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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】乳化剤および乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/56 20220101AFI20240704BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 8/04 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
C09K23/56
A61K8/73
A61K8/04
A61K8/44
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020128635
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025675
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 紋代
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022830(WO,A1)
【文献】特開2015-044168(JP,A)
【文献】特開昭57-125298(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0286893(US,A1)
【文献】国際公開第2017/143438(WO,A1)
【文献】特開2015-101564(JP,A)
【文献】特開2017-066283(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141800(WO,A1)
【文献】特開2012-126786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 23/00-23/56
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
C08B 1/00-37/18
A61K 9/00-47/69
C11D 1/00-19/00
C09D 1/00-201/10
A23L 5/00-29/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基、リン酸基、硫酸基及びスルホン酸基からなる群から選択された少なくとも1種のアニオン性基の対イオンとして、リシン、ヒスチジン及びアルギニンからなる群から選択された少なくとも1種の塩基性アミノ酸を有するアニオン変性セルロースナノファイバーを含み、
前記アニオン変性セルロースナノファイバーの乾燥質量あたりのアニオン性基の含有量が0.6~2.5mmol/gであり、前記アニオン変性セルロースナノファイバーの乾燥質量あたりの塩基性アミノ酸の含有量が1.5~4.0mmol/gである、乳化剤。
【請求項2】
請求項に記載の乳化剤を含む、乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤、及びそれを用いて乳化してなる乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水と油性成分とを乳化させる乳化剤は、化粧品や外用医薬品、医薬部外品などの皮膚外用剤をはじめとして様々な用途に用いられており、従来、種々の化合物が乳化剤として提案されている。
【0003】
ところで、天然に多量に存在するバイオマスの有効利用の観点から、セルロース繊維の利用が種々検討されており、ナノメートルサイズの繊維径を有するセルロースナノファイバーが着目されている。例えば、特許文献1には、アニオン性基としてカルボキシ基を有するセルロースナノファイバーの当該カルボキシ基を特定のモノアミンで中和してなるアニオン変性セルロースナノファイバーに乳化力があることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-126786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、セルロースナノファイバーを用いた新規な乳化剤、およびそれを用いて乳化してなる乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] アニオン性基の対イオンとして塩基性アミノ酸を有するアニオン変性セルロースナノファイバーを含む、乳化剤。
[2] 前記アニオン性基が、カルボキシ基、リン酸基、硫酸基及びスルホン酸基からなる群から選択された少なくとも1種である、[1]に記載の乳化剤。
[3] 前記塩基性アミノ酸が、リシン、ヒスチジン及びアルギニンからなる群から選択された少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の乳化剤。
[4] 前記アニオン変性セルロースナノファイバーの乾燥質量あたりの前記塩基性アミノ酸の含有量が0.01~4.0mmol/gである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の乳化剤。
[5] [1]~[4]のいずれか1項に記載の乳化剤を含む、乳化組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態であると、セルロースナノファイバーを用いた新規な乳化剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態に係る乳化剤は、塩基性アミノ酸を対イオンとして有するアニオン変性セルロースナノファイバーを含むものである。アニオン性基が塩基性アミノ酸を対イオンとして有することにより、乳化能を向上することができる。
