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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】変速制御方法及び変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20240704BHJP
   F16H 59/40 20060101ALI20240704BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20240704BHJP
   F16H 59/48 20060101ALI20240704BHJP
   F16H 61/682 20060101ALI20240704BHJP
   B60K 17/356 20060101ALI20240704BHJP
   F16H 61/16 20060101ALI20240704BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20240704BHJP
【FI】
B60L15/20 K
F16H59/40
F16H59/44
F16H59/48
F16H61/682
B60K17/356 B
F16H61/16
B60L15/20 S
B60L9/18 P
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021032152
(22)【出願日】2021-03-01
(65)【公開番号】P2022133189
(43)【公開日】2022-09-13
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻野 崇
(72)【発明者】
【氏名】森田 晴輝
(72)【発明者】
【氏名】松下 雄紀
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 潤
(72)【発明者】
【氏名】澤田 孝信
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-027648(JP,A)
【文献】特開昭62-037548(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0347320(US,A1)
【文献】特開2009-056961(JP,A)
【文献】特開2006-027383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/00-15/42
B60L 9/00- 9/32
F16H 59/00-61/12
F16H 61/16-61/24
F16H 61/66-61/70
F16H 63/40-63/50
B60K 17/28-17/36
B60K 6/20- 6/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪側及び後輪側のそれぞれで、モータ、及び、前記モータと駆動輪との間に設けられる変速機を備える車両において、前記前輪側及び前記後輪側のうちの一方の前記変速機を変速制御する場合には、変速側の前記駆動輪における駆動力抜けを補填するために、非変速側の前記モータの駆動力が大きくなるように、駆動力配分を変更する変速制御方法であって、
路面の粗さに応じて大きくなる指標が閾値を下回るか否かを判断し、
前記指標が前記閾値を下回る場合には、前記変速制御の駆動力配分に変更して、前記変速側の変速機を変速させ、
前記指標が前記閾値を下回らない場合には、前記前輪側又は前記後輪側の変速機の変速を禁止する、変速制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の変速制御方法であって、
前記変速側の変速機を変速させる時に、前記変速側のモータのトルクをゼロとするとともに、前記非変速側の前記モータのトルクを、前記変速側のモータのトルクの減少分だけ増加させることで、前記変速制御の駆動力配分を行い、前記変速側のモータのトルクがゼロである間に、前記変速側の変速機を変速させる、変速制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の変速制御方法であって、
前記指標は、前記前輪側及び前記後輪側の少なくとも一方の駆動輪に設けられる回転速センサにより測定される回転速度の加速度のばらつきである、変速制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の変速制御方法であって、
前記指標は、所定期間における前記回転速度の加速度の最大値と最小値との偏差である、変速制御方法。
【請求項5】
請求項3に記載の変速制御方法であって、
前記指標は、所定期間における前記回転速度の加速度の分散である、変速制御方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の変速制御方法であって、
前記車両の速度が速いほど、前記閾値を小さく補正する、変速制御方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の変速制御方法であって、
前記変速制御を変速させない通常走行時において、
前記指標が配分閾値を下回る場合には、前記前輪側及び前記後輪側のモータの消費電力の和が小さくなるように、前記前輪側及び前記後輪側の駆動力を配分する第1駆動力配分とし、
前記指標が前記配分閾値を下回らない場合には、前記前輪側及び前記後輪側における荷重に応じた第2駆動力配分とする、変速制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の変速制御方法であって、
前記指標が周期的に変化するか否かを判断し、
前記指標が周期的に変化すると判断される場合には、前記指標の変化周期において、前記指標が切替閾値を超える区間では前記第1駆動力配分とし、その他の区間において、前記第2駆動力配分を行う、変速制御方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の変速制御方法であって、
前記車両の過去の走行履歴に基づいて前記駆動力配分を変更する、変速制御方法。
【請求項10】
前輪側及び後輪側のそれぞれにおいて、モータ、及び、前記モータと駆動輪との間に設けられる変速機を備える車両において、前記前輪側及び前記後輪側のうちの一方の前記変速機を変速制御する場合には、変速側の前記駆動輪における駆動力抜けを補填するために、非変速側の前記モータの駆動力が大きくなるように、駆動力配分に変更する変速制御装置であって、
前記変速制御装置は、
路面の粗さに応じて大きくなる指標が閾値を下回るか否かを判断し、
前記指標が前記閾値を下回る場合には、前記変速制御の駆動力配分に変更して、前記変速側の変速機を変速させ、
