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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20240704BHJP
【FI】
F04D19/04 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019195540
(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2021067253
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三輪田 透
(72)【発明者】
【氏名】高井 慶行
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/188732(WO,A1)
【文献】特開平11-280689(JP,A)
【文献】特開2018-096336(JP,A)
【文献】特開2002-180988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口を備えた外装体と、前記外装体の内部に立設したステータコラムと、前記ステータコラムの外周を囲む形状の回転体と、を備え、前記回転体の回転により前記吸気口からガスを吸気する真空ポンプにおいて、
前記外装体は、水冷管を内部に配設した水冷スペーサを含む複数の部品で構成され、
前記水冷スペーサは、機械的材料特性として5%以上の伸びを有するアルミニウム合金の鋳物材で構成され、
前記外装体の内部には、前記吸気口から吸気されたガスを加熱するためのヒータスペーサが配設され、
前記水冷スペーサは、前記外装体の軸方向における先端側に位置する第1フランジ部と、基端側に位置する第2フランジ部と、前記第1フランジ部および前記第2フランジ部を繋ぐ胴体部と、を有し、
前記胴体部には、前記ヒータスペーサに取り付けられるヒータを挿入するための孔が設けられ、
前記第1フランジ部および前記第2フランジ部の外径が前記胴体部の外径より大きいことにより、前記第1フランジ部および前記第2フランジ部の外周面と前記胴体部の外周面との間に段差が形成され、
前記胴体部は、前記孔に挿入された前記ヒータの電気配線を巻き付けて収納するための収納部として機能し、
前記段差の大きさは、前記ヒータの電気配線が、前記第1フランジ部及び前記第2フランジ部の外周面より径方向の外側にはみ出さない大きさである
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプにおいて、
前記外装体は、その軸方向において基端側に位置するベースと、先端側に位置するケースと、前記ベースおよび前記ケースの間に位置する前記水冷スペーサと、を含んで構成される
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の真空ポンプにおいて、
前記回転体には複数の動翼が多段に配設され、
前記ケース内には前記複数の動翼に対向するように複数の固定翼が多段に配設され、
前記水冷スペーサは、前記複数の固定翼の少なくとも1つと熱的に直接あるいは間接的に接触している
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の真空ポンプにおいて、
前記ヒータスペーサは、前記回転体と前記水冷スペーサとの間に位置している
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載の真空ポンプにおいて、
前記ヒータスペーサの内周面には真空圧が作用し、前記ヒータスペーサの外周面および前記水冷スペーサの内周面には大気圧が作用し、前記水冷スペーサの外周面には大気圧が作用する構成である
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項6】
請求項4または5に記載の真空ポンプにおいて、
前記水冷スペーサは、前記外装体の軸方向における基端側で、前記外装体の径方向の位置決めがなされ、
前記水冷スペーサと前記ヒータスペーサとの少なくとも先端側には前記外装体の径方向において隙間が形成される
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項7】
