(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】細胞培養用添加剤、培地および細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240704BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N1/00 F
(21)【出願番号】P 2020037957
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390008497
【氏名又は名称】日本電熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門 雅莉
(72)【発明者】
【氏名】田口 秀典
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224204(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002767(WO,A1)
【文献】特開2020-058323(JP,A)
【文献】特開2012-120529(JP,A)
【文献】特表2011-509128(JP,A)
【文献】Stem Cells,2017年,Vol.25, No.12,pp.3005-3015
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚鱗爆砕物
の成分を含む細胞培養用添加剤
であって、
前記成分は、
魚鱗を温度が150℃~250℃、3分以上15分以下の条件で加圧蒸煮処理して前記魚鱗爆砕物を得る処理工程と、
前記魚鱗爆砕物にエタノールを添加して前記成分を析出させる析出工程と、により得られ、
前記魚鱗はバラマンディ由来であり、
前記細胞培養用添加剤は、幹細胞の未分化維持に用いられ、
前記幹細胞は、人工多能性幹細胞である、細胞培養用添加剤。
【請求項2】
前記魚鱗爆砕物は、魚鱗水蒸気爆砕物である、請求項1に記載の細胞培養用添加剤。
【請求項3】
前記
加圧蒸煮処理は、
150℃~250℃、5分以上15分以下の条件で実施される、請求項1または2に記載の細胞培養用添加剤。
【請求項4】
液体または粉末である、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養用添加剤。
【請求項5】
前記加圧蒸煮処理は、190℃~200℃、5分以上15分以下の条件で実施される、請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞培養用添加剤。
【請求項6】
魚鱗爆砕物
の成分を含む培地
であって
前記成分は、
魚鱗を温度が150℃~250℃、3分以上15分以下の条件で加圧蒸煮処理して前記魚鱗爆砕物を得る処理工程と、
前記魚鱗爆砕物にエタノールを添加して前記成分を析出させる析出工程と、により得られ、
前記魚鱗はバラマンディ由来であり、
前記培地全体の質量に対して、前記魚鱗爆砕物を0.625質量%以上2.5質量%以下含み、
前記培地は、幹細胞の未分化維持に用いられ、
前記幹細胞は、人工多能性幹細胞である、培地。
【請求項7】
前記魚鱗爆砕物は、魚鱗水蒸気爆砕物である、請求項6に記載の培地。
【請求項8】
前記
加圧蒸煮処理は、
150℃~250℃、5分以上15分以下の条件で実施される、請求項6または7に記載の培地。
【請求項9】
前記加圧蒸煮処理は、190℃~200℃、5分以上15分以下の条件で実施される、請求項6~8のいずれか1項に記載の培地。
【請求項10】
前記培地全体の質量に対して、前記魚鱗爆砕物を1.25質量%以上2.5質量%以下含む、請求項6~9のいずれか1項に記載の培地。
【請求項11】
請求項6~
10のいずれか1項に記載の培地を用いる、細胞の培養方法。
【請求項12】
継代せずに4日以上培養を行う、請求項
11に記載の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用添加剤、培地および細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞を生体外で培養する場合に、未分化状態が維持されずに分化が進んでしまうと、目的の細胞に分化させることができず、特定の組織や臓器を製造することが難しい。幹細胞を再生医療等に利用するためには、未分化な状態を維持させたまま幹細胞を増殖させることが重要である。
【0003】
幹細胞を未分化状態を維持したまま培養する方法として、サイトカインを用いる方法がある。例えばマウスES細胞は、白血病抑制因子(LIF)を培地に添加することによって、未分化状態を維持することができる。霊長類のES細胞および体性幹細胞等の一部の幹細胞はLIFのみでは未分化状態を維持することができず、線維芽細胞増殖因子(FGF)等をさらに培地に添加することによって、未分化状態が維持される。しかしながら、サイトカインは高価であり、採取原料や保存性等の問題もあり、継続的に使用することは難しい。そこで、安価かつ効率的に幹細胞の未分化状態を維持することができる技術が求められている。特許文献1~3には、幹細胞の未分化状態を維持するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-30787号公報
【文献】国際公開第2015/111734号
【文献】特開2013-247943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、魚類の動脈球由来のエラスチンペプチドを有効成分として含有する幹細胞の未分化状態維持剤が開示されている。しかし、エラスチンペプチドの原料となる動脈球は、例えばカツオ1匹から1個(数グラム)しか採れない。特許文献2には、ナノファイバー形状の多糖類を用いて間葉系幹細胞の未分化を維持する方法が開示されている。しかし、未分化維持培養という目的を果たすために、ナノファイバーの形状を特定の平均粒子径、平均繊維径、平均繊維長、平均繊維長/平均繊維径比となるように微細化する必要があり、煩雑な作業が必要であると考えられる。特許文献3には、ゼラチンナノファイバーを架橋した基材の上で多能性幹細胞の未分化維持培養を行う方法が開示されているが、基材の作製には、ゼラチンをエレクトロスピニング法によりナノファイバー化する等、特殊な操作を必要とする。
【0006】
本発明は、幹細胞の未分化状態を維持することができる新規の細胞培養用添加剤および培地、ならびに細胞の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に例示される[1]~[14]に関する。
[1]魚鱗爆砕物を含む細胞培養用添加剤。
[2]前記魚鱗爆砕物は、魚鱗水蒸気爆砕物である、[1]に記載の細胞培養用添加剤。
[3]前記魚鱗は、バラマンディ由来である、[1]または[2]に記載の細胞培養用添加剤。
[4]液体または粉末である、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞培養用添加剤。
[5]幹細胞の未分化維持に用いられる、[1]~[4]のいずれかに記載の細胞培養用添加剤。
[6]魚鱗爆砕物を含む培地。
[7]前記魚鱗爆砕物は、魚鱗水蒸気爆砕物である、[6]に記載の培地。
[8]前記魚鱗は、バラマンディ由来である、[6]または[7]に記載の培地。
