(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】生体成分用カセット、生体成分用キット及び生体成分処理システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20240704BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240704BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12M1/00 C
G01N21/78 A
(21)【出願番号】P 2022503779
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2020029079
(87)【国際公開番号】W WO2021024880
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2019143075
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 政嗣
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0101618(US,A1)
【文献】特開2015-223145(JP,A)
【文献】特開2015-216886(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0187388(US,A1)
【文献】特開2010-081809(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0268224(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
G01N 21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する一対の樹脂シートを厚さ方向に重ねて接合したカセット本体と、
一対の前記樹脂シートが厚さ方向にそれぞれ逆向きに隆起した流路壁の内側に形成され、液体を流通させる流路
と、
前記流路
に連通し、細胞の培養に関するパラメータを検出可能とするパラメータ被検出部
と、を備え、
前記パラメータ被検出部は、
前記液体に含まれる所定の物質に反応して呈色するチップ
と、
一対の前記樹脂シートが前記カセット本体の面方向と直交する方向に膨出し、前記チップを収容する膨出部と、を有し、
前記膨出部の流路断面積は前記流路の流路断面積よりも大きく、前記チップの収容状態でも前記液体を流通可能である
生体成分用カセット。
【請求項2】
請求項1記載の生体成分用カセットにおいて、
前記膨出部は、
前記流路の延在方向に平行な平坦部と
前記平坦部の外周に設けられる傾斜部と、を有し、
前記チップは前記平坦部に固着されている
生体成分用カセット。
【請求項3】
請求項2記載の生体成分用カセットであって、前記チップは、前記樹脂シート側から順に、接着剤層と、ポリカーボネート層と、所定の前記物質に反応して呈色を示す染色剤を含んだ染色剤含有シリコン層と、光の漏出を遮断する遮光層と、を有する
生体成分用カセット。
【請求項4】
請求項2記載の生体成分用カセットであって、前記チップは、前記樹脂シート側から順に、接着剤層と、ポリカーボネート層と、ウレタン接着剤層と、所定の前記物質と反応する染色剤を含んだ感応膜層と、光の漏出を遮断する遮光層と、を有する
生体成分用カセット。
【請求項5】
請求項3又は4記載の生体成分用カセットであって、前記チップの側周面を覆い、前記側周面からの光の漏出を遮断する遮光被覆を備える、
生体成分用カセット。
【請求項6】
請求項
1~5のいずれか1項に記載の生体成分用カセットにおいて、
前記パラメータ被検出部は、前記細胞の培養に関するパラメータとして、溶存酸素量、pH、グルコース量、溶存二酸化炭素量及び乳酸量のうちいずれか1つのパラメータを検出可能である
生体成分用カセット。
【請求項7】
請求項
1~6のいずれか1項に記載の生体成分用カセットにおいて、
前記カセット本体は、前記パラメータ被検出部を複数有し
、
複数の
前記パラメータ被検出部は、異なる種類のパラメータを検出可能とする
生体成分用カセット。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の生体成分用カセットにおいて、
前記流路は、前記細胞を培養するバイオリアクタに接続され、前記液体を流出して前記バイオリアクタに供給する
第1ポート路と前記バイオリアクタから排出された前記液体が流入する
第2ポート路と、を有し、
前記パラメータ被検出部は、前記流路のうち前記バイオリアクタから前記液体が流入する
前記第2ポート路に設けられている
生体成分用カセット。
【請求項9】
液体を流通させるチューブと、
前記チューブが接続される生体成分用カセットを有する生体成分用キットであって、
前記生体成分用カセットは、
可撓性を有する一対の樹脂シートを厚さ方向に重ねて接合したカセット本体と、
一対の前記樹脂シートが厚さ方向にそれぞれ逆向きに隆起した流路壁の内側に形成され、前記液体を流通させる流路
と、
前記流路
に連通し、細胞の培養に関するパラメータを検出可能とするパラメータ被検出部
と、を備え、
前記パラメータ被検出部は、
前記液体に含まれる所定の物質に反応して呈色するチップ
と、
一対の前記樹脂シートが前記カセット本体の面方向と直交する方向に膨出し、前記チップを収容する膨出部と、を有し、
前記膨出部の流路断面積は前記流路の流路断面積よりも大きく、前記チップの収容状態でも前記液体を流通可能である
生体成分用キット。
【請求項10】
液体を流通させるチューブと、前記チューブが接続される生体成分用カセットを有する生体成分用キット
と、前記生体成分用キットがセットされる生体成分処理装置を有する生体成分処理システムであって、
前記生体成分用カセットは、
可撓性を有する一対の樹脂シートを厚さ方向に重ねて接合したカセット本体と、
一対の前記樹脂シートが厚さ方向にそれぞれ逆向きに隆起した流路壁の内側に形成され、前記液体を流通させる流路
と、
前記流路
に連通し、細胞の培養に関するパラメータを検出可能とするパラメータ被検出部
と、を備え、
前記パラメータ被検出部は、
前記液体に含まれる所定の物質に反応して呈色するチップ
と、
一対の前記樹脂シートが前記カセット本体の面方向と直交する方向に膨出し、前記チップを収容する膨出部と、を有し、
前記膨出部の流路断面積は前記流路の流路断面積よりも大きく、前記チップの収容状態でも前記液体を流通可能であり、
前記生体成分処理装置は、前記チップに測定光を出射してその光を受光することで前記細胞の培養に関するパラメータを検出する光学センサを有する
