(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】意思決定者支援システム及び意思決定者支援装置
(51)【国際特許分類】
G16H 20/00 20180101AFI20240704BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20240704BHJP
G06Q 50/22 20240101ALI20240704BHJP
G16Y 10/60 20200101ALI20240704BHJP
G16Y 20/40 20200101ALI20240704BHJP
G16Y 40/10 20200101ALI20240704BHJP
G16Y 40/20 20200101ALI20240704BHJP
G16Y 40/30 20200101ALI20240704BHJP
【FI】
G16H20/00
G06Q50/10
G06Q50/22
G16Y10/60
G16Y20/40
G16Y40/10
G16Y40/20
G16Y40/30
(21)【出願番号】P 2020185905
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹山 愛未
(72)【発明者】
【氏名】杉山 敦子
(72)【発明者】
【氏名】寺西 功一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真理子
【審査官】鹿谷 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-519303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06Q 10/00-99/00
G16Y 10/60
G16Y 20/40
G16Y 40/10
G16Y 40/20
G16Y 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患に関連する対象者の後悔に関する情報に基づいて、前記対象者の前記疾患に対する過去の医療的な意思決定に関する後悔を検知する後悔検知部と、
前記意思決定または前記疾患に関する前記対象者の行動履歴または記録を収集する収集部と、
前記後悔が検知された場合に、収集された前記行動履歴または前記記録を、前記意思決定または前記疾患と関連付けて提示する提示部と、
を備え、
前記後悔に関する情報は、前記疾患に関連する前記対象者の後悔を表す発言、検索履歴、及び記載の少なくとも1つであり、
前記後悔検知部は、前記意思決定の時点よりも後に、前記疾患に関連する前記対象者の後悔を表す発言、検索履歴、及び記載の少なくとも1つを検出した場合に、前記意思決定に関する後悔を検知する、
意思決定者支援システム。
【請求項2】
前記収集部は、前記行動履歴または前記記録を、前記対象者の前記意思決定に関わる努力に関する努力情報として収集する、
請求項1に記載の意思決定者支援システム。
【請求項3】
前記収集部によって収集される前記行動履歴または前記記録は、前記対象者の前記意思決定の結果得られたポジティブなイベントに関する情報を含む、
請求項1または2に記載の意思決定者支援システム。
【請求項4】
前記収集部は、
ポジティブイベント抽出対象期間内の前記対象者の前記意思決定の結果に基づき得られた前記行動履歴または前記記録
がポジティブなイベントか否かを
、前記対象者が選択した選択肢のメリット及び選択しなかった選択肢のデメリットを基準に判定する、
前記ポジティブイベント抽出対象期間は、前記対象者が疾患に関する意思決定をした日から現在までの期間である、
請求項3に記載の意思決定者支援システム。
【請求項5】
前記収集部は、前記過去の意思決定に関連する前記疾患または該疾患の治療の際に当該意思決定に関連して前記対象者に提示された情報を、前記努力情報として収集する、
請求項2に記載の意思決定者支援システム。
【請求項6】
前記収集部は、前記過去の意思決定に関連する前記疾患に関する通院、入院または医療行為の頻度、時間、回数または費用のいずれかまたは全てを含む情報を、前記努力情報として収集する、
請求項2に記載の意思決定者支援システム。
【請求項7】
前記提示部は、前記過去の意思決定に関連する疾病に関する通院、入院または医療行為の頻度、時間、回数または費用のいずれかまたは全てについて、前記対象者の情報と、他者の統計情報とを比較する情報を前記努力情報として提示する、
請求項2に記載の意思決定者支援システム。
【請求項8】
前記対象者の生体情報に基づいて、前記対象者のストレスを検知するストレス検知部、をさらに備え、
前記後悔検知部は、前記意思決定の時点よりも後に、前記対象者のストレスが検知され、かつ、前記疾患に関連する前記対象者の後悔を表す発言、検索履歴、または記載を検出した場合に、前記意思決定に関する後悔を検知する、
請求項
1から7のいずれか1項に記載の意思決定者支援システム。
【請求項9】
前記対象者が前記疾患の診断を受けた時期と、前記対象者が前記疾患に対する意思決定をした時期とに基づいて、前記対象者が前記疾患の治療に関して努力した努力期間を設定する設定部、をさらに備え、
前記収集部は、前記努力期間内の前記行動履歴または前記記録を、前記努力情報として収集する、
請求項2に記載の意思決定者支援システム。
【請求項10】
前記後悔検知部は、前記提示部が記行動履歴または前記記録を
提示物として提示した後に、
前記対象者のストレスが前記提示物の提示前よりも低減した場合は前記提示物によって対象者の後悔を低減する効果が得られたと判定し、前記対象者のストレスが前記提示物の提示前と変わらない、あるいは強くなった場合は前記提示物によって対象者の後悔を低減する効果が得られなかったと判定し、
前記提示部は、
前記提示物によって対象者の前記後悔
を低減する効果が得られなかった場合には、提示の態様または内容を変更して再度提示を行う、
請求項1から
9のいずれか1項に記載の意思決定者支援システム。
【請求項11】
前記対象者は、前記疾患に罹患した患者である、
請求項1から
10のいずれか1項に記載の意思決定者支援システム。
【請求項12】
前記対象者は、前記疾患に罹患した患者とは異なる、
請求項1から
10のいずれか1項に記載の意思決定者支援システム。
【請求項13】
疾患に関連する対象者の後悔に関する情報に基づいて、前記対象者の前記疾患に対する過去の医療的な意思決定に関する後悔を検知する後悔検知部と、
前記意思決定または前記疾患に関する前記対象者の行動履歴または記録を収集する収集部と、
前記後悔が検知された場合に、収集された前記行動履歴または前記記録を、前記意思決定または前記疾患と関連付けて提示する提示部と、
を備え、
前記後悔に関する情報は、前記疾患に関連する前記対象者の後悔を表す発言、検索履歴、及び記載の少なくとも1つであり、
前記後悔検知部は、前記意思決定の時点よりも後に、前記疾患に関連する前記対象者の後悔を表す発言、検索履歴、及び記載の少なくとも1つを検出した場合に、前記意思決定に関する後悔を検知する、
意思決定者支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、意思決定者支援システム及び意思決定者支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者に対する検査結果や生活習慣に関する情報等の各種データから、該患者の将来における健康状態を予測し、予測結果を該患者に提示する技術が知られている。また、過去の情報を基にインフォームドコンセント時の医療者の説明を補足して、被説明者である患者に提示する技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/204233号
【文献】特開2015-138457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、疾患に関する過去の意思決定に関して、意思決定者が現在感じている後悔を低減することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る意思決定者支援システムは、後悔検知部と、収集部と、提示部とを備える。後悔検知部は、疾患に関連する対象者の後悔に関する情報に基づいて、対象者の疾患に対する過去の医療的な意思決定に関する後悔を検知する。収集部は、意思決定または疾患に関する対象者の行動履歴または記録を収集する。提示部は、後悔が検知された場合に、収集された行動履歴または記録を、意思決定または疾患と関連付けて提示する。後悔に関する情報は、疾患に関連する対象者の後悔を表す発言、検索履歴、及び記載の少なくとも1つである。後悔検知部は、意思決定の時点よりも後に、疾患に関連する対象者の後悔を表す発言、検索履歴、及び記載の少なくとも1つを検出した場合に、意思決定に関する後悔を検知する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る意思決定者支援システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る努力期間及びポジティブイベント抽出対象期間の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る提示物の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る意思決定者支援処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、第2の実施形態に係る意思決定者支援システムの構成の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態に係る意思決定者支援処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、変形例4に係る提示物の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、意思決定者支援システム及び意思決定者支援装置の実施形態について詳細に説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る意思決定者支援システムS1の構成の一例を示す図である。
図1に示すように、意思決定者支援システムS1は、意思決定者支援装置10aと、ユーザ端末20aとを備える。意思決定者支援装置10aと、ユーザ端末20aとは、例えばインターネット等のネットワークによって接続する。
【0009】
ユーザ端末20aは、ユーザによって使用される情報端末であり、例えば、タブレット端末、スマートフォン、またはPC等である。
【0010】
本実施形態においては、意思決定者支援システムS1によって支援される意思決定者、疾患に罹患した患者、及びユーザ端末20aのユーザが同一人物である場合について説明する。また、意思決定者、患者、及びユーザは、本実施形態における対象者の一例である。
【0011】
また、意思決定者支援装置10aは、意思決定者支援システムS1外の種々の情報処理装置とインターネット等のネットワークによって接続する。一例として、本実施形態では、意思決定者支援装置10aは、電子カルテシステム30a,30b、及び公共施設のシステムに含まれるサーバ装置と接続する。電子カルテシステム30aはユーザが医療的処置を受けたA病院、電子カルテシステム30bはユーザがセカンドオピニオンを受けたB病院の電子カルテを管理する。また、公共施設のシステムの一例として、