[9]培地全体の質量に対して、前記魚鱗爆砕物を0.1質量%以上10質量%以下含む、[6]~[8]のいずれかに記載の培地。
[10]幹細胞の未分化維持に用いられる、[6]~[9]のいずれかに記載の培地。
[11]前記幹細胞は多能性幹細胞である、[10]に記載の培地。
[12]前記多能性幹細胞は、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞である、[11]に記載の培地。
[13][6]~[12]のいずれかに記載の培地を用いる、細胞の培養方法。
[14]継代せずに4日以上培養を行う、[13]に記載の培養方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、幹細胞の未分化状態を維持することができる新規の細胞培養用添加剤および培地、ならびに細胞の培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】魚鱗から魚鱗爆砕物およびその精製物を得る工程の例を示す図である。
【
図3】実施例において、魚鱗爆砕物を製造した工程を示す図である。
【
図4】実験1で得られた、iPS細胞の光学顕微鏡画像である。A:2.5質量%、B:1.25質量%、C:0.625質量%、D:0質量%の魚鱗爆砕物を含む未分化維持培地で細胞を培養した。
【
図5】実験2で得られた、iPS細胞のコロニーのALP染色画像である。A:2.5質量%、B:1.25質量%、C:0.625質量%、D:0.312質量%、E:0質量%の魚鱗爆砕物を含む未分化維持培地で細胞を培養した。
【
図6】実験3で得られた、魚鱗爆砕物を含む未分化維持培地で7日間、14日間または21日間培養したiPS細胞のOct3/4(上段)、Nanog(中段)、Sox2(下段)のmRNA発現量を示すグラフである。
【
図7】実験4で得られた、iPS細胞のコロニーのOct4の免疫染色画像(左)および核染色画像(右)である。A-1,A-2は2.5質量%、B-1,B-2は1.25質量%、C-1,C-2は0.625質量%、D-1,D-2は0質量%の魚鱗爆砕物を含む未分化維持培地で細胞を培養したときの染色画像である。
【
図8】実験5で得られた、14日間の未分化維持培養後に継代し、1日目のiPS細胞の光学顕微鏡画像である。AおよびBは1.25質量%、CおよびDは0質量%の魚鱗爆砕物を含む未分化維持培地で培養を行った。AおよびB、並びにCおよびDは、それぞれの条件で培養されたiPS細胞の代表的なコロニーである。
【
図9】実験6で得られた、14日間の未分化維持培養後に継代し、4日目のiPS細胞のOct3/4(上段)、Nanog(中段)、Sox2(下段)のmRNA発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[細胞培養用添加剤]
本発明に係る細胞培養用添加剤は、魚鱗爆砕物を含む。本発明に係る細胞培養用添加剤の存在下で培養した幹細胞は、未分化状態が維持されやすいため、本発明に係る細胞培養用添加剤は、幹細胞の未分化維持のための添加剤として用いることができる。
【0011】
「幹細胞の未分化状態が維持されている」とは、幹細胞が分化能を保持したまま増殖できることを意味する。幹細胞が未分化状態を維持しているかどうかは、例えば後述の実施例に示すように幹細胞の未分化マーカーのmRNAまたはタンパク質の発現量を検出することによって評価できる。多能性幹細胞の未分化マーカーとしては、例えばOct3/4、Nanog、Sox2等が挙げられる。mRNAの発現量測定方法としては、例えばRT-PCR、定量PCR、ノーザンブロッティング等の方法が挙げられる。タンパク質の発現量測定方法としては、例えば抗体を用いたELISA、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング等の免疫学的方法が挙げられる。本発明に係る細胞培養用添加剤の存在下で幹細胞を培養した場合に、細胞培養用添加剤を用いなかった場合に比べて、幹細胞の未分化マーカーの発現量が高く維持されていれば、本発明に係る細胞培養用添加剤が幹細胞の未分化維持能を有すると評価することができる。
【0012】
魚鱗爆砕物は,魚鱗を爆砕したものであれば爆砕方法は特に限定されないが、短時間で低分子に爆砕できる観点から水蒸気爆砕物であることが好ましい。魚鱗水蒸気爆砕物は、魚鱗を飽和水蒸気下で加圧蒸煮処理した後、大気圧に開放して爆砕することで得ることができる。魚鱗を圧力容器に入れ、高圧・高温の水蒸気で蒸煮すると、魚鱗の組織内に水蒸気が浸透する。その後、瞬時に圧力を開放すると、水蒸気が急激に膨張し、魚鱗は粉砕される。魚鱗水蒸気爆砕物は、例えば国際公開第2017/002767号に記載の方法によって得ることができる。
【0013】
図1に爆砕装置の一例として水蒸気爆砕装置10の概略を示す。
図1を用いて、魚鱗爆砕物を得る方法を具体的に例示する。水蒸気爆砕装置10は公知のものであってよく、例えば日本電熱株式会社製の爆砕装置を用いることができる。
【0014】
純水器13によってナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの不純物が除去された水は、ポンプ14によってボイラ12に送り込まれ、高温・高圧の水蒸気となる。
水蒸気爆砕物の原料である魚鱗は、ホッパー16からリアクター15に投入される。このとき、バルブ17は開、バルブ18、19は閉となっている。所定量の魚鱗がリアクター15内に投入されると、バルブ17は閉じられる。ボイラ12に接続されるバルブ18が開けられると、リアクター15内に高温・高圧の蒸気が導入され、所定時間、加圧蒸煮処理がなされる。その後、バルブ18は閉じられる。
バルブ19が開かれると、魚鱗はパイプ20を通じて受け槽21内に急激に排出される。魚鱗は受け槽21内で急激に大気下におかれ、爆砕処理される。受け槽21は、サイレンサー22を備えていてもよい。水蒸気爆砕された魚鱗は取り出し口23から取り出される。
【0015】
魚鱗は、コラーゲンおよびリン酸カルシウム(灰分)を主成分として含むと考えられる。魚鱗爆砕物は、好ましくはコラーゲン、ゼラチン、コラーゲンペプチドおよびその他のコラーゲン分解物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むと考えられる。コラーゲンは動物の体を構成する主要なタンパク質であり、約10万の分子量をもつ3本のポリペプチド鎖(α鎖、β鎖等)で構成されている。コラーゲンは水に溶けにくく、低温で粘稠である。コラーゲンを加熱変性させて、コラーゲンの立体構造や分子量が変化したものがゼラチンである。ゼラチンの分子量は数万~数十万程度であり、温めれば水に溶け、冷却すればゲル状になる。ゼラチンの分子量をさらに小さくしたものがコラーゲンペプチドである。コラーゲンペプチドの分子量は数百~数千程度であり、水溶性が向上している。
【0016】
加圧蒸煮処理の際に、圧力、時間、温度等の条件を変えることによって、コラーゲンの状態が異なる爆砕物を得ることができる。処理温度は例えば150℃~250℃であってもよく、180℃~220℃であってもよい。処理温度は例えば30秒~1時間であってよく、1分~30分であってもよい。処理条件が穏やかなときには、魚鱗は比較的高分子の物質に分解される。このとき、魚鱗爆砕物に含まれるコラーゲンの分子量は大きく、例えばゼラチンを多く含むゲル状の爆砕物が得られる。処理条件が中程度のときには、魚鱗は中程度の大きさの分子に分解される。このとき、魚鱗爆砕物に含まれるコラーゲンは中程度の大きさになり、粘性を有する液状の爆砕物が得られる。処理条件が厳しいときには、魚鱗は低分子の物質に分解される。このとき、魚鱗爆砕物に含まれるコラーゲンの分子量は小さくなり、例えばコラーゲンペプチドを多く含む液状の爆砕物が得られる。
