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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】生体内留置物
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240704BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20240704BHJP
   A61B 5/1459 20060101ALI20240704BHJP
   A61B 5/1473 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N27/04 B
A61B5/1459
A61B5/1473
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021527489
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2020020107
(87)【国際公開番号】W WO2020261828
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019119549
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 秀和
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-136128(JP,A)
【文献】国際公開第2011/046105(WO,A1)
【文献】岩永進太郎,本格的再生医療への応用を目指した自発的還流機能を有する3次元マクロ組織の作製,科学研究費助成事業 研究成果報告書,1版,2016年05月30日,課題番号:26870137
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/64
G01N 27/04
A61B 5/1459
A61B 5/1473
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、
機能性材料と、を有しており、
遠位端は、半球状または半楕円球状に形成されている生体内留置物。
【請求項2】
前記細胞ファイバーは、外層と内層を含む層構造を備え、前記機能性材料は、前記内層の内側に配置されている請求項1に記載の生体内留置物。
【請求項3】
前記機能性材料が、光の照射によって発光する発光物質である請求項1または2に記載の生体内留置物。
【請求項4】
前記発光物質は、前記細胞ファイバーの表面に存在している請求項3に記載の生体内留置物。
【請求項5】
前記発光物質は、酸素の存在下において励起光を照射すると蛍光を発する物質である請求項3または4に記載の生体内留置物。
【請求項6】
前記発光物質は、酸素分子を結合および解離する性質を有する酸素センサータンパク質と、励起光の照射によって蛍光を発する蛍光タンパク質と、を含んでおり、
前記酸素センサータンパク質と前記蛍光タンパク質は、ポリペプチドリンカーによって結合されている請求項3~5のいずれか一項に記載の生体内留置物。
【請求項7】
前記機能性材料が、酸素の濃度を測定する酸素センサーである請求項1または2に記載の生体内留置物。
【請求項8】
前記酸素センサーは、前記細胞ファイバーに固定されている請求項7に記載の生体内留置物。
【請求項9】
前記酸素センサーは、前記細胞ファイバーの遠位端部に配置されている請求項7または8に記載の生体内留置物。
【請求項10】
前記酸素センサーは、光を発する発光部と、前記発光部から発せられた光を受ける受光部と、を有している請求項7~9のいずれか一項に記載の生体内留置物。
【請求項11】
前記酸素センサーが感知した情報を発信する発信機を有している請求項7~10のいずれか一項に記載の生体内留置物。
【請求項12】
前記機能性材料が、イオンチャネルタンパク質であるTRPA1である請求項1または2に記載の生体内留置物。
【請求項13】
前記TRPA1は、前記細胞ファイバーの表面に存在している請求項12に記載の生体内留置物。
【請求項14】
さらに、電極を有している請求項12または13に記載の生体内留置物。
【請求項15】
前記電極は、少なくとも第1電極と第2電極とから構成されており、
前記第1電極が前記細胞ファイバーの近位端部の外表面に配置されており、かつ、前記第2電極が前記細胞ファイバーの遠位端部の内部に配置されている、または、前記第1電極が前記細胞ファイバーの近位端部の内部に配置されており、かつ、前記第2電極が前記細胞ファイバーの遠位端部の外表面に配置されている請求項14に記載の生体内留置物。
