(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】超音波発生装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/26 20060101AFI20240704BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
H04R1/26 330
H04R17/00 332Z
(21)【出願番号】P 2021132927
(22)【出願日】2021-08-17
【審査請求日】2023-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 博道
(72)【発明者】
【氏名】大竹 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 孝
(72)【発明者】
【氏名】柴田 貴行
【審査官】▲徳▼田 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-162909(JP,A)
【文献】特開2006-084428(JP,A)
【文献】特開2019-076122(JP,A)
【文献】特開2004-349815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/26
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間(TR1、TR2)に向けて音を放射する超音波発生装置(10)において、
前記超音波発生装置は、圧電MEMS超音波トランスデューサーである複数のスピーカ素子(50)を備え、
複数の前記スピーカ素子(50)は、
第1共振周波数(f1)を有する第1スピーカ素子と、
前記超音波発生装置において前記第1共振周波数に隣接する第2共振周波数(f2)を有する第2スピーカ素子とを含み、
前記第1スピーカ素子と前記第2スピーカ素子とは、前記対象空間に向かう方向と交差する方向(AXz)において互いに離れて配置されており、
前記第1スピーカ素子と前記第2スピーカ素子との距離(L、L1、L2)は、前記第1共振周波数と前記第2共振周波数との間の中間周波数(fmid)の前記第1スピーカ素子からの音と、前記中間周波数の前記第2スピーカ素子からの音とが互いに強め合う関係が、前記対象空間に位置する対象物の上における2つ以上の位置においてあらわれるように設定されている超音波発生装置。
【請求項2】
連続する材料製の半導体基板を備え、
前記半導体基板に前記第1スピーカ素子と前記第2スピーカ素子との両方が形成されている請求項1に記載の超音波発生装置。
【請求項3】
互いに離れて配置された第1半導体基板と第2半導体基板とを備え、
前記第1半導体基板に前記第1スピーカ素子が形成され、前記第2半導体基板に前記第2スピーカ素子が形成されている請求項1に記載の超音波発生装置。
【請求項4】
複数の前記スピーカ素子は、複数のスピーカ対(60)を形成している請求項1から請求項3のいずれかに記載の超音波発生装置。
【請求項5】
複数の前記スピーカ対(61、62;461、462、463、464;561、562、563、564)は、互いに交差する異なる中心軸(AX4050、AX5060;AXz1、AXz2、AXz3、AXz4)を有している請求項4に記載の超音波発生装置。
【請求項6】
複数の前記スピーカ対は、
第1中間周波数(fmid1)によって特徴付けられている第1スピーカ対(661)と、
前記第1中間周波数より高い第2周波数(fmid2)によって特徴付けられている第2スピーカ対(662)とを含み、
前記第1スピーカ対の内側に前記第2スピーカ対が配置されている請求項4または請求項5に記載の超音波発生装置。
【請求項7】
前記第1スピーカ素子と前記第2スピーカ素子とは、前記中間周波数の波長(λmid)に比べ十分離れて配置されている請求項1から請求項6のいずれかに記載の超音波発生装置。
【請求項8】
前記距離は、nを1以上の自然数、zを2つのスピーカ素子の中間点とスピーカ素子との距離、xを対象物の幅、yを前記中間点と対象物との距離として、式「n=(SQRT((z+x)
2+y
2)-SQRT((z-x)
2+y
2))/λmid+1/2)」から得られる値2z以上に設定されている請求項1から請求項7のいずれかに記載の超音波発生装置。
【請求項9】
前記距離は、前記対象物をヒトの顔とし、nを1以上の自然数、zを2つのスピーカ素子の中間点とスピーカ素子との距離として、式「2z=0.85×λmid」から得られる値2z以上に設定されている請求項1から請求項8のいずれかに記載の超音波発生装置。
【請求項10】
前記距離は、前記対象空間の幅以下に設定されている請求項8または請求項9に記載の超音波発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、超音波発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、超音波トランスデューサーおよび超音波診断装置の発明を開示している。この種の超音波発生装置には、広い帯域の音波を発生する広帯域特性が求められる。特許文献1の装置は、異なる共振周波数の圧電セルを複数有する場合に、圧電セル同士を位相整合させて広帯域特性を得ている。先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波発生装置には、一般的に広い帯域の超音波を発生することが求められる。さらに、超音波発生装置には、音波を提供する対象空間へ、強い音圧の音波を提供することが求められる。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、超音波発生装置にはさらなる改良が求められている。
【0005】
開示されるひとつの目的は、広い帯域において強い音圧を供給する超音波発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された超音波発生装置は、対象空間(TR1、TR2)に向けて音を放射する超音波発生装置(10)において、超音波発生装置は、圧電MEMS超音波トランスデューサーである複数のスピーカ素子(50)を備え、複数のスピーカ素子(50)は、第1共振周波数(f1)を有する第1スピーカ素子と、超音波発生装置において第1共振周波数に隣接する第2共振周波数(f2)を有する第2スピーカ素子とを含み、第1スピーカ素子と第2スピーカ素子とは、対象空間に向かう方向と交差する方向(AXz)において互いに離れて配置されており、第1スピーカ素子と第2スピーカ素子との距離(L、L1、L2)は、第1共振周波数と第2共振周波数との間の中間周波数(fmid)の第1スピーカ素子からの音と、中間周波数の第2スピーカ素子からの音とが互いに強め合う関係が、対象空間に位置する対象物の上における2つ以上の位置においてあらわれるように設定されている
【0007】
ここに開示された超音波発生装置によると、対象物の上における2つ以上の位置において、中間周波数における音の強め合う関係が得られる。この結果、広い帯域において強い音圧を供給する超音波発生装置が提供される。さらに、対象物の位置がずれても、依然として対象物に強い音圧を供給することができる。
【0008】
この明細書において開示された複数の形態は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る超音波システムのブロック図である。
【
図3】超音波発生装置の周波数特性を示すグラフである。
【
図4】超音波発生装置と対象空間とを示す平面図である。
【
図7】対象物と音圧を強め合う位置との関係を示す正面図である。
【
図9】対象空間への距離と素子間の距離との関係を示すグラフである。
【
図10】第2実施形態に係る超音波システムのブロック図である。
【
図12】第3実施形態に係る超音波システムのブロック図である。
【
図14】第4実施形態に係る超音波発生装置の正面図である。
【
図16】第5実施形態に係る超音波発生装置の正面図である。
【