【0017】
爆砕物は、必要に応じて精製されてもよく、例えば脱色の目的で過酸化水素処理をしたり、脱色や脱臭の目的で活性炭を使用したり、不純物や未分解物を除去する目的で遠心分離操作を行ってもよい。イオン交換樹脂、エタノール等を用いて精製してもよい。爆砕物は、液体であってもよいが、保管および運搬の取り扱い性を考慮して、固体としてもよい。固体としては、例えば液体を乾燥させて得た粉末であってもよい。乾燥方法は特に限定されず、凍結乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥等を行えばよい。
【0018】
ゼラチンおよびコラーゲンペプチドを工業的に生産する際の原料は、主に牛骨、牛皮、豚皮、鶏骨などの動物由来の原料が用いられてきた。しかし、Bovine Spongiform Encephalopathy(BSE)や鳥インフルエンザ等の人獣共通感染症が問題となっている。魚類由来のコラーゲンを使用することは、感染症の観点からも好ましい。また、一部の地域では、哺乳類(特にブタ)由来の物質を含む製品は使用に制限があるが、魚類由来の物質はハラール市場においても展開可能である。
【0019】
魚鱗としては、バラマンディ、テラピア、タイ等海水魚または淡水魚の魚鱗を原料として使用できる。一般に、魚類のコラーゲンの変性温度は30℃以下であり、哺乳類のコラーゲンの変性温度(37℃~40℃)に比べて低い。添加剤の原料となる魚鱗としては、変性温度が比較的高いコラーゲンを含む魚鱗を用いることが好ましい。スズキ目アカメ科に属するバラマンディは、コラーゲンの変性温度が約37℃と高く、扱いやすい。バラマンディはインド太平洋の熱帯域に分布する大型肉食魚であり、東南アジアでは食用のため養殖が行われている。バラマンディの魚鱗は、加工現場で廃棄物として生じるため、安価に入手することが可能である。
【0020】
魚鱗を原料とする爆砕物は、魚皮を原料とした爆砕物に比べて、臭いが生じにくい。
【0021】
魚鱗としては、魚鱗に含まれるカルシウム成分などを化学的に除去する脱灰処理をあらかじめ行った魚鱗を用いてもよい。脱灰処理の方法は特に限定されないが、例えば洗浄した魚鱗を希塩酸に数時間から2日間程度浸漬させる方法が挙げられる。脱灰処理を行った魚鱗を原料とした場合、好ましい加圧蒸煮処理の条件は、脱灰処理を行っていない魚鱗を原料とした場合とは異なり得る。
【0022】
培養される細胞は、特定の種類に限定されるものではないが、好ましくは真核生物であり、動物細胞が含まれる。細胞は幹細胞であってもよい。未分化維持される幹細胞は、分化能、および未分化状態のまま増殖できる自己増殖能を有する未分化細胞であれば特に限定されない。幹細胞としては、分化能力に応じて、多能性幹細胞(pluripotent stem cell)、複能性幹細胞(multipotent stem cell)、単能性幹細胞(unipotent stem cell)等が含まれる。本発明に係る細胞培養用添加剤が適用される幹細胞は、好ましくは多能性幹細胞である。
【0023】
多能性幹細胞としては、ES細胞、iPS細胞の他、始原生殖細胞に由来する胚性生殖細胞(EG細胞)、精巣組織から作製されるGS細胞の樹立培養工程で単離されるmultipotent germline stem cell(mGS細胞)、骨髄から探知されるmultipotent adult progenitor cell(MAPC)等が含まれる。多能性幹細胞は、好ましくはES細胞またはiPS細胞である。
【0024】
多能性幹細胞は、多能性幹細胞が樹立可能な任意の動物から樹立されたものであってよい。多能性幹細胞は、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等由来の多能性幹細胞であり、好ましくは霊長類由来の多能性幹細胞である。再生医療に用いられる場合は、好ましくはヒトiPS細胞である。
【0025】
本発明に係る細胞培養用添加剤は、細胞の培養に用いられる培地、基質(基材)、その他の材料に添加して用いることができる。本発明に係る細胞培養用添加剤の存在下で培養した幹細胞は未分化状態が維持されやすいことから、本発明に係る細胞培養用添加剤は、幹細胞の未分化維持培地、幹細胞の未分化維持に用いられる基質等に添加されることが好ましい。
【0026】
細胞培養用添加剤が培地に添加されるとき、培地に含まれる魚鱗爆砕物の濃度は、細胞の培養が可能な範囲で適宜設定することができるが、幹細胞の未分化状態を効果的に維持する観点からは、終濃度(使用時)において、例えば培地全体の質量に対して0.1質量%以上10質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上であり、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0027】
培地は細胞の培養、特に幹細胞の未分化維持培養に一般に使用されている培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば細胞の生存および増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む培地、具体的には、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI 1640、Basal Medium Eagle(BME)、BGjB培地、CMRL 1066培地、Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12(D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、ハンクス液(Hank’s balanced salt solution)、Fischer’s培地等が挙げられる。
【0028】
培地には、必要に応じて、bFGF、LIF、上皮細胞増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント、抗生物質、脂肪酸または脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、抗酸化剤、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等を含有してもよい。
【0029】
培地は、血清含有培地であってもよく、無血清培地であってもよいが、異種成分の排除による細胞移植の安全性の確保という点からは、無血清培地であることが好ましい。ここで、無血清培地とは、無調整または未精製の血清を含まない培地を意味し、精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、増殖因子)が混入している培地は無血清培地に該当するものとする。かかる無血清培地としては、例えば、Knockout Serum Replacement(KSR)(Thermo Fisher Scientific社製)を適量(例えば、1-20%)添加した培地、インスリンおよびトランスフェリンを添加した培地、細胞由来の因子を添加した培地等が挙げられる。
