(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】エンジンのブリーザ装置
(51)【国際特許分類】
F01M 13/00 20060101AFI20240704BHJP
F02F 1/22 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
F01M13/00 F
F01M13/00 K
F02F1/22 A
(21)【出願番号】P 2021211200
(22)【出願日】2021-12-24
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2021068896
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】河本 拓哉
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-044144(JP,A)
【文献】特開2017-141770(JP,A)
【文献】特開平04-164110(JP,A)
【文献】特開平03-172524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/00
F02F 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケース(1)内と連通するブリーザ室(2)と、クランクケース(1)の内圧の上昇に基づいて開弁し、クランクケース(1)の内圧を抜く安全弁(3)を備えた、エンジンのブリーザ装置において、
エンジンの幅方向を横方向として、安全弁(3)は、圧抜き通路壁(5)で囲まれた圧抜き通路(5a)内に配置され、圧抜き通路壁(5)は、エンジンの排気側の横側壁(4)と対向する壁部分(5b)を備えている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエンジンのブリーザ装置において、
エンジンの排気側の横側壁(4)と対向する壁部分(5b)は、シリンダブロック(6)のシリンダ部(7)の横側壁(7a)と対向する壁部分(5ba)である、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたエンジンのブリーザ装置において、
エンジンの排気側に設けられた排気経路壁(8)を備え、
圧抜き通路壁(5)は、排気経路壁(8)の周面(8a)と対向する壁部分(5c)を備えている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたエンジンのブリーザ装置において、
ファン(9)を備え、
ファン(9)の送風路(9a)の送風方向上流側に排気経路壁(8)が配置され、送風方向下流側に送風(9c)が吹き当たる圧抜き通路壁(5)の壁部分(5d)が配置されている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載されたエンジンのブリーザ装置において、
クランク軸(1a)の架設方向を前後方向として、シリンダブロック(6)の前後端の一方にクランクケース(1)内と連通する伝動ケース(10)を備え、伝動ケース(10)からシリンダブロック(6)の横側壁(6a)と対向する圧抜き通路壁(5)が導出されている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたエンジンのブリーザ装置において、
エンジンの排気側に設けられた排気経路壁(8)を備え、
伝動ケース(10)は、排気経路壁(8)の周面(8a)と対向する位置に配置されている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載されたエンジンのブリーザ装置において、
シリンダブロック(6)の前後端の一方に、バランサ軸挿通孔(11)(11)と、伝動ケース(10)のエンジンオイル戻し孔(12)を備え、バランサ軸挿通孔(11)(11)がバランサ軸で閉塞されている場合には、エンジンオイル戻し孔(12)を介してクランクケース(1)内と伝動ケース(10)内が連通し、バランサ軸挿通孔(11)(11)がバランサ軸で閉塞されていない場合には、バランサ軸挿通孔(11)(11)とエンジンオイル戻し孔(12)を介してクランクケース(1)内と伝動ケース(10)内が連通するように構成されている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載されたエンジンのブリーザ装置において、
