(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/02 20060101AFI20240704BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20240704BHJP
G01S 13/44 20060101ALI20240704BHJP
H01Q 3/36 20060101ALI20240704BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20240704BHJP
H01Q 1/32 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
G01S7/02 218
G01S7/03 220
G01S13/44
H01Q3/36
H01Q21/06
H01Q1/32 Z
(21)【出願番号】P 2020166976
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】幸谷 真人
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0027268(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0136599(US,A1)
【文献】特開2019-149684(JP,A)
【文献】特開2016-167769(JP,A)
【文献】特開2008-309744(JP,A)
【文献】特開2000-101464(JP,A)
【文献】特開平05-027007(JP,A)
【文献】特表2015-514970(JP,A)
【文献】AVSER, Bilgehan 外2名,Random Feeding Networks for Reducing the Number of Phase Shifters in Limited-Scan Arrays,IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION,2016年08月16日,Volume 64, Number 11,Pages 4648-4658,< doi: 10.1109/TAP.2016.2600861 >
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - G01S 7/42
G01S 13/00 - G01S 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信用に特化してフェーズドアレイアンテナ(7;307)を備えた車両用のレーダ装置(1;201;301;401;501;601;701)であって、
それぞれが混合器(9)を備える二以上の受信チャンネルを備え、
前記受信チャンネルのうち少なくとも一以上は、少なくとも二分岐以上する
サブアレイアンテナエレメントをグループとしたグルーピングエレメント(11b、11c;11d、11e、11f、11g)と、
単一のサブアレイアンテナエレメント(11a)と、を備えた前記フェーズドアレイアンテナを備え、
前記グルーピングエレメントと前記混合器との間、前記単一のサブアレイアンテナエレメントと前記混合器との間にそれぞれ第1移相器(14)及び可変利得増幅器(13)を高周波部(12)として構成し、
前記グルーピングエレメントと前記単一のサブアレイアンテナエレメントとの中に含まれるサブアレイアンテナエレメントの総数は、前記第1移相器の数に比較して多く設定されているレーダ装置。
【請求項2】
前記混合器に供給するローカル信号を生成するPLL(4)を備え、
同一の前記PLLが、全ての前記受信チャンネルの前記混合器に前記ローカル信号を供給する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記高周波部は、
前記第1移相器と前記グルーピングエレメントとの間、及び、前記第1移相器と前記
単一のサブアレイアンテナエレメントとの間に
それぞれ前記可変利得増幅器を構成している請求項1又は2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記高周波部と前記混合器との間に第2移相器(22)をさらに備える請求項1記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記混合器に供給するローカル信号を生成する1又は複数のPLL(4)を備え、
