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  • 特許-光学部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】光学部品
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/04 20060101AFI20240704BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240704BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20240704BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20240704BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
G02B1/04
C08K5/098
C08K5/103
C08L45/00
C08L65/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019014700
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2019133157
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-11-09
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2018015105
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】添田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】井場 洋貴
(72)【発明者】
【氏名】奥野 孝行
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久博
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】井口 猶二
【審判官】関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-209298(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070118(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/00-1/08
G02B 3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系重合体(A)と、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルと、脂肪酸金属塩と、を含む環状オレフィン系樹脂組成物により構成された光学部品であって、
前記環状オレフィン系樹脂組成物中の前記ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含有量が、前記環状オレフィン系重合体(A)100質量部に対して、1.2質量部以上2.0質量部未満であって、
前記環状オレフィン系樹脂組成物中の前記脂肪酸金属塩の含有量が、前記環状オレフィン系重合体(A)100質量部に対して、0.005質量部以上0.05質量部以下である光学部品。
【請求項2】
請求項1に記載の光学部品において、
当該光学部品の厚みが2mm以上30mm以下である光学部品。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学部品において、
前記環状オレフィン系重合体(A)がエチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(A1)および環状オレフィンの開環重合体(A2)から選択される少なくとも一種を含む、光学部品。
【請求項4】
請求項3に記載の光学部品において、
前記環状オレフィン系重合体(A)が前記共重合体(A1)を含み、
前記共重合体(A1)が、
下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、
を有する光学部品。
【化1】
(上記一般式(I)において、R300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化2】
(上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。)
【化3】
(上記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)
【化4】
(上記一般式(IV)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。)
【請求項5】
請求項4に記載の光学部品において、
前記共重合体(A1)中の前記環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)が、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し単位を含む光学部品。
【請求項6】
請求項4または5に記載の光学部品において、
前記共重合体(A1)中の前記オレフィン由来の繰り返し単位(a)が、エチレンに由来する繰り返し単位を含む光学部品。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の光学部品において、
前記ペンタエリスリトール脂肪酸エステルが、ペンタエリスリトールと、ステアリン酸およびパルミチン酸から選択される少なくとも一種の脂肪酸とのエステルを含む光学部品。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の光学部品において、
前記脂肪酸金属塩がステアリン酸金属塩およびパルミチン酸金属塩から選択される少なくとも一種の脂肪酸金属塩を含む光学部品。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の光学部品において、
前記環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度が120℃以上150℃以下の範囲にある光学部品。
【請求項10】
ウェアラブル端末向けのレンズ、fθレンズ、撮像レンズ、センサーレンズ、プリズムまたは導光板である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂組成物は光学性能に優れるため、例えば、光学レンズ等の光学部品として用いられている。
光学部品に用いられる環状オレフィン系樹脂組成物に関する技術としては、例えば、特許文献1(特許第5778884号公報)や特許文献2(特開2015-199939号公報)に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、環状オレフィン系重合体およびペンタエリスリトール脂肪酸エステルを含む環状オレフィン系樹脂組成物が開示されている。
特許文献2には、環状オレフィン系重合体およびジグリセリン脂肪酸エステルを含む環状オレフィン系樹脂組成物が開示されている。
これらの特許文献には、このような環状オレフィン系樹脂組成物を用いると、光学性能に優れ、さらに高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制された成形体が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5778884号公報
【文献】特開2015-199939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載されているような、環状オレフィン系重合体およびペンタエリスリトール脂肪酸エステルを含む環状オレフィン系樹脂組成物や、特許文献2に記載されているような、環状オレフィン系重合体およびジグリセリン脂肪酸エステルを含む環状オレフィン系樹脂組成物を用いると、光学性能に優れ、さらに高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制された光学部品を実現できるものの、光学部品を厚くすると、得られる光学部品に白濁が発生してしまう場合や、成形直後の光学部品に白濁が認められなくても、光学部品が高温高湿下に曝されると、光学部品に白濁が発生してしまう場合等があることが明らかになった。
