(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】制御パラメータ最適化装置、プラント及び制御パラメータ最適化方法
(51)【国際特許分類】
G05B 13/02 20060101AFI20240704BHJP
【FI】
G05B13/02 A
(21)【出願番号】P 2020033020
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長濱 義人
(72)【発明者】
【氏名】広江 隆治
(72)【発明者】
【氏名】井手 和成
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 遼
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛志
(72)【発明者】
【氏名】手塚 宣和
(72)【発明者】
【氏名】奥田 幸人
(72)【発明者】
【氏名】大崎 展弘
(72)【発明者】
【氏名】望月 翔太
(72)【発明者】
【氏名】細見 昌一郎
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-016353(JP,A)
【文献】特開2012-128492(JP,A)
【文献】特開2015-075406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械を備えるプラントを制御するための制御装置の制御パラメータを最適化するための制御パラメータ最適化装置であって、
前記制御装置を含めた前記プラント全体の動作を模擬し、前記制御装置による制御指令値および前記プラントのプロセス量を計算するように構成されたプラントモデルと、
前記プラントモデルにおける前記プロセス量の計算結果に基づいて算出される目的関数に基づいて、前記プラントモデルにおける前記制御指令値の計算に使用する前記制御パラメータを更新するように構成された制御パラメータ更新部と、
前記プラントモデルからの前記プロセス量に基づいて前記回転機械内の静止部材と回転部材との間のクリアランスを算出する構造モデルと、
を備え、
前記制御パラメータ更新部は、前記構造モデルにより算出された前記クリアランスが制約条件を満たす範囲内で最適な前記制御パラメータを探索するように構成された
制御パラメータ最適化装置。
【請求項2】
前記構造モデルは、前記回転機械の入口又は出口における作動流体の状態を示す前記プロセス量を前記プラントモデルから取得し、前記プロセス量を前記クリアランスの算出に用いるように構成された
請求項1に記載の制御パラメータ最適化装置。
【請求項3】
前記構造モデルは、前記回転機械の温度分布または形状の変位分布を計算するためのモデルである
請求項1又は2に記載の制御パラメータ最適化装置。
【請求項4】
前記構造モデルは、さらに、寿命消費量と熱応力とのうち、少なくとも一方を算出するように構成される
請求項3に記載の制御パラメータ最適化装置。
【請求項5】
前記目的関数は、燃料消費量、起動時間、停止時間、及び寿命消費量のうち、いずれか一つ以上の指標を示す関数である
請求項1乃至4の何れか一項に記載の制御パラメータ最適化装置。
【請求項6】
通信部を備え、該通信部を介して、前記プラントに関する情報を共有するためのサーバ装置から、前記プラントのモデルパラメータに関連する情報を取得するように構成された
請求項1乃至5の何れか一項に記載の制御パラメータ最適化装置。
【請求項7】
回転機械と、
前記回転機械を制御するための制御装置と、を備えるプラントであって、
前記制御装置は、請求項1乃至6の何れか一項に記載の制御パラメータ最適化装置によって最適化された制御パラメータに基づいて運転を制御するように構成された
プラント。
【請求項8】
回転機械と、
請求項1乃至6の何れか一項に記載の制御パラメータ最適化装置と、
前記制御パラメータ最適化装置によって最適化された制御パラメータに基づいて運転を制御するように構成された制御装置と、
を備えるプラント。
【請求項9】
回転機械を備えるプラントを制御するための制御装置の制御パラメータを最適化するための制御パラメータ最適化方法であって、
前記制御装置を含めた前記プラント全体の動作を模擬するプラントモデルを使用して、前記制御装置による制御指令値および前記プラントのプロセス量を計算するステップと、
前記プラントモデルにおける前記プロセス量の計算結果に基づいて算出される目的関数に基づいて、前記プラントモデルにおける前記制御指令値の計算に使用する前記制御パラメータを更新するステップと、
前記プラントモデルからの前記プロセス量に基づいて前記回転機械内の静止部材と回転部材との間のクリアランスを算出するステップと、
を含み、
算出される前記クリアランスが制約条件を満たす範囲内で最適な前記制御パラメータを探索する
制御パラメータ最適化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御パラメータ最適化装置、プラント及び制御パラメータ最適化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーの普及により、プラントの起動停止の回数が増加している。そこで、このような場合にプラントの運転制御を最適化することが求められている。最適な運転制御では、例えば、プラントの起動時間及び停止時間の短縮化と燃料消費量の低減が要求される。なお、プラントの起動時間の短縮化は、燃料消費量の低減にも寄与する点で重要である。
【0003】
特許文献1には、プラントを運転制御するための制御装置の制御パラメータを最適化するように構成された運転制御最適化装置が開示されている。この装置は、プラントモデルに制御パラメータの値を入力して、起動時間、寿命消費量、燃料コストなどの目的関数を計算させ、その目的関数の計算値と目標値との差が小さくなるように制御パラメータの調整を行うことによって制御パラメータの最適化を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プラントの起動時間や停止時間を短縮化する場合、急な温度変化が生じるため、プラントを構成する機器(例えば蒸気タービン)に熱応力が発生する。この熱応力は、起動時間や停止時間の短縮化を制限する要因になり得る。そのため、熱応力の予測値、あるいは熱応力に影響する作動流体の温度及び圧力の計測値に基づいて、プラントを運転制御するための最適な制御パラメータ(特に、発電量の時間的推移又は主蒸気弁の弁開度の時間的推移を示す起動カーブ又は停止カーブに関連するパラメータ)を設定する場合がある。
【0006】
しかし、このような設定においても、回転機械の熱的な変形が考慮されていない。回転機械の回転部材と静止部材は、不均一な熱伝導及び熱伝達により、不均一に温度変化する。かかる温度変化による熱的な変形によって、回転機械の回転部材と静止部材との間のクリアランスが減少すると、両者の接触による部品の損傷、部品の摩耗(経年劣化)、軸振動等が発生する虞がある。すなわち、プラントの損傷リスクが高くなってしまう。