生体成分処理システム。
【請求項11】
請求項10記載の生体成分処理システムにおいて
、
前記生体成分処理装置は、前記膨出部を配置させる配置凹部を有し、前記配置凹部の底部に前記光学センサを有する
生体成分処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体成分が流通する流路を内部に有する生体成分用カセット、この生体成分用カセットを有する生体成分用キット、この生体成分用キット及び生体成分用処理装置により構成される生体成分処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療では、生体の細胞(生体成分)を採取して培養し、培養した細胞を患者に投与する。細胞を培養する工程では、例えば、特開2017-143775号公報に開示されているように、ケース内に中空糸を有する細胞培養容器(バイオリアクタ)を備えた細胞培養装置(生体成分処理装置)が使用される。この生体成分処理装置には、複数の医療用バッグ及びバイオリアクタを有する生体成分用キットがセットされ、細胞を含む液を中空糸内に供給して細胞を中空糸内に付着させた後、さらに細胞培養容器に培地を送り込むことにより細胞を増殖させる。
【発明の概要】
【0003】
ところで、この種の生体成分用キットは、複数の医療用バッグとバイオリアクタとの間で液体の複雑な経路を形成している。このため、作業者が生体成分処理装置に生体成分用キットをセットする作業に時間がかかり、また取り付け時にミスが生じ易いという課題がある。
【0004】
ここで、硬質な生体成分用カセットに複数の経路を集約し、この生体成分用カセットを生体成分処理装置にセットする構成も考えられる。しかしながら、硬質な生体成分用カセットを適用すると、カセット内の流路を流通する液体の状態の検出等が困難となり、これらの構成を生体成分用カセットの外部に設けなくてはならない。この場合、生体成分用カセットのセットに加えて、カセットの外部において構成をセットする作業が生じ、作業効率が充分に向上しないことになる。
【0005】
また、細胞の培養では、細胞の増殖具合(細胞の数等)を適切に管理して品質を安定化させることが重要となる。そのため、バイオリアクタに供給する培地のパラメータをリアルタイムに検出して培地の供給量や供給速度を適宜調整することが望まれている。
【0006】
本発明は、上記の技術に関連するものであり、セットの効率化を図ると共に、細胞の培養に関するパラメータを容易に検出可能として品質を安定化させることができる生体成分用カセット、生体成分用キット及び生体成分処理システムを提供することを目的とする。
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明の第1の態様は、細胞を培養するための液体を流通させる流路を内部に有し、且つ可撓性を有するシート状に形成されたカセット本体を備える生体成分用カセットであって、前記流路には、前記細胞の培養に関するパラメータを検出可能とするパラメータ被検出部が設けられ、前記パラメータ被検出部は、前記液体に含まれる所定の物質に反応して呈色するチップを有する。
【0008】
また前記の目的を達成するために、本発明の第2の態様は、細胞を培養するための液体を流通させるチューブと、前記チューブが接続される生体成分用カセットを有する生体成分用キットであって、前記生体成分用カセットは、前記液体を流通させる流路を内部に有し、且つ可撓性を有するシート状に形成されたカセット本体を備え、前記流路には、前記細胞の培養に関するパラメータを検出可能とするパラメータ被検出部が設けられ、前記パラメータ被検出部は、前記液体に含まれる所定の物質に反応して呈色するチップを有する。
【0009】
また前記の目的を達成するために、本発明の第3の態様は、細胞を培養するための液体を流通させるチューブと、前記チューブが接続される生体成分用カセットを有する生体成分用キット、及び前記生体成分用キットがセットされる生体成分処理装置を有する生体成分処理システムであって、前記生体成分用カセットは、前記液体を流通させる流路を内部に有し、且つ可撓性を有するシート状に形成されたカセット本体を備え、前記流路には、前記細胞の培養に関するパラメータを検出可能とするパラメータ被検出部が設けられ、前記パラメータ被検出部は、前記液体に含まれる所定の物質に反応して呈色するチップを有し、前記生体成分処理装置は、前記蛍光チップに測定光を出射してその励起光を受光することで前記細胞の培養に関するパラメータを検出する光学センサを有する。
【0010】
上記の生体成分用カセット、生体成分用キット及び生体成分処理システムは、セットの効率化を図ると共に、細胞の培養に関するパラメータを容易に検出可能として品質を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る生体成分用カセット及び生体成分用キットを適用した生体成分処理システムを示す斜視図である。
【
図3】カセット本体及びその周辺部を示す平面図である。
【
図4】細胞培養時における生体成分用キットの液体の経路を概略的に示す説明図である。
【
図5】
図5Aは、培養パラメータ検出部の概要を示すブロック図である。
図5Bは、培養パラメータ検出部を拡大して示す側面断面図である。
【
図6】
図6Aは、蛍光チップの第1構成例の積層構造を示す分解斜視図である。
図6Bは、蛍光チップの第2構成例の積層構造を示す分解斜視図である。
【
図7】蛍光チップを有するカセット本体の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明の一実施形態に係る生体成分用カセット10(以下、単にカセット10という)は、
図1に示すように、生体成分用キット12(以下、単にキット12という)の一部を構成し、生体成分処理装置14にセットされる。このカセット10は、キット12の複数の経路を集約しており、生体成分を含む液体、及び生体成分を処理するための液体を流通可能な構造体として使用される。
【0014】
キット12は、カセット10の他に、複数の経路を構成する部材として複数のチューブ16、複数の医療用バッグ18、及び生体成分処理装置14に処理される処理部20を備える。キット12は、生体成分処理装置14の動作下に、カセット10及び各チューブ16を経由して、各医療用バッグ18に収容される複数種類の液体を流通させて、処理部20において液体を処理することで目的の製品を得るように構成される。
【0015】