【請求項16】
さらに、光の照射によって発光する発光物質を有している請求項12~15のいずれか一項に記載の生体内留置物。
【請求項17】
前記細胞ファイバーは、生体内へ留置後に生体組織へ分化する細胞を含む複数の細胞をファイバー状に構成したものである請求項1~16のいずれか一項に記載の生体内留置物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーを含む生体内留置物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脳卒中等の治療では、コンピュータ断層撮影(CT)検査、磁気共鳴血管撮影法(MRA)検査、核磁気共鳴画像法(MRI)検査、または血管造影等によって治療の標的部位の画像を撮影した後に薬剤を投与することや、注射によって細胞組織を移植すること等が行われてきた。また、治療における標的部位の情報を得るためにセンシングを行う場合には、ガイドワイヤを使用して血管狭窄部の血圧を測定する冠血流予備量比(FFR)の測定や、血管内超音波を使用して血管内腔を画像化する血管内超音波検査(IVUS)を行うこともある。脳卒中等の病変部位の治療における細胞組織の移植に関して、例えば、特許文献1~3にその方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2009-514950号公報
【文献】特表2004-533277号公報
【文献】国際公開第2011/046105号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脳卒中等の病変部位の治療において、細胞組織を標的部位へ留置する前や留置した後の細胞の状態や、細胞組織の留置後における標的部位の環境を把握することが求められている。特許文献1~3に開示されている方法では、標的部位へ細胞組織を留置する前後での細胞の状態や、細胞組織の留置後の標的部位の環境を十分に把握することができず、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、前記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、治療の標的部位へ細胞組織を留置する前や留置した後における細胞の状態や、細胞組織を留置した後における治療の標的部位の環境を把握することができる生体内留置物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決することができた生体内留置物は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、機能性材料と、を有していることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の生体内留置物において、細胞ファイバーは、外層と内層を含む層構造を備え、機能性材料は、内層の内側に配置されていることが好ましい。
【0008】
本発明の生体内留置物において、機能性材料は、光の照射によって発光する発光物質であることが好ましい。つまり、生体内留置物は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、光の照射によって発光する発光物質と、を有していることが好ましい。
【0009】
本発明の生体内留置物において、発光物質は、細胞ファイバーの表面に存在していることが好ましい。
【0010】
本発明の生体内留置物において、発光物質は、酸素の存在下において励起光を照射すると蛍光を発する物質であることが好ましい。
【0011】
本発明の生体内留置物において、発光物質は、酸素分子を結合および解離する性質を有する酸素センサータンパク質と、励起光の照射によって蛍光を発する蛍光タンパク質と、を含んでおり、酸素センサータンパク質と蛍光タンパク質は、ポリペプチドリンカーによって結合されていることが好ましい。
【0012】
本発明の生体内留置物において、機能性材料は、酸素の濃度を測定する酸素センサーであることも好ましい。つまり、生体内留置物は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、酸素の濃度を測定する酸素センサーと、を有していることも好ましい。
【0013】
本発明の生体内留置物において、酸素センサーは、細胞ファイバーに固定されていることが好ましい。
【0014】
本発明の生体内留置物において、酸素センサーは、細胞ファイバーの遠位端部に配置されていることが好ましい。
【0015】
本発明の生体内留置物において、酸素センサーは、光を発する発光部と、発光部から発せられた光を受ける受光部と、を有していることが好ましい。