【0030】
本発明に係る細胞培養用添加剤は、基質に添加されてもよく、基質は培養器のコーティング剤として用いられ得る。培養器のコーティング方法は特に限定されないが、例えば培養器の細胞が接着する部分を魚鱗爆砕物を含む基質に浸漬させて、インキュベートすればよい。基質に含まれる魚鱗爆砕物の濃度、コーティング時間、コーティング温度は適宜設定することができ、例えば基質全体の質量に対して魚鱗爆砕物を1質量%を含む基質を用いて37℃で30分間インキュベートすればよい。インキュベート後、基質を除いて培地を添加してもよく、基質を希釈するように培地を添加してもよい。培地は魚鱗爆砕物を含む培地であってもよいし、含まない培地であってもよい。
【0031】
[培地]
本発明に係る培地は、魚鱗爆砕物を含む。魚鱗爆砕物を含む培地は、幹細胞の未分化状態を維持することができる。魚鱗爆砕物を含む培地は、上述の細胞培養用添加剤が添加された培地であってよい。魚鱗爆砕物は、上述の魚鱗爆砕物であってよい。培地は、好ましくは魚鱗爆砕物を培地全体の質量に対して0.1質量%以上10質量%以下含む。幹細胞は上述の多能性幹細胞であってよく、好ましくはES細胞またはiPS細胞である。
【0032】
[細胞の培養方法]
本発明に係る細胞の培養方法は、魚鱗爆砕物を含む上述の培地を用いて細胞を培養する工程を含む。本発明に係る細胞の培養方法によれば、未分化状態を維持したまま幹細胞を培養することができる。
【0033】
本発明に係る細胞の培養方法においては、継代せずに4日以上培養を継続することができる。増殖する幹細胞は、通常2日~3日おきに継代しなければ、未分化性を失いやすい。魚鱗粉砕物を含む培地を用いて幹細胞を培養すれば、長期間継代を行わない場合でも、未分化状態が維持されやすい。培養可能な期間は幹細胞の種類および培養条件によって異なるが、例えば7日以上、14日以上、または21日以上継代せずに、未分化状態を維持したまま培養を行うことができる。継代せずに培養を行う期間は、例えば30日以内である。
【0034】
本発明に係る細胞の培養方法によれば、長期間継代を行わずに幹細胞の培養が行える。2日~3日おきに継代する方法と比較して継代の間隔が長くなることから、培養によって得られる幹細胞の数を多くすることができる。なお、魚鱗粉砕物を含む培地を用いて幹細胞を培養しても、従来の幹細胞の培養方法と同様に約80回の継代を経ても、未分化状態を維持しており、良好な分化能を示す。
【0035】
細胞の培養に用いる培養器は、細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えばディッシュ、マルチウェルプレート、フラスコ、シャーレ、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトルなどが挙げられる。
【0036】
培養器は、細胞非接着性であっても接着性であってもよく、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質などで処理したものを用いてもよい。細胞支持用基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。
【0037】
培養は、フィーダー細胞を使用しても、使用しなくてもよい。再生医療に使用される細胞を培養する場合は、移植後の安全性の観点から、フィーダー細胞を使用しないこと(フィーダーフリー)が好ましい。
【0038】
細胞の播種の際の細胞密度は特に制限はないが、細胞を維持することができ、かつ増殖させることができる密度であればよい。幹細胞であれば、密度は例えば1.0×102~1.0×106cells/cm2であってよく、好ましくは5.0×102~5.0×105cells/cm2であり、より好ましくは1.0×103~2.0×105cells/cm2である。
【0039】
細胞の培養条件は、細胞の培養に用いられる通常の条件に従えばよく、特別な制御は必要ではない。培養温度は、例えば約30~40℃であり、好ましくは36~37℃である。CO2ガス濃度は、例えば約1~10%であり、好ましくは約2~5%である。なお、培地の交換は2~3日に1回行うことが好ましく、毎日行ってもよい。培地交換には、全量培地交換、半量培地交換、培地の追加の形態が含まれる。
【0040】
図2に記載の魚鱗爆砕物の製造方法を参照して、本発明において使用され得る魚鱗爆砕物を例示する。魚鱗爆砕物としては、爆砕処理直後の物質を用いてもよいし、精製した画分を用いてもよい。
【0041】
[魚鱗爆砕物1]
魚鱗として、バラマンディ(Lates calcarifer)の魚鱗を洗浄、脱灰後に乾燥させたものを用いた。
【0042】
魚鱗を水蒸気爆砕装置に投入し、温度200℃で15秒、30秒または1分間、圧力1.45MPaGで加圧蒸煮処理を行った。魚鱗を爆砕後、魚鱗爆砕物1が得られた。それぞれの魚鱗爆砕物1の10倍量の蒸留水を添加して、60℃で10分間加熱した後、遠心分離し、上清を回収した。上清は、4℃に冷やすとゲル状になり、常温では液状であった。脱色および脱臭の目的で、上清を活性炭カラムに通し、粗精製した。カラム通過液を凍結乾燥機に設置し、凍結乾燥させた(画分1)。
【0043】
30秒の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物1から凍結乾燥して得られた試料に20%塩酸を添加して、110℃の電気炉に入れ、24時間放置した。これにより、タンパク質がアミノ酸に分解される。この酸分解した試料をエバポレータに入れ乾燥させた。この過程で塩酸は除去される。0.02Nの塩酸を加えて50mLの溶液にした後、0.2μmのフィルターでろ過し、不純物を取り除いて得られた溶液をアミノ酸分析に供した。分析装置は、アミノ酸自動分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス社製L-8900BH)を用いた。成分を分析したところ、コラーゲンに特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリンの含有が認められた。さらに、アミノ酸の1000残基あたりの比率を確認すると、グリシンが全体の約1/3であり、またアラニン、ヒドロキシプロリン、プロリンの合計が全体の約1/3であって、コラーゲンに特有の比率を示していた。以上の結果から、魚鱗爆砕物1にはゼラチンが含まれると考えられる。
【0044】
加圧蒸煮処理時間が15秒の場合、魚鱗の分解は不十分であった(収率12.91%)。加圧蒸煮処理時間が30秒の場合、収率は89.46%であり、加圧蒸煮処理時間が1分の場合、収率は85.29%(1回目)、65.63%(2回目)であった。加圧蒸煮処理時間が30秒および1分の場合、得られた魚鱗爆砕物1は、爆砕処理直後はゲル状であった。加圧蒸煮処理時間が1分(2回目)の場合、爆砕処理直後はゲル状の魚鱗爆砕物1に加えて、液状の魚鱗爆砕物1が得られた。
【0045】
[魚鱗爆砕物1’]
魚鱗として、洗浄のみを行い、脱灰を行わないバラマンディの生鱗を用いた。魚鱗を水蒸気爆砕装置に投入し、温度190℃で30秒、1分または2分間、圧力1.15MPaGで加圧蒸煮処理を行った。魚鱗を爆砕後、魚鱗爆砕物1’が得られた。それぞれの魚鱗爆砕物1’の10倍量の蒸留水を添加して、60℃で10分間加熱した後、遠心分離し、上清を回収した。上清は、4℃に冷やすとゲル状になり、常温では液体であった。脱色および脱臭の目的で、上清を活性炭カラムに通し、粗精製した。カラム通過液を凍結乾燥機に設置し、凍結乾燥させた(画分1)。
