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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】感温性撥水剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20240704BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
C09K3/18 101
C08L33/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020146483
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041343
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-04-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年12月3日 http://www.nitta.co.jp/lp/intelimer/
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 聡士
(72)【発明者】
【氏名】山下 幸志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】惠 隆史
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 浩祐
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-001849(JP,A)
【文献】特開2013-166910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点未満の温度で結晶化し、且つ、前記融点以上の温度で流動性を示す側鎖結晶性ポリマーを含有するとともに、前記融点を境に水の接触角が変化する感温性撥水剤であって、
合成樹脂をさらに含有し、
前記合成樹脂の含有量は、前記側鎖結晶性ポリマーの含有量よりも多く、
前記融点未満の温度における水の接触角が、前記融点以上の温度における水の接触角よりも大きい、感温性撥水剤。
【請求項2】
前記側鎖結晶性ポリマーが、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む、請求項1に記載の感温性撥水剤。
【請求項3】
前記側鎖結晶性ポリマーの含有量は、前記合成樹脂100重量部に対して1~20重量部である、請求項1または2に記載の感温性撥水剤。
【請求項4】
前記融点未満の温度における水の接触角と、前記融点以上の温度における水の接触角との差(絶対値)が、30°よりも大きい、請求項1~3のいずれかに記載の感温性撥水剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温性撥水剤に関する。
【背景技術】
【0002】
物品に撥水性を付与できる撥水剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、撥水性が必要なときと不要なときがあり、何らかのトリガーによって撥水性を制御したいというニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-169449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、温度によって撥水性を制御できる感温性撥水剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)融点未満の温度で結晶化し、且つ、前記融点以上の温度で流動性を示す側鎖結晶性ポリマーを含有するとともに、前記融点を境に水の接触角が変化する、感温性撥水剤。
(2)前記側鎖結晶性ポリマーが、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む、前記(1)に記載の感温性撥水剤。
(3)合成樹脂をさらに含有する、前記(1)または(2)に記載の感温性撥水剤。
(4)前記融点未満の温度における水の接触角が、前記融点以上の温度における水の接触角よりも大きい、前記(3)に記載の感温性撥水剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、温度によって撥水性を制御できるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<感温性撥水剤>
以下、本発明の一実施形態に係る感温性撥水剤(以下、「撥水剤」ということがある。)について詳細に説明する。
【0008】
本実施形態の撥水剤は、融点未満の温度で結晶化し、且つ、融点以上の温度で流動性を示す側鎖結晶性ポリマーを含有するとともに、融点を境に水の接触角が変化する。
【0009】
上述した構成によれば、温度によって撥水性を制御できるという効果が得られる。具体的に説明すると、上述した側鎖結晶性ポリマーは、融点を有するポリマーである。融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていた重合体の特定部分が無秩序状態になる温度であり、示差熱走査熱量計(DSC)を使用して、10℃/分の測定条件で測定して得られる値のことである。側鎖結晶性ポリマーは、上述した融点未満の温度で結晶化し、且つ、融点以上の温度で相転移して流動性を示す。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に起こす感温性を有する。本実施形態の撥水剤は、このような側鎖結晶性ポリマーを含有することから、側鎖結晶性ポリマーに由来する感温性を有する。
【0010】
また、側鎖結晶性ポリマーは、融点を境に水の接触角が変化する。それゆえ、このような側鎖結晶性ポリマーを含有する本実施形態の撥水剤も、融点を境に水の接触角が変化する。したがって、本実施形態の撥水剤によれば、温度によって撥水性を制御できるという効果が得られる。また、所望の物品に対して上述した撥水性を付与することができる。側鎖結晶性ポリマーが温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に起こすことに起因して、繰り返し使用することもできる。
