(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】耐火壁
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20240704BHJP
【FI】
E04B1/94 C
(21)【出願番号】P 2020145293
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 慧
(72)【発明者】
【氏名】桑田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】廣嶋 哲
(72)【発明者】
【氏名】清水 信孝
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 太沖
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】林 徹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 喜章
(72)【発明者】
【氏名】會田 祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】八尋 幸光
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223075(JP,A)
【文献】特開平09-013737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面を構成する第1および第2の仕上材と、
前記第1および第2の仕上材の間に、前記第1および第2の仕上材のそれぞれとの間に第1の隙間部が形成されるように配置される構造鉄骨材と、
前記壁面に交差する方向に形成され、前記第1および第2の仕上材、ならびに前記第1および第2の仕上材の間に形成され前記構造鉄骨材が介在しない第2の隙間部を貫通する開口部と、
前記開口部に面し、前記構造鉄骨材との間に第3の隙間部が形成されるように配置される第3の仕上材と
を備え、前記第1、第2および第3の隙間部に空気層が形成され
、
建築物の桁行方向の端部に位置する妻壁を構成する耐火壁。
【請求項2】
前記開口部に配置される建具をさらに備え
、前記建具はガラス窓からなる、請求項
1に記載の耐火壁。
【請求項3】
前記構造鉄骨材の表面には耐火被覆材が配置されない、請求項1
または請求項2に記載の耐火壁。
【請求項4】
前記構造鉄骨材はH形鋼、角形鋼管または円形鋼管である、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の耐火壁。
【請求項5】
前記構造鉄骨材は梁、柱、ブレースまたは壁柱である、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の耐火壁。
【請求項6】
前記第1の仕上材は内壁仕上材であり、前記第2の仕上材は外壁仕上材である、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の耐火壁。
【請求項7】
前記内壁仕上材は石膏ボード、ロックウール板、けい酸カルシウム板、ALC板またはGRC板であり、
前記外壁仕上材はALC板またはECPである、請求項
6に記載の耐火壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、構成を簡素にしつつ、耐火性能を向上した鉄骨造の壁や床、屋根を構成するものとして、例えば、特許文献1に開示される鉄骨造が提案されている。特許文献1に開示された鉄骨造は、耐火被覆の部材を取付ける下地材として板厚2.3mm未満の薄板軽量形鋼を採用し、構造躯体とそれ以外の部分を包含して耐火被覆を構成する。そして、特許文献1に開示された鉄骨造は、構造躯体とそれ以外の部分を包含した壁または床、屋根として耐火被覆を構成することで耐火性能が向上するものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に開示された鉄骨造は、構造躯体となる柱または梁にロックウールなどが吹き付けられて、柱または梁と仕上げ用面材との間にロックウールなどの耐火被覆材が充填される。このため、特許文献1に開示された鉄骨造は、柱または梁と仕上げ用面材との間にロックウールなどが充填されるため、耐火被覆材の材料コストや耐火被覆材を充填するための施工コスト、施工工期が増大するという問題点があった。
