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特許7514900タンパク質ジスルフィド結合の還元の防止
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】タンパク質ジスルフィド結合の還元の防止
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/08 20060101AFI20240704BHJP
   C07K 1/113 20060101ALI20240704BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
C12P21/08
C07K1/113
C07K16/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022175408
(22)【出願日】2022-11-01
(62)【分割の表示】P 2018558654の分割
【原出願日】2017-05-09
(65)【公開番号】P2023011805
(43)【公開日】2023-01-24
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】62/334,136
(32)【優先日】2016-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アフジャ,サンジーブ
(72)【発明者】
【氏名】チュン,ワイ,キーン
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドバーグ,デボラ,スウィート
(72)【発明者】
【氏名】ハンドログテン,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ナラン,ソミート
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル,ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】チュ,ミン
(72)【発明者】
【氏名】フダク,スザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ケネス
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジホン
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-533192(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0030022(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0252137(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0116663(US,A1)
【文献】国際公開第2009/009523(WO,A2)
【文献】特表2005-503336(JP,A)
【文献】特表2016-508727(JP,A)
【文献】国際公開第2008/074131(WO,A1)
【文献】特表2010-516251(JP,A)
【文献】Biotechnology and Bioengineering,2010年,Vol.106, No.3,p.452-461
【文献】Equine Veterinary Journal, Clinical Research Abstracts British Equine Veterinari Association Congress,2015年,Vol.47, Suppl.48,p.6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/113
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核細胞培養中の傷のジスルフィド結合含有抗体の収量を増加させるための方法であって、ルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤存在下において、記ジスルフィド結合含有抗体を製造する工程を含み、それにより、無傷のジスルフィド結合含有抗体の量は、ルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の存在下で製造されていない真核細胞培養中の無傷のジスルフィド結合含有抗体の量と比較して、ルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の存在下で製造された前記真核細胞培養中でより多く、グルタチオン還元酵素阻害剤が2-アセチルアミノ-3-[4-(2-アセチルアミノ-2-カルボキシエチルスルファニルチオカルボニルアミノ)-フェニルチオカルバモイルスルファニル]プロピオン酸(2-AAPA)であり、チオレドキシン還元酵素阻害剤がアウロチオグルコース(ATG)である、方法。
【請求項2】
真核細胞培養中の傷のジスルフィド結合含有抗体の収量を増加させることは、真核細胞培養物酸化還元電位のオンライン測定によって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
真核細胞培養中の傷のジスルフィド結合含有抗体の収量の増加は、真核細胞培養物酸化還元電位の測定によってオンラインで監視される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
記ジスルフィド結合含有抗体を含有する前記培養中のグルタチオン還元酵素およチオレドキシン還元酵素の存在を検出する工程と、グルタチオン還元酵素阻害剤およチオレドキシン還元酵素阻害剤を加えて、記ジスルフィド結合含有抗体の還元を緩和する工程とをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記グルタチオン還元酵素およチオレドキシン還元酵素の活性を決定する工程をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記グルタチオン還元酵素およチオレドキシン還元酵素の活性を決定する工程は、
5,5’-ジチオ-ビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)を、前記製造する工程中に得られたサンプルに加える工程と、
前記チオレドキシン還元酵素阻害剤および前記グルタチオン還元酵素阻害を、DTNBを含有する前記サンプルの一部に加える工程と、
前記サンプル中において412nmの波長でDTNBの還元を監視する工程と
を含み、
前記チオレドキシン還元酵素阻害剤および前記グルタチオン還元酵素阻害を用いない前記サンプルにおけるDTNBのより高い還元は、前記チオレドキシン還元酵素および前記グルタチオン還元酵素の活性を示す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
NADPH、酸化型グルタチオン、および緩衝液は、還元を監視する前に前記サンプルに加えられる、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モノクローナル抗体および得られる産物形態の還元に関する。本開示は、無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるための方法、ジスルフィド結合含有タンパク質の還元を緩和するための方法、およびジスルフィド結合含有タンパク質の還元電位を緩和するための方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体(mAb)は、高い親和性および並外れた特異性で広範囲の標的に結合することが可能である。したがって、mAbは、癌、感染症、自己免疫および炎症、心血管疾患、および眼科的疾患を含む広範囲の疾患および病態を処置するように良好に設計されている。臨床におけるmAbは、高い成功率によって急成長しており、ますます重要な種類の治療法となっている。これらの生命を救う分子の増加する需要に応じるために、一貫した製品品質を維持しながら抗体力価を増加させるように設計されたmAbの製造プロセスの開発にかなりの労力が投じられている。抗体力価の急速な増加が過去10年間で達成されており、現行の製造プロセスでは、10g/L超のmAbを生成する。
【0003】
多くのタンパク分子は、適切にフォールディングされ、機能を維持するように、安定した分子間および分子内ジスルフィド結合の形成があって初めて機能する。これらのタンパク分子の例は、免疫グロブリンおよび免疫グロブリンドメインを含有する細胞表面受容体、リボヌクレアーゼ、ラクトアルブミン、インスリン、ケラチン、赤血球凝集素、ウイルス膜タンパク質、神経内分泌タンパク質7B2、上皮成長因子、造雄腺ホルモン、AP-1様転写因子YAP1、アセチルコリン受容体、デンドロトキシン、骨形態形成タンパク質2-A、絨毛性ゴナドトロピン、ヒストンH3、トロンボスポンジン1、ディスインテグリン・チスタチン(disintegrin schistatin)、ヘビC型レクチン(snaclec)ボトロセチン、アセチルコリンエステラーゼコラーゲンテイルペプチド、コングルチンδ-2、酸化還元酵素、硫化物デヒドロゲナーゼ、およびリゾチームである。標準的な抗体分子は、4つのペプチド鎖、2つの重鎖および2つの軽鎖を含む。これらの4つのペプチド鎖は、4つの鎖間にジスルフィド結合を形成することにより、機能的抗体分子内で一緒に適切にフォールディングされる。抗体分子のペプチド鎖内に形成されるジスルフィド結合の数は、抗体サブタイプに応じて変化する。
【0004】
ジスルフィド結合含有タンパク質を内部で固定するジスルフィド結合の還元は、製造中に起こり得る。この問題は、早くも2010年に免疫グロブリンの製造について報告され、その後、業界全体で観察されている(Hutterer et al.,2013,mAbs,5:608-613;およびKao et al.,2010,Biotechnol.Bioeng.,107:622-632)。鎖間ジスルフィド結合の還元は、機能的抗体の損失をもたらし、不活性な副産物を除去するためのより複雑な精製プロセスを必要とする(Mun et al.,2014,Biotechnol.Bioeng.,112(4):734-742)。mAbプロセス開発中、断片および凝集物は、増加した免疫原性および薬効に対する未知の影響に関連するそれらのリスクのため、適切なレベルまで除去された。さらに、これらの不純物の存在は、貯蔵中の製品の安定性にも影響を与え、保存期間の減少につながり得る。
【0005】
タンパク質またはポリペプチドの断片化は、製品の不安定性(Cordoba A.et al.,2005,J.Chrom.B.,818(2):115-21)または細胞内に存在する宿主細胞タンパク質(HCP)によるタンパク質分解活性(Gao et al.,2011,Biotechnol.Bioeng.108(4):977-982)のいずれかに起因し得る一方、凝集は、細胞培養、採取、精製、凍結融解、バイアル充填(vialing)および貯蔵中など、製造プロセス中またはその後の様々な工程で起こり得る。これらの製品品質特性の両方を改善するための複数の手法は、プロセス開発中に実施されることが多い。これらとしては、細胞培養中の断片化または凝集物形成を防ぐようにバイオリアクター条件を最適化すること;細胞溶解を最小限に抑えるように採取条件を最適化すること(Hutchinson N.et al.,2006,Biotechnol.Bioeng.,95(3):483-491);対象とする製品から不純物を分離するための精製プロセス(例えば、イオン交換、疎水性相互作用、および混合モード)にクロマトグラフィーポリシング工程を組み込むこと;および分子の保存期間中の凝集および断片化を最小限に抑えるための製剤開発中の賦形剤スクリーニングが挙げられる。
【0006】
冷却し、酸化的貯蔵環境を提供し、より短い期間にわたって保持し、少なくとも1つの還元阻害剤を加えることを含む様々な手法が製造プロセス中に抗体還元を緩和するのに使用されてきた。過去の報告は、細胞培養物タンパク質製造プロセスにおいて起こる還元がチオレドキシン系のみに起因するものと見なしていた。これらの研究は、チオレドキシン系に対してもはや特異的でない濃度でチオレドキシン系の阻害剤を使用した(Kao et al.,2010,Biotechnol.Bioeng.,107:622-632;Kao et al.,2013、米国特許第8,574,869号明細書)。チオレドキシン系に対してもはや特異的でない濃度でチオレドキシン系の阻害剤を使用することにより、Kaoらは、細胞培養物製造プロセスにおいて起こる還元がチオレドキシン系のみに起因するものと見なし、抗体の還元においてグルタチオン還元酵素系が役割を果たさないことについて言及した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、ジスルフィド結合含有タンパク質の製造または貯蔵中のジスルフィド結合の還元を回避することが必要とされている。製造中のジスルフィド結合含有タンパク質の還元の回避により、その保存期間を通して無傷のタンパク質の安定性を増加させることができる。したがって、ジスルフィド結合の還元を回避し、その保存期間を通して無傷のタンパク質の安定性を増加させることができるジスルフィド結合含有タンパク質のための製造プロセスを開発することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、その保存期間を通して無傷のタンパク質の安定性を増加させるために、ジスルフィド結合含有タンパク質におけるジスルフィド結合の還元を防ぐための方法に関する。この方法は、ジスルフィド結合含有タンパク質の還元を緩和することにより、または製造プロセス中のジスルフィド結合含有タンパク質の還元電位を緩和することにより、精製されたジスルフィド結合含有タンパク質の安定性を改善する。
【0009】
一実施形態において、本開示は、細胞培養物または溶液中の対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるための方法であって、グルタチオン還元酵素阻害剤、チオレドキシン還元酵素阻害剤、またはグルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の両方の存在下において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を製造する工程を含み、それにより、無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の量は、グルタチオン還元酵素阻害剤、チオレドキシン還元酵素阻害剤、またはグルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の存在下で製造された細胞培養物または溶液でより多い、方法に関する。
【0010】
特定の実施形態において、本開示は、製造プロセスにおける対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるための方法であって、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を含有する培養物およびまたは溶液中のグルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素を検出する工程と、グルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素阻害剤を加えて、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元を緩和する工程とを含む方法に関する。特定の実施形態において、本開示は、検出されたグルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素の活性を決定する工程をさらに含む方法に関する。さらなる実施形態において、グルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素の活性を決定する工程は、5,5’-ジチオ-ビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)を、製造プロセス中に得られたサンプルに加える工程と、チオレドキシン還元酵素阻害剤およびグルタチオン還元酵素阻害剤の少なくとも1つを、DTNBを含有するサンプルの一部に加える工程と、サンプル中において412nmの波長でDTNBの還元を監視する工程とを含み、チオレドキシン還元酵素阻害剤およびグルタチオン還元酵素阻害剤の少なくとも1つを用いないサンプルにおけるDTNBのより高い還元は、チオレドキシン還元酵素および/またはグルタチオン還元酵素の活性を示す。特定の実施形態において、NADPH、酸化型グルタチオン、および緩衝液は、還元を監視する前にサンプルに加えられる。
【0011】
一実施形態において、本開示は、プロセス中、細胞外シスチンレベルを0超に維持することにより、細胞培養または発酵プロセスにおける対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるか、または対象とするジスルフィド含有タンパク質の還元電位を低下させるための方法に関する。特定の態様において、対象とする無傷のタンパク質は、細胞培養液(CCF)中に放出される。特定の態様において、このプロセスは、少なくとも2日間、少なくとも8日間、少なくとも10日間、少なくとも12日間、少なくとも14日間、または少なくとも16日間にわたって細胞をCCF中で維持することを含む。
【0012】
本開示の特定の態様において、細胞培養プロセスは、哺乳動物または昆虫細胞培養プロセスであり、および発酵プロセスは、細菌、酵母、または真菌発酵プロセスである。開示される方法の特定の態様において、シスチンレベルは、ジスルフィド結合還元を防ぐために、細胞培養または発酵プロセス中に0超に維持される。特定の態様において、開示される方法において、ジスルフィド結合還元の電位は、有効量のシスチンがCCF中で0超に維持されないプロセスと比べて低下される。
【0013】
一実施形態において、本開示は、対象とする精製されたジスルフィド結合含有タンパク質の安定性を改良するための方法であって、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を、最小の遊離チオールを含む形態に維持する製造プロセスを使用し、それにより、製造プロセス中の対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元または還元電位を緩和する工程を含む方法に関する。本開示のある実施形態において、製造プロセスは、細胞培養段階、採取段階、少なくとも1つの保持段階、精製段階、またはそれらの任意の組合せを含む。本開示のある実施形態において、保持段階は、製造プロセス中の段階のいずれかにおいて材料を貯蔵することを含む。本開示のある実施形態において、保持段階は、採取段階後かつ精製段階前に最大で1時間、最大で1日間、少なくとも4日間、少なくとも1週間、少なくとも10日間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月間、または少なくとも3ヶ月間の期間にわたり、採取された細胞培養液(HCCF)を貯蔵することを含む。本開示のある実施形態において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質中の遊離チオールを最小限に抑える工程は、製造プロセス全体を通してジスルフィド結合還元を緩和することを含む。本開示のある実施形態において、HCCFは、保持段階中、気密性袋中において2~8℃で貯蔵される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】チオレドキシン系およびグルタチオン系の酵素および化学中間体を現す概略図である。Trxは、チオレドキシンであり、GSHは、還元型グルタチオンであり、GSSGは、酸化型グルタチオンであり、Lは、免疫グロブリン軽鎖であり、Hは、免疫グロブリン重鎖であり、NADPH、は還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸である。
図2A-2B】細胞培養物における還元である。図2Aは、キャピラリー電気泳動を用いて評価した、mAb A(菱形)、mAb B(四角形)、およびmAb C(三角形)の小規模生産反応器からの上清サンプル中の無傷の(非還元)抗体パーセントの時間的経過を示す。図2Bは、5,5’-ジチオ-ビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)の還元に基づいた比色分析を用いて測定される、同じ小規模反応器からのサンプルにおいて測定される総還元酵素活性の時間的経過を示す。データは、3連の実験の平均±SDを表す。
図3A-3B】DTNBの還元に基づいた比色分析を用いて測定した際の、還元酵素活性に対する特異的還元酵素阻害剤の影響である。図3A:組み換えTrxR1/Trx1(黒色のバー)、GR/GSSG(灰色のバー)、またはTrxR1/Trx1およびGR/GSSG(斜線のバー)の溶液へのアウロチオグルコース(ATG)、チオレドキシン還元酵素阻害剤の添加である。図3B:組み換えTrxR1/Trx1(黒色のバー)、GR/GSSG(灰色のバー)、またはTrxR1/Trx1およびGR/GSSG(斜線のバー)の溶液への2-アセチルアミノ-3-[4-(2-アセチルアミノ-2-カルボキシエチルスルファニルチオカルボニル-アミノ)フェニルチオカルバモイルスルファニル]プロピオン酸(2-AAPA)、グルタチオン還元酵素阻害剤の添加である。データは、3連の実験の平均±SDを表す。
図4A-4B】抗体の還元に対する特異的還元酵素阻害剤の影響である。図4A:増加する濃度のATGを、精製されたmAb BおよびTrxR1/Trx1(黒色のバー)またはGR/GSSG(灰色のバー)の溶液に加え、室温で一晩インキュベートした後に得られる無傷の(非還元)抗体のパーセントである。図4B:増加した濃度のCu2+を、精製されたmAb BおよびTrxR1/Trx1(黒色のバー)またはGR/GSSG(灰色のバー)の溶液に加え、室温で一晩インキュベートした後の無傷の(非還元)抗体のパーセントである。データは、2連の実験の平均±SDを表す。
図5A-5B】同定された阻害剤に対するCHO還元酵素の感受性である。図5A:阻害剤なし(黒色のバー);0.5μMのATG(灰色のバー);100μMの2-AAPA(斜線のバー);ならびに0.5μMのATGおよび100μMの2-AAPAの両方(白色のバー)を用いて評価される収集された画分のTrxR1およびGR還元酵素活性である。図5B:活性TrxR1およびGR、0.4mMのNADPH、1mMのGSSG、3μMのCu2+、Trx1、および100μMのATGのプールされた画分の様々な組合せを用いた一晩のインキュベーション後の総合した無傷のmAb Bのパーセントである。データは、2連の実験の平均±SDを表す。
図6A-6B】チオレドキシンおよびグルタチオン系の細胞培養物活性である。図6A:0.5μMのATG、100μMの2-AAPA、ならびに0.5μMのATGおよび100μMの2-AAPAの両方の存在下におけるmAb A(黒色のバー)、mAb B(灰色のバー)、mAb C(斜線のバー)、およびmAb D(白色のバー)の小規模生産反応器からの14日目のサンプルの還元酵素活性である。図6B:mAb A(黒色のバー)、mAb B(灰色のバー)、mAb C(斜線のバー)、およびmAb D(白色のバー)の小規模生産反応器からの14日目のサンプルからのサンプルにおける総TrxまたはGR還元酵素活性のパーセントである。データは、3連の実験の平均±SDを表す。
図7】0.1mMのATG、3μMのCu2+、ならびに0.1mMのATGおよび3μMのCu2+の両方が添加されたmAb A(黒色のバー)、mAb B(灰色のバー)、mAb C(斜線のバー)、およびmAb D(薄灰色のバー)の小規模バイオリアクターからの14日目の細胞培養サンプル中に残っている無傷の(非還元)抗体のパーセントである。データは、2連の実験の平均±SDを表す。
図8】超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)アミノ酸分析を用いて測定される、生産バイオリアクター試験BR-A、BR-B、BR-C、およびBR-Dにおけるシステイン/シスチン濃度の時間的経過である。
図9】無傷のmAb B(LHHL)(図9A)および無傷のmAb A(LHHL)(図9B)の量を非精製細胞培養サンプルからのキャピラリー電気泳動によって測定した。無傷の抗体の量は、これらを非精製細胞培養サンプルにおいて測定した際、100%を決して超えないことに留意されたい。黒色の破線で示される閾値細胞培養物酸化還元電位を超えて、鎖間ジスルフィド結合の最小の還元がある。図9における条件は、以下の最終濃度(採取時):0.6~19.6PPMの範囲のZn2+濃度、0.007~5.5ppmの範囲のMn2+濃度、0.12~4.2ppmの範囲のFe3+濃度、0.006~7.9ppmの範囲のSe2+濃度、0.3~6.4ppmの範囲のCu2+濃度、約0~3.5mMの範囲のシスチン濃度、空気飽和の20~75%の範囲の溶存酸素濃度、83~206μMの範囲のβメルカプトエタノール濃度、および1~750μMの範囲のグルタチオン濃度を有していた。
図10】増加した栄養供給を用いた(BR-J2)および用いないBR-J1)条件についてUPLC-アミノ酸分析によって測定されるバイオリアクターシスチン濃度の時間的経過である。
図11】増加した栄養供給を用いた(BR-K-2)および用いない(BR-K-1)条件についてBR-KバイオリアクターのUPLC-アミノ酸分析によって測定されるシスチン濃度の時間的経過である。
図12A-12C】採取された細胞培養液(HCCF)(図12A);捕捉産物(図12B);および最終ポリシング(Final polishing)産物(図11C)の非還元型GX(NR-GX)電気泳動図である。灰色のトレース:参照標準;黒色のトレース:サンプル。
図13】還元が起こった分子の位置において、シスチンの非存在下、または2mMのシスチン、および4mMのシスチンの存在下において、2週間にわたって保持されたHCCFの質量分析定量化から得られる遊離チオールのパーセントである。
図14A-14B】pHを変化させた、遊離チオールおよび凝集の比率の変化である。図14A:HCCFがpH3.2、pH3.4、およびpH3.6でインキュベートされるときの、時間に経過による遊離チオール対IgG濃度の比率の変化である。図14B:HCCFがpH3.2、pH3.4、およびpH3.6でインキュベートされるときの、時間に経過による凝集物の変化である。
図15】シスチンなし(0mM)および4mMのシスチンの存在下で2週間の保持にわたるHCCFの質量分析定量化によって得られる鎖間遊離チオールレベルのパーセントである。
図16】シスチンなし(0mM)および4mMのシスチンの存在下において、直ちに精製されるか、または2週間にわたって保持されたHCCFから生成された精製プロセス中間体のDNTB定量化によって得られる遊離チオールレベルである。
図17-1】図17A-17C。HCCFから生成された製剤化バルク製品についての、時間の経過による凝集物レベルパーセントの変化である。図17A:シスチンの非存在下(0mM)または4mMのシスチンの存在下において、2週間にわたって2~8℃で保持されたHCCFから生成された製剤化バルク製品である。図17B:シスチンの非存在下(0mM)または4mMのシスチンの存在下において、2週間にわたって25℃で保持されたHCCFから生成された製剤化バルク製品である。図17C:シスチンの非存在下(0mM)または4mMのシスチンの存在下において、2週間にわたって40℃で保持されたHCCFから生成された製剤化バルク製品である。
図17-2】図17-1の続きである。
図18A-18C】BRX-L-1(図18A)、BRX-L-2(図18B)BRX-L-3(図18C)から精製されたプロテインA捕捉産物の非還元型GX(NR-GX)電気泳動図である。
図19】14日間の流加プロセスから生成されたmAb A製剤原料の、2~8℃における凝集物パーセントの時間的経過である。
図20】14日間または8日間の流加プロセスから生成されたmAb A製剤原料の、2~8℃における凝集物パーセントの時間的経過である。
図21A-21C】還元電位分析にかけられた試験細胞培養サンプルの末端の非還元型(NR)GXII分析からの電気泳動図である。図21A:14日間の流加プロセスからの細胞培養サンプルである。図21B:8日間の流加プロセスからの細胞培養サンプルである。図21C:追加の銅およびシスチンを用いた14日間の流加プロセスからの細胞培養サンプルである。L=軽鎖;H=重鎖。
図22】原料中に追加の銅およびシスチンを含むおよび含まない培養物からのmAb A製剤原料の、2~8℃における凝集物パーセントの時間的経過である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義
「1つの(a)」または「1つの(an)」実体という用語がその実体の1つまたは複数を指すことが留意される。例えば、「結合分子」は、1つまたは複数の結合分子を表すことが理解される。したがって、「1つの(a)」(または「1つの(an)」)、「1つまたは複数」、および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書において同義的に使用され得る。
【0016】
さらに、本明細書において使用される場合の「および/または」は、他方を伴うかまたは伴わない、2つの特定された特徴または構成要素のそれぞれの具体的な開示として解釈されるべきである。したがって、本明細書における「Aおよび/またはB」などの語句に使用される際のおよび/または」という用語は、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」(単独)、および「B」(単独)を含むことが意図される。同様に、「A、B、および/またはC」などの語句に使用される際の「および/または」という用語は、以下の態様のそれぞれを包含することが意図される:A、B、およびC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;AおよびC;AおよびB;BおよびC;A(単独);B(単独);およびC(単独)。
【0017】
