(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】圧延材製造システム、および、圧延材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 45/02 20060101AFI20240704BHJP
B21B 45/08 20060101ALI20240704BHJP
B21B 39/00 20060101ALI20240704BHJP
B21B 39/14 20060101ALI20240704BHJP
B21B 1/088 20060101ALI20240704BHJP
B21B 27/10 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
B21B45/02 320P
B21B45/08 K
B21B39/00 B
B21B39/14 B
B21B1/088 Z
B21B27/10 D
(21)【出願番号】P 2020134893
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000110251
【氏名又は名称】トピー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 昇
(72)【発明者】
【氏名】森下 功
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 敏幸
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-082952(JP,U)
【文献】特開2017-080786(JP,A)
【文献】特開昭50-112260(JP,A)
【文献】特公昭42-026475(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00 - 11/00
B21B 47/00 - 99/00
B21B 45/00 - 45/08
B21B 27/00 - 35/14
B21B 39/00 - 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のフランジと、前記一対のフランジを繋ぐウェブとを備える粗圧延処理された後の圧延材に対して仕上げ圧延処理を行う圧延材製造システムであって、
前記粗圧延処理された前記圧延材のスケールを高圧水によって除去するデスケーリング処理を行うデスケーリング装置と、
前記デスケーリング処理が施された前記圧延材に対して前記仕上げ圧延処理を行う仕上げ圧延機と、
前記仕上げ圧延機に対して前記圧延材を誘導する誘導装置と、
前記デスケーリング装置と前記誘導装置との間に配置される第1冷却機構と、
前記誘導装置に設けられる第2冷却機構および第3冷却機構と、を備え、
前記第1冷却機構および前記第2冷却機構は、前記圧延材の下部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす下側角部に向かって冷却液を噴射し、
前記第3冷却機構は、前記圧延材の上部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす上側角部に向かって冷却液を噴射
し、
前記仕上げ圧延機は、前記圧延材の上方に位置するロールと、前記ロールを冷却する第4冷却機構とを備え、
前記誘導装置は、前記圧延材と前記ロールとの間に位置する遮蔽部材を備え、
前記遮蔽部材は、前記ロールに対して前記圧延材の搬送方向における上流側に位置し、かつ、前記ロールに対して前記搬送方向に位置調整可能となるように設けられる
圧延材製造システム。
【請求項2】
前記仕上げ圧延処理が施された前記圧延材を切断する切断機をさらに備え、
前記切断機は、回転することで前記圧延材を切断するブレードと、前記ブレードを覆うカバーと、前記ブレードを冷却する第5冷却機構とを備え、
前記カバーは、前記ブレードの各面と対向する内側面に配置される水切り部を備える
請求項
1に記載の圧延材製造システム。
【請求項3】
一対のフランジと、前記一対のフランジを繋ぐウェブとを備える粗圧延処理された後の圧延材に対して仕上げ圧延処理を行う圧延材製造システムであって、
前記粗圧延処理された前記圧延材のスケールを高圧水によって除去するデスケーリング処理を行うデスケーリング装置と、
前記デスケーリング処理が施された前記圧延材に対して前記仕上げ圧延処理を行う仕上げ圧延機と、
前記仕上げ圧延機に対して前記圧延材を誘導する誘導装置と、
前記デスケーリング装置と前記誘導装置との間に配置される第1冷却機構と、
前記誘導装置に設けられる第2冷却機構および第3冷却機構と、
前記仕上げ圧延処理が施された前記圧延材を切断する切断機と、を備え、
前記第1冷却機構および前記第2冷却機構は、前記圧延材の下部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす下側角部に向かって冷却液を噴射し、
前記第3冷却機構は、前記圧延材の上部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす上側角部に向かって冷却液を噴射し、
前記切断機は、回転することで前記圧延材を切断するブレードと、前記ブレードを覆うカバーと、前記ブレードを冷却する第5冷却機構とを備え、
前記カバーは、前記ブレードの各面と対向する内側面に配置される水切り部を備える
圧延材製造システム。
【請求項4】
前記誘導装置は、前記圧延材における前後方向の先端部が前記誘導装置に達したことを検知する検知部と、前記第2冷却機構および前記第3冷却機構を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記検知部が前記先端部を検知したときを基準として、前記第2冷却機構および前記第3冷却機構のそれぞれを特定のタイミングで駆動する
請求項1ないし
3のうち何れか1項に記載の圧延材製造システム。
【請求項5】
一対のフランジと、前記一対のフランジを繋ぐウェブとを備える粗圧延処理された後の圧延材に対して仕上げ圧延処理を行う圧延材の製造方法であって、
前記粗圧延処理された前記圧延材のスケールをデスケーリング装置の高圧水によって除去するデスケーリング工程と、
第1冷却機構によって、前記デスケーリング工程に伴う前記圧延材の温度差を調整するために前記圧延材を冷却する第1冷却工程と、
前記圧延材を仕上げ圧延機に誘導する誘導装置が備える第2冷却機構および第3冷却機構によって、前記温度差を調整するために前記圧延材を冷却する第2冷却工程と、