【0046】
1分間の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物1’から凍結乾燥して得られた試料を、魚鱗爆砕物1と同じ方法でアミノ酸分析に供したところ、コラーゲンに特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリンの含有が認められた。さらに、アミノ酸の1000残基あたりの比率を確認すると、グリシンが全体の約1/3であり、またアラニン、ヒドロキシプロリン、プロリンの合計が全体の約1/3であって、コラーゲンに特有の比率を示していた。以上の結果から、魚鱗爆砕物1’にはゼラチンが含まれると考えられる。
【0047】
1分間の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物1’から凍結乾燥して得られた試料を、カラムとしてTSKgel G2500PWXL(東ソー株式会社)を用いたサイズ排除クロマトグラフィに供した。結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
加圧蒸煮処理時間が30秒の場合、収率は32.33%であり、加圧蒸煮処理時間が1分の場合、収率は46.27%であり、加圧蒸煮処理時間が2分の場合、収率は54.57%であった。30秒~2分の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物1’は、爆砕処理直後は液体であった。生鱗は含水率が約49%であるため、収率の計算においては生鱗を乾燥させた時の相当重量を基準とした。生鱗を原料とする場合、加圧蒸煮処理後の処理物中に魚鱗の主な成分であるリン酸カルシウムなどが含まれるため、あらかじめ脱灰処理を行った乾燥魚鱗を原料とする場合と比較して収率が悪くなる。
【0050】
また、加圧蒸煮処理時間を1分間とし、加圧蒸煮処理温度が170℃の場合、収率は21.29%であり、加圧蒸煮処理温度が180℃の場合、収率は36.64%であり、加圧蒸煮処理温度が190℃の場合、収率は46.27%であり、加圧蒸煮処理温度が200℃の場合、収率は29.29%であった。得られた魚鱗爆砕物1’は、爆砕処理直後は液体であった。
【0051】
[魚鱗爆砕物2]
魚鱗爆砕物1と同じ方法で、洗浄、脱灰した魚鱗を準備した。魚鱗を水蒸気爆砕装置に投入し、温度200℃で2分、3分、5分、7.5分、10分または15分間、圧力1.45MPaGで加圧蒸煮処理を行った。魚鱗を爆砕後、魚鱗爆砕物2が得られた。未破砕の魚鱗を遠心分離して除いた後、上清にエタノールを添加し、析出した成分を遠心分離によって沈殿させた。回収した沈殿物に蒸留水を加えて溶解した水溶液を、脱色および脱臭の目的で、活性炭カラムに通し、粗精製した。カラム通過液を凍結乾燥機に設置し、凍結乾燥させた(画分2A)。
【0052】
5分間加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗粉砕物2から凍結乾燥して得られた試料を、魚鱗爆砕物1と同じ方法でアミノ酸分析に供したところ、コラーゲンに特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリンの含有が認められた。さらに、アミノ酸の1000残基あたりの比率を確認すると、グリシンが全体の約1/3であり、またアラニン、ヒドロキシプロリン、プロリンの合計が全体の約1/3であって、コラーゲンに特有の比率を示していた。魚鱗爆砕物2には、コラーゲン由来の物質(分解物)が含まれると考えられる。また、魚鱗爆砕物2には、分子量が1万以上100万以下の物質が含まれていた。
【0053】
5分間の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物2のエタノール沈殿物に蒸留水を加えた水溶液に、有機溶剤(クロロホルム4:ブタノール1)を添加して混合した。これによりタンパク質が分離される。この混合液を遠心分離することにより、上層/中層/下層の三層に分離した。上層には多糖が、中層にはタンパク質が、下層には有機溶剤が含まれると考えられる。脱色および脱臭の目的で、上層を取り出して活性炭カラムに通し、粗精製した。カラム通過液を凍結乾燥機に設置し、凍結乾燥して固形状にした(画分2B)。
有機溶剤の代わりに、水溶液の5質量%程度の塩化カルシウムを添加してタンパク質を分離してもよい。この場合、混合物を遠心分離すると多糖溶液/タンパク質の二層に分離される。この多糖溶液を取り出して凍結乾燥すればよい。
【0054】
上層の溶液を凍結乾燥した試料をTSKgel GMPWXLカラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィに供したところ、分子量(数平均分子量)は、数百~数万の範囲であった。結果を表2に示す。
【0055】
【0056】
加圧蒸煮処理時間が2分の場合、収率は63.66%であり、加圧蒸煮処理時間が3分の場合、収率は65.14%であり、加圧蒸煮処理時間が5分の場合、収率は54.53%であり、加圧蒸煮処理時間が7.5分の場合、収率は53.94%であり、加圧蒸煮処理時間が10分の場合、収率は44.05%であり、加圧蒸煮処理時間が15分の場合、収率は61.31%であった。5分以上の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物2は、爆砕処理直後は粘性のある液体であった。この液体は、常温および4℃でゲル化しなかった。3分以下の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物2は、液体状であったが、一部はゲル状であった。
【0057】
[魚鱗爆砕物2’]
魚鱗として、洗浄のみを行い、脱灰を行わないバラマンディの生鱗を用いた。魚鱗を水蒸気爆砕装置に投入し、温度190℃で5分または10分間、圧力1.15MPaGで加圧蒸煮処理を行った。魚鱗を爆砕後、魚鱗爆砕物2’が得られた。未破砕の魚鱗を遠心分離して除いた後、上清にエタノールを添加し、析出した成分を遠心分離によって沈殿させた。回収した沈殿物に蒸留水を加えて溶解した水溶液を、脱色および脱臭の目的で、活性炭カラムに通し、粗精製した。カラム通過液を凍結乾燥機に設置し、沈殿物を凍結乾燥させた(画分2A)。
【0058】
5分間の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物2’にエタノールを添加して生じた沈殿物を、魚鱗爆砕物1と同じ方法でアミノ酸分析に供したところ、コラーゲンに特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリンの含有が認められた。さらに、アミノ酸の1000残基あたりの比率を確認すると、グリシンが全体の約1/3であり、またアラニン、ヒドロキシプロリン、プロリンの合計が全体の約1/3であって、コラーゲンに特有の比率を示していた。魚鱗爆砕物2’には、コラーゲン由来の物質(分解物)が含まれると考えられる。また、魚鱗爆砕物2’には、分子量が1万以上100万以下の物質が含まれていた。
【0059】