前記指標が前記閾値を下回らない場合には、前記前輪側又は前記後輪側の変速機の変速を禁止する、変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速制御方法及び変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示される四輪駆動車両は、前輪及び後輪のそれぞれにおいて駆動源となるモータを有するとともに、モータの出力軸と車輪の駆動軸との間に変速機構を備える。変速機構は、複数のギア列と当該ギア列を切替可能なドグクラッチとにより構成されており、ドグクラッチによりギア列を切り替えることで変速制御が行われる。
【0003】
このような構成の四輪駆動車両においては、一方の変速機構の変速中にドグクラッチがギア列と噛合しない状態(ニュートラル状態)となり、変速機構を介して駆動輪に所望の動力が伝達されない駆動力抜けが生じる。そこで、特許文献1において開示されている変速制御方法では、前輪側及び後輪側のうちの一方の変速機構において変速制御を行う場合には、他方の駆動輪の駆動力を増大させることで、駆動力抜けを補填するように前後駆動力配分が変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-027383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように前後駆動力配分が変更されても、一方の駆動輪において駆動力が伝達されないため、路面が粗い場合には四輪駆動走行で得られていた直進安定性が悪化してしまい、運転者に違和感が生じるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、粗い路面の走行時において、変速制御に起因する直進安定性の低下を抑制することのできる変速制御方法及び変速制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の変速制御方法によれば、前輪側及び後輪側のそれぞれにおいて、モータ、及び、モータと駆動輪との間に設けられる変速機を備える車両において、前輪側及び後輪側のうちの一方の変速機を変速制御する場合には、変速側の駆動輪における駆動力抜けを補填するために、非変速側のモータの駆動力が大きくなるように、駆動力配分に変更する。変速制御方法においては、路面の粗さに応じて大きくなる指標が閾値を下回るか否かを判断し、指標が閾値を下回る場合には、変速制御の駆動力配分に変更して、変速側の変速機を変速させ、指標が閾値を下回らない場合には、前輪側又は後輪側の変速機の変速を禁止する。
【発明の効果】
【0008】
粗い路面の走行時において、粗い路面の走行時において、変速制御に起因する直進安定性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の変速制御方法が実行される電動車両の概略構成図である。
図2図2は、変速制御を説明するフローチャートである。
図3図3は、変速制御方法による制御結果の一例を説明するタイミングチャートである。
図4図4は、前後駆動力配分の切替制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の変速制御が実行される車両100の概略構成図である。
【0012】
なお、図1の車両100は、駆動源としての2つのモータ10(10f、10r)を備える四輪駆動で走行可能な電動車両である。車両100は、例えば、電気自動車や、ハイブリッド自動車である。
【0013】
車両100には、進行方向の前方の位置(以下、「前輪側」と称する)に配置される前輪駆動システムfds、及び、相対的に後方の位置(以下、「後輪側」と称する)に配置される後輪駆動システムrdsが搭載されている。そして、前輪駆動システムfds及び後輪駆動システムrdsの動力が、それぞれ前輪11f及び後輪11rに伝達される。
【0014】
以下、前輪駆動システムfdsの詳細について説明する。なお、後輪駆動システムrdsの詳細については、前輪駆動システムfdsと同様の構成であるので、その詳細な説明を省略する。
【0015】
前輪駆動システムfdsは、前輪11fを駆動する動力を生成するフロントモータ10f、フロントモータ10fへの供給電力を制御するフロントインバータ12f、及び、フロントモータ10fと前輪11fとの間の駆動力伝達経路に設けられるフロント変速機13fを備える。
【0016】
フロントモータ10fは、例えば、三相交流モータであり、バッテリ14からの電力の供給を受けて駆動力を発生する。フロントモータ10fのロータシャフト(以下、「入力軸20f」とも称する)で生成される駆動力は、フロント変速機13f及びフロントドライブシャフト21fを介して、前輪11fに伝達される。また、フロントモータ10fは、車両100の走行時に前輪11fに連れ回されて回転する際に発生する回生駆動力によって交流電力を発電する。
【0017】
フロントインバータ12fは、スイッチング回路を備え、バッテリ14から供給される直流電力を三相交流電力に変換するためのスイッチングを行う。また、フロントインバータ12fは、フロントモータ10fの回生駆動力により得られる交流電力を直流電力に変換して、バッテリ14に供給する。
【0018】
フロント変速機13fは、フロントモータ10fと前輪11fとの間の伝達動力に対する変速(以下、「前輪変速」とも称する)を実行する装置である。詳細には、フロント変速機13fは、フロントモータ10fの入力軸20fからフロントドライブシャフト21fまでの動力伝達経路において、相対的にギア比が低いHighギア及び相対的にギア比が高いLowギアの2つの変速段の切り替え可能に構成されている。以下、フロント変速機13fの構成をより詳細に説明する。
【0019】
フロント変速機13fは、Lowギア列22fと、Highギア列23fと、ドグクラッチ24fと、ファイナルギア25fと、を備える。
【0020】
Lowギア列22fは、相互に歯噛するドライブギア30f及びドリブンギア31fを備える。ドライブギア30fは、入力軸20f上において固定されずに回転可能に設けられている。ドリブンギア31fは、出力軸26fに固定されている。さらに、Lowギア列22fでは、ドライブギア30fの歯数に対してドリブンギア31fの歯数が大きく構成される。すなわち、Lowギア列22fを介して入力軸20fから出力軸26fに駆力が伝達される場合(変速段がLowである場合)の変速比は1より大きくなる。
【0021】
Highギア列23fは、Lowギア列22fと同様の構成をしており、ドライブギア32f及びドリブンギア33fを備える。なお、Highギア列23fでは、ドライブギア32fの歯数とドリブンギア33fの歯数が略等しく構成される。すなわち、Highギア列23fを介して入力軸20fから出力軸26fに伝達される場合(変速段がHighである場合)のフロント変速比は略1となる。