【0005】
また、特許文献1に開示された鉄骨造は、ロックウールなどの耐火被覆材に替えて、石膏ボードなどの面材の耐火被覆材を、構造躯体となる柱または梁に取り付けできるとされている。このとき、特許文献1に開示された鉄骨造は、石膏ボードなどの面材の耐火被覆材が、柱または梁に当接されて取り付けられているため、柱または梁と石膏ボードなどとの間に空気層が形成されず、構造躯体の耐火性能が十分に向上しないという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであって、その目的とするところは、構造鉄骨材を含む耐火壁において、耐火被覆材の材料コストおよび施工コストを削減しながら耐火性能を向上させることが可能な耐火壁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]壁面を構成する第1および第2の仕上材と、第1および第2の仕上材の間に、第1および第2の仕上材のそれぞれとの間に第1の隙間部が形成されるように配置される構造鉄骨材と、壁面に交差する方向に形成され、第1および第2の仕上材、ならびに第1および第2の仕上材の間に形成され構造鉄骨材が介在しない第2の隙間部を貫通する開口部と、開口部に面し、構造鉄骨材との間に第3の隙間部が形成されるように配置される第3の仕上材とを備え、第1、第2および第3の隙間部に空気層が形成される耐火壁。
[2]構造鉄骨材の表面には耐火被覆材が配置されない、[1]に記載の耐火壁。
[3]建築物の桁行方向の端部に位置する妻壁を構成する、[1]または[2]に記載の耐火壁。
[4]開口部に配置される建具をさらに備える、[1]から[3]のいずれか1項に記載の耐火壁。
[5]構造鉄骨材はH形鋼、角形鋼管または円形鋼管である、[1]から[4]のいずれか1項に記載の耐火壁。
[6]構造鉄骨材は梁、柱、ブレースまたは壁柱である、[1]から[5]のいずれか1項に記載の耐火壁。
[7]第1の仕上材は内壁仕上材であり、第2の仕上材は外壁仕上材である、[1]から[6]のいずれか1項に記載の耐火壁。
[8]内壁仕上材は石膏ボード、ロックウール板、けい酸カルシウム板、ALC板またはGRC板であり、外壁仕上材はALC板またはECPである、[7]に記載の耐火壁。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成によれば、壁面を構成する第1および第2の仕上材と構造鉄骨材との間、および開口部に面する第3の仕上材と構造鉄骨材との間に形成される第1、第2および第3の隙間部に形成される空気層が構造鉄骨材への熱の伝達を抑制するため、耐火被覆材の分の材料コストおよび施工コストを削減することができる。また、開口部があることによって火災時における温度上昇が抑制されるため、仕上材から構造鉄骨材に伝達される熱をさらに低減して耐火性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る耐火壁を含む建築物の斜視図である。
【
図3】
図1に示された建築物の各住戸の単位要素を示す図である。
【
図4A】
図1に示された建築物に含まれる鉄骨梁の断面図である。
【
図4B】
図1に示された建築物に含まれる鉄骨梁の断面図である。
【
図5】
図1に示された建築物の高さ方向および梁間方向を含む断面図である。
【
図6】
図1に示された建築物の高さ方向および梁間方向を含む断面図の別の例である。
【
図7】
図1に示された建築物における柱梁接合部の透過斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る耐火壁の斜視図である。
【
図9】
図8に示された耐火壁における梁材の配置例を示す図である。
【
図10】
図8に示された耐火壁における柱材の配置例を示す図である。
【
図11】
図8に示された耐火壁において構造鉄骨材が複数のH形鋼で構成される例を示す図である。
【
図12】
図8に示された耐火壁において壁面を構成しない仕上材が配置される例を示す図である。
【
図13】
図8に示された耐火壁において形成される隙間部の例を示す図である。
【
図14】
図8に示された耐火壁において形成される隙間部の別の例を示す図である。
【
