっていた。
開始から9日目に液相根の伸長と、気相根の発生とを目視で確認した。25日目にハダニが発生したが、草勢が復活して開花した。140日目に新たに開花するとともに、着果した。154日目に果実が肥大し、158日目にナス2本を収穫した。1本目は143.0gであり、2本目は69.4gであった。
参考のため、
図81に9日目の根部の拡大図を示し、
図82に140日目の根部の部分拡大図を示す。
【0140】
実施例21
(キンレンカ(ナスタチウム))
図83に示すように、温度20.5℃、湿度70%に設定した室内にRB2型を設置した。ただし、RB2型の底面にキンレンカ苗を直接載置した。そして、底面から95mmの高さで厚さ4mmの白色のプラスチック製段ボール2枚を吊り下げてキンレンカ苗の茎を支持した。さらに、プラスチック製ダンボールの表面をアルミホイールで被覆することにより、根部を遮光した。そして、照明灯としてはLED(SOLIDLITE製 EL-L01-LT104F-DQM-D2423)を12時間点灯し、2023年7月25日栽培を開始した。
開始日から27日目に茎が伸長し、62日目に気相根を確認した。72日目に葉が繁茂し、78日目に蕾が出現するとともに、多数の気相根が出現し、80日目に開花した。
参考のため、
図84に62日目の気相根の部分拡大図を示し、
図85に80日目の開花した状態の拡大図を示す。
【0141】
実施例22
(キキョウ)
図86に示すように、温度20.5℃、湿度70%に設定した室内にRB2型を設置した。ただし、RB2型の底面に種から発根したキキョウ苗を直接載置した。そして、底面から95mmの高さで厚さ4mmの白色のプラスチック製段ボール2枚を吊り下げてキキョウ苗の茎を支持した。さらに、プラスチック製ダンボールの表面をアルミホイールで被覆することにより、根部を遮光した。そして、照明灯としてはLED(SOLIDLITE製 EL-L01-LT104F-DQM-D2423)を12時間点灯し、2023年7月25日栽培を開始した。
開始日から52日目に蕾が出現し、62日目に開花するとともに、気相根が栽培液体表面から突出した。根の肥大を促進するために摘花した。69日目に開花し、同様に摘花した。78日目において根の直径が12mmとなった。
参考のため、
図87に62日目の気相根の部分拡大図を示し、
図88に78日目の根部の拡大図を示す。
【0142】
実施例23
(ダイズ)
図89に示すように、温度22℃、湿度60%に設定した室内にRB3型を設置した。RB3型の上方にLEDランプ(共立電照製のHMW95E2SV1A-RM)を配置し、14時間点灯して栽培した。
2023年8月23日にRB3型の底面に設置したセラミック板にダイズを播種し、貫通孔を備えた蓋体で遮蔽した。開始日から1日目に発根し、2日目に幼根が伸長した。6日目に子葉部が緑変し、22日目に子葉が展開し、液相根が伸長した。43日目に本葉が貫通孔を通過した。50日目に花芽が形成されるとともに、気相根が発達した。
参考のため、
図90に22日目の液相根の拡大図を示し、
図91に50日目の発達した気相根の拡大図を示す。
【0143】
なお、本発明者らが提唱する「土壌不要植物栽培」は、広範な植物品種に適用することができ、土壌が不要なだけでなく、広い敷地も、流れる水も使わずに、根量の必要な穀類や小型の木本類の収穫(コーヒー・茶など)、果樹に至るまでほぼ全ての植物の植物工場での栽培を可能とする。土壌不要植物栽培技術により、植物栽培の自由度が飛躍的に高まりこれまで土壌栽培または設備を伴った水耕栽培に限られた植物栽培方法を多様化して産業化して食料や植物由来原料の供給に寄与できる。さらには、植物の移動はもちろん、同一性、同質性、清潔性、再現性など科学的な手法を取り入れることができ、そのことが新しい技術開発につながる。また、当該技術は研究開発から商品化および事業化まで一貫した「同一の植物総体製造方法」で製造するので、地域実装、社会実装するまでの期間が短縮される。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明者らが提唱する「土壌不要植物栽培」の発想で作られた植物工場は、安価に、いつでもどこでも誰にでも稼働させることができる。このため、光合成に必要な光さえあれば、豊富な水の供給が期待できない乾燥地帯や被災地のみならず、車両、貨車、船舶、航空機等の限られた空間、さらには、宇宙ステーションや他の惑星など宇宙空間での設置を実現する。
【符号の説明】
【0145】
10 栽培装置
11 遮光筐体
12 遮光筐体本体
13 開口部
14 扉
15 蓋体
16 貫通孔
17 給水口
20 水位調整手段
21 給水管
22 排水管
23 補給管
24 接続ホース
25 栽培液体
26 保持具(断面T字形)
27 保持具(断面L字形)
28 吊り下げ具
30 載置台(内面体)
31 内面体
32 内面体
40 照光筐体
41 光源
42 位置決め枠体
43 貯水タンク
50 植物総体(栽培植物:ジャガイモ)
51 種イモ
52 茎
53 葉
54 子イモ
60 支持フレーム
61 底板
62 支柱
63 補強板
64 照光ユニット(天板)
65 制御ユニット
【要約】
土壌を用いることなく、根系において液相根と気相根とを分離して発生させることができる植物総体の栽培装置および植物総体の栽培方法を提供することにある。天井面に少なくとも一つの貫通孔16を備え、栽培液体25を貯留する遮光筐体11と、遮光筐体11の内面のうち、少なくとも内側面の一部に設置した毛管力を示す内面体31,32と、からなる植物総体50の栽培装置10である。