クランクケース(1)の内圧を検出する圧力センサ(13)と、警報装置(14)と、圧力センサ(13)で検出されたクランクケース(1)の内圧の検出圧力(P)が安全弁(3)の開弁圧以下の所定の警報閾値(P0)に至った場合には、警報装置(14)で警報を発生させる警報駆動装置(15)を備えている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項9】
請求項8に記載されたエンジンのブリーザ装置において、
警報装置(14)の警報を停止させる手動の警報停止スイッチ(16)を備えている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項10】
請求項5から請求項7のいずれかに記載されたエンジンのブリーザ装置において、
前記横方向は、前後方向及び上下方向と直交する方向とされ、
横方向から見て、伝動ケース(10)から導出された圧抜き通路壁(5)内に形成される圧抜き通路(5a)の通路入口(5ab)の最下端開口縁(5ac)の隅角部(5ad)と接する仮想傾斜線(5ae)を想定し、この仮想傾斜線(5ae)は圧抜き通路壁(5)の導出方向に向かって上り傾斜し、クランク軸(1a)の中心軸線(1b)を水平に向けた場合の仮想傾斜線(5ae)の仰角(α)が20°から35°とされ、この仮想傾斜線(5ae)よりも高い位置に、安全弁(3)の弁入口(3a)が配置されている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項11】
請求項10に記載されたエンジンのブリーザ装置において、
圧抜き通路壁(5)は、最下端開口縁(5ac)の隅角部(5ad)から導出された通路底壁(5e)を備え、横方向から見て、この通路底壁(5e)の内底面(5f)は仮想傾斜線(5ae)に沿って傾斜している、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項12】
請求項11に記載されたエンジンのブリーザ装置において、
クランクケース(1)の内圧を検出する圧力センサ(13)と、警報装置(14)と、圧力センサ(13)で検出されたクランクケース(1)の内圧の検出圧力(P)が安全弁(3)の開弁圧以下の所定の警報閾値(P0)に至った場合には、警報装置(14)で警報を発生させる警報駆動装置(15)を備えている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【請求項13】
請求項12に記載されたエンジンのブリーザ装置において、
警報装置(14)の警報を停止させる手動の警報停止スイッチ(16)を備えている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのブリーザ装置に関し、詳しくは、寒冷始動時でも、安全弁が氷結し難い、エンジンのブリーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クランクケース内と連通するブリーザ室と、クランクケースの内圧の上昇に基づいて開弁し、クランクケースの内圧を抜く安全弁を備えた、エンジンのブリーザ装置がある(例えば、特許文献1参照)。
この種のブリーザ装置では、寒冷始動時に、クランクケース内からブリーザ室内に流入したブローバイガス中の水分がブリーザ室内や、ブリーザ室の出口側で氷結し、クランクケースの内圧が上昇すると、安全弁が開弁し、クランクケースの内圧を抜き、クランクケースのオイルシールからエンジンオイルが噴出するのを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭62-24003号公報(第1図参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
