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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】上気道投与用組成物とその投与方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/714 20060101AFI20240704BHJP
   A61K 31/16 20060101ALI20240704BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20240704BHJP
   A61P 39/04 20060101ALI20240704BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
A61K31/714
A61K31/16
A61P39/02
A61P39/04
A61P43/00 121
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022168757
(22)【出願日】2022-10-21
(65)【公開番号】P2023067795
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】63/273,317
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522394546
【氏名又は名称】原創生医股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ORIGINAL BIOMEDICALS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】2F.-1, No. 9, Nanke 2nd Rd., Xinshi Dist., Tainan City 744, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】陳 嘉隆
(72)【発明者】
【氏名】廖 偉全
(72)【発明者】
【氏名】孫 子恵
(72)【発明者】
【氏名】陳 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】王 朝暉
(72)【発明者】
【氏名】顔 暁宝
【審査官】伊藤 基章
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 45/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化物ガスの毒ガス曝露環境下における生存率を向上させる上気道投与用組成物であって、
ヒドロキソコバラミン(Hydroxocobalamin)、及びデフェロキサミン(deferoxamine)を含む、
ことを特徴とする上気道投与用組成物。
【請求項2】
ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化グリセロール(iodinated glycerol)、グリセリルグアヤコール塩(glyceryl guaiacolate)、グアイフェネシン(guaifenesin)、アンブロキソール(Ambroxol)、ブロムヘキシン(Bromhexine)、N-アセチルシステイン(N-Acetylcysteine)及びリゾチーム(Lysozyme)からなる群から選択されている去痰剤を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の上気道投与用組成物。
【請求項3】
イオン水、2次処理水、超純水、または緩衝液を含むキャリアを更に含み、前記緩衝液はリン酸塩、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸、ビシン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリシン、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタン-1-スルホン酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸、3-モルホリノエタンスルホン酸、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、ジメチルアルシン酸、クエン酸三ナトリウム及び2-モルホリノエタンスルホン酸からなる群から選択されている緩衝剤を有していることを特徴とする請求項1に記載の上気道投与用組成物。
【請求項4】
潜在的な高濃度シアノゲン環境に曝される場合の防護及び治療に更に使用されることを特徴とする請求項1に記載の上気道投与用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物に関し、更に詳しくは、火傷の防護及び治療に適用する上気道投与用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