【0007】
したがって、回転機械の回転部材と静止部材との間のクリアランスを十分に確保することは、熱応力と同様に起動時間や停止時間の短縮化を制限する要因となり得る。この点、特許文献1には、回転機械内の静止部材と回転部材との間のクリアランスを確保するように制御パラメータを探索する構成が記載されていない。
【0008】
上述の事情に鑑みて、本開示は、回転機械内の静止部材と回転部材との間のクリアランスが制約条件を満たす範囲内で最適な制御パラメータを探索することが可能な制御パラメータ最適化装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る制御パラメータ最適化装置は、
回転機械を備えるプラントを制御するための制御装置の制御パラメータを最適化するための制御パラメータ最適化装置であって、
前記制御装置を含めた前記プラント全体の動作を模擬し、前記制御装置による制御指令値および前記プラントのプロセス量を計算するように構成されたプラントモデルと、
前記プラントモデルにおける前記プロセス量の計算結果に基づいて算出される目的関数に基づいて、前記プラントモデルにおける前記制御指令値の計算に使用する前記制御パラメータを更新するように構成された制御パラメータ更新部と、
前記プラントモデルからの前記プロセス量に基づいて前記回転機械内の静止部材と回転部材との間のクリアランスを算出する構造モデルと、
を備え、
前記制御パラメータ更新部は、前記構造モデルにより算出された前記クリアランスが制約条件を満たす範囲内で最適な前記制御パラメータを探索するように構成される。
【0010】
本開示に係るプラントは、
回転機械と、
上記の制御パラメータ最適化装置と、
前記制御パラメータ最適化装置によって最適化された制御パラメータに基づいて運転を制御するように構成された制御装置と、
を備える。
【0011】
本開示に係る制御パラメータ最適化方法は、
回転機械を備えるプラントを制御するための制御装置の制御パラメータを最適化するための制御パラメータ最適化方法であって、
前記制御装置を含めた前記プラント全体の動作を模擬するプラントモデルを使用して、前記制御装置による制御指令値および前記プラントのプロセス量を計算するステップと、
前記プラントモデルにおける前記プロセス量の計算結果に基づいて算出される目的関数に基づいて、前記プラントモデルにおける前記制御指令値の計算に使用する前記制御パラメータを更新するステップと、
前記プラントモデルからの前記プロセス量に基づいて前記回転機械内の静止部材と回転部材との間のクリアランスを算出するステップと、
を含み、
算出される前記クリアランスが制約条件を満たす範囲内で最適な前記制御パラメータを探索する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、回転機械内の静止部材と回転部材との間のクリアランスが制約条件を満たす範囲内で最適な制御パラメータを探索することが可能な制御パラメータ最適化装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係るプラントの構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】一実施形態に係るプラントの構成を概略的に示すブロック図である。
【
図3】一実施形態に係る制御パラメータ最適化装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【
図4】一実施形態に係る制御パラメータ最適化装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図5】一実施形態に係る制御パラメータ最適化装置による最適化の一例を説明するためのグラフである。
【
図6】一実施形態に係る制御パラメータ最適化装置による最適化の一例を説明するためのグラフである。
【
図7】一実施形態に係る制御パラメータ最適化装置による最適化の一例を説明するためのグラフである。
【
図8】一実施形態に係る制御パラメータ最適化装置による最適化の一例を説明するためのグラフである。
【
図9】一実施形態に係る制御パラメータ最適化方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0015】
(プラントの構成)
以下、
図1を参照しながら、本開示の一実施形態に係るプラント400の構成について説明する。
図1は、一実施形態に係るプラント400の構成を概略的に示すブロック図である。
図2は、一実施形態に係るプラント400の構成を概略的に示すブロック図である。
【0016】
例えば、
図1に示すように、プラント400は、回転機械300と、制御パラメータ最適化装置100と、設定された制御パラメータに基づいて運転を制御するように構成された制御装置200と、を備える。制御装置200に設定される制御パラメータは、制御パラメータ最適化装置100によって最適化される。制御装置200は、プラント400を構成する各種機器(回転機械300を含む)を制御するように構成される。なお、制御パラメータ最適化装置100は、制御装置200に組み込まれ、制御装置200と一体化されてもよい。
【0017】
或る実施形態では、制御パラメータ最適化装置100は、制御装置200と一体化されず、別体とされている。また、或る実施形態では、制御パラメータ最適化装置100は、プラント400から離れた場所に置かれていてもよい。その場合、制御パラメータ最適化装置100は、プラント400の制御装置200とオンラインで接続され、制御パラメータ最適化装置100の出力は、制御装置200に、ネットワークを介して送信される。
【0018】
また、或る実施形態では、例えば、
図2に示すように、制御パラメータ最適化装置100とプラント400の間はオフラインとされている。その場合、制御パラメータ最適化装置100の出力は、USBメモリなど記憶媒体に格納され、又は、印刷されて報告書(紙媒体)に纏められ、かかる記憶媒体又は紙媒体が、プラント400側に渡される。なお、
図2の点線矢印は、データの移動でもよいし、人の手動入力でもよいことを意味する。すなわち、制御パラメータ最適化装置100は、独立した装置として使用することも可能であり、最適化制御パラメータの出力結果を作業者が制御装置200に設定してもよい。
【0019】
回転機械300は、作動流体(蒸気、燃焼ガスなど)によって回転する機械であり、例えば、ガスタービン、蒸気タービン等である。圧縮機は作動流体によって回転するものではないため、ここでいう回転機械300から除かれる。なお、プラント400は、ガスタービン・コンバインドサイクル発電プラント(GTCC)であってもよく、二以上の回転機械300を備えていてもよい。
【0020】
(制御パラメータ最適化装置の機能的な構成)