前記仕上げ圧延機によって、前記第1冷却工程および前記第2冷却工程で冷却された前記圧延材に対して
前記仕上げ圧延処理を行う仕上げ圧延工程と、を含み、
前記第1冷却工程において、前記第1冷却機構が前記圧延材の下部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす下側角部に向かって冷却液を噴射し、
前記第2冷却工程において、前記第2冷却機構が前記下側角部に向かって冷却液を噴射し、前記第3冷却機構が前記圧延材の上部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす上側角部に向かって冷却液を噴射
し、
前記仕上げ圧延機は、前記圧延材の上方に位置するロールと、前記ロールを冷却する第4冷却機構とを備え、
前記誘導装置は、前記圧延材と前記ロールとの間に位置する遮蔽部材を備え、
前記遮蔽部材は、前記ロールに対して前記圧延材の搬送方向における上流側に位置し、かつ、前記ロールに対して前記搬送方向に位置調整可能となるように設けられる
圧延材の製造方法。
【請求項6】
一対のフランジと、前記一対のフランジを繋ぐウェブとを備える粗圧延処理された後の圧延材に対して仕上げ圧延処理を行う圧延材の製造方法であって、
前記粗圧延処理された前記圧延材のスケールをデスケーリング装置の高圧水によって除去するデスケーリング工程と、
第1冷却機構によって、前記デスケーリング工程に伴う前記圧延材の温度差を調整するために前記圧延材を冷却する第1冷却工程と、
前記圧延材を仕上げ圧延機に誘導する誘導装置が備える第2冷却機構および第3冷却機構によって、前記温度差を調整するために前記圧延材を冷却する第2冷却工程と、
前記仕上げ圧延機によって、前記第1冷却工程および前記第2冷却工程で冷却された前記圧延材に対して前記仕上げ圧延処理を行う仕上げ圧延工程と、
前記仕上げ圧延処理が施された前記圧延材を切断機によって切断する切断工程と、を含み、
前記第1冷却工程において、前記第1冷却機構が前記圧延材の下部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす下側角部に向かって冷却液を噴射し、
前記第2冷却工程において、前記第2冷却機構が前記下側角部に向かって冷却液を噴射し、前記第3冷却機構が前記圧延材の上部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす上側角部に向かって冷却液を噴射し、
前記切断機は、回転することで前記圧延材を切断するブレードと、前記ブレードを覆うカバーと、前記ブレードを冷却する第5冷却機構とを備え、
前記カバーは、前記ブレードの各面と対向する内側面に配置される水切り部を備える
圧延材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延により製造される圧延材の圧延材製造システム、および、圧延材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物や建築物に用いられる鋼材として、断面視H字形状のH形鋼がある。H形鋼は、熱間圧延により製造される圧延材であり、一対のフランジと、一対のフランジを繋ぐウェブとを備える。圧延工程中の圧延材には、表面にスケールとよばれる酸化膜が生じる。圧延材の表面に生じたスケールは、圧延材における疵の発生原因となる。また、スケールの厚みの差によって圧延材に局所的な冷却ムラが生じることで、圧延材に熱変形が生じる原因ともなる。したがって、圧延工程では、仕上げ圧延を行う前に、圧延材の表面に生じたスケールを取り除く必要がある。例えば、特許文献1には、圧延工程中の圧延材の表面に高圧水を噴射することによって、スケールを除去するデスケーリング処理を行うデスケーリング装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、デスケーリング処理では、圧延材に高圧水が噴射されることにより、圧延材の温度が低下する。このとき、高圧水による冷却量が圧延材の上下で均一ではないため、圧延材の上下で温度差が生じてしまう。この上下の温度差によって圧延材が変形するために、フランジ直角度の不良が発生しやすくなってしまう。
【0005】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、熱間圧延される圧延材のフランジ直角度の寸法安定性を向上可能とした圧延材製造システム、および、圧延材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための圧延材製造システムは、一対のフランジと、前記一対のフランジを繋ぐウェブとを備える粗圧延処理された後の圧延材に対して仕上げ圧延処理を行う圧延材製造システムであって、前記粗圧延処理された前記圧延材のスケールを高圧水によって除去するデスケーリング処理を行うデスケーリング装置と、前記デスケーリング処理が施された前記圧延材に対して前記仕上げ圧延処理を行う仕上げ圧延機と、前記仕上げ圧延機に対して前記圧延材を誘導する誘導装置と、前記デスケーリング装置と前記誘導装置との間に配置される第1冷却機構と、前記誘導装置に設けられる第2冷却機構および第3冷却機構と、を備え、前記第1冷却機構および前記第2冷却機構は、前記圧延材の下部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす下側角部に向かって冷却液を噴射し、前記第3冷却機構は、前記圧延材の上部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす上側角部に向かって冷却液を噴射する。
【0007】
上記構成によれば、冷却されやすい圧延材の上部に対して第3冷却機構を設け、冷却されにくい圧延材の下部に対して第1および第2冷却機構の2つの冷却機構を設けることで、仕上げ圧延処理の前に、圧延材のフランジ直角度の傾向に応じて適切な箇所に冷却液を噴射して、デスケーリング処理で生じた圧延材における上下の温度差を低減できる。したがって、圧延材におけるフランジ直角度の寸法安定性を向上できる。
【0008】
上記圧延材製造システムにおいて、前記仕上げ圧延機は、前記圧延材の上方に位置するロールと、前記ロールを冷却する第4冷却機構とを備え、前記誘導装置は、前記圧延材と前記ロールとの間に位置する遮蔽部材を備えることが好ましい。上記構成によれば、遮蔽部材によって、第4冷却機構の冷却液が圧延材の上部に流れ込む量を低減することで、圧延材における上下の温度差をより低減でき、また、圧延材の先端側における上下の温度差と、終端側における上下の温度差との差を低減できる。これにより、圧延材におけるフランジ直角度の寸法安定性をより向上できる。
