(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】レンズユニット
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20240704BHJP
【FI】
G02B7/02 A
G02B7/02 Z
G02B7/02 B
G02B7/02 D
(21)【出願番号】P 2020038067
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】井上 道夫
【審査官】藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-179179(JP,A)
【文献】特開昭61-097609(JP,A)
【文献】特開2011-145505(JP,A)
【文献】特開2016-157041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02 - 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のガラスレンズのみからなる第1のレンズ群と、
1又は複数のプラスチックレンズのみからなる第2のレンズ群と、
前記第1のレンズ群及び前記第2のレンズ群を収容する鏡筒と、
前記第1のレンズ群を前記鏡筒に締結する第1のリテーナと、
前記第2のレンズ群を前記鏡筒に締結する第2のリテーナと
を備えており、
前記第1のリテーナ及び前記第2のリテーナは、
前記第1のリテーナによる前記第1のレンズ群に対する締結力が、前記第2のリテーナによる前記第2のレンズ群に対する締結力よりも大きくなるように、前記第1のレンズ群及び前記第2のレンズ群を前記鏡筒に締結することを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記第1のリテーナ及び前記第2のリテーナは、弾性を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記鏡筒は、前記第1のレンズ群および前記第2のレンズ群が当接する保持部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記第1のリテーナは、
前記鏡筒の外周に締結される第1の締結部と、
前記
第1の締結部に接続され前記鏡筒の外周を覆う第1の筒部と、
前記第1のレンズ群に係合する係合部と
を備えていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記第2のリテーナは、
前記鏡筒の内周に締結される第2の締結部と、
前記
第2の締結部に接続された第2の筒部と
を備えており、前記
第2の筒部には複数の開口が形成されている
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のレンズユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズユニットやレンズ保持構造において、レンズのガタを低減させる技術が提案されている。このような技術としては、例えば、複数のレンズが組み込まれた樹脂製鏡筒を有し、リテーナによりレンズを締結するレンズユニットが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、上記の技術としては、光学面と非光学面とを有するレンズを有し、当該非光学面と当該非光学面に対向する鏡筒における面のうち、一方の面に複数のガイド部が一体に設け、他方の面にガイド部に係合する係合部を設ける構成が知られている(例えば、特許文献2参照)。
また、上記の技術として、1つ以上のレンズと、1つ以上のレンズを保持するレンズ枠部材と、レンズ枠部材の前端面に結合され、最前部のレンズを弾性的に押圧する押圧部材とを備えるレンズ保持構造が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-179179号公報
【文献】特開2010-78920号公報
【文献】特開2017-161650公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンズユニットは、使用される環境等に応じて、温度変化に晒される。このような温度変化が生じても、レンズユニットにおけるレンズの変位を抑制することが求められる。
