(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】被印刷用金属基材およびその製造方法、ならびに塗装金属材
(51)【国際特許分類】
B32B 15/09 20060101AFI20240704BHJP
B32B 15/098 20060101ALI20240704BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240704BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20240704BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20240704BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240704BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
B32B15/09 Z
B32B15/098
B32B27/36
B32B27/42
B05D7/14 P
B05D7/24 301M
B05D7/24 301T
B05D7/24 302V
B05D7/24 302S
B05D3/00 D
(21)【出願番号】P 2021025282
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 成寿
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 慶子
(72)【発明者】
【氏名】尾和 克美
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-272953(JP,A)
【文献】特開2002-097408(JP,A)
【文献】特開2016-221439(JP,A)
【文献】特開2018-023963(JP,A)
【文献】特開2005-052997(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163941(WO,A1)
【文献】特開平08-168723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、
前記金属板上に配置された、数平均分子量が12000~30000のポリエステル樹脂およびメラミン樹脂を含む塗料の硬化物を含む被印刷層と、
を有し、
前記被印刷層の表面から深さ10nmまでの領域について、AlKα線をX線源として用い、X線電子分光分析法で深さ方向に組成を分析したとき、N原子、C原子、およびO原子の合計量に対するN原子の最大値が5~30atom%である、
活性エネルギー線硬化型組成物塗布用の被印刷用金属基材。
【請求項2】
前記メラミン樹脂が、少なくともブチル化メラミン樹脂と、前記ブチル化メラミン樹脂以外のメラミン樹脂と、の混合物である、請求項1に記載の被印刷用金属基材。
【請求項3】
前記被印刷層の表面のヨウ化メチレン転落角が、10°以上40°以下である、
請求項1または2に記載の被印刷用金属基材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の被印刷用金属基材と、
前記被印刷用金属基材の前記被印刷層上に配置された、活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物である、インク層と、
を有する、
塗装金属材。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の被印刷用金属基材の製造方法であって、
金属板上に、数平均分子量が12000~30000のポリエステル樹脂およびメラミン樹脂を含む塗料を塗布し、硬化させて被印刷層を形成する工程を含む、
活性エネルギー線硬化型組成物塗布用の被印刷用金属基材の製造方法。
【請求項6】
前記被印刷層に、フレーム処理またはコロナ放電処理を行う工程をさらに含む、
請求項5に記載の被印刷用金属基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被印刷用金属基材およびその製造方法、ならびに塗装金属材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、意匠性の高い塗装金属材が求められており、金属板上に様々な色の塗膜を形成したり、金属板表面に細かな模様を付したりすることが求められている。そこで、金属板上に、活性エネルギー線硬化型組成物を塗布することが検討されている。
【0003】
活性エネルギー線硬化型組成物は、活性エネルギー線の照射によって硬化する。そのため、溶剤吸収性を有さない基材上にも画像形成が可能である。しかしながら、活性エネルギー線硬化型組成物は、硬化の際の収縮が比較的大きい。そのため、活性エネルギー線硬化型組成物を画像形成に用いると、硬化物であるインク層が、各種基材から剥離しやすい、という課題があった。
【0004】
このような課題に対し、インク層の基材に対する密着性を高める方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、基材上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射した後、さらにヒーターで加熱する方法が記載されている。当該方法によれば、インク層の硬化性が高まることで、インク層と基材との密着性が高まる、と考えられる。また、特許文献2には、予備加熱した基材上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布する方法が記載されている。当該方法によれば、活性エネルギー線硬化型組成物を基材上に十分に濡れ広がらせることができ、インク層と基材との密着性が高まると考えられる。
【0005】
さらに、樹脂フィルム上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布する前に、樹脂フィルムをコロナ放電処理し、樹脂フィルムとインク層との密着性を高めることが、特許文献3および特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-009367号公報
【文献】特開2008-087242号公報
【文献】国際公開第2018/163941号
【文献】特開平9-300477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金属板上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布する場合、上記特許文献1~4のいずれの方法を行ったとしても、金属板とインク層との密着性を十分に高めることは難しかった。また特に、活性エネルギー線硬化型組成物の塗布厚みを厚くすると、硬化時に生じる硬化収縮量が大きくなり、インク層がさらに剥離しやすかった。
【0008】
そこで本発明は、活性光線エネルギー線硬化型組成物の硬化物を強固に密着させることが可能であり、かつ加工性や耐傷付き性が優れる被印刷層を有する被印刷用金属基材およびその製造方法、ならびに塗装金属材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の被印刷用金属基材を提供する。
金属板と、前記金属板上に配置された、数平均分子量が12000~30000のポリエステル樹脂およびメラミン樹脂を含む塗料の硬化物を含む被印刷層と、を有し、前記被印刷層の表面から深さ10nmまでの領域について、AlKα線をX線源として用い、X線電子分光分析法で深さ方向に組成を分析したとき、N原子、C原子、およびO原子の合計量に対するN原子の最大値が5~30atom%である、被印刷用金属基材。
【0010】
本発明は、以下の塗装金属材を提供する。
前記被印刷用金属基材と、前記被印刷用金属基材の前記被印刷層上に配置された、活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物である、インク層と、を有する、塗装金属材。
【0011】
本発明は、以下の被印刷用金属基材の製造方法を提供する。
