(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子の製造方法、ガスセンサ素子及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20240704BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20240704BHJP
G01N 27/41 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/419 327K
G01N27/41 325K
(21)【出願番号】P 2021524709
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017798
(87)【国際公開番号】W WO2020246174
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2019106265
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和真
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-192518(JP,A)
【文献】特開2017-078679(JP,A)
【文献】特開2017-083289(JP,A)
【文献】特開2008-286569(JP,A)
【文献】特開平04-166757(JP,A)
【文献】特開平11-316211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/409
G01N 27/419
G01N 27/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質体と、前記固体電解質体の表面に形成される電極とを有するガスセンサ素子の製造方法であって、
単斜晶系ジルコニアと、正方晶・立方晶系ジルコニアとを含む第1スラリーを、前記固体電解質体の表面に付与して、第1スラリー層を形成するスラリー付与工程と、
前記第1スラリー層が形成された前記固体電解質体を熱処理することで、素地層を形成する熱処理工程と、
前記素地層に、貴金属を含むメッキ液を用いてメッキ処理を施して、前記電極を形成するメッキ処理工程とを備えるガスセンサ素子の製造方法。
【請求項2】
固体電解質体と、前記固体電解質体の表面に形成される電極とを有するガスセンサ素子の製造方法であって、
単斜晶系ジルコニアと、正方晶・立方晶系ジルコニアと、貴金属とを含む第2スラリーを、前記固体電解質体の表面に付与して、第2スラリー層を形成するスラリー付与工程と、
前記第2スラリー層が形成された前記固体電解質体を熱処理することで、前記電極を形成する熱処理工程とを備え
、
前記第2スラリーにおける前記単斜晶系ジルコニアの含有割合は、前記単斜晶系ジルコニア及び前記正方晶・立方晶系ジルコニアの合計100質量%に対して、40質量%以上70質量%以下であるガスセンサ素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1スラリ
ーにおける前記単斜晶系ジルコニアの含有割合は、前記単斜晶系ジルコニア及び前記正方晶・立方晶系ジルコニアの合計100質量%に対して、40質量%以上90質量%以下である請求項1に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1スラリ
ーにおける前記単斜晶系ジルコニアの含有割合は、前記単斜晶系ジルコニア及び前記正方晶・立方晶系ジルコニアの合計100質量%に対して、40質量%以上70質量%以下である請求項1に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【請求項5】
固体電解質体と、前記固体電解質体の表面に形成される電極とを有するガスセンサ素子であって、
前記電極は、単斜晶系ジルコニアと、正方晶・立方晶系ジルコニアと、貴金属とを有し、かつ
前記電極は、単一の層からなり、
前記電極における前記貴金属の含有割合(質量%)は、85質量%以下であるガスセンサ素子。
【請求項6】
請求項5に記載のガスセンサ素子と、
前記ガスセンサ素子を保持する主体金具とを備えるガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子の製造方法、ガスセンサ素子及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサ素子を備えたガスセンサが知られている(例えば、特許文献1参照)。この種のガスセンサは、例えば、自動車やボイラーに搭載される各種の排気系統から排出される排気ガスにおける、特定ガス(例えば、酸素、NOx等)のガス濃度を検出する。このようなガスセンサは、例えば、常温(例えば、25℃)から900℃以上の温度環境下で使用される。
【0003】
ガスセンサ素子は、固体電解質体と、固体電解質体を挟むようにその両面に設けられた一対の電極とを含む。一対の電極のうちの一方は、排気ガスに晒される検知電極からなり、他方は、基準ガスに晒される基準電極からなる。なお、ガスセンサ素子の外表面には、通常、排気ガス中の被毒物質や排気凝縮水等からガスセンサ素子を保護するための多孔質保護層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
(発明が解決しようとする課題)
ガスセンサの使用時に、高温状態のガスセンサ素子が、排気ガス中に含まれる凝縮水等の水分と接触すると、ガスセンサ素子が急激に収縮等して検知電極及び固体電解質体にクラックが発生する虞があった。検知電極及び固体電解質体にクラックが発生すると、検知電極と基準電極との間で、所望の起電力が発生しなくなり、ガスセンサ素子が故障する。
【0006】
従来のガスセンサ素子における検知電極は、上記のように、通常、多孔質保護層で保護されており、ある程度の量の水分に対する耐久性(耐被水性)は備えている。しかしながら、ガスセンサの使用時に、ガスセンサ素子の検知電極が、多孔質保護層の許容量を超えた水分と接触する場合も想定される。そのため、そのような場合でも、検知電極等が破損しない耐被水性に優れたガスセンサ素子が求められている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、耐被水性に優れたガスセンサ素子の製造方法、耐被水性に優れたガスセンサ素子及びガスセンサを提供することである。
【0008】
(課題を解決するための手段)
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、固体電解質体と、前記固体電解質体の表面に形成される電極とを有するガスセンサ素子において、前記電極が、単斜晶系ジルコニアと、正方晶・立方晶系ジルコニアと、貴金属とを有し、かつ前記電極が、単一の層からなると、そのような前記電極が、耐被水性に優れることを見出し、本願発明の完成に至った。
【0009】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 固体電解質体と、前記固体電解質体の表面に形成される電極とを有するガスセンサ素子の製造方法であって、単斜晶系ジルコニアと、正方晶・立方晶系ジルコニアとを含む第1スラリーを、前記固体電解質体の表面に付与して、第1スラリー層を形成するスラリー付与工程と、前記第1スラリー層が形成された前記固体電解質体を熱処理することで、素地層を形成する熱処理工程と、前記素地層に、貴金属を含むメッキ液を用いてメッキ処理を施して、前記電極を形成するメッキ処理工程とを備えるガスセンサ素子の製造方法。
