(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】工作機械、及び、工作機械の軸合わせ方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 1/64 20060101AFI20240704BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20240704BHJP
B23B 25/06 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
B23Q1/64 C
B23Q17/12
B23B25/06
(21)【出願番号】P 2021100267
(22)【出願日】2021-06-16
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 惇
(72)【発明者】
【氏名】野口 賢次
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-309647(JP,A)
【文献】特開2021-053713(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020646(WO,A1)
【文献】特開2012-206231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/64
B23Q 17/12
B23B 25/06
B23B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの一端側を把持する
第一クランプを備える第一主軸と、
前記ワークの他端側を把持する
第二クランプを備える第二主軸と、
前記第一主軸及び前記第二主軸を夫々回転させるアクチュエータと、
振動に関連する物理量を検出するセンサと、
前記物理量に基づいて前記第一主軸と前記第二主軸との軸合わせを行う制御部と、
を備え
、
前記制御部は、前記第一クランプ及び前記第二クランプが前記ワークを把持した状態で、前記アクチュエータにより、前記第一主軸と前記第二主軸とを夫々回転さることにより前記第一主軸と前記第二主軸とを同期回転させて前記軸合わせを行う、
工作機械。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第一主軸と前記第二主軸との相対位置をずらした第一の複数の位置において夫々、前記センサで前記物理量を検出し、
前記第一の複数の位置のうち前記物理量が最も小さい位置を前記第一主軸と前記第二主軸との第一目標位置とする、
請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記第一の複数の位置を、同一円上にずらした位置とする、
請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記制御部は、
前記円の中心から前記第一目標位置の方向に前記第一主軸と前記第二主軸との相対位置をずらした第二の複数の位置において夫々、前記センサで前記物理量を検出し、
前記第二の複数の位置のうち前記物理量が最も小さい位置を前記第一主軸と前記第二主軸との第二目標位置とする、
請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第二目標位置を前記円の中心として、前記第一の複数の位置において夫々、前記セ
ンサで前記物理量を検出し、前記第一の複数の位置のうち前記物理量が最も小さい位置を取得することで前記第一目標位置を更新し、
更新後の前記第一目標位置の方向の前記第二の複数の位置において夫々、前記センサで前記物理量を検出し、前記第二の複数の位置のうち前記物理量が最も小さい位置を取得することで前記第二目標位置を更新する、
ことを繰り返し行う、
請求項4に記載の工作機械。
【請求項6】
前記制御部は、前記第一目標位置における前記物理量が、直前の前記第二目標位置における前記物理量以上である場合に、直前の前記第二目標位置が、前記第一主軸と前記第二主軸との軸が合っている位置であると判定する、
請求項5に記載の工作機械。
【請求項7】
前記物理量は、前記センサの検出値の
統計処理により算出される分散値である、
請求項2から6の何れか一項に記載の工作機械。
【請求項8】
前記制御部は、前記第一主軸と前記第二主軸との軸ずれの
製造公差の範囲内に前記第一の複数の位置を設定する、
請求項2から7の何れか1項に記載の工作機械。
【請求項9】
ワークの一端側を把持する
第一クランプを備える第一主軸と、
前記ワークの他端側を把持する
第二クランプを備える第二主軸と、
前記第一主軸及び前記第二主軸を夫々回転させるアクチュエータと、
振動に関連する物理量を検出するセンサと、
前記物理量に基づいて前記第一主軸と前記第二主軸との軸合わせを行う制御部と、
を備え
、
前記制御部は、前記第一クランプ及び前記第二クランプが前記ワークを把持した状態で、前記アクチュエータにより、前記第一主軸と前記第二主軸とを夫々回転さることにより前記第一主軸と前記第二主軸とを同期回転させて前記軸合わせを行う、
工作機械の軸合わせ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械、及び、工作機械の軸合わせ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NCフライス盤、マシニングセンタ等の、ワーク(被加工物)を工具で加工する工作機械が知られている。このような工作機械は、ワーク又は工具を装着するために締結動作可能なクランプを有する場合や、クランプ等によってワーク又は工具を装着した状態で回転可能な主軸を有する場合がある。このようなワーク又は工具の装着部に、切屑の噛み込み等の異常がある場合には、ワークの加工精度に悪影響を及ぼしかねない。
【0003】
このような問題に対処する従来技術としては、例えば特許文献1に記載されるようなものが知られている。特許文献1には、ワーク又は工具を装着するために締結動作可能なクランプの振動に関するデータに基づいて異常を検知する工作機械が記載されている。
【0004】
また、同一軸線上に主軸と背面主軸とを有し、ワークの一端側と他端側とを主軸が有するクランプと背面主軸が有するクランプとで把持する工作機械が知られている。このような工作機械では、主軸と背面主軸とで軸芯のずれ(軸ずれ、または、芯ずれともいう)が起こり得る。