【0016】
本発明の生体内留置物において、酸素センサーが感知した情報を発信する発信機を有していることが好ましい。
【0017】
本発明の生体内留置物において、機能性材料は、イオンチャネルタンパク質であるTRPA1であることも好ましい。つまり、生体内留置物は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、イオンチャネルタンパク質であるTRPA1と、を有していることも好ましい。
【0018】
本発明の生体内留置物において、TRPA1は、細胞ファイバーの表面に存在していることが好ましい。
【0019】
本発明の生体内留置物は、さらに、電極を有していることが好ましい。
【0020】
本発明の生体内留置物において、電極は、少なくとも第1電極と第2電極とから構成されており、第1電極が細胞ファイバーの近位端部の外表面に配置されており、かつ、第2電極が細胞ファイバーの遠位端部の内部に配置されている、または、第1電極が細胞ファイバーの近位端部の内部に配置されており、かつ、第2電極が細胞ファイバーの遠位端部の外表面に配置されていることが好ましい。
【0021】
本発明の生体内留置物は、さらに、光の照射によって発光する発光物質を有していることが好ましい。
【0022】
本発明の生体内留置物において、細胞ファイバーは、生体内へ留置後に生体組織へ分化する細胞を含む複数の細胞をファイバー状に構成したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の生体内留置物によれば、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、機能性材料と、を有していることにより、生体内留置物の留置前後の細胞の状態、および生体内留置物を留置する治療の標的部位の環境を把握することができる。具体的には、本発明の生体内留置物によれば、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、光の照射によって発光する発光物質と、を有していることにより、生体内留置物の留置前や留置後に光を照射して、生体内留置物の発光強度を測定することによって、生体内留置物の留置前後の細胞の状態、および生体内留置物を留置する治療の標的部位の環境を把握することができる。また、本発明の生体内留置物によれば、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、酸素の濃度を測定する酸素センサーと、を有していることにより、生体内留置物の留置前における生体内留置物内の酸素濃度、および生体内留置物の留置後における生体内留置物内や治療の標的部位の酸素濃度を測定することが可能である。さらに、本発明の生体内留置物によれば、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、イオンチャネルタンパク質であるTRPA1と、を有していることにより、生体内留置物の留置前や留置後にTRPA1から生じるイオン電流を測定することによって、生体内留置物の留置前の生体内留置物内の酸素濃度、および生体内留置物の留置後の生体内留置物内や治療の標的部位の酸素濃度を確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の一形態における第1の生体内留置物の模式図を表す。
図2図1に示した生体内留置物のII-II断面図を表す。
図3】本発明の実施の一形態における第2の生体内留置物の模式図を表す。
図4】本発明の実施の一形態における第3の生体内留置物の模式図を表す。
図5図4に示した生体内留置物のV-V断面図を表す。
図6図4に示した生体内留置物のVI-VI断面図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0026】
本発明の生体内留置物は、治療において細胞組織を標的部位へ送達し、留置するために用いられる。生体内留置物は、細胞ファイバーを有している。細胞ファイバーは、複数の細胞をファイバー状に構成している細胞塊を含む。
【0027】
本発明において、近位側とは使用者(術者)の手元側の方向を指し、遠位側とは処置部側の方向であって、近位側の反対方向を指す。
【0028】
まず、本発明の第1の生体内留置物1について、以下に説明する。図1は生体内留置物1の模式図を表し、図2は生体内留置物1のII-II断面図を表す。図1および図2に示すように、第1の生体内留置物1は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバー10と、機能性材料と、を有しており、機能性材料は、光の照射によって発光する発光物質20である。