前記混合器と前記PLLとの間に第3移相器(21)をさらに備える請求項1記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記混合器に供給するローカル信号を生成するPLL(4)を備え、
同一の前記PLLから、前記ローカル信号と同一周波数のBIST用ローカル信号と、前記ローカル信号より周波数の低いテスト信号とを生成し、前記テスト信号と前記BIST用ローカル信号をBIST用周波数混合器でアップコンバージョンにすることでミリ波帯の自己診断信号を生成し、前記フェーズドアレイアンテナの受信端に入力させる自己診断信号生成部(50)をさらに備える請求項1記載のレーダ装置。
【請求項7】
方位角(Azimuth)及び仰角(Elevation)の方向に沿ってスキャンすることで前記混合器から2×2以上の複数のIF信号を出力させる2Dスキャン構成を用いている請求項1記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記混合器に供給するローカル信号を生成する複数のPLL(4)を備え、
前記複数のPLLは、出力する前記ローカル信号の同期を取ることで全ての前記受信チャンネルの前記混合器に前記ローカル信号を同期出力する請求項1記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衝突防止や自動運転などの技術が数多く提案されており、レーダ技術を使用し自装置から物標までの距離、物標との相対速度、物標の存在角度(レーダ受信波の到来角度)を測定する技術が注目されている。出願人は、自装置から物標までの距離、物標との相対速度、物標の存在角度を測定する装置として、移動体用のミリ波帯レーダシステムを提案している。
【0003】
ミリ波レーダシステムは、物標の存在する方位を正確に求めるためフェーズドアレイ受信器を用いている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載のレーダによれば、受信用に特化してフェーズドアレイアンテナを備えており、それぞれが混合器を備える二以上の受信チャンネルを備えている。受信アンテナは、サブアレイにまとめて構成されており、サブアレイはそれぞれサブアレイ信号を混合器に供給し、混合器信号を生成している。
【0004】
デジタルビーム形成器は、デジタルビーム形成アルゴリズムをプロセッサが実行することによりデジタルビームを形成している。これにより、受信ビームの中に当該受信ビームよりも狭く受信ビームのビーム幅の内に設置される仮想ビームを決定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したような従来技術を適用し、フェーズドアレイアンテナをサブアレイ化した場合、システム構成上、混合器や移相器を構成する個数が多くなってしまう。混合器の構成数が多くなると、混合器の出力信号を処理する処理負荷が大きくなると共に消費電力も多くなる。移相器の構成数が多くなると、移相器を制御する制御信号の数も多くなりシステムが煩雑化してしまうため望ましくない。
【0007】
本開示の第1の目的は、演算処理負荷を削減しながら低消費電力化を図ることであり、第2の目的はシステムを簡素化できるようにしたレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、受信用に特化してフェーズドアレイアンテナを備えた車両用のレーダ装置を対象としている。このレーダ装置は、それぞれが混合器を備える二以上の受信チャンネルを備えている。また、受信チャンネルのうち少なくとも一以上は、少なくとも二分岐以上するサブアレイアンテナエレメントをグループとしたグルーピングエレメントと、単一のサブアレイアンテナエレメントとを備えたフェーズドアレイアンテナを有している。また、この受信チャンネルは、グルーピングエレメントと混合器との間、単一のサブアレイアンテナエレメントと混合器との間にそれぞれ第1移相器及び可変利得増幅器を高周波部として構成している。
【0009】
受信チャンネル毎に一つの混合器により構成できるため、混合器の構成数を減らすことができ、演算処理負荷を削減しながら低消費電力化を図ることができる。グルーピングエレメントと単一のサブアレイアンテナエレメントとの中に含まれるサブアレイアンテナエレメントの総数が第1移相器の構成数に比較して多くなっているとき、第1移相器を含む高周波部の構成数を減らすことができ、システムを簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る受信フェーズド・サブアレイ部の電気的構成図