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、圧入にてレンズを組み込むためプラスチックレンズの変形が発生することがある。また、激しい温度変化によりプラスチックレンズが圧縮される方向に膨張収縮が発生した場合、さらにプラスチックレンズに変形が増大するため、プラスチックレンズの変形を所定値以下に抑えるのは困難である。
【0006】
また、特許文献2の技術では光軸方向の付勢力がないため、レンズと光軸位置との変化が発生することがある。
【0007】
また、特許文献3の技術では、押圧部材により内部構成部材をすべて保持する必要がある。このため、内部構成部材にガラスレンズとプラスチックレンズとが含まれている場合、重量の大きなガラスレンズを保持するために大きな付勢力を付与する必要がある。そして、その大きな付勢力がプラスチックレンズに加わるためプラスチックレンズの変形が発生しやすい。
本発明の一態様は、ガラスレンズとプラスチックレンズの双方を含むレンズユニットにおいて、温度変化による各レンズの変位を抑制可能なレンズユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るレンズユニットは、1又は複数のガラスレンズを含む第1のレンズ群と、1又は複数のプラスチックレンズを含む第2のレンズ群と、前記第1のレンズ群及び前記第2のレンズ群を収容する鏡筒と、前記第1のレンズ群を前記鏡筒に締結する第1のリテーナと、前記第2のレンズ群を前記鏡筒に締結する第2のリテーナとを備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、ガラスレンズとプラスチックレンズの双方を含むレンズユニットにおいて、温度変化による各レンズの変位を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1に係るレンズユニットの構成を示す断面図である。
【
図2】実施形態1に係るレンズユニットが備える各構成を、撮像装置の本体と共に示す分解斜視図である。
【
図3】実施形態2に係るレンズユニットの構成を示す断面図である。
【
図4】実施形態2に係るレンズユニットが備える各構成を、撮像装置の本体と共に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るレンズユニットの実施の形態を説明する。ただし、以下に説明するレンズユニットは、本発明に係るレンズユニットの一態様であって、本発明に係るレンズユニットは以下の態様に限定されない。
【0012】
〔実施形態1〕
(全体構成)
まず、
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係るレンズユニット100の全体構成について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係るレンズユニット100の構成を示す断面図である。より具体的には、
図1は、後述する第1の嵌合部140と第2の嵌合部180との嵌合箇所を含む切断面であって、軸方向に沿った切断面にて切断した断面図である。
【0014】
図2は、
図1におけるレンズユニット100が備える各構成を、撮像装置の本体210と共に示す分解斜視図である。
【0015】
図1に示すように、レンズユニット100は、第1のレンズ群123、第2のレンズ群145、対物側リテーナ(第1のリテーナ)10、スペーサ16、像面側リテーナ(第2のリテーナ)17、及び、鏡筒18を備えている。レンズユニット100は、本体210に保持されるように構成されている。
【0016】
(各部の構成)
第1のレンズ群123及び第2のレンズ群145は、鏡筒18に収容される。第1のレンズ群123には、一例として三枚のガラスレンズ11~13が含まれ、第2のレンズ群145には、一例として、二枚のプラスチックレンズ14、15が含まれる。上記レンズは、いずれも、径方向における位置を決めるための構成を有している。このような位置決めのための構成の例には、凹条とそれに嵌合する凸条、穴とそれに嵌合するボス、一方のレンズの特定形状の凸面と、それに隣り合う他方のレンズの上記特定形状に合致する凹面、および、レンズの外周壁部とそれに当接する鏡筒18内周壁部、が含まれる。このように、複数のレンズは、鏡筒18に収容される際に、径方向において決められた特定の位置に案内され得るように構成されている。
【0017】
