(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】ケイ酸を含むCNT含有シロキサンの配合物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/05 20060101AFI20240704BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20240704BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240704BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20240704BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240704BHJP
C07F 7/08 20060101ALI20240704BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20240704BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240704BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240704BHJP
【FI】
C08L83/05
C08L83/07
C08K3/36
C08K9/06
C08K3/04
C07F7/08 Y
H01B1/24 Z
H01B13/00 Z
B33Y70/00
(21)【出願番号】P 2022525375
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 EP2019079695
(87)【国際公開番号】W WO2021083514
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100183678
【氏名又は名称】丸島 裕
(72)【発明者】
【氏名】トルステン、ゴットシャルク-ガウディッヒ
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア、キルシュナー
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105930(JP,A)
【文献】特開2016-225278(JP,A)
【文献】特開2013-245329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)CNT 0.1~5重量%と、
b)一般式(I)の化合物から選択される少なくとも1種のシロキサン 70~97.9重量%と、
c)式(IV)の有機シランおよび式(V)の有機シラザンから選択される少なくとも1種の有機ケイ素化合物で表面シリル化されている、少なくとも1種の疎水性シリカ 1~20重量%と、
d)石英、珪藻土、金属酸化物、金属ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、着色顔料およびカーボンブラックからなる群から選択される少なくとも1種の他の充填剤 0~5重量%と、
を含
む、低粘度で導電性のCNT含有シロキサン組成物であって、
前記割合は、組成物の総重量を基準とし、成分a)~d)は合計で100重量%であ
り、
前記低粘度が、25℃の温度で測定される、1s
-1
のせん断速度における1,000,000mPa・s以下の粘度である、
前記低粘度で導電性のCNT含有シロキサン組成物。
(SiO
4/2)
a(R
xSiO
3/2)
b(R
x
2SiO
2/2)
c(R
x
3SiO
1/2)
d (I)
[前記式中、基R
xは、互いに独立して、(i)水素、(ii)-CH=CH
2、(iii)非置換のまたはフッ素化C
1-C
20炭化水素基および(iv)フェニル基からなる群から選択され、添字a、b、cおよびdは、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、互いに独立して0~100,000の範囲の整数を表し、a+b+c+d≧2である。]
R
1R
2R
3Si-Y (IV)
R
1R
2R
3Si-NH-SiR
1R
2R
3 (V)
[前記式中、基R
1、R
2、R
3は、それぞれ独立して、ハロゲン化または非置換のC
1-C
24炭化水素基から選択され;
基Yは、(i)ハロゲン原子、(ii)-OR
xおよび(iii)-OC(=O)OR
xからなる群から選択され、R
xは、それぞれの場合に、(i)水素および(ii)置換または未置換のC
1-C
24炭化水素基からなる群から選択され、ここで置換とは、ケイ素に結合しているものではない少なくとも1つのCH
2基が-O-により置き換えられていてもよいことを意味するものと理解される。]
【請求項2】
前記CNTがMWCNTであることを特徴とする、請求項1に記載のシロキサン組成物。
【請求項3】
使用される前記シロキサンが、
a)一般式(IIa)の化合物から選択される少なくとも1種のH-シロキサンと、
b)一般式(IIb)の化合物から選択される少なくとも1種のビニルシロキサンと
を含むシロキサン混合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のシロキサン組成物。
(R
