IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カウンスィル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチの特許一覧

<>
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図1
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図2
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図3
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図4
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図5
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図6
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図7
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図8
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図9
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図10
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図11
  • 特許-燃料電池膜用組成物、及びその調製方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】燃料電池膜用組成物、及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1051 20160101AFI20240704BHJP
   H01M 8/1025 20160101ALI20240704BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20240704BHJP
   H01M 8/1067 20160101ALI20240704BHJP
   H01M 8/1081 20160101ALI20240704BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20240704BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240704BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20240704BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20240704BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240704BHJP
【FI】
H01M8/1051
H01M8/1025
H01M8/1039
H01M8/1067
H01M8/1081
C08J3/12 CEW
C08J3/12 CEZ
C08J3/12 Z
C08J5/18 CEP
C08L1/00
C08L27/12
H01M8/10 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021570137
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(86)【国際出願番号】 IN2020050470
(87)【国際公開番号】W WO2020240585
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】201911020868
(32)【優先日】2020-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】596020691
【氏名又は名称】カウンスィル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
【氏名又は名称原語表記】COUNCIL OF SCIENTIFIC & INDUSTRIAL RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャンムガナサン、カドヒラヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ラム、ファルサ
(72)【発明者】
【氏名】レレ、アシッシュ・キショレ
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102738494(CN,A)
【文献】特開2019-077753(JP,A)
【文献】Gao-peng Jiang et al,Bacterial nanocellulose/Nafion composite membranes for low temperature polymer electrolyte fuel cells,Journal of Power Sources,ELSEVIER,2014年09月30日,Vol.273,pp.697-706,http://dx.doi.org/10.1016/j.jpowsour.2014.09.145
【文献】Quan Xu et al.,Polydopamine-coated cellulose microfibrillated membrane as high performance lithium-ion battery separator,RSC Advances,Royal Society of Chemistry,2013年11月28日,vol.4,pp.7845-7850,DOI:10.1039/c3ra45879b
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
C08J 3/00- 3/28
C08J 5/20- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池膜用組成物であって、
ナフィオン(登録商標)、及びポリドーパミン被覆セルロースナノファイバーを含み、前記ポリドーパミン被覆セルロースナノファイバーは、前記ナフィオン及び前記ポリドーパミン被覆セルロースナノファイバーの合計の重量に基づいて3~7.5重量%であり、セルロースナノファイバー上のポリドーパミン被覆がセルロースナノファイバーの重量に対して10~12重量%であり、前記ナフィオンはスルホン化テトラフルオロエチレンベースのフルオロポリマー-コポリマーである、燃料電池膜用組成物。