【0009】
[アニオン変性セルロースナノファイバー]
アニオン変性セルロースナノファイバーは、セルロース分子の構成単位であるグルコースユニットがアニオン性基を有するとともに、該アニオン性基が塩基性アミノ酸を対イオンとして有するセルロースナノファイバーであり、ナノメートルレベルの繊維径を有する繊維状材料である。
【0010】
アニオン性基は、セルロース分子を構成するすべてのグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよく、あるいは、セルロース分子を構成する一部のグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよい。
【0011】
アニオン性基とは、アニオン性を示す置換基のことをいう。アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、硫酸基、スルホン酸基等を挙げることができ、これらのいずれか1種又は2種以上とすることができる。これらのアニオン性基は、グルコースユニットに直接結合してもよく、間接的に結合してもよい。間接的に結合する場合、グルコースユニットとアニオン性基との間には、例えば、炭素数1~4のアルキレン基が存在してもよい。アニオン性基は、塩基性アミノ酸を対イオンとする塩型(例えばカルボキシ基の場合は-COOX。ここでXはカルボン酸と塩を形成するカチオン)のものを含んでいれば、酸型(例えばカルボキシ基の場合は-COOH)のものを含んでもよく、塩基性アミノ酸以外のカチオンを対イオンとする塩型のものを含んでもよい。
【0012】
アニオン変性セルロースナノファイバーにおけるアニオン性基の含有量は特に限定されない。例えば、アニオン変性セルロースナノファイバーの乾燥質量あたり、0.05~3.0mmol/gでもよく、0.5~2.8mmol/gでもよく、0.6~2.5mmol/gでもよい。なお、本明細書において「乾燥質量」とは、一分間当たりの質量変化率が0.05%以下になるまで140℃で乾燥させた後の質量のことである。
【0013】
アニオン性基の含有量の測定は、例えば、カルボキシ基の場合、0.5~1質量%の濃度に調製したアニオン変性セルロースナノファイバー含有スラリーを60mL調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。その他のアニオン性基についても公知の方法で測定すればよい。
アニオン性基含有量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/アニオン変性セルロースナノファイバー質量(g)〕
【0014】
アニオン性基は、塩基性アミノ酸を対イオンとして有する。例えば、アニオン変性セルロースナノファイバーにおいて、アニオン性基は塩基性アミノ酸で中和されている。塩基性アミノ酸とは、分子内に1つのアミノ基に加えて、さらに塩基性を示す残基を有するアミノ酸をいう。塩基性アミノ酸の種類は特に限定されず、例えば、リシン、ヒスチジン及びアルギニンからなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。リシン水溶液の等電点は9.7、ヒスチジン水溶液の等電点は7.6、アルギニン水溶液の等電点は10.8とされている。
【0015】
塩基性アミノ酸は、セルロース分子のすべてのアニオン性基と対イオンを形成してもよく、あるいは、セルロース分子の一部のアニオン性基と対イオンを形成してもよい。セルロース分子の一部のアニオン性基と対イオンを形成する場合、例えば、アニオン性基の全量に対して10モル%以上のアニオン性基が塩基性アミノ酸と対イオンを形成してもよく、アニオン性基の全量に対して25モル%以上、より好ましくは50モル%以上のアニオン性基が塩基性アミノ酸と対イオンを形成してもよい。
【0016】
アニオン変性セルロースナノファイバーにおける前記対イオンとしての塩基性アミノ酸の含有量は特に限定されないが、0.01~4.0mmol/gであることが好ましい。この塩基性アミノ酸の含有量は、アニオン変性セルロースナノファイバーの乾燥質量あたりの塩基性アミノ酸のモル量であり、0.01mmol/g以上であることにより、乳化能を高めることができる。塩基性アミノ酸の含有量は、0.1~3.8mmol/gであることが好ましく、より好ましくは0.2~3.5mmol/gであり、1.5~3.3mmol/gでもよい。なお、塩基性アミノ酸の含有量は、アニオン性基の含有量以下でもよいが、例えば中和でpHを7とするためにアニオン性基の含有量よりも多くてもよい。
【0017】
塩基性アミノ酸の含有量の測定は、例えば、0.5~1質量%の濃度に調製した塩基性アミノ酸中和アニオン変性セルロースナノファイバー含有スラリーを60mL調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、孔径0.1μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、得られたろ液から全自動アミノ酸分析機(JEOL社製、JLC-500/V)を用いて定量的に測定することができる。
【0018】