また、厚みが大きい光学部品では、連続的に射出成形を行うと金型の光学面に汚れが発生する傾向にあることが分かった。
光学部品に白濁があったり、金型の光学面に汚れがあったりすると、光学部品に光学欠陥が生じ、フレア現象やゴースト現象といった画質低下を引き起こす懸念がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、光学性能に優れるとともに、白濁の発生および高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制され、さらに金型の光学面の汚れを抑制できる光学部品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、環状オレフィン系重合体、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルおよび脂肪酸金属塩を含み、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含有量を特定の範囲とした環状オレフィン系樹脂組成物を用いることにより、光学部品の厚みが大きい場合でも、光学性能に優れるとともに、白濁の発生および高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制され、さらに金型の光学面の汚れを抑制できる光学部品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明によれば、以下に示す光学部品が提供される。
【0009】
[1]
環状オレフィン系重合体(A)と、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルと、脂肪酸金属塩と、を含む環状オレフィン系樹脂組成物により構成された光学部品であって、
上記環状オレフィン系樹脂組成物中の上記ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含有量が、上記環状オレフィン系重合体(A)100質量部に対して、1.2質量部以上2.0質量部未満である光学部品。
[2]
上記[1]に記載の光学部品において、
当該光学部品の厚みが2mm以上30mm以下である光学部品。
[3]
上記[1]または[2]に記載の光学部品において、
上記環状オレフィン系重合体(A)がエチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(A1)および環状オレフィンの開環重合体(A2)から選択される少なくとも一種を含む、光学部品。
[4]
上記[3]に記載の光学部品において、
上記環状オレフィン系重合体(A)が上記共重合体(A1)を含み、
上記共重合体(A1)が、
下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、
を有する光学部品。
【化1】
(上記一般式(I)において、R300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化2】
(上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。)
【化3】
(上記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)
【化4】
(上記一般式(IV)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。)
[5]
上記[4]に記載の光学部品において、
上記共重合体(A1)中の上記環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)が、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し単位を含む光学部品。
[6]
上記[4]または[5]に記載の光学部品において、
上記共重合体(A1)中の上記オレフィン由来の繰り返し単位(a)が、エチレンに由来する繰り返し単位を含む光学部品。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の光学部品において、
上記環状オレフィン系樹脂組成物中の上記脂肪酸金属塩の含有量が、上記環状オレフィン系重合体(A)100質量部に対して、0.005質量部以上0.05質量部以下である光学部品。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の光学部品において、
上記ペンタエリスリトール脂肪酸エステルが、ペンタエリスリトールと、ステアリン酸およびパルミチン酸から選択される少なくとも一種の脂肪酸とのエステルを含む光学部品。
[9]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載の光学部品において、
上記脂肪酸金属塩がステアリン酸金属塩およびパルミチン酸金属塩から選択される少なくとも一種の脂肪酸金属塩を含む光学部品。
[10]
上記[1]乃至[9]のいずれか一つに記載の光学部品において、
上記環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度が120℃以上150℃以下の範囲にある光学部品。
[11]
ウェアラブル端末向けのレンズ、fθレンズ、撮像レンズ、センサーレンズ、プリズムまたは導光板である、上記[1]乃至[10]のいずれか一つに記載の光学部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学性能に優れるとともに、白濁の発生および高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制され、さらに金型の光学面の汚れを抑制できる光学部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る実施形態の光学部品の構造の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。また、数値範囲を示す「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0013】
[光学部品]
はじめに、本発明に係る実施形態の光学部品について説明する。
本実施形態に係る光学部品は、環状オレフィン系重合体(A)と、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルと、脂肪酸金属塩と、を含む環状オレフィン系樹脂組成物により構成された光学部品であって、上記環状オレフィン系樹脂組成物中の上記ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含有量が、上記環状オレフィン系重合体(A)100質量部に対して、1.2質量部以上2.0質量部未満である。
【0014】
本実施形態に係る光学部品の厚みは、好ましくは2mm以上30mm以下、より好ましくは5mm以上30mm以下、さらに好ましくは5mm以上25mm以下、さらにより好ましくは5mm以上20mm以下、さらにより好ましくは5mm以上15mm以下、特に好ましくは5mm以上10mm以下である。
【0015】
図1は、本発明に係る実施形態の光学部品の構造の一例を模式的に示した断面図である。光学部品の最大厚みをTmaxとしている。本実施形態に係る光学部品は、図1(b)~(d)に示す例のように厚みが均一でない場合は、最大厚みTmaxを厚みと定義する。また、本発明に係る実施形態の光学部品は、例えばメニスカスレンズ等の厚みが均一な光学部品であってもよい。
【0016】
本発明者らの検討によれば、厚みが大きい光学部品は、白濁が発生してしまう場合や、成形直後の光学部品に白濁が認められなくても、光学部品が高温高湿下に曝されると、光学部品に白濁が発生してしまう場合等があることを発見した。さらには厚みが大きい光学部品では、連続的に射出成形を行うと金型の光学面に汚れが発生する傾向にあることが分かった。すなわち、厚みが上記範囲にある光学部品は、厚みが2mm未満の薄肉の光学部品に比べて、これらの要求が厳しい傾向にあることが窺えた。