上記被印刷用金属基材の製造方法であって、金属板上に、数平均分子量が12000~30000のポリエステル樹脂およびメラミン樹脂を含む塗料を塗布し、硬化させて被印刷層を形成する工程を含む、被印刷用金属基材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の被印刷用金属基材によれば、活性エネルギー線硬化型組成物を用いてインク層を形成したときに、インク層が剥離し難い。また、当該被印刷用金属基材が有する被印刷層は加工性や耐傷付き性が良好である。したがって、意匠性の高い、種々の塗装金属材を形成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例8の被印刷用金属基材の被印刷層について、X線電子分光分析法にて組成を深さ方向に分析したときの、N原子、C原子、およびO原子の合計に対する各元素の比率と、表面からの深さとの関係を表すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例5の被印刷用金属基材の被印刷層について、X線電子分光分析法にて組成を深さ方向に分析したときの、N原子、C原子、およびO原子の合計に対する各元素の比率と、表面からの深さとの関係を表すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例2の被印刷用金属基材の被印刷層について、X線電子分光分析法にて組成を深さ方向に分析したときの、N原子、C原子、およびO原子の合計に対する各元素の比率と、表面からの深さとの関係を表すグラフである。
【
図4】
図4は、比較例8の被印刷用金属基材の被印刷層について、X線電子分光分析法にて組成を深さ方向に分析したときの、N原子、C原子、およびO原子の合計に対する各元素の比率と、表面からの深さとの関係を表すグラフである。
【
図5】
図5は、比較例2の被印刷用金属基材の被印刷層について、X線電子分光分析法にて組成を深さ方向に分析したときの、N原子、C原子、およびO原子の合計に対する各元素の比率と、表面からの深さとの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.被印刷用金属基材
本発明の被印刷用金属基材は、少なくとも金属板と、当該金属板上に配置された被印刷層とを有していればよく、必要に応じて他の層をさらに含んでいてもよい。当該被印刷用金属基材は、例えば後述の活性エネルギー線硬化型組成物等を塗布し、インク層を形成するための基材として使用される。当該被印刷用基材は、プレコート金属板であってもよく、ポストコート金属板であってもよい。
【0015】
上述のように、金属板上に活性エネルギー線硬化型組成物を塗布することが従来検討されているが、活性エネルギー線硬化型組成物の硬化物であるインク層の密着性を高めることは難しく、特にインク層の厚みが厚くなるとこれらの界面で剥離が生じやすかった。その理由としては、活性エネルギー線硬化型組成物が硬化する際の収縮が大きく、硬化後のインク層内に残留応力が生じたり、硬化時に金属板とインク層との界面に応力が発生するため、インク層が剥離する、と考えられる。
【0016】
これに対し、本発明の被印刷用金属基材は、金属板上に被印刷層を有する。当該被印刷層は、数平均分子量が12000~30000のポリエステル樹脂およびメラミン樹脂を含む塗料の硬化物を含む。また、表面から深さ10nmまで、X線電子分光分析法(以下、「XPS法」とも称する)で深さ方向に組成を分析したとき、N原子、C原子、およびO原子の合計量に対するN原子の最大値が5~30atom%である。本発明者らの鋭意検討によれば、被印刷層の表面から深さ10nmまでの領域における、N原子、C原子、およびO原子の合計量に対するN原子の最大値が、上記インク層の剥離と密接に関係し、当該最大値を5~30atom%とすることで、上記インク層との密着性が高くなることが明らかとなった。また、上記最大値を上述の範囲とすることで、被印刷用金属基材の加工性や耐傷付き性等も良好になる。その理由としては、以下のように考えられる。
【0017】
被印刷層をXPSで分析したときに観察されるN原子は、主にメラミン樹脂由来のN原子であり、上述の最大値は、メラミン樹脂の表面への濃化度合いを表す指標となる。N原子の最大値が大きい被印刷層は、被印刷層の表面近傍におけるポリエステル樹脂の架橋密度が高く、被印刷層表面の硬度が高いといえる。このような被印刷層を有すると、被印刷用金属基材の耐傷付き性が良好になるが、硬度の高い被印刷層は、上述のインク層との密着性が低くなりやすく、加工性も低下しやすい。
【0018】
一方、N原子の最大値が小さい被印刷層は、被印刷層の表面近傍におけるポリエステル樹脂の架橋密度が低く、表面が柔軟である。このような被印刷層を有すると、上述のインク層と被印刷層との密着性が良好になりやすく、加工性が良好になるが、被印刷用金属基材の耐傷付き性等が低くなり、様々な用途に使用することが難しい。
【0019】
これに対し、上述のN原子の最大値を5atom%以上30atom%以下とすると、ポリエステル樹脂の架橋密度が適度になり、活性エネルギー線硬化型組成物が硬化の際に収縮したとしても、被印刷層によって応力を緩和できる。つまり、インク層内に残留応力が生じ難い。また、活性エネルギー線硬化型組成物の硬化収縮に合わせて、被印刷層が追従して変形可能である。したがって、被印刷層とインク層との間に応力が働き難く、これらの密着性を高められる。また、ポリエステル樹脂の架橋密度が適度な範囲となっているため、被印刷層の加工性や耐傷付き性も良好になる。
【0020】
なお、従来のポリエステル樹脂と、メラミン樹脂とを含む塗料から得られる塗膜では、このようなN原子の濃度を満たすことは難しかった。例えば従来、メラミン樹脂としてメチル化メラミン樹脂やブチル化メラミン樹脂等が知られているが、メチル化メラミン樹脂は表面に濃化し難く、一般的な配合量で使用すると、上記N原子の最大値が5atom%未満になりやすい。一方、ブチル化メラミン樹脂は表面に濃化しやすい傾向があり、一般的な配合量で使用すると、上記N原子の最大値が30atom%を超えやすい。そこで本願では、メラミン樹脂の量を調整したり、メラミン樹脂を複数組み合わせたりしたりすることで、上記N原子の最大値が所望の範囲になるように調整している。以下、本発明の被印刷用金属基材について詳しく説明する。
【0021】
・金属板
金属板は、後述の被印刷層を形成可能な構造を有していればよく、その形状は特に制限されない。例えば平板状であってもよく、立体的な構造を有していてもよい。また、金属板は、帯状等であってもよい。金属板の厚みは特に制限されず、塗装金属材の用途に応じて適宜選択される。
【0022】
また、金属板の材質は特に制限されず、溶融Znめっき鋼板、溶融Zn-55%Al合金めっき鋼板、溶融Zn-Al-Мg合金めっき鋼板、溶融Alめっき鋼板、電気Znめっき鋼板、電気Cuめっき鋼板等のめっき鋼板;普通鋼板やステンレス鋼板等の鋼板;アルミニウム板;銅板等が含まれる。金属板には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その表面に化成処理皮膜や下塗り塗膜等が形成されていてもよい。さらに、当該金属板は、本発明の効果を損なわない範囲で、エンボス加工や絞り成形加工等の凹凸加工がなされていてもよい。
【0023】
化成処理皮膜を形成するための化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理等が含まれる。化成処理皮膜の付着量は、耐食性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。
【0024】
さらに、下塗り塗膜は、金属板上に直接、または上記化成処理皮膜上に形成され、被印刷層の密着性を向上させたり、金属板の耐食性を向上させたりする層である。
【0025】
下塗り塗膜は、例えば樹脂を含む下塗り塗料を金属板または化成処理皮膜の表面に塗布し、乾燥(または硬化)させることで形成される。下塗り塗料が含む樹脂の種類は、特に限定されない。樹脂の例には、ポリエステル、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が含まれる。エポキシ樹脂は、極性が高く、かつ金属板に対する密着性が良好であることから特に好ましい。また、下塗り塗膜の厚みは、最終的な塗装金属材の用途や種類に合わせて適宜選択され、例えば5μm程度である。
【0026】
・被印刷層
被印刷層は、数平均分子量が12000~30000のポリエステル樹脂およびメラミン樹脂を含む塗料の硬化物を含む層である。当該被印刷層は、上述の金属板上に、数平均分子量が12000~30000のポリエステル樹脂およびメラミン樹脂を含む被印刷層形成用塗料を塗布し、硬化させる工程を行うことで形成される。
【0027】
当該被印刷層形成用塗料の硬化物からなる層をそのまま被印刷層としてもよいが、当該層にさらにフレーム処理またはコロナ放電処理を行った層を被印刷層とすることがより好ましい。フレーム処理やコロナ放電処理を行うことで、格段に被印刷層に対する後述のインク層の密着性が高まり、例えば厚みの厚いインク層を形成しても、剥離し難くなる。なお、これらの中でも特に、フレーム処理を行った被印刷層が、インク層の密着性等の観点で好ましい。
【0028】