【0022】
ドグクラッチ24fは、Lowギア列22fとHighギア列23fの間においてスライド移動可能なシフトフォーク34f、及び、シフトフォーク34fと一体に設けられ入力軸20f上を摺動可能なセレクタギア35fから構成される。シフトフォーク34fのスライド移動は、油圧又は専用のモータを用いて実行される。
【0023】
ドグクラッチ24fにおいては、セレクタギア35fとLowギア列22fが締結する位置とされると、入力軸20fから、セレクタギア35f及びLowギア列22fを介して出力軸26fへ動力が伝達される状態となる。一方、セレクタギア35fとHighギア列23fが締結する位置とされると、入力軸20fから、セレクタギア35f及びHighギア列23fを介して出力軸26fへ動力が伝達される状態となる。
【0024】
ここで、フロント変速機13fにおいて変速を行うためには、一旦、フロントモータトルクTfmをゼロとする必要がある。例えば、フロント変速機13fにおいて変速段をLowからHighへと変更する場合には、セレクタギア35fとLowギア列22fが締結する状態において、まず、フロントモータ10fの入力軸20fのトルク(フロントモータトルクTfm)をゼロとすることで、セレクタギア35fとLowギア列22fとの間において相互に押し付けあう力が作用しなくなる。その結果、シフトフォーク34fをスライド移動させることができるようになり、セレクタギア35fとLowギア列22fとの締結を解除して、セレクタギア35fがLowギア列22f又はHighギア列23fと締結されない位置であるニュートラル状態とする。その後、シフトフォーク34fをHighギア列23f側へと移動させると、セレクタギア35fとHighギア列23fとが締結される。
【0025】
このようなフロント変速機13fの変速中には、ドグクラッチ24fがニュートラル状態となるため、変速制御中において、入力軸20fからフロントドライブシャフト21fへの動力伝達が一時的に遮断されることにより、駆動力抜けが発生する。
【0026】
以下、前輪駆動システムfdsの各要素と後輪駆動システムrdsの各要素において、共通する事項に関しては、適宜、「駆動システムds」などのフロントであることを示す「f」及びリアであることを示す「r」などの文字を省いた符号を用いて包括的に説明する。
【0027】
このように、前輪駆動システムfds及び後輪駆動システムrdsのそれぞれは、シフトアクチェータとして機能するドグクラッチ24、及び、モータアクチェータとして機能するインバータ12を備える。また、前輪駆動システムfds及び後輪駆動システムrdsは、車両100内に設けられるコントローラ15により制御される。また、電力供給源であるバッテリ14は車両100内に1つ設けられており、前輪駆動システムfds及び後輪駆動システムrdsの両者へ電源を供給する。以下、コントローラ15の構成について説明する。
【0028】
コントローラ15は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたコンピュータ、特にマイクロコンピュータで構成される。コントローラ15は、以下で説明する変速制御及びモータ制御における処理を実行できるようにプログラムされている。
【0029】
コントローラ15は、変速制御を行うために、入力されるアクセル開度α及び車速Vに基づいて変速機13の変速段(フロント変速段及びリア変速段)、並びにモータ10のモータトルクTm(フロントモータトルクTfm及びリアモータトルクTrm)を定める。
【0030】
詳細には、コントローラ15は、アクセル開度センサからアクセル開度αを取得するとともに、モータ10のモータ回転数Nm及び変速機13により設定された変速段に基づいて車速Vを演算する。なお、車速Vを演算するためのモータ回転数Nmは、フロントモータ10fの回転数であるフロントモータ回転数Nfm、及び、リアモータ10rの回転数であるリアモータ回転数Nrmの何れを用いても良いが、車両100の仕様及び走行シーンに応じて、スリップ(空転)がより発生し難い側の駆動輪11を駆動させるモータ10のモータ回転数Nmを用いることが好ましい。
【0031】
そして、コントローラ15は、アクセル開度α及び車速Vに基づき、所定の変速マップに基づいて変速段(フロント変速段及びリア変速段)を定める。そして、コントローラ15は、定められた変速段を実現するようにドグクラッチ24を操作することで、変速制御を行う。
【0032】
同時に、コントローラ15は、モータ制御を行うために、アクセル開度α及び車速Vに基づいて車両100に要求される総駆動力、すなわちフロントモータ10f及びリアモータ10rの双方により実現される総駆動力を定める。
【0033】
コントローラ15は、総駆動力、及び、前輪11f及び後輪11rのスリップを抑制するなどの観点から適宜定められる前後駆動力配分に基づいて、前輪11f及び後輪11rの駆動力を求める。コントローラ15は、変速機13の変速段(フロント変速段及びリア変速段)に応じて、前輪11f及び後輪11rの駆動力が得られるようなフロントモータトルクTfm及びリアモータトルクTrmを演算する。そして、コントローラ15は、フロントモータ10f及びリアモータ10rのそれぞれの実トルクが、フロントモータトルクTfm及びリアモータトルクTrmになるように、フロントインバータ12f及びリアインバータ12rを制御する。
【0034】
また、コントローラ15は、フロント変速機13f及びリア変速機13rのうちの一方の変速機13が変速制御を行う場合には、他方のモータ10の駆動力を増加させるように前後駆動力配分を変更する。これにより、前輪11f及び後輪11rにおいて、一方の側の変速機13が変速制御中にニュートラル状態となることに起因する駆動力抜けが、他方の側のモータ10により補填される。
【0035】
例えば、リア変速機13rを変速制御する場合には、フロントモータトルクTfmを増加させるとともに、リアモータトルクTrmをゼロまで減少させる。このようにすることで、リアモータトルクTrmがゼロとなった後にリア変速機13rを変速させることができ、さらに、リア変速機13rが変速制御中にニュートラル状態になることに起因する駆動力抜けが、フロントモータ10fにより補填される。
【0036】
ここで、路面状態が粗い場合に変速制御が行われ、前後駆動力配分の変更によりフロントモータトルクTfm又はリアモータトルクTrmが変更されると、トルクが増加される側の駆動輪11において路面のグリップ力が低下し、直進性が悪化してしまい運転者に違和感を与えてしまうおそれがある。そこで、コントローラ15は、さらに、路面が粗いと判断する場合には、変速制御を原則禁止する。
【0037】