5分間の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物2’のエタノール沈殿物に蒸留水を加えた水溶液に、水溶液の5質量%の塩化カルシウムを添加して80℃で1時間加熱した。これによりタンパク質が分離される。この混合液を遠心分離して、上層/下層の2層に分離した。上層には多糖が、下層にはタンパク質が含まれると考えられる。上層の溶液を取り出して凍結乾燥して固形状にした(画分2B)。
【0060】
加圧蒸煮処理時間が5分の場合、収率は22.28%であり、加圧蒸煮処理時間が10分の場合、収率は16.69%であった。5分または10分間の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物2’は、粘性のある液体であった。魚鱗爆砕物2’は、常温および4℃でゲル化しなかった。
【0061】
また、加圧蒸煮処理温度が210℃、加圧蒸煮処理時間が1分のとき、収率は17.07%であった。得られた魚鱗爆砕物2’は、爆砕処理直後は粘性のある液体であった。
【0062】
[魚鱗爆砕物3]
魚鱗爆砕物1と同じ方法で、洗浄および脱灰した魚鱗を準備した。魚鱗を水蒸気爆砕装置に投入し、温度200℃で20分または30分間、圧力1.45MPaGで加圧蒸煮処理を行った。魚鱗を爆砕後、魚鱗爆砕物3が得られた。それぞれの魚鱗爆砕物3を遠心分離して未破砕の魚鱗沈殿物を除去し、脱色および脱臭の目的で、上清を活性炭カラムに通し、粗精製した。カラム通過液を凍結乾燥させた(画分3)。
【0063】
20分間の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物3を、魚鱗爆砕物1と同じ方法でアミノ酸分析に供したところ、コラーゲンに特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリンの含有が認められた。さらに、アミノ酸の1000残基あたりの比率を確認すると、グリシンが全体の約1/3であり、またアラニン、ヒドロキシプロリン、プロリンの合計が全体の約1/3であって、コラーゲンに特有の比率を示していた。
【0064】
液状の魚鱗爆砕物3をカラムとしてTSKgel G2500PWXL(東ソー株式会社)を用いたサイズ排除クロマトグラフィに供したところ、分子量(数平均分子量)は、数百~数千(低分子量)であった。結果を表3に示す。以上の結果から、魚鱗爆砕物3にはコラーゲンペプチドが含まれると考えられる。
【0065】
【0066】
加圧蒸煮処理時間が20分の場合、収率は72.75%であり、加圧蒸煮処理時間が30分の場合、収率は68.31%であった。20分または30分間の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物3は、爆砕処理直後は液体であった。魚鱗爆砕物3は、常温および4℃でゲル化しなかった。また、液体の魚鱗爆砕物3にエタノールを添加しても沈殿物は得られなかった。
【0067】
[魚鱗爆砕物3’]
魚鱗として、洗浄のみを行い、脱灰を行わないバラマンディの生鱗を用いた。魚鱗を水蒸気爆砕装置に投入し、温度190℃で20分、30分または40分間、圧力1.15MPaGで加圧蒸煮処理を行った。魚鱗を爆砕後、魚鱗爆砕物3’が得られた。それぞれの魚鱗爆砕物3’を遠心分離して未破砕の魚鱗沈殿物を除去し、脱色および脱臭の目的で、上清を活性炭カラムに通し、粗精製した。カラム通過液を凍結乾燥させた(画分3)。
【0068】
20分間の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物3’を、魚鱗爆砕物1と同じ方法でアミノ酸分析に供したところ、コラーゲンに特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリンの含有が認められた。さらに、アミノ酸の1000残基あたりの比率を確認すると、グリシンが全体の約1/3であり、またアラニン、ヒドロキシプロリン、プロリンの合計が全体の約1/3であって、コラーゲンに特有の比率を示していた。
【0069】
20分間の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物3’を凍結乾燥させた粉末試料を、カラムとしてTSKgel G2500PWXL(東ソー株式会社)を用いたサイズ排除クロマトグラフィに供したところ、分子量(数平均分子量)は、数百~数千(低分子量)であった。結果を表4に示す。以上の結果から、魚鱗爆砕物3’にはコラーゲンペプチドが含まれると考えられる。
【0070】
【0071】
加圧蒸煮処理時間が20分の場合、収率は12.30%であり、加圧蒸煮処理時間が30分の場合、収率は17.40%であり、加圧蒸煮処理時間が40分の場合、収率は13.47%であった。20分~40分間の加圧蒸煮処理を行って得られた魚鱗爆砕物3’は、爆砕処理直後は液体であった。魚鱗爆砕物3’は、常温および4℃でゲル化しなかった。また、液体の魚鱗爆砕物3’にエタノールを添加しても沈殿物は得られなかった。
【0072】
また、加圧蒸煮処理時間を1分として、加圧蒸煮処理温度が220℃の場合、収率は5.18%であり、加圧蒸煮処理温度が230℃の場合、収率は17.35%であり、加圧蒸煮処理温度が240℃の場合、収率は4.42%であった。得られた魚鱗爆砕物3’は、爆砕処理直後は粘性のある液体であった。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
[魚鱗爆砕物]
実施例で用いた魚鱗爆砕物の製造方法を
図3に示す。魚鱗としてバラマンディの魚鱗を使用した。魚鱗は冷凍保存されていたため、流水で解凍後、魚鱗を洗浄した。この工程では、魚皮および肉片を全て除去し、鱗に付着している粘性物質も取り除いた。目視で付着物が取り除かれた段階で、洗浄は完了したとみなした。
【0075】
250グラムの魚鱗を水蒸気爆砕装置に投入し、温度190℃で5分間、圧力1.15MPaGで加圧蒸煮処理を行った。魚鱗を爆砕後、690~1000mLの魚鱗爆砕物が得られた。得られた魚鱗爆砕物は、常温および4℃で固化しなかった。魚鱗爆砕物を3000rpm、10分間遠心分離し、未破砕の魚鱗沈殿物(固体)と上清(液体)に分けた。沈殿物が混入しないように上清を別の容器に回収した。脱色および脱臭の目的で、上清を活性炭カラムに通し、粗精製した。カラム通過液に終濃度85体積%となるようにエタノールを添加し、ガラス棒で撹拌した。パラフィルムで容器に蓋をし、4℃または常温で一晩静置した。溶液を3000rpm、10分間遠心分離し、沈殿物を回収した。沈殿物を-20℃で2時間予備凍結させた。沈殿が十分に凍結したら、凍結乾燥機に設置し、凍結乾燥させた。約72時間以内に、凍結乾燥が完了していることが目視で確認された。後述の実験では、魚鱗爆砕物として、凍結乾燥させた粉末試料を用いた。以下の実施例において培地に添加される魚鱗爆砕物の濃度は、培地全体の質量に対する濃度である。
【0076】
[幹細胞の前培養]
培養器は、あらかじめマウス胎児線維芽細胞(MEF、Sigma-aldrich、PMEF-CFL-P1)で被覆した。培養液はDMEM(GIBCO)に、10%(v/v) fetal bovine serum (FBS、Equitech-Bio Inc)、0.5%(v/v) penicillin-streptomycin(GIBCO)を添加したものを用いた。あらかじめ、Mitomycin C(Sigma-aldrich) 10μg/mlの濃度で37℃、3時間処理したMEFを凍結保存した。解凍後、ゼラチン(Sigma-aldrich)コートした6well dishに3×105cells/wellで細胞を播種し、6時間から一晩置いてから使用した。
