(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】リアクトル損失算出方法、リアクトル損失測定装置及び波形測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 33/12 20060101AFI20240704BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240704BHJP
【FI】
G01R33/12 Z
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2020167697
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】郭 中為
(72)【発明者】
【氏名】石渡 洋志
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-122210(JP,A)
【文献】特開2010-019638(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106569447(CN,A)
【文献】特開平01-287474(JP,A)
【文献】特開2014-113007(JP,A)
【文献】特開2019-027811(JP,A)
【文献】特開2018-041773(JP,A)
【文献】特開2020-047879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 33/00-33/26、
11/00-11/66、
21/00-22/10、
35/00-35/06、
27/00-27/32、
G01N 27/72-27/9093、
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波のスイッチング信号によりスイッチングして電力変換を行うスイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタ用のリアクトルのリアクトル高周波鉄損を算出するリアクトル損失算出方法であって、
前記リアクトルを流れるリアクトル電流から高速フーリエ変換解析してスイッチング周波数を算出し、該スイッチング周波数からスイッチング周期を算出し、
前記スイッチング周期に基づいて前記リアクトルのリアクトル電圧及びリアクトル電流を測定した測定信号の低周波成分を除去してスイッチング成分信号を抽出し、前記スイッチング成分信号の電力演算にて前記リアクトル高周波鉄損を算出することを特徴とするリアクトル損失算出方法。
【請求項2】
高周波のスイッチング信号によりスイッチングして電力変換を行うスイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタ用のリアクトルのリアクトル高周波鉄損を測定するリアクトル損失測定装置であって、
前記リアクトルを流れるリアクトル電流から高速フーリエ変換解析してスイッチング周波数を算出し、該スイッチング周波数からスイッチング周期を算出し、
前記スイッチング周期に基づいて前記リアクトルのリアクトル電圧及びリアクトル電流を測定した測定信号の低周波成分を除去してスイッチング成分信号を抽出し、
前記スイッチング成分信号の電力演算にて前記リアクトル高周波鉄損を測定することを特徴とするリアクトル損失測定装置。
【請求項3】
高周波のスイッチング信号によりスイッチングして電力変換を行うスイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタ用のリアクトルのリアクトル高周波鉄損を測定するリアクトル損失測定装置であって、
前記リアクトルのリアクトル電圧及びリアクトル電流を測定して測定信号とし、
前記測定信号の時間を中心とし、前記スイッチング信号の前後1/2スイッチング周期又は前記前後1/2スイッチング周期の整数倍の平均値を算出し、
該平均値を前記測定信号から減算し
てスイッチング成分信号を算出
し、前記スイッチング成分信号の電力演算にて前記リアクトル高周波鉄損を測定することを特徴とするリアクトル損失測定装置。
【請求項4】
前記スイッチング信号のスイッチング周期又は前記スイッチング周期の倍数の期間毎に、前記リアクトル高周波鉄損を算出し記録することを特徴とする請求項
3記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項5】
交流周期又は前記交流周期の倍数にて前記リアクトル高周波鉄損を算出することを特徴とする請求項