《問題点》 寒冷始動時には、安全弁も氷結するおそれがある。
特許文献1のエンジンでは、安全弁がシリンダヘッドカバーのオイルフィラキャップに配置され、寒冷始動時には、ブローバイガス中の水分で安全弁も氷結するおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、 寒冷始動時でも、安全弁が氷結し難い、エンジンのブリーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の主要な構成は、次の通りである。
図1に例示するように、クランクケース(1)内と連通するブリーザ室(2)と、クランクケース(1)の内圧の上昇に基づいて開弁し、クランクケース(1)の内圧を抜く安全弁(3)を備えた、エンジンのブリーザ装置において、
図3(B)または
図5(B)に例示するように、エンジンの幅方向を横方向として、安全弁(3)は、圧抜き通路壁(5)で囲まれた圧抜き通路(5a)内に配置され、圧抜き通路壁(5)は、エンジンの排気側の横側壁(4)と対向する壁部分(5b)を備えている、ことを特徴とするエンジンのブリーザ装置。
【発明の効果】
【0007】
本願発明は、次の効果を奏する。
《効果》 寒冷始動時でも、安全弁が氷結し難い。
図3(B)または
図5(B)に例示するように、このブリーザ装置では、エンジンの排気側の横側壁(4)からの輻射熱が対向する壁部分(5b)を温め、この熱で安全弁(3)が温められるため、寒冷始動時でも、安全弁(3)が氷結し難い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジンの模式図である。
【
図2】
図1のエンジンの伝動ケース内とその周辺部の模式図である。
【
図3】圧抜き通路壁の基本例を説明する図で、
図3(A)は圧抜き通路壁とその周辺部分を後側から見た拡大図、
図3(B)は
図3(A)のB-B線断面図である。
【
図5】圧抜き通路壁の変形例を説明する図で、
図5(A)は圧抜き通路壁とその周辺部分を後側から見た拡大図、
図5(B)は
図5(A)のB-B線断面図である。
【
図7】
図1のエンジンの警報装置の制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1から
図11は本発明の実施形態に係るエンジンのブリーザ装置を説明する図で、この実施形態では、立形の直列多気筒ディーゼルエンジンについて説明する。
【0010】
図8に示すように、このエンジンは、シリンダブロック(6)と、シリンダヘッド(18)と、シリンダヘッドカバー(19)と、フロントケース(20)と、フライホイール(21)と、オイルパン(22)を備えている。
シリンダブロック(6)は、下部のクランクケース(1)と、上部のシリンダ部(7)から成り、シリンダ部(7)の上部にシリンダヘッド(18)が組み付けられ、シリンダヘッド(18)の上部にシリンダヘッドカバー(19)が組み付けられ、
図1に示すクランク軸(1a)の架設方向を前後方向として、
図8に示すシリンダブロック(6)の前部にフロントケース(20)が組み付けられ、シリンダブロック(6)の後部にフライホイール(21)が配置され、クランクケース(1)の下部にオイルパン(22)が組み付けられている。
【0011】
図9に示すように、このエンジンの吸気装置は、エンジンの幅方向を横方向として、エンジン横一側である排気側に配置された過給機(23)のエアコンプレッサ(23a)と、エアコンプレッサ(23a)の出口に接続された過給パイプ(24)と、エンジン横他側である吸気側に配置された吸気マニホルド(25)を備えている。吸気マニホルド(25)の吸気入口にはEGRクーラ(26)が接続されている。エアコンプレッサ(23a)の吸気入口パイプ(23b)にはシリンダヘッドカバー(19)に設けられたブリーザ室(2)のブローバイガス出口通路(2a)と接続されたブローバイガス導出チューブ(2b)が接続されている。
【0012】
図9に示すように、このエンジンの燃料供給装置は、吸気側に配置された燃料サプライポンプ(17)と、燃料サプライポンプ(17)に接続されたコモンレール(27)と、コモンレール(27)に接続された各気筒の燃料インジェクタ(28)を備えでいる。燃料サプライポンプ(17)と燃料インジェクタ(28)は、