特に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、本開示が関連する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0018】
単位、接頭語、および記号は、それらの国際単位系(SI)承認形態で示される。数値範囲は、範囲を定義する数値の両端を含む。本明細書に示される見出しは、様々な態様または本開示の態様を限定するものではなく、本明細書を全体として参照することによって得られる。したがって、直後に定義される用語は、本明細書を全体として参照することによってより詳細に定義される。
【0019】
本明細書において使用される際、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、単数の「ポリペプチド」または「タンパク質」、ならびに複数の「ポリペプチド」、または「タンパク質」を包含することが意図され、アミド結合(ペプチド結合としても知られている)によって線形に連結されたモノマー(アミノ酸)から構成される分子を指す。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、2つ以上のアミノ酸のいずれか1つまたは複数の鎖を指し、特定の長さの産物を指さず、本明細書において同義的に使用される。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「アミノ酸鎖」、または2つ以上のアミノ酸の1つまたは複数の鎖を指すのに使用される任意の他の用語は、「ポリペプチド」、または「タンパク質」の定義の範囲内に含まれ、これらの用語は、これらの用語のいずれかの代わりにまたはこれらの用語のいずれかと同義的に使用され得る。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、限定はされないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、および公知の保護/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解、または非天然アミノ酸による修飾を含む、ポリペプチドまたはタンパク質の発現後修飾の産物を指すことも意図される。ポリペプチドまたはタンパク質は、生物源に由来するか、または組み換え技術によって産生され得るが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されるわけではない。
【0020】
本明細書において使用される際、「対象とするタンパク質」および「対象とするジスルフィド結合含有タンパク質」という用語は、同義的に使用され、少なくとも1つのジスルフィド結合を含むタンパク質を指す。「対象とするタンパク質」という用語は、タンパク質の活性形態、例えば商業および/または治療目的を達成し得る、タンパク質の適切にフォールディングされた適切に組み立てられた形態を指す。「対象とするタンパク質」は、本明細書において提供される方法に従って製造され得る。対象とするタンパク質は、例えば、抗体もしくはその抗原結合断片またはデコイ受容体タンパク質などの治療用タンパク質であり得る。対象とするタンパク質の「収量を増加させること」は、例えば、その無傷の適切にフォールディングされた適切に組み立てられた形態のタンパク質のより高い割合を維持することにより、商業および/または治療目的を達成し得る無傷の適切にフォールディングされたタンパク質の量を増加させることを意味する。
【0021】
「ポリヌクレオチド」という用語は、単数の核酸ならびに複数の核酸を包含することが意図され、単離された核酸分子または構築物、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、cDNA、またはプラスミドDNA(pDNA)を指す。ポリヌクレオチドは、従来のホスホジエステル結合または非従来的な結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)に見られるものなどのアミド結合)を含み得る。「核酸」という用語は、いずれか1つまたは複数の核酸セグメント、例えばポリヌクレオチドに存在するDNAまたはRNA断片を指す。「核酸配列」は、前述の核酸に見られるヌクレオチドの配列である。
【0022】
「単離」された核酸またはポリヌクレオチドとは、その天然の環境から分離された核酸またはポリヌクレオチドの意図される任意の形態である。例えば、ゲル精製されたポリヌクレオチド、またはベクターに含まれるポリペプチドもしくはタンパク質をコードする組み換えポリヌクレオチドが「単離」されていると見なされ得る。また、クローニングのための制限部位を有するように操作されたポリヌクレオチドセグメント、例えばPCR産物が「単離」されていると見なされる。単離されたポリヌクレオチドのさらなる例としては、緩衝液または生理食塩水などの非天然の溶液中の異種宿主細胞または(部分的にまたは実質的に)精製されたポリヌクレオチド中で維持された組み換えポリヌクレオチドが挙げられる。単離されたRNA分子としては、ポリヌクレオチドのインビボまたはインビトロRNA転写産物が挙げられ、ここで、転写産物は、自然界に見られ得るものでない。単離されたポリヌクレオチドまたは核酸は、合成的に産生されるこのような分子をさらに含む。さらに、ポリヌクレオチドまたは核酸は、プロモーター、リボソーム結合部位、または転写ターミネータなどの調節要素であり得るか、またはそれらを含み得る。
【0023】
本明細書において使用される際、「非天然ポリヌクレオチド」という用語またはその任意の文法的活用形は、「天然」であるか、または「天然」であり得るか、裁判官、または行政もしくは裁判機関によって「天然」であると決定または解釈される核酸またはポリヌクレオチドの形態を明確に除外するが、ただし限定的に除外する条件付きの定義である。
【0024】
「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は、本明細書において同義的に使用され得る。抗体(または本明細書に開示されるその断片、変異体、もしくは誘導体)は、少なくとも重鎖の可変ドメイン(ラクダ類の場合)または少なくとも重鎖および軽鎖の可変ドメインを含む。脊椎動物系統における基礎免疫グロブリン構造は、比較的よく理解されている。特に記載しない限り、「抗体」という用語は、抗体の小さい抗原結合断片から完全サイズの抗体、二重特異的抗体、融合タンパク質、および抗体薬物複合体までの範囲のものをいずれも包含する。完全サイズの抗体は、2つの完全な重(H)鎖および2つの完全な軽(L)鎖を含むIgG抗体、4つの完全な重鎖および4つの完全な軽鎖を含み、任意選択的に、J鎖および/または分泌成分を含むIgA抗体、または10もしくは12の完全な重鎖および10もしくは12の完全な軽鎖を含み、任意選択的に、J鎖を含むIgM抗体であり得る。
【0025】
本明細書に開示される「断片」という用語は、任意の抗体還元種を含む。無傷の抗体は、2つの重鎖および2つの軽鎖(LHHL)を有し;抗体断片は、2つの重鎖および1つの軽鎖(LHH);または2つの重鎖(HH);または1つの軽鎖および1つの重鎖(LH);または1つの重鎖(H);または1つの軽鎖(L)を有し得る。
【0026】
以下により詳細に記載されるように、「免疫グロブリン」という用語は、生化学的に区別され得る様々な広い種類のポリペプチドまたはタンパク質を含む。当業者は、免疫グロブリン重鎖がガンマ、ミュー、アルファ、ベータ、またはイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)およびその中のいくつかのサブクラス(例えば、γ1-γ4またはα1-α2))として分類されることを理解するであろう。抗体の「アイソタイプ」をそれぞれIgG、IgM、IgA、IgG、またはIgEとして決定するのは、この鎖の性質である。免疫グロブリンサブクラス(サブタイプ)、例えばIgG、IgG、IgG、IgG、IgA、IgAなどは、十分に特徴付けられており、機能的分化を付与することが知られている。これらの免疫グロブリンのそれぞれの修飾形態は、本開示を考慮して当業者に容易に認識されるため、本開示の範囲内である。
【0027】
免疫グロブリン軽鎖は、カッパまたはラムダ(κまたはλ)のいずれかとして分類される。各免疫グロブリン重鎖クラスは、共有ジスルフィド結合によってカッパまたはラムダ軽鎖のいずれかと結合され得る。一般に、軽鎖および重鎖は、ジスルフィド結合によって互いに共通結合され、2つの重鎖の「テイル」部分は、免疫グロブリンが例えばハイブリドーマ、B細胞、または遺伝子操作された宿主細胞によって発現される場合、共有ジスルフィド結合または非共有結合によって互いに結合される。重鎖において、アミノ酸配列は、Y配置の分岐末端におけるN末端から各鎖の底部におけるC末端まで延びている。特定の抗体、例えばIgG抗体の基本構造は、本明細書において「H2L2」または「LHHL」構造、または「結合ユニット」とも呼ばれる、「Y」構造を形成するようにジスルフィド結合を介して共有結合された2つの重鎖サブユニットおよび2つの軽鎖サブユニットを含む。
【0028】
「原子価」、「二価」、「多価」という用語および文法的に均等な語は、所与の結合分子または結合ユニットにおける結合ドメインの数を指す。したがって、所与の結合分子、例えばIgM抗体またはその断片に関する「二価」、「四価」、および「六価」という用語は、それぞれ2つの結合ドメイン、4つの結合ドメイン、および6つの結合ドメインの存在を示す。二価または多価結合分子は、単一特異的であり得、すなわち結合ドメインの全てが同じであり、または二重特異的または多特異的であり得、例えば、2つ以上の結合ドメインが異なる場合、例えば同じ抗原上の異なるエピトープに結合するか、または完全に異なる抗原に結合する。
【0029】
「エピトープ」という用語は、抗体への特異的結合が可能な任意の分子決定因子を含む。特定の態様において、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルなどの分子の化学的に活性な表面基を含むことができ、特定の態様において、三次元構造特性およびまたは比電荷特性を有し得る。エピトープは、抗体によって結合される標的の領域である。
【0030】
軽および重免疫グロブリン鎖の両方が構造的および機能的相同性の領域に分けられる。「定常」および「可変」という用語は、機能的に使用される。これに関して、可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)部分の両方の可変ドメインが抗原認識および特異性を決定することが理解されるであろう。逆に、軽鎖(CL)および重鎖(例えば、CH1、CH2またはCH3)の定常ドメインは、分泌、経胎盤移動性、Fc受容体結合、補体結合などの生物学的特性を付与する。慣例により、定常領域ドメインの番号付けは、抗原結合部位または抗体のアミノ末端からより離れるにつれて増加する。N末端部分は、可変領域であり、C末端部分において、定常領域であり;CH3(またはIgMの場合にはCH4)およびCLドメインは、実際に、それぞれ重鎖および軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0031】
抗体またはその抗原結合断片、変異体、もしくは誘導体としては、限定はされないが、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト、ヒト化、またはキメラ抗体、一本鎖抗体、エピトープ結合断片、例えばFab、Fab’およびF(ab’)、Fd、Fvs、一本鎖Fvs(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィドが結合されたFvs(sdFv)、VLまたはVHドメインのいずれかを含む断片、Fab発現ライブラリーによって産生される断片が挙げられる。
【0032】
「特異的に結合する」とは、一般に、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体がその抗原結合ドメインを介してエピトープに結合し、結合が抗原結合ドメインとエピトープとの間のいくらかの相補性を伴うことを意味する。この定義に従い、抗体またはその抗原結合断片が、それがランダムな無関係のエピトープに結合し得るより容易に、それがその抗原結合ドメインを介して該当するエピトープに結合する場合、エピトープに「特異的に結合する」と言われる。「特異性」という用語は、本明細書において、特定の結合分子が特定のエピトープに結合する相対的親和性を特定するのに使用される。例えば、結合分子「A」が、結合分子「B」より所与のエピトープに対して高い特異性を有すると見なすことができ、または結合分子「A」が、それが関連エピトープ「D」に対して有するより高い特異性でエピトープ「C」に結合すると言うことができる。
【0033】
一本鎖抗体または他の結合ドメインを含む抗体断片は、単独でまたは以下:ヒンジ領域、CH1、CH2、CH3、もしくはCH4ドメイン、J鎖、または分泌成分の1つまたは複数を組み合わせて存在し得る。可変領域と、ヒンジ領域、CH1、CH2、CH3、もしくはCH4ドメイン、J鎖、または分泌成分の1つまたは複数との任意の組合せを含み得る抗原結合断片も含まれる。結合分子、例えば抗体またはその抗原結合断片は、鳥類および哺乳動物を含む任意の動物起源に由来し得る。抗体は、ヒト、マウス、ロバ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ラマ、ウマ、またはニワトリ抗体であり得る。別の態様において、可変領域は、起源(例えば、サメ由来)中で軟骨性であり得る。本明細書において使用される際、「ヒト」抗体は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、ヒト免疫グロブリンライブラリーからまたは1つまたは複数のヒト免疫グロブリン導入動物から単離された抗体を含み、ある場合には内因性免疫グロブリンを発現し、ある場合には発現しないことがある。
【0034】
本明細書において使用される際、「重鎖サブユニット」という用語は、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を含み、例えば、重鎖サブユニットを含む抗体は、VHドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、上側、中間、および/または下側ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CH4ドメイン、またはその変異体もしくは断片の少なくとも1つを含み得る。例えば、結合分子、例えば抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体は、限定はされないが、VHドメインに加えて、CH1ドメイン;CH1ドメイン、ヒンジ、およびCH2ドメイン;CH1ドメインおよびCH3ドメイン;CH1ドメイン、ヒンジ、およびCH3ドメイン;またはCH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含み得る。特定の態様において、結合分子、例えば抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体は、VHドメインに加えて、CH3ドメインおよびCH4ドメイン;またはCH3ドメイン、CH4ドメイン、およびJ鎖を含み得る。さらに、本開示に使用するための結合分子は、特定の定常領域部分、例えばCH2ドメインの全てまたは部分を欠き得る。これらのドメイン(例えば、重鎖サブユニット)は、それらがアミノ酸配列中で元の免疫グロブリン分子から変化するように修飾され得ることが当業者によって理解されるであろう。
【0035】
本明細書において使用される際、「軽鎖サブユニット」という用語は、免疫グロブリン軽鎖に由来するアミノ酸配列を含む。軽鎖サブユニットは、少なくともVLを含み、CL(例えば、CκまたはCλ)ドメインをさらに含み得る。
【0036】
前述されるように、様々な免疫グロブリンクラスの定常領域のサブユニット構造および三次元配置は周知である。本明細書において使用される際、「VHドメイン」という用語は、免疫グロブリン重鎖のアミノ末端可変ドメインを含み、「CH1ドメイン」という用語は、免疫グロブリン重鎖の第1の(最もアミノ末端)定常領域ドメインを含む。CH1ドメインは、VHドメインに隣接しており、典型的なIgG重鎖分子のヒンジ領域に対するアミノ末端である。
【0037】
「製造プロセス」という用語は、培養物中で細胞、例えば組み換え細胞を成長させ、使用に適切な形態の培養された細胞によって産生される対象とするタンパク質を得るのに使用される技術を含む。製造プロセスは、限定はされないが、以下の1つまたは複数を含む様々な工程を含み得る:対象とする遺伝子を宿主細胞に挿入して、操作された宿主細胞を産生し、宿主細胞を培養して、いくつかの細胞を膨張させ、宿主細胞による対象とするタンパク質の発現を誘導し、対象とするタンパク質を発現する宿主細胞をスクリーニングし、例えば対象とするタンパク質を、培養された細胞および細胞培地から分離することにより、対象とするタンパク質を採取し、および/または対象とするタンパク質を精製する工程。対象とするタンパク質は、天然細胞によって発現される内因性タンパク質、または(一過性にまたは安定的に)細胞に挿入された発現ベクターにおいてコードされる組み換え異種タンパク質であり得る。
【0038】
本明細書において使用される際、「操作された」という用語は、合成手段による(例えば、組み換え技術、インビトロペプチド合成によるか、ペプチドの酵素もしくは化学カップリングまたはこれらの技術のある組合せによる)核酸またはポリペプチド分子の操作を含む。
【0039】
本明細書において使用される際の「発現」という用語は、遺伝子が、生化学物質(biochemical)、例えばポリペプチドまたはタンパク質を産生するプロセスを指す。このプロセスは、限定はされないが、遺伝子ノックダウンならびに一過性発現および安定発現の両方を含む、細胞内の遺伝子の機能的存在の任意の発現を含む。それとしては、限定はされないが、RNA、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)への遺伝子の転写、およびポリペプチドまたはタンパク質へのこのようなmRNAの翻訳が挙げられる。最終生成物が生化学物質である場合、発現は、その生化学物質および任意の前駆体の生成を含む。遺伝子の発現は、「遺伝子産物」を産生する。本明細書において使用される際、遺伝子産物は、核酸、例えば遺伝子の転写によって産生されるメッセンジャーRNA、または転写産物から翻訳されるポリペプチドもしくはタンパク質のいずれかであり得る。本明細書に記載される遺伝子産物は、転写後修飾、例えばポリアデニル化を有する核酸、または翻訳後修飾、例えばメチル化、グリコシル化、脂質の添加、他のタンパク質サブユニットとの結合、タンパク質分解などを有するポリペプチドおよびタンパク質をさらに含む。
【0040】
本明細書において使用される際、「ジスルフィド結合」、または「ジスルフィド架橋」、または「S-S結合」という用語は、2個の硫黄原子間に形成される共有結合を含む。アミノ酸システインは、第2のチオール基とのジスルフィド結合または架橋を形成し得るチオール基を含む。第2のチオール基は、同じポリペプチドもしくはタンパク質(ジスルフィド内結合)、または異なるポリペプチドもしくはタンパク質(ジスルフィド間結合)における残基の側鎖に見られる。このような結合は、タンパク質生合成中および/またはスルフヒドリル基の酸化、酸化的タンパク質フォールディングと呼ばれるプロセスによって形成される。
【0041】
「ジスルフィド結合含有タンパク質」および「ジスルフィド結合含有タンパク質」という用語は、本明細書において同義的に使用され、その適切にフォールディングされた状態で1つまたは複数のジスルフィド架橋を含むタンパク質を指す。ジスルフィド結合含有タンパク質は、分子間または分子内であるジスルフィド結合を有し得る。このような分子間または分子内ジスルフィド結合は、適切にフォールディングされたジスルフィド結合含有タンパク質中に存在する。ジスルフィド結合含有タンパク質の活性は、ジスルフィド結合の存在および還元状態に依存し得る。免疫グロブリンおよび免疫グロブリンドメインを含有する細胞表面受容体、リボヌクレアーゼ、ラクトアルブミン、インスリン、ケラチン、赤血球凝集素、ウイルス膜タンパク質、神経内分泌タンパク質7B2、上皮成長因子(EGF)、造雄腺ホルモン、硫化物デヒドロゲナーゼ、およびリゾチームなどの多くの分子は、適切なフォールディングに寄与する安定した分子間および分子内ジスルフィド結合の形成により最良に機能する。抗体、EGF、およびインスリンなどの多くの治療用タンパク質は、ジスルフィド結合を含む。ジスルフィド結合還元を増加させる条件下で対象とする治療用タンパク質を製造することにより、対象とする無傷のタンパク質の低い収量が得られる。本明細書に記載されるように、「収量」という用語は、無傷で、活性で、適切にフォールディングされており、ジスルフィド結合の適切な対合を有する、得られる対象とするタンパク質の量を指す。プロセスは、高い全体量の対象とするタンパク質を産生し得るが、ジスルフィド結合のかなりの還元が対象とするタンパク質において起こる場合、無傷のタンパク質の収量は、低くなり得る。
【0042】
「還元タンパク質」という用語は、システインなど、タンパク質構造中の還元性残基を還元するのに十分な還元条件に曝されたタンパク質を意味する。還元タンパク質がチオール基または硫黄含有残基を含む場合、還元タンパク質中のチオール基は、それが還元された状態で存在する。例えば、システイン残基を含む還元タンパク質は、「-SH」として示されることが多い、システイン残基の硫黄原子が還元状態にある状態で存在する。還元タンパク質は、ジスルフィド結合含有タンパク質であり得る。ジスルフィド結合含有タンパク質は、ジスルフィド結合含有タンパク質の不安定化およびジスルフィド結合含有タンパク質の活性または機能の潜在的低下に寄与し得る、ジスルフィド結合含有タンパク質中の1つまたは複数のジスルフィド結合(ジスルフィド架橋)を切断させる還元条件への曝露によって還元タンパク質になり得る。
【0043】
「酸化タンパク質」という用語は、タンパク質構造中の酸化性部分を酸化させるのに十分な酸化条件に曝されたタンパク質を意味する。酸化タンパク質がチオール基または硫黄含有側鎖を含む場合、酸化タンパク質中のチオール基は、それが酸化された状態で存在する。酸化タンパク質は、ジスルフィド結合含有タンパク質であり得る。ジスルフィド結合含有タンパク質は、ジスルフィド結合含有タンパク質中の1つまたは複数のジスルフィド結合(ジスルフィド架橋)を形成させる酸化条件への曝露によって酸化タンパク質になり得る。タンパク質製造中の酸化条件は、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の安定化に寄与し得、適切なフォールディングに寄与し得、ジスルフィド結合含有タンパク質の活性または機能の保持に寄与し得、それにより、製造プロセス中、対象とするタンパク質の収量を増加させることができる。
【0044】
「適切にフォールディングされた」または「無傷のタンパク質」という用語は、タンパク質またはポリペプチドの天然立体配座または天然状態を意味し、これは、その意図される最適な野生型活性を有するタンパク質またはポリペプチドを提供する三次構造を有する。タンパク質生化学物質またはポリペプチドは、生合成中またはその後、フォールディングされてその適切な三次構造になる。タンパク質のミスフォールディングは、機能不全または非機能的タンパク質またはポリペプチドをもたらす。適切なフォールディングをもたらす適切な三次構造は、タンパク質またはポリペプチドの三次構造を安定させるのに役立つ分子間および分子内ジスルフィド結合の形成を含む多くの要因によって制御される。したがって、適切にフォールディングされたタンパク質は、天然形態のタンパク質またはポリペプチドに通常見られるジスルフィド結合を有するものである。
【0045】
「還元電位」という用語は、発現、精製、製剤化および/または包装後のタンパク質の製造プロセス中または貯蔵時間もしくは「保存期間」中の任意の時点で還元を行う対象とする適切にフォールディングされたジスルフィド結合含有タンパク質の傾向を指す。任意の時点における還元電位は、所望の時点で得られたタンパク質サンプルを、酸素の非存在下において、対象とするジスルフィド含有タンパク質の還元を誘導するように、所与の期間(例えば、1時間の一部、1時間、1日の一部(8時間、10時間、または12時間など)、1日、2日、36時間、またはそれを超えて)にわたって真空下で貯蔵することによって測定され得る。次に、サンプルは、非還元条件下でタンパク質断片を分離するように、例えばバイオアナライザを用いて断片化について分析される。
【0046】
「LabChip GXアッセイ」および「GXアッセイ」は、本明細書において同義的に使用される。これらの用語は、LabChip GX II機器およびソフトウェアを用いて抗体および抗体断片を視覚化するように使用されるアッセイに関する。
【0047】
「チオレドキシン系」という用語は、酵素チオレドキシン還元酵素-1(TrxR1)、およびチオレドキシン-1(Trx-1)、および補因子NADPHを意味する。これらの3つの構成要素は、細胞増殖、酸化防止剤防御、および酸化還元シグナル伝達を含む真核細胞機能に必要ないくつかのプロセスを支援するチオレドキシン系を構成する(Lu et al.,2014,Free Radic.Biol.Med.,66:75-87)。
【0048】
「グルタチオン系」という用語は、構成要素グルタチオン、グルタチオン還元酵素(GR)、グルタレドキシン(Grx)、および補因子NADPHを意味する(Lillig et al.,2008,Biochim.Biophys.Acta-Gen.Subj.,1780:1304-1317)。
【0049】
グルタチオン系およびチオレドキシン系は、総称的におよび代替的に、本明細書において「還元酵素系」または「還元酵素系」と呼ばれる。すなわち、「還元酵素系」という用語は、グルタチオン系および/またはチオレドキシン系の両方を包含する。
【0050】
特異的阻害剤は、還元酵素などの他の無関係の酵素を除いて、標的酵素の活性を低下させるかまたは完全になくす薬剤である。例えば、グルタチオン還元酵素の特異的阻害剤は、グルタチオン還元酵素を主にまたはそれのみを阻害する阻害剤である。チオレドキシン還元酵素の特異的阻害剤は、チオレドキシン還元酵素を主にまたはそれのみを阻害する阻害剤である。チオレドキシン還元酵素特異的阻害剤は、グルタチオン還元酵素を阻害する効果がない。同様に、グルタチオン還元酵素特異的阻害剤は、チオレドキシン還元酵素を阻害する効果がない。非特異的阻害剤は、複数の酵素の活性を低下させるかまたはなくす薬剤である。すなわち、非特異的阻害剤は、無差別であり、グルタチオン還元酵素およびチオレドキシン還元酵素の両方などの複数の異なる酵素の活性を低下させるかまたはなくすことができる。
【0051】
間接的阻害剤は、標的酵素自体以外の成分に作用することによって標的酵素の活性を低下させるかまたはなくす阻害剤である。例えば、間接的阻害剤は、標的酵素の上流の基質、標的酵素の基質を産生する上流の酵素に作用し、または標的酵素の補因子に結合し、標的酵素の補因子をアクセスから隔離または引き離し、それにより、標的酵素の活性を低下させるかまたはなくすことができる。
【0052】
製造プロセスにおける対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元
対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を産生するための細胞培養物製造プロセスは、タンパク質ジスルフィド結合の還元をもたらし、それにより、対象とする無傷のタンパク質の収量を低下させ得る。タンパク質ジスルフィド結合またはジスルフィド架橋の還元は、対象とするタンパク質のミスフォールディングおよび活性の低下をもたらし得る。真核細胞は、細胞内の還元および酸化を制御する還元酵素系を含む。例えば、還元型チオレドキシン1(Trx1)は、抗体ジスルフィド結合還元に関与する酵素であると考えられる(Hutterer et al.,2013,mAbs,5:608-613;Kao et al.,2010,Biotechnol.Bioeng.,107:622-632;Koterba et al.,2012,J.Biotechnol.,157:261-267;およびMagnusson et al.,1997,Mol.Immunol.,34:709-717)。
【0053】
真核細胞は、細胞増殖、酸化防止剤防御、および酸化還元シグナル伝達を含む真核細胞機能に必要ないくつかのプロセスを支援するチオレドキシン系およびグルタチオン系を含む。図1は、チオレドキシン系およびグルタチオン系の酵素および化学中間体の概略図を示す。グルタチオン系は、グルタチオン、グルタチオン還元酵素(GR)、グルタレドキシン(Grx)、およびNADPHから構成され、これらは、チオレドキシン系といくつかの類似点および役割を共有している(Lillig et al.,2008、Biochim.Biophys.Acta-Gen.Subj.,1780:1304-1317)。この図に見られるように、Grxは、還元型グルタチオン(GSH)の酸化によってグルタチオン系において非酵素的に還元され得る一方、酸化型グルタチオン(GSSG)は、補因子としてNADPHを用いてGRによって酵素的に還元され得る。この図に示されるように、チオレドキシン(Trx1)は、電子供与体としてNADPHを用いてチオレドキシン還元酵素-1(TrxR1)によって還元される。これらの3つの分子、TrxR1、Trx1、およびNADPHがチオレドキシン系を構成する。
【0054】
チオレドキシン系およびグルタチオン系は、一緒に酸化的ストレスから真核細胞を保護し、細胞内酸化還元環境を維持する。細胞内酸化還元状態の不均衡は、酸化的ストレスの増加、タンパク質の分解、DNA損傷、および最終的に細胞死をもたらす。ほぼ全ての生細胞に見られるチオレドキシン系およびグルタチオン系は、細胞の酸化還元環境を制御する。
【0055】