請求項6に記載の真空ポンプにおいて、
前記第2フランジ部により前記外装体の径方向の位置決めがなされ、
前記第1フランジ部に前記水冷管が埋設されている
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項8】
請求項1~3の何れか1項に記載の真空ポンプにおいて、
前記水冷スペーサの内周面には真空圧が作用し、前記水冷スペーサの外周面には大気圧が作用する構成である
ことを特徴とする真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、例えば特許文献1には、「吸気口を備えた外装体と、外装体の内部に立設したステータコラムと、ステータコラムの外周を囲む形状の回転体と、回転体を回転可能に支持する支持手段と、回転体を回転駆動する駆動手段と、を備え、回転体の回転により吸気口からガスを吸気する真空ポンプにおいて、ステータコラムは、機械的材料特性として5%以上の伸びを有するアルミニウム合金の鋳物材で構成される」ことが記載されている(要約参照)。
【0003】
この特許文献1によれば、ステータコラムを5%以上の伸びを有するアルミニウム合金の鋳物材で構成したので、万が一、回転体の破壊エネルギがステータコラムに作用した場合でも、ステータコラムの伸びによってそのような破壊エネルギを十分吸収することができ、破壊エネルギによるステータコラムの亀裂や、ステータコラムの破損による破片が吸気口から飛び出すなどの不具合を防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-96336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、真空ポンプには、その外装体の一部品である水冷スペーサによって内装部品を冷却する構成を採用している場合がある。また、そのような水冷スペーサには水冷管が内部に埋設されており、水冷管を流れる水によって真空ポンプの内装部品が冷却される構成となっている。この構成の場合、回転体の破壊エネルギによって生じた真空ポンプの内装部品の破片などが外装体よりも外へ飛び出すことは、まずは避けなければならない。また、この破片が外装体の一部品である水冷スペーサにも作用して、水冷管が破損する可能性もある。例えば、水冷管に亀裂が生じた場合は、真空ポンプが使われる半導体製造装置等を浸水させ、故障させる虞がある。よって、真空ポンプの外装体の一部品として水冷スペーサを用いる場合、この水冷スペーサには、より高い信頼性が求められる。しかしながら、特許文献1では、内装部品の破壊に起因する水冷スペーサの破損を防止する技術については何ら言及されておらず、改良の余地が残されている。
【0006】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、内装部品の破壊に起因する、外装体の一部品である水冷スペーサの破損を防止できる真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、吸気口を備えた外装体と、前記外装体の内部に立設したステータコラムと、前記ステータコラムの外周を囲む形状の回転体と、を備え、前記回転体の回転により前記吸気口からガスを吸気する真空ポンプにおいて、前記外装体は、水冷管を内部に配設した水冷スペーサを含む複数の部品で構成され、前記水冷スペーサは、機械的材料特性として5%以上の伸びを有するアルミニウム合金の鋳物材で構成され、前記外装体の内部には、前記吸気口から吸気されたガスを加熱するためのヒータスペーサが配設され、前記水冷スペーサは、前記外装体の軸方向における先端側に位置する第1フランジ部と、基端側に位置する第2フランジ部と、前記第1フランジ部および前記第2フランジ部を繋ぐ胴体部と、を有し、前記胴体部には、前記ヒータスペーサに取り付けられるヒータを挿入するための孔が設けられ、前記第1フランジ部および前記第2フランジ部の外径が前記胴体部の外径より大きいことにより、前記第1フランジ部および前記第2フランジ部の外周面と前記胴体部の外周面との間に段差が形成され、前記胴体部は、前記孔に挿入された前記ヒータの電気配線を巻き付けて収納するための収納部として機能し、前記段差の大きさは、前記ヒータの電気配線が、前記第1フランジ部及び前記第2フランジ部の外周面より径方向の外側にはみ出さない大きさであることを特徴とする。