【請求項2】
前記組成物が、30℃~90℃の温度において、66.4~125.3mS/cmの範囲のプロトン伝導率を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、前記ナフィオン及び前記ポリドーパミン被覆セルロースナノファイバーの合計の重量に基づいて、前記ポリドーパミン被覆セルロースナノファイバーを3重量%含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
a) 洗浄されたコットンラグ片を10%水酸化ナトリウム溶液で、次いで脱イオン水[DI]で処理し、得られたコットンラグを酢酸緩衝液及び1.5重量%次亜塩素酸ナトリウムで漂白した後、バレービーターを用いて精練して細かいパルプにした後、ウルトラフリクションマイクログラインダーで粉砕してコットンラグナノセルロースを得ることにより、コットンラグナノセルロース(CNF)を調製する工程
) 工程[a]で調製したナノセルロース(CNF)2mg/mLを、25℃、500rpmの速度での10~12時間の攪拌及び15~20分間の浴超音波処理の下に、pH 8.5のトリス緩衝溶液に分散させ、次いで、ドーパミン塩酸塩モノマーを、分散したナノセルロース溶液に、ドーパミン:ナノセルロースの1:4~1:1の範囲内の比率で添加し、70~90℃で、20~30時間攪拌し、次いで得られた塊を凍結乾燥して、ポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)を得ることにより、ポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)を調製する工程;
) ナフィオン膜を小片に切断し、イソプロピルアルコールとエチルアルコールとの24:1(v/v)混合物に、25~30℃の範囲内の温度、500rpmの速度で攪拌することにより溶解することにより、ナフィオン溶液を調製する工程;
) 25~30℃の範囲内の温度、500rpmの速度で、周期的な浴超音波処理を伴って、2~3時間攪拌することによって、イソプロピルアルコールとエチルアルコールとの24:1(v/v)混合物中で攪拌、及び超音波処理して、上記の工程[b]から得られたPNCの均質な分散液を調製し、次いで予め分散したPNC溶液を、工程[]で得た予め溶解したナフィオン溶液に添加し、ボルテックスミキシングでよく混合し、30℃の温度、500rpmの速度で攪拌し、その溶液を脱気し、ガラスペトリ皿にキャストして、PNC/ナフィオン膜を得る工程を含み、前記PNC/ナフィオン膜は、前記ナフィオン及び前記PNCの合計の重量に基づいて3~7.5重量%の前記PNCを含み、すべての膜の乾燥状態での厚さは5箇所のランダムな位置で測定し、40~55μmであることが観測される、請求項1に記載の燃料電池膜用組成物の調製方法。
【請求項5】
前記燃料電池膜用組成物の厚さが40~55μmである、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、燃料電池膜用組成物、及びその調製方法に関する。特に、本発明は、熱機械的、及び化学的に安定な高分子電解質膜に関する。より具体的には、本発明は、多官能性ポリドーパミン、及び機械的に強靭なナノセルロースを使用することによる、高分子電解質膜の熱機械的、及び化学的安定性の向上に関する。本発明はさらに、前記高分子電解質膜の調製方法に関する。本発明で開発された膜は、燃料電池、電池、及び他の電気化学デバイス用の固体電解質膜の分野での用途を見出す。
【背景技術】
【0002】
発明の背景、及び先行技術の説明:
高分子電解質膜であるナフィオンは、スルホン化テトラフルオロエチレンベースのフルオロポリマー-コポリマーである。テトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))骨格上にスルホン酸基で終端されたパーフルオロビニルエーテル基の存在は、クラスで最高のナフィオンのイオン特性をもたらす。ナフィオンは、プロトン交換膜(PEM)燃料電池のプロトン伝導体として知られている。ナフィオンは、さまざまなカチオン伝導性をもって製造できる。ナフィオンは、その特性により幅広い範囲の用途がある。ナフィオンは、燃料電池、電気化学デバイス、塩素アルカリ生成、金属イオン回収、水電解、めっき、金属の表面処理、電池、センサー、ドナン透析セル、薬物放出、ガス乾燥又は加湿、及びファインケミカル製造の超強酸触媒に使用される。ナフィオンはまた、多くの分野での理論的可能性(すなわち、これまで試されていない)がよく挙げられる。
【0003】
燃料電池は、水素からクリーンエネルギーを効率的に生成する可能性があるため、今日注目されている。ナフィオンは、電子伝導を防ぐと同時に水素イオン輸送を可能にするため、プロトン交換膜(PEM)燃料電池の膜として知られている。しかし、燃料電池の動作条件は、パーフルオロスルホン酸アイオノマーのラジカル開始分解につながる虞がある。ラジカルは、遷移金属カチオン又は熱の存在下における過酸化水素(酸素の二電子還元から生成される)の分裂によって生成され得る。ラジカル生成の第二の経路は、それぞれ低電流及び高電流での水素又は酸素のクロスオーバーである。ガスのクロスオーバーにより、同じPt電極(カソード、又はアノード)に水素及び酸素が存在し、最終的にラジカルが生成する。この化学的安定性の問題とともに、ナフィオンは高温での熱機械的安定性の問題も抱え、弾性率及び引張強度等の機械的特性は、80℃付近で劇的に低下し始める。
【0004】
プロトン伝導性及び機械的安定性を高めるために、さまざまな複合材料でナフィオン複合膜を製造するいくつかの試みがなされてきた。ジャーナル「RSC Advances 2(2012)8777-8782」に掲載された、R.Kumar、C.Xu、K.Scottによる「高分子電解質燃料電池用の酸化グラファイト/ナフィオン複合膜」というタイトルの記事は、GOベースのナフィオン複合膜が、80℃で高いプロトン伝導性を示し、機械的安定性が向上したことを報告している。しかし、膜の熱機械的特性及び化学的安定性に関するどのような情報も提供されていない。
【0005】
ジャーナル「J.Mater.Chem.A、2(2014)3783-3793」に掲載された、H.Y.Li、Y.L.Liuによる「燃料電池の高性能プロトン交換膜用のナフィオン官能化電解紡糸ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)ナノファイバー」というタイトルの記事は、優れたプロトン伝導性、及び機械的安定性を示すPVDF/ナフィオン複合膜を報告しているが、電解紡糸を含むナノファイバーを作る方法は複雑である。