3記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項6】
前記リアクトル電流の測定信号の高速フーリエ変換にて、前記スイッチング信号のスイッチング周波数及びスイッチング周期を算出することを特徴とする請求項
3から5のいずれか1項記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項7】
前記測定信号の移相処理を行うことを特徴とする請求項
3から6のいずれか1項記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項8】
請求項
3から7のいずれか1項記載のリアクトル損失測定装置の演算機能を有する波形測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ用のリアクトルを有するスイッチング電源装置におけるリアクトル損失算出方法、リアクトル損失測定装置及び波形測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiCデバイス、GaNデバイス等の次世代デバイス(半導体素子)を採用した直流/交流変換(DC/AC変換)を行うインバータ、力率改善回路(以下「PFC回路」という。)、DC/DCコンバータ等のスイッチング電源装置においては、デバイス損失が改善されるが、一方で、フィルタ用のACリアクトル等の磁性部品の損失が示す割合が大きくなるため、更なる低損失化を図るために、磁性部品の損失測定が不可欠である。
【0003】
特許文献1には、専用励磁回路にて、2次測定巻線を追加して鉄損の測定を行う磁性体の鉄損計測装置が開示されている。特許文献2には、単相インバータにおけるフィルタ用のリアクトルに2次測定巻線を追加して、実回路環境にてリアクトルの損失を測定するリアクトル損失測定装置及びその測定方法が開示されている。更に、非特許文献1には、三相インバータにおけるフィルタ用のリアクトルに2次測定巻線を追加して、専用測定器によりリアクトル損失を測定するリアクトル損失測定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平01-285881号公報
【文献】特開2008-122210号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】IEEE TRANSACTIONS ON POWER ELECTRONICS、31[4](2016-4)(米)p.3080-3095
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された磁性体の鉄損計測装置では、2次測定巻線を追加して鉄損の測定を行っているので、専用回路が必要になる。特許文献2に開示されたリアクトル損失測定装置及びその測定方法では、実回路環境にてリアクトルの損失を測定しているが、2次測定巻線の追加が必要になると共に、リアクトル電流信号と電流基本波信号との交差点を利用してリアクトルの損失を測定しているため、複雑な電流波形である三相インバータに適用できない。又、非特許文献1に開示されたリアクトル損失測定方法では、専用測定器とこの専用測定器の信号に同期したインバータ制御回路とが必要になるため、実機搭載状態の測定に対応できない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリアクトル損失算出方法は、高周波のスイッチング信号によりスイッチングして電力変換を行うスイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタ用のリアクトルのリアクトル高周波鉄損を算出するリアクトル損失算出方法であって、前記リアクトルを流れるリアクトル電流から高速フーリエ変換解析してスイッチング周波数を算出し、該スイッチング周波数からスイッチング周期を算出し、前記スイッチング周期に基づいて前記リアクトルのリアクトル電圧及びリアクトル電流を測定した測定信号の低周波成分を除去してスイッチング成分信号を抽出し、前記スイッチング成分信号の電力演算にて前記リアクトル高周波鉄損を算出することを特徴とする。
【0008】
本発明のリアクトル損失測定装置は、高周波のスイッチング信号によりスイッチングして電力変換を行うスイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタ用のリアクトルのリアクトル高周波鉄損を測定するリアクトル損失測定装置であって、前記リアクトルを流れるリアクトル電流から高速フーリエ変換解析してスイッチング周波数を算出し、該スイッチング周波数からスイッチング周期を算出し、前記スイッチング周期に基づいて
