(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】エンジンの運転状態判定装置、車両、及び、エンジンの運転状態判定方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20240704BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D45/00 364Z
F02D23/00 C
(21)【出願番号】P 2020566359
(86)(22)【出願日】2019-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2019000924
(87)【国際公開番号】W WO2020148805
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-07-09
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 遼
(72)【発明者】
【氏名】野口 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】安 秉一
【合議体】
【審判長】河端 賢
【審判官】山本 信平
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-54906(JP,A)
【文献】特開2009-127453(JP,A)
【文献】特開2018-84207(JP,A)
【文献】特開2017-66928(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0107924(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D45/00
F02D23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給器が搭載され、複数の気筒を有するエンジンを制御するためのエンジン用制御ユニットと独立に構成されたターボ用制御ユニットであって、
前記過給器のターボ回転数の時間的変化を検出するターボ回転数検出部と、
前記エンジンの1サイクル分の前記時間的変化に含まれる脈動成分から、前記エンジンのクランク軸の回転状態に同期する基準信号に基づいて、各気筒に対応する第1振動成分をそれぞれ特定する第1振動成分特定部と、
前記エンジンの複数サイクルにわたって、前記第1振動成分を気筒毎に積算する第1積算部と、
前記第1積算部の積算結果を気筒毎に比較することにより、前記複数の気筒
内における燃焼状態の
ばらつきの大きさを示す第1ばらつき
指標を算出する第1ばらつき算出部と、
前記第1ばらつき指標を第1閾値と比較することにより、前記エンジンの異常の有無を判定する第1判定部と、
前記エンジンの運転パラメータに対し
て補正制御を実施するように前記エンジン用制御ユニットに命令する補正制御命令部と、
を備え、
前記第1ばらつき算出部は、前記複数の気筒間のばらつきの大きさを示す第2ばらつき指標を更に算出し、
前記補正制御は、前記第1ばらつき指標及び前記第2ばらつき指標を抑制するために実施され、
前記第1判定部は、前記第1ばらつき指標が前記第1閾値以下である場合に、前記第2ばらつき指標を第2閾値と比較することにより、前記エンジンの異常の有無を判定し、
前記補正制御命令部は、前記第2ばらつき指標が前記第2閾値以下であり、且つ、前記第2閾値より小さい補正制御用閾値である第3閾値より大きい場合に前記補正制御を実施し、
前記第1振動成分特定部は、前記エンジンの1サイクル分の前記脈動成分のうち互いに隣接する極大値と極小値との差分であって、時間的に増加する領域を、前記第1振動成分として特定する、
ターボ用制御ユニット。
【請求項2】
前記領域は、前記脈動成分の極小値と、前記極小値から時間的に遅れ、且つ、最も早い極大値との振幅差である、請求項1に記載のターボ用制御ユニット。
【請求項3】
前記第1積算部は、前記エンジンの運転状態に関する正規化処理が実施された前記第1振動成分を積算する、請求項1又は2に記載のターボ用制御ユニット。
【請求項4】
前記第1振動成分特定部は、前記脈動成分の振幅が所定値以下である場合、前記第1振動成分の特定を実施しない、請求項1から3のいずれか一項に記載のターボ用制御ユニット。
【請求項5】
前記第1ばらつき指標は、各気筒に対応する前記第1振動成分の積算結果
の分散値
である、請求項1から4のいずれか一項に記載のターボ用制御ユニット。
【請求項6】
前記第2ばらつき指標は、各気筒に対応する前記第1振動成分の積算結果について前記積算結果の平均値との差分
である、請求項1から5のいずれか一項に記載のターボ用制御ユニット。
【請求項7】
前記第1判定部は、前記補正制御の実施回数が所定回数以上である場合、前記第1ばらつき算出部の算出結果に関わらず、前記エンジンに異常があると判定する、請求項1から6のいずれか一項に記載のターボ用制御ユニット。
【請求項8】
前記エンジンのサイクル毎に、前記ターボ回転数の時間的変化に含まれる各気筒の前記第1振動成分について振幅の大きさに基づく順位をそれぞれ特定する順位特定部を更に備え、
前記第1積算部は、前記エンジンの複数サイクルにわたって気筒毎に前記順位を積算し、
前記第1ばらつき算出部は、前記順位の積算結果を
複数の気筒
間において比較することにより、前記
第2ばらつき
指標を算出する、請求項1に記載のターボ用制御ユニット。
【請求項9】
各気筒について前記順位の平均値を算出し、各気筒の前記平均値が所定範囲内にあるか否かにもとづいて前記エンジンの異常の有無を判定する、請求項8に記載のターボ用制御ユニット。
【請求項10】
過給器が搭載され、複数の気筒を有するエンジンを制御するためのエンジン用制御ユニットと独立に構成されたターボ用制御ユニットであって、
前記過給器のターボ回転数の時間的変化を検出するターボ回転数検出部と、
前記エンジンの1サイクル分の前記ターボ回転数の時間的変化に含まれる脈動成分から、前記エンジンのクランク軸の回転状態に同期する基準信号に基づいて、各気筒に対応する第1振動成分をそれぞれ特定する第1振動成分特定部と、