【0029】
生体内留置物1は、遠近方向に長尺の細胞ファイバー10を1本または複数本用いたものを有していてもよく、短い細胞ファイバー10の集合体を有していてもよい。生体内留置物1が短い細胞ファイバー10の集合体を有している場合、複数の細胞ファイバー10同士を互いに固定する中間部材が生体内留置物1に含まれていてもよい。中間部材としては、細胞ファイバー10に用いられる材料の他に、例えば、ゼラチン等のたんぱく質を用いることもできる。
【0030】
細胞ファイバー10を構成する細胞種は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。細胞ファイバー10を構成する細胞としては、例えば、大脳皮質細胞等の神経細胞や骨格筋細胞や心筋細胞等の筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、肝細胞、膵島細胞、視細胞、血液単球細胞等が挙げられる。細胞ファイバー10は、単分化能を有する幹細胞(筋幹細胞、生殖幹細胞、肝幹細胞等)から構成されることが好ましく、多分化能性を有する各種の幹細胞(神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、ミューズ細胞等)、分化万能性を有する胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、体細胞由来ES細胞(ntES細胞)、多分化多能を有する幹細胞(造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞等)から構成されることがより好ましい。細胞ファイバー10は、これらの細胞種を一種のみ使用してもよく、二種以上を併用してもよい。また、細胞ファイバー10は、自家細胞を用いてもよく、他家細胞を用いてもよい。本願において、神経細胞以外の細胞を非神経細胞と称する。
【0031】
脳損傷部位への治療では、細胞ファイバー10は、神経幹細胞からニューロンとグリア細胞に分化した神経幹細胞分化誘導ファイバーを含んでいることが好ましい。細胞ファイバー10がニューロンとグリア細胞に分化した神経幹細胞分化誘導ファイバーを含んでいることにより、治療の標的部位での神経再生を速めることが可能となる。なお、その他の部位の治療では、非神経細胞を含む細胞ファイバー10を用いることができる。
【0032】
細胞ファイバー10は、BDNF(脳由来神経栄養因子)、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、EGF(上皮成長因子)、FGF(繊維芽細胞成長因子)インスリン様成長因子(IGF)、PDGF(血小板由来成長因子)、NGF(神経成長因子)等の細胞成長因子やサイトカイン等の生理活性物質および遺伝子プラスミド、抗体や薬剤内包カプセルを導入した細胞から構成されていてもよい。
【0033】
細胞ファイバー10を製造する方法は特に限定されないが、細胞外基質と細胞を有する内層と、外層を備える筒状体とを準備する工程と、内層において細胞を育成する工程と、外層を溶解する工程とを含むことが好ましい。外層を溶解する工程は、内層にて細胞を育成させた後に行う。また、筒状体は、外層の内側に内層が配置された構造であることが好ましい。さらに、内層の一部が筒状体の外側に面していてもよい。
【0034】
内層が有する細胞外基質としては、例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロイン、ゼラチン、グリコサミノグリカン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリペプチド等が挙げられる。中でも、内層が有している細胞外基質は、コラーゲンまたはフィブロインを含むことが好ましい。外層は、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カルシウムを含むことが好ましい。
【0035】
細胞ファイバー10は、少なくとも外層と内層を含む層構造であることが好ましい。外層は、細胞ファイバー10の作製時や移植時に、細胞ファイバー10の強度を維持するために内層よりも強固な構造であり、かつ体内で分解する材料であることが好ましい。内層は、細胞外基質からなり、その内側に細胞層が存在する構造であることが好ましい。発光物質やイオンチャネルタンパク質等の機能性材料は、内層の内側にある細胞層に含まれていることが好ましい。機能性材料が細胞層に含まれていることにより、体内への生体内留置物1の移植時に、機能性材料を確実に体内へ導入することができる。生体内留置物1が後述する電極60を有している場合、電極60は、外層に含まれていることが好ましい。なお、外層と内層との間に、他の層が存在していてもよい。また、外層と内層との間は、外層成分と内層成分が入り混じった状態となり得る。これは、内層と細胞層との間も同様である。