被印刷層形成用塗料を、金属板上に塗布する方法は特に制限されず、金属板の形状や、形成する被印刷層のパターン、形成する被印刷層の面積等に合わせて適宜選択される。塗布方法の例には、インクジェット印刷法や、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法、エアースプレー法、エアーレススプレー法、浸漬引き上げ法等が含まれる。被印刷層形成用塗料を塗布する際に、これらの方法を2種以上組み合わせてもよい。
【0029】
被印刷層形成用塗料は、数平均分子量が12000~30000であるポリエステル樹脂と、メラミン樹脂と、を含んでいればよい。ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂は、被印刷層形成用塗料の硬化物(被印刷層)をXPS法で測定したときに、表面から10nmの領域におけるN原子、C原子、およびO原子の量に対するN原子の量が5~30atom%となるように、適宜組み合わせられる。例えば、ポリエステル樹脂の数平均分子量によって、メラミン樹脂の塗膜表面側への濃化度合いが異なる。ポリエステル樹脂の数平均分子量が大きい場合には、メラミン樹脂が塗膜表面に濃化し難くなる。そこで、表面に濃化しやすいブチル化メラミン樹脂の量を増やしたりすることが好ましい。一方、ポリエステル樹脂の数平均分子量が小さい場合には、ブチル化メラミン樹脂が塗膜表面に濃化しやすいため、ブチル化メラミン樹脂の量を減らし、かつブチル化メラミン樹脂以外のメラミン樹脂の量を増やしたりして、上述のN原子の量が所望の範囲になるよう、調整する。なお、被印刷層形成用塗料は必要に応じて触媒やアミン、体質顔料や着色顔料等、他の成分を含んでいてもよい。
【0030】
ポリエステル樹脂は、分子鎖中に複数のエステル構造を有する樹脂であればよく、通常、多価カルボン酸と多価アルコールとを重合させて調製できる。
【0031】
ここで、多価カルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類およびこれらの無水物;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸類およびこれらの無水物;γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン類;トリメリット酸、トリメジン酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸類;等が含まれる。ポリエステル樹脂は、上記多価カルボン酸由来のカルボン酸構造単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0032】
ポリエステル樹脂中の、多価アルコール由来のアルコール構造単位と、多価カルボン酸由来のカルボン酸構造単位との合計量に対する、3価以上の多価カルボン酸由来の構造単位の量の割合は、塗膜の架橋密度が過度に高まらないようにするために、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
【0033】
一方、多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-ドデカンジオール、1,2-オクタデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物等のグリコール類;トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類等が含まれる。ポリエステル樹脂は、上記多価アルコール由来のアルコール構造単位を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0034】
また、上記ポリエステル樹脂の数平均分子量は12000~30000であればよいが、12000~25000が好ましく、14000~23000がより好ましい。ポリエステル樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で特定されるスチレン換算値である。ポリエステル樹脂の数平均分子量が過度に小さいと、被印刷層の強度が低く、被印刷層の硬度が低くなりやすい。これに対し、ポリエステル樹脂の数平均分子量が12000以上であると、十分な強度(耐傷付き性)を有する被印刷層が得られる。一方、数平均分子量が30000以下であると、当該ポリエステル樹脂を含む塗料の粘度が過度に高まらず、当該ポリエステル樹脂を含む被印刷層形成用塗料を用いて塗膜を形成しやすくなる。さらに、被印刷層の加工性も高まる。
【0035】
また、ポリエステル樹脂の水酸基価は、3~40mgKOH/gが好ましく、5~20mgKOH/gがより好ましい。水酸基価は、0.5mol/L KOHアルコール溶液を用いてJIS K0070で規定された電位差滴定法により特定される。ポリエステル樹脂の水酸基価が当該範囲であると、金属板表面のOH基とポリエステル樹脂(被印刷層)中のOH基とが水素結合等しやすくなり、金属板と被印刷層との密着性が高まる。また同様に、ポリエステル樹脂(被印刷層)中のOH基が、インク層中の親水基とも水素結合しやすくなり、これらの密着性がさらに高まる。
【0036】
また、ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、-10~80℃が好ましく、0~50℃がより好ましい。ポリエステル樹脂のガラス転移温度が上記範囲であると、得られる被印刷層の加工性が良好になる。
【0037】
一方、被印刷層形成用塗料が含むメラミン樹脂は、メラミンとアルデヒドとを反応させて得られる熱硬化性の樹脂である。上記メラミン樹脂は、被印刷層をXPS法で分析したときに、上述のN原子の最大値を実現するように適宜選択される。メラミン樹脂は、トリアジン核1分子に対して3つの反応性官能基-NX1X2を有する。X1およびX2は、通常、CH2OR(Rはアルキル基)、CH2OH、または水素原子を表す。ただし、当該構造に限定されない。
【0038】
メラミン樹脂の具体例には、3つの反応性官能基が、いずれも-N-(CH2OR)2で構成される完全アルキル型メラミン樹脂;少なくとも一つの反応性官能基が、-N-(CH2OR)(CH2OH)であるメチロール基型メラミン樹脂;少なくとも一つの反応性官能基が、-N-(CH2OR)(H)であるイミノ基型メラミン樹脂;反応性官能基として-N-(CH2OR)(CH2OH)および-N-(CH2OR)(H)を含む、あるいは-N-(CH2OH)(H)を含むメチロール/イミノ基型メラミン樹脂;の4種類が含まれる。また、メラミン樹脂は、反応性官能基どうしが縮合した、メラミンの多量体であってもよい。また、被印刷層形成用塗料は、メラミン樹脂を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0039】
メラミン樹脂の反応性基が有するR、すなわちアルキル基は炭素数1~4であるアルキル基が好ましく、アルキル基は直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。これらの中でもメチル基またはブチル基が特に好ましい。
【0040】
メラミン樹脂は、市販されている樹脂であってもよい。市販されているメラミン樹脂の例には、オルネクスジャパン社製のサイメル232、サイメル232S、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル266、サイメル267、サイメル285等の完全アルキル型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;オルネクスジャパン社製のサイメル272等のメチロール基型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;オルネクスジャパン社製のサイメル202、サイメル207、サイメル212、サイメル253、サイメル254等のイミノ基型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂;オルネクスジャパン社製のサイメル300、サイメル301、サイメル303、サイメル350等の完全アルキル型メチル化メラミン樹脂(「完全アルキル型メチルエーテル化メラミン樹脂」と称されることもある);オルネクスジャパン社のサイメル325、サイメル327、サイメル703、サイメル712、サイメル253、サイメル212、サイメル1128等のイミノ基型メチル化メラミン樹脂;オルネクスジャパン社製のサイメル370等のメチロール基型メチル化メラミン樹脂;三井化学社製のユーバン20SE60、DIC社製のスーパーベッカミンJ830等のブチル化メラミン樹脂(「ブチルエーテル化メラミン樹脂」と称されることもある);が含まれる。