【0005】
このような問題に対処する従来技術としては、例えば特許文献2に記載されるようなものが知られている。特許文献2には、外径測定器によって、主軸に把持された棒材の軸芯、及び、主軸に対向した状態で背面主軸に把持されている棒材の軸芯を測定し、これら両測定による測定データに基づいて主軸の軸芯に対する背面主軸の軸芯のずれを修正する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-55051号公報
【文献】特開平11-309647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、主軸と背面主軸との軸合わせをより簡単に行うことが望まれている。
【0008】
本開示の目的は、工作機械の軸合わせをより簡単に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の態様の一つは、
ワークの一端側を把持する第一主軸と、
前記ワークの他端側を把持する第二主軸と、
前記第一主軸及び前記第二主軸が前記ワークを把持した状態で、前記第一主軸及び前記第二主軸が同期回転しているときの振動に関連する物理量を検出するセンサと、
前記物理量に基づいて前記第一主軸と前記第二主軸との軸合わせを行う制御部と、
を備える工作機械である。
【0010】
本開示の他の態様の一つは、
ワークの一端側を把持する第一主軸と、
前記ワークの他端側を把持する第二主軸と、
前記第一主軸及び前記第二主軸が前記ワークを把持した状態で、前記第一主軸及び前記第二主軸が同期回転しているときの振動に関連する物理量を検出するセンサと、
前記物理量に基づいて前記第一主軸と前記第二主軸との軸合わせを行う制御部と、
を備える工作機械の軸合わせ方法である。
【0011】
また、本開示の他の態様は、上記の工作機械の軸合わせ方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、または、そのプログラムを非一時的に記憶した記憶媒体である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、工作機械の軸合わせをより簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る工作機械の一例を示した図である。
【
図2】実施形態に係る工作機械の構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【
図4】ワークの締結前後の振動センサの検出値を示したタイムチャートである。
【
図5】第一主軸に対して第二主軸を意図的にずらしたときの振動センサの検出値の分散値を実験的に求めた図ある。
【
図6】第一主軸と第二主軸との軸合わせを行うときに第二主軸を移動させる軌跡の一例を示した図である。
【
図7】
図6に示した軌跡で第二主軸が移動しているときの振動センサの検出値の分散値の一例を示した図である。
【
図8】第一主軸と第二主軸との軸合わせを行うときに第二主軸を第一位相の方向に移動させる軌跡の一例を示した図である。
【
図9】
図8に示した軌跡で第二主軸が移動しているときの振動センサの検出値の分散値の一例を示した図である。
【
図10】第一主軸と第二主軸との軸合わせを行うときに、(X1,Y1)を出発点として第二主軸を移動させる軌跡の一例を示した図である。
【
図11】
図10に示した軌跡で第二主軸が移動しているときの振動センサの検出値の分散値の一例を示した図である。
【
図12】第一主軸と第二主軸との軸合わせを行うときのフローを示したフローチャートである。
【
図13】円移動処理のフローを示したフローチャートである。
【
図14】直線移動処理のフローを示したフローチャートである。
【
図15】第一主軸に対して第二主軸を意図的にずらしたときの振動センサの検出値の範囲を実験的に求めた図ある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の態様の一つである工作機械は、ワークの一端側を把持する第一主軸と、ワークの他端側を把持する第二主軸と、第一主軸及び第二主軸がワークを把持した状態で、第一主軸及び第二主軸が同期回転しているときの振動に関連する物理量を検出するセンサと、物理量に基づいて第一主軸と第二主軸との軸合わせを行う制御部と、を備える。
【0015】
第一主軸及び第二主軸がワークを把持して同期回転する場合には、第一主軸及び第二主軸の軸芯が合っていることが望ましい。そのため、工作機械の製造時に軸合わせが行われる。また、工作機械の製造時に軸合わせを行ったとしても、経年変化または使用状態などによって軸がずれる虞もある。そのため、工作機械の使用前などにも軸合わせが行われる場合もある。したがって、制御部は、工作機械の製造時または使用前などに軸合わせを行う。
【0016】
第一主軸及び第二主軸の軸合わせは、第一主軸及び第二主軸が同一のワークを把持した状態で第一主軸及び第二主軸が同期回転しているときに行われる。なお、「同期回転しているとき」は、第一主軸と第二主軸とが結果的に同期回転しているときであればよく、例えば、第一主軸と第二主軸とが同期回転するように制御されているとき、または、第一主軸と第二主軸とが同期回転する機構を有している場合に第一主軸と第二主軸とが回転しているときを含む。このように第一主軸及び第二主軸が同期回転しているときに、仮に、第一主軸と第二主軸とで軸がずれている場合には、第一主軸または第二主軸において振動が発生する。したがって、この振動に基づいて、第一主軸と第二主軸との軸が合っているか否か判定できる。そこで制御部は、この振動に基づいて軸合わせを行う。
【0017】
センサは、第一主軸または第二主軸で発生する振動に関する物理量を検出可能なセンサであればよく、例えば、振動センサ(加速度センサを含む)、または、位置センサ等である。
【0018】
以下、図面に基づいて、本開示の実施形態を説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この開示の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態に係る工作機械1の一例を示した図である。