本実施形態に係る光学部品は、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物により構成されているため、光学性能に優れている。そのため像を高精度に識別する必要がある光学系において、光学部品として好適に用いることができる。光学部品とは光学系機器等に使用される部品であり、具体的には、ヘッドマウントディスプレイ等のウェアラブル端末向けのレンズ、センサーレンズ、ピックアップレンズ、プロジェクタレンズ、プリズム、fθレンズ、撮像レンズ、導光板等が挙げられ、本実施形態に係る効果の観点から、ウェアラブル端末向けのレンズ、fθレンズ、撮像レンズ、センサーレンズ、プリズムまたは導光板に好適に用いることができる。撮像レンズとは撮像用のレンズ、センサーレンズとは各種センサー用のレンズを指す。
特に、本実施形態に係る光学部品は、高い耐熱性を有しながらも耐湿熱性を満足し、さらに白濁の発生が抑制されているという驚くべき効果を有する。
そのため本実施形態に係る光学部品はヘッドマウントディスプレイ等のウェアラブル端末向けのレンズ、車載カメラレンズや携帯機器(携帯電話、スマートフォン、タブレット等)用のカメラレンズ等の耐熱性が求められる光学部品にとりわけ好適に用いることができる。
【0017】
本実施形態に係る光学部品を得る方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。その用途および形状にもよるが、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等が適用可能である。これらの中でも、成形性、生産性の観点から射出成形法が好ましい。また、成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、例えば150℃~400℃、好ましくは200℃~350℃、より好ましくは230℃~330℃の範囲で適宜選択される。
【0018】
[環状オレフィン系樹脂組成物]
つぎに、本発明に係る実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物について説明する。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン系重合体(A)と、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルと、脂肪酸金属塩と、を含む。また、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物中のペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含有量は、環状オレフィン系重合体(A)100質量部に対して、1.2質量部以上2.0質量部未満である。
【0019】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物によれば、光学部品の厚みが大きい場合でも、光学性能に優れるとともに、白濁の発生および高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制され、さらに金型の光学面の汚れを抑制できる光学部品を実現できる。
この理由は明らかではないが、以下のように考えられる。ペンタエリスリトール脂肪酸エステルは親水基の量が適度であるとともに脂肪酸由来の疎水基を含むため、環状オレフィン系重合体(A)との相溶性に優れ、光学性能に優れた光学部品を得ることができる。また、脂肪酸金属塩は、アルカンのような疎水基とカルボン酸塩のような極性の官能基を有する。そのため、射出成形時に安定剤がガス化して金属からなる金型の光学面に付着した汚れ成分を除去することができると推察される。
【0020】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン系重合体(A)、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、および脂肪酸金属塩の含有量の合計の下限は、環状オレフィン系樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン系重合体(A)、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルおよび脂肪酸金属塩の含有量の合計が上記下限値以上であることにより、光学性能をより一層良好にすることができる。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン系重合体(A)、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、および脂肪酸金属塩の含有量の合計の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%以下である。
【0021】
以下、各成分について具体的に説明する。
【0022】
(環状オレフィン系重合体(A))
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体(A)は、環状オレフィンに由来する繰り返し単位を必須構成単位とする重合体である。
環状オレフィン系重合体(A)としては、例えば、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(A1)および環状オレフィンの開環重合体(A2)から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0023】
本実施形態に係る共重合体(A1)を構成する環状オレフィン化合物は特に限定はされないが、例えば、国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の環状オレフィンモノマー等を挙げることができる。
【0024】
本実施形態に係る共重合体(A1)は、得られる光学部品の透明性および屈折率の性能バランスを良好に保ちつつ耐熱性をさらに向上できたり、成形性を向上できたりする観点から、下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、を有することが好ましい。
【0025】
【化5】
上記一般式(I)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。
【0026】
【化6】
上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0027】
【化7】
上記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0028】
【化8】
上記一般式(IV)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0029】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合原料の一つであるオレフィンモノマーは付加共重合して上記一般式(I)で表される構成単位を形成するものである。具体的には上記一般式(I)に対応する下記一般式(Ia)で表されたオレフィンモノマーが用いられる。
【0030】
【化9】
上記一般式(Ia)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。より優れた耐熱性、機械的特性および光学特性を有する光学部品を得る観点から、これらのなかでも、エチレンとプロピレンが好ましく、エチレンが特に好ましい。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーは2種類以上を用いてもよい。
本実施形態に係る共重合体(A1)を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、オレフィン由来の繰り返し単位(a)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは20モル%以上90モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上85モル%以下、特に好ましくは50モル%以上80モル%以下である。
なお、オレフィン由来の繰り返し単位(a)の割合は、13C-NMRによって測定することができる。
【0031】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合原料の一つである環状オレフィンモノマー(b)は付加共重合して上記一般式(II)、上記一般式(III)または上記一般式(IV)で表される環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)を形成するものである。具体的には、上記一般式(II)、上記一般式(III)、および上記一般式(IV)にそれぞれ対応する一般式(IIa)、(IIIa)、および(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)が用いられる。