図15】本発明の一実施形態において耐火壁に形成される開口部の形状を示す断面図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る耐火壁に形成される開口部の利用例を示す斜視図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係る耐火壁の変形例を示す断面図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る耐火壁の耐火性能を検証するためのシミュレーションの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0011】
(建築物の構造)
図1は、本発明の一実施形態に係る耐火壁を含む建築物の一例を示す斜視図である。図示された例において、建築物1は階層構造を有し、平面形状が桁行方向Xおよび梁間方向Zを2辺とする略矩形状となるように構築される。建築物1は、階層構造の各階を区切る床スラブ2と、桁行方向Xに延びる桁行鉄骨梁3と、梁間方向Zに延びる梁間鉄骨梁4と、高さ方向Yに延びるとともに桁行鉄骨梁3および梁間鉄骨梁4が接合されるコンクリート柱5とを含む。このような建築物1は例えば以下で説明するような集合住宅として利用されるが、この例には限られず病院や学校、オフィスなどであってもよい。本実施形態において、耐火壁10は、建築物1の桁行方向Xに直交する面(図中のY-Z平面)を壁面として配置される。耐火壁10の詳細な構成については後述する。なお、
図1に例示された建築物1は、本実施形態に係る耐火壁10を適用可能な建築物の構造を限定するものではない。つまり、耐火壁10を含む限りにおいて、建築物の構造、具体的には例えば個々の梁や柱の配置は、以下で説明される建築物1の例に関わらず適宜変更されうる。
【0012】
図2は、
図1に示された建築物の平面図である。階層構造を有する建築物1の各階では、住戸などの複数の専有部分Pが桁行方向Xに配列される。また、建築物1の各階では、各々の専有部分Pから利用することのできるバルコニーBや、複数の専有部分Pに出入りするための通路Cが、共用部分Sとして配置される。専有部分Pは、桁行方向Xで隣り合う別の専有部分Pと、平面において梁間方向Zに延びる戸境壁D1で隔てられる。また、桁行方向Xの端部に位置する専有部分Pは、妻壁D2で外部と隔てられる。つまり、妻壁D2は、建築物1の桁行方向Xの端部に位置する。戸境壁D1の壁厚は、例えば200mm~400mm程度、より具体的には最小で180mm程度、標準で300mm程度である。妻壁D2の壁厚は、例えば200mm~500mm程度、より具体的には最小で180mm程度、標準で300mm程度である。
【0013】
共用部分Sのうち、バルコニーBは非常時などに隣り合った専有部分Pから互いに通過することのできるように桁行方向Xに連続して配置される。一方、通路Cは通常時に各々の専有部分Pに出入りできるように桁行方向Xに連続して配置される。図示された例において、コンクリート柱5は、建築物1の梁間方向Zの両端で、桁行方向Xに配列される。この場合、コンクリート柱5は共用部分SであるバルコニーBおよび通路Cに設けられるため、専有部分Pの室内空間にコンクリート柱5による張り出しが形成されない。
図3に示されるように、建築物1の各階の間では高さ方向Yに隣り合った下階Fdと上階Fuとが床スラブ2で区切られ、専有部分Pと、この専有部分Pに隣接する共用部分Sとによって各住戸の単位要素が構成される。
【0014】
図4Aおよび
図4Bは、
図1に示された建築物に含まれる鉄骨梁の断面図である。
図4Aに示される桁行鉄骨梁3はH形鋼であり、例えば梁せいh
1は1000mm程度、梁幅w
1は250mm程度、ウェブ板厚tw
1は19mm程度、フランジ板厚tf
1は28mm程度である。一方、
図4Bに示される梁間鉄骨梁4はH形鋼であり、例えば梁せいh
2は500mm~600mm程度、梁幅w
2は200mm程度、ウェブ板厚tw
2は9mm程度、フランジ板厚tf
2は25mm程度である。
【0015】
図5および
図6は、