【0041】
なお、本明細書における「メチル化メラミン樹脂」とは、完全アルキル型メチルエーテル化メラミン樹脂、イミノ基型メチルエーテル化メラミン樹脂、メチロール基型メチルエーテル化メラミン樹脂、またはこれらの混合樹脂を指す。「ブチル化メラミン樹脂」とは、完全アルキル型ブチルエーテル化メラミン、イミノ基型ブチルエーテル化メラミンを主構造とするブチルエーテル化メラミン樹脂、またはこれらの混合樹脂を指す。また、完全アルキル型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂や、メチロール基型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂、イミノ基型メチル/ブチル混合エーテル化メラミン樹脂等、メチル基およびブチル基を併せ持つメラミン樹脂を「メチル/ブチル混合メラミン樹脂」とも称する。
【0042】
メラミン樹脂は、上記の中から選ばれるメラミン樹脂を1種のみ含んでいてもよいが、被印刷層をXPS法で分析したときに上述のN原子の量を実現可能であるとの観点で、メラミン樹脂を2種以上含むことが好ましく、ブチル化メラミン樹脂とその他のメラミン樹脂、すなわちメチル化メラミン樹脂やメチル/ブチル混合メラミン樹脂との混合物であることがより好ましい。また、ブチル化メラミン樹脂とメチル化メラミン樹脂との混合物であることが特に好ましい。この場合、ブチル化メラミン樹脂とメチル化メラミン樹脂との質量比は、1:1~1:8が好ましく、2:3~1:6がより好ましい。なお、メラミン樹脂は、3種以上のメラミン樹脂を含んでいてもよい。
【0043】
被印刷層形成用塗料が含むポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の比(質量比)は、90:10~60:40が好ましく、85:15~70:30程度がより好ましい。ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の質量比が当該範囲であると、耐候性や耐衝撃性に優れた被印刷層が得られる。
【0044】
被印刷層形成用塗料の固形分100質量部に対する、ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の合計量は、30~80質量部が好ましく、50~70質量部がより好ましい。ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の合計量が当該範囲であると、被印刷層形成用塗料から得られる被印刷層の強度が十分に高まりやすい。さらに、被印刷層とインク層との密着性が良好になりやすい。
【0045】
被印刷層形成用塗料は、触媒をさらに含んでいてもよい。触媒の例には、ドデシルベンゼンスルフォン酸、パラトルエンスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸等が含まれる。触媒の使用量は、被印刷層形成用塗料の固形分総量に対して0.1~8質量%が好ましい。
【0046】
さらに、被印刷層形成用塗料はアミンをさらに含んでいてもよい。アミンは、触媒を中和するための化合物であり、その例には、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミン等が含まれる。アミンの使用量は、特に限定されないが、酸(触媒)当量の50モル%以上が好ましい。
【0047】
また、被印刷層形成用塗料は、体質顔料(ビーズを含む)や着色顔料等をさらに含んでいてもよい。体質顔料の例には、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ、樹脂ビーズ、ガラスビーズ等が含まれる。樹脂ビーズの例には、アクリル樹脂ビーズ、ポリアクリロニトリルビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリプロピレンビーズ、ポリエステルビーズ、ウレタン樹脂ビーズ、エポキシ樹脂ビーズ等が含まれる。
【0048】
これらの樹脂ビーズは、公知の方法を用いて製造したものでもよく、市販品を利用してもよい。市販のアクリル樹脂ビーズの例には、東洋紡株式会社の「タフチック AR650S(平均粒径18μm)」、「タフチック AR650M(平均粒径30μm)」、「タフチック AR650MX(平均粒径40μm)」、「タフチック AR650MZ(平均粒径60μm)」、「タフチック AR650ML(平均粒径80μm)」、「タフチック AR650L(平均粒径100μm)」および「タフチック AR650LL(平均粒径150μm)」が含まれる。また、市販のポリアクリロニトリルビーズの例には、東洋紡株式会社の「タフチック A-20(平均粒径24μm)」、「タフチック YK-30(平均粒径33μm)」、「タフチック YK-50(平均粒径50μm)」および「タフチック YK-80(平均粒径80μm)」が含まれる。被印刷層形成用塗料は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0049】
一方、着色顔料の例には、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、黄色酸化鉄、フタロシアニンブルー、コバルトブルー等が含まれる。顔料の量は、顔料の種類、粒径等に応じて適宜選択される。被印刷層形成用塗料は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0050】
被印刷層形成用塗料は、必要に応じて溶媒をさらに含んでいてもよい。溶媒は、上記ポリエステル樹脂やメラミン樹脂を十分に溶解させたり、上記体質顔料や着色顔料等を均一に分散させたりすることが可能であれば特に制限されない。溶媒の例には、トルエン、キシレン、Solvesso(登録商標)100(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)150(商品名、エクソンモービル社製)、Solvesso(登録商標)200(商品名、エクソンモービル社製)等の炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;n-メチルピロリドン;エチル-3-エトキシ-プロピオネート等が含まれる。被印刷層形成用塗料は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。これらの中でも、ポリエステル樹脂やメラミン樹脂との相溶性等の観点で、好ましくはキシレン、Solvesso(登録商標)100、Solvesso(登録商標)150、シクロヘキサノン、n-ブチルアルコールである。
【0051】
上記被印刷層形成用塗料の調製方法は特に制限されず、ポリエステル樹脂と、メラミン樹脂と、必要に応じて他の成分を公知の方法で混合すればよい。
【0052】
そして、金属板上に、上記被印刷層形成用塗料を塗布後、被印刷層形成用塗料を加熱し(以下、「焼き付け」とも称する)硬化させる。焼き付けの方法は特に制限されないが、金属板を、到達板温が150~250℃の範囲内となるように加熱することが好ましい。
【0053】
また、上記被印刷層形成用塗料の焼き付け後、被印刷層をフレーム処理する場合には、被印刷層を形成した金属板をベルトコンベア等の搬送機に載置する。そして、一定方向に移動させながら、フレーム処理用バーナーで被印刷層に火炎を放射する。
【0054】
ここで、フレーム処理量は、100~600kJ/m2が好ましい。本明細書における「フレーム処理量」とは、LPガス等の燃焼ガスの供給量を基準として計算される金属基材の単位面積当たりの熱量である。当該フレーム処理量は、フレーム処理用バーナーのバーナーヘッドと被印刷層表面との距離、被印刷層の搬送速度等によって調整できる。フレーム処理量が100kJ/m2以上であると、被印刷層表面全体が均一に処理されやすくなる。一方、フレーム処理量が600kJ/m2以下であると、被印刷層が黄変等し難い。
【0055】
なお、上記フレーム処理前に、被印刷層表面を40℃以上に加熱する予熱処理を行ってもよい。熱伝導率が高い金属基材(例えば、熱伝導率が10W/mK以上の金属基材)表面に形成された被印刷層に火炎を照射すると、燃焼性ガスの燃焼によって生じた水蒸気が冷やされて水となり、一時的に被印刷層の表面に溜まる。そして、当該水がフレーム処理時のエネルギーを吸収して水蒸気となることで、フレーム処理が阻害されることがある。これに対し、被印刷層表面を予め加熱しておくことで、火炎照射時の水の発生を抑えることができる。
【0056】