図3は、一実施形態に係る制御パラメータ最適化装置100の機能的な構成を示すブロック図である。
図4は、一実施形態に係る制御パラメータ最適化装置100の構成を概略的に示すブロック図である。
【0021】
まず、
図3を参照しながら、制御パラメータ最適化装置100の機能的な構成を説明する。制御パラメータ最適化装置100は、目的関数設定部1と、制御パラメータ最適化部2と、プラントモデル3と、制御パラメータ設定部4と、物理パラメータ設定部5と、設計パラメータ設定部6と、構造モデル11と、構造パラメータ設定部12と、初期状態量設定部13と、を備える。
【0022】
目的関数設定部1は、オペレータによって入力された目的関数を制御パラメータ最適化部2に設定する。ここでいう目的関数とは、プラント400の運転制御における改善項目(起動時間、停止時間、負荷変化率、機器の寿命消費量、燃料コスト、発電効率等)であり、プラント400のプロセス量の関数で定義される。なお、目的関数設定部1に入力される目的関数は、1つでも複数でもよい。また、目的関数設定部1に目的関数を入力する方法としては、制御パラメータ最適化装置100の記憶部120(
図4参照)に予め目的関数のリストを記憶しておき、このリストの中から最適化したい目的関数をオペレータに選択させる方法を用いてもよい。
【0023】
制御パラメータ最適化部2は、プラント400の制御パラメータのうち、目的関数に基づく最適化に用いる制御パラメータを選定する制御パラメータ選定部7と、制御パラメータ選定部7によって選定された制御パラメータの値を調整する制御パラメータ更新部8とを含む。
【0024】
プラントモデル3は、制御装置200を含めたプラント400全体の動作を模擬し、制御装置200による制御指令値およびプラント400のプロセス量を計算するように構成されたモデルである。プラントモデル3は、制御装置200の動作を模擬する制御モデル9と、制御装置200によって制御されるプラント400の各種機器(例えば、回転機械300)の動作を模擬する物理モデル10とを含む。なお、各々のモデルの詳細については後述する。
【0025】
構造モデル11は、回転機械300の温度分布または形状の変位分布を計算するためのモデルであり、プラントモデル3の物理モデル10が算出したプロセス量に基づいて回転機械300内の静止部材と回転部材との間のクリアランスを算出するように構成される。構造モデル11は、軸方向のクリアランスと径方向のクリアランスのそれぞれについて算出するように構成されてもよい。構造モデル11は、例えば、回転機械300の入口又は出口における作動流体の状態を示すプロセス量をプラントモデル3から取得し、そのプロセス量を用いてクリアランスの算出を行うように構成される。
【0026】
或る実施形態では、構造モデル11は、さらに、機器の寿命消費量と、機器に発生する熱応力とのうち少なくとも一方の算出を行うように構成される。
【0027】
構造モデル11は、例えば、FEM(Finite Element Method)によって構造解析を行うモデルであってもよい。なお、プラントモデル3と構造モデル11は、基本モデルファイルとモデル定数の組み合わせによって定義されてもよい。この場合、モデルの基本構成が変化する場合にも同じアーキテクチャを使用できる点で有利である。例えば、回転機械300や系統構成の変更に対して柔軟に対応することができる。
【0028】
制御パラメータ選定部7は、オペレータによって手動入力され、又は外部装置から取得した制御ロジック情報に基づき、目的関数と関連を有する制御パラメータ(以下適宜「関連制御パラメータ」という。)を抽出する。制御パラメータ選定部7は、関連制御パラメータの中から目的関数に対して高い感度を有するものを最適化する制御パラメータとして選定し、制御パラメータ更新部8に出力しても良い。なお、最適化の計算において構造モデル11によって算出されるクリアランスが制約条件を満たさない場合に、制御パラメータ選定部7は、クリアランスに影響する制御パラメータを選定し、制御パラメータ更新部8に出力してもよい。
【0029】
目的関数に対する関連制御パラメータの感度は、プラントモデル3を用いた感度解析によって得られる。制御パラメータ選定部7は、抽出した関連制御パラメータの中から、目的関数に対して高い感度を有する1つ又は複数の関連制御パラメータを最適化する制御パラメータとして選定する。関連制御パラメータの目的関数に対する感度は、例えば、関連制御パラメータの変化量に対する目的関数の変化量の比で定義され、関連制御パラメータごとに値を変化させてプラントモデル3に入力し、プラントモデル3に目的関数を計算させることにより得られる。
【0030】
なお、制御パラメータ選定部7は、最適化する制御パラメータとして選定された関連制御パラメータを表示装置(不図示)に表示させ、オペレータに確認させるように構成されてもよい。また、制御パラメータ選定部7は、感度の高い順に複数の関連制御パラメータを表示装置(不図示)に表示させ、その中から最適化する制御パラメータをオペレータに選択させるように構成されてもよい。
【0031】
制御パラメータ更新部8は、目的関数設定部1によって設定された目的関数が最適化されるように、制御パラメータ選定部7によって選定された制御パラメータの値を調整し、調整後の最適化制御パラメータを制御装置200に出力する。この際、制御パラメータ更新部8は、最適化された目的関数(最適解)を表示装置(不図示)に出力してもよい。以下、制御パラメータ更新部8による制御パラメータの値の調整手順の一例を説明する。
【0032】
制御パラメータ更新部8は、まず、制御パラメータ選定部7によって選定された制御パラメータに目的関数の計算に使用する値として所定の値を設定し、プラントモデル3に入力する。プラントモデル3は、制御パラメータ更新部8から入力された制御パラメータの値に基づいて目的関数を計算し、計算結果を制御パラメータ更新部8に出力する。
【0033】
制御パラメータ更新部8は、プラントモデル3から出力された目的関数の計算値が改善する(例えば、目的関数が起動時間であれば、小さくなる)ように、制御パラメータの値を調整する。具体的には、制御パラメータ更新部8は、プラントモデル3におけるプロセス量の計算結果(後述する物理モデル10の出力)に基づいて算出される目的関数に基づいて、プラントモデル3における制御指令値(後述する制御モデル9の出力)の計算に使用する制御パラメータの値を更新する。制御パラメータ更新部8は、更新後の制御パラメータの値を再びプラントモデル3に入力し、プラントモデル3に目的関数を計算させる。
【0034】
なお、制御パラメータ更新部8は、制御パラメータの更新において、構造モデル11によって算出されたクリアランスが制約条件を満たす範囲内で最適な制御パラメータを探索する。また、制御パラメータ更新部8は、運転制限値の範囲内で制御パラメータの更新を行う。運転制限値とは、熱応力やクリアランスの制限値ではない制限値であり、例えば、プラントのプロセス量(構成機器の寿命消費量や温度、圧力、負荷変化率など)の制限値(上限値又は下限値)である。運転制限値は、弁の最大開度上昇率やガスタービンの負荷上昇率などの制限値を含んでいてもよい。制御パラメータ更新部8は、プラント特性情報とプラント設計情報とに基づいて、運転制限値を計算するように構成されてもよい。