【0008】
また、上記構成において、前記外装体は、その軸方向において基端側に位置するベースと、先端側に位置するケースと、前記ベースおよび前記ケースの間に位置する前記水冷スペーサと、を含んで構成されても良い。
【0009】
また、上記構成において、前記回転体には複数の動翼が多段に配設され、前記ケース内には前記複数の動翼に対向するように複数の固定翼が多段に配設され、前記水冷スペーサは、前記複数の固定翼の少なくとも1つと熱的に直接あるいは間接的に接触している構成としても良い。
【0010】
また、上記構成において、記ヒータスペーサは、前記回転体と前記水冷スペーサとの間に位置している構成としても良い。
【0011】
また、上記構成において、前記ヒータスペーサの内周面には真空圧が作用し、前記ヒータスペーサの外周面および前記水冷スペーサの内周面には大気圧が作用し、前記水冷スペーサの外周面には大気圧が作用する構成としても良い。
【0012】
また、上記構成において、前記水冷スペーサは、前記外装体の軸方向における基端側で、前記外装体の径方向の位置決めがなされ、前記水冷スペーサと前記ヒータスペーサとの少なくとも先端側には前記外装体の径方向において隙間が形成される構成としても良い。
【0013】
また、上記構成において、記第2フランジ部により前記外装体の径方向の位置決めがなされ、前記第1フランジ部に前記水冷管が埋設されている構成としても良い。
【0014】
また、上記構成において、前記水冷スペーサの内周面には真空圧が作用し、前記水冷スペーサの外周面には大気圧が作用する構成としても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、真空ポンプの内装部品の破壊に起因する水冷スペーサの破損を防止できる。なお、上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る真空ポンプの断面図である。
図2図1に示す水冷スペーサの平面図である。
図3図2のIII-III断面図である。
図4図1の要部拡大図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る真空ポンプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る真空ポンプの断面図である。図1に示すように、第1実施形態に係る真空ポンプP1は、ガス排気機構としてターボ分子ポンプ機構部Ptとネジ溝ポンプ機構部Psを備えた複合ポンプであって、例えば、半導体製造装置、フラット・パネル・ディスプレイ製造装置、ソーラー・パネル製造装置におけるプロセスチャンバやその他の密閉チャンバのガス排気手段等として利用される。なお、特に断らない限り、上下方向は図1に示す通りであり、下側が基端側、上側が先端側である。
【0020】
外装体1は、真空ポンプP1の外殻を形成するものであって、複数の部品で構成されている。具体的には、外装体1は、上ケース(ケース)10と、中間スペーサ30と、水冷スペーサ20と、断熱スペーサ31と、ベース部3Aと、を備える。外装体1は、ベース部3Aを底部とする略円筒形状から成り、その内部空間に後述する各種内装部品が設置される。これら各部品は同軸上に配置され、ボルト等の締結部材で一体に連結されている。
【0021】
各部品が基端側(下側)から先端側(上側)に向かって軸方向に積み重なることにより、真空ポンプP1の高さ寸法が定められる。そのため、例えば水冷スペーサ20は、真空ポンプP1の高さ方向の位置決め用の部品として機能する。なお、本実施形態において、ベース部3Aはステータコラム3と一体化されているが、ベース部3Aとステータコラム3とは別体でも良い。
【0022】
さらに、本実施形態では、中間スペーサ30および水冷スペーサ20の内側に、断熱スペーサ35およびヒータスペーサ15(後述)が設けられている。上ケース10と中間スペーサ30とはシールリング50によりシールされ、中間スペーサ30と断熱スペーサ35とはシールリング51によりシールされ、断熱スペーサ35とヒータスペーサ15とはシールリング52によりシールされ、ヒータスペーサ15と断熱スペーサ31とはシールリング53によりシールされ、断熱スペーサ31とベース部3Aとはシールリング54によりシールされている。シールリング50,51,52,53,54に関しては、一般的には、Oリングが用いられる。