Huttererら(上に引用される)によって提供される結論と対照的に、タンパク質製造中、タンパク質中に存在するジスルフィド結合は、細胞培養物または溶液中に存在するチオレドキシン系およびグルタチオン系の両方の活性および量に対して感受性であることが意外にも見出された。本発明の実験では、両方の系がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株中に存在することが分かった。本発明の実験はまた、チオレドキシン系およびグルタチオン系の両方が、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質におけるジスルフィド結合を還元することができることを示した。本明細書に記載される実験では、2-AAPAが50μM~200μMの濃度でグルタチオン系活性の特異的阻害剤であり、ATGが0.5μM~1μMの濃度でチオレドキシン系活性の特異的阻害剤であることが分かった。したがって、本明細書に記載される実験は、一方の酵素系が他方の酵素系の活性に影響を与えずに選択的に阻害され得ることを示す。
【0056】
対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元を防ぐための還元酵素活性の制御
本開示は、製造プロセスにおける対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるための方法であって、チオレドキシン還元酵素阻害剤、グルタチオン還元酵素阻害剤、またはチオレドキシン還元酵素阻害剤およびグルタチオン還元酵素阻害剤の両方の存在下において、対象とするタンパク質を製造すること、例えば宿主細胞を培養し、宿主細胞内の対象とするタンパク質の発現を誘導し、宿主細胞および/または細胞培養物上清から対象とするタンパク質を採取し、および/または対象とするタンパク質を精製することにより、対象とするタンパク質の還元による分解を防ぐ工程を含む方法を提供する。特定の態様において、チオレドキシン還元酵素およびグルタチオン還元酵素の阻害剤は、対象とするタンパク質におけるチオレドキシン還元酵素またはグルタチオン還元酵素の活性を低下させ、それにより、対象とするタンパク質の収量を増加させるための、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質のための製造プロセスの1つまたは複数の工程において含まれ得る。
【0057】
チオレドキシン還元酵素およびグルタチオン還元酵素の両方は、タンパク質製造に一般的に使用される宿主細胞株中において様々なレベルで活性であり得る。さらに、これらの還元酵素のそれぞれの相対量および活性は、異なる宿主細胞株間でまたは細胞培養条件に応じて同じ宿主細胞株内で変化し得る。さらに、還元酵素のそれぞれが対象とするタンパク質「に関連する」、すなわち対象とするタンパク質と相互作用し、基質としてそれを使用するように利用可能である程度は、宿主細胞、対象とするタンパク質の特性、および/または製造プロセスの時点によって変化し得る。したがって、特定の態様において、上述される製造プロセスにおける対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるための方法は、対象とするタンパク質が、製造プロセス中の任意の時点、例えば成長段階、産生段階、採取前段階、採取段階、精製段階、または任意の複合段階で特定の還元酵素に関連するかどうかを検出することをさらに含む。同様に、特定の還元酵素の緩和は、製造プロセス中の任意の時点で起こり得る。
【0058】
細胞培養物または溶液中の対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させる方法であって、チオレドキシン還元酵素の阻害剤および/またはグルタチオン還元酵素の阻害剤などの1つまたは複数の還元酵素阻害剤の存在下において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を製造する工程、例えば宿主細胞を培養し、宿主細胞内の対象とするタンパク質の発現を誘導し、宿主細胞および/または細胞培養物上清から対象とするタンパク質を採取し、および/または対象とするタンパク質を精製する工程を含む方法が提供される。特定の態様において、活性チオレドキシン還元酵素および/または活性グルタチオン還元酵素の存在が、対象とするタンパク質を発現する細胞株について決定され得る。対象とするタンパク質のための製造プロセス中、チオレドキシン還元酵素の阻害剤および/またはグルタチオン還元酵素の阻害剤の量および固有性は、細胞株中に存在する還元酵素活性に応じて最適化され得る。
【0059】
例えば、チオレドキシン系が、タンパク質を発現する細胞株中で活性である場合、チオレドキシン還元酵素の1つまたは複数の阻害剤は、対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるために製造プロセス中に加えられ得る。同様に、グルタチオン系が、タンパク質を発現する細胞株中で活性である場合、グルタチオン還元酵素の1つまたは複数の阻害剤は、対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるために製造プロセス中に加えられ得る。同様に、チオレドキシン系およびグルタチオン系の両方が細胞株中で活性である場合、両方の還元酵素の1つまたは複数の阻害剤は、製造プロセス中に加えられ得る。以下の実施例1は、限定はされないが、ウエスタンブロット技術および他の免疫化学的手法など、チオレドキシン系およびグルタチオン系の成分を検出するのに有用な例示的なアッセイを提供する。
【0060】
特定の態様において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質に関連するチオレドキシン系および/またはグルタチオン系の活性は、定量化され得、製造プロセスのある時点において、1つまたは複数の阻害剤が対象とするタンパク質の付近で検出される還元酵素活性のレベルに比例して含まれ得る。例えば、対象とするタンパク質に関連するチオレドキシン系の量および/または活性が、所与の製造プロセスにおける1つまたは複数の時点で高いことが分かっている場合、比例的により高い量の1つまたは複数のチオレドキシン還元酵素阻害剤は、製造プロセスにおいて発現される対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるために製造プロセス中に加えられ得る。同様に、対象とするタンパク質に関連するグルタチオン系の量および/または活性が、所与の製造プロセスにおける1つまたは複数の時点で高いことが分かっている場合、比例的により高い量の1つまたは複数のグルタチオン還元酵素阻害剤は、製造プロセスにおいて発現される対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるために製造プロセス中に加えられ得る。同様に、対象とするタンパク質に関連するチオレドキシン系およびグルタチオン系の両方の量および/または活性が、所与の製造プロセスにおける1つまたは複数の時点で高いことが分かっている場合、比例的により高い量の1つまたは複数のチオレドキシン還元酵素阻害剤および1つまたは複数のグルタチオン還元酵素阻害剤は、製造プロセスにおいて発現される対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるために製造プロセス中に加えられ得る。特定の態様において、製造プロセス中に加えられる還元酵素阻害剤の量は、製造プロセス中の任意の時点で対象とするタンパク質に関連する各還元酵素系の量に比例し得る。
【0061】
上述されるように、チオレドキシン系およびグルタチオン系のそれぞれの存在および活性は、様々なアッセイ方法によって決定され得る。1つのこのようなアッセイ方法において、製造プロセス中の対象とするジスルフィド結合含有タンパク質に関連するチオレドキシン還元酵素および/またはグルタチオン還元酵素の活性を定量化することは、下流の精製工程において、5,5’-ジチオ-ビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)を、製造プロセス中に得られたサンプル、例えば細胞培地中の溶解細胞、細胞を除去された細胞培地、または対象とするタンパク質を含有する溶液に加えることと、サンプル中において412nmの波長でDTNBの還元を監視することと、チオレドキシン還元酵素阻害剤またはグルタチオン還元酵素阻害剤の存在下において、これらの工程を繰り返すこととを含む。特定の態様において、NADPH、酸化型グルタチオン、および緩衝液などの成分は、波長を監視する前にサンプルに加えられ得る。阻害剤が加えられたサンプルにおけるDTNBの還元と、阻害剤が加えられていないサンプルにおけるDTNBの還元との間の差は、チオレドキシン還元酵素および/またはグルタチオン還元酵素のそれぞれの活性を示す。すなわち、チオレドキシン系およびグルタチオン系の両方が適切なアッセイ条件下でDTNBを還元し得る。412nmにおける吸光度の増加は、所与のサンプルの還元酵素活性の指標である。サンプルの総還元酵素活性は、まず、還元酵素阻害剤の非存在下で決定される。次に、ATGなどのチオレドキシン系特異的阻害剤が加えられ得、還元酵素活性の量が決定される。チオレドキシン系特異的阻害剤を用いたサンプルと、チオレドキシン系特異的阻害剤を用いずにアッセイされたサンプルとの間の還元酵素活性の差は、チオレドキシン系に起因するサンプルにおける還元酵素活性を表す。同様に、サンプルは、2-AAPAなどのグルタチオン系特異的阻害剤の存在下および還元酵素阻害剤の存在なしで分析され得る。グルタチオン系特異的阻害剤を用いてアッセイされたサンプルと、任意のグルタチオン系特異的阻害剤を用いないサンプルとの間の活性の差は、グルタチオン系に起因する還元酵素活性を表す。還元酵素系成分を検出し、細胞培養物中の無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるための他の例示的な方法が以下の実施例2~8に開示されている。
【0062】
チオレドキシン還元酵素の特異的阻害剤としては、限定はされないが、アウロチオグルコース(ATG)、金チオリンゴ酸(ATM)、オーラノフィン、および2-[(1-メチルプロピル)ジチオ]-1H-イミダゾール(PX 12)が挙げられる。特定の態様において、チオレドキシン阻害剤の組合せが製造プロセスに含まれ得る。特定の態様において、タンパク質製造中に加えられるチオレドキシン阻害剤は、ATGであり得る。チオレドキシン還元酵素阻害剤の概説については、例えばCai,et al.,2012,Free Radic.Biol.Med.,52:257-265を参照されたい。
【0063】
グルタチオン還元酵素の特異的阻害剤としては、限定はされないが、カルムスチン、2-アセチルアミノ-3-[4-(2-アセチルアミノ-2-カルボキシエチルスルファニルチオカルボニルアミノ)-フェニルチオカルバモイルスルファニル]プロピオン酸(2-AAPA)、Ni2+塩、Ca2+塩、およびCu2+塩(約50μM以下の濃度で)が挙げられる。特定の態様において、グルタチオン阻害剤の組合せが製造プロセス中に加えられ得る。特定の態様において、タンパク質製造中に加えられるグルタチオン阻害剤は、2-AAPA、Cu2+塩、または2-AAPAおよびCu2+塩の両方であり得る。
【0064】
グルタチオン系およびチオレドキシン系の両方の非特異的阻害剤、またはグルタチオン系またはチオレドキシン系のいずれに対しても特異的でない阻害剤としては、限定はされないが、シスチン、ならびにCu2+(約50μMより高い濃度で)、Hg2+、Zn2+、Co2+、Fe2+、Cd2+、Pb2+、およびMn2+などの様々な金属イオンが挙げられる。グルタチオン系およびチオレドキシン系の両方の間接的阻害剤としては、限定はされないが、ヘキソキナーゼ、ソルボース-1-リン酸、ポリリン酸塩、6-デオキシ-6-フルオログルコース、2-C-ヒドロキシ-メチルグルコース、キシロース、およびリキソースを阻害するための、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはエチレングリコール四酢酸(EGTA)などの金属キレート剤が挙げられる。グルタチオン系またはチオレドキシン系の間接的阻害の方法としては、限定はされないが、空気または酸素散布、冷却、および採取中にpHを低下させることが挙げられる。製造プロセス中の対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元を減少させるこのような間接的な方法は、上述されるように、製造プロセス中に特異的阻害剤の混入と組み合わされ得る。例えば、特定の態様において、特定のチオレドキシン系-および/またはグルタチオン系特異的阻害剤は、細胞内のNADPHの生合成に関与する酵素の阻害剤と組み合わされ得る。例えば、NADPH生合成酵素阻害剤(間接的阻害剤)は、採取中および/または採取後(例えば、採取と精製との間の保持段階中)に、細胞の成長中に阻害剤によって引き起こされる毒性を防ぐのに用いられ得る。
【0065】
製造プロセス中に含まれる還元酵素阻害剤の量は、検出されたチオレドキシン系および/またはグルタチオン系活性を阻害するのに有効な任意の量であり得、特定の態様において、検出されたチオレドキシン系および/またはグルタチオン系活性を阻害するのに有効な最小量である。有効量の還元酵素阻害剤は、実施例10~13など、本明細書において提供されるアッセイを用いて実験的に決定され得る。特定の態様において、1つまたは複数の還元酵素特異的阻害剤が、以下に示される量で製造プロセス中に加えられ得る。
【0066】
特定の態様において、検出されたグルタチオン系活性を有する、製造プロセスに含まれる2-AAPAの量は、約0.01mM、0.02mM、0.03mM、0.04mM、0.05mM、0.06mM、0.07mM、0.08mM、0.09mM、0.1mM、0.11mM、0.12mM、0.13mM、0.14mM、0.15mM、0.16mM、0.17mM、0.18mM、または0.19mM~約0.2mM、0.21mM、0.22mM、0.23mM、0.24mM、0.25mM、0.26mM、0.27mM、0.28mM、0.29mM、0.3mM、0.4mM、または0.5mMの最終濃度であり得る。検出されたグルタチオン系活性を有する、製造プロセスに含まれる2-AAPAの量は、約0.05mM~約0.3mMの最終濃度、約0.1mM~約0.25mMの最終濃度、または約0.15mM~約0.22mMの最終濃度であり得る。例えば、検出されたグルタチオン系活性を有する、製造プロセスに含まれる2-AAPAの量は、約0.2mMの最終濃度であり得る。
【0067】
Cu2+塩(銅イオン)は、濃度に依存するように、グルタチオン系またはグルタチオン系およびチオレドキシン系の両方を特異的に阻害し得る。銅イオンは、塩化銅(CuCl)、硫酸銅(CuSO、五水和物または無水物)、酢酸銅、およびそれらの組合せの添加など、当該技術分野において公知の任意の手段によって加えられ得る。グルタチオン系を阻害するために、検出されたグルタチオン系活性を有する、製造プロセスに含まれるCu2+塩(銅イオン)の最終濃度は、約0.1μM、0.2μM、0.3μM、0.4μM、0.5μM、0.6μM、0.7μM、0.8μM、0.9μM、1.0μM、1.5μM、2.0μM、2.5μM、3.0μM、3.5μM、4.0μM、4.5μM、5.0μM、5.5μM、6.0μM、6.5μM、7.0μM、または7.5μM~約8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、18μM、20μM、25μM、30μM、35μM、40μM、45μM、または50μMであり得る。特定の態様において、検出されたグルタチオン系活性を有する、製造プロセスに含まれる銅イオンの最終濃度は、約0.5μM~約50μM未満の最終濃度であり得る。
【0068】
特定の態様において、チオレドキシン系およびグルタチオン系の両方が製造プロセス中に銅イオンの添加によって阻害され得る。チオレドキシン系およびグルタチオン系の両方を阻害するために、製造プロセスに含まれるCu2+塩の最終濃度は、約5μM、10μM、20μM、30μM、40μM、50μM、または75μM~約100μM、110μM、120μM、130μM、140μM、150μM、175μM、または200μMであり得る。特定の態様において、製造プロセスに含まれる銅イオンの最終濃度は、約5μM~約200μM、約5μM~約200μM、約10μM~約175μM、約20μM~約150μM、約40μM~約150μM、または約5μM~約200μMであり得る。特定の態様において、製造プロセスに含まれる銅イオンの最終濃度は、約50μMであり得る。
【0069】
特定の態様において、検出されたチオレドキシン系活性を有する、製造プロセスに含まれるATGの量は、約0.01mM、0.02mM、0.03mM、0.04mM、0.05mM、0.06mM、0.07mM、0.08mM、0.09mM、0.1mM、0.11mM、0.12mM、0.13mM、0.14mM、0.15mM、0.16mM、0.17mM、0.18mM、または0.19mM~約0.2mM、0.21mM、0.22mM、0.23mM、0.24mM、0.25mM、0.26mM、0.27mM、0.28mM、0.29mM、0.3mM、0.4mM、0.5mM、0.6mM、0.7mM、0.8mM、0.9mM、1.0mM、1.5mM、2.0mM、2.5mM、3.0mM、3.5mM、4.0mM、4.5mM、または5.0mMの最終濃度であり得る。特定の態様において、検出されたチオレドキシン系活性を有する、製造プロセスに含まれるATGの量は、約0.05mM~約5mMの最終濃度であり得る。特定の態様において、検出されたチオレドキシン系活性を有する、製造プロセスに含まれるATGの量は、約0.10mM~約1mMの最終濃度であり得る。特定の態様において、検出されたチオレドキシン系活性を有する、製造プロセスに含まれるATGの量は、約0.1mM~約0.5mMの最終濃度であり得る。特定の態様において、検出されたチオレドキシン系活性を有する、製造プロセスに含まれるATGの量は、約0.10mM~約0.20mMの最終濃度であり得る。特定の態様において、検出されたチオレドキシン系活性を有する、製造プロセスに含まれるATGの量は、約0.1mMの最終濃度であり得る。
【0070】
対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の製造
当該技術分野において公知の任意の細胞培養技術が、当該技術分野において公知の任意の細胞株を用いて、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を発現する宿主細胞を成長させるのに使用され得る。細胞株を培養するための標準的な技術が利用可能である。
【0071】
対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の製造は、培養可能であり、かつ対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を生合成する宿主細胞を培養することを含み得る。細胞培養条件は、細胞のタイプに応じて変化する。細胞培地としては、限定はされないが、緩衝液、塩、炭水化物、アミノ酸、ビタミン、および必須微量元素が挙げられる。「無血清」培地という用語は、ウシ胎仔血清などの動物の血清を含有しない細胞培地に適用される。定義される培地を含む様々な組織培地は、市販されており、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の製造に使用され得る。真核細胞は、培養物中で粘着性であるかまたは懸濁され得、このような細胞は、試験管、フラスコ、ローラーボトル、プレート、袋、流動床反応器、中空繊維床反応器、または撹拌槽型バイオリアクター(使い捨ておよび標準的なステンレス鋼およびガラス容器バイオリアクター)などの容器中で成長され得る。細胞培養は、小規模または大規模に行うことができ、ここで、細胞は、数ミリリットル~数千リットル以上の様々なサイズの容器中で成長のためにインキュベートされる。温度、pH、OおよびCOの最適条件下でのインキュベーションを可能にする細胞培養システムが市販されている。細胞を培養するのに有用な基本的な機器は、クリーンベンチ(laminar-flow hood)、培養器、遠心分離機、冷蔵庫および冷凍庫、細胞計数器、顕微鏡、オートクレーブ(殺菌装置)、真空またはポンプ、pH計、およびフローサイトメーターを含む。細胞は、栄養および培地が細胞成長中に交換されないバッチ培養;栄養が細胞成長中に加えられる流加培養;または新しい栄養および培地が細胞内容物に連続的に加えられ、使い尽くされた培地が連続的に除去される灌流培養で成長され得る。細胞培養物は、特定の条件下で細胞成長を最大にするように設計された市販の自動化システムを用いて成長され得る。
【0072】
対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の製造プロセスは、複数の段階を含み得る。例えば、多段階プロセスでは、細胞は、2つ以上の異なる段階で培養される。多段階製造プロセスでは、細胞は、まず細胞増殖および生存率を最大にする環境条件下において1つまたは複数の成長段階で培養され、次にタンパク質産生を最大にする条件下で産生段階に移される。哺乳動物細胞による対象とするタンパク質の産生のための商業的プロセスでは、最終的な生産培養前に異なる培養容器中で行われる一般的に複数の、例えば少なくとも約2、3、4、5、6、7、8、9、または10の成長段階がある。成長および産生段階は、1つまたは複数の移行段階がその前にあるか、または1つまたは複数の移行段階に隔てられ得る。多段プロセスでは、本開示によって提供される方法は、少なくとも、商業的な細胞培養の最終的な生産段階の成長および産生段階中に用いられ得るが、それは、前の成長段階にも用いることができる。産生段階は、より大規模に行われ得る。大規模プロセスは、少なくとも約50、100、500、1000、2000、3000、5000、7000、8000、10,000、15,000、20,000、25,000リットルの体積中で行われ得る。好ましい実施形態において、産生は、500L、1000L、2000L、12000Lおよび/または20000Lのバイオリアクター中で行われ得る。
【0073】
細胞培養物からの対象とするタンパク質の製造
細胞は、撹拌槽型バイオリアクターシステム中で培養され得、流加培養手順が用いられ得る。例えば、哺乳動物宿主細胞および培地が培養容器に最初に供給され得、さらなる培養栄養が、培養の終了前に、定期的な細胞および/または産物の採取を伴うかまたは伴わずに、培養中に培養物に連続的にまたは別々の増分で供給され得る。流加培養は、例えば、部分的または全培養物(細胞および培地を含む)が除去され、新しい培地と交換される半連続流加培養を含み得る。流加培養は、細胞培養の全ての成分(細胞および全ての培養栄養を含む)が培養プロセスの開始時に培養容器に供給される単純なバッチ培養と区別され得る。流加培養は、上清がプロセス中に培養容器から除去されない灌流培養とさらに区別され得る(灌流培養では、細胞は、例えば、ろ過、カプセル化、マイクロキャリアへの固定などによって培養物中に制限され、培地は、連続的にまたは断続的に導入され、培養容器から除去される)。
【0074】
特定の態様において、流加または連続細胞培養条件は、細胞培養物の成長段階において哺乳動物細胞の成長を促進するのに使用され得る。成長段階において、細胞は、成長について最大化される条件下および期間にわたって成長される。温度、pH、溶存酸素(dO)などの培養条件は、特定の宿主で使用されるものであり、当業者に明らかであろう。一般に、pHは、酸(例えば、CO)または塩基(例えば、Na2COまたはNaOH)のいずれかを用いて、所望のレベルに調整される。CHO細胞などの哺乳動物細胞を培養するのに好適な温度範囲は、約30℃~38℃であり;好適なpHは、約6.5~7.5であり;好適なdOは、空気飽和の5~90%である。
【0075】
特定の段階において、細胞は、産生段階または工程の細胞培養物を接種するのに使用され得る。あるいは、上述されるように、産生段階または工程は、接種または成長段階または工程と連続的であり得る。
【0076】
細胞培養物の産生段階中の細胞培養環境は、典型的に制御される。したがって、糖タンパク質が産生される場合、哺乳動物宿主細胞の細胞特異的な生産性に影響を与える要因は、所望のシアル酸含量が、得られる糖タンパク質中で達成されるように操作され得る。特定の態様において、細胞培養プロセスの産生段階前に、細胞培養の産生段階のパラメータが関与する細胞培養の移行段階がある。
【0077】
好適な宿主細胞としては、限定はされないが、細菌、植物細胞、哺乳動物細胞、酵母細胞、および昆虫細胞が挙げられる。限定はされないが、BALB/3T3、およびBHK-21などの線維芽細胞株;ヒト胎児腎臓細胞株HEK293(293)、HeLa細胞株、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞、A549、HepG2、VERO、Caco-2、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS-1などの上皮細胞株;Daudi、Jurkat、およびH9などのリンパ芽球;NS0、KG-1などの骨髄芽球細胞;HUVECなどの内皮細胞株;PER.C6細胞株などのレチナール細胞;Sf9、BTI-TN-5B1-4、およびD.Mel-2などの昆虫細胞株;およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)菌株SMD1168、およびX-33などの酵母細胞株;およびサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)菌株S288C、W303、D273-10B、X2180、A364A、Σ1278B、AB972、SK1、およびFL100、および米国培養細胞系統保存機関(ATCC,Manassas,VA)、または任意の国際寄託当局から入手可能な細胞株のいずれかを含む多くの様々な動物からの真核細胞が細胞培養可能であり、市販されている。タンパク質の製造に有用な一般的な原核細胞は、特に大腸菌(Escherichia coli)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、コリネ型細菌、および好塩菌である。
【0078】
操作された宿主細胞を産生する場合、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質をコードする核酸は、一過性にまたは安定的に発現のために宿主細胞に挿入される。核酸を細胞中に導入し、細胞数を増やすために細胞を培養した後、核酸からのタンパク質の発現は、例えば、遺伝子の発現を促進する条件下で宿主細胞を培養することによって引き起こされ得る。採取前に、製造プロセスは、例えば、精製およびタンパク質安定性を促進するための試薬の添加などの採取前工程を含み得る。
【0079】
対象とするジスルフィド結合含有タンパク質が発現された後、それは、採取され、例えば細胞培養物の他の成分から分離され、タンパク質精製プロセスにおいて精製され得る。対象とするタンパク質の採取は、他の細胞培養物成分からの対象とするタンパク質の分離を達成する多くの異なる手段によって行われ得る。例えば、培地中への組み換えタンパク質の分泌は、対象とするタンパク質を、細胞の外部に培地中へと分泌されるように操作することによって達成される。1つのこのような操作技術は、組み換えタンパク質を、発現時に宿主細胞の外部に分泌させるシグナルペプチドを含むように発現ベクターを設計することを含む。タンパク質分泌シグナル配列を含むベクターが市販されている。対象とするタンパク質が細胞株によって発現され、細胞培地中に分泌されるとき、対象とするタンパク質は、培地から単離され得る。細胞および細胞培地からの分泌された対象とするタンパク質の分離は、遠心分離、限外ろ過/透析ろ過、および/またはクロマトグラフィーなどの公知の技術によって行われ得る。対象とするタンパク質が宿主細胞によって分泌されない場合、宿主細胞は、例えば、遠心分離またはろ過によって細胞培地から分離され、次に様々な公知の手段によって溶解され得、タンパク質は、遠心分離、カラムクロマトグラフィー、および/または沈殿および透析技術などの様々な方法により、細胞溶解物中の他の細胞成分から分離され得る。
【0080】
さらなる精製技術としては、イオン交換、サイズ排除、ヒドロキシルアパタイト、および親和性クロマトグラフィーなどの様々なクロマトグラフィー方法が挙げられる。これらは、HPLC、FPLC、および毛管系において小規模に、または当該技術分野において公知の大型のバッチクロマトグラフィー技術を用いて大規模に行われ得る。例えば、対象とするタンパク質は、カラムに適用され、場合によりカラムに結合され得る。場合により、対象とするタンパク質がカラムを通過する一方、他の細胞株成分がカラムに結合されて後に残る。結合されたタンパク質は、カラム媒体への対象とするタンパク質の結合を妨げる溶離剤の適用により、カラムから溶離され得る。例えば、抗体の精製は、抗体などの分泌されたタンパク質を、培地中でプロテイン-A親和性カラムに結合することによって達成され得る。
【0081】
特定の態様において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、内因性ジスルフィド結合含有タンパク質であり得る。他の態様において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、発現ベクター上でコードされ、宿主細胞へと一過性にトランスフェクトされ、または宿主細胞へと安定的にトランスフェクトされる組み換え異種ジスルフィド結合含有タンパク質であり得る。特定の態様において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、抗体またはその抗原結合断片であり得る。特定の態様において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、ヒト、キメラ、またはヒト化抗体またはその断片であり得る。特定の態様において、抗体は、IgG抗体またはその断片であり得る。特定の態様において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、IgGサブタイプIgG、IgG、IgG、またはIgGのヒト、ヒト化、またはキメラ抗体であり得る。特定の態様において、免疫グロブリンまたはその断片は、一価または二価であり得る。特定の態様において、抗体は、IgA、IgM、IgD、またはIgEであり得る。特定の態様において、抗体またはその断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、またはジスルフィドが結合されたFvs(sdFv)であり得る。特定の態様において、抗体またはその断片は、モノクローナル抗体または抗体のポリクローナル混合物の部分であり得る。