【0009】
上記圧延材製造システムにおいて、前記遮蔽部材は、前記圧延材の搬送方向において、位置調整可能となるように設けられることが好ましい。上記構成によれば、圧延材の搬送方向において、遮蔽部材を好適な位置に変更できる。これにより、例えば、仕上げ圧延機におけるロールの径に応じて、遮蔽部材の位置を容易に変更できる。
【0010】
上記圧延材製造システムにおいて、前記仕上げ処理が施された圧延材を切断する切断機をさらに備え、前記切断機は、回転することで前記圧延材を切断するブレードと、前記ブレードを覆うカバーと、前記ブレードを冷却する第5冷却機構とを備え、前記カバーは、前記ブレードの各面と対向する内側面に配置される水切り部を備えることが好ましい。第5冷却機構の冷却液が圧延材に対して流下して圧延材が過度に冷却された状態で切断されると、フランジが変形してフランジ直角度に悪影響を与える場合がある。このような場合に、カバーに設けられた水切り部によって、第5冷却機構の冷却液が圧延材に対して流下する量を低減することで、圧延材10の切断箇所が過度に冷却されることを抑制できる。これにより、圧延材におけるフランジ直角度の寸法安定性をより向上できる。
【0011】
上記圧延材製造システムにおいて、前記誘導装置は、前記圧延材における前後方向の先端部が前記誘導装置に達したことを検知する検知部と、前記第2冷却機構および前記第3冷却機構を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記検知部が前記先端部を検知したときを基準にして、前記第2冷却機構および前記第3冷却機構のそれぞれを特定のタイミングで駆動することが好ましい。上記構成によれば、検知部によって検知される圧延材における先端部の位置と、製造ラインのラインスピードとに基づいて、第2冷却機構および第3冷却機構で圧延材の前後方向における特定の領域を冷却できる。これにより、圧延材におけるフランジ直角度の寸法安定性をより向上できる。
【0012】
上記課題を解決するための圧延材の製造方法は、一対のフランジと、前記一対のフランジを繋ぐウェブとを備える粗圧延処理された後の圧延材に対して仕上げ圧延処理を行う圧延材の製造方法であって、前記粗圧延処理された前記圧延材のスケールをデスケーリング装置の高圧水によって除去するデスケーリング工程と、第1冷却機構によって、前記デスケーリング工程に伴う前記圧延材の温度差を調整するために前記圧延材を冷却する第1冷却工程と、前記圧延材を仕上げ圧延機に誘導する誘導装置が備える第2冷却機構および第3冷却機構によって、前記温度差を調整するために前記圧延材を冷却する第2冷却工程と、前記仕上げ圧延機によって、前記第1冷却工程および前記第2冷却工程で冷却された前記圧延材に対して仕上げ圧延処理を行う仕上げ圧延工程と、を含み、前記第1冷却工程において、前記第1冷却機構が前記圧延材の下部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす下側角部に向かって冷却液を噴射し、前記第2冷却工程において、前記第2冷却機構が前記下側角部に向かって冷却液を噴射し、前記第3冷却機構が前記圧延材の上部であって、前記ウェブと前記フランジとがなす上側角部に向かって冷却液を噴射する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱間圧延される圧延材のフランジ直角度の寸法安定性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】圧延材の断面方向から見たデスケーリング装置の構成を示す模式図。
【
図4】圧延材の断面方向から見た冷却装置の構成を示す模式図。
【
図5】上流側誘導装置の内部構成および仕上げ圧延機の構成を示す模式図。
【
図6】圧延材の断面方向から見た上流側誘導装置における第2冷却機構および第3冷却機構の構成を示す模式図。
【
図7】上流側誘導装置における下側冷却ユニットおよび上側冷却ユニットを制御する制御装置の構成を示すブロック図。
【
図8】上流側誘導装置の上方に設けられる遮蔽部材であって、仕上げ圧延ロールを冷却するための冷却液が、圧延材の上部空間に流れ込まないようにするための遮蔽部材および仕上げ圧延機の構成を上方から見た模式図。
【
図9】圧延材の断面方向から見た下流側誘導装置の構成を示す模式図。
【
図10】圧延材の断面方向から見た切断機の構成を示す模式図。
【
図12】圧延材における直角度不良の一例を示す図であって、圧延材が逆八の字状に変形した状態の断面図。
【
図13】圧延材における直角度不良の一例を示す図であって、圧延材が八の字状に変形した状態の断面図。
【
図14】制御装置が第2冷却機構および第3冷却機構を駆動する処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明が適用された圧延材製造システムについて
図1ないし
図14を参照して説明する。
[圧延材製造システム]
圧延材製造システム1は、熱間圧延によってH形鋼を製造するための製造システムであって、複数の装置で構成される製造装置列である。
図1に示すように、圧延材製造システム1は、上流から順に、デスケーリング装置20と、冷却装置30と、上流側誘導装置40および遮蔽部材50と、仕上げ圧延機60と、下流側誘導装置70と、切断機80とを備える。また、圧延材製造システム1の上流には、図示しない粗圧延機が設けられており、粗圧延機によって断面視H字状に形成された圧延材10がデスケーリング装置20に搬送される。圧延材製造システム1において、圧延材10は、図示しない搬送ラインによって、上流から下流に向かって定速で搬送される。
【0016】
デスケーリング装置20は、上流で粗圧延された圧延材10の表面に生じたスケールを高圧水で除去する。冷却装置30は、デスケーリング装置20と上流側誘導装置40との間に位置しており、デスケーリング装置20から搬送された圧延材10に対して、下方から冷却液を噴射する。上流側誘導装置40は、デスケーリング装置20から搬送された圧延材10を、上流側誘導装置40の下流に位置する仕上げ圧延機60に誘導する。仕上げ圧延機60は、複数の圧延ロールで構成されるユニバーサル圧延機であり、圧延材10に対して仕上げ圧延処理を行う。また、デスケーリング装置20の下流には、エアブロー装置100aが設けられ、さらに、エアブロー装置100aよりも下流であって、上流側誘導装置40の上流には、エアブロー装置100bが設けられている。エアブロー装置100a,100bは、デスケーリング処理によって圧延材10に残留した高圧水を、仕上げ圧延処理の前に除去する。下流側誘導装置70は、矯正機が設けられており、仕上げ圧延処理された圧延材10の形状を矯正する。切断機80は、仕上げ圧延処理された圧延材10を切断する。
