IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ KDDI株式会社の特許一覧

特許7514790計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム
<>
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図1
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図2
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図3
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図4
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図5
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図6
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図7
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図8
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図9
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図10
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図11
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図12
  • 特許-計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 15/00 20110101AFI20240704BHJP
   G03H 1/08 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
G06T15/00 501
G03H1/08
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021068626
(22)【出願日】2021-04-14
(65)【公開番号】P2022163605
(43)【公開日】2022-10-26
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】小磯 諒太
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 良亮
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-502095(JP,A)
【文献】特表平03-502615(JP,A)
【文献】特開2009-086209(JP,A)
【文献】特開平10-326071(JP,A)
【文献】特開2013-054068(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0100510(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H 1/00- 5/00
G06T 1/00- 1/40
G06T 3/00- 5/50
G06T 11/00-19/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラム面における物体光と参照光との干渉計算に基づいて計算機合成ホログラムを生成する装置において、
ホログラム計算に利用する3Dモデルを仮想空間に配置する手段と、
ホログラム面の要素ホログラムごとに3Dモデル上の観測できる点を物体点光源として登録する手段と、
異なる要素ホログラムにそれぞれ登録されて相対位置が所定の関係を有する複数の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合して物体点光源の総数を削減する手段と、
物体点光源ごとに対応する各要素ホログラムへの光波伝搬を計算する手段とを具備したことを特徴とする計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項2】
前記要素ホログラムの一部を選抜要素ホログラムとして選抜する手段を具備し、
前記登録する手段は前記選抜要素ホログラムに物体点光源を登録し、
前記削減する手段は、異なる選抜要素ホログラムにそれぞれ登録されて相対位置が所定の関係を有する複数の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合することを特徴とする請求項1に記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項3】
前記選抜要素ホログラム以外の非選抜要素ホログラムに対して、各選抜要素ホログラムに登録された物体点光源から選択した物体点光源を対応付ける手段を具備したことを特徴とする請求項2に記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項4】
前記総数が削減された物体点光源群の物体点光源ごとに各要素ホログラムから観測可能であるか否かのオクルージョン情報を記憶するオクルージョンテーブルを具備したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項5】
前記光波伝搬を計算する手段は、物体点光源ごとに前記オクルージョンテーブルに基づいて当該物体点光源が観測可能と判断された各要素ホログラムへの光波伝搬計算を繰り返すことを特徴とする請求項4に記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項6】
前記物体点光源の総数を削減する手段は、異なる選抜要素ホログラムに登録されて相対距離が所定の閾値よりも近い複数の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合することを特徴とする請求項2または3に記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項7】