図17】第6実施形態に係る超音波発生装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
複数の実施形態が、図面を参照しながら説明される。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に、対応する部分および/または関連付けられる部分には、同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0011】
第1実施形態
図1において、超音波システム1は、対象空間TR1、TR2に音を供給する装置である。対象空間TR1、TR2に対象物が存在している。この実施形態では、対象空間TR1、TR2は、室内空間とも呼ぶことができる。具体的には、対象空間TR1、TR2は、乗り物2の内部である。対象空間TR1は、高さHD1、奥行きDD1の空間である。対象空間TR2は、高さHD2、奥行きDD2の空間である。対象空間TR2は、対象空間TR1より大きい。なお、対象空間TR1、TR2は、実施形態を説明するための例示である。超音波システム1は、単一の対象空間を備える場合がある。超音波システム1は、3以上の複数の対象空間を備える場合がある。
【0012】
この明細書において、乗り物2の語は、広義に解釈されるべきである。乗り物2は、車両、航空機、船舶、宇宙船などが含む。さらに、乗り物2は、ヒトが乗り込むシミュレーション装置、アミューズメント装置など、移動を伴わない装置を含む。乗り物2、および、対象空間TR1、TR2は、3次元的に定義される場合がある。以下の説明では、前方向FR、後方向RR、右方向RT、左方向LT、上方向UP、および、下方向DWといった呼び名が使用される場合がある。対象空間TR1、TR2は、幅方向WDの最大幅WM、高さ方向HDの最大高さHM、および、奥行き方向DDの最大奥行きDMにより定義される場合がある。これらの呼び名は、理解を助けるための便宜的なものであって、この開示を限定することはない。
【0013】
超音波システム1は、対象物に所定の音を供給する。言い換えると、超音波システム1は、対象物の表面、および/または、内部において、所定の音を再生する。超音波システム1は、音によって、対象物の性質に変化を与える装置である。対象物の一例は、生物である。超音波システム1は、生物に所定の音を供給することにより、生体的な所定の反応を引き出す装置である。言い換えると、超音波システム1は、生物の表面、および/または、内部において所定の音を再生することにより、所定の影響を生物に与える装置である対象空間TR1、TR2に存在する対象物は、ヒトである場合がある。この場合、超音波システム1は、ヒトに向けて音を供給する装置である。
【0014】
近年、可聴周波数上限を超える超高周波成分を豊富に含む音を用いる装置が試みられている。装置のひとつは、可聴音をヒトの耳に供給し、超音波をヒトの体に当てる。これにより、脳波のα波を高めるなどの試みがなされている。例えば、感受性の向上、ストレスの低減、自律神経系の活動適正化、内分泌系の活動適正化、および/または、免疫系の活動適正化といった効果が試みられている。この種の効果は、ハイパーソニック・エフェクトとも呼ばれている。ハイパーソニック・エフェクトをヒトに発現させるには、超高周波成分を含むハイパーソニック音をヒトの体表面に照射することが求められる。
【0015】
この用途に利用可能な超音波発生装置10は、超音波スピーカ、超音波トランスデューサーなどの名称で呼ばれる。超音波発生装置10は、対象空間TR1、TR2に向けて音を放射する。以下の説明において、超音波発生装置10は、スピーカ10と呼ばれる。超高周波成分は、下限周波数40kHzから、100kHzを超える上限周波数に渡る広い帯域の少なくとも一部を含む。ひとつの例では、超高周波成分は、下限周波数40kHzから、上限周波数140kHzに渡る広い帯域に広がっている場合がある。スピーカ10には、ヒトの体表面において、ハイパーソニック音を、少ない音圧差で再生することが求められる。
【0016】
超音波システム1は、広い周波数帯域の音を発生するスピーカ10を備える。超音波システム1は、スピーカ10に音源信号を供給する音源20としての電気回路21を備える。超音波システム1は、対象空間TR1、TR2の形状などの利用環境に適合した回路構成を備える。適合した回路構成には、電気回路21の構成と、スピーカ10の数とが含まれている。この実施形態の超音波システム1は、乗り物2の利用者を対象物として想定した回路構成を備える。電気回路21は、ハイパーソニック音の発生回路、複数の位相調整回路、複数の増幅回路、および、複数の圧電素子駆動回路を備える。これら回路要素の構成については、先行技術文献の説明を参照することができる。
【0017】
スピーカ10は、対象空間へ超音波を照射し、対象空間においてハイパーソニック音を所定の音圧で再生する。スピーカ10は、指向性、出力などの性能を示す複数の指標によって特徴付けられる。複数の指標は、必要な音圧を再生することが可能な有効距離を含む。この実施形態では、超音波システム1は、室内の広い範囲へ所定の音を提供するために、複数のスピーカ11、12を備える。
【0018】
超音波システム1は、第1スピーカ11を備える。第1スピーカ11は、運転席の利用者が存在するであろうと想定される空間を対象空間TR1としている。第1スピーカ11は、主要な音波方向TD1へ音波を照射する。音波方向TD1は、運転者の頭部から胸が存在するであろうと想定される空間を指向している。第1スピーカ11は、前席に着座しているヒトを対象としてもよい。この場合、第1スピーカ11は、運転席と助手席とを含む前席範囲を対象空間とする場合がある。
【0019】
超音波システム1は、第2スピーカ12を備える。第2スピーカ12は、後席の利用者が存在するであろうと想定される空間を対象空間TR2としている。第2スピーカ12は、主要な音波方向TD2を有する。音波方向TD2は、後席の利用者の頭部から胸が存在するであろうと想定される空間を指向している。
【0020】
超音波システム1は、例えば、対象空間TR1の利用者と、対象空間TR2の利用者とに異なる音を提供する場合がある。例えば、乗り物2の運転操作に関与する運転席の利用者は、高い覚醒度を求められるから、超音波システム1には、覚醒度を高める効果が期待される。例えば、運転操作に直接的に関与しない後部座席の利用者は、安らぎを求める。この場合、超音波システム1には、後部座席の利用者に安らぎを与える効果が期待される。超音波システム1は、対象空間TR1の利用者と、対象空間TR2の利用者とに同じ音を提供してもよい。
【0021】
第1スピーカ11と第2スピーカ12とは、同じ構成を有している。以下の説明では、第1スピーカ11と第2スピーカ12とを区別することなく、スピーカ10として説明する場合がある。
【0022】
図2において、スピーカ10は、少なくともひとつの容器30と、少なくともひとつの半導体素子40とを備える。スピーカ10は、単一の容器30、または、複数の容器30を含む場合がある。単一の容器30は、単一の半導体素子40、または、複数の半導体素子40を収容する場合がある。複数の容器30は、それぞれが後述の半導体素子40を収容し、群としてひとつのスピーカ10を提供する場合がある。スピーカ10は、単一の半導体素子40、または、複数の半導体素子40を含む場合がある。単一の半導体素子40は、後述の隣接する共振周波数f1、f2をもつ複数のスピーカ素子を含む場合がある。複数の半導体素子40は、そのそれぞれが、後述の隣接する共振周波数f1、f2をもつ複数のスピーカ素子を含む場合がある。複数の半導体素子40は、ひとつの半導体素子40が共振周波数f1をもつスピーカ素子を備え、他の半導体素子40が共振周波数f2をもつスピーカ素子を備える場合がある。この実施形態では、スピーカ10は、単一の容器30と、単一の半導体素子40とを備える。
【0023】
半導体素子40は、容器内に収容されている。半導体素子40は、MEMS素子(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)とも呼ばれる。半導体素子40は、MEMSの関連技術を用いて形成されている。