【0006】
ジャーナル「J.Power Sources 273(2015)697-706」に掲載された、G.P.Jiang、J.Zhangらによる「低温高分子電解質燃料電池用のバクテリアナノセルロース/ナフィオン複合膜」というタイトルの記事は、バクテリアセルロース(BC)とナフィオンとを混合し、BC/ナフィオンナノ複合膜を製造することを報告している。ただし、BC/ナフィオン複合膜(質量比1:9)のプロトン伝導性は、30℃、100%相対湿度(RH)でナフィオンよりもわずかに低い。
【0007】
そのため、これまでに報告された先行技術の欠点を考慮して、本発明の発明者らは、プロトン伝導性の向上と共に、熱機械的及び化学的安定性を示すナフィオン複合膜を開発する緊急の必要性が存在することに気付いた。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的:
したがって、本発明の主な目的は、これまでに報告された従来技術の欠点を取り除き、向上したプロトン伝導性を有する、化学的に及び熱機械的に安定な高分子電解質膜を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、ポリドーパミン被覆ナノセルロースを有するナフィオンを含む新規の高分子電解質膜を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、燃料電池膜用の組成物、及びその調製方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、開発された高分子電解質膜の調製方法を提供することである。
【0012】
本発明で使用される頭字語:
【0013】
【表1】
【0014】
発明の概要:
本発明は、ポリドーパミン被覆ナノセルロースとナフィオンとの新規の複合膜、及びその調製方法に関する。
【0015】
一実施形態では、本発明は、ナフィオン及びポリドーパミン被覆ナノセルロースを含む熱機械的に及び化学的に安定な高分子電解質膜を提供し、前記安定性は、ナフィオン中のPNCの濃度に依存する。ナノセルロースファイバー上でのポリドーパミンの酸化重合はPNCをもたらし、溶液混合によるナフィオン中へのPNCのさらなる取り込みは、複合高分子電解質膜であるPNC/ナフィオンをもたらす。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、複合高分子電解質膜であるPNC/ナフィオンの調製方法を提供する。PNC/ナフィオン膜の調製方法は、3つの工程で構成され、A)コットンラグナノセルロースを調製すること;B)ポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)を調製すること;C)PNC/ナフィオン膜溶液を調製し、及び膜をキャストすること含む。この方法は、図12に絵のように描かれている。
【0017】
セルロースナノファイバーの被覆に使用されるポリドーパミンは、ナノセルロースの乾燥重量に対して約10~12重量%の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
(添付図面の簡単な説明)
図1】a)NCのTEM画像、b)CNF、及びPNCのWAXSスペクトル。
図2】リキャスト膜及びナフィオン複合膜の吸水及びイオン交換容量。
図3】a)ナフィオン複合膜の応力-ひずみ曲線、b)複合膜のさまざまな温度にわたる弾性率の変化。
図4】定荷重下での複合膜の寸法安定性、及びその回復、a)及びb)30℃及び60℃での、時間に対するクリープコンプライアンス;c)及びd)30℃及び60℃におけるJmax、及びJres値の比較。
図5】a)膜分解試験前後のリキャスト膜及びナフィオン複合膜のイオン交換容量、b)膜分解試験前後のリキャスト膜及びナフィオン複合膜の引張強度の比較。
図6】膜分解のATR-FTIR分析、a)ピーク下の面積に基づく定量分析、b)及びc)定性分析。
図7】a)、b)分解試験を受けたニート膜及び複合膜の19F CP MAS固体NMRスペクトルの比較、c)それらの定量的安定性。
図8】a)100%相対湿度下でのさまざまな温度におけるリキャストナフィオン膜及びナフィオン複合膜のプロトン伝導率、b)は70℃におけるプロトン伝導率値の違いを示す。
図9】a)ナフィオンのプロトン伝導性に対するポリドーパミン及びナノセルロースファイバーの役割、b)ナフィオンの機械的及び化学的安定性に対するポリドーパミン及びナノセルロースファイバーの役割。
図10】リキャストナフィオン膜及び3重量%PNC/ナフィオン膜の長期化学的安定性、a)引張強度、b)19F CP MAS固体NMR、c)19F CP MAS固体NMRの分解感受性ピーク(-81ppm)の強度比。
図11】60℃、80%RHにおけるリキャストナフィオン膜及びPNC-ナフィオン複合膜のH2/O2シングルセルPEFCの性能。
図12図12は、本発明の方法を絵のように表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明の図、スキーム、及び説明は、本発明の明確な理解に関連する要素を説明するため、簡略化されていることを理解されたい。詳細な説明は、添付の図面、及びスキームを参照して、以下に提供される。
【0020】
本発明は、多官能性ポリドーパミン及び機械的に強靭なナノセルロースをナフィオンと共に用いて、高分子電解質膜の化学的及び熱機械的安定性の向上を提供するものであり、前記安定性は、ナフィオン中のポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)の濃度に依存する。ナフィオン中の3重量%のポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)濃度は、より高いプロトン伝導性と共に、高い化学的、熱機械的及び機械的安定性をもたらす。ナノセルロースファイバー上でのポリドーパミンの酸化重合はPNCをもたらし、溶液混合によるナフィオン中へのPNCのさらなる取り込みは、複合高分子電解質膜であるPNC/ナフィオンをもたらす。
【0021】
本発明はさらに、複合高分子電解質膜であるPNC/ナフィオンの調製方法を提供する。PNC/ナフィオン膜の調製方法は、A)コットンラグナノセルロースを調製する工程;B)ポリドーパミン(PDA)を調製する工程;C)ポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC);D)PDA/ナフィオン、CNF/ナフィオン及びPNC/ナフィオン膜溶液を調製し、膜をキャストする工程を含むこの方法は、図12に絵のように描かれている。
【0022】
より具体的には、ポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)/ナフィオン複合膜の調製方法は、