【0010】
<2> 固体電解質体と、前記固体電解質体の表面に形成される電極とを有するガスセンサ素子の製造方法であって、単斜晶系ジルコニアと、正方晶・立方晶系ジルコニアと、貴金属とを含む第2スラリーを、前記固体電解質体の表面に付与して、第2スラリー層を形成するスラリー付与工程と、前記第2スラリー層が形成された前記固体電解質体を熱処理することで、前記電極を形成する熱処理工程とを備えるガスセンサ素子の製造方法。
【0011】
<3> 前記第1スラリー又は前記第2スラリーにおける前記単斜晶系ジルコニアの含有割合は、前記単斜晶系ジルコニア及び前記正方晶・立方晶系ジルコニアの合計100質量%に対して、40質量%以上90質量%以下である前記<1>又は<2>に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【0012】
<4> 前記第1スラリー又は前記第2スラリーにおける前記単斜晶系ジルコニアの含有割合は、前記単斜晶系ジルコニア及び前記正方晶・立方晶系ジルコニアの合計100質量%に対して、40質量%以上70質量%以下である前記<1>又は<2>に記載のガスセンサ素子の製造方法。
【0013】
<5> 固体電解質体と、前記固体電解質体の表面に形成される電極とを有するガスセンサ素子であって、前記電極は、単斜晶系ジルコニアと、正方晶・立方晶系ジルコニアと、貴金属とを有し、かつ前記電極は、単一の層からなるガスセンサ素子。
【0014】
<6> 前記<5>に記載のガスセンサ素子と、前記ガスセンサ素子を保持する主体金具とを備えるガスセンサ。
【0015】
(発明の効果)
本発明によれば、耐被水性に優れたガスセンサ素子の製造方法、耐被水性に優れたガスセンサ素子及びガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図5】実施形態1に係るガスセンサ素子の製造工程を示すフローチャート
【
図6】実施形態1に係るガスセンサ素子の製造工程の内容を模式的に表した説明図
【
図7】実施形態2に係るガスセンサ素子の製造工程を示すフローチャート
【
図8】実施形態2に係るガスセンサ素子の製造工程の内容を模式的に表した説明図
【
図9】実施形態3に係るガスセンサ素子の長手方向に沿った断面図
【
図10】実施形態3に係るガスセンサ素子の幅方向に沿った断面図
【
図11】被水試験において、ガスセンサ素子の検出電極に水滴を滴下する工程を模式的に表した説明図
【
図12】被水試験において、絶縁計を用いてガスセンサ素子の割れを確認する工程を模式的に表した説明図
【
図13】各実施例及び各比較例のセンサのリッチ応答時間の結果を示すグラフ
【
図14】各実施例及び各比較例のセンサのリーン応答時間の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態1>
以下、本発明の実施形態1を、
図1~
図6を参照しつつ説明する。
図1は、実施形態1に係るセンサの構成を示す断面図である。センサ(ガスセンサの一例)10は、図示されない内燃機関(エンジン)の排気管に固定されて、被測定ガスとしての排気ガス中に含まれる特定ガスの濃度を測定する。特定ガスとしては、例えば、酸素、NO
x等が挙げられる。本実施形態のセンサ10は、酸素ガス濃度を測定する。
【0018】
図1では、軸線CA方向におけるセンサ10の断面が示されている。軸線CAは、センサ10の中心において、センサ10の長手方向に延びる軸線である。以降では、
図1の紙面に対して下側を「先端側」と称し、
図1の紙面に対して上側を「後端側」と称する。
【0019】
センサ10は、主として、ガスセンサ素子100と、主体金具200と、プロテクタ300と、セラミックヒータ150と、外筒410と、セパレータ600と、グロメット800とを備える。
【0020】
ガスセンサ素子100は、排気ガス中の酸素濃度を検出するための信号を出力する。ガスセンサ素子100は、先端側に排気ガスに向けられる検出部140を備えると共に、後端側に接続端子510が挿入されるための筒孔112が形成されている。検出部140は、主として、固体電解質体110と、固体電解質体110の内表面に形成された基準電極120と、固体電解質体110の外表面に形成された検知電極130とを備えている。これら各構成については後述する。ガスセンサ素子100は、検出部140が主体金具200の先端より突出し、かつ、筒孔112が主体金具200の後端より突出した状態で、主体金具200の内部に固定される。また、ガスセンサ素子100の略中央には、鍔部170が設けられている。
【0021】
主体金具200は、主としてガスセンサ素子100を保持すると共に、排気管にセンサ10を取り付けるために使用される。主体金具200は、ガスセンサ素子100の周囲を取り囲む筒状の金属部材である。本実施形態の主体金具200は、SUS430で形成されている。
【0022】
主体金具200の外周には、先端側から順に、先端部240と、ネジ部210と、鍔部220と、後端部230と、加締部252とが形成されている。先端部240は、主体金具200の先端側において、主体金具200の外径が縮径するように形成された部位である。主体金具200の先端部240がプロテクタ300の内部に挿入された状態で、主体金具200とプロテクタ300とが接合される。ネジ部210は、排気管にセンサ10を螺合して取り付けるために形成された雄ネジである。鍔部220は、主体金具200の外形が、径方向の外側に向かって多角形状に突出するように形成された部位である。鍔部220は、排気管にセンサ10を取り付けるための工具に係合させるために使用される。このため、鍔部220は、工具に係合する形状(例えば、六角ボルト状)とされる。後端部230は、主体金具200の後端側において、主体金具200の外径が縮径するように形成された部位である。主体金具200の後端部230が外筒410の内部に挿入された状態で、主体金具200と外筒410とが接合される。
【0023】
主体金具200の内周には、筒孔250と、段部260とが形成されている。筒孔250は、軸線CAに沿って主体金具200を貫通する貫通孔である。筒孔250は、軸線CAに沿ってガスセンサ素子100を保持する。段部260は、主体金具200の先端側において、主体金具200の内径が縮径するように形成された部位である。主体金具200の段部260には、パッキン159を介してセラミックホルダ161が係合される。更に、セラミックホルダ161には、パッキン160を介してガスセンサ素子100の鍔部170が係合される。また、主体金具200の筒孔250において、セラミックホルダ161の後端側には、シール部162と、セラミックスリーブ163と、金属リング164とが配置される。シール部162は、滑石粉末を充填することにより形成されたタルク層である。シール部162は、ガスセンサ素子100と主体金具200との間の隙間における軸線CA方向の先端側と後端側との通気を遮断する。セラミックスリーブ163は、ガスセンサ素子100の外周を囲む筒状の絶縁部材である。金属リング164は、ガスセンサ素子100の外周を囲むステンレス製の平ワッシャである。
【0024】
主体金具200には、更に、後端側の開口端を径方向内側(筒孔250側)に屈曲させることにより、加締部252が形成される。加締部252により、金属リング164とセラミックスリーブ163とを介してシール部162が押圧され、ガスセンサ素子100が主体金具200内に固定される。