火災現場において、完全燃焼及び不完全燃焼した物品が発生する濃煙中には固体の煙粒子以外、高温で熱分解されることで発生した大量の濃煙及び毒性ガスが更に含まれており、火災現場の作業員、被災者及び近隣住民に対し非常に重大な健康被害を与えることがあった。
【0003】
近年、住宅、オフィスまたは娯楽施設において合成建築材料及び高分子材料が広く使用されており、火災現場での有毒ガスの種類及び数量が大幅に増加している。例えば、アクロレイン、アクリロニトリル、ベンゼン、ホルムアルデヒド、二酸化硫黄、シアン化水素、ダイオキシン及び多環芳香族炭化水素等がある。これら前記有毒生成物は人体に対し直接的または間接的に病変、衰弱、或いは慢性疾患等の不可逆な危害を与える。特にシアン化水素は即効性の劇毒物質であり、シトクロムcオキシダーゼ中の鉄イオンに対する高い親和性を有しているため、人体に進入すると酸素がシトクロムcオキシダーゼと結合不能になり、体内の細胞が酸素を即時獲得できなくなった。
【0004】
従来の Kelocyanor(登録商標)はエデト酸二コバルト塩(Dicobalt Edetate)を採用し、注射形式で個体に投与する。コバルトイオン及びシアン化物は血液中で非常に安定した錯体を形成し、且つ尿液の経路を経て体外に排出される。しかしながら、イオン形態で単独で存在するコバルトは、個体に対し予期不能な毒性を有している。
【0005】
従来の特許文献では、例えば、下記特許文献1には「長期間超シアン化(hypercyanogenesis)した血液中の過量のシアン化水素酸に対するヒドロキソコバラミン溶液を使用した診断及び追跡」と記載されている。チオ硫黄酸ナトリウム及びヒドロキソコバラミンの複合物を使用し、1回まはた複数回筋肉注射を行って血液中のシアン化水素イオン(CN-)の具体的な濃度の趨勢を追跡しており、複数回投与した結果は超シアン化が更に深刻になったことを示しており、慢性疾患の治療には不向きである。
【0006】
また、例えば、下記特許文献2には「シアン化物中毒の治療に用いるヒドロキソコバラミンの新剤形」と記載されている。酸性媒体中の冷凍乾燥ヒドロキソコバラミンを中性塩水溶液中で高速に再溶解し、冷凍乾燥ヒドロキソコバラミンの保存安定性を具体的に改善する。然しながら、主に静脈注射経路を経るため、シアン化物中毒になる環境中に曝され、投与経路が一定程度の制限を受け、環境中で直接投与できず、或いは吸入形式で必要とする個体に摂取させて保護または治療効果を達成させるしかなかった。
【0007】
前述の有毒ガス以外、火災現場の濃煙成分はエアロゾル、粉塵、繊維、ガラス繊維等の他の有害物質を更に含み、これら前記有害物質は現場で救助隊員の生命の安全を脅かすのみならず、被災後に災害検証調査員に対しても同様の危害があり、災害検証時に現場の残骸を動かす際にも降り積もった灰、エアロゾル、粉塵、または繊維等の濃煙物質が空気中に舞い散り、災害検証調査員がこれら前記有害物質を吸入したり接触することで健康被害を及ぼした。
【0008】
「火災調査鑑定標準作業手順」の規定に基づいて火災の現場検証を行う際には、有機ガス、塩素、塩酸、二酸化硫黄黄、硫化水素、二酸化塩素等の大部分の有毒ガスを非常に効果的に濾過可能なキャニスターを装着する必要がある。実際の運用では、キャニスターが塩化水素、シアン化水素及びアクロレイン等の有毒ガスを濾過するのにかかる時間が長く、その防護効果が制限され、且つ調査員が有毒ガスを吸入するリスクが増加した。
【0009】
また、現在火災現場における危険な物質の防護では上述のキャニスターを使用する方法以外、呼吸システム防護装備を装着して物理的に隔絶する手段もある。然しながら、火災現場の濃煙は燃焼で発生したエアロゾル及び有毒ガスの混合物であり、その粒径は一般的に10μm以下であり、現在の物理的防護装備では火災現場の空気中のエアロゾルを完全には濾過できず、濃煙中の固体の微粒子が上気道を更に刺激し、大量の粘液が分泌され、気道を塞いでしまうことがあった。
【0010】
さらに、火災現場において、シアン化物を吸入すると即効性の傷害を負う主因となる以外、高温で熱分解されることで発生したフリーラジカルも同様に人体組織に対し非常に大きな酸化圧力を発生させた。体内のフリーラジカルの数量が正常な範囲を超えると「フリーラジカル連鎖反応」を引き起こし、タンパク質、炭水化物、脂質等の物質が酸化し、且つ新たなフリーラジカルが生成され、連鎖反応を引き起こした。過剰なフリーラジカルが人体の遺伝物質(例えば、DNA)を徐々に破壊し、脂質が過酸化し、プロテアーゼが活性を失い、単球やマクロファージのような免疫細胞が異常な反応を示し、炎症反応等を引き起こし、個体の短期的或いは長期的な健康に深刻な危害を加えた。
【0011】
そこで、本発明者は従来技術では火災現場の煙に含まれる固体及び気体の危険物質の両方から防護することが困難であるという問題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、火災の煙中の固体及び気体の危険物質を除去 (elimination)及び中和(neutralization)する手段を同時に兼ね備えるものを開発し、火災現場にいる作業員の生命と健康を護るのみならず、濃煙による傷害を予防し、吸入した濃煙による傷害を回復(reverse)させ、治療効果を獲得する必要があることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許出願公開第GB1404324号明細書