セルロース分子の一部のアニオン性基が対イオンを有している場合、対イオンを形成していないアニオン性基は酸型であってもよく、あるいは塩基性アミノ酸以外のカチオンを対イオンとして有する塩型であってもよく、その両方であってもよい。塩基性アミノ酸以外のカチオンの塩型としては、特に限定されず、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0019】
アニオン変性セルロースナノファイバーとしては、下記(a)~(c)の条件を満たすものを用いることが好ましい。
(a)数平均繊維径が0.6~200nmであること。
(b)セルロースI型結晶構造を有すること。
(c)平均アスペクト比が10~1000であること。
【0020】
上記(a)について、数平均繊維径が200nm以下であることにより、乳化能を高めることができる。数平均繊維径は、より好ましくは50nm以下であり、更に好ましくは30nm以下であり、10nm以下でもよい。また、数平均繊維径の下限は1nm以上でもよく、1.5nm以上でもよい。
【0021】
上記(b)のセルロースI型結晶構造を有することは、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。セルロースI型結晶構造は天然セルロースの結晶形のことである。
【0022】
アニオン変性セルロースナノファイバーの結晶化度は、特に限定されないが、X線回折装置を用いてSegal法で算出した結晶化度が、例えば60%以上95%以下であることが好ましい。結晶化度は、より好ましくは70%以上である。結晶化度の上限は特に限定されないが、例えば、92%以下でもよく、90%以下でもよい。
【0023】
上記(c)について、平均アスペクト比が10以上1000以下であることにより、乳化能を高めることができる。平均アスペクト比は、より好ましくは50以上であり、更に好ましくは100以上であり、200以上でもよい。平均アスペクト比は、より好ましくは700以下であり、500以下でもよく、400以下でもよい。ここで、平均アスペクト比は、アニオン変性セルロースナノファイバーの数平均繊維径(nm)に対する数平均繊維長(nm)の比(数平均繊維長/数平均繊維径)である。
【0024】
本実施形態に係るアニオン変性セルロースナノファイバーの製造方法は特に限定されない。例えば、公知の方法に従いアニオン性基を有するセルロースナノファイバーを製造した後、該セルロースナノファイバーに塩基性アミノ酸を反応させること、つまり、該セルロースナノファイバーを塩基性アミノ酸で中和処理をすることにより、塩基性アミノ酸を対イオンとして有するアニオン変性セルロースナノファイバーを得ることができる。その際、例えば、アニオン性基を有するセルロースナノファイバーの水分散液と塩基性アミノ酸とを、pHが7になるまで混合してもよい。あるいはまた、公知の方法に従いセルロース原料にアニオン性基を導入した後、得られたアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基を塩基性アミノ酸で中和処理し、次いで微細化(解繊)処理を行うことにより、塩基性アミノ酸を対イオンとして有するアニオン変性セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0025】
一実施形態において、アニオン性基としてカルボキシ基を有するアニオン変性セルロースナノファイバーとしては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロースナノファイバーや、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーが挙げられる。
【0026】
酸化セルロースナノファイバーとしては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性されたものが挙げられる。酸化セルロースナノファイバーは、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、微細化処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。なお、酸化セルロースナノファイバーは、カルボキシ基とともに、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよい。
【0027】
上記酸化セルロースナノファイバーの製造方法において、微細化処理前にカルボキシ基を塩基性アミノ酸で中和処理してもよく、微細化処理後に中和処理してもよい。微細化処理は、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカル型リファイナー、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー等を用いて、アニオン変性セルロース繊維の分散液を処理することにより行うことができ、アニオン変性セルロースナノファイバーの分散液を得ることができる。
【0028】
[乳化剤]
乳化剤は、上記アニオン変性セルロースナノファイバーを含むものであり、上記アニオン変性セルロースナノファイバー単独でもよいが、他の界面活性剤を含有してもよく、更に、その用途に応じた各種添加剤を含有してもよい。また、上記アニオン変性セルロースナノファイバーを、水などの溶媒に分散させてもよい。すなわち、乳化剤は、好ましくは、アニオン変性セルロースナノファイバーを水に分散させてなる水分散液であり、水とともにアルコールなどの親水性溶媒を含む分散液でもよい。乳化剤がこのような分散液である場合、アニオン変性セルロースナノファイバーの濃度は特に限定されず、例えば0.01~10質量%でもよく、0.1~8質量%でもよく、1~5質量%でもよい。
【0029】