【0025】
プロテクタ300は、ガスセンサ素子100を保護する。プロテクタ300は、有底円筒状の金属部材である。プロテクタ300は、主体金具200の先端側から突出したガスセンサ素子100の周囲を取り囲むようにして、先端部240にレーザ溶接により固定される。プロテクタ300は、内側プロテクタ310と、外側プロテクタ320との二重プロタクタからなる。内側プロテクタ310及び外側プロテクタ320には、それぞれ、ガス導入孔311,312と、ガス排出孔313とが形成されている。ガス導入孔311、312は、プロテクタ300の内側(ガスセンサ素子100)に対して排気ガスを導入するために形成された貫通孔である。ガス排出孔313は、プロテクタ300の内側から外側に向かって、排気ガスを排出するために形成された貫通孔である。
【0026】
セラミックヒータ150は、ガスセンサ素子100を所定の活性温度に昇温し、検出部140における酸素イオンの導電性を高め、ガスセンサ素子100の動作を安定させる。セラミックヒータ150は、ガスセンサ素子100の筒孔112の内部に設けられている。セラミックヒータ150は、発熱部151と、ヒータ接続端子152とを備えている。発熱部151は、タングステン等の伝導体によって形成された発熱抵抗体であり、電力の供給を受けて発熱する。ヒータ接続端子152は、セラミックヒータ150の後端側に設けられ、ヒータリード線590に接続されている。ヒータ接続端子152は、ヒータリード線590を介して外部から電力の供給を受ける。
【0027】
外筒410は、センサ10を保護する。外筒410は、軸線CAに沿った貫通孔を有する円筒状の金属部材である。外筒410の先端部411には、主体金具200の後端部230が挿入されている。外筒410と主体金具200とはレーザ溶接により接合されている。外筒410の後端部412には、後述するグロメット800が嵌め込まれている。グロメット800は、外筒410の後端部412に加締められることで外筒410に固定されている。
【0028】
セパレータ600は、略円筒状であり、アルミナ等の絶縁部材によって形成されている。セパレータ600は、外筒410の内側に配置されている。セパレータ600には、セパレータ本体部610と、セパレータフランジ部620とが形成されている。セパレータ本体部610には、軸線CAに沿ってセパレータ600を貫通するリード線貫通孔630と、セパレータ600の先端側において開口した保持孔640とが形成されている。リード線挿通孔630の後端側からは、後述する素子リード線570,580と、ヒータリード線590とが挿入される。保持孔640には、セラミックヒータ150の後端部が挿入される。挿入されたセラミックヒータ150は、その後端面が保持孔640の底面に当接することにより、軸線CA方向における位置決めがされる。セパレータフランジ部620は、セパレータ600の後端側において、セパレータ600の外径が拡径するように形成された部位である。セパレータフランジ部620は、外筒410とセパレータ600との間の隙間に配置された保持部材700により支持されることで、外筒410の内側においてセパレータ600を固定する。
【0029】
グロメット800は、耐熱性に優れるフッ素ゴム等によって形成されている。グロメット800は、外筒410の後端部412に嵌め込まれている。グロメット800には、中央部において軸線CAに沿ってグロメット800を貫通する貫通孔820と、貫通孔820の周囲において軸線CAに沿ってグロメット800を貫通する4つのリード線挿通孔810とが形成されている。貫通孔820には、貫通孔820を閉塞するフィルタユニット900(フィルタ及び金属筒)が配置されている。
【0030】
素子リード線570,580及びヒータリード線590は、それぞれ、樹脂製の絶縁被膜により被覆された導線により形成されている。素子リード線570,580及びヒータリード線590の導線の後端部は、それぞれ、コネクタに設けられたコネクタ端子に対して、電気的に接続される。素子リード線570の導線の先端部は、ガスセンサ素子100の後端側に内嵌された内側接続端子520の後端部に加締められて接続される。内側接続端子520は、素子リード線570と、ガスセンサ素子100の基準電極120との間を、電気的に接続する導体である。素子リード線580の導線の先端部は、ガスセンサ素子100の後端側に外嵌された外側接続端子530の後端部に加締められて接続される。外側接続端子530は、素子リード線580と、ガスセンサ素子100検知電極130との間を、電気的に接続する導体である。ヒータリード線590の導線の先端部は、セラミックヒータ150のヒータ接続端子152に対して、電気的に接続される。また、素子リード線570,580及びヒータリード線590は、セパレータ600のリード線挿通孔630と、グロメット800のリード線挿通孔810とに挿通されて、外筒410の内部から外部に向かって引き出されている。
【0031】
センサ10は、グロメット800の貫通孔820から、フィルタユニット900を通過させて外筒410内に外気を導入することにより、ガスセンサ素子100の筒孔112内に外気を導入する。ガスセンサ素子100の筒孔112内に導入された外気は、センサ10(ガスセンサ素子100)が排気ガス内の酸素を検知するための基準となる基準ガスとして利用される。また、センサ10は、プロテクタ300のガス導入孔311,312から、プロテクタ300内に排気ガス(被測定ガス)を導入することにより、ガスセンサ素子100が排気ガスに晒されるように構成されている。これにより、ガスセンサ素子100には、基準ガスと、被測定ガスとしての排気ガスとの間の酸素濃度差に応じた起電力が発生する。ガスセンサ素子100の起電力は、素子リード線570,580を介してセンサ10の外部へ、センサ出力として出力される。
【0032】
図2は、ガスセンサ素子100の構成を示す断面図である。
図2には、軸線CA方向におけるガスセンサ素子100の先端側の断面が示されている。本実施形態のガスセンサ素子100は、固体電解質体110と、基準電極120と、検知電極130と、多孔質保護層180と、下地層190とを備えている。
【0033】
固体電解質体110は、基準電極120及び検知電極130と共に、排気ガス中の酸素濃度を検出する検出部140として機能する。固体電解質体110は、軸線CA方向に延び、先端側が閉じた有底筒状に形成されている。固体電解質体110は、酸化物イオン伝導性(酸素イオン伝導性)を有する材料からなり、本実施形態では、安定化剤が添加されたジルコニア(酸化ジルコニア:ZrO2)からなる。本実施形態では、安定化剤として酸化イットリウム(Y2O3)を使用する。酸化イットリウムが添加されたジルコニアは、イットリア部分安定化ジルコニアとも称される。なお、固体電解質体110に使用される安定化剤としては、酸化イットリウムの他に、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO2)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、酸化スカンジウム(Sc2O3)等が挙げられる。
【0034】
基準電極120は、固体電解質体110の内表面に形成されており、基準ガスに晒される。基準電極120は貴金属を材料とし、本実施形態では、白金(Pt)からなる。基準電極120は、無電解メッキによって形成されている。なお、基準電極120に使用される貴金属としては、白金の他に白金合金、ロジウム等の他の貴金属、他の貴金属合金等が挙げられる。