図1では図書館の本の貸し出しを管理する図書管理システム400を挙げる。また、意思決定者支援装置10aは、さらに各種の情報処理と接続しても良い。
【0012】
意思決定者支援装置10aは、例えばPC(Personal Computer)またはサーバ装置等のコンピュータであるものとする。意思決定者支援装置10aは、クラウド環境に設けられても良いし、病院等の医療機関またはヘルスケアサービスを提供する事業者の施設等に設置されても良い。
【0013】
意思決定者支援装置10aは、NW(network)インタフェース110と、記憶回路120と、入力インタフェース130と、ディスプレイ140と、処理回路150とを備える。
【0014】
NWインタフェース110は、処理回路150に接続されており、意思決定者支援装置10aと、ユーザ端末20a、電子カルテシステム30a,30b、および図書管理システム400との間で行われる各種データの伝送および通信を制御する。NWインタフェース110は、ネットワークカードやネットワークアダプタ、NIC(Network Interface Controller)等によって実現される。
【0015】
記憶回路120は、処理回路150に接続されており、処理回路150で使用される各種の情報およびプログラムを記憶する。
【0016】
記憶回路120は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。記憶回路120は、記憶部ともいう。
【0017】
入力インタフェース130は、トラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、及び音声入力回路等によって実現される。入力インタフェース130は、処理回路150に接続されており、ユーザから受け取った入力操作を電気信号へ変換し処理回路150へと出力する。
【0018】
ディスプレイ140は、液晶ディスプレイや有機EL(Organic Electro-Luminescence: OEL)ディスプレイ等である。なお、入力インタフェース130とディスプレイ140とは統合しても良い。例えば、入力インタフェース130とディスプレイ140とは、タッチパネルによって実現されても良い。ディスプレイ140は、表示部の一例である。
【0019】
処理回路150は、記憶回路120からプログラムを読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。本実施形態の処理回路150は、特定機能151、後悔検知機能152、期間設定機能153、収集機能154、努力情報抽出機能155、ポジティブイベント抽出機能156、生成機能157、及び送信機能158を備える。特定機能151は、特定部の一例である。後悔検知機能152は、後悔検知部の一例である。期間設定機能153は、設定部の一例である。収集機能154は、収集部の一例である。努力情報抽出機能155は、努力情報抽出部の一例である。ポジティブイベント抽出機能156は、ポジティブイベント抽出部の一例である。生成機能157は、生成部の一例である。送信機能158は、送信部の一例である。
【0020】
ここで、例えば、処理回路150の構成要素である特定機能151、後悔検知機能152、期間設定機能153、収集機能154、努力情報抽出機能155、ポジティブイベント抽出機能156、生成機能157、及び送信機能158の各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路120に記憶されている。処理回路150は、プロセッサである。例えば、処理回路150は、プログラムを記憶回路120から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路150は、
図1の処理回路150内に示された各機能を有することとなる。なお、
図1においては単一のプロセッサにて特定機能151、後悔検知機能152、期間設定機能153、収集機能154、努力情報抽出機能155、ポジティブイベント抽出機能156、生成機能157、及び送信機能158にて行われる処理機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路150を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。また、
図1においては単一の記憶回路120が各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明したが、複数の記憶回路を分散して配置して、処理回路150は個別の記憶回路から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。
【0021】
特定機能151は、対象者が罹患した疾患、該疾患に関する対象者の意思決定の内容及び時期を、対象者が受診したA病院及びB病院の電子カルテシステム30a,30bから取得した対象者の電子カルテ情報に基づいて特定する。例えば、電子カルテシステム30a,30bから収集でき、かつ意思決定の発生を推定可能な情報は、治療方法、処置方法等が考えられる。例えば、後悔の対象である治療方法に関する情報、及び、もし対象者が術後に合併症を発症していたならば、「抗生剤投与」等の用語を抽出可能である。
【0022】
なお、対象者が罹患した疾患、該疾患に関する対象者の意思決定の内容及び時期の特定の手法はこれに限定されるものではなく、例えばユーザ自身がユーザ端末20aにこれらの内容を登録しても良い。また、電子カルテシステム30a,30bのいずれか一方から情報を取得しても良い。
【0023】
具体的には、対象者が、胃がんを罹患していると診断された場合を例として説明する。対象者は、最初に医師から治療法として“胃の2分の1切除”または“胃の全摘出”を提案され、その後、セカンドオピニオンとして他の医師から“ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術:Endoscopic Submucosal Dissection)”という治療法を提示された。その後、対象者はこれら3つの選択肢のうち、“ESD”を選択した。この場合、対象者の疾患は“胃がん”、対象者の意思決定は“ESDを選択したこと”となる。また、意思決定の時期は、例えば、対象者が選択する治療法を医師に伝えた日とする。特定機能151は、電子カルテシステム30a,30bから取得した対象者の電子カルテ情報に基づいて、これらの情報を特定する。
【0024】
なお、意思決定は、治療法を選択することに限定されない。例えば、“治療を受けない”と決めることも意思決定である。また、疾患に関する意思決定であれば、治療法の選択だけではなく、医療機関の選択や入退院の選択等も意思決定の対象に含まれる。
【0025】
特定機能151は、特定した対象者の疾患、対象者の意思決定の内容、及び対象者の意思決定の時期を、後悔検知機能152、及び期間設定機能153に送出する。
【0026】
後悔検知機能152は、疾患に関連する対象者の後悔に関する情報に基づいて、対象者の疾患に対する過去の医療的な意思決定に関する後悔を検知する。
【0027】
以下、疾患に関連する対象者の後悔に関する情報を後悔情報という。後悔情報は、対象者が罹患した疾患に関連する、対象者の後悔を表す発言、検索履歴、または記載である。記載とは、例えば、対象者によってSNS(Social Networking Service)またはブログ等へ書き込まれた文章、および対象者が送信した電子メールまたはメッセージアプリケーション中の文章等である。また、対象者が電話または口頭で発した音声が記録された場合には、後悔情報は、該音声のうち、疾患に関連する後悔に関する内容を含んでも良い。なお、以下、本実施形態において“文章”という場合、文字で記載されたものと音声で発せられたもののいずれでも良いものとする。
【0028】
例えば、胃がんの治療方法の選択を後悔しているユーザがとる行動は例えば、(1)スマートフォンやPC等を介してインターネットで「胃がん 内視鏡手術 再発」、「胃がん 治療後の経過 ブログ」、「胃がん 治療方法」など胃がん関連の検索を行う。(2)ブログやSNSに不安な気持ちを綴った日記を投稿する。(3)家族や親戚、医師、看護師等に話す、相談する。(4)Siri(登録商標)等の音声認識機能付きAIアシスタント機器に対して呟く、という行動を含む。
【0029】
後悔検知機能152は、(1)または(2)についてはスマートフォンのローカルデータやインターネット上にあるサーバから医療用語等の臨床に関連する情報を抽出する。また、(3)については対象者の使用するAIアシスタント機器またはユーザ端末20a等から音声データを解析して同様の情報を抽出する。
【0030】
文章が疾患に関連する対象者の後悔に関するとは、例えば、文章が疾患に関する対象者の過去の意思決定を意味する単語と、該意思決定を否定する意味の単語とを含むことをいう。なお、“過去の意思決定を意味する単語”及び“意思決定を否定する意味の単語”は、直接的な言及に限らず、間接的な言及を含む。例えば、意思決定に対して不安または疑問を抱いているという意味の文章、および選択しなかった選択肢の方を肯定する内容の文章も、間接的に対象者の後悔を表すものとする。
【0031】
例えば、対象者の疾患が“胃がん”、対象者の意思決定が“ESDを選択したこと”であるとする。この場合対象者が“ESDを選択したこと”を否定する意味の文章は、例えば“ESD”を直接的または間接的に意味する単語と“ESDを選択したこと”を直接的または間接的に否定する単語とを含む。例えば、“ESDを選択しなければ良かった”、“この治療法で良かったのかな”、または“なぜESDを選択したのだろう”等の文章が後悔情報となる。また、選択しなかった選択肢である“胃の2分の1切除”または“胃の全摘出”を肯定する文章も、間接的に意思決定を否定しているため、後悔情報となる。また、対象者の意思決定と否定的な単語とを含む検索履歴も、後悔情報に含まれる。例えば、検索履歴が“ESD”と、“死亡率”、“後悔”または“再発”等の否定的な単語との組み合わせの検索ワードを含む場合、該検索履歴は後悔情報となる。
【0032】
本実施形態の後悔検知機能152は、対象者の意思決定の時点よりも後に、疾患に関連する対象者の後悔を表す発言、検索履歴、または記載を検出した場合に、該意思決定に関する後悔を検知する。
【0033】
より詳細には、後悔検知機能152は、対象者の意思決定の時点よりも後に、対象者のストレスが検知され、かつ、疾患に関連する対象者の後悔を表す発言、検索履歴、または記載を検出した場合に、意思決定に関する後悔を検知する。
【0034】
あるいは、後悔検知機能152は、特定機能151から取得した情報と、医療関連の履歴情報と比較してユーザの後悔発生を判定しても良い。例えば、後悔検知機能152は、ユーザによって検索システムで複数回検索された医療用語に対する、電子カルテシステム30a,30bから抽出された疾患名または処置名等の医療用語との関連量が一定以上になった場合、対象者の治療方法選択の意思決定に対して後悔が生じていると判定しても良い。
【0035】
本実施形態の後悔検知機能152は、対象者のストレスの検知結果および後悔情報を、NWインタフェース110を介してユーザ端末20aから取得する。なお、後悔検知機能152は、ユーザ端末20a以外の情報処理装置またはウェアラブル端末等から、対象者のストレスの検知結果または後悔情報を取得しても良い。