詳細には、コントローラ15は、前輪11fに設けられる回転速センサ27f、及び、後輪11rに設けられる回転速センサ27rにより測定される前輪角速度ωf、後輪角速度ωrを微分することにより、前輪11fの前輪角加速度Af及び後輪11rの後輪角加速度Arを取得する。そして、コントローラ15は、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが所定の安定基準を満たさない場合には、路面状態が粗いと判定して変速制御を原則禁止する。なお、駆動輪11の角速度に替えて、駆動輪11の回転速度を測定し、回転速度を微分することで求められる回転加速度を用いてもよい。
【0038】
ただし、モータ10には運転に適して許容される上限の許容回転数があり、変速段及び車速Vに応じて定められるモータ10の回転数が許容回転数を上回る場合(オーバーレブ)には、コントローラ15は、路面が粗いと判断する場合であっても、変速機13に対してLowからHighへの変速制御を行わせる。
【0039】
以下では、このようなコントローラ15により行われる変速制御について、図2を用いて説明する。
【0040】
図2は、変速制御を示すフローチャートである。
【0041】
ステップS101において、コントローラ15は、回転速センサ27fにより測定される前輪角速度ωf、及び、回転速センサ27rにより測定される後輪角速度ωrを取得する。
【0042】
ステップS102において、コントローラ15は、ステップS101において取得した前輪角速度ωf及び後輪角速度ωrのそれぞれを微分することにより、前輪角加速度Af、及び、後輪角加速度Arを取得する。さらに、コントローラ15は、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきを求める。例えば、コントローラ15は、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arを複数点サンプリングし、その分散、標準偏差、所定期間における最大値と最小値との差(振幅)、所定期間において前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arが所定の範囲内に入ったカウント数などを、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arの変動に応じたばらつきとして求める。
【0043】
ステップS103において、コントローラ15は、ステップS102において求められた前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが、ともに、所定の安定基準を満たす(基準以下)か否かを判定する。例えば、振幅が安定基準と対応する振幅閾値を下回る場合、分散が安定基準と対応する分散閾値を下回る場合、標準偏差が基準偏差を下回る場合、所定期間における振幅が所定の範囲内に入った回数が基準値を下回る場合、及び、所定期間において前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arが所定の範囲内に入った回数が基準値を下回る場合には、コントローラ15は、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが安定基準を満たすと判断する。
【0044】
コントローラ15は、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが安定基準を満たす場合には(S103:Yes)、滑らかな路面を走行していると判断し、変速マップに基づく変速制御を行うために、次に、ステップS104の処理を行う。一方、コントローラ15は、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arが所定の安定基準を満たさない場合には(S103:No)、粗い路面を走行していると判断し、変速制御を原則禁止とするために、次に、ステップS112の処理を行う。なお、ステップS101~S103の処理においては、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arの両方を用いる必要はなく、一方のみを用いて路面状態を判定してもよい。
【0045】
ステップS104において、コントローラ15は、変速マップに基づいて変速制御の要否を判定する。上述のように、コントローラ15は、アクセル開度α及び車速Vに応じて、変速マップに基づいた変速段を求める。アクセル開度α及び車速Vが変動することにより変速段(フロント変速段またはリア変速段)が変化する場合には、コントローラ15は、変速制御(前輪変速または後輪変速)が必要と判断する。
【0046】
変速制御が必要ではないと判断される場合には(S104:No)、コントローラ15は、再び、ステップS101の処理を行う。変速制御が必要と判断される場合には(S104:Yes)、コントローラ15は、さらに、ステップS105の処理を行う。なお、以下においては、ステップS104において、フロント変速機13fにおいてLowからHighへの変速が必要であると判断されたものとして説明する。
【0047】
ステップS105において、コントローラ15は、変速制御が行われる場合の前後駆動力配分を定め、定めた前後駆動力配分となるように、フロントモータトルクTfm及びリアモータトルクTrmの変更を開始する。
【0048】
一般に、四輪駆動での通常走行時においては、総駆動力が前輪11fと後輪11rとで等となるように分配されており、フロントモータトルクTfmとリアモータトルクTrmとが等しい。しかしながら、フロント変速段がLowからHighへと変速される場合には、フロント変速機13fにおいて変速をするためにフロントモータトルクTfmをゼロまで減少させるとともに、前輪側のトルク抜けを補うためにリアモータトルクTrmを大きく変化させる。また、フロントモータトルクTfm及びリアモータトルクTrmは、総駆動力が変化しないように、両者の和が等しくなるように制御される。このようにして、変速制御が行われる場合の前後駆動力配分が定められる。
【0049】
ステップS106において、コントローラ15は、ステップS101~S103の処理と同様に、再取得した前輪角速度ωf及び後輪角速度ωrを微分して前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arを求め、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが所定の安定基準を満たすか否かを判定する。
【0050】
コントローラ15は、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arが所定の安定基準を満たす場合には、滑らかな路面を走行していると判定し(S106:Yes)、前後駆動力配分の変更を継続するために、次に、ステップS107の処理を行う。