前記リアクトルのリアクトル電圧及びリアクトル電流を測定した測定信号の低周波成分を除去してスイッチング成分信号を抽出し、前記スイッチング成分信号の電力演算にて前記リアクトル高周波鉄損を算出することを特徴とする。
本発明の別のリアクトル損失測定装置は、高周波のスイッチング信号によりスイッチングして電力変換を行うスイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタ用のリアクトルのリアクトル高周波鉄損を測定するリアクトル損失測定装置であって、前記リアクトルのリアクトル電圧及びリアクトル電流を測定して測定信号とし、前記測定信号の時間を中心とし、前記スイッチング信号の前後1/2スイッチング周期又は前記前後1/2スイッチング周期の整数倍の平均値を算出し、該平均値を前記測定信号から減算してスイッチング成分信号を算出し、前記スイッチング成分信号の電力演算にて前記リアクトル高周波鉄損を測定することを特徴とする。
【0009】
本発明の波形測定装置は、前記リアクトル損失測定装置の演算機能を有するオシロスコープ等の波形測定用の装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リアクトル電圧及びリアクトル電流を測定した測定信号の低周波成分を除去し、スイッチング成分信号の電力演算にてリアクトル高周波鉄損を算出しているので、2次測定巻線の追加が不要で、高周波鉄損を精度良く測定できる。しかも、スイッチング成分信号の抽出時に、低周波成分を除去しているので、銅損による影響を除去できると共に、計測誤差変動の対策にも有効である。更に、専用回路が不要で、実機運転状態にて測定可能であるため、三相インバータ、単相インバータ、DC/DCコンバータやPFC回路等のリアクトル損失測定への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1におけるスイッチング電源装置(例えば、三相インバータ)の構成例を示す回路図
【
図2】
図1中のスイッチング周波数高周波成分抽出部45の構成例を示す機能ブロック図
【
図3】
図1中の鉄損電力演算部47の構成例を示す機能ブロック図
【
図4】
図1中のスイッチング周波数算出部43におけるスイッチング周波数算出方法を示す波形図
【
図5】
図2のスイッチング周波数高周波成分抽出機能を説明するための波形図
【
図7】本発明の実施例2におけるスイッチング周波数高周波成分抽出部45の構成例を示す機能ブロック図
【
図8】本発明の実施例3におけるスイッチング周波数高周波成分抽出部45の構成例を示す機能ブロック図
【
図12】測定対象回路としてリアクトル単品の構成例を示す回路図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0013】
(実施例1の構成)
図1(a),(b)は、本発明の実施例1におけるスイッチング電源装置(例えば、三相インバータ)の構成例を示す回路図であり、同図(a)は三相インバータの全体図、及び同図(b)はその(a)中のリアクトル損失測定装置の図である。
【0014】
図1(a)において、DC電源1には、三相のDC/AC変換を行う三相インバータ2が接続され、その三相インバータ2から出力される三相AC電力が、負荷3に供給されるようになっている。なお、三相インバータ2の出力側には、負荷3に代えて、系統電源を接続しても良い。
【0015】
三相インバータ2は、DC電源1から供給されるDC電力を三相AC電力に変換するスイッチング回路10を有し、そのスイッチング回路10の出力側に、出力フィルタ20を介して、負荷3が接続されている。スイッチング回路10は、図示しない制御部から供給される高周波のスイッチング信号(例えば、複数の駆動パルス)S1~S6によりオン/オフ動作する複数のスイッチ11~16を有し、それらがブリッジ接続されている。各スイッチ11~16は、SiCデバイス、GaNデバイス等の次世代デバイス(例えば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)等の半導体素子)により構成されている。各スイッチ11~16には、帰還用のダイオード11a~16aがそれぞれ逆並列に接続されている。出力フィルタ20は、三相のリアクトル21~23と、それに分岐接続された三相のコンデンサ24~26と、からなるLCフィルタにより構成されている。リアクトル21には、リアクトル損失測定装置30が接続されている。