被印刷層を予熱する手段は特に限定されず、金属板の形状等に合わせて適宜選択される。例えば、一般に乾燥炉と呼ばれる加熱装置を使用することができる。例えば、バッチ式の乾燥炉(「金庫炉」とも称する。)を使用でき、その具体例には、株式会社いすゞ製作所社製低温恒温器(型式 ミニカタリーナ MRLV-11)、東上熱学社製自動排出型乾燥器(型式 ATO-101)、および東上熱学社製簡易防爆仕様乾燥器(型式 TNAT-1000)等が含まれる。
【0057】
一方、被印刷層にコロナ放電処理を行う場合には、被印刷層を形成した金属板を、絶縁された電極と、接地された対極誘電体ロールとの間に載置する。そして、これらの間に、1~600KHz、5~30KVの高周波、高電圧を印加し、コロナ放電を生じさせる。コロナ放電処理装置としては、スパークギャップ方式、真空管方式、ソリッドステート方式等があり、いずれも使用できる。コロナ放電処理条件は、200w/m2/分以上が好ましく、200~800w/m2/分がより好ましい。200w/m2/分未満であるとコロナ放電処理量が不十分になることがあり、800w/m2/分を越えると、処理が過剰となるので経済上好ましくない。
【0058】
ここで、被印刷層の厚みは、特に制限されないが、例えば10~40μmが好ましく、12~25μmがより好ましい。被印刷層の厚みが10μm以上であると、被印刷層の耐久性が良好になりやすい。また、被印刷層が柔軟になりやすく、後述のインク層の密着性が高まりやすくなる。一方、厚みが40μm以下であると、上記加熱時にワキが発生し難く、表面状態が良好になりやすい。さらに、被印刷層の表面状態が良好であると、後述の活性エネルギー線硬化型組成物が均一に濡れ広がりやすく、これから得られるインク層と被印刷層との密着性が高まりやすい。
【0059】
上述のように、被印刷層の表面から深さ10nmまでの領域について、AlKα線をX線源として用い、XPS法で深さ方向に組成を分析したとき、N原子、C原子、およびO原子の合計量に対するN原子の最大値が5~30atom%であればよいが、12~28atom%がより好ましく、15~25atom%がさらに好ましい。上記被印刷層の表面から深さ10nmまでの各原子の濃度は、XPS分析装置により、以下の条件で、被印刷層の表面から深度10nmまで、エッチングしながら測定する。
(測定条件)
測定装置:アルバック・ファイ製VersaprobeII 走査型X線光電子分光装置
X線源:AlKα (モノクロ:50W、15kV) 1486.6eV
分析領域:1.0×1.0mm2
Pass Energy:5.85eV(C1s, O1s)、187.85eV(N1s)
帯電中和利用(電子中和+イオン銃)
分析室真空度:1.0×10-7Pa
(エッチング条件)
エッチング条件:Ar-ガスクラスターイオンビーム
加速電圧:5kV
エッチングレート:約1nm/分(ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)換算)
【0060】
ここで、被印刷層の表面に、後述の活性エネルギー線硬化型インクを十分に濡れ広がらせるためには、被印刷層の表面が均一に親水化されていることが好ましい。被印刷層の表面が、均一に親水化されているか否かは、以下のヨウ化メチレン転落角によって評価できる。例えば、被印刷層のヨウ化メチレン転落角が10°以上40°以下である場合には、表面が均一に親水化されているといえる。なお、ヨウ化メチレン転落角は35°以下がより好ましい。
【0061】
ヨウ化メチレン転落角は、被印刷層表面の親水性が十分に高い場合や、被印刷層表面の粗度が粗い場合に、上記範囲に収まりやすい。ただし、被印刷層の親水性が不均一である場合には、ヨウ化メチレン転落角が40°より高くなる。例えば、コロナ処理で表面処理されている場合には、ヨウ化メチレン転落角が40°超となりやすい。これに対し、フレーム処理が行われている場合には、表面が均一に親水化されており、ヨウ化メチレン転落角が40°以下となる。
【0062】
なお、コロナ放電処理等によって、被印刷層表面の親水性が不均一となった場合に、ヨウ化メチレン転落角が40°より大きくなる理由は、以下のように考えられる。表面に親水基および疎水基をそれぞれ同数ずつ有する2種類の塗膜が有り、一方は親水基と疎水基との分布に偏りが無く、他方は親水基と疎水基との分布に偏りが有ると仮定する。このとき、両者の静的接触角は、親水基および疎水基の分布に左右され難く、略同一となる。これに対し、両者の動的接触角(ヨウ化メチレン転落角)は、親水基および疎水基の分布によって左右され、異なる値となる。ヨウ化メチレン転落角を測定する際、親水基および疎水基の分布が不均一であると、親水基の密度が高い部分にヨウ化メチレン滴が吸着される。つまり、親水基と疎水基との分布に偏りが有ると、分布ムラがない場合と比較してヨウ化メチレン滴が動き難くなり、転落角が大きくなる。したがって、コロナ放電処理のように、被印刷層表面に親水基が多数導入されるものの、その分布にはムラがある場合には、ヨウ化メチレン転落角が40°を超える高い値となる。
【0063】
なお、ヨウ化メチレン転落角は、以下のように測定される値である。まず、被印刷層上に2μlのヨウ化メチレンを滴下する。その後、接触角測定装置を用いて、2度/秒の速度で被印刷層の傾斜角度(重力に垂直な平面と被印刷層とがなす角度)を大きくする。このとき、接触角測定装置に付属しているカメラによって、ヨウ化メチレンの液滴を観察する。そして、ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間の傾斜角度を特定し、5回の平均値を当該被印刷層のヨウ化メチレン転落角とする。なお、ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間とは、ヨウ化メチレン(液滴)の重力下方向の端点および重力上方向の端点の両方が動き出す瞬間とする。
【0064】
2.塗装金属材
塗装金属材は、上述の被印刷用金属基材と、当該被印刷用金属基材の被印刷層上に配置された、活性エネルギー線硬化型組成物(以下、「硬化型組成物」とも称する)の硬化物であるインク層と、を有する。インク層は、被印刷層が形成された全ての領域に配置されていてもよく、被印刷層が形成された領域のうちの一部のみに配置されていてもよい。
【0065】
インク層は、1種(例えば1色)のみの硬化型組成物の硬化物であってもよく、2種以上(例えば2色以上)の硬化型組成物の硬化物であってもよい。硬化型組成物の組成については後述する。また、硬化型組成物の種類や、配置面積、配置パターン等は、塗装金属材の用途に合わせて適宜選択される。また、本明細書における活性エネルギー線の例には、電子線、紫外線、α線、γ線、エックス線等が含まれる。
【0066】
硬化型組成物の塗布方法は特に制限されず、公知の方法から適宜選択される。硬化型組成物の塗布方法の例には、インクジェット印刷法や、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、ロールコート法、バーコート法等が含まれる。これらの中でも、多色の模様や、複雑な模様を短時間で容易に形成できるという観点でインクジェット法が好ましい。硬化型組成物の塗布の際には、これらを組み合わせてもよい。
【0067】
さらに、硬化型組成物の塗布量は特に制限されず、硬化後の厚みが5~150μm程度となるように塗布することが好ましく、10~100μm程度とすることがより好ましい。なお、硬化型組成物を同一箇所に複数回塗布して、上記厚みを達成してもよい。上述のように、一般的には、硬化型組成物の塗布量が多くなると、硬化時の硬化収縮が大きくなり、得られるインク層が剥離しやすくなる。しかしながら、上記被印刷用金属基材(特にフレーム処理を行った被印刷層を有する場合)は、被印刷層と形成されるインク層との密着性が高く、例えば40μm以上の厚みを有するインク層を形成しても剥離が生じ難い。
【0068】
なお、硬化後のインク層の厚みが連続的、または断続的に変化するように、硬化型組成物を塗布してもよい。一般的な被印刷層上に、厚みの異なる被印刷層を形成すると、インク層の厚みの厚い箇所と厚みの薄い箇所とで、密着性が変化し、密着性の低い箇所から剥離してしまうことがある。これに対し、上記被印刷用金属基材(特にフレーム処理を行った被印刷層を有する場合)では、インク層の厚みが薄い場合、およびインク層の厚みが厚い場合のいずれにおいても、インク層と被印刷層との密着性が高い。したがって、厚みが変化するインク層を形成しても、剥離が生じ難い。
【0069】
硬化型組成物の塗布後、その塗膜に、活性エネルギー線を照射し、硬化させる。活性エネルギーは、電子線、紫外線、α線、γ線、およびエックス線のいずれかとすることができる。これらの中でも、エネルギー効率や、大掛かりな装置が不要であるとの観点で、電子線または紫外線が好ましく、特に紫外線が好ましい。
【0070】