図1に示す電子制御装置(29)に電気的に接続され、コモンレール(27)に蓄圧された燃料が、所定量、所定タイミングで燃料インジェクタ(28)から噴射される。電子制御装置(29)は、エンジンECUである。ECUは電子制御ユニットの略称である。
【0013】
図8に示すように、このエンジンの排気装置は、排気側に配置された排気マニホルド(30)と、排気マニホルド(30)の上部の排気出口に接続された過給機(23)の排気タービン(23c)と、排気タービン(23c)の排気出口に接続された排気管(31)と、排気管(31)に接続された排気処理ケース(32)を備えている。排気処理ケース(32)内には、排気上流側にDOC(図示せず)が収容され、排気下流側にDPF(図示せず)が収容されている。
DOCは、ディーゼル酸化触媒の略称であり、DPFはディーゼルパティキュレートフィルタの略称である。
なお、
図1中の符号(30b)は排気ガスである。
【0014】
図10に示すように、このエンジンのエンジン潤滑装置は、オイルパン(22)と、フロントケース(20)内に設けられたオイルポンプ(33)と、フロントケース(20)に取り付けられたオイルフィルタ(34)と、シリンダブロック(6)に設けられたオイルギャラリ(図示せず)を備え、
図1に示すオイルパン(22)のエンジンオイル(22a)が
図10に示すオイルポンプ(33)の圧送力でオイルフィルタ(34)を経てオイルギャラリからクランク軸(1a)の軸受部(図示せず)や動弁装置の軸受部(図示せず)に供給され、これらからリークしたエンジンオイル(22a)がオイルミストとなって、
図1に示すブローバイガス(35)に混入する。
【0015】
図1に示すように、このエンジンのエンジン始動装置は、スタータ(36)と、スタータ(36)のピニオンギヤ(図示せず)と噛み合うリングギヤ(37)と、キースイッチ(38)を備え、スタータ(36)は電子制御装置(29)を介してバッテリ(39)に接続され、キースイッチ(38)をスタート位置(38a)に投入するとバッテリ(39)から燃料インジェクタ(28)とスタータ(36)とに通電がなされ、燃料噴射とクランキングによりエンジンが始動され、エンジン回転速度が所定の完爆回転速度に達すると、スタータ(36)のピニオンギヤがリングギヤ(37)から外れる。エンジンが始動すると、シリンダ(7b)とピストン(40)の隙間からブローバイガス(35)がクランクケース(1)内に漏れ出し、クランクケース(1)の内圧を上昇させる。
【0016】
図8に示すように、このエンジンのエンジン冷却装置は、水ポンプ(41)と、水冷ジャケット(図示せず)と、ラジエータ(42)を備え、水ポンプ(41)で圧送されたエンジン冷却水(41a)が水冷ジャケットとラジエータ(42)を順に介して水ポンプ(41)に循環復帰する。
図10に示すように、水ポンプ(41)は、フロントケース(20)の上部に取り付けられ、水冷ジャケットはシリンダジャケットとヘッドジャケットを備え、シリンダジャケットは
図1に示すシリンダ部(7)内でシリンダ(7b)の周囲に形成され、ヘッドジャケットはシリンダヘッド(18)内に形成されている。
【0017】
図1に示すように、ラジエータ(42)は、シリンダヘッドカバー(19)の上方に配置されている。ラジエータ(42)とシリンダヘッドカバー(19)の間にファン(9)が配置され、ファン(9)の回転で発生する送風(9c)がラジエータ(42)を通過し、上方からエンジンに吹き当たるように構成されている。ファン(9)は、ファンモータ(9b)で駆動される。ファンモータ(9b)は、電子制御装置(29)を介してバッテリ(39)に接続され、キースイッチ(38)をスタート位置(38a)やオン位置(38b)に投入すると、バッテリからファンモータ(9b)に通電がなされ、ファン(9)が駆動され、キースイッチ(38)をオフ位置(38c)に投入すると、ファン(9)の回転は停止される。
【0018】
図1に示すように、このエンジンのブリーザ装置は、クランクケース(1)内と連通するブリーザ室(2)と、クランクケース(1)の内圧の上昇に基づいて開弁し、クランクケース(1)の内圧を抜く安全弁(3)を備えている。