【0035】
検知電極130は、固体電解質体110の外表面に形成されており、被測定ガスとしての排気ガスに晒される。
【0036】
多孔質保護層180は、ガスセンサ素子100を保護する。多孔質保護層180は、例えば、アルミナ、チタニア、スピネル、ジルコニア、ムライト、ジルコン及びコージェライトからなる群より選ばれる1種以上のセラミックスを主成分とし、更にガラスを含む材料により形成される。多孔質保護層180は、下地層190を介して検知電極130を覆うように配置されている。多孔質保護層180は、検知電極130を覆うように配置された内側層181と、内側層181を覆うように配置された外側層182とを含む。外側層182は、内側層181よりも気孔率が小さくなっている。なお、多孔質保護層180は、省略してもよい。
【0037】
下地層190は、多孔質保護層180の密着性を向上させると共に、検知電極130を保護する。下地層190は、例えば、スピネル等のセラミックの溶射層からなり、多孔質保護層になっている。下地層190は、固体電解質体110の外表面の先端側から固体電解質体110の外径が突出した鍔部170付近にかけて、検知電極130を覆うように形成されている。なお、下地層190は省略してもよい。
【0038】
本実施形態の検知電極130は、貴金属と、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニアと、安定化剤高含有ジルコニアとを含む。本実施形態では、貴金属として、白金(Pt)が使用される。なお、検知電極130に使用される貴金属としては、白金の他に、白金合金、ロジウム等の他の貴金属、他の貴金属合金等が用いられてもよい。
【0039】
検知電極130における貴金属の含有割合(質量%)は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はない。例えば、貴金属は、検知電極130の全質量(100質量%)に対して、75質量%以上、好ましくは80質量%以上、90質量%以下、好ましくは85質量%以下の割合で含まれてもよい。
【0040】
検知電極130において、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニアと、安定化剤高含有ジルコニアとが、素地として併用される。素地は、固体電解質体110に対する検知電極130の接着性の確保や、貴金属(Pt等)を担持しつつ酸素ガスと反応する三相界面を形成する等の目的で使用される。
【0041】
検知電極130における素地の含有割合(質量%)は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はない。例えば、素地は、検知電極130の全質量(100質量%)に対して、5質量%以上、好ましくは10質量%以上、25質量%以下、好ましくは20質量%以下の割合で含まれてもよい。
【0042】
検知電極130に使用される「ジルコニア」は、後述する安定化剤が添加されていないジルコニアであり、不可避的に含まれる不純物以外の混ぜ物のない純粋なジルコニア(ZrO2)を意味する。このようなジルコニアの結晶構造(常温条件下)は、単斜晶である。単斜晶のジルコニアは、高温(例えば、1200℃)で相転移し、体積が変化する。
【0043】
「安定化剤低含有ジルコニア」は、後述する安定化剤が、ジルコニアが常温条件下で単斜晶となる様に、所定の割合で添加されたジルコニアを意味する。例えば、酸化イットリウム(Y2O3)が安定化剤として採用された場合は、金属元素換算で、4モル%以下の割合で安定化剤が添加されたジルコニアを意味する。他の安定化剤についても、例えば、周知の相図等を利用して、その安定化剤の添加割合を適宜、定めることができる。
【0044】
検知電極130に使用される安定化剤としては、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO2)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、酸化スカンジウム(Sc2O3)、及び酸化ストロンチウム(SrO)からなる群より選ばれる1種以上が利用される。なお、本実施形態では、検知電極130用の安定化剤として、酸化イットリウム(Y2O3)が使用される。
【0045】
また、上記群に示された各安定化剤は、金属元素として、それぞれ、イットリウム(Y)、カルシウム(Cr)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、イッテルビウム(Yb)、スカンジウム(Sc)、ストロンチウム(Cr)を含む。
【0046】
安定化剤低含有ジルコニアの結晶構造(常温条件下)は、単斜晶である。
【0047】
「安定化剤高含有ジルコニア」は、「安定化剤低含有ジルコニア」の説明で例示した上記安定化剤が、ジルコニアが常温条件下で正方晶又は立方晶となる様に、所定の割合で添加されたジルコニアを意味する。例えば、酸化イットリウム(Y2O3)が安定化剤として採用された場合は、金属元素換算で、4モル%を超えかつ20モル%以下の割合で安定化剤が添加されたジルコニアを意味する。他の安定化剤についても、例えば、周知の相図等を利用して、その安定化剤の添加割合を適宜、定めることができる。
【0048】
安定化剤高含有ジルコニアの結晶構造(常温条件下)は、正方晶、又は立方晶である。
【0049】
このように検知電極130では、互いに結晶状態の異なる、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニアと、安定化剤高含有ジルコニアとが併用されている。
【0050】
検知電極130中において、貴金属(Pt等)、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニア、及び安定化剤高含有ジルコニアは、互いに混合されて、均一に分散されている。このような検知電極130は、全体的に、単一の層として形成されている。また、検知電極130は、連続的に形成されている。
【0051】
また、検知電極130の素地中において、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニアと、安定化剤高含有ジルコニアとは、互いに混合されて、均一に分散されている。
【0052】
本明細書において、検知電極130に使用されるジルコニアと、安定化剤低含有ジルコニアとをまとめて、「単斜晶系ジルコニア」と称する場合がある。また、安定化剤高含有ジルコニアを、「正方晶・立方晶系ジルコニア」と称する場合がある。
【0053】
本実施形態の場合、「単斜晶系ジルコニア」として、ジルコニアを含有する。
【0054】
検知電極130は、本発明の目的を損なわない限り、上述した貴金属、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニア、安定化剤高含有ジルコニア以外の成分を含有してもよい。
【0055】
検知電極130におけるジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニアの含有割合は、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニア及び安定化剤高含有ジルコニアの合計100質量%に対して、40質量%以上90質量%以下であることが好ましい。上記含有割合が、このような範囲であると、検知電極130は、耐被水性に優れる。