【0036】
細胞ファイバー10は、細胞の支持体を備えていてもよい。支持体の材料としては、生体吸収性高分子や天然高分子、脱細胞化処理した生体組織や細胞、またはこれらの組み合わせ等が挙げられる。生体吸収性高分子は、例えば、ポリL-乳酸(PLLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA)やポリカプロラクトン(PCL)等を用いることができる。また、天然高分子としては、例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロイン、ゼラチン、グリコサミノグリカン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリペプチド等が挙げられる。
【0037】
図1および図2に示すように、生体内留置物1は発光物質20を有している。発光物質20は、光を照射することによって発光する物質を示す。生体内留置物1が発光物質20を有していることにより、生体内留置物1の留置前や留置後に、生体内留置物1に光を照射して発光強度を測定することによって、生体内留置物1の留置前後において、細胞ファイバー10に含まれている細胞の状態を確認して管理することができる。さらに、生体内留置物1を治療の標的部位へ留置した後にも、生体内留置物1の発光強度を測定することにより、生体内留置物1に含まれている細胞の状態を把握することが可能となる。
【0038】
生体内留置物1が細胞ファイバー10と発光物質20とを有する構成とするには、例えば、細胞ファイバー10の培養時に発光物質20を有するゲルと共培養すること等が挙げられる。生体内留置物1に、発光物質20を有するゲルを用いる場合、ゲルは多孔質ゲルを用いることが可能である。
【0039】
生体内留置物1の直径は、デリバリー性能や、標的部位の形状、サイズに応じて選択することができるが、例えば、100nm以上1000μm以下であることが好ましい。生体内留置物1は、生体内留置物1の長軸方向の全長にわたって細胞を含んでいることが好ましい。また、生体内留置物1は、必要に応じて、細胞以外の物質や薬剤を含んでいてもよい。細胞以外の物質の例としては、細胞の成長を促進する物質や、治療の標的部位において細胞の接着を促進する物質等が挙げられる。
【0040】
生体内留置物1の構造は、円柱構造であることが好ましいが特に制限はなく、例えば、らせん形状、二重らせん構造、不織布構造、シート状、円筒形状、ひも状の細胞ファイバー10を複数束ねた円筒束形状、筒状の細胞ファイバー10の内側にさらに細胞ファイバー10が配置された円筒重ね形状、コイル状等の三次元構造であってもよい。中空状の細胞ファイバー10を形成して、生体内留置物1の構成に用いることもできる。また、細胞ファイバー10をシート状に形成し、シート状の細胞ファイバー10を巻いて円柱状にすることや、折り畳んで用いることもできる。生体内留置物1の形状は、デリバリー性能や、標的部位の形状、サイズ等に応じて選択することができる。特に、生体内留置物1の形状がらせん形状、不織布構造、三次元構造である場合は、治療の標的部位の組織への定着率および適合性が上がり、治療効果を高めることが可能となる。また、生体内留置物1の形状を治療の標的部位の組織に合わせて適した形状とすることによって、治療時間を短縮することができる。
【0041】
図示していないが、生体内留置物1の遠位端は半球状または半楕円球状に形成されていることが好ましい。生体内留置物1の遠位端が半球状または半楕円球状に形成されていることにより、生体内留置物1の先端と血管内壁との間での摩擦を低減し、生体内留置物1のデリバリー性能向上、および生体内留置物1の遠位端のデブリ発生の抑制に寄与することができる。なお、デブリとは、生体内留置物1の遠位端が血管壁等に接触した際に発生する、生体内留置物1から崩れて分離した不要物のことをいう。
【0042】
発光物質20は、細胞ファイバー10内に包まれていてもよく、細胞ファイバー10の表面に一部が露出していてもよい。図1および図2に示すように、発光物質20は、細胞ファイバー10の表面に存在していることが好ましい。細胞ファイバー10の表面に発光物質20を配置することにより、生体内留置物1に照射した光が発光物質20に当たりやすくなり、生体内留置物1の発光強度を高めることができる。
【0043】