【0035】
制御パラメータ更新部8は、以上の調整手順を1回又は複数回繰り返して実行することにより、制御パラメータの値を調整する。ここで、制御パラメータの値の調整には、多目的進化的アルゴリズムや逐次2次計画法などの既存の最適化アルゴリズムを適用することができる。
【0036】
なお、プラント400の制御装置200において、制御パラメータが一定値でなく、例えばプラント400のプロセス量の関数で定義される場合は、予め設定された数点のプロセス量ごとに上述した調整手順を実行して制御パラメータの値を求め、これらの値を補完する関数を制御パラメータとしてもよい。すなわち、目的関数の計算に使用する制御パラメータは、制御パラメータの値に限られない。制御パラメータ更新部8は、制御パラメータの値の調整と更新を行う構成に限られず、制御パラメータの調整又は更新を行う構成として広義に解釈される。
【0037】
制御パラメータ設定部4は、オペレータによって手動入力され、又は外部システムから自動入力されたプラントの制御パラメータ情報から、プラントモデル3内の制御モデル9(後述)を構築するために必要な制御パラメータを抽出し、制御モデル9に設定する。ここでいう制御パラメータ情報とは、プラント400の被制御量に対する制御設定値や制御ゲインの項目、値、上限値又は下限値など、制御装置200が記憶している制御パラメータに関する情報である。なお、変形例として、制御パラメータ設定部4には、制御パラメータ情報に代えて、プラント400の制御ロジック情報を入力してもよい。この場合、制御パラメータ設定部4は、入力された制御ロジック情報から信号線、状態シンボル、数値等の情報をパターン認識し、制御ロジック中で数値を与えられている項目、つまり制御パラメータとその値、すなわち制御パラメータ情報を抽出する必要がある。
【0038】
物理パラメータ設定部5は、オペレータによって手動入力され、又は外部装置から自動入力されたプラント特性情報から、プラントモデル3内の物理モデル10(後述)を構築するために必要な物理パラメータを抽出し、物理モデル10に設定する。ここでいうプラント特性情報とは、ガスタービンやボイラ等の熱源負荷に応じて発生する蒸気の温度、流量、圧力、熱応力などのプラント400固有の熱平衡についての情報である。なお、変形例として、物理パラメータ設定部5には、プラント特性情報に代えて、プラント400の運転データ(計測項目とその値など)を入力してもよい。この場合、物理パラメータ設定部5は、入力された運転データ(例えば熱源負荷に対応する蒸気の温度、流量、圧力など)を参照し、物理モデル10を構築するために必要な物理パラメータの値を抽出する必要がある。
【0039】
設計パラメータ設定部6は、オペレータによって手動入力され、又は外部装置から自動入力されたプラント設計情報から、プラントモデル3内の物理モデル10を構築するために必要な設計パラメータを抽出し、プラントモデル3内の物理モデル10(後述)に設定する。ここでいうプラント設計情報とは、プラント400の機器容積、配管長、材質などのプラント400固有の設計情報である。
【0040】
構造パラメータ設定部12は、オペレータによって手動入力され、又は外部装置から自動入力された機器設計情報から、構造モデル11のクリアランスの算出に必要な構造パラメータを抽出し、構造モデル11に設定する。ここでいう機器設計情報とは、回転機械300の回転部材と静止部材の熱膨張率、熱伝達率、寸法などの回転機械300固有の設計情報である。構造パラメータは、圧力・温度などのプロセス量に対して熱伝達率、熱伝達係数をどう設定するかの条件情報である。この熱伝達率は、作動流体と静止部材又は回転部材との熱交換における熱伝達率であり、部材間の熱伝達率ではない。構造モデル11が完成した状態で読み出される場合、制御パラメータ最適化装置100の構成において構造パラメータ設定部12が省略されてもよい。
【0041】
ここで、制御パラメータ設定部4、物理パラメータ設定部5、設計パラメータ設定部6、又は構造パラメータ設定部12によって抽出された各モデルパラメータの名称が、プラントモデル3や構造モデル11に登録されている各モデルパラメータの名称と一致しない場合には、制御パラメータ最適化装置100は、名称が類似するモデルパラメータ同士を対応付けて表示装置に表示させ、オペレータがその対応の適否を確認できるように構成されてもよい。なお、ここでいうモデルパラメータとは、制御パラメータ設定部4、物理パラメータ設定部5、設計パラメータ設定部6、及び構造パラメータ設定部12によって設定されるパラメータの総称である。
【0042】
制御モデル9は、プラント400のプロセス量を制御指令値に変換するテーブル関数、プロセス量と予め設定された閾値との大小関係に応じてパルス信号を生成する関数、又はこれらの組み合わせによって構築され、物理モデル10から入力されたプラント400のプロセス量の計算値に基づいて制御指令値を計算し、物理モデル10に出力する。また、制御モデル9は、物理モデル10から入力されたプラント400のプロセス量に基づいて目的関数を計算し、制御パラメータ選定部7と制御パラメータ更新部8とに出力する。
【0043】
ここで、プラントモデル3は、複数の異なる制御方式のそれぞれに対応した複数の制御モデル9を制御モデルライブラリとして備え、制御対象のプラント400の制御方式に応じて制御モデル9を選択してもよい。これにより、制御パラメータ最適化装置100を異なる制御方式のプラント400にも適用することが可能となる。
【0044】
物理モデル10は、制御モデル9から入力された制御指令値に基づいてプラント400のプロセス量を計算し、制御モデル9に出力する。具体的には、入力された制御指令値から燃料及び蒸気の流量並びに各流量に対応する弁開度を決定し、各流量下でのガス及び蒸気の物質収支及び熱収支から、それぞれの温度・圧力・流量を計算する。
【0045】
ここで、プラントモデル3は、複数の異なる機器構成又は複数の異なる型式のプラント400のそれぞれに対応した複数の物理モデル10を物理モデルライブラリとして備え、制御対象のプラント400の機器構成又は型式に対応した物理モデル10を選択してもよい。これにより、制御パラメータ最適化装置100を異なる機器構成又は型式のプラント400にも適用することが可能となる。
【0046】