本実施形態に係るキット12は、再生医療において生体の細胞(生体成分)を増殖する増殖処理に使用される細胞増殖キットとなっており、処理部20には、細胞の播種、増殖がなされるバイオリアクタ21が適用される。また、キット12内で流動する液体としては、細胞を含む溶液(以下、細胞液という)、細胞の増殖のために供給される培地(培養液)、キット12内を洗浄する洗浄液、及び細胞を剥離する剥離液等があげられる。すなわち、キット12及び生体成分処理装置14は、バイオリアクタ21に細胞液を播種すると共に、培地を供給して細胞を培養した後、バイオリアクタ21から増殖した細胞を剥離して回収する生体成分処理システム22を構成している。以下、生体成分処理装置14を細胞増殖装置15ともいい、生体成分処理システム22を細胞増殖システム23ともいう。
【0016】
生体の細胞は、特に限定されるものではないが、例えば、血液に含まれる細胞(T細胞等)、幹細胞(ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞等)があげられる。培地も、生体の細胞に応じて適切なものが選択されればよく、例えば、緩衝塩類溶液(Balanced Salt Solution:BSS)を基本溶液として、種々のアミノ酸、ビタミン類及び血清等を加えて調製されたものがあげられる。また洗浄液も、特に限定されるものではなく、PBS(Phosphate Buffered Salts)、TBS(Tris-Buffered Saline)等の緩衝液、又は生理食塩水があげられる。また剥離液としては、例えば、トリプシン、EDTA液を適用することができる。
【0017】
キット12の複数の医療用バッグ18には、細胞液を収容した細胞液バッグ18Aと、洗浄液を収容した洗浄液バッグ18Bと、培地を収容した培地バッグ18Cとが含まれる。さらに、キット12は、複数の医療用バッグ18として空のバッグを有し、この空のバッグには、増殖処理において廃棄される液体が流入する廃液バッグ18Dと、増殖処理において得られた細胞(及び他の液体)を回収する回収バッグ18Eとが含まれる。また医療用バッグ18には、剥離液を収容した剥離液バッグ18Fが別に用意される。剥離液バッグ18Fは、増殖処理の過程で、作業者により、先に接続された医療用バッグ18(例えば、細胞液バッグ18A)と交換される。
【0018】
細胞液バッグ18A、洗浄液バッグ18B、培地バッグ18C等は、図示しない無菌接合装置を用いて、各々のチューブ16の端部と無菌的に接合される。又は各医療用バッグ18は、各々のチューブ16の端部に離脱不能に固着されており、キット12内の無菌性を確保する構造であってもよい。或いは、キット12が、チューブ16と各医療用バッグ18との間を着脱自在に接続する接続構造(不図示)を適用してもよい。
【0019】
キット12のバイオリアクタ21は、特に限定されないが、表面積の大きい培養基材を用いることが好ましく、例えば、中空糸24を有する構造を適用するとよい。具体的には、バイオリアクタ21は、複数(例えば、1万本以上)の中空糸24と、複数の中空糸24を収容する主空間26aを有する円筒状の容器26とを備える。
【0020】
複数の中空糸24は、その延在方向に沿って貫通する内腔(不図示)を有し、内腔を構成する中空糸24の内周面において細胞を接着させて培養する。各中空糸24は、容器26の軸方向に沿って収容され、両端部が図示しない保持壁により保持されている。内腔の直径は、例えば、200μm程度に形成され、保持壁の軸方向両側の端部空間26bに連通している。
【0021】
また、各中空糸24は、当該中空糸24の外側(主空間26a)と内腔との間を連通する図示しない細孔を複数有する。各細孔は、細胞やタンパク質を透過させない一方で、溶液や低分子の物質を透過させることが可能な大きさに形成されている。細孔の直径は、例えば0.005μm~10μm程度に設定される。これにより、中空糸24の内周面に接着した細胞には、細孔を介して培地、所定のガス成分等が供給される。以下、主に中空糸24の内腔に液体を流通する構成をIC(intra capillary)ともいい、主に中空糸24の外側に液体を流通する構成をEC(extra capillary)ともいう。
【0022】
中空糸24を構成する材料は、特に限定されず、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリテロラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、再生セルロース等の高分子材料があげられる。
【0023】
容器26は、各中空糸24を略直線状に延在させて収容可能な軸方向長さを有する。容器26は、チューブ16にそれぞれ接続される4つの端子28(第1IC端子28a、第2IC端子28b、第1EC端子28c、第2EC端子28d)を備える。第1IC端子28aは容器26の一端に設けられ、一端側の端部空間26bに連通している。第2IC端子28bは容器26の他端に設けられ、他端側の端部空間26bに連通している。第1EC端子28cは、容器26の外周面上の他端側近傍位置に設けられ、他端寄りの主空間26aに連通している。第2EC端子28dは、容器26の外周面上の一端側近傍位置に設けられ、一端寄りの主空間26aに連通している。
【0024】
キット12の複数のチューブ16は、細胞液バッグ18Aとカセット10間をつなぐ細胞液チューブ16A、洗浄液バッグ18Bとカセット10間をつなぐ洗浄液チューブ16B、培地バッグ18Cとカセット10間をつなぐ培地チューブ16C、廃液バッグ18Dとカセット10間をつなぐ廃液チューブ16D、回収バッグ18Eとカセット10間をつなぐ回収チューブ16E、バイオリアクタ21の第1IC端子28aとカセット10間をつなぐ第1ICチューブ16F、バイオリアクタ21の第2IC端子28bとカセット10間をつなぐ第2ICチューブ16G、バイオリアクタ21の第1EC端子28cとカセット10間をつなぐ第1ECチューブ16H、及びバイオリアクタ21の第2EC端子28dとカセット10間をつなぐ第2ECチューブ16Iを有する。
【0025】
第1ECチューブ16Hの途中位置には、所定のガス成分を液体(培地)に混合するガス交換器29が設けられている。例えば、混合するガス成分としては、自然界の空気の混合比に近い成分(窒素N2:75%、酸素O2:20%、二酸化炭素CO2:5%)があげられる。
【0026】
ガス交換器29の構造は、特に限定されず、バイオリアクタ21と同様に、複数の中空糸29bを容器29a内に設けたものを適用することができる。つまり、ガス交換器29は、第1ECチューブ16Hを流通する液体を中空糸29bの内腔に導き、この中空糸29b内の移動中に容器29a内(中空糸29bの外側の空間)に供給されたガス成分を、中空糸29bの細孔を介して液体に混合させる。
【0027】