a)洗浄したコットンラグ片を10%水酸化ナトリウム溶液で、次いで脱イオン水[DI]で処理し、得られたコットンラグを酢酸緩衝液及び1.5重量%次亜塩素酸ナトリウムで漂白した後、精練、及び粉砕して、コットンラグナノセルロースを得ることによってコットンラグナノセルロース(CNF)を調製する工程;
b)ドーパミン塩酸塩モノマー0.5~2mg/mLを、70~90℃で、20~30時間の撹拌下にトリス緩衝液に分散させ、凍結乾燥してポリドーパミン(PDA)を得ることにより、ポリドーパミン(PDA)を調製する工程;
c)工程[a]で調製したナノセルロース(CNF)2mg/mLを、25℃で速度500rpmでの10~12時間の攪拌及び15~20分間の浴超音波処理の下で、pH 8.5のトリス緩衝液に分散させ、次いで、ドーパミン塩酸塩モノマーを、分散したNC溶液に、ドーパミン:NCの1:4~1:1の範囲内の比率で添加し、70~90℃で、20~30時間撹拌し、次いで得られた塊を凍結乾燥して、ポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)を得ることにより、ポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)を調製する工程;
d)ナフィオン膜を小片に切断し、イソプロピルアルコールとエチルアルコールとの24:1(v/v)混合物に、25~30℃の範囲内の温度、500rpmの速度で攪拌することにより、溶解することにより、ナフィオン溶液を調製する工程;
e)25~30℃の範囲内の温度、500rpmの速度で、周期的な浴超音波処理を伴って、2~3時間攪拌することによって、イソプロピルアルコールとエチルアルコールとの24:1(v/v)混合物中で、撹拌、及び超音波処理することによって、上記の工程[a]、[b]、及び[c]から得られたCNF、又はPDA、又はPNCの均質な分散液を調製し、次いで、予め分散したCNF、又はPDA、又はPNC溶液を、工程[d]で得た予め溶解したナフィオン溶液に添加し、ボルテックスミキシングでよく混合し、30℃の温度、500rpmの速度で攪拌し、溶液を脱気し、ガラスペトリ皿にキャストして、3重量%CNF/ナフィオン、又は3重量%PDA/ナフィオン、又は3~7.5重量%PNC/ナフィオン膜を得る工程を含み、すべての膜の乾燥状態での厚さは、ランダムな5箇所で測定し、40~55μmであることが観測される。
【0023】
セルロースは豊富に入手できる生体高分子であり、機械的強度が高く、サトウキビのバガス、コットンラグ、及び木、又はサイザル麻の繊維等の廃棄物から化学的又は機械的処理によって簡単に抽出できる。より具体的には、好ましい実施形態では、商業的供給源から得られたコットンラグがナノセルロース源として使用される。ナノセルロースは、強化用硬質フィラーとしてポリマーの機械的特性を向上させることが知られている。
【0024】
本方法においてナノセルロースを被覆するために使用されるポリマーは、ポリドーパミン、合成メラニン、及びポリマーを含む他のカテコール基からなる群から選択される。より具体的には、好ましい実施形態では、ポリドーパミンが被覆方法に使用される。
【0025】
方法で使用される高分子電解質膜は、ナフィオン、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、プロトン性イオン液体及びプロトン性有機イオン柔粘性結晶からなる群から選択される。より具体的には、好ましい実施形態では、ナフィオン、及びポリベンズイミダゾール(PBI)が使用される。特に好ましい実施形態では、ナフィオンは高分子電解質膜として使用される。
【0026】
セルロースナノファイバーの被覆に使用されるポリドーパミンは、ナノセルロースの乾燥重量に対して約10~12重量%の範囲内にある。ナフィオン複合膜の3重量%、及び7.5重量%PNCの結果は、ナフィオン中のPNC濃度が重要な役割を果たしていることを示す。PNC/ナフィオン複合膜の化学的、機械的、熱機械的安定性は、PNCの濃度によって異なる。PNC/ナフィオン複合膜のプロトン伝導率は、3~7.5重量%のPNCの存在下で15~76%増加する。
【0027】
PNCとの混合は、さまざまな温度における貯蔵弾性率の50~200%の向上を示すことにより、ナフィオンの熱機械的特性に対する効果を示す。PNCネットワークは、一定応力下におけるナフィオンの寸法安定性をも向上させた。3重量%PNC複合膜は、30°、及び60℃で、Jmaxが、約39.9%、及び46.5%の、クリープコンプライアンスの劇的な低下をそれぞれ示す。ポリドーパミンのフリーラジカル捕捉特性も、ナフィオンの化学的安定性を有意に向上させるのに役立ち、これは、19F CP MAS固体NMR、FTIR及び引張試験によって確認された。約125mScm-1のプロトン伝導率が、90℃、100%RHで、3重量%PNC複合膜で実現され、PNC/ナフィオン複合膜が、高分子電解質膜燃料電池(PEMFC)に有用である可能性を示す。プロトン伝導率が、少ない吸水でも維持しているのは、膜に存在するポリドーパミンを介したプロトンホッピングが原因である可能性がある。
【0028】
ナフィオン中のポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)の、1重量%~7.5重量%の範囲内のさまざまな濃度の結果は、3重量%ポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)複合膜が高度な熱機械的及び化学的安定性を有することを示している。したがって、ナフィオン中のポリドーパミン被覆セルロース(PNC)の3重量%及び7.5重量%濃度の結果は、代表的な結果として図に示されている。
【0029】
ナフィオン中のPNCの存在及びナフィオン中のPNCの重量%の全体的な効果、並びに様々な重量%濃度の複合膜に対する温度の影響を、様々な試験を実施して、以下に要約する:
【0030】
1.構造のキャラクタリゼーション:図1aに示すように、ウルトラフリクションマイクログラインディングによってコットンラグから生成されたNC繊維は、20~50nmの範囲内の直径、及び1μmを超える長さを有する。次に、これらの繊維は、ドーパミンのその場重合によって、ポリドーパミンで被覆する。図1bに示すように、NC及びPNCの広角X線散乱(WAXS)は、ポリドーパミン修飾後のセルロースの結晶形態に有意な変化がないことを明らかにした。
【0031】
2.吸水:複合膜の吸水は、リキャストナフィオン膜よりもわずかに低いことがわかる。図2に示すように、リキャストナフィオンは37%の吸水を有するが、3重量%及び7.5重量%のPNC/ナフィオンは、35.2%及び30.5%の吸水をそれぞれ示した。図2に示すように、同様の傾向で、リキャストナフィオン(0.61meqg-1)のIEC値は、3重量%PNC/ナフィオン(0.59meqg-1)、及び7.5重量%PNC/ナフィオン複合膜(0.47meqg-1)よりも高い。