初期状態量設定部13は、オペレータによって手動入力され、又は外部装置(例えば制御装置200)から自動入力された初期状態情報から、モデルパラメータの初期状態量を抽出し、物理モデル10と構造モデル11に設定する。初期状態情報は、回転機械300の各部の初期温度又は運転停止後の経過時間に関する情報である。モデルパラメータの初期状態量は、最適化計算開始時のモデルパラメータの計測値又は算出値(推定値)である。初期状態量設定部13は、オペレータ又は外部装置から入力された指示及び条件に応じてプラントの停止シミュレーションを実行し、そのシミュレーション結果を初期状態量の算出に用いるように構成されていてもよい。
【0047】
以上、
図3を用いて、制御パラメータ最適化装置100の機能的な構成について説明した。なお、
図3には示していないが、制御パラメータ最適化装置100には、オペレータによって手動入力され、又は外部装置(例えば制御装置200)から入力される情報として、計算条件の設定を受け付ける構成が設けられていてもよい。
【0048】
計算条件の情報は、最適化計算の実行時に使用される。計算条件の情報は、例えば、大気温度、起動カーブの形状(変曲点の数)、起動カーブを構成するモデルパラメータを最適化計算において固定するか可変にするかの設定、制御上の運転制限値、回転機械300の起動又は停止の完了条件、使用する制御モデル9、物理モデル10、又は構造モデル11の指定などの情報である。計算においてモデルパラメータを固定する場合、変曲点の数は1である。計算条件の情報は、さらに初期状態量の算出に用いる停止シミュレーションの結果を指定する情報を含んでいてもよい。計算条件の情報は、複数パターンの情報を含んでいてもよく、各々のパターンについて最適化計算が実行され、その中から最適な結果が選択されてもよい。
【0049】
(制御パラメータ最適化装置のハードウェア構成)
以下、
図4を参照しながら、制御パラメータ最適化装置100の構成について説明する。
図4に示すように、制御パラメータ最適化装置100は、他の装置と通信を行う通信部110と、各種データを記憶する記憶部120と、オペレータの入力を受け付ける入力部130と、情報を出力するための出力部140と、装置全体の制御を行うように構成された制御部150とを備える。これらの構成要素は、バスライン160によって相互に接続される。
【0050】
通信部110は、有線通信又は無線通信を行うためのNIC(Network Interface Card controller)を備える通信インターフェースである。通信部110は、ネットワークを介して、他の装置(例えばサーバ装置や制御装置200)と通信を行う。
【0051】
記憶部120は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等から構成される。記憶部120は、各種制御処理を実行するためのプログラム(例えば、プラントモデル3、構造モデル11、最適化計算を実行するためのプログラム等)と、各種データ(例えば、取得した入力情報、設定情報、計算結果等)とを記憶する。なお、記憶部120は、一つの記憶装置によって構成されてもよいし、複数の記憶装置によって構成されてもよい。
【0052】
入力部130は、例えば、操作ボタン、キーボード、ポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力装置から構成される。入力部130は、オペレータが指示や情報を入力するために用いられる入力インターフェースである。
【0053】
出力部140は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、EL(Electroluminescence)ディスプレイ、スピーカー等の出力装置から構成される。出力部140は、オペレータに各種情報を提示するための出力インターフェースである。
【0054】
制御部150は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサから構成される。制御部150は、記憶部120に記憶されているプログラムを実行することにより、装置全体の動作を制御する。例えば、制御部150は、制御パラメータ最適化部2や構造モデル11などの計算処理を実現する。
【0055】
制御パラメータ最適化装置100は、通信部110を介して、プラント400に関する情報を共有するためのサーバ装置(不図示)から、プラント400のモデルパラメータに関連する情報(例えば、プラント特性情報、プラント設計情報、機器設計情報、制御パラメータ情報)を取得するように構成されていてもよい。また、制御パラメータ最適化装置100は、入力部130を介して、オペレータからそのような情報を取得するように構成されていてもよい。
【0056】
制御パラメータ最適化装置100は、上述した計算条件の情報を通信部110又は入力部130を介して取得してもよい。制御パラメータ最適化装置100は、最適化の計算結果を、出力部140を介して表示装置に表示させるように構成されてもよいし、最適化された制御パラメータ(最適化制御パラメータ)に関する情報を、通信部110を介して制御装置200に出力(設定)するように構成されてもよい。
【0057】
制御パラメータ最適化装置100は、最適化の計算に必要な各種情報にIDを付与して格納するように構成されたデータベースを使用するように構成されてもよい。このようなデータベースは、例えば、制御パラメータ最適化装置100と通信するサーバ装置(不図示)又は制御パラメータ最適化装置100の記憶部120に記憶される。
【0058】
例えば、データベースでは、日時を示す情報と、起動や停止等の動作を示す情報と、ユニット名と、運転データとを関連付けて運転データIDを付与する。ユニット名と、使用したプラントモデルID、構造モデルID及び制御パラメータIDと、停止シミュレーション結果とを関連付けて停止シミュレーションIDを付与する。ユニット名と、実機に設定済みか否かを示す情報と、制御パラメータ設定値を示す情報とを関連付けて制御パラメータIDを付与する。制御パラメータ設定値を示す情報は、プラントの初期状態に対応するパラメータ(例えば、メタル温度)と制御パラメータの組み合わせを示す情報である。
【0059】
また、データベースでは、ユニット名と、プラント基本モデルファイルIDと、パラメータ調整済みか否かを示す情報と、パラメータ調整に使用した運転データIDと、プラントモデル3のモデルパラメータ(調整対象パラメータ)と、プラントモデル3のモデルパラメータ(調整不可パラメータ)と、誤差に関する情報とを関連付けてプラントモデルIDを付与する。ユニットタイプ(プラントがGTCCであるか蒸気タービンであるかを示す情報)と、ユニット型式と、プラントモデルファイルとを関連付けてプラント基本モデルファイルIDを付与する。ユニット名と、使用したプラントモデルIDと、使用した構造モデルIDと、停止後経過時間と、制約条件と、制御パラメータ、シミュレーション結果、及び目的関数の計算結果とを関連付けて最適化計算結果IDを付与する。或る実施形態では、構造モデルはユニット毎に作成され、構造モデルはユニット名のみに紐づけられる。
【0060】