【0032】
【化10】
上記一般式(IIa)において、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0033】
【化11】
上記一般式(IIIa)において、xおよびdは0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0034】
【化12】
上記一般式(IVa)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0035】
共重合成分として、上述した一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマー、一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)を用いることにより、環状オレフィン系重合体(A)の溶媒への溶解性がより向上するため成形性が良好となり、製品の歩留まりが向上する。
【0036】
一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)の具体例については国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の化合物を用いることができる。
【0037】
具体的には、ビシクロ-2-ヘプテン誘導体(ビシクロヘプト-2-エン誘導体)、トリシクロ-3-デセン誘導体、トリシクロ-3-ウンデセン誘導体、テトラシクロ-3-ドデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ-3-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ-3-ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ-4-ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ-5-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-4-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-5-ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ-5-ドコセン誘導体、ノナシクロ-5-ペンタコセン誘導体、ノナシクロ-6-ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン誘導体、炭素数3~20のシクロアルキレン誘導体等が挙げられる。
【0038】
一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)の中でも、一般式(IIa)で表される環状オレフィンが好ましい。
【0039】
上記一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)として、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(ノルボルネンとも呼ぶ。)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセンとも呼ぶ。)を用いることが好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを用いることがより好ましい。これらの環状オレフィンは剛直な環構造を有するため共重合体および光学部品の弾性率が保持され易くなる利点がある。
【0040】
本実施形態に係る共重合体(A1)を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、環状オレフィンモノマー(b)由来の繰り返し単位(b)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは10モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上60モル%以下、特に好ましくは20モル%以上50モル%以下である。
【0041】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性、屈折率および複屈折率等の光学物性に優れ、高精度の光学部品を得ることができる観点から、本実施形態に係る共重合体(A1)としてはランダム共重合体を用いることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る共重合体(A1)としては、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体およびエチレンとビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンとのランダム共重合体であることが好ましく、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体がより好ましい。
【0043】
また、環状オレフィン系重合体(A)としては、環状オレフィンの開環重合体(A2)を用いることができる。
環状オレフィンの開環重合体(A2)としては、例えば、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、ならびにこれらの水素化物等が挙げられる。
【0044】
ノルボルネン系単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)およびその誘導体、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)およびその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体等が挙げられる。
これらの誘導体の環に置換される置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。なお、置換基は、1個または2個以上を有することができる。このような環に置換基を有する誘導体としては、例えば、8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデン-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン等が挙げられる。
これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0045】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。
開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウム等の金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒;チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン等の金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒;等を用いることができる。
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環の環状オレフィン系単量体等を挙げることができる。
【0046】
ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物や、ノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体の水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素-炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0047】
本実施形態において環状オレフィン系重合体(A)は1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
本実施形態に係る共重合体(A1)は、例えば、特開昭60-168708号公報、特開昭61-120816号公報、特開昭61-115912号公報、特開昭61-115916号公報、特開昭61-271308号公報、特開昭61-272216号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