前記物体点光源の総数を削減する手段は、物体点光源が存在する3D空間上を多数の小領域に分割し、同一領域内の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合することを特徴とする請求項6に記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項8】
前記物体点光源の総数を削減する手段は、物体点光源が存在する3D空間上をボクセルグリッドで多数の小領域に分割し、ボクセルグリッドのサイズを3Dモデル配置の奥行と人の目の分解能とによって動的に決定することを特徴とする請求項7に記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項9】
前記物体点光源の総数を削減する手段は、統合後の物体点光源の位置座標として統合した複数の物体点光源の位置座標の平均値を採用することを特徴とする請求項6に記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項10】
前記物体点光源の総数を削減する手段は、統合後の物体点光源の位置として前記小領域の重心座標を採用することを特徴とする請求項7に記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項11】
前記物体点光源を対応付ける手段は、各選抜要素ホログラムに登録された物体点光源のうち当該非選抜要素ホログラムから観測可能な物体点光源を選択して対応付けることを特徴とする請求項3に記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項12】
前記物体点光源を対応付ける手段は、当該非選抜要素ホログラムとの相対位置が所定の関係を有する選抜要素ホログラムの物体点光源から選択した物体点光源を対応付けることを特徴とする請求項3または11に記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項13】
前記物体点光源を対応付ける手段は、前記非選抜要素ホログラムに対応付ける物体点光源を当該非選抜要素ホログラムと隣接する選抜要素ホログラムに登録された物体点光源から選択することを特徴とする請求項12に記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項14】
前記物体点光源を対応付ける手段は、非選抜要素ホログラムごとに各選抜要素ホログラムとの距離の逆数に基づいて当該各選抜要素ホログラムを重み付けし、物体点光源ごとに当該物体点光源を観測可能な選抜要素ホログラム数の前記重み付け和が所定の閾値を超える物体点光源を登録することを特徴とする請求項3,11ないし13のいずれかに記載の計算機合成ホログラム生成装置。
【請求項15】
コンピュータがホログラム面における物体光と参照光との干渉計算に基づいて計算機合成ホログラムを生成する方法において、
ホログラム計算に利用する3Dモデルを仮想空間に配置し、
ホログラム面の要素ホログラムごとに3Dモデル上の観測できる点を物体点光源として登録し、
異なる要素ホログラムにそれぞれ登録されて相対位置が所定の関係を有する複数の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合して物体点光源の総数を削減し、
物体点光源ごとに対応する各要素ホログラムへの光波伝搬を計算することを特徴とする計算機合成ホログラム生成方法。
【請求項16】
ホログラム面における物体光と参照光との干渉計算に基づいて計算機合成ホログラムを生成するプログラムにおいて、
ホログラム計算に利用する3Dモデルを仮想空間に配置する手順と、
ホログラム面の要素ホログラムごとに3Dモデル上の観測できる点を物体点光源として登録する手順と、
異なる要素ホログラムにそれぞれ登録されて相対位置が所定の関係を有する複数の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合して物体点光源の総数を削減する手順と、
物体点光源ごとに対応する各要素ホログラムへの光波伝搬を計算する手順と、をコンピュータに実行させる計算機合成ホログラム生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計算機合成ホログラム(Computer-Generated Hologram, CGH)の生成装置、方法及びプログラムに係り、特に、CGH生成を少ないメモリリソースで実施可能とする計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、CGのレイトレーシング法をベースとして写実性の高いレンダリングを可能とするCGHの計算手法が開示されている。非特許文献1では、物体からの伝搬光波を記録するホログラム面を要素ホログラムと呼ばれる複数の小領域に分割し、要素ホログラムごとに3Dシーンのレンダリング結果をレイトレーシング法に基づき得ることで連続視差を得ている。
【0003】
レイトレーシング法は各要素ホログラムの中心位置で実施されるため、要素ホログラムの数だけレンダリング結果が形成される。したがって、ホログラフィの視聴位置(視点)を変更する際に近傍の要素ホログラムからのレンダリング結果に応じて3D物体同士の遮蔽関係を適切に再現できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】T. Ichikawa, T. Yoneyama, and Y. Sakamoto, "CGH calculation with the ray tracing method for the Fourier transform optical system," Opt. Express 21, 32019-32031 (2013).
【文献】William E. Lorensen, Harvey E. Cline: Marching Cubes: A high resolution 3D surface construction algorithm. In: Computer Graphics, Vol. 21, Nr. 4, July 1987.
【文献】J.-D. Boissonnat, Geometric structures for three-dimensional shape representation. ACM Trans. Graph. 3, 4 (1984) 266.
