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特許7514666VOC原位置浄化システム、及びVOC原位置浄化方法
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  • 特許-VOC原位置浄化システム、及びVOC原位置浄化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】VOC原位置浄化システム、及びVOC原位置浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/06 20060101AFI20240704BHJP
【FI】
B09C1/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020110415
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007435
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徹朗
(72)【発明者】
【氏名】窪田 成紀
(72)【発明者】
【氏名】瀬野 光太
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-026492(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111279160(CN,A)
【文献】特開2009-112933(JP,A)
【文献】特開2014-231050(JP,A)
【文献】特開平05-010083(JP,A)
【文献】特開2017-185466(JP,A)
【文献】特開2001-054784(JP,A)
【文献】特開2007-152198(JP,A)
【文献】特開2006-006996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/06
B09B 3/40
B09C 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油類と共存するVOCに汚染された土壌と地下水を、原位置で浄化するシステムであって、
土壌内に構築された回収井戸から地下水、及び前記油類を汲み上げる地下水揚水装置と、
土壌内に構築された3以上の電極井戸に印加して土壌に電流を流すことで、土壌を加温する土壌加温装置と、
前記回収井戸からガスを吸引するガス吸引装置と、を備え、
前記ガス吸引装置は、前記地下水揚水装置によって地下水位が低下したことで周囲に地下水がなくなって残存する前記油類と土壌を、前記土壌加温装置所定温度まで加温することで残存する前記油類の移動性が向上することによって、前記回収井戸内に発生するガス、及びガスに含まれる前記VOCを直接的に吸引し得る
ことを特徴とするVOC原位置浄化システム。
【請求項2】
前記回収井戸が、塩化ビニル管、又は耐熱性硬質塩化ビニル管によって形成された、
ことを特徴とする請求項1記載のVOC原位置浄化システム。
【請求項3】
油類と共存するVOCに汚染された土壌と地下水を、原位置で浄化する方法であって、
土壌内に構築された回収井戸から地下水、及び前記油類を汲み上げる地下水揚水工程と、
土壌内に構築された3以上の電極井戸に印加して土壌に電流を流すことで、土壌を加温する土壌加温工程と、
前記回収井戸からガスを吸引するガス吸引工程と、を備え、
前記ガス吸引工程では、前記地下水揚水工程で地下水位が低下したことで周囲に地下水がなくなって残存する前記油類と土壌を、前記土壌加温工程で所定温度まで加温することで残存する前記油類の移動性が向上することによって、前記回収井戸内に発生するガス、及びガスに含まれる前記VOCを直接的に吸引し得る
ことを特徴とするVOC原位置浄化方法。
【請求項4】
前記ガス吸引工程では、計画温度を40~90°で設定したうえで、該計画温度まで加温する
ことを特徴とする請求項3記載のVOC原位置浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、汚染された土壌と地下水を原位置にて浄化する技術に関するものであり、より具体的には、揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compounds)、又はVOCと油類によって汚染された土壌と地下水を、土壌加温法を活用して浄化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土壌汚染とは、人の健康にとって有害な物質で土壌が汚染された状態のことを指し、操業活動における不用意な取り扱いによって有害物質が地表から浸透することで発生したり、排煙に含まれる有害物質が地表面に降下して堆積や浸透することで発生したり、あるいは盛土や埋土が行われる際に汚染土壌が持ち込まれることで発生することもある。この有害物質は土壌汚染対策法によって指定されており、現在、VOC(第1種特定有害物質)と重金属等(第2種特定有害物質)、農薬等(第3種特定有害物質)に分類され、具体的に26の物質が特定有害物質に挙げられている。また日本国内においては、法的な規制はないものの油類による土壌地下水汚染が顕在化し、問題となる場合も多い。