【
図2】第1実施形態に係るレーダ装置の電気的構成図
【
図3】第1実施形態に係る実ビーム及び仮想ビームの説明図その1
【
図4】第1実施形態に係る実ビーム及び仮想ビームの説明図その2
【
図5】第2実施形態に係る受信フェーズド・サブアレイ部の電気的構成図
【
図6】第3実施形態に係る受信フェーズド・サブアレイ部の電気的構成図
【
図9】第5実施形態に係る受信部の設置形態を示す模式図
【
図10】第5実施形態に係る受信ビーム領域の説明図その1
【
図11】第5実施形態に係る受信ビーム領域の説明図その2
【
図12】第6実施形態に係るレーダ装置の自己診断システムの電気的構成図
【
図13】第7実施形態に係るレーダ装置の電気的構成図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、幾つかの実施形態について図面を参照しながら説明する。以下に説明する各実施形態において、同一又は類似の動作を行う構成については、同一又は類似の符号を付して必要に応じて説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
図1から
図4は第1実施形態の説明図を示している。
図2に例示した車両用のレーダ装置1は、制御部2、信号処理部3、PLL4、送信部5、及び受信部6にブロック化して構成されている。送信部5及び受信部6は、ミリ波帯(76GHz-81GHz)で用いられるブロックである。レーダ装置1は、
図3に例示したように車両40の前端部に取付けられており、200m程度前方の所定範囲をスキャンする長距離レーダ(Long Range Radar:LRR)用途として用いられる。車両40の前後左右の複数個所に取り付けられていても良い。
【0013】
本実施形態では、受信部6の構成に特徴を備えるため送信部5の構成説明を省略する。また以下の例では、受信チャンネル数n=4とし、それぞれ受信チャンネルRx1、Rx2、Rx3、Rx4とした例を説明するが、受信チャンネル数nは二以上であれば幾つであっても良い。
【0014】
車両用のレーダ装置1は、受信用に特化したフェーズドアレイアンテナ7を備える。また受信チャンネルRx1~Rx4には、それぞれ1つのLOアンプ8、1つの混合器9、及び1つの受信フェーズド・サブアレイ部10が構成されている。
【0015】
図1に示したように、フェーズドアレイアンテナ7は、受信チャンネルRx1~Rx4の全てに対し、二分岐以上に構成されたサブアレイアンテナエレメント11a~11iを備える。サブアレイアンテナエレメント11a~11iは、ミリ波レーダ用のパッチアンテナにより構成されている。受信フェーズド・サブアレイ部10は、複数のサブアレイアンテナエレメント11a~11iを二分岐以上にサブアレイ化して備えており、サブアレイ化された複数のサブアレイアンテナエレメント11a~11iを通じて受信した受信信号を合成し、混合器9に入力させるように構成されている。サブアレイアンテナエレメント11a~11iは、隣り合うエレメント間の間隔をλ/2として並設しており、これによりグレーティングローブを抑圧できると共にサイドローブを抑圧できる。なお、以下の説明では、サブアレイアンテナエレメント11a~11iを、必要に応じて、サブアレイアンテナエレメント11と符号を付して説明を行う。
【0016】
図1にサブアレイアンテナエレメント11の分岐例を示すように、サブアレイアンテナエレメント11から混合器9への信号受信経路には、それぞれ高周波部12が構成されている。高周波部12は、サブアレイアンテナエレメント11a~11iから混合器9にかけて、それぞれ可変利得増幅器13、第1移相器14、及び増幅器15を縦続接続して構成される。言い換えると、高周波部12は、第1移相器14とサブアレイアンテナエレメント11a~11iとの間に可変利得増幅器13を構成している。サブアレイアンテナエレメント11a~11iと第1移相器14との間に可変利得増幅器13を構成することで、レーダ装置1のシステム上のNFを改善できるようになり、より遠方の物標を検出できる。サブアレイアンテナエレメント11a~11iは、その数が高周波部12の構成数と同数に設置されている。本形態では、高周波部12に増幅器15を構成しているが、増幅器15は必要に応じて設ければ良い。
【0017】