そして、キット12の一部品であるカセット10は、上記の各チューブ16が予め接合されることで、各医療用バッグ18の細胞液、洗浄液、培地、剥離液を、別の医療用バッグ18又はバイオリアクタ21に流通させる中継部として機能する。このカセット10は、細胞増殖装置15にキット12をセットする際に、細胞増殖装置15内の図示しないカセット配置部に取り付けられ、増殖処理におけるチューブ16の配線作業を簡略化させる。
【0028】
図2に示すように、本実施形態に係るカセット10は、複数のチューブ16が直接接続される軟質なカセット本体40と、このカセット本体40を保持して細胞増殖装置15に固定される硬質なフレーム50とで構成されている。
【0029】
カセット本体40は、略長方形を呈すると共に、可撓性を有する薄肉のシート状に形成されている。カセット本体40は、樹脂材料からなる2つの樹脂シート42を厚さ方向に重ねて接合(溶着)することで形成される。一対の樹脂シート42の接合では、溶着用の金型に形成された溝に沿うように当該一対の樹脂シート42間に気体を給排気することで、樹脂シート42がそれぞれ断面半円状に隆起した流路壁45となりその内側に流路44が形成される(
図5Bも参照)。樹脂シート42を構成する材料は、液体の圧力によって変形可能な柔軟性を有していれば、特に限定されず、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂等を適用するとよい。カセット本体40の表面にはエンボス加工が施され、微小な凹凸が形成されていてもよい。カセット本体40の外縁41には、複数のチューブ16と流路44の間を接続する複数のコネクタ60が設けられている。
【0030】
一方、フレーム50は、カセット本体40よりも硬質な(弾性率が大きい)樹脂材料により構成され、カセット本体40を収容する収容空間52を有する薄い凹形状に形成されている。このフレーム50を構成する材料も、特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリアリレート、メタクリレート-ブチレン-スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂を適用するとよい。
【0031】
フレーム50は、カセット本体40よりも一回り大きな略長方形状の覆い部54と、覆い部54の外周から覆い部54の直交方向に短く突出するサイド部56とを有する。サイド部56は、覆い部54の外周を全周にわたって周回している。フレーム50は、覆い部54と反対側でサイド部56に囲われた開口52aを介して収容空間52を開放しており、カセット本体40の一方の面を露出させる。また、フレーム50は、サイド部56の上辺及び右辺から各々延出して、サイド部56から所定間隔離れたチューブ16を保持する保持フレーム58を有する。サイド部56においてカセット本体40の各コネクタ60に対応する箇所には、各コネクタ60を配置及び保持する係止部70が設けられている。コネクタ60及び係止部70は、カセット本体40を係止する係止機構68を構成している。
【0032】
係止機構68は、略長方形状のカセット10の四辺にそれぞれ設けられる。これによりフレーム50はシート状のカセット本体40を張った状態で保持して、流路44を面方向に沿って良好に延在させる。
【0033】
そして、カセット10は、カセット本体40及びフレーム50が一体化され、且つカセット本体40の面方向を重力方向(上下方向)に沿った立位姿勢にして細胞増殖装置15内にセットされる。すなわち細胞増殖装置15内において、カセット10は、
図3に示す上下の向きで細胞増殖装置15のカセット配置部に固定される。なお
図3中のカセット10は、細胞増殖装置15に取り付けた状態における覆い部54側(細胞増殖装置15のタッチパネル134側)から見た姿勢であり、説明の便宜のためにフレーム50を省いてカセット本体40だけを図示している。
【0034】
具体的には、カセット本体40の外縁41は、第1短辺41a(図中の左辺)、第2短辺41b(図中の右辺)、第1長辺41c(図中の上辺)、及び第2長辺41d(図中の下辺)により構成される。細胞液チューブ16A、洗浄液チューブ16B及び培地チューブ16Cは、第1長辺41cに接続されている。廃液チューブ16D、回収チューブ16E、第1ICチューブ16F、第2ICチューブ16G、第1ECチューブ16H及び第2ECチューブ16Iは、第2短辺41bに接続されている。
【0035】
また、細胞増殖システム23は、セット状態で、カセット10の側方近傍位置に4つのポンプ30を配置する。すなわち、細胞増殖装置15は、セット状態で、第1短辺41aの近傍に配置される第1ポンプ30aと、第1長辺41cの近傍に配置される第2ポンプ30b及び第3ポンプ30cと、第2長辺41dの近傍に配置される第4ポンプ30dとを有する。
【0036】
キット12(カセット10)は、第1~第4ポンプ30a~30dに対応する閉じたチューブ16として、第1ポンプ用チューブ16Jを第1短辺41aに接続し、第2ポンプ用チューブ16K及び第3ポンプ用チューブ16Lを第1長辺41cに接続し、第4ポンプ用チューブ16Mを第2長辺41dに接続している。第1~第4ポンプ用チューブ16J~16Mは、その円弧状に折り返す部分が第1~第4ポンプ30a~30dの円形状の被巻掛部に回り込むように配置される。
【0037】
第1~第4ポンプ30a~30dは、回り込んでいる各ポンプ用チューブ16J~16Mをしごくように回転することで、内部の液体に流動力を付与する。第1ポンプ30aは後記のIC用ルート44Aに液体を流動させ、第2ポンプ30bは後記のEC用ルート44Bに液体を流動させる。また、第3ポンプ30cはEC用ルート44Bの液体を循環させ、第4ポンプ30dはIC用ルート44Aの液体を循環させる。
【0038】
細胞増殖システム23は、セット状態で、カセット本体40の第2長辺41dの近傍位置に気泡センサ32を配置する。このため、キット12は、閉じたチューブ16としてセンサ用チューブ16Nを第2長辺41dに接続しており、セット状態で、このセンサ用チューブ16Nが気泡センサ32に対向配置される。
【0039】
さらに、細胞増殖システム23は、セット状態で、細胞液チューブ16A、洗浄液チューブ16B、培地チューブ16Cの各々に外側クランプ34を配置する。各外側クランプ34は、細胞増殖装置15の制御下に、それぞれのチューブ16の流路を開閉する。またさらに、細胞増殖システム23は、セット状態で、カセット本体40に設けられた所定の流路44を開閉する複数の内側クランプ35を有する。
【0040】
上記したように、カセット本体40の外縁41の内側には、面方向に沿って延在する所定形状の流路44が形成されている。またカセット本体40は、流路44に連通する複数の圧力被検出部48、液位被検出部80、逆止弁部90、及び流路44と共に構成される複数の流路被開閉部100、複数のパラメータ被検出部110をシート上に備える。
【0041】