発光物質20としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)やルシフェラーゼやカルシウム感受性を有するCameleon等の蛍光タンパク質、2’,7’-Dichlorodihydrofluorescin diacetate(DCFH-DA)、BESH、Alexa Fluor(登録商標)、Hoechst(登録商標)、flura、Calcium Green等の細胞浸透性蛍光プローブ等が挙げられる。
【0044】
発光物質20は、酸素の存在下において励起光を照射すると蛍光を発する物質であることが好ましい。発光物質20が酸素の存在下において励起光を照射すると蛍光を発する物質であることにより、生体内留置物1から発せられる蛍光の強度を測定することによって酸素濃度を把握することができる。そのため、細胞ファイバー10を構成する細胞の状態や、治療の標的部位へ生体内留置物1を留置した後の細胞ファイバー10の細胞の状態を容易に確認することができ、治療を効率的に行うことが可能となる。
【0045】
発光物質20は、酸素分子を結合および解離する性質を有する酸素センサータンパク質と、励起光の照射によって蛍光を発する蛍光タンパク質と、を含んでおり、酸素センサータンパク質と蛍光タンパク質は、ポリペプチドリンカーによって結合されていることが好ましい。酸素センサータンパク質は、血液中で酸素を輸送するタンパク質であるヘモグロビンと同じく、ヘムを含むタンパク質であり、環境中の酸素濃度に合わせて酸素分子を結合および解離する性質を有するものである。酸素センサータンパク質のヘム結合領域と蛍光タンパク質をポリペプチドリンカーによって結合タンパク質とすることによって、酸素分子を結合したときに酸素センサータンパク質が起こす吸収変化を蛍光タンパク質の蛍光の消失の度合いに変換することができる。発光物質20が酸素センサータンパク質と蛍光タンパク質とがポリペプチドリンカーによって結合されているものであることにより、生体内留置物1が酸素存在下にあるときには酸素センサータンパク質が酸素分子を結合して蛍光タンパク質の蛍光の消光が弱まり、生体内留置物1に光を照射した際に発する蛍光の強度が高まるため、蛍光強度を測ることによって酸素濃度を容易に測定することができる。
【0046】
本発明の第2の生体内留置物1について、以下に説明する。図3は生体内留置物1の模式図を表す。図3において、図の右側が遠位側であり、図の左側が近位側である。なお、本発明の第1の生体内留置物1と同様の構成であるものについては、説明を省略する。
【0047】
図3に示すように、第2の生体内留置物1は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバー10と、機能性材料と、を有しており、機能性材料は、酸素の濃度を測定する酸素センサー30である。生体内留置物1が酸素センサー30を有していることにより、生体内留置物1の内部や周辺部の酸素の濃度を測定することができる。そのため、生体内留置物1を治療の標的部位へ留置する前における細胞ファイバー10を構成する細胞の状態、治療の標的部位に留置した後での細胞ファイバー10を構成する細胞の状態、および治療の標的部位の状態を把握することが可能となり、効率的に治療を行うことができる。
【0048】
酸素センサー30は、細胞ファイバー10に固定されていることが好ましい。酸素センサー30が細胞ファイバー10に固定されていることにより、酸素センサー30と細胞ファイバー10とが一体となる。そのため、治療の標的部位へ生体内留置物1を送達する際や留置後に酸素センサー30が細胞ファイバー10から離脱しにくくなり、治療の標的部位の酸素濃度を十分に測定することが可能となる。酸素センサー30は、細胞ファイバー10内に包まれていてもよく、表面に露出していてもよい。
【0049】
酸素センサー30を細胞ファイバー10に固定するには、例えば、接着剤を用いた接着、係合、連結、結着、結紮、またはこれらの組み合わせ等が挙げられる。また、酸素センサー30が細胞の足場材料を備える構成とし、細胞ファイバー10の培養時に酸素センサー30と共培養することによって、酸素センサー30を細胞ファイバー10に固定することも挙げられる。中でも、酸素センサー30と細胞ファイバー10とを、組織接着剤を用いて固定することが好ましい。組織接着剤としては、例えば、血液製剤の一種であるフィブリノゲンとトロンビンの混合により形成されるフィブリンおよびフィブリン重合体、デキストランやデキストリン、ポリリジン等を用いることができる。酸素センサー30が細胞ファイバー10に接着によって固定されていることにより、酸素センサー30と細胞ファイバー10との固定を容易に強固なものとすることができる。
【0050】