前記エンジンの複数サイクルにわたって、前記第1振動成分を気筒毎に積算する第1積算部と、
前記第1積算部の積算結果を気筒毎に比較することにより、前記複数の気筒
内における燃焼状態のばらつき
の大きさを示す第1ばらつき指標を算出する第1ばらつき算出部と、
前記エンジンのサイクル毎に、前記ターボ回転数の時間的変化に含まれる各気筒の前記第1振動成分について振幅の大きさに基づく順位をそれぞれ特定する順位特定部と、
前記第1ばらつき指標を第1閾値と比較することにより、前記エンジンの異常の有無を判定する第1判定部と、
前記エンジンの運転パラメータに対し
て補正制御を実施するように前記エンジン用制御ユニットに命令する補正制御命令部と、
を備え、
前記第1ばらつき算出部は、前記複数の気筒間のばらつきの大きさを示す第2ばらつき指標を更に算出し、
前記補正制御は、前記第1ばらつき指標及び前記第2ばらつき指標を抑制するために実施され、
前記第1判定部は、前記第1ばらつき指標が前記第1閾値以下である場合に、前記第2ばらつき指標を第2閾値と比較することにより、前記エンジンの異常の有無を判定し、
前記補正制御命令部は、前記第2ばらつき指標が前記第2閾値以下であり、且つ、前記第2閾値より小さい補正制御用閾値である第3閾値より大きい場合に前記補正制御を実施し、
前記第1積算部は、前記エンジンの複数サイクルにわたって気筒毎に前記順位を積算し、
前記第1ばらつき算出部は、前記順位の積算結果を
複数の気筒
間において比較することにより、前記
第2ばらつき
指標を算出する、ターボ用制御ユニット。
【請求項11】
前記エンジンのエンジン回転数の時間的変化を検出するエンジン回転数検出部と、
前記エンジンの1サイクル分の前記エンジン回転数の時間的変化に含まれる脈動成分から、前記エンジンのクランク軸の回転状態に同期する基準信号に基づいて、各気筒に対応する第2振動成分をそれぞれ特定する第2振動成分特定部と、
前記エンジンの複数サイクルにわたって、前記第2振動成分を気筒毎に積算する第2積算部と、
前記第2積算部の積算結果を
複数の気筒
間において比較することにより、前記複数の気筒
間における燃焼状態の
ばらつきの大きさを示す第2ばらつき
指標を算出する第2ばらつき算出部と、
前記第2ばらつき
指標に基づいて、前記エンジンの各気筒における燃焼エネルギのばらつきを評価する第2判定部と、
前記第1判定部の判定結果と前記第2判定部の判定結果に基づいて、前記エンジンの運転状態が予め規定された分類のいずれに属するかを判定する第3判定部と、
を更に備える、請求項1から10のいずれか一項に記載のターボ用制御ユニット。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載のターボ用制御ユニッ
トを備える、車両。
【請求項13】
過給器が搭載され、複数の気筒を有するエンジンを制御するためのエンジン用制御ユニットと独立に構成されたターボ用制御ユニットを用いた前記エンジンの異常判定方法であって、
前記過給器のターボ回転数の時間的変化を検出する工程と、
前記エンジンの1サイクル分の前記時間的変化に含まれる脈動成分から、前記エンジンのクランク軸の回転状態に同期する基準信号に基づいて、各気筒に対応する第1振動成分をそれぞれ特定する工程と、
前記エンジンの複数サイクルにわたって、前記第1振動成分を気筒毎に積算する工程と、
前記第1振動成分の積算結果を気筒毎に比較することにより、前記複数の気筒
内における燃焼状態の
ばらつきの大きさを示す第1ばらつき
指標を算出する工程と、
前記第1ばらつき指標を第1閾値と比較することにより、前記エンジンの異常の有無を判定する工程と、
前記エンジンの運転パラメータに対し
て補正制御を実施するように前記エンジン用制御ユニットに命令する工程と、
を備え、
前記第1ばらつき指標を算出する工程では、前記複数の気筒間のばらつきの大きさを示す第2ばらつき指標を更に算出し、
前記補正制御は、前記第1ばらつき指標及び前記第2ばらつき指標を抑制するために実施され、
前記エンジンの異常の有無を判定する工程では、前記第1ばらつき指標が前記第1閾値以下である場合に、前記第2ばらつき指標を第2閾値と比較することにより、前記エンジンの異常の有無を判定し、
前記補正制御を実施する工程では、前記第2ばらつき指標が前記第2閾値以下であり、且つ、前記第2閾値より小さい補正制御用閾値である第3閾値より大きい場合に前記補正制御を実施し、
前記第1振動成分を特定する工程では、前記エンジンの1サイクル分の前記脈動成分のうち互いに隣接する極大値と極小値との差分であって、時間的に増加する領域を前記第1振動成分として特定する、エンジンの異常判定方法。
【請求項14】
前記領域は、前記脈動成分の極小値と、前記極小値から時間的に遅れ、且つ、最も早い極大値との振幅差である、請求項13に記載のエンジンの異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、過給器が搭載され、複数の気筒を有するエンジンの運転状態判定装置、当該運転状態判定装置を備える車両、及び、エンジンの運転状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの性能向上のために、エンジン制御ユニット(ECU:EngiNe Control Unit)等における電子制御技術の開発が進んでいる。複数の気筒を有するエンジンでは、このような電子制御技術の一つとして、気筒間の燃焼状態のばらつきを把握し、そのばらつきに基づいてエンジン異常の有無を判定したり、ばらつきを抑制するための補正制御を行うことが知られている。例えば、把握されたばらつきに基づいて各気筒における燃料噴射量や燃料噴射時期を調整することで、気筒間の個体差や経年劣化を補償することができる。またエンジン全体としてだけでなく、各気筒において空燃費が目標空燃費に一致するように制御することで、気筒間における燃焼状態を均一化することもできる。
【0003】
気筒間の燃焼状態のばらつきを把握するための手法として、各気筒に筒内圧センサを設置したり、各気筒の排気通路に酸素センサを設置することが考えられる。しかしながら、これらの手法では気筒数に応じてセンサを増設する必要があるため、コストが増加してしまう。そこで特許文献1では、増設を伴うことなく既設のセンサで検出可能なエンジン回転数の時間的変動に基づいて気筒間の燃焼状態のばらつきを評価することが提案されている。