本実施形態に係る環状オレフィンの開環重合体(A2)は、例えば、特開昭60-26024号公報、特開平9-268250号公報、特開昭63-145324号公報、特開2001-72839号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0049】
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体(A)の分子量は特に限定されないが、分子量の代替指標として極限粘度[η]を用いた場合、135℃のデカリン中で測定される極限粘度[η]が、好ましくは0.03dl/g~10dl/g、より好ましくは0.05dl/g~5dl/g、さらに好ましくは0.10dl/g~2dl/gを示す分子量である。
分子量が上記下限値以上であると、光学部品の機械的強度を向上させることができる。また、分子量が上記上限値以下であると、成形性を向上させることができる。
【0050】
ASTM D1238に準拠し、260℃、荷重2.16kgで測定される環状オレフィン系重合体(A)のメルトフローレート(MFR)の下限値は、環状オレフィン系重合体(A)の加工性や製造の容易さ等の観点から、好ましくは5g/10分以上であり、より好ましくは8g/10分以上であり、さらに好ましくは10g/10分以上である。
また、環状オレフィン系重合体(A)のMFRの上限値は、光学部品の機械的強度をより良好にする観点から、好ましくは100g/10分以下であり、より好ましくは80g/10分以下であり、さらに好ましくは70g/10分以下であり、特に好ましくは60g/10分以下である。
環状オレフィン系重合体(A)のMFRは、後述する重合反応の際のエチレンフィード量に対する水素フィード量の比等を調整することにより、調整することができる。
【0051】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は120℃以上150℃以下の範囲にあることが好ましい。環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が上記範囲であると、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物をヘッドマウントディスプレイ等のウェアラブル端末向けのレンズや、車載カメラレンズ、携帯機器用カメラレンズ等の耐熱性が求められる光学部品として使用する際に、十分な耐熱性を得ることができるとともに、良好な成形性を得ることができる。
【0052】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、例えば、SIIナノテクノロジー社製RDC220を用いて窒素雰囲気下で常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で30℃まで降温した後に5分保持し、次いで10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際にガラス転移温度を測定することができる。
【0053】
(ペンタエリスリトール脂肪酸エステル)
本実施形態に係るペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、ペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステル化合物である。ここで、本実施形態に係るペンタエリスリトール脂肪酸エステルには、エステル化されていない未反応のペンタエリスリトール(すなわち、下記式(1)においてn=0である構造を有する化合物)が含まれていてもよい。ただし、本実施形態に係るペンタエリスリトール脂肪酸エステルは下記式(1)においてn=0である構造を有する化合物のみからなる態様は含まない。
本実施形態に係るペンタエリスリトール脂肪酸エステルとしては、例えば、下記式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0054】
【化13】
(ただし、上記式(1)中、Rは炭素原子数が11~21のアルキル基、nは0~4の実数を示す。)
以下、本実施形態に係るペンタエリスリトール脂肪酸エステルの好ましい態様について説明する。
【0055】
上記式(1)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルの組成が、式(a)および(b);
0.2質量%≦[A]≦2質量% (a)
60面積%≦A+A≦100面積% (b)
(ただし、式(a)中、[A]は、ガスクロマトグラフィー法において定量された、式(1)においてn=0である構造を有する化合物の、式(1)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステル中の含有量(質量%)を示す。なお、式(a)において、式(1)のn=0~4である構造を有する全ての化合物の合計質量を100質量%とする。
また、式(b)中、Aは、式(1)においてn=1である構造を有する化合物のGPC法におけるピーク面積%を示し、Aは、式(1)においてn=2である構造を有する化合物のGPC法におけるピーク面積%を示す。なお、式(b)において、式(1)のn=0~4である構造を有する化合物の各々のピーク面積の合計を100面積%とする。)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、上記式(a)および(b)の両方を満たすことがより好ましい。
【0056】
本実施形態に係るペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、上記式(1)においてn=0、1、2、3、または4である構造を有する化合物の混合物であってもよい。
【0057】
上記式(1)において、光学性能をより向上させ、さらに高温高湿時における光学性能の劣化をより抑制する観点から、Rは炭素原子数が12~20のアルキル基であることがより好ましく、炭素原子数が13~18のアルキル基であることがさらに好ましく、炭素原子数15~17のアルキル基であることが特に好ましい。
【0058】
(ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のペンタエリスリトール)
上記式(1)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、その組成において、式(a);
0.2質量%≦[A]≦2質量% (a)
(ただし、式(a)中、[A]は、ガスクロマトグラフィー法において定量された、式(1)においてn=0である構造を有する化合物(ペンタエリスリトール)の、式(1)で表されるペンタエリスリトール脂肪酸エステル中の含有量(質量%)を示す。なお、式(a)において、式(1)のn=0~4である構造を有する全ての化合物の合計質量を100質量%とする。)
を満たすことが好ましい。
【0059】
式(a)で表されるペンタエリスリトールの含有量は、式(a');
0.3質量%≦[A]≦1質量% (a')
(ただし、式(a')中、[A]は上記式(a)と同様である。)
を満たすことがより好ましい。
【0060】
ペンタエリスリトール脂肪酸エステルをろ過することによって、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のペンタエリスリトールの含有量を上記式(a)または式(a')の範囲に調整することができる。
【0061】
ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のペンタエリスリトールの含有量が上記下限値以上であると、本実施形態に係る光学部品の耐湿熱性をより良好にすることができ、高精度の光学部品として高温多湿下で用いた場合でも、分光光線透過率の変化や収差変化などの光学性能の劣化をより一層抑制することができる。
【0062】
また、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のペンタエリスリトールの含有量が上記上限値以下であると、押出機の付設したポリマーフィルターなどを使用して樹脂組成物を溶融濾過する際にもフィルターの詰まりが抑制され、生産性が向上する。さらに、光学部品中でペンタエリスリトールの相分離を抑えることができるため透明性・均質性により一層優れた光学部品を得ることができる。
つまり、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のペンタエリスリトールの含有量が上記式(a)または式(a')を満たすことにより、高温多湿下における分光光線透過率の