このブリーザ装置では、寒冷始動時に、クランクケース(1)内からブリーザ室(2)内に流入したブローバイガス中の水分がブリーザ室(2)内や、ブリーザ室(2)の出口側で氷結し、クランクケース(1)の内圧が上昇すると、安全弁(3)が開弁し、クランクケース(1)の内圧を抜き、クランクケース(1)のオイルシールからエンジンオイルが噴出するのを防止する。
【0019】
図1に示すように、クランクケース(1)内は、ブローバイガス導入通路(43)を介して、ブリーザ室(2)と連通している。ブローバイガス導入通路(43)には、吸排気弁の動弁装置のプッシュロッド(図示せず)を収容するプッシュロッド室(44)が用いられている。ブリーザ室(2)は、シリンダヘッドカバー(19)内のラビリンス通路(2c)と、ブリーザ弁室(2d)を備えている。ラビリンス通路(2c)内では、ブローバイガス(35)が蛇行しながらラビリンス通路(2c)の通路壁に衝突し、ブローバイガス(35)中のオイルミストが凝集し、分離される。ブリーザ弁室(2d)は、弁バネ(2e)で閉弁方向に付勢されたダイヤフラム形のブリーザ弁(2f)を備え、ブローバイガス(35)がブリーザ弁(2f)を押し上げて弁口(2g)から流入する時の流動抵抗によりブローバイガス(35)中のオイルミストが凝集し、分離される。
【0020】
図1に示すように、ブリーザ装置のブローバイガス出口通路(2a)は、ブローバイガス導出チューブ(2b)を介してエアコンプレッサ(23a)の吸気入口パイプ(23b)に接続され、ブリーザ装置でオイル分離されたブローバイガス(35)がエアクリーナ(図外)からの吸気(23d)と共にエアコンプレッサ(23a)に吸入される。
エンジンの寒冷始動時には、ブリーザ装置のブローバイガス出口通路(2a)やブローバイガス導出チューブ(2b)内で、ブローバイガス(35)中の水分が氷結しやすい。
【0021】
図3(B)または
図5(B)に示すように、エンジンの幅方向を横方向として、安全弁(3)は、圧抜き通路壁(5)で囲まれた圧抜き通路(5a)内に配置され、圧抜き通路壁(5)は、エンジンの排気側の横側壁(4)と対向する壁部分(5b)を備えている。
このブリーザ装置では、シリンダブロック(6)の排気側の横側壁(4)からの輻射熱が対向する壁部分(5b)を温め、この熱で安全弁(3)が温められるため、寒冷始動時でも、安全弁(3)が氷結し難い。
シリンダブロック(6)の横側壁(4)と圧抜き通路壁(5)は、金属壁で構成されている。圧抜き通路壁(5)の出口は大気中に臨んでいる。
【0022】
図3(B)または
図5(B)に示すように、エンジンの排気側の横側壁(4)と対向する壁部分(5b)は、シリンダブロック(6)のシリンダ部(7)の横側壁(7a)と対向する壁部分(5ba)である。
このブリーザ装置では、エンジン始動中でも温度が速やかに上昇するシリンダブロック(6)のシリンダ部(7)の横側壁(7a)からの輻射熱が対向する壁部分(5ba)を温めるため、寒冷始動時に安全弁(3)が氷結し難い。
【0023】
図1,
図8または
図10に示すように、エンジンの排気側に設けられた排気経路壁(8)を備え、圧抜き通路壁(5)は、排気経路壁(8)の周面(8a)と対向する壁部分(5c)を備えている。
このブリーザ装置では、エンジン始動中でも温度が速やかに上昇する排気経路壁(8)の周面(8a)からの輻射熱が壁部分(5c)を温めるため、寒冷始動時に安全弁(3)が氷結し難い。
壁部分(5c)が対向する排気経路壁(8)の周面(8a)は、排気マニホルド(30)の下周面(30a)である。
排気マニホルド(30)の金属壁で構成されている。
【0024】
図1に示すように、ファン(9)を備え、ファン(9)の送風路(9a)の送風方向上流側に排気経路壁(8)が配置され、送風方向下流側に送風(9c)が吹き当たる圧抜き通路壁(5)の壁部分(5d)が配置されている。
このブリーザ装置では、エンジン始動中でも排気経路壁(8)の熱を吸収した送風(9c)で壁部分(5d)が温められるため、寒冷始動時に安全弁(3)が氷結し難い。
【0025】