図1に示す構成例では、受信フェーズド・サブアレイ部10は、5つのブロックに分割されたサブアレイアンテナエレメント11a~11iから受信した信号を、ノードN1~N5を通じて合成して混合器9に出力する。ノードN1では2つのサブアレイアンテナエレメント11b、11cから受信した受信信号を合成する。ノードN2では2つのサブアレイアンテナエレメント11d、11eから受信した受信信号を合成する。
【0018】
ノードN3では2つのサブアレイアンテナエレメント11f、11gから受信した受信信号を合成する。ノードN4では2つのサブアレイアンテナエレメント11h、11iから受信した受信信号を合成する。ノードN5ではノードN1~N4を通じて得られた信号を合成し混合器9に出力する。各サブアレイアンテナエレメント11a~11iから混合器9に至るまでの線路長は互いに等長経路に構成すると良い。
【0019】
さて
図2に示した制御部2は、所定の制御ロジックを実行することで出力周波数制御部2a、増幅度制御部2b、及び位相制御部2cなどの各種制御機能を実行する。出力周波数制御部2aはPLL4の出力周波数を制御する。位相制御部2cは、第1移相器14の移相値を制御する。増幅度制御部2bは、可変利得増幅器13の増幅度の制御を行う。
【0020】
PLL4は、基準発振回路(図示せず)から入力される基準クロックCLKを用い、基準クロックCLKの逓倍数等のパラメータを調整することで、周波数が互いに等しいミリ波帯のローカル信号(例えば、77GHz)を全ての受信チャンネルRx1~Rx4の混合器9に出力する。混合器9は、このローカル信号と送信部5から出力された電波が物標に反射して受信する信号とをミキシングすることで距離に比例した周波数のIF出力を得ることができる。ここでは、省略しているが、逓倍器を設けて所望の周波数に逓倍した上で、ローカル信号を各受信チャンネルRx1~Rx4に出力しても良い。
【0021】
LOアンプ8は、所定の増幅度でPLL4のローカル信号を増幅し各受信チャンネルRx1~Rx4の混合器9に出力する。各受信チャンネルRx1~Rx4の混合器9は、各受信チャンネルRx1~Rx4の受信フェーズド・サブアレイ部10の出力信号とLOアンプ8により増幅されたローカル信号を入力し混合してIF信号IF1~IF4として出力する。
【0022】
同一のPLL4が、全ての受信チャンネルRx1~Rx4の混合器9にローカル信号を供給するため、IF信号は基準クロックCLKの周波数変動や外的環境変動に対する周波数特性変化に高い相関性を備える。
【0023】
車両40に搭載されたレーダ装置1が、他の車両41までの距離を測定する際には、受信チャンネルRx1~Rx4の各受信フェーズド・サブアレイ部10を用いてフェーズドアレイアンテナ7から信号を受信する。このとき、各受信フェーズド・サブアレイ部10において、可変利得増幅器13がサブアレイアンテナエレメント11から受信した信号を増幅し、第1移相器14は、可変利得増幅器13の増幅信号を移相し、そして増幅器15が第1移相器14の移相信号をさらに増幅して混合器9に出力する。
【0024】
制御部2は、位相制御部2cにより各受信チャンネルRx1~Rx4の第1移相器14の移相値φを制御することで、受信チャンネルRx1~Rx4の受信ビームの指向性を制御する。このときの受信ビームは所定のビーム幅を備える実ビームによる。
【0025】
また各受信チャンネルRx1~Rx4の混合器9は、それぞれの混合器9の出力信号を信号処理部3に出力する。信号処理部3は、プロセッサや所定の電子制御ロジックにより構成されており、デジタルビーム形成(DBF)等の信号処理により、視野を絞ったセクタ内に存在する物標の角度を推定することができる。
【0026】
信号処理部3は、混合器9により処理されたIF信号について、図示しないIFフィルタを介してA/D変換器3aに入力する。A/D変換器3aは、IF信号をアナログデジタル変換してデジタルデータとして処理する。信号処理部3は、FFT3bにより所定のデジタル信号処理を行うことで、
図3に示したように、自車両40から他の車両41までの距離、車両41との相対速度、車両41の存在角度を測定できる。
【0027】
信号処理部3は、第1移相器14を用いたアナログビームフォーミングにより視野を
図3に示すセクタ領域Sbに絞り込む。信号処理部3は、DBFアルゴリズムによる信号処理を実行することで、
図4に示したように、セクタ領域Sbの中に狭い仮想ビームScを形成し、より高い分解能でスキャン対象となる車両41を識別できる。これにより、他の車両42をスキャン対象から除外できる。また、複数の物標に対して前述のDBFより高い分離能が得られる多信号分類処理(MUltiple SIgnal Classification: MUSIC)などを適用することもできる。