【0024】
半導体素子40は、半導体基板41を有する。半導体基板41は、連続する材料製の単一の半導体基板である。半導体基板41は、例えば、Si製である。半導体基板41は、複数のスピーカ素子50を有する。スピーカ素子50は、複数のスピーカ素子51、52を備える。言い換えると、共通の半導体基板41に第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52との両方が形成されている。図中には、代表的な例として、2つのスピーカ素子51、52が図示されている。ひとつのスピーカ素子50は、共振板領域50aと、圧電素子50bとを備える。共振板領域50aは、所定の共振周波数において共振するための多様な性質によって特徴付けられている。多様な性質は、材料に依存する性質、面積、厚さなどといった機械的形状に依存する性質を含む。圧電素子50bは、電気回路21に電気的に接続されている。圧電素子50bは、電気回路21から供給される信号に応答して所定の周波数で振動する。共振板領域50aは、圧電素子50bと共振し、所定の周波数の音波を放射する。スピーカ素子50は、PMUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)とも呼ばれる。スピーカ素子50は、圧電MEMS超音波トランスデューサーとも呼ばれる。
【0025】
第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、超音波システム1における、隣接する2つの共振周波数を有することによって関連付けられている。例示として、第1スピーカ素子51は、第1周波数f1=40kHzの共振周波数を有する。第2スピーカ素子52は、第2周波数f2=50kHzの共振周波数を有する。隣接する2つの共振周波数の差f2-f1は、数kHz~50kHzの範囲内に設定されている。この実施形態において、隣接する2つの共振周波数の差f2-f1は、10kHzである。他の例示では、第1スピーカ素子51は、第1周波数f1=130kHzの共振周波数を有し、第2スピーカ素子52は、第2周波数f2=140kHzの共振周波数を有する。この実施形態では、第1周波数f1は第2周波数f2より小さい(f1<f2)。第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、スピーカ対60を形成している。
【0026】
第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、対象空間TR1、TR2に向かう方向(後述の中心軸AXy)と交差する方向(後述の中心軸AXz)において互いに離れて配置されている。第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52との間は、2つのスピーカ素子50を通る中心軸AXzの方向において、距離Lだけ離れている。この実施形態では、中心軸AXzは、重力方向に対して垂直である。中心軸AXzは、水平な線でもある。
【0027】
2つのスピーカ素子51、52の中間に、中間点Mを仮定することができる。この場合、中間点Mとひとつのスピーカ素子50との間の距離は、L/2=zである。以下の説明において、距離Lの理論的な値は、値2zによって示される場合がある。値2zは、素子間の距離Lの最小値でもある。値2zは、超音波システム1における、隣接する2つの共振周波数をもつ2つのスピーカ素子51、52の最小距離である。
【0028】
第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、半導体基板41における端部と端部とに配置されている。この配置は、半導体基板41の大きさを最大限に利用して距離Lを可能な限り大きくすることを可能とする。逆に、望ましい距離Lを小さい半導体基板41によって提供することができる。よって、多くの場合、距離Lの最大値は、半導体基板41の大きさに依存する。
【0029】
図3は、横軸を周波数fkHz、縦軸を音圧SP(dBSPL)とするグラフである。
図3は、周波数軸における音圧カーブを示している。第1スピーカ素子51が発生する音の音圧カーブSP51は、第1周波数f1においてピークをもつ。第2スピーカ素子52が発生する音の音圧カーブSP52は、第2周波数f2においてピークをもつ。第1周波数とf1と第2周波数f2との間の中間周波数fmid(fmid=(f1+f2)/2)を想定することができる。中間周波数fmidの音圧は、第1スピーカ素子51からの音の位相と、第2スピーカ素子52からの音の位相との位相差に依存する。例えば、音が打ち消し合う場合には、ディップを生じ、音が強め合う場合には、ピークを生じる。
【0030】
第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とが接近して配置されている場合、それは点状音源と見なすことができる。この場合、中間周波数fmidにおいて、波長λの1/2の位相差があると、中間周波数fmidにおいてディップを生じる。しかも、2つのスピーカ素子が点状音源とみなせる場合、対象空間のすべての位置において中間周波数fmidの音がディップとなってしまう。これでは、対象空間のすべての位置において、周波数軸に沿ってピークとディップとが交互に観測されてしまう。この結果、広い周波数帯域においてディップのない均一な音圧を得ることが困難であった。
【0031】
この実施形態では、対象空間の複数の位置において、中間周波数fmidの音が少なくともディップを生じないように、距離Lが設定され、設計されている。距離Lは、対象物の上におけるふたつ以上の位置において、中間周波数fmidの音が強め合う位置を生み出すように設定されている。この実施形態では、中心軸AXyが中間点Mと、対象物の中心点を通ることを前提としている。よって、対象物の中心点の片側領域を想定する場合、距離Lは、対象物の上におけるひとつ以上の位置において、中間周波数fmidの音が強め合う位置を生み出すように設定されている。中間周波数fmidの音が強め合う位置は、2つのスピーカ素子からの距離差に起因して生み出される。この実施形態では、中間周波数fmidにおいて音が強め合うように距離Lが設定され、設計されている。距離Lは、理論的に求められる最小値2z以上に設定することができる。
【0032】
図3に図示されるように、中間周波数fmidにおいて、音圧カーブSP51のピークPK51または音圧カーブSP52のピークPK52より低いピークPKfmidが観測される場合がある。このピークPKfmidの音圧(破線)は、音圧カーブSP51または音圧カーブSP52により得られる音圧(実線)よりも強い。この結果、広い帯域にわたって、顕著なディップが音圧に現れない均一な音圧特定が得られる。この実施形態では、周波数f1の近傍、周波数f2の近傍、および、周波数f1と周波数f2との間を含む広い帯域にわたって、顕著なディップのない均一な音圧特定が得られる。中間周波数fmidの近傍では、顕著なピークを生じない。中間周波数fmidの近傍では、ほぼ均一な音圧が得られる。言い換えると、中間周波数fmidの近傍では、なだらかに増減する音圧特性が得られる。中間周波数fmidの近傍の比較的広い帯域において、均一な音圧が得られている。
【0033】
この実施形態によると、対象空間のすべての位置において中間周波数fmidの音が抑制されるという事態が回避される。この実施形態では、対象空間の複数の位置において、中間周波数fmidの音が高い音圧で再生される。この結果、音圧の顕著なディップのない均一な音圧分布を実現できる。ひとつの観点では、隣り合う共振周波数をもつ2つのスピーカ素子の距離Lは、対象空間において中間周波数fmidの複数のピークが観測されるように設定されている。中間周波数fmidの波長は中間波長λmidとも呼ばれる。ひとつの観点では、距離Lは、中間波長λmid以上に設定されている。ひとつの観点では、距離Lは、中間波長λmidに比べて十分に大きく設定されている。距離Lを規定する2つのスピーカ素子は、中間波長λmidに比べ十分離れて配置されている。
【0034】