なお、本実施形態では、三枚のガラスレンズ及び二枚のプラスチックレンズを示したが、ガラスレンズ及びプラスチックレンズの数量についてこれに限定されず、ガラスレンズの数は一枚でも二枚でもよいし、四枚以上であってもよい。また、プラスチックレンズの数は、一枚でもよいし三枚以上であってもよい。
【0018】
プラスチックレンズ14の外縁部には、プラスチックレンズ14の厚さ方向に沿って延伸する溝140を有している。溝140は、プラスチックレンズ14の外縁部に3箇所設けられている。より詳しくは、溝140は、平面視したときのプラスチックレンズ14の中心を対称中心として、三回対称の位置に設けられている。
【0019】
対物側リテーナ10は、略円筒体であり、樹脂で構成されており、弾性を有している。対物側リテーナ10は、鏡筒18の外周に締結される第1の締結部101と、締結部101に接続され鏡筒18の外周を覆う第1の筒部102と、第1の筒部102の対物側の開口部における内周面に形成された係合部103とを備えている。ここで、係合部103は、第1のレンズ群123のうち最も対物側のレンズであるガラスレンズ11に係合する。
【0020】
スペーサ16は、ガラスレンズ12とガラスレンズ13との間に介在するスペーサである。スペーサ16は、軸方向におけるガラスレンズ12とガラスレンズ13との間に所定の大きさの間隙を形成している。ガラスレンズ12に接するスペーサ16の対物側の端縁には、複数(例えば六つ)の凸部が形成されている。
【0021】
像面側リテーナ17は、略円筒体である。また、像面側リテーナ17は、樹脂で構成されており、弾性を有している。像面側リテーナ17は、像面側に位置する締結部(第2の締結部)170と、締結部170に接続され、締結部170よりも対物側に位置する筒部(第2の筒部)171とを備えている。
【0022】
締結部170は、その外周面に螺合部172を有しており、その内周面に雌ねじを有している。螺合部172は、例えば雄ねじである。
【0023】
筒部171は、円筒形状の部分であり、その対物側の端面には、周方向において等間隔に並ぶ複数(例えば六つ)の突起174を有している。
【0024】
鏡筒18は、樹脂製の略円筒状の部材であり、対物側および像面側の両端に開口部を有する。鏡筒18は、一例として、繊維強化型の樹脂製とすることができるが、これは本実施形態を限定するものではない。また、
図1に示すように、鏡筒18は、段部(保持部)181を有している。鏡筒18内において、段部181よりも対物側には第1の空間18Aが形成されており、段部181よりも像面側には第2の空間18Bが形成されている。
【0025】
軸方向における鏡筒18の対物側の外周面には、雄ねじが形成されている。当該雄ねじは、対物側リテーナ10の内周面の雌ねじに螺合するように形成されている。また、軸方向における鏡筒18の像面側の内周面には、雌ねじが形成されている。当該雌ねじは、像面側リテーナ17の螺合部172に螺合するように形成されている。
【0026】
また、
図1に示すように、鏡筒18の軸方向における中央部には、内周壁面から突出する段部181が形成されている。段部181は、軸方向に沿って見たときに略円環状の部分であり、鏡筒18の軸方向における当該段部181の両端面は、鏡筒18の軸方向に直交する方向に沿って鏡筒18の内周壁面から延出する平面である。
【0027】
像面側の端面には、当該端面から突出する凸部180が形成されている。凸部180は、段部181の中心を対称中心として三回対称の位置に配置されている。凸部180は、プラスチックレンズ14の溝140に嵌合する形状に形成されている。
【0028】
なお、鏡筒18は、プラスチックレンズ14に比べて線膨張係数が相対的に小さい材料で構成されている。
【0029】
(配置)
まず、前述の段部181よりも対物側、すなわち第1の空間18A側におけるレンズの配置を説明する。鏡筒18の対物側の開口部からは、ガラスレンズ13、スペーサ16、ガラスレンズ12およびガラスレンズ11がこの順で収容される。次いで、対物側リテーナ10が、鏡筒18の開口部側から鏡筒18に被さり、対物側リテーナ10の内周面側の雌ねじと、鏡筒18の外周面における対物側の雄ねじとが螺合する。こうして、対物側リテーナ10は、鏡筒18の軸方向に沿って本体210側へ進出し、鏡筒18に対して締着する。
【0030】