【0028】
例えば、
図4に例示したように、信号処理部3は、DBFアルゴリズムを用いて広い角度視野範囲Saの全体ではなくセクタ領域Sbに視野を絞り、セクタ領域Sb毎に仮想ビームScを取得することで、狭いセクタ領域Sbの中で物標となる車両41を高解像度で識別できる。セクタ領域Sbに視野を絞りこむことができるため、従来のMIMOレーダに比較して計算量を削減できる。
【0029】
信号処理部3が、自車両40からの他の車両41の存在角度を算出するときには、FFT3bを用いてデジタルデータを高速フーリエ変換し、デジタル信号処理を実行することで和信号レベルΣと差信号レベルΔを算出する。
【0030】
信号処理部3は、受信パルスビームの受信方向と物標の存在方向との角度差θが、下記の式(1)に示すように、和信号レベルΣと差信号レベルΔの比に依存した関数となることを利用してモノパルス方式により測定できる。
【数1】
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、サブアレイアンテナエレメント11と混合器9との間にそれぞれ第1移相器14及び可変利得増幅器13を高周波部12として構成しており、サブアレイアンテナエレメント11a~11iの数は、高周波部12の構成数と同数に設定されている。
【0032】
混合器9は、サブアレイアンテナエレメント11a~11iの構成数よりも少なく構成されているため、混合器9の数を削減でき、信号処理部3によるIF信号IF1~IF4の演算負荷を削減しながら低消費電力化を図ることができる。サブアレイアンテナエレメント11a~11iは、隣り合うエレメント間の間隔をλ/2として並べることでグレーティングローブを抑圧できると共にサイドローブを抑圧できる。
【0033】
(第2実施形態)
図5は第2実施形態の説明図を示す。
図5にレーダ装置201の一部を例示している。受信フェーズド・サブアレイ部210は、それぞれ高周波部12に接続されたPADカプラ20a~20dと、サブアレイアンテナエレメント11a~11iとを備える。PADカプラ20a~20dは、後述実施形態で説明する自己診断信号(オンチップテスト信号)を供給するために設けられるカプラである。
【0034】
一つのPADカプラ20bは、一つの高周波部12とサブアレイアンテナエレメント11b~11cとの間に接続されている。サブアレイアンテナエレメント11b~11cは、PADカプラ20bから二分岐されたグループとなるグルーピングエレメント相当である。PADカプラ20bは、サブアレイアンテナエレメント11b~11cの間の中点に接続されている。
【0035】
一つのPADカプラ20cは、一つの高周波部12とサブアレイアンテナエレメント11d~11gとの間に接続されている。サブアレイアンテナエレメント11d~11gは、PADカプラ20cから四分岐されたグループとなるグルーピングエレメント相当である。PADカプラ20cは、サブアレイアンテナエレメント11dと11gとの間の中点に接続されると共に、サブアレイアンテナエレメント11eと11fとの間の中点に接続されている。
【0036】
一つのPADカプラ20dは、一つの高周波部12とサブアレイアンテナエレメント11h~11iとの間に接続されている。サブアレイアンテナエレメント11h~11iは、PADカプラ20dから二分岐されたグループとなるグルーピングエレメント相当である。PADカプラ20dは、サブアレイアンテナエレメント11h~11iの間の中点に接続されている。
【0037】
このような実施形態でも、前述実施形態と同様の作用効果を奏する。本実施形態では、サブアレイアンテナエレメント11a~11iの数は、高周波部12の構成数よりも多く設定されている。逆に言えば、高周波部12の構成数をサブアレイアンテナエレメント11a~11iの構成数より削減できるため、第1移相器14の構成数を削減でき、レーダ装置1を簡素化できる。
【0038】
(第3実施形態)
図6及び
図7は第3実施形態の説明図を示す。
図6及び
図7に示すレーダ装置301は、受信チャンネル数分の受信フェーズド・サブアレイ部310を備える。フェーズドアレイアンテナ307を構成する多数のサブアレイアンテナエレメント11は、それぞれ個別に設けられた高周波部12、及びノードN1~N8を通じてノードN9にて結合されており、その高周波部12の合成信号は混合器9に入力される。