【0082】
採取後、対象とするタンパク質は、直ちに精製され得るか、あるいは対象とするタンパク質を含有する採取された細胞培養液(HCCF)は、採取段階後かつおよび精製段階前に所定の期間にわたり、例えば少なくとも1時間、少なくとも1日、少なくとも4日間、少なくとも1週間、少なくとも10日間、または少なくとも2週間にわたり保持または貯蔵され得る。還元する傾向がある多くのジスルフィド結合含有タンパク質では、ジスルフィド結合の還元は、採取工程まで起こらない。製造プロセスの採取工程は、細胞が、対象とするタンパク質を含有する上清から分離されるときに起こる。上清から細胞を分離するプロセスは、細胞溶解を引き起こすことができ、これにより、還元酵素経路成分が上清中に放出され、ここで、それらは、タンパク質と結合し、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質のタンパク質ジスルフィド結合還元を触媒し得る。採取工程は、典型的に、製造プロセスの約14日目であるが、例えば用いられる細胞株の固有性、細胞培養条件、および/または対象とするタンパク質の特性に応じて変化し得る。還元酵素阻害剤は、採取工程前、採取工程中、採取後かつ精製前の保持期間中および/または精製プロセス中に加えられ得る。特定の態様において、採取後(例えば、採取直後、採取後の保持期間中、または精製中)、細胞培地、1つまたは複数の還元酵素経路の1つまたは複数の成分、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質、および1つまたは複数の還元酵素阻害剤を含有する溶液が提供される。
【0083】
対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の製造プロセスは、同様に、細胞培養の終わり頃であるが、採取前、例えば2週間の培養の場合8~14日目にバイオリアクター中でジスルフィド結合還元を示し得る。この場合、還元酵素阻害剤は、採取時より早く、例えば典型的な細胞培養プロセスの2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、または14日目に加えられ得、または細胞培養プロセス全体を通して存在し得る。阻害剤が培養物に加えられる正確な日は、例えば、使用される細胞株の固有性および製造される対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の特性に応じて変化し得る。いずれの場合も、還元酵素阻害剤は、還元が起こる前に加えられ得る。特定の態様において、細胞培養中、1つまたは複数の還元酵素阻害剤を含む溶液が提供され得る。
【0084】
上述されるチオレドキシンおよび/またはグルタチオン還元酵素阻害剤は、タンパク質製造プロセス中の任意の時点で加えられ得る。特定の態様において、還元酵素阻害剤は、細胞採取前に加えられ得る。特定の態様において、還元酵素阻害剤は、細胞培養の開始時に加えられ得る。特定の態様において、還元酵素阻害剤は、製造プロセス全体を通して存在し得、プロセスの終了時に例えば特定のタンパク質精製工程によって取り除かれ得る。特定の態様において、還元酵素阻害剤は、細胞採取時に加えられ、第1のタンパク質精製工程において除去され得る。別の態様において、異なる還元酵素阻害剤は、製造プロセスにおける異なる時点で存在し得る。
【0085】
対象とする無傷のタンパク質の収量を増加させる方法
還元酵素特異的阻害剤は、スクリーニングされ、それらの最適な濃度が、以下に示される精製された組み換え哺乳動物還元酵素を用いるアッセイにおいて決定され得る。以下に開示される還元酵素スクリーニングアッセイ(実施例2および3を参照されたい)は、チオレドキシン系およびグルタチオン系によって個別に引き起こされる対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元の活性および量の両方を検出するのに有用であり得る。グルタチオン系またはチオレドキシン系のいずれかに対して特異的な還元酵素阻害剤を用いて、製造プロセス中の様々な時点での対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元へのチオレドキシン系およびグルタチオン系の個別の寄与を決定することが可能であり得る。特定の態様において、グルタチオン系および/またはチオレドキシン系によって還元される対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の数量または量は、これらのアッセイを用いて決定され得る。
【0086】
本明細書に記載される方法は、細胞培養物における還元酵素活性とタンパク質還元活性との間の相関を用いる。製造プロセス中の対象とするジスルフィド結合含有タンパク質に関連するチオレドキシン系およびグルタチオン系成分の量は、本明細書の他の箇所に記載される理由で変化し得る。例えば、以下の実施例において、mAb Aを発現させるのにCHO細胞株A(CHO CAT-S)を用いる製造プロセスは、製造プロセス中にグルタチオン還元酵素活性を示し、したがって、このプロセスにおけるmAb Aの還元がグルタチオン系の特異的阻害に対して感受性であったことが見出された。他方、mAb Cを発現させるのにCHO細胞株C(CHO-K1SV)を用いる製造プロセスは、製造プロセス中にチオレドキシン還元酵素活性を示し、したがって、この細胞株によって産生されたmAb Cの還元は、チオレドキシン系の特異的阻害に対して感受性であった。さらに、mAb Bを発現させるのにCHO細胞株B(CHO-K1SV)およびmAb Dを発現させるのにCHO細胞株D(CHO CAT-S)を用いる製造プロセスは、製造プロセス中にチオレドキシン系およびグルタチオン系の両方からのほぼ同等の還元酵素活性レベルを示し、したがって、これらの細胞株によって産生されたmAb BおよびmAb Dの両方の還元は、両方の系の阻害に対して感受性であった。さらに、mAb Bを発現させるのに細胞株Bを用いる製造プロセスは、最も高い全体還元酵素活性を示し、これは、mAb Bが試験される他のプロセスと比較して還元の最も高い全体パーセントを示したという観察と相関していた。
【0087】
したがって、特定の態様において、これらの系における酵素が製造プロセス中の任意の時点で対象とするタンパク質に関連するかどうかの決定、および存在する各系の活性の量に応じて、グルタチオン系特異的阻害剤が加えられるか、またはチオレドキシン系特異的阻害剤が加えられるか、またはグルタチオン系特異的阻害剤およびチオレドキシン系特異的阻害剤の両方が加えられる方法が提供される。したがって、特定の態様において、製造プロセス中に加えられる阻害剤の混合物は、製造プロセス中に対象とするタンパク質に関連する特異的な還元酵素系に合わせて調整され得る。対象とするタンパク質の周辺のチオレドキシン系またはグルタチオン系の存在について試験し、製造プロセスにおいてこれらの還元酵素系に特異的な阻害剤を含むことは、このような製造プロセスにおいてジスルフィド結合含有タンパク質の収量を測定可能に改善することができる。
【0088】
「無傷のタンパク質の収量の増加」とは、活性である適切にフォールディングされた非還元型の対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の増加を意味する。例えば、図7に示されるように、対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量の増加のパーセントは、製造プロセス中に用いられる、還元酵素阻害剤のタイプ、または還元酵素阻害剤の組合せ、および製造プロセス中の対象とするジスルフィド結合含有タンパク質に関連するチオレドキシン系および/またはグルタチオン系活性の量に応じて20%~100%であり得る。特定の態様において、阻害剤ATGを加える場合、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の収量の増加パーセントは、約30%~約90%、約40%~約80%、約50%~約70%であるか、または20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%より高くなり得る。特定の態様において、製造プロセスに阻害剤Cu2+を加える場合、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の収量の増加パーセントは、約20%~約100%、約30%~約90%、約40%~約80%であるか、または20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%より高くなり得る。
【0089】
特定の態様において、チオレドキシン系阻害剤に加えて製造プロセスにグルタチオン系阻害剤を含むことにより、チオレドキシン系阻害剤のみの存在下で行われる同じ製造プロセスと比較して、対象とする適切にフォールディングされたジスルフィド結合含有タンパク質のより高い収量を得ることができる。例えば、図7に示されるように、ATGなどのチオレドキシン系特異的阻害剤の包含に加えて、グルタチオン還元酵素を阻害するための銅イオンの包含により、20%、30%、40%、50%、あるいは60%を超える、対象とする適切にフォールディングされたジスルフィド結合含有タンパク質の収量の増加が得られた。したがって、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質のための製造プロセスにおけるグルタチオン系特異的阻害剤の包含により、チオレドキシン系特異的阻害剤のみの存在下で行われる同一の製造プロセスと比較して、対象とするそのタンパク質の収量の著しい増加を得ることができる。
【0090】
したがって、以下に示されるように、製造プロセス中のグルタチオン系の阻害は、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質のジスルフィド結合の還元を実質的にまたは完全に防ぎ、それによりそのタンパク質の収量を増加させることができる。本明細書に示されるように、酵素アッセイは、各還元系の相対量、およびタンパク質ジスルフィド結合還元に対するそれらの帰属される影響を決定するのに用いられ得る。この情報を用いて、対象とするタンパク質のための最良のジスルフィド結合含有タンパク質製造プロセス還元緩和手法を選択することができる。
【0091】
本明細書に記載される方法は、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の産生収量を最大にするために、チオレドキシン系およびグルタチオン系阻害剤のリスクおよび利益のバランスを取る。還元緩和手法は、独自の欠点を有することが多い。例えば、銅イオンの過剰な添加は、細胞成長を減少させ、力価を低下させ、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の活性を低下させ、環境上の廃棄の懸念の増加を引き起こし、または対象とするタンパク質の下流の処理(タンパク質精製)中の金属イオンのクリアランスを監視する負荷を増加させ得る。その結果、特定の態様において、製造プロセス中の対象とするタンパク質に関連するチオレドキシン系およびグルタチオン系の存在および量が検出され得、次に緩和手法がその情報に基づいて設計され得る。本明細書において提供される方法によれば、還元緩和手法が、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させない場合、緩和手法ならびにその手法の欠点を避けることができ、タンパク質製造コストを削減し、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の全収量を維持し、および/または増加させながら、産生時間を減少させる。本明細書において提供される方法によれば、過度の任意のグルタチオン系およびチオレドキシン系阻害剤の有害な副作用は、製造プロセス中に用いられる阻害剤の濃度を、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるのに必要な最小値まで抑えることによって避けることができる。
【0092】
タンパク質製造プロセス中のジスルフィド結合還元の電位の緩和
本開示は、対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させ、および/または製造プロセスにおけるジスルフィド結合含有タンパク質の還元電位を減少または緩和するための方法を提供する。この方法は、プロセス中の1つまたは複数の時点において、ジスルフィド結合還元の電位を緩和する、例えば防止するかまたは減少させる製造プロセスに改良を提供する。製造プロセスは、細胞培養液(CCF)中で成長および維持された、培養された真核宿主細胞中で対象とするタンパク質を発現させることを含み得る。上述されるように、本明細書において提供される方法に係る製造プロセスは、成長段階、産生段階、採取前段階、採取段階、保持段階、精製段階、またはそれらの任意の組合せを含み得る。上述されるように、特定の態様において、産生段階は、任意の時点、少なくとも1日、少なくとも8日間、少なくとも10日間、少なくとも12日間、少なくとも14日間、または少なくとも16日間にわたって細胞をCCF中で維持することを含み得る。
【0093】
本明細書において提供される方法によれば、製造プロセスは、産生バイオリアクターまたはその任意の部分中に、例えば産生段階の後期においてCCF中で有効量のシスチンを維持し、それにより、ジスルフィド結合還元の電位を緩和することを含む。「ジスルフィド結合還元の電位を緩和する」とは、還元の可能性が、有効量のシスチンが産生段階における任意の所与の時点において、CCF中で維持されない対照製造プロセスと比べて低下されることを意味する。特定の態様において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元は、完全に防がれる。特定の態様において、ジスルフィド結合還元の量は、対照CCFにおいて観察される量より少なく、例えば対照CCFにおいて観察される量より約5%少ない、約10%少ない、約20%少ない、約30%少ない、約40%少ない、約50%少ない、約60%少ない、約70%少ない、約80%少ない、約90%少ない、または約99%少ない。還元電位は、本明細書の他の箇所に記載される真空/バイオアナライザアッセイによって測定され得る。例えば、還元電位は、真空チャンバ中において、製造プロセス中の選択された時点に得られたCCFのサンプルを貯蔵する工程と、対照サンプルと比べた、対象とするタンパク質の断片化のレベルを測定する工程とを含む方法によって測定され得る。特定の態様において、産生段階中の様々な時点でCCFから回収されるサンプルは、細胞を除去するために遠心分離され得、上清は、例えば、-80℃で直ちに凍結され得る。全てのサンプルが収集された後、それらは、融解され、同時に真空処理にかけられ得る。特定の態様において、断片化のレベルは、非還元条件下でバイオアナライザにおいて測定される。
【0094】
ジスルフィド結合還元に起因するタンパク質断片化またはミスフォールディングは、対象とするタンパク質の無傷で安定した活性形態の量を減少させるため、本明細書において提供される方法は、対象とする無傷のジスルフィド含有タンパク質の収量を増加させ得、および/または貯蔵中にジスルフィド結合含有タンパク質の還元電位を低下させ得る。収量は、例えば、対照製造プロセスの収量より約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約99%多く増加され得る。
【0095】
特定の態様において、本明細書において提供される方法に従って修正された製造プロセスは、採取段階またはその任意の部分中に、精製段階またはその任意の部分中に、例えば、タンパク質が本明細書の他の箇所に記載される1つまたは複数の精製工程によってCCFから分離される前に、またはそれらの任意の組合せにおいてCCF中で有効量のシスチンを維持することをさらに含む。有効量のシスチンはまた、CCFからの対象とするタンパク質の分離後の1つまたは複数の精製および/または製剤化工程において、対象とするタンパク質の溶液中で維持され得る。特定の採取方法は、対象とするタンパク質におけるジスルフィド結合還元の電位を増加させることができ、例えば、細胞溶解を促進する遠心分離または限外ろ過技術は、還元酵素をCCF中に放出し得る。したがって、特定の態様において、製造プロセスの採取段階は、細胞溶解を最小限に抑えるように調節される。
【0096】
産生段階またはその部分中に維持される有効量のシスチンは、本明細書において提供される方法を用いて、例えば製造プロセス中の任意の時点、または1つまたは複数の時点でCCF中のシスチン濃度を測定し、1つまたは複数の同じ時点で対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元電位を決定し、対象とするタンパク質がその時点で還元を起こす傾向を低下させるかまたはなくすのに必要なシスチンの濃度を決定して、当業者によって容易に決定され得る。特定の態様において、有効量のシスチンは、約0.5mM~約1mM;約0.9mM~約3mM;約2.5mM~約4.5mMであり得る。特定の態様において、有効量のシスチンは、少なくとも約0.5mM;少なくとも約1mM;少なくとも約2.0mM、少なくとも約2.5mM、少なくとも約3.0mM、少なくとも約3.5mM、少なくとも約4.0mM、少なくとも約4.5mM、少なくとも約5.0mM、または少なくとも約5.5mMであり得る。CCF中のシスチンの濃度は、製造プロセス中のいずれか1つまたは複数の時点または製造プロセス中一定の間隔、例えば産生段階中一定の間隔において、例えばUPLCを用いたアミノ酸分析によって決定され得る。
【0097】
特定の態様において、ジスルフィド結合還元の電位を緩和するための方法は、金属イオン(Zn2+、Mn2+、Fe3+、Cu2+、Se2+を含む)、シスチン、溶存酸素、βメルカプトエタノール、グルタチオン、またはそれらの組合せを含む酸化還元調節剤を加えることにより、製造プロセス(バイオリアクターを含む)のいずれかの工程中に溶液の酸化還元電位を変化させることを含む。
【0098】
特定の態様において、ジスルフィド結合還元の電位を緩和するための方法は、オンライン細胞培養物酸化還元電位によって制御され得る。細胞培養物酸化還元電位に基づく制御システムは、細胞培養物酸化還元電位の低下に応答して、Zn2+、Mn2+、Fe3+、Cu2+、Se2+、シスチン、溶存酸素、βメルカプトエタノール、またはグルタチオンの濃度を増加させるのに使用される。細胞培養物酸化還元電位に基づく制御システムの使用により、化学的緩和剤の不必要な過剰添加(またはDO設定点の増加)が防止される。これは、還元を防ぐのに必要な化学物質が下流の精製プロセスによって除去されなければならず、高いDOが最終的なプロセス力価を低下させ得るために有利である。
【0099】
特定の態様において、本明細書において提供される方法に係る産生段階は、シスチンを含む栄養供給溶液が産生段階中にCCFに加えられる「流加」プロセスであり得る。シスチンを含有する栄養供給溶液は、機能的形態の対象とするタンパク質の発現を促進するための1つまたは複数の追加の栄養を含み得る。栄養供給溶液は、例えば、少なくとも1つのアミノ酸を含有し得る。特定の態様において、栄養供給溶液は、L-シスチンをそれ自体でまたは1つまたは複数の追加の成分とともに含む。特定の態様において、シスチンを含む栄養供給溶液は、産生段階中一定の間隔で、例えば産生段階中にほぼ毎日、約2日毎、約3日毎、約4日毎、または約5日毎にCCFに加えられる。したがって、産生段階全体を通して、シスチンを含有する栄養供給溶液の1、2、3、4、5、6、7、または8回の添加を行い得る。特定の態様において、2つ以上の異なる栄養供給溶液が産生段階中に加えられ得る。追加の栄養供給溶液は、機能的形態の対象とするタンパク質の発現を促進する少なくとも1つの追加の栄養、例えばアミノ酸、グルコース、ビタミン、タンパク質加水分解物、またはそれらの任意の組合せを含み得る。1つまたは複数の栄養供給溶液は、シスチンを含む栄養供給溶液が加えられるのと同じ計画に従って加えられ得る。この第2の栄養供給溶液は、第1の栄養供給溶液に使用されるものと異なる計画を用いて加えられ得る。
【0100】
特定の態様において、シスチンを含有する栄養供給溶液は、約2日毎にCCFに加えられ、栄養供給溶液の5または6回の添加が産生段階中に行われる。特定の態様において、有効量のシスチンは、産生段階全体を通して、および/または製造プロセスの他の段階中にCCF中で維持され得る。しかしながら、特定の態様において、有効量のシスチンは、産生段階の後半部分、例えば採取前および/または採取段階の直前に行われる産生段階の部分中にのみCCF中で維持される必要がある。例えば、特定の態様において、有効量のシスチンは、産生段階の最後の14日間、産生段階の最後の12日間、産生段階の最後の10日間、産生段階の最後の8日間、産生段階の最後の6日間、産生段階の最後の4日間、産生段階の最後の2日間、または産生段階の最終日中にCCF中で維持され得る。例えば、本明細書の他の箇所に記載されるバッチ供給産生段階において、追加のシスチンが、栄養供給溶液(NF)の最後の添加および/または最後から2番目の添加、例えば第5のNF添加(その際、プロセスは、5回のバッチ供給を含む)、または第5および/または第6のNF添加に含まれ得る。標準的な対照製造プロセスと比べて、後の供給におけるシスチンの量は、少なくとも約10%多い、少なくとも約20%多い、少なくとも約30%多い、少なくとも約40%多い、少なくとも約50%多い、少なくとも約60%多い、少なくとも約70%多い、少なくとも約80%多い、少なくとも約90%多い、または少なくとも約100%多いことができる。例えば、産生段階中の特定の時点での対照CCF中のシスチンの濃度は、約2.0mMであり得、ここで、同じ時点において、本明細書で提供される方法に係るCCF中のシスチンの濃度は、3.5mM、4.0mM、または4.5mMであり得る。ある態様において、前の供給に使用されるのと同じ栄養供給溶液が使用されるが、増加した体積が、CCFに加えられるシスチンの量を増加させるために後の供給中に加えられる。他の態様において、修正された栄養供給溶液が、後の供給に使用され得、ここで、溶液中の残りの成分が同じ濃度に保たれるが、シスチンの濃度が増加される。この態様によれば、加えられるNF溶液の体積は、一定のままであり得る。
【0101】
実施形態
実施形態1A:細胞培養物または溶液中の対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるための方法であって、グルタチオン還元酵素阻害剤、チオレドキシン還元酵素阻害剤、またはグルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の両方の存在下において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を製造する工程を含み、それにより、無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の量は、グルタチオン還元酵素阻害剤、チオレドキシン還元酵素阻害剤、またはグルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の存在下で製造されていない細胞培養物または溶液中の無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の量と比較して、グルタチオン還元酵素阻害剤、チオレドキシン還元酵素阻害剤、またはグルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の存在下で製造された前記細胞培養物または溶液中でより多い、方法。
【0102】
実施形態2A:製造プロセスにおける培養物または溶液中の対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるための方法であって、対象とするタンパク質を含有する培養物または溶液中のグルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素の存在を検出する工程と、グルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素阻害剤を製造プロセスに加えて、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元を緩和する工程とを含む方法。
【0103】
実施形態3A:培養物または溶液中のグルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素の活性を決定する工程をさらに含む、実施形態2Aに記載の方法。
【0104】
実施形態4A:グルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素の活性を決定する工程は、5,5’-ジチオ-ビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)を、製造プロセス中に得られたサンプルに加える工程と、チオレドキシン還元酵素阻害剤およびグルタチオン還元酵素阻害剤の少なくとも1つを、DTNBを含有するサンプルの一部に加える工程と、サンプル中において412nmの波長でDTNBの還元を監視する工程とを含み、チオレドキシン還元酵素阻害剤およびグルタチオン還元酵素阻害剤の少なくとも1つを用いないサンプルにおけるDTNBのより高い還元は、チオレドキシン還元酵素および/またはグルタチオン還元酵素の活性を示す、実施形態3Aに記載の方法。
【0105】
実施形態5A:NADPH、酸化型グルタチオン、および緩衝液は、DTNBの還元(または還元酵素活性)を監視する前にサンプルに加えられる、実施形態4Aに記載の方法。
【0106】
実施形態6A:細胞培養物に加えられるチオレドキシン還元酵素および/またはグルタチオン還元酵素阻害剤の量は、検出されたチオレドキシン還元酵素および/またはグルタチオン還元酵素活性の量に比例する、実施形態3A~5Aのいずれか1つに記載の方法。
【0107】
実施形態7A:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、グルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の存在下で製造され、グルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の存在は、グルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の非存在下でのジスルフィド結合含有タンパク質の製造と比較して、無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を少なくとも5パーセント、少なくとも10パーセント、少なくとも20パーセント、少なくとも30パーセント、または少なくとも40パーセント増加させる、実施形態1A~6Aのいずれか1つに記載の方法。
【0108】
実施形態8A:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、チオレドキシン還元酵素阻害剤の存在下およびグルタチオン還元酵素阻害剤の存在なしで製造され、チオレドキシン還元酵素阻害剤の存在は、チオレドキシン還元酵素阻害剤の非存在下でのジスルフィド結合含有タンパク質の製造と比較して、無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を少なくとも5パーセント、少なくとも10パーセント、少なくとも20パーセント、少なくとも30パーセント、または少なくとも40パーセント増加させる、実施形態1A~6Aのいずれか1つに記載の方法。
【0109】
実施形態9A:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、グルタチオン還元酵素阻害剤の存在下およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の存在なしで製造され、グルタチオン還元酵素阻害剤の存在は、グルタチオン還元酵素阻害剤の非存在下でのジスルフィド結合含有タンパク質の製造と比較して、無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を少なくとも5パーセント、少なくとも10パーセント、少なくとも20パーセント、少なくとも30パーセント、または少なくとも40パーセント増加させる、実施形態1A~6Aのいずれか1つに記載の方法。
【0110】
実施形態10A:チオレドキシン還元酵素阻害剤は、アウロチオグルコース(ATG)、金チオリンゴ酸(ATM)、オーラノフィン、2-[(1-メチルプロピル)ジチオ]-1H-イミダゾール(PX 12)、またはそれらの任意の組合せの少なくとも1つである、実施形態1A~8Aのいずれか1つに記載の方法。
【0111】
実施形態11A:チオレドキシン還元酵素阻害剤は、ATG、ATM、またはATGおよびATMの組合せを含む、実施形態10Aに記載の方法。
【0112】
実施形態12A:チオレドキシン還元酵素阻害剤は、ATGおよびATGを含み、細胞培養物中のATGの最終濃度は、約0.1~約0.5mMであり、およびATMの最終濃度は、約0.1~約0.5mMであり、またはATMの最終濃度は、約0.1~約0.5mMであり、およびATGの濃度は、約0.1~約0.5mMである、実施形態11Aに記載の方法。
【0113】
実施形態13A:グルタチオン還元酵素阻害剤は、カルムスチン、2-アセチルアミノ-3-[4-(2-アセチルアミノ-2-カルボキシエチルスルファニルチオ-カルボニルアミノ)フェニルチオカルバモイルスルファニル]プロピオン酸(2-AAPA)、Cu2+塩、Ni2+塩、Ca2+塩、またはそれらの任意の組合せの少なくとも1つである、実施形態1A~9Aのいずれか1つに記載の方法。
【0114】
実施形態14A:グルタチオン還元酵素阻害剤は、2-AAPA、Cu2+塩、または2-AAPAおよびCu2+塩の組合せを含む、実施形態13Aに記載の方法。
【0115】
実施形態15A:グルタチオン還元酵素阻害剤は、2-AAPAおよびCu2+塩を含み、2-AAPAの最終濃度は、約0.1mM~約0.25mMであり、およびCu2+塩の最終濃度は、約0.5μM~約50μM未満であるか、または2-AAPAの最終濃度は、約0.1mM~約0.25mMであり、およびCu2+塩の最終濃度は、約1μM~約50μM未満である、実施形態14Aに記載の方法。