【0003】
土壌汚染対策法では、例えばベンゼン、四塩化炭素のほか、トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンといった塩素化エチレン類などがVOCに含まれるとしている。トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンは、製造工場における油落としやドライクリーニング溶剤として利用されてきたことから、トリクロロエチレン等と油類が共存する土壌・地下水汚染サイトも多い。また、ベンゼンやトルエンはもともと鉱油に含まれるため、油汚染サイトではしばしばこれらの有害物質が高濃度に確認されることがある。さらに、近年問題となっている不法投棄場(跡地)における土壌・地下水汚染では、多様なVOCと油類が共存していることも多い。
【0004】
ところで、土壌や地下水を原位置で汚染浄化する一般的な手法としては、物理的手法と化学的手法、生物学的手法が挙げられる。ところがVOCと油類が共存するケースでは、これらいずれも有効な手法とはなり得ない。例えば、物理的方法では揚水等によって油類と共存するVOCを回収することになるが、粘性が高く沸点も高い油類は著しく移動性が低く、そのため常温でのガス吸引や揚水を行ったとしても油類とともにVOCは移動し難く、その効果は極めて限定的となる。また、化学的手法では酸化剤を用いてVOCを分解することになるが、添加した大部分の酸化剤が油類の分解に消費されるため、大量の酸化剤が必要となり、場合によってはVOCの分解に至らないことさえある。さらに、生物学的手法では、塩素化エチレン類については嫌気微生物等の働きを利用してVOCを脱塩素化することになるが、鉱油類は嫌気微生物による分解が極めて限定的であり、その結果、嫌気性バイオレメディエーションによる浄化は著しく困難となる。
【0005】
物理的手法や化学的手法、生物学的手法を単独で行うと効果的な汚染浄化ができない場合、これらを組み合わせた汚染浄化手法が有効な解決手段となることもある。例えば特許文献1では、昇温した土壌等に過硫酸塩を注入することによって1,4-ジオキサンを分解する浄化技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-34086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される技術は、電気発熱法を利用することとしており、そのため効率的に土壌温度を所定温度(例えば40~90℃)に昇温することができ、しかも安定的にその所定温度を維持することができる。その結果、注入された過硫酸塩によって1,4-ジオキサンを効果的に分解することができるわけである。しかしながら特許文献1に開示される技術は、1,4-ジオキサンを分解する技術であって、VOCと油類が共存する汚染土壌を浄化するものではない。
【0008】
本願発明の課題は、従来が抱える問題を解決することであり、すなわちVOCと油類が共存する汚染土壌を浄化することができるVOC原位置浄化システムと、これを用いた浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、油類は温度が上昇すると低沸点化合物の気化が促進されるとともに油自体の粘性低下により移動性が向上することから、回収井戸を気化したVOC及び油類に溶け込んだVOCを同時に回収可能な構造とすることで、油類と共存するVOCを回収することができる、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0010】
本願発明のVOC原位置浄化システムは、VOC又は油類と共存するVOCに汚染された土壌と地下水を原位置で浄化するシステムであり、地下水揚水装置と土壌加温装置、ガス吸引装置を備えたものである。このうち地下水揚水装置は、土壌内に構築された回収井戸から地下水を汲み上げる装置であり、土壌加温装置は、土壌内に構築された3以上の電極井戸に印加して土壌に電流を流すことで土壌を加温する装置であり、ガス吸引装置は、回収井戸からガスを吸引する装置である。なおガス吸引装置は、地下水揚水装置によって地下水位が低下し、しかも土壌加温装置によって土壌が所定温度まで加温された状態としたうえで、回収井戸内に発生するVOCを含むガスを吸引する。
【0011】
本願発明のVOC原位置浄化システムは、回収井戸内に設置される圧縮空気駆動式ポンプを地下水揚水装置としたものとすることもできる。
【0012】
本願発明のVOC原位置浄化システムは、地上に設置される油水分離装置をさらに備えたものとすることもできる。この油水分離装置は、地下水揚水装置によって汲み上げられた油分を含む地下水から油分を回収する装置である。