【0023】
これにより、外装体1の内面、具体的には、上ケース10、中間スペーサ30、断熱スペーサ35、ヒータスペーサ15、断熱スペーサ31、およびベース部3Aのそれぞれの内周面には真空圧が作用し、ヒータスペーサ15の外周面および外装体1の外面には大気圧が作用する。なお、水冷スペーサ20はヒータスペーサ15の外側に配置されており、シールリング51,52,53によって真空圧が作用する空間と遮断されているため、水冷スペーサ20の内周面および外周面に作用する圧力は大気圧である。
【0024】
上ケース10の上端部側は吸気口1Aとして開口しており、また、ベース部3Aの上方には排気口2が設けられている。つまり、外装体1は吸気口1Aと排気口2を備えた構成になっている。図示は省略するが、吸気口1Aは例えば半導体製造装置のプロセスチャンバ等、高真空となる図示しない密閉チャンバに接続され、排気口2は図示しない補助ポンプに連通接続される。
【0025】
水冷スペーサ20は、詳細は後述するが、円筒状に形成されており、その内部に水冷管21が配設されている。水冷管21は、円周方向に沿って略一周配設されている。水冷スペーサ20は、機械的材料特性として5%以上の伸びを有するアルミニウム合金の鋳物材で構成されている。本実施形態では、アルミニウム合金鋳物の材料として、例えば、JIS AC4CH-T6を用いているが、5%以上の伸びを有するアルミニウム合金鋳物であれば何れの材料であっても良い。
【0026】
ここで、「伸び」とは、金属材料(本実施形態では、アルミニウム合金)の試験片を引っ張り試験機で引っ張った場合において、破断時における試験片の長さとその試験片の元の長さとの比をいう。具体的には、試験片の元の長さをL、破断時における試験片の長さをL+ΔLとした場合に、前記「伸び」とはΔL/Lを%で表した数値である。
【0027】
また、水冷管21は例えばステンレス製のチューブから成り、水冷スペーサ20に埋設されている。この水冷管21には真空ポンプP1の内装部品を冷却するために水が流れている。なお、水の代わりにクーラント等の各種冷却用の媒体が用いられて良い。即ち、水冷管21を流れる流体は水に限定されない。この水冷スペーサ20は、中間スペーサ30を介して内装部品である複数の固定翼7のうち少なくとも1つと熱的に接触しており、水冷管21を流れる水により、複数の固定翼7が冷却される。
【0028】
ここで、「熱的に接触」とは、熱交換可能に接続されていることと同義である。よって、固定翼7と水冷スペーサ20とは中間スペーサ30を介して熱交換可能に構成されているとも言える。勿論、中間スペーサ30を介することなく、固定翼7と水冷スペーサ20とが直接接触する構成としても良い。即ち、複数の固定翼7の少なくとも1つは、水冷スペーサ20と熱的に接触し、両者間で直接または間接的に熱交換がなされ、その結果、複数の固定翼7の少なくとも1つが水冷スペーサ20によって冷却される構成であれば良い。換言すれば、複数の固定翼7の少なくとも1つと水冷スペーサ20との間に断熱部材が介在しない構成にすれば良い。なお、符号49は水冷スペーサ20の温度を検出するための温度センサである。
【0029】
外装体1の内部にはステータコラム3が立設されている。特に、図1の真空ポンプP1において、ステータコラム3は外装体1内の中央部に位置しており、上述したように、ステータコラム3の下部に一体的に形成されたフランジ状のベース部3Aが外装体1の底部を構成している。
【0030】
ステータコラム3の外側には回転体4が設けられている。また、ステータコラム3の内側には、回転体4をその径方向および軸方向に支持する支持手段としての磁気軸受MBや回転体4を回転駆動する駆動手段としての駆動モータMTなどの各種電装部品が内蔵されている。なお、磁気軸受MBや駆動モータMTは公知であるため、その具体的な構成の詳細説明は省略する。
【0031】
回転体4は、ステータコラム3の外周を囲む形状になっている。回転体4は、直径の異なる2つの円筒体(ネジ溝ポンプ機構部Psを構成する第1の円筒体4Aと、ターボ分子ポンプ機構部Ptを構成する第2の円筒体4B)をその筒軸方向に連結部4Cで連結した構造、第2の円筒体4Bと後述する回転軸41とを締結するための締結部4Dを備えた構造、および、第2の円筒体4Bの外周面に後述する複数の動翼6を多段に配置した構造を採用している。勿論、回転体4はこれらの構造に限定されない。