図1に示すように、クランク軸(1a)の架設方向を前後方向として、シリンダブロック(6)の後端にクランクケース(1)内と連通する伝動ケース(10)を備え、伝動ケース(10)からシリンダブロック(6)の横側壁(6a)と対向する圧抜き通路壁(5)が導出されている。
図1に示すように、このブリーザ装置では、エンジン始動中でも温度が速やかに上昇するシリンダブロック(6)からの熱が伝動ケース(10)を介して安全弁(3)に伝達され、安全弁(3)が温められるため、寒冷始動時に安全弁(3)が氷結し難い。
シリンダブロック(6)の前端に配置された伝動ケース(10)からシリンダブロック(6)の横側壁(6a)と対向する圧抜き通路壁(5)が導出されていてもよい。
【0026】
図2に示すように、伝動ケース(10)には調時伝動ギヤトレイン(45)が収容されている。調時伝動ギヤトレイン(45)は、クランク軸(1a)に取り付けられたクランクギヤ(45a)と、クランクギヤ(45a)に噛み合う動弁カムギヤ(45b)と、動弁カムギヤ(45b)と同心の動力伝達ギヤ(45c)と、動力伝達ギヤ(45c)に噛み合うアイドルギヤ(45d)と、アイドルギヤ(45d)に噛み合うサプライポンプギヤ(45e)を備えている。
【0027】
図1,
図8または
図10に示すように、このエンジンは、エンジンの排気側に設けられた排気経路壁(8)を備え、伝動ケース(10)の周壁は、排気経路壁(8)の周面(8a)と対向する位置に配置されている。
図1に示すように、このエンジンでは、エンジン始動中でも温度が速やかに上昇する排気経路壁(8)の周面(8a)からの輻射熱で伝動ケース(10)が温められ、その熱が圧抜き通路壁(5)に伝達されるため、寒冷始動時に安全弁(3)が氷結し難い。
伝動ケース(10)が対向する排気経路壁(8)の周面(8a)は、排気管(31)の下周面(31a)である。
排気管(31)の周壁や伝動ケース(10)の周壁は金属壁で構成されている。
【0028】
図1または
図2に示すように、シリンダブロック(6)の前後端の一方に、バランサ軸挿通孔(11)(11)と、伝動ケース(10)のエンジンオイル戻し孔(12)を備え、バランサ軸挿通孔(11)(11)がバランサ軸で閉塞されている場合には、エンジンオイル戻し孔(12)を介してクランクケース(1)内と伝動ケース(10)内が連通し、バランサ軸挿通孔(11)(11)がバランサ軸で閉塞されていない場合には、バランサ軸挿通孔(11)(11)とエンジンオイル戻し孔(12)を介してクランクケース(1)内と伝動ケース(10)内が連通するように構成されている。
図1または
図2に示すように、このエンジンでは、既存のバランサ軸挿通孔(11)(11)やエンジンオイル戻し孔(12)をクランクケース(1)内と伝動ケース(10)内の連通孔とするため、連通孔を新たに形成する必要がない。
【0029】
図2に示すように、バランサ軸は、オプションであり、静粛性が要請される機種には、バランサ軸挿通孔(11)(11)に挿通して取り付けられ、静粛性が要請されない機種には、取り付けられない。このため、バランサ軸の取り付けにより、バランサ軸挿通孔(11)(11)がバランサ軸で閉塞されている場合と、バランサ軸が取り付けられず、バランサ軸挿通孔(11)(11)が閉塞されない場合とがある。
図1に示すように、伝動ケース(10)内に溜まるエンジンオイル(22a)は、エンジンオイル戻し孔(12)からクランクケース(1)を介してオイルパン(22)に戻される。
【0030】
図1に示すように、クランクケース(1)の内圧を検出する圧力センサ(13)と、警報装置(14)と、圧力センサ(13)で検出されたクランクケース(1)の内圧の検出圧力(P)が安全弁(3)の開弁圧以下の所定の警報閾値(P0)に至った場合には、警報装置(14)で警報を発生させる警報駆動装置(15)を備えている。
図1に示すように、このエンジンでは、安全弁(3)が開弁する前にクランクケース(1)の内圧の異常上昇が警報により運転者に報知されるため、運転者によるアクセルの減速操作、負荷低減操作等の対応により、ブローバイガス(35)の発生を抑制し、不要な安全弁(3)の開弁を阻止することができる。
【0031】
図1に示すように、このエンジンは、警報装置(14)の警報を停止させる手動の警報停止スイッチ(16)を備えている。