【0013】
本願発明のVOC原位置浄化方法は、VOC又は油類と共存するVOCに汚染された土壌と地下水を本願発明のVOC原位置浄化システムを用いて原位置で浄化する方法であり、地下水揚水工程と土壌加温工程、ガス吸引工程を備えた方法である。このうち地下水揚水工程では、地下水揚水装置を使用して回収井戸から地下水を汲み上げ、土壌加温工程では、土壌加温装置を使用して土壌を加温し、ガス吸引工程では、ガス吸引装置を使用して回収井戸からガスを吸引する。なおガス吸引工程では、地下水揚水工程で地下水位が低下し、しかも土壌加温工程で土壌が所定温度まで加温された状態としたうえで、回収井戸内に発生するガスを吸引する。
【発明の効果】
【0014】
本願発明のVOC原位置浄化システム、及びVOC原位置浄化方法には、次のような効果がある。
(1)土壌を加温することによって土壌内の鉱油類の温度が上昇し、これに伴い低沸点化合物の気化が促進されるとともに油自体の粘性低下により移動性が向上する。その状態でさらに加温していくと水蒸気と土壌ガスが発生しやすくなり、これらの水蒸気やガスを吸引することで鉱油類とともにVOCを回収することができる。
(2)地下水揚水装置によって地下水位が低下することから、土壌内の間隙水を直接(つまり地下水とは独立して)水蒸気として回収することができ、すなわち土壌粒子の間隙中に付着したVOCを効率的に回収することができる。特に、油に含まれるベンゼンやトルエンなどは地下水面付近に存在することが多いため、地下水位が低下したうえで間隙水の水蒸気化を図ることはベンゼンやトルエンなどの回収にとってより効果的となる。
(3)ジュール熱により土壌自体を発熱させる電気発熱法を用いることから、温度のコントロールが容易であり、したがって土壌温度を目的の温度まで昇温することも容易で、しかも土壌全体を均一に加温することができる。
(4)電気発熱法は、熱伝導(ヒーター)を利用した加温手法に比べ熱効率が良く、そのため昇温に係る消費電力を低減することができる。
(5)電気発熱法は、熱伝導(ヒーター)などのように高温の熱媒体を必要としないため、回収井戸の材料として塩化ビニル管(昇温温度によっては、耐熱性硬質塩化ビニル管)を利用することができる。
(6)圧縮空気駆動式ポンプを用いることで、地盤中に三相交流電気を印加する電気発熱法との併用が可能であり、また自吸式ポンプでは困難な深度からでも揚水できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本願発明のVOC原位置浄化システムの主な構成を模式的に示すブロック図。
図2】電気抵抗加熱法を利用した土壌加温装置を模式的に示す断面図。
図3】三角形を形成するように平面配置された電極井戸を示す平面図。
図4】本願発明のVOC原位置浄化方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願発明のVOC原位置浄化システム、及びVOC原位置浄化方法の実施の例を、図に基づいて説明する。なお、本願発明のVOC原位置浄化方法は、本願発明のVOC原位置浄化システムを用いて土壌等を浄化する方法であり、したがってまずは本願発明のVOC原位置浄化システムについて説明し、その後に本願発明のVOC原位置浄化方法について説明することとする。
【0017】
1.VOC原位置浄化システム
図1は、本願発明のVOC原位置浄化システム100の主な構成を模式的に示すブロック図である。この図に示すように本願発明のVOC原位置浄化システム100は、地下水揚水装置110と土壌加温装置(電極井戸121と電源装置122)、ガス吸引装置130を含んで構成され、さらに油水分離装置140や水処理装置150、温度観測井戸160などを含んで構成することもできる。以下、VOC原位置浄化システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0018】
(地下水揚水装置)
地下水揚水装置110は、VOCに汚染された対象範囲(以下、単に「対象範囲」という。)の地下水あるいは地下水と油類を揚水するものである。この地下水揚水装置110としては、地上配置型の自吸式ポンプを利用することもできるし、揚程が不足する場合は図1に示すように回収井戸CW内に設置される水中ポンプを利用することもできる。ただし、後述するように土壌を加温するため対策範囲に三相交流電圧を印加する(電気発熱法)必要があり、そのため水中ポンプとする場合は三相交流電圧により不具合が生じやすいモーター駆動のポンプは避け、圧縮空気可動式やブラダー方式のポンプを用いるとよい。また、エアリフトによって地下水を汲み上げるポンプを用いると、後述するガス吸引が難しくなることも考えられることから当該ポンプの採用も避ける方が望ましい。
【0019】