【0032】
3.機械的及び熱機械的安定性:図3aに示すように、3重量%のPNCの添加は、ナフィオンの引張強度を11.5MPaから15.15MPaに増加させた。PNC濃度を7.5重量%までさらに増加させることにより、引張強度が13MPaへわずかに低下したが、リキャストナフィオンより依然として高い。
図3bは、PNCの取り込みが、ナフィオンの熱機械的特性に対し非常に有意な効果を有し、その結果、高温での貯蔵弾性率が200%向上したことを示す。30℃における3重量%PNC/ナフィオン複合膜の貯蔵弾性率は、約540MPaであり、リキャストナフィオンの貯蔵弾性率よりもおおよそ50%高い。図3bは、さまざまな温度にわたる複合膜の弾性率の変化を示す。3重量%PNC/ナフィオン複合膜は、60℃及び90℃の高温において、リキャストナフィオンより70%、及び96%高い弾性率をそれぞれ示す。この向上は、PNCの濃度が高いほど、有意に高く、7.5重量%PNC/ナフィオン複合材料は、755MPa(30℃)、555MPa(60℃)、及び310(90℃)の弾性率を示し、これはリキャストナフィオンよりも、各温度において約150、170、及び200%高い。高温での膜の貯蔵弾性率の向上は、ホットプレスによる触媒層の組み立ての間の熱機械的安定性をもたらし、大量生産における膜電極接合体(MEA)の品質を維持するのに役立つことができる。
【0033】
4.膜の寸法安定性:クリープコンプライアンスが低いほど、膜の寸法安定性は高くなる。図4a及び4bは、リキャストナフィオンが最も高いクリープコンプライアンスを示しており、これは、PNCの投入と共に有意に減少することを示す。最大コンプライアンス(定荷重での最大ひずみ/応力)は、Jmaxとして示され、残留コンプライアンス(Jres)は、荷重を取り除いた後の膜の残留ひずみの尺度である。Jresの値が低いほど、残留ひずみが低く、寸法安定性が高くなることを意味する。図4c及び4dは、リキャストナフィオンが、30℃、及び60℃で、6.62×l0―2、及び1.16のJmaxをそれぞれ有することを示す。3重量%複合膜のJmaxは、30℃及び60℃で、3.98×10―2及び0.62に減少し、これはリキャストナフィオンより約39.9%、及び46.5%低い。3重量%PNC複合膜のJresも、リキャストナフィオンに対して同様の傾向を示す。7.5重量%PNC複合膜は、30°及び60℃で、Jmaxが69.5%及び61.6%のクリープコンプライアンスの劇的な低下をそれぞれ示すが、Jresは、30°及び60℃でそれぞれ69.1%、及び56.7%に低下した。これは、膜の寸法安定性に対するPNCの効果を明確に示す。
【0034】
5.化学的安定性試験/膜分解試験:燃料電池の動作条件によって、フリーラジカルが生成する。これらのラジカルは、ナフィオンの主鎖基、又は側鎖基と反応し膜を分解させる。複合高分子電解質膜の実際の燃料電池用途への適合性を確認するために、これらの膜をフェントン試薬(10ppm Fe2+、3重量%H)に70℃で7日間浸漬した。フェントン試薬の試験条件は、厳しい化学的条件(ラジカルの生成)を提供し、膜の酸化的/化学的安定性を評価するための模擬環境である。膜の性能は、いくつかの重要な試験、すなわち、イオン交換容量測定及び引張試験によって確認する。図5aに示すように、ニート膜のイオン交換容量は劇的に低下したが、複合膜はリキャストナフィオンと比較してIEC値の高い保持を示す。リキャストナフィオンのIEC値は62.3%(0.61から0.23meq/g)低下したが、3重量%及び7.5重量%複合膜は、元の値に対して約16.9%、及び8.5%と、IEC値が非常に穏やかに低下することを示す。図5bは、リキャストナフィオン膜の引張強度は11.5MPaから8.5MPaに低下し、化学的安定性試験前の値よりも約26.1%低いが、複合膜の引張強度は4~8%しか低下していないことを示す。
【0035】
膜の定量及び定性分析は、ATR-FTIR法によって決定し、この方法では、ナフィオンの主鎖及び側鎖が異なる波数で異なるバンドを示す。図6に示すように、分解試験前後のFTIRバンド下の面積比は、膜の化学的安定性を示す。1に近い値は、高い化学的安定性を意味する。バンド1+2及びバンド4は、骨格及び側鎖の両方に対応するが、バンド5はナフィオンの側鎖のみに対応する。リキャストナフィオン膜は、0.92の比率(CF伸縮バンドでは、バンド1+2)を有するが、3重量%膜では、比率は0.99(バンド1+2)であり、リキャストナフィオン膜と比較して、3%複合膜ではCF基がよく保持されていることを意味する。
【0036】
フェントン試験前後の-C-Fバンド(バンド4)のピーク下の面積比は、リキャストナフィオン及び3重量%複合膜において、それぞれ0.76及び0.92である。ナフィオン骨格の側鎖に対応するバンド5では、3重量%複合材料の比率は約1であるのに対し、リキャストナフィオンの比率はわずか0.86である。CF及びCF伸縮ボンドは、ナフィオンの骨格及び側鎖の両方に対応し、これらのバンドの曲線下の面積は、リキャストナフィオンにおいて有意に減少している。しかし、3重量%複合膜の曲線下の面積は、分析下のすべてのバンドでほぼ保持されている。-C-H結合の存在は、分解が骨格にも起こったことを示唆している。図6bは、分解試験後のリキャストナフィオンのATR-FTIRスペクトルであり、2850cm-1及び2930cm-1に2つのバンドを示し、これらは-C-H結合の対称及び非対称伸縮に対応している。これは、ナフィオンの側鎖と骨格の化学的分解を裏付ける。図6cは、3重量%複合膜にはそのようなC-H伸縮バンドがないことを示しており、これはラジカル攻撃に対するPNCの化学的安定化を示す。このように、3重量%複合膜は、リキャストナフィオンよりも優れた化学的安定性を与える。
【0037】
化学的安定性試験の前後のリキャスト膜及び複合ナフィオン膜の19F交差分極マジック角スピニング(19F CP MAS)固体NMRも、ATR-FTIR分析を裏付ける。図7a、及び7bに示すように、両方の膜はナフィオンの特徴的なピークを示し、ナフィオンの側鎖は-81ppm(OCF及びCF)、-117ppm(SF)及び-144(CF)にピークを示す。ナフィオンの骨格ピークは、主鎖における(CF)nに起因する-121ppm及びCF結合に起因する-138.5ppmに現れる。化学的安定性試験後、すべてのバンドの強度が低下する。FTIRスペクトルに見られるように、ナフィオンの-CF結合は分解しやすく、19F NMRスペクトルでは強度が非常に低い。そこで、分解試験前後の側鎖ピークの強度比をとることによって分解を定量化した。図7cに示すように、-81ppm(OCF、及びCF)、-117ppm(SF)及び-144(CF)の強度比は、ナフィオンにおいて0.56、0.69、及び0.82にそれぞれ減少するが、3重量%複合膜は、これらのピークの強度比が0.78、0.83、0.90と高いことを示す。化学的安定性は、PDAが化学的安定性試験中に生成したラジカルを捕捉できるという事実に起因すると考えることができる。このように、複合膜は、ラジカル攻撃に対して向上した化学的耐性を示した。