【0016】
リアクトル損失測定装置30は、リアクトル21のリアクトル高周波鉄損を測定する装置であり、演算機能を有するオシロスコープ等の波形測定装置により構成されている。このリアクトル損失測定装置30は、リアクトル21の両端に印加されるリアクトル電圧vlを測定する電圧計測器31と、リアクトル21に流れるリアクトル電流ilを測定する電流計測器32と、を有している。電圧計測器31は、例えば、オシロスコープ用の電圧プローブ等により構成されている。電流計測器32は、例えば、オシロスコープ用の電流プローブや、シャント抵抗計測回路等により構成されている。電圧計測器31で測定されたリアクトル電圧vlの測定信号(例えば、電圧測定信号)S31と、電流計測器32で測定されたリアクトル電流ilの測定信号(例えば、電流測定信号)S32と、は計測記録装置33へ与えられる。計測記録装置33は、入力された電圧測定信号S31及び電流測定信号S32を記録する装置であり、オシロスコープ等で構成され、その出力側に、演算装置34が接続されている。演算装置34は、演算によりリアクトル高周波鉄損を求める装置であり、例えば、オシロスコープ内の演算機能や、パーソナルコンピュータ等により、構成されている。
【0017】
図1(b)には、
図1(a)の計測記録装置33及び演算装置34により構成される測定装置本体40の機能ブロック図が示されている。
測定装置本体40は、電圧測定信号S31の低周波成分を除去してスイッチング成分信号(例えば、スイッチング成分電圧信号)S45を抽出すると共に、電流測定信号S32の低周波成分を除去してスイッチング成分信号(例えば、スイッチング成分電流信号)S46を抽出し、それらのスイッチング成分電圧信号S45及びスイッチング成分電流信号S46の電力演算(=S45×S46)にてリアクトル高周波鉄損S47,S48を測定等するものである。この測定装置本体40は、電圧計測器31で測定された電圧測定信号S31を入力する信号移相処理部41と、電流計測器32で測定された電流測定信号S32を入力する信号移相処理部42及びスイッチング周波数算出部43と、を有している。
【0018】
信号移相処理部41は、移相パラメータps1に基づき、入力された電圧測定信号S31の位相を変化させ、電流測定信号S32の位相に一致させるような処理を行って電圧信号S41を出力するものである。信号移相処理部42は、移相パラメータps2に基づき、入力された電流測定信号S32の位相を変化させ、電圧測定信号S31の位相に一致させるような処理を行って電流信号S42を出力するものである。2つの信号移相処理部41,42は、電圧信号S41と電流信号S42との位相を一致させるために、例えば、その電圧信号S41と電流信号S42とのいずれか一方の位相を零にしている。スイッチング周波数算出部43は、入力された電流測定信号S32を、高速フーリエ変換(以下「FFT」という。)解析して、スイッチング周波数fswを算出するものであり、この出力側に、スイッチング周期算出部44が接続されている。スイッチング周期算出部44は、1/fswから、スイッチング周期Tswを算出するものである。
【0019】
信号移相処理部41,42には、スイッチング周波数高周波成分抽出部45,46がそれぞれ接続されている。一方のスイッチング周波数高周波成分抽出部45は、スイッチング周期Tswに基づき、信号移相処理部41から出力された電圧信号S41から低周波成分を除去し、スイッチング周波数高周波成分を抽出して、スイッチング成分信号(例えば、スイッチング成分電圧信号)S45を出力するものであり、この出力側に、鉄損電力演算部47,48が接続されている。他方のスイッチング周波数高周波成分抽出部46は、スイッチング周期Tswに基づき、信号移相処理部42から出力された電流信号S42から、低周波成分を除去し、スイッチング周波数高周波成分を抽出して、スイッチング成分信号(例えば、スイッチング成分電流信号)S46を出力するものであり、この出力側に、鉄損電力演算部47,48が接続されている。
【0020】
一方の鉄損電力演算部47は、スイッチング周期Tswに基づき、スイッチング成分電圧信号S45とスイッチング成分電流信号S46との電力演算(=S45×S46)にてリアクトル高周波鉄損S47を算出するものであり、この出力側に、演算結果記録部49が接続されている。他方の鉄損電力演算部48は、交流周期Tacに基づき、スイッチング成分電圧信号S45とスイッチング成分電流信号S46との電力演算(=S45×S46)にてリアクトル高周波鉄損S48を算出するものであり、この出力側に、演算結果記録部49が接続されている。演算結果記録部49は、算出されたリアクトル高周波鉄損S47,S48を記録するメモリやレジスタ等で構成されている。