上記アニオン変性セルロースナノファイバーと併用することができる他の界面活性剤としては、特に限定されず、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性の公知の界面活性剤を1種類乃至2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
[乳化組成物]
本実施形態に係る乳化組成物は、上記乳化剤を含むものである。乳化組成物は、油滴が水に分散する水中油滴(O/W型)エマルションでもよく、水滴が油に分散する油中水滴(W/O型)エマルションでもよい。好ましくは、乳化組成物は、油性成分を上記乳化剤で水中に乳化することにより得られる水中油型乳化組成物である。
【0031】
乳化組成物における上記アニオン変性セルロースナノファイバーの含有量は、特に限定されず、例えば0.001~5質量%でもよく、0.005~2質量%でもよく、0.01~1質量%でもよく、0.03~0.5質量%でもよい。乳化組成物を調製する際に油性成分と混合する水分散液におけるアニオン変性セルロースナノファイバーの濃度(即ち、乳化組成物における水相中に含まれるセルロース繊維濃度)は、特に限定されず、例えば0.005~5質量%でもよく、0.01~3質量%でもよく、0.02~2質量%でもよい。
【0032】
乳化組成物における油性成分の含有量は、特に限定されず、例えば2~85質量%でもよく、5~80質量%でもよく、10~55質量%でもよく、15~40質量%でもよい。乳化組成物における水の含有量も特に限定されず、例えば14~97質量%でもよく、19~94質量%でもよく、44~89質量%でもよく、59~84質量%でもよい。
【0033】
乳化組成物における水相は、水又は各種水溶液が挙げられ、水溶液に含まれる水溶性成分としては、例えばエタノール等の一価アルコール、プロピレングリコールやブチレングリコールなどの多価アルコール、単糖やオリゴ糖などの糖類、NaCl、KCl、CaCl、MgCl、(NHSO、NaCOなど無機塩類、有機塩類などの各種水溶性成分が挙げられる。
【0034】
乳化組成物において油相を構成する油性成分としては、例えば、シリコーンオイル、植物油脂、動物油脂、ロウ類、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0035】
シリコーンオイルとしては、例えば、メチルポリシロキサン、架橋型メチルポリシロキサン、環状シリコーン(例えばシクロペンタシロキサンなどの環状ポリシロキサン)、アルキル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリコーン、アクリルシリコーン、フェニル変性シリコーン等が挙げられる。
【0036】
植物油脂としては、例えば、アボカド油、アーモンド油、オリープ油、ククイナッツ油、グレープシード油、ゴマ油、小麦胚芽油、コメ胚芽油、コメヌカ油、サフラワー油、シアバター、大豆油、茶油(茶実油、茶種子油)、月見草油、ツパキ油、トウモロコシ胚芽油、ナタネ油、パーシック油、ハトムギ油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、ヒマワリ油、へ一ゼルナッツ油、マカデミアナッツ油、メドウホーム油、綿実油、モクロウ、ヤシ油、落花生油、ローズヒップ油等が挙げられる。
【0037】
動物油脂としては、例えば、魚油、牛脂、タートル油、ミンク油、卵黄油等が挙げられる。
【0038】
ロウ類としては、例えば、カルナウバロウ、鯨ロウ、セラック、ホホバ油、ミツロウ、サラシミツロウ、モンタンワックス、ラノリン、ラノリン誘導体、還元ラノリン、硬質ラノリン、吸着精製ラノリン等が挙げられる。
【0039】
炭化水素としては、例えば、α-オレフィンオリゴマー、スクワラン、スクワレン、セレシン、固形パラフィン、プリスタン、ポリエチレン末、マイクロクリスタリンワックス、流動パラフィン、ワセリン、ミネラルオイル、炭素数8~30の直鎖アルカン(例えばヘキサデカン)等が挙げられる。
【0040】
高級脂肪酸としては、例えば、アラキドン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ラノリン脂肪酸、硬質ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0041】
高級アルコールとしては、例えば、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、キミルアルコール、コレステロール、シトステロール、ステアリルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、セラキルアルコール、デシルテトラデカノール、バチルアルコール、フィトステロール、ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコール等が挙げられる。
【0042】
エステル油としては、例えば、酢酸ラノリン、イソステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸コレステリル、エルカ酸オクチルドデシル、エチルヘキサン酸セチル、エチルヘキサン酸セトステアリル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸コレステリル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ラウリン酸ヘキシル、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリン脂肪酸コレステリル、デカン酸メチルなどの脂肪酸エステル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、ヒドロキシステアリン酸コレステロール、リンゴ酸ジイソステアリルなどのヒドロキシ酸エステル、トリミリスチン酸グリセリン、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルなどのトリグリセリド、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルなどのメトキシケイヒ酸エステル等が挙げられる。