照射する活性エネルギー線の量は、後述の硬化型組成物中の光重合開始剤や光酸発生剤の種類や量等に応じて適宜選択される。また、照射する活性エネルギー線の主波長も、光重合開始剤や光酸発生剤の種類に応じて適宜選択され、例えば波長360~425nmとすることができる。
【0071】
なお、硬化型組成物を複数種塗布する場合、硬化型組成物を1種塗布する毎に、活性エネルギー線の照射を行ってもよく、硬化型組成物を複数種塗布してから、活性エネルギー線の照射を行ってもよい。
【0072】
・硬化型組成物
上記被印刷層上に塗布する硬化型組成物は、従来、金属板への印刷に使用されている公知の組成物であってもよい。硬化型組成物には、ラジカル重合型組成物とカチオン重合型組成物が存在し、本発明では、いずれも使用可能である。
【0073】
ラジカル重合型組成物は、例えば、光重合性化合物、光重合開始剤、および着色剤を含む組成物とすることができる。光重合性化合物は、活性エネルギー線の照射時に反応性を示す光重合性基を少なくとも1つ有する化合物であればよい。光重合性化合物の例には、(メタ)アクリロイルオキシ基を1以上6以下有する、公知の(メタ)アクリル系モノマーまたは(メタ)アクリル系オリゴマーが含まれる。なお、本明細書において(メタ)アクリロイルとの記載は、メタクリロイルおよびアクリロイルのいずれか一方、もしくは両方を表し、(メタ)アクリルとの記載は、メタクリルおよびアクリルのいずれか一方、もしくは両方を表す。ラジカル重合型組成物は、光重合性化合物を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0074】
ラジカル重合型組成物は、上記光重合性化合物を固形分中に50~90質量%含むことが好ましい。ラジカル重合型組成物中の光重合性化合物の量が当該範囲であると、ラジカル重合型組成物が上述の被印刷層上に十分に濡れ広がりやすく、インク層が被印刷層に密着しやすくなる。
【0075】
一方、光重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって、ラジカルを発生可能な化合物であればよく、活性エネルギー線の波長に対応する吸収波長を有する化合物が好ましい。光重合開始剤の例には、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、フォスフィンオキサイド系化合物等が含まれる。特にフォスフィンオキサイド系化合物は370nm以上に吸収波長を有することから、インク層の深部硬化を促進するために添加することがより好ましい。ラジカル重合型組成物は、光重合開始剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0076】
ラジカル重合型組成物は、上記光重合開始剤を固形分中に1~25質量%含むことが好ましい。ラジカル重合型組成物中の光重合開始剤の量が当該範囲であると、上記光重合性化合物を硬化させることが可能となる。
【0077】
また、着色剤の種類は特に制限されず、公知の顔料または染料を使用できる。ラジカル重合型組成物は、着色剤を固形分中に0.1~10質量%含むことが好ましい。ラジカル重合型組成物は、着色剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0078】
一方、カチオン重合型組成物は、光重合性化合物と、光酸発生剤と、着色剤とを含む組成物とすることができる。
【0079】
光重合性化合物は、活性エネルギー線の照射時に反応性を示す光重合性基を少なくとも1つ有する化合物であればよい。光重合性化合物の例には、オキシラン基を有するエポキシ化合物が含まれる。エポキシ化合物の例には、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、および脂肪族エポキシドが含まれる。
【0080】
また、光重合性化合物は、脂肪酸エステル、脂肪酸グリセライドにエポキシ基を導入したエポキシ化脂肪酸エステルやエポキシ化脂肪酸グリセライド等であってもよい。さらに、光重合性化合物は、オキセタン環を含有する化合物やビニルエーテル化合物であってもよい。カチオン重合型組成物は、光重合性化合物を1種のみを含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0081】
また、カチオン重合型組成物は、上記光重合性化合物を固形分中に60~95質量%含むことが好ましい。カチオン重合型組成物中の光重合性化合物の量が当該範囲であると、カチオン重合型組成物が上述の被印刷層上に十分に濡れ広がりやすく、インク層が被印刷層に密着しやすくなる。
【0082】
光酸発生剤は、例えば、芳香族オニウム化合物の塩;スルホン酸を発生するスルホン化物;ハロゲン化水素を発生するハロゲン化物等が含まれる。カチオン重合型組成物は、上記光酸発生剤を固形分中に3~20質量%含むことが好ましい。カチオン重合型組成物中の光酸発生剤の量が当該範囲であると、上記光重合性化合物を十分に硬化させることが可能となる。
【0083】
また、カチオン重合型組成物が含む着色剤は、ラジカル重合型組成物が含む着色剤と同様である。
【0084】
上記硬化型組成物は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分の例には、重合禁止剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、可塑剤、防錆剤、溶剤、非反応性ポリマー、充填剤、pH調整剤、消泡剤、荷電制御剤、応力緩和剤、表面調整剤等が含まれる。
【0085】
・塗装金属材の用途
上述の塗装金属材の用途は特に制限されず、金属製の基材を使用する部材や用途であれば、多種多様なものに使用できる。用途の例には、冷蔵庫外板や電子レンジ外板、パソコン筐体、エアコン筐体等の家電;パーテーションや扉、天井材、床材、エレベータ用扉、エレベータ用内装パネル、等の内装化粧建材;レンジフードや浴室内装部材等の住宅用各種設備;机やいす、ロッカー、棚等の家具;乗用車内装や鉄道車両内装等の車両用部材等が含まれる。ただし、塗装金属材の用途は、これらに限定されない。
【実施例】
【0086】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0087】
1.金属板の準備
板厚0.3mm、A4サイズの片面当りめっき付着量45g/m2の溶融Znめっき鋼板を使用した。めっき鋼板をアルカリ脱脂した後、塗布型クロメート(NRC300NS:日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製)をCrが50mg/m2の付着量となるように塗布し、さらにプライマー用組成物(日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製、FL641EUプライマー)を乾燥膜厚が5μmとなるようにロールコーターで塗装した。その後、最高到達板温215℃となるように焼き付けて金属板とした。
【0088】
2.被印刷層形成用塗料の調製
それぞれ以下に示す、ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂を表1に示す質量比で混合した。さらに、以下に示す触媒および着色顔料も混合し、被印刷層形成用塗料を調製した。
【0089】
(1)ポリエステル樹脂について
ポリエステル樹脂には、以下の4種類を用いた。また、ポリエステル樹脂は、溶剤に溶解させた状態で、他の成分と混合した。溶剤は、n-メチルピロリドン、シクロヘキサノン、芳香族系溶剤(ソルベッソ(登録商標)150、表面張力30mN/m)、およびエチル-3-エトキシ-プロピオネート(表面張力25mN/m)のうちの一種、または複数種混合したものとした。
【0090】
・ポリエステル樹脂A(以下の方法で調製、数平均分子量:10,000)
・ポリエステル樹脂B(東洋紡社製、バイロン(登録商標)GK140、Tg:20℃、数平均分子量:14,000、非晶性)
・ポリエステル樹脂C(東洋紡社製、バイロン(登録商標)630、Tg:7℃、数平均分子量:23,000、非晶性)
・ポリエステル樹脂D(以下の方法で調製、数平均分子量:31,000)
【0091】
(ポリエステル樹脂AおよびDの調製方法)
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器にジメチルテレフタル酸、ジメチルイソフタル酸、無水トリメリット酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、および2-メチル-1,3-プロパンジオールを適量仕込み、160℃から240℃まで4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで、200℃まで冷却し、アジピン酸を仕込み、徐々に240℃まで加熱しエステル化反応を行なった。ついで系内を徐々に減圧していき、50分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、260℃にて60分間重縮合反応を行った。重合時の組成比を変えて行うことにより、ポリエステル樹脂AおよびDが得られた。