図3に示すように、酸素センサー30は、細胞ファイバー10の遠位端部に配置されていることが好ましい。細胞ファイバー10の遠位端部に酸素センサー30が配置されていることにより、生体内留置物1を治療の標的部位に送達する際に、治療の標的部位と酸素センサー30との距離が近くなり、治療の標的部位の近辺での酸素濃度を正確に測定することができる。さらに、生体内留置物1の送達時に細胞ファイバー10の遠位端が血管内壁等に接触しにくく、細胞ファイバー10の遠位端が破損することを防止することも可能である。
【0051】
図3に示すように、酸素センサー30は、光を発する発光部31と、発光部31から発せられた光を受ける受光部32と、を有していることが好ましい。酸素センサー30が発光部31と受光部32とを有していることにより、酸素センサー30が所謂パルスオキシメーターとなる。つまり、発光部31から光を発して、受光部32がこの光を受けることによって、血液中にある赤血球に含まれるヘモグロビンのうち酸素と接合しているヘモグロビンを容易に測定することができる。そのため、治療の標的部位の酸素濃度を確認しながら治療が行いやすくなる。
【0052】
生体内留置物1は、酸素センサー30が感知した情報を発信する発信機40を有していることが好ましい。生体内留置物1が発信機40を有していることにより、酸素センサー30が感知した情報を基に、酸素の濃度を容易に把握することができる。
【0053】
発信機40としては、例えば、電波を用いて通信を行うものが挙げられる。中でも、Bluetooth(登録商標)機能を備えている発信機40であることが好ましい。発信機40がBluetooth(登録商標)機能を備えていることにより、生体内留置物1を治療の標的部位へ留置した後に、酸素センサー30が感知した酸素濃度等の生体内留置物1が得た情報をすぐに受信することができ、治療の標的部位の状態を即時に確認することが可能となる。
【0054】
図示していないが、酸素センサー30および発信機40は、電源を有することが好ましい。酸素センサー30および発信機40の電源としては、例えば、ペースメーカー等に使用されているバッテリー等が挙げられる。また、酸素センサー30および発信機40が電源を有していない場合、無線給電を用いて酸素センサー30や発信機40を外部機器(図示せず)と電気的に接続してもよい。無線給電は、電磁誘導式、磁界共振式等の非放射型、マイクロ波式等の放射型等が挙げられる。中でも、無線給電としては、非放射型であることが好ましい。
【0055】
また、図示していないが、生体内留置物1は、酸素センサー30とは異なる種類のセンサーを有していてもよい。酸素センサー30とは異なる種類のセンサーとしては、例えば、温度センサー、圧力センサー、測距センサー等が挙げられる。生体内留置物1が複数の種類のセンサーを有していることにより、生体内留置物1の留置前や留置後において、生体内留置物1が含んでいる細胞の状態や、生体内留置物1の留置後における治療の標的部位の周辺の状態に関係する様々な情報を得ることができる。その結果、治療の効率を高めることや治療時間の短縮を図ることができる。
【0056】
本発明の第3の生体内留置物1について、以下に説明する。図4は生体内留置物1の模式図を表し、図5は生体内留置物1のV-V断面図を表し、図6は生体内留置物1のVI-VI断面図を表す。図4において、図の右側が遠位側であり、図の左側が近位側である。なお、本発明の第1の生体内留置物1および第2の生体内留置物1と同様の構成であるものについては、説明を省略する。
【0057】
図4図6に示すように、第3の生体内留置物1は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバー10と、機能性材料と、を有しており、機能性材料は、イオンチャネルタンパク質であるTRPA1(50)である。TRPA1(50)は、酸素が高濃度および低濃度である状態において活性化・開口し、イオン電流を生じる。このイオン電流を測定することによって、生体内留置物1内や周囲の酸素の濃度が高い状態あるいは低い状態、つまり通常とは異なる酸素濃度であるか否かを判別することができる。そのため、治療の標的部位に生体内留置物1を留置する前における細胞ファイバー10を構成する細胞の状態や、留置した後の細胞ファイバー10を構成する細胞の状態や治療の標的部位の状態を確認することができる。
【0058】
TRPA1(50)は、細胞ファイバー10の表面に存在していることが好ましい。細胞ファイバー10の表面にTRPA1(50)を配置することにより、生体内留置物1の周囲の酸素にTRPA1(50)が反応しやすくなり、生体内留置物1の周辺の酸素濃度の状態について、正確に把握することが可能となる。
【0059】
生体内留置物1は、さらに、電極60を有していることが好ましい。生体内留置物1が電極60を有していることにより、TRPA1(50)が発したイオン電流を容易に測定することが可能となる。