【文献】Ryosuke Watanabe, Takamasa Nakamura, Masaya Mitobe, Yuji Sakamoto, and Sei Naito, "Fast calculation method for viewpoint movements in computer-generated holograms using a Fourier transform optical system," Appl. Opt. 58, G71-G83 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1の手法ではメモリサイズが膨大になるという課題がある。具体的には、連続視差を確保するために各要素ホログラムの中央から独立してレイトレーシングを行い、物体光計算に用いる3D点群(以後、物体点光源又は単に点光源と表現する)データを要素ホログラムの数だけ得る必要がある。
【0006】
例えば、3Dモデルとして3Dポリゴンデータが入力され、そのポリゴンデータを視聴するにあたり、点と点との間の隙間が見えないようにするための3D点群数がN点(=N点規模の3D点群データが入力として与えられる)であるとすると、非特許文献1の手法では、要素ホログラム数E×物体点光源数Nに相当する膨大な数の3D点群を保存し、物体光波伝搬を計算する必要がある。
【0007】
また、滑らかな運動視差を生み出すためには、ホログラム面のサイズが大きくなるほど多数の要素ホログラムを配置する必要があるため、大規模点群データが入力となる。加えて、要素ホログラムの枚数が多数となることから必要なメモリリソースが膨大になり、過大な計算機スペックが要求される懸念がある。
【0008】
本発明の目的は、上記の技術課題を解決し、ホログラムの実質的な表示品質を劣化させることなく、少ないメモリリソースでホログラムを高速に生成できる計算機合成ホログラム生成装置、方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、ホログラム面における物体光と参照光との干渉計算に基づいて計算機合成ホログラムを生成する装置において、以下の構成を具備した点に特徴がある。
【0010】
(1) ホログラム計算に利用する3Dモデルを仮想空間に配置する手段と、ホログラム面の要素ホログラムごとに3Dモデル上の観測できる点を物体点光源として登録する手段と、異なる要素ホログラムにそれぞれ登録されて相対位置が所定の関係を有する複数の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合して物体点光源の総数を削減する手段と、物体点光源ごとに対応する各要素ホログラムへの光波伝搬を計算する手段とを具備した。
【0011】
(2) 要素ホログラムの一部を選抜要素ホログラムとして選抜する手段を更に具備し、前記登録する手段は前記選抜要素ホログラムに物体点光源を登録し、前記削減する手段は、異なる選抜要素ホログラムにそれぞれ登録されて相対位置が所定の関係を有する複数の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合するようにした。
【0012】
(3) 選抜要素ホログラム以外の非選抜要素ホログラムに対して、各選抜要素ホログラムに登録された物体点光源から選択した物体点光源を対応付ける手段を具備した。
【発明の効果】
【0013】
(1) 異なる要素ホログラムにそれぞれ登録されて相対位置が所定の関係を有する複数の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合して物体点光源の総数を削減するようにしたので、物体点光源の位置座標や色情報を記憶するために必要なメモリリソースを削減できるようになる。
【0014】
(2) 要素ホログラムの一部を選抜要素ホログラムとして区別し、選抜要素ホログラムの物体点光源のみをレイトレーシング法等の適宜の手法で登録するようにしたので、物体点光源を登録するための計算量が減ぜられてホロクラム計算を高速化できるようになる。
【0015】
(3) 選抜要素ホログラム以外の非選抜要素ホログラムに対して、各選抜要素ホログラムに登録された物体点光源から選択した物体点光源を対応付けるようにしたので、レイトレーシング法のように計算負荷の高い点光源登録手法を適用する要素ホログラムを一部に限定しながら全ての要素ホログラムに対して物体点光源を登録できるようになる。その結果、ホログラムの表示品質を損なうことなく物体点光源を登録するための計算量を減じることができ、ホロクラム計算を高速化できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係る計算機合成ホログラム生成装置の構成を示した機能ブロック図である。