【文献】アメリカ特許出願公開第5834448号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、上気道投与用組成物とその投与方法を提供することにある。
【0014】
火災現場での濃煙が現場にいる作業員の生命の安全に対し総合的な被害を与えることを鑑み、濃煙中の固体及び気体等の有害物質の排除及び中和を同時に達成するため、本発明者は従来のシアン化物除去手段以外に、新形態の総合的防護及び治療手段を開発した。
【0015】
本発明の一実施態様によれば、火傷の治療及び防護に用いられる上気道投与用組成物が提供される。前記上気道投与用組成物はシアン化物解毒剤及び金属キレート剤を含む。
【0016】
また、本発明に係る組成物において、前記シアン化物解毒剤はヒドロキソコバラミン(Hydroxocobalamin)、エデト酸二コバルト(Dicobalt edetate)、コビナミド(Cobinamide)、アクオヒドロキソコビナミド(Aquohydroxocobinamide)、ジニトロコビナミド(Dinitrocobinamide)、メトヘモグロビン(Methemoglobin)、亜硝酸ナトリウム(Sodium nitrite)、亜硝酸アミル(amyl nitrite)、ジメチルアミノフェノール(dimethyl aminophenol)、チオ硫黄酸ナトリウム(Sodium thiosulfate)及びグルタチオン(glutathione)からなる群から選択されている。
【0017】
また、本発明に係る組成物において、前記金属キレート剤はデフェロキサミン(deferoxamine)、デフェリプロン(deferiprone)及びデフェラシロクス(deferasirox)からなる群から選択されている。
【0018】
また、本発明に係る組成物において、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化グリセロール(iodinated glycerol)、グリセリルグアヤコール塩(glyceryl guaiacolate)、グアイフェネシン(guaifenesin)、アンブロキソール(Ambroxol)、ブロムヘキシン(Bromhexine)、N-アセチルシステイン(N-Acetylcysteine)及びリゾチーム(Lysozyme)からなる群から選択されている去痰剤を更に含む。
【0019】
また、本発明に係る組成物において、イオン水、2次処理水、超純水 または緩衝液を含むキャリアを更に含む。前記緩衝液は、リン酸塩、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸、ビシン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリシン、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタン-1-スルホン酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸、3-モルホリノエタンスルホン酸、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、ジメチルアルシン酸、クエン酸三ナトリウム及び2-モルホリノエタンスルホン酸からなる群から選択されている緩衝剤を有している。
【0020】
また、本発明に係る組成物において、潜在的な高濃度シアノゲン環境に曝される場合の防護及び治療に更に使用される。
【0021】
なお、本発明の別の態様は、気道から投与する方法により、火傷の防護を達成する。ある時点で上述の組成物を必要とする個体に有効量投与し、毒性ガス中に曝された前記必要とする個体が受ける傷害を抑制する。前記時点は前記必要とする個体が毒性ガスに曝される前または曝された後である。
【0022】
また、本発明に係る投与方法において、前記毒性ガスとしてエアロゾル、フリーラジカルまたはシアン化物を含む。
【0023】
また、本発明に係る投与方法において、前記投与経路は生体体液(biological fluid)吸収または粘膜吸収を含む。
【0024】
また、本発明に係る投与方法において、前記必要とする個体は哺乳類を含む。
【0025】
従来のシアン化物を除去する手段は、溶液を注射する投与形式が主であり、例えば、筋肉注射や静脈注射で投与するが、効果が発生するまでの時間が長くかかり、且つ剤形の安定性に不安があり、使用端または製造端にとって克服し難い障害が存在した。さらには、火災現場にはシアン化物中毒のリスク以外にも、エアロゾル及びフリーラジカル等他の傷害要因もあり、同様に先行技術では克服が困難であった。
【0026】