図1に示すように、本実施形態に係る工作機械1は、第一主軸11と、この第一主軸11を回転可能に支持する第一主軸台12とを備えている。第一主軸11は、ワークWの一端側を装着するために締結動作可能な第一クランプ13を備えている。また、工作機械1は、第一主軸11と略同一の軸線上に第二主軸21と、この第二主軸21を回転可能に支持する第二主軸台22とを備えている。第二主軸21は、背面主軸としてもよい。第二主軸21は、ワークWの他端側を装着するために締結動作可能な第二クランプ23を備えている。また、第二主軸21と第二主軸台22との間には、第二主軸21を第二主軸台22に対して相対的に移動させる調整機構24が備わる。調整機構24は、例えば、X軸及びY軸の二軸方向に第二主軸21を相対移動可能である。調整機構24は、例えば、歯車とその歯車を作動させるアクチュエータとを含んで構成される。第一主軸台12と第二主軸台22とは、相対位置が変化しないように、例えば同一の構造物である台座100に固定されている。
図1において、第一主軸11及び第二主軸の軸方向(
図1の左右方向)をZ軸方向とし、Z軸と直交し台座100の上面と平行な方向(
図1の上下方向)をY軸方向とし、台座100の上面と直交する方向(
図1の前後方向)をX軸方向とする。
【0020】
第一クランプ13及び第二クランプ23によるワークWの締結動作は、例えば、シリンダ、ピストン等で構成される、クランプ用アクチュエータ(図示省略)によって生じさせることができる。第一クランプ13及び第二クランプ23によってワークWが締結されている場合には、第一主軸11と第二主軸21とが同期して回転し、例えば、工具によってワークWが切削される。なお、以下では、第一クランプ13でワークWをクランプする場合に、第一主軸11でワークWをクランプするともいう。同様に、第二クランプ23でワークをクランプする場合に、第二主軸21でワークWをクランプするともいう。
【0021】
第二主軸21には、第二主軸21の振動を測定する振動センサ25が配置されている。振動センサ25は、例えば、第一主軸11及び第二主軸21の軸合わせを行うときに限り第二主軸21の振動を測定してもよいし、工作機械1の稼働中に、常時、第二主軸21の振動を測定していてもよい。振動センサ25による測定のタイミングは、適宜変更が可能である。なお、振動センサ25は、第二クランプ23の振動を測定できる場所に配置されていればよい。振動センサ25は、例えば第二クランプ23にできるだけ近づけて配置し
てもよい。本実施形態では、振動センサ25に加速度センサを用いる。加速度センサは、例えば
図1に示すX軸方向、または、Y軸方向の一方向の加速度を測定可能なセンサであるが、別法として、二方向以上の加速度を測定可能なセンサであってもよい。なお、振動センサ25は、加速度センサに限定されず、例えば距離センサ等であってもよい。また、各センサは複数用いてもよい。なお、以下において振動センサ25の検出値といった場合には、振動センサ25の出力値である電圧、または、その電圧を加速度若しくは振動に変換した値の何れであってもよい。この変換は後述する軸合わせ部402によって行われる。
【0022】
工作機械1は、制御部40を備えている。制御部40は、工作機械1の制御を行うコンピュータである。
図2は、本実施形態に係る工作機械1の構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【0023】
制御部40は、一般的なコンピュータの構成を有している。制御部40は、プロセッサ41、主記憶部42、補助記憶部43、入力部44、及び、出力部45を有する。これらは、バスにより相互に接続される。バスには、インタフェースを介して、振動センサ25などのセンサ類が接続されており、これらのセンサ類からの信号が制御部40に入力される。一方、バスには、インタフェースを介して、第一主軸11を回転させるアクチュエータ、第二主軸21を回転させるアクチュエータ、第一クランプ13の締結動作及び開放動作を行うアクチュエータ、第二クランプ23の締結動作及び開放動作を行うアクチュエータ、調整機構24等が接続されており、制御部40からこれらの機器に制御信号が送られる。
【0024】
プロセッサ41は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等である。プロセッサ41は、工作機械1を制御し、様々な情報処理の演算を
行う。主記憶部42は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等である。補助記憶部43は、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディ
スクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)、リムーバブルメディア等である。補助記憶
部43には、オペレーティングシステム(Operating System :OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。補助記憶部43に格納されたプログラムをプロセッサ41が主記憶部42の作業領域にロードして実行し、このプログラムの実行を通じて各構成部等が制御される。これにより、所定の目的に合致した機能を制御部40が実現する。主記憶部42および補助記憶部43は、コンピュータで読み取り可能な記録媒体である。なお、制御部40は、単一のコンピュータであってもよいし、複数台のコンピュータが連携したものであってもよい。また、補助記憶部43に格納される情報は、主記憶部42に格納されてもよい。また、主記憶部42に格納される情報は、補助記憶部43に格納されてもよい。
【0025】
入力部44は、ユーザが行った入力操作等を受け付ける手段であり、例えば、タッチパネル、マウス、キーボード、または、マイクロフォン等を含む。出力部45は、ユーザに対して情報を提示する手段であり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、EL(Electroluminescence)パネル、スピーカ、ランプ等を含むことができる。なお、入力部
44及び出力部45は、1つのタッチパネルディスプレイとして構成してもよい。
【0026】
図3は、制御部40の機能構成の一例を示す図である。制御部40は、機能構成要素として、加工制御部401、及び、軸合わせ部402を含む。加工制御部401、及び、軸合わせ部402は、例えば、制御部40のプロセッサ41が、補助記憶部43に記憶された各種プログラムを実行することで提供される機能構成要素である。
【0027】
加工制御部401は、ワークWの加工時に工作機械1を制御する。加工制御部401は