【0056】
更に、検知電極130におけるジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニアの含有割合は、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニア及び安定化剤高含有ジルコニアの合計100質量%に対して、40質量%以上90質量%以下であることが好ましい。上記含有割合が、このような範囲であると、検知電極130は、耐被水性及び応答性に優れる。
【0057】
図3、
図4は、検知電極130のSEM画像を示す図である。
図3には、検知電極130を厚み方向で切断した断面の一部分をSEM(Scanning Electron Microscope)により観察して得られた画像である。
図3の略中央に、検知電極130が示され、その左側に隣接する形で固体電解質体110が示されている。また、
図3において、検知電極130の右側に隣接する形で、多孔質保護層180の下地層(溶射層)190が示されている。なお、
図3の左右方向が、検知電極130の厚み方向に対応する。
【0058】
図3に示される検知電極130において、白色の箇所が、白金(貴金属)131を表し、白金131に接触している灰色の箇所が、素地132を表す。なお、
図3に示される検知電極130において、黒色の箇所は、空隙(隙間)133を表す。本実施形態の素地132は、ジルコニアと、安定化剤高含有ジルコニアとを含む。
図3に示されるように、検知電極130は、白金131と、素地132とが、互いに混合されて、均一に分散されており、全体として、単一の層として形成されている。
【0059】
図4には、多孔質保護層180の下地層(溶射層)190を形成する前の状態における検知電極130の表面を、SEMにより観察して得られた画像が示されている。
図4において、白色の箇所は、白金(貴金属)131を表し、灰色の箇所は、素地132を表し、黒色の箇所は、空隙(隙間)133を表す。
図4に示されるように、検知電極130は、検知電極130は、白金131と、素地132とが、互いに混合されて、均一に分散されており、全体として、単一の層として形成されている。
【0060】
なお、検知電極130中における貴金属、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニア、及び安定化剤高含有ジルコニアの各組成比は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を利用した元素分析により求められる。
【0061】
検知電極130中には、SEM画像やEPMA画像等では確認できない非常に小さなクラック(マイクロクラック)が多数存在していると推測される。そのようなクラックは、高温で相転移を起こすジルコニア(若しくは安定化剤低含有ジルコニア)と、高温でも相転移を起こさない安定化剤高含有ジルコニアとの間の界面等において、ジルコニア(若しくは安定化剤低含有ジルコニア)の相転移時に発生しているものと推測される。
【0062】
本実施形態の検知電極130は、耐被水性に優れる。検知電極130には、上記のように、非常に小さなクラック(マイクロクラック)が多数存在していると推測される。そのような検知電極130が、高温状態(例えば、後述の被水試験の温度条件:500℃~700℃)で水と接触しても、検知電極130では、大きなクラックが発生することが抑制されると推測される。検知電極130に大きなクラックが生じると、固体電解質体110までクラックが伝播するため、検知電極130において大きなクラックの発生を抑制することで、固体電解質体110におけるクラックの発生も抑制することができると推測される。検知電極130では、マイクロクラックの存在により、水と接触しても、大きなクラックが発生することが抑制されているものと推測される。
【0063】
次いで、ガスセンサ素子100の製造方法ついて説明する。ここでは、検知電極130の製造工程に中心に説明する。
図5は、実施形態1に係るガスセンサ素子100の製造工程を示すフローチャートであり、
図6は、実施形態1に係るガスセンサ素子100の製造工程の内容を模式的に表した説明図である。先ず、
図5のS1及び
図6の(6A)に示されるように、固体電解質体110を準備する。ここでは、固体電解質体110の一方の表面(外表面)110aに、検知電極130を形成する場合を説明する。
【0064】
次いで、
図5のS2に示されるように、所定量のジルコニア(粉末)と、所定量の安定化剤高含有ジルコニア(粉末)とを含む第1スラリーを作製する。第1スラリーには、ジルコニア及び安定化剤高含有ジルコニア以外に、所定量の有機バインダ(例えば、エチルセルロース)、所定量の溶剤(例えば、ブチルカルビトールアセテート)等を含んでいる。また、本発明の目的を損なわない限り、第1スラリーには、粘度調整剤等の公知の添加剤や、空孔形成剤等が添加されてもよい。
【0065】
続いて、
図5のS3及び
図6の(6B)に示されるように、第1スラリーが、固体電解質体110の表面110aに付与されて、固体電解質体110の表面110a上に、第1スラリーからなる層状の第1スラリー層13が形成される(スラリー付与工程)。第1スラリーを、固体電解質体110の表面110aに付与する方法としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、ディッピング、コーター等の公知の塗工機を用いた方法が利用される。
【0066】
なお、第1スラリー層13が形成された後、必要に応じて、第1スラリー層13をヒータ等を利用して乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。
【0067】
その後、
図5のS4及び
図6の(6C)に示されるように、固体電解質体110上の第1スラリー層13を、熱処理(例えば、1500℃の温度条件における焼成処理)することで、第1スラリー層13中のジルコニア及び安定化剤高含有ジルコニアを焼結させる。このようにして、固体電解質体110上に、電極用の素地層14が形成される(熱処理工程)。なお、熱処理の際に、第1スラリー層13の内部に含まれていた有機バインダが消失するため、その有機バインダが消失した跡が、空孔15となる。空孔15は、素地層14中に複数(多数)形成される。
【0068】
熱処理工程における温度条件としては、第1スラリー層13中のジルコニア、安定化剤高含有ジルコニア等が焼結し、第1スラリー層13中に空孔15等が形成されるものであれば、特に制限はないが、例えば、1200℃~1600℃の範囲で行われる。
【0069】
そして、
図5のS5及び
図6の(6D)に示されるように、素地層14に対して、白金を含むメッキ液を用いて、メッキ処理が施される(メッキ処理工程)。例えば、無電解メッキにより白金を付与する場合、素地層14に、白金と、還元剤等を含むメッキ液を接触させ、素地層14に白金を還元析出させる。その結果、素地層14の空孔15に、白金131が充填される。このようにして、固体電解質体110上に、検知電極130が形成される。
【0070】
なお、メッキ処理後において、必要に応じて(例えば、検知電極130表面の白金の凹凸を平坦化する場合)、固体電解質体110上に形成された検知電極130に対して、熱処理が施されてもよい。
【0071】
