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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28C 7/04 20060101AFI20240704BHJP
   B28C 5/42 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
B28C7/04
B28C5/42
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020050908
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021146680
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有馬 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 尚子
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-176526(JP,A)
【文献】特開平11-077659(JP,A)
【文献】特開平11-123713(JP,A)
【文献】特開2001-293718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 1/00-9/04
B60P 3/16
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、骨材、混和剤、および水を、混練したコンクリートを製造するコンクリートの製造方法であって、
前記コンクリートの製造工場において、前記コンクリートの単位水量よりも少ない単位水量に応じた水を、前記セメント、前記骨材、および前記混和剤と共に混練し、ベースコンクリートを製造する第1混練工程と、
前記第1混練工程後の前記ベースコンクリートに対して、第1フレッシュコンクリート試験を行うことにより、前記ベースコンクリートが所定の物性値を満たすかを検査する検査工程と、
前記検査工程後、前記製造工場の出発前から施工現場の到着までの間に、前記所定の物性値を満たすと判定された前記ベースコンクリートを投入したアジテータ車のミキサに、前記コンクリートの単位水量と、前記ベースコンクリートの前記単位水量との水量差に応じた重量の氷塊を投入し、前記施工現場までの搬送中に、前記ベースコンクリートと前記氷塊とを前記ミキサで混練する第2混練工程と、
前記第2混工程後、前記施工現場において、前記ベースコンクリートおよび前記氷塊から前記ミキサで製造された前記コンクリートに対して、第2フレッシュコンクリート試験を行うことにより、前記コンクリートが所定の物性値を満たすかを検査する受け入れ検査工程と、を含み、
前記第1混練工程の前に、前記製造工場が有する異なる配合の基準コンクリートのうち、前記コンクリートのスランプ値よりも小さいスランプ値となる基準コンクリートを選択し、前記ベースコンクリートのスランプ値が、選択した前記基準コンクリートのスランプ値となるように、前記ベースコンクリートの前記単位水量を設定し、
前記第2混練工程において、前記氷塊を投入する重量を複数に分割する分割数を設定し、前記製造工場から前記施工現場までの経路において、設定した前記分割数に応じた前記氷塊の投入地点を複数設定し、設定した前記投入地点ごとに、分割した重量の氷塊を前記アジテータ車の前記ミキサに投入することを特徴とするンクリートの製造方法。
【請求項2】
前記第1混練工程の前に、前記氷塊を前記ミキサに投入するタイミングから前記アジテータ車が前記施工現場に到着するまでの経過時間を推定し、前記経過時間に応じて、前記氷塊を投入する重量を設定する設定工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの製造方法。
【請求項3】
前記第1混練工程の前に、前記氷塊を前記ミキサに投入するタイミングから前記アジテータ車が前記施工現場に到着するまでの経過時間を推定し、