x
2SiO
2/2)
c(HR
xSiO
2/2)
c’(R
xSiO
3/2)
d(HR
x
2SiO
1/2)
d’(IIa)
[前記式中、基R
xは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C
1-C
20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され、添字c、c’、dおよびd’は、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、cおよびc’は、それぞれ0~100,000の範囲の整数を表し、dおよびd’は、それぞれ値0または1または2と見なしてよく、ただしdおよびd’の合計は2である。]
(R
x
2SiO
2/2)
c(ViR
xSiO
2/2)
c’(ViR
x
2SiO
1/2)
2 (IIb)
[前記式中、基Viは、それぞれ、ケイ素原子に結合している-CH=CH
2基を表し;基R
xは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C
1-C
20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され;
添字cおよびc’は、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、cおよびc’は、それぞれ0~100,000の範囲の整数を表す。]
【請求項4】
使用される前記シロキサンが、
a)架橋剤として、
一般式(III)の少なくとも1種のH-シロキサン 1~10重量%と、
b1)一般式(IV)の少なくとも1種のビニルシロキサン 90~99重量%、またはb2)一般式(IV’)の少なくとも1種のビニルシロキサン 40~94重量%のいずれかと、
一般式(IIa’)の少なくとも1種のH-シロキサン 0~50重量%と
を含むシロキサン混合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のシロキサン組成物。
(R
x
2SiO
2/2)
c(HR
xSiO
2/2)
c’(R
x
3SiO
1/2)
2 (III)
[前記式中、基R
xは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C
1-C
20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され、添字cおよびc’は、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、cは、0~100,000の範囲の整数であり、c’は、3~100,000の範囲の整数である。]
(R
x
2SiO
2/2)
c(ViR
x
2SiO
1/2)
2 (IV)
[前記式中、基R
xは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C
1-C
20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され、添字cは、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、c=1001~100,000である。]
(R
x
2SiO
2/2)
c(ViR
x
2SiO
1/2)
2 (IV’)
[前記式中、基R
xは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C
1-C
20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され、添字cは、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、c=1~1000である。]
(R
x
2SiO
2/2)
c(HR
x
2SiO
1/2)
2 (IIa’)
[前記式中、基R
xは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C
1-C
20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され、添字cは、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、c=1~100,000である。]
【請求項5】
式(IV)および式(V)中の前記基R
1、R
2、R
3が、それぞれ互いに独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、オクチル基、フェニル基およびビニル基からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のシロキサン組成物。
【請求項6】
前記有機ケイ素化合物が、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ビス-ビニルジメチルジシラザンおよびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のシロキサン組成物。
【請求項7】
前記疎水性シリカが、以下の物性:
・0.1~1,000m
2/gの範囲のBET表面積、
・100%未満の残留シラノール含量、
・少なくとも30のメタノール数、