【0004】
特許文献1では、エンジン回転数に含まれる脈動成分をクランク角と対応づけることで、各気筒による振動成分を特定し、気筒間の燃焼状態のばらつきを把握している。また、この文献では、エンジンの燃焼状態には一定の運転点においてもランダム要素が含まれるため、所定サイクルにわたって積算することでランダム要素を排除し、各気筒の燃焼状態のばらつきを評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、エンジン回転数の変動に基づいて気筒間のばらつきを把握しているが、エンジン回転数が検出されるクランク軸等は車軸側に連結されているため、エンジン回転数には車軸側(例えば走行路面)の外乱要因による影響が少なからず含まれる。そのため、車両の走行状態によっては外乱要因が大きくなってしまい、気筒間のばらつきを精度よく把握することが難しいことある。
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、気筒間のばらつきを精度よく評価することにより、エンジンの運転状態を的確に判定可能なエンジンの運転状態判定装置、車両、及び、エンジンの運転状態判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るエンジンの運転状態判定装置は上記課題を解決するために、
過給器が搭載され、複数の気筒を有するエンジンの運転状態判定装置であって、
前記エンジンのサイクル毎に、前記過給器のターボ回転数の時間的変化を検出するターボ回転数検出部と、
前記ターボ回転数の時間的変化に含まれる脈動成分から、各気筒に対応する第1振動成分を特定する第1振動成分特定部と、
前記エンジンの複数サイクルにわたって、前記第1振動成分を気筒毎に積算する第1積算部と、
前記第1積算部の積算結果を気筒毎に比較することにより、前記複数の気筒における燃焼状態のばらつきを算出する第1ばらつき算出部と、
を備える。
【0009】
上記(1)の構成によれば、過給器のターボ回転数の時間変化に含まれる脈動成分に基づいて、各気筒に対応する第1振動成分が特定される。各気筒に対応する第1振動成分は複数サイクルにわたってそれぞれ積算されることで、エンジン運転に伴うランダム要素が排除される。このように得られた積算結果を気筒毎に比較することにより、複数の気筒における燃焼状態のばらつきを求めることができる。過給器は排気エネルギによって駆動され、車軸側に連結されていないため、エンジン回転数のように車軸側からの影響を受けない。そのため、ターボ回転数の時間的変化に基づいて算出されるばらつきには、車軸側からの外乱要因が含まれず、良好な精度が得られる。
【0010】
(2)幾つかの実施形態では上記(1)の構成において、
前記第1積算部は、前記エンジンの運転状態に関する正規化処理が実施された前記第1振動成分を積算する。
【0011】
ターボ回転数の時間変化に含まれる脈動成分は、エンジンの運転状態に依存して変化する。上記(2)の構成によれば、エンジンの運転状態に関する正規化処理が実施された第1振動成分を積算することで、異なるエンジンの運転状態で検出されたターボ回転数の時間変化に含まれる脈動成分を同等に取り扱い、ばらつきを簡易的ながらも高精度に算出できる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では上記(1)又は(2)の構成において、
前記脈動成分の振幅が所定値以下である場合、処理を禁止する。
【0013】
ターボ回転数の時間的変化に含まれる脈動成分の振幅が所定値以下である場合、ノイズ成分が相対的に大きくなる。そのため、上記(3)の構成では、このようにノイズ成分が比較的大きくなる状況下では処理を禁止することで、判定精度の低下を防止できる。
【0014】
(4)幾つかの実施形態では上記(1)から(3)のいずれか一構成において、
前記第1振動成分特定部は、クランク軸の回転状態に同期する基準信号に基づいて、前記ターボ回転数の時間的変化に含まれる前記第1振動成分を、各気筒に対応づける。
【0015】
上記(4)の構成によれば、内燃機関のクランク軸の回転状態に同期する基準信号を取得することで、ターボ回転数の時間的変化に含まれる脈動成分から、各気筒に対応する第1振動成分を的確に識別することができる。
【0016】
(5)幾つかの実施形態では上記(1)から(4)のいずれか一構成において、
前記第1ばらつき算出部の算出結果に基づいて、前記エンジンの異常の有無を判定する第1判定部を備える。
【0017】
上記(5)の構成によれば、各気筒の燃焼状態のばらつきに基づいて、エンジンの異常判定を的確に実施できる。
【0018】
(6)幾つかの実施形態では上記(5)の構成において、
前記第1ばらつき算出部は、各気筒に対応する前記第1振動成分の積算結果について分散値を前記ばらつきとして算出し、
前記第1判定部は、前記分散値が第1閾値以上である場合に、前記エンジンに異常があると判定する。
【0019】
上記(6)の構成によれば、各気筒の燃焼状態のばらつきとして分散値が求められる。そして、当該分散値に基づいてばらつきが大きいと判断された場合に、エンジンに異常があると判定できる。
【0020】
(7)幾つかの実施形態では上記(5)又は(6)の構成において、
前記第1ばらつき算出部は、各気筒に対応する前記第1振動成分の積算結果について前記積算結果の平均値との差分を前記ばらつきとして算出し、
前記第1判定部は、前記差分が第2閾値以上である気筒について異常があると判定する。
【0021】
上記(7)の構成によれば、各気筒の燃焼状態のばらつきとして、各気筒の積算結果について平均値からの差分が求められる。そして、当該差分に基づいてばらつきが大きいと判断された気筒について異常があると判定できる。
【0022】
(8)幾つかの実施形態では上記(5)から(7)のいずれか一構成において、
前記第1判定部において前記エンジンに異常があると判定された場合、前記エンジンの運転パラメータに対して補正制御の実施を命令する補正制御命令部を更に備え、