【0017】
[圧延材]
図2に示すように、圧延材10は、搬送方向である前後方向に延在している。圧延材10は、上下方向に延在する一対のフランジ11と、一対のフランジ11の中央部を繋ぐように設けられるウェブ12と、一対のフランジ11およびウェブ12がなす角部に設けられるフィレット13とを備える。圧延材10は、さらに、一対のフランジ11の上部およびウェブ12の上面で囲まれる領域である上部空間14と、一対のフランジ11の下部およびウェブ12の下面で囲まれる領域である下部空間15とを備える。圧延材10において、上部空間14は、その上方が開放されているのに対して、下部空間15は、ウェブ12によって上方が閉塞された状態である。したがって、圧延材10は、搬送時の空冷によって、上部側が下部側よりも温度が下がりやすい状態となっている。
【0018】
[デスケーリング装置]
図3に示すように、デスケーリング装置20は、外装ボックスを備えており、粗圧延された圧延材10が外装ボックスの内部に搬送される。デスケーリング装置20は、外装ボックスの内部において、搬送方向と直交する上下左右方向に、高圧水ユニット21を備える。高圧水ユニット21は、複数の噴射ノズル22を備えており、圧延材10の表面全体に高圧水を噴射する。粗圧延された圧延材10は、その表面にスケールと呼ばれる酸化膜が形成されている。デスケーリング装置20は、噴射ノズル22によって、圧延材10の上下左右から高圧水を噴射することで、圧延材10の表面に形成されたスケールを除去するデスケーリング処理を行う。
【0019】
デスケーリング装置20において、噴射ノズル22から噴射される高圧水によって、圧延材10の温度が低下する。具体的に、圧延材10の下方から噴射された高圧水は、圧延材10の上方から噴射された高圧水よりも、重力によってその勢いが弱まった状態で圧延材10に到達する。したがって、圧延材10の下部側よりも上部側の方が高圧水による温度の低下が大きくなる。また、圧延材10の下部に到達した高圧水は、下部空間15を通じて下方に流れ落ちやすいのに対して、圧延材10の上部に到達した高圧水は、上部空間14に滞留しやすい。上部空間14に滞留した高圧水は、エアブロー装置100a,100b(
図1参照)によって除去されるものの、上部空間14に滞留した高圧水によっても圧延材10の上部側における温度の低下が大きくなる。このような点からも、デスケーリング処理によって、圧延材10の上部側が下部側よりも低い温度となり、圧延材10の上下で温度差が生じてしまう。圧延材10における上下の温度差が生じた状態で仕上げ圧延が行われると、圧延材10の上下で変形の仕方が異なってしまい、フランジ直角度の不良が発生しやすくなってしまう。
【0020】
[冷却装置]
図4に示すように、冷却装置30は、デスケーリング装置20の下流、かつ、上流側誘導装置40の上流における搬送ライン上に位置しており、より具体的には、エアブロー装置100a,100bの間に設けられている。冷却装置30は、デスケーリング処理によって生じた圧延材10における上下の温度差を低減するための第1冷却機構である。冷却装置30は、圧延材10における下側のフィレット13に対向する第1冷却ノズル31a,31bを備える。第1冷却ノズル31a,31bは、圧延材10における下側のフィレット13に対して冷却液を噴射し、圧延材10の下部を冷却する。一例として、ここでの冷却液は、冷却水である。フィレット13に対して冷却液を噴射することで、フランジ直角度の不良の原因となる圧延材10における上下の温度差に伴う変形を効果的に抑制できる。また、圧延材10の搬送方向となる前後方向の全域において、冷却装置30によって圧延材10の下部を冷却することで、デスケーリング処理によって生じた圧延材10の上下の温度差が低減される。第1冷却ノズル31a,31bには、開閉弁が設けられており、圧延材10に生じたフランジ直角度不良の傾向に応じて、何れか一方のみを開放することもでき、また、両方とも閉じた状態とすることもできる。
【0021】
[上流側誘導装置]
図5に示すように、上流側誘導装置40は、デスケーリング装置20および冷却装置30の下流に位置しており、ボックス形状を有する本体部41と、本体部41の上部側に設けられる第1ガイド部材42と、本体部41の下部側に設けられる第2ガイド部材43とを備える。なお、
図5では、便宜上、圧延材10および本体部41の断面構造を図示している。第1ガイド部材42および第2ガイド部材43は、本体部41の内部において、圧延材10の搬送方向と平行に延在しており、その両端が本体部41の外側に位置している。第1ガイド部材42は、上部空間14内に位置しており、本体部41の上部に設けられた図示しない支持部材によって支持されている。第2ガイド部材43は、下部空間15内に位置しており、本体部41の下部に設けられた図示しない支持部材によって支持されている。
【0022】
図6に示すように、第1ガイド部材42は、一対のフランジ11の間隔よりもわずかに狭い幅を有している。同様に、第2ガイド部材43は、一対のフランジ11の間隔よりもわずかに狭い幅を有している。第1ガイド部材42が上部空間14内に位置し、第2ガイド部材43が下部空間15内に位置することにより、水平方向のうち搬送方向と直交する方向において、圧延材10が下流に位置する仕上げ圧延機60の圧延ロールと対応する位置に誘導される。なお、
図6では、便宜上、本体部41を図示していない。
【0023】
図5に示すように、上流側誘導装置40は、上流側に設けられる光電管などのセンサ44を備える。センサ44は、例えば、本体部41の内部における上流側に設けられる。なお、センサ44は、本体部41の外側に設けられてもよい。また、上流側誘導装置40は、第2ガイド部材43の上面に設けられ、センサ44の下流に位置する下側冷却ユニット45と、第1ガイド部材42の下面に設けられ、下側冷却ユニット45の下流、かつ、本体部41の外側に位置する上側冷却ユニット46とを備える。なお、下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46の位置は、搬送方向においてセンサ44よりも下流に位置していればよく、例えば、下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46の両方が本体部41内に設けられる構成であってもよい。