【0092】
(2)メラミン樹脂について
メラミン樹脂は、以下の2種類を用いた
・メチル化メラミン(オルネクスジャパン社製、サイメル303、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂)
・ブチル化メラミン(DIC社製、スーパーベッカミン(登録商標)J830、ブチル化メラミン樹脂)
【0093】
(3)触媒について
触媒には、ドデシルベンゼンスルフォン酸を用いた。より具体的には、酸当量に対してアミン当量が1.25倍になるようにトリエチルアミンで中和したものを、被印刷層形成用塗料の樹脂固形分に対して1質量%添加した。
【0094】
(4)着色顔料について
着色顔料には、酸化チタン(石原産業社製、タイペーク(登録商標)CR-95)を用いた。また、その添加量は、非晶性ポリエステル樹脂およびメラミン樹脂の総量に対して50質量%とした。
【0095】
【0096】
3.被印刷層の形成
上述のプライマー層を有する金属板の一方の面に、被印刷層形成用塗料P1~P16をそれぞれ、乾燥膜厚が18μmとなるようにロールコーターで塗布した。その後、最高到達板温が225℃となるように60秒間焼き付けて、金属板上に被印刷層を形成した。
【0097】
4.フレーム処理およびコロナ放電処理
4-1.フレーム処理
上記被印刷層を形成した被印刷用金属基材を搬送機に載せて、被印刷層にフレーム処理を行った。フレーム処理用バーナーには、Flynn Burner社(米国)製のF-3000を使用した。また、燃焼性ガスには、LPガス(燃焼ガス)と、クリーンドライエアーとを、ガスミキサーで混合した混合ガス(LPガス:クリーンドライエアー(体積比)=1:25)を使用した。また、各ガスの流量は、バーナーの炎口の1cm2に対してLPガス(燃焼ガス)が1.67L/分、クリーンドライエアーが41.7L/分となるように調整した。なお、被印刷層の搬送方向のバーナーヘッドの炎口の長さは4mmとした。一方、バーナーヘッドの炎口の搬送方向と垂直方向の長さは、450mmとした。さらに、バーナーヘッドの炎口と被印刷層表面との距離は、所望のフレーム処理量に応じて50mmとした。さらに、被印刷層の搬送速度を30m/分とすることで、フレーム処理量を212kJ/m2に調整した。
【0098】
4-2.コロナ放電処理
上記被印刷層を形成した被印刷用金属基材の被印刷層をコロナ放電処理した。コロナ放電処理には、春日電機社製のコロナ放電処理装置を使用した。
(仕様)
・電極セラミック電極
・電極長さ 430mm
・出力 310W
また、被印刷層のコロナ放電処理回数は、いずれも1回とした。コロナ放電処理量は、処理速度によって調整した。具体的には2.8m/分で処理し、コロナ放電処理量250W/m2/分とした。
【0099】
5.活性エネルギー線硬化型組成物の準備
上述のフレーム処理またはコロナ放電処理を行った被印刷層、および未処理の被印刷層上に、以下のように調製した活性エネルギー線硬化型組成物(以下のラジカル重合型組成物またはカチオン重合型組成物)を、後述の条件でそれぞれ塗布した。
【0100】
5-1.ラジカル重合型黒色組成物の調製
・組成
以下の成分を混合し、ラジカル重合型黒色組成物を調製した。
顔料分散液(顔料:10質量%) 10質量部
光重合性化合物A 25質量部
光重合性化合物B 57質量部
光重合開始剤a 5質量部
光重合開始剤b 3質量部
【0101】
・材料
上記ラジカル重合型黒色組成物の材料には、以下の化合物を使用した。
顔料分散液:カーボンブラック(デグサジャパン社製、NIPex 35)と分散媒(サートマージャパン社製、SR9003、PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート)との混合物
光重合性化合物A:サートマージャパン社製、CN985B88(2官能脂肪族ウレタンアクリレート88質量%と1,6-ヘキサンジオールジアクリレート12質量%との混合物)
光重合性化合物B:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート
光重合開始剤a:チバ・ジャパン社製、イルガキュア184(ヒドロキシケトン類)
光重合開始剤b:チバ・ジャパン社製、イルガキュア819(アシルフォスフィンオキサイド類)
【0102】
5-2.カチオン重合型黒色組成物の調製
カチオン重合型黒色組成物は、まず、顔料分散液を調製し、その後、当該顔料分散液を他の成分と混合して調製した。
【0103】
・顔料分散液の調製
高分子分散剤(味の素ファインテクノ社製、PB821)9質量部と、オキセタン化合物(東亜合成社製、OXT211)71質量部と、黒色顔料(Pigment Black 7)20質量部とを混合した。そして当該混合物を、直径1mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れて密栓し、ペイントシェーカーにて4時間分散処理した。その後、ジルコニアビーズを除去して、顔料分散液を得た。
【0104】
・組成
以下の成分を混合し、カチオン重合型黒色組成物を調製した。
顔料分散液 14質量部
光重合性化合物C 4質量部
光重合性化合物D 34質量部
光重合性化合物E 24質量部
光重合性化合物F 8.9質量部
塩基性化合物 0.05質量部
界面活性剤a 0.025質量部
界面活性剤b 0.025質量部
相溶化剤 10質量部
光酸発生剤 5質量部
【0105】
・材料
上記カチオン重合型黒色組成物の材料には、以下の化合物を使用した。
光重合性化合物C:エポキシ化亜麻仁油(ATOFINA社製、Vikoflex9040)
光重合性化合物D:下記式で表される化合物
【化1】
光重合性化合物E:オキセタン化合物(東亜合成社製、OXT-221)
光重合性化合物F:オキセタン化合物(東亜合成社製、OXT-211)
塩基性硬化型組成物:N-エチルジエタノールアミン
界面活性剤a:DIC社製、メガファックF178k(パーフルオロアルキル基含有アクリルオリゴマー)
界面活性剤b:DIC社製、メガファックF1405(パーフルオロアルキル基含有エチレンオキサイド付加物)
相溶化剤:東邦化学社製、ハイゾルブBDB(グリコールエーテル)
光酸発生剤:ダウケミカル社製、UV16992
【0106】
5-3.活性エネルギー線硬化型組成物の印刷条件
上述のラジカル重合型黒色組成物およびカチオン重合型黒色組成物の印刷条件は、それぞれ以下の通りである。
【0107】
(ラジカル重合型組成物のインクジェット印刷条件)
(a)ノズル径 :35μm
(b)印加電圧 :11.5V
(c)パルス幅 :10.0μs
(d)駆動周波数 :3,483Hz
(e)解像度 :360dpi
(f)液滴の体積 :42pl
(g)ヘッド加熱温度 :45℃
(h)塗布量 :8.4g/m2
(i)ヘッドと記録面の距離 :5.0mm
(j)液滴の初速 :5.9m/sec
【0108】
(カチオン重合型組成物のインクジェット印刷条件)
(a)ノズル径 :35μm
(b)印加電圧 :13.2V
(c)パルス幅 :10.0μs
(d)駆動周波数 :3,483Hz
(e)解像度 :360dpi
(f)液滴の体積 :42pl
(g)ヘッド加熱温度 :45℃
(h)塗布量 :8.4g/m2
(i)ヘッドと記録面の距離 :5.0mm
(j)液滴の初速 :6.1m/sec
【0109】
6.評価
各被印刷層について、以下のXPS法による分析、ヨウ化メチレン転落角の測定、鉛筆硬度(未処理のみ)、塗膜加工性試験(未処理のみ)、溶剤ラビング試験(未処理のみ)、および濡れ広がり評価(ドット径評価)を行った。さらに、上記活性エネルギー線硬化型組成物を塗布してインク層を形成した後の塗装金属材に対し、インク層の密着性の評価を行った。各結果を表2、表3、および表4に示す。
【0110】
6-1.XPS法による分析(被印刷層のN原子、C原子、およびO原子の量の特定)
XPS分析装置により、以下の条件で、被印刷層の表面から深さ10nmまで、エッチングしながら、N原子、C原子、およびO原子の深さ方向の濃度(N原子、C原子、およびO原子の総量を100atom%とする)を測定した。そして、N原子、C原子、およびO原子の合計量に対するN原子の最大値を特定した。なお、
図1に実施例8、
図2に実施例5、
図3に実施例2、
図4に比較例8、
図5に比較例2の被印刷層について、XPS法で分析したときの各原子濃度と深さの関係を示す。
(測定条件)
測定装置:アルバック・ファイ製VersaprobeII 走査型X線光電子分光装置