前述したように、ガラスレンズ13、スペーサ16、ガラスレンズ12およびガラスレンズ11は、いずれも、互いが鏡筒18の径方向において光軸を一にする位置関係とする位置決めのための構造を適宜に有している。よって、当該径方向において、鏡筒18の軸を光軸とする位置でガラスレンズ13、ガラスレンズ12およびガラスレンズ11は、上記段部181よりも対物側において鏡筒18に収容される。このように、第1のレンズ群123は、鏡筒18内において、ガラスレンズ13で段部181に当接し、第1の空間18Aに収容され、対物側リテーナ10と段部181との間に締結されている。
【0031】
また、ガラスレンズ11は、対物側リテーナ10の前述した係合部103に係合し、上記の締着に伴って本体210側に押圧される。こうして、対物側リテーナ10は、ガラスレンズ11、12、スペーサ16およびガラスレンズ13を、鏡筒18の軸方向に沿って対物側から押圧する。このため、ガラスレンズ13、ガラスレンズ12およびガラスレンズ11は、上記段部181よりも対物側において、鏡筒18の軸を光軸とする位置で、上記段部181よりも対物側において鏡筒18に固定される。
【0032】
次に、段部181よりも像面側、すなわち第2の空間18B側におけるレンズの配置を説明する。本体210における鏡筒18の像面側の開口部からは、プラスチックレンズ14およびプラスチックレンズ15がこの順で収容される。プラスチックレンズ14は、その周縁部で段部181に当接し、当該段部181から起立する三つの凸部180のそれぞれと、プラスチックレンズ14の三つの溝140のそれぞれとが嵌合する。これにより、プラスチックレンズ14の径方向の変位が十分に抑制される。
【0033】
また、前述したように、プラスチックレンズ14およびプラスチックレンズ15は、いずれも、互いが鏡筒18の径方向において光軸を一にする位置関係とする位置決めのための構造を適宜に有している。よって、当該径方向において、プラスチックレンズ14およびプラスチックレンズ15は、上記段部181よりも像面側において、鏡筒18の軸を光軸とする位置で鏡筒18に収容される。
【0034】
像面側リテーナ17は、鏡筒18の像面側の開口部から鏡筒18に挿入される。像面側リテーナ17の締結部172における螺合部172は、鏡筒18の内周面の雌ねじと螺合する。こうして、像面側リテーナ17は、鏡筒18の軸方向に沿って対物側へ進出し、鏡筒18に対して締着する。前述したように像面側リテーナ17は樹脂製であり、筒部171がプラスチックレンズ15に当接する。よって、プラスチックレンズ14およびプラスチックレンズ15は、像面側リテーナ17の弾性によって鏡筒18の軸方向に付勢されながら、鏡筒18内の鏡筒18の軸を光軸とする位置で固定される。このように、第2のレンズ群145は、鏡筒18内において、プラスチックレンズ14で段部181に当接し、第2の空間18Bに収容され、像面側リテーナ17と段部181との間に締結されている。上記のように、それぞれのレンズ群123、145が鏡筒18内において段部181に当接することから、各リテーナ10、17の締結力を好適に調整することができる。
【0035】
像面側リテーナ17の対物側の端面は、前述したように突起174有しており、筒部171は、突起174を介してプラスチックレンズ15に当接している。このため、プラスチックレンズ15に当接する筒部171が適度な弾性が生じる。したがって、像面側リテーナ17は、より好適な押圧力でプラスチックレンズ14、15を押圧する。
【0036】
また、鏡筒18は、前述したように、プラスチックレンズ14に比べて線膨張係数が相対的に小さい材料で構成されている。したがって、常温時に溝140と凸部180とが実質的に同寸法であると、高温時には、溝140の寸法の方が大きくなる。このため、高温時おいて、凸部180の膨張によって溝140が押圧され、その結果プラスチックレンズ14が変形することが防止される。この場合でも、像面側リテーナ17は、その弾性によってプラスチックレンズ14、15を軸方向に沿って段部181に向けて適切に押圧する。よって、凸部180と溝140との間に隙間が生じたとしても、プラスチックレンズ14、15における径方向への位置のずれは防止される。
【0037】
このように、レンズユニット100は、像面側リテーナ17を用いて、プラスチックレンズ14、15を鏡筒18に固定する。したがって、プラスチックレンズ14を圧入により収容する場合に比べて、プラスチックレンズ及び鏡筒における歪の発生を抑制できる。
【0038】