図1に示すように、地下水を汲み上げるため、そして土壌内に生じた土壌ガスや水蒸気を吸引するため、対象範囲内には二重吸引井戸形式の回収井戸CWが構築される。この回収井戸CWは、従来用いられている種々の工法を採用して掘削することができ、また従来用いられている種々の材料を用いることができる。なお土壌を加温することになるが、本願発明で利用する電気発熱法は熱伝導(ヒーター)のように高温の熱媒体を必要としないため、比較的安価で調達が容易な塩化ビニル管(昇温温度によっては、耐熱性硬質塩化ビニル管)を回収井戸CWの材料として利用することもできる。
【0020】
(土壌加温装置)
土壌加温装置は、対象範囲の土壌を所定温度となるまで昇温するとともにその所定温度を維持するため、土壌を加温するものである。土壌の加温手法としては、熱伝導(ヒーター)によって土壌を加熱する手法なども知られているが、本願発明では電気抵抗加熱法の一種である電気発熱法を採用するとよい。この電気発熱法は、土壌自体を発熱させるため均一に加温でき、しかも温度コントロールも容易であり、また電流が流れやすい(電気抵抗の低い)粘土層(高濃度の汚染が存在する場合が多い)の方が昇温しやすく、さらに熱効率が優れているため熱伝導(ヒーター)に比べ昇温にかかる消費電力を低減することができる、といった特長を有しているからである。
【0021】
図2は、電気抵抗加熱法を利用した土壌加温装置120を模式的に示す断面図である。この図に示すように土壌加温装置120は、対象範囲の土壌内に構築された電極井戸121と、地上に設置された電源装置122を含んで構成される。この電極井戸121は鋼製のケーシングで形成されており、電源装置122によって各電極井戸121のケーシングに三相交流電圧を印加することで、電極井戸121間に電流が流れ、その結果、途中の土壌にジュール熱が発生し、すなわち土壌を昇温させることができる。そのため各電極井戸121は、対象範囲の土壌を取り囲むように3以上の箇所に設置する必要があり、例えば図3に示すように複数の三角形を形成するように配置するとよい。なお図3に示す4つの三角形はそれぞれ一辺が約3.5mの正三角形となっているが、もちろんこれに限らず種々の形状となるよう電極井戸121を配置することができる。
【0022】
既述したとおり、油類とVOCが共存している場合、油類は粘性が高く沸点も高いことからその移動性は著しく低く、したがって油類とともにVOCも移動し難い状態となっている。そのため、常温でのガス吸引や揚水を行ったとしても、VOCの回収効果は極めて限定的となる。ところが、土壌加温装置120で土壌を加温すると、当然ながら土壌内の鉱油類の温度は上昇し、これに伴い低沸点化合物の気化が促進されるとともに、油自体の粘性低下により移動性が向上する。その状態でさらに加温していくと土壌ガスや水蒸気(以下、単に「ガス類」という。)が発生しやすくなり、その結果、これらのガス類に含まれた油類とVOCを吸引して回収することができるわけである。
【0023】
また、地下水揚水装置110によって地下水位が低下していることから、より効率的にVOCを回収することができる。一般的に、水より比重が小さい油類は地下水面付近の土壌間隙内に存在しており、油類を昇温するために加温したエネルギーは地下水の気化にも消費されこととなる。一方、地下水位が低下していると、油類の周辺には地下水がなく、土壌内の間隙水を直接(つまり地下水とは独立して)水蒸気として回収することができ、すなわち土壌粒子の間隙中に付着したVOCを効率的に回収することができる。特に、油類に含まれるベンゼンやトルエンなどは地下水面付近に存在することが多いため、地下水位が低下したうえで間隙水の水蒸気化を図ることはベンゼンやトルエンなどの回収にとってより効果的となる。
【0024】
上記したとおり電気発熱法は温度コントロールが容易であり、そのため土壌温度を目的の温度まで昇温することも、その目的の温度の状態で維持することもできる。土壌を昇温させる温度や維持する温度(以下、「計画温度」という。)は、土壌の種類や常時の地温、回収しようとするVOCの種類などに基づいてあらかじめ定めておくとよい。なお本願発明の発明者らが様々な試験を行った結果、計画温度を40~90℃の範囲で設定すれば種々のケースで概ね良好な結果となることを見出している。
【0025】
対象範囲のVOCを十分回収できるよう、計画温度で計画期間(例えば、数週間~数箇月)だけ土壌加温装置120で土壌を加温する。しかしながら、加温された土壌や地下水の現実の温度は、予測された(あるいは解析された)温度とは異なることも十分考えられる。そのため、実際の温度を観測しながら電極井戸121に印加していくこともできる。この場合、図3に示すように各電極井戸121の間に温度観測井戸160を構築しておき、この温度観測井戸160を利用して土壌や地下水の温度を観測するとよい。
【0026】
(ガス吸引装置)