【0024】
センサ44は、上流から搬送される圧延材10の先端が上流側誘導装置40に搬送されたことを検知するための検知部である。下側冷却ユニット45は、デスケーリング処理によって生じた圧延材10における上下の温度差を低減するための第2冷却機構である。また、上側冷却ユニット46は、デスケーリング処理によって生じた圧延材10における上下の温度差を低減するための第3冷却機構である。下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46は、上流側誘導装置40に設けられる制御装置90によって制御される。
【0025】
図6に示すように、下側冷却ユニット45は、圧延材10における下側のフィレット13に対向する第2冷却ノズル45a,45bを備える。第2冷却ノズル45a,45bは、圧延材10における下側のフィレット13に対して冷却液を噴射し、圧延材10における下部を冷却する。また、第2ガイド部材43の下面には、図示しない冷却液用の配管が設けられており、第2冷却ノズル45a,45bに冷却液を供給する。
【0026】
上側冷却ユニット46は、圧延材10における上側のフィレット13に対向する第3冷却ノズル46a,46bを備える。第3冷却ノズル46a,46bは、圧延材10における上側のフィレット13に対して冷却液を噴射し、圧延材10の上部を冷却する。また、第1ガイド部材42の上面には、図示しない冷却液用の配管が設けられており、第3冷却ノズル46a,46bに冷却液を供給する。
【0027】
第2冷却ノズル45a,45bおよび第3冷却ノズル46a,46bの流量および圧力は、圧延材10のサイズなどを考慮したうえで、適宜選択される。また、一例として、ここでの冷却液は、冷却水である。圧延材10が第1ガイド部材42および第2ガイド部材43によって仕上げ圧延機60に対して誘導された状態、すなわち、位置決めされた状態で、下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46によって圧延材10を冷却することで、フィレット13に精度よく冷却液を噴射することができ、冷却効率を高めることができる。
【0028】
圧延材10は、上述のように、デスケーリング処理によって、圧延材10の下部側よりも上部側の温度が下がりやすい傾向がある。また、搬送時の空冷によっても、圧延材10における上下の温度差が助長される。そのため、冷却装置30および下側冷却ユニット45のうちの一方のみでは、圧延材10における上下の温度差を十分に低減できない場合がある。このような場合に、冷却装置30と下側冷却ユニット45とを協働して圧延材10の下部を冷却することで、圧延材10における上下の温度差をより確実に低減できる。
【0029】
[制御装置]
図7に示すように、上流側誘導装置40は、下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46を制御する制御装置90を備える。制御装置90は、圧延材製造システム1を制御する制御システムが備えるコンピュータシステムである。制御システムでは、下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46だけでなく、上述の冷却装置30に加え、後述する仕上げ圧延機60が備えるロール冷却ユニット62(
図8参照)、切断機80が備えるブレード冷却ユニット83(
図10参照)、エアブロー装置100a,100bなどの制御も行う。制御装置90は、下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46の駆動を制御する制御部91と、製造条件等が保存される記憶部92と、制御装置90を操作するためのタッチパネル93とを備える。制御部91は、一例として、CPUであり、記憶部92に格納された制御プログラムに従って下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46を制御する処理を実行する。記憶部92は、一例として、メモリなどの記憶媒体であって、制御部91が下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46を制御するためのソフトウェアがインストールされている。また、記憶部92には、ラインスピードなどの圧延材製造システム1における各種製造条件が保存されている。タッチパネル93は、作業者の操作に基づいて制御部91に対して操作信号を出力するとともに、下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46の冷却条件など各種ステータスを表示する。
【0030】
また、制御部91は、センサ44と接続されており、センサ44から入力される検知信号によって、圧延材10の先端が上流側誘導装置40に搬送されたこと、および、圧延材10の終端が上流側誘導装置40に搬送されたことを認識する。制御部91は、圧延材10の先端が上流側誘導装置40に搬送されたときを基準として、圧延材10に生じたフランジ直角度不良の傾向に応じた特定のタイミングにおいて、第2冷却ノズル45a,45bおよび第3冷却ノズル46a,46bのうち任意のノズルから冷却液を噴射する処理を実行する。
【0031】
[遮蔽部材]
図8に示すように、遮蔽部材50は、本体部41の上部に設けられるT字状の板状部材である。遮蔽部材50は、本体部41の下流側に延出する遮蔽部51と、遮蔽部51よりも幅狭であり、本体部41の上流側に延出する固定部52とを備える。遮蔽部51は、圧延材10の幅と同じ幅か、それよりも広い幅を有している。遮蔽部51は、本体部41の下流側であって、後述する仕上げ圧延機60の上側ロール61と本体部41との間において、圧延材10の上部空間14を覆うように設けられている。また、固定部52は、複数のガイド孔53と、複数の固定部材54とを備える。ガイド孔53は、遮蔽部材50の板厚方向に貫通する略長方形形状の貫通孔であり、圧延材10の搬送方向が長手となる。固定部材54は、ガイド孔53を介して、本体部41に取り付けられている。遮蔽部材50は、固定部材54によって、搬送方向にスライド可能となるように本体部41に固定される。一例として、固定部材54は、ボルトとナットであり、ボルトおよびナットを緩めることで、遮蔽部材50を搬送方向に対して上流側または下流側に移動できる。したがって、遮蔽部材50が搬送方向においてスライド可能になっているため、上側ロール61の径に応じた好適な位置に移動させることが容易な構成となっている。