図4は、2つのスピーカ素子51、52と、対象空間TRとの位置的な関係を示している。スピーカ素子51、52の音波方向TDは、対象空間TRを指向している。スピーカ素子51、52が、対象位置TGに与える音を想定する。スピーカ素子51、52と対象位置TGとは、音波方向TDの中心軸AXyにおいて距離yだけ離れている。中心軸AXyは、第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52との中間点を通っている。第1スピーカ素子51と中心軸AXy、または、第2スピーカ素子52と中心軸AXyは、中心軸AXzにおいて距離zだけ離れている状態を想定する。よって、第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、中心軸AXzにおいて値2zだけ離れている。対象位置TGと中心軸AXyとは、軸AXwにおいて距離xだけ離れている。軸AXwは、中心軸AXzと平行な軸である。軸AXwは、対象空間TRの幅方向WDに延びている。第1スピーカ素子51と対象位置TGとは、距離dLだけ離れている。第2スピーカ素子52と対象位置TGとは、距離dHだけ離れている。
【0035】
この位置関係において、対象位置TGにおける音の干渉を評価することにより、値2zを設定することができる。言い換えると、対象物の上におけるふたつ以上の位置において、中間周波数の音が強め合うように値2zが設定される。値2zは、上記条件が満たされるための最小値である。
【0036】
図5は、
図4の位置関係において導かれる複数の数式を示す。第1スピーカ素子51の共振周波数(中心周波数)は、周波数f1である。第2スピーカ素子52の共振周波数(中心周波数)は、周波数f2である。中間周波数fmidは、(1)式(fmid=(f1+f2)/2)で与えられる。中間波長λmidは、(2)式(λmid=(λ1+λ2)/2)で与えられる。中間周波数fmidと中間波長λmidとの関係は、(3)式により表される。なお、cは、音波の速度である。
【0037】
対象位置TGにおける、第1スピーカ素子51からの音と第2スピーカ素子52からの音との強め合いの関係は、波長λと距離差Δdとから、(4)式(nλmid=Δd+λmid/2)で与えられる。nは、次数である。距離差Δdは、(5)式(Δd=dH-dL)で与えられる。距離dHは、(6)式(dH=SQRT((z+x)2+y2))で与えられる。距離dLは、(7)式(dL=SQRT((z-x)2+y2))で与えられる。SQRT(X)は、Xの平方根を示す。音波の速度cは、(8)式の数値を用いる場合がある。
【0038】
上記(4)式から、次数nを示す(9)式(n=(SQRT((z+x)2+y2)-SQRT((z-x)2+y2))/λmid+1/2)が得られる。次数nは、自然数である。次数nは、1以上に設定することができる。次数nは、2つの音が互いに強め合う関係が得られる複数の位置のうち、中心軸AXyから所定の距離の範囲にあらわれる位置の数に影響する。この実施形態では、距離Lは、(9)式(n=(SQRT((z+x)2+y2)-SQRT((z-x)2+y2))/λmid+1/2)から得られる値2z以上に設定されている。ここでは、nを1以上の自然数、zを2つのスピーカ素子の中間点とスピーカ素子との距離、xを対象物の幅、yを中間点と対象物との距離としている。
【0039】
上記(9)式から、(10)式(2z/λmid=C(y))が得られる。係数C(y)は、距離yを固定した場合の係数を示す。係数C(y)は、中間波長λmidに依存する。係数C(y)は、値2zと中間波長λmidとの関係を示している。(10)式を変形して、(11)式(2z=C(y)×λmid)が得られる。距離yが定められると、値2zは、中間波長λmidに係数C(y)を掛けた値として与えられる。(11)式は、距離Lの最小値2zを与える。この実施形態では、距離Lは、対象物をヒトの顔と想定して設定されている。距離Lは、(11)式(2z=0.85×λmid)から得られる値2z以上に設定されている。
【0040】
距離yは、超音波システム1の用途に応じて変動する。ただし、音を放射する用途においては、スピーカ素子50と対象位置TGとの間の距離yは100mm以上であると考えられる。さらに、スピーカ10の出力の上限に起因して、距離yの最大値は制限される。距離yの最大値は、2000mm程度に設定される場合がある。距離yの最大値は、スピーカ10の出力の最大値に対して比例する。距離yの最大値は、2000mmから8000mm程度を想定することができる。この実施形態における乗り物用の超音波システム1を想定すると、スピーカ10が有効に音を再生できる距離yの最大値は、5000mm程度と考えることができる。
【0041】
図6は、この実施形態における、2つの音が互いに強め合う関係が得られる位置の設定状態を示す。図示は、スピーカ11の場合を示している。対象空間TRに、対象物としてのヒトが存在する場合を想定している。スピーカ10は、対象物の生体表面においてハイパーソニック音を再生する。音を感じる部位として、ヒトの露出している生体表面を選定することができる。この場合、ヒトの顔、ヒトの首、および、ヒトの胸の周辺を、音を感じる部位として選定することができる。この場合、中央の対象位置TGは、ヒトの顎の周辺に設定されている。
【0042】
図6には、中間波長λmidに関して音を強め合う関係が得られる関係線PL(m)が示されている。中心軸AXyからひとつめの強め合う関係は、中心軸AXzと交差する関係線PL(1)に沿って得られる。中心軸AXyからふたつめの強め合う関係は、中心軸AXzに対して交差する関係線PL(2)に沿って得られる。関係線PL(1)、PL(2)は、曲線の一部である。中間周波数fmidの第1スピーカ素子51からの音と、中間周波数fmidの第2スピーカ素子52からの音とが互いに強め合う関係が、対象空間に位置する対象物の上における2つ以上の位置においてあらわれている。第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52との距離Lは、上記強め合う関係が対象物の上における2つ以上の位置においてあらわれるように設定されている。
【0043】
対象物の位置は、固定ではないから、対象物の位置は、ヒトの姿勢に依存して変動する。顔を想定する場合、顔は、幅方向WDにおいて距離2xの幅を有すると考えることができる。距離2xは、幅方向WDにおける、中心軸AXyからの距離xに基づいて設定されている。距離xは、例として、日本人の成人の場合、73mm程度に設定することができる。距離xの数値としては、任意の統計的な数値を利用することができる。例えば、18歳以上30歳未満の日本人の統計的な数値として73mmが与えられる。
【0044】
対象物の表面上において、複数の関係線PL(m)を発生させる。これにより、対象物の表面上にほぼ均一な音を作用させることができる。言い換えると、対象物の表面上に複数の関係線PL(m)を発現させる。これにより、対象物の表面上にディップのない音圧をもつ音を作用させることができる。この実施形態では、ヒトの顔の上において、ディップのない音圧をもつハイパーソニック音を作用させることができる。
【0045】
さらに、この実施形態では、対象物の表面上において、複数の強め合う関係PL(m)を発現させている。図示の例では、対象物の表面上において、少なくとも2つの強め合う関係PL(m)を発現させている。これにより、対象物が移動しても、対象物の表面に少なくとも1つの強め合う関係PL(m)を発現させることができる。具体的には、顔の片側領域に、少なくとも1つの強め合う関係PL(m)を発現させている。顔の右側領域に、少なくとも1つの強め合う関係PL(1)を発現させている。顔の左側領域にも、少なくとも1つの強め合う関係PL(1)を発現させている。この結果、対象物がその幅(距離2x)の範囲内で移動しても、対象物に強め合う関係PL(1)により得られる音圧を作用させることができる。
【0046】