前記第2混練工程において、前記経過時間が長くなるに従って、氷径の大きい氷塊を投入することを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント、骨材、混和剤、および水を、所定の配合で混練したコンクリートを製造するコンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製造工場内において、セメント、骨材、混和剤、および水を所定の配合で混練することで、コンクリートが製造される。たとえば、外気温が高い夏季などにコンクリートを製造する際には、施工現場で荷卸し時のコンクリートの温度が受け入れの限度を超えたり、混練したコンクリートが早期に凝結したり、コンクリートが早期に乾燥したりすることなどで、コンクリートの品質が低下することがある。
【0003】
このような点を鑑みて、たとえば、特許文献1には、コンクリートの製造工場内において、水の一部を氷塊で代用して、セメント、骨材、混和剤、水および氷塊を混練し、コンクリートを製造するコンクリートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-11709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、製造工場内において、セメント、骨材、水、混和剤、および氷塊を直接混練した場合、混練時に氷塊が溶けきらないと、混練直後にフレッシュコンクリート試験ができない。この氷塊の存在により、混練直後にフレッシュコンクリート試験が実施できないと、コンクリートの品質が早い段階で確認できないというリスクが想定される。これに加えて、アジテータ車のミキサにコンクリートを投入し、施工現場にコンクリートを搬送するまでの間にコンクリートの温度が上昇してしまい、氷塊が早期に溶け切ってしまい、コンクリートのスランプロスが生じたり、施工現場に到着時のコンクリートの温度が受け入れの上限温度を超えてしまったりすることがあり、施工現場で打設するコンクリートの品質が低下するおそれがある。そこで、たとえば、コンクリート製造工場に水や骨材を冷却する冷却装置を設けたり、アジテータ車にコンクリートを冷却する冷却装置を設けたりしてもよいが、このような冷却装置を各アジテータ車に設けることはコンクリート製造工場の設備コストが増大してしまう。
【0006】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、施工現場に到着したアジテータ車から荷卸し時のコンクリートの温度が受け入れの上限温度を超えることなく、より安定した品質のコンクリートを、コンクリートの製造工場の設備コストをかけずに、施工現場により安価に供給することができるコンクリートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題に鑑みて、本発明に係るコンクリートの製造方法は、セメント、骨材、混和剤、および水を、混練したコンクリートを製造するコンクリートの製造方法であって、前記コンクリートの製造工場において、前記コンクリートの単位水量よりも少ない単位水量に応じた水を、前記セメント、前記骨材、および前記混和剤と共に混練し、ベースコンクリートを製造する第1混練工程と、前記第1混練工程後の前記ベースコンクリートに対して、フレッシュコンクリート試験を行うことにより、前記ベースコンクリートが所定の物性値を満たすかを検査する検査工程と、前記検査工程後、前記製造工場の出発前から施工現場の到着までの間に、前記所定の物性値を満たすと判定された前記ベースコンクリートを投入したアジテータ車のミキサに、前記コンクリートの単位水量と、前記ベースコンクリートの前記単位水量との水量差に応じた重量の氷塊を投入し、前記施工現場までの搬送中に、前記ベースコンクリートと前記氷塊とを前記ミキサで混練する第2混練工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、検査工程において、第1混練工程において、ベースコンクリートが所定の物性値を満たしているかを確認することができるため、その後の施工現場までの搬送において、ベースコンクリートに予め計量された重量の氷塊を投入して混練した場合のコンクリートの性状を、ベースコンクリートを検査することで、より精度良く事前に予測することができる。これにより、より安定した品質のコンクリートを供給することができる。
【0009】