【0032】
[仕上げ圧延機]
仕上げ圧延機60は、上流側誘導装置40の下流に位置している。仕上げ圧延機60は、圧延材10の搬送方向と直交する上下左右方向のそれぞれにおいて、圧延材10に仕上げ圧延処理を行うための圧延ロールを備えるユニバーサル圧延機である。なお、
図5および
図8において、便宜上、仕上げ圧延機60を構成する複数の圧延ロールのうち、圧延材10の上方に位置する上側ロール61のみを図示している。上側ロール61は、外周面に構成された圧延面と、相対する側面とを備える。仕上げ圧延機60は、上側ロール61の近傍に、上側ロール61を冷却する第4冷却機構としてのロール冷却ユニット62を備える。ロール冷却ユニット62は、第4冷却ノズル62a,62bを備える。第4冷却ノズル62a,62bは、上側ロール61の側面と対向する位置から上側ロール61の圧延面および側面に対して冷却液を噴射する。ここでの冷却液は、一例として、冷却水である。
【0033】
第4冷却ノズル62a,62bから噴射された冷却液は、上側ロール61に到達した後に流下し、下方に位置する圧延材10の上部空間14に流れ込んで滞留する。そして、上部空間14に滞留した冷却液によって圧延材10における上部の冷却量が増加することで、圧延材10の上下の温度差が増加してしまう。そこで、
図5に示すように、本実施形態では、上側ロール61の下方かつ上流側には、上述の遮蔽部材50が上部空間14を覆うように配置している。これにより、第4冷却ノズル62aから噴射された冷却液が上部空間14に流れ込む量が低減され、圧延材10の上部における冷却量が低減されるため、圧延材10の上下における温度差を低減できる。また、遮蔽部材50は、搬送方向においてスライド可能になっているため、上側ロール61の径に応じた好適な位置に移動させることが容易な構成となっている。
【0034】
また、圧延材10の前後方向における終端側では、先端側で上部空間14に滞留した冷却液が残留した状態で、さらに第4冷却ノズル62a,62bからの冷却液が流れ込むため、先端側よりも上部空間14に滞留する冷却液の量が増加する。これにより、圧延材10の先端側よりも終端側の温度が低くなり、上下の温度差も終端側の方が大きくなる。このため、圧延材10の終端側では、フランジ直角度の不良が発生し易くなり、その変形の程度が先端側よりも大きなものとなる。本実施形態では、遮蔽部材50によって、第4冷却ノズル62aから噴射された冷却液が上部空間14に流れ込む量が低減されるため、圧延材10における前後方向の全域で上下の温度差を低減するとともに、圧延材10の先端側における上下の温度差と、終端側における上下の温度差との差を低減できる。
【0035】
[下流側誘導装置]
図9に示すように、下流側誘導装置70は、仕上げ圧延機60の下流に位置しており、圧延材10の搬送方向と直交する左右方向の両側に設けられる一対の矯正ローラ71を備える。一対の矯正ローラ71は、仕上げ圧延された圧延材10の形状を矯正するための矯正機である。矯正ローラ71は、上下方向において径差があるロールであり、本実施形態においては上部側が下部側よりも大きい径を有している。一対の矯正ローラ71は、仕上げ圧延された圧延材10を自身の下流に誘導するとともに、仕上げ圧延された圧延材10におけるフランジ直角度を矯正する。また、矯正ローラ71は、下部側が上部側よりも大径であってもよく、仕上げ圧延された圧延材10のフランジ直角度の仕上がりによって適宜選択される。
【0036】
ここで、圧延材10における従来のフランジ直角度不良の例を示す。
図11に示すように、圧延材10は、前後方向における両端部である先端部10aと終端部10bとを備える。先端部10aおよび終端部10bは、デスケーリング処理によって、その上部が下部よりも低い温度となっている。また、第4冷却ノズル62a,62bからの冷却液が上部空間14に滞留することで、先端部10aにおける上下の温度差よりも終端部10bにおける上下の温度差の方が大きくなっている。この状態で仕上げ圧延をした場合、上下の温度差に伴う変形によって、仕上げ圧延後のフランジ直角度Tが悪化する。具体的に、
図12に示すように、一対のフランジ11の下部側が近づく逆八の字形状に変形してフランジ直角度Tが大きくなる。このとき、終端部10bでは、先端部10aよりも上下の温度差に伴う変形が大きくなっている。
【0037】
仮に、圧延材10の前後方向でフランジ直角度Tの差が大きい場合、フランジ直角度Tが大きい終端部10bを公差内に収めるために矯正ローラ71で矯正しようとすると、終端部10bではフランジ直角度Tが改善するものの、先端部10aでは、逆にフランジ直角度Tが悪化する場合がある。このような場合、
図13に示すように、先端部10aでは、一対のフランジ11の上部側が近づく八の字形状に変形する。
【0038】
このため、先端部10aにおける上下の温度差と終端部10bにおける上下の温度差との差が大きい場合、矯正ローラ71によって先端部10aおよび終端部10bの両方のフランジ直角度Tを修正することが困難となる。本実施形態では、遮蔽部材50によって上部空間14に滞留する冷却液の量を低減して、圧延材10の先端側における上下の温度差と、終端側における上下の温度差との差を低減することで、矯正ローラ71によってフランジ直角度Tを矯正可能となる。
【0039】
[切断機]
図10に示すように、切断機80は、下流側誘導装置70の下流に位置しており、回転機構を備えるブレード81と、ブレードを覆うカバー82とを備える。ブレード81は、円形形状を有しており、その外周が鋸刃状で構成される。切断機80は、圧延材10の搬送方向と直交する方向に駆動され、回転するブレード81によって圧延材10を切断する。カバー82は、ブレード81の下方が露出するようにブレード81を覆っており、その内側面において、ブレード81を冷却する第5冷却機構としてのブレード冷却ユニット83と、ブレード81の両面と対向するように配置される複数の水切り部84とを備える。ブレード冷却ユニット83は、第5冷却ノズル83a,83bを備える。第5冷却ノズル83aは、ブレード81の両面と対向する位置にそれぞれ設けられており、ブレード81の両面に冷却液を噴射する。第5冷却ノズル83bは、ブレード81の上方に設けられており、ブレード81の上方から冷却液を噴射する。ここでの冷却液は、一例として、冷却水である。水切り部84は、カバー82の内側面に設けられる板状部材である。