【0011】
撥水剤は、融点未満の温度における水の接触角が、融点以上の温度における水の接触角よりも大きくてもよく、また、小さくてもよい。撥水剤は、融点未満の温度における水の接触角と、融点以上の温度における水の接触角との差(絶対値)が、好ましくは5°よりも大きく、より好ましくは10°以上である。上記した差(絶対値)の上限値は、特に限定されないが、好ましくは55°以下である。水の接触角は、JIS R3257:1999の静滴法に準じて測定される値である。
【0012】
側鎖結晶性ポリマーは、融点未満の温度における水の接触角が、融点以上の温度における水の接触角よりも大きくてもよい。側鎖結晶性ポリマーは、融点未満の温度における水の接触角が、好ましくは80~120°、融点以上の温度における水の接触角が、好ましくは70~110°である。なお、側鎖結晶性ポリマーの水の接触角は、例示した数値範囲に限定されない。
【0013】
側鎖結晶性ポリマーの融点は、好ましくは10~70℃である。融点は、例えば、側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分の組成などを変えることによって調整できる。具体例を挙げると、側鎖結晶性ポリマーにおける側鎖の長さを変えると融点を調整できる。
【0014】
側鎖結晶性ポリマーは、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分として含む。炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、その炭素数16以上の直鎖状アルキル基が側鎖結晶性ポリマーにおける側鎖結晶性部位として機能する。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、側鎖に炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する櫛形のポリマーであり、この側鎖が分子間力などによって秩序ある配列に整合されることにより結晶化する。なお、上述した(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートのことである。
【0015】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどの炭素数16~22の線状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。例示した(メタ)アクリレートは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分中に好ましくは10~100重量%、より好ましくは20~100重量%の割合で含まれる。側鎖結晶性ポリマーは、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートをモノマー成分中に最も多い割合で含んでもよい。
【0016】
側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分には、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートと共重合し得る他のモノマーが含まれていてもよい。他のモノマーとしては、例えば、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、極性モノマーなどが挙げられる。
【0017】
炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、アクリル酸2-エチルヘキシルなどが挙げられる。例示した(メタ)アクリレートは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分中に好ましくは70重量%以下、より好ましくは1~70重量%の割合で含まれる。
【0018】
極性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体などが挙げられる。例示した極性モノマーは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。極性モノマーは、側鎖結晶性ポリマーを構成するモノマー成分中に好ましくは10重量%以下、より好ましくは1~10重量%の割合で含まれる。
【0019】
側鎖結晶性ポリマーの好ましい組成としては、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが20~90重量%、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが5~70重量%、および極性モノマーが5~10重量%である。
【0020】
モノマー成分の重合方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。溶液重合法を採用する場合には、モノマー成分と溶媒とを混合し、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤などを添加し、撹拌しながら40~90℃程度で2~10時間程度反応させればよい。
【0021】
側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは1000以上、より好ましくは1000~1000000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0022】
撥水剤は、側鎖結晶性ポリマーに由来する感温性および融点を境にした水の接触角の変化が得られる割合で、側鎖結晶性ポリマーを含有すればよい。例えば、撥水剤は、側鎖結晶性ポリマーのみを含有してもよい。言い換えれば、撥水剤は、側鎖結晶性ポリマー単体で構成されてもよい。
【0023】