さらに、本発明では、製造工場の出発前から施工現場の到着までの間に、検査工程で所定の物性値を満たすと判定されたベースコンクリートをアジテータ車のミキサに投入し、このミキサに、たとえば、人力で氷塊をさらに投入する。この氷塊を投入する重量(総重量)は、施工現場で打設されるコンクリートの単位水量と、ベースコンクリートの単位水量との水量差に応じた重量である。氷塊の投入により、製造工場から施工現場までの搬送途中に、アジテータ車にベースコンクリートとともに氷塊が存在する。したがって、アジテータ車で、氷塊により冷却された状態で、氷塊を溶解しつつ、ベースコンクリートからコンクリート(氷塊が溶け切った後のコンクリート(最終配合のコンクリート))を生成するとともに、これを施工現場まで搬送することができる。このような結果、アジテータ車に新たな設備等を増設することなく、また、製造工場の設備コストをかけることなく、氷塊を用いて製造していないコンクリートに比べて低い温度で、コンクリートを施工現場に供給する(荷卸しする)ことができる。
【0010】
より好ましい態様としては、前記製造工場が有する異なる配合の基準コンクリートのうち、前記コンクリートのスランプ値よりも小さいスランプ値となる基準コンクリートを選択し、前記ベースコンクリートのスランプ値が、選択した前記基準コンクリートのスランプ値となるように、前記ベースコンクリートの前記単位水量を設定する。この態様によれば、製造工場が有する基準コンクリートの配合を参照して、ベースコンクリートの単位水量を決定するので、検査工程において、基準コンクリートの物性値を参照しつつ、ベースコンクリートの物性値を検査することができる。
【0011】
ここで、製造工場から施工現場までの搬送途中に、アジテータ車内に氷塊が残存していれば、特に限定されるものではないが、より好ましい態様として、前記第1混練工程の前に、前記氷塊を前記ミキサに投入するタイミングから前記アジテータ車が前記施工現場に到着するまでの経過時間を推定し、前記経過時間に応じて、前記氷塊を投入する重量を設定する設定工程を含む。
【0012】
この態様によれば、製造工場から施工現場に到着するまでのアジテータ車の経過時間に応じて、氷塊を投入する重量を設定するので、容易に施工現場においてアジテータ車の荷卸し時のコンクリートの温度を所定の温度に調整することができる。
【0013】
ここで、コンクリート打設時に氷塊が完全に溶解していれば、施工現場にアジテータ車が到着した際に氷塊が残存してもよい。しかしながら、さらにより好ましい態様としては、前記設定工程において、前記施工現場に到着するまでに、投入した前記氷塊が残存しないように、前記氷塊を投入する重量を設定する。この態様によれば、施工現場に到着した際には氷塊が残存していないため、施工現場において、コンクリートを速やかに打設することができる。また、アジテータ車は、氷塊が溶け切るのを待たずして、製造工場を出発できるので、コンクリートの製造時間を短縮することができる。なお、本明細書でいう、「氷塊が残存しない」とは、氷塊の形状で残存しないことをいい、氷塊が溶け切った状態ばかりでなく、僅かに氷の粒子等が存在している状態も含むものである。
【0014】
ここで、製造工場出発前のアジテータ車に対して、すべての氷塊を投入してもよいが、より好ましい態様としては、前記第2混練工程において、前記氷塊を投入する重量を複数に分割する分割数を設定し、前記製造工場から前記施工現場までの経路において、設定した前記分割数に応じた前記氷塊の投入地点を複数設定し、設定した前記投入地点ごとに、分割した重量の氷塊を前記アジテータ車の前記ミキサに投入する。
【0015】
この態様によれば、たとえば、製造工場から施工現場までの途中経路で、1回分の氷塊が溶け切ったとしても、混練途中のコンクリートは温度が上昇せず、一次的に冷却状態が保持される。さらに、設定した投入地点において、適切なタイミングで2回目以降の氷塊をミキサに投入することでコンクリートの冷却状態をより長い時間持続させることができる。
【0016】
ここで、投入する氷塊の大きさ(氷径)は、特に限定されるものではないが、より好ましい態様としては、前記第1混練工程の前に、前記氷塊を前記ミキサに投入するタイミングから前記アジテータ車が前記施工現場に到着するまでの経過時間を推定し、前記第2混練工程において、前記経過時間が長くなるに従って、氷径の大きい氷塊を投入する。