また、シアン化物中毒を容易に発生させる環境としては、特定の職種の作業場を更に含み、例えば、電気めっき、冶金、プラスチック産業等の作業現場であるが、急性中毒以外にも、潜在的にシアン化物中毒を引き起こしかねない環境に長期間曝される作業員についても考慮せねばならない。投与においては、急性中毒期における治療のみならず、これら前記作業場に入る前に中毒の予防効果を達成することも考慮する必要がある。これは先行技術における溶液注射形式では容易に達成できない効果である。
【0027】
本発明に係る上気道投与用組成物とその方法は、急性または慢性シアン化物中毒の治療に適用可能であるのみならず、シアン化物中毒の発生の予防にも適用でき、従来のシアン化物中毒治療が抱える問題を解決する。このほか、金属キレート剤を添加することにより、フリーラジカルの化学的連鎖反応を断ち切り、人体組織の細胞に対する酸化圧力を大幅に緩和する。さらに去痰剤を組み合わせることで、粘液の排出を促進し、上気道を塞いで刺激するエアロゾルを排除し、気道の通りを保持する。
【0028】
以上述べた如く、本発明に係る上気道投与用組成物とその方法は、従来技術の投与形式の制限を克服し、ユーザーが一般的な状況にあるか、火災現場または微量のシアノゲン環境にあるかを問わず、組成物を低用量で高速に体内に進入させ、防護及び治療効果を達成させる。
【0029】
また、本発明に係る上気道投与用組成物は投与段階において現場環境や個体の状態の影響を受けない。必要であれば、霧化形式で個体に吸入させるために供給し、個体の肺を経て吸収されて血液や上気道及び肺胞表面に直接進入して保護層を形成し、火傷の防護及び治療効果を達成すると同時に、急性中毒の応急処置及び長期的に曝される際の予防も達成する。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1A】シアン含有ガス環境用タンクを概略的に示す。
図1B】スプレー投与の方法を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0033】
本発明の一実施態様によれば、火傷の治療及び防護に用いられる上気道投与用組成物が提供される。前記上気道投与用組成物はシアン化物解毒剤及び金属キレート剤を含む。幾つかの実施例において、前記組成物は5乃至10重量部のシアン化物解毒剤及び1乃至5重量部の金属キレート剤を含む。
【0034】
複数の実施例では、シアン化物解毒剤はヒドロキソコバラミン(Hydroxocobalamin)、エデト酸二コバルト(Dicobalt edetate)、コビナミド(Cobinamide)、アクオヒドロキソコビナミド(Aquohydroxocobinamide)、ジニトロコビナミド(Dinitrocobinamide)、メトヘモグロビン(Methemoglobin)、亜硝酸ナトリウム(Sodium nitrite)、亜硝酸アミル(Amyl nitrite)、ジメチルアミノフェノール(dimethyl aminophenol)、チオ硫黄酸ナトリウム(Sodium thiosulfate)及びグルタチオン(Glutathione)からなる群から選択されている。好ましくは、前記シアン化物解毒剤はヒドロキソコバラミン(Hydroxocobalamin)を含む。具体的な例で言えば、これら前記シアン化物解毒剤をシアン化物イオンと配位結合させることで、シアン化物イオンの毒性を中和し、シアン化物イオンと酸素分子が血液細胞中で二価鉄イオン(Fe2+)を奪い合うのを回避する。一例を挙げると、ヒドロキソコバラミン(Hydroxocobalamin、ビタミンB12a)の化学構造の中心部にはコバルト原子(cobalt)を有し、これはシアン化物イオン(CN-)と結合し、シアノコバラミン(cyanocobalamin)を形成し、即ちビタミン B12であり、毒性がなく、水中で体外に排出される。このほか、ヒドロキソコバラミンもミトコンドリアに高速に進入してシアン化物と結合し、細胞の正常な酸化代謝を回復させる。
【0035】
複数の実施例では、前記金属キレート剤はデフェロキサミン(deferoxamine)、デフェリプロン(deferiprone)及びデフェラシロクス(deferasirox)からなる群から選択されている。好ましくは、前記金属キレート剤はデフェロキサミンを含む。具体的な例で言えば、火災現場では高温で熱分解されたことにより発生した大量のフリーラジカルが人体に吸入された後、体内に既に存在する鉄イオンや銅イオンのような金属イオンとのフェントン反応(Fenton’s Reaction)を発生させ、これにより更に多くのフリーラジカルが発生し、体内の組織や細胞に対し更に大きな酸化圧力を生じ、フリーラジカル損傷(free radical damage)を引き起こした。フリーラジカルによる傷害の排除を達成させるため、前記組成物中に含まれる金属キレート剤は、例えばデフェロキサミンであり、フリーラジカルと血液中の鉄イオンを奪い合い、フリーラジカルの連鎖反応を阻害し、酸化圧力の影響を受けないように細胞を保護する。
【0036】