変化や収差変化などの光学性能の変化がより一層抑制できるとともに、光学部品の生産性や光学部品の透明性・均質性をより一層良好にすることができる。
【0063】
(ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のペンタエリスリトールの含有量の測定方法)
ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のペンタエリスリトールの含有量は、ペンタエリスリトール(和光純薬工業(株)製)などにより、検量線を作成し、ガスクロマトグラフィーにより定量する。
具体的には、例えば、次のような測定条件が例示できる。
測定機器:6890N(Agilent Technologies)
カラム:DB-1HT(J&W社製)
キャリヤーガス:He(コンスタントフローモード)
検出器:FID
より具体的には、本実施形態に係るペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のペンタエリスリトールの含有量は、特許第5778884号公報の段落0168~0170に記載の方法で測定することができる。
【0064】
(ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のモノエステルおよびジエステル)
本実施形態に係るペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、上記式(1)においてn=1であるペンタエリスリトールと脂肪酸のモノエステル(以下、単にモノエステルと表現する)および/または上記式(1)においてn=2であるペンタエリスリトールと脂肪酸のジエステル(以下、単にジエステルと表現する)を含むことが好ましい。
【0065】
ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のモノエステルおよびジエステルの含有量は、式(b);
60面積%≦A+A≦100面積% (b)
(式(b)中、Aは、式(1)においてn=1である構造を有する化合物のGPC法におけるピーク面積%を示し、Aは、式(1)においてn=2である構造を有する化合物のGPC法におけるピーク面積%を示す。なお、式(b)において、式(1)のn=0~4である構造を有する化合物の各々のピーク面積の合計を100面積%とする。)
を満たすことが好ましい。
【0066】
ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のモノエステルおよびジエステルの含有量は、式(b');
65面積%≦A+A≦100面積% (b')
(ただし、式中、A、Aは式(b)と同じ。)
の範囲にあることがより好ましい。
【0067】
ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のモノエステルおよびジエステルの含有量が上記下限値以上であると、本実施形態に係る光学部品の耐湿熱性能をより良好にすることができる。また、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のモノエステルおよびジエステルの含有量は製造の際の濾過性を考慮すれば、90面積%以下であることが好ましく、より好ましくは80面積%以下である。
つまり、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のモノエステルおよびジエステルの含有量が上記式(b)または(b')を満たすことにより、光学部品の耐湿熱性能により一
層優れるとともに、高温多湿下における光学部品の分光光線透過率の変化や収差変化などの光学性能の変化をより一層抑制することができる。
【0068】
ペンタエリスリトールと炭素原子数12~22の脂肪酸とのエステル化反応時の仕込み比や反応条件を調整することによって、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のモノエステルおよびジエステルの含有量を調整することが可能である。
【0069】
(モノエステルおよびジエステルの定量方法)
本実施形態に係るペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のモノエステルおよびジエステルの量比は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、以下の条件で分析チャートから計算することができる。
【0070】
測定機器は限定されるものではないが、例えば次の装置・条件を用いて測定することができる。
HLC-8220GPC(東ソー(株)製)、カラム:G2000HXL+G1000HXL(東ソー(株)製)、溶媒:THF、サンプル濃度:0.3%。検出器:RI
より具体的には、本実施形態に係るペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のモノエステルおよびジエステルの量比は、特許第5778884号公報の段落0171に記載の方法で測定することができる。
【0071】
(式(1)で示されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルの製造方法)
式(1)で示されるペンタエリスリトール脂肪酸エステルの製造方法は、例えば、以下の工程を含む。
工程(a):ペンタエリスリトール1モルに対し、炭素原子数12乃至22の脂肪酸を、例えば1.0モル以上1.7モル以下の量で反応させて、ペンタエリスリトールをエステル化する。
工程(b):工程(a)において得られたペンタエリスリトールのエステル化物を濾過する。
【0072】
まず、工程(a)においては、例えば、所定量のペンタエリスリトールと所定量の炭素原子数12~22の脂肪酸を窒素吹き込み下、220~240℃で脱水反応を行い、ペンタエリスリトールをエステル化する。炭素原子数12~22の脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、エルカ酸等が挙げられ、耐白化性や樹脂ヘの相溶性の面からパルミチン酸およびステアリン酸から選択される少なくとも一種の脂肪酸が好ましい。エステル化反応は、例えば、脱水反応系内の温度を220~240℃下、窒素吹き込み下で行う。脱水反応時の減圧は脂肪酸の系外への留出が起こり、仕込み比が変わるため好ましくない。
【0073】
脂肪酸の仕込みモル比は、ペンタエリスリトール1.0モルに対し、例えば1.0~1.7モル、好ましくは1.3~1.7モルである。
上記脂肪酸の仕込みモル比で、かつ、好ましくは220~240℃、より好ましくは230~240℃で反応させることにより、モノエステルおよびジエステルの含有量が上記式(b)を満たすペンタエリスリトール脂肪酸エステルを得ることができる。
【0074】
次いで、工程(b)において、工程(a)で得られたペンタエリスリトールのエステル化物を濾過する。
濾過は、得られたペンタエリスリトールのエステル化物を、好ましくは70~90℃、より好ましくは70~80℃の温度に調整し、該温度を保持しつつ、ラヂオライト(昭和化学工業株式会社製)などの濾過助剤を用い、好ましくは60kPa以下、より好ましくは40kPa以下の減圧濾過、又は、好ましくは100~600kPa、より好ましくは200~510kPaの加圧濾過の条件下において行うことができる。これにより、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル中のペンタエリスリトール含有量(質量%)を、上記式(a)を満たすように調整することができる。
【0075】
本実施形態に係る光学部品において、環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる環状オレフィン系重合体(A)を100質量部としたとき、環状オレフィン系樹脂組成物中のペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含有量の下限は、高温高湿条件下における光学性能の劣化を抑制する観点から、1.2質量部以上であり、1.4質量部以上であることが好ましい。
また、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含有量の上限は、成形時のペンタエリスリトール脂肪酸エステルのガス化量を抑制し、白濁の発生を抑制する観点から、2.0質量部未満であることが好ましく、1.9質量部以下であることがより好ましく、1.8質量部以下であることがさらに好ましい。