【0116】
実施形態16A:シスチン、Hg2+、Zn2+、Co2+、Fe2+、Cd2+、Pb2+、Mn2+、約50μM超のCu2+、またはそれらの任意の組合せの存在下において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を製造する工程をさらに含む、実施形態1A~15Aのいずれか1つに記載の方法。
【0117】
実施形態17A:エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ソルボース-1-リン酸、ポリリン酸塩、6-デオキシ-6-フルオログルコース、2-C-ヒドロキシ-メチルグルコース、キシロース、リキソース、またはそれらの任意の組合せの存在下において、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を製造する工程をさらに含む、実施形態1A~16Aのいずれか1つに記載の方法。
【0118】
実施形態18A:空気または酸素散布、冷却、採取中の低下したpH、またはそれらの任意の組合せの条件下において、対象とするジスルフィド結合タンパク質を製造する工程をさらに含む、実施形態1A~17Aのいずれか1つに記載の方法。
【0119】
実施形態19A:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を精製する工程をさらに含む、実施形態1A~18Aのいずれか1つに記載の方法。
【0120】
実施形態20A:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、宿主細胞内で製造された組み換えタンパク質である、実施形態1A~19Aのいずれか1つに記載の方法。
【0121】
実施形態21A:宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはNS0細胞である、実施形態20Aに記載の方法。
【0122】
実施形態22A:チオレドキシン還元酵素阻害剤および/またはグルタチオン還元酵素阻害剤は、採取工程中に加えられる、実施形態1A~21Aのいずれか1つに記載の方法。
【0123】
実施形態23A:チオレドキシン還元酵素阻害剤および/またはグルタチオン還元酵素阻害剤は、精製工程の少なくとも1つ中に加えられる、実施形態1A~21Aのいずれか1つに記載の方法。
【0124】
実施形態24A:チオレドキシン還元酵素阻害剤および/またはグルタチオン還元酵素阻害剤は、採取工程中および精製工程の少なくとも1つ中に加えられる、実施形態22Aまたは23Aに記載の方法。
【0125】
実施形態25A:チオレドキシン還元酵素阻害剤および/またはグルタチオン還元酵素阻害剤は、製造プロセス全体を通して存在する、実施形態1A~24Aのいずれか1つに記載の方法。
【0126】
実施形態26A:製造プロセスは、採取工程およびまたは少なくとも1つの精製工程を含む、実施形態1A~25Aのいずれか1つに記載の方法。
【0127】
実施形態27A、チオレドキシン還元酵素阻害剤は、ATGであり、ATGは、採取工程中に加えられ、対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量は、ATGの非存在下での同じ製造プロセス中の対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量と比較して約20%~少なくとも約100%増加される、実施形態26Aに記載の方法。
【0128】
実施形態28A、チオレドキシン還元酵素阻害剤は、ATGであり、ATGは、少なくとも1つの精製工程中に加えられ、対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量は、ATGの非存在下での同じ製造プロセス中の対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量と比較して約20%~少なくとも約100%増加される、実施形態26Aまたは27Aに記載の方法。
【0129】
実施形態29A:グルタチオン還元酵素阻害剤は、Cu2+塩であり、Cu2+塩は、採取工程中に加えられ、対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量は、Cu2+塩の非存在下での同じ製造プロセスによって製造された無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量と比較して約20%~約少なくとも100%増加される、実施形態26Aに記載の方法。
【0130】
実施形態30A.グルタチオン還元酵素阻害剤は、Cu2+塩であり、Cu2+塩は、少なくとも1つの精製工程中に加えられ、対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量は、Cu2+塩の非存在下での同じ製造プロセスによって製造された無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量と比較して約20%~約少なくとも100%増加される、実施形態26Aまたは27Aに記載の方法。
【0131】
実施形態31A:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、抗体またはその抗原結合断片である、実施形態1A~30Aのいずれか1つに記載の方法。
【0132】
実施形態32A:抗体またはその断片は、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、融合タンパク質もしくは抗体薬物複合体またはその断片である、実施形態31Aに記載の方法。
【0133】
実施形態33A:抗体またはその断片は、モノクローナル抗体またはその断片である、実施形態32Aに記載の方法。
【0134】
実施形態34A:モノクローナル抗体またはその断片は、IgG1、IgG2もしくはIgG4抗体またはその断片である、実施形態33Aに記載の方法。
【0135】
実施形態35A:ジスルフィド結合還元の電位を緩和するための方法は、細胞培養物酸化還元電位を測定する酸化還元プローブによって制御され、制御ループは、細胞培養物酸化還元電位の低下に応答して還元緩和手法を調節する、実施形態1A~17Aのいずれか1つに記載の方法。
【0136】
実施形態1B:細胞外シスチンレベルが産生段階中に0超に維持されない細胞培養または発酵プロセスにおける無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量またはジスルフィド結合含有タンパク質の還元電位と比較して、細胞培養または発酵プロセスにおける細胞外シスチンレベルを産生段階中に0超に維持するためにシスチンを加えることにより、細胞培養または発酵プロセスにおける対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるか、または対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元電位を低下させるための方法。
【0137】
実施形態2B:対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質は、細胞培養液(CCF)中に放出される、実施形態1Bに記載の方法。
【0138】
実施形態3B:産生段階は、少なくとも2日間、少なくとも8日間、少なくとも10日間、少なくとも12日間、少なくとも14日間、または少なくとも16日間にわたって細胞をCCF中で維持することを含む、実施形態2Bに記載の方法。
【0139】
実施形態4B:細胞培養プロセスは、哺乳動物または昆虫細胞培養プロセスであり、および発酵は、細菌、酵母、または真菌プロセスである、実施形態1B~3Bのいずれか1つに記載の方法。
【0140】
実施形態5B:シスチンは、シスチンレベルを0超に維持するために培養または発酵に加えられる、実施形態1B~4Bのいずれかに記載の方法。
【0141】
実施形態6B:シスチンレベルは、ジスルフィド結合還元を防ぐために産生段階中に0超に維持される、実施形態5Bに記載の方法。
【0142】
実施形態7B:ジスルフィド結合還元の電位は、シスチンレベルがCCF中で0超に維持されないプロセスと比べて低下される、実施形態6Bに記載の方法。
【0143】
実施形態8B:シスチンレベルは、約0.2mM、少なくとも2.0mM、少なくとも約2.5mM、少なくとも約3.0mM、少なくとも約3.5mM、または少なくとも約4.0mMに維持される、実施形態1B~7Bのいずれか1つに記載の方法。
【0144】
実施形態9B:シスチンレベルは、産生段階の最後の14日間、最後の12日間、最後の10日間、最後の8日間、最後の6日間、最後の4日間、最後の2日間、または最終日中にCCF中で0超に維持される、実施形態1B~8Bのいずれか1つに記載の方法。
【0145】
実施形態10B:CCF中のシスチンの量は、産生段階中一定の間隔で取られたCCFサンプルの超高速液体クロマトグラフィーアミノ酸分析によって決定される、実施形態1B~9Bのいずれか1つに記載の方法。
【0146】
実施形態11B:産生段階は、栄養供給溶液をCCFに加えることを含み、栄養供給溶液は、シスチンを含む、実施形態1B~10Bのいずれか1つに記載の方法。
【0147】
実施形態12B:栄養供給溶液は、産生段階中一定の間隔でCCFに加えられる、実施形態11Bに記載の方法。
【0148】
実施形態13B:栄養供給溶液は、産生段階中にほぼ毎日、約2日毎、約3日毎、約4日毎、または約5日毎にCCFに加えられ、栄養供給溶液の1、2、3、4、5、6、7、または8回の添加は、産生段階中に行われる、実施形態12Bに記載の方法。
【0149】
実施形態14B:栄養供給溶液は、約2日毎にCCFに加えられ、栄養供給溶液は、産生段階中に5または6回加えられる、実施形態13Bに記載の方法。
【0150】
実施形態15B:第2または後の供給に加えられる栄養供給溶液は、前の供給で加えられる栄養供給溶液と比べて増加したシスチンレベルを含む、実施形態10B~14Bのいずれか1つに記載の方法。
【0151】
実施形態16B:シスチンレベルは、出発培地または栄養供給の1つまたは複数中のシスチン濃度を増加させることによって維持される、実施形態10B~15Bのいずれか1つに記載の方法。
【0152】
実施形態17B:栄養供給溶液の組成は、産生段階全体を通して均一であり、さらなる体積の栄養供給溶液は、添加全体を通して加えられ、培養または発酵プロセスにおけるシスチンの量を増加させる、実施形態16Bに記載の方法。
【0153】
実施形態18B:栄養供給溶液の組成は、産生段階全体を通して均一であり、さらなる体積の栄養供給溶液は、第5の添加、第6の添加、または第5および第6の添加において加えられ、培養または発酵プロセスにおけるシスチンの量を増加させる、実施形態16Bに記載の方法。
【0154】
実施形態19B:第5または第6の添加の少なくとも1つに加えられる栄養供給溶液は、第1~第4または第1~第5の添加において加えられる栄養供給溶液より少なくとも約10%多い、少なくとも約20%多い、少なくとも約30%多い、少なくとも約40%多い、少なくとも約50%多い、少なくとも約60%多い、少なくとも約70%多い、少なくとも約80%多い、少なくとも約90%多い、または少なくとも約100%多いシスチンを含む、実施形態16Bまたは17Bに記載の方法。
【0155】
実施形態20B:栄養供給溶液は、少なくとも1つの追加の栄養をさらに含む、実施形態10B~19Bのいずれか1つに記載の方法。
【0156】
実施形態21B:少なくとも1つの追加の栄養は、アミノ酸、グルコース、ビタミン、タンパク質加水分解物、またはそれらの任意の組合せを含む、実施形態20Bに記載の方法。
【0157】
実施形態22B:少なくとも1つの追加の栄養は、機能的形態の対象とするタンパク質の発現を促進するために加えられる、実施形態20Bまたは21Bに記載の方法。
【0158】
実施形態23B:産生段階は、追加の栄養供給溶液をCCFに加えることをさらに含み、追加の栄養供給溶液は、少なくとも1つの追加の栄養を含む、実施形態10B~22Bのいずれか1つに記載の方法。
【0159】
実施形態24B:少なくとも1つの追加の栄養は、アミノ酸、グルコース、ビタミン、タンパク質加水分解物、またはそれらの任意の組合せを含む、実施形態23Bに記載の方法。
【0160】
実施形態25B:少なくとも1つの追加の栄養は、機能的形態の対象とするタンパク質の発現を促進するために加えられる、実施形態23Bまたは24Bのいずれか1つに記載の方法。
【0161】
実施形態26B:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の収量は、有効量のシスチンがCCF中で0超に維持されないプロセスにおいて製造された対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の収量と比べて約20%~100%増加される、実施形態5B~25Bのいずれか1つに記載の方法。
【0162】
実施形態27B:ジスルフィド結合還元の電位は、真空チャンバ中において、製造プロセス中の選択された時点で得られたCCFのサンプルを貯蔵する工程と、対照サンプルと比べた、対象とするタンパク質の断片化のレベルを測定する工程とを含む方法によって測定される、実施形態5B~26Bのいずれか1つに記載の方法。
【0163】
実施形態28B:断片化のレベルは、非還元条件下でバイオアナライザを用いて測定される、実施形態27Bに記載の方法。
【0164】
実施形態29B:バイオアナライザは、GX LabChipを含む、実施形態28Bに記載の方法。
【0165】
実施形態30B:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、組み換えタンパク質である、実施形態1B~29Bのいずれか1つに記載の方法。
【0166】
組み換えタンパク質は、宿主細胞に、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質をコードする発現プラスミドをトランスフェクトすることから得られる、実施形態30Bに記載の方法。
【0167】
実施形態31B:対象とするタンパク質は、宿主細胞から分泌される、実施形態30Bに記載の方法。
【0168】
実施形態32B:宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはNS0細胞である、実施形態30Bまたは31Bに記載の方法。
【0169】
実施形態33B:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、抗体またはその抗原結合断片である、実施形態1B~30Bのいずれかに記載の方法。
【0170】
実施形態34B:抗体またはその抗原結合断片は、モノクローナル抗体またはその断片である、いずれかの実施形態33Bに記載の方法。
【0171】
実施形態35B:モノクローナル抗体またはその断片は、IgG抗体またはその断片である、実施形態34Bに記載の方法。
【0172】
実施形態36B:IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4である、実施形態35Bに記載の方法。
【0173】
実施形態37B:抗体またはその抗原結合断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、またはジスルフィドが結合されたFvs(sdFv)である、実施形態33Bに記載の方法。
【0174】
実施形態38B:抗体またはその断片は、キメラ、ヒト、またはヒト化抗体またはその断片である、実施形態33B~37Bのいずれか1つに記載の方法。
【0175】
実施形態39B:対象とするタンパク質中のジスルフィド結合は、分子間または分子内にある、実施形態1B~38Bのいずれか1つに記載の方法。
【0176】
実施形態40B:培養プロセスは、バッチプロセス、流加プロセス、反復流加プロセス、灌流プロセス、連続プロセス、またはそれらの組合せである、実施形態1B~39Bのいずれかに記載の方法。
【0177】
実施形態41B:シスチンレベルは、シスチン溶液、栄養供給、栄養溶液、モノマーシステインを含有する溶液、またはシスチンを含有する溶液の少なくとも1つを直接加えることにより、培養または発酵において維持される、実施形態1B~40Bのいずれか1つに記載の方法。
【0178】
実施形態42B:モノマーシステインは、酸化条件下でシスチンに転化される、実施形態41Bに記載の方法。
【0179】
実施形態43B:シスチンは、シスチンレベルを0超に維持するために細胞培養プロセスに加えられ、および/またはCuは、レベルを0超に維持するために細胞培養プロセスに加えられ、および/またはEDTAは、細胞培養または発酵プロセスにおける対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるか、または対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元または還元電位を低下させるために採取前に細胞培養プロセスに加えられる、実施形態1Bに記載の方法。
【0180】
実施形態44B:EDTAは、細胞培養または発酵プロセスにおける対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるか、または対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元または還元電位を低下させるために、採取前に>9.5、>19、または>38mMで細胞培養プロセスに加えられる、実施形態1Bに記載の方法。
【0181】
実施形態45B:シスチンは、細胞培養または発酵プロセスにおける対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるか、または対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元または還元電位を低下させるために、採取前に>4または>8mMで細胞培養プロセスに加えられる、実施形態1Bに記載の方法。
【0182】
実施形態1C:対象とする精製されたジスルフィド結合含有タンパク質の安定性を改良するための方法であって、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質を、最小の遊離チオールを含む形態に維持する製造プロセスを使用し、それにより、製造プロセス中の対象とするジスルフィド結合含有タンパク質の還元または還元電位を緩和する工程を含む方法。
【0183】
実施形態2C:製造プロセスは、細胞培養段階、採取段階、少なくとも1つの保持段階、精製段階、またはそれらの任意の組合せを含む、実施形態1Cに記載の方法。
【0184】
実施形態3C:保持段階は、製造プロセス中の段階のいずれかにおいて材料を貯蔵することを含む、実施形態2Cに記載の方法。
【0185】
実施形態4C:保持段階は、採取段階後かつ精製段階前に最大で1日間、少なくとも4日間、少なくとも1週間、少なくとも10日間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月間、または少なくとも3ヶ月間の期間にわたり、採取された細胞培養液(HCCF)を貯蔵することを含む、実施形態3Cに記載の方法。
【0186】
実施形態5C:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質中の遊離チオールを最小限に抑える工程は、製造プロセス全体を通してジスルフィド結合還元を緩和することを含む、実施形態4Cに記載の方法。
【0187】
実施形態6C:HCCFは、保持段階中、気密性袋中において2~8℃で貯蔵される、実施形態4Cまたは5Cのいずれか1つに記載の方法。
【0188】
実施形態7C:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質中の遊離チオールは、保持段階全体を通して20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、または1%未満に維持される、実施形態2C~6Cのいずれか1つに記載の方法。
【0189】
実施形態8C:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質中の遊離チオールは、製剤原料段階で質量分析法によって測定される、実施形態7Cに記載の方法。
【0190】
実施形態9C:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、抗体またはその抗原結合断片である、前の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0191】
実施形態10C:遊離チオールは、軽鎖中、重鎖中、ヒンジ領域中、またはそれらの組合せ中において抗体中で測定される、実施形態9Cに記載の方法。
【0192】
実施形態11C:ジスルフィド結合還元を緩和する工程は、保持段階またはその任意の部分中にHCCF中で有効量のシスチン、Cu++、またはシスチンおよびCu++を維持することを含む、実施形態4C~10Cのいずれか1つに記載の方法。
【0193】
実施形態12C:有効量のシスチンは、少なくとも約2.0mM、少なくとも約2.5mM、少なくとも約3.0mM、少なくとも約3.5mM、または少なくとも約4.0mMを占める、実施形態11Cに記載の方法。
【0194】
実施形態13C:有効量のCu++は、少なくとも約2.0ppm、少なくとも約3.0ppm、少なくとも約4.0ppm、少なくとも約4.5ppm、少なくとも約5.0ppm、または少なくとも約5.5ppmを占める、実施形態11Cまたは12Cに記載の方法。
【0195】
実施形態14C:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質中の遊離チオールを最小限に抑える工程は、産生段階もしくはその任意の部分中、採取前段階もしくはその任意の部分中、採取段階もしくはその任意の部分中、またはそれらの任意の組合せで採取細胞培養液(HCCF)中のジスルフィド結合還元を緩和することをさらに含む、実施形態1C~13Cのいずれか1つに記載の方法。
【0196】
実施形態15C:ジスルフィド結合還元の緩和は、製造プロセスまたはその任意の部分中にCCF中で有効量のシスチン、Cu++、またはシスチンおよびCu++を維持することを含む、実施形態14Cに記載の方法。
【0197】
実施形態16C:製造プロセスは、細胞培養段階、採取段階、少なくとも1つの保持段階、精製段階、またはそれらの任意の組合せを含む、実施形態15Cに記載の方法。
【0198】
実施形態17C:有効量のシスチンは、少なくとも約2.0mM、少なくとも約2.5mM、少なくとも約3.0mM、少なくとも約3.5mM、または少なくとも約4.0mMを占める、実施形態15Cまたは16Cのいずれか1つに記載の方法。
【0199】
実施形態18C:シスチンの量は、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質におけるcys付加物の形成を最小限に抑えながら、ジスルフィド結合還元を有効に緩和するために調整される、実施形態15C~17Cのいずれか1つに記載の方法。
【0200】
実施形態19C:有効量のCu++は、少なくとも約2.0ppm、少なくとも約3.0ppm、少なくとも約4.0ppm、少なくとも約4.5ppm、少なくとも約5.0ppm、または少なくとも約5.5ppmを占める、実施形態15C~18Cのいずれか1つに記載の方法。
【0201】
実施形態20C:有効量のシスチン、Cu++、またはシスチンおよびCu++は、製造プロセスの最後の14日間、最後の12日間、最後の10日間、最後の8日間、最後の6日間、最後の4日間、最後の2日間、または最終日中にCCF中で維持される、実施形態15C~19Cのいずれか1つに記載の方法。
【0202】
実施形態21C:有効量のシスチン、Cu++、またはシスチンおよびCu++は、全製造プロセス中に維持される、実施形態15C~20Cのいずれか1つに記載の方法。
【0203】
実施形態22C:有効量のシスチン、Cu++、またはシスチンおよびCu++は、製造プロセス中に一定の間隔でシスチン、Cu++、またはシスチンおよびCu++補給剤を加えることによってCCF中で維持される、実施形態15C~21Cのいずれか1つに記載の方法。
【0204】
実施形態23C:製造プロセスは、少なくとも8日間、少なくとも10日間、少なくとも12日間、少なくとも14日間、または少なくとも16日間にわたって細胞をCCF中で維持することを含む、実施形態1C~22Cのいずれか1つに記載の方法。
【0205】
実施形態24C:補給剤添加は、製造プロセス中に少なくともほぼ毎日、少なくとも約2日毎、少なくとも約3日毎、少なくとも約4日毎、または少なくとも約5日毎に行われる、実施形態23Cに記載の方法。
【0206】
実施形態25C:補給剤添加は、栄養供給溶液を加えることを含み、栄養供給溶液は、CCF中で有効量のシスチン、Cu++、またはシスチンおよびCu++を維持するのに十分な量のシスチン、Cu++、またはシスチンおよびCu++を含む、実施形態23Cまたは24Cに記載の方法。
【0207】
実施形態26C:栄養供給溶液は、少なくとも1つの追加の栄養をさらに含む、実施形態25Cに記載の方法。
【0208】
実施形態27C:少なくとも1つの追加の栄養は、アミノ酸、グルコース、ビタミン、タンパク質加水分解物、またはそれらの任意の組合せを含む、実施形態26Cに記載の方法。
【0209】
実施形態28C:有効量のシスチン、Cu++、またはシスチンおよびCu++は、採取前段階中にHCCF中で維持される、実施形態14C~27Cのいずれか1つに記載の方法。
【0210】
実施形態29C:有効量のシスチン、Cu++、またはシスチンおよびCu++は、採取段階またはその一部中にHCCF中で維持される、実施形態14C~28Cのいずれか1つに記載の方法。
【0211】
実施形態30C:有効量のシスチン、Cu++、またはシスチンおよびCu++は、採取段階全体を通してCCF中で維持される、実施形態29Cに記載の方法。
【0212】
実施形態31C:採取段階は、細胞溶解を最小限に抑えるように行われる、実施形態30Cに記載の方法。
【0213】
実施形態32C:ジスルフィド結合還元の緩和は、Lab Chipを用いて測定される、実施形態5C~31Cのいずれか1つに記載の方法。
【0214】
実施形態33C:Lab Chipは、非還元LabChipである、実施形態32Cに記載の方法。
【0215】
実施形態34C:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、対象とするジスルフィド結合含有タンパク質をコードする発現プラスミドをトランスフェクトされた宿主細胞内で発現される、実施形態1C~33Cのいずれか1つに記載の方法。
【0216】
実施形態35C:タンパク質凝集は、対象とする精製されたジスルフィド結合含有タンパク質における遊離チオールを最小限に抑える工程により、最小限に抑えられる、実施形態1C~34Cのいずれか1つに記載の方法。
【0217】
実施形態36C:タンパク質凝集は、タンパク質凝集の程度、凝集の速度、またはそれらの組合せを最小限に抑えることによって最小限に抑えられる、実施形態35Cに記載の方法。
【0218】
実施形態37C:対象とする精製されたタンパク質の凝集は、サイズ排除クロマトグラフィー、質量分析、またはそれらの組合せを用いて時間とともに測定される、実施形態34Cまたは35Cに記載の方法。
【0219】
実施形態38C:対象とする精製されたジスルフィド結合含有タンパク質は、精製後にバルクで貯蔵され、および凝集は、対象とするタンパク質の承認された保存期間にわたって測定される、実施形態24C~37Cのいずれか1つに記載の方法。
【0220】
実施形態39C:対象とする精製されたジスルフィド結合含有タンパク質は、5℃で貯蔵され、凝集の速度は、月に約0.4%未満、月に約0.3%未満、月に約0.2%未満、月に約0.1%未満、または月に約0.05%未満である、実施形態38Cに記載の方法。
【0221】
実施形態40C:対象とする精製されたジスルフィド結合含有タンパク質は、40℃で貯蔵され、凝集の速度は、月に約2%未満、月に約1.5%未満、月に約1%未満、月に約0.8%未満、または月に約0.5%未満である、実施形態38Cに記載の方法。
【0222】
実施形態41C:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、組み換えタンパク質である、実施形態1C~40Cのいずれかに記載の方法。
【0223】
実施形態42C:組み換えタンパク質は、宿主細胞内で発現される、実施形態41Cに記載の方法。
【0224】
実施形態43C:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、宿主細胞から分泌される、実施形態42Cに記載の方法。
【0225】
実施形態44C:宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはNS0細胞である、実施形態42Cまたは43Cに記載の方法。
【0226】
実施形態45C:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、抗体またはその抗原結合断片である、実施形態34C~44Cのいずれかに記載の方法。
【0227】
実施形態46C:抗体またはその断片は、モノクローナル抗体またはその断片である、実施形態45Cに記載の方法。
【0228】
実施形態47C:抗体またはその断片は、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、IgG4抗体、またはその断片である、実施形態46Cに記載の方法。
【0229】
実施形態48C:抗体またはその断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、またはジスルフィドが結合されたFvs(sdFv)である、実施形態45C~47Cのいずれか1つに記載の方法。
【0230】
実施形態49C:抗体またはその断片は、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはその断片である、実施形態45C~48Cのいずれか1つに記載の方法。
【0231】
実施形態50C:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質中のジスルフィド結合は、分子間または分子内にある、実施形態1C~49Cのいずれか1つに記載の方法。