【0032】
回転体4の内側には回転軸41が設けられており、回転軸41はステータコラム3の内側に位置し、かつ、締結部4Dを介して回転体4に一体に締結されている。そして、かかる回転軸41を磁気軸受MBで支持することにより、回転体4はその軸方向および径方向所定位置で、回転可能に支持される構造になっており、また、回転軸41を駆動モータMTで回転させることにより、回転体4はその回転中心(具体的には回転軸41中心)回りに回転駆動される構造になっている。これとは別の構造で回転体4を支持および回転駆動してもよい。
【0033】
真空ポンプP1は、回転体4の回転により吸気口1Aからガスを吸気し、吸気したガスを排気口2から外部へ排気する手段として、ガス流路R1、R2を備えている。ガス流路R1、R2全体のうち、前半の吸気側ガス流路R1(回転体4の連結部4Cより上流側)は、回転体4の外周面に設けた複数の動翼6と、上ケース10および断熱スペーサ35の内周面にスペーサ9を介して固定された複数の固定翼7とによって形成されている。また、後半の排気側ガス流路R2(回転体4の連結部4Cより下流側)は、回転体4の外周面(具体的には、第1の円筒体4Aの外周面)とこれに対向するネジ溝ポンプステータ8とによりネジ溝状の流路として形成されている。
【0034】
吸気側ガス流路R1の構成を更に詳細に説明すると、動翼6は、ポンプ軸心(例えば、回転体4の回転中心等)を中心として放射状に並んで複数配置されている。一方、固定翼7は、スペーサ9を介してポンプ径方向及びポンプ軸方向に位置決めされる形式で上ケース10および断熱スペーサ35の内周側に配置固定されるとともに、ポンプ軸心を中心として放射状に並んで複数配置されている。そして、放射状に配置された動翼6と固定翼7とがポンプ軸心方向(上下方向)に交互に多段に配置されることにより、吸気側ガス流路R1が形成されている。
【0035】
吸気側ガス流路R1では、駆動モータMTの起動により回転体4および複数の動翼6が一体に高速回転することにより、吸気口1Aから上ケース10内に向けて入射したガス分子に対して、動翼6が下向き方向の運動量を付与する。そして、このような下向き方向の運動量を持ったガス分子が固定翼7によって次段の動翼6側へ送り込まれる。以上のようなガス分子に対する運動量の付与とカス分子の送り込み動作とが繰り返し多段に行われることにより、吸気口1A側のガス分子は、吸気側ガス流路R1を通じて、排気側ガス流路R2の方向に順次移行するように排気される。
【0036】
次に、排気側ガス流路R2の構成を更に詳細に説明すると、ネジ溝ポンプステータ8は、回転体4の下流側外周面(具体的には、第1の円筒体4Aの外周面。以下も同様)を囲む環状の固定部材であって、かつ、その内周面側が所定隙間を隔てて回転体4の下流側外周面と対向するように配置されている。
【0037】
さらに、ネジ溝ポンプステータ8の内周部にはネジ溝8Aが形成されている。ネジ溝8Aは、その深さが下方に向けて小径化したテーパコーン形状に変化し、ネジ溝ポンプステータ8の上端から下端にかけて螺旋状に形成されている。
【0038】
そして、図1の真空ポンプP1では、回転体4の下流側外周面とネジ溝ポンプステータ8の内周部とが対向することで、ネジ溝状のガス流路として排気側ガス流路R2を形成している。これとは別の実施形態として、例えば、ネジ溝8Aを回転体4の下流側外周面に設けることにより、前記のような排気側ガス流路R2が形成される構成を採用することも可能である。
【0039】
排気側ガス流路R2では、駆動モータMTの起動により回転体4が回転すると、吸気側ガス流路R1からガスが流入し、ネジ溝8Aと回転体4の下流側外周面でのドラッグ効果により、その流入したガスを遷移流から粘性流に圧縮しながら移送する形式で排気する。
【0040】
ヒータスペーサ15は、軸方向において、断熱スペーサ31と断熱スペーサ35との間に位置しており、ネジ溝ポンプステータ8の外周面を覆うように設けられている。ヒータスペーサ15は、略円筒状に形成されており、例えば高温時でも耐力の低下が少なく、熱による変形が起こり難いステンレス材料から成る。ヒータスペーサ15には周方向に沿って複数の孔が設けられており、これらの孔に加熱源であるヒータ45が挿入されている。ヒータ45の熱により、ヒータスペーサ15を介してネジ溝ポンプステータ8が加熱され、排気側ガス流路R2を流れるガスが加熱される。これにより、排気側ガス流路R2を流れるガスの液化や固化を防止でき、排気側ガス流路R2(特にネジ溝8A)内にガス分子が堆積するのを防止できる。その結果、回転体4がガス分子により破損することも防止される。