さらに、ユーザーが吸入したエアロゾル等の危険物質を前記組成物が効果的に除去する場合、上気道には刺激により発生した過多の粘液が分泌されているため、前記組成物がヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化グリセロール(Iodinated glycerol)、グリセリルグアヤコール塩(Glyceryl guaiacolate)、グアイフェネシン(Guaifenesin)、アンブロキソール(Ambroxol)、ブロムヘキシン(Bromhexine)、N-アセチルシステイン(N-Acetylcysteine)及びリゾチーム(Lysozyme)からなる群から選択されている去痰剤を更に含む。好ましくは、前記去痰剤はN-アセチルシステインを含む。複数の実施例では、前記組成物は5乃至10重量部のシアン化物解毒剤と、1乃至5重量部の金属キレート剤と、及び5乃至10重量部の去痰剤と、を含む。
【0037】
具体的には、去痰剤はジスルフィド結合を破壊して痰の粘度を低下させ、痰の排出効果を促進する。N-アセチルシステイン(Acetylcysteine)を例とすると、スルフヒドリル基(-SH)を有し、硫黄原子が大きな3s/3pで組成された混成軌道を有しているため、水素が小さな1s軌道結合であり、硫黄-水素結合が弱いため酸化し易く、硫黄原子が孤立電子対を曝露し、孤立電子対がジスルフィド結合を還元すると共にこれを断裂し、痰の粘度を低下させる。また、例えば、ブロムヘキシン(Bromhexine)は、気管支を刺激して粘液を分泌させると共に粘液を更に溶解し、粘度を低下させ、且つ繊毛上皮を活性化して粘液の排除効果を達成させる。なお、例えば、アンブロキソール(Ambroxol)は、ブロムヘキシンの活性代謝物であり、同様に粘液の排除を促進し、分泌物を溶解する特性を有し、気道内部の粘液の排除を加速すると共粘液の滞留を減少させ、痰の排出を促して呼吸状態を改善する。同様に、例えば、リゾチーム(Lysozyme)は、天然の抗菌酵素であり、涙や唾液等の人体の分泌物中に存在し、リゾチームタンパク質配列の35番目に配列されているグルタミン酸(Glu35)及び52番目に配置されているアスパラギン酸(Asp52)の側鎖により、基質の炭素-酸素結合を剪断し、粘液を更に熱分解して痰の排出を促進する。粘液の熱分解作用メカニズム以外、部分的な去痰剤は上気道の表面細胞を刺激し、例えば、肺呼吸上皮細胞 (respiratory epithelium cells)を刺激することで、痰の高速排出効果を達成している。また、例えば、グリセリルグアヤコール塩(Glyceryl guaiacolate)は、気管支の分泌細胞を直接刺激すると共に個体自身の反射作用も刺激して痰を希釈する。
【0038】
本実施例では、前記組成物はキャリアを更に含み、前記組成物が多種類の異なる剤形で有効成分を搭載して人体に進入する。前記剤形はスプレー剤、吸入剤、滴剤でもよく、これらに限られない。また、吸入剤は定量式吸入剤、スプレー式吸入剤、または乾燥粉末吸入剤等でもよい。前記キャリアは有効成分に対し適度な溶解度を有している溶剤または溶液であればよく、特別な制限はない。複数の実施例では、前記キャリアはイオン水、2次処理水、超純水または緩衝液を含み、前記緩衝液はリン酸塩、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸、ビシン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリシン、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタン-1-スルホン酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸、3-モルホリノエタンスルホン酸、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、ジメチルアルシン酸、クエン酸三ナトリウム及び2-モルホリノエタンスルホン酸からなる群から選択されている緩衝剤を有している。
【0039】
複数の実施例では、前記組成物は5乃至10重量部のシアン化物解毒剤と、1乃至5重量部の金属キレート剤と、5乃至10重量部の去痰剤と、60乃至200重量部のキャリアと、を含む。
【0040】
火災現場にいる作業員に使用する以外、揮発性を有するシアン化物は各種の職種の作業場に存在し、現場作業員に対する同様の危険性を孕んでいる。シアン化水素を例にすると、摂氏28度以上の環境中で容易に揮発すると共に水に溶解し、シアン化水素はシアン配糖体により空気中に放出される。シアン配糖体は幾つかの商品作物の天然成分であり、例えば、苦杏仁、モロコシ、タピオカ、ライマメ、核果、或いは筍等の天然成分である。タピオカを例にすると、その根にはリノレン酸酵素を含み、シアン配糖体を熱分解してシアンアルコールを放出し、シアンアルコールは低酸度環境下で解離してシアン化水素を発生させ、最終的にタピオカの加工作業環境のシアノゲン濃度を上昇させる。そこで、本発明に係る上気道投与組成物は、上述の潜在的な高濃度シアノゲン環境に曝された場合の防護及び治療について、同様に積極的な作用を達成し、これら前記作業環境にいる作業員に対する労働災害を軽減する。前記潜在的な高濃度シアノゲン環境はシアン配糖体を含むタピオカ、モロコシ、核果等の作物の加工作業以外、撮影作業、電気めっき作業、硫化水素の製造作業、燻蒸剤の作業、薬品製造業、製紙作業、染料の作業、殺鼠剤の作業、殺虫剤の作業、高炉ガスの製造作業、シアン化物の製造作業、硝酸の製造作業、ゴムやプラスチックの作業、合成繊維の作業、皮革の作業、農薬の作業、金銀加工作業、金属表面の硬化作業、繊維に紺青を加刷する作業、冶金作業、骨格からリン酸を抽出する作業、有機窒素化合物の作業、ソーダの製造作業、金メッキ作業、生物化学兵器の製造作業、照明用ガスの製造作業、或いはニトロセルロースの燃焼作業なども挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