【0077】
幹細胞として、ヒトiPS細胞(253G0、Kyoto University)を準備した。培養液は、DMEM/F12に20%(v/v) knockout serum replacement (KSR、GIBCO)、100μM Non Essential Amino Acid (NEAA)、20mM L-glutamine(GIBCO)、100μM 2-mercaptethanol(Sigma-aldrich)、0.5%(v/v) penicillin-streptomycin(Wako、168-23191)を添加したものを使用した。5%CO2雰囲気下、37℃のインキュベータ(Sanyo)内でMEFと共培養し、4-5日ごとに継代を行なった。
【0078】
[位相差顕微鏡下での観察]
コロニーのスクリーニングを位相差顕微鏡(OLYMPUS IX71)で行なった。小型で、核・細胞質比が大きい細胞がコロニーの大半を占め、コロニーの辺縁が明確で、異常な大型の細胞や紡錘形の細胞をほとんど含まないコロニーを未分化コロニーとした。
【0079】
[アルカリフォスファターゼ(ALP)染色による未分化性の解析]
ALP染色にはAP発色キット(Bio-Rad、1706432)を使用した。具体的な手順を次に示す。
1)ヒトiPS細胞が接着したディッシュを37℃の0.02M PBS(pH7.4)で1回洗浄した。
2)4% PFA(Paraformaldehyde、Wako)を入れて、室温で20分間放置し、細胞を固定した。
3)室温で0.02M PBS(pH7.4)を添加し、5分間静置する操作を3回繰り返した。
4)AP発色キット(Bio-Rad)中の試薬A 10μLと試薬B 10μLとを予め希釈した発色バッファー1mLに混合し、この混合液をディッシュに流し込み、室温で15分間放置した。
5)蒸留水を添加し、37℃で5分間静置する操作を3回繰り返すことで、発色反応の停止と洗浄を行った。
6)顕微鏡(OLYMPUS IX71)を使用し、400倍で観察した。
【0080】
[Real-time PCR法による未分化性の解析]
[1]まず、以下の手順に従って、RNAを抽出した。
1)iPS細胞が接着しているディッシュにトリゾール(TRI Reagent、Molecular Research Center,Inc.)1.0mLを加え、ピペッティングにより細胞を剥がした。
2)細胞懸濁液を1.5mLマイクロチューブに移し、室温で5分間静置した。
3)0.2mLのクロロホルム(Wako)を加え、30秒間混和した後に10分間室温で静置した。
4)卓上小型冷却遠心機(Centrifuge 5415R、エッペンドルフ社)を用いて13500rpm、15分間、4℃で遠心し、無色透明の上層(水相)、白色の中間層、赤色の下層(有機相)の三層に分離し、上層(水相)を新しいチューブに移しかえた。
5)イソプロピルアルコール(Wako)を0.5mL加えて5分間混和した後、室温で10分間静置した。
6)13500rpm、10分間、4℃で遠心し、上清を除去した。
7)70%エタノールを加え、5分間混和し、8000rpm、10分間、4℃で5分間遠心し、上清を除去した。
8)サンプルチューブを逆さにし、インキュベータ内で乾燥させた。
9)30μLのRNase-free waterを入れ、ピペッティングした。
10)吸光度計(NanoDrop Lite UV-Vis Spectrophotometer、Thermo Fisher Scientific)を用いてRNAの量を測定した。
【0081】
[2]続いて、DNAの除去およびRNAの逆転写を、PrimeScript RT reagent Kit with gDNA Eraser(Perfect Real Time)(タカラバイオ)を用いて行った。
1)DNA除去反応
下記に示すゲノムDNA除去反応液(1反応当たり)を氷上で調製した。
5×gDNA Eraser Buffer 2.0μL
gDNA Eraser 1.0μL
total RNA 1.0μg
RNase Free dH
2
O 残量
Total 10.0μL
42℃で2分間反応(DNA除去)を行った後、4℃で保存した。
【0082】
2)逆転写反応
下記に示す逆転写反応液を氷上で調製した。
上記1)の反応液(ゲノムDNA除去反応液) 10.0μL
5×PrimeScript Buffer 4.0μL
PrimeScript RT Enzyme Mix I 1.0μL
RT Primer Mix 1.0μL
RNase Free dH
2
O 4.0μL
Total 20.0μL
37℃で15分、85℃で5秒反応させた後、4℃で保存した。
上記1)DNA除去反応および2)逆転写反応にはThermal Cycler Dice Touch(タカラバイオ、Model:TP350)を使用した。
【0083】
[3]Real-time PCR
逆転写反応を行った後、TB Green Premix Ex Taq II (Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ)を用いて、リアルタイムPCRを行った。
1)下記に示すPCR反応液(1反応当たり)を調製した。
TB Green Premix Ex Taq II(2×) 12.5μL
PCR Forward Primer(10μM) 1μL
PCR Reverse Primer(10μM) 1μL
上記逆転写反応液(cDNA液) 2μL
滅菌精製水 8.5μL
Total 25μL
【0084】
2)PCR反応は、下記のシャトルPCR標準プロトコールで行った。
Hold (1Cycle) 95℃ 30秒
2STEP PCR (40Cycle) 95℃ 5秒
60℃ 30~60秒
Dissociation
【0085】
PCR反応終了後、増幅曲線と融解曲線を確認し、検量線を作成した。比較Ct法により発現量を比較した。リアルタイムPCRにはThermal Cycler Dice Real Time System(タカラバイオ、Model:TP850)を使用した。リアルタイムPCRで使用したプライマーの配列を表5に示す。
【0086】
【0087】
[免疫染色法による未分化性の解析]
1)ヒトiPS細胞が接着したディッシュを37℃の0.02M PBS(pH7.4)で1回洗浄した。
2)4%PFA(Wako、162-16065)を入れ、室温で20分間放置し、細胞を固定した。
3)PFAを除いた。0.02M PBS(pH7.4)を添加し、室温で5分間静置して洗浄する操作を3回繰り返した。
4)0.25%Triton X-100(Wako、A16046)を含む0.02M PBSを添加し、室温で15分間静置することで抗原賦活処理を行った。
5)0.02M PBS(pH7.4)を添加し、4分間静置する操作を3回繰り返した。
6)blocking solutionI(1.5% goat normal serum(Vector Laboratories、S-1000)/0.02M PBS、pH7.4)を添加し、室温で1時間以上静置した。