・250g/100g以下のDBP価、
・20~500g/lの範囲のタンピング密度、
・0.4重量%以上の範囲の炭素含有量
を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のシロキサン組成物。
【請求項8】
前記疎水性シリカが、焼成シリカに基づくことを特徴とする、請求項7に記載のシロキサン組成物。
【請求項9】
前記金属酸化物が
、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタンまたは酸化ジルコニウムである、請求項1~8のいずれか一項に記載されたシロキサン組成物。
【請求項10】
前記金属ケイ酸塩がケイ酸カルシウムである、請求項1~9のいずれか一項に記載されたシロキサン組成物。
【請求項11】
前記炭酸塩が炭酸カルシウムである、請求項1~10のいずれか一項に記載されたシロキサン組成物。
【請求項12】
前記硫酸塩が硫酸カルシウムである、請求項1~11のいずれか一項に記載されたシロキサン組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のシロキサン組成物の成分a)~d)を、スクレーパーを有するディゾルバーを用いて分散させる、低粘度で導電性のCNT含有シロキサン組成物の製造方法
であって、前記低粘度が、25℃の温度で測定される、1s
-1
のせん断速度における1,000,000mPa・s以下の粘度である、前記製造方法。
【請求項14】
前記ディゾルバーの最大パワーで分散を行い、1分~60分の範囲の少なくとも1回の分散休止をとることを特徴とし、ここで前記最大パワーは、ディゾルバー速度を5分毎に250rpm増加させ、ディゾルバーの速度に対する分散力を評価することにより決定され、したがって前記ディゾルバーの最大パワーに対するディゾルバーの最適回転速度の決定を可能にする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
一定間隔で2回以上の分散休止をとる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記分散休止間の分散区間の時間が1分~60分の範囲である、請求項14または15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ディゾルバーが、遊星型ディゾルバーである、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項4~12のいずれか一項に記載のシロキサン組成物の、3D印刷またはスクリーン印刷における成形材料としての使用。
【請求項19】
a)請求項4~12のいずれか一項に記載のシロキサン組成物を製造する工程、
b)ヒドロシリル化触媒を用いてこのシロキサン組成物を反応させる工程、
c)成形工程
を含む方法によって得られうる、弾性導電性成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CNT含有シロキサンの配合物を開示する。本発明はさらに、これらの配合物の製造方法、および3D印刷またはスクリーン印刷における成形材料としてのその使用を開示する。
【背景技術】
【0002】
導電性シリコーンエラストマーは、例えば、Wacker Chemie AGのELASTOSIL(登録商標)LR 3162 A/BおよびPOWERSIL(登録商標)466 A/B製品として知られており、市販されている。これらは、導電性付与成分として導電性カーボンブラックを通常は含む。カーボンブラックは約5~10重量%の量で添加されており、射出成形および特に3D印刷などの通常の成形加工が不可能になるまで混合物の粘度を上昇させる。
【0003】
異方性充填剤、例えばMWCNT(MWCNT=多層カーボンナノチューブ)の使用により、伝導性充填剤の量を約0.5~3重量%に減少させることが可能になり、その結果、流動性のある組成物が得られる。MWCNT含有シリコーンエラストマーが知られている((a)C.-L. Wu, H.-C. Lin, C.-H. Huang, M.-C. Yip, W. Fang, MRS Online Proceedings Library 2007, 1056;(b)S. S. Hassouneh, L. Yu, A. L. Skov, A. E. Daugaard, Journal of Applied Polymer Science 2017, 134, n/a-n/a;(c)A. Behrens, K. Foremny, T. Doll, physica status solidi (a) 2018, 215, 1700873;および(d)C. X. Liu, J. W. Choi, IEEE Transactions on Nanotechnology 2010, 9, 590-595)。これらは、通常は1,000,000mPa・sを超える高い粘度を有する高温架橋性シリコーンエラストマーである。製造は、ニーダーおよび/またはローラーミルを用いて行われる。これらの方法は時間と労力がかかる上、CNT(CNT=カーボンナノチューブ)が部分的に機械的に破壊されるためか、混合物の伝導性がすぐに崩れてしまうという不利な点がある。
【0004】