X線源:AlKα (モノクロ:50W、15kV) 1486.6eV
分析領域:1.0×1.0mm
2
Pass Energy:5.85eV(C1s、O1s)、187.85eV(N1s)
帯電中和利用(電子中和+イオン銃)
分析室真空度:1.0×10
-7Pa
(エッチング条件)
エッチング条件:Ar-ガスクラスターイオンビーム
加速電圧:5kV
エッチングレート:約1nm/分(ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)換算)
【0111】
6-2.ヨウ化メチレン転落角の測定
水平に保持した被印刷層上に2μlのヨウ化メチレンを滴下した。その後、接触角測定装置(協和界面科学社製 DM901)を用いて、2度/秒の速度で被印刷層の傾斜角度(水平面と被印刷層とが成す角度)を大きくした。そして、接触角測定装置に付属しているカメラによって、ヨウ化メチレンの液滴を観察した。ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間の被印刷層の傾斜角度を特定し、5回の平均値を当該被印刷層のヨウ化メチレン転落角とした。なお、ヨウ化メチレンの液滴が転落する瞬間とは、ヨウ化メチレンの液滴の重力下方向の端点および重力上方向の端点の両方が移動し始める瞬間とした。
【0112】
6-3.鉛筆硬度
JIS K5600-5-4に規定された測定方法に従って、被印刷層の鉛筆硬度を測定した。○以上を合格とした。
◎: H以上
○: HB~F
×: B以下
【0113】
6-4.塗膜加工性試験
作製した被印刷用塗装鋼板をJIS G3322の曲げ試験に準じて、180°折り曲げ加工(密着曲げ加工)し、加工部の塗膜の状態を目視観察し、塗膜割れの有無を調べた。なお、180°折り曲げを行う際には、被印刷用塗装鋼板の印刷面が曲げの外側となるように折り曲げて、密着曲げを行った(一般に0T曲げとして知られている)。また、加工部の観察の際には、10倍ルーペにて観察し、さらに加工部にテープを貼り付けて剥離する加工部密着性試験も実施した。そして、テープ剥離後の密着性を目観にて観察した。評価は以下の基準とし、△以上の評価を合格とした。
◎ : 剥離なし、クラック(塗膜の亀裂)なし
○ : 剥離なし、クラック(塗膜の亀裂)あり
△ : ごく僅かに剥離あり
× : 僅かに剥離あり
××: 剥離あり
【0114】
6-5.溶剤ラビング試験
キシロールを染み込ませたガーゼを介して、被印刷層表面に1kgの荷重を押し付け、100往復擦りつけた。そして、被印刷層の外観を観察し、以下のように評価した。なお、キシロールを染み込ませたガーゼを被印刷層表面に擦りつける長さは片道70mmとした。また、○のみを合格とした。
〇:被印刷層が機械的に磨耗したり溶剤で被印刷層が剥離したりすることなく、良好な外観を保っていた場合
△:被印刷層が機械的に磨耗したり溶剤で被印刷層が剥離したりしてプライマー層が露出した場合
×:プライマー層も含めて全ての層が機械的に磨耗したり、溶剤で被印刷層が剥離してしまい、原板である金属板が露出した場合
【0115】
6-6.活性エネルギー線硬化型組成物の濡れ広がり性評価(ドット径評価)
上述の被印刷層上に、活性エネルギー線硬化型組成物(ラジカル重合型黒色組成物およびカチオン重合型黒色組成物)をドット状に塗布した。具体的には、インクジェット印刷機(トライテック社製、パターニングジェット)を用いて、各液滴の体積が42plとなるようにドットを印刷した。なお、ドット同士が重ならないようにドット間の距離は500μmとした。そして、オリンパス社製、走査型共焦点レーザ顕微鏡LEXT OLS3000を用いて、各ドット径を測定した。より具体的には、1ドットのみが見える範囲に拡大して(200倍)、8個のドットのドット径を測定し、その平均値をドット径として評価した。ドットの広がりが楕円に近い場合は、長径と短径の平均値をドット径とし、以下のように評価した。なお、ドット径100μm未満では、活性エネルギー線硬化型組成物が濡れ広がり難く、100%印刷を行っても被印刷層表面を活性エネルギー線硬化型組成物で完全に覆うことができない。したがって、ドット径が小さいほうが、評価が低い。ただし、△以上であれば実用上問題ない。
◎:ドット径 130μm以上
○:ドット径 100μm以上、130μm未満
△:ドット径 80μm以上、100μm未満
×:ドット径 80μm未満
【0116】
6-7.インク層の密着性の評価
上述の被印刷層上に、活性エネルギー線硬化型組成物を上述の条件で解像度360dpiとなるように、100~1000%(インク塗布量:8.4~84.0g/m2)で印刷した。その後、高圧水銀ランプ(フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製、Hバルブ)を用いて、ランプの出力:200W/cm、積算光量:600mJ/cm2(オーク製作所社製、紫外線光量計UV-351-25を使用して測定)にて紫外線を照射し、インク層を形成した。得られた塗装金属材に対して、JIS K5600-5-6 G 330に準拠した碁盤目試験を実施した。具体的には、インク層の表面に、2mm間隔で25個のマス目ができるように碁盤目状の切り込みを入れた。そして、当該部分に粘着テープを貼り付け、剥離した。粘着テープの剥離後、インク層の残存率を観察した。評価は、以下の基準で行い、△以上を合格とした。
〇:インク層の剥離面積が0%
△:インク層の剥離面積が0%超かつ20%以内
×:インク層の剥離面積が20%超
【0117】
6-8.密着性試験
上述の被印刷層上に、活性エネルギー線硬化型組成物を上述の条件で解像度360dpiとなるように、100%(インク塗布量:8.4g/m2)で印刷し、上記と同様に紫外線を照射して硬化させ、インク層を形成した。得られた塗装金属材に対して、JIS G3322の曲げ試験に準じて4T曲げ試験を行った。その後、折り曲げ部のインク層表面に粘着テープを貼り着け、剥離した。粘着テープの貼り付け前および粘着テープの剥離後における塗装金属材の外観を観察し、以下のように評価した。同様に500%、1000%で印刷した塗装金属材についても、同様に評価した。△以上の評価を合格とした。
○:インク層および被印刷層の剥離なし
△:インク層または被印刷層に1mmφ以下の点状剥離あり
×:インク層または被印刷層に剥離あり
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
図1~
図5や表2~表4に示されるように、被印刷層の深さ方向にXPS法で組成を分析したところ、メラミン樹脂の量や種類、組み合わせによって、表面から10nmまでの領域において、N原子の比率が大きく変化することが明らかとなった。
【0122】
またこのとき、被印刷層の表面から深さ10nmまでの領域における、N原子、C原子、およびO原子の合計量に対するN原子の最大値が5~30atom%であると、鉛筆硬度や、塗膜加工性試験、ラビング試験がいずれも良好であった。また当該被印刷層上にインク層を形成した場合に、その密着性も良好であり、例えばインク層を塗布量1000%の厚膜としても、良好な密着性が得られた(実施例1~18)。
【0123】
また、未処理の被印刷層(実施例1、4、7、10、13、および16)、フレーム処理した被印刷層(実施例2、5、8、11、14、および17)、ならびにコロナ放電処理した被印刷層(実施例3、6、9、12、15、および18)を比較すると、フレーム処理した被印刷層が、最もドット径評価の結果が良好であり、さらにいずれの重合型インクの接着性も良好であった。
【0124】
これに対し、上記N原子、C原子、およびO原子の合計量に対するN原子の最大値が30atom%を超えると、鉛筆硬度の評価結果は良好であるものの、インク層の接着性が低く、さらには塗膜加工性試験やラビング試験の結果が悪かった(比較例1~18)。N原子の最大値が大きいと、被印刷層が硬くなり、インク層の接着性が低下したと考えられる。
【0125】
一方、上記N原子、C原子、およびO原子の合計量に対するN原子の最大値が5atom%未満になると、鉛筆硬度が低くなり、さらにラビング試験の結果も悪かった(比較例19~24)。
【0126】
また、ポリエステル樹脂の数平均分子量が12000未満である場合、十分な加工性が得られなかった(比較例25~27)。一方、ポリエステル樹脂の数平均分子量が30000を超えると、十分な塗膜硬度が得られなかった(比較例28~30)。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の被印刷用金属基材によれば、活性エネルギー線硬化型組成物を用いてインク層を形成したときに、インク層が剥離し難い。また、当該被印刷用金属基材が有する被印刷層は加工性や耐傷付き性が良好である。したがって、意匠性の高い、種々の塗装金属材を形成可能である。