図1に示された建築物の高さ方向Yおよび梁間方向Zを含む断面図である。図示されるように、建築物1の高さ方向Yに隣り合った下階Fdおよび上階Fuの間で、上階Fuの下部に配置される桁行鉄骨梁3は、下階Fdの上部に配置される梁間鉄骨梁4の上面に載置される。梁間鉄骨梁4は、階層構造の各階の上部で、梁間方向Zに対向する一対のコンクリート柱5の間に架設される。後述するように、梁間鉄骨梁4は、幅全体が戸境壁D1または妻壁D2の内部に収まるように配置される。従って、本実施形態では専有部分Pの室内空間に梁間鉄骨梁4による張り出しが形成されない。一方、桁行鉄骨梁3は、階層構造の各階の下部で、桁行方向Xに配列された一対のコンクリート柱5の間に架設される。上述のようにコンクリート柱5は梁間方向Zの両端部の共用部分SであるバルコニーBおよび通路Cに配置されるため、コンクリート柱5の間に架設される桁行鉄骨梁3も共用部分SであるバルコニーBおよび通路Cに配置される。従って、本実施形態では専有部分Pの室内空間に桁行鉄骨梁3による張り出しも形成されない。
【0016】
図5に示す例では、下階Fdおよび上階Fuの梁間鉄骨梁4の間に斜め方向に延びるブレース6が配置される。また、
図6に示す例では、下階Fdおよび上階Fuの梁間鉄骨梁4の間に高さ方向Yに延びる壁柱7が配置される。壁柱7は、図示された例のように複数のH形鋼が接合されたものであってもよいし、単一のH形鋼であってもよい。また、壁柱7は、階層構造の複数の階層を通して配置されてもよい。壁柱7を配置することによって建築物1の水平耐力が向上するため、バルコニーBおよび通路Cのいずれか一方または両方で梁間鉄骨梁4の寸法を小さくするか、または梁間鉄骨梁4の設置を省略することができる。ブレース6および壁柱7は例えばH形鋼であり、高力ボルト摩擦接合または溶接接合で梁間鉄骨梁4に接合される。ブレース6および壁柱7も、梁間鉄骨梁4と同様に幅全体が戸境壁D1または妻壁D2の内部に収まるように配置される。
【0017】
図7は、
図1に示された建築物における柱梁接合部の透過斜視図である。本実施形態において、コンクリート柱5は断面略矩形状の鉄筋コンクリート柱である。図示された例において、桁行鉄骨梁3および梁間鉄骨梁4は、コンクリート柱5に接合される箇所で、下階Fdの上部に配置される梁間鉄骨梁4と、上階Fuの下部に配置される桁行鉄骨梁3とが、ボルト接合、高力ボルト摩擦接合または溶接接合などにより接合される。他の例では、コンクリート柱5を単一H形鋼またはクロスH形鋼などの鉄骨柱が内蔵された鉄骨鉄筋コンクリート柱としてもよく、その場合はこれらの構造に応じた柱梁接合部が形成される。
【0018】
(耐火壁の構造)
図8は、本発明の一実施形態に係る耐火壁の斜視図である。図示されるように、耐火壁10は、構造鉄骨材11と、壁面を構成する1対の仕上材12とを含む。構造鉄骨材11は、上記で説明した梁間鉄骨梁4を含む梁、柱、ブレース6、または壁柱7のような構造部材を構成する鉄骨材であり、1対の仕上材12の間に配置される。本実施形態において構造鉄骨材11はH形鋼であり、
図9および
図10に示されるように一対のフランジ111とウェブ112とを有する。構造鉄骨材11が梁間鉄骨梁4のような梁材である場合、
図9に示されるようにフランジ111が桁行方向Xと梁間方向Zとを含む平面上に配置される。一方、構造鉄骨材11が壁柱7などの柱材である場合、
図10に示されるようにフランジ111が高さ方向Yと梁間方向Zとを含む平面上に配置される。
図11に示される例のように、複数のH形鋼が互いのフランジ111でボルト接合、摩擦接合または溶接接合などで接合されることによって壁柱7などの構造鉄骨材11を構成してもよい。他の実施形態において、構造鉄骨材は角形鋼管または円形鋼管であってもよい。
【0019】
図示された例では建築物1の桁行方向Xの端部に位置する妻壁D2に耐火壁10が適用されており、この場合、1対の仕上材12は内壁仕上材12Aと外壁仕上材12Bとを含む。専有部分Pに面する内壁仕上材12Aは、例えば石膏ボード、ロックウール板、けい酸カルシウム板、ALC(Autoclaved Lightweight aerated Concrete)板またはGRC(Glass fiber Reinforced Concrete)板のように、所定の断熱性能を発揮する耐火板である。一方、建築物1の外部に面する外壁仕上材12Bは、例えばALC板またはECP(Extruded Cement Panel)のように、一時間耐火性能を有する乾式部材である。外壁仕上材12Bは、サイディング材やカーテンウォールと呼ばれる部材であってもよい。内壁仕上材12Aおよび外壁仕上材12Bは、それぞれが単層の板状部材によって構成されてもよいし、同じ種類、または互いに異なる種類の板状部材を積層して構成されてもよい。
【0020】