【0036】
後悔検知機能152は、後悔を検知した場合、後悔を検知したことを期間設定機能153に送出する。
【0037】
また、後悔検知機能152は、後述のユーザ端末20aの提示機能254によって対象者に提示物が提示された場合に、対象者の後悔が低減したか否かを判定する。後悔検知機能152は、対象者の後悔が低減していないと判定した場合は、後述の生成機能157に後悔が継続していることを通知する。
【0038】
期間設定機能153は、対象者が疾患の診断を受けた時期と、対象者が該疾患に対する意思決定を行った時期とに基づいて、対象者が疾患の治療や処置等の意思決定に関して努力した努力期間を設定する。一例として、努力期間は、対象者が疾患の診断を受けた日から対象者が意思決定をした日までの期間とする。
【0039】
また、期間設定機能153は、対象者の疾患に関する意思決定の時期に基づいて、ポジティブイベント抽出対象期間を設定する。一例として、ポジティブイベント抽出対象期間は、対象者が疾患に関する意思決定をした日から現在までの期間とする。
【0040】
図2は、第1の実施形態に係る努力期間及びポジティブイベント抽出対象期間の一例を示す図である。
図2に示す例では、対象者は2014年7月18日に胃がんの診断を受け、2014年8月5日にESDを選択する意思決定をし、ESDによる治療を受けた後、2014年9月24日に退院している。現在の日付は2015年5月24日であり、対象者は退院後のフォローアップ期間中である。
【0041】
図2に示すように、対象者が2014年7月18日に胃がんの診断を受け、2014年8月5日に意思決定をした場合、“2014年7月18日~2014年8月5日”が努力期間となる。また、仮に対象者が2014年8月5日にESDを選択する意思決定をし、現在の日付が2015年5月24日である場合、“2014年8月5日~015年5月24日”がポジティブイベント抽出対象期間となる。
【0042】
なお、努力期間及びポジティブイベント抽出対象期間は上述の例に限定されない。
【0043】
また、努力期間は、換言すれば、ユーザが意思決定に向き合った期間である。ポジティブイベント抽出対象期間は、意思決定後から後悔が発生するまでの期間である。これらの期間はそれぞれ、ユーザの努力行動又は選択肢がもたらした結果をデータとして抽出できる。例えば、努力期間は、電子カルテに診断された疾患の入力があった日から、対象者が医師等に治療手法の選択を伝えた日まで、等となり得る。また、ポジティブイベント抽出対象期間は、対象者のブログの治療方法決定に関する事項が記載されている記事の投稿日から退院情報が記載されている記事の投稿日または現時点まで、等となり得る。
【0044】
期間設定機能153は、設定した努力期間及びポジティブイベント抽出対象期間を収集機能154に送出する。
【0045】
図1に戻り、収集機能154は、努力情報抽出機能155及びポジティブイベント抽出機能156を備える。
【0046】
努力情報抽出機能155及びポジティブイベント抽出機能156は、意思決定または疾患に関する対象者の行動履歴または記録を収集する。
【0047】
対象者の行動履歴または記録は、対象者によってSNS等へ書き込まれた文章、対象者が送信した電子メールまたはメッセージアプリケーション中の文章、対象者が電話または口頭で発した音声、対象者の医療的な記録、対象者の位置情報の履歴、及び図書館等の公共施設の利用記録等である。努力情報抽出機能155及びポジティブイベント抽出機能156は、これらの情報を、ユーザ端末20a、他のサーバ装置、電子カルテシステム30a,30b、対象者の使用するAIアシスタント機器、または図書管理システム400等から取得する。例えば、努力情報抽出機能155は、対象者が電話または口頭で発した音声を、対象者の使用するAIアシスタント機器またはユーザ端末20a等から取得した音声データから取得してもよい。
【0048】
より詳細には、努力情報抽出機能155は、対象者の行動履歴または記録を、対象者の意思決定に関わる努力に関する努力情報として収集する。本実施形態においては、努力情報の対象となる行動履歴または記録は、期間設定機能153によって定められた努力期間内の行動履歴または記録とする。
【0049】
努力情報は、対象者の疾患または該疾患に関する意思決定に関わる、対象者が努力をしたことを直接的または間接的に表す情報である。
【0050】
例えば、努力情報は、対象者の過去の意思決定に関連する疾患または該疾患の治療の際に、当該意思決定に関連して対象者に提示された情報を含む。また、努力情報は、対象者の過去の意思決定に関連する疾患に関する通院、入院または医療行為の頻度、時間、回数または費用のいずれかまたは全てを含んでも良い。
【0051】
具体的には、努力情報抽出機能155は、努力期間内の(5)対象者が検索サイトで「胃がん 治療方法」、「胃がん 治療後の経過」、「胃がん ESD」、「胃がん ESD 成功確率」、「胃がん治療 有名 医者」など胃がん関連の情報を検索した検索回数または検索時間。(6)対象者が図書館で胃がん関連本を借りた際の貸し出し履歴、回数、貸出し時期、及び返却時期。(7)対象者と医師、看護師等の医療者との対話時間または回数。(8)対象者と家族、親戚または友人との対話または通話時間、等を、ユーザ端末20a、電子カルテシステム30a,30b、図書管理システム400またはその他の情報処理装置に記憶されたデータから抽出する。(5)~(8)は、対象者の努力を表す行動の一例であるが、努力を表す行動はこれらに限定されるものではない。
【0052】
また、ポジティブイベント抽出機能156は、対象者の意思決定の結果得られたポジティブなイベントに関する情報を含む、対象者の行動履歴または記録を収集する。対象者の意思決定の結果得られたポジティブなイベントとは、例えば、疾患の治療法の選択肢のうち、対象者が選択した治療法によってもたらされたポジティブな出来事である。あるいは、対象者が選択しなかった治療法を仮に選択した場合に起こり得るネガティブな出来事が「発生しなかった」ことも、ポジティブなイベントに含めても良い。
【0053】
例えば、ポジティブイベント抽出機能156は、ポジティブイベント抽出対象期間内の対象者の意思決定によって得られた行動履歴または記録が、ポジティブなイベントであるか否かを、対象者が選択した選択肢のメリット及び選択しなかった選択肢のデメリットを基準に判定する。
【0054】
本実施形態の例では、ポジティブイベント抽出対象期間内の対象者の行動履歴または記録のうち、対象者が選択した“ESD”のメリットによって可能となった出来事、及び対象者が選択しなかった選択肢である“胃の2分の1切除”または“胃の全摘出”をした場合には困難であった出来事が、ポジティブイベントとなる。
【0055】
例えば、胃の切除又は全摘出のデメリットとして“ダンピング症候群(早期または晩期)”、“食欲低下”、“亜鉛不足による味覚障害”、“貧血”、“栄養障害”、“牛乳不耐症”、“逆流性食道炎”、または“逆流性胃炎”等の後遺症がある。このため、対象者が胃の切除または全摘出を選択していた場合、“早期ダンピング症候群の予防のために「饅頭やケーキ等の甘いものを食べられなかった」”というデメリットが生じた可能性がある。このデメリットに対するポジティブなイベントを、「食べられなかった」という否定形の言葉に反する、肯定形の言葉を用いた、「食べられた」イベントや「食べた」イベントに変換すると、ポジティブイベント抽出機能156は、手術後に生じた「誕生日にケーキを食べた」、及び「温泉に行って、家族や親戚と皆で温泉饅頭を食べた」という対象者の行動をポジティブイベントと判定できる。他の例として、後遺症によって対象者に味覚障害が生じて「味が分からない」というネガティブイベントが発生していた可能性があるため、ポジティブイベント抽出機能156は、「(美味しいものを食べて)味がきちんと分かる。」等をポジティブイベントとして判定できる。
【0056】
ポジティブイベント抽出機能156は、対象者の行動履歴または記録のうち、選択しなかった選択肢のデメリットに反する出来事、または選択した選択肢のメリットに合致する出来事を、例えば言語解析等を用いて判定する。
【0057】
ポジティブイベント抽出機能156は、各選択肢のメリットやデメリットの情報を、例えばNWインタフェース110を介してインターネット上のサーバ装置から取得しても良い。ポジティブイベント抽出機能156は、インターネット上から各選択肢のメリットやデメリットの情報を、疾患の治療経験者の情報等から収集し、随時、記憶回路120に登録及び更新しても良い。また、各選択肢のメリットやデメリットの情報は、管理者によって意思決定者支援装置10aの記憶回路120に登録及び更新されても良い。
【0058】
例えば、努力情報抽出機能155及びポジティブイベント抽出機能156は、対象者の行動履歴または記録の特徴量を解析し、上述の努力情報およびポジティブイベントに該当する情報を抽出しても良い。特徴量の解析は、例えば、自然文で記載された記録などの非構造化データの構造化の処理を含むが、これに限定されるものではない。
【0059】
なお、ポジティブイベントは、非医療的な日常の行動に関する情報、努力情報は医療に関する情報に対象を限定しても良い。
【0060】
なお、本実施形態においては、努力情報抽出機能155及びポジティブイベント抽出機能156は、接続先の情報処理装置から抽出対象のデータを抽出するものとして記載したが、努力情報抽出機能155及びポジティブイベント抽出機能156は、対象の期間の情報を収集した後に、収集済みの情報から、努力情報またはポジティブイベントを抽出しても良い。例えば、ポジティブイベント抽出機能156は、収集したポジティブイベント抽出対象期間内の対象者の行動履歴または記録が、ポジティブなイベントか否かを判定し、ポジティブなイベントであると判定した行動履歴または記録だけを抽出しても良い。
【0061】
努力情報抽出機能155及びポジティブイベント抽出機能156は、抽出した努力情報及びポジティブイベントに関する情報を、生成機能157に送出する。努力情報及びポジティブイベントに関する情報は、努力またはポジティブイベントの内容、日時、及び位置情報を含む。位置情報は、対象者による努力の実行またはポジティブイベントの発生時における対象者の位置を示す情報である。具体的には、位置情報は、ユーザ端末20aのGPS位置情報、または対象者の行動履歴または記録の取得元のシステムに関連する位置情報である。取得元のシステムに関連する位置情報は、電子カルテシステム30a,30b、図書管理システム400が用いられるA病院、B病院、または図書館の位置である。
【0062】
生成機能157は、努力情報抽出機能155及びポジティブイベント抽出機能156によって収集された行動履歴または記録を、意思決定または疾患と関連付けた提示物を生成する。
【0063】
提示物は、例えば、対象者に対して、対象者の過去の努力またはポジティブなイベントを提示する表現物である。
【0064】
図3は、第1の実施形態に係る提示物90の一例を示す図である。
図3では、提示物90が後述のユーザ端末20aのディスプレイ240に表示された状態を図示する。
【0065】
図3に示す例では、生成機能157は、努力情報及びポジティブイベントを、地図上の位置にマッピングした提示物90を生成する。例えば、
図3に示すように、提示物90の中央に地図があり、その地図上にユーザが努力行動を行った位置、ポジティブなイベントが発生した位置を示すポインを示すアイコン91a~91eが対応付けられる。