7)1次抗体液(Oct4抗体(Santa Cruz Biotechnology、品番SC-5279)をblocking solutionIで300倍希釈した溶液)を添加し、4℃で一晩静置した。
8)0.02M PBS(pH7.4)を用い、室温で5分間放置して洗浄する操作を3回繰り返した。
以下の操作は暗室内で行った。
9)予め作成した二次抗体液(goat anti-mouse IgG 488(Invitrogen、A-21121)をblocking solutionIで1000倍希釈した溶液。10000倍希釈したDAPIを含む。)を添加し、室温にて1時間静置し、二次抗体反応を行った。
10)0.02M PBS(pH7.4)を用い、室温で5分間放置して洗浄する操作を3回繰り返した。
11)サンプルに封入剤を1滴滴下し、カバーガラスで封入した。
12)試料を蛍光顕微鏡(KEYENCE BZ-X700)にて、400倍で観察した。
【0088】
(実験1)
魚鱗爆砕物を2.5質量%、1.25質量%、0.625質量%または0質量%含む培地で、iPS細胞を培養した。フィーダー細胞存在下で、ゼラチンでコーティングした6well dishに、3×105cells/wellで細胞を播種し37℃、5%CO2の条件で培養した。基礎培地としては、前培養で用いた培地と同じ培地を用いた。毎日培地を交換しながら、継代を行わずに14日間培養した。
【0089】
培養14日目のiPS細胞の位相差光学顕微鏡画像を
図4に示す。魚鱗爆砕物を2.5質量%および1.25質量%含む培地を用いて培養されたiPS細胞は、コロニー中の細胞が小さく、丸い形状をしており、未分化状態を維持していると考えられる(
図4AおよびB)。魚鱗爆砕物を0.625質量%含む培地を用いて培養されたiPS細胞は、一部に大型で多角形の扁平状の細胞が見られたが、多くの細胞は未分化状態を維持していると考えられる(
図4C)。魚鱗爆砕物を含まない培地で培養されたiPS細胞は、大部分が分化していた(
図4D)。
【0090】
(実験2)
実験1と同じ方法で、魚鱗爆砕物を2.5質量%、1.25質量%、0.625質量%、0.312質量%または0質量%含む培地を用いて、14日間培養したiPS細胞をALP染色した。ALP染色画像を
図5に示す。アルカリフォスファターゼは、ES細胞、EG細胞およびiPS細胞を含む全ての多能性幹細胞で高発現しており、未分化状態で高い活性を示す未分化マーカーとして使用されている。ALPの組織学的染色によれば、多能性幹細胞の分化/未分化を容易に判断することができる。染色が薄い部分は分化したことを、染色が濃い部分は未分化であることを示す。
【0091】
魚鱗爆砕物を2.5質量%含む培地を用いて培養された幹細胞は、コロニーの大きさが少し小さいものの、コロニー全体が染色されており、未分化状態を維持していると考えられる(
図5A)。魚鱗爆砕物を1.25質量%含む培地を用いて培養された幹細胞は、コロニー全体が染色されており、未分化状態を維持していると考えられる(
図5B)。魚鱗爆砕物を0.625質量%含む培地を用いて培養された幹細胞は、コロニーの外周部で分化している細胞が見られるが、多くの細胞では未分化状態を維持していると考えられる(
図5C)。魚鱗爆砕物を0.312質量%含む培地を用いて培養された幹細胞は、コロニーの中心部で分化している細胞が見られた(
図5D)。魚鱗爆砕物を含まない培地を用いて培養された幹細胞は、コロニーが肥大化しており、コロニー外周部で分化している細胞が見られた(
図5E)。
【0092】
(実験3)
実験1と同じ方法で、魚鱗爆砕物を2.5質量%、1.25質量%、0.625質量%または0質量%含む培地を用いて、7日間、14日間または21日間継代せずにiPS細胞を培養した。培養後、Oct3/4、NanogおよびSox2のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより検出した。結果を
図6に示す。Oct3/4、NanogおよびSox2は多能性幹細胞の代表的な未分化マーカーである。
【0093】
魚鱗爆砕物を含まない培地で培養した4日目のiPS細胞でのmRNA発現量を1とした。魚鱗爆砕物を含む培地を用いて培養されたiPS細胞は、長期間、特に14日および21日間培養を継続しても、Oct3/4、NanogおよびSox2のmRNA発現量が高く維持されていた(
図6)。魚鱗爆砕物を含まない培地を用いて培養されたiPS細胞では、魚鱗爆砕物を含む培地を用いて培養されたiPS細胞に比べて、これらの未分化マーカーの発現は低かった。
【0094】
(実験4)
実験1と同じ方法で、魚鱗爆砕物を2.5質量%、1.25質量%、0.625質量%または0質量%含む培地を用いて、14日間培養したiPS細胞を、抗Oct4抗体で免疫染色し、Oct4のタンパク質発現量を確認した。染色結果を
図7に示す。Oct4は、POUドメインを有する転写因子で、初期胚発生およびES細胞の多能性維持等に重要な役割を果たすことが知られている。
【0095】
魚鱗爆砕物を含む培地を用いて培養されたiPS細胞は、魚鱗爆砕物を含まない培地を用いて培養されたiPS細胞に比べて、Oct4陽性細胞の割合が多かった(
図7)。
【0096】
実験3および実験4の結果から、魚鱗爆砕物を含む培地、特に魚鱗爆砕物を1.25質量%および2.5質量%含む培地を用いて培養されたiPS細胞は、魚鱗爆砕物を含まない培地を用いて培養されたiPS細胞に比べて、未分化マーカーのmRNA転写量およびタンパク質発現量が共に高く、幹細胞の未分化状態が良好に維持されていることがわかった。
【0097】
(実験5)
実験1と同じ方法で、魚鱗爆砕物を1.25質量%または0質量%含む培地を用いて14日間iPS細胞を培養した後、継代を行った。フィーダー細胞存在下で、ゼラチンでコーティングした6well dishに、3×10
5cells/wellで細胞を播種し37℃、5%CO
2の条件で培養した。培地は、前培養で用いた培地と同じ培地を用い、魚鱗爆砕物を含まない。継代後1日目のコロニーの位相差光学顕微鏡画像を
図8に示す。
【0098】
魚鱗爆砕物を1.25質量%含む培地を用いて培養したiPS細胞は、継代後にコロニーが形成されており、形態的特徴から、未分化状態が維持されていると考えられる(
図8AおよびB)。魚鱗爆砕物を含まない培地を用いて培養したiPS細胞は、継代後はコロニーが形成されず、細胞の多くは扁平な形状をしており、形態的特徴から、未分化状態が維持されていないと考えられる(
図8CおよびD)。
【0099】
(実験6)
実験5で継代した細胞を4日目まで継続して培養を行い、未分化マーカーのmRNA発現量を解析した。結果を
図9に示す。魚鱗爆砕物を含まない培地で培養した4日目のiPS細胞でのmRNA発現量を1とした。魚鱗爆砕物を含む培地を用いて培養したiPS細胞は、魚鱗爆砕物を含まない培地で培養したiPS細胞に比べて、継代後の未分化マーカー、特にOct3/4およびSox2の発現量が高く維持されていた。未分化マーカーの高発現維持は、魚鱗爆砕物を1.25質量%含む培地を用いて培養したiPS細胞で特に顕著であった。
【0100】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0101】
10 水蒸気爆砕装置、12 ボイラ、13 純水器、14 ポンプ、15 リアクター、16 ホッパー、17,18,19 バルブ、20 パイプ、21 受け槽、22 サイレンサー、23 取り出し口。