図7は、複数の強め合う点PSと、複数の弱め合う点PWとを示している。対象物として、ヒトの顔が例示されている。実線は、対象物(ヒトの顔)の規定位置を示している。規定位置は、例えば、正規の着座姿勢における位置を示している。破線は、想定される対象物(ヒトの顔)の最大のずれ位置を示している。この例では、最大のずれ量SHは、対象物(ヒトの顔)ひとつ分である(SH=2x)。この実施形態では、値2zは、対象物の表面上に少なくとも2つの強め合う点PSが発現するように設定されている。これにより、対象物の位置に変動があっても、ハイパーソニック音を強く作用させることができる。
【0047】
上段は、対象物の表面上において、少なくとも2つの強め合う点PSが発現する例を示す。上段は、次数n=1の例を示している。ヒトの顔の片側に、少なくともひとつの強め合う点PSが発現している。この例でも、中間周波数fmidの第1スピーカ素子51からの音と、中間周波数fmidの第2スピーカ素子52からの音とが互いに強め合う関係PSが、対象空間に位置する対象物の上における2つの位置においてあらわれている。この例では、ヒトの顔が横方向(左右方向)にずれても、依然として顔の上に、ひとつの強め合う点PSが発現する。しかも、ヒトの顔が規定位置から最大のずれ位置まで移行するすべての位置において、継続して、顔の上に、ひとつの強め合う点PSが発現し続ける。
【0048】
下段は、対象物の表面上において、少なくとも4つの強め合う点PSが発現する例を示す。下段は、次数n=2の例を示している。ヒトの顔の片側に、少なくとも2つの強め合う点PSが発現している。この例では、中間周波数fmidの第1スピーカ素子51からの音と、中間周波数fmidの第2スピーカ素子52からの音とが互いに強め合う関係PSが、対象空間に位置する対象物の上における4つの位置においてあらわれている。この例では、ヒトの顔がずれても、依然として顔の上に、ひとつの強め合う点PSが発現する。しかも、ヒトの顔が規定位置から最大のずれ位置まで移行するすべての位置において、継続して、顔の上に、ひとつ以上の強め合う点PSが発現する。
【0049】
図8は、この実施形態の構造を用いて具体化された値2zの数値を示している。この例は、次数n=1の例である。この例は、対象物として、ヒトの顔を想定している。よって、距離xは73mmである。距離yの有効範囲は、最小距離y=100mm以上、最大距離y=2000mm以下を想定している。値2zは、中間周波数fmidが、fmid=45kHzである場合と、fmid=135kHzである場合とを示している。中間周波数fmid=45の場合、第1スピーカ素子51は、共振周波数f1=40kHzを有し、第2スピーカ素子52は、共振周波数f2=50kHzを有する。中間周波数fmid=135の場合、第1スピーカ素子51は、共振周波数f1=130kHzを有し、第2スピーカ素子52は、共振周波数f2=140kHzを有する。
【0050】
図9は、係数C(y)と次数nとの関係を示すグラフである。中間波長λmidにおいて、最小値2zは、(11)式から与えられる。例えば、中間周波数fmidが45kHzである第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52との間の距離の値2zは、2z=C(y)×λmid=0.85×7.55=6.4175mmとして与えられる。スピーカ10においては、距離Lは、最小値2z以上の値に設定される。中間周波数fmidが135kHzである第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52との間の距離の値2zは、2z=C(y)×λmid=0.85×2.52=2.142mmとして与えられる。図中には、四捨五入後の数値が示されている。
【0051】
図8および
図9に示されるように、係数C(y)は、周波数fに関係なく、一定値である。係数C(y)は、最小距離y=100mmにおいて、0.85である。よって、この実施形態では、係数C(y)の最小値は、0.85である。隣接する2つの共振周波数f1、f2をもつ2つのスピーカ素子51、52の距離Lは、中間波長λmidに係数C(y)=0.85を掛けた値以上に設定されている。これにより、対象物の位置が規定位置からずれても、対象物の表面上において、ディップのない音圧を再生することができる。言い換えると、対象物の位置が規定位置からずれても、対象物の表面上において、ほぼ均一な音圧をもつ広い周波数帯域の音を再生することができる。距離Lは、対象物の表面上の複数の位置において、中間周波数fmidを含む広い周波数帯域の音が、中間周波数fmidにおける音圧のディップを含まない均一な音圧をもつように設定されている。
【0052】
係数C(y)は、最大距離y=2000mmにおいて、13.71である。この実施形態では、係数C(y)の最大値は、13.71である。係数C(y)の最小値は、超音波システム1の普遍的な最小値である。係数C(y)の最大値は、距離yに依存する。係数C(y)の最大値は、距離yの数値に応じて設定することができる。係数C(y)の最大値は、距離Lの最大値でも制限される。距離Lの最大値は、スピーカ10に依存する場合がある。スピーカ10が対象空間TRの全幅に相当する規模をもつ場合、距離Lの最大値は、対象空間TRの幅方向WDの最大幅WMに達する場合がある。よって、距離Lの最大値は、対象空間TRの幅方向WDの最大幅WM以下である。距離Lは、対象空間の幅以下に設定されている。ここで、幅は、中心軸AXzと平行な方向を指している。スピーカ10が単一の半導体基板41によって形成されている場合、距離Lの最大値は、半導体チップの最大値以下、または、半導体ウエハの最大値以下である。
【0053】
以上に述べた実施形態によると、距離Lは、第1スピーカ素子51からの音と、第2スピーカ素子52からの音とが、対象位置TGにおいて、所定の関係PSとなるように設定されている。対象位置TGは、対象空間に位置する対象物の上における2つ以上の位置である。所定の関係PSは、共振周波数f1と共振周波数f2との間の中間周波数fmidにおいて、第1スピーカ素子51からの音と、第2スピーカ素子52からの音とが、互いに強め合う関係である。言い換えると、距離Lは、第1共振周波数f1と第2共振周波数f2との間の中間周波数fmidの第1スピーカ素子51からの音と、中間周波数fmidの第2スピーカ素子52からの音とが互いに強め合う関係PSが、対象空間に位置する対象物の上における2つ以上の位置TGにおいてあらわれるように設定されている。これにより、対象物の上における2つ以上の位置において、中間周波数fmidにおける音の強め合う関係が得られる。この結果、広い帯域において強い音圧を供給する超音波発生装置が提供される。さらに、対象物の位置がずれても、依然として対象物に強い音圧を供給することができる。
【0054】
距離Lは、隣接する共振周波数f1、f2をもつスピーカ素子51、52の中間波長λmidに係数C(y)=0.85を掛けて得られる数値2z以上に設定されている。この結果、ヒトの顔が、規定位置から、顔と同じ幅だけ幅方向WDにずれても、顔の表面上において中間周波数fmid近傍のディップのない音を提供することができる。距離Lが適切に設定されることにより、小型のスピーカ10によって所期の効果を得ることができる。
【0055】
この開示の教示は、ヒトの顔を対象物とする実施形態に限られない。この実施形態では、距離xの値は、ヒトの顔を想定して73mmに設定されている。この開示に接した当業者は、距離xの値は、対象物に応じて設定することができることを理解するべきである。例えば、ヒトの上半身を対象物とする超音波システム1では、距離xは、100mmを超える値に設定することができる。また、中心軸AXzを重力方向に一致させ、立ち姿勢のヒトの全身を対象物とする場合には、距離xは、1000mmから2000mmの範囲に設定される場合がある。この開示は、これらの変形例を包含するように解釈されるべきである。
【0056】
第2実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。上記実施形態では、ひとつの半導体基板41の上に、隣接する共振周波数をもつ2つのスピーカ素子51、52からなるスピーカ対60が形成されている。これに代えて、この実施形態では、離れて配置された別の半導体基板242、243に、隣接する共振周波数をもつ2つのスピーカ素子を含む複数のスピーカ対60が分散的に形成されている。