また、レンズユニット100は、溝140と凸部180との嵌合によって、プラスチックレンズ14の径方向の変位を好適に抑制することができる。また、像面側リテーナ17がプラスチックレンズ14、15を軸方向に適度に押圧するので、プラスチックレンズ14、15の光軸方向の変位が好適に抑制され、さらに径方向への変位もが十分に抑制される。したがって、レンズユニット100は、比較的高い温度を含む温度範囲内で温度の変化が発生しても、プラスチックレンズの変位を好適に抑制することができる。
【0039】
(対物側リテーナと像面側リテーナの締結力)
ここで、対物側リテーナ10及び像面側リテーナ17の締結力について説明する。対物側リテーナ10及び像面側リテーナ17は、対物側リテーナ10による第1のレンズ群123に対する締結力が、像面側リテーナ17による第2のレンズ群145に対する締結力よりも大きくなるように、第1のレンズ群123及び第2のレンズ群145を鏡筒18に締結する。
【0040】
一般に、ガラスレンズ11~13の材料はプラスチックレンズ14,15の材料に比べて、2~3倍の比重を持ち得る。このため、レンズユニット100に対して振動や衝撃が加わった場合、ガラスレンズ11~13を含む第1のレンズ群123は、プラスチックレンズ14、15を含む第2のレンズ群145よりも大きな衝撃力を生じる。
【0041】
本実施形態では、対物側リテーナ10によるガラスレンズ11~13に対する締結力が、像面側リテーナ17によるプラスチックレンズ14,15に対する締結力よりも大きいので、プラスチックレンズ14,15に過度な締結力による変位を発生させることなく、ガラスレンズ11~13を好適に締結することができる。
【0042】
(効果)
以上に説明したように、レンズユニット100は、温度変化が発生してもレンズ群の各レンズの変位を十分に抑制することができる。
【0043】
レンズユニット100の用途の一例として、車載センシング用レンズユニットが挙げられる。この用途では、低温側は-40℃、高温側は100℃を超える高温においても、パンフォーカスで使用され、性能を維持することが求められる場合がある。更に、高温側は120~125℃での長期保存試験においても性能劣化がないことを要求されることもある。
【0044】
従来、オートフォーカス機構を有する民生用製品、あるいはパンフォーカスであっても数十万画素から200万画素程度で使用されることが多いビューイング用レンズユニットでは、保持によるレンズ変形又はレンズ変位が数ミクロン~数十ミクロンあっても実使用上問題にならなかった。
【0045】
しかしながら、上述のような車載センシング用レンズユニットでは、それらの変位を1ミクロン以下に抑えることが要求される場合もある。
【0046】
このような環境下での使用に耐えうる鏡筒材料として、繊維強化型のプラスチック鏡筒が用いられることが多い。しかしながら、繊維強化型のプラスチック鏡筒は、樹脂の流れ方向(MD)と流れに垂直な方向(TD)の異方性を有する。このため、一例として、MD方向の線膨張係数を1.5×10-5、TD方向の線膨張係数を3.0×10-5とした場合では、車載センシング用レンズユニットとして許容される変位量を超えることがある。
【0047】
より詳しくは、各方向における距離10mmの部分での変位量Δは、温度が20℃から-40℃に変化する場合では、それぞれ、MD方向で-0.008mm、TD方向で-0.016mmとなる。また、温度が20℃から120℃に変化する場合では、それぞれ、MD方向でΔ0.015mm、TD方向でΔ0.03mmとなる。このように、温度変化に強いとされている繊維強化型のプラスチック鏡筒であっても、繊維配向の違いによる変形が発生する可能性がある。
【0048】
また、プラスチックレンズについても同様である。たとえば、外径を10mm、線膨張係数を7.0×10-5とすると、温度が20℃から-40℃に変化する場合では、当該プラスチックレンズの外径の変位量ΔLは-0.042mmとなり、20℃から120℃への温度変化では、ΔLは0.07mmとなる。
【0049】
一般に、径方向に押圧してプラスチックレンズを保持する構成の場合、温度膨張収縮によって、プラスチックレンズ外径と鏡筒内径との間に大きなガタが発生し、レンズシフト移動が発生し得る。
【0050】
しかしながら、本実施形態に係るレンズユニット100によれば、プラスチックレンズと鏡筒の線膨張係数差が大きく、かつ-40℃~120℃のような大きな温度差があるような環境下においてもプラスチックレンズの変形を抑えながら、かつ高精度に位置決めおよび保持ができる。
【0051】