さらに、前記キャリアへの有効成分の溶解度を高めるため、前記組成物はpH調整剤を更に含み、前記組成物が弱酸性を呈するように調節する。好ましくは、前記組成物のpH 値を7乃至9の間の範囲に調節し、より好ましくは、pH値を7.5乃至8.5の間の範囲に調節する。例えば、前記pH調整剤は、クエン酸、酢酸、リン酸、炭酸、塩酸、酒石酸、マレイン酸、または水酸化ナトリウムであるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明の他の実施態様は気道から投与する方法により、火傷の防護を達成する。ある時点で上述の組成物を必要とする個体に有効量投与し、毒性ガスに曝される前記必要とする個体が受ける傷害を抑制する。前記時点は前記必要とする個体が毒性ガスに曝される前または曝された後である。
【0043】
本実施例では、前記組成物の投与は主に火災現場にいる作業員や長期間潜在的に水素中毒環境に曝される作業員を対象にしている。火災現場の毒性ガスは固体エアロゾル及びガスの混合物であり、ガスはフリーラジカル或びシアン化物等の危険物質を有している。
【0044】
本実施例では、前記投与経路は生体体液(biological fluid)吸収または粘膜吸収を含む。好ましい実施例では、その投与方式は、噴霧器(nebulizer)により前記組成物を霧化し、必要とする個体の鼻口等の経路から吸入させ、上気道中で表層の細胞により前記組成物を直接吸収する方式、或いは前記組成物を組織表面の組織液、粘液等の生体体液に進入させ、保護層を形成し、細胞により有効成分を吸収する方式を含む。こちらの実施例では、表面の生体体液に進入するか粘膜の表層に停留した前記組成物が保護層を形成し、必要とする個体が濃煙の有害物質を吸入した後に表層での中和効果を達成し、血液循環に進入した部分は血液循環中のシアン化物イオンのような有害物質を更に中和し、防護及び治療効果を達成する。他の実施例では、前記組成物が前記去痰剤を含み、前記去痰剤は粘液の粘度を低下させ、肺呼吸の上皮細胞を刺激する等の方式で粘液の体外への排出を促し、吸入されたエアロゾルを除去する。
【0045】
本実施例では、前記必要とする個体は哺乳類を含む、前記哺乳類は、ヒト、猿、マウス、ラット、うさぎ、犬、猫、牛、馬、豚、羊などが挙げられる。ここで留意すべき点は、所謂有効量は各種哺乳類の体型、体重、体表面積、肺容量、肺胞の面積等の基準に基づいて計算する点である。スプレー化された剤形を例にすると、投与対象の肺容量(lung volume)に基づいて必要な用量を計算し、例えば、マウスの肺容量は平均約1mlであるため、十分な量のシアン化物解毒剤で肺胞及び上気道表面を被覆するために、C57BL/6マウスには用量25乃至125mg/ml(mg・L-1)の前記組成物を1乃至2分間繰り返し服用させ、防護または治療効果を獲得する。前述の用量の範囲は個体差を考慮して設定する。一方、成年のヒトを例にすると、少なくとも10乃至30mgのシアン化物解毒剤を体内に進入させる必要があり、成年のヒトは用量50乃至300mg/ml (mg・L-1)の間の範囲の前記組成物を1乃至2分間繰り返し服用することで、上気道がシアン化物、フリーラジカル等の危険物質から傷害を受けないように防護する。
【0046】
上述の投与実施時点について、火災現場にいる作業員を例にすると、火災現場に進入する3乃至5分前に前記組成物を有効量服用することで、シアン化物解毒剤及び金属キレート剤が上気道の組織表面、粘膜層、肺胞組織の表面等の領域に保護層を形成することを予期でき、次いで1乃至2時間以内にシアン化物の中和及びフリーラジカルの生成の阻害等の防護効果を達成し、火災現場にいる作業員が煙を吸入して急性中毒や不可逆な気道の傷害を負う可能性を低下させる。同様に、他の潜在的なシアン化物中毒環境にいる作業員も、作業現場に進入する前に上述の組成物を有効量服用し、或いは作業現場を離れた後に1乃至2時間以内に前記組成物を服用してシアン化物中毒から回復(reverse)させる効果を達成させる。
【0047】
いくつかの具体例では、必要とする個体が50乃至500ppmのシアン化物環境に曝される前に、25乃至125mg/ml(mg・L-1)の用量の前記上気道投与用組成物を投与し、上気道の防護効果及び曝された後の生存率を高める効果を達成させる。他の具体例では、必要とする個体が180乃至460ppmのシアン化物環境に曝される前に25乃至125mg/ml(mg・L-1)の用量の前記上気道投与用組成物を投与し、上気道の防護効果及び曝された後の生存率を高める効果を達成させる。こちらの具体例では、前記上気道投与用組成物は霧化形式で前記必要とする個体に1乃至2分間吸入させてから、必要とする個体がこれら前記シアン化物環境に1乃至45分間曝される。