【0051】
ステップS107において、コントローラ15は、ステップS106に示された前後駆動力配分の変更を継続し、その後完了する。これにより、フロントモータトルクTfmがゼロとなる。
【0052】
ステップS108において、フロントモータトルクTfmがゼロとなる間に、コントローラ15は、フロント変速機13fのシフトフォーク34fの位置を制御して、セレクタギア35fをLowギア列22fと締結された状態から、一旦ニュートラル状態とした後に、Highギア列23fと締結させる。このようにして、フロント変速段がLowからHighへと変速される。
【0053】
ステップS109において、フロント変速機13fの変速制御が終了すると、コントローラ15は、ステップS105以前の四輪駆動での通常走行時の前後駆動力配分へと変更する。
【0054】
ステップS110において、前後駆動力配分が、通常走行時の配分に戻ると、変速機13における変速段の変更(変速制御)が完了する。
【0055】
一方、前後駆動力配分の変更を開始した後に(S105)、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arが所定の安定基準を満たさない場合には、コントローラ15は、粗い路面を走行していると判定し(S106:No)、前後駆動力配分の変更を中止するために、次に、ステップS111の処理を行う。ステップS111において、コントローラ15は、前後駆動力配分の変更を中止して、変更前の前後駆動力配分に戻す。
【0056】
また、ステップS103の処理において前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが安定基準を満たさず(S103:No)、粗い路面を走行していると判定された後においては、ステップS112において、コントローラ15は、フロントモータ回転数Nfm、及び、リアモータ回転数Nrmが許容回転数を上回るオーバーレブ状態であるか否かを判定する。
【0057】
そして、フロントモータ回転数Nfm及びリアモータ回転数Nrmの少なくとも一方が許容回転数を上回る場合には(S112:Yes)、コントローラ15は、許容回転数を超えたモータ10に設けられた変速機13においてLowからHighへの変速制御を行うために、次に、ステップS113の処理を行う。なお、以下においては、ステップS112において、ステップS104と同様に、フロント変速機13fにおいてLowからHighへの変速が必要であると判断されたものとして説明する。
【0058】
一方、フロントモータ回転数Nfm及びリアモータ回転数Nrmの双方が許容回転数を下回る場合には(S112:No)、コントローラ15は、変速は不要と判断し、再び、ステップS101の処理を行う。
【0059】
ステップS113において、コントローラ15は、変速制御が行われる場合の前後駆動力配分を定め、定めた前後駆動力配分となるように、フロントモータトルクTfm及びリアモータトルクTrmの変更を開始する。なお、粗い路面を走行している場合の前後駆動力配分の変更は、滑らかな路面を走行している場合の前後駆動力配分の変更(ステップS105)よりも長い時間かけて行われるため、フロントモータトルクTfm及びリアモータトルクTrmの変化が緩やかになる。
【0060】
ステップS114において、コントローラ15は、ステップS113に示された前後駆動力配分の変更を継続し、その後完了する。これにより、フロントモータトルクTfmがゼロとなる。その後、ステップS108において、フロントモータトルクTfmがゼロとなった後に、フロント変速段がLowからHighへと変速される。
【0061】
図3は、変速制御方法による制御結果の一例を説明するタイミングチャートである。なお、この図においては、同一パラメータに関する複数の値が同じである場合には、可読性のために、図中においてずらして記載されている。
【0062】
この図においては、上から順に、「車輪速加速度」、「角加速度の判定結果」、「前輪側変速指示」、「後輪側変速指示」、「前輪側シフト位置」、「後輪側シフト位置」、「モータ回転数」、「モータトルク」、及び、「駆動力」が示されている。また、横軸には時間が示されている。なお、この図の例においては、車両100は加速中であるものとする。
【0063】
「車輪速加速度」には、回転速センサ27により測定される角速度ωを微分することにより得られる角加速度Aが示される。なお、この図においては、角加速度Aは、前輪角加速度Af、及び、後輪角加速度Arのいずれかであるものとする。「角加速度の判定結果」には、図2のステップS103における判定結果であり、角加速度Aのばらつきが所定の基準を満たす(Yes)か否か(No)が示されている。基準を満たす場合は路面が滑らかであり、基準を満たさない場合は路面が粗いと判断される。
【0064】
「前輪側変速指示」及び「後輪側変速指示」は、それぞれ、フロント変速機13f及びリア変速機13rにおいて要求される変速段(Low/High)を示す。「前輪側シフト位置」及び「後輪側シフト位置」は、それぞれ、ドグクラッチ24におけるセレクタギア35のLowギア列22fまたはHighギア列23fとの実際の接続状態を示している。また、変速中には、一旦、Lowギア列22f及びHighギア列23fと接続されないニュートラル状態となる。
【0065】
「モータ回転数」においては、一点鎖線で「Lowギア段」に応じたモータ回転数が示され、二点鎖線で「Highギア段」に応じたモータ回転数が示されている。「Lowギア段」及び「Highギア段」には、それぞれ変速機13の変速段がLow及びHighである場合において、前輪11f及び後輪11rの回転速度が加速中の車両100の速度に応じた回転数となるような、モータ10の回転数が示されている。
【0066】
また、実線で示される「フロントモータ回転数Nfm」及び点線で示される「リアモータ回転数Nrm」が、それぞれ、フロントモータ10f及びリアモータ10rの回転数を示す。フロントモータ10f及びリアモータ10rの回転数は、セレクタギア35のLowギア列22またはHighギア列23との接続状態に応じて、「Lowギア段」又は「Highギア段」のいずれかに示されるモータ回転数となるように制御される。これにより、車両100が加速中の状態を維持することができる。
【0067】
「モータトルク」には、実線で「フロントモータトルクTfm」が示され、破線で「リアモータトルクTrm」が示されている。後述の前後駆動力配分の変更により、フロント変速機13fを変速するために、フロントモータトルクTfmがゼロまで減少されるとともに、リアモータトルクTrmが増加されることで、前輪11fの駆動力抜けが抑制される。
【0068】