、第一クランプ13及び第二クランプ23によってワークWを締結させ、第一主軸11及び第二主軸21を同期して回転させ、さらに、工具の移動を制御することによってワークWを例えば切削する。この加工制御部401によるワークWの加工制御には、公知の技術を用いることができる。
【0028】
軸合わせ部402は、第一主軸11と第二主軸21との軸合わせを(軸芯合わせ)を、振動センサ25の検出値に基づいて行う。軸合わせ部402は、例えば、加工制御部401によるワークWの加工制御を行う前に、軸合わせを行う。ここで、振動センサ25の検出値と、第一主軸11及び第二主軸21の軸ずれとの関係について
図4及び
図5を参照しつつ説明する。
【0029】
図4は、ワークWの締結前後の振動センサ25の検出値を示したタイムチャートである。
図4の横軸は時間を示し、縦軸は振動センサ25の出力である電圧を示している。
図4において時間が0のときには、ワークWの一端側が第一クランプ13にのみクランプされており、第一主軸11、ワークW、及び、第二主軸21が同期回転している。その後、ワークWの他端側を第二クランプ23にクランプさせている。第二主軸21がワークWをクランプすると、そのときに発生する振動が振動センサ25によって検出される。そのクランプによって生じた振動を
図4において「クランプ」で示している。その後は、第一主軸11及び第二主軸21によってワークWの両端が把持された状態で、第一主軸11及び第二主軸21が同期回転している。
【0030】
上記のクランプによって生じた振動が十分に小さくなった後に振動センサ25によって検出される値の分散値は、第一主軸11及び第二主軸21の軸ずれの度合いと相関関係がある。ここで、
図5は、第一主軸11に対して第二主軸21を意図的にずらしたときの振動センサ25の検出値の分散値を実験的に求めた図である。
図5における横軸は、第一主軸11に対する第二主軸21のX軸方向の相対的なずれを示している。
図5に係るX軸は、
図1で定義したX軸に対応している。なお、Y軸方向のずれはない。
図5では、同一のずれ量において、分散値を複数回求めてプロットしている。
図5における分散値は、
図4の「測定期間」で示される期間において振動センサ25で検出された値の分散値である。
図4の測定期間は、上記のクランプによって生じた振動が十分に小さくなった後の期間であって、分散値を算出するのに十分な期間である。なお、以下において分散といった場合には、振動センサ25の検出値の分散を示すものとする。
【0031】
図5に示されるように、X軸方向のずれと分散値とには相関関係があり、X軸方向のずれの絶対値が大きいほど、分散値が大きくなる。本開示では、この現象を利用して、第一主軸11及び第二主軸21の軸合わせを行う。すなわち、振動センサ25の検出値の分散値が小さくなる方向に、第二主軸21を移動させることで、第一主軸11と第二主軸21との軸合わせを行う。
【0032】
次に、本実施形態に係る第一主軸11及び第二主軸21の軸合わせを行うときの制御について説明する。軸合わせ部402は、第一主軸11と第二主軸21との軸合わせを、第一主軸11及び第二主軸21の両方で同一のワークWを把持しつつ、第一主軸11と第二主軸21とを所定の方向に所定の回転速度で回転させた状態(すなわち同期回転させた状態)で行う。また、軸合わせ部402は、軸合わせを、ワークWの締結によって発生する振動の影響を受けないように、この振動が十分に小さくなった後に行う。なお、軸合わせは、工作機械1の製造時に1回だけ行うこともできるし、工作機械1を起動する毎に行うこともできるし、ワークWの締結毎に行うこともできる。
【0033】
図6は、第一主軸11と第二主軸21との軸合わせを行うときに第二主軸21を移動させる軌跡の一例を示した図である。
図6におけるX軸及びY軸は、
図1におけるX軸及び
Y軸に対応する。
図6では、第二主軸21の出発点である原点の座標を(X0,Y0)で示している。この原点は、第二主軸21がワークWの締結動作を行ったときの第二主軸21の中心軸の位置である。軸合わせ部402は、第二主軸21を、原点(X0,Y0)を中心とする円S1に沿って移動させる。円S1の直径は、例えば製造公差による第一主軸11と第二主軸21との軸ずれの最大値以下の任意の値に設定し得る。すなわち、第一主軸11及び第二主軸21の軸ずれが発生しても、製造公差の範囲内で軸ずれが発生していると考えられるので、この範囲内で第二主軸21を移動させて軸が合う位置を求める。
【0034】
軸合わせ部402は、軸合わせにおいて以下の処理を行う。以下の(1)-(3)は、
図6に示した矢印の(1)-(3)に対応する。
【0035】
(1)まず、軸合わせ部402は、第二主軸21をX軸方向に(XA,Y0)まで移動させる指令を生成する。このときの振動センサ25の検出値は利用しない。位置(XA,Y0)は、X軸と円S1との交点である。なお、位置(XA,Y0)、または、円S1の直半径を予め補助記憶部43に記憶させておく。軸合わせ部402は、生成した指令を調整機構24へ送り、この指令に基づいて調整機構24が第二主軸21を移動させる。第二主軸21の現在位置が、位置(XA,Y0)に達すると軸合わせ部402は、第二主軸21を停止させる。第二主軸21の現在位置は、例えば、センサによって検出してもよく、調整機構24の作動量に基づいて算出してもよい。
【0036】
(2)次に、軸合わせ部402は、第二主軸21を円S1に沿って移動させる指令を生成する。
図6においては、第二主軸21を左回りに移動させるが、これに限らず、右回りに移動させてもよい。振動センサ25の検出値は、例えば、原点(X0,Y0)を中心とした所定の位相毎に取得する。この場合、軸合わせ部402は、所定の位相毎に第二主軸21を測定期間に亘って停止させ、その測定期間に亘って振動センサ25の検出値を取得する。そのため、軸合わせ部402は、第二主軸21を円S1に沿って移動させる指令、及び、所定の位相毎に測定期間に亘って停止させる指令を生成して調整機構24へ送る。そして、この指令に基づいて調整機構24が第二主軸21を移動させる。
【0037】
測定期間は、軸ずれに対応した分散値を精度よく算出可能な期間として予め設定される。軸合わせ部402は、所定の位相毎に、測定期間に亘って取得した振動センサ25の検出値を、原点(X0,Y0)を中心とした位相と紐付けして補助記憶部43に記憶させる。さらに、測定期間に亘って取得した振動センサ25の検出値に基づいて、振動センサ25の検出値の分散値を算出し、この分散値を原点(X0,Y0)を中心とした位相と紐付けして補助記憶部43に記憶させる。所定の位相は、例えば、軸合わせに要求される時間と、軸合わせの精度とに基づいて設定してもよい。所定の位相が小さくなるほど軸合わせの精度が増すが、軸合わせに要する時間が長くなるため、時間と精度とのどちらを優先するかに基づいてユーザが設定してもよい。例えば、所定の位相を入力部44から入力可能であってもよい。