【0048】
以下、複数の実施例及び実験例を列挙して、本発明の実施方式及びその技術的効果について更に具体的に説明するが、本発明はこれらの要因による如何なる制限も受けない。
【0049】
<マウス生存率試験>
25mlの容量のタンクを用い、タンク中でメラミンスポンジを燃焼させてシアン化物ガスを発生させ、次いで、シリンジを利用してタンク内から50mlのシアン化物ガスを取り出し、1250mlの空のボトル内に希釈したシアン化物ガスを注入すると共に検出装置により検出し、タンク内のシアン化物を実際の濃度に換算した。
【0050】
タンク内のシアン化物の含有量が189.8±5.8ppmに達した場合、30匹のC57BL/6マウスを順番にタンク内に入れ、95%の酸素を2ml注入してC57BL/6マウスの基本的な酸素需要を満たした。図1Aは後続の実験例においてタンクをシアン化物に曝す具体的な例を示す。表1は今回の生存率試験の条件及び初期の試験結果を説明し、C57BL/6マウスのシアン化物の致死量を知り、シアン化物の含有量189.8±5.8ppmの環境において、C57BL/6マウスにシアン化物を30分間、45分間、及び60分間吸入させた後、マウスの死亡率が20%に達したのを観察した後にタンクから取り出し、後続の観察での生存率はそれぞれ62.5%、37.5%、及び0.0%であった。
【0051】
一方、ICRマウスの生存率を試験した。タンク内のシアン化物の含有量が302.8±10.7ppmに達した場合、41匹のICRマウスを順番にタンク内に入れ、95%の酸素を2ml注入してICRマウスの基本的な酸素需要を満たした。表1の下方の欄では生存率試験の条件及び初期の試験結果を説明し、ICRマウスのシアン化物の致死量を知り、シアン化物の含有量302.8±10.7ppmの環境において、ICRマウスにシアン化物を5分間、7.5分間、及び10分間吸入させた後、ICRマウスの死亡率が20%に達したのを観察した後にタンクから取り出し、後続の観察での生存はそれぞれ46.7%、37.5%、及び0.0%であった。
【0052】
<表1>
【0053】
<実施例1>
1mlの無菌水、25mgのヒドロキソコバラミン、及び1mgのデフェロキサミンを混合して上気道投与用組成物を調製する。
【0054】
<実施例2>
1mlの無菌水、125mgのヒドロキソコバラミン、及び5mgのデフェロキサミンを混合して上気道投与用組成物を調製する。
【0055】
<比較例1>
1mlの無菌水に25mgのヒドロキソコバラミンを混合してヒドロキソコバラミン水溶液を調製する。
【0056】
<比較例2>
1mlの無菌水に5mgのデフェロキサミンを混合してデフェロキサミン水溶液を調製する。
【0057】
<実験例1>
実験例1において、対照群及び実験群のC57BL/6マウスをシアン化物の含有量184乃至189.8ppmの環境中に24乃至39分間曝露した後の生存状況を比較し、且つ無菌水、実施例1、実施例2、及び比較例1の処置後のマウスの生存率の上昇効果をそれぞれ計算した。
【0058】
曝露前にマウスを容量1mlのタンク内に放置し、且つ噴霧器により1mlの無菌水を霧化し、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2のマウスに服用させた。図1Bはマウスがスプレー剤を服用する具体的な例を示す。対照群のマウスは霧化した無菌水のみを服用し、実験群のマウスは霧化した実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2をそれぞれ服用する。マウスが各自1乃至2分間服用した後、シアン化物を含むタンク中にマウスを45分間曝露した後、マウスの死亡率が20%に達したのを観察した後にタンクから取り出し、持続的に24時間観察し、実験結果を表2に記録する。
【0059】
表2から分かるように、霧化した実施例1または実施例2を服用したC57BL/6マウスは対照群と比較すると、その生存率がそれぞれ22.0%及び80.0%上昇し、比較例1または比較例2を服用したマウスでは対照群と比べて生存率に顕著な上昇が見られなかった。
【0060】
<表2>
【0061】
<実験例2>
実験例2において、対照群及び実験群のICRマウスをシアン化物の含有量273乃至320ppmの環境中で4.5乃至6分間曝露した後の生存状況を比較し、無菌水、実施例1、比較例1、及び比較例2で処置した後のマウスの生存率の上昇効果をそれぞれ計算した。
【0062】
曝露前に対照群のマウスは霧化した無菌水のみ服用し、実験群のマウスは霧化した実施例1、比較例1、及び比較例2をそれぞれ服用し、その服用の実施方式は実験例1と同じであり、ここでは、その説明を省略する。各自1乃至2分間服用した後、シアン化物を含むタンク中にマウスを5分間曝露した後、マウスの死亡率が20%に達したのを観察した後にタンクから取り出し、持続的に24時間観察し、実験結果を表3に記録する。
【0063】