前記第1判定部は、前記補正制御の実施回数が所定回数以上である場合、前記第1ばらつき算出部の算出結果に関わらず、前記エンジンに異常があると判定する。
【0023】
上記(8)の構成によれば、エンジンに異常がある場合には、エンジンの運転パラメータに対して補正制御を実施することで改善が試みられる。この場合、補正制御の実施回数がカウントされ、そのカウント数が所定回数異以上に達した場合には、内燃機関になんらかの不具合がある可能性が高く、ばらつきの算出結果に関わらず異常判定を行う。
【0024】
(9)幾つかの実施形態では上記(1)の構成において、
前記エンジンのサイクル毎に、前記ターボ回転数の時間変動に含まれる各気筒の前記第1振動成分について順位をそれぞれ特定する順位特定部を更に備え、
前記第1積算部は、前記エンジンの複数サイクルにわたって気筒毎に前記順位を積算する。
【0025】
上記(9)の構成によれば、ターボ回転数の時間的変化に含まれる脈動成分を解析することで得られる各気筒に対応する第1振動成分を互いに比較することにより、気筒間で順位付けがなされる。このような順位付けは複数サイクルにわたって繰り返され、気筒毎に順位が積算される。そして、各気筒の順位の積算結果を比較することにより、気筒間の燃焼状態のばらつきを把握してもよい。
【0026】
(10)幾つかの実施形態では上記(9)の構成において、
各気筒について前記順位の平均値を算出し、各気筒の前記平均値が所定範囲内にあるか否かにもとづいて前記エンジンの異常の有無を判定する。
【0027】
上記(10)の構成によれば、各気筒の順位の平均値が所定範囲を超えてばらつく場合には、エンジンに異常があると判定できる。
【0028】
(11)幾つかの実施形態では上記(1)から(10)のいずれか一構成において、
前記エンジンのサイクル毎に、前記エンジンのエンジン回転数の時間的変化を検出するエンジン回転数検出部と、
前記エンジン回転数の時間的変化に含まれる脈動成分から、各気筒に対応する第2振動成分を特定する第2振動成分特定部と、
前記エンジンの複数サイクルにわたって、前記第2振動成分を気筒毎に積算する第2積算部と、
前記第2積算部の積算結果を気筒毎に比較することにより、前記複数の気筒における燃焼状態のばらつきを算出する第2ばらつき算出部と、
前記第1ばらつき算出部の算出結果と前記第2ばらつき算出部の算出結果に基づいて、前記エンジンの運転状態を判定する第3判定部を更に備える。
【0029】
上記(11)の構成によれば、上述のターボ回転数の時間的変化に基づくばらつき算出に加えて、エンジン回転数の時間的変化についても同様にばらつき算出が行われる。このようにターボ回転数及びエンジン回転数に基づく2種類の手法によってばらつきを算出することで、エンジンの運転状態をより詳細に判定できる。
【0030】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る車両は上記課題を解決するために、
上記(1)から(11)のいずれか一構成の運転状態判定装置と、
前記運転状態判定装置の判定結果に基づいて、前記エンジンを制御する車両制御ユニットと、
を備える。
【0031】
上記(12)の構成によれば、上述の運転状態判定装置(上記各種態様を含む)は、エンジンを制御する車両制御ユニットとは独立した要素として構成される。運転状態の判定制御は運転状態判定装置で実施され、その判定結果が車両制御ユニットに送られることで、各種車両制御に利用される。このように運転状態判定に関する制御を専用ユニットで処理することで、車両制御ユニットにおける処理負担を効果的に軽減できる。
【0032】
(13)本発明の少なくとも一実施形態に係る内燃機関の運転状態判定方法は上記課題を解決するために、
過給器が搭載され、複数の気筒を有するエンジンの運転状態判定方法であって、
前記エンジンのサイクル毎に、前記過給器のターボ回転数の時間的変化を検出する工程と、
前記ターボ回転数の時間的変化に含まれる脈動成分から、各気筒に対応する第1振動成分を特定する工程と、
前記エンジンの複数サイクルにわたって、前記第1振動成分を気筒毎に積算する工程と、
前記第1振動成分の積算結果を気筒毎に比較することにより、前記複数の気筒における燃焼状態のばらつきを算出する工程と、
を備える。
【0033】
上記(13)の構成によれば、過給器のターボ回転数の時間変化に含まれる脈動成分に基づいて、各気筒に対応する第1振動成分が特定される。各気筒に対応する第1振動成分は複数サイクルにわたってそれぞれ積算されることで、エンジン運転に伴うランダム要素が排除される。このように得られた積算結果を気筒毎に比較することにより、複数の気筒における燃焼状態のばらつきを求めることができる。過給器は排気エネルギによって駆動され、車軸側に連結されていないため、エンジン回転数のように車軸側からの影響を受けない。そのため、ターボ回転数の時間的変化に基づいて算出されるばらつきには、車軸側からの外乱要因が含まれず、良好な精度が得られる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、気筒間のばらつきを精度よく評価することにより、エンジンの運転状態を的確に判定可能なエンジンの運転状態判定装置、車両、及び、エンジンの運転状態判定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の少なくとも一実施形態に係る運転状態判定装置を備えるエンジンの概略構成図である。
【
図2】
図1のターボ用制御ユニットの機能ブロック図である。
【
図3】
図2のターボ用制御ユニットによって実施される運転状態判定方法を工程毎に示すフローチャートである。
【
図4】
図2のターボ回転数センサで取得されるターボ回転数の時間的変化の一例である。
【
図5】
図2の第1積算部における積算結果の一例である。
【
図6】各気筒に対応する振幅同士を各サイクルで比較して順位付けし、その順位を積算した結果を示すヒストグラムである。
【
図7】各気筒における燃焼状態のばらつきを用いたエンジンの異常判定方法を工程毎に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0037】