【0017】
この態様によれば、推定した経過時間が長くなるに従って、氷塊が溶けやすくなるところ、氷径の大きい氷塊は、氷径の小さい氷塊よりも比表面積が大きいため、投入された氷塊が溶け難い。これにより、経過時間が長くなったとしても、氷塊によりコンクリートの冷却状態をより長い時間持続することができる。なお、ここでいう「経過時間が長くなるに従って、氷径の大きい氷塊を投入する」とは、経過時間が長くなるに従って、投入される氷塊全体の氷径が大きい氷塊を投入する場合だけではなく、投入される氷塊全体に対して、氷径の大きい氷塊が所定の割合で含まれたものを投入する場合も含むものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、施工現場に到着したアジテータ車から荷卸し時のコンクリートの温度が受け入れの限度を超えることなく、より安定した品質のコンクリートを、コンクリートの製造工場の設備コストをかけずに、施工現場により安価に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係るコンクリートの製造方法を説明するためのフロー図である。
図2図1に示すコンクリートの製造方法を模式的に示した概念図である。
図3図2に示すコンクリートの製造方法の変形例を示した概念図である。
図4】氷塊の投入タイミングと、コンクリートの温度の変化を示した模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るコンクリートの製造方法の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るコンクリートの製造方法を説明するためのフロー図である。図2は、図1に示すコンクリートの製造方法を模式的に示した概念図である。図3は、図2に示すコンクリートの製造方法の変形例を示した概念図である。図4は、氷塊の投入タイミングと、コンクリートの温度の変化を示した模式的なグラフである。
【0021】
本実施形態に係るコンクリートの製造方法は、セメントC、骨材B、水W、および混和剤ADを混練する。混練の際に、水の一部の代わりに氷塊Fを混練し、氷塊Fを溶かしながらコンクリートA2を製造する。以下の図1に示すフローにしたがって、本実施形態に係るコンクリートA2の製造方法を説明する。
【0022】
まず、ステップS11では、コンクリートA2の配合および後述する氷塊Fの投入量等を設定する。このステップS11は、「設定工程」に相当する。まず、施工現場Gで打設するコンクリートA2の目標スランプ値を設定し、セメントC、骨材B、混和剤AD、および水Wが、この目標スランプ値に応じた配合(単位量)となるように、各材料の重量を設定する。
【0023】
本実施形態では、設定されるコンクリートA2のセメントCは、ポルトランドセメント、混合セメント等であり、骨材Bは、細骨材Sおよび粗骨材Hで構成されるものであり、混和剤ADは、JIS A 6204により規定されるコンクリート用化学混和剤である。
【0024】
たとえば、コンクリートA2の呼び強度33N/mm、目標スランプ値21cmに設定し、この目標スランプ値に応じたコンクリートA2の配合を設定する。この場合、表1に示すように、コンクリートA2の配合の設定として、セメントCの単位量を394kg/mに設定し、細骨材Sの単位量を809kg/mに設定し、粗骨材Hの単位量を869kg/mに設定し、混和剤ADの単位量を、3.86kg/mに設定し、水Wの単位量(単位水量)を、185kg/mに設定する。なお、以下の表1のうち、ベースコンクリートA1の目標スランプ値の※1は、試し練りにより決定される値である。また、以下の表1のうち、ベースコンクリートA1の混和剤の単位量の※2は、試し練りにより決定される値である。但し、氷塊Fが溶け切った際に、目標スランプ値が得られない場合には、施工現場Gにおいて、アジテータ車10のミキサ11内のコンクリートに対し、混和剤の再添加を行うことがある。
【0025】
【表1】
【0026】