【0038】
6.プロトン伝導率:100%RH下、さまざまな温度におけるリキャストナフィオン及びPNC/ナフィオン複合膜のプロトン伝導率を図8aに示す。興味深いことに、3重量%PNC/ナフィオン複合膜は、100%RHでの30℃から90℃までにおいて、元のナフィオンより高いプロトン伝導率を示す。ナノセルロースファイバーは、ナフィオン膜内におけるパーコレーションネットワークの形成を助け、ナノセルロース上のPDA被覆は、一つの水素結合部位から別の部位へのホッピングによるプロトン移動を促進し得る多数のキノン基、ヒドロキシル基、及びアミン基の存在によって、プロトン伝導を助ける(図8bに示すように)。30、60及び90℃において、リキャストナフィオンは46.6、77.6、及び94.6mS/cmのプロトン伝導率を有し、3重量%PNC/ナフィオン複合膜では、それぞれ66.4、94.9及び125.3mS/cmに増加した。3重量%PNCは、ナフィオンのプロトン伝導率を、30、60、及び90℃の温度において、それぞれ42、22.5、及び32%向上させた。80℃、100%RHでの3重量%PNC複合膜のプロトン伝導率(122mS/cm)は、同様の条件における従来の複合膜と同等以上である。
【0039】
PNCの濃度が高いほど、リキャストナフィオンよりプロトン伝導性が低下する。このように、PNC/ナフィオンは、他のナフィオン複合膜と同等以上のプロトン伝導性を示すと同時に、高い寸法安定性(クリープが少ない)、及び優れた化学的安定性をも提供する。
【0040】
7.特性を改善するためのPDAの役割:セルロース上のPDA被覆の役割を解明するために、一連の実験を行っている。追加の膜を準備し、それらのプロトン伝導率を測定する(図9a)。3重量%PNC/ナフィオン膜は、リキャストナフィオンと比較したすべての中で、最も高いプロトン伝導率を有する。3重量%CNF/ナフィオン膜のプロトン伝導率はナフィオンと同様であるが、ポリドーパミンを単独でナフィオンに添加することにより、プロトン伝導率がわずかに低下する。長い繊維形状を有するナノセルロースは、プロトン伝導チャネルを形成するのを助け、その表面のポリドーパミン被覆は、グロッタス機構によりプロトン伝導を助ける。このように、ナノセルロース、及びPDAのプロトン伝導基によって提供される機械的安定性は、よりよいプロトン伝導性のために互いに補完し合い、それらを別々に添加することでは達成できない。化学的安定性に対するPDAの役割を証明するため、フェントン試験前後の機械的特性を測定することによって、これらの2つの複合膜を比較する。3重量%PNC/ナフィオン膜は、15.15MPaの高い引張強度を示し、化学的安定性試験後、約4%しか減少しなかった。3重量%CNF/ナフィオン複合膜は、PNC/ナフィオン複合膜と比較して低い引張強度(12.1MPa)を示し、8.6Ma(約28.7%)に減少した。このことは、3重量%PNC膜が、3重量%CNF/ナフィオン複合膜と比較して機械的、及び化学的安定性が高いことを示す。ナフィオンにポリドーパミンを単独で用いると、CNFと比較して補強効果が小さいが、フェントン試験後の機械的安定性を維持するのに役立ち、これは化学的安定性の向上におけるポリドーパミンの役割を明確に示すものであることに注目することが重要である(図9b)。このように、CNFは機械的安定性を高め、PDAは化学的安定性を高める。PDA被覆CNFは、高いプロトン伝導性と共に、機械的及び化学的安定性の向上を実現するのに役立つ。
【0041】
8.リキャストナフィオン及び3重量%PNC/ナフィオン膜の長期化学的安定性:さらに、長期安定性を確認するため、リキャストナフィオン及び3重量%PNC/ナフィオン複合膜をフェントン試薬に70℃で40日間浸漬した。これは、化学的安定性に対する模擬及び加速試験条件であり、燃料電池の通常の動作条件下で、膜がはるかに優れて機能することが期待され得ることを意味する。3重量%PNC/ナフィオン複合膜の機械的特性は有意に維持された(引張強度は、15.15MPaから14.3MPaへ、わずか5.6%低下したにすぎない)が、リキャストナフィオンの引張強度は40日後に11.5MPaから3.04MPaへ劇的に低下した。(図10a)。
【0042】
これは、ナフィオンが反応性フリーラジカルの存在下において著しい化学分解を受けるのに対し、PNCドープ膜は化学的安定性が向上していることを証明する。これは、固体19F NMR分析によっても確認される。3重量%PNC/ナフィオンの-81ppm(OCF及びCF)、-117ppm(SF2)、及び-144(CF)に近いピークの強度は、リキャストナフィオンと比較して減少が少なかった(図10b)。-81ppm付近のピーク(OCF、及びCF)を選択し、これは、フェントン試薬の曝露に対して最も影響を受けやすい基であることがわかる。リキャストナフィオンのフェントン試験前後のピーク強度比は0.56(7日間の曝露後)であり、これは40日間の曝露後に0.39に減少した。一方、3重量%PNC/ナフィオンのこの比率は、7日間の曝露後に0.78であり、40日間の曝露後には0.62に減少した(図10c)。このことは、3重量%PNC/ナフィオン膜が、70℃で、40日間にわたる加速ラジカル生成条件下で、リキャストナフィオンよりも安定であることを示唆する。
【0043】
9.PEMFC性能評価:リキャストナフィオン、及びPNC-ナフィオン複合膜のシングルセルPEMFCの分極及び電力密度データを図9に示す。リキャストナフィオン及びPNC-ナフィオン複合膜の両方が、約0.9Vの開回路電圧(OCV)を示した。PNC-ナフィオン複合膜を含むPEMFCは、300mA/cmの負荷電流密度で124mW/cm2のピーク電力密度を示した。一方、リキャストナフィオンは、図11に示すように、同様の動作条件下で、233mA/cmの負荷電流密度で102mW/cmのピーク電力密度しか与えなかった。複合膜の高いPEMFC性能は、リキャストナフィオン膜よりも優れたプロトン伝導性に起因する。
【0044】
一般情報:
透過型電子顕微鏡分析:繊維の直径を決定するため、粉砕したセルロース懸濁液をDI水中で0.05mg/mLに希釈した。希釈分散液を30分間超音波処理し、カーボン被覆された銅グリッド上にドロップキャストした。グリッドをフード内で25~30℃で24~36時間乾燥させ、いかなるわずかな水をも除去した。乾燥したグリッドを200kVの加速電圧でTEM分析に供した。