【0040】
圧延材10を切断する際に、第5冷却ノズル83a,83bから噴射される冷却液が圧延材10に流下することで、圧延材10におけるブレード81によって切断される箇所が過度に冷却されることがある。この状態で当該箇所が切断されると、フランジ11が変形してフランジ直角度Tに悪影響を与える場合がある。本実施形態では、水切り部84によって、第5冷却ノズル83a,83bからの冷却液が圧延材10に対して流下する量を低減しており、圧延材10の切断箇所が過度に冷却されることが抑制されるため、フランジ直角度Tの悪化を抑制できる。
【0041】
[制御装置による冷却ユニットの駆動処理手順]
次に、
図14を参照して、制御装置90が下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46を駆動して圧延材10を冷却する処理手順の一例を説明する。
【0042】
図14に示すように、ステップS1において、センサ44は、圧延材10の先端部10aが上流側誘導装置40に搬送されたことを検知し、第1検知信号を制御部91に出力する。制御部91は、センサ44から第1検知信号が入力されたときを基準として、冷却処理における経過時間のタイマによる計時を開始する。
【0043】
ステップS2において、制御部91は、基準時から第1所定時間が経過したときに、上側冷却ユニット46を駆動する処理を実行する。これにより、圧延材10の先端部10aにおいて、上側のフィレット13に対して第3冷却ノズル46a,46bから冷却液を噴射する。このとき、下側冷却ユニット45は、駆動されない。ここでの第1所定時間とは、センサ44から第1検知信号が入力されたときを基準として、記憶部92に保管される圧延材製造システム1のラインスピードや圧延材10の製品サイズから算出される時間であって、圧延材10の先端部10aが上側冷却ユニット46の下方に到達する時間である。
【0044】
次いで、ステップS3において、制御部91は、基準時から第2所定時間が経過したときに、下側冷却ユニット45を駆動する処理を実行する。これにより、圧延材10の終端部10bにおいて、下側のフィレット13に対して第2冷却ノズル45a,45bから冷却液を噴射する。このとき、上側冷却ユニット46は、駆動されない。ここでの第2所定時間とは、センサ44から第1検知信号が入力されたときを基準として、記憶部92に保管される圧延材製造システム1のラインスピードや、圧延材10の製品サイズから算出される時間であって、圧延材10の終端部10bが下側冷却ユニット45の上方に到達する時間である。
【0045】
また、ステップS4において、センサ44は、圧延材10の終端部10bが上流側誘導装置40に搬送されたことを検知し、第2検知信号を制御部91に出力する。制御部91は、センサ44から第2検知信号が入力されたことに基づき、終端部10bが上流側誘導装置40を通過したタイミングで冷却処理を終了する。
【0046】
このようにして、制御部91は、下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46を特定のタイミングで駆動して、圧延材10の前後方向における特定の領域を冷却することで、圧延材10の前後方向における各部を好適に冷却できる。上記の例では、先端部10aにおいて、上側冷却ユニット46で上側のフィレット13を冷却し、終端部10bにおいて下側冷却ユニット45で下側のフィレット13を冷却することで、先端部10aにおける上下の温度差と、終端部10bにおける上下の温度差との差を低減できる。
【0047】
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)冷却されやすい圧延材10の上部に対して上側冷却ユニット46を設け、冷却されにくい圧延材10の下部に対して冷却装置30および下側冷却ユニット45の2つ冷却機構を設けている。これにより、仕上げ圧延処理の前に、圧延材10のフランジ直角度Tの傾向に応じて適切な箇所に冷却液を噴射して、デスケーリング処理で生じた圧延材10における上下の温度差を低減できる。したがって、圧延材10におけるフランジ直角度Tの寸法安定性を向上できる。
【0048】
(2)下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46を上流側誘導装置40に設けることで、上流側誘導装置40で位置決めされた状態の圧延材10に対して、適切な箇所に精度よく冷却液を噴射することができ、冷却効率を高めることができる。これにより、圧延材10のフランジ直角度Tの寸法安定性をさらに向上できる。
【0049】
(3)冷却装置30、下側冷却ユニット45、および、上側冷却ユニット46がフィレット13に対して冷却液を噴射することで、フランジ直角度Tが悪化する原因となる圧延材10における上下の温度差に伴う変形を好適に抑制できる。したがって、圧延材10のフランジ直角度Tの寸法安定性をさらに向上できる。
【0050】
(4)上側ロール61の下方に遮蔽部材50を設けることで、ロール冷却ユニット62から上側ロール61に噴射された冷却液が上部空間14に流れ落込む量を低減できるため、上部空間14に滞留する冷却液の量を低減できる。これにより、圧延材10における上下の温度差をさらに低減でき、また、先端部10aにおける上下の温度差と、終端部10bにおける上下の温度差との差も低減できる。したがって、圧延材10のフランジ直角度Tの寸法安定性をさらに向上できる。
【0051】
(5)遮蔽部材50が搬送方向においてスライド可能な構成とすることで、遮蔽部材50を上側ロール61の径に応じた好適な位置に移動させることが容易となる。
(6)カバー82に水切り部84を設けることで、第5冷却ノズル83a,83bから噴射される冷却液が圧延材10に流下することによって、圧延材10におけるブレード81で切断される箇所が過度に冷却されることが抑制されるため、圧延材10における切断に伴う変形を低減できる。
【0052】
(7)センサ44が圧延材10の先端部10aを検知したときを基準として、制御部91が下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46のそれぞれを特定のタイミングで駆動することで、圧延材10の前後方向における特定の領域を冷却できる。これにより、圧延材10の前後方向で上下の温度差の傾向が異なる場合であっても、前後方向の各部における上下の温度差を効果的に低減できる。したがって、圧延材10におけるフランジ直角度Tの寸法安定性をさらに向上できる。
【0053】