【0057】
図10において、超音波システム1は、スピーカ10を備える。スピーカ10は、第1スピーカ211、および、第2スピーカ212を備える。スピーカ211、および、第2スピーカ212は、第1実施形態におけるスピーカ11、および、第2スピーカ12に代替可能なものである。スピーカ211、および、第2スピーカ212は、第1実施形態におけるスピーカ11、および、第2スピーカ12よりも幅方向WDの寸法が大きい。第1スピーカ211、および、第2スピーカ212の幅方向WDの寸法は、最大幅WM以下である。
【0058】
図11において、スピーカ10は、容器30を有する。スピーカ10は、容器30の中に配置された複数の半導体素子40を備える。複数の半導体素子40は、複数の半導体基板242、243によって提供されている。スピーカ10は、互いに離れて配置された第1半導体基板242と第2半導体基板243とを備える。半導体基板242と、半導体基板243とは、ひとつの対象領域TRを指向するひとつのスピーカ10に所属している。スピーカ10は、複数のスピーカ素子50を備える。複数のスピーカ素子50は、半導体基板242、243に分散的に配置されている。第1半導体基板242に第1スピーカ素子が形成され、第2半導体基板243に第2スピーカ素子が形成されている。
【0059】
この実施形態では、半導体基板242、243に、複数のスピーカ対60が分散的に配置されている。例えば、共振周波数f1=40kHzのスピーカ素子51と、共振周波数f2=50kHzのスピーカ素子52とは、ひとつのスピーカ対60を形成している。さらに、共振周波数f1=50kHzのスピーカ素子52と、共振周波数f2=60kHzのスピーカ素子53とは、他のひとつのスピーカ対60を形成している。スピーカ10は、40kHzから140kHzにわたる広い範囲の周波数帯域をもつ音を放射する。スピーカ10は、10kHzごとに共振周波数が異なる複数のスピーカ素子50を備える。スピーカ10は、10個のスピーカ対60を備える。
【0060】
複数のスピーカ対60の間の中心軸は、中心軸AXzに対してやや傾斜している場合がある。例えば、スピーカ素子51とスピーカ素子52とを含むスピーカ対60は、中心軸AX4050において距離L1だけ離れている。スピーカ素子52とスピーカ素子53とを含むスピーカ対60は、中心軸AX5060において距離L2だけ離れている。よって、複数のスピーカ対61、62は、互いに交差する異なる中心軸AX4050、AX5060を有している。ただし、半導体基板242、243が小さいため、複数のスピーカ対60の中心軸AXは、互いにほぼ平行であると見なすことができる。中心軸AX4050と、中心軸AX5060とを含む複数の中心軸は、中心軸AXzとほぼ平行であるとみなすことができる。
【0061】
第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、中心軸AXzに沿って距離L1だけ離れている。第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、第1スピーカ対61を形成している。第1スピーカ対61は、第1中間周波数fmid1=45kHzによって特徴付けられている。第2スピーカ素子52と第3スピーカ素子53とは、中心軸AXzに沿って距離L2だけ離れている。第2スピーカ素子52と第3スピーカ素子53とは、第2スピーカ対62を形成している。第2スピーカ対62は、第2中間周波数fmid2=55kHzによって特徴付けられている。同様にして、10対のスピーカ対60が形成されている。すべてのスピーカ対60は、それぞれの中間周波数fmidによって特徴付けられている。すべてのスピーカ対60の距離L(L1、L2・・・)は、上記(9)式、または、上記(11)式によって与えられる値2z以上である。
【0062】
スピーカ素子51とスピーカ素子52との間の距離L1は、中間周波数fmid=45kHzに応じて設定される値2z以上である。スピーカ素子52とスピーカ素子53との間の距離L2は、中間周波数fmid=55kHzに応じて設定される値2z以上である。同様に、すべてのスピーカ素子50に関する素子間の距離は、中間周波数fmidに応じて設定される値2z以上である。すべての距離L1、L2・・・は、対象空間TRに位置づけられた対象物の表面上において、中間周波数fmidの音がディップを生じることなく強め合って観測されるように設定されている。
【0063】
スピーカ素子51の共振周波数と、スピーカ素子53の共振周波数とは、近接する関係にあるが、それらは隣接する関係にはない。スピーカ素子51の共振周波数と、スピーカ素子52の共振周波数との間の中間周波数の音は音圧が小さく、無視しうる水準である。この明細書の説明において、対、または、スピーカ対の用語は、スピーカ10における隣接する共振周波数をもつ複数のスピーカ素子の対を指す。
【0064】
第3実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。先行する実施形態では、ひとつの容器30の中に、隣接する共振周波数をもつ2つのスピーカ素子51、52を含むスピーカ対60が配置されている。これに代えて、この実施形態では、離れて配置された別の容器31、32に、隣接する共振周波数をもつ2つのスピーカ素子のスピーカ対60が分散的に形成されている。
【0065】
図12において、超音波システム1は、スピーカ10を備える。スピーカ10は、第1スピーカ11と、第2スピーカ312と、第3スピーカ313とを備える。第1スピーカ11の説明は、先行する実施形態を参照することができる。第2スピーカ312の音波方向TD2は、後席空間に相当する対象空間TR2を指向している。第3スピーカ313の音波方向TD3は、後席空間に相当する対象空間TR2を指向している。第2スピーカ312と第3スピーカ313とは、集合的にひとつのスピーカを提供している。第2スピーカ312と第3スピーカ313とは、先行する実施形態における第2スピーカ12に相当する機能を提供する。
【0066】
図13は、ひとつのスピーカ10を提供する複数のスピーカ312、313を示している。この実施形態では、2つの第1スピーカ312と、第2スピーカ313とがひとつのスピーカ10を提供する。第2スピーカ312は、ひとつの容器31と、容器31内に配置されたひとつの半導体基板344とを備える。第2スピーカ312は、複数のスピーカ素子の群を有している。第3スピーカ313は、ひとつの容器32と、容器32内に配置されたひとつの半導体基板345とを備える。第3スピーカ313は、複数のスピーカ素子の群を有している。複数の半導体基板344,345は、複数の容器31、32に分散的に配置されている。この実施形態でも、スピーカ10は、互いに離れて配置された第1半導体基板344と第2半導体基板345とを備える。第1半導体基板344に第1スピーカ素子が形成され、第2半導体基板345に第2スピーカ素子が形成されている。
【0067】
第2スピーカ312に所属するひとつのスピーカ素子と、第3スピーカ313に所属するひとつのスピーカ素子とは、隣接する共振周波数をもつ2つのスピーカ素子を提供している。第2スピーカ312に所属する複数のスピーカ素子と、第3スピーカ313に所属する複数のスピーカ素子とは、複数のスピーカ対60を形成している。この実施形態では、すべてのスピーカ素子50が複数のスピーカ対60を形成している。
【0068】
第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、中心軸AXzに沿って距離L1だけ離れている。第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、第1スピーカ対61を形成している。第1スピーカ対61は、第1中間周波数fmid1=45kHzによって特徴付けられている。第2スピーカ素子52と第3スピーカ素子53とは、中心軸AXzに沿って距離L2だけ離れている。第2スピーカ素子52と第3スピーカ素子53とは、第2スピーカ対62を形成している。第2スピーカ対62は、第2中間周波数fmid2=55kHzによって特徴付けられている。同様にして、10対のスピーカ対60が形成されている。すべてのスピーカ対60は、それぞれの中間周波数fmidによって特徴付けられている。すべてのスピーカ対60の距離L(L1、L2・・・)は、上記(9)式、または、上記(11)式によって与えられる値2z以上である。この実施形態でも、複数のスピーカ対61、62は、互いに交差する異なる中心軸を有している。