図2】選抜要素ホログラムの選び方の例を示した図である。
図3】レイトレーシング法による点光源の登録方法を模式的に示した図である。
図4】異なる要素ホログラムにそれぞれ登録されて同一または近い位置にある複数の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合する方法を示した図である。
図5】物体点光源の統合範囲を規定する例を示した図である。
図6】同一ボクセル内の複数の物体点光源を一つに統合する例を示した図である。
図7】オクルージョンの計算方法の例を示した図である。
図8】オクルージョンテーブルの例を示した図である。
図9】非選抜要素ホログラムに物体点光源を対応付ける方法を示した図である。
図10】非選抜要素ホログラムに点光源を対応付けた後のオクルージョンテーブルの例を示した図である。
図11】非選抜要素ホログラムに周囲の選抜要素ホログラムから物体点光源を対応付ける方法を示した図である。
図12】本発明の第2実施形態に係る計算機合成ホログラム生成装置の構成を示した機能ブロック図である。
図13】本発明の第3実施形態に係る計算機合成ホログラム生成装置の構成を示した機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る計算機合成ホログラム生成装置1の構成を示した機能ブロック図であり、3Dモデル入力部10,要素ホログラム選抜部20,物体点光源登録部30,物体点光源削減部40,物体点光源対応付部50,光波伝搬計算部60,干渉縞計算部70,CGH出力部80およびオクルージョンテーブル90を主要な構成としている。
【0018】
このような計算機合成ホログラム生成装置1は、汎用の少なくとも一台のコンピュータやサーバに各機能を実現するアプリケーション(プログラム)を実装することで構成できる。あるいはアプリケーションの一部をハードウェア化またはソフトウェア化した専用機や単能機としても構成できる。
【0019】
本実施形態では、後に図2を参照して詳述するように、ホログラム面を要素ホログラムと呼ばれる複数の小領域に分割し、要素ホログラムごとに対応する点光源群から光波伝搬を計算し、物体光波分布として記録することで近似的に運動視差を実現する場合を例にして説明する。
【0020】
3Dモデル入力部10は、ホログラム計算に用いる3Dモデルを入力し、メッシュデータとして仮想空間に配置する。3DモデルはOBJファイルなどのメッシュデータが直接入力されても良い。また、ボクセルデータが非特許文献2のマーチン・キューブ法等のメッシュ化アルゴリズムでメッシュデータに変換されて入力されるようにしても良い。あるいは点群データが非特許文献3のBoissonnatの手法等によってメッシュデータに変換されて入力されるようにしても良い。
【0021】
要素ホログラム選抜部20は、例えば図2に示すように、ホログラム面を垂直方向に3分割、水平方向に5分割して得られる全15枚の要素ホログラムから、物体点光源を個別に登録する要素ホログラムを選抜する。本実施形態では、選抜された要素ホログラムを特に選抜要素ホログラムと表現し、選抜されなかった残りの要素ホログラムを特に非選抜要素ホログラムと表現する場合もある。
【0022】
ホログラム面を要素ホログラム単位で分割し、要素ホログラムごとに物体点光源を登録すると、相互に距離が近い要素ホログラムがそれぞれ登録する点光源群は運動視差が少ないことから、3Dモデルの3次元座標が同一もしくは近い物体点光源を多数含むことがある。
【0023】
そこで、本実施例では図2に示すように、要素ホログラムを等間隔で間引き、斜線で示す8枚の選抜要素ホログラムを残すことで、後段でレイトレーシングにより物体点光源を登録する際の計算量の削減を図っている。なお、選抜要素ホログラムの選び方は図2のような千鳥格子状のパターンに限定されるものではなく、ホログラム面から選抜要素ホログラムを適切に、例えば偏りなく均一に選べる方法であればどのような選び方であっても良い。
【0024】
物体点光源登録部30は、非特許文献1が開示するレイトレーシング法により、選抜要素ホログラムごとにその中心から観測できる3Dモデル上の点を、光波伝搬計算に用いる物体点光源として登録する。レイトレーシング法は、ある一点から多数の光線を飛ばし、その光線と交わるポリゴンの位置および色を登録することで陰面消去やシェーディングなどを考慮した写実的なレンダリングを可能にする方法である。
【0025】
本実施例では、図3に示すように各選抜要素ホログラムの中心からレイトレーシング法によって、光線と3Dモデルとの交点の3次元座標(x, y, z)及びその色情報(R, G, B)を各点光源の情報として登録する。選抜要素ホログラムごとに光線を飛ばす位置が異なるため、選抜要素ホログラムごとに異なる点群を点光源として登録できる。
【0026】