図1は本発明の少なくとも一実施形態に係る運転状態判定装置を備えるエンジン1の概略構成図である。エンジン1は4気筒エンジンであり、
図1では構成をわかりやすく示すために、4気筒のうち1気筒だけを代表的に表している。エンジン1は、例えば車両などに搭載されたディーゼルエンジンであり、エンジン本体2におけるシリンダ4とピストン6の上面とによって画定される燃焼室8を有する。燃焼室8への燃料供給はコモンレールシステム10(CRS)により行われる。コモンレールシステム10では、燃料タンク(不図示)に貯留された燃料を高圧ポンプ12で高圧状態にしてコモンレール13に貯留し、コモンレール13に貯留された高圧燃料をインジェクタ14から噴射することにより、燃焼室8に燃料を供給する。
【0038】
尚、エンジン1はガソリンエンジンあってもよい。またエンジン1は、自動車、トラック、バス、船舶、産業用エンジン等の様々な分野に適用可能である。
【0039】
エンジン1は、ターボチャージャ20を備える。ターボチャージャ20は、エンジン本体2の燃焼室8から排出される排ガスによって回転するタービン20T、及び、タービン20Tによって回転駆動するコンプレッサ20Cを有する。より詳細には、エンジン1の吸気通路22に設置されたコンプレッサ20Cと、エンジン1の排気通路24に設置されたタービン20Tとが回転軸20Sで連結されている。そして、エンジン本体2の燃焼室8から排出される排ガスが排気通路24を通って外部に向けて流れる際にタービン20Tを回転させることにより、タービン20Tと同軸で結合されたコンプレッサ20Cが回転し、吸気通路22を流れる吸気を圧縮する。
【0040】
吸気通路22は、吸気の取り入れ口である不図示の吸気ダクトとコンプレッサ20Cの入口(吸気流入口)とを連通する上流側吸気通路22A、及び、コンプレッサ20Cの出口(吸気排出口)とエンジン本体2の吸気ポート26とを連通する下流側吸気通路22Bから形成されている。つまり、吸気ダクト(不図示)から吸入された空気(吸気)はエンジン本体2の燃焼室8に向けて上流側吸気通路22A、下流側吸気通路22Bの順に吸気通路22を流れる。上流側吸気通路22Aを流れる際には、吸気は、上流側吸気通路22Aに設けられたエアクリーナ28を通過することよって吸気に含まれる塵や埃などの異物が除去された後、コンプレッサ20Cを入口から出口へと通過する際に圧縮される。また、コンプレッサ20Cにより圧縮された吸気は、下流側吸気通路22Bを燃焼室8に向けて流れる際に、下流側吸気通路22Bに設けられた、冷却により吸気密度を高めるためのインタークーラ30、スロットルバルブ32を順に通過し、燃焼室8に入ることになる。
【0041】
排気通路24は、エンジン本体2の排気ポート34とタービン20Tの入口(排気流入口)とを連通する上流側排気通路24Aと、タービン20Tの出口(排気排出口)と外部とを連通する下流側排気通路24Bとから形成されている。燃焼室8での燃焼により生じた排ガス(燃焼ガス)は、外部に向けて上流側排気通路24A、下流側排気通路24Bの順に排気通路24を流れる。排気通路24の上流側排気通路24Aを通過した排ガスは、タービン20Tを入口から出口へと通過する際にタービン20Tを回転させる。その後、下流側排気通路24Bを通って外部に向けて流れる。
【0042】
ターボチャージャ20は、例えばVG(Variable Geometry)ターボチャージャ(可変容量型ターボチャージャ)であり、タービン動翼へ流入する排ガスの流速を調整可能な可変ノズル機構(不図示)を有する。可変ノズル機構は、エンジン1の運転状態に合わせてノズル開度を調整し、タービン動翼へ向かう排ガス圧力を調整することにより、過給圧を最適条件にコントロールする。具体的には、周知なように、エンジン1の低回転時にはノズル開度を小さくして排ガス圧力を高め、逆に、エンジン1の高回転時にはノズル開度を大きくする。
尚、ターボチャージャ20は、不図示のウエストゲート弁(WastegateValve)を備えるウエストゲート弁付きターボチャージャであってもよい。
【0043】
コンプレッサ20Cによる過給圧(ブースト圧)を検出するために、ブースト圧センサ36が下流側吸気通路22Bに設置されている。またコンプレッサ20Cの入口の圧力(入口圧力)を検出可能な入口圧力センサ37と、コンプレッサ20Cへ流入する吸気量を検出可能な吸気量センサ38とが上流側吸気通路22Aに設置されている。
【0044】
尚、エンジン1の各気筒のサイクルは、エンジン1のクランク角θを検出可能なクランク角センサ40の検出値から判定可能に構成されている。
【0045】
またターボチャージャ20には、ターボチャージャ20のターボ回転数Ntを検出するためのターボ回転数センサ42が設けられている。ターボ回転数センサ42では、ターボ回転数Ntを時系列的に連続検出することにより、ターボ回転数Ntの時間的変化が検出される。またエンジン1には、エンジン回転数Neを検出するためのエンジン回転数センサ44が設けられている。エンジン回転数センサ44では、エンジン回転数Neを時系列的に連続検出することにより、エンジン回転数Neの時間的変化が検出される。
【0046】
上記構成を有するエンジン1には、制御ユニットとして、ターボ用制御ユニット100と、エンジン用制御ユニット200とが設けられる。ターボ用制御ユニット100は、ターボチャージャ20の各種制御を実施するための専用ユニットであり、例えば、エンジン1の運転状態に合わせてノズル開度を調整し、タービン動翼へ向かう排ガス圧力を調整することにより、過給圧を最適条件にコントロールする。尚、エンジン1の運転状態は、例えば、ブースト圧センサ36、入口圧力センサ37、吸気量センサ38の各検出値に基づいて、コンプレッサ20Cの運転点を、入口圧力に対する出口圧力の圧力比(出口圧力/入口圧力)及び吸気量により検出することで特定可能に構成される。
【0047】
ターボ用制御ユニット100は、エンジン1のメイン制御ユニットであるエンジン用制御ユニット200とは独立的に構成されている。ターボ用制御ユニット100は、本発明の少なくとも一実施形態に係る運転状態判定装置として機能するように構成されており、例えば、本発明の少なくとも一実施形態に係る運転状態判定方法を実行するためのプログラムがインストールされた電子演算装置によって構成される。この場合、プログラムは所定の記録媒体に記録されていてもよく、電子演算装置に搭載される読み取り装置で読み取ることでインストールされる。また、本発明の少なくとも一実施形態に係る運転状態判定方法を実行するためのプログラム、及び、当該プログラムが記録された記録媒体もまた本願発明の範囲に含まれる。