【0021】
図2は、
図1中のスイッチング周波数高周波成分抽出部45の構成例を示す機能ブロック図である。
スイッチング周波数高周波成分抽出部45は、遅延処理部45a、ローパスフィルタ45b、及び減算器45cを有している。そして、入力される電圧信号S41は、遅延処理部45aにより、ローパスフィルタ時定数に相当の遅延処理が行われると共に、ローパスフィルタ45bにより、低周波成分が抽出され、減算器45cにより、その遅延処理結果から低周波成分が減算され、スイッチング成分電圧信号S45が出力される構成になっている。
【0022】
図1中の他のスイッチング周波数高周波成分抽出部46は、スイッチング周波数高周波成分抽出部45と略同様に、入力される電流信号S42が、遅延処理部により、ローパスフィルタ時定数に相当の遅延処理が行われると共に、ローパスフィルタにより、低周波成分が抽出され、減算器により、その遅延処理結果から低周波成分が減算され、スイッチング成分電流信号S46が出力される構成になっている。
【0023】
図3は、
図1中の鉄損電力演算部47の構成例を示す機能ブロック図である。
鉄損電力演算部47は、乗算器47a及び指定周期Tの平均演算部47bを有している。そして、入力されるスイッチング成分電圧信号S45である電圧信号V(t)と、入力されるスイッチング成分電流信号S46である電流信号i(t)と、が乗算器47aにより乗算され、その乗算結果に対して、指定周期Tの平均演算部47bにより、次式(1)の演算が行われ、リアクトル高周波鉄損S47である電力値Pが算出される構成になっている。
ここで、指定周期Tの平均演算部47bにおいて、そのTは計算期間(即ち、スイッチング周期Tsw又はその倍数)である。
【数1】
【0024】
図1中の他の鉄損電力演算部48は、鉄損電力演算部47と略同様に、入力されるスイッチング成分電圧信号S45である電圧信号V(t)と、入力されるスイッチング成分電流信号S46である電流信号i(t)と、が乗算器により乗算され、その乗算結果に対して、指定周期Tの平均演算部により、上記式(1)の演算が行われ、リアクトル高周波鉄損S48である電力値Pが算出される構成になっている。
ここで、指定周期Tの平均演算部において、そのTは計算期間(即ち、交流周期Tac又はその倍数)である。
【0025】
(実施例1の三相インバータの動作)
図1(a)において、図示しない制御部により、例えば、パルス幅変調(以下「PWM」という。)によって定電圧制御用の三相の駆動パルスS1~S6が生成され、スイッチング回路10内の複数のスイッチ11~16が交互にオン/オフ動作する。すると、DC電源1から供給されたDC電圧が、スイッチングされて三相AC電圧に変換される。変換された三相AC電圧は、出力フィルタ20内のリアクトル21~22及びコンデンサ24~26により、高調波成分が除去され、負荷3へ供給される。負荷3へ供給される三相出力電圧が変動すると、制御部により、その変動が抑制されるように、駆動パルスS1~S6のパルス幅が変化し、三相出力電圧が目標電圧に維持される。
実回路環境において、リアクトル損失測定装置30により、リアクトル21の高周波鉄損が、以下のようにして測定される。
【0026】
(実施例1のリアクトル損失算出方法)
図4(a),(b)は、
図1中のスイッチング周波数算出部43におけるスイッチング周波数算出方法を示す波形図であり、同図(a)はリアクトル電流ilにおける電流測定信号S32のFFT解析を示す波形図、及び同図(b)はリアクトル電圧vlにおける電圧測定信号S31のFFT解析を示す波形図である。
図5(a),(b)は、
図2のスイッチング周波数高周波成分抽出機能を説明するための波形図である。更に、
図6は、
図5の波形の拡大図である。
【0027】
三相インバータ2が動作すると、リアクトル21の両端にリアクトル電圧vlが印加されると共に、そのリアクトル21にリアクトル電流ilが流れる。
図1に示す電圧計測器31により、リアクトル電圧vlが測定され、電流計測器32により、リアクトル電流ilが測定される。電圧計測器31で測定された電圧測定信号S31は、測定装置本体40内の信号移相処理部41へ入力され、更に、電流計測器32で測定された電流測定信号S32が、信号移相処理部42及びスイッチング周波数算出部43へ入力される。
【0028】