以上のようにして、固体電解質体110上に検知電極130が形成されたガスセンサ素子100を製造することができる。なお、固体電解質体110の他方の表面(内表面)にも、上記検知電極130と同様の製造工程により、基準電極120が形成されてもよい。また、上述したように、無電解メッキにより、基準電極120が形成されてもよい。
【0072】
なお、本実施形態のガスセンサ素子の製造方法は、固体電解質体110と、固体電解質体110の表面に形成される電極(検知電極130等)とを有するガスセンサ素子の製造方法である。その製造方法は、ジルコニア若しくは安定化剤が4モル%(金属元素換算)以下の割合で添加された安定化剤低含有ジルコニアと、安定化剤が4モル%(金属元素換算)を超えかつ20モル%(金属元素換算)以下の割合で添加された安定化剤高含有ジルコニアとを含む第1スラリーを、固体電解質体110の表面に付与して、第1スラリー層13を形成するスラリー付与工程と、第1スラリー層13が形成された固体電解質体110を熱処理することで、素地層14を形成する熱処理工程と、素地層14に、貴金属を含むメッキ液を用いてメッキ処理を施して、電極(検知電極130等)を形成するメッキ処理工程とを備える。
【0073】
本実施形態のガスセンサ素子の製造方法によれば、耐被水性に優れたガスセンサ素子が得られる。
【0074】
また、本実施形態のガスセンサ素子の製造方法において、第1スラリーにおけるジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニアの含有割合は、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニア及び安定化剤高含有ジルコニアの合計100質量%に対して、40質量%以上90質量%以下であることが好ましい。前記含有割合が、このような範囲であると、得られるガスセンサ素子の耐被水性に優れる。
【0075】
また、本実施形態のガスセンサ素子の製造方法において、第1スラリーにおけるジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニアの含有割合は、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニア及び安定化剤高含有ジルコニアの合計100質量%に対して、40質量%以上70質量%以下であることが好ましい。前記含有割合が、このような範囲であると、得られるガスセンサ素子の耐被水性及び応答性に優れる。
【0076】
なお、本実施形態のガスセンサ素子の製造方法では、有機バインダを配合した第1スラリーを使用して、第1スラリー層を形成したが、他の実施形態においては、有機バインダ等の消失材を使用せずに、素地層14中に空孔15を形成してもよい。つまり、有機バインダ等の消失材は、必須成分ではない。
【0077】
また、本実施形態では、第1スラリー中に、所定量の単斜晶のジルコニアを配合したが、他の実施形態においては、ジルコニアに代えて又はジルコニアと共に、単斜晶の安定化剤低含有ジルコニアが配合されてもよい。
【0078】
<実施形態2>
次いで、実施形態2に係るガスセンサ素子100Aの製造方法について、
図7及び
図8を参照しつつ説明する。本実施形態のガスセンサ素子100Aは、実施形態1のセンサ10のガスセンサ素子100に代えて、利用可能なものである。また、本実施形態も、上記実施形態1と同様、検知電極130Aの製造工程を中心に説明する。
図7は、実施形態2に係るガスセンサ素子100Aの製造工程を示すフローチャートであり、
図8は、実施形態2に係るガスセンサ素子100Aの製造工程の内容を模式的に表した説明図である。
【0079】
先ず、
図7のS11及び
図8の(8A)に示されるように、実施形態1と同様の固体電解質体110を準備する。ここでも、実施形態1と同様、固体電解質体110の一方の表面(外表面)110aに、検知電極130Aを形成する場合を説明する。
【0080】
次いで、
図7のS12に示されるように、所定量のジルコニア(粉末)と、所定の安定化剤高含有ジルコニア(粉末)と、所定量の白金(粉末)とを含む第2スラリーを作製する。第2スラリーには、その他に、所定量の溶剤(例えば、ブチルカルビトールアセテート)や、粘度調整剤等の公知の添加剤や空孔形成剤等が添加されてもよい。
【0081】
続いて、
図7のS13及び
図8の(8B)に示されるように、第2スラリーが、固体電解質体110の表面110aに付与されて、固体電解質体110の表面110a上に、第2スラリーからなる層状の第2スラリー層23が形成される(スラリー付与工程)。本実施形態の場合、第2スラリー層23中に、白金131Aが分散されている。第2スラリーを、固体電解質体110の表面110aに付与する方法としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、ディッピング、コーター等の公知の塗工機を用いた方法が利用される。
【0082】
なお、第2スラリー層23が形成された後、必要に応じて、第2スラリー層23を、熱風等を利用して乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。
【0083】
その後、
図7のS14及び
図8の(8C)に示されるように、固体電解質体110上の第2スラリー層23を、熱処理(例えば、1500℃の温度条件における焼成処理)することで、第2スラリー層23中の白金、ジルコニア及び安定化剤高含有ジルコニアを焼結させる。このようにして、固体電解質体110上に、検知電極130Aが形成される(熱処理工程)。検知電極130Aは、ジルコニア及び安定化剤高含有ジルコニアを含む素地132Aと、白金131Aとを含む。
【0084】
熱処理工程における温度条件としては、第2スラリー層23中の白金、ジルコニア、安定化剤高含有ジルコニア等が焼結して、検知電極130A等の電極が形成されるものであれば、特に制限はないが、例えば、1200℃~1600℃の範囲で行われる。
【0085】
以上のようにして、固体電解質体110上に検知電極130Aが形成されたガスセンサ素子100Aを製造することができる。なお、固体電解質体110の他方の表面(内表面)にも、上記検知電極130Aと同様の製造工程や、無電解メッキ法等により、基準電極(不図示)が形成されてもよい。
【0086】
なお、本実施形態のガスセンサ素子110Aの製造方法は、固体電解質体110と、固体電解質体110の表面110aに形成される電極(検知電極130A等)とを有するガスセンサ素子110Aの製造方法である。その製造方法は、ジルコニア若しくは安定化剤4モル%(金属元素換算)以下の割合で添加された安定化剤低含有ジルコニアと、安定化剤が4モル%(金属元素換算)を超えかつ20モル%(金属元素換算)以下の割合で添加された安定化剤高含有ジルコニアと、貴金属とを含む第2スラリーを、固体電解質体110の表面110aに付与して、第2スラリー層23を形成するスラリー付与工程と、第2スラリー層23が形成された固体電解質体110を熱処理することで、電極(検知電極130A等)を形成する熱処理工程とを備える。
【0087】
本実施形態のガスセンサ素子の製造方法によれば、耐被水性に優れたガスセンサ素子が得られる。
【0088】
また、本実施形態のガスセンサ素子の製造方法において、第2スラリーにおけるジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニアの含有割合は、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニア及び安定化剤高含有ジルコニアの合計100質量%に対して、40質量%以上90質量%以下であることが好ましい。前記含有割合が、このような範囲であると、得られるガスセンサ素子の耐被水性に優れる。