撥水剤は、側鎖結晶性ポリマーに加えて他の部材をさらに含有してもよい。他の部材としては、例えば、合成樹脂などが挙げられる。すなわち、撥水剤は、合成樹脂をさらに含有してもよい。
【0024】
合成樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリ塩化ビニル樹脂、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、ポリカーボネート、メチルメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセテート、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂などが挙げられる。なお、合成樹脂としては、例示したものに限定されない。
【0025】
撥水剤が合成樹脂を含有する場合、撥水剤は、融点未満の温度における水の接触角が、融点以上の温度における水の接触角よりも大きくてもよい。
【0026】
合成樹脂の含有量は、側鎖結晶性ポリマーの含有量よりも多くてもよい。この場合には、融点を境に水の接触角が大きく変化し易い。具体的には、合成樹脂の含有量が側鎖結晶性ポリマーの含有量よりも多い場合、撥水剤は、融点未満の温度における水の接触角と、融点以上の温度における水の接触角との差(絶対値)が、好ましくは30°よりも大きく、より好ましくは35°以上である。上記した差(絶対値)の上限値は、特に限定されないが、好ましくは55°以下である。
【0027】
合成樹脂の含有量が側鎖結晶性ポリマーの含有量よりも多い場合、側鎖結晶性ポリマーの含有量は、合成樹脂100重量部に対して、好ましくは1~20重量部、より好ましくは1~10重量部である。
【0028】
合成樹脂の重量平均分子量は、側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量よりも大きくてもよい。この場合には、融点を境に水の接触角が大きく変化し易い。なお、合成樹脂の重量平均分子量は、好ましくは10000~2000000である。
【0029】
本実施形態の撥水剤の使用形態は、特に限定されない。例えば、物品に対して塗布(コーティング)やスプレーするような形態で使用してもよいし、シート状またはテープ状などの形態で使用してもよい。撥水性を付与する物品としては、所望のものが採用可能であり、特に限定されない。
【0030】
本実施形態の撥水剤は、離型剤としても使用可能である。例えば、本実施形態の撥水剤をPETフィルムの片面に塗布すれば、粘着テープのリリースライナーのような離型処理PETとして使用可能である。また、離型処理が必要な型に対して塗布やスプレーするような形態でも使用可能である。なお、リリースライナーの例では、離型剤の性能評価方法の1つである水の接触角において、撥水性が高いほど(水をはじくほど)、テープの離型性も高い傾向がある。本実施形態の撥水剤を離型剤として使用する場合には、感温性撥水剤を感温性離型剤と言い換えてもよい。
【0031】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
(合成例1:合成樹脂)
まず、表1に示すモノマーを表1に示す割合で反応容器に加えた。表1に示すモノマーは、以下のとおりである。
EHA:2-エチルへキシルアクリレート
C1A:メチルアクリレート
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
【0033】
次に、重合開始剤として日油社製の「パーブチルND」をモノマー混合物100重量部に対して0.5重量部の割合で反応容器に加えた後、固形分濃度が30重量%になるように酢酸エチル:ヘプタン=70:30(重量比)の混合溶媒を反応容器に加え、混合液を得た。得られた混合液を55℃で4時間撹拌することによって各モノマーを共重合させ、合成樹脂(アクリル樹脂)を得た。
【0034】
(合成例2:側鎖結晶性ポリマー)
まず、表1に示すモノマーを表1に示す割合で反応容器に加えた。表1に示すモノマーは、以下のとおりである。
C22A:ベヘニルアクリレート
C18A:ステアリルアクリレート
C1A:メチルアクリレート
AA:アクリル酸
【0035】
次に、重合開始剤として日油社製の「パーヘキシルPV」をモノマー混合物100重量部に対して0.5重量部の割合で反応容器に加えた後、固形分濃度が30重量%になるように酢酸エチル:ヘプタン=70:30(重量比)の混合溶媒を反応容器に加え、混合液を得た。得られた混合液を80℃で3時間撹拌することによって各モノマーを共重合させ、側鎖結晶性ポリマーを得た。
【0036】
得られた合成樹脂および側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量および融点を表1に示す。重量平均分子量は、GPCで測定して得られた測定値をポリスチレン換算した値である。融点は、DSCを用いて10℃/分の測定条件で測定した値である。
【0037】
【表1】
【0038】
[実施例1および比較例1]
<試験片の作製>
まず、合成例1~2で得られた合成樹脂および側鎖結晶性ポリマーを表2に示す組み合わせにした後、酢酸エチルによって固形分濃度が28重量%となるように調整して塗布液を得た。なお、比較例1は、合成例1で得られた合成樹脂単体である。実施例1は、合成例1で得られた合成樹脂100重量部に対して、合成例2で得られた側鎖結晶性ポリマーを5重量部の割合で混合した混合物である。
【0039】
次に、得られた塗布液を厚さ100μmのPETからなるフィルム状の基材の片面に塗布した。そして、90℃×10分の条件で乾燥させて、基材の片面に厚さ40μmの樹脂層が積層されたテープ状の試験片を得た。
【0040】
<評価>
得られた試験片について、水の接触角を評価した。評価方法を以下に示すとともに、その結果を表2に示す。
【0041】
(水の接触角)
試験片の樹脂層に対する水の接触角を測定した。具体的には、JIS R3257:1999の静滴法に準じて測定した。測定器は、協和界面科学社製の接触角計「DMs-401」を用いた。
【0042】
【表2】
【0043】
表2から明らかなように、実施例1は、融点を境に水の接触角が変化していることがわかる。