一方の信号移相処理部41は、位相パラメータps1に基づき、入力された電圧測定信号S31に対して、電流測定信号S32との位相を一致させるような位相処理を行い、その処理結果の電圧信号S41を出力して一方のスイッチング周波数高周波成分抽出部45へ入力する。他方の信号移相処理部42は、位相パラメータps2に基づき、入力された電流測定信号S32に対して、電圧測定信号S31との位相を一致させるような位相処理を行い、その処理結果の電流信号S42を出力して他方のスイッチング周波数高周波成分抽出部46へ入力する。同時に、スイッチング周波数算出部43は、入力された電流測定信号S32に対し、FFT解析を行ってスイッチング周波数fswを算出し、そのスイッチング周波数fswをスイッチング周期算出部44へ入力する。スイッチング周期算出部44は、スイッチング周波数fswの逆数よりスイッチング周期Tsw(=1/fsw)を算出する。
【0029】
図4(a)に、リアクトル電流ilにおける電流測定信号S32のFFT解析結果が示されている。2つの周波数f1,f2にてリアクトル電流ilの電流測定信号S32が最大になっていることが分かる。
図4(b)に示されている、リアクトル電圧vlにおける電圧測定信号S31のFFT解析結果では、2つの周波数f1,f2にてリアクトル電圧vlの電圧測定信号S31が最大になっており、その形状が、リアクトル電流ilの電流測定信号S32と殆ど変わらない。そのため、
図1(b)において、スイッチング周波数算出部43及びスイッチング周期演算部44は、電圧測定信号S31を入力する回路構成に変更しても良い。
【0030】
一方のスイッチング周波数高周波成分抽出部45は、スイッチング周期Tswに基づき、入力された電圧信号S41のスイッチング周波数低周波成分を除去し、スイッチング周波数高周波成分を抽出してスイッチング成分電圧信号S45を算出し、そのスイッチング成分電圧信号S45を、2つの鉄損電力演算部47,48へ入力する。スイッチング周波数高周波成分抽出部45は、例えば、
図2に示されるように、電圧信号S41に対して、遅延処理部45aにより、ローパスフィルタ時定数に相当の遅延処理が行われると共に、ローパスフィルタ45bにより、その電圧信号S41の低周波成分が抽出される。そして、減算器45cにより、遅延処理部45aの処理結果から、抽出された低周波成分が減算され、スイッチング成分電圧信号S45が算出される。このスイッチング周波数高周波成分抽出部45の動作波形が、
図5及び
図6に示されている。
【0031】
同時に、他方のスイッチング周波数高周波成分抽出部46でも、スイッチング周期Tswに基づき、入力された電流信号S42のスイッチング周波数低周波成分を除去し、スイッチング周波数高周波成分を抽出してスイッチング成分電流信号S46を算出し、そのスイッチング成分電流信号S46を、2つの鉄損電力演算部47,48へ入力する。
【0032】
一方の鉄損電力演算部47は、入力されたスイッチング成分電圧信号S45及びスイッチング成分電流信号S46に対し、スイッチング周期Tswに基づいて電力演算(=S45×S46)を行い、リアクトル高周波鉄損S47を算出し、そのリアクトル高周波鉄損S47を演算結果記録部49へ入力する。鉄損電力演算部47は、例えば、
図3に示されるように、乗算器47aにより、入力されたスイッチング成分電圧信号S45である電圧信号V(t)とスイッチング成分電流信号S46である電流信号i(t)とが乗算され、指定周期Tの平均演算部47bにより、その乗算結果に対して、式(1)に示されるような指定周期Tの平均演算が行われ、リアクトル高周波鉄損S47である電力値Pが算出される。
【0033】
同時に、他方の鉄損電力演算部48でも、入力されたスイッチング成分電圧信号S45及びスイッチング成分電流信号S46に対し、交流周期Tacに基づいて電力演算(=S45×S46)を行い、リアクトル高周波鉄損S48を算出し、そのリアクトル高周波鉄損S48を演算結果記録部49へ入力する。鉄損電力演算部48は、
図3の鉄損電力演算部47と同様に、例えば、乗算器により、入力されたスイッチング成分電圧信号S45である電圧信号V(t)とスイッチング成分電流信号S46である電流信号i(t)とが乗算され、指定周期Tの平均演算部により、その乗算結果に対して、式(1)に示されるような指定周期Tの平均演算が行われ、リアクトル高周波鉄損S48である電力値Pが算出される。
演算結果記録部49は、入力された2つのリアクトル高周波鉄損S47,S48を記録し、リアクトル損失測定処理を終了する。
【0034】
(実施例1の効果)