【0232】
実施形態51C:対象とするジスルフィド結合含有タンパク質は、適切にフォールディングされた場合、少なくとも2つのジスルフィド結合を含む、実施形態1C~50Cのいずれか1つに記載の方法。
【0233】
実施形態52C:製造プロセスにおける抗体ジスルフィド結合還元の最小化は、対象とする精製されたジスルフィド結合含有タンパク質における遊離チオールレベルを低下させ、かつタンパク質凝集を最小限に抑える、実施形態1C~34Cのいずれか1つに記載の方法。
【0234】
実施形態xx:ジスルフィド結合還元および/またはジスルフィド結合還元電位および/または遊離チオールの最小化は、製造プロセス(バイオリアクターおよび採取を含む)のいずれかの工程中、(金属イオン(Zn2+、Mn2+、Fe3+、Cu2+、Se2+を含む)、シスチン、溶存酸素、βメルカプトエタノール、グルタチオン、またはそれらの組合せを含む酸化還元調節剤を加えることによって)Cu、シスチン、EDTA、または酸化還元電位を増加させることによって達成される、請求項のいずれか1つに記載の方法。
【0235】
本開示は、特に示されない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組み換えDNA、および免疫学の従来の技術を用いるが、これは、当該技術分野の技能の範囲内である。このような技術は、文献において十分に説明されている。
【0236】
抗体操作、タンパク質操作、抗体および抗体-ハプテン結合、ならびに免疫学における標準的な方法の一般的原理は、当該技術分野において周知である。本明細書に引用される公開された文献、特許、および特許出願の全ては、全体が参照により本明細書に援用される。
【0237】
以下の実施例は、限定としてではなく、例示として提供される。
【実施例
【0238】
試薬
還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸水和物(NADP)、酸化型グルタチオン(GSSG)、硫酸銅(CuSO)、5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)、アウロチオグルコース(ATG)、および2-アセチルアミノ-3-[4-(2-アセチルアミノ-2-カルボキシエチルスルファニルチオカルボニルアミノ)フェニルチオ-カルバモイルスルファニル]プロピオン酸水和物(2-AAPA)は、商業的供給源(例えば、Sigma-Aldrich,St.Louis,MO)から入手可能である。ラット組み換えチオレドキシン還元酵素1(TrxR1)は、市販されている(例えば、Cayman Chemical,Ann Arbor,MI)。親和性樹脂2’5’アデニンジヌクレオチドリン酸(ADP)セファロース4Bは、GE Healthcare(Pittsburgh,PA)から入手される。抗チオレドキシン抗体、抗グルタチオン還元酵素抗体、抗グルタレドキシン抗体、ヒト組み換えチオレドキシン(Trx1)およびヒト組み換えグルタチオン還元酵素(GR)は、Abcam(Cambridge,MA)から入手可能である。抗チオレドキシン還元酵素抗体は、Santa Cruz Biotechnology(Dallas,TX)から入手可能である。試薬は、入手したままの状態でさらに精製せずに使用される。
【0239】
機器の準備
3Lのオートクレーブ処理可能なバイオリアクター容器(Applikon Biotechnology;Delft,the Netherlands)を、プローブ、供給瓶、および全てのポートが閉鎖されているが、通気されたシステムを形成するように封止された他の機器を含む全ての周辺機器と連結した。容器を121℃超で30分間超にわたってオートクレーブ処理した。サイクルが完了したとき、滅菌容器を室温に冷ました。次に、容器に1Lの滅菌バッチ成長培地を充填した。Supervisory Control and Data Acquisition(SCADA)コントローラを用いて、プロセスパラメータを監視し、制御した。1ピッチブレードインペラをそれぞれ備えた3Lのバイオリアクターを280~300RPMで撹拌した。空気を94mL/分の流量で3Lのリアクター中に散布し、CO2を6mL/分でリアクター中に散布した。リアクターを温度設定点まで加熱した。温度、pH、およびCOが定常状態に達したとき、溶存酸素プローブを94%空気飽和になるまで校正し、pHを、血液ガス分析装置(BGA)を用いたオフライン測定に合わせて調整した。ApplikonまたはBraun 50L(定置蒸気滅菌)バイオリアクターをより大規模な試験に使用した。50Lのバイオリアクターは、プロセス制御のためにAllen Bradley製のプログラマブルロジックコントローラ(PLC)およびヒューマンマシンインタフェース(HMI)を使用した。2ピッチブレードインペラを備えた50Lのバイオリアクターを70RPM(Braun)または110RPM(Applikon)で撹拌した。
【0240】
バイアル融解および接種材料拡大
試験用のIgG2モノクローナル抗体-A(mAb-A)のDevelopment Working Cell Bank(DWCB)の1mLのバイアルを、250mLのNalgene通気キャップ振とうフラスコ中で液体窒素貯蔵から30mLの接種材料拡大培地へと融解させた。振とうフラスコを120RPMの撹拌速度で振とうプラットフォームにおいて37℃、6%のCO培養器に入れた。培養物が>2.5/mLの生存細胞密度(VCD)に達したとき、培養物を0.5~1.0個/mLに分割した。バイオリアクターから接種材料を産生するために、500mLおよび1LのNalgene通気キャップ振とうフラスコおよびNalgene 2Lバッフル付き(baffled)通気キャップ振とうフラスコを含むより大型の振とうフラスコを連続的に用いて、培養物体積を拡大させた。50Lのバイオリアクターまで拡大する場合、0.25L/分で6%のCO散布を用いたロッカープラットフォーム(rocker platform)において10LのSartoriusカルチバッグ(cultibag)を用いて、さらなる拡大工程を行った。カルチバッグ(cultibag)の温度を37℃に制御し、ロッカー角度は8であり、ロック速度は25RPMであった。
【0241】
産生バイオリアクターの操作(mAb-A)
バイオリアクター中の培地は、接種材料拡大に使用されるのと同じ成長培地であった。初期作動体積は、1.5L(50Lのバイオリアクター中45L)であった。産生バイオリアクターへの細胞の分割比は、接種時、300mLの細胞および追加の200mLの成長培地が、温度、pH、およびDOが制御された3Lの容器に充填されるように体積基準で1:5(1部の細胞および4部の培地)であった。ViCell XR細胞計数器を用い、定期的な生存細胞計数を用いて培養物を成長について分析した。オフライン測定値を、pHおよびpCOを測定するためにBGA Rapidpoint 400を用いて;グルコース、乳酸塩、およびアンモニアを測定するためにNova Bioprofile 400 Bioanalyzerを用いて;オスモル濃度を測定するためにAdvanced Instruments Model 2020氷点浸透圧計を用いて;力価を測定するためにプロテイン-AカラムとともにAgilent 1100 HPLCを用いて;およびアミノ酸を測定するためにAccQ tagアッセイとともにWaters製の超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)アミノ酸分析システムを用いて定期的に収集した。生存細胞密度が、補足的な栄養供給スキームを開始させる基準である2.5個/mLに達するまで、培養物をバッチ段階で成長させた。流加プロセス期間は、約14日間であった。
【0242】
供給スキーム
第1の栄養供給(NF)を、産生バイオリアクターが2.5個の生存細胞/mLのVCD基準を満たした1日目に投与した。最初の栄養供給添加後、次の栄養供給添加を1日置きに行った。合計で5または6回の栄養供給添加をバイオリアクターに投与し、これは、それぞれ部分Aおよび部分Bからなる。栄養供給部分Aは、アミノ酸、ビタミン、および他の細胞培養栄養を含む栄養供給成分の大部分からなっていた。栄養供給部分Bは、L-シスチンおよび追加の成分の塩基性溶液を含有していた。各栄養供給添加は、以下の表1に示されるように、異なる量の栄養供給部分AおよびBからなっていた。
【0243】
【表1】
【0244】
抗体還元電位アッセイ(BioA/真空)
バイオリアクターサンプル(1mL)を毎日取得し、3000~4000RPMで遠心分離し、上清を-80℃で直ちに凍結した。アッセイの前日にサンプルを-80℃での貯蔵から取り出し、融解させ、室温で一晩真空チャンバに入れて、酸素の干渉なしにモノクローナル抗体の還元を誘導した。真空保持後、サンプルを、BioAnalyzerシステム(Agilent Technologies)またはLABCHIP(登録商標)GXIIシステム(PerkinElmer)を用いて、非還元条件下でタンパク質断片化について分析して、抗体の鎖間ジスルフィド結合の切断から生じた抗体断片を検出した。LabChip GX IIアッセイは、サンプル中に存在する無傷の抗体(2つの重鎖および2つの軽鎖)のパーセントを示す純度値を報告している。
【0245】
断片化および還元種分析
サンプルを真空分析にかけた場合、それらを融解させ、ボルテックスした。約400μLのアリコートをガラス管に移した。管を、オン/オフ制御を提供し得るスクリューキャップMininert(商標)弁(VICI Valco Instruments,Houston,TX)によって密閉した小型の真空チャンバに入れた。真空を、シリコンチューブに通して真空チャンバにかけ、チャンバを密閉した。次に、アルゴンガスを、アルゴン圧力が確立されるまでシリコンチューブに通してチャンバにかけて、チャンバを再度密閉した。上記の手順後、3サイクルの真空/アルゴンでプロセスを繰り返し、次に内部にアルゴンを入れた状態でチャンバを密閉した。次に、チャンバを室温で一晩インキュベートした。
【0246】
サンプルを分析するまで冷凍貯蔵した。融解させたら、400~600μLの各サンプルを培養管に移し、N-エチルマレイミド(NEM)を含有する非還元サンプル緩衝液中で混合した。変性させ、遊離チオールをNEMによってキャッピングした後、サンプルを、サイズ分画および定量化を行うために、Perkin Elmer Labchip(登録商標)GXII(Perkin Elmer,Waltham,MA)を用いて分析した。Labchip(登録商標)GXIIを用いて、タンパク質および断片をレーザー誘起蛍光によって検出し、ゲルのような画像(バンド)および電気泳動図(ピーク)に変換した。
【0247】
抗体凝集分析
抗体凝集物のパーセントを、標準的なサイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC)方法を用いて決定した。Agilent 1200シリーズシステムを、0.1Mのリン酸ナトリウム、0.1Mの硫酸ナトリウム、pH6.8の移動相緩衝液を1mL/分の流量で用いて、Tosoh Bioscience TSKgel G3000SW XLカラム(Tosoh Bioscience LLC,King of Prussia,PA)(7.8mm×300mm)とともに使用した。280nmにおける吸光度クロマトグラフィーを用いて結果を定量化した。
【0248】
採取された細胞培養液(HCCF)における遊離チオール定量化
採取された細胞培養液中の遊離チオールの量を、ジスルフィドが結合されたペプチドの予測質量を非還元Lys-Cペプチドマッピングからの観測質量に一致させることによって決定した。簡潔には、サンプルを変性させ、セリンプロテアーゼによる消化前に希釈した。プロテアーゼ消化後、各反応混合物の半分をDTTの添加によって還元させた。消化物を、C18カラムを用いたRP-HPLCによって分離し、UV検出器およびオンライン質量分析計を用いて分析した。ジスルフィド結合連結されたペプチドは、非還元試験でのみ存在し、還元条件下で消失するであろう。
【0249】
遊離チオール定量化アッセイ
遊離チオールアッセイは、不対合システイン残基における遊離チオール基のレベルを測定することにより、タンパク質中のジスルフィド結合の完全性を評価する。遊離チオールに結合し、着色されたチオレートイオンを放出する化合物(5,5’-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)またはDTNB)とともに、サンプルを天然および変性条件下でインキュベートする。着色されたチオレートイオンを、紫外・可視分光光度計を用いて検出する。遊離チオールの濃度を標準的な曲線から内挿し、遊離チオール対抗体モル比を報告する。
【0250】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、それぞれ1.5Lの初期体積を用いる大規模製造プロセスを代表する条件下において、3Lのガラス撹拌槽型バイオリアクター中で培養した。培養条件(温度、pH、DO、および撹拌)を制御し、オンラインで監視した。pH、溶解されたガス(pO、pCO)、ナトリウムおよび代謝産物濃度(グルコース、乳酸塩、アンモニア)のオフライン測定値を、BIOPROFILE(登録商標)Analyzer(NOVA Biomedical,Waltham,MA)およびRAPIDPOINT(登録商標)500 BGAシステム(Siemens,Malvern,PA)を用いて取得した。細胞成長を、VI-CELL(登録商標)(Beckman Coulter,Indianapolis,IN)を用いて監視し、力価を、プロテイン-A親和性クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0251】
実施例に使用されるCHO細胞株に、免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチドを安定的にトランスフェクトした。
【0252】
抗体還元活性
抗体還元におけるチオレドキシンおよびグルタチオン系の役割を評価するために、抗体還元を、酵素特異的阻害剤を用いておよび用いずに決定した。3Lのバイオリアクターからの14日目の培養サンプル(細胞+培地)を、全てのサンプルの分析の準備ができるまで冷凍貯蔵した。融解させた後、サンプルを遠心分離し、0.2μmのフィルタに通してろ過し、示された濃度の還元酵素阻害剤を加え、サンプルを室温で一晩にわたり無酸素環境中で貯蔵した。
【0253】
簡潔には、培養サンプルを氷上で融解させ;続いて、細胞ペレットを除去するように(すなわち12,000rpmで3分間)サンプルを遠心分離し、0.2μmのフィルタに通してろ過し、上清サンプルを氷上で貯蔵した。上清サンプルに何も添加しないか、0.1mMのATG、3μMのCu2+、または0.1mMのATGおよび3μMのCu2+の両方のいずれかの添加後、サンプルを培養管に移し、サンプルおよび阻害剤が確実に十分に混合されるように管をボルテックスした。細胞培養管を真空チャンバに入れて、真空チャンバをNガスおよび真空ラインに連結することによってサンプルから酸素をパージし、真空をチャンバから引き抜き、続いて1分間待機した。真空ラインを閉じ、Nラインを短時間開き、次に真空工程およびNの添加を2回繰り返した。次に、真空チャンバを室温で一晩貯蔵した。次に、真空チャンバを室温で一晩貯蔵した。サンプルを、標準的な非還元型手順を用い、2100 Bioanalyzerを用いて分析した。
【0254】
細胞培養物上清サンプルにおける抗体還元を、2100 Bioanalyzerシステム(Agilent Technologies,Santa Clara,CA)において標準的な手順を用いて、キャピラリー電気泳動によって還元種の存在を検出することによって測定した。サンプルを力価に応じて1~6倍に希釈し、2100 Bioanalyzerの標準的なプロトコルに従って非還元条件下で分析した。3Lのバイオリアクターからの上清サンプルを、全てのサンプルを取得し、分析の準備ができるまで冷凍貯蔵した。サンプルを氷上で融解させ、試験のそれぞれの日にリアクター中の還元抗体の量を評価するように直ちに分析した。
【0255】
還元酵素活性アッセイ
このアッセイは、培養サンプルにおける総還元酵素活性の決定、ならびにサンプルの総還元酵素活性に対してチオレドキシン還元酵素およびグルタチオン還元酵素によってなされる個々の寄与の決定を可能にする。このアッセイでは、3Lのバイオリアクターからの培養サンプル(細胞+培地)を試験の終了まで冷凍貯蔵し、その後、サンプルを遠心分離して、細胞ペレットを除去し、次に得られた上清を、示された濃度の特異的還元酵素阻害剤とともに0.4mMのNADPH、0.15mMの酸化型グルタチオン、および3mMのDTNBを含有する100mMのトリス緩衝液、pH7.4中で20倍に希釈した。サンプルへの酵素特異的阻害剤の添加により、総還元酵素活性ならびにチオレドキシンおよびグルタチオン系からの個々の活性を決定することが可能になった。還元酵素活性を412nmの波長における吸光度の増加の分光計測によって監視した。DTNBの還元は、チオレドキシン系およびグルタチオン系の両方とのDTNBの相互作用によって引き起こされる。この波長における吸光度の検出された増加は、DTNBの還元によって引き起こされる(Arner,ESJ,Biochim.Biophys.Acta-Gen.Subj.,1790:495-526,2009)。
【0256】
総還元酵素活性を阻害剤の非存在下で決定した。チオレドキシン還元酵素阻害剤、ATGは、チオレドキシン系の還元酵素活性を完全に阻害する。したがって、ATGを含むサンプルと、阻害剤を含まないサンプルとの間の活性の差は、還元酵素活性の量がチオレドキシン系に寄与したことを示す。同様に、グルタチオン還元酵素阻害剤、2-AAPAは、グルタチオン系の還元酵素活性を完全に阻害する。したがって、2-AAPAを含むサンプルと、阻害剤を含まないサンプルとの間の還元酵素活性の差は、還元酵素活性の量がグルタチオン系に寄与したことを示す。ATGおよび2-AAPAが例示的な特異的阻害剤として提供されるが、上述される他の特異的阻害剤がATGおよび2-AAPAの代わりにこのアッセイに用いられ得る。
【0257】
簡潔には、培養サンプルを氷上で融解させた。融解されたサンプルを、細胞ペレットを除去するように(例えば、12,000rpmで3分間)遠心分離し、上清サンプルを氷上で貯蔵した。96ウェル透明底プレートのウェルに以下の試薬を加えた:100mMのトリス緩衝液、pH7.4(160μL-X-Y-Z)、ここで、Xは、サンプルの体積であり、これは、10μL、またはバックグラウンドウェルでは0μLであり、Yは、ATGの体積であり、これは、4.1μL、または0μLのいずれかであった。4.1μLの添加により、0.5μMのATGの最終濃度が得られ、Zは、2-AAPAの体積であり、これは、5.2μL、または0μLのいずれかであった。5.2μLの添加により、100μMの2-AAPAの最終濃度、0.2mMの最終濃度において、10μLのNADPH、ATGおよび/または2-AAPA(示される濃度でまたは任意の還元酵素特異的阻害剤)、および工程からの10μLの細胞培養物上清が得られた。次に、サンプルを5分間インキュベートさせた。次に、以下の試薬を加えた:0.15mMの最終濃度になるまで10μLの酸化型グルタチオン、および3mMの最終濃度になるまで10μLのDTNB。各ウェルをマルチチャンネルピペットで迅速に混合した。各ウェルにおける総体積は、約200μLであった。412nmの波長における吸光度を30秒毎に20分間測定した。
【0258】
分析
還元酵素の活性を以下のように計算した。各ウェルについての1分当たりの吸光度の変化(Δ412)を測定した。典型的に、実験の開始時の時間のずれおよび検出器の飽和/アッセイの終わり頃のウェルにおける試薬の枯渇のため、最初の1~3分間および最後の5~10分間を除外した。次に、Δ412,補正の補正値を得るように、バックグラウンドを各細胞培養サンプルウェルから差し引いた(Δ412,サンプル-Δ412,バックグラウンド)。次に、活性を下式によって計算した。
【数1】
式中、εTNB=6.22mM-1cm-1である。
【0259】
ウエスタンブロットアッセイ
還元酵素を検出するために以下に示される様々な実施例において、ウエスタンブロットを行った。ウエスタンブロット手順では、3Lのバイオリアクターからの細胞ペレットを試験の終了まで冷凍貯蔵し、その後、標準的な方法を用いて、既に記載されるようにウエスタンブロットを行った(Handlogten,et al.,Chem.Biol.,21:1445-1451,2014)。一次抗体を、示される濃度で使用した:1/333の抗TrxR1、1/1000の抗Trx1、1/333の抗Grx、および1/2000の抗GR。
【0260】
酵素精製
還元酵素を細胞サンプルから精製して、還元酵素阻害剤の特異性を確認した。mAb B(CHO細胞株B CHO-K1SVによって産生されるIgG抗体)の14日目の培養物を遠心分離によってペレット化し、PBSで1回洗浄し、50mMのトリス緩衝液、pH7.5中で再度懸濁させた。溶液を均質化し、0.2μmでろ過してから、2’5’-ADPセファロース4B樹脂のカラムに充填した。還元酵素を、同じトリス緩衝液中の0~0.3mMのNADPの線形に増加する勾配を用いて溶離した(Yadav,et al.,Parasitol.Int.,62:193-198,2013)。収集された画分の還元酵素活性を、実施例3に記載されるアッセイを用いて決定した。さらに、ウエスタンブロット分析を用いて、収集された画分中のTrxR1およびGRを検出した。
【0261】
採取された細胞培養液精製
採取された細胞培養液(HCCF)からmAbを回収するための捕捉工程として、プロテインA樹脂(MabSelectSuRe,GE Healthcare)を用いた精製を行い、続いてウイルス不活性化のための低pH処理を行った。中間および最終ポリシングクロマトグラフィー工程は、それぞれアニオン交換(Super Q 650-M,Tosoh Bioscience)およびカチオン交換(POROS 50HS樹脂、Thermo Fisher Scientific)クロマトグラフィーを含む。生成物を、限外ろ過/透析ろ過を用いて製剤原料へと製剤化した。
【0262】
実施例1:製造中の抗体還元
製造プロセスの細胞培養段階中のジスルフィド結合含有タンパク質に起こる還元の量を決定するために、3つの異なるモノクローナル抗体を3つの異なる細胞株中で製造し、分子の還元の程度を測定した。この実験では、3つのモノクローナル抗体、mAb A、mAb B、およびmAb Cをそれぞれ細胞株A(CHO CAT-S)、B(CHO-K1SV)、およびC(CHO-K1SV)中で産生した。モノクローナル抗体mAb Aは、IgG1分子であり、mAb Bは、IgG2分子であり、mAb Cは、IgG4分子である。全ての3つのプロセスは、同様の細胞成長、細胞生存率、および力価生成を有する。さらに、全ての3つの発現系は、製造プロセス中に還元酵素活性を生じた。各細胞培養物上清中の還元抗体の量を培養の6日目から開始して決定した。mAb分子の還元の程度を上述される手順に従ってキャピラリー電気泳動によって決定した。図2Aに示されるように、全ての3つの発現系において、無傷の抗体のパーセントは、8日目から開始して時間とともに低下し、細胞株Bが抗体還元の最も高い程度を生じ、細胞株Cが14日目に最も多い量の無傷の抗体を生じた。
【0263】
各発現系において、検出される抗体還元の量と還元酵素活性との間に相関があるかどうかを決定するために、各細胞培養サンプルにおける総還元酵素活性を、上記の実施例3に記載される比色還元酵素アッセイプロトコルを用いて評価した。図2Bに見られるように、産生された全ての3つの発現系は、14日目の細胞培養物より還元酵素活性を増加させた。同様の量の14日目の細胞培養物還元酵素活性が細胞株AおよびCについて観察された一方、細胞株Bは、細胞株AおよびCと比較してほぼ2倍のレベルの還元酵素活性を示した。細胞株Bに関連するより高い還元酵素活性は、細胞株Bの約半分の還元酵素活性を生じた発現系によってそれぞれ産生されたmAb AおよびmAb Cと比較してより高いパーセントの還元mAb Bを生じた。
【0264】
実施例2:チオレドキシンおよびグルタチオン系の検出
分析される3つの細胞株がTrxR1、Trx1、GR、およびGrxを発現したことを確認するために、ウエスタンブロット分析を6日目および10日目の個々の細胞培養物からの細胞ペレットにおいて行って、グルタチオンおよびチオレドキシン系の酵素の発現を検出した。全ての3つの細胞株がTrxR1、Trx1、GR、およびGrxを発現し、これらの分子は、活性チオレドキシンおよびグルタチオン系に必要とされる。過去の研究は、グルタチオンが10mMを超える濃度でCHO細胞中に存在することを実証した(Lin,et al.,1992、Ann.N.Y.Acad.Sci.,665:117-126)。
【0265】
実施例3:抗体還元に対するグルタチオンおよびチオレドキシン系の影響
抗体還元における各酵素系の役割を、これらの還元酵素系が抗体還元を引き起こす条件を決定することによって評価した。精製された組み換え哺乳動物還元酵素を用いて、精製されたmAb Bを、1)酵素なし、2)1μMのTrxR1、3)0.1μMのTrxR1、4)2.5μMのTrx1、および5)0.1μMのTrxR1+2.5μMのTrx1を含有する5つの溶液中に添加することにより、チオレドキシン系を評価した。全てのサンプルは、0.4mMのNADPHを含有しており、それを室温で一晩貯蔵した。ゲルのようなデジタル画像が、マイクロチップに基づくキャピラリー電気泳動分析から取得された。上記の結果と一致して、mAb BがTrxR1およびTrx1の両方の存在下でのみ還元され、それにより、還元が起こるためのチオレドキシン系(TrxR1およびTrx1)における両方の酵素の必要性を実証している。
【0266】
組み換え哺乳動物酵素を用いた同じ手法を用いて、mAb Bを、1)酵素なし、2)1mMのGSSG(酸化型グルタチオン)、3)0.2μMのGR(グルタチオン還元酵素)、4)0.2μMのGRおよび1mMのGSSG、ならびに5)0.02μMのGRおよび1mMのGSSGを含有する5つの溶液に添加することにより、グルタチオン系を評価した。前述したように、全てのサンプルを、0.4mMのNADPHを含有するトリス緩衝液、pH7.4中で調製し、室温で一晩貯蔵した。結果は、GSSGを単独で含有する溶液中で最小のmAb B還元を示した。これは、GSSG中の不純物の結果である。還元を引き起こさない酸化型グルタチオンは、還元を引き起こす約2%の還元型グルタチオンを含有する。mAb Aは、GRおよびGSSGの両方を含有する溶液中で還元された。これらの結果は、GSH(還元型グルタチオン)を産生し、その結果、mAb Bのジスルフィド結合を還元するための、GRによるGSSGの還元に関与する機構と一致している。
【0267】
mAb AまたはmAb Cのいずれかの存在下でこれらのアッセイを行うとき、同様の結果が得られた。いずれの場合も、チオレドキシン系およびグルタチオン系は、タンパク質製造プロセス中に抗体還元において役割を果たすようである。
【0268】
実施例4:特異的還元酵素阻害剤の評価
細胞培養サンプルにおけるチオレドキシンおよびグルタチオン系の還元酵素活性のレベルを決定するために、これらの酵素系のそれぞれの様々な阻害剤の特異性を評価した。TrxR1は、Trx1を還元させる主な酵素であり、したがってチオレドキシン系の中心的成分および阻害の標的である。GRは、グルタチオン系の類似の中心的成分である。その結果、TrxR1の活性の阻害が全チオレドキシン系の阻害を引き起こし、GRの活性の阻害が全グルタチオン系の阻害を引き起こす。TrxR1およびGRのいくつかの市販の阻害剤があり、これらの阻害剤の特異性は、各酵素系からの還元酵素活性の定量化を可能にすることが実験的に確認され得る。いくつかの阻害剤をスクリーニングし、ATGをTrxR1の阻害剤として選択し、2-AAPAをGRの阻害剤として最初に選択した。
【0269】
ATGおよび2-AAPAの特異性を、ヒトおよびラットからの精製された組み換え還元酵素を用いて評価した。溶液の還元酵素活性が、図2Bに示される培養サンプルにおいて観察される活性と同様になるように、精製された組み換え酵素の溶液を調製した。組み換えTrxR1/Trx1、GR/GSSG、または両方の酵素系を含有する溶液を、0.05μM~5μMの範囲の増加する濃度のATGを用いて調製した。全てのサンプルを、0.4mMのNADPHを含有するトリス緩衝液、pH7.4中で調製した。還元酵素活性を、上で説明されるようにDTNBの還元を監視することによって決定した。図3Aに見られるように、TrxR1/Trx1を含有する溶液の還元酵素活性は、ATGの濃度の増加とともに低下した。0.1μMより高いATG濃度でTrxR1/Trx1還元酵素活性はごくわずかであった。GR/GSSGを含有する溶液の還元酵素活性は、5μMより低いATG濃度によって影響されなかった。チオレドキシンおよびグルタチオン系の両方を含有する溶液の還元酵素活性は、ATGの全ての濃度において、TrxR1/Trx1を含有するサンプルおよびGR/GSSGを含有するサンプルの合わせた活性にほぼ等しかった。この結果は、1つの酵素系が他の酵素系の活性に影響を与えずに選択的に阻害され得るという結論を裏付ける。
【0270】
同様に、GR阻害剤、2-アセチルアミノ-3-[4-(2-アセチルアミノ-2-カルボキシエチルスルファニルチオカルボニル-アミノ)フェニルチオカルバモイルスルファニル]プロピオン酸(2-AAPA、Seefeldt et al,2009.,J.Biol.Chem.,284:2729-2737)を評価した。TrxR1/Trx1、GR/GSSG、または両方の酵素系を含有する溶液を、阻害剤なし(0μM)、または10μM~200μMの範囲の増加する濃度の2-AAPAの存在下で調製し、還元酵素活性を、上に記載されるプロトコルに従って決定した。図3Bに示されるように、この濃度範囲にわたり、2-AAPAは、TrxR1/Trx1溶液の還元酵素活性に対して最小の効果を有していた一方、100μMおよびより高い濃度でGR/GSSG活性を完全に阻害した。前の結果と同様に、両方の酵素系を含有する溶液の活性は、TrxR1/Trx1およびGR/GSSG溶液からの活性の追加にほぼ等しかった。これは、1つの酵素系が他の還元酵素系の還元酵素活性に影響を与えずに選択的に阻害され得るというさらなるエビデンスを提供する。要約すれば、2-AAPAは、50~200μMの濃度でグルタチオン系活性の特異的阻害剤であり、ATGは、0.5~1μMの濃度でチオレドキシン系活性の特異的阻害剤であった。さらに、阻害剤なしの場合と、ATGまたは2-AAPAのいずれかを用いた場合との還元酵素活性の差は、チオレドキシンおよびグルタチオン系のそれぞれからの活性であった。