また、混合後にCNT粒子が不均一に分布したままであっても、電気伝導性が著しく損なわれることがある。CNTはファンデルワールス力によって大きく絡み合い、CNTは大きな束や高密度の凝集塊の形態で存在することが多いことから、制御されていない電子的変化が起こる可能性がある。そのため、CNTを均一に混合(分散)させることが、CNT含有シロキサンの製造における主な課題となっている。
【0005】
シロキサンまたはシリコーン複合材料中にCNTを混合する多くの方法が、すでに知られている。
【0006】
CN107298859には、遊星分散型真空ミキサーを90分間用いた柔軟性CNT含有シロキサンの製造が開示されている。破壊特性および引張伸びのみが測定されている。パワー入力については何も言及されておらず、材料の抵抗も知られていない。
【0007】
CN106046739Aには、特にシリコーン(γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、フェニルシリコーンオイル)およびCNTを含む導電性複合材料が開示されている。これらは、高速ミキサーを用いて混合されている。1.03Ω・cm~1.13Ω・cmの体積抵抗が得られている。しかしながら、パワー入力または抵抗の測定方法に関する情報は提供されていないことから、値の比較は困難である。
【0008】
CN107722631Aには、特にシリコーンオイル、酸化亜鉛、およびCNTと微小膨張黒鉛との複合体を含む熱伝導性ペーストが開示されている。この混合物は、ニーダーで製造されている。ニーダーの使用は、ニーダーが高粘度のシロキサンの場合にのみ使用できることから、不利になることが多い。また、機械的ストレスによりCNTが破壊され、したがって伝導性が損なわれる可能性がある。
【0009】
CN109082124Aには、マルチアームCNTを含有する光硬化性シリコーン複合材料からなる電磁波シールド材が開示されている。製造時には、シリコーンと架橋剤とを800~1000rpmで混入させる前に、超音波を使用してCNTをTHF中に最初に分散させる。その後、さらに45~60分間超音波処理を行う。超音波処理は、機械的ストレスが非常に高く、結果としてCNTが破壊される可能性があることから、同様に不利になることが多い。さらに、この方法では、均一な分散を実現するために溶媒が必要である。そのため、溶媒を再び除去するための追加の操作工程が必要となる。溶媒の残留は、製品にブリスターを発生させ、機械的物性を損なう可能性がある。
【0010】
CN108688252Aには、衝撃に敏感なアクチュエータのフィルムの成分として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)中のCNTの混合物が開示されている。この混合物を製造するために、PDMSをまず溶媒(n-ヘキサンまたはシクロヘキサン)に溶解させる。次に、CNTを加えて室温で2000~2500rpmの回転数で5~8時間混合する。次に、架橋剤を加える(Dow Corning Mixture 184)。この混合物についての電気的物性は測定されていない。また、この方法では溶媒が不利であり、ミキサーおよびパワー入力に関する情報は開示されていない。
【0011】
CN108504106Aには、CNTを含有する伝導性シリコーン複合材料が開示されている。この材料を製造するために、CNTをまずTHFと攪拌しながら混合し、次に超音波を用いて分散させる。次に、シリコーンを加え、混合物を室温で90分間攪拌し、超音波処理を行う。次に、架橋剤を加える。100Hzで250~980の誘電率が測定されている。この方法にも、超音波処理および溶媒の使用という、先に述べた不利な点がある。
【0012】
CN107383880Aには、柔軟性および伝導性CNT含有シリコーンが開示されている。このシリコーンを製造するために、部分的に架橋されたシリコーン(PDMS)をまず製造し、ヘキサンに溶解させる。次に、CNTを加え、超音波によってシリコーン中に分散させる(断続的な処理:5分間のUS、3分間の休止、合計60分間。休止による有益な効果は記載されていないが、その理由はおそらく高熱の発生か、ソノトロード(sonotrode)への機械的ストレスである)。ヘキサンを除去した後、架橋剤を再び加え、最終製品を得る。室温で0.8~39Ω・cmの抵抗が得られている。この方法にも、超音波処理および溶剤の使用という、先に述べた不利な点がある。
【0013】
一般的な成形プロセス、例えば射出成形、噴射またはレーザー転写印刷を用いる場合、低粘度で導電性のシロキサン配合物は、成形プロセス中に生じるせん断の終了後に即時の構造形成を示すことが知られている。これは、例えば、粗い表面または多層印刷の場合の空洞につながることがあり、したがって、これらのシロキサン配合物の大きな不利な点である。構造緩和速度は、せん断応力の終了60秒後に静的粘度(static viscosity)の80%下の値が得られるように減少させる必要がある。このような値でのみ、ドロップ・オン・デマンド法による3D印刷で滑らかな表面を形成することができ、多層印刷で空洞または欠陥が形成されるのを避けることができる。
【0014】
緩和効果は、H-シロキサン単独およびビニルシロキサン単独、ならびにそれらの混合物のいずれでも発生する。
【0015】
ビニルシロキサンは、通常、Pt触媒の存在下でヒドロシリル化により架橋剤で加硫(=架橋)され、ここで架橋剤は、分子中に少なくとも3個の水素原子を含むH-シロキサンである。
【0016】