本実施例1によれば、次の(1)~(4)のような効果がある。
(1) 電圧計測器31で測定したリアクトル電圧vlの電圧測定信号S31と、電流計測器32で測定したリアクトル電流ilの電流測定信号S32と、をスイッチング周波数高周波成分抽出部45,46にて低周波成分を除去した後、鉄損電力演算部47,48により、スイッチング成分電圧信号S45及びスイッチング成分電流信号S46の電力演算にてリアクトル高周波鉄損S47,S48を算出している。そのため、2次測定巻線の追加が不要で、高周波鉄損を精度良く測定できる。
【0035】
(2) スイッチング成分信号の抽出時に、低周波成分を除去しているので、銅損による影響を除去できる。
即ち、リアクトル21~23の銅損は、低周波成分による部分と高周波成分による損失に分類される。リアクトル21~23に流れる高周波成分電流による銅損は小さく、例えば、鉄損の1%程度以下であるので、それを誤差として無視できる。これに対して、低周波成分電流による銅損は大きいが、これをスイッチング周波数高周波成分抽出部45,46のフィルタ処理で、低周波成分を除去しているので、銅損による影響を除去できる。従って、2次測定巻線の追加が不要で、高周波鉄損を精度良く測定できる。
【0036】
(3) スイッチング成分信号の抽出時に、低周波成分を除去しているので、計測誤差変動の対策にも有効である。
即ち、リアクトル損失測定装置30の測定回路を、例えば、オシロスコープ、電圧プローブ及び電流プローブで構成した場合、その測定回路の誤差変動は、スイッチング周波数fswより低い周波数成分と、スイッチング周波数fsw及び関連高調波成分と、スイッチング周波数fswより高い周波数成分と、に分類される。この中で、高い周波数成分は、鉄損電力演算部47,48における電力演算の積分処理で除去できる。スイッチング周波数成分は、電圧プローブ及び電流プローブの特性に依存している。そのため、低周波成分を除去することにより、銅損による影響を除去できると共に、測定回路の誤差対策にも有効である。
【0037】
(4) 専用回路が不要で、実機運転状態にて測定可能であるため、三相インバータ、単相インバータ、DC/DCコンバータ、PFC回路等のスイッチング電源装置におけるリアクトル損失測定への適用が可能である。
【実施例2】
【0038】
図7は、本発明の実施例2におけるスイッチング周波数高周波成分抽出部45の構成例を示す機能ブロック図である。
本実施例2のスイッチング周波数高周波成分抽出部45は、入力された電圧信号S41に対してスイッチング周期整数倍期間の平均演算を行う平均演算部45dと、減算器45cと、により構成されている。このスイッチング周波数高周波成分抽出部45では、平均演算部45dにより、入力された電圧信号S41に対して、次式(2)のスイッチング周期整数倍期間の平均演算が行われる。
t-Tsw/2*N~t+Tsw/2*N (2)
但し、Tsw;スイッチング周期
N=1,2,・・・
そして、減算器45cにより、入力された電圧信号S41から、式(2)の演算結果が減算され、スイッチン成分電圧信号S45が出力される。
【0039】
他のスイッチング周波数高周波成分抽出部46も略同様に、入力された電流信号S42に対してスイッチング周期整数倍期間の平均演算を行う平均演算部と、減算器と、により構成されている。このスイッチング周波数高周波成分抽出部46では、平均演算部により、入力された電流信号S42に対して、スイッチング周期整数倍期間の平均演算が行われ、減算器により、入力された電流信号S42から、平均演算部の演算結果が減算され、スイッチン成分電流信号S46が出力される。
【0040】
このようなスイッチング周波数高周波成分抽出部45,46を有する測定装置本体40であっても、実施例1と略同様の作用効果を奏することができる。
【実施例3】
【0041】
図8は、本発明の実施例3におけるスイッチング周波数高周波成分抽出部45の構成例を示す機能ブロック図である。
本実施例3のスイッチング周波数高周波成分抽出部45は、入力された電圧信号S41に対して遅延処理を行う遅延処理部45eと、入力された電圧信号S41に対してスイッチング周期整数倍期間の平均演算を行う平均演算部45fと、減算器45cと、により構成されている。このスイッチング周波数高周波成分抽出部45では、遅延処理部45eにより、入力された電圧信号S41に対して、次式(3)の遅延処理が行われる。
Tsw/2*N (3)
但し、Tsw;スイッチング周期
N=1,2,・・・
【0042】
同時に、平均演算部45fにより、入力された電圧信号S41に対して、次式(4)のスイッチング周期整数倍期間の平均演算が行われる。