本実施形態に係る耐火壁10において、構造鉄骨材11は、幅全体が耐火壁10の内部に収まるように配置され、かつ1対の仕上材12のそれぞれ(内壁仕上材12Aおよび外壁仕上材12B)から桁行方向Xに離間して設けられる。つまり、耐火壁10では、構造鉄骨材11と1対の仕上材12のそれぞれとが、桁行方向X、すなわち壁面に直交する方向について重複することなく配置される。従って、壁面を構成する内壁仕上材12Aおよび外壁仕上材12Bに構造鉄骨材11による張り出しは形成されない。なお、
図12に示されるように、例えば構造鉄骨材11から梁間方向Zに離間して、壁面を構成しない仕上材12を配置することは可能である。
【0021】
上記のような耐火壁10の構成によって、構造鉄骨材11と1対の仕上材12のそれぞれとの間には隙間部が形成される。具体的には、
図13に示すように、構造鉄骨材11のフランジ111が1対の仕上材12にそれぞれ直交するように、つまり構造鉄骨材11を構成するH形鋼の強軸αと1対の仕上材12のそれぞれとが互いに略直交するように配置される場合、フランジ111の側端部と1対の仕上材12のそれぞれとの間に第1の隙間部G1が形成される。なお、このような配置の場合、構造鉄骨材11は、フランジ間距離(梁せい)よりもフランジ幅を小さくした細幅H形鋼であってもよい。また、
図14に示すように、構造鉄骨材11のフランジ111が1対の仕上材12にそれぞれ平行であるように、つまり構造鉄骨材11を構成するH形鋼の弱軸βと1対の仕上材12のそれぞれとが互いに略直交して配置される場合、フランジ111の板面と1対の仕上材12のそれぞれとの間に第1の隙間部G1が形成される。また、それぞれの例において、1対の仕上材12の間には、構造鉄骨材が介在しない第2の隙間部G2が形成される。第1の隙間部G1および第2の隙間部G2には、空気層が形成される。
【0022】
本実施形態では、上記の第1の隙間部G1および第2の隙間部G2に空気層が形成されることによって、1対の仕上材12から構造鉄骨材11への伝熱が抑制され、火災時における構造鉄骨材11の温度上昇を抑制することができる。従って、構造鉄骨材11の表面には、例えばロックウールまたはグラスウールのような耐火被覆材が配置されない設計(耐火被覆厚0mm)を採用することが可能である。なお、この場合も、構造鉄骨材11の外周に、耐火被覆材以外の被覆材、例えば遮音性能の向上のみを目的としたグラスウール等のインシュレーションを配置することは可能である。第1の隙間部G1での空気層の層厚は大きくなくてよく、具体的には例えば5mm以上50mm以下に設定することによって耐火壁10の壁厚を薄くすることも可能である。
【0023】
(耐火壁に形成される開口)
図15は、本発明の一実施形態において耐火壁に形成される開口部の形状を示す断面図である。図示されるように、本実施形態において、耐火壁10は開口部13、および開口部13に面する開口部仕上材14をさらに含む。開口部13は、耐火壁10の壁面、すなわち1対の仕上材12(内壁仕上材12Aおよび外壁仕上材12B)に交差する(例えば、直交する)方向に形成され、1対の仕上材12および第2の隙間部G2を貫通する。ここで、開口部13が第2の隙間部G2を貫通することは、開口部13が構造鉄骨材11とは干渉しないことを意味する。耐火壁10が妻壁D2に適用される場合、開口部13は妻壁D2を桁行方向Xに貫通する。
【0024】
開口部仕上材14は、例えば内壁仕上材12Aと同様の石膏ボード、ロックウール板、けい酸カルシウム板、ALC板またはGRC板のような耐火板である。耐火壁10の耐火性能を維持するために、開口部仕上材14と構造鉄骨材11との間には第3の隙間部G3が形成され、第3の隙間部G3には空気層が形成される。これによって、開口部仕上材14から構造鉄骨材11への伝熱が抑制され、開口部13を形成しても耐火壁10の耐火性能を維持できる。第3の隙間部G3での空気層の層厚も第1の隙間部G1と同様に例えば5mm以上50mm以下に設定することが可能であり、これによって開口部13を大きくとることも可能である。開口部13の桁行方向Xの一方の端部には、例えばガラス窓15のような建具が配置される。なお、ガラス窓15のような建具は必ずしも図示された例のように建築物1の外部に面する開口部13の端に配置されなくてもよく、その反対側の専有部分Pに面する開口部13の端、または開口部13の中間部に配置されてもよい。これらの場合、開口部仕上材14の全体、または少なくとも建具よりも外部側の部分は、例えば外壁仕上材12Bと同様のALC板またはECPのような一時間耐火性能を有する乾式部材になる。
【0025】