【0038】
(3)そして、軸合わせ部402は、第二主軸21が位置(XA,Y0)に戻ると、振動センサ25による振動の検出を停止させると共に、原点(X0,Y0)まで第二主軸21を移動させる指令を生成する。軸合わせ部402は、生成した指令を調整機構24へ送り、この指令に基づいて調整機構24が第二主軸21を原点(X0,Y0)まで移動させる。
【0039】
図7は、
図6に示した軌跡で第二主軸21が移動しているときの振動センサ25の検出値の分散値の一例を示した図である。横軸の位相は、第二主軸21が位置(XA、Y0)に位置しているときの位相を0として、原点(X0,Y0)を中心とする位相を示している。
図7に示した例では、位相が0から大きくなるにしたがって分散値が小さくなり、例
えば、A1で示される位相において、分散値がB1で示される最小値になる。また、位相がA1よりも大きくなるほど、分散値も大きくなる。なお、以下ではA1で示される位相を第一位相A1ともいう。円S1上で分散値が最も小さくなる位置が、本開示に係る第一目標位置に相当する。
【0040】
図7に示した例では、第一位相A1で分散値が最小になる。そうすると、原点(X0,Y0)から第一位相A1の方向に第二主軸21を移動させることにより、分散値が小さくなり得る。すなわち、第一主軸11と第二主軸21とのずれが小さくなると考えられる。
【0041】
そこで、軸合わせ部402は、第二主軸21を第一位相A1の方向に移動させつつ、さらに分散値が小さくなる位置を探る。
図8は、第一主軸11と第二主軸21との軸合わせを行うときに第二主軸21を第一位相A1の方向に移動させる軌跡の一例を示した図である。
図8における原点(X0,Y0)は、
図6に示した原点(X0,Y0)と同一の位置である。
【0042】
軸合わせ部402は、第二主軸21を、原点(X0,Y0)から第一位相A1の方向に伸びる直線L1に沿って移動させる。そのため、軸合わせ部402は、以下の処理を行う。以下の(4)-(5)は、
図8に示した矢印の(4)-(5)に対応する。
【0043】
(4)軸合わせ部402は、第二主軸21を直線L1に沿って原点(X0,Y0)から離れる方向に、直線L1上を移動させる指令を生成する。振動センサ25の検出値は、例えば、原点(X0,Y0)から所定距離毎に取得する。この場合、軸合わせ部402は、所定距離毎に第二主軸21を測定期間に亘って停止させ、その測定期間に亘って振動センサ25の検出値を取得する。そのため、軸合わせ部402は、第二主軸21を直線L1に沿って移動させる指令、及び、所定距離毎に測定期間に亘って停止させる指令を生成して調整機構24へ送る。そして、この指令に基づいて調整機構24が第二主軸21を移動させる。
【0044】
軸合わせ部402は、所定距離毎に、測定期間に亘って取得した振動センサ25の検出値を、原点(X0,Y0)からの距離と紐付けして補助記憶部43に記憶させる。さらに、測定期間に亘って取得した振動センサ25の検出値に基づいて、振動センサ25の検出値の分散値を算出し、この分散値を原点(X0,Y0)からの距離と紐付けして補助記憶部43に記憶させる。所定距離は、例えば、軸合わせに要求される時間と、軸合わせの精度とに基づいて設定してもよい。所定距離が小さくなるほど軸合わせの精度が増すが、軸合わせに要する時間が長くなるため、時間と精度とのどちらを優先するかに基づいてユーザが設定してもよい。例えば、所定距離を入力部44から入力可能であってもよい。
【0045】
(5)軸合わせ部402は、分散値が減少傾向から増加傾向に転じた場合に、分散値が最小となる第二原点(X1,Y1)を求めて、第二主軸21をその第二原点(X1,Y1)に移動させる指令を生成する。軸合わせ部402は、補助記憶部43に記憶されている分散値をその前後の分散値と比較することで、減少傾向から増加傾向に転じるときの分散値B2を求め、その分散値B2に対応する原点(X0,Y0)からの距離A2を求める。この距離A2を第二主軸21が移動した後の位置(X1,Y1)は、X1=A2・cosA1,Y1=A2・sinA1を計算することにより求まる。この位置(X1,Y1)を以下では、第二原点(X1,Y1)ともいう。第二原点(X1,Y1)は、原点(X0,Y0)に対して、第一位相A1の方向に、距離A2だけ移動したときの位置である。軸合わせ部402は、生成した指令を調整機構24へ送り、この指令に基づいて調整機構24が第二主軸21を第二原点(X1,Y1)まで移動させる。なお、直線L1上で分散値が最も小さくなる位置が、本開示に係る第二目標位置に相当する。
【0046】
図9は、
図8に示した軌跡で第二主軸21が移動しているときの振動センサ25の検出値の分散値の一例を示した図である。横軸の距離は、原点(X0,Y0)からの距離である。
図9に示した(4)-(5)は、
図8に示した(4)-(5)に対応する。
図9に示した例では、距離が0から大きくなるにしたがって分散値が小さくなり、距離がA2のときに、分散値がB2で示される最小値になっている。さらに、距離がA2よりも大きくなるほど、分散値も大きくなる。このように、距離がA2のときに分散値がB2で最小になる。
【0047】
第二原点(X1,Y1)は、原点(X0,Y0)に対して、振動センサ25の検出値の分散値が最も小さくなる位相の方向に、分散値が最も小さくなる距離だけ移動した位置である。このような第二原点(X1,Y1)は、原点(X0,Y0)と比較して、振動センサ25の検出値の分散値が小さい。このようにして、振動センサ25の検出値の分散値がより小さくなる位置を探すことができる。
【0048】
ここで、第一主軸11及び第二主軸21の軸が合っている場合には、第二原点(X1,Y1)における振動センサ25の検出値の分散値B2が十分に小さくなる。一方、第一主軸11及び第二主軸21に軸ずれが残っている場合もあり得る。この場合、振動センサ25の検出値の分散値がさらに小さくなる位置が存在する。そのため、軸合わせ部402は、第二原点(X1,Y1)を出発点として、上記の(1)-(5)の制御を再度実行する。このように、上記制御を繰り返し実行することで、振動センサ25の検出値の分散値がより小さくなる第二主軸21の位置を求めることができる。