図1に示すように、このエンジンでは、警報確認後は、運転者による警報停止スイッチ(16)の手動操作により不要な警報の継続を停止させることができる。
【0032】
電子制御装置(29)による警報装置(14)の制御を説明する。
図7に示すように、ステップ(S1)で
図1の圧力センサ(13)による検出圧力(P)が警報閾値(P0)に至ったか否かが判定され、判定が否定された場合には、ステップ(S1)の判定が繰り返され、判定が肯定された場合には、ステップ(S2)に進む。
ステップ(S2)では、警報が発せられ、ステップ(S3)に進む。
ステップ(S3)では、警報の停止操作が有ったか否かが判定され、判定が否定された場合には、ステップ(S2)に戻り、警報が継続され、ステップ(S3)での判定が肯定された場合には、ステップ(S4)に進む。
ステップ(S4)では警報が停止され、ステップ(S5)に進む。
ステップ(S5)では警報停止のリセットがなされたか否かが判定され、判定が否定された場合には、ステップ(S4)に戻り、判定が肯定された場合には、ステップ(S1)に戻る。
【0033】
図1に示すように、警報駆動装置(15)には電子制御装置(29)が用いられている。
警報停止スイッチ(16)はb接点スイッチで、通常は接点が閉じており、接点が閉じた状態でスイッチを入れると、接点が開き、接点が開いた状態でスイッチを入れると、接点が閉じる。
【0034】
警報停止スイッチ(16)の接点が閉じている場合、検出圧力(P)が警報閾値(P0)未満では、電子制御装置(29)の制御により、バッテリ(39)から警報装置(14)への通電はなされず、警報装置(14)による警報は発動されないが、検出圧力(P)が警報閾値(P0)に至ると、電子制御装置(29)の制御により、バッテリ(39)から警報装置(14)への通電がなされ、
図3図7のステップ(S2)のように警報装置(14)による警報が発動される。
次に、接点が閉じた状態で警報停止スイッチ(16)を入れると、これが警報の停止操作となり、警報停止スイッチ(16)の接点が開き、バッテリ(39)から警報装置(14)への通電が停止され、
図3のステップ(S4)のように、に警報装置(14)による警報が停止される。
次に、接点が開いた状態で警報停止スイッチ(16)を入れると、警報停止のリセットがなされ、警報停止スイッチ(16)の接点が閉じられると共に、電子制御装置(29)の制御は
図3のステップ(S1)に戻る。
【0035】
次に、圧抜き通路壁(5)の具体的構造について説明する。
図3,4は、圧抜き通路壁(5)の基本例を示している。
図3,4の基本例では、圧抜き通路壁(5)は、伝動ケース(10)から導出された圧力導入ケース(5g)の壁と、圧力導入ケース(5g)の導出端(前端)から導出された弁ホルダ(5k)の壁で構成され、圧力導入ケース(5g)の壁で囲まれた通路と、弁ホルダ(5k)の壁で囲まれた通路で圧抜き通路(5a)が構成されている。
【0036】
図4に示すように、圧力導入ケース(5g)は、導出方向(前方向)に向けて狭窄する狭窄筒壁(5ga)と、導出端(前端)の端壁(5gb)を備え、
図3(B)に示すように、端壁(5gb)は、シリンダ部(7)の横側壁(7a)から離れる側に向け、横方向に対して45°傾けられ、この端壁(5gb)のホルダ取付孔(5h)に弁ホルダ(5k)が差し込まれている。
弁ホルダ(5k)は、筒状で、横方向に対して45°で傾けられ、内部に安全弁(3)が配置されている。
安全弁(3)は、弁入口(3a)と、弁入口(3a)に圧接される弁体(3b)と、弁体(3b)を弁入口(3a)に押圧する弁バネ(3c)を備えた逆止弁である。
図4に示すように、圧力センサ(13)は、圧力導入ケース(5g)内に上側から差し込まれている。
【0037】
図3,4の基本例では、横方向は、前後方向及び上下方向と直交する方向とされ、
図4に示すように、横方向から見て、伝動ケース(10)から導出された圧抜き通路壁(5)内に形成される圧抜き通路(5a)の通路入口(5ab)の最下端開口縁(5ac)の隅角部(5ad)と接する仮想傾斜線(5ae)を想定し、この仮想傾斜線(5ae)は圧抜き通路壁(5)の導出方向に向かって上り傾斜し、クランク軸(1a)の中心軸線(1b)を水平に向けた場合の仮想傾斜線(5ae)の仰角(α)が30°とされ、この仮想傾斜線(5ae)よりも高い位置に、安全弁(3)の弁入口(3a)が配置されている。