【0271】
実施例5:タンパク質還元に対する特異的還元酵素の影響
特定の還元酵素系からの活性が還元抗体に変換し得ることを確認するために、抗体還元に対する各還元酵素系の影響を決定するための第2の方法を開発した。還元アッセイの原理は、上述される還元酵素活性アッセイと同様である。阻害剤なしでのタンパク質還元のパーセントをGRまたはTrxR1の特異的阻害剤の存在下でのタンパク質還元のパーセントと比較した。このアッセイでは、精製されたmAb Bを、組み換え哺乳動物TrxR1/Trx1または組み換え哺乳動物GR/GSSGを含有する溶液に添加し、無酸素環境中で一晩貯蔵した。還元mAb B抗体のパーセントを、上に記載されるようにキャピラリー電気泳動を用いて評価した。
【0272】
TrxR1阻害剤、ATGを、0~1mMの範囲の濃度で評価した。図4Aに見られるように、0.1mMにおいて、ATGは、TrxR1/Trx1(黒色のバー)を含有するサンプルにおける抗体還元の完全な阻害、およびGR/GSSG(灰色のバー)を含有するサンプルにおける抗体の完全な還元によって示されるように、チオレドキシン系からの還元を特異的に阻害した。より高い濃度では、ATGは、0.5mMおよび1mMのATGで処理されたGR/GSSGサンプルにおける増加した量の無傷の抗体によって示されるように、チオレドキシン系に対してもはや特異的でなかった。その結果、チオレドキシン系によって引き起こされる還元抗体の量を評価するために、ATGは、それがTrxR1/Trx1によって引き起こされる還元を特異的に防ぐ濃度である0.1mMで細胞培養サンプルに含まれていた。
【0273】
GR阻害剤、2-AAPAは、GRの活性部位におけるシステイン残基への共有結合を形成することによって機能する。2-AAPAを、上にATGについて記載されるのと同じ方法を用いて最初に評価したが、2-AAPAは、抗体還元を直接引き起こすため、このアッセイに適していない。その結果、GR阻害剤硫酸銅(II)(CuSO)を代わりに使用した(Rafter,G.W.,1982,Biochem.Med.,27:381-391)。0~100μMの範囲のCu2+の濃度を調べた。図4Bに示される結果は、3~100μMの濃度のCu2+が、GR/GSSG(灰色のバー)を含有するサンプルにおける抗体還元を防いだことを示す。しかしながら、チオレドキシン系からの抗体還元は、同じ濃度範囲(黒色のバー)にわたって部分的に阻害されたに過ぎなかった。2つの還元酵素系によって引き起こされる抗体還元の量の最も大きい差は、3μMのCu2+で生じ、ここで、GR/GSSGによって引き起こされる抗体還元が、ほぼ完全に阻害された一方、TrxR1/Trx1によって引き起こされる抗体還元は、TrxR1/Trx1サンプル中に残っている20%の無傷の抗体によって示されるように部分的に阻害された。これらの結果は、3μMのCu2+が、GRに対する完全に特異的な阻害剤でなかった一方、この濃度のCu2+は、チオレドキシン系と比較してグルタチオン系によって引き起こされる還元の阻害に対してより大きい効果を有し、したがって抗体還元におけるグルタチオン系の役割を評価するのに好適であることを示す。
【0274】
実施例6:還元酵素特異的阻害剤との細胞還元酵素感受性の相関
還元酵素特異的阻害剤を、ラットおよびヒトからの精製された組み換え哺乳動物酵素を用いて上記のように評価した。細胞培養物によって産生される還元酵素が同じ阻害剤濃度によって同様に影響されるのを確実にするために、GRおよびTrxR1酵素を、2’5’-ADP親和性カラムを用いて、細胞株Bの14日目の培養物から精製した。このカラムは、補因子としてNADPHを使用する酵素を保持する。還元酵素を、NADPの線形に増加する勾配を用いて溶離した。ウエスタンブロット分析は、GRおよびTrxR1が、カラム画分B1-C2中で共溶出されたことを示した。図5Aに示されるように、特異的還元酵素阻害剤、0.5μMのATGおよび100μMの2-AAPAを用いて、画分に応じて、60~75%の還元酵素活性がTrxR1から得られ、25~40%がグルタチオン還元酵素から得られたことが分かった。2つの系からの追加される活性は、各画分について阻害剤の非存在下で検出される総活性とほぼ等しかった。これは、阻害剤の特異性をさらに実証している。すなわち、還元酵素阻害剤が両方の酵素系を非特異的に阻害している場合、追加される還元酵素活性は、阻害剤が追加されない場合に検出される還元酵素活性より大きかった。さらなる確認として、両方の阻害剤ATGおよび2-AAPAがサンプルに加えられたとき、還元酵素活性は完全に阻害された。この結果は、還元酵素阻害剤の有効性および特異性をさらに実証する。還元酵素活性を有する画分をプールし、抗体還元アッセイにおいて測定された阻害剤濃度でさらに評価した。
【0275】
精製されたmAb Bを、プールされた画分(PF)、組み換えTrx1、GSSG、NADPH、ATG、およびCu2+の様々な組合せを含有するいくつかの溶液中に添加した。溶液を室温で一晩インキュベートし、残っている無傷の抗体の量を、上述されるプロトコルに従ってキャピラリー電気泳動によって決定した。第1の組のサンプルでは、精製されたmAb Bを、プールされた画分中に、NADPHとともにまたはNADPHを伴わずに添加した。図5Bに見られるように、これらのサンプルのいずれも抗体還元活性を示さず、これは、GRおよびTrxR1が、単独では、NADPHの存在下であっても抗体を還元させることができないことを実証している。
【0276】
第2の組のサンプルでは、精製されたmAb Bを、プールされた酵素、NADPH、GSSG、ならびに阻害剤なし、3μMのCu2+、または100μMのATGのいずれかを含有する溶液中に添加した。図5Bに示されるように、プールされた酵素、NADPH、およびGSSGを含有する溶液は、測定可能な抗体還元を示した。この溶液は、GR、GSSG、およびNADPHを含有しており、これらは、グルタチオン系に必要とされる。さらに、Cu2+が全ての抗体還元を完全に阻害した一方、ATGは、抗体還元を阻害せず、これは、3μMのCu2+がグルタチオン系による抗体還元を完全に防ぐのに十分である一方、100μMのATGが、CHO細胞培養物から単離されたGRによる抗体還元に影響を与えないことを示す。
【0277】
第3の組の溶液は、プールされた酵素、NADPH、Trx1、ならびに阻害剤なし、3μMのCu2+、または100μMのATGのいずれかを含有していた。図5Bに示されるように、プールされた酵素、NADPH、およびTrx1を含有する溶液が完全な抗体還元を示した一方、Cu2+は、抗体還元をわずかに防ぎ、ATGは、還元を完全に防いだ。この結果は、同様に、TrxR1に対するATGの特異性を確認する。対照としての最後のサンプルでは、mAb Bを、NADPH、Trx1、およびGSSGを含有する溶液中に添加した。図5Bに見られるように、このサンプル中で抗体還元は検出されず、これは、CHO細胞培養物から精製されたGRまたはTrxR1が抗体還元に必要とされたことを実証している。
【0278】
総合すれば、この実施例の結果は、細胞培養物から単離された還元酵素が、組み換えラットおよびヒト還元酵素で観察されるのと同様の、阻害剤濃度に対する感受性を有することを実証している。これらの結果は、ATGおよびCu2+が、チオレドキシンおよびグルタチオン系のそれぞれによって引き起こされるタンパク質還元の還元酵素特異的阻害剤であり得ることを実証している。さらに、追加されたNADPH、およびGSSGを含むプールされた酵素を含有するサンプルでは、依然として約30%の無傷のmAbがアッセイの終了時にサンプル中に残っている一方、抗体は、Trx1を含有する類似のサンプル中で完全に還元された。これは、プールされた画分中でGR(25~40%)に対するTrxR1(60~75%)のより高い相対的活性の反映であるようであった。
【0279】
実施例7:培養サンプルにおける還元酵素活性の阻害
チオレドキシンおよびグルタチオン系の還元酵素活性を、それぞれ100μMおよび0.5μMの既に評価された特異的阻害剤2-AAPAおよびATGを用いて、同じCHO細胞株A、B、C、およびDの14日目の培養サンプル中で評価した。図6A中のデータを生存細胞密度に対して標準化した。細胞株A、B、およびCは、上記の実施例6に記載されている。細胞株Dは、細胞株CHO CAT-Sであり、IgG1 mAb(mAb D)を産生するために安定的にトランスフェクトされる。
【0280】
図6Aに示される結果は、還元酵素阻害剤の非存在下において、細胞株Bが細胞株AおよびCの約2倍の還元酵素活性を示し、細胞株Dが細胞株AおよびCの約半分の還元酵素活性を示したことを示す。全ての4つの細胞株について、2-AAPAおよびATGの両方が加えられた場合、還元酵素活性はごくわずかであった。これは、2-AAPAおよびATGの組合せが還元酵素活性の完全な阻害に十分であったことを示した。
【0281】
ATGまたは2-AAPAのいずれかを用いた還元酵素活性を、チオレドキシンおよびグルタチオン系からの活性の量を決定するために、阻害剤を用いない場合の活性と比較し、データが図6Bに示される。TrxR1特異的阻害剤、ATGの使用により、細胞株A、B、C、およびDにおけるそれぞれ35%、60%、87%、および60%の総還元酵素活性がチオレドキシン系から得られたことが分かった。同様に、GR特異的阻害剤、2-AAPAを用いた結果は、70%、45%、5%、および45%の総還元酵素活性がそれぞれ細胞株A、B、C、およびDにおけるグルタチオン系によって引き起こされたことを実証した。データは、各還元酵素系からの還元酵素活性の寄与が細胞株間で異なっていたことを示す。
【0282】
これらの結果は、異なる細胞株/プロセスにわたるチオレドキシンおよびグルタチオン系の活性の高い変動性を実証した。細胞株Aは、グルタチオン系に起因する高いパーセントの還元酵素活性を有し、細胞株BおよびDは、チオレドキシンおよびグルタチオン系のそれぞれに起因する還元酵素活性の相対的に同等のレベルを有していた一方、対照的に、細胞株Cで観察される還元酵素活性の大部分は、チオレドキシン系に起因していた。
【0283】
実施例8:細胞培養サンプルによって示される抗体還元
抗体還元に対するチオレドキシンおよびグルタチオン系の影響を、実施例2に記載されるように、細胞株A、B、C、およびDからの14日目の培養サンプル(細胞+培地)を用いて決定した。サンプルを、阻害剤を用いておよび用いずに調製し、無酸素環境中で一晩インキュベートし、還元抗体のパーセントを、キャピラリー電気泳動を用いて決定し、結果が図7に示される。還元酵素阻害剤の非存在下において、4つの細胞株からの全ての4つのmAbが還元された。100μMのATGの存在下でmAb Aが完全に還元された一方、それぞれ約67.5%、約87%、および約35%の、mAb B、mAb C、およびmAb Dは無傷のままであった。3μMのCu2+の存在下でmAb Aが無傷のままであった一方、mAb BおよびmAb Cは、それぞれ約50%還元され、約20%のmAb Dが無傷のままであった。ATGおよびCu2+の両方の存在下において、検出可能な抗体還元が全ての3つの抗体について阻止された。
【0284】
TrxR1阻害剤は、mAb A還元を防ぐことができなかったが、GR阻害剤は、mAb A還元を防いだ。同様に、両方の阻害剤の組合せが還元を防いだ。これらの結果は、mAb A還元が主にグルタチオン系によって引き起こされ、チオレドキシン系の関与がほとんどないことを示す。TrxR1およびGR阻害剤は、それぞれmAb B還元を部分的に防いだ一方、両方の阻害剤の組合せが還元を完全に防いだ。これらの結果は、mAb B還元における両方の酵素系の関与を実証した。
【0285】
同様に、TrxR1阻害剤の存在下において、mAb Dは、かなりの還元(約35%無傷)を起こし、GR阻害剤の存在下において、mAb Dはまた、かなりの還元(約20%無傷)を起こした。しかしながら、両方の阻害剤が含まれていた場合、無傷のmAb Dのパーセントは、約80%まで上昇し、これは、mAb D還元における両方の酵素系の関与を実証している。
【0286】
TrxR1阻害剤の存在下において、mAb Cは、わずかな還元(約87%無傷)を起こし、GR阻害剤の存在下において、mAb Cは、かなりの還元(約46%無傷)を起こした。上で決定されるように、Cu2+は、チオレドキシン系を部分的に阻害した。合わせたこれらの結果は、mAb Cが主にチオレドキシン系によって還元されることを実証した。
【0287】
実施例9:タンパク質製造中の還元電位
ジスルフィド結合還元の電位を、IgG2モノクローナル抗体(mAb-B)を産生する50Lのバイオリアクター試験の下流の処理中に観察した。上述される真空/GXアッセイを用いた還元電位の調査は、少なくともこのmAbについての流加バイオリアクタープロセス中のモノクローナル抗体鎖間ジスルフィド結合の還元の可能性を示した。異なるレベルの還元電位を、バイオリアクター試験A(BR-A)の8~14日目に得られたサンプルにおいて観察した。以下の表2に示されるように、還元電位を異なる規模でのいくつかのバイオリアクター試験において11~13日目間に観察した。
【0288】
【表2】
【0289】
全てのアミノ酸の濃度を、試験BR-A~BR-Dを通して取られたバイオリアクターサンプルにおいて、製造者の仕様書に従ってUPLCアミノ酸分析によって決定した。これらの結果は、システイン/シスチンの濃度の低下が還元電位の増加と相関していたことを示した。表2に示される断片化の結果との、図8中の結果の比較は、還元電位が細胞培地中のシスチンのレベルと相関していたことを示す。シスチンが11~13日目までに枯渇するかまたはほぼ枯渇すると、還元電位の増加が観察された。14日目に、シスチンレベルは、13日目に行った栄養供給(NF)添加のために上昇し、低下した還元電位が観察された。
【0290】
実施例10:細胞培養物酸化還元電位を介した抗体還元の防止
細胞培養物酸化還元電位を用いて、バイオリアクター中で起こっている抗体鎖間ジスルフィド結合還元の可能性を監視した。
【0291】
細胞培養物酸化還元電位を酸化還元プローブ(Metler Toledo)によってオンラインで測定した。細胞培養物酸化還元電位の増加は、より酸化的な環境を示す一方、より低い細胞培養物酸化還元電位は、より還元的な環境を示す。培養物酸化還元電位が-55mV超または-70mV超に維持されるプロセスは、mAb AおよびmAb Bのそれぞれについて最小量の還元抗体を有していた。細胞培養物酸化還元電位が-55mV未満または-70mV未満であったプロセスは、それぞれ可変および高レベルの還元mAb AおよびmAb Bを有していた(図9Aおよび図9B)。この分析は、3L規模の20を超える異なるプロセスからのデータを含んでおり、ここで、還元は、制御されていないか、または異なる濃度のZn2+、Mn2+、Fe3+、Cu2+、Se2+、シスチン、溶存酸素、βメルカプトエタノール、およびグルタチオンの添加によって制御されていた。結果は、使用される還元緩和手法に関わりなく、細胞培養物酸化還元電位がmAb Aでは-55mVまたはmAb Bでは-70mVの閾値を超えて維持される限り、還元抗体の量は最小限に抑えられたことを実証した。還元を防ぐのに必要な閾値は、治療用タンパク質、細胞株、基礎培地、または酸化還元プローブ校正の特性に基づいて、必要に応じてさらに校正され得る。
【0292】
開示される方法を用いて、オンライン酸化還元測定によって還元緩和手法の有効性を評価することができる。酸化還元電位を、特定された閾値を超えて維持することにより、還元緩和手法が達成される。さらに、酸化還元プローブは、制御システムと組み合わせることができ、制御システムは、細胞培養物酸化還元電位を、還元が起こる可能性の低い閾値を超えて維持するように、還元緩和手法を自動的に調整する。制御システムは、細胞培養物酸化還元電位の低下に応答して、Zn2+、Mn2+、Fe3+、Cu2+、Se2+、シスチン、溶存酸素、βメルカプトエタノール、またはグルタチオンの濃度を増加させるのに使用され得る。細胞培養物酸化還元電位に基づく制御システムの使用により、化学的緩和剤の不必要な過剰添加(またはDO設定点の増加)が防止される。これは、還元を防ぐのに必要な化学物質が下流の精製プロセスによって除去されなければならず、高いDOが最終的なプロセス力価を低下させ得るために有利である。
【0293】
実施例11:バイオリアクタータンパク質製造試験BR-E
この実施例では、mAb-B(BR-E)を用いた4つの部分の小規模(3L)バイオリアクター試験、流加プロセスを行い、それにより、上述される部分AおよびBを含む栄養供給の量が、以下の表3に示されるように5回のNF添加のうちの5回目(11日目)に増加した。バイオリアクターサンプルは、10、12、14、および16日目に取得し、真空/GXアッセイを用いて還元電位について分析した。異なる量の栄養供給5(NF5)が補充された、BR-E 3Lのバイオリアクター試験からのmAb-BからのサンプルにおけるLabChip GXアッセイを用いて視覚化され、生産バイオリアクター試験の異なる時点で分析された無傷の抗体および抗体断片の画像は、断片化の程度がNF5の量の増加とともに低下したことを示した。より少ないおよびより軽い断片バンドによって示されるように、バイオリアクターサンプルにおける増加する純度の無傷の抗体が12、14、および16日目に得られた。このデータが以下の表3にまとめられている。
【0294】
【表3】
【0295】
実施例12:バイオリアクタータンパク質製造試験BR-F
この実施例では、mAb-Bを用いた6つの3L規模のバイオリアクターを、以下の表4に示されるように対照量の200%へのNF部分AのNF5添加の増加とともにまたはそれを伴わずに、NF3、NF4、およびNF5添加におけるNF部分Bの量を対照体積の125%、200%、および200%に増加させることによって栄養供給プロトコルに修正を加えた流加プロセスにおいて操作した。細胞培養サンプルを保持し、ある試験では10日目に、およびバイオリアクターの全てのサンプルでは12日目および14日目に凍結させた。サンプルを、上述される真空/GX分析アッセイを用いて後に分析した。真空下で貯蔵し、10、12、および14日目に採取したmAb-B BR-Fを、LabChip GXアッセイを用いて視覚化した。真空アッセイ結果が以下の表4にまとめられている。無傷のMAbの純度は、対照量のNF部分Bを収容しているバイオリアクター中で著しく低下した。しかしながら、増加した量のNF部分Bを用いた条件は、非還元型GXアッセイによって測定した際、真空処理の12日または14日後からのサンプルにおける抗体還元または無傷の抗体の純度の低下を示さなかった。
【0296】
【表4】
【0297】
実施例13:バイオリアクタータンパク質製造試験BR-G、BR-H、およびBR-I この実施例では、mAb-Bを用いた2つの3L(BR-GおよびBR-H)および50L(BR-I)バイオリアクターを、流加(2分割供給)プロセスを用いて操作した。以下の表5に示されるように、NF部分Bを全体的に増加させたことを除いて、対照プロセスと同様の条件下でバイオリアクターを操作した。NF部分Bの各栄養供給添加の量は、対照量の225%に増加させたNF5を除いて対照の150%に増加させた。NF5におけるNF部分Aの量も対照プロセスの量の150%に増加させた。栄養供給添加の回数を6回から5回に減少させた一方、プロセスにおけるNF部分Bの総量を38%増加させた。これは、L-シスチンの約2mMの増加に相当していた。
【0298】
【表5】
【0299】
細胞培養サンプルを12および14日目に試験から保持し、上に詳述される還元電位について分析した。無傷の抗体および抗体断片を、真空下での貯蔵の12および14日目にmAb-A BR-G 3リットルバイオリアクター試験、BR-H 3リットルバイオリアクター試験、およびBR-I 50リットルバイオリアクター試験のLabChip GXアッセイを用いて視覚化した。これらの画像は、NF部分Bを増加させたプロセスが、12日目のサンプルにおいて、はるかに少ない抗体還元および増加した純度の無傷の抗体を示したことを示した。結果が表6にまとめられ、NF部分B(BR-G;BR-H;およびBR-I)を増加させたプロセスが、元のプロセス(BR-A、実施例2)と比較して、12日目のサンプルにおいて、はるかに少ない抗体還元および増加した純度の無傷の抗体を示したことを示した。
【0300】
【表6】
【0301】
実施例14:バイオリアクタータンパク質製造試験BR-J
この実施例では、2つの3L規模のバイオリアクター(BR-J-1およびBR-J-2)を、試験用のIgG2モノクローナル抗体-A(mAb-A)を発現するCHO細胞を用いた流加プロセスにおいて操作した。mAb-Aのための製造プロセスは、基礎培地の配合、接種および原料の基準、供給量、ならびに温度およびpHなどのバイオリアクター設定点に関してmAb-Bのものと異なっていた。このプロセスは、mAb-Bプロセスに使用される5回の栄養供給と比べて6回の栄養供給を含む。プロセスはまた、mAb-Bプロセス(1.5L)と比べてより低い初期作動体積(1.2L)から開始した。実施例1に記載されるmAb-Bプロセスと同様に、プロセスは、約14日間の流加動物性タンパク質フリーの細胞培養を含んでいた。mAb-B発現と同様に、mAb-Aが細胞培地中に分泌された。mAb-A細胞培養プロセスのための栄養供給プロトコルを、供給スキームに記載されるmAb-Bプロセスに対して、6回の栄養供給(NF1-6)のそれぞれにおけるNF部分Bの量を表7に示されるように対照体積の200%に増加させて、対照よりNF添加当たり0.60mMの増加を含む点で修正した。細胞培養サンプルを保持し、バイオリアクタープロセスの5、8、10、12、および14日目に凍結させた。サンプルを後に融解させ、真空/BioAアッセイを用いて還元電位について分析した。シスチンを含む追加の栄養供給を伴うおよび伴わないmAb-AバイオリアクターBR-JサンプルについてのBioA/真空MAb還元アッセイから得られる無傷の抗体および抗体断片の画像の分析は、無傷の抗体のパーセントが、シスチンを含むさらなる量のNF部分Bを用いて12日後に増加したことを示した。結果が表7にまとめられ、これは、無傷のmAbの%が、シスチンを含むさらなる量のNF部分Bを用いて、12日後に増加したことを示した。また、バイオリアクターサンプルBR-J-1およびBR-J-2を、UPLCを用いて分析して、バイオリアクター中のシスチン濃度を確認した。図10に示される結果は、BR-J-2サンプルにおけるシスチンの増加を示す。
【0302】
【表7】
【0303】
実施例15:バイオリアクタータンパク質製造試験BR-K
この実施例では、2つの3L規模のバイオリアクター(BR-K-1およびBR-K-2)を、試験用のIgG4モノクローナル抗体-C(mAb-C)を発現するCHO細胞を用いた流加プロセスにおいて操作した。mAb-Cのための製造プロセスは、異なる量の細胞培地成分および原料を含有していた基礎培地の配合、供給量、ならびに温度およびpHなどのバイオリアクター設定点に関してmAb-Aのものと異なっていた。このプロセスは、mAb-Bプロセスに使用される5回の栄養供給と比べて6回の栄養供給を含む。実施例1に記載されるmAb-Aプロセスと同様に、プロセスは、約14日間の流加動物性タンパク質フリーの細胞培養を含んでいた。mAb-B発現と同様に、mAb-Cが細胞培地中に分泌された。mAb-Cプロセスは、栄養供給(NF1-6)のそれぞれとともに追加のNF部分Bを加えることを含む、栄養供給プロトコルへの修正を含んでいた。以下の表8に示されるように、追加のNF部分Bは、対照バイオリアクターと比較してシスチンのレベルを増加させた。細胞培養サンプルを保持し、バイオリアクタープロセスの1、4、5、6、8、10、12、および14日目に凍結させた。
【0304】
サンプルを後に融解させ、真空/BioAアッセイを用いて還元電位について分析した。1mlの培養物を-80℃の冷凍庫中においてEppendorfチューブ中で凍結し、少なくとも12時間後、培養サンプルを、37℃の水浴中で融解させることによる凍結融解サイクルを用いて細胞を溶解させた。キャピラリーせん断方法を用いて細胞を溶解させるために、AEKTA精製装置(purifier)を用いて、システム出口に連結された内径0.007インチ×10cmのステンレス鋼毛細管に通して、22.2mL/分に培養サンプルの流量を制御するのに使用され得る。いずれかの溶解方法後、溶解細胞サンプルを5~10分間にわたって2100~10000×gで遠心分離して、細胞および細胞残屑を除去し、上清を還元電位について分析した。このアッセイは、前の実施例に使用されるGX分析装置の代わりにBioA分析装置(Agilent Technologies)を使用した。シスチンを含む追加の栄養供給を伴うおよび伴わないmAb-CバイオリアクターサンプルについてのBR-K BioA/真空還元アッセイの無傷の抗体および抗体断片の画像が得られた。これらの画像は、溶解されたサンプルの純度が、対照条件と比較してNF部分Bを増加させた条件について、完全に還元されたMabのより低い割合を示したことを示した。結果は、以下の表8にまとめられ、凍結/融解サイクルまたはせん断デバイスのいずれかを用いて溶解されたサンプルの純度が、対照条件と比較してNF部分Bを増加させた条件について、完全に還元されたMabのより低い割合を示したことを示した。また、バイオリアクターサンプルを、UPLCを用いて分析して、バイオリアクターにおけるシスチン濃度を確認した。この分析の結果が図11に示され、これは、対照と比較してBR-K-2サンプルにおけるシスチンの増加を示す。
【0305】
【表8】
【0306】
実施例16:サンプルの断片化および還元
サンプルを真空分析にかけた場合、それらを融解させ、ボルテックスした。約400μLのアリコートをガラス管に移した。管を、オン/オフ制御を提供し得るスクリューキャップMininert(商標)弁(VICI Valco Instruments,Houston,TX)によって密閉した小型の真空チャンバに入れた。真空をシリコンチューブに通して真空チャンバにかけ、チャンバを密閉した。次に、アルゴンガスを、アルゴン圧力が確立されるまでシリコンチューブに通してチャンバにかけて、チャンバを再度密閉した。上記の手順後、3サイクルの真空/アルゴンでプロセスを繰り返し、次に内部にアルゴンを入れた状態でチャンバを密閉した。次に、チャンバを室温で一晩インキュベートした。
【0307】
サンプルを分析するまで冷凍貯蔵した。融解させたら、400~600μLの各サンプルを培養管に移し、N-エチルマレイミド(NEM)を含有する非還元サンプル緩衝液中で混合した。変性させ、遊離チオールをNEMによってキャッピングした後、サンプルを、サイズ分画および定量化を行うために、Perkin Elmer Labchip(登録商標)GXII(Perkin Elmer,Waltham,MA)を用いて分析した。Labchip(登録商標)GXIIを用いて、タンパク質および断片をレーザー誘起蛍光によって検出し、ゲルのような画像(バンド)および電気泳動図(ピーク)に変換した。
【0308】
抗体凝集分析
抗体凝集物のパーセントを、標準的なサイズ排除クロマトグラフィー(HP-SEC)方法を用いて決定した。Agilent 1200シリーズシステムを、0.1Mのリン酸ナトリウム、0.1Mの硫酸ナトリウム、pH6.8の移動相緩衝液を1mL/分の流量で用いて、Tosoh Bioscience TSKgel G3000SW XLカラム(Tosoh Bioscience LLC,King of Prussia,PA)(7.8mm×300mm)とともに使用した。280nmにおける吸光度クロマトグラフィーを用いて結果を定量化した。
【0309】
採取された細胞培養液(HCCF)における遊離チオール定量化
採取された細胞培養液中の遊離チオールの量を、ジスルフィドが結合されたペプチドの予測質量を非還元Lys-Cペプチドマッピングからの観測質量に一致させることによって決定した。簡潔には、サンプルを変性させ、セリンプロテアーゼによる消化前に希釈した。プロテアーゼ消化後、各反応混合物の半分をDTTの添加によって還元させた。消化物を、C18カラムを用いたRP-HPLCによって分離し、UV検出器およびオンライン質量分析計を用いて分析した。ジスルフィド結合連結されたペプチドは、非還元試験でのみ存在し、還元条件下で消失するであろう。
【0310】
遊離チオール定量化アッセイ
遊離チオールアッセイは、不対合システイン残基における遊離チオール基のレベルを測定することにより、タンパク質中のジスルフィド結合の完全性を評価する。遊離チオールに結合し、着色されたチオレートイオンを放出する化合物(5,5’-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)またはDTNB)とともに、サンプルを天然および変性条件下でインキュベートする。着色されたチオレートイオンを、紫外・可視分光光度計を用いて検出する。遊離チオールの濃度を標準的な曲線から内挿し、遊離チオール対抗体モル比を報告する。
【0311】
実施例17:採取された細胞培養液における凝集形成に対する抗体ジスルフィド結合還元の影響
小規模(3L)バイオリアクター流加試験を、mAb E(IgG1モノクローナル抗体)を用いて行い、馴化培地を14日目に収集した。連続遠心分離機を用いた大規模採取の影響を模倣するように、採取した材料の一部を、実施例15に記載される毛細管を用いたせん断応力にかけた。せん断された材料を40mlのアリコートに分割した後、アリコートにEDTA、CuSO4-5H20、シスチン、CuS04-5H20およびシスチンの組合せのいずれかを添加するか、または添加しないままにした。非せん断材料およびせん断されたアリコートを50mlの遠心分離管中で遠心分離し、上清を各条件から移した。次に、これらの条件のそれぞれからの上清を-80Cで直ちに凍結させるか、または2~8℃で8日間貯蔵した後、-80℃で凍結させた。凍結されたサンプルを、サンプルを12時間真空下で保持することにより、還元電位について後に試験し、軽鎖および重鎖断片の還元種を測定するために、非還元型GXIIアッセイにおいて試験した。また、サンプルを、高速サイズ排除クロマトグラフィー(HPSEC)を用いて、mAbの凝集のレベルについて試験した。表XXによって示されるように、真空処理後に無傷のmAb%が0に減少したことによって示されるように、対照細胞培養材料をせん断することにより、サンプルが還元電位を有するようになる。対照的に、9.5、19、および38mMの濃度のEDTA添加または4および8mMの濃度のシスチン添加を伴うせん断された材料は、採取時に還元電位を示さなかった。表9はまた、2~8℃で8日後の材料の凝集に対する同様の影響を示す。細胞培養材料のせん断は、非せん断材料を上回る凝集のかなりの増加を示した。しかしながら、9.5、19、および38mMのEDTAまたは4および8mMのシスチンの添加は、mAb凝集の程度を抑えた。