まず、ステップS11よりも前に、氷塊Fが溶け切った(すなわち完全に溶解した)コンクリートA2(最終配合のコンクリート)の配合を設定する。次に、ステップS11において、後述する氷塊Fの投入量等を設定する。具体的には、まず、コンクリートA1の目標スランプ値よりも小さいベースコンクリートA1の配合を決定する。この際に、ベースコンクリートA1の試し練りを行い、表1の※1、※2に該当する値等の物性値が決定される。これにより得られた値を基準として、後述するステップS13におけるベースコンクリートA1の出荷前検査を行うことができる。
【0027】
本実施形態では、ベースコンクリートA1は、製造工場Aで管理されている基準コンクリートB1の配合に近い配合で、セメントC、骨材B、混和剤AD、および水Wを混練したものである。具体的には、製造工場Aが有する異なる配合の基準コンクリートB1のうち、コンクリートA2の目標スランプ値よりも小さい目標スランプ値となる基準コンクリートB1を選択する。次に、ベースコンクリートA1の目標スランプ値が、選択した基準コンクリートB1の目標スランプ値となるように、また、ベースコンクリートA1のフレッシュ性状が、基準コンクリートB1のフレッシュ性状に類似するように、ベースコンクリートA1の単位水量を設定する。このように単位水量を設定して得られるベースコンクリートA1のスランプ値は、コンクリートA2のスランプ値よりも小さく、ベースコンクリートA1の単位水量は、コンクリートA2の単位水量よりも少なく、ベースコンクリートA1のフレッシュ性状は、基準コンクリートB1のフレッシュ性状に類似する。次に、コンクリートA2の単位水量と、ベースコンクリートA1の単位水量との水量差に応じた重量を、氷塊Fの重量として設定する。
【0028】
表1に示す例では、設定されたコンクリートA2の目標スランプ値は21cmであり、基準コンクリートB1およびベースコンクリートA1の目標スランプ値は、8cmであり、ベースコンクリートA1の目標スランプ値が、コンクリートA2の目標スランプ値よりも小さい。コンクリートA2の単位水量が185kg/mに設定され、ベースコンクリートA1の単位水量が165kg/mに設定されていることから、氷塊Fの単位量は20kg/mとなり、この氷塊Fの単位量に応じた氷塊Fの重量が設定される。
【0029】
なお、製造工場Aで管理されている配合は、表1に示す基準コンクリートB1の配合であり、ベースコンクリートA1の配合は、基準コンクリートB1の配合に近い配合である。後述するベースコンクリートA1の製造後には、ベースコンクリートA1が、上述した如く、ベースコンクリートA1の試し練りで決定された物性値を満たすように、フレッシュコンクリート試験により検査することができる。
【0030】
以下に、氷塊Fの重量等の設定について説明する。コンクリートA1を製造工場Aで製造した場合には、製造工場Aから施工現場Gまでの搬送途中で温度が上昇しやすい。したがって、本実施形態では、後述するように、製造工場Aから施工現場GまでコンクリートA2を搬送する途中でミキサ11に投入した氷塊Fを溶解しながら、ベースコンクリートA1からコンクリートA2を製造する。
【0031】
そこで、本実施形態では、このステップS11において、ステップS12の前に、氷塊Fを後述するアジテータ車10のミキサ11に投入するタイミングからアジテータ車10が施工現場Gに到着するまでの経過時間を推定し、経過時間に応じて氷塊Fを投入する重量を設定する。具体的には、経過時間が長くなるにしたがって、氷塊Fを投入する重量を増加させる。これにより、施工現場Gに到達時のコンクリートA2の温度を所定の温度に調整することができる。この際、搬送当日の製造工場Aまたは施工現場Gを含む地域の外気温をさらに加味して、氷塊Fを投入する重量を設定してもよい。その際には、事前に予想される荷卸し時のコンクリートの温度に対して、何度低い温度のコンクリートA2を施工現場Gに供給したいかを設定し、外気温に対する温度の下げ代分と、経過時間とに基づいて、氷塊Fを投入する重量を設定する。
【0032】
なお、氷塊Fを投入する重量の設定は、コンクリートA2を構成する各材料の温度および比熱、実験された結果等に基づいて、容易に計算できるものである。たとえば、骨材Bの温度を2℃下げると、コンクリートA2の温度は約2℃下がることがわかっており、水Wの温度を4℃下げると、コンクリートA2の温度は、約1℃下がることがわかっているのでこれらの結果と一般的な熱容量の計算を利用して算出することができる。また、この他にも、実際、製造工場Aから施工現場Gまでのコンクリートの温度上昇に基づいて、氷塊Fを投入する重量を決定してもよい。