(8)先端部10aにおいて、上側冷却ユニット46で上側のフィレット13を冷却し、終端部10bにおいて下側冷却ユニット45で下側のフィレット13を冷却することで、先端部10aにおける上下の温度差と、終端部10bにおける上下の温度差との差を低減できる。
【0054】
(9)仕上げ圧延機60の上流にエアブロー装置100a,100bを設けることで、デスケーリング処理によって上部空間14に滞留した高圧水を除去できる。これにより、圧延材10における上下の温度差をより低減でき、また、先端部10aにおける上下の温度差と、終端部10bにおける上下の温度差との差も低減できる。したがって、圧延材10のフランジ直角度Tの寸法安定性をさらに向上できる。
【0055】
なお、上記実施形態は以下のように適宜変更して実施することもできる。
・制御部91によって、上側冷却ユニット46で先端部10aにおける上側のフィレット13を冷却し、下側冷却ユニット45で終端部10bにおける下側のフィレット13を冷却する構成を例示した。しかし、これに限定されず、圧延材10のフランジ直角度Tの傾向に応じて冷却箇所を適宜選択すればよい。また、制御部91が、先端部10aと終端部10bとの間に位置する中央部においても、下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46の駆動状態を切り替える構成でもよい。
【0056】
・制御部91が下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46のそれぞれを特定のタイミングで駆動する構成を例示した。しかし、これに限定されず、例えば、圧延材10の前後方向におけるフランジ直角度Tの差が小さい場合は、タイミングによる制御ではなく、第2冷却ノズル45a,45bおよび第3冷却ノズル46a,46bのうち、フランジ直角度Tの傾向に応じた何れかのノズルを常に駆動する構成でもよい。
【0057】
・制御部91が下側冷却ユニット45および上側冷却ユニット46に加えて冷却装置30を統括制御する構成であってもよい。この場合、例えば、デスケーリング装置20などにセンサ44に相当する検知機を設け、当該検知機と制御部91とを接続する。これにより、制御部91は、当該検知機よりも下流に位置する冷却装置30、下側冷却ユニット45、および、上側冷却ユニット46のそれぞれを特定のタイミングで駆動し、圧延材10の前後方向における任意の箇所に対して冷却液を噴射するように制御できる。
【0058】
・上流側誘導装置40は、センサ44を備える構成に限定されず、例えば、上流側誘導装置40よりも上流に位置する何れかの装置が圧延材10の先端部を検知する検知機を備え、当該検知機を備える装置よりも下流に位置する装置が連動する構成であってもよい。この場合でも、制御部91が、第2冷却ノズル45a,45bおよび第3冷却ノズル46a,46bを駆動して、圧延材10の上下方向および前後方向における特定の領域を冷却できる。
【0059】
・上流側誘導装置40が制御装置90を備え、制御部91が、センサ44が圧延材10の先端部を検知したときを基準として、下側冷却ユニット45と上側冷却ユニット46とを所定のタイミングで駆動する構成を例示した。しかし、上流側誘導装置40が制御装置90を備える構成に限定されず、例えば、圧延材製造システム1全体を制御する制御システムによって、下側冷却ユニット45と上側冷却ユニット46とを所定のタイミングで駆動する構成でもよい。
【0060】
・切断機80は、水切り部84を備える構成に限定されず、例えば、水切り部84を設けずに、高圧エアを噴射するエアブロー機構を設け、第5冷却ノズル83a,83bから噴射される冷却液が圧延材10に対して流下しないようにする構成でもよい。この場合でも、上部空間14に滞留する冷却液の量を低減でき、また、圧延材10におけるブレード81によって切断される箇所が過度に冷却されることが抑制されるため、圧延材10における切断に伴う変形を低減できる。
【0061】
・遮蔽部材50が搬送方向においてスライド可能な構成に限定されず、例えば、上側ロール61の径に応じて、固定部材54を取り外して移動させることで位置調整可能な構成でもよい。この場合でも、ロール冷却ユニット62からの冷却液が上部空間14に流れ込む量を低減できる。
【0062】
・上流側誘導装置40の上部に遮蔽部材50を設ける構成を例示した。しかし、これに限定されず、例えば、冷却装置30、下側冷却ユニット45、および、上側冷却ユニット46によって、先端部10aにおける上下の温度差と、終端部10bにおける上下の温度差との差を十分低減できるのであれば、遮蔽部材50を設けなくてもよい。
【0063】
・エアブロー装置100a,100bによって、上部空間14に滞留する冷却液を取り除く構成を例示した。しかし、これに限定されず、例えば、冷却装置30、下側冷却ユニット45、および、上側冷却ユニット46によって、先端部10aにおける上下の温度差と、終端部10bにおける上下の温度差との差を十分低減できるのであれば、エアブロー装置100a,100bを設けなくてもよい。また、エアブロー装置100a,100bのうち一方のみを設ける構成でもよい。
【0064】
・遮蔽部材50の形状は、T字状に限定されず、上部空間14を覆うことができる形状であればよく、例えば、長方形であってもよい。この場合でも、上部空間14に滞留する冷却液の量を低減できる。
【0065】
・冷却装置30、下側冷却ユニット45、上側冷却ユニット46、ロール冷却ユニット62、および、ブレード冷却ユニット83のそれぞれにおいて、冷却ノズルの数は限定されず、例えば、冷却を必要とする箇所、必要とする冷却量、および、一つの冷却ノズルあたりの冷却量などに基づいて、適宜必要数量設けられればよい。
【0066】
・冷却装置30、下側冷却ユニット45、上側冷却ユニット46、ロール冷却ユニット62、および、ブレード冷却ユニット83のそれぞれにおいて、冷却液は、冷却水に限定されず、例えば、熱間圧延用の油であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…圧延材製造システム
10…圧延材
11…フランジ
12…ウェブ
13…フィレット
20…デスケーリング装置
30…冷却装置
40…上流側誘導装置
44…センサ
45…下側冷却ユニット
46…上側冷却ユニット
50…遮蔽部材
60…仕上げ圧延機
61…上側ロール
62…ロール冷却ユニット
70…下流側誘導装置
80…切断機
81…ブレード
82…カバー
83…ブレード冷却ユニット
84…水切り部
90…制御装置