【0045】
広角X線散乱(WAXS)分析:WAXSは、NC及びPNCの結晶性を決定するために行う。これらの分析には、回転陽極銅X線源(波長λ(Cu Kα)=1.54Å)を備えた室温(25℃)Rigaku MicroMax-007HFを、40kV及び30mAで使用する。得られた2-D散乱パターンは、バックグラウンド減算し、Rigaku 2DPソフトウェアを使用して1-Dプロファイルに変換する。散乱強度を2θに対してプロットして、ピークを観察する。
【0046】
FTIR及びNMR分析:減衰全反射-フーリエ変換赤外(ATR-FTIR)分光分析は、NC上のPDA被覆後、及びナフィオンへのPNC添加後のあらゆる化学変化を確認するために、NC、PNC、ナフィオン、及びこれらの複合膜に対して行う。Perkin ElmerのFTIR装置(Spectrum GX Q5000IR)は、減衰全反射モードを使用して、これらの分析に使用する。4cm-1分解能を使用して16回のスキャンを行う。
【0047】
19F交差分極マジック角スピニング(CP MAS)固体NMR分析は、化学的安定性試験の定性的及び定量的効果を分析するために、化学的安定性試験を受ける前後の、リキャストナフィオン及びその複合膜について行う。粉末サンプルは、膜の低温粉砕後、70℃の真空オーブン下、24時間で乾燥することによって調製する。分析は、11.74Tの超伝導磁石、及び4mmX/F/Hマジック角スピニングプローブヘッドを備えたBruker Avance III 500MHz WB分光器を用いて、14kHzで行う。フッ素高出力デカップリング実験(HPDEC)は、Fにはシングル90°励起パルスを、及びプロトンにはデカップリング90°パルスを用いて行う。使用するシングル励起パルス長は、Fについては2.5μsである。HPDECに使用されるプロトンデカップリングパルス長は4.8μsである。各サンプルの遅延時間は、32回のスキャンで1~5秒の間で変化する。
【0048】
吸水の評価:リキャストナフィオン及びナフィオン複合膜の吸水は60℃で評価する。簡単に言えば、真空乾燥した膜をDI水に48時間浸漬する。膜は、水に浸す前後に計量し、それぞれWdry、及びWsoakedとして示す。48時間後、浸漬した膜をDI水から取り出し、ティッシュペーパーの間に静かに置いて表面の水を取り除く。吸水率は次のように計算する:
【0049】
【数1】
【0050】
イオン交換容量試験:イオン交換容量(IEC)は、1gの乾燥膜に存在するイオンのミリ当量の尺度である。膜は飽和NaCl溶液に24時間浸漬し、Hイオンを放出させる。24時間後、フェノールフタレインを指示薬として使用して、膜が浸漬された溶液を0.01NNaOHに対して滴定する。IECは、以下の式を使用して計算される:
【0051】
【数2】
【0052】
ここで、Wdryは膜の乾燥重量、VNaOHは滴定に使用したNaOHの体積、及びCNaOHはNaOHの濃度である。
【0053】
プロトン伝導率の評価:膜の面内のプロトン伝導率は、Pt電極を備えた4つのプローブ伝導率セル(Bekktech、BT-112)を使用する電気化学インピーダンス分光法(EIS)技術によって、さまざまな温度及び相対湿度(RH)において測定する。温度及びRHは、湿度チャンバー(Espec、SH-242)を用いて制御する。EISスペクトルは、ポテンショスタット(Biologic、SP-150)を使用して、1MHz~1Hzの間の周波数の範囲で取得し、膜のプロトン伝導率は、次の式を使用してX軸切片に対応する抵抗値から計算する;
【0054】
【数3】
【0055】
ここで、σは膜のプロトン伝導率(Scm-1);L=0.425cm、2つの白金電極間の固定距離;RはΩ単位での膜抵抗;Wはcm単位でのサンプルの幅;及び、Tはcm単位での膜の厚さである。
【0056】
熱機械的特性:ナフィオン複合膜のクリープ、引張及び熱機械的特性は、米国のTA instrumentのDynamical Mechanical Analyzer(DMA)(RSA3)で試験する。引張測定は、応力-ひずみ挙動を記録するために行う。引張試験のひずみ速度は0.1mm/sである。クリープ実験では、サンプルは一定の力(5N)で保持し、ひずみを時間に対して記録する。60分後、力を取り除き、サンプルを回復させる。最大コンプライアンス(Jmax)、及び残留コンプライアンス(Jres)は、次の式を使用して計算する。
【0057】
【数4】
【0058】
ここで、Smax、及びSは、最大ひずみ、及び力を取り除いた後の時間tでのひずみ、応力はMPa単位である。温度の関数としての複合膜の弾性率は、動的温度ランプ試験を用いて評価する。貯蔵弾性率は、0.05%のひずみ、1Hzの周波数で、2℃/分の温度ランプを使用して、20℃から120℃までの温度の関数として記録される。
【0059】
化学的安定性試験:フェントン試薬は、以前に報告された手順のとおりに調製する。簡単に言えば、10ppmのFe2+イオン溶液を3重量%H中で作る。膜をこの溶液に浸漬し、70℃で7日又は40日間保持する。7日又は40日後、膜を熱DI水に移して洗浄し、続いて真空オーブンで乾燥させる。乾燥した膜は、引張試験、吸水、IEC測定、FTIR、及び19F固体NMR分析に使用する。
【0060】

以下の例は、説明のためにのみ与えられており、したがって、いかなる方法でも本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0061】
材料源:ドーパミン塩酸塩はSigma Aldrichから調達する。水酸化ナトリウム(NaOH)、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、酢酸、トリス緩衝液として一般に知られるトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、イソプロパノール(IPA)、エタノール(EtOH)、硫酸鉄七水和物(FeSO、7HO)、フェノールフタレイン、及び塩化ナトリウム(NaCl)は、インドのChemlabから調達する。30%過酸化水素は、インドのMerckから調達する。ナフィオン211フィルムは、米国のIon Power Inc.から調達する。すべての化学物質は、さらに精製することなく、受け取ったままで使用する。
【0062】
例-1:コットンラグナノセルロース(CNF)の調製