【0041】
また、ヒータスペーサ15には、サポートリング5が配設されている。サポートリング5は、加熱されたガスが排気側ガス流路R2の出口から排気口2までの流路において、後述するように冷却され低温となっているステータコラム3やベース部3A(低温部)に触れ、ガスの温度が低下し液化や固化しない様に、ガスを低温部と隔離する役目を果たしている。
【0042】
また、図1に示すように、外装体1の下部には、ボトムプレート13が取り付けられており、メンテナンスの際には、ボトムプレート13を取り外すことにより、磁気軸受MBや駆動モータMTを取り出すことができる。なお、符号47,48は水冷管であり、これら水冷管47,48に流れる水等の冷却媒体により、ステータコラム3が冷却される。
【0043】
次に、水冷スペーサ20の形状について、図2および図3を用いて詳しく説明する。図2は水冷スペーサ20の平面図、図3図2のIII-III断面図、図4図1の要部拡大図である。図2に示すように、水冷スペーサ20の内部には、周方向に略一周するように水冷管21が埋設されており、水冷管21の両端部のうち一方に給水口62、他方に排水口63が設けられている。給水口62には継手42が、排水口63に継手43が設けられている。なお、水冷管21を複数回周回させるよう構成しても良い。
【0044】
図3に示すように、水冷スペーサ20は、上フランジ(第1フランジ部)22、胴体部24、および下フランジ(第2フランジ部)23を有しており、上フランジ22に水冷管21が埋設されている。胴体部24の外径は上フランジ22および下フランジ23の外径よりも小さい。そのため、上フランジ22および下フランジ23と、胴体部24との外径差により段差が形成されている。即ち、水冷スペーサ20は、胴体部24がくびれた断面コ字状に形成されている。
【0045】
この胴体部24には、ヒータ45を挿入するための孔26、排気口2を接続するための孔27が設けられており、ヒータ45の電気配線46(図1参照)は胴体部24に巻き付けられる。即ち、胴体部24は、電気配線46等を収納する収納部として機能する。胴体部24に電気配線46を巻き付けることで、電気配線46が上フランジ22および下フランジ23の外周面より外側にはみ出すことはない。
【0046】
また、胴体部24と上フランジ22との接続部にはコーナR部25が形成されている。これにより、胴体部24と上フランジ22との接続部に亀裂等が生じることが防止される。
【0047】
ここで、図4に示すように、水冷スペーサ20の下フランジ23は、断熱スペーサ31の段差部31Aと当接しており、この段差部31Aにより水冷スペーサ20の径方向の位置決めがなされている。これにより、水冷スペーサ20とヒータスペーサ15との間には、径方向において、例えば1mm程度の隙間CLが形成されている。この隙間CLは、低温である水冷スペーサ20と高温であるヒータスペーサ15間の熱の授受を抑制する為に設けられており、水冷スペーサ20の高さ方向(軸方向)の全体に亘って一様に形成されているが、少なくとも水冷管21が埋設された上フランジ22側(先端側)に形成されていれば良い。
【0048】
このように構成された第1実施形態に係る真空ポンプP1の作用効果について説明する。
【0049】
水冷スペーサ20を5%以上の伸びを有するアルミニウム合金の鋳物材で構成したので、万一、回転体4の破壊エネルギが水冷スペーサ20に作用した場合でも、水冷スペーサ20の伸びによってそのような破壊エネルギを十分吸収することができ、回転体4の破壊で生じた内装部品の破片(例えば、回転体4自身の断片、ステータコラム3の断片、または、駆動モータMT等の電装部品とステータコラム3の断片とを含む塊など)が外部に飛び出すことを防止できる。また、水冷スペーサ20をアルミニウム合金の鋳物材で製造しているため、水冷スペーサ20の製造コストを抑えることができる。しかも、水冷スペーサ20の内周面と外周面とに作用する圧力が大気圧であるため、水冷スペーサ20を耐圧部材で構成する必要がない。そのため、水冷スペーサ20のコストをより一層低減できる。