【0048】
エンジン用制御ユニット200は、エンジン1のメイン制御ユニットであり、例えば、インジェクタ14からの燃料噴射量や燃料噴射時期を制御する燃焼制御を実施することにより、エンジン1の運転状態を制御する。このような燃焼制御は、例えば、アクセル開度センサ(不図示)で検出されるアクセルペダルの操作量、車両の走行状態、ターボ用制御ユニット100から取得されるターボチャージャ20の運転状態等に基づいて実施されるが、後述するようにターボ用制御ユニット100から得られる気筒間のばらつきに関する情報に基づいて、ばらつきを抑制するための補正制御等も実施可能に構成されている。
【0049】
図2は
図1のターボ用制御ユニット100の機能ブロック図であり、
図3は
図2のターボ用制御ユニット100によって実施される運転状態判定方法を工程毎に示すフローチャートである。
【0050】
ターボ用制御ユニット100は、
図2に示すように、ターボ回転数検出部102と、第1振動成分特定部104と、正規化処理部106と、第1積算部108と、第1ばらつき算出部110と、第1判定部112と、を備える。これらの機能ブロックは、運転状態判定方法をわかりやすく説明するために過給器用制御ユニットの内部構成を例示的に分割したものであるため、各機能ブロックは必要に応じて統合されていてもよいし、更に細分化されてもよい。
【0051】
運転状態判定方法が実施される際にはまず、ターボ用制御ユニット100は、ターボ回転数センサ42からターボ回転数Ntを時間的に連続取得する(ステップS100)。
図4は
図2のターボ回転数センサ42で取得されるターボ回転数Ntの時間的変化の一例である。
図4に示すように、ターボ回転数Ntは、エンジン1の運転状態に対応する代表値Ntsの近傍において、時間的に変動する脈動成分を含む。この脈動成分は、エンジン1が有する気筒数に対応する周波数を有する。本実施形態のエンジン1は4気筒エンジンであるため、1サイクル中に、各気筒に対応する4つの第1振動成分f1、f2、f3、f4が現れている。
【0052】
ターボ用制御ユニット100は、ステップS100で取得したターボ回転数Ntの時間的変化に含まれる脈動成分の振幅を特定し、当該振幅が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS101)。脈動成分の振幅が閾値未満である場合(ステップS101:NO)、ターボ用制御ユニット100は以降の各ステップの実施を禁止し、処理を終了する。これは、ターボ回転数Ntに含まれる脈動成分の振幅が小さいとノイズ成分が相対的に大きくなるため、判定精度が低下することを防止するためである。一方、脈動成分の振幅が閾値以上である場合(ステップS101:YES)、脈動成分に含まれるノイズ成分は相対的に小さくなるため、以降の処理が実施される。
尚、脈動成分の振幅は、例えば、1サイクル中に含まれる脈動成分のうち互いに隣接する極大値と極小値との差分として特定される。
【0053】
続いてターボ回転数検出部102は、ターボ回転数Ntの時間的変化を、エンジン1の1サイクル分取得したか否かを判定する(ステップS102)。具体的には、ターボ回転数Ntの時間的変化をモニタリングすることにより、ターボ回転数Ntの時間的変化に、エンジン1の気筒数に対応する波形が現れたか否かに基づいて1サイクル分の時間変化を取得したか否かが判定される。本実施形態では、エンジン1は4気筒エンジンであるため、ターボ回転数Ntの時間的変化に4つの波形(第1振動成分f1、f2、f3、f4)が確認された場合(ステップS102:YES)、1サイクル分の取得が完了したと判定される。一方、ターボ回転数Ntの時間的変化に4つ未満の波形しか確認されなかった場合(ステップS102:NO)、1サイクル分の取得が完了していないとして、処理がステップS100に戻される。
【0054】
続いて正規化処理部106は、ステップS102で取得された1サイクル分のターボ回転数Ntの時間的変化に対して正規化処理を実施する(ステップS103)。ターボ回転数Ntの時間的変化に含まれる脈動成分の大きさは、エンジン1の運転点に依存する。そのため、ステップS103では、異なる運転点で取得された脈動成分を同等に取り扱うための正規化処理が実施される。
【0055】
本実施形態では、このような正規化処理の一例として次式
ΔNt
normalized=(ΔNt-ΔNt
min)/(ΔNt
max-ΔNt
min)
が用いられる。ここでΔNtは、ターボ回転数Ntの時間変化に含まれる各第1振動成分f1、f2、f3、f4の振幅であり(
図4では、第1振動成分f1、f2、f3、f4に対応する振幅ΔNtを、それぞれΔNt1、ΔNt2、ΔNt3、ΔNt4で示している)、ΔNt
minは第1振動成分f1、f2、f3、f4の振幅のうち最小の振幅であり、ΔNt
maxは第1振動成分f1、f2、f3、f4の振幅のうち最大の振幅である。
【0056】
尚、振幅ΔNtは、
図4に示すように、ターボ回転数Ntの時間的変化のうち時間的に増加する領域に基づいて特定される(つまり脈動成分の極小値と、極小値から時間的に遅れ、且つ、最も早い極大値との振幅差として定義される)。これは、ターボチャージャ20が排気エネルギで駆動される挙動がターボ回転数Ntの増加領域に直接的に関連しているためである。
【0057】
続いて第1振動成分特定部104は、正規化処理が実施されたターボ回転数Ntの時間的変化から、各気筒に対応する振動成分f1、f2、f3、f4を特定する(ステップS104)。
図4に示すように、1サイクル分のターボ回転数Ntの時間的変化には各気筒に対応する振動成分f1、f2、f3、f4が含まれる。すなわち、1サイクル分のターボ回転数Ntの時間的変化に含まれる4つの波形は、第1気筒に対応する第1振動成分f1、第2気筒に対応する第2振動成分f2、第3気筒に対応する第3振動成分f3、第4気筒に対応する第4振動成分f4に対応する。