「駆動力」には、実線で前輪11fの駆動力が示され、破線で後輪11rの駆動力が示されている。また、一点鎖線で、前輪11f及び後輪11rの駆動力の和が示されている。なお、駆動力は、モータ10と変速機13により設定される変速段により定められる。また、前後駆動力配分の変更による上述の「モータトルク」の変化に応じて、フロント変速機13fの変速中においては前輪11fの駆動力が減少されるとともに、後輪11rの駆動力が前輪11fの減少分だけ増加される。なお、前輪11f及び後輪11rの駆動力の和は前後駆動力配分の変更中においても一定となる。
【0069】
ここで、各時刻における動作を詳細に説明すれば、以下のとおりとなる。
【0070】
時刻t11~t14においては、「車輪速加速度」に示されるように、車輪速加速度のばらつきが大きいため、「角加速度の判定結果」に示されるように、コントローラ15は、角加速度が基準を満たさないと判定する(S103:No)。また、この図に示される場合においては、モータ10の回転数が許容回転数を超えていない(S112:No)。
【0071】
その結果、t12~t13において、「前輪側変速指示」において破線で示されるように、変速マップに従えばフロント変速機13fのLowからHighへの変速制御が必要と判断されるような場合でも、フロント変速機13fはLowのままで変速は行われない。その結果、「モータ回転数」に示されるように、「フロントモータ回転数Nfm」及び「リアモータ回転数Nrm」が「Lowギア段」の増加線に沿って大きくなり、車両100が加速される。
【0072】
一方、時刻t21以降においては、「車輪速加速度」に示されるように、車輪速加速度のばらつきが小さく、「角加速度の判定結果」に示されるように、コントローラ15は、角加速度Aのばらつきが所定の基準を満たす(S103:Yes)と判定する。その結果、変速マップに基づいた変速制御が行われる。
【0073】
時刻t21において、「前輪側変速指示」に示されるように、コントローラ15は、変速マップに従ってLowからHighへ変速制御が必要と判断する(S104:Yes)。そして、「モータトルク」に示されるように、コントローラ15は、変速制御を行う場合の前後駆動力配分への変更を開始する(S105)と、トルクの変化に応じて、「駆動力」に示される駆動力の変化が開始される。
【0074】
時刻t22において、「モータトルク」に示されるように、変速制御を行う場合の前後駆動力配分への変更が完了し(S107)、フロントモータトルクTfmがゼロとなるとともに、リアモータトルクTrmが大きくなる。その結果、「駆動力」に示されるように、前輪側の駆動力がゼロとなるとともに、後輪側の駆動力が大きくなる。なお、総駆動力は一定のままとなる。そして、「モータトルク」に示されるように、フロントモータトルクTfmがゼロとなると、フロント変速機13fは変速を開始する(S108)。
【0075】
時刻t23において、「モータトルク」に示されるように、「前輪側シフト位置」を一旦ニュートラル状態とする。「前輪側シフト位置」がニュートラル状態であるため、前輪側の「駆動力」はゼロとなる。
【0076】
この時、フロントモータ10fが回生制動されることで、「モータトルク」に示されるように、フロントモータトルクTfmが負となる。その結果、「モータ回転数」に示されるように、フロントモータ回転数Nfmは、Lowギア段に応じた回転数からHighギア段に応じた回転数への変化が開始される。
【0077】
時刻t23~t24において、フロントモータ10fの回生制動が継続され、「モータトルク」に示されるフロントモータトルクTfmは負となる。なお、「前輪側シフト位置」がニュートラル状態であるため、負のフロントモータトルクTfmは「駆動力」に示される前輪側の駆動力へ影響を与えない。
【0078】
時刻t25において、「前輪側シフト位置」がHighに変更される。その結果、フロントモータ10fにより前輪11fが駆動されることになる。そして、コントローラ15は、四輪駆動での通常走行時の前後駆動力配分へと変更する(S109)。
【0079】
時刻t26において、「モータトルク」に示されるように、コントローラ15は、フロントモータトルクTfmを増加させるとともにリアモータトルクTrmを減少させ、通常走行時の前後駆動力配分への変更を完了させる(S110)。その結果、「駆動力」に示されるように、前輪11f側と後輪11r側とで駆動力が当分に分配され、変速制御前の前後駆動力配分となる。なお、総駆動力は全区間において変化しない。
【0080】
このようにして、時刻t21~t26に示されるように、路面が滑らかであると判定さる場合には、前後駆動力配分が変更されてフロントモータトルクTfmがゼロである間に、フロント変速機13fの変速が行われる。この時、フロントモータトルクTfmの減少分を補うために、リアモータトルクTrmが増加されることで、前輪11f側における駆動力抜けが補填される。
【0081】
一方、時刻t11~t14に示されるように、路面が粗いと判定される場合には、変速機13の変速が原則禁止される。そのため、前後駆動力配分の変更によりトルクが増加される側の駆動輪11において、路面のグリップ力の低下を抑制でき、直進安定性が向上する。その結果、運転者に違和感を与えるおそれを低減できる。
【0082】
ここで、車両100の前後駆動力配分としては、燃費を最適とする配分と、操縦安定性を優先する配分とが存在している。なお、図2及び図3に示されるような四輪駆動時には、操縦安定性を優先する前後駆動力配分であり、変速時には一方の駆動力がゼロとなり、その減少分を補うために他方の駆動力が増加する。また、コントローラ15は、燃費最適と駆動安定性の優先との前後駆動力配分の切替を行う。以下においては、前後駆動力配分の切替方法について説明する。
【0083】
燃費最適な前後駆動力配分においては、例えば、リアモータ10rがフロントモータ10fよりも大型である場合には、フロントモータ10fを動作させずに、リアモータ10rのみで駆動力を得ることにより、全体の消費電力の低減を図る。一方、操縦安定性を優先する前後駆動力配分においては、前輪11f及び後輪11rにかかる荷重の比率に応じて、前輪側及び後輪側の駆動力を定めることで、車両100の全体での路面のグリップ力を適正化できる。なお、図3の例においては、前輪側と後輪側とで等分となることで、操縦安定性が向上する。
【0084】
図4は、前後駆動力配分の切替方法を示すフローチャートである。
【0085】
ステップS201において、コントローラ15は、燃費優先モードが設定されているか否かを判定する。例えば、コントローラ15においては運転者によって複数の走行モードが設定可能であり、スポーツモードのような走行性を重視するモードや、エコモードのような燃費低減を優先するモードが設定可能であるものとする。
【0086】