なお、レンダリング方法はレイトレーシング法に限定されるものではなく、例えばZバッファ法などを用いて実施してもレンダリング回数を削減できる。この場合、要素ホログラムの中心からZバッファ法でレンダリングを行った際に得られる輝度画像及び深度画像から、物体点光源となる3D点群の位置及び色(x, y, z, R, G, B)を復元することで点情報を登録することが可能である。
【0027】
物体点光源削減部40は、物体点光源登録部30が選抜要素ホログラムごとに登録した物体点光源を対象に、図4に示すように、異なる選抜要素ホログラムにそれぞれ登録された物体点光源のうち3次元座標が同一もしくは距離が近い点光源を、共通する1点に統合することで光波伝搬計算に使用する点光源の総数を削減する。
【0028】
本実施例では、図5に示すように物体点光源が存在する3次元空間を立方体形状のボクセルグリッドに分割し、図6に示すように、同一ボクセル内の複数の点光源を一つの点光源に統合する。例えば8つの選抜要素ホログラムにそれぞれ登録された計8つの点光源が同一ボクセルに入っていると、8つの座標情報及び色情報が1つの座標情報及び色情報で代表されるので、座標情報及び色情報の登録に係るデータ量が1/8に減ぜられる。
【0029】
統合した1点については、統合された複数点の3次元座標の平均値を統合後の3次元座標としても良いし、あるいは計算量を削減するためにボクセルの重心座標を統合後の3次元座標としてもよい。統合した1点の色情報については、統合した複数点の色情報の平均値を採用しても良いし、統合した複数点のいずれかの色情報を採用しても良い。
【0030】
本実施形態では、統合する点として人間の目で観測した際に同一の点とみなされるほど近い点を想定しており、ボクセルサイズは3Dモデルとホログラムとの距離lから、一辺の長さLが人間の視覚の空間分解能(1/60°)以下に観測されるよう、ホログラムと3Dモデルの表面との最短距離l0に基づいて次式(1)により自動的に設定される。これにより、人間の視覚の空間分解能でボクセルサイズが設定されるため、複数の点群を1つに統合しても主観画質を損なうことなくメモリサイズを削減することが可能となる。
【0031】
【数1】
【0032】
なお、本実施形態では直方体のボクセルグリッドを採用するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。例えば、本実施例におけるレイトレーシング法を用いた物体点光源の登録を考えた場合、物体点光源の位置がホログラム面から遠ければ遠いほど点と点との間の距離は大きくなる傾向にある。したがって、ホログラム面から距離が離れるほど、グリッドの大きさが大きくなるようにグリッドを形成してもよい。
【0033】
これを実現する例としては、ホログラム面の中央を中心とする距離lと、仰角θ、方位角Φで表現される3D極座標系で物体点光源の配置を考え、各軸を一定の長さ又は角度ごとに区切りってグリッドを形成してもよい。
【0034】
また、ホログラム面に平行な底面を持つ視錐体としてグリッドを表現してもよい。この場合、点の存在する3D領域全体を内包する視錐体の中に、一定のz軸方向(z軸はホログラム面に垂直方向とする)の長さ及び一定の画角を持つ小さい視錐体のグリッドを作ることで空間を分割してよい。
【0035】
前記統合されて座標情報及び色情報を新たに割り当てられた物体点光源および統合されずに当初の座標情報及び色情報を維持している物体点光源はオクルージョンテーブル90に登録される。オクルージョンテーブル90では、図7に模式的に示すように、点光源ごとにどの要素ホログラムから観測可能または観測不可能であるかのビット情報がテーブル形式で管理される。
【0036】
ただし、本実施形態では未だ非選択要素ホログラムについては物体点光源が未登録なので、図8に一例を示すように、各物体点光源をインデックスとして、当該物体点光源を観測できる選抜要素ホログラムの対応するセルには"1"がセットされ、観測できない選抜要素ホログラムの対応するセルには"0"がセットされるにとどまる。
【0037】
このとき、前記物体点光源削減部40により統合されなかった点光源については、当該点光源が登録された選抜要素ホログラムからは観測可能とみなして"1"がセットされ、それ以外の選抜要素ホログラムからは観測不可能とみなして"0"がセットされる。
【0038】
一方、統合により生じた新たな点光源については、統合された各点光源を登録していた選抜要素ホログラムからは観測可能、それ以外の選抜要素ホログラムからは観測不可能とみなしてオクルージョンテーブルの各対応するセルに対応するビットがセットされる。
【0039】
物体点光源対応付部50は、前記物体点光源登録部30がレイトレーシング法で点光源を登録しなかった非選抜要素ホログラムに対して、その光波伝搬計算に用いる点光源を各選抜要素ホログラムに登録済みの点光源から選択して対応付ける。
【0040】
本実施例では、図9に示すように非選抜要素ホログラムごとに、垂直方向および水平方向の少なくとも一方に関して両隣に隣接する選抜要素ホログラムから観測可能な全ての点光源を対象にオクルージョンなく観測可能か否かを判定する。
【0041】
本実施形態では、非選抜要素ホログラムごとにその中心から前記各点光源に対して光線を飛ばし、途中で別のオブジェクトと光線が接触することなく到達できれば観測可能とみなしてオクルージョンテーブルの対応するセルに"1"をセットする一方、到達できなければ観測不可能とみなして"0"をセットする。図10は非選抜要素ホログラムについても点光源ごとに観測の可否が登録されることで更新されたオクルージョンテーブルの例を示した図である。
【0042】
このように、本実施形態では非選抜要素ホログラムの点光源については色の計算を行わず、接触判定のみが行われるので計算量を削減できる。また、登録済みの統合された点群を用いてオクルージョンテーブルが図10のように更新され、未登録の点群が新たに登録されることが無いのでメモリの削減効果も期待できる。
【0043】
なお、図2の左から1行2列目や2行1列目の非選抜要素ホログラムのように、上下左右の4方の一部に選抜要素ホログラムが存在しなければ、存在する選抜要素ホログラムの物体点光源情報のみに基づいて観測可能な点光源群を対応付けても良い。
【0044】
また、図11に示すように、周囲の選抜要素ホログラムとの距離dselとオクルージョンテーブルからオクルージョンテーブルを更新するようにしても良い。これにより、オクルージョン判定の計算が不要となるので計算量を削減できる。特に、単一の球を表示するシーンなど単純なメッシュ形状の場合にはオクルージョンの有無がホログラム面上で連続的に変化するため、品質劣化なく計算量を削減できる。
【0045】
図11のように、非選抜要素ホログラムの上下左右に隣接する4枚の選抜要素ホログラムからオクルージョンテーブル90を更新する場合、各選抜要素ホログラムと非選抜要素ホログラムとの中心間距離をdsel(sel=1~4)、点光源piに関するオクルージョンテーブルの値をO(i,sel)=0又は1としたとき、特定の閾値Thによる条件分岐により、次式(2)により非選抜要素ホログラムeのオクルージョンテーブルの値O(i,e)を更新できる。ここでdminは中心間距離の最小値であり、dmin=min(d1,d2,d3,d4)で求められる。
【0046】
【数2】
【0047】
このように、前記物体点光源対応付部50は、非選抜要素ホログラムごとに周囲の各選抜要素ホログラムとの距離の逆数に基づいて当該各選抜要素ホログラムを重み付けし、物体点光源ごとに当該物体点光源を観測可能な選抜要素ホログラム数の前記重み付け和が所定の閾値を超える物体点光源を登録するようにしても良い。
【0048】
光波伝搬計算部60は、オクルージョンテーブル90の情報に基づいて光波伝搬を計算する点光源と要素ホログラムとの関係を把握し、各点光源から対応する各要素ホログラム面までの物体光波伝搬を、例えば非特許文献1が開示する次式(3),(4)を用いて計算する。
【0049】
【数3】
【0050】
【数4】
【0051】
ここで、(x, y) は光波が伝搬されるホログラム面上の画素位置を示しており、Si(x, y) は各点光源piから伝搬されるホログラム面上の光波分布を示している。N'は削減後の点光源の点数、Aiはpiの輝度,riは点光源piとホログラム面上の画素(x, y) との距離を表している。O(i, e) は各点光源piと要素ホログラムeに該当するオクルージョンテーブルの値であり、点光源piが要素ホログラムeで観測可能か否かを示している。kは光の波長から計算される波数を表す。U(x, y) は計算される物体光波分布である。
【0052】
前記光波伝搬計算部60は、オクルージョンテーブル90に基づいて、点光源ごとに当該点光源を観測可能な各要素ホログラムへの光波伝搬計算を繰り返し、これを全ての点光源に対して繰り返す。これにより、特に前記統合後の点光源や非選抜要素ホログラムに対して対応付けられた点光源のように、複数の要素ホログラムから観測可能な点光源については、その座標情報や色情報を読み出すためのメモリアドレスが、当該点光源を共通して観測できる要素ホログラム数分だけ固定できるので高速読み出しが可能になる。
【0053】
したがって、非特許文献1のように、要素ホログラムごとに登録されている全ての点光源の座標情報や色情報を順次に読み出して光波伝搬計算を繰り返し、これを要素ホログラムごとに繰り返す場合に比べてメモリアクセスに要する時間が短縮され、光波伝搬計算を高速化できるようになる。
【0054】
干渉縞計算部70では、ホログラム面上の物体光波u(x, y)に対して計算機上のシミュレーションとして参照光波を差し込むことで干渉計算を行う。本実施例では参照光として収束球面参照光波を用いる。収束球面参照光波を用いた干渉計算方法は以下の通りである。
【0055】
収束球面参照光波がホログラム面上に伝搬されたときの光波の複素振幅分布R(x, y)は次式(5)で表わされる。ここで、R0は参照光の強度であり、rは参照光の位置からホログラム面上の位置(x, y)までの距離を表している。
【0056】
【数5】
【0057】
なお、本発明の参照光は上式(5)に限定されるものではなく、次式(6)のような単なる球面波参照光でも良いし、次式(7)のような平行波参照光でもよい。ここで、式(7)のαは参照光のホログラム面への入射角度である。
【0058】
【数6】
【0059】
【数7】
【0060】
参照光波と物体光波との干渉は次式(8)で表される。ここで、I(x, y)はCGHの輝度分布である。
【0061】
【数8】
【0062】
CGH出力部80は、干渉縞計算部70で計算した干渉縞を画像データとして出力する。本実施形態では、干渉縞を0-255のレンジに正規化して画像として出力する。
【0063】
本実施形態によれば、異なる要素ホログラムにそれぞれ登録されて相対位置が所定の関係を有する複数の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合して物体点光源の総数を削減するので、物体点光源の位置座標や色情報を記憶するために必要なメモリリソースを削減できるようになる。
【0064】
また、本実施形態によれば要素ホログラムの一部を選抜要素ホログラムとして区別し、選抜要素ホログラムの物体点光源のみをレイトレーシング法等の適宜の手法で登録するので、物体点光源を登録するための計算量が減ぜられてホロクラム計算を高速化できるようになる。
【0065】
さらに、本実施形態によれば非選抜要素ホログラムに対して、各選抜要素ホログラムに登録された物体点光源から選択した物体点光源を対応付けるので、レイトレーシング法のように計算負荷の高い点光源登録手法を適用する要素ホログラムを一部に限定しながら全ての要素ホログラムに対して物体点光源を登録できるようになる。その結果、ホログラムの表示品質を損なうことなく物体点光源を登録するための計算量を減じることができ、ホロクラム計算を高速化できるようになる。
【0066】
なお、上記の実施形態では物体点光源対応付部50が非選抜要素ホログラムに対して、その周囲の選抜抜要素ホログラムに登録された物体点光源の一部を対応付けるものとして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、図12に示した第2実施形態のように、物体点光源対応付部50を省略し、非選抜要素ホログラムについては光波伝搬計算を行わないようにしても良い。
【0067】
第2実施形態によれば、3Dモデルにホログラムの生成されない領域が発生するが光波伝搬の計算量を減じることができるので、選抜要素ホログラムの割合を適宜に調整することにより、3Dモデルの視聴品質を大きく損なうことなくホログラムの更なる高速生成が可能になる。
【0068】
さらに、図13に示した第3実施形態のように、前記物体点光源対応付部50に加えて要素ホログラム選抜部20も省略し、物体点光源を全ての要素ホログラムに対してそれぞれレイトレーシング法等により登録するようにしても良い。
【0069】
第3実施形態によれば、前記第1実施形態との比較で物体減光源を登録する処理負荷が増えるものの、物体点光源削減部40が、異なる要素ホログラムにより登録されて相対位置が所定の関係を有する複数の物体点光源を単一の共通する物体点光源に統合し、これによるオクルージョンテーブルに登録する物体点光源数を削減できるので、メモリ容量を節約できるようになる。
【0070】
そして、上記の各実施形態によれば高品質なCGHを短時間で生成することができ、通信インフラ経由でもリアルタイムで提供することが可能となるので、地理的あるいは経済的な格差を超えて多くの人々に多様なエンターテインメントを提供できるようになる。その結果、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、包括的で持続可能な産業化を推進する」や目標11「都市を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1…計算機合成ホログラム生成装置,10…3Dモデル入力部,20…要素ホログラム選抜部,30…物体点光源登録部,40…物体点光源削減部,50…物体点光源対応付部,60…光波伝搬計算部,70…干渉縞計算部,80…CGH出力部,90…オクルージョンテーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13