【0066】
また、生成機能157は、提示物90上、例えば地図上部に、奮闘期間として努力情報及びポジティブイベントの抽出対象となった期間を表示しても良い。
図3では、努力期間とポジティブイベント抽出対象期間とを合わせた期間を、奮闘期間として表示する。また、
図3では、提示物90のタイトルを「奮闘記」としているが、これに限定されるものではない。
【0067】
努力情報及びポジティブイベントは、予め地図上に表示されていても良いし、ユーザがアイコン91a~91eをクリックした場合に、努力やポジティブイベントの詳細が表示されても良い。表示される努力やポジティブイベントの詳細は、写真、動画、SNSまたはブログの文章の一部、努力を表現できるような定量的な数値、またはユーザ以外のコメントでも良い。ユーザ以外のコメントは、例えばSNSに寄せられたコメントでも良いし、音声データとして取得された会話中の他者の発言でも良い。
【0068】
なお、
図3に示す提示物90の態様は一例であり、これに限定されるものではない。例えば、他の表現形式として、メッセージアプリケーションで送信可能なメッセージ形式、写真またはその他の画像を含むスライドショー形式、ユーザを主人公とするストーリーを表すアニメまたは小説等を採用することができる。また、提示物90は、対象者本人の視点に基づく表現に限定されるものではなく、他者視点の印象を表現して対象者に提示するものでもよい。
【0069】
また、生成機能157は、努力情報及びポジティブイベントの特徴量を解析し、解析結果に応じて提示手法およびレイアウトを決定しても良い。特徴量の解析は、例えば、自然文で記載された記録などの非構造化データの構造化の処理を含むが、これに限定されるものではない。
【0070】
生成機能157は、生成した提示物90を、送信機能158に送出する。
【0071】
図1に戻り、送信機能158は、生成機能157によって生成された提示物90を、ユーザ端末20aに送信する。
【0072】
次に、ユーザ端末20aについて説明する。
【0073】
ユーザ端末20aは、NWインタフェース210と、記憶回路220と、入力インタフェース230と、ディスプレイ240と、処理回路250とを備える。
【0074】
NWインタフェース210は、処理回路250に接続されており、ユーザ端末20aと、意思決定者支援装置10aとの間で行われる各種データの伝送および通信を制御する。また、NWインタフェース210は、ユーザ端末20aと、各種のSNS、ブログ、または検索サービスを提供するサーバ装置との間で行われる各種データの伝送および通信を制御する。NWインタフェース210は、ネットワークカードやネットワークアダプタ、NIC等によって実現される。
【0075】
記憶回路220は、処理回路250に接続されており、処理回路250で使用される各種の情報およびプログラムを記憶する。
【0076】
入力インタフェース230は、トラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、及び音声入力回路等によって実現される。入力インタフェース230は、処理回路250に接続されており、ユーザから受け取った入力操作を電気信号へ変換し処理回路250へと出力する。
【0077】
なお、本明細書において意思決定者支援装置10aの入力インタフェース130およびユーザ端末20aの入力インタフェース230はマウス、キーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路150,250へ出力する電気信号の処理回路も入力インタフェース130,230の例に含まれる。
【0078】
ディスプレイ240は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等である。なお、入力インタフェース230とディスプレイ240とは統合しても良い。例えば、入力インタフェース230とディスプレイ240とは、タッチパネルによって実現されても良い。ディスプレイ240は、表示部の一例である。
【0079】
処理回路250は、記憶回路220からプログラムを読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。本実施形態の処理回路250は、ストレス検知機能251、送信機能252、受信機能253、及び提示機能254を備える。ストレス検知機能251は、ストレス検知部の一例である。送信機能252は、送信部の一例である。受信機能253は、受診部の一例である。提示機能254は、提示部の一例である。
【0080】
ここで、例えば、処理回路250の構成要素であるストレス検知機能251、送信機能252、受信機能253、及び提示機能254の各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路220に記憶されている。処理回路250は、プロセッサである。例えば、処理回路250は、プログラムを記憶回路220から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路250は、
図1の処理回路250内に示された各機能を有することとなる。なお、
図1においては単一のプロセッサにストレス検知機能251、送信機能252、受信機能253、及び提示機能254にて行われる処理機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路250を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。また、
図1においては単一の記憶回路220が各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明したが、複数の記憶回路を分散して配置して、処理回路250は個別の記憶回路から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。
【0081】
上記の意思決定者支援装置10a及びユーザ端末20aの説明では、「プロセッサ」が各機能に対応するプログラムを記憶回路から読み出して実行する例を説明したが、実施形態はこれに限定されない。本実施形態において、「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit )、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device :CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出して実行することで機能を実現する。一方、プロセッサがASICである場合、記憶回路120,220にプログラムを保存する代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、
図1における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0082】
ストレス検知機能251は、対象者の生体情報に基づいて、対象者のストレスを検知する。例えば、ストレス検知機能251は、不図示のウェアラブルデバイス等から、対象者の心電、皮膚温度または呼吸センサ等から得られる生理指標を、生体情報として取得し、これらの情報に基づいて対象者のストレスの有無を判定する。ストレスの検知の手法は、公知のストレスセンシング技術を採用しても良い。
【0083】
また、ストレス検知に用いられる生体情報は上述の例に限定されない。例えば、ユーザ端末20aがスマートフォンである場合、ストレス検知機能251は、スクリーンタイム機能と、対象者によるスマートフォンの閲覧頻度、電波のゆらぎとため息の呼吸、音声の物理的特徴量の解析、カメラを用いた表情解析、スマートフォンに内蔵された歩数計によって計数された歩数等を用いたストレス検知等を実施してもよい。
【0084】
ストレス検知機能251は、対象者のストレスを検知した場合、ストレスを検知したことを送信機能252に送出する。
【0085】
送信機能252は、ストレス検知機能251によってストレスが検知された場合に、対象者がストレスを感じていることを、意思決定者支援装置10aに送信する。
【0086】
また、送信機能252は、意思決定者支援装置10aに、努力期間及びポジティブイベント抽出対象期間の対象者の行動履歴または記録を送信する。例えば、努力期間及びポジティブイベント抽出対象期間の対象者の行動履歴または記録は、意思決定者支援装置10aの努力情報抽出機能155及びポジティブイベント抽出機能156によって検索され、検索条件に該当した情報が送信機能252によって意思決定者支援装置10aに送信されても良い。
【0087】
受信機能253は、NWインタフェース210を介して、意思決定者支援装置10aから、提示物90を受信する。受信機能253は、受診した提示物90を、提示機能254に送出する。
【0088】
提示機能254は、対象者の後悔が検知された場合に、収集された対象者の行動履歴または記録を、意思決定または疾患と関連付けて提示する。具体的には、提示機能254は、意思決定者支援装置10aの生成機能157によって生成された提示物90を提示する。提示の手法の一例として、
図3に示したように、ユーザ端末20aのディスプレイ240に提示物90を表示しても良い。
【0089】
提示物90の提示のタイミングは、意思決定者支援装置10aにより対象者の後悔が検出されたときが望ましい。また、提示機能254は、提示物90を複数回に分けて段階的に提示してもよい。例えば、メッセージ形式で、対象者とのやり取りを伴って複数の提示物90を提示する形式を採用しても良い。この場合、対象者の反応に応じて、提示物90の内容が変化しても良い。また、提示物90の提示のタイミングは、対象者によって任意に決定されても良い。例えば、提示機能254は、対象者が提示物90の提示を要求する操作をした場合に、提示物90を提示しても良い。
【0090】
また、提示機能254は、意思決定者支援装置10aの後悔検知機能152によって、提示物90の提示後に対象者の後悔が低減していないと判定された場合には、提示の態様を変更して再度提示を行う。
【0091】
次に、以上のように構成された意思決定者支援システムS1による意思決定者支援処理の流れについて説明する。
【0092】
図4は、第1の実施形態に係る意思決定者支援処理の流れの一例を示すフローチャートである。このフローチャートでは、意思決定者支援装置10a及びユーザ端末20aで実行される処理を示す。
【0093】
まず、ユーザ端末20aのストレス検知機能251は、不図示のウェアラブルデバイス等から対象者の生体情報を取得し、モニタリングする(S1)。
【0094】
そして、ストレス検知機能251は、取得した生体情報のモニタリング結果から、対象者のストレスを検知する(S2)。ストレス検知機能251がストレスを検知した場合、ユーザ端末20aの送信機能252は、対象者がストレスを感じていることを、意思決定者支援装置10aに送信する。
【0095】
また、意思決定者支援装置10aの特定機能151は、対象者の疾患に関する意思決定関連の情報を収集する(S3)。例えば、特定機能151は、対象者が罹患した疾患、該疾患に関する対象者の意思決定の内容及び時期を、対象者が受診したA病院及びB病院の電子カルテシステム30a,30bから取得した対象者の電子カルテ情報に基づいて特定する。なお、意思決定の内容及び時期の特定のタイミングは限定されるものではなく、予め特定されていても良い。