CN107298859では、組成物は、充填剤としてのナノシリカ、好ましくは気相法シリカ(=焼成シリカ)と混合されている。しかしながら、親水性シリカか疎水性シリカかについては開示されていない。開示された組成物から、シリカは、同じく添加されるシリコーンオイルによって製造工程中にその場でジメチルシロキシ基により変性され得る親水性シリカであると結論付けられなければならない。
【発明の概要】
【0017】
したがって、本発明の目的は、先行技術の不利な点を示さない、低粘度で導電性のCNT含有シロキサンを製造する方法を提供することである。
【0018】
驚くべきことに、約1~20重量%の量のシリカを添加することにより、せん断応力の終了60秒後に静的粘度の80%以下の値が得られるように、構造緩和速度を減少させることが可能であることが見出された。シリカを含まない配合物の場合、この値は60秒後に80%超である。
【0019】
また、驚くべきことに、記載した添加量のシリカは、配合物の電気伝導性の適度な減少のみをもたらすことが見出された。また、本発明の効果を達成するには、シリコーンを-O-SiR1R2R3表面基(ここでR1、R2、R3は互いに独立してハロゲン化または非置換のC1-C24炭化水素基から選択される)でシリル化する必要があることも見出された。このようなシリカは、疎水性である。経験上、親水性シリカの使用は、保存性が安定しない配合物をもたらすことが判明している。
【0020】
また、驚くべきことに、単純なディゾルバー分散によって、優れた電気伝導性と良好な流動性および緩和能力とを併せ持つCNT含有およびシリカ含有シロキサンを得ることができることが見出された。
【0021】
本発明の主題は、
a)CNT 0.1~5重量%と、
b)一般式(I)の化合物から選択される少なくとも1種のシロキサン
70~97.9重量%と、
c)式(IV)の有機シランおよび式(V)の有機シラザンから選択される少なくとも1種の有機ケイ素化合物で表面シリル化されている、少なくとも1種の疎水性シリカ 1~20重量%と、
d)他の充填剤 0~5重量%と、
を含み、上記割合は、組成物の総重量を基準とし、成分a)~d)は合計で100重量%である、
低粘度で導電性のシロキサン組成物である。
【0022】
(SiO4/2)a(RxSiO3/2)b(Rx
2SiO2/2)c(Rx
3SiO1/2)d (I)
【0023】
上記式中、基Rxは、互いに独立して、(i)水素、(ii)-CH=CH2、(iii)非置換のまたはフッ素化C1-C20炭化水素基、(iv)フェニル基および(v)-OHからなる群から選択され、添字a、b、cおよびdは、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、互いに独立して0~100,000の範囲の整数を表し、a+b+c+d≧2である。
【0024】
R1R2R3Si-Y (IV)
R1R2R3Si-NH-SiR1R2R3 (V)
【0025】
上記式中、基R1、R2、R3は、それぞれ独立して、ハロゲン化または非置換のC1-C24炭化水素基から選択され;
基Yは、(i)ハロゲン原子、(ii)-ORxおよび(iii)-OC(=O)ORxからなる群から選択され、Rxは、それぞれの場合に、(i)水素および(ii)置換または未置換のC1-C24炭化水素基からなる群から選択され、ここで置換とは、ケイ素に結合しているものではない少なくとも1つのCH2基が-O-により置き換えられていてもよいことを意味するものと理解される。
【0026】
本発明の文脈では、低粘度という用語は、25℃の温度で測定される、1s-1のせん断速度における1,000,000mPa・s以下の粘度を意味するものと理解される。CNTを添加するとシロキサンの粘度が上昇するため、可能な限り低い粘度値は、純粋なシロキサンによって決定される。
【0027】
CNTという用語は、カーボンナノチューブのことである。これらは、六角形の炭素構造からなる中空シリンダーの形状をしたナノ材料である。当業者であれば、CNTの選択に制限はなく、市販されている、または文献記載の方法で製造可能な任意のCNTを使用することができる。
【0028】
CNTは、組成物の総重量を基準として0.1~5重量%の範囲の含有量で使用され、0.5~2重量%の範囲の含有量が好ましい。
【0029】
平均直径が1~50nmで、アスペクト比(直径に対する長さの比)が1000以下であるCNTを使用することが好ましい。
【0030】
SWCNT(SWCNT=単層カーボンナノチューブ)またはMWCNT(MWCNT=多層カーボンナノチューブ)を使用することが可能であり、MWCNTが好ましい。
【0031】
少なくとも1種のシロキサンが使用され、ここで、これは一般式(I)の化合物の混合物も包含する。これらの混合物は、同じ置換パターンを有するが異なる添字を有するシロキサンの混合物でもよく、異なる置換パターンを有するシロキサンの混合物でもよく、異なる置換パターンおよび異なる添字を有するシロキサンの混合物でもよい。
【0032】
同じ置換パターンを有するが異なる添字を有する一般式(I)の化合物の混合物は、特にポリシロキサンの場合に存在する。しかしながら、簡単のために、ポリシロキサンについて規定されるのは個々の化合物ではなく、式(I)に類似した平均式(I')である。
【0033】
(SiO4/2)a(RxSiO3/2)b(Rx
2SiO2/2)c(Rx
3SiO1/2)d (I')
【0034】
上記式中、基Rxは、式(I)中で定義される通りであるが、添字a、b、c、dは、互いに独立して、0~100,000の範囲の数を表し、混合物中のそれぞれのシロキサン単位の平均含有量を示す。
【0035】
添字a、b、c、dが互いに独立に0~1000の範囲の数から選択される式(I')の混合物を使用することが好ましい。
【0036】
式(I)または式(I')中の基Rxが、互いに独立して、H、-OH、メチル、エチル、プロピル、フェニル、-CH=CH2、トリフルオロメチルおよびトリフルオロプロピルからなる群から選択される場合が好ましい。式(I)または式(I')中の基Rxが、互いに独立して、H、メチル、エチル、プロピル、フェニルおよび-CH=CH2からなる群から選択される場合が特に好ましい。
【0037】
異なる置換パターンおよび異なる添字を有するシロキサンの混合物は、例えばH-ポリシロキサンおよびビニル-ポリシロキサンのように、異なる置換ポリシロキサンが互いに混合されている場合に特に存在する。
【0038】
一般式(II)の化合物から選択される少なくとも1種のシロキサンを用いることが好ましい。
【0039】
(Rx
2SiO2/2)c(Rx
3SiO1/2)2 (II)
【0040】
上記式中、基Rxは、互いに独立して、(i)水素、(ii)-CH=CH2、(iii)非置換のまたはフッ素化C1-C20炭化水素基、(iv)フェニル基および(v)-OHからなる群から選択され、添字cは、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、0~100,000の範囲の整数を表す。
【0041】
式(II)中の基Rxが、互いに独立して、H、-OH、メチル、エチル、プロピル、フェニル、-CH=CH2、トリフルオロメチルおよびトリフルオロプロピルからなる群から選択される場合が好ましい。式(II)中の基Rxが、互いに独立に、H、メチル、エチル、プロピル、フェニルおよび-CH=CH2からなる群から選択される場合が特に好ましい。
【0042】
好ましいシロキサンおよびポリシロキサンの例:
HMe2Si-O-SiMe2H、ViMe2Si-O-SiMe2Vi、
および平均式
H-Me2Si-(O-SiMe2)m-O-SiMe2-H、
Me3Si-O-(SiMe2-O)n(SiHMe-O)o-SiMe3、
H-Me2Si-(O-SiMe2)n(SiHMe-O)o-SiMe2-H、
ViMe2Si-(O-SiMe2)m-O-SiMe2Vi、
Me3Si-O-(SiMe2-O)n(SiViMe-O)o-SiMe3、
ViMe2Si-(O-SiMe2)n(SiViMe-O)o-O-SiMe2Vi
を有するポリシロキサン。ここで、添字m、nおよびoは、それぞれの場合に、1~100,000の範囲の数である。
【0043】
第1の特定の実施形態において、本発明のシロキサン組成物において使用されるシロキサンは、
a)一般式(IIa)の化合物から選択される少なくとも1種のH-シロキサンと、
b)一般式(IIb)の化合物から選択される少なくとも1種のビニルシロキサンと
を含むシロキサン混合物である。
【0044】
(Rx
2SiO2/2)c(HRxSiO2/2)c’(Rx
3SiO1/2)d(HRx
2SiO1/2)d’
(IIa)
【0045】
上記式中、基Rxは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C1-C20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され、添字c、c'、dおよびd'は、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、cおよびc'は、それぞれ0~100,000の範囲の整数を表し、dおよびd'は、それぞれ値0または1または2と見なしてよく、ただしdおよびd'の合計は2である。
【0046】
(Rx
2SiO2/2)c(ViRxSiO2/2)c'(ViRx
2SiO1/2)2 (IIb)
【0047】
上記式中、基Viは、それぞれ、ケイ素原子に結合している-CH=CH2基を表し;基Rxは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C1-C20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され;
添字cおよびc'は、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、cおよびc'は、それぞれ0~100,000の範囲の整数を表す。
【0048】
このようなシロキサン混合物は、任意の公知のヒドロシリル化触媒の存在下および適切な反応条件下で、シロキサン鎖間にエチレン架橋を形成する反応を起こすことができるので、ヒドロシリル化可能混合物とも称される。
【0049】
第2の特定の実施形態において、本発明のシロキサン組成物において使用されるシロキサンは、
a) 架橋剤として、
一般式(III)の少なくとも1種のH-シロキサン 1~10重量%と、
b1)一般式(IV)の少なくとも1種のビニルシロキサン 90~99重量%、またはb2)一般式(IV')の少なくとも1種のビニルシロキサン 40~94重量%のいずれかと、
一般式(IIa')の少なくとも1種のH-シロキサン 0~50重量%と
を含むシロキサン混合物である。
【0050】
(Rx
2SiO2/2)c(HRxSiO2/2)c'(Rx
3SiO1/2)2 (III)
【0051】
上記式中、基Rxは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C1-C20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され、添字cおよびc'は、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、cは、0~100,000の範囲の整数であり、c'は、3~100,000の範囲の整数である。
【0052】
(Rx
2SiO2/2)c(ViRx
2SiO1/2)2 (IV)
【0053】
上記式中、基Rxは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C1-C20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され、添字cは、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、c=1001~100,000である。
【0054】
(Rx
2SiO2/2)c(ViRx
2SiO1/2)2 (IIb')
【0055】
上記式中、基Rxは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C1-C20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され、添字cは、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、c=1~1000である。
【0056】
(Rx
2SiO2/2)c(HRx
2SiO1/2)2 (IIa')
【0057】
上記式中、基Rxは、互いに独立して、(i)非置換のまたはフッ素化C1-C20炭化水素基および(ii)フェニル基からなる群から選択され、添字cは、該化合物中のそれぞれのシロキサン単位の数を示し、c=1~100,000である。
【0058】
この文脈では、疎水性シリカという用語は、式(IV)の有機シランおよび式(V)の有機シラザンから選択される少なくとも1種の有機ケイ素化合物で表面シリル化されているシリカを意味するものと理解される。
【0059】
R1R2R3Si-Y (IV)
R1R2R3Si-NH-SiR1R2R3 (V)
【0060】
上記式中、基R1、R2、R3は、それぞれ独立して、ハロゲン化または非置換のC1-C24炭化水素基から選択され;
基Yは、(i)ハロゲン原子、(ii)-ORxおよび(iii)-OC(=O)ORxからなる群から選択され、Rxは、それぞれの場合に、(i)水素および(ii)置換または非置換のC1-C24炭化水素基からなる群から選択され、ここで置換とは、ケイ素に結合しているものではない少なくとも1つのCH2基が-O-により置き換えられていてもよいことを意味するものと理解される。シリル化の結果、基-O-SiR1R2R3は、もともと親水性のシリカの表面上に配置され、非極性/疎水性となる。このようなシリカがどのように製造され得るかは、EP1433749A1から公知である。
【0061】
1種のみの疎水性シリカを使用することも可能であり、または異なる疎水性シリカの混合物を使用することも可能であり、混合物の場合、シリカは物性(例えばBET表面積)の点で異なっていてもよく、シリル化の点で異なっていてもよい。シリカを1種以上の有機ケイ素化合物でシリル化することがさらに可能である。したがって、シリカのシリル化に使用できる有機ケイ素化合物は、式(IV)の有機シランおよび/または式(V)の有機シラザンの混合物でもよい。
【0062】
式(IV)および式(V)中の基R1、R2、R3が、互いに独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、オクチル基、フェニル基およびビニル基からなる群から選択される場合が好ましい。式(IV)および式(V)中の基R1、R2、R3が、互いに独立して、メチル基およびビニル基からなる群から選択される場合が特に好ましい。
【0063】
基Rxは、好ましくは、メチル基、エチル基およびプロピル基からなる群から選択される。
【0064】
式(IV)中の基Yは、好ましくは、塩素原子、メトキシ基、エトキシ基およびアセトキシ基からなる群から選択される。
【0065】
式(IV)および式(V)の有機ケイ素化合物の好ましい例としては、
・トリメチルクロロシラン等のアルキルクロロシラン、
・トリメチルメトキシシラン等のメチルメトキシシラン、
・トリメチルエトキシシラン等のメチルエトキシシラン、
・トリメチルアセトキシシラン等のメチルアセトキシシラン、
・フェニルジメチルクロロシラン、フェニルジメチルメトキシシランおよびフェニルジメチルエトキシシラン等のフェニルシラン、
・ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシランおよびビニルジメチルエトキシシラン等のビニルシラン、
・ヘキサメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザンおよびビス(3,3-トリフルオロプロピル)テトラメチルジシラザン等のジシラザン、ならびに
・トリメチルシラノール等のシラノール、ならびに
・これらの混合物
が挙げられる。
【0066】
シリカのシリル化は、トリメチルシラン/ヘキサメチルジシラザンとビニルメチルシラン/ビスビニルジメチルジサラザンとのシリル化混合物を用いて好ましくは行われ、ここでビニルメチル化合物の割合は、シリル化混合物の総重量を基準として、それぞれの場合に50重量%未満である。ビニルメチル化合物の割合は、シリル化混合物の総重量を基準として、それぞれの場合に、好ましくは0.1~20重量%の範囲であり、特に好ましくは1~10重量%の範囲である。
【0067】
シリカのシリル化に特に好ましいのは、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ビスビニルジメチルジシラザンおよびこれらの混合物からなる群から選択される有機ケイ素化合物である。有機ケイ素化合物は、非常に特に好ましくは、(a)トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンおよびビスビニルジメチルジシラザンからなる群;または(b)トリメチルクロロシランまたはトリメチルメトキシシランまたはヘキサメチルジシラザンと、ビニルメチルクロロシランまたはビニルメチルメトキシシランまたはビスビニルジメチルジシラザンとの混合物から選択され、ここでビニルメチル化合物の割合は、それぞれの場合に、該混合物の総重量を基準として50重量%未満である。ビニルジメチル化合物の割合は、シリル化混合物の総重量を基準として、それぞれの場合に、好ましくは0.1~20重量%の範囲であり、特に好ましくは1~10重量%の範囲である。
【0068】
疎水性シリカは、当業者に知られている全てのシリカに基づくことができる。沈降シリカ、シリカゲルもしくはコロイダルシリカ等の湿式化学法で製造されるシリカ、または高温プロセスで製造されるシリカ、いわゆる焼成シリカを使用することが通常である。
【0069】
疎水性シリカは、1000nm未満の平均粒子径(適切に希釈した水溶液での光子相関分光法で測定)を有し、5~100nmの範囲の平均一次粒子径(TEM像の光学像分析で測定)を有する。これらの一次粒子は単独で存在するのではなく、より大きな凝集体および凝集塊の構成要素である。
【0070】
疎水性シリカは、0.1~1000m2/gの範囲の比表面積(DIN 66131および66132に準拠したBET法で測定)を有し、比表面積が10~500m2/Gの範囲にある場合が特に好ましい。
【0071】
疎水性シリカは、100~1000nmの範囲の直径を有する凝集体(DIN 53206による定義)からなり、ここで疎水性シリカは、さらに、外部せん断応力(例えば、測定条件によって生じる)に応じて1~1000μmの範囲のサイズを有してもよい、凝集体から形成された凝集塊(DIN 53206による定義)からなる。
【0072】
疎水性シリカが焼成シリカに基づく場合が、特に好ましい。焼成シリカは、好ましくは、ケイ素-ハロゲン化合物または有機ケイ素化合物(例えば四塩化ケイ素またはメチルジクロロシラン)から、またはハイドロジェントリクロロシランもしくはハイドロジェンメチルジクロロシランから、または他のメチルクロロシランもしくはアルキルクロロシランから(これらは炭化水素との混合物であってもよい)、あるいは上述の有機ケイ素化合物と炭化水素との任意の所望の揮発性または霧化性混合物から、例えば水素-酸素炎または他の一酸化炭素-酸素炎中での火炎支援反応(flame-assisted reaction)において製造することが好ましい。焼成シリカの製造は、例えば精製工程において、さらに水を加えても加えなくても行うことができ、水を加えないことが好ましい。
【0073】
疎水性シリカは、非シリル化、すなわち親水性の出発シリカのシラノール含量を基準として、100%未満の残留シラノール含量を有する。残留シラノール含量は、それぞれの場合に、非シリル化、すなわち親水性の出発シリカのシラノール含量を基準として、好ましくは75%未満であり、特に好ましくは50%未満である。シラノール含量は、G.W.Sears、Anal.chem.1956、28、1981(分析の項の分析方法を参照)に記載の酸塩基滴定により測定される。
【0074】
疎水性シリカは、疎水性シリカの重量を基準として、それぞれの場合に、0.4重量%以上の炭素、好ましくは0.5重量%~15重量%の炭素の範囲の炭素含有量を有する。炭素含有量は、特に好ましくは、疎水性シリカの重量を基準として、0.75重量%~10重量%の範囲の炭素である。炭素含有量は、元素分析により測定することができる(分析の項の分析方法を参照)。
【0075】
疎水性シリカは、少なくとも30、好ましくは少なくとも40、特に好ましくは少なくとも50のメタノール数(methanol number)を有する。メタノール数は、シリカの完全な湿潤を達成するために水相に加えなければならないメタノールのパーセンテージである。完全な湿潤とは、水-メタノール試験液中でのシリカの完全な沈降を意味するものと理解される(分析の項の分析方法を参照)。
【0076】
疎水性シリカは、250g/100g未満、好ましくは150g/100g~250g/100gの範囲のDBP価(フタル酸ジブチル価)を有する。DBP価は、DIN 53601に準拠して測定することができる(分析の項の分析方法を参照)。
【0077】
疎水性シリカは、20g/l~500g/l、好ましくは30g/l~200g/lの