【0033】
さらに、本実施形態では、このステップS11において、施工現場Gに到着するまでに、投入した氷塊Fが残存しないように、氷塊Fを投入する重量を設定する。これにより、施工現場Gに到着した際に氷塊Fが残存していないため、施工現場Gにおいて、コンクリートA2を速やかに使用することができる。
【0034】
さらに、製造工場Aで管理されている(すなわち出荷できる)基準コンクリートB1のうち、最もスランプ値が小さい単位水量に基づいて、ベースコンクリートA1の配合を設定し、この設定したベースコンクリートA1の配合から、氷塊Fを投入する重量を設定してもよい。これにより、ベースコンクリートA1の品質を保持しつつ、氷塊Fの投入による冷却効果を十分に発揮することができる。
【0035】
次に、ステップS12において、ベースコンクリートA1の単位水量に応じた水Wを、コンクリートA2の単位量に応じたセメントC、骨材B、および混和剤ADと共に混練し、ベースコンクリートA1を製造する。この工程が、本発明でいう「第1混練工程」である。混練装置20による混練が完了すると、ステップS13に進む。
【0036】
次に、ステップS13において、製造されたベースコンクリートA1をアジテータ車10のミキサ11に投入し、アジテータ車10から排出したベースコンクリートA1に対して、フレッシュコンクリート試験(出荷前検査)を行う。このフレッシュコンクリート試験では、ベースコンクリートA1が、予め設定された所定の物性値を満たすかを検査する。この工程が、本発明でいう「検査工程」である。ここでは、ベースコンクリートA1の物性値が、製造工場Aにおいて試し練りにより決定された基準を満たしているかを検査する。
【0037】
このフレッシュコンクリート試験では、スランプ試験(JIS A 1101)、または、スランプフロー試験、空気量試験(たとえば、JIS A 1128)、コンクリート温度の測定を行い、これらの値が予め定められた所定の物性値を満たすかの検査を行う。ここで、所定の物性値は、製造工場A内で製造され、品質が管理されているコンクリートB1の物性値を用いてもよい。ベースコンクリートA1が所定の物性値を満たす場合には、ステップS14に進み、基準物性値を満たさない場合には、ステップS12に戻り、ベースコンクリートA1を再度製造する。
【0038】
ステップS13において、フレッシュコンクリート試験において、混練したベースコンクリートA1が所定の物性値を満たしているかを確認することができる。その後の施工現場Gまでの搬送において、ベースコンクリートA1に予め計量された重量の氷塊Fを投入して混練した場合のコンクリートの性状を、ベースコンクリートA1を検査することで、事前に予測することができる。
【0039】
ステップS14では、氷塊Fの投入場所にアジテータ車10を移動し、ステップS15で投入する氷塊Fの重量を検査し、ステップS16で、検査した重量の氷塊Fを投入する。これにより、最適な量(基準重量)の水を投入したかを判断することができる。ここで、投入する氷塊Fの重量が、ステップS11で設定した氷塊Fの重量である場合には、ステップS16に進み、投入した氷塊Fの重量が、設定した氷塊Fの重量から大きく外れている場合には、ステップS12に戻り、ベースコンクリートA1を再度製造する。
【0040】
ステップS17では、製造工場Aからアジテータ車10を発車させ、ベースコンクリートA1に氷塊Fを混練しながら、氷塊Fを溶解し、アジテータ車10を製造工場Aから施工現場Gまで搬送する。ステップS18では、アジテータ車10が施工現場Gに到達する。
【0041】
なお、本実施形態では、ステップS16において、製造工場Aの出発前に、アジテータ車10のミキサ11に氷塊Fを投入したが、たとえば、製造工場Aの出発後かつ施工現場Gの到着までの間に、つまり製造工場Aから施工現場Gまでの経路の途中に氷塊Fの投入地点を設定し、この投入地点で、アジテータ車10のミキサ11に氷塊Fを投入してもよい。
【0042】