ガス吸引装置130は、回収井戸CW内に発生したガス類を吸引するものであり、従来用いられている種々のポンプ等を利用することができる。またガス吸引装置130によって吸引されたガス類は、40~90℃程度の温度でVOCを含んでいることから、冷却したうえでVOCの処理を行うとよい。そのためガス吸引装置130は、ガス類を冷却する機能と、冷却したガス類を気液分離する機能、気液分離によって生じた気体に含まれるVOCを活性炭に吸着させる機能、活性炭吸着後に大気へ放出する機能などを有するものが望ましい。なお、ガス吸引装置130は、図1に示すように地上に設置するとよい。
【0027】
(油水分離装置と水処理装置)
油水分離装置140と水処理装置150は、図1に示すように地上に設置される。この油水分離装置140は、地下水揚水装置110が汲み上げた地下水に対して油水分離処理を行うものであり、ガス吸引装置130によって気液分離された分離水に対して油水分離処理を行うこともできる。また水処理装置150は、油水分離装置140によって分離された水を処理し、処理水として排出する。なお油水分離装置140の処理によって生じた油類は回収し、その性状に応じて適切に処分するとよい。
【0028】
2.VOC原位置浄化方法
続いて、本願発明のVOC原位置浄化方法ついて図4を参照しながら説明する。なお、本願発明のVOC原位置浄化方法は、ここまで説明したVOC原位置浄化システム100を用いて土壌等を浄化する方法であり、したがってVOC原位置浄化システム100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明のVOC原位置浄化方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.VOC原位置浄化システム」で説明したものと同様である。
【0029】
図4は、本願発明のVOC原位置浄化方法の主な工程の流れを示すフロー図である。この図に示すように、はじめに対象範囲のうち適切な位置に回収井戸CWと電極井戸121を構築する(図4のStep10)。既述したとおり回収井戸CWは、従来用いられている種々の工法を採用して掘削することができ、また塩化ビニル管(耐熱性硬質塩化ビニル管)を含む種々の材料を用いることができる。電極井戸121も、回収井戸CWと同様、従来用いられている種々の工法を採用して掘削することができる。また電極井戸121は、対象範囲の土壌を取り囲むように3以上の箇所に(例えば図3に示すように複数の三角形を形成するように)配置するとよい。回収井戸CWと電極井戸121を構築すると、地下水揚水装置110を回収井戸CW内に設置し、電源装置122やガス吸引装置130、油水分離装置140、水処理装置150を地上に設置し、必要に応じて温度観測井戸160を構築する。
【0030】
回収井戸CWと電極井戸121を構築し、各種装置を設置すると、電源装置122によって各電極井戸121のケーシングに三相交流電圧を印加し、土壌を昇温させる(図4のStep20)。また温度観測井戸160を設置している場合は、温度観測井戸160を利用して土壌や地下水の温度を観測しながら土壌を昇温させるとよい。
【0031】
土壌が計画温度まで昇温すると、地下水揚水装置110によって地下水を汲み上げ、その地下水の油水分離処理を油水分離装置140によって行い、水処理装置150によって処理水を排出する(図4のStep30)。ここで生じた油類は回収し、その性状に応じて適切に処分するとよい。また、地下水揚水装置110によって対象範囲の地下水位が低下した状態で、回収井戸CW内に発生したガス類をガス吸引装置130によって吸引し、そのガス類を冷却し、気液分離を行い、気体に含まれるVOCを活性炭に吸着させ、活性炭吸着後に大気へ放出する(図4のStep40)。
【0032】
計画温度で計画期間(例えば、数週間~数箇月)だけ、土壌加温装置120で土壌を加温し、ガス吸引装置130によってガス類を吸引すると、電源装置122による三相交流電圧の印加を停止する(図4のStep90)。なお、電源装置122による印加停止にあたっては、対象範囲内のVOCが十分浄化されていることを検査等によって確認したうえで行うとよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願発明のVOC原位置浄化システム、及びVOC原位置浄化方法は、VOCが使用され、排出され、あるいは副生成される操業地(又は操業跡地)で利用することができる。本願発明が、我が国の環境改善にとって極めて有益であることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
【符号の説明】
【0034】
100 本願発明のVOC原位置浄化システム
110 (VOC原位置浄化システムの)地下水揚水装置
120 (VOC原位置浄化システムの)土壌加温装置
121 (土壌加温装置の)電極井戸
122 (土壌加温装置の)電源装置
130 (VOC原位置浄化システムの)ガス吸引装置
140 (VOC原位置浄化システムの)油水分離装置
150 (VOC原位置浄化システムの)水処理装置
160 (VOC原位置浄化システムの)温度観測井戸
CW 回収井戸
図1
図2
図3
図4