【0039】
各受信チャンネルRx1~Rx4の高周波部12と混合器9との間には第3移相器21が構成されている。各受信チャンネルRx1~Rx4の高周波部12と混合器9との間には第2移相器22が構成されている。第2移相器22及び第3移相器21は、位相制御部2cの制御に基づいて移相値を変更可能に構成された移相器であり、線路長を調整可能なトランスミッションライン(Tunable TMLs)、負荷型移相器(Loaded type phase shifter)、又は段間LC共振整合回路(LC resonance in inter-stage matching network)等により構成される。
【0040】
第2移相器22及び第3移相器21は、全回転(360°回転)は不要であるものの、ロスを極力小さく保ちつつ、ある特定の移相範囲で微調整(Fine phase tuning)可能な構造により実現されていることが望ましい。
【0041】
第2移相器22及び第3移相器21を設け、各受信チャンネルRx1~Rx4毎に位相を調整することで、サブアレイアンテナエレメント11を用いた物標の存在角度の測定精度を改善できる。また、キャリブレーション精度を改善できる。受信チャンネルRx1~Rx4のIF信号の間に生じる潜在的な位相誤差を低減できる。
【0042】
(第4実施形態)
図8は第4実施形態の説明図を示す。
図8に示したレーダ装置401は、受信チャンネル数分の受信フェーズド・サブアレイ部10の他に、この受信フェーズド・サブアレイ部10の両端にガードチャネル部430を備えている。ガードチャネル部430は、一つのサブアレイアンテナエレメント11に係る電気的構成、すなわち、可変利得増幅器13、第1移相器14及び増幅器15による高周波部12、混合器9、LOアンプ8、第2移相器22、及び第3移相器21を備える。
【0043】
ガードチャネル部430は、サブアレイアンテナ11からの受信信号を、フェーズドアレイアンテナ7の信号基準となるレファレンス信号として受信し、受信チャンネルRx1~Rx4のメインビームに対して重ね合わせることでノイズをキャンセルして分解能を高めつつ分離性能を向上できる。このような構成においても前述実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0044】
(第5実施形態)
図9から
図11は第5実施形態の説明図を示す。
図9に例示したように、第5実施形態のレーダ装置501は、方位角(Azimuth)及び仰角(Elevation)の方向に沿ってスキャンすることで混合器9から2×2の4つの受信チャンネルRx1~Rx4のIF信号を出力させる2Dスキャン構成を用いている。2×2の4つの受信チャンネルRx1~Rx4の例を示したが、これに限定されるものではない。
【0045】
例えば、
図10に示すように方位角方向にn個、
図11に示すように仰角方向にn個のサブアレイアンテナエレメント11を設置することで、サブアレイアンテナエレメント11によるスキャン方向を2D方向にでき、スキャン範囲Sbx、Sbyについてそれぞれ演算を行うことができる。
【0046】
信号処理部3が、方位角(Azimuth)方向に沿って得られるIF信号についてFFT3bを用いてデジタルデータを2DFFT処理を実行し、CFAR(Constant false alarm rate)アルゴリズムを実行し、和信号レベルΣと差信号レベルΔを算出する。また信号処理部3が、仰角(Elevation)方向に沿って得られるIF信号についてFFT3bを用いてデジタルデータを2DFFT処理を実行し、CFAR(Constant false alarm rate)アルゴリズムを実行し、和信号レベルΣと差信号レベルΔを算出する。信号処理部3は、受信パルスビームの受信方向と物標の存在方向との角度差θが、前述の式(1)に示すように、和信号レベルΣと差信号レベルΔの比に依存した関数となることを利用してモノパルス方式により測定できる。
【0047】
本実施形態によれば、2Dスキャン構成により方位角及び仰角の方向に沿ってスキャンすることで混合器9から2×2以上の複数のIF信号を出力させることができる。このため、サブアレイアンテナエレメント11を用いて2Dスキャン処理を実現できるようになり、モノパルス(Mono-pulse)処理やDBF処理に適した処理を行うことができる。
【0048】
(第6実施形態)
図12は第6実施形態の説明図を示す。第6実施形態のレーダ装置601は、受信チャンネルRx1~Rx4を自己診断する自己診断機能を備えるもので、前述実施形態で説明した構成にさらに自己診断信号生成部50を備える。