【0096】
そして、意思決定者支援装置10aの後悔検知機能152は、対象者の疾患に関連する対象者の後悔を表す発言、検索履歴、または記載に基づいて、対象者の後悔発生を分析する(S4)。例えば、後悔検知機能152は、意思決定の時点よりも後に、対象者のストレスが検知され、かつ、疾患に関連する対象者の後悔を表す発言、検索履歴、または記載を検出した場合に、意思決定に関する後悔を検知する。
【0097】
そして、後悔検知機能152は、後悔の検知結果に基づいて、対象者に後悔が発生したか否かを判定する(S5)。後悔検知機能152が、後悔が発生したと判定しなかった場合(S5“No”)、意思決定者支援装置10aにおける処理は終了する。この場合、S1の処理に戻り、ユーザ端末20aのストレス検知機能251は、対象者の生体情報のモニタリング及びストレスの検知処理を継続する。
【0098】
後悔検知機能152は、後悔が発生したと判定した場合(S5“Yes”)、後悔を検知したことを期間設定機能153に送出する。
【0099】
期間設定機能153は、努力期間及びポジティブイベント抽出対象期間の基準となる意思決定イベントを特定する(S6)。意思決定イベントは、意思決定に関する出来事であり、本実施形態においては、疾患に対する意思決定をしたこと、及び意思決定の対象となる疾患の診断を受けたこと、選択対象の治療法を提示されたこと等を含む。期間設定機能153は、電子カルテシステム30a,30bに登録された対象者の医療記録、またはユーザ端末20a及び各種のサーバ装置に記憶された対象者のSNS等の記載等に基づいて、これらの意思決定イベントを特定する。
【0100】
期間設定機能153は、特定した意思決定イベントに基づいて、対象者の努力期間及びポジティブイベント抽出対象期間を設定する(S7)。具体的には、期間設定機能153は、対象者が疾患の診断を受けた日から対象者が医療的な意思決定をした日までを努力期間として設定する。また、期間設定機能153は、対象者が疾患に関する意思決定をした日から現在までをポジティブイベント抽出対象期間として設定する。
【0101】
努力情報抽出機能155は、ユーザの努力情報を抽出する(S8)。本実施形態においては、努力情報抽出機能155は、努力期間における対象者の努力を表す対象者の行動履歴または記録をユーザ端末20a、他のサーバ装置、電子カルテシステム30a,30b、対象者の使用するAIアシスタント機器、または図書管理システム400等から取得する。
【0102】
また、ポジティブイベント抽出機能156は、ポジティブイベント抽出対象期間におけるポジティブなイベントを抽出する(S9)。
【0103】
次に、生成機能157は、努力情報抽出機能155及びポジティブイベント抽出機能156によって抽出された努力情報及びポジティブイベントの特徴量を解析する(S10)。
【0104】
そして、生成機能157は、解析結果に基づいて提示方法を選定する(S11)。例えば、生成機能157は、地図画像上への努力情報及びポジティブイベントのマッピング、アニメーション、小説、またはスライドショー等の予め定められた複数の提示方法から、抽出された努力情報及びポジティブイベントに適合するものを選択する。一例として、抽出された努力情報及びポジティブイベントが位置情報を含む場合、生成機能157は、地図画像上への努力情報及びポジティブイベントのマッピングを選択する。なお、提示方法の選定手法はこれに限定されるものではない。
【0105】
そして、生成機能157は、選定した提示方法に基づいて提示物90を生成する(S12)。意思決定者支援装置10aの送信機能158は、生成機能157が生成した提示物90をユーザ端末20aに送信する。また、ユーザ端末20aの受信機能253は、意思決定者支援装置10aから、提示物90を受信する。
【0106】
ユーザ端末20aの提示機能254は、意思決定者支援装置10aによって生成された提示物90をユーザに提示する(S13)。
【0107】
また、ここで、ユーザ端末20aのストレス検知機能251は、不図示のウェアラブルデバイス等から対象者の生体情報を取得し、モニタリングする(S14)。また、ストレス検知機能251は、取得した生体情報のモニタリング結果から、対象者のストレスを検知する。
【0108】
そして、意思決定者支援装置10aの後悔検知機能152は、対象者のストレスの検知結果に基づいて、提示物90の効果を分析する(S15)。例えば、後悔検知機能152は、提示物90の提示の前後における対象者のストレスの強さを比較する。なお、後悔検知機能152は、ストレス以外に、対象者の発言または行動から提示物90の効果を評価しても良い。
【0109】
そして、後悔検知機能152は、提示物90によって対象者の後悔を低減する効果を得られたか否かを判定する(S16)。
【0110】
例えば、後悔検知機能152は、提示物90の提示後の対象者のストレスが提示物90の提示前と変わらない、あるいは強くなっている場合、提示物90によって対象者の後悔を低減する効果が得られなかったと判定する(S16“No”)。この場合、後悔検知機能152は、生成機能157に、後悔が継続していることを通知する。そして、S11の提示方法の選定の処理に戻る。提示物90によって対象者の後悔を低減する効果が得られなかった場合、生成機能157は、提示方法または提示物90の内容を変更して、前回とは異なる提示物90を生成する。これにより、提示機能254は、前回とは態様の異なる提示物90を提示する。
【0111】
また、後悔検知機能152は、提示物90の提示後に、対象者のストレスが提示物90の提示前よりも低減していれば、提示物90によって対象者の後悔を低減する効果が得られたと判定する(S16“Yes”)。この場合、このフローチャートの処理は終了する。
【0112】
このように、本実施形態の意思決定者支援システムS1は、対象者の疾患に対する過去の医療的な意思決定に関する後悔を検知した場合に、意思決定または疾患に関する対象者の行動履歴または記録を、意思決定または疾患と関連付けて提示する。このため、本実施形態の意思決定者支援システムS1によれば、過去の意思決定に関して、意思決定者が現在感じている後悔を低減することができる。例えば、意思決定から時間を経た後に対象者が後悔を感じた場合に、過去の行動履歴または記録を提示物90によって思い出させることにより、過去の努力やポジティブな出来事を再認識させ、自らの意思決定に対して肯定的な気持ちを取り戻すことを支援することができる。また、対象者が現在感じている後悔を低減させることにより、対象者が将来の意思決定や治療を前向きな気持ちで行うことを支援することができる。
【0113】
また、本実施形態の意思決定者支援システムS1は、対象者の行動履歴または記録を、対象者の意思決定に関わる努力に関する努力情報として収集する。本実施形態の意思決定者支援システムS1によれば、このような努力情報を対象者に提示することにより、対象者に過去の自らの努力を思い出させ、対象者が意思決定の経緯及び自らの過去を肯定的に捉えることを支援することができる。
【0114】
また、本実施形態の意思決定者支援システムS1は、対象者の意思決定の結果得られたポジティブなイベントに関する情報を含む行動履歴または記録を収集する。本実施形態の意思決定者支援システムS1によれば、収集したポジティブなイベントに関する情報を対象者に提示することにより、対象者に自らの意思決定の結果得られたポジティブなイベントを思い出させ、対象者が意思決定の経緯及び自らの過去を肯定的に捉えることを支援することができる。
【0115】
また、本実施形態の意思決定者支援システムS1は、対象者の意思決定の結果得られた行動履歴または記録が、ポジティブなイベントか否かを判定する。このため、本実施形態の意思決定者支援システムS1によれば、行動履歴または記録のうち、対象者を前向きな気持ちさせる可能性の高いものを提示対象として選定することができる。
【0116】
また、本実施形態の意思決定者支援システムS1は、過去の意思決定に関連する疾患または該疾患の治療の際に当該意思決定に関連して対象者に提示された情報を、努力情報として収集する。このため、本実施形態の意思決定者支援システムS1によれば、対象者が意思決定する際の検討の根拠となった情報を対象者に再度提示することにより、対象者が意思決定当時の検討経緯を思い出し、自らの意思決定に対する納得感を持つことを支援することができる。
【0117】
また、本実施形態の意思決定者支援システムS1は、過去の意思決定に関連する疾患に関する通院、入院または医療行為の頻度、時間、回数または費用のいずれかまたは全てを含む情報を、努力情報として収集する。本実施形態の意思決定者支援システムS1によれば、このような努力情報を対象者に提示することにより、治療のための努力を対象者に思い出せ、対象者が自らの過去を肯定的に捉えることを支援することができる。
【0118】
また、本実施形態の後悔に関する情報は、疾患に関連する対象者の後悔を表す発言、検索履歴、または記載であり、本実施形態の意思決定者支援システムS1は、意思決定の時点よりも後に、疾患に関連する対象者の後悔を表す発言、検索履歴、または記載を検出した場合に、意思決定に関する後悔を検知する。このため、本実施形態の意思決定者支援システムS1によれば、対象者の自覚の有無に関わらず、対象者の意思決定に関連する後悔を検知することができる。
【0119】
また、本実施形態の意思決定者支援システムS1は、意思決定の時点よりも後に、対象者のストレスが検知され、かつ、疾患に関連する対象者の後悔を表す発言、検索履歴、または記載を検出した場合に、対象者の意思決定に関する後悔を検知する。すなわち、本実施形態の意思決定者支援システムS1は、対象者がストレスを感じた状態にあり、かつ自らの意思決定に対して否定的な気持ちを抱いている場合に、努力情報及びポジティブイベントの収集及び提示物90の提示をする。このため、本実施形態の意思決定者支援システムS1によれば、効果的なタイミングで、対象者に対して提示物90の提示をすることができる。
【0120】
また、本実施形態の意思決定者支援システムS1は、対象者が疾患の診断を受けた時期と、対象者が疾患に対する意思決定をした時期とに基づいて、対象者が疾患の治療に関して努力した努力期間を設定し、該努力期間内の対象者の行動履歴または記録を、努力情報として収集する。このため、本実施形態の意思決定者支援システムS1によれば、対象者が疾患に対する意思決定のために費やした期間における対象者の行動を努力として肯定的に提示することができる。
【0121】
また、本実施形態の意思決定者支援システムS1は、行動履歴または記録を提示した後に、対象者の後悔が低減しているか否かを判定し、後悔が低減していない場合には、提示の態様または内容を変更して再度提示を行う。このため、本実施形態の意思決定者支援システムS1によれば、対象者に対して効果的に作用する態様または内容の提示物90を提供することができる。
【0122】
なお、本実施形態においては、対象者による意思決定が1回である場合を例として説明したが、対象者が複数回の意思決定を行った場合にも、本実施形態の意思決定者支援システムS1を適用することができる。例えば、対象者が、診断を受けてから、ある治療の開始についての意思決定をした後、当該治療を中止する意思決定をする場合がある。このような場合は、対象者が診断を受けてから治療開始についての意思決定をするまでの期間を第1の努力期間、治療開始についての意思決定をしてから当該治療を中止する意思決定をするまでの期間を第2の努力期間としても良い。