流路44は、詳細な説明は省略するが、第1及び第2ICチューブ16F、16Gと共に中空糸24の内腔に液体を供給するIC用ルート44Aと、第1及び第2ECチューブ16H、16Iと共に中空糸24の外側(主空間26a)に液体を供給するEC用ルート44Bとを構成している。特にバイオリアクタ21に培地を供給する際には、複数の外側クランプ34及び複数の内側クランプ35の各々が適宜開放又は閉塞されることで、IC用ルート44A及びEC用ルート44Bは
図4に概略的に示す形態となる。
【0042】
IC用ルート44Aは、第1ICチューブ16Fに連通する第1ICポート路44A1、及び第2ICチューブ16Gに連通する第2ICポート路44A2をカセット本体40内に有する。そして、IC用ルート44Aは、バイオリアクタ21(中空糸24内)、第1及び第2ICポート路44A1、44A2、第1及び第2ICチューブ16F、16Gとの間で液体を循環する循環回路46Aを形成している。
【0043】
EC用ルート44Bは、第1ECチューブ16Hに連通する第1ECポート路44B1、及び第2ECチューブ16Iに連通する第2ECポート路44B2をカセット本体40内に有する。そして、EC用ルート44Bは、バイオリアクタ21(中空糸24外)、第1及び第2ECポート路44B1、44B2、第1及び第2ECチューブ16H、16Iとの間で液体を循環する循環回路46Bを形成している。
【0044】
図3に戻り、圧力被検出部48は、IC用ルート44A及びEC用ルート44Bにおける各ポンプ30の下流側に設けられる。圧力被検出部48は、細胞増殖装置15に設けられた圧力センサ36に対向配置されることで、流路44の圧力を検出させる。また、液位被検出部80は、IC用ルート44Aに設けられ、流動する液体を貯留空間80aに一時的に貯留してIC用ルート44Aに液体を流出すると共に、液体とは別ルートに気体を流出させる。この液位被検出部80は、細胞増殖装置15に設けられた液位センサ37(上部センサ37a、下部センサ37b)に対向配置され、内部に貯留される液体の液位を検出可能とする。逆止弁部90は、この気体を流出させるルートに設けられ、このルートから液位被検出部80への気体又は液体の流入を規制する。
【0045】
流路被開閉部100は、複数の切り欠き102により構成され、細胞増殖装置15の複数の内側クランプ35に各々配置される。内側クランプ35は、切り欠き102に挿入される変位体35a及び固定体35bを有し、変位体35aを固定体35bに近接させることで所定の流路44を閉塞し、変位体35aを固定体35bから離間させることで所定の流路44を開放する。流路被開閉部100の流路44には、上記の気体の流出ルート、IC用ルート44A、EC用ルート44Bから廃液バッグ18Dに向かう廃液ルート44C、IC用ルート44Aから回収バッグ18Eに向かう回収ルート44D及び第2ICポート路44A2がある。
【0046】
パラメータ被検出部110は、バイオリアクタ21を流動する液体の細胞の培養に関するパラメータを検出可能としたものである。細胞の培養に関するパラメータとしては、例えば、流路44を流動する液体の溶存酸素量、pH、グルコース量、溶存二酸化炭素量、乳酸量があげられる。溶存酸素量、pH、グルコース量は、細胞に供給する培養環境のパラメータに相当する。溶存二酸化炭素量、乳酸量は、細胞の代謝によって生じるパラメータに相当する。1つのパラメータ被検出部110は、これら5種類のパラメータのうちいずれか1つを検出可能としている。
【0047】
すなわち、細胞増殖システム23は、カセット10に設けられたパラメータ被検出部110と、細胞増殖装置15に設けられた光学センサ120とで、細胞の培養時に細胞に関するパラメータを検出する培養パラメータ検出部122を構成している。細胞増殖システム23(細胞増殖装置15)は、培養パラメータ検出部122の検出結果に基づきバイオリアクタ21に供給する培地やガス成分の量を調整する(フィードバックする)。これにより、バイオリアクタ21における細胞状態(細胞数等)を適切に管理することが可能となる。
【0048】
本実施形態では、パラメータ被検出部110は、第2ECポート路44B2に複数(3つ)設けられて、それぞれ異なる種類のパラメータを検出する構成となっている。3つのパラメータ被検出部110は、第2ECポート路44B2の延在方向に沿って等間隔に並設されている。なお、パラメータ被検出部110は、カセット本体40に少なくとも1つ設けられていればよく、或いは上記の5種類のパラメータ全てを検出するために5つ設けられていてもよい。また、パラメータ被検出部110は、第2ECポート路44B2に設けられることに限定されず、他の流路44(例えば、第2ICポート路44A2)に設けられていてもよい。
【0049】
図5Aに示すように、各パラメータ被検出部110は、蛍光チップ112(チップ111)を有し、セット状態で、光学センサ120の対向位置にそれぞれ配置される。蛍光チップ112は、液体に含まれる所定の物質(酸素、H
+、OH
-、グルコース、二酸化炭素、乳酸のいずれか)に反応して呈色するように構成される。各光学センサ120は、細胞増殖装置15の制御部136の制御下に、蛍光チップ112の特性に応じた波長の測定光を各蛍光チップ112に出射して、蛍光チップ112の励起から生じる励起光を受光する。これにより光学センサ120は、蛍光チップ112の呈色度合に基づく検出信号を制御部136に送信する。
【0050】
具体的には
図5Bに示すように、各パラメータ被検出部110は、流路44内に設けられる上記の蛍光チップ112と、カセット本体40に形成され蛍光チップ112を収容する膨出部116とを有する。蛍光チップ112は、カセット本体40を構成する一対の樹脂シート42において細胞増殖装置15の配置面15aに接触する樹脂シート42a(覆い部54側の樹脂シート42bとは反対側)に接合されている。
【0051】
蛍光チップ112は、細胞の培養に関する所定のパラメータ(溶存酸素量、pH、グルコース量、溶存二酸化炭素量、乳酸量)を光学測定するために適宜の構造をとり得る。例えば、
図6Aは、パラメータ検出用の蛍光チップ112の第1構成例の積層構造113を示し、
図6Bは、パラメータ検出用の蛍光チップ112の第2構成例の積層構造114を示している。
【0052】
第1構成例に係る積層構造113は、4つの層を積層して構成されている。具体的には、接着側(樹脂シート42a側)から順に、接着剤層113a、ポリカーボネート層113b、染色剤含有シリコン層113c(被検出層)及び遮光層113dを積層している。接着剤層113aは、積層構造113を樹脂シート42aに接着するものである。ポリカーボネート層113bは、4つの層のうち最も厚みを持つ樹脂基材であり、また透光性を有するように形成される。ポリカーボネート層113bにおいて染色剤含有シリコン層113cに対向する面には、染色剤含有シリコン層113cを固着させるプライマが塗布されているとよい。