【0049】
ここで、
図10は、第一主軸11と第二主軸21との軸合わせを行うときに、(X1,Y1)を出発点として第二主軸21を移動させる軌跡の一例を示した図である。
図10では、第二主軸21の出発点の座標が第二原点(X1,Y1)になる。また、第二限定(X1,Y1)はX’Y’座標系の原点となる。
図10における出発点である第二原点(X1,Y1)は、
図8における第二原点(X1,Y1)と同一の位置である。軸合わせ部402は、第二主軸21を、第二原点(X1,Y1)を中心とする円S2に沿って移動させる。円S2は、
図6に示した円S1と同一の直径を有する。なお、別法として、円S2の直径を円S1の直径よりも小さくしてもよい。
【0050】
図6で説明した処理と同様に、軸合わせ部402は、以下の処理を行う。以下の(6)-(8)は、
図10に示した矢印の(6)-(8)に対応する。
【0051】
(6)まず、軸合わせ部402は、第二主軸21をX’軸方向に位置(X1+XA,Y1)まで移動させる指令を生成する。このときの振動センサ25の検出値は利用しない。軸合わせ部402は、生成した指令を調整機構24へ送り、この指令に基づいて調整機構24が第二主軸21を移動させる。
【0052】
(7)次に、軸合わせ部402は、第二主軸21を円S2に沿って移動させる指令を生成する。振動センサ25の検出値は、例えば、第二原点(X1,Y1)を中心とした所定の位相毎に取得する。この場合、軸合わせ部402は、所定の位相毎に第二主軸21を測定期間に亘って停止させ、その測定期間に亘って振動センサ25の検出値を取得する。そのため、軸合わせ部402は、第二主軸21を円S2に沿って移動させる指令、及び、所定の位相毎に測定期間に亘って停止させる指令を生成して調整機構24へ送る。そして、この指令に基づいて調整機構24が第二主軸21を移動させる。
【0053】
この測定期間は、
図6において説明した測定期間と同じである。軸合わせ部402は、所定の位相毎に、測定期間に亘って取得した振動センサ25の検出値を、第二原点(X1,Y1)を中心とした位相と紐付けして補助記憶部43に記憶させる。さらに、測定期間
に亘って取得した振動センサ25の検出値に基づいて、振動センサ25の検出値の分散値を算出し、この分散値を第二原点(X1,Y1)を中心とした位相と紐付けして補助記憶部43に記憶させる。所定の位相は、
図6において説明した所定の位相と同じである。ただし、別法として、
図6に示した所定の位相とは異なる位相を採用することもできる。
【0054】
(8)そして、軸合わせ部402は、第二主軸21が位置(X1+XA,Y1)に戻ると、振動センサ25による振動の検出を停止させると共に、第二原点(X1,Y1)まで第二主軸21を移動させる指令を生成する。軸合わせ部402は、生成した指令を調整機構24へ送り、この指令に基づいて調整機構24が第二主軸21を第二原点(X1,Y1)まで移動させる。
【0055】
図11は、
図10に示した軌跡で第二主軸21が移動しているときの振動センサ25の検出値の分散値の一例を示した図である。横軸の位相は、第二主軸21が位置(X1+XA,Y1)に位置しているときの位相を0として、第二原点(X1,Y1)を中心とする位相を示している。
図11に示した例では、位相が0から大きくなるにしたがって分散値が小さくなり、例えば、A3で示される位相において、分散値がB3で示される最小値になる。また、位相がA3よりも大きくなるほど、分散値も大きくなる。なお、以下ではA3で示される位相を第二位相A3ともいう。円S2上で分散値が最も小さくなる位置も、本開示に係る第一目標位置に相当する。
【0056】
図11に示した例では、第二位相A3で分散値が最小になる。そうすると、第二原点(X1,Y1)から第二位相A3の方向に第二主軸21を移動させることにより、分散値が小さくなり得る。すなわち、第一主軸11と第二主軸21との軸ずれが小さくなり得る。この場合、
図8及び
図9で説明した処理と同様の処理を実行することで、更に分散値が小さくなる位置を探すことができる。このときに、X’Y’軸をXY軸に置き換えて処理を進めることで、同じ処理を繰り返し実行する。
【0057】
一方、第二原点(X1,Y1)近傍で第一主軸11及び第二主軸21の軸が合っている場合には、第二主軸21を第二原点(X1,Y1)から移動させると、軸ずれが大きくなってしまい、分散値が大きくなり得る。このような場合には、
図11で示される分散値の最小値B3が、
図9で示される分散値の最小値B2以上になる。したがって、
図11で示される分散値の最小値B3が、
図9で示される分散値の最小値B2以上であれば、これ以上、第二主軸21の位置を移動させる必要はないと考えられる。そこで、本実施形態では、
図11で示される分散値の最小値B3が、
図9で示される分散値の最小値B2以上である場合には、そのときの第二原点(X1,Y1)において第一主軸11及び第二主軸21の軸合わせが完了したと判定する。
【0058】
以上より、第二主軸21を円S1に沿って移動させて分散値が最小となる位相を求めることと、第二主軸21を直線L1に沿って移動させて分散値が最小となる位置を求めることと、を交互に繰り返し行うことにより、分散値がより小さくなる位置を求めることができる。これにより、第一主軸11及び第二主軸21の軸合わせが可能となる。
【0059】
軸合わせ部402は、第一主軸11及び第二主軸21の軸合わせが完了すると、第二原点(X1,Y1)を第二主軸21の原点として更新する。なお、この時点で、第二主軸21は、第二原点(X1,Y1)に位置しているため、第二主軸21の位置はそのままで、加工制御部401による加工制御が開始される。
【0060】
次に、本実施形態に係る第一主軸11と第二主軸21との軸合わせを行うときのフローについて説明する。
図12は、第一主軸11と第二主軸21との軸合わせを行うときのフローを示したフローチャートである。本ルーチンは、工作機械1において加工制御部40
1による加工制御が行われる前に実行される。例えば、ユーザが入力部44へ加工制御を行うための入力を行ったことをトリガとして実行してもよい。なお、別法として、工作機械1の製造時、または、ユーザが工作機械1を起動したときなどに、ユーザによる入力部44への入力に基づいて実行してもよい。また、別法として、所定の時間毎、または、工作機械1の所定の起動回数毎に実行してもよい。
【0061】