【0069】
図示の例では、スピーカ10は、複数のスピーカ素子50を備える。複数のスピーカ素子50は、半導体基板342、343に分散的に配置されている。複数のスピーカ素子50は、10対のスピーカ対60を形成している。それぞれのスピーカ対60の距離Lは、先行する実施形態と同様に、最小値2z以上、最大値以下に設定されている。よって、この実施形態でも、対象空間TR内に位置する対象物の表面において、ディップのない均一な音圧を広い周波数帯域に渡って供給することができる。
【0070】
第1実施形態、第2実施形態、および第3実施形態の開示から明らかなように、複数のスピーカ素子50は、複数のスピーカ対60を形成するように配置されている。複数のスピーカ素子50は、ひとつのスピーカ10を形成するひとつの容器30の中において分散的に配置することができる。代替的に、複数のスピーカ素子50は、ひとつのスピーカ10を形成する複数の容器30に分散的に配置することができる。代替的に、複数のスピーカ素子50は、ひとつのスピーカ10を形成するひとつの半導体素子40の中において分散的に配置することができる。代替的に、複数のスピーカ素子50は、ひとつのスピーカ10を形成する複数の半導体素子40に分散的に配置することができる。以下の説明においては、容器30、および、半導体素子40に制約されることなく、複数のスピーカ素子50の配置が説明されている。
【0071】
第4実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。先行する実施形態では、ひとつのスピーカ10が備える複数のスピーカ素子50の距離Lの方向は、互いにほぼ平行である。これに対し、この実施形態では、ひとつのスピーカ10は、距離Lの方向が互いに明白に交差する複数のスピーカ素子50を備えている。
【0072】
図14において、スピーカ10は、複数のスピーカ素子50を備える。図中には、代表的なスピーカ素子50が図示されている。スピーカ10は、4つのスピーカ素子51、52、451、および、452を備える。複数のスピーカ素子50は、マトリックスの交点に配置されている。複数のスピーカ素子50は、マトリックス状に配置されているといえる。
【0073】
スピーカ10は、第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とを備える。第1スピーカ素子51は、共振周波数f1である。第2スピーカ素子52は、共振周波数f2である。第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、ひとつの第1スピーカ対461を形成している。第1スピーカ対461に属する第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、中心軸AXz1において、距離L1だけ離れている。中心軸AXz1は、水平方向に沿って延びている。距離L1は、値2z以上である。
【0074】
スピーカ10は、第3スピーカ素子451と第4スピーカ素子452とを備える。第3スピーカ素子451は、共振周波数f1である。第4スピーカ素子452は、共振周波数f2である。第3スピーカ素子451と第4スピーカ素子452とは、他のひとつの第2スピーカ対462を形成している。第2スピーカ対462に属する第3スピーカ素子451と第4スピーカ素子452とは、中心軸AXz2において、距離L1だけ離れている。中心軸AXz2は、重力方向(鉛直方向)に沿って延びている。距離L1は、値2z以上である。
【0075】
中心軸AXz1と中心軸AXz2とは、共通の点において、互いに交差している。中心軸AXz1と中心軸AXz2とは、共通の点において、互いに直交している。
【0076】
スピーカ10は、第1スピーカ素子51と第4スピーカ素子452とによって、第3スピーカ対463を形成している。第3スピーカ対463に属する第1スピーカ素子51と第4スピーカ素子452とは、中心軸AXz3において、距離L2だけ離れている。中心軸AXz3は、重力方向に対して傾斜した斜め方向に沿って延びている。距離L2は、値2z以上である。
【0077】
スピーカ10は、第3スピーカ素子451と第2スピーカ素子52とによって、第4スピーカ対464を形成している。第4スピーカ対464に属する第3スピーカ素子451と第2スピーカ素子52とは、中心軸AXz4において、距離L2だけ離れている。中心軸AXz4は、重力方向に対して傾斜した斜め方向に沿って延びている。中心軸AXz3と中心軸AXz4とは、平行である。距離L2は、値2z以上である。
【0078】
第1スピーカ対461と第2スピーカ対462とは、一次的なスピーカ対と呼ばれる。第3スピーカ対463と第4スピーカ対464とは、第1スピーカ対461と第2スピーカ対462とによって付随的に形成される二次的なスピーカ対と呼ばれる。これら、一次的、二次的といった呼び名は主観的なものであって、相互に入れ替え可能であることが理解されるべきである。この実施形態でも、複数のスピーカ対461、462、463、464は、互いに交差する異なる中心軸AXz1、AXz2、AXz3、AXz4を有している。
【0079】
この実施形態では、第1スピーカ対461と第2スピーカ対462とは、それらを特徴付ける周波数が等しい。第1スピーカ対461と第2スピーカ対462とを特徴付ける周波数は、共振周波数f1、共振周波数f2、および、中間周波数fmidである。言い換えると、第1スピーカ対461と第2スピーカ対462とは、それらを特徴付ける周波数に関して完全に重複している。第1スピーカ対461と第2スピーカ対462とは、それらを特徴付ける周波数に関して少なくとも部分的に重複している。
【0080】
第1スピーカ対461と第2スピーカ対462とは、中心軸AXz1と中心軸AXz2とが交差する関係にある。なお、中心軸AXz1と中心軸AXz2とは、方向が空間的に交差していればよい。中心軸AXz1と中心軸AXz2とは、図示の例のように、共通の点において交差していなくてもよい。例えば、第1スピーカ対461と第2スピーカ対462とは離れていてもよい。
【0081】
図15は、複数のスピーカ対461、462、463、464が提供する複数の関係線PL1、PL2、PL3を示す。関係線PL1、PL2、PL3は、中間波長λmidにおいて音が強め合う関係が得られる位置を示している。第1スピーカ対461は、関係線PL1を提供する。第2スピーカ対462は、関係線PL2を提供する。第3スピーカ対463は、関係線PL3を提供する。第4スピーカ対464は、関係線PL3を提供する。なお、関係線PL1、PL2、PL3は、曲線の一部である。
【0082】
関係線PL1と関係線PL2との交差角度は、第1スピーカ対461の中心軸AXz1と第2スピーカ対462の中心軸AXz2との交差角度に等しい。この実施形態では、交差角度は、90度である。
【0083】
さらに、関係線PL3は、関係線PL1、PL2に対して交差している。関係線PL1、PL2と関係線PL3との交差角度は、中心軸AXz1、AXz2と中心軸AXz3、AXz4との交差角度に等しい。この実施形態では、交差角度は、+45度と-45度である。
【0084】