【0053】
染色剤含有シリコン層113cは、検出予定のパラメータに応じて適切な染色剤(蛍光物質)が適用される。例えば、細胞の培養に関するパラメータとして溶存酸素量を検出する構成の場合、染色剤としてベンゾ[ghi]ペリレン(多環芳香族炭化水素)を適用するとよい。このように構成された染色剤含有シリコン層113cは、液体に含まれる溶存酸素量に比例して呈色する。これにより染色剤含有シリコン層113cは、例えば、ピーク波長が400nmの測定光が光学センサ120から出射されると、ピーク波長が475nmの励起光を出力する。
【0054】
或いは、細胞の培養に関するパラメータとしてpHを検出する構成の場合、染色剤は、ピラニン(Pyranine:アリールスルホネート)を適用することができる。このように構成された染色剤含有シリコン層113cは、液体に含まれる溶存酸素量に比例して呈色する。これにより染色剤含有シリコン層113cは、例えば、ピーク波長が470nmの測定光が光学センサ120から出射されると、ピーク波長が555nmの励起光を出力する。
【0055】
また、細胞の培養に関するパラメータとしてグルコース量を検出する構成の場合、染色剤は、グルコースオキシダーゼ(GOD)、ペルオキシダーゼ(POD)、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)等を主に有する試薬を適用することができる。
【0056】
さらに、細胞の培養に関するパラメータとして溶存二酸化炭素量を検出する構成の場合は、pHと同様に、染色剤としてピラニンを適用することができる。
【0057】
またさらに、細胞の培養に関するパラメータとして乳酸量を検出する構成の場合、染色剤は、ラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)、ペルオキシダーゼ(POD)等を適用することができる。
【0058】
また
図6Bに示すように、第2構成例に係る積層構造114は、5つの層を積層している。5つの層は、接着側(樹脂シート42a側)から順に、接着剤層114a、ポリカーボネート層114b、ウレタン接着剤層114c、感応膜層114d(被検出層)及び遮光層114eである。この場合、液体に含まれるパラメータと反応する染色剤は、感応膜層114dに含有される。染色剤は、上記のものを適用することができ、例えばpHを検出する構造では、ピラニンを適用とよい。
【0059】
図6A及び
図6Bに示すように、蛍光チップ112(積層構造113、114)は、その突出端に遮光層112a(遮光層113d、114e)を備えることで、蛍光チップ112の周囲への測定光の漏出を抑制する。さらに
図5Bに戻り、遮光層112aは、蛍光チップ112の側周面を覆う遮光被覆112a1を有してもよい。遮光被覆112a1は、染色剤含有シリコン層113cや感応膜層114dと流路44を連通する部分を有し、且つ他の側周面を覆うことで蛍光チップ112からの光の漏れを一層抑制する。
【0060】
一方、パラメータ被検出部110の膨出部116は、一対の樹脂シート42がカセット本体40の面方向(流路44の延在方向)と直交する方向に隆起した部分であり、流路44に連通する空間部116aを内側に有する。空間部116aの流路断面積は、流路44の流路断面積よりも充分に大きく設定されており、蛍光チップ112の収容状態でも液体を良好に流通可能としている。
【0061】
一対の樹脂シート42における膨出部116の構成部分は、カセット本体40の厚さ方向に沿った断面視で、平坦部117と、平坦部117の外周に設けられる傾斜部118とを有する。蛍光チップ112は、樹脂シート42aの平坦部117に固着されており、セット状態では、この平坦部117が光学センサ120に接触するように構成されている。なお、樹脂シート42aの傾斜部118は、光学センサ120の測定光の漏出を抑制するために、遮蔽領域118aが設けられていてもよい。
【0062】
また、細胞増殖装置15において培養パラメータ検出部122を構成する部分には、光学センサ120と、配置凹部124とが設けられている。光学センサ120は、蛍光チップ112の構成(パラメータ)に基づき、所定波長の測定光を出射する発光部120aと、蛍光チップ112から生じる励起光を受光する受光部120bとを有する。
【0063】
配置凹部124は、細胞増殖装置15の配置面15aから所定の深さ(膨出部116の突出量よりも短い寸法)に形成され、その底部に光学センサ120を有する。配置凹部124は、カセット10のセット時に、カセット本体40(樹脂シート42a)の膨出部116を案内可能とし、平坦部117を底部に配置及び接触させる。これにより、光学センサ120は、蛍光チップ112のパラメータを安定的に検出することが可能となる。
【0064】
図1に戻り、キット12が取り付けられる細胞増殖装置15は、箱状の装置本体130と、キット12の各医療用バッグ18を保持するスタンド132とを備える。また、装置本体130の外面には、増殖処理を行う際の操作や表示を行うタッチパネル134(表示操作部)が設けられる。さらに、装置本体130の内部には、カセット10を立位姿勢で固定し、またバイオリアクタ21を適宜の高さ位置に保持するカセット配置部(不図示)と、細胞増殖システム23の動作を制御する上記の制御部136とが設けられている。なお図示は省略するが、細胞増殖装置15は、細胞培養に要求される種々の条件を実現するための機能部を備え得ることは勿論である。例えば、細胞増殖装置15は、温度制御を実施して培養環境を37℃に保つ温度調整部を備えているとよい。
【0065】
制御部136は、図示しないプロセッサ、メモリ、入出力インタフェースを有し、メモリに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することで、増殖処理においてポンプ30、外側クランプ34、内側クランプ35等を適宜動作させる。また制御部136は、細胞の培養時に、プログラムの実行下に各光学センサ120から検出信号を受信し、その検出結果に基づきポンプ30の駆動を調整(フィードバック制御)する。
【0066】
次に、以上の蛍光チップ112を有するカセット本体40の製造手順(カセッ本体製造方法)について説明する。この製造工程では、
図7に示すように、シート切断工程(ステップS1)、センサシール工程(ステップS2)、カセット形成工程(ステップS3)を順次実施する。
【0067】
シート切断工程では、図示しない切断装置を用いて、一様に連なるシートの基材(不図示)を、製造するカセット本体40の形状及びサイズに応じて切断することで、1枚毎の樹脂シート42を形成する。
【0068】