【0058】
第1振動成分特定部104は、エンジン1からクランク軸の回転状態に同期する基準信号として、クランク角センサ40からクランク角度情報を取得する。このように取得される基準信号を、1サイクル分のターボ回転数Ntの時間的変化に対応づけることにより、脈動成分に含まれる各振動成分がそれぞれどの気筒に対応するかが特定される。
【0059】
続いて第1積算部108は、ステップS104で特定された各気筒の振動成分f1、f2、f3、f4を、エンジン1の複数サイクルにわたって気筒毎に積算する(ステップS105)。
図5は
図2の第1積算部108における積算結果の一例であり、各気筒の振動成分f1、f2、f3、f4の分布がヒストグラムとして示されている。このような積算結果では、エンジン運転に伴うランダム要素が排除されており、各気筒の燃焼状態のばらつきに対応した分布が得られる。
【0060】
続いてステップS105の積算処理が、規定回数行われたか否かが判定される(ステップS106)。積算処理の規定回数は任意でもよいが、積算回数が少ないとエンジン運転に伴うランダム要素が残りやすく、一方で、積算回数が多すぎると演算負担が増加し、またリアルタイム処理が難しくなる。そのため、これらの要素を勘案して積算処理の規定回数が設定されるとよい。尚、
図5では、積算処理が十分多い回数実施されることにより、各気筒の分布がガウス分布的に示されている。
【0061】
続いて第1ばらつき算出部110は、複数の気筒間において第1振動成分f1、f2、f3、f4の積算結果を比較することにより、複数の気筒における燃焼状態のばらつきを算出する(ステップS107)。各気筒のばらつきは、例えば、各気筒の第1振動成分f1、f2、f3、f4の積算結果と、積算結果の平均値(
図5を参照)との差分を求められてもよいし、各気筒の振動成分の積算結果の分散値として求められてもよい。
【0062】
尚、前述の実施形態では、
図5に示すように、脈動成分から特定された各気筒に対応する第1振動成分f1、f2、f3、f4をそれぞれ積算し、その積算結果を比較することで気筒間のばらつきを判定していたが、脈動成分から特定された各気筒に対応する第1振動成分f1、f2、f3、f4を各サイクルで比較して順位付けし、その順位を積算した結果に基づいて気筒間のばらつきを判定してもよい。
【0063】
図6は各気筒に対応する振幅同士を各サイクルで比較して順位付けし、その順位を積算した結果を示すヒストグラムである。
図6では、各サイクルに含まれる4つの第1振幅成分f1、f2、f3、f4を比較することで、各気筒に対して振幅の大きさ順に順位付けがなされる。つまり、あるサイクルにおいて振幅が大きな気筒から小さな気筒に向けて順に、1位、2位、3位、4位が割り当てられる。このような順位付けを複数サイクルにわたって行い、各気筒における順位を集計することで、
図6に示すヒストグラムが得られる。この場合、各気筒について順位の積算値から平均順位を算出し、各気筒の平均順位が基準範囲内に収まるか否かに基づいて、気筒間のばらつきを評価できる。
【0064】
このように第1ばらつき算出部110では、ターボ回転数Ntの時間変化に含まれる脈動成分に含まれる、各気筒に対応する第1振動成分f1、f2、f3、f4の積算結果を比較することにより、複数の気筒における燃焼状態のばらつきを求めることができる。ターボチャージャ20は排気エネルギによって駆動され、車軸側に連結されていないため、エンジン回転数Neのように車軸側からの影響を受けない。そのため、ターボ回転数Ntの時間的変化に基づいて算出されるばらつきには、車軸側からの外乱要因が含まれず、良好な精度が得られる。
【0065】
次に、上述のように算出された各気筒における燃焼状態のばらつきに基づく、エンジン1の異常判定方法について説明する。
図7は各気筒における燃焼状態のばらつきを用いたエンジン1の異常判定方法を工程毎に示すフローチャートである。
【0066】
まず第1判定部112は、第1ばらつき算出部110から各気筒における燃焼状態のばらつきに関する情報を取得する(ステップS200)。ここで取得される情報は、前述のステップS107における算出結果である。ここでは、その一例として、各気筒の振動成分の積算結果の分散値として求められる第1ばらつき指標と、各気筒の振動成分の積算結果と積算結果の平均値との差分として求められる第2ばらつき指標と、が取得される。
【0067】
続いて第1判定部112は、ステップS200で取得した各気筒における燃焼状態のばらつきのうち、第1ばらつき指標(各気筒の第1振動成分f1、f2、f3、f4の積算結果の分散値)に基づいて、異常の有無を判定する(ステップS201)。具体的には、第1ばらつき指標が、異常判定用閾値である第1閾値以下であるか否かにより異常の有無が判定される。その結果、第1ばらつき指標が第1閾値より大きい場合(ステップS201:NO)、第1判定部112は、気筒内でのばらつきが大きいため、エンジン1に異常が有ると判定する(ステップS202)。
【0068】
一方、第1ばらつき指標が第1閾値以下である場合(ステップS201:YES)、第1判定部112は更に第2ばらつき指標(各気筒の第1振動成分f1、f2、f3、f4の積算結果と積算結果の平均値との差分)に基づいて、異常の有無を判定する(ステップS203)。具体的には、第2ばらつき指標が、異常判定用閾値である第2閾値以下であるか否かにより故障の有無を判定する。その結果、第2ばらつき指標が第2閾値より大きい場合(ステップS203:NO)、第1判定部112は、気筒間のばらつきが大きいため、エンジン1に故障が有ると判定する(ステップS204)。
【0069】
一方、第2ばらつき指標が第2閾値以下である場合(ステップS203:YES)、第2ばらつき指標を補正制御用閾値である第3閾値と更に比較することにより、ばらつきを抑制するために内燃機関に対して補正制御を実施するか否かを判定する(ステップS205)。第3閾値は、典型的には、第2閾値に比べて小さく設定される。この補正制御は、例えば、燃料噴射時期や燃料噴射量を調整することによって、ステップS200で取得した各気筒における燃焼状態のばらつきを軽減するための制御であり、ターボ用制御ユニット100からエンジン用制御ユニット200に対して命令されることで実施される。