スポーツモードのような走行性を重視するモードが設定されており、燃費優先モードが設定されていない場合には(S201:No)、コントローラ15は、次に、ステップS202の処理を行う。一方、エコモードのような燃費優先モードが設定されている場合には(S201:Yes)、さらに前後駆動力配分の切替を行うために、コントローラ15は、ステップS203の処理を行う。
【0087】
ステップS202においては、コントローラ15は、操縦安定性を優先する前後駆動力配分を設定する。これにより、前輪11f及び後輪11rの荷重に応じた比率(図3の例では等分)の前後駆動力配分となる。
【0088】
ステップS203~S205においては、コントローラ15は、図2のステップS101~S103の処理と同様に、再取得した前輪角速度ωf及び後輪角速度ωrを微分して前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arを求め、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが所定の安定基準を満たすか否かを判定する。なお、ステップS205において用いられる安定基準と、ステップS103において用いられる安定基準とは、異なるものであってもよい。
【0089】
コントローラ15は、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが安定基準を満たす場合には、滑らかな路面を走行していると判定し(S205:Yes)、次に、ステップS206の処理を行う。
【0090】
ステップS206において、コントローラ15は、滑らかな路面を走行しているため、燃費を優先する前後駆動力配分を設定する。これにより、前輪11f又は後輪11rの一方のみで駆動力を発生させる前後駆動力配分となる。
【0091】
そして、ステップS207において、コントローラ15は、ステップS203~S205の処理と同様に、再取得した前輪角速度ωf及び後輪角速度ωrを微分して前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arを求め、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが所定の安定基準を満たすか否かを判定する。
【0092】
コントローラ15は、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが安定基準を満たす場合には、滑らかな路面の走行を継続していると判定し(S207:Yes)、再度、ステップS206の処理を行い、燃費を優先する前後駆動力配分の設定を継続する。一方、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが安定基準を満たさない場合には、路面の状態が粗く変化したと判定し(S207:No)、次に、ステップS201の処理を行う。
【0093】
一方、ステップS205において、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arが所定の安定基準を満たさない場合には、コントローラ15は、粗い路面を走行していると判定し(S205:No)、次に、ステップS208の処理を行う。ステップS208において、コントローラ15は、粗い路面を走行しているため、操縦安定性を優先する前後駆動力配分を設定する。
【0094】
ステップS209において、コントローラ15は、ステップS203~S205の処理と同様に、再取得した前輪角速度ωf及び後輪角速度ωrを微分して前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arを求め、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが所定の安定基準を満たすか否かを判定する。
【0095】
コントローラ15は、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが安定基準を満たさない場合には、粗い路面の走行を継続していると判定し(S209:No)、再度、ステップS201の処理に戻り、操縦安定性を優先する前後駆動力配分の設定を継続する。一方、前輪角加速度Af及び後輪角加速度Arのばらつきが安定基準を満たす場合には、路面の状態が滑らかに変化したと判定し(S209:Yes)、次に、ステップS210の処理を行う。
【0096】
ステップS210においては、コントローラ15は、路面の状態の粗い/滑らかの変化が周期的か否かを判定する。ステップS210は、路面が滑らかと判定された(S205:Yes)後に、路面が粗いと判定される(S207:No)場合、及び、路面が粗いと判定された(S205:No)後に、路面が滑らかと判定される(S207:Yes)場合に行われる。すなわち、ステップS210は、判定される路面の状態が変化する場合に行われる。そこで、ステップS210においては、路面の状態の変化が周期的であるか否かが判定される。
【0097】
具体的には、また、角加速度Aのばらつきに起因する振動について、周波数分析又はフィルタ処理により特定の振動成分を抜き出し、特定の振動成分が複数回(例えば、3回以上)、所定の間隔で繰り返される場合には、路面の状態の粗い/滑らかの変化が周期的であると判定される。
【0098】
路面の状態の粗い/滑らかの変化が周期的である場合には、コントローラ15は、変化の周期に応じた前後駆動力配分の変更を行うために、次に、ステップS211の処理を行う。一方、路面の状態の粗い/滑らかの変化が周期的ではない場合には、コントローラ15は、変化の周期に応じた前後駆動力配分の変更は不要と判断し、次に、ステップS201の処理を行う。
【0099】
ステップS211において、路面の状態の粗い/滑らかの変化が周期的である(S210:Yes)ため、コントローラ15は、変化の周期に合わせて、粗い路面においては操縦安定性を優先する前後駆動力配分が設定され、滑らかな路面においては燃費を優先する前後駆動力配分が設定されるように、周期的に前後駆動力配分を変化させる。その後、再度、路面の変化が周期的であるか否かを判定するために、ステップS210の処理を行う。この処理は、路面の状態の粗い/滑らかの変化が周期的に変化する場合(S210:Yes)に継続される。
【0100】
このようにすることで、高速道路等において定期的につなぎ目があるような場合には、その高速道路を走行中において路面状態の周期的な変化に応じて前後駆動力配分を設定することができる。
【0101】
なお、図2のステップS103、S105、図4のステップS205、S207、及び、S209においては、駆動輪11の角加速度のばらつきが基準を満たすか否かに応じて、路面の状態を判定し、路面の状態(粗い/滑らか)に応じて変速制御の抑制要否、及び、駆動力分配方法を決定したが、これに限らない。車両100に搭載される加速度センサにより取得される加速度が基準を満たすか否かを判定して、路面の状態を判定してもよい。また、カメラによる撮影画像や、ナビゲーションシステム等により得られる道路情報に基づいて、路面の状態を直接的に判定してもよい。