ユニット名と、構造基本モデルファイルIDと、パラメータ調整済みか否かを示す情報と、パラメータ調整に使用した運転データIDと、プラントモデル3のモデルパラメータ(調整対象パラメータ)と、プラントモデル3のモデルパラメータ(調整不可パラメータ)と、誤差に関する情報とを関連付けて構造モデルIDを付与する。ユニット名と、プラントモデルファイルとを関連付けて構造基本モデルファイルIDを付与する。
【0061】
このように、データベースにおいて各IDとそれに関連する情報を紐づけて格納することにより、制御パラメータ最適化装置100は、各IDを検索キーとして最適化計算に必要な情報を容易にデータベースから取得することが可能となる。また、多様な適用対象に対する最適化計算に必要な情報をデータベースに記憶させ、そこから実際の適用対象に必要な情報を抽出するため、制御パラメータ最適化装置100の適用対象に対する汎用性を向上させることができる。
【0062】
以上、
図4を用いて、制御パラメータ最適化装置100の構成の一例について説明した。なお、制御パラメータ最適化装置100は、上述した構成例に限定されず、上記構成のうち一部の構成が省略されてもよいし、さらに別の構成が追加されていてもよい。
【0063】
また、制御パラメータ最適化装置100は上記の例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、制御パラメータ最適化装置100は、制御パラメータ選定部7、制御モデル9及び物理モデル10への入力情報を記憶部120に記憶し、制御パラメータ最適化装置100を他の同型かつ同規模のプラント400に適用した際に、制御パラメータ選定部7、制御モデル9又は物理モデル10への入力情報の一部に欠損があった場合は、記憶部120に蓄積されている過去の入力情報から当該欠損部分のデータを補うように構成されてもよい。
【0064】
(最適化の具体例)
1つの目的関数を対象とするときは、目的関数に関連する制御パラメータを選択し、選択した制御パラメータの最良の解を探索して、最適化を図る。一方、トレードオフの関係にある複数の目的関数を対象とするときは、多目的最適化手法により、最適な制御パラメータを探索して、最適化を図ることができる。
【0065】
図5~
図8は、それぞれ、一実施形態に係る制御パラメータ最適化装置100による最適化の一例を説明するためのグラフである。以下、これらの図面を参照しながら、最適化の具体例について説明する。
【0066】
まず、制御パラメータ最適化装置100を、発電プラント起動時の、最適な起動カーブ(起動スケジュール)の探索に適用する一例について説明する。
図5は、目的関数として起動時間及び寿命消費量が設定された場合の、最適解にあたる複数の起動カーブを、各々、「〇」で表示している。(すなわち、複数の起動カーブについて、各起動カーブに沿って発電プラントを起動したときの起動時間と寿命消費量を、プラントモデル(制御モデル、物理モデル)で算出し、複数の起動カーブの全てについて、横軸を起動時間、縦軸を寿命消費量とするグラフ上にプロットしたものである。)プラント400においては、一般的に起動時間と寿命消費量とはトレードオフの関係にある。そのため、最適解にあたる起動カーブ(以下、最適解)は一つではなく、例えば公知の進化的アルゴリズムを制御パラメータ更新部8における多目的最適化手法として適用した場合、最適化前の起動カーブT0に対し、複数の起動カーブT1~T7が、最適解として計算される。
図5に示すように、制御パラメータ最適化装置100は、最適解T1~T7と共に最適化前の起動カーブT0を表示装置に表示させるように構成されてもよい。この場合、オペレータは、最適化による目的関数(起動時間及び寿命消費量)の改善効果を確認することができる。
【0067】
図6は、目的関数として起動時間、寿命消費量及び燃料コストが設定された場合の最適解の表示例を示している。なお、4つ以上の目的関数が設定された場合は、3つ以下の目的関数ごとに分けて表示してもよい。例えば4つの目的関数が設定された場合は、3つの目的関数と残り1つの目的関数とに分けて、あるいは、2つの目的関数と残り2つの目的関数とに分けて表示する。
【0068】
なお、制御パラメータ最適化装置100は、
図5に示すように、起動カーブの最適化の結果として複数の最適解T1~T7が計算された場合に、各最適解にあたる複数の起動スケジュールを表示装置の画面上で確認できるように構成されてもよい。制御パラメータ設定部4は、制御パラメータ最適化装置100から出力された最適化結果(複数の最適解及びそれぞれに対応する最適化制御パラメータ)のうち、表示装置を見たオペレータによる操作を介して選択された最適解に対応する最適化制御パラメータを制御装置200に設定するように構成されてもよい。一方、複数の最適解のいずれもオペレータによって選択されなかった場合は、いずれの最適化制御パラメータも制御装置200に設定しないように構成されてもよい。これにより、制御パラメータ最適化装置100によって計算された複数の最適解のうち、所望の運転特性を実現できる1つの最適解をプラント400の実制御に反映されることが可能となる。
【0069】
図7は、目的関数として起動時間及び寿命消費量が設定され、運転制限値として寿命消費量の上限値が設定された場合における、複数の最適解T1~T7と運転制限値Lとの関係の一例を示している。
図7に示す例では、制御パラメータ更新部8は、複数の最適解T1~T7のうち、運転制限値Lを満たす最適解T3~T7のいずれか1つを選定して、選定された最適解に対応する最適化制御パラメータを制御装置200に出力する。例えば、運転制限値Lを満たす最適解T3~T7のうち、運転制限値Lに最も近い最適解T3が選定される。なお、最適解の選定方法は、このような選定方法に限られず、種々の選定方法が考えられる。例えば、運転制限値Lを満たす最適解T3~T7のうち、起動時間及び寿命消費量の加重平均が最小となる最適解が選定されてもよい。
【0070】
図8は、様々な起動カーブの各々について得られた計算結果(各起動カーブに沿って起動したときの、起動時間と寿命消費量)を、横軸を起動時間、縦軸を寿命消費量とするグラフ上にプロットした図である。この計算結果を得るためには、まず、起動曲線(発電量の上昇のスケジュール)を規定する、変化率、保持値、保持時間といった起動パラメータ値の組み合わせの候補をランダムに選定する。次に、選定した起動パラメータの組み合わせ候補の各々について、その起動パラメータ値の組み合わせをもって規定される起動曲線カーブに沿って回転機械300を起動したときの起動時間と寿命消費量とを、前記選択した起動パラメータの組み合わせ候補の全てについて計算する。これにより、上記の計算結果が得られる。
【0071】
回転機械300を起動する場合に、例えば、起動時間を短縮しようとすると、寿命消費量は大きくなり、異なる目的を同時に改善することはできない。このように、前記2つの目的間にはトレードオフ関係が存在する。
【0072】