また、プラスチック製鏡筒材料の樹脂配向差が大きい材料であって、鏡筒の不均一膨張収縮が発生しても、像面側リテーナ17での付勢によりプラスチックレンズの位置ズレを防ぐことができる。
【0052】
また、第2の嵌合部180が備える凸部の直径と、第1の嵌合部140が備える溝の幅を小さくすればするほど、常温時に対する温度差ΔTによる寸法変化による変形を抑えることができる。
【0053】
このように、本実施形態に係るレンズユニット100によれば、温度膨張収縮が発生するような場合であっても、レンズシフト移動を招来することなく高精度な保持を実現することができる。
【0054】
また、上述のように、対物側リテーナ10及び像面側リテーナ17は、対物側リテーナ10による第1のレンズ群123に対する締結力が、像面側リテーナ17による第2のレンズ群145に対する締結力よりも大きくなるように、第1のレンズ群123及び第2のレンズ群145を鏡筒18に締結するので、プラスチックレンズ14,15に過度な締結力による変位を発生させることなく、ガラスレンズ11~13を好適に締結することができる。
【0055】
(実施形態1における変形例)
プラスチックレンズ14を鏡筒18の径方向において位置決めし、固定する構造は、溝140及び凸部180に限定されない。たとえば、鏡筒18が溝を有しており、プラスチックレンズ14が凸部を有していてもよい。
【0056】
さらに、レンズユニット100は、本実施形態の効果が得られる範囲において、さらなる部材を有していてもよい。たとえば、レンズユニット100は、プラスチックレンズ14と像面側リテーナ17との間には、プラスチックレンズ15に代えて、又はプラスチックレンズ15と共に、他のレンズ、スペーサ、及び遮光ワッシャーの少なくとも何れかを含む光学部材を備える構成としてもよい。このような構成においては、像面側リテーナ17により、他のレンズ、スペーサ、及び遮光ワッシャー等も光軸方向に押圧される。このため、これらの光学部材の光軸に対する変位が好適に抑制され得る。
【0057】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0058】
図3は、本実施形態に係るレンズユニット100aの構成を示す断面図である。より具体的には、
図3は、第1の嵌合部140と第2の嵌合部180とが嵌合した状態を、これらの嵌合箇所を含む軸方向に沿った切断面にて切断した断面図である。
図4は、
図3におけるレンズユニット100aが備える各構成を、撮像装置の本体210と共に示す分解斜視図である。
【0059】
図3、
図4に示すように、レンズユニット100aは、実施形態1に係るレンズユニット100が備える像面側リテーナ17に代えて、第1の像面側リテーナ17aと第2の像面側リテーナ17bとを備えている。また、第1の像面側リテーナ17aと第2の像面側リテーナ17aとの間に、レンズ19を備えている。レンズ19は、例えばガラスレンズであり、レンズ19の周縁部が、第1の像面側リテーナ17aの内周壁に形成された段部181に嵌合することにより、径方向において鏡筒18の軸と光軸とが一致する位置に収容される。当接するレンズユニット100aのその他の構成は、実施形態1に係るレンズユニット100と同様である。
【0060】
第1の像面側リテーナ17aは、実施形態1に係る像面側リテーナ17と同様に、プラスチックレンズ14、15を、鏡筒18の軸方向に押圧することによって鏡筒18内に収容している。第1の像面側リテーナ17aは、一例として、実施形態1に係る像面側リテーナ17と同様に、鏡筒18の内周に螺合することによって鏡筒18に締結される。
【0061】
第2の像面側リテーナ17bは、レンズ19を、鏡筒18の軸方向に押圧することによって鏡筒18内に収容している。ここで、第2の像面側リテーナ17bは、一例として
図3に示すように、第1のリテーナ17aの内周に螺合することによって第1のリテーナ17aに締結される。当該締結により、レンズ19は、軸方向に沿って対物側へ適度な強さおよび弾性によって押圧されて固定される。
【0062】
また、
図3及び
図4に示すように、第1の像面側リテーナ17aは、締結部170と筒部171aとを備えている。ここで締結部170については実施形態1と同様であるので説明を省略する。
【0063】
筒部171aは、当該筒部171aの先端縁173から軸方向に沿って突出する複数の突起174を備えている。これら複数の突起174は、複数のプラスチックレンズのうちの像面側のレンズであるプラスチックレンズ15に対して像面側から当接し、当該プラスチックレンズ15と、プラスチックレンズ14とを、光軸方向に押圧する。