表3から分かるように、実施例1を服用したICRマウスは対照群と較べて生存率が50.0%上昇しており、比較例1を服用したICRマウスの生存率は対照群と比べて20.0%しか上昇しておらず、比較例2を服用したICRマウスの生存率は対照群と比べて10.0%低下している。
【0064】
<表3>
【0065】
<実験例3>
実験例3において、静脈注射(Intravenous injection、IV)を行った実施例1のICRマウスをシアン化物を含有する環境中に曝露した後の生存状況を観察した。曝露前に対照群のマウスには無菌水のみ注射し、実験群のマウスには0.1mlの実施例1の組成物を注射した後、シアン化物を含むタンク中にマウスを4.5分間曝露し、マウスの死亡率が20%に達したのを観察した後にタンクから取り出し、持続的に24時間観察し、実験結果を表4に記録する。表4から分かるように、静脈注射を行った実施例1のICRマウスは対照群と比較すると生存率が20%しか上昇しておらず、実験例2が達成した効果には程遠い。
【0066】
<表4>
【0067】
<実験例4>
実験例4において、筋肉注射(Intramuscular injection、IM)を行った実施例1のICRマウスをシアン化物を含有する環境中に曝露した後の生存状況を観察した。曝露前に対照群のマウスには無菌水のみを注射し、実験群のマウスには5倍希釈した実施例1の組成物を1ml注射し、その後シアン化物を含むタンク中にマウスを6分間曝露し、マウスの死亡率が20%に達したのを観察した後にタンクから取り出し、持続的に24時間観察し、実験結果を表5に記録する。表5から分かるように、筋肉注射を行った実施例1のICRマウスの生存率は対照群と比べて明確な上昇が見られず、同様に実験例2で獲得した効果も達成できていない。
【0068】
<表5>
【0069】
<実験例5>
実験例5において、対照群及び実験群のICRマウスをシアン化物の含有量460ppmの環境中に1乃至2分間曝露した後の生存状況を比較し、無菌水及び実施例1の処置後のマウスの生存率の上昇効果をそれぞれ計算した。
【0070】
曝露前に対照群のマウスは霧化した無菌水のみ服用し、実験群のマウスは霧化した実施例1を服用し、その服用の実施方式は実験例1と同じであり、ここでは、その説明を省略する。各自1乃至2分間服用した後、シアン化物を含むタンク中にマウスを5分間曝露し、マウスの死亡率が20%に達したのを観察した後にタンクから取り出し、持続的に24時間観察し、実験結果を表6に記録する。
【0071】
表6から分かるように、無菌水または実施例1のどちらを服用したかによらず、ICRマウスは全てタンクから取り出してから24時間後には生存していなかった。
【0072】
<表6>
【0073】
前述の実験例1乃至4から分かるように、本発明の上気道投与組成物は、霧化処理を経た後にマウスに服用させると、水素化物環境に曝されたマウスの生存率を上昇させ、且つシアン化物解毒剤のみ投与したマウス及びシアン化物解毒剤に金属キレート剤を組み合わせた複合物を投与したマウスに比べて生存率が有効的に上昇している。また、金属キレート剤のみ投与したマウスは生存率が上昇しないのみならず、シアン化物環境に曝された後のマウスの生存率が低下し、これはシアン化物環境にあるマウスに対する防護効果に悪影響があることを示している。以上が実験の説明であり、本発明に係る上気道投与組成物は、シアン化物解毒剤のみでも防護及び治療効果を達成するのみならず、更に金属キレート剤を組み合わせた複合剤形により、シアン化物環境に曝されたマウスに対する防護及び治療効果が更に顕著に上昇している。
【0074】
本発明に係る上気道投与用組成物とその投与方法は、従来技術による溶液注射の制限を克服し、霧化方式で個体に吸入させることができる。個体の血液循環に高速に進入させるのみならず、一般的な状況、火災現場または微量のシアノゲンが散布された環境にいる個体にも使用可能である。さらに、低用量の条件で火災現場の煙による傷害から個体を防護し、シアン化物を中和してユーザーが急性酸素欠乏に陥るのを回避するのみならず、フリーラジカルが人体に進入した後の連鎖反応も阻害し、人体に対する過酸化圧力を低下させ、肺組織及び上気道の完全性を保持し、上気道や肺胞の表面に保護層を形成し、煙中の危険物質が人体に侵入しないように隔絶する。換言すれば、本発明の組成物は火災現場や潜在的なシアン化物中毒環境に曝される前に、ユーザーが先行して吸入することで上気道を保護し、前述の危険な環境に曝された後にも本発明の組成物は体内に高速に進入してシアン化物の中和及びフリーラジカルの連鎖生成の阻害を達成する。さらには、粘膜が煙中に含まれるエアロゾルを体外に排出するのを促進し、同時に急性中毒の応急処置及び曝露前の予防等の積極的な効果も兼ね備えている。
【0075】
本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施することができる。そのため、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。更に、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
図1A
図1B