センサシール工程では、図示しない貼り付け装置を用いて、成形された一方の樹脂シート42aの所定の位置(パラメータ被検出部110の形成予定位置)に、別途成形した蛍光チップ112(積層構造113、114)をシールする。上記したように蛍光チップ112は、接着剤層113a、114aを有しており、樹脂シート42aの位置決めに伴い蛍光チップ112を簡単且つ迅速に接着することができる。
【0069】
カセット形成工程では、流路44(パラメータ被検出部110等を含む)を形成用の溝を有する金型上に、蛍光チップ112が固着された樹脂シート42aと、樹脂シート42bとを上に重ねる。そして、金型が一対の樹脂シート42を挟み込んで溶着を行いつつ、溝に対応する一対の樹脂シート42間に空気を給排気することで流路44を形成する。この際、樹脂シート42aに蛍光チップ112が固着されたまま膨出部116が形成されることになり、カセット形成工程後のカセット本体40は、パラメータ被検出部110を有した構成となる。
【0070】
次に、細胞増殖システム23の増殖処理におけるチューブ16、カセット10の流路44の動作について説明する。
【0071】
図1に示すように、細胞増殖システム23の増殖処理では、作業者が細胞増殖装置15内にカセット10を含むキット12の一部を挿入する。また作業者は、細胞増殖装置15のポンプ30、気泡センサ32、外側クランプ34にキット12の適宜のチューブ16を配置する。さらにカセット10の配置時には、内側クランプ35に流路被開閉部100が配置されると共に、光学センサ120(配置凹部124)にパラメータ被検出部110が配置される。これにより、カセット10は、
図3に示すように、その面方向が重力方向に沿った姿勢となって細胞増殖装置15にセットされる。さらに、キット12の各医療用バッグ18も、作業者によりスタンド132に吊り下げられる。
【0072】
上記のセット後に、増殖処理では、プライミング工程、培地置き換え工程、播種工程、培養工程、剥離工程及び回収工程を順次実施する。プライミング工程では、洗浄液バッグ18Bの洗浄液を、カセット10内で2つのルート(IC用ルート44A、EC用ルート44B)に流通させ、所定のチューブ16、バイオリアクタ21、カセット本体40の各ルートに存在する気体を除去して、廃液バッグ18Dに導く。培地置き換え工程では、プライミング工程と同様に、所定のチューブ16、バイオリアクタ21、カセット本体40の各ルートに培地バッグ18Cの培地を導く。
【0073】
さらに培地置き換え工程後の播種工程では、細胞液バッグ18Aの細胞液を、IC用ルート44Aを介してバイオリアクタ21の中空糸24の内腔に供給しつつ、EC用ルート44Bに存在する培地を循環させてガス成分をバイオリアクタ21に供給する。
【0074】
そして、播種工程後の培養工程では、
図4に示すように、IC用ルート44A及びEC用ルート44Bの両方から培地を供給してバイオリアクタ21内に播種された細胞を培養する。この培養工程は、他の工程に比べて長時間(例えば数日間)実施することにより、中空糸24の内周面の細胞を増殖させる。なお、細胞増殖システム23は、培養工程においてIC用ルート44Aを用いずに、EC用ルート44Bから培地を供給する動作を行ってもよい。
【0075】
培養工程時に、細胞増殖システム23は、培養パラメータ検出部122(パラメータ被検出部110、光学センサ120)により細胞の培養に関するパラメータを検出し、検出結果に応じてポンプ30の駆動を制御する。培養工程において、第2ECポート路44B2には、バイオリアクタ21から流出される培地が流動しており、パラメータ被検出部110(蛍光チップ112)は、この培地に含まれる目的の物質と反応して呈色する。光学センサ120は、蛍光チップ112に測定光を出射し、呈色した蛍光チップ112の励起光を受光し、受光に基づく検出信号(吸光度の情報)を制御部136に送信する。
【0076】
例えば、溶存酸素量を検出する構成において、制御部136は、溶存酸素量が多い場合に酸素の供給量(すなわちEC用ルート44B側の培地の循環速度)を減少させ、溶存酸素量が少ない場合に酸素の供給量を増加させる。また、pHを検出する構成において、制御部136は、pHが高い場合に二酸化炭素の供給量(すなわちEC用ルート44B側の培地の循環速度)を増加させ、pHが低い場合に培地の供給量(IC用ルート44A又はEC用ルート44Bに供給する培地の量)を増加させる。さらに、グルコース量を検出する構成において、制御部136は、グルコース量が高い場合に、培地の供給量を減少させ、グルコース量が低い場合に、培地の供給量を増加させる。
【0077】
一方、溶存二酸化炭素量を検出する構成において、溶存二酸化炭素量が多い場合には、制御部136は、培地の供給量を減少させる。逆に溶存二酸化炭素量が少ない場合、制御部136は、培地の供給量を増加させる。同様に、乳酸量を検出する構成において、乳酸量が多い場合にも、制御部136は、培地の供給量を減少させる。逆に乳酸量が少ない場合、制御部136は、培地の供給量を増加させる。
【0078】
制御部136は、複数の培養パラメータ検出部122により複数種類のパラメータを検出する構成において、異なる種類のパラメータを比較及び補正等して、ポンプ30の駆動の最適化を図る。これにより、細胞増殖システム23は、バイオリアクタ21における細胞の増殖具合を適切に管理することができる。
【0079】
また、培養工程後の剥離工程では、IC用ルート44Aから剥離液を供給してバイオリアクタ21内で培養された(増殖した)細胞を剥離する。剥離工程におけるEC用ルート44Bでは、バイオリアクタ21との間でガス成分を含む培地を循環させる。さらに、剥離工程後の回収工程では、IC用ルート44Aに培地を供給することで剥離工程において剥離した細胞をバイオリアクタ21から流出させて回収バッグ18Eに導く。この際EC用ルート44Bでも培地及びガス成分を供給する。
【0080】
以上の工程により、細胞増殖システム23は、バイオリアクタ21において培養した細胞を回収バッグ18Eに良好に貯留していくことができる。なお、パラメータ被検出部110による細胞の培養に関するパラメータの検出は、培養工程で実施されることに限定されず、他の工程でも実施可能なことは勿論である。
【0081】
また、本発明は、上記の実施形態に限定されず、発明の要旨に沿って種々の改変が可能である。例えば、細胞増殖システム23は、パラメータとしてカセット本体40の流路44を流動する液体の温度を検出し、上記のパラメータ(溶存酸素量、pH、グルコース量、溶存二酸化炭素量、乳酸量)と、検出した温度を勘案して、液体の流動制御を行ってもよい。
【0082】
上記の実施形態から把握し得る技術的思想及び効果について、以下に記載する。
【0083】