ナノセルロースは、化学的方法と機械的方法との組み合わせを用いて、コットンラグから抽出した。コットンラグを小片に切断し、脱イオン(DI)水で洗浄した。洗浄したコットンラグ片を60~80℃で、10%NaOHにより処理し、続いてDI水で洗浄した。NaOH処理後、同じ割合の酢酸緩衝液(27gのNaOH及び75mLの氷酢酸を、蒸留水を用いて1000mLに希釈)及び1.5重量%次亜塩素酸ナトリウムを使用することにより、コットンラグを漂白した。この方法は、繊維が白くなるまで(繊維の柔らかさに応じて)複数回繰り返し、その後DI水で洗浄した。漂白されたコットンラグは、バレービーターを使用して精練して細かいパルプにし、次にウルトラフリクションマイクログラインダー(スーパーマスコライダー、日本の増幸)によって粉砕した。静止した砥石車と回転する砥石車との間で高い剪断力を受けたマイクロファイバーパルプは、ナノファイバーに解繊された(TEMで確認した)。最後に、コットンラグナノセルロース(CNF)パルプを必要に応じて凍結乾燥し、多孔質エアロゲルを得た。
【0063】
例-2:ポリドーパミン(PDA)及びポリダーパミン被覆ナノセルロース(PNC)の調製
NC(2mg/mL)1.0gを、10mMトリス緩衝液500mLに25℃で12時間撹拌することによって分散させ、超音波処理を20分間行った。よく分散したNC溶液に、ドーパミン塩酸塩モノマー1.0g(2mg/mL)(NCとの重量比が1:1)を添加した。この反応混合物を80℃で24時間撹拌した。DI水を添加して反応をクエンチした。クエンチした反応混合物をろ過し、無色の上澄みが得られるまでDI水で洗浄した。濾液をDI水に再分散させ、さらなる使用のために凍結乾燥させた。同様の方法で、ドーパミン(2mg/mL)を水に分散させた後、トリス緩衝液を添加して10mMの溶液を作り、ポリドーパミン粒子を合成した。
【0064】
例-3:ナフィオン及びその複合膜の調製
ナフィオン膜を小片に切断し、IPAとEtOHとの24:1(v/v)混合物に溶解した。同様の溶媒混合物中で撹拌、及び超音波処理することにより、CNF又はPDA又はPNCの均一な分散液も得た。約51mgのPNC又はPDA又はCNFを含む分散液をナフィオン溶液(1.65gのナフィオンを含む)に添加して、3重量%ナフィオン複合材料を得た。同様に、7.5重量%PNC/ナフィオン複合材料は、予め分散したPNC127.5mgを、予め溶解したナフィオン1.57gに添加することによって調製した。対照サンプルとして、ナフィオン1.7gをIPA:EtOHの共溶媒混合物に溶解してナフィオン溶液も調製した。すべての溶液を真空下、40℃で脱気して、トラップされた空気を除去した。脱気した溶液を膜キャスト用ペトリ皿に注ぎ、周囲条件で36時間、次に真空下で24時間、溶媒を徐々に蒸発させて、残留溶媒をすべて除去した。すべての膜の乾燥状態での厚さは、5つのランダムな場所で測定し、約40~55μmであることがわかり、乾燥した膜はさらなるキャラクタリゼーションのために使用された。
【0065】
利点:
・ポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)を使用すると、プロトン伝導性を損なうことなく、ナフィオンの熱機械的及び化学的安定性が向上する。
・3重量%PNCは、ナフィオン膜の熱機械的安定性、化学的安定性を有意に向上させるだけでなく、プロトン伝導性も有意に向上する。
・向上した熱機械的特性は、バッテリー及びその他の電気化学デバイスでの使用を可能にする。
・ナフィオンインクは、燃料電池用の触媒インクの調製にも使用される。ナフィオンにPNCが存在すると、炭素担持Pt触媒とナフィオンとの間の良好な界面及びそれ故の触媒の効果的な利用をもたらす。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
ナフィオン、及び3~7.5重量%のポリドーパミン被覆セルロースナノファイバーを含み、セルロースナノファイバー上のポリドーパミン被覆がセルロースナノファイバーの重量に対して10~12重量%である燃料電池膜用組成物。
[2]
前記組成物が、プロトン伝導性、熱安定性、機械的安定性及び化学的安定性において、15~76%の増加を示す、[1]に記載の組成物。
[3]
前記組成物が、セルロースナノファイバー上に被覆されたポリドーパミンを3重量%含む、[1]に記載の組成物。
[4]
a) 洗浄されたコットンラグ片を10%水酸化ナトリウム溶液で、次いで脱イオン水[DI]で処理し、得られたコットンラグを酢酸緩衝液及び1.5重量%次亜塩素酸ナトリウムで漂白した後、バレービーターを用いて精練して細かいパルプにした後、ウルトラフリクションマイクログラインダーで粉砕してコットンラグナノセルロースを得ることにより、コットンラグナノセルロース(CNF)を調製する工程;
b) ドーパミン塩酸塩モノマー0.5~2mg/mLを、70~90℃で、20~30時間の攪拌の下にトリス緩衝液に分散させ、凍結乾燥してポリドーパミン(PDA)を得ることにより、ポリドーパミン(PDA)を調製する工程;
c) 工程[a]で調製したナノセルロース(CNF)2mg/mLを、25℃、500rpmの速度での10~12時間の攪拌及び15~20分間の浴超音波処理の下に、pH 8.5のトリス緩衝溶液に分散させ、次いで、ドーパミン塩酸塩モノマーを、分散したナノセルロース溶液に、ドーパミン:ナノセルロースの1:4~1:1の範囲内の比率で添加し、70~90℃で、20~30時間攪拌し、次いで得られた塊を凍結乾燥して、ポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)を得ることにより、ポリドーパミン被覆ナノセルロース(PNC)を調製する工程;
d) ナフィオン膜を小片に切断し、イソプロピルアルコールとエチルアルコールとの24:1(v/v)混合物に、25~30℃の範囲内の温度、500rpmの速度で攪拌することにより溶解することにより、ナフィオン溶液を調製する工程;
e) 25~30℃の範囲内の温度、500rpmの速度で、周期的な浴超音波処理を伴って、2~3時間攪拌することによって、イソプロピルアルコールとエチルアルコールとの24:1(v/v)混合物中で攪拌、及び超音波処理して、上記の工程[a]、[b]及び[c]から得られたCNF又はPDA又はPNCの均質な分散液を調製し、次いで予め分散したCNF又はPDA又はPNC溶液を、工程[d]で得た予め溶解したナフィオン溶液に添加し、ボルテックスミキシングでよく混合し、30℃の温度、500rpmの速度で攪拌し、その溶液を脱気し、ガラスペトリ皿にキャストして、3重量%CNF/ナフィオン又は3重量%PDA/ナフィオン又は3~7.5重量%PNC/ナフィオン膜を得る工程を含み、すべての膜の乾燥状態での厚さは5箇所のランダムな位置で測定し、40~55μmであることが観測される、[1]に記載の組成物の調製方法。
[5]
前記燃料電池膜の厚さが40~55μmである、[1]に記載の組成物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12