【0050】
さらに、ヒータスペーサ15と水冷スペーサ20との間に隙間CLが形成されているため、内装部品の破損による衝撃がヒータスペーサ15に伝達されても、その衝撃が当該隙間CLにより吸収される。よって、水冷スペーサ20に衝撃が伝達され難くなり、水冷管21の亀裂や破損も防止できる。
【0051】
ここで、水冷スペーサ20の下フランジ23と断熱スペーサ31の段差部31Aとが当接しているため、断熱スペーサ31を介して、内装部品の破損による衝撃が下フランジ23に伝達される可能性がある。この場合であっても、水冷管21は上フランジ22に埋設されており、衝撃が作用する下フランジ23と離れていることから、水冷管21への衝撃は緩和される。その結果、水冷管21へのダメージを低減させることが可能となる。
【0052】
以上のように、第1実施形態によれば、信頼性の高い真空ポンプP1を得ることができる。
【0053】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態に係る真空ポンプの断面図である。第2実施形態に係る真空ポンプP2は、第1実施形態に係る真空ポンプP1と比べて、主にヒータ45およびヒータスペーサ15を備えていない点で相違する。そこで、以下、これらの相違点を中心に説明し、第1実施形態と同一の構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0054】
図5に示すように、第2実施形態に係る真空ポンプP2の外装体101は、上ケース10と、水冷スペーサ120と、ベース部102と、を備える。外装体101は、ベース部102を底部とする略円筒形状から成り、その内部空間に後述する各種内装部品が設置される。これら各部品は同軸上に配置され、ボルト等の締結部材で一体に連結されている。
【0055】
さらに、本実施形態では、上ケース10と水冷スペーサ120とはシールリング50によりシールされ、水冷スペーサ120とベース部102とはシールリング54によりシールされている。
【0056】
これにより、外装体101の内面、具体的には、上ケース10、水冷スペーサ120、およびベース部102のそれぞれの内周面には真空圧が作用し、外装体1の外面には大気圧が作用する。よって、第2実施形態では、水冷スペーサ120の内周面と外周面とでは作用する圧力の大きさが異なる。そのため、水冷スペーサ120は真空圧を考慮した設計が必要となり、水冷スペーサ120の材料は、5%以上の伸びを有するアルミニウム合金の鋳物材であって、この設計条件を満たす材料が用いられる。
【0057】
なお、第2実施形態において、ステータコラム103はベース部102と別体で構成されており、ステータコラム103はベース部102に載置されている。
【0058】
第2実施形態に係る真空ポンプP2によれば、水冷スペーサ120を5%以上の伸びを有するアルミニウム合金の鋳物材で製造しているので、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。特に、第2実施形態に係る真空ポンプP2は、ヒータスペーサ15が不要なため、第1実施形態に係る真空ポンプP2と比べて部品点数を低減でき、低コスト化を実現できる。よって、第2実施形態に係る真空ポンプP2は、排気側ガス流路R2を流れるガスの液化や固化の心配がない環境下に好適である。
【0059】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1,101 外装体
1A 吸気口
2 排気口
3,103 ステータコラム
3A,102 ベース部(ベース)
4 回転体
6 動翼
7 固定翼
8 ネジ溝ポンプステータ
8A ネジ溝
10 上ケース(ケース)
15 ヒータスペーサ
20,120 水冷スペーサ
21 水冷管
22 上フランジ(第1フランジ部)
23 下フランジ(第2フランジ部)
24 胴体部
25 コーナR部
30 中間スペーサ
31 断熱スペーサ
31A 段差部
35 断熱スペーサ
42,43 継手
45 ヒータ
46 電気配線
50,51,52,53,54 シールリング
62 給水口
63 排水口
CL 隙間
MB 磁気軸受
MT 駆動モータ
P1,P2 真空ポンプ
Pt ターボ分子ポンプ機構部
Ps ネジ溝ポンプ機構部
R1,R2 ガス流路
図1
図2
図3
図4
図5