【0060】
図4図6に示すように、電極60は、少なくとも第1電極61と第2電極62とから構成されており、第1電極61が細胞ファイバー10の近位端部の外表面に配置されており、かつ、第2電極62が細胞ファイバー10の遠位端部の内部に配置されている、または、第1電極61が細胞ファイバー10の近位端部の内部に配置されており、かつ、第2電極62が細胞ファイバー10の遠位端部の外表面に配置されていることが好ましい。つまり、細胞ファイバー10の近位端部に位置している第1電極61と、細胞ファイバー10の遠位端部に配置されている第2電極62のいずれか一方が細胞ファイバー10の内部に配置されており、他方が細胞ファイバー10の外表面に配置されていることが好ましい。第1電極61が細胞ファイバー10の近位端部の外表面に配置されており、かつ、第2電極62が細胞ファイバー10の遠位端部の内部に配置されている、または、第1電極61が細胞ファイバー10の近位端部の内部に配置されており、かつ、第2電極62が細胞ファイバー10の遠位端部の外表面に配置されていることにより、生体内留置物1の遠位端部および近位端部に配置されている第1電極61と第2電極62の電位差を測定することによって、生体内留置物1が有するTRPA1(50)から生じたイオン電流を測定し、酸素濃度を確認することができる。
【0061】
生体内留置物1は、さらに、光の照射によって発光する発光物質20を有していることが好ましい。生体内留置物1が有しているTRPA1(50)から生じたイオン電流の電位の変化は、発光物質20が発する光の強度の変化に比例する。そのため、生体内留置物1がTRPA1(50)と発光物質20の両方を有していることにより、生体内留置物1に光を照射して、生体内留置物1から発せられる光の強度を確認することによって、生体内留置物1や生体内留置物1の周囲の酸素濃度の状態を把握することが可能となる。
【0062】
第1~第3の生体内留置物1において、細胞ファイバー10は、生体内へ留置後に生体組織へ分化する細胞を含む複数の細胞をファイバー状に構成したものであることが好ましい。細胞ファイバー10が生体内へ留置後に生体組織へ分化する細胞を含む複数の細胞をファイバー状に構成したものであることにより、生体内留置物1の留置後、生体内留置物1が治療の標的部位と一体化する。そのため、生体内留置物1の位置がずれにくく、治療を効率的に行うことができる。
【0063】
以上のように、第1の生体内留置物は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、光の照射によって発光する発光物質と、を有しており、第2の生体内留置物は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、酸素の濃度を測定する酸素センサーと、を有しており、第3の生体内留置物は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーと、TRPA1と、を有している。第1の生体内留置物が発光物質を有していることにより、生体内留置物の留置前や留置後に光を照射して、生体内留置物の発光強度を測定することによって、生体内留置物の留置前後の細胞の状態、および生体内留置物を留置する治療の標的部位の環境を把握することができる。第2の生体内留置物が酸素センサーを有していることにより、生体内留置物の留置前における生体内留置物内の酸素濃度、および生体内留置物の留置後における生体内留置物内や治療の標的部位の酸素濃度を測定することが可能である。第3の生体内留置物がTRPA1を有していることにより、生体内留置物の留置前や留置後にTRPA1から生じるイオン電流を測定することによって、生体内留置物の留置前の生体内留置物内の酸素濃度、および生体内留置物の留置後の生体内留置物内や治療の標的部位の酸素濃度を確認できる。
【0064】
本願は、2019年6月27日に出願された日本国特許出願第2019-119549号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年6月27日に出願された日本国特許出願第2019-119549号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【符号の説明】
【0065】
1:生体内留置物
10:細胞ファイバー
20:発光物質
30:酸素センサー
31:発光部
32:受光部
40:発信機
50:TRPA1
60:電極
61:第1電極
62:第2電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6