【0070】
第2ばらつき指標が第3閾値以上である場合(ステップS205:YES)、補正制御の実施をエンジン用制御ユニット200に対して命令し(ステップS206)、補正制御の実施回数Nを加算する(ステップS207)。そして加算後の補正制御の実施回数Nが規定値以下であるか否かが判定される(ステップS208)。補正制御の実施回数Nが規定値より大きい場合(ステップS208:NO)、第1判定部112は、エンジン1に異常が有ると判定する(ステップS204)。これは燃焼状態のばらつきが比較的小さい場合であっても、補正制御の実施回数が多い場合には、エンジン1に異常がある可能性が高くなるからである。
【0071】
一方、補正制御の実施回数Nが規定値以下である場合(ステップS208:YES)、ターボ用制御ユニット100は、処理を終了する。また第2ばらつき指標が第3閾値より小さい場合(ステップS205:NO)もまた、実施回数Nをリセットし(ステップS209)、処理を終了する。
【0072】
このように第1判定部112では、第1ばらつき算出部110の算出結果である各気筒の燃焼状態のばらつきに基づいて、エンジンの異常判定を的確に実施できる。
【0073】
続いて上記実施形態の変形例について説明する。
図8は
図2の変形例である。
図8では、ターボ用制御ユニット100は、前述のターボ回転数検出部102と、第1振動成分特定部104と、正規化処理部106と、第1積算部108と、第1ばらつき算出部110と、第1判定部112と、を備える第1演算部150に加えて、エンジン回転数検出部114と、第2振動成分特定部116と、正規化処理部118と、第2積算部120と、第2ばらつき算出部122と、第2判定部124と、を備える第2演算部160を有する。
【0074】
第1演算部150は、
図1~
図7を参照して前述したように、ターボチャージャ20のターボ回転数Ntの時間的変化に基づいて気筒間の燃焼状態のばらつきに基づいた異常判定を行う。第2演算部160は、第1演算部150と比較してターボチャージャ20のターボ回転数Ntの時間変化に代えてエンジン回転数Neの時間的変化に基づいて気筒間の燃焼状態のばらつきを算出し、その算出結果を用いて異常判定を行う。すなわち第2演算部160はエンジン回転数Neの時間的変化を用いる点で第1演算部150と異なるが、その他は同等の制御を実施することにより、エンジン回転数Neに基づいた気筒間の燃焼状態のばらつきの算出、及び、当該ばらつきに基づいた異常判定を行う。
【0075】
また
図8では、第1演算部150の第1判定部112による判定結果と、第2演算部160の第2判定部124による判定結果とに基づいて、エンジン1の運転状態を判定する第3判定部126が備えられている。第1判定部112ではターボ回転数Ntの時間的変化に基づくばらつき判定がなされるため、各気筒における排気エネルギのばらつきが評価される。第2判定部124ではエンジン回転数Neの時間的変化に基づくばらつき判定がなされるため、各気筒における燃焼エネルギのばらつきが評価される。そのため第3判定部126では、これらの判定結果を組み合わせることで、エンジン1の運転状態をより詳細に判定できる。
【0076】
図9は
図8の第3判定部126による判定例である。第3判定部126では、上述のように、第1判定部112の判定結果と、第2判定部124の判定結果との組み合わせにより、エンジン1の運転状態が判定される。
図9では、第1判定部112の判定結果に基づいて評価される排気エネルギの大小と、第2判定部124の判定結果に基づいて評価される燃焼エネルギの大小との組み合わせによって、各気筒の運転状態が4種類の状態のいずれかに分類される。状態1は、排気エネルギ及び燃焼エネルギがともに大きいため、燃料噴射量が他の気筒に比べて多いことを示している。状態2は、排気エネルギが大きく、且つ、燃焼エネルギが小さいため、当該気筒の燃焼効率が悪いことを示している。状態3は、排気エネルギが小さく、且つ、燃焼エネルギが大きいため、当該気筒の燃焼効率が良いことを示している。状態4は、排気エネルギ及び燃焼エネルギがともに小さいため、燃料噴射量が他の気筒に比べて少ないことを示している。
【0077】
このように第3判定部126では、第1判定部112の判定結果と第2判定部124の判定結果に基づいて、各気筒を分類1~4のいずれかに分類することで、各気筒の燃焼状態について詳細な解析や故障検知が可能となる。またターボ用制御ユニット100は、第3判定部126の判定結果に基づいてエンジン用制御ユニット200に対して指令を行うことで、燃料噴射量や燃料噴射時期等のエンジン制御パラメータの補正指示を実施することで、エンジン1の気筒間のばらつきを軽減し、運転状態の改善を図ってもよい。
【0078】
以上説明したように本発明の少なくとも一実施形態によれば、気筒間のばらつきを精度よく評価することにより、エンジンの運転状態を的確に判定可能なエンジンの運転状態判定装置、車両、及び、エンジンの運転状態判定方法を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の少なくとも一実施形態は、過給器が搭載され、複数の気筒を有するエンジンの運転状態判定装置、当該運転状態判定装置を備える車両、及び、エンジンの運転状態判定方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 エンジン
2 エンジン本体
4 シリンダ
6 ピストン
8 燃焼室
10 コモンレールシステム
12 高圧ポンプ
13 コモンレール
14 インジェクタ
20 ターボチャージャ
20C コンプレッサ
20S 回転軸
20T タービン
22 吸気通路
24 排気通路
26 吸気ポート
28 エアクリーナ
30 インタークーラ
32 スロットルバルブ
34 排気ポート
36 ブースト圧センサ
37 入口圧力センサ
38 吸気量センサ
40 クランク角センサ
42 ターボ回転数センサ
44 エンジン回転数センサ
100 ターボ用制御ユニット
102 ターボ回転数検出部
104 第1振動成分特定部
106 正規化処理部
108 第1積算部
110 第1ばらつき算出部
112 第1判定部
200 エンジン用制御ユニット