【0102】
また、図2のステップS103、S105、図4のステップS205、S207、及び、S209において駆動輪11の角加速度のばらつきと比較される基準について、変化させてもよい。例えば、車速が速いほど、車両100において発生する振動が大きくなりやすいので、変速制御をより抑制するのが好ましい、そこで、基準に用いられる閾値を小さくすことで、変速制御を抑制しやすくする。
【0103】
他にも、車両100が旋回する場合には、コーナリング半径が小さいほど、車両100において発生する振動が大きくなりやすいので、基準に用いられる閾値を小さくすことで、変速制御を抑制しやすくしてもよい。
【0104】
さらに他にも、車両100が坂道を走行する場合には、道路勾配の絶対値が大きいほど、基準に用いられる閾値を小さくすことで、変速制御を抑制しやすくしてもよい。上り坂の場合には、車両100の走行に必要なトルクが比較的大きいため、前後駆動力配分を行うことで一方の車輪側の駆動力を大きくしてしまうと、変速時に走行安定性を得られなくなるためである。下り坂の場合には、変速機13の入力軸20に回生制動を発生させるトルクが生じており、変速制御中において変速機13がニュートラル状態となることで、意図しない制動が発生するおそれが大きいためである。
【0105】
また、前後駆動力配分には、燃費優先又操縦性優先の2つの配分を例示したが、これに限らない。他にも、車両100の走行履歴に記憶される、角加速度A、ステアリング操舵量、及び、速度に基づいて、前後駆動力配分を補正してもよい。なお、走行履歴は数か月程度の中期的なものであってもよく、車両100の摩耗、空気圧、乗車人数、積載量、経年劣化等、操縦安定性に影響する要因が変化した場合においても、前後駆動力配分を補正してもよい。また、車両100の傾斜情報、走行経路、駆動力と車速の関係等を用いて、前後駆動力配分を変化させてもよい。
【0106】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0107】
本実施形態の変速制御方法によれば、変速機13の変速時においては前後駆動力配分が変更される。詳細には、前輪11f側又は後輪11r側のいずれか一方の駆動力を大きくする。その結果、駆動力が大きくなった側の駆動輪11において路面のグリップ力が低下し、運転者に違和感を与えてしまうおそれがある。また、グリップ力の低下は、路面が粗い場合に比較的発生頻度が高い。そこで、路面の粗さに応じて大きくなる指標を用いて、その指標が閾値を上回る場合には、路面が粗くグリップ力の低下が発生しやすいと判断し、変速制御を原則禁止することで、直進安定性を得られる。このようにすることで、運転者に違和感を与えるおそれを低減できる。
【0108】
本実施形態の変速制御方法によれば、指標が閾値を下回る場合には、フロント変速機13fの変速時においては、フロントモータトルクTfmをゼロとして、フロント変速機13fを変速させるとともに、フロントモータトルクTfmの減少分だけリアモータトルクTrmを大きくする。これにより、前輪変速機13fの変速中におけるフロントモータ10f及びリアモータ10rによる総駆動力が一定となるため、車両100の走行安定性を向上させることができる。
【0109】
本実施形態の変速制御方法によれば、駆動輪11には回転速センサ27が設けられており、回転速センサ27により測定される角速度ωから求められる角加速度Aのばらつきが指標として用いられて、路面の粗さが判定される。このように、サスペンションよりも下に設けられるセンサを用いることで、路面の状態をより適切に判断することができる。さらに、車両100に搭載されているセンサを活用することで、新たにセンサを設けることなく直進安定性を得ることができる。
【0110】
本実施形態の変速制御方法によれば、角加速度Aのばらつきを示すパラメータとして角加速度Aの振幅を用いる。振幅の大きさは路面の粗さと相関があり、かつ、振幅の算出は負荷が低いため、コントローラ15の負荷を大きくすることなく、路面が粗い場合を判定でき、路面が粗い場合に変速制御を原則禁止とすることで、直進安定性を得ることができる。
【0111】
本実施形態の変速制御方法によれば、角加速度Aのばらつきを示すパラメータとして角加速度Aの分散を用いる。振幅の分散は路面の粗さと相関が比較的高い。そのため、より高い精度で路面の粗さを判定できるため、直進安定性を得ることができる。
【0112】
本実施形態の変速制御方法によれば、車速が速いほど、路面の判定に用いる指標と比較される閾値を小さく補正する。車速が速いほど、変速制御時の前後駆動力変更に起因するグリップ力の低下が起こりやすい。そこで、閾値を小さくして、路面が粗いと判定されやすくすることにより、変速制御が原則禁止となりやすくなり、直進安定性を得やすくなる。
【0113】
本実施形態の変速制御方法によれば、フロントモータ10f及びリアモータ10rの消費電力の和が小さくなるような燃費優先の第1の前後駆動力配分と、前後輪の荷重に応じて定められる駆動安定性を優先する第2の前後駆動力配分とが存在し、指標が基準を下回る場合には(S205:Yes)、路面が滑らかであるため燃費を優先する第1の前後駆動力配分とし(S206)、指標が基準を上回る場合には(S205:No)、路面が粗いため駆動安定性を優先する第2の前後駆動力配分とする(S208)。このように路面状態に応じた前後駆動力配分とすることで、直進走行性又は燃費の向上が図られ、その結果、走行時の運転者への違和感を減少させることができる。
【0114】
本実施形態の変速制御方法によれば、指標が基準を上回る状態と下回る状態とが周期的に変化する場合には、その変化周期において、上回る状態において第1の前後駆動力配分を行い、下回る状態において第2の前後駆動力配分を行う。このようにすることで、指標が変化する場合であっても、その変化が周期的である場合には、路面状態に応じた前後駆動力配分とすることで、走行中において全体としての直進走行性及び燃費の向上を図ることができる。
【0115】
本実施形態の変速制御方法によれば、車両100の過去の走行履歴に示される、車両100の傾斜情報、駆動力と車速との関係、傾斜情報と車輪の角加速度振幅との関係を用いて、燃費が最適となるような、また、駆動安定性を得られるような前後駆動力配分に補正する。このようにすることで、さらに、走行時の運転者への違和感を減少させることができる。
【0116】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0117】
10 モータ
11 駆動輪
12 インバータ
13 変速機
14 バッテリ
15 コントローラ
20 入力軸
22 Lowギア列
23 Highギア列
24 ドグクラッチ
27 回転速センサ
図1
図2
図3
図4