【0076】
(脂肪酸金属塩)
本実施形態に係る脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては炭素原子数12~22の脂肪酸が好ましく、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、エルカ酸等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態に係る脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、パルミチン酸およびステアリン酸から選択される少なくとも一種の脂肪酸が好ましい。
また、本実施形態に係る脂肪酸金属塩を構成する金属としては、例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アルミニウム等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態に係る脂肪酸金属塩を構成する金属としては、亜鉛が好ましい。
これらの中でも、本実施形態に係る脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム等のステアリン酸金属塩;およびパルミチン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸バリウム、パルミチン酸アルミニウム等のパルミチン酸金属塩から選択される少なくとも一種の脂肪酸金属塩が好ましく、パルミチン酸亜鉛およびステアリン酸亜鉛から選択される少なくとも一種の脂肪酸金属塩がより好ましく、ステアリン酸亜鉛が特に好ましい。
【0077】
本実施形態に係る光学部品において、環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる環状オレフィン系重合体(A)を100質量部としたとき、環状オレフィン系樹脂組成物中の脂肪酸金属塩の含有量は、金型の光学面に付着した汚れをより一層抑制する観点から、例えば0.005質量部以上0.05質量部以下であり、より好ましくは0.01質量部以上0.05質量部以下である。
【0078】
(その他の成分)
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物には、環状オレフィン系重合体(A)、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルおよび脂肪酸金属塩以外に、本実施形態に係る光学部品の良好な物性を損なわない範囲内で任意成分として公知の添加剤を含有させることができる。
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、二次抗酸化剤、滑剤、離型剤、防曇剤、耐候安定剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、金属不活性化剤等が挙げられる。
【0079】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン系重合体(A)、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルおよび脂肪酸金属塩を、押出機およびバンバリーミキサー等の公知の混練装置を用いて溶融混練する方法;環状オレフィン系重合体(A)、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルおよび脂肪酸金属塩を共通の溶媒に溶解した後、溶媒を蒸発させる方法;貧溶媒中に環状オレフィン系重合体(A)、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルおよび脂肪酸金属塩の溶液を加えて析出させる方法;等の方法により得ることができる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例
【0081】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何等制限されるものではない。
【0082】
[実施例1]
<樹脂組成物A1の調製>
(触媒の調製)
VO(OC)Clをシクロヘキサンで希釈し、バナジウム濃度が6.7ミリモル/L-シクロヘキサンであるバナジウム触媒を調製した。エチルアルミニウムセスキクロリド(Al(C1.5Cl1.5)をシクロヘキサンで希釈し、アルミニウム濃度が107ミリモル/L-ヘキサンである有機アルミニウム化合物触媒を調製した。
【0083】
(重合)
攪拌式重合器(内径500mm、反応容積100L)を用いて、連続的にエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合反応を行った。ここで、エチレンは水素ガスとともに重合器内に供給した。
この共重合反応を行う際には、上記方法によって調製されたバナジウム触媒を、重合溶媒として用いられた重合器内のシクロヘキサンに対するバナジウム触媒濃度が0.6ミリモル/Lになるような量で重合器内に供給した。
また、有機アルミニウム化合物触媒であるエチルアルミニウムセスキクロリドを、Al/V=18.0になるような量で重合器内に供給した。重合温度を8℃とし、重合圧力を1.8kg/cmGとして連続的に共重合反応を行った。
【0084】
(脱灰)
重合器より抜出したエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体溶液に対して、水およびpH調節剤として濃度が25質量%のNaOH溶液を添加し重合反応を停止させた。また、共重合体中に存在する触媒残渣をこの共重合体溶液中から除去(脱灰)した(ポリマー溶液A)。
上記脱灰処理を行った、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体のシクロヘキサン溶液(ポリマー溶液A、ポリマー濃度7.7質量%)を、ニッケル/珪藻土触媒(日揮化学製N112)で反応温度100℃、反応圧力1MPa、LHSV=5/hrの条件で連続的に水素添加することにより該共重合体を水素添加した。
次いで、得られた溶液に、安定剤としてペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を共重合体に対する添加量が共重合体100質量部に対して0.4質量部となるように添加し、さらにステアリン酸亜鉛を共重合体に対する添加量が共重合体100質量部に対して0.02質量部となるように添加した。次いで、フラッシュ乾燥工程に入る前に一旦、有効容積1.0mの攪拌槽を用いて1時間混合した。
【0085】
(脱溶媒)
熱源として20kg/cmGの水蒸気を用いた二重管式加熱器(外管径2B、内管径3/4B、長さ21m)に、シクロヘキサン溶液中の共重合体の濃度を5質量%とした上記共重合体のシクロヘキサン溶液を150kg/hrの量で供給して、180℃に加熱した。
次いで、熱源として25kg/cmGの水蒸気を用いた二重管式フラッシュ乾燥器(外管径2B、内管径3/4B、長さ27m)とフラッシュホッパー(容積200L)とを用いて、上記加熱工程を経た上記共重合体のシクロヘキサン溶液から重合溶媒であるシクロヘキサンとともに大半の未反応モノマーを除去することでフラッシュ乾燥された溶融状態のエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体を得た。
【0086】
(押出)
ベント付二軸混練押出機を用い、上記の溶融状態の樹脂Aを押出機の樹脂装入部より装入した。次いで、ベント部分より揮発物を除去する目的で、トラップを介し真空ポンプで吸引しつつ、ベント部よりも下流側のシリンダー部に、ペンタエリスリトールステアリン酸エステル(商品名:エキセパールPE-MS、花王株式会社製、モノエステルの含有量(A):21.1面積%、ジエステルの含有量(A):48.2面積%、A+A:69.3面積%、ペンタエリスリトールの含有量([A]):0.48質量%)をエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体100質量部に対して1.4質量部となるように添加し、押出機のベント部よりも下流側で混錬して混合した。このとき、押出機ダイバーター部樹脂温度の最大値と最小値の差が3℃以内になるように押出機条件を調整した。次いで、押出機出口に取り付けられたアンダーウォーターペレタイザーによりペレット化し、得られたペレットを温度100℃の熱風にて4時間乾燥した。さらに、鉄原子(Fe)の混入を抑えるため、ポリマー製造設備としてステンレス製の配管や重合装置を用い、さらに重合器内の平均滞留時間から計算される樹脂量の3~5倍程度の樹脂を洗浄(パージ)のために流し、その後サンプルを採取する操作を行うことによって樹脂組成物A1を得た。樹脂組成物A1のガラス転移温度(Tg)は132℃、MFRは12g/10分(260℃、2.16kg荷重)であった。