【0049】
PLL4は、ローカル信号と同一の周波数となるBIST用ローカル信号を生成し自己診断信号生成部50に出力する。自己診断信号生成部50は、BIST用周波数混合器を具備して構成され、PLL4からBIST用ローカル信号と当該ローカル信号より周波数の低いテスト信号となるクロック信号CLKとを入力し、クロック信号CLKとBIST用ローカル信号とをBIST用周波数混合器でアップコンバージョンすることでミリ波帯の自己診断信号(オンチップテスト信号)を生成し、伝送線路51を通じてフェーズドアレイアンテナ307の受信端のPADカプラ20に入力させる。
【0050】
混合器9は、PADカプラ20に入力した自己診断信号を多数の高周波部12を介して合成入力すると共に、PLL4のローカル信号とを混合しIF信号として信号処理部3に出力する。
【0051】
BIST用ローカル信号及びクロック信号CLK(例えば、fLO=77GHz及びfCLK=10MHz)、並びに、受信部6のローカル信号(fLO=77GHz)を全て同一のPLL4から生成することで完全同期システムとなる。混合器9のIF出力に現れるオンチップBIST信号のIF周波数は、fBIST_RF?fLO=(77GHz±10MHz)?77GHz=10MHzとなるが、高い周波数確度を実現できる。
【0052】
また、位相検査例として、フェーズドアレイアンテナ307の分岐パスの中から任意の二つの第1移相器14をオンし、片方の第1移相器14の位相を0°から360°まで掃引することで、上記したオンチップBIST信号のレベルを変化させることができる。互いの分岐パスを通じて入力される信号の位相関係が同相になると信号強度が最大になり、逆相になると信号強度が最小になる。これらの特長を活かして、第1移相器14の位相制御に関する自己診断を行うことができる。これら自己診断信号生成部50による自己診断技術は、本願出願人が既に出願した特願2020-1389号の技術を活用したものである。
【0053】
また、たとえPLL4が生成するローカル信号の周波数にPVTばらつきを生じたとしても、PLL4が混合器9に出力するローカル信号と、PLL4が自己診断信号生成部50に出力する信号とは同様の周波数変化をするため、これらの変化を相殺可能な自己診断信号を生成でき、信頼性高く自己診断できる。
【0054】
(第7実施形態)
図13は第7実施形態の説明図を示す。第7実施形態のレーダ装置701は、複数のPLL4を備えている。複数のPLL4は、何れかをマスタとして他をスレーブとして動作させるもので、互いに同期した状態でローカル信号を生成し、当該ローカル信号を各受信チャンネルRx1~Rx4の混合器9に出力する。複数のPLL4は、出力するローカル信号の同期を取ることができ、全ての受信チャンネルRx1~Rx4の混合器9にローカル信号を同期出力できる。このような実施形態であっても前述実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0055】
(他の実施形態)
本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができ、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。例えば以下に示す変形又は拡張が可能である。
【0056】
全ての受信チャンネルRxのうち少なくとも一以上が、少なくとも二分岐以上するサブアレイアンテナエレメント11を備えていれば良い。
前述した複数の実施形態の構成、機能を組み合わせても良い。前述実施形態の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略した態様も実施形態と見做すことが可能である。また、特許請求の範囲に記載した文言によって特定される発明の本質を逸脱しない限度において考え得るあらゆる態様も実施形態と見做すことが可能である。
【0057】
本開示は、前述した実施形態に準拠して記述したが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0058】
図面中、1、201、301、401、501、601、701はレーダ装置、4はPLL、7、307はフェーズドアレイアンテナ、11、11a~11iはサブアレイアンテナエレメント、12は高周波部、13は可変利得増幅器、14は第1移相器、21は第3移相器、22は第2移相器、50は自己診断信号生成部、を示す。