【0043】
これらのなかでも油性成分としては、I/O値が0.45以下のものを用いることが好ましい。I/O値とは、有機性基と無機性基との比により、化合物が示す親疎水性の尺度を表す指標となるパラメーターであり、無機性値(I)を有機性基(O)で除することにより得られる。I/O値が大きいほど極性(親水性、無機性)が大きいことを示し、I/O値が小さいほど非極性(疎水性、有機性)が大きいことを示す。I/O値については、「有機概念図」(甲田善生著・三共出版、1984年)に記載されている。
【0044】
乳化組成物には、上記成分の他、必要に応じて、水相及び油相に溶解しない粉体(例えば、タルク、カオリン、雲母などの無機粉体、ポリアミド樹脂粉末など有機粉体)や、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、香料、潤滑剤、可塑剤、貯蔵安定剤といった添加剤を適宜配合することができる。
【0045】
乳化組成物を調製する際の乳化方法としては特に限定されず、公知の強制乳化法、転相乳化法、D相乳化法、ゲル乳化法等のいずれの方法でも構わず、使用機器は、例えば、攪拌羽、ディスパー、ホモジナイザー等による単独攪拌、およびこれらを組み合わせた複合攪拌など、種々使用可能である。
【0046】
乳化組成物の用途としては、特に限定されず、例えば、クリーム状、ゲル状、乳液状あるいは液体状の剤型を有する各種製品(化粧品、外用医薬品、医薬部外品、農薬、トイレタリー用品、スプレー製品、塗料等)に用いることができる。具体的には、化粧水、乳液、コールドクリーム、バニシングクリーム、マッサージクリーム、エモリエントクリーム、クレンジングクリーム、美容液、パック、ファンデーション、サンスクリーン化粧料、サンタン化粧料、モイスチャークリーム、ハンドクリーム、美白乳液、各種ローション等の皮膚用化粧料、シャンプー、リンス、ヘアコンディショナー、リンスインシャンプー、ヘアスタイリング剤(ヘアフォーム,ジェル状整髪料等)、ヘアトリートメント剤(ヘアクリーム,トリートメントローション等)、染毛剤やローションタイプの育毛剤あるいは養毛剤等の毛髪用化粧料、さらにはハンドクリーナーのような洗浄剤、プレシェーブローション、アフターシェーブローション、自動車用や室内用の芳香剤、脱臭剤、歯磨剤、軟膏、貼布剤、農薬、スプレー製品、塗料等の用途に用いることができる。
【実施例
【0047】
以下に実施例について比較例と合わせて詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
[セルロースナノファイバーの調製]
(製造例1)
針葉樹クラフトパルプ2.0gに水150mL、臭化ナトリウム0.25g、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)0.025gを加え、十分撹拌させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が12mmol/gとなるように加え、反応を開始した。さらに反応中のpHが10~11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、120分間反応させた。反応後、0.1N塩酸を加えてpH=2.0とし、脱水を行った。これに純水を加えてセルロース繊維濃度を2質量%に希釈し、中和工程として、リシン(Lys)を添加してpH=7.0に調製した。その後、微細化処理工程としてマイクロフルイタイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことでアニオン変性セルロースナノファイバーA1を得た。
【0049】
(製造例2)
中和工程において、リシンの代わりにアルギニン(Arg)を用いた以外は、製造例1と同様の製法でアニオン変性セルロースナノファイバーA2を得た。
【0050】
(製造例3)
中和工程において、リシンの代わりにヒスチジン(His)を用いた以外は、製造例1と同様の製法でアニオン変性セルロースナノファイバーA3を得た。
【0051】
(製造例4)
微細化処理工程において、マイクロフルイタイザーによる処理を150MPaで20パス行った以外は、製造例1と同様の操作でアニオン変性セルロースナノファイバーA4を得た。
【0052】
(製造例5)
微細化処理工程において、マイクロフルイタイザーによる処理を95MPaで1パス行った以外は、製造例1と同様の操作でアニオン変性セルロースナノファイバーA5を得た。
【0053】
(製造例6)
中和工程において、リシンの代わりに10質量%水酸化ナトリウムを用いた以外は、製造例1と同様の製法でアニオン変性セルロースナノファイバーA6を得た。
【0054】
(製造例7)
第一工業製薬(株)製のカルボキシメチルセルロース(セロゲンWS-A)10.0gに水490.0gを投入し、スターラーで撹拌し溶解させることで、セルロースA7を得た。
【0055】
(製造例8)