【0089】
また、本実施形態のガスセンサ素子の製造方法において、第2スラリーにおけるジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニアの含有割合は、ジルコニア若しくは安定化剤低含有ジルコニア及び安定化剤高含有ジルコニアの合計100質量%に対して、40質量%以上70質量%以下であることが好ましい。前記含有割合が、このような範囲であると、得られるガスセンサ素子の耐被水性及び応答性に優れる。
【0090】
また、本実施形態では、第2スラリー中に、所定量の単斜晶のジルコニアを配合したが、他の実施形態においては、ジルコニアに代えて、又はジルコニアと共に、単斜晶の安定化剤低含有ジルコニアが配合されてもよい。
【0091】
<実施形態3>
次いで、実施形態3に係るガスセンサ素子100Bについて、
図9及び
図10を参照しつつ、説明する。本実施形態のガスセンサ素子100Bは、上述した実施形態1,2の筒型のガスセンサ素子100,100Aとは異なり、板型をなしている。ガスセンサ素子100Bは、全体的には、長手状の板型をなしている。ガスセンサ素子100Bは、排気ガス中の特定ガス(例えば、酸素、NOx等)のガス濃度を検出するガスセンサ(不図示)に利用される。
【0092】
なお、本実施形態のガスセンサ素子100Bが利用されるガスセンサは、上述した実施形態1等と同様、主体金具等の公知の構成を備えている。主体金具は、ガスセンサ素子100Bの周囲を取り囲む筒状の金属部材であり、内側にガスセンサ素子100Bを収容した状態でガスセンサ素子100Bを保持する。また、主体金具は、ガスセンサを排気管に取り付ける際等に使用される。
【0093】
図9は、実施形態3に係るガスセンサ素子100Bの長手方向に沿った断面図であり、
図10は、実施形態3に係るガスセンサ素子100Bの幅方向に沿った断面図である。
図9及び
図10には、ガスセンサ素子100Bの先端側が示されている。
【0094】
ガスセンサ素子100Bは、検出素子部300Bと、それに積層されるヒータ部200Bとを備えている。ヒータ部Bは、アルミナを主体とする第1基体101B及び第2基体103Bと、第1基体101Bと第2基体103Bとに挟まれ、白金を主体とする発熱体102Bを有している。
【0095】
検出素子部300Bは、酸素濃度検出セル130Bと酸素ポンプセル140Bとを備える。酸素濃度検出セル130Bは、第1固体電解質体105Bと、その第1固体電解質体105Bの両面に形成された第1電極104B及び第2電極106Bとから形成されている。第2電極106Bは、後述する中空の測定室107Bcに面する第2電極部106Baを含む。
【0096】
酸素ポンプセル140Bは、第2固体電解質体109Bと、その第2固体電解質体109Bの両面に形成された第3電極108B及び第4電極110Bとから形成されている。第3電極108Bは、後述する中空の測定室107Bcに面する第3電極部108Baを含む。また、第4電極110Bは、後述する電極保護部113Baと重なる第4電極部110Baを含む。
【0097】
第1固体電解質体105B及び第2固体電解質体109Bは、例えば、ジルコニア(ZrO2)にイットリア(Y2O3)等を添加してなる部分安定化ジルコニア焼結体から構成される。
【0098】
そして、酸素ポンプセル140Bと酸素濃度検出セル130Bとの間に、絶縁層107Bが形成されている。絶縁層107Bは、絶縁部114Bと、拡散抵抗部115Bとからなる。絶縁層107Bの絶縁部114Bには、第2電極部106Ba及び第3電極部108Baに対応する位置に中空の測定室107Bcが形成されている。測定室107Bcは、絶縁層107Bの幅方向で外部と連通しており、その連通部分には、外部と測定室107Bcとの間のガス拡散を所定の律速条件下で実現する拡散抵抗部115Bが配置されている。
【0099】
絶縁部114Bは、絶縁性を有するセラミック焼結体(例えば、アルミナやムライト等の酸化物系セラミック)からなる。拡散抵抗部115Bは、例えば、アルミナの多孔質体からなる。
【0100】
また、第2固体電解質体109Bの表面には、第4電極110Bを挟み込むようにして、保護層111Bが形成されている。この保護層111Bは、第4電極110Bの第4電極部110Baと重なる位置に、第4電極部110Baを被毒から防御するための多孔質の電極保護部113Baを備えている。
【0101】
ガスセンサ素子100Bの先端側の全周を覆う形で、多孔質保護層20Bが形成されている。
【0102】
ガスセンサ素子100Bは、酸素濃度検出セル130Bの電極間に生じる起電力が所定の値(例えば、450mV)となるように、酸素ポンプセル140Bの電極間に流れる電流の方向及び大きさが調整される。
【0103】
このような本実施形態のガスセンサ素子100Bにおいて、センサの外部にある排気ガスに対して直接、晒される可能性のある電極は、第2電極106Bの第2電極部106Baと、第3電極108Bの第3電極部108Baと、第4電極110Bの第4電極部110Baである。
【0104】
第2電極106Bの第2電極部106Ba及び第3電極108Bの第3電極部108Baは共に、多孔質保護層20B及び拡散抵抗部115Bを通過して、測定室107Bc内に進入した排気ガスと接触する。また、第4電極110Bの第4電極部110Baは、多孔質保護層20B及び電極保護部113Baを通過した排気ガスと接触する。つまり、これらの電極部に対して、排気凝縮水等の水分が接触する可能性がある。
【0105】
そのため、本実施形態のガスセンサ素子100Bでは、第2電極部106Ba、第3電極部108Ba及び第4電極部110Baが、上記実施形態1,2の検知電極130,130Aと同様の耐被水性を有する材料で構成される。つまり、そのような電極(電極部)は、ジルコニア若しくは安定化剤が4モル%(金属元素換算)以下の割合で添加された安定化剤低含有ジルコニアと、安定化剤が4モル%(金属元素換算)を超えかつ20モル%(金属元素換算)以下の割合で添加された安定化剤高含有ジルコニアと、貴金属とを有し、かつ単一の層からなる。
【0106】
以上のように、板型のセンサが備えるガスセンサ素子100Bに対して、耐被水性を有する所定の材料からなる電極を形成してもよい。
【実施例】
【0107】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0108】
〔実施例1〕
上述したセンサ10のガスセンサ素子100と基本的な構成が同じである実施例1のガスセンサ素子を作製した。なお、ガスセンサ素子の電極(検知電極及び基準電極)については、以下に示される方法で作製した。
【0109】
先ず、先端側が閉じた有底筒状の固体電解質体を用意した。次いで、所定量の粉末状のジルコニア(ZrO2)と、安定化剤としての酸化イットリウム(Y2O3)が、ジルコニア(ZrO2)に対して、4.6モル%(金属元素換算で、9.2モル%)の割合で添加(ドープ)されてなる所定量の粉末状の安定化剤高含有ジルコニアとを、表1に示される割合(質量%)で配合しつつ、所定量の有機バインダ(エチルセルロース)と、所定量の溶剤(ブチルカルビトールアセテート)とを混合して、スラリーを作製した。なお、表1において、ジルコニアを、「ZrO2」と表し、安定化剤高含有ジルコニアを、「YSZ(High)」と表す。