本発明の第1の態様は、細胞を培養するための液体を流通させる流路44を内部に有し、且つ可撓性を有するシート状に形成されたカセット本体40を備える生体成分用カセット10であって、流路44には、細胞の培養に関するパラメータを検出可能とするパラメータ被検出部110が設けられ、パラメータ被検出部110は、液体に含まれる所定の物質に反応して呈色するチップ111を有する。
【0084】
これにより、生体成分用カセット10は、作業者によって生体成分処理装置14にセットされる際に、複数の経路を容易且つ正確に配置させてセットの効率化を図ることができる。しかも生体成分用カセット10は、カセット本体40の流路44にパラメータ被検出部110(チップ111)を有することで、細胞の培養に関するパラメータを容易に検出可能とする。その結果、生体成分用カセット10は、細胞の培養に関するパラメータに基づき細胞の培養時の培地やガス成分の状態を良好に調整させることができ、品質を安定化させることが可能となる。
【0085】
また、パラメータ被検出部110は、細胞の培養に関するパラメータとして、溶存酸素量、pH、グルコース量、溶存二酸化炭素量及び乳酸量のうちいずれか1つのパラメータを検出可能である。これにより、パラメータ被検出部110は、目的のパラメータ(溶存酸素量、pH、グルコース量、溶存二酸化炭素量及び乳酸量のうちいずれか1つ)をより精度よく検出させることができる。
【0086】
また、カセット本体40は、パラメータ被検出部110を複数有し、複数のパラメータ被検出部110は、異なる種類のパラメータを検出可能とする。これにより、生体成分用カセット10は、細胞の培養時の制御をより詳細に実施させて、品質を向上させることができる。
【0087】
また、生体成分用カセット10は、細胞を培養するバイオリアクタ21に接続され、液体を流出してバイオリアクタ21に供給すると共に、バイオリアクタ21から排出された液体が流入するものであり、パラメータ被検出部110は、流路44のうちバイオリアクタ21から液体が流入するポート路(第2ICポート路44A2、第2ECポート路44B2)に設けられている。これにより、生体成分用カセット10は、バイオリアクタ21から排出された液体の状態を良好に検出させることができ、品質を一層安定化させることが可能となる。
【0088】
また、パラメータ被検出部110は、カセット本体40の面方向と直交する方向に突出し、チップ111を収容する膨出部116を有する。これにより、生体成分用カセット10は、チップ111を流路44に備えた構成でも液体を円滑に流動させつつ、細胞の培養に関するパラメータを検出させることができる。
【0089】
また、カセット本体40は、一対の樹脂シート42を接合して構成され、チップ111は、一対の樹脂シート42のうち一方に固着されて流路44内で流路44の延在方向と直交する方向に突出し、且つ所定の物質に基づき呈色する被検出層(染色剤含有シリコン層113c、感応膜層114d)を備えた積層構造113、114に構成されている。これにより、チップ111は、一対の樹脂シート42の一方から測定光が入射した際に、呈色した被検出層に測定光を良好に導いて励起光を返すことができる。
【0090】
また、チップ111の突出端には、光の漏出を遮断する遮光層113d、114eが設けられている。これにより、パラメータ被検出部110は、チップ111に対する光学測定時にチップ111の突出端からの光の漏出を抑制して、パラメータの検出を精度よく実施させることができる。
【0091】
また、チップ111の側面には、光の漏出を遮断する遮光被覆112a1が設けられている。これにより、パラメータ被検出部110は、チップ111に対する光学測定時にチップ111の側面からの光の漏出をさらに抑制して、パラメータの検出をより精度よく実施させることができる。
【0092】
また、本発明の第2の態様は、細胞を培養するための液体を流通させるチューブ16と、チューブ16が接続される生体成分用カセット10を有する生体成分用キット12であって、生体成分用カセット10は、液体を流通させる流路44を内部に有し、且つ可撓性を有するシート状に形成されたカセット本体40を備え、流路44には、細胞の培養に関するパラメータを検出可能とするパラメータ被検出部110が設けられ、パラメータ被検出部110は、液体に含まれる所定の物質に反応して呈色するチップ111を有する。これにより、生体成分用キット12は、複数の経路を容易且つ正確に配置させてセットの効率化を図ることができる。また生体成分用キット12は、細胞の培養に関するパラメータを容易に検出可能として細胞の培養時の培地やガス成分の状態を調整させることができ、品質を安定化させることが可能となる。
【0093】
また、本発明の第3の態様は、細胞を培養するための液体を流通させるチューブ16と、チューブ16が接続される生体成分用カセット10を有する生体成分用キット12、及び生体成分用キット12がセットされる生体成分処理装置14を有する生体成分処理システム22であって、生体成分用カセット10は、液体を流通させる流路44を内部に有し、且つ可撓性を有するシート状に形成されたカセット本体40を備え、流路44には、細胞の培養に関するパラメータを検出可能とするパラメータ被検出部110が設けられ、パラメータ被検出部110は、液体に含まれる所定の物質に反応して呈色するチップ111を有し、生体成分処理装置14は、チップ111に測定光を出射してその励起光を受光することで細胞の培養に関するパラメータを検出する光学センサ120を有する。これにより、生体成分処理システム22は、セットの効率化を図ると共に、細胞の培養に関するパラメータを容易に検出可能として品質を安定化させることができる。
【0094】
また、パラメータ被検出部110は、カセット本体40の面方向と直交する方向に突出し、チップ111を収容する膨出部116を有し、生体成分処理装置14は、膨出部116を配置させる配置凹部124を有し、配置凹部124の底部に光学センサ120を有する。これにより、生体成分処理システム22は、生体成分用カセット10を生体成分処理装置14にセットする際に、パラメータ被検出部110を配置凹部124にスムーズに配置させることができる。セット状態では、光学センサ120がチップ111に対向することになり、細胞の培養に関するパラメータを良好に光学測定することが可能となる。
【0095】
なお、カセット10(パラメータ被検出部110)に適用されるチップ111は、所定波長の光を吸収して別波長の励起光を放出する蛍光物質を有する蛍光チップ112に限定されず、種々の光学的な測定方式に応じたチップ111を適用してよい。例えば、チップ111は、所定の物質(パラメータ)の濃度に応じて色調を変化させるものを適用してよい。この場合、光学センサ120は、チップ111に対して測定光を出射してその反射光を測定する測定方式をとり得る。