針葉樹クラフトパルプ50.0gを水950.0gに分散させ、家庭用ミキサーで粉砕後、石臼式磨砕機で解繊し、更に水を加えて固形分濃度が2質量%の水分散液とした。得られた2質量%水分散液にマイクロフルイタイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことでセルロースナノファイバーA8を得た。
【0056】
(評価)
製造例1~6および8により得られたセルロースナノファイバーA1~6,8について結晶化度、数平均繊維径、平均アスペクト比、アニオン性基の含有量、塩基性アミノ酸の含有量を測定した。アニオン性基および塩基性アミノ酸の各含有量の測定方法は上述したとおりであり、結晶化度、数平均繊維径及び平均アスペクト比の測定方法は以下のとおりである。結果を下記表1に示す。
【0057】
(1)結晶化度(%)
セルロース繊維のX線回折強度をX線回折法にて測定し、その測定結果からSegal法を用いて下記式(1)より算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6―I18.5)/I22.6〕×100 …(1)
式(1)中、I22.6は、X線回折における格子面(200)面(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。また、サンプルのX線回折強度の測定は、株式会社リガク製の「RINT2200」を用いて以下の条件にて実施した。
X線源:Cu/Kα―radiation
管電圧:40Kv
管電流:30mA
測定範囲:回折角2θ=5~35°
X線のスキャンスピード:10°/min
【0058】
(2)数平均繊維径および平均アスペクト比
原子間力顕微鏡(AFM)による画像観察において無作為に選択した50本のアニオン変性セルロースナノファイバーについて繊維径及び繊維長をそれぞれ相加平均して数平均繊維径(nm)及び数平均繊維長(nm)を算出した。数平均繊維径に対する数平均繊維長比(数平均繊維長/数平均繊維径)を算出して平均アスペクト比を求めた。
【0059】
【表1】
【0060】
[乳化液の調製]
(実施例1)
製造例1により得られたアニオン変性セルロースナノファイバーA1(2質量%水分散液)を1.0g量り取り、水199.0mLを加え、プライミクス社製のホモミキサーMARKII2.5型により8,000rpmで10分間撹拌した後、脱気することにより、セルロース繊維濃度が0.01質量%の希釈液を調製した。セルロース繊維濃度0.01質量%の希釈液を20mL量り取り、デカン酸メチル(I/O値=0.30)を5mL加え、ソニックス社製の超音波ホモジナイザー VC505を用いて1分間超音波照射を行うことで乳化液(乳化組成物)を調製した。
【0061】
(実施例2~17)
製造例1~5により得られたアニオン変性セルロースナノファイバーA1~A5を用いて、下記表2及び表3に示すセルロース繊維濃度になるよう希釈し、表2及び表3に記載の配合割合となるように希釈液と油を配合した以外は、実施例1と同様の操作で乳化液を調製した。
【0062】
(比較例1~3)
製造例6~8により得られたセルロース又はセルロースナノファイバーA6~A8を用いて、セルロース濃度が0.05質量%になるよう希釈し、得られた希釈液を用いた以外は実施例2と同様の操作で乳化液を調製した。
【0063】
(評価)
実施例1~17及び比較例1~3の乳化液について乳化能を評価した。乳化能の評価方法は以下の通りである。結果を表2及び表3に示す。
【0064】
(乳化能評価)
乳化液を容量25mLの試験管に移し、1週間静置した。その後、乳化状態を目視で観察し、乳化能を評価した。
〇:油相の分離がほとんどなく、乳化相が形成される
△:分離した油相が一部存在するが、乳化相が形成される
×:乳化相が形成されない
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
表2,3中のB1~B7は以下のとおりである。
・B1:デカン酸メチル
・B2:メトキシケイヒ酸エチルへキシル
・B3:シクロペンタシロキサン
・B4:トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル
・B5:ヘキサデカン
・B6:ミネラルオイル
・B7:スクワラン
【0068】
表2,3に示すように、実施例1~17に係る塩基性アミノ酸をアニオン性基の対イオンとして有するアニオン変性セルロースナノファイバーA1~A5を用いて乳化された乳化液は、比較例1~3に比べて乳化能が高く、特に油と混合するセルロース分散液におけるセルロース繊維濃度が0.01質量%超、油/セルロース分散液が5未満、油のI/O値が0.45以下の場合において特に優れた乳化能を有していた。塩基性のアミノ酸を対イオンとして用いることで、油に対する親和性が増加したからだと推察される。
【0069】
一方、比較例1は対イオンがナトリウムであるため、油に対する親和性が低くなり、乳化能が低かった。比較例2ではカルボキシメチルセルロースが結晶構造を持たないため、油滴が壊れやすくなり、乳化能が低かった。比較例3は未変性のセルロ―スナノファイバーであるため、分散性も悪く、油に吸着しにくくなり、乳化能が低かった。
【0070】
以上のように、本実施形態に係る塩基性アミノ酸で中和したアニオン変性セルロースナノファイバーは、乳化剤として用いることができ、様々な用途の乳化組成物に用いることができる。特に安全性にも優れることから、これらの性能が求められる化粧品、医薬品、医薬部外品などの分野に好適に用いることができる。
【0071】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。