【0110】
続いて、スラリー中に、固体電解質体を浸漬(ディッピング)して、固体電解質体の表面に、スラリー層を形成した。その後、スラリー層を、熱風乾燥により乾燥させた。
【0111】
次いで、固体電解質体上のスラリー層を、1500℃の温度条件で熱処理して、スラリー層を焼結させることにより、内部に複数の空孔を含む素地層を形成した。
【0112】
そして、貴金属として白金を含むメッキ液を用意し、そのメッキ液を利用した無電解メッキにより、素地層に白金を還元析出させた。このようにして、固体電解質体の表面(外表面、内表面)に、検知電極及び基準電極を形成した。
【0113】
なお、実施形態1のガスセンサ素子は、検知電極が露出した状態となっており、多孔質保護層等は形成されていない。
【0114】
〔実施例2~6及び比較例1~5〕
スラリー中におけるジルコニアと、安定化剤高含有ジルコニアとの配合割合を、表1に示される値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~6及び比較例1~4のガスセンサ素子を作製した。
【0115】
〔被水試験〕
各実施例及び各比較例のガスセンサ素子について、以下に示される手順で被水試験を行った。先ず、ガスセンサ素子内のセラミックヒータに所定の電圧を印加して、ガスセンサ素子の先端内部に収容された発熱部を、既定温度(最初は500℃)となるように発熱させて、ガスセンサ素子の先端部(検出部)の温度を高めた。なお、ガスセンサ素子100Tの先端部は、検出電極130Tで覆われている。
【0116】
図11は、被水試験において、ガスセンサ素子100Tの検出電極130Tに水滴を滴下する工程を模式的に表した説明図である。
図11に示されるように、ガスセンサ素子の長手方向(軸線方向)が水平となるように、配置される。検出電極130Tは、全体として筒状をなしており、その内側に発熱部が配置されている。発熱部が発熱すると、その周りに配置された検出電極130Tが加熱されて高温となる。検出電極130Tのうち、発熱部の周りを囲む部分が、最も加熱されて温度が高くなる。被水試験では、このような、最も加熱されて、最も温度が高くなる箇所(最高発熱部)Xに対して、マイクロシリンジ50Tを利用して、規定量(ここでは、2μL)の水滴51Tが滴下される。このような水滴の滴下を、合計で、1回行った。
【0117】
その後、発熱部の発熱を停止して、発熱部の温度が常温(25℃)となるまでガスセンサ素子100Tを放冷した。
【0118】
図12は、被水試験において、絶縁計62Tを用いてガスセンサ素子100Tの割れを確認する工程を模式的に表した説明図である。
図12に示されるように、絶縁計62Tを用意し、絶縁計62Tの一方の端子を、ガスセンサ素子100Tの基準電極(内側電極)に接続し、他方の端子を、所定の浴槽60T内に入れられた水61Tに接続した。そして、検出電極130Tが水没するように、ガスセンサ素子100Tの先端側を水61T中に入れて、検出電極130Tと、基準電極との間に電流が流れるか否かを確認した。ガスセンサ素子100Tの検出電極130T等に割れ(クラック)が発生していると、クラックに水が浸み込んで、検出電極130Tと基準電極との間に電気が流れる。そのため、検出電極130Tと基準電極との間に電流が流れなければ、検出電極130等に割れが発生していないと判断できる。結果は、表1に示した。
【0119】
ガスセンサ素子100Tに割れがなければ、発熱部の規定温度を、表1に示される値のように順次高く設定し、その規定温度毎に、ガスセンサ素子100Tの割れの有無を確認した。ガスセンサ素子100Tに割れが発生するまで、上記被水試験を行った。なお、発熱部の規定温度の上限値は、700℃とした。表1において、被水試験の結果、ガスセンサ素子100Tに割れが発生した場合を、「×」と表し、ガスセンサ素子100Tに割れが発生しなかった場合を、「〇」と表した。
【0120】
【0121】
被水試験に使用した各ガスセンサ素子は、検知電極が、多孔質保護層等で覆われておらず、むき出しの状態になっている。つまり、被水試験は、通常の使用環境よりも、かなり過酷な環境下で行ったものである。このような被水試験の結果、表1に示されるように、実施例1~6のガスセンサ素子では、何れも、規定温度(電極温度)が625℃の場合に、検知電極等に割れ(クラック)が発生しないことが確かめられた。
【0122】
なお、実施例1,2,5,6については、規定温度(電極温度)が700℃の場合でも、検知電極等に割れ(クラック)が発生しないことが確かめられた。また、実施例4については、675℃の場合まで、検知電極等に割れ(クラック)が発生しないことが確かめられた。また、実施例3については、650℃の場合まで、検知電極等に割れ(クラック)が発生しないことが確かめられた。
【0123】
これに対し、比較例1,2については、規定温度が500℃の場合に、割れの発生が認められ、比較例3については、規定温度が550℃の場合に、割れの発生が認められ、比較例4については、規定温度が575℃の場合に、割れの発生が認められた。また、比較例5については、規定温度が600℃の場合に、割れの発生が認められた。
【0124】
〔応答試験〕
各実施例及び各比較例のガスセンサ素子を備えたセンサを作製した。なお、センサの基本的な構成は、上述したセンサ10と同じである。なお、応答試験用のセンサでは、検知電極上に、下地層を介して多孔質保護層が形成されている。
【0125】
各実施例及び各比較例のセンサを、内燃機関の排気管に取り付け、空燃比(A/F)がリーン状態からリッチ状態に移行した場合の応答時間(リッチ応答時間)と、リッチ状態からリーン状態に移行した場合の応答時間(リーン応答時間)とを測定した。
【0126】
リッチ応答時間は、空燃比がリーン状態からリッチ状態に移行した時(λ=1.03からλ=0.97)のセンサ出力が、450mVから800mVに到達するまでの時間(msec)である。
【0127】
リーン応答時間は、空燃比がリッチ状態からリーン状態に移行した時(λ=0.97からλ=1.03)のセンサ出力が、450mVから100mVに到達するまでの時間(msec)である。
【0128】
各実施例及び各比較例におけるリッチ応答時間の結果は、
図13に示し、リーン応答時間の結果は、
図14に示した。
【0129】
図13は、各実施例及び各比較例のセンサのリッチ応答時間の結果を示すグラフである。
図13に示されるように、安定化剤高含有ジルコニアの配合割合が多いと(比較例1~比較例4)、リッチ応答時間が長くなり、応答性が悪くなる傾向があることが確かめられた。これに対し、安定化剤高含有ジルコニアの配合割合が少ないと(実施例1~6及び比較例5)、リッチ応答時が短くなり、応答性に優れることが確かめられた。
【0130】
図14は、各実施例及び各比較例のセンサのリーン応答時間の結果を示すグラフである。
図14に示されるように、ジルコニアの配合割合が多いと(実施例5,6及び比較例5)、リーン応答時間が長くなり、応答性が悪くなる傾向があることが確かめられた。これに対し、ジルコニアの配合割合が少ないと(実施例1~4及び比較例1~4)、リーン応答時間が短くなり、応答性に優れることが確かめられた。
【符号の説明】
【0131】
10…センサ、100,100A,100B…ガスセンサ素子、110…固体電解質体、120…基準電極、130,130A,130B…検知電極、132,132A…素地、13…第1スラリー層、14…素地層、15…空孔、23…第2スラリー層