複数のプロットPは、それぞれ起動カーブを示している。曲線Rは、最良トレードオフ関係を形成する解の集合を表す曲線である。曲線Rより上側にあって曲線Rに近い複数個のプロットPを選択し、それらプロットPのそれぞれに対応する起動カーブを形成する起動パラメータ値の組み合わせの各々を、最適化制御パラメータの候補群とする。
【0073】
なお、上記の最適化の具体例では、制御パラメータ最適化装置100をプラント400の起動時の運転制御に適用した場合、すなわちプラント400の停止中(起動前)に制御パラメータを最適化する場合の例を説明した。しかし、制御パラメータ最適化装置100は、これに限定されず、例えばプラント400の運転中に制御パラメータを逐次最適化するように構成されてもよい。また、制御パラメータ最適化装置100による最適化は、起動時の運転制御ではなく停止時の運転制御に適用されてもよい。
【0074】
(制御パラメータ最適化方法)
以下、制御パラメータ最適化方法の具体例について説明する。
図9は、一実施形態に係る制御パラメータ最適化方法の手順を示すフローチャートである。なお、ここでは、制御パラメータ最適化装置100が実行する制御処理として制御パラメータ最適化方法の手順を説明する。しかし、以下に説明する各々の手順において一部又は全部がオペレータの手動によって実行されてもよい。また、以下の説明では、モデルパラメータがすでに設定されていることを前提とする。
【0075】
図9に示すように、制御パラメータ最適化装置100は、計算条件情報を取得する(ステップS1)。具体的には、制御パラメータ最適化装置100は、計算条件情報として、上述した初期状態情報、計算条件、目標関数などの情報を、通信部110又は入力部130を介して取得する。なお、計算条件情報が記憶部120に記憶されている場合には、制御パラメータ最適化装置100は、記憶部120を参照して計算条件情報を取得してもよい。取得した計算条件情報は、以降のステップS2~S5の計算に使用される。
【0076】
制御パラメータ最適化装置100は、最適化の計算に使用する制御パラメータを設定する(ステップS2)。例えば、制御パラメータ選定部7が制御パラメータを選定し、制御パラメータ更新部8がその制御パラメータに最適化の計算に使用する制御パラメータを設定する。なお、制御パラメータ更新部8は、計算開始時では所定の値を制御パラメータの値として設定してもよい。
【0077】
制御パラメータ最適化装置100は、制御指令値とプロセス量を計算する(ステップS3)。具体的には、制御パラメータ更新部8は、制御パラメータをプラントモデル3に入力する。プラントモデル3の制御モデル9と物理モデル10は、入力された制御パラメータに基づいて、制御指令値とプロセス量を計算する。この際、物理モデル10から構造モデル11にもプロセス量の計算結果が出力される。
【0078】
制御パラメータ最適化装置100は、目的関数を算出する(ステップS4)。具体的には、プラントモデル3は、ステップS3で計算された制御指令値及びプロセス量に基づいて、目的関数を算出する。目的関数の算出結果は、制御パラメータ更新部8に出力される。
【0079】
制御パラメータ最適化装置100は、回転機械300の回転部材と静止部材との間のクリアランスを算出する(ステップS5)。具体的には、構造モデル11がプロセス量の計算結果に基づいてクリアランスを算出し、それを制御パラメータ更新部8に出力する。なお、ステップS4とステップS5は順序が逆であってもよい。
【0080】
ここで、制御パラメータ最適化装置100は、最適化が完了したか否かを判別する(ステップS6)。例えば、制御パラメータ更新部8は、計算された目的関数が最小化又は最大化されていることと、計算されたクリアランスが制約条件を満たす範囲内であることとが満たされていることを条件に、最適化が完了したと判別する。
【0081】
なお、最適化の完了条件は、このような条件に限られない。最適化が完了したか否かは、事前に設定されている完了条件を満たすか否かによって判別される。
【0082】
或る実施形態では、制御パラメータ最適化装置100は、進化的アルゴリズムを適用して、最適な起動カーブ(最適解)を定義する最適制御パラメータの探索を行う。具体的には、変化率、保持値、保持時間といった起動パラメータ値の組み合わせの候補をランダムに選定して、最初の親世代とする。それらの候補の各々に対応する起動カーブに沿って回転機械300を起動したときの複数の目的関数(例えば、起動時間と熱応力)とクリアランスとを、前記選択した起動パラメータ値の組み合わせ候補の全てについて計算する。(ステップ1) 計算結果に基づき各候補をランク付け(評価)して、組み合わせ候補の中から優良候補を抽出する。(ステップ2) 次に、交叉、突然変異に関する処理が行われ、子世代にあたる改良候補(候補1′、候補2′、候補3′、・・・)が生成され、世代数が1増加する。(ステップ3) 生成された改良候補を親世代として用い、上記ステップ1からステップ3を繰り返し、繰り返した数(世代数)が予め設定した回数(世代数)に達した時点で、最適化が完了したと判別される。最適化が完了したときに生存している複数の候補(起動パラメータ値の組み合わせ)が最適化パラメータとなる。また、複数の最適化パラメータの各々に対応する起動カーブが、それぞれ最適解となる。
【0083】
最適化が完了していないと判別した場合(ステップS6;No)、制御パラメータ最適化装置100は、ステップS2に戻って再びステップS2~S5の処理を実行する。なお、この場合のステップS2では、制御パラメータ更新部8は、制御パラメータを更新し、更新後の制御パラメータを計算に使用する制御パラメータとして設定する。
【0084】
一方、最適化が完了したと判別した場合(ステップS6;Yes)、制御パラメータ最適化装置100は、最適化制御パラメータを設定する(ステップS7)。具体的には、制御パラメータ更新部8が最適化制御パラメータを出力して、制御パラメータ最適化装置100がそれを制御装置200に設定する。
【0085】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0086】
(まとめ)
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0087】
(1)本開示の一実施形態に係る制御パラメータ最適化装置(100)は、
回転機械(300)を備えるプラント(400)を制御するための制御装置(200)の制御パラメータを最適化するための制御パラメータ最適化装置(100)であって、
前記制御装置(200)を含めた前記プラント(400)全体の動作を模擬し、前記制御装置(200)による制御指令値および前記プラント(400)のプロセス量を計算するように構成されたプラントモデル(3)と、
前記プラントモデル(3)における前記プロセス量の計算結果に基づいて算出される目的関数に基づいて、前記プラントモデル(3)における前記制御指令値の計算に使用する前記制御パラメータを更新するように構成された制御パラメータ更新部(8)と、