【0038】
このため、エンジンが圧抜き通路壁(5)の導出方向に30°未満で下り傾斜した場合、圧抜き通路(5a)内にエンジンオイルが溜まっていたとしても、エンジンオイルの油面が安全弁(3)の弁入口(3a)に到達することがなく、弁入口(3a)からエンジンオイルが進入するのを防止でき、傾斜性能が高い。なお、図中の符号(5af)は仰角(α)の起点となる仮想水平線である。
【0039】
仮想傾斜線(5ae)の仰角(α)は、20°から35°であればよい。
その理由は、次の通りである。
仰角(α)が20°未満では、仰角(α)の値が小さ過ぎ、エンジンが比較的小さい20°未満の伏角で下り傾斜した場合に、弁入口(3a)からエンジンオイルが流れ込むおそれがあり、十分な傾斜性能が得られない場合がある。
なお、仰角(α)が35°を超えるものは、一見、エンジンが30°を超える伏角で下り傾斜した場合に高い傾斜性能が得られそうであるが、このように大きな伏角で下り傾斜した場合には、
図1に示すクランク軸(1a)でオイルパン(22)内のエンジンオイル(22a)が跳ね上げられ、クランクケース(1)内のオイルミストが過剰になり、圧抜き通路(5a)内にエンジンオイル(22a)が進入し、傾斜性能が悪化することになる。このため、仰角(α)を35°超えにしても、傾斜性能が高まることは期待できない。
このため、仰角(α)は20°から35°とされている。
【0040】
図4に示すように、圧抜き通路壁(5)は、最下端開口縁(5ac)の隅角部(5ad)から導出された通路底壁(5e)を備え、横方向(前後方向及び上下方向と直交する方向)から見て、この通路底壁(5e)の内底面(5f)は仮想傾斜線(5ae)に沿って傾斜している。
このため、圧抜き通路(5a)内で凝集したオイルミストは、通路底壁(5e)の内底面(5f)の傾斜に沿って伝動ケース(10)内に流れ落ち、通路底壁(5e)の内底面(5f)にエンジンオイルが溜まるのを防止することができる。
【0041】
図5,6は、圧抜き通路壁(5)の変形例を示している。
図5,6の変形例は、次の点が
図3,4の基本例と異なる。
圧抜き通路壁(5)は、導出方向(前方向)に向かう同一径の筒壁(5m)と、導出端(前端)で横方向に沿う端壁(5n)と、この端壁(5n)から導出されてシリンダブロック(6)の横側壁(6a)から離れる側に向けられた45°のエルボ管(5p)の壁と、エルボ管(5p)に内嵌された弁ホルダ(5k)の壁で構成され、圧力導入ケース(5g)の壁で囲まれた通路と、エルボ管(5p)の壁で囲まれた通路と、弁ホルダ(5k)の壁で囲まれた通路で圧抜き通路(5a)が構成されている。
仮想傾斜線(5ae)の仰角(α)は20°とされている。
横側から見て、通路底壁(5e)の内底面(5f)は仮想傾斜線(5ae)よりも低い位置で水平な向きに形成されている。
【0042】
図5,6の変形例の他の構造は、
図3,4の基本例と同じである。
すなわち、弁ホルダ(5k)や安全弁(3)の構造、仮想傾斜線(5ae)の仰角(α)が20°から35°であればよい点等は、
図3,4の基本例と同じである。
図5,6中、
図3,4と同一の要素には、同一の符号を付しておく。
【符号の説明】
【0043】
(1)…クランクケース、(1a)…クランク軸、(1b)…中心軸線、(2)…ブリーザ室、(3)…安全弁、(5a)…圧抜き通路、(5ab)…通路入口、(5ac)…最下端開口縁、(5ad)…隅角部、(5ae)…仮想傾斜線、(5b)…壁部分、(5ba)…壁部分、(5c)…壁部分、(5d)…壁部分、(5e)…通路底壁、(5f)…内底面、(4)…排気側の横側壁、(5)…圧抜き通路壁、(6)…シリンダブロック、(6a)…横側壁、(7)…シリンダ部、(7a)…横側壁、(8)…排気経路壁、(8a)…周面、(9)…ファン、(10)…伝動ケース、(11)…バランサ軸挿通孔、(12)…エンジンオイル戻し孔、(13)…圧力センサ、(14)…警報装置、(15)…警報駆動装置、(16)…警報停止スイッチ、(P)…検出圧力、(P0)…警報閾値。