【0123】
(第2の実施形態)
上述の第1の実施形態では、対象者の私有端末及びSNS等の私的な情報を活用して対象者の支援を行っていた。これに対して、この第2の実施形態では、病院等の医療機関において対象者の支援を行う場合について説明する。
【0124】
図5は、第2の実施形態に係る意思決定者支援システムS2の構成の一例を示す図である。本実施形態の意思決定者支援システムS2は、意思決定者支援装置10bと、医療従事者用端末20bとを備える。意思決定者支援装置10bは、例えばクラウド環境に設けられる。
【0125】
また、医療従事者用端末20bは、例えば医師等が使用するPCまたはタブレット端末等である。本実施形態においては、医療従事者用端末20bのユーザは医師等の医療従事者であり、意思決定者及び対象者とは異なる者とする。また、本実施形態においては、実際に罹患した患者、意思決定者、及び対象者は同一人物とする。なお、医療従事者用端末20bをユーザ端末と称しても良い。
【0126】
また、医療従事者用端末20bは、電子カルテシステム30aと院内LAN(Local Area Network)等のネットワークを介して接続する。医療従事者用端末20bと電子カルテシステム30aとは、A病院の情報システム500に含まれる。医療従事者用端末20bは、さらに不図示の病院内外の情報処理装置と接続しても良い。
【0127】
なお、意思決定者支援システムS2の構成は
図5に示す例に限定されない。例えば、意思決定者支援装置10bもA病院の情報システム500に含まれても良い。あるいは、医療従事者用端末20bはディスプレイ240を含む表示装置としての機能のみを備え、その他の機能は全てクラウド上の意思決定者支援装置10bの機能として構成されても良い。また、意思決定者支援システムS2は、情報システム500全体を含むものとしても良い。
【0128】
意思決定者支援装置10bは、NWインタフェース110と、記憶回路120と、入力インタフェース130と、ディスプレイ140と、処理回路150とを備える。
【0129】
本実施形態の処理回路150は、特定機能151、後悔検知機能152、期間設定機能153、収集機能159、生成機能157、及び送信機能158を備える。
【0130】
本実施形態の特定機能151は、対象者が罹患した疾患、該疾患に関する対象者の意思決定の内容及び時期を、電子カルテシステム30aから取得した対象者の電子カルテ情報、またはその他の医療情報に基づいて特定する。
【0131】
また、本実施形態の後悔検知機能152は、疾患に関連する対象者の後悔に関する情報に基づいて、対象者の疾患に対する過去の医療的な意思決定に関する後悔を検知する。具体的には、本実施形態の後悔検知機能152は、医療従事者用端末20bのストレス検知機能251がストレスを検知した際の状況や、過去の医療行為に関連する情報を分析し、当該ストレスが後悔によるものか否かを分析及び判定する。
【0132】
具体的には、後悔検知機能152は、ストレスが検知された際に、患者が過去を振り返っていたかをマイクで取得した音声から分析したり、現在の患者の治療や疾病の状況が後悔の原因となり得るか否かについての情報を電子カルテシステム30aまたはその他の医療情報データベースから取得する。本実施形態においては、医療情報データベースは、電子カルテシステム30a内のデータベースの他、図示しない病院内外の情報処理装置に記憶されたレセプトデータ、オーダリングデータ、検査データ等のデータベースを含む。
【0133】
後悔検知機能152は、検知されたストレスが患者の意思決定を伴う医療行為に対する後悔によるものと判定した場合は、対象の医療行為を特定すると共に後悔が発生していると判定する。ここで、対象の医療行為の特定にあたっては、一般的に後悔の対象となることが多い疾病、医療行為、予後の状況のパターンを診療科別に記憶しておき、これに基づき特定しても良い。なお、先に意思決定内容を特定した後に後悔の有無を判定しても良い。
【0134】
本実施形態の期間設定機能153は、第1の実施形態と同様に、患者の努力行動等を抽出するための期間を設定する。ただし、本実施形態においてはA病院の情報システム500から努力行動等を抽出するため、対象となる医療行為と抽出対象のデータの対応関係が明確な例もある。そのような場合はデータを直接的に抽出できるため、必ずしも期間を設定せずとも良い。また、第1の実施形態においては、努力期間とポジティブイベント抽出対象期間とを分けて設定していたが、本実施形態においては、医療的な情報が主に収集対象となるため、期間設定機能153は、努力期間のみを設定する。
【0135】
本実施形態の収集機能159は、患者の努力行動等を抽出(収集)する。具体的には、電子カルテシステム30aまたはその他の医療情報データベースから、対象となる医療行為に関連した通院回数、病院の滞在時間、医療行為の回数、治療費の総額等を抽出する。抽出対象は、努力期間内のこれらの情報でも良いし、意思決定の対象となった疾患に紐付くこれらの情報でも良い。
【0136】
また、収集機能159は、対象者の医療行為を受ける際の意思決定のために行われた医師またはカウンセラーからのカウンセリング、インフォームドコンセント、またはその他の説明の際の情報を、電子カルテシステム30aまたはその他の医療情報データベースから抽出しても良い。あるいは、これらの情報は予め意思決定者支援装置10bの記憶回路120に記憶されても良い。具体的には、患者の意思決定を必要とする医療行為ごとに定型の資料が用意され、説明またはカウンセリング時に使用される場合、該定形の資料は医師または情報システム500によって記憶回路120に保存される。そして後の後悔発生時に、収集機能159が該定型の資料の情報を記憶回路120から抽出しても良い。
【0137】
また、上述の定型の資料での説明に限らず、患者の各種検査データの表示とともに当該患者特有の疾病の状態を表示したり、患者の属性や選好、価値観、説明の場の反応によって説明内容を選択できる患者意思決定支援システムが用いられても良い。この場合、該患者意思決定支援システムと意思決定者支援システムS2とが連動することにより、患者が選択した説明内容を後の後悔発生時に抽出できるよう保存しておいても良い。この意思決定支援システムにおいては、疾病の進行度合いや合併症の有無によって異なる患者説明情報を提示する。また、同種の疾病であっても、患者の属性情報に応じて異なる患者説明情報を提示する。例えば、一人暮らしの80代男性と複数の未成年の子を持つ40代女性では異なる患者説明情報を提示することが好ましい。さらにはこのような明確な属性の差異に限らず、患者のリスク選好傾向や先延ばし傾向などの性格を医師等が判断し、これに応じて説明情報が変わることも考えられる。さらには、複数の治療方法の中から一つを選択しなければならないような疾病においては、それぞれの治療方法のメリット及びデメリットを比較表示するような説明情報も有用である。このような患者意思決定支援システムは患者の意思決定の際に有用であるが、後の後悔発生時にも、当時の意思決定が如何に最善を尽くして行われていたかを再認識するためにも有用である。患者意思決定支援システムは、意思決定者支援システムS2の一機能として含まれても良い。
【0138】
本実施形態の生成機能157は、収集機能159が抽出した情報に基づいて、提示物90を作成する。より詳細には、生成機能157は、患者の通院回数、病院の滞在時間、医療行為の回数、治療費の総額や、説明の際の情報、例えば患者との意思決定の際に用いたソフトウェアの表示内容の少なくともいずれかを提示物として作成する。ここで、患者に対する情報に加えて、関連する統計情報を加えても良い。例えば、通院回数、病院の滞在時間、医療行為の回数、治療費の総額については同種の疾病の他の患者の平均や中央値などの情報を加えることで、努力の程度の認識の補助となり得る。
【0139】
例えば、生成機能157は、過去の意思決定に関連する疾病に関する通院、入院または医療行為の頻度、時間、回数または費用のいずれかまたは全てについて、対象者の情報と、他者の統計情報とを比較する情報を努力情報として含む提示物90を生成しても良い。
【0140】
また、本実施形態の生成機能157は、それぞれの提示情報について患者の努力行動を示している程度を判定し、その程度によって提示情報から削除する判断を行っても良い。例えば、生成機能157は、通院回数や医療行為の回数が同種疾病患者と比べて少なかった場合はその情報を削除しても良い。また、意思決定時の説明を患者が十分に認識していなかったと推定される場合には該説明に関する情報を削除しても良い。生成機能157は、該削除については、説明時の表示時間や、電子カルテ情報等に記載される患者の認知能力に関する情報によって判断しても良い。例えば、意思決定の時点で患者本人が低年齢であった場合や高度急性期においては患者本人に判断能力がなく家族等が説明を受け意思決定しているため、患者の努力行動とは言えない。一方、家族も含めた努力行動を提示するため、このような場合でも提示情報として削除しない場合も考えられる。このような判定の結果、提示情報がなくなってしまった場合にはその旨を医師等の医療従事者に提示しても良い。
【0141】
本実施形態の送信機能158は、生成機能157が生成した提示物90を、医療従事者用端末20bに送信する。
【0142】
次に、医療従事者用端末20bについて説明する。
【0143】
医療従事者用端末20bは、ユーザ端末20aと同様に、NWインタフェース210と、記憶回路220と、入力インタフェース230と、ディスプレイ240と、処理回路250とを備える。
【0144】
処理回路250は、ストレス検知機能251、送信機能252、受信機能253、及び提示機能254を備える。
【0145】
ストレス検知機能251は、例えば図示しない病院内の情報入出力端末から患者の生体情報を取得し、取得した生体情報に基づいて、ストレスを検知する。具体的には、ストレス検知機能251は、光学カメラ等によって取得された患者の表情や呼吸動や温度センサによって得られた皮膚温度を解析したり、マイクによって取得した音声から認識した会話内容を解析するなどして患者のストレスを検知する。ストレス検知機能251は、これらの解析及び検知を、医師による診察、または患者と看護師との会話の機会に関連付けて診察室に備え付けられた端末から情報を取得して行うようにしても良いし、病院内の各所あるいは病院外から取得したデータを情報システム500に取り込むことによって行うことにしても良い。
【0146】
なお、ストレス検知機能251は、医療従事者用端末20bの外部に設けられた情報入出力端末として構成されても良い。
【0147】
また、医師、または看護師等が患者を観察した結果、患者が後悔から生じるストレスを感じていると認める場合に、その旨を医師、または看護師が直接的に入力しても良い。例えば電子カルテの入力画面の一部に入力ボタンを設ける等によって実現しても良い。この場合、ストレス検知機能251は、医師または看護師等の入力を受け付けることにより患者のストレスを検知する。なお、その他の手段として、ストレス検知機能251は、電子カルテの入力情報や看護記録などの各種情報を用いてストレスを検知しても良い。
【0148】
送信機能252は、ストレス検知機能251が患者のストレスを検知した場合に、患者がストレスを感じていることを、意思決定者支援装置10bに通知する。
【0149】