この実施形態によると、対象空間における横方向に離れた複数の位置において、中間周波数fmidの近傍における均一な音圧を得ることができる。加えて、対象空間における縦方向に離れた複数の位置において、中間周波数fmidの近傍における均一な音圧を得ることができる。複数のスピーカ対461、462の中心軸を交差させることにより、付随的なスピーカ対462、463が生み出される。この結果、さらに、対象空間における斜め方向に離れた複数の位置において、中間周波数fmidの近傍における均一な音圧を得ることができる。この実施形態では、高い音圧を、多くの位置において提供することができる。しかも、対象物が横方向SH1、および、縦方向SH2へずれても、高い音圧を提供することができる。さらに、関係線PL3が提供されることにより、対象物が斜め方向SH3へずれても、高い音圧を提供することができる。
【0085】
第5実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。先行する実施形態では、ひとつのスピーカ10が備える複数のスピーカ対の中心軸の交差角度は、90度である。これに代えて、複数の中心軸の交差角度は、90度以外の角度に設定することができる。
【0086】
図16において、スピーカ10は、複数のスピーカ素子50を備える。複数のスピーカ素子50は、複数のスピーカ対を提供している。例えば、スピーカ素子51と、スピーカ素子52とは、ひとつのスピーカ対を形成している。スピーカ素子551とスピーカ素子552とも、ひとつのスピーカ対を形成している。スピーカ素子52と、スピーカ素子551とは、付随的なスピーカ対を形成している。さらに、スピーカ素子51と、スピーカ素子552とは、付随的なスピーカ対を形成している。
【0087】
これらの複数のスピーカ対は、複数のグループを形成している。これらの複数のグループは、中心軸AXzの角度に関連付けて区別することができる。この実施形態では、一次的な2つのグループ561、562が形成されている。さらに、この実施形態では、二次的な2つのグループ563、564が形成されている。ひとつのグループは、ひとつのスピーカ10に相当する要素を備えている。複数のスピーカ対を含む第1グループ561は、中心軸AXz1を有する。複数のスピーカ対を含む第2グループ562は、中心軸AXz2を有する。複数のスピーカ対を含む第3グループ563は、中心軸AXz3を有する。複数のスピーカ対を含む第4グループ564は、中心軸AXz4を有する。
【0088】
第1グループ561と第2グループ562とは、水平な中心軸に対して線対称に配置されている。第1グループ561の配置と第2グループ562の配置とは、相似である。第1グループ561の中心軸AXz1と、第2グループ562の中心軸AXz2とは、90度とは異なる角度で交差している。中心軸AXz1は、重力方向に対して傾斜して延びている。中心軸AXz2は重力方向に対して傾斜して延びている。これらの傾斜角度は、90度とは異なる角度である。中心軸AXz1と中心軸AZx2とは、重力方向に対して逆方向に傾斜している。第3グループ563の中心軸AXZ3も、中心軸AXz1、AXz2に対して、90度とは異なる角度で交差している。第4グループ564の中心軸AXz4も、中心軸AXz1、AXz2に対して、90度とは異なる角度で交差している。中心軸AXZ3と中心軸AXz4とは、平行である。中心軸AXz3、AXz4とは、水平方向に沿って延びている。この実施形態でも、複数のスピーカ対561、562、563、564は、互いに交差する異なる中心軸AXz1、AXz2、AXz3、AXz4を有している。
【0089】
この実施形態でも、素子間の距離は、先行する実施形態において説明された条件を満たしている。よって、この実施形態でも、先行する実施形態と同様の作用効果が得られる。さらに、この実施形態では、中心軸AXz1、AXz2に相当する方向に関して、対象空間TRの多数の位置において中間周波数fmidの高い音圧が得られる。
【0090】
第6実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。先行する実施形態では、ひとつのスピーカ10が備える複数のスピーカ素子50は、不規則に配置されている。これに代えて、この実施形態では、第1スピーカ対の内側に、第2スピーカ対が配置されている。言い換えると、第2スピーカ対の外側に第1スピーカ対が配置されている。第1スピーカ対は、第1中間周波数fmid1によって特徴付けられている。第2スピーカ対は、第2中間周波数fmid2によって特徴付けられている。第2中間周波数fmid2は、第1中間周波数fmid1より高い(fmid1<fmid2)。この実施形態における複数のスピーカ対の関係は、以下の説明では内外位置関係とも呼ばれる。
【0091】
図17において、スピーカ10は、所定の広い周波数帯域(約40kHz~約140kHz)をカバーしている。スピーカ10は、複数のスピーカ素子50を備える。複数のスピーカ素子50は、互いに異なる共振周波数をもつ。複数のスピーカ素子50の共振周波数は、所定の周波数差ごとに異なる。複数のスピーカ素子50は、複数のスピーカ対60を形成している。この実施形態では、スピーカ10は、10個のスピーカ素子50を備える。10個のスピーカ素子は、10対のスピーカ対60を形成している。複数のスピーカ素子50のそれぞれは、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140kHzの共振周波数を有する。周波数差は、10kHzである。周波数差および複数のスピーカ素子50の数は、図示の実施形態に限られない。例えば、周波数差は、5kHz、20kHzといった多様な周波数差をもつことができる。例えば、スピーカ10は、数個のスピーカ素子50から10数個のスピーカ素子50を備えることができる。複数のスピーカ素子50は、単一の半導体基板に集中的に形成されても、複数の半導体基板に分散的に形成されてもよい。
【0092】
第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、中心軸AXzに沿って距離L1だけ離れている。第1スピーカ素子51と第2スピーカ素子52とは、第1スピーカ対661を形成している。第1スピーカ対661は、第1中間周波数fmid1=45kHzによって特徴付けられている。
【0093】
第2スピーカ素子52と第3スピーカ素子53とは、中心軸AXzに沿って距離L2だけ離れている。第2スピーカ素子52と第3スピーカ素子53とは、第2スピーカ対662を形成している。第2スピーカ対662は、第2中間周波数fmid2=55kHzによって特徴付けられている。
【0094】
第1中間周波数fmid1は、第2中間周波数fmid2より低い。距離L1と距離L2とは、理論的に設定される値2z以上である。距離L1は、距離L2より大きい。第2スピーカ対662は、第1スピーカ対661の内側に配置されている。
【0095】
この実施形態では、上記内外位置関係は、スピーカ10におけるすべてのスピーカ対において満たされている。なお、スピーカ10が提供する複数のスピーカ対のうち、一部の2つのスピーカ対において上記内外位置関係が満たされていてもよい。ひとつの例では、外側に配置された第1スピーカ対の第1中間周波数と、第1スピーカ対の内側に配置された第2スピーカ対の第2中間周波数とが、上記周波数差を超えて離れていてもよい。別のひとつの例では、低周波数側の少なくとも2つのスピーカ対が上記内外位置関係を満たし、高周波数側の複数のスピーカ対は、不規則に配置されていてもよい。逆に、高周波数側の少なくとも2つのスピーカ対が上記内外位置関係を満たし、低周波数側の複数のスピーカ対は、不規則に配置されていてもよい。
【0096】
この実施形態の上記内外位置関係は、先行する実施形態の特徴と組み合わせられてもよい。例えば、
図16に図示される複数のスピーカ素子50は、
図17に図示される内外位置関係を満たすように配置されてもよい。
【0097】
他の実施形態
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形形態を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0098】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 超音波システム、 2 乗り物、
10 超音波発生装置(スピーカ)、 20 音源、 30 容器、
40 半導体素子、 50 スピーカ素子、 60 スピーカ対。