図16は、本発明の一実施形態に係る耐火壁に形成される開口部の利用例を示す斜視図である。図示された例において、耐火壁10は妻壁D2に適用され、上述したような耐火壁10の開口部13を利用して、窓15A,15B,15Cが配置される。上述のように構造鉄骨材11に干渉しない範囲で、開口部13を利用して各種の形状の窓を配置することができる。また、例えば階層構造を有する建築物1の最下階の場合、開口部13を利用して外部との行き来が可能な出入口を配置してもよい。
【0026】
図17は、本発明の一実施形態に係る耐火壁の変形例を示す断面図である。図示された例において、耐火壁10は
図15の例と同様に妻壁D2に適用されるが、
図15の例とは異なり床スラブ2が桁行方向Xに延長されて、いわゆる回しバルコニーが形成されている。このような場合、上述した1対の仕上材12の両方を内壁仕上材12Aにすることも可能である。この他、例えば妻壁D2から張り出し長さが1m以上の庇が設けられる場合にも、1対の仕上材12の両方を内壁仕上材12Aにすることが可能である。また、上記の例では耐火壁10が建築物1の妻壁D2に適用される例について説明したが、耐火壁10は建築物1の戸境壁D1に適用されてもよい。この場合、例えば開口部13を利用して学校やオフィスなどの場合に専有部分P間の行き来を可能にする出入口を配置することができる。
【0027】
以上で説明したように、本発明の一実施形態に係る耐火壁では、壁面を構成する仕上材12と構造鉄骨材11との間、および開口部仕上材14と構造鉄骨材11との間に形成される隙間部G1~G3に形成される空気層が構造鉄骨材11への熱の伝達を抑制するため、耐火被覆材の分の材料コストおよび施工コストを削減することができる。また、後述する実施例によって示されるように、開口部13があることによって火災時における温度上昇が抑制されるため、仕上材12および開口部仕上材14から構造鉄骨材11に伝達される熱をさらに低減して耐火性能を向上させることができる。また、窓や出入口を形成する開口部が形成されることによって、例えば住宅の居住性のような建築物の価値を向上させることができる。
【実施例】
【0028】
図18は、本発明の一実施形態に係る耐火壁の耐火性能を検証するためのシミュレーションの結果を示すグラフである。シミュレーションでは、上記の実施形態において妻壁D2に面する専有部分Pを火災室として、妻壁D2が本発明の一実施形態に係る開口部を有する耐火壁である場合(実施例)、および妻壁D2が開口部を有さない耐火壁である場合(比較例)のそれぞれについて、室内温度をシミュレーションによって算出した。算出のための条件を以下の表1に示し、算出の結果を
図18のグラフおよび表2に示す。
【0029】
【0030】
なお、実施例および比較例に共通して、天井および床はコンクリートで形成されて熱慣性1.75kWs1/2/m2・K、壁は軽微な間仕切壁であって熱慣性0.30kWs1/2/m2・K、天井および壁の仕上げは準不燃材料で発熱量1.60MJ/m2・mm、酸素消費係数0.20、床の仕上げは木材その他で発熱量8.00MJ/m2・mm、酸素消費係数1.00、収納可燃物総発熱量52200MJ、内装材料総発熱量5436.17MJ、空間因子1.25m5/2、収納可燃物総面積135.72m2、内装材料表面積79.22m2とした。
【0031】
【0032】
図18のグラフおよび表2に示すようなシミュレーションの結果から、実施例に係る開口部を有する耐火壁では比較例に係る耐火壁よりも火災室の温度上昇が小さいことがわかる。これは、妻壁に形成した開口部から外部への熱流出によるものと考えられる。この結果は、本発明の実施形態に係る耐火壁では開口部があることによって火災時における温度上昇が抑制されることによって耐火性能が向上することを裏付けるものといえる。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。本発明の属する技術の分野の当業者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0034】
1…建築物、2…床スラブ、3…桁行鉄骨梁、4…梁間鉄骨梁、5…コンクリート柱、6…ブレース、7…壁柱、10…耐火壁、11…構造鉄骨材、12…仕上材、12A…内壁仕上材、12B…外壁仕上材、13…開口部、14…開口仕上材、15…ガラス窓、111…フランジ、112…ウェブ、G1…第1の隙間部、G2…第2の隙間部、G3…第3の隙間部。