また、受信機能253は、意思決定者支援装置10bから、提示物90を受信する。なお、本実施形態においては、提示物90は、
図3で説明した第1の実施形態の提示物90のような表示画面として構成されていなくとも良く、単に提示情報を含むデータ群でも良い。
【0150】
提示機能254は、努力行動情報提示機能は、これらの提示情報をディスプレイ240に表示させる。あるいは、提示機能254は、医療従事者用端末20b外の図示しない表示装置にこれらの提示情報を表示させても良い。
【0151】
提示機能254は、表示に際しては、後悔の判定が医師等の手動入力によらない場合は、患者が後悔している状態を検知した旨を表示させる。さらに、提示機能254は、努力行動に関する提示情報が作成された場合は、その情報の提示可否を選択させるウィンドウを画面に表示させるなどする。ここで医師等が表示を許可することにより提示情報を示す提示物90が画面に表示され、患者に提示することができる。なお、最終的に提示情報を患者に提示するまでの後悔検知の通知や提示可否の選択画面などは患者に視認されないようにすべきであり、医師等のみ視認できるよう配置するためのモニタと表示画面とを異なる装置としても良い。例えば、提示機能254は、医師に対する通知はディスプレイ240に表示させ、最終的に提示情報を患者に提示する際にはディスプレイ240及び外部の表示装置に表示させても良い。
【0152】
また、提示物90が過去の意思決定に関連する疾病に関する通院、入院または医療行為の頻度、時間、回数または費用のいずれかまたは全てについて、対象者の情報と、他者の統計情報とを比較する情報を努力情報として含む場合、提示機能254は、提示物90をディスプレイ240等に表示させることにより、これらの情報を対象者に提示する。
【0153】
図6は、第2の実施形態に係る意思決定者支援処理の流れの一例を示すフローチャートである。このフローチャートでは、意思決定者支援装置10b及び医療従事者用端末20bで実行される処理を示す。
【0154】
まず、医療従事者用端末20bのストレス検知機能251は、対象者の生体情報を取得し、モニタリングする(S21)。
【0155】
そして、ストレス検知機能251は、取得した生体情報のモニタリング結果から、対象者のストレスを検知する(S22)。
【0156】
また、意思決定者支援装置10bの後悔検知機能152は、疾患に関連する対象者の後悔に関する後悔関連情報を電子カルテシステム30aまたはその他の医療情報データベースから収集する(S23)。
【0157】
また、意思決定者支援装置10bの特定機能151は、臨床における患者の意思決定に関する情報を電子カルテシステム30aまたはその他の医療情報データベースから収集する(S24)。特定機能151は、収集した情報に基づいて、対象者が罹患した疾患、該疾患に関する対象者の意思決定の内容及び時期を特定する。なお、S23とS24の処理の実行順は逆でも良い。
【0158】
そして、後悔検知機能152は、収集した情報及び患者の意思決定に関する情報に基づいて、患者の後悔発生を分析する(S25)。
【0159】
そして、後悔検知機能152は、患者に後悔が発生したか否かを判定する(S26)。後悔検知機能152が患者に後悔が発生していないと判定した場合(S26“No”)、S21の処理に戻る。
【0160】
また、後悔検知機能152が患者に後悔が発生したと判定した場合(S26“Yes”)、期間設定機能153は、第1の実施形態と同様に、患者の努力行動等を抽出するための期間を設定する(S27)。
【0161】
そして、収集機能154は、設定された期間における患者の努力情報を電子カルテシステム30aまたはその他の医療情報データベースから抽出する(S28)。
【0162】
生成機能157は、努力情報抽出機能155によって抽出された努力情報の特徴量を解析する(S29)。例えば、生成機能157は、電子カルテシステム30aまたはその他の医療情報データベースから抽出された情報の構造化等を行ってもよい。
【0163】
そして、生成機能157は、抽出された努力情報等に基づいて提示物90を生成する(S30)。意思決定者支援装置10bの送信機能158は、生成機能157が生成した提示物90を医療従事者用端末20bに送信する。また、医療従事者用端末20bの受信機能253は、意思決定者支援装置10bから、提示物90を受信する。
【0164】
そして、医療従事者用端末20bの提示機能254は、提示物90をディスプレイ240に表示させる等の手段によって、努力情報を提示する(S31)。
【0165】
このように、本実施形態の意思決定者支援システムS2によれば、第1の実施形態と同様の機能を備えた上で、医療機関においても意思決定者である患者の支援をすることができる。
【0166】
また、本実施形態の意思決定者支援システムS2は、過去の意思決定に関連する疾病に関する通院、入院または医療行為の頻度、時間、回数または費用のいずれかまたは全てについて、対象者の情報と、他者の統計情報とを比較する情報を努力情報として対象者に提示する。このため本実施形態の意思決定者支援システムS2によれば、対象者の努力を他者と比較することにより、対象者が自らの努力を客観的に認識することを支援することができる。例えば、対象者自身は気が付いていなくとも、一般的な患者よりも努力の度合が高い場合に、対象者に自らの努力の度合を把握させることにより、自らの過去の意思決定を肯定的に捉えることを促すことができる。
【0167】
なお、本実施形態の意思決定者支援システムS2においては、病院等の施設内でストレス検知をトリガとして努力情報を含む提示物90の提示を行うことを例示したが、第1の実施形態と同様に、対象者の個人的な情報を活用しても良い。
【0168】
例えば、ストレス検知や後悔発生分析は、患者の保有するスマートフォンやウェアラブル端末、SNS等の情報を併用しても良い。意思決定者支援システムS2は、これらの情報を取得しておき、患者の次の来院時において、後悔発生判定や努力情報の提示に用いても良い。この際、提示物90の表示態様についても、第1の実施形態の手法を適用しても良い。
【0169】
以下に、第1の実施形態または第2の実施形態の意思決定者支援システムS1,S2を適用する具体例について、疾患ごとに説明する。
【0170】
(がんの事例について)
様々な種類及び部位のがんが存在するが、典型的には治療方法として摘出手術、放射線治療、抗がん剤等の化学的治療、さらには遺伝子的治療、免疫的治療など単純には比較できない治療の選択肢が多く、後悔の発生しやすい疾病ともいえる。治療方法選択においては上述したような患者意思決定支援システムの利用が有用である。またいずれの治療を選択し、どのような予後となった場合であっても治療後の長期的な入院または通院が必要となるケースが多いため、医療機関でのストレス検知及び後悔発生判定の機会も見込まれる。
【0171】
より典型的には、治療後再発した場合や転移が発見された場合、かつての選択を後悔する契機となりうるので、このような情報が電子カルテ等に記載された場合には後悔発生分析機能が後悔の発生と判定する要素とすることができる。また、この情報のみをもってストレス検知機能におけるストレス検知としても良い。
【0172】
また、患者が抗がん剤治療による副作用に苦しんでいる場合にも、治療の選択に対しての後悔が生じうる。この場合、患者は入院中で看護師と接する機会も多いことから看護記録等の情報に基づいてのストレス検知や後悔発生分析が有効と考えられる。さらには病室内のマイクやカメラなどを用いての検出も考えられる。
【0173】
上述のいずれの場合も、過去に治療方法に関する意思決定をした際に患者に対して提示された情報を、その後、患者が後悔を感じた時に患者が改めて客観的に見返すことは、患者の後悔低減に有用である。また、がん治療にあたっては複数の治療を行うことも多く、その通院回数や手技及び治療の遍歴等の努力行動を見返すことによっても後悔低減の効果が見込まれる。これらの後悔低減により、今後の治療に積極的になれることもあるし、場合によっては積極的治療を中断して緩和ケア中心の体制へと適正なタイミングでの方針変更を補助するものともなりうる。
【0174】
具体的な例として、乳がんの手術方法選択について述べる。乳がん手術では、がんのみを摘出し、乳房を温存する乳房温存療法と、乳房を全て摘出する全摘術があり、ある状況下では、どちらの手法も生存率に違いはなく、患者の意向によって選択される。なお、全摘の場合にのみ人工乳房による再建が可能である。
【0175】
例えば患者が温存療法を選択し、その後乳房内に再発が起きた場合(後悔の発生)を考える。患者は温存療法を「自身の乳頭が残る」「全摘術後に人工乳房による再建は実施しない」こと、を考慮して決定していたとする。この場合には、判断に至ったプロセスを理解し、選択に納得するために、温存療法と全摘術を比較するために実施したインターネットや図書館などでの検索履歴の提示、相談センターとの相談記録といった、行動履歴を抽出して、提示すれば良い。
【0176】
また、選択しなかった手法に対する、経済的、時間的な予測値を提示することで、改めて選択しなかった手法が自分の判断にどのように影響したかを再認識させても良い。経済的予測値は、患者が加入している医療保険(国民、厚生、1割負担、3割負担等)、世帯収入、加入している民間保険の条件、手技の保険点数から、個別化された値が算出可能である。さらに施設までの移動手段などにかかる費用、子供や要介護者の預け入れにかかる費用、休職にともなう負担、なども含めても良い。また、時間的な予測値は、ガイドラインに基づいて、標準的な手法による予測値を算出すれば良い。
【0177】
(心疾患の事例について)
心疾患においても、内科的療法、カテーテル施術、開胸手術等の選択肢がある場合も多いので、上述したような患者意思決定システムの利用が有用であり、かつ、治療後も入院、通院が必要となることが多く、医療機関でのストレス検知及び後悔発生判定の機会が見込まれることはがんの事例と同様である。
【0178】
種々の心疾患があるが、悪いケースでは心不全に発展して急性憎悪による再入院を繰り返して状態悪化していく傾向は共通している。例えば急性憎悪の情報が電子カルテ等に記載された場合には後悔発生分析機能が後悔の発生と判定する要素とすることができるし、この情報のみをもってストレス検知機能におけるストレス検知としても良い。ただし、高度急性期の渦中は過去の行動を振り返る余裕がない可能性があるので、努力行動情報の提示は一定の回復の後に行うようにしても良い。
【0179】
また、治療後、在宅で比較的支障のない生活を送っている患者であっても、一定の運動制限など生活制限もあり、不満を感じる機会も多い。また、定期的な通院も行っていることが多いため、この通院が病院でのストレス検知及び後悔発生判定の機会となる。
【0180】
上述のいずれの場合も、過去に治療方法に関する意思決定時をした際に患者に対して提示された情報を、その後、患者が後悔を感じた時に患者が改めて客観的に見返すことは、患者の後悔低減に有用である。この後悔低減により、今後の治療に積極的になれる効果が考えられる。
【0181】
(婦人科、産科、または小児科関連の疾患の事例について)