ステップS101において軸合わせ部402は、締結処理を実行する。締結処理は、第一主軸11でワークWの一端側を把持し、第二主軸21でワークWの他端側を把持し、同期回転させる処理である。なお、本実施形態では、第一主軸11でワークWの一端側をクランプした状態で第一主軸11を所定の回転速度で回転させる。そして、第二主軸21を第一主軸11と同期回転させた状態で、第二主軸21がワークWの他端側をクランプする。
【0062】
ステップS102において軸合わせ部402は、第二主軸21とワークWとの締結完了から所定時間が経過したか否か判定する。ここでいう所定時間は、例えば、ワークWの締結によって発生する振動が十分に小さくなるまでの時間である。ステップS102において肯定判定された場合にはステップS103へ進み、否定判定された場合にはステップS102の処理を再度実行する。
【0063】
ステップS103において軸合わせ部402は、第二主軸21の原点を取得する。ここでいう原点は、ステップS101において締結が完了した時点での第二主軸21の位置、後述するステップS310で設定される原点(X0,Y0)、または、前回のルーチンにおけるステップS106で更新された原点(X0,Y0)である。
【0064】
ステップS104において軸合わせ部402は、円移動処理を実施する。円移動処理は、
図6で説明したように、第二主軸21を円S1に沿って移動させつつ振動センサ25の検出値の分散値を複数の箇所で取得する処理である。ここで、
図13は、円移動処理のフローを示したフローチャートである。
図13に示した処理は、ステップS104において実行されるサブルーチンである。円移動処理は、初回は、
図7に示した分散値の最小値であるB1を求めるための処理であり、2回目以降は、
図11に示した分散値の最小値であるB3を求めるための処理に相当する。
【0065】
ステップS201において軸合わせ部402は、第二主軸21を円S1まで移動させる。軸合わせ部402は、第二主軸21を円S1まで移動させる指令を生成して調整機構24に送る。ステップS202において軸合わせ部402は、第二主軸21を円S1上で所定位相だけ移動させる。軸合わせ部402は、第二主軸21が第二主軸台22に対して円S1上で所定位相だけ移動するように指令を生成して調整機構24に送る。
【0066】
ステップS203において軸合わせ部402は、測定期間に亘って振動センサ25の検出値を取得することにより、振動を検出する。この振動センサ25の検出値は、そのときの位相と関連付けて補助記憶部43に記憶される。ステップS204において軸合わせ部402は、ステップS203で取得した検出値に基づいて分散値を算出する。そして、ステップS205において軸合わせ部402は、算出した分散値を、そのときの位相と関連付けて補助記憶部43に記憶する。
【0067】
ステップS206において軸合わせ部402は、第二主軸21が円S1を一周したか否か判定する。軸合わせ部402は、第二主軸21の現在位置が、ステップS201において移動した後の位置と一致しているか否か判定する。ステップS206で肯定判定された場合にはステップS207へ進み、否定判定された場合にはステップS202へ戻る。
【0068】
ステップS207において軸合わせ部402は、ステップS205において記憶された分散値の中から最小値B1を抽出する。そして、ステップS208において軸合わせ部402は、ステップS207で抽出した分散値の最小値B1に対応する位相A1を、ステップS205で記憶されたデータの中から取得する。
【0069】
ステップS209において軸合わせ部402は、第二主軸21を出発点である原点(X0,Y0)まで移動させる。軸合わせ部402は、第二主軸21を原点(X0,Y0)まで移動させる指令を生成して調整機構24に送る。なお、別法として、ステップS207及びステップS208の処理と並行して、ステップS209の処理を実行してもよいし、ステップS207及びステップS208の処理よりも前に、ステップS209の処理を実行してもよい。ステップS209の処理が完了すると、
図12に示したルーチンに戻ってステップS105へ進む。
【0070】
図12に戻り、ステップS105において軸合わせ部402は、ステップS104で取得した分散値の最小値B1が、前回のステップS108で取得した分散値の最小値B2以上であるか否か判定する。なお、本ルーチンが実行される初回においてはB2が取得されていない。このため、B2の初期値を、軸が合っているときにステップS105において肯定判定されるような値として予め補助記憶部43に記憶させておく。別法として、B2の初期値は、ステップS105において必ず否定判定されるように、十分に大きな値に設定してもよい。さらに別法として、ステップS102とステップS103との間に、原点における分散値を算出するステップを加え、この原点における分散値をB2の初期値としてもよい。ステップS105で肯定判定された場合にはステップS106へ進み、否定判定された場合にはステップS108へ進んで直線移動処理が実行される。
【0071】
ここで、
図14は、直線移動処理のフローを示したフローチャートである。
図14に示した処理は、ステップS108において実行されるサブルーチンである。直線移動処理は、
図9に示した分散値の最小値であるB2を求めるための処理に相当する。
【0072】
ステップS301において軸合わせ部402は、直前のステップS208において取得した分散値の最小値B1に対応する位相A1の方向に第二主軸21を所定距離だけ移動させる。軸合わせ部402は、第二主軸21が第二主軸台22に対して原点から位相A1の方向に所定距離だけ移動するように指令を生成して調整機構24に送る。
【0073】
ステップS302において軸合わせ部402は、測定期間に亘って振動センサ25の検出値を取得することにより、振動を検出する。この振動センサ25の検出値は、そのときの原点からの距離と関連付けて補助記憶部43に記憶される。ステップS303において軸合わせ部402は、ステップS302で取得した検出値に基づいて分散値を算出する。そして、ステップS304において軸合わせ部402は、算出した分散値を、そのときの原点からの距離と関連付けて補助記憶部43に記憶する。
【0074】