【0312】
実施例18:mAb Bの精製プロセスにおける凝集物形成に対する抗体ジスルフィド結合還元の影響
IgG2モノクローナル抗体(mAb B)の精製中、増加したレベルの断片が、以下の表10に示されるように観察された。高レベルの不純物が捕捉産物中でまず検出され、プロセスにおける次の工程に運ばれた。図12Aおよび図12Bに示されるように、非還元型(NR)-GXデバイスを用いた捕捉産物および最終ポリシング中間体の分析は、無傷の抗体の還元種(L、H、L-L、H-L、H-H、H-H-L)に対応する分子量を有する断片バンドの存在を示した。図12Cに見られるように、還元種の同様のバンドがHCCFをNR-GXによって分析したときにも検出され、これは、mAb還元現象が採取工程において起こっていたことを示す。細胞培地は、遠心分離採取を用いて清澄化されており、厳しい遠心分離条件が、増加した細胞破壊によって製品品質に影響を与えて、チオ-レドキシンおよびチオ-レドキシン還元酵素などの細胞内宿主細胞タンパク質の放出をもたらし、これが酵素反応によって抗体還元を引き起こし得ることが示されたことが、Trexler-Schmidtらによって以前に報告されている(2010,Biotechnol.Bioengeineer.106:452-461)。
【0313】
【表10】
【0314】
製品品質の低下が、mAb分子中のジスルフィド結合を破壊する細胞内還元酵素の放出によって主に引き起こされるという仮説に基づいて、HCCFを冷却し、貯蔵容器中のヘッドスペースを増加させることによって酸化環境を提供することにより、還元反応を減速させるように、対照を導入した。さらに、HCCFを採取の直後に精製して、mAbに対する還元酵素の曝露の期間を最小限に抑えた。精製プロセス中間体のNR-GXを用いた分析は、還元種が精製プロセスにわたって存在しないことを示した。
【0315】
この複合手法によって還元を制御することが可能であるが、HCCFを処理しなければならないため、製造柔軟性に直ちに厳しい制約を課す。さらに、製造プラントにおけるカラムサイズの制約により、複数サイクルの捕捉工程を行うことが必要となり得るとき、HCCFの即座の精製は困難になる。還元の速度を減速させるために酸化環境を提供する手段は、HCCFの実際の体積と同等またはそれより大きいヘッドスペースを有する容器中にHCCFを貯蔵することを含んでいた。これは、ベンチおよびパイロット規模の実施のための実行可能な選択肢であり得るが、製造の実施には問題となり得る。酸素散布および空気オーバーレイの提供のような代替案が実行可能であり得るが、全ての施設で利用可能でないことがあり得る。
【0316】
製品品質に影響を与えずに長時間のHCCF保持を可能にするために、予め採取した細胞培養液への賦形剤添加を評価した。L-シスチンが還元酵素の潜在的な競合する阻害剤であるか、またはmAb産物の代わりに酵素の代理の基質として作用することが報告された(上に引用される、Trexler-Schmidt,M.,et al.)。
【0317】
還元制御に対するシスチン添加の影響
還元制御に対するシスチンレベルの初期評価の一環として、採取されたHCCF中のL-シスチンのレベルを、採取の直後のHCCFへのL-シスチンおよび細胞溶解物の添加により、0mM、2mM、および4mMに調整した。還元の防止に対する酸化環境の影響を温度およびシスチンレベルから切り離すために、HCCFのアリコートを、ヘッドスペースを有さない製剤原料貯蔵袋中に密封し、分析される前に2℃~8℃で2週間保持した。
【0318】
精製プロセス性能に対するシスチン添加の影響を評価する並行した取り組みにおいて、2mMのシスチンを含有するHCCFを、ヘッドスペースを有する容器中において2℃~8℃で4日間保持した後に精製した。上の表10に見られるように、2mMのシスチンを含有するHCCFの精製中、増加した凝集物レベルが低pHウイルス不活性化工程後に観察され、これは、最終ポリシング工程中に最終的に取り除かれた。
【0319】
HCCFアリコートのNR-GX分析を用いた、HCCFアリコートの2週間の保持試験の開始時、還元の兆候は、2週間の保持試験の開始時に観察されなかった。しかしながら、保持の最後までに、還元は、0(シスチンなし)および2mMのシスチンを含有するサンプルについて起こった(H-LおよびH-H-L断片の存在によって示される)一方、4mMのシスチンを含有するサンプルは、還元の兆候を依然として示さなかった。これは、低温のみの使用が、還元が起こるのを防ぐのに十分でなく、シスチンが抗体還元を防ぐのに必要とされることを示す。さらに、シスチンレベルは、還元を完全に緩和するために十分に高くする必要がある。
【0320】
ジスルフィドマッピング質量分析法(MS)を用いて、低レベルのシスチンが還元を制御するのに不十分であるという仮説を裏付けるさらなる分析的エビデンスが得られた。図13に示される結果は、保持の最後までに、0および2mMのシスチンサンプルにおける対応するより高いレベルの鎖間遊離チオールを示すが、4mMのシスチンサンプルでも、出発材料(HCCF+0mMのcys、t=0)でも示さない。Franey et al.(2010,Protein Sci.;19(9):1601-1615)は、遊離チオールレベルの増加がモノクローナル抗体についての凝集物形成の対応する増加につながることを以前に報告したが、この現象は、他のIgGフォーマットと比較してより多い量の鎖間ジスルフィド結合のため、IgG分子についてより深刻である。さらに、Hariら(2010,Biochemistry;49(43):9328-9338)は、低pHおよび高塩条件下でのIgGおよびIgG分子についての増加した凝集物形成を実証した。mAb Bについて、過去の低pH安定性試験が、緩衝液のpHが3.6から3.2に低下されるにつれて、遊離チオールレベルのより急なより大きい増加を示した。HCCFがpH3.2、pH3.4、およびpH3.6でインキュベートされる場合の、時間の経過による遊離チオール対IgG濃度の比率が図14Aに示される。HCCFがpH3.2、pH3.4、およびpH3.6インキュベートされる場合の、時間の経過による凝集物の変化が図14Bに示される。これらの結果は、遊離チオール含量による凝集物レベルの対応する増加を示す。
【0321】
製品品質に対する4mMのシスチンおよびHCCF保持条件の影響
新たなHCCFを生成し、2つの別個のロットに分割し、これを評価して、精製プロセス性能および製剤化された製品の安定性に対する還元緩和の影響を評価した。簡潔には、2つの異なる部分が細胞培養物採取(HCCF)から得られ、一方のロットには、L-シスチン(0mMのシスチン)が混合物に添加されず;他方のロットには、4mMのシスチンが混合物に添加された。各ロットの混合物の半分を精製し、直ちに製剤化した一方、残りの半分を精製および製剤化前に2~8℃で2週間保持した。2mMのシスチン含有HCCFで前に観察された凝集の条件を再現するために、ヘッドスペースを有する容器を用いて、2週間保持されたHCCFロットを貯蔵した。製剤化後、全ての4つのロットを2~8℃で最大で17ヶ月間、ならびに25℃および40℃で1ヶ月間にわたって凝集安定性について監視した。
【0322】
図15に見られるように、全ての4つのHCCFアリコート中の鎖間遊離チオールレベルをジスルフィドマッピングMSによって分析したとき、図13に示されるものと同様の傾向が明らかであった。シスチンの非存在下で2週間保持されたHCCFは、遊離チオールの増加を示した一方、4mMのシスチンの存在下で2週間保持されたHCCFは、即座の精製および製剤化に供されたHCCFロットと比較して同様のレベルの遊離チオールを有していた。MS技術を用いてHCCFにおける遊離チオールレベルを監視することに加えて、精製プロセス中間体に対して比色分析も行った。HCCFアリコートと同様に、図16に見られるように、高い遊離チオールレベルが、シスチンの非存在下で2週間保持されたHCCFから精製された捕捉産物において検出された。4つのロットについての遊離チオールレベルの傾向はまた、精製プロセスにわたって変化しないままであり、これは、精製プロセスが遊離チオールレベルを低下させることができず、還元および凝集の防止が、十分な緩和を提供するために細胞培養物および採取された細胞培養液(HCCF)において必要とされることを示す。
【0323】
上で精製された4つの生成物から製剤化されたバルクを最大で1ヶ月間にわたって5℃、25℃、および40℃で保持し、凝集物レベルを、HP-SECを用いて毎週測定した。図17A図17Cに見られるように、4mMのシスチンの存在下で2週間保持されたHCCFから生成された材料は、直ちに精製されたHCCFから生成されたバルク材料と比較して同様の出発および最終純度レベルを示した。対照的に、シスチンの非存在下で2週間保持されたHCCFから生成されたバルク材料は、同じ精製および製剤化プロセスを経たにもかかわらず、より高い出発および最終凝集物レベルを有していた。さらに、凝集物形成の速度も他のサンプルと比較してはるかに高かった。したがって、採取後のより高い遊離チオール含量は、精製プロセスへの負荷を増加させるだけでなく、分子の安定性および保存期間も制限する。遊離チオール増加の原因は、mAb還元の結果であると最終的に特定されたため、開発および生産中、抗体還元の発生を防止および監視するために、プロセスにおいて適切な緩和が常に実施されるべきである。
【0324】
採取された細胞培養液が採取後に保持された場合、連続遠心分離採取操作の導入は、抗体還元に対する寄与因子であり得る。これは、精製プロセス全体を通して観察される増加した断片レベルをもたらした。還元酵素活性(低温、酸化環境、短縮された保持期間、阻害剤添加)を最小限に抑える様々な手段を用いることにより、採取中の還元を防ぐことに成功した。しかしながら、貯蔵中の抗体還元の再発は、採取時の還元緩和がときに不十分であり得ること、および成功する緩和手法の一環として保持安定性試験が常に行われるべきであることを示し得る。
【0325】
電気泳動技術を用いて断片レベルを監視することに加えて、遊離チオールレベルの変化は、抗体還元の発生についてのさらなる尺度としてHCCF保持の期間にわたって監視され得る。しかしながら、このMS技術は、比較的労力を必要とし、ハイスループット分析に対応しないため、それは、還元緩和手法が十分であるかどうかの検証の二次的な手段として使用され得る。
【0326】
抗体還元の適切な緩和のさらなる利益は、下流の精製プロセスに対する凝集物負荷を減少させ得ることである。還元は、可逆反応であるため、還元種は、材料がより酸化的な環境に曝されると直ちに再度酸化し得る。これは、凝集の増加した傾向を有するモノマー種の形成または直接凝集物種の形成につながり得る。この分子についての凝集物形成の主な経路は不明であるが、本発明者らの研究により、還元の発生が、この分子についての遊離チオール含量および凝集の対応する増加をもたらしたことが明白に示された。さらに、IgG2分子は、他のモノクローナル抗体フォーマットと比較して増加した遊離チオールレベルを有する凝集物形成をより起こしやすいことが報告されているため、還元種を再度酸化させる酸化環境を提供するだけでは不十分であり、むしろ凝集物形成を増加させる前兆である遊離チオールレベルの増加を防ぐために、還元の発生が第1に防がれる必要がある。
【0327】
確固たる還元緩和手法を有することにより、下流のプロセスにおける不純物負荷を減少させることが可能であるだけでなく、分子の安定性も向上され、分子の保存期間が延長され得る。また、より長期間にわたってHCCFを貯蔵することが実現可能になり、プロセスの規模が拡張される際、製造計画の柔軟性の向上が可能になる。
【0328】
実施例19:mAb Fの精製プロセスにおける凝集物形成に対する抗体ジスルフィド結合還元の影響
mAb Fを細胞培養(表11、BRX-L-1)および採取後のプロテインAクロマトグラフィーによって精製し、続いてpH3.6における低pH保持に供してからpH7.4に中和した。低pH処理後、凝集物レベルは、0.1%増加した(4.8%から4.9%)。精製を第2の細胞培養試験(BRX-L-2)後に行った場合、凝集物レベルは、低pH処理後に8.7%増加した(2.4%から11.1%)。両方の試験から生成されたプロテインA産物のNR-GX分析は、BRX-L-1(98.4%)と比較して、Brx-L-2(38.5%)についてより低いレベルの無傷のmAbを示した。さらに、電気泳動図(図18Aおよび図18B)はまた、抗体ジスルフィド結合還元の発生の指標である重(H)および軽(L)鎖断片の組合せに対応するさらなるピークを検出した。捕捉産物の遊離チオール分析はまた、Brx-L-1(0.2mol/mol)と比較して、BRX-L-2(0.3mol/mol)から生成されたmAbについてより高い遊離チオール含量を示した。次のバイオリアクター(BRX-L-3)を、mAb還元を防ぐことを目的とした3つの緩和を用いて試験した。さらなる0.346mMのCuSO4-5H20を栄養供給部分Aに加えて、バイオリアクターCuを約3ppm増加させた。各供給中に加えられる栄養供給F(シスチンを含有する)の量は、50%増加され、これは、バイオリアクターシスチンを約1mM増加させた。最後に、採取の当日、EDTAを19.2mMの濃度で採取前にバイオリアクター容器に加えた。捕捉産物のNR-GX純度(92.3%)は、抗体ジスルフィド結合還元が観察されなかったBRX-L-1捕捉産物において観察されたレベルに近かった。予測されるように、電気泳動図(図18C)は、BRX-L-2について観察された重鎖および軽鎖断片を検出しなかった。捕捉産物を低pH処理に供した場合、凝集物レベル増加(0.6%)は、Brx-L-2を用いた試験において観察されるより少なかった。低pH処理にわたる捕捉産物および凝集物増加における重鎖および軽鎖断片のレベル間の直接の相関は、抗体ジスルフィド結合還元が低pH処理中の凝集物形成の増加に関与していることを示す。
【0329】
【表11】
【0330】
実施例20:IgG1 mAbの凝集および還元電位
この実施例は、製剤緩衝液における精製されたIgG1モノクローナル抗体(mAb A)の製品不安定性が製造容器中の細胞培養中の還元電位を取り除くことによって大幅に低下され得ることを示す。
【0331】
細胞培養物は、3または4日毎に定期的な継代を伴いながら、37℃で動物性タンパク質非含有培地中の成長および拡大するGS-CHOベースCAT-S懸濁細胞を伴っていた。産生を、制御された温度、pHおよび溶存酸素レベルを有するバイオリアクター中において流加モードで行った。流加プロセス中、栄養およびグルコース補給原料を細胞培養物に加えた。生存細胞計数および細胞生存率を、ViCell XR細胞計数器(Beckman Coulter,CA)を用いて、トリパンブルー色素排除方法によって測定した。血液ガス分析装置(RAPIDPOINT 400;Siemens Medical Solutions Diagnostics;Tarrytown、NY)を用いて、pHおよび溶存酸素を測定し、必要に応じてバイオリアクタープローブを校正した。生化学分析装置を用いて、細胞培養サンプル中のグルコースレベルを測定した(BioProfile 400;Nova Biomedical;Waltham,MA)。細胞培養物における生産性を、分析用プロテインA HPLCを用いて測定した。流加プロセスの最後に、細胞培養物を、深層ろ過を用いて採取した。次に、細胞を含まない採取材料を精製し、最終的な製剤原料を生成するために製剤化した。
【0332】
還元電位、すなわち分子が好気条件下で還元される電位を、サンプルを上述される真空分析に供することによって測定した後、非還元サンプル緩衝液を添加した。次に、この混合物を、サイズ分画および定量化を行うために、Perkin Elmer Labchip(登録商標)GXII(Perkin Elmer,Waltham,MA)を用いて分析した。GXIIにおいて、タンパク質および断片をレーザー誘起蛍光によって検出し、ゲルのような画像(バンド)および電気泳動図(ピーク)に変換した。
【0333】
採取され、精製され、製剤化された典型的な14日目の哺乳動物流加細胞培養物を用いて、IgG1モノクローナル抗体の製剤化された製剤原料を生成した。製剤化された製剤原料中の凝集物レベルを最初の1ヶ月間にわたってHP-SECによって毎週、次に再度3ヶ月および9ヶ月の時点で測定した。本明細書において使用されるものなどの最適化された液体製剤は、典型的に、2~8℃で1ヶ月間の貯蔵後、凝集物レベルの変化を示さないようにすべきである。しかしながら、図19に見られるように、この場合の製剤化された製剤原料は、意図された貯蔵温度(2~8℃)で最初の1ヶ月間に非常に高い凝集物の増加(HP-SECによって0.35%)を示した。凝集の速度が最初の1ヶ月後に減速されたが、この凝集の程度は、液体製剤にとって許容されず、必要とされることが多いより高いタンパク質濃度(100~150mg/ml)についてかなり増加するであろう。
【0334】
流加細胞培養材料の末端の還元電位が、方法セクションに記載されるように測定した際に観察された。さらに調査すると、この還元電位は、細胞培養流加のより早い時点(8日目)では存在しなかったことが示された。
【0335】
細胞培養物における還元電位と、製剤化された製剤原料の安定性との間の可能な関係を特定するために、安定性試験を8日および標準的な14日の細胞培養流加プロセスからの製剤化された製剤原料間で並行して行った。図20に見られるように、8日の流加からの細胞培養サンプルは、還元電位がなく、t=0におけるより少ない出発凝集物レベル、3倍加速された条件(40℃)での低下した凝集速度を有し、意図された貯蔵条件(2~8℃)で最大で9ヶ月間にわたって凝集物の増加をもたらさなかった。しかしながら、より短い細胞培養物流加プロセスはまた、細胞培養物生産性を著しく低下させ、これは、製造上の観点から望ましくない。さらに、試験生存率の上限のため、観察された改良が細胞培養物における還元電位の非存在に関連するか、または試験細胞生存率の上限に関連するかは不明であった。
【0336】
上に見られるように、細胞培養物における還元電位を除去するための代替的な方法が原料への追加の銅およびシスチンの添加によって達成される。この方法を対照細胞培養プロセスと並行して試験した。この手法を用いて、同様の細胞培養物生産性および試験細胞生存率の限度を達成しながら、還元電位を著しく低下させることが可能であった。還元電位分析に曝された流加細胞培養サンプルの末端の非還元型(NR)GXII分析からの電気泳動図が図21に示される。試験細胞培養サンプルの末端からの電気泳動図は、標準的な14日間の流加プロセスから得られ、図21Aに示され;より短い8日間の流加プロセスから得られるものが図21Bに示され;銅およびシスチンが強化された原料を用いた標準的な期間の流加プロセスから得られるものが図21Cに示される。これらの図は、約5%のみの無傷の産物(IgG)が標準的な14日間の流加プロセスからの製剤原料中に残っていることを示す。この数値は、試験細胞培養サンプルの末端がより早い(8日目)採取からのものである場合、著しく増加する(>70%)。流加プロセスの元の長さ(14日間)を保ちながら、流加プロセス中の原料に銅およびシステインを富化した場合にも同じ効果が達成された。
【0337】
還元電位分析に曝された試験細胞培養サンプルの末端のNR-GX分析によって視覚化された分解断片の画像は、標準的なプロセスからの試験細胞培養サンプルの末端における無傷のIgGの大部分が分解されていることを示した。一方、銅およびシスチンを原料に富化することは、試験細胞培養サンプルの末端を還元電位分析に曝した後でも無傷のIgGを保つのに役立った。図22に見られるように、安定性試験は、還元電位の除去がt=0における出発凝集物レベルを低下させ、3倍超加速された温度(40℃)で凝集を減少させ、意図された貯蔵条件(2~8℃)で最大で9ヶ月間にわたって凝集物の増加をもたらさないことを示した。3つの条件からのデータが以下の表12にまとめられている。
【0338】
これらの実施例により、本発明者らは、還元電位を著しく低下させるかまたは除去するように細胞培養プロセスを修正することにより、製剤化された製剤原料の安定性が向上させることを実証した。これは、t0の時点で凝集物レベルを低下させ、意図された貯蔵条件で9ヶ月間を超えてさらなる凝集を実質的にもたらさない。治療用タンパク質の凝集を最小限に抑えることは、生産および流通のために許容される保存期間を有する液体製品の開発の成功にとって重要な要因である。
【0339】
【表12】
【0340】
本開示の幅および範囲は、上記の例示的な態様のいずれかに限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲およびそれらの均等物のみに従って定義されるべきである。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[実施形態1] 細胞培養物または溶液中の対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるための方法であって、グルタチオン還元酵素阻害剤、チオレドキシン還元酵素阻害剤、またはグルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の両方の存在下において、対象とする前記ジスルフィド結合含有タンパク質を製造する工程を含み、それにより、無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の量は、グルタチオン還元酵素阻害剤、チオレドキシン還元酵素阻害剤、またはグルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の存在下で製造されていない細胞培養物または溶液中の無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の量と比較して、グルタチオン還元酵素阻害剤、チオレドキシン還元酵素阻害剤、またはグルタチオン還元酵素阻害剤およびチオレドキシン還元酵素阻害剤の存在下で製造された前記細胞培養物または溶液中でより多い、方法。
[実施形態2] 細胞培養物または溶液中の対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させることは、細胞培養物酸化還元電位のオンライン測定によって制御される、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3] 細胞培養物または溶液中の対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量の増加は、細胞培養物酸化還元電位の測定によってオンラインで監視される、実施形態1に記載の方法。
[実施形態4] 対象とする前記ジスルフィド結合含有タンパク質を含有する前記培養物およびまたは前記溶液中のグルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素の存在を検出する工程と、グルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素阻害剤を加えて、対象とする前記ジスルフィド結合含有タンパク質の還元を緩和する工程とをさらに含む、実施形態1に記載の方法。
[実施形態5] 前記グルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素の活性を決定する工程をさらに含む、実施形態4に記載の方法。
[実施形態6] 前記グルタチオン還元酵素および/またはチオレドキシン還元酵素の活性を決定する工程は、
5,5’-ジチオ-ビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)を、前記製造プロセス中に得られたサンプルに加える工程と、
チオレドキシン還元酵素阻害剤およびグルタチオン還元酵素阻害剤の少なくとも1つを、DTNBを含有する前記サンプルの一部に加える工程と、
前記サンプル中において412nmの波長でDTNBの還元を監視する工程と
を含み、
チオレドキシン還元酵素阻害剤およびグルタチオン還元酵素阻害剤の少なくとも1つを用いない前記サンプルにおけるDTNBのより高い還元は、チオレドキシン還元酵素および/またはグルタチオン還元酵素の活性を示す、実施形態5に記載の方法。
[実施形態7] NADPH、酸化型グルタチオン、および緩衝液は、還元を監視する前に前記サンプルに加えられる、実施形態6に記載の方法。
[実施形態8] 細胞培養または発酵プロセスにおける対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるか、または対象とする前記ジスルフィド含有タンパク質の還元電位を低下させるための方法であって、細胞外シスチンレベルを0超に維持する工程、および/または細胞外Cuレベルを0超に維持する工程、および/または前記細胞培養または発酵プロセス中にEDTAをバイオリアクターに加える工程を含む方法。
[実施形態9] 細胞培養または発酵プロセスにおける対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるか、または対象とする前記ジスルフィド含有タンパク質の還元電位を低下させるための方法であって、細胞外シスチンレベルを0超に維持する工程、および/または細胞外Cuレベルを0超に維持する工程、および/または対象とする前記ジスルフィド結合含有タンパク質を含有する溶液にEDTAを加える工程を含む方法。
[実施形態10] 対象とする前記無傷のジスルフィド結合含有タンパク質は、細胞培養液(CCF)中に放出される、実施形態8または9に記載の方法。
[実施形態11] 前記細胞培養または発酵プロセスは、少なくとも2日間、少なくとも8日間、少なくとも10日間、少なくとも12日間、少なくとも14日間、または少なくとも16日間にわたって細胞をCCF中で維持することを含む、実施形態10に記載の方法。
[実施形態12] 前記細胞培養プロセスは、哺乳動物または昆虫細胞培養プロセスであり、および前記発酵プロセスは、細菌、酵母、または真菌発酵プロセスである、実施形態11に記載の方法。
[実施形態13] 前記細胞培養または発酵プロセス中に前記細胞外シスチンレベルを0超に維持する工程は、対象とする前記ジスルフィド結合含有タンパク質におけるジスルフィド結合還元を防ぐ、実施形態8~12のいずれかに記載の方法。
[実施形態14] 対象とする前記ジスルフィド結合含有タンパク質の前記ジスルフィド結合還元の電位は、有効量のシスチンが前記CCF中で0超に維持されない細胞培養または発酵プロセスにおいて産生された対象とする前記ジスルフィド結合含有タンパク質のジスルフィド結合還元の電位と比べて低下される、実施形態13に記載の方法。
[実施形態15] 対象とする精製されたジスルフィド結合含有タンパク質の安定性を改良するための方法であって、対象とする前記タンパク質を、最小の遊離チオールを含む形態に維持する製造プロセスを使用し、それにより、前記製造プロセス中の対象とする前記タンパク質の還元または還元電位を緩和する工程を含む方法。
[実施形態16] 対象とする精製されたジスルフィド結合含有タンパク質の安定性を改良するための方法であって、製造プロセス中の対象とする前記タンパク質の還元または還元電位を緩和する製造プロセスを使用し、それにより、精製プロセス中の凝集物形成を低下させる工程を含む方法。
[実施形態17] 前記製造プロセスは、細胞培養段階、採取段階、少なくとも1つの保持段階、精製段階、またはそれらの任意の組合せを含む、実施形態15または15に記載の方法。
[実施形態18] 前記保持段階は、前記製造プロセス中の前記段階のいずれかにおいて前記材料を貯蔵することを含む、実施形態17に記載の方法。
[実施形態19] 前記保持段階は、前記採取段階後かつ前記精製段階前に最大で1日間、少なくとも4日間、少なくとも1週間、少なくとも10日間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月間、または少なくとも3ヶ月間の期間にわたり、採取された細胞培養液(HCCF)を貯蔵することを含む、実施形態18に記載の方法。
[実施形態20] 対象とする前記タンパク質を、最小の遊離チオールを含む形態に維持する工程は、前記製造プロセス全体を通してジスルフィド結合還元を緩和することを含む、実施形態15~19のいずれかに記載の方法。
[実施形態21] 前記HCCFは、前記保持段階中、空気を含むかもしくは含まない気密性袋またはヘッドスペースを有するかもしくは有さない他の容器中において2~8℃で貯蔵される、実施形態19または20に記載の方法。
[実施形態22] 対象とする前記精製されたジスルフィド結合含有タンパク質の前記遊離チオールは、最小限に抑えられ、それにより、製剤原料段階における対象とする前記タンパク質を安定させる、実施形態15~21のいずれかに記載の方法。
[実施形態23] 対象とする前記ジスルフィド結合含有タンパク質は、抗体またはその抗原結合断片である、実施形態1~21のいずれかに記載の方法。
[実施形態24] ジスルフィド結合還元、および/またはジスルフィド結合還元電位、および/または遊離チオールの最小化は、前記製造プロセス(バイオリアクターおよび採取を含む)のいずれかの工程中、(金属イオン(Zn2+、Mn2+、Fe3+、Cu2+、Se2+を含む)、シスチン、溶存酸素、βメルカプトエタノール、グルタチオン、またはそれらの組合せを含む酸化還元調節剤を加えることによって)Cu、シスチン、EDTA、または酸化還元電位を増加させることによって達成される、実施形態16~24のいずれかに記載の方法。
[実施形態25] 細胞培養物または溶液中の対象とする無傷のジスルフィド結合含有タンパク質の収量を増加させるための方法であって、製造プロセス中の金属イオン濃度、シスチン、ベータ-メルカプトエタノール、グルタチオン、溶存酸素濃度、または他の酸化還元調節剤を増加させることにより、対象とする前記ジスルフィド結合含有タンパク質を製造する工程を含む方法。
図1
図2A-2B】
図3A-3B】
図4A-4B】
図5A-5B】
図6A-6B】
図7
図8
図9
図10
図11
図12A-12C】
図13
図14A-14B】
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18A-18C】
図19
図20
図21A-21C】
図22