前記プラントモデル(3)からの前記プロセス量に基づいて前記回転機械(300)内の静止部材と回転部材との間のクリアランスを算出する構造モデル(11)と、
を備え、
前記制御パラメータ更新部(8)は、前記構造モデル(11)により算出された前記クリアランスが制約条件を満たす範囲内で最適な前記制御パラメータを探索するように構成される。
【0088】
上記(1)に記載の構成によれば、回転機械(300)内の静止部材と回転部材との間のクリアランスが制約条件を満たす範囲内で最適な制御パラメータを探索することができる。また、探索された制御パラメータをプラント(400)の制御装置(200)に設定することにより、プラント(400)の損傷リスクを低減することが可能となる。
【0089】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、前記構造モデル(11)は、前記回転機械(300)の入口又は出口における作動流体の状態を示す前記プロセス量を前記プラントモデル(3)から取得し、前記プロセス量を前記クリアランスの算出に用いるように構成される。
【0090】
上記(2)に記載の構成によれば、回転機械(300)の入口又は出口における作動流体の状態を示すプロセス量を用いるため、クリアランスをより正確に算出することができる。
【0091】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の構成において、前記構造モデル(11)は、前記回転機械(300)の温度分布または形状の変位分布を計算するためのモデルである。
【0092】
上記(3)に記載の構成によれば、構造モデル(11)によって回転機械(300)の温度分布又は形状の変位分布が計算される。そのため、クリアランスの分布を推定して、クリアランスの分布が制約条件を満たす範囲内で最適な制御パラメータを探索するように構成することが可能となる。その結果、プラント(400)の損傷リスクをより低減することができる。
【0093】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)に記載の構成において、前記構造モデル(11)は、さらに、寿命消費量と熱応力とのうち、少なくとも一方を算出するように構成される。
【0094】
上記(4)に記載の構成によれば、構造モデル(11)が寿命消費量と熱応力とのうち、少なくとも一方も算出するため、プラント(400)の損傷リスクをより直接的に低減することができる。
【0095】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか一つに記載の構成において、前記目的関数は、燃料消費量、起動時間、停止時間、及び寿命消費量のうち、いずれか一つ以上の指標を示す関数である。
【0096】
上記(5)に記載の構成によれば、特に最小化又は最大化すべきである指標を示す関数を目的関数として制御パラメータを最適化することができる。
【0097】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れか一つに記載の構成において、制御パラメータ最適化装置(100)は通信部(110)を備え、該通信部(110)を介して、前記プラント(400)に関する情報を共有するためのサーバ装置から、前記プラント(400)のモデルパラメータに関連する情報を取得するように構成される。
【0098】
上記(6)に記載の構成によれば、運転動作を最適化すべき当該プラント(400)又は当該プラント(400)に類似するプラント(400)のモデルパラメータに関連する情報(例えば、プラント特性情報、プラント設計情報、機器設計情報、制御パラメータ情報)をサーバ装置で共有し、それを活用することにより、プラント(400)の各種モデル(例えば、プラントモデル(3)、構造モデル(11))の精度や汎用性を向上させることが可能となる。
【0099】
(7)本開示の一実施形態に係るプラント(400)は、
回転機械(300)と、
前記回転機械(300)を制御するための制御装置(200)と、を備えるプラントであって、
前記制御装置(200)は、上記(1)乃至(6)の何れか一つに記載の制御パラメータ最適化装置(100)によって最適化された制御パラメータに基づいて運転を制御するように構成された。
【0100】
上記(7)に記載の構成によれば、プラント(400)の損傷リスクを低減することができる。
【0101】
(8)本開示の一実施形態に係るプラント(400)は、
回転機械(300)と、
上記(1)乃至(6)の何れか一つに記載の制御パラメータ最適化装置(100)と、
前記制御パラメータ最適化装置(100)によって最適化された制御パラメータに基づいて運転を制御するように構成された制御装置(200)と、
を備える。
【0102】
上記(8)に記載の構成によれば、プラント(400)の損傷リスクを低減することができる。
【0103】
(9)本開示の一実施形態に係る制御パラメータ最適化方法は、
回転機械(300)を備えるプラント(400)を制御するための制御装置(200)の制御パラメータを最適化するための制御パラメータ最適化方法であって、
前記制御装置(200)を含めた前記プラント(400)全体の動作を模擬するプラントモデル(3)を使用して、前記制御装置(200)による制御指令値および前記プラント(400)のプロセス量を計算するステップと、
前記プラントモデル(3)における前記プロセス量の計算結果に基づいて算出される目的関数に基づいて、前記プラントモデル(3)における前記制御指令値の計算に使用する前記制御パラメータを更新するステップと、
前記プラントモデル(3)からの前記プロセス量に基づいて前記回転機械(300)内の静止部材と回転部材との間のクリアランスを算出するステップと、
を含み、
算出される前記クリアランスが制約条件を満たす範囲内で最適な前記制御パラメータを探索する。
【0104】
上記(9)に記載の方法によれば、回転機械(300)内の静止部材と回転部材との間のクリアランスが制約条件を満たす範囲内で探索された最適な制御パラメータを探索することができる。この場合、探索された制御パラメータをプラント(400)の制御装置(200)に設定することにより、プラント(400)の損傷リスクを低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0105】
1 目的関数設定部
2 制御パラメータ最適化部
3 プラントモデル
4 制御パラメータ設定部
5 物理パラメータ設定部
6 設計パラメータ設定部
7 制御パラメータ選定部
8 制御パラメータ更新部
9 制御モデル
10 物理モデル
11 構造モデル
12 構造パラメータ設定部
13 初期状態量設定部
100 制御パラメータ最適化装置
110 通信部
120 記憶部
130 入力部
140 出力部
150 制御部
160 バスライン
200 制御装置
300 回転機械
400 プラント