【0064】
また、筒部171aは、
図4に示すように、複数の開口175を有している。このように筒部171aが、複数の開口を備えることによって、第1のリテーナ17aの弾性をより好適なものとすることができるので、プラスチックレンズの光軸方向の変位を好適に抑制することができる。
【0065】
また、
図4に示すように、複数の開口175のそれぞれは、複数の突起174のそれぞれに対応する位置に設けられている。このように、開口175と突起174の位置を対応付けることにより、複数のプラスチックレンズをより好適に押圧することができる。
【0066】
なお、
図4に示す例では、開口175及び突起174の数をそれぞれ3つとしたが、これは本実施形態を限定するものではなく、3以外の数としてもよい。
【0067】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るレンズユニットは、1又は複数のガラスレンズを含む第1のレンズ群と、1又は複数のプラスチックレンズを含む第2のレンズ群と、前記第1のレンズ群及び前記第2のレンズ群を収容する鏡筒と、前記第1のレンズ群を前記鏡筒に締結する第1のリテーナと、前記第2のレンズ群を前記鏡筒に締結する第2のリテーナとを備えている。
【0068】
この構成によれば、温度変化が発生しても各レンズの変位を抑制することができる。
【0069】
本発明の態様2に係るレンズユニットは、態様1において、第1のリテーナ及び第2のリテーナは、弾性を有していてもよい。
【0070】
この構成によれば、対物側リテーナが、弾性を有するので第1のレンズ群に適切な押圧力を付与することができる。同様に、像面側リテーナが、弾性を有するので第2のレンズ群に適切な押圧力を付与することができる。
【0071】
本発明の態様3に係るレンズユニットは、態様1又は2において、第1のリテーナ及び第2のリテーナは、第1のリテーナによる第1のレンズ群に対する締結力が、第2のリテーナによる第2のレンズ群に対する締結力よりも大きくなるように、第1のレンズ群及び第2のレンズ群を鏡筒に締結してもよい。
【0072】
この構成によれば、態様1又は2による効果に加えてガラスレンズ及びプラスチックレンズに対してより適切な押圧力を付与することができる。
【0073】
本発明の態様4に係るレンズユニットは、態様1から3のいずれかにおいて、前記第1のレンズ群および前記第2のレンズ群が当接する保持部を前記鏡筒がさらに備えていてもよい。
【0074】
この構成によれば、鏡筒内で保持部に当接するそれぞれのレンズ群に対して、各リテーナの締結力を好適に調整することが容易である。
【0075】
本発明の態様5に係るレンズユニットは、態様1から4のいずれかにおいて、第1のリテーナは、鏡筒の外周に締結される第1の締結部と、締結部に接続され鏡筒の外周を覆う第1の筒部と、第1のレンズ群に係合する係合部とを備えていてもよい。
【0076】
この構成によれば、態様1から4のいずれかによる効果に加えてガラスレンズに対して更に適切な押圧力を付与することができる。
【0077】
本発明の態様6に係るアクセサリアダプタは、態様1から5のいずれかにおいて、第2のリテーナは、鏡筒の内周に締結される第2の締結部と、締結部に接続された第2の筒部とを備えており、筒部には複数の開口が形成されていてもよい。
【0078】
この構成によれば、態様1から5のいずれかによる効果に加えてプラスチックレンズに対して更に適切な押圧力を付与することができる。
【0079】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
100、100a レンズユニット
10 対物側リテーナ(第1のリテーナ)
101 締結部(第1の締結部)
102 筒部(第1の筒部)
103 係合部
11、12、13 ガラスレンズ
123 第1のレンズ群
14、15 プラスチックレンズ
145 第2のレンズ群
140 溝
16 スペーサ
17、17a、17b 像面側リテーナ(第2のリテーナ)
170 締結部(第2の締結部)
170 螺合部
171、171a 筒部(第2の筒部)
173 先端縁
174 突起
175 開口
18 鏡筒
18A 第1の空間
18B 第2の空間
180 凸部
181 段部(保持部)
19 レンズ
210 撮像装置の本体