さらに、図3に示すように、氷塊Fを投入する重量を複数に分割する分割数を設定し(図3では3分割)、製造工場Aから施工現場Gまでの経路において、設定した分割数に応じた氷塊Fの投入地点T1、T2、T3を複数設定し、設定した投入地点T1、T2、T3ごとに、分割した重量の氷塊Fをアジテータ車10のミキサ11に投入してもよい。本実施形態では、地点T1は、製造工場Aであり、地点T2、T3は、補給所R1、R2である。なお、図3では、補給所R1、R2は、建屋内にあるが、補給所R1、R2は屋外であってもよい。また、搬送途中において、必要に応じて、アジテータ車10のミキサ11内のコンクリートに対し、混和剤ADを再添加してもよい。
【0043】
図4に示すように、製造工場Aから施工現場Gまでの途中経路で、1回分の氷塊Fが溶け切ったとしても、混練途中のコンクリートは温度が上昇せず、一次的に冷却状態が保持される。さらに、設定した投入地点T2、T3において、適切なタイミングで2回目以降の氷塊Fをミキサ11に投入することでコンクリートの冷却状態をより長い時間持続させることができる。
【0044】
さらに、投入する氷塊Fの大きさ(氷径)は、コンクリートA2を製造しつつ、これを冷却することができれば、特に限定されないが、たとえば、その氷径は2~4cm程度であり、直方体状、球状などその形状は特に限定されるものではない。ここで、より好ましい態様として、氷塊Fをミキサ11に投入するタイミングからアジテータ車10が施工現場Gに到着するまでの経過時間が長くなるに従って、氷径の大きい氷塊Fを投入する。この際、経過時間が長くなるに従って、すべての氷塊Fの氷径を大きくしてもよいが、所定の割合(氷塊F全体に対する重量の割合)の氷塊Fの氷径を大きくしてもよい。ここで氷塊Fの氷径は、たとえば、氷塊Fの最大の長さを基準に設定されていてもよい。
【0045】
経過時間が長くなるに従って、氷塊Fが溶けやすくなるところ、氷径の大きい氷塊Fは、氷径の小さい氷塊Fよりも比表面積が大きいため、投入された氷塊Fが溶け難い。これにより、搬送時間が長くなったとしても、氷塊FによりコンクリートA2の冷却状態をより長い時間持続することができる。
【0046】
ステップS19では、施工現場Gにおいて、アジテータ車10から排出したコンクリート(最終配合コンクリート)A2に対して、フレッシュコンクリート試験(受け入れ検査)を行う。このフレッシュコンクリート試験では、コンクリートA2が、予め設定された所定の物性値を満たすかを検査する。
【0047】
このフレッシュコンクリート試験では、上述した試験に加えて、塩化物イオン濃度試験を行う。なお、この際に、コンクリートA2に氷塊Fが残存していないことを目視で確認する。ここで、コンクリートA2が所定の物性値を満たす場合には、ステップS20に進み、コンクリートA2を打設する。一方、所定の物性値を満たさない場合には、係るコンクリートA2を破棄する。
【0048】
本実施形態によれば、所定の物性値を満たすと判定されたベースコンクリートA1を投入したアジテータ車10が製造工場Aの出発する前から施工現場Gに到着するまでの間に、コンクリートA2の単位水量と、ベースコンクリートA1の単位水量との水量差に応じた重量の氷塊Fをアジテータ車10に投入する。氷塊Fを投入後のベースコンクリートA1と氷塊Fとを混練しながら、アジテータ車10で施工現場Gまで搬送する。
【0049】
これにより、製造工場Aから施工現場Gまでの搬送途中に、アジテータ車10には氷塊Fが存在することになる。したがって、アジテータ車10で、氷塊Fにより冷却された状態で、氷塊Fを溶解しつつ、ベースコンクリートA1からコンクリートA2を生成するとともに、これを施工現場Gまで搬送することができる。このような結果、アジテータ車10に新たな設備等を増設することなく、また、製造工場Aの設備コストをかけることなく、氷塊Fを用いて製造していないコンクリートに比べて低い温度でコンクリートA2を施工現場Gに荷卸しすることができ、より安定した品質のコンクリートA2を打設することができる。
【0050】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0051】
A1:ベースコンクリート、A2:コンクリート、A:製造工場、C:セメント、B:骨材、AD:混和剤、F:氷塊、G:施工現場、W:水、10:アジテータ車、20:混練装置
図1
図2
図3
図4