例えば、不妊治療においては、タイミング療法から始まり、人工授精、体外受精へとステップアップしていくが、妊娠、出産に至らずに、患者が長期にわたっての通院を続けることもある。このような通院の際に、ストレス検知及び後悔発生判定を行い、これまでの通院回数、病院の滞在時間、医療行為(人工授精、体外受精等)の回数、治療費の総額等を表示すれば、これまでの努力行動を客観的に確認することができ、治療の継続の有無に関わらず、前向きな判断の補助となる効果がある。さらには、このような長期の不妊治療に失敗すると、治療をやめた後も出産をあきらめきれないなど、精神的な負荷が継続する場合もある。このような場合には、精神科、心療内科等のカウンセリング施設において、ストレス検知及び後悔発生判定を行ったうえでこのような不妊治療の情報にアクセスし、かつての努力行動を客観的に確認させて心的負担を軽減させることができる。
【0182】
また、産科においては、出産前に胎児の先天性の疾患が発見されることがある。例えば、特定の染色体異常は、新型出生前診断等により、比較的早期に発見される。新型出生前診断の実施に当たっては専門カウンセラーによるカウンセリングを行うことが推奨されており、実施医療機関ではカウンセリングのための提示資料を各種用意している。また、先天性心疾患等も出生前に診断されることがあるが、奇形の種類に応じた説明が資料を用いてなされることになる。これらの資料のどれを提示したかを記憶しておき、後の後悔検出時の提示情報とすることができる。
【0183】
より具体的には、染色体異常のうち21トリソミー(ダウン症候群)の場合は、出生後の寿命も長く、先天性心疾患の場合も手術は必要となるものの治療技術が確立されており予後良好なことが多い。しかし、どちらの場合も何かの疾患が残存することがほとんどであり、健常児と比べれば、小児科への通院・入院が必要となることも多く、親及び本人ともに負荷を感じる機会が多い。このような小児科への通院または入院の機会にストレス検知及び後悔発生判定を行い、産科でかつて説明を受けた際の資料を改めて客観的に見返すことは親の後悔低減に有用である。また対象は親だけでなく、本人が成長したのちにこのような親の努力情報を提示することも有用と考えられる。
【0184】
これに対して、先天性心疾患の場合、診断がつく時期も遅く、かつ治療を行えば一般的に予後良好であるため、出産、治療の経過をたどることが多いが、新型出生前診断等による染色体異常は比較的早期の診断が可能であるため、染色体異常と診断された場合、9割以上のケースで人工妊娠中絶を選択する実情がある。このような選択を行った場合でも親の精神的な負荷が継続する場合もあるため、精神科、心療内科、その他のカウンセリング施設において、ストレス検知及び後悔発生判定を行ったうえでこのようなカウンセリング時点の情報にアクセスし、かつての意思決定時の情報を客観的に確認させて心理的な整理を行わせることができる。
【0185】
(変形例1)
上述の各実施形態においては、支援の対象者と、疾患に罹患した患者とが同一人物である場合について説明した。しかしながら、支援の対象者は、疾患に罹患した患者とは異なる者であっても良い。例えば、検知されるストレス、判定される後悔、努力やポジティブイベントの主体となるのは患者本人に限らず、親、家族、患者が死亡した後の遺族、又は医師、看護師等の医療従事者等となる場合もありうる。
【0186】
より詳細には、がんなどで家族を失った遺族には、患者に対して行った治療や看護などに関して、「あれは正しい選択だったのか」という後悔の思いが生じ、自責の念に駆られることもある。このことが障害となり、家族を失った悲しみから立ち直れず、うつ病などの精神疾患を発症する場合もある。
【0187】
例えば、残された遺族が、故人が罹患した疾病に関する自らの意思決定に対して後悔を感じている場合にも、意思決定者支援システムS1,S2を適用可能である。
【0188】
例えば、本変形例においては、故人のカルテ情報、故人や関係者の携帯端末等に記録してある情報などから、残された遺族である対象者が「できる限りのことを行った」すなわち「努力した」ことを示す情報を収集し、遺族に提示する機能を、本意思決定者支援システムに持たせることとする。
【0189】
具体的には、治療に対するインフォームドコンセント、あるいはシェアード・ディシジョン・メイキングの際の同意書や、生前の故人の「ありがとう」という、努力を労うことに結びつく感謝の言葉を検索対象とすることなどが考えられる。努力を労うことに結びつく言葉は、例えば意思決定者支援装置10a,10bの記憶回路120内の単語データベース(図示せず)に予め登録されていても良い。この場合、収集機能154,159は、単語データベースに登録された単語に一致する単語を、故人または遺族の携帯端末またはSNS、電子メール等から、努力情報として抽出してもよい。なお、本変形例においては、故人の携帯端末をユーザ端末20aの一例としても良いし、遺族の携帯端末をユーザ端末20aの一例としても良い。
【0190】
また、遺族と共に見取りを行った医療関係者または介護関係者の労いの言葉も、遺族の癒しにつながるという報告があることから、収集機能154,159は、看護記録や介護記録の時間等の情報を元に、該当する医療関係者または介護関係者と共に闘病の助けをした場面の記録を収集しても良い。また、提示機能254は、これらの記録を遺族に対して提示する。
【0191】
(変形例2)
また、上述の各実施形態および変形例1においては、患者、患者の家族、または患者の遺族の後悔を対象として説明したが、医師、看護師等の医療者の後悔を解消するために、意思決定者支援システムS1,S2を適用しても良い。医師、看護師であっても、担当する患者の経過が悪いときは、自己の選択や行為に対して後悔を感じることがある。このとき、意思決定時に参照した情報を努力行動情報として提示するなどすれば、心的負担の軽減につながり、次の活動に前向きになれる効果がある。
【0192】
(変形例3)
また、上述の各実施形態においては、対象者のストレスを検知したことを、後悔の検知の条件としていたが、ストレス検知は後悔検知の必須条件としなくとも良い。また、意思決定者支援システムS1,S2は、対象者の後悔の検出の後に、さらにストレスの有無を判定するという順に処理を行っても良い。
【0193】
また、上述の各実施形態においては、予め意思決定を特定した後に、該意思決定を基準として対象者の後悔の有無を判定したが、意思決定者支援システムS1,S2は、対象者の何らかの後悔を検知した後に、該後悔の原因である可能性のある医療的な意思決定を推定する処理を実行しても良い。この場合、該後悔の原因である可能性のある医療的な意思決定が見つからない場合、意思決定者支援システムS1,S2は、対象者の後悔は医療とは関連の無いものであると判定しても良い。この場合は意思決定者支援システムS1,S2は、特に提示物90を生成または提示しなくとも良い。
【0194】
また、ストレスを感じていること、あるいは、意思決定に対して後悔を感じていることを、対象者自身がユーザ端末20aまたは意思決定者支援装置10a,10bに入力する構成を採用しても良い。
【0195】
また、上述の各実施形態においては、後悔の検知について、対象者の文章または発言に基づく検知を例示したが、後悔検知機能152は、対象者の顔の表情の解析結果等に基づいて後悔を検知しても良い。例えば、後悔検知機能152は、公知の顔表情解析手法を使用して、対象者が撮像された画像から対象者の陰性感情を検出した場合に、対象者が後悔していると判定しても良い。
【0196】
(変形例4)
また、提示物は、上述の各実施形態で説明した態様に限定されるものではない。
図7は、変形例4に係る提示物92の一例を示す図である。例えば、生成機能157は、対象者の保持するユーザ端末20aのWebブラウザの履歴から、疾患に係る情報が表示されていた履歴と表示時間を抽出し、該履歴と時間とを可視化可能な提示物92を生成しても良い。
【0197】
例えば、生成機能157は、検索に要した時間の分析だけでなく、検索時点における対象者がいた場所の情報を、ユーザ端末20aのGPS履歴等から取得して提示物92に含めても良い。
図7に示す例では、生成機能157は、対象者のWebブラウザの利用時間おける疾患についての検索に要した時間、および各検索の時点において対象者がいた場所を、提示物92に含める。
【0198】
(変形例5)
上述の第1の実施形態においてユーザ端末20aの機能として説明した機能の一部または全てが意思決定者支援装置10aの機能であっても良い。
【0199】
例えば、ストレス検知機能251は、意思決定者支援装置10aの機能であっても良い。また、意思決定者支援装置10aの機能として説明した機能の一部または全てを、ユーザ端末20aが備えても良い。この場合、ユーザ端末20aが意思決定者支援装置の一例となる。
【0200】
また、第2の実施形態において、医療従事者用端末20bの機能として説明した機能の一部または全てが意思決定者支援装置10bの機能であっても良い。また、意思決定者支援装置10bの機能として説明した機能の一部または全てを、医療従事者用端末20bが備えても良い。この場合、医療従事者用端末20bが意思決定者支援装置の一例となる。
【0201】
また、上述の各実施形態においては、ユーザ端末20aまたは医療従事者用端末20bの提示機能254を提示部の一例としたが、意思決定者支援装置10a,10bの送信機能158を、提示部の一例としても良い。
【0202】
(変形例6)
また、提示物90,92に含まれる情報は、努力、またはポジティブなものに限定されない。例えば、期間設定機能153によって設定された期間における対象者の行動であれば、特にポジティブなイベントではなくとも、提示対象としても良い。また、対象者自身ではなく、対象者の家族または友人の行動履歴または記録が、提示物90,92に含まれても良い。
【0203】
(変形例7)
また、上述の各実施形態では、意思決定者支援装置10a,10bは、提示物90,92を、ユーザ端末20aまたは医療従事者用端末20bに送信していたが、SNS等のアプリケーションサービスを提供するサーバに送信しても良い。すなわち、意思決定者支援装置10a,10bは、提示物90,92を直接的にユーザ端末20aに送信せずに、SNS等のアプリケーションサービスと連携し、アプリケーション内の機能として、対象者に提示させても良い。
【0204】
(変形例8)
上記各実施形態では、後悔の検知を努力情報及びポジティブイベントの収集及び提示物90の生成のトリガとしていたが、他のトリガが採用されても良い。例えば、対象者自身が、ユーザ端末20aまたは意思決定者支援装置10aに対して、努力情報及びポジティブイベントの収集及び提示物90の生成の開始を要求する操作をすることを、これらの処理のトリガとしても良い。
【0205】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、疾患に関する過去の意思決定に関して、意思決定者が現在感じている後悔を低減することができる。
【0206】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0207】
10a,10b 意思決定者支援装置
20a ユーザ端末
20b 医療従事者用端末
30a,30b 電子カルテシステム
90,92 提示物
91a~~91e アイコン
110,210 NWインタフェース
120,220 記憶回路
130,230 入力インタフェース
140,240 ディスプレイ
150,250 処理回路
151 特定機能
152 後悔検知機能
153 期間設定機能
154,159 収集機能
155 努力情報抽出機能
156 ポジティブイベント抽出機能
157 生成機能
158 送信機能
251 ストレス検知機能
252 送信機能
253 受信機能
254 提示機能
500 情報システム
S1,S2 意思決定者支援システム