ここで、樹脂組成物A1のガラス転移温度(Tg)は、SIIナノテクノロジー社製RDC220を用いて、樹脂組成物A1を、窒素雰囲気下で常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で30℃まで降温した後に5分保持し、次いで10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際に測定した。
【0087】
[実施例2]
表1に記載のように、ペンタエリスリトールステアリン酸エステルをエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体100質量部に対して1.6質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物A2を調製した。
【0088】
[実施例3]
表1に記載のように、ペンタエリスリトールステアリン酸エステルをエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体100質量部に対して1.8質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物A3を調製した。
【0089】
[実施例4]
エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合反応時の、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの割合と、エチレンフィード量に対する水素フィード量の比を調整することにより、ガラス転移温度(Tg)が140℃、MFRが40g/10min(260℃、2.16kg荷重)になるよう調整した以外は、実施例1と同様にしてエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体を得た。
表1に記載のように、得られたエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体100質量部に対して、ペンタエリスリトールステアリン酸エステル1.8質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にしてガラス転移温度(Tg)が129℃、MFRが59g/10min(260℃、2.16kg荷重)である樹脂組成物A4を得た。
【0090】
[実施例5]
エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合反応時の、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの割合と、エチレンフィード量に対する水素フィード量の比を調整することにより、ガラス転移温度(Tg)が150℃、MFRが35g/10min(260℃、2.16kg荷重)になるよう調整した以外は、実施例1と同様にしてエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体を得た。
表1に記載のように、得られたエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体100質量部に対して、ペンタエリスリトールステアリン酸エステル1.9質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にしてガラス転移温度(Tg)が139℃、MFRが54g/10min(260℃、2.16kg荷重)である樹脂組成物A5を得た。
【0091】
[比較例1]
表1に記載のように、ペンタエリスリトールステアリン酸エステルをエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体100質量部に対して1.0質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物A6を調製した。
【0092】
[比較例2]
表1に記載のように、ペンタエリスリトールステアリン酸エステルをエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体100質量部に対して2.0質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物A7を調製した。
【0093】
[比較例3]
表1に記載のように、ステアリン酸亜鉛を添加しなかった以外は実施例2と同様にして樹脂組成物A8を調製した。
【0094】
[比較例4]
表1に記載のように、ペンタエリスリトールステアリン酸エステルの代わりにジグリセリンモノオレート(商品名:リケマールDO-100、理研ビタミン社製)をエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体100質量部に対して0.5質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物A9を調製した。
【0095】
実施例1~5および比較例1~4の樹脂組成物A1~A9から得られた光学部品について、以下の評価方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0096】
(光学部品の評価方法)
(1)ヘイズ
射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)を用いて、シリンダー温度275℃で実施例および比較例で得られた樹脂組成物A1~A9を射出成形し、外径30mmφ×厚み15mmtの光学面を持つテストピースをそれぞれ作製した。金型温度は120℃にそれぞれ設定した。光学部品の内部ヘイズはベンジルアルコールを使用し、JIS K-7105に基づいて測定した。
次いで、得られた光学部品の光学面を目視で観察し、光学面における白濁の有無をそれぞれ評価した。
○:光学面に白濁なし
×:光学面に白濁あり
【0097】
(2)環境試験
上記で得られた外径30mmφ×厚み15mmtの光学面を持つテストピースを温度60℃、相対湿度90%の雰囲気下に168時間放置した。その後、取り出し48時間後にヘイズを測定した。
次いで、光学部品の光学面を目視で観察し、光学面における白濁の有無をそれぞれ評価した。
○:光学面に白濁なし
×:光学面に白濁あり
【0098】
(3)屈折率
射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)を用いて、シリンダー温度275℃で実施例および比較例で得られた樹脂組成物A1~A9を射出成形し、35mm×65mm×厚み3mmtの光学面を持つテストピースをそれぞれ作製した。金型温度は120℃にそれぞれ設定した。
光学部品の屈折率は、屈折率計(島津サイエンス社製 KPR3000)を用いて、ASTM D542に準じて、25℃、波長589nmにおける屈折率(nd)を測定した。
【0099】
(4)複屈折
射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)を用いて、シリンダー温度275℃、金型温度120℃の条件で実施例および比較例で得られた樹脂組成物A1~A9を射出成形し、35mm×65mm×厚み3mmtの光学面を持つテストピースをそれぞれ作製した。位相差の測定は、王子計測機器製KOBRA CCDを用いて、測定波長650nmで、試験片中央部(ゲート方向をゲートから30~45mmの部位)の位相差の平均値を求めた。
次いで、以下の基準で複屈折をそれぞれ評価した。
◎:位相差の平均値が30nm未満
○:位相差の平均値が30nm以上40nm未満
×:位相差の平均値が40nm以上
【0100】
(5)金型汚れ
射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)を用いて、シリンダー温度275℃、金型温度120℃の条件で実施例および比較例で得られた樹脂組成物A1~A9を射出成形し、メニスカスレンズ(厚み2.7mm)を連続的に30ショット成形した。次いで、30ショット成形後の金型光学面の汚れを観察した。金型汚れは以下の基準で評価した。
○:金型の光学面に汚れが付着していない
×:金型の光学面に汚れが付着している
【0101】
【表1】
図1