t-Tsw/2*N~t (4)
但し、Tsw;スイッチング周期
N=1,2,・・・
そして、減算器45cにより、遅延処理部45eの処理結果から、平均演算部45fの演算結果が減算され、スイッチング成分電圧信号S45が出力される。
【0043】
他のスイッチング周波数高周波成分抽出部46も略同様に、入力された電流信号S42に対して遅延処理を行う遅延処理部と、入力された電流信号S42に対してスイッチング周期整数倍期間の平均演算を行う平均演算部と、減算器と、により構成されている。このスイッチング周波数高周波成分抽出部46では、遅延処理部により、入力された電流信号S42に対して、遅延処理が行われる。同時に、平均演算部により、入力された電流信号S42に対して、スイッチング周期整数倍期間の平均演算が行われる。そして、減算器により、遅延処理部の処理結果から、平均演算部の演算結果が減算され、スイッチング成分電流信号S46が出力される。
【0044】
このようなスイッチング周波数高周波成分抽出部45,46を有する測定装置本体40であっても、実施例1と略同様の作用効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
上記実施例1~3では、測定対象回路として三相インバータについて説明したが、本発明のリアクトル損失測定装置30は、測定対象回路として単相インバータ、三相PFC回路、単相PFC回路等の種々の回路に適用できる。
【0046】
例えば、
図9は、単相インバータ2Aの構成例を示す回路図である。この単相インバータ2Aでは、DC電源1のDC電力を、複数のスイッチ11~14を有するスイッチング回路10AによりスイッチングしてAC電力に変換する。そして、スイッチング回路10Aの出力側に、リアクトル21及びコンデンサ24からなる出力フィルタ20Aを介して、負荷3又は系統電源が接続されている。このような単相インバータ2Aにおいて、リアクトル21の両端に印加されるリアクトル電圧vlと、リアクトル21に流れるリアクトル電流ilと、を
図1のリアクトル損失測定装置30により測定して、リアクトル高周波鉄損を算出できる。
【0047】
図10は、三相PFC回路2Bの構成例を示す回路図である。この三相PFC回路2Bでは、三相AC電源1Bの三相AC電力を、インダクタ21~23及びコンデンサ24~26からなる入力フィルタ20Bを介して入力し、複数のスイッチ11~16からなるスイッチング回路10BによりDC電力に変換する。そして、力率が改善されたDC電力を負荷3に供給している。このような三相PFC回路2Bにおいて、リアクトル21の両端に印加されるリアクトル電圧vlと、リアクトル21に流れるリアクトル電流ilと、を
図1のリアクトル損失測定装置30により測定して、リアクトル高周波鉄損を算出できる。
【0048】
図11は、単相PFC回路2Cの構成例を示す回路図である。この単相PFC回路2Cでは、AC電源1CのAC電力を、インダクタ21及びコンデンサ24からなる入力フィルタ20Cを介して入力し、複数のスイッチ11~14からなるスイッチング回路10CによりDC電力に変換する。そして、力率が改善されたDC電力を負荷3に供給している。このような単相PFC回路2Cにおいて、リアクトル21の両端に印加されるリアクトル電圧vlと、リアクトル21に流れるリアクトル電流ilと、を
図1のリアクトル損失測定装置30により測定して、リアクトル高周波鉄損を算出できる。
【0049】
図12は、測定対象回路としてリアクトル単品の構成例を示す回路図である。2次測定巻線をリアクトル21に追加し、高周波電源1Eをそのリアクトル21に接続し、2次測定巻線の出力電圧vlと、リアクトル21に流れるリアクトル電流ilと、を
図1のリアクトル損失測定装置30により測定すれば、計測器誤差変動の対策として有効である。
【符号の説明】
【0050】
2 三相インバータ
2A 単相インバータ
2B 三相PFC回路
2C 単相PFC回路
10,10A,10B,10C スイッチング回路
11~16 スイッチ
11a~16a ダイオード
20,20A 出力フィルタ
20B,20C 入力フィルタ
21~23 リアクトル
24~26 コンデンサ
30 リアクトル損失測定装置
31 電圧計測器
32 電流計測器
33 計測記録装置
34 演算装置
40 測定装置本体
41,42 信号移相処理部
43 スイッチング周波数算出部
44 スイッチング周期算出部
45,46 スイッチング周波数高周波成分抽出部
47,48 鉄損電力演算部
49 演算結果記録部