ステップS305において軸合わせ部402は、分散値が減少傾向から増加傾向に変化したか否か判定する。軸合わせ部402は、例えば前々回のステップS304で記憶された分散値よりも前回のステップS304で記憶された分散値のほうが小さく、且つ、前回のステップS304で記憶された分散値よりも今回のステップS304で記憶された分散値のほうが大きい場合に、分散値が減少傾向から増加傾向に変化したと判定する。別法として、前回のステップS304で記憶された分散値から変化がない、または、変化があったとしても十分に小さい場合には、分散値が減少傾向から増加傾向に変化したと判定してもよい。なお、これらに限らず、分散値の極小値を求められればよい。ステップS305で肯定判定された場合にはステップS306へ進み、否定判定された場合にはステップS301へ戻る。
【0075】
ステップS306において軸合わせ部402は、ステップS304において記憶された分散値の中から最小値B2を抽出する。そして、ステップS307において軸合わせ部402は、ステップS306で抽出した分散値の最小値B1に対応する距離A2を、ステップS304で記憶されたデータの中から取得する。さらに、ステップS308において軸合わせ部402は、ステップS307において取得した距離A2に基づいて、距離A2に対応する座標、すなわち、第二原点(X1,Y1)を算出する。軸合わせ部402は、例えば、X1=A2・cosA1,Y1=A2・sinA1の算出式によってX1及びY1を算出する。
【0076】
ステップS309において軸合わせ部402は、第二主軸21を第二原点(X1,Y1)に移動させる。軸合わせ部402は、第二主軸21が第二原点(X1,Y1)に移動するように指令を生成して調整機構24に送る。ステップS310において軸合わせ部402は、第二原点(X1,Y1)が第二主軸21の新たな原点(X0,Y0)となるように、原点を更新する。ステップS310の処理が完了すると、
図12に示したルーチンに戻ってステップS103へ戻る。すなわち、ステップS105で肯定判定されるまで、第二主軸21を円S1に沿って移動させて分散値が最小となる位相A1を取得することと、分散値が最小になる方向に第二主軸21を移動させつつ振動センサ25の検出値の分散値が最小となる位置(X1,Y1)を取得することと、を交互に繰り返し実行する。
【0077】
図12に戻り、ステップS106において軸合わせ部402は、現時点の第二主軸21の位置を、ワークWを加工するときの第二主軸21の原点として更新する。この第二主軸21の原点は、補助記憶部43に記憶される。そして、ステップS107において軸合わせ部402は、分散値の最小値B2をリセットする。これにより、分散値の最小値B2は初期値に戻る。
【0078】
以上説明したように本実施形態よれば、第一主軸11と第二主軸21との軸合わせを、振動センサ25の検出値の分散値に基づいて行うことができる。すなわち、第一主軸11と第二主軸21との相対位置を、振動センサ25の検出値の分散値がより小さくなる位置に調整することで、軸合わせをより速やかに且つより正確に行うことができる。
【0079】
<第2実施形態>
第1実施形態では第二主軸21を円S1及び直線L1に沿って移動させつつ、振動センサ25の検出値の分散値を取得している。一方、本第2実施形態では、第二主軸21の周りにメッシュを生成し、そのメッシュの各交点において振動センサ25の検出値の分散値を取得して、分散値が最も小さい位置が、第一主軸11及び第二主軸21の軸が合っている位置であると判定する。
【0080】
なお、メッシュの大きさは、軸合わせの精度と関係があり、メッシュが小さいほど軸合わせの精度が高まる。しかし、メッシュを小さくするほど、分散値を取得する位置が多くなるために、軸合わせに要する時間が長くなる。そこで、軸合わせの精度と、軸合わせに要する時間とのどちらを優先するのかによって、メッシュの大きさを決めてもよい。
【0081】
また、最初にメッシュを大きく設定しておき、分散値が最も小さくなる位置に第二主軸21を移動させ、更に、その位置の周りにより小さなメッシュを生成して、分散値が最も小さくなる位置を求めてもよい。このように、メッシュを徐々に小さくし分散値を算出することを繰り返し実行して、第一主軸11及び第二主軸21の軸が合う位置を絞り込んでもよい。
【0082】
このようにメッシュを生成してメッシュの各交点における振動センサ25の検出値の分
散値を算出することによっても、第一主軸11及び第二主軸21の軸合わせを行うことができる。
【0083】
<その他の実施形態>
第1実施形態及び第2実施形態では、振動センサ25の検出値の分散値を利用して軸合わせを行っているが、センサはこれに限らず、振動と相関する物理量を検出可能なセンサであればよい。例えば、変位計、電流計、AE(Acoustic Emission)センサ、または、
マイクロフォンでもよい。
【0084】
第1実施形態では、第二主軸21を円S1に沿って移動させているが、これに代えて、原点を中心とする多角形の辺に沿って移動させてもよい。そして、多角形の頂点の夫々において振動センサ25により振動を検出し、さらに分散値を算出してもよい。
【0085】
第1実施形態及び第2実施形態では、分散(すなわち、平均値からの偏差の自乗の平均)を用いているが、これに限らず、散らばり度合いを示す他の値を用いることもできる。例えば、分散に代えて標準偏差、二乗平均平方根、範囲(最大値と最小値との差)、または、振動の振幅を用いることもできる。
【0086】
図15は、第一主軸11に対して第二主軸21を意図的にずらしたときの振動センサ25の検出値の範囲(最大値と最小値との差)を実験的に求めた図である。
図15における横軸は、第一主軸11に対する第二主軸21のX軸方向の相対的なずれを示している。
図15に係るX軸は、
図1で定義したX軸に対応している。なお、Y軸方向のずれはない。
図15では、同一のずれ量において、検出値の範囲を複数回求めてプロットしている。
図15における検出値の範囲は、
図4の「測定期間」で示される期間において振動センサ25で検出された値の最大値と最小値との差である。
【0087】
図15に示されるように、X軸方向のずれと検出値の範囲とには相関関係があり、X軸方向のずれの絶対値が大きいほど、検出値の範囲が大きくなる。したがって、第1実施形態で説明した分散値と同様に、検出値の範囲を利用して、第一主軸11及び第二主軸21の軸合わせを行うことができる。すなわち、振動センサ25の検出値の範囲が小さくなる方向に、第二主軸21を移動させることで、第一主軸11と第二主軸21との軸合わせを行うことができる。
【符号の説明】
【0088】
1 工作機械
11 第一主軸
12 第一主軸台
13 第一クランプ
21 第二主軸
22 第二主軸台
23 第二クランプ
24 調整機構
25 振動センサ
40 制御部
41 プロセッサ
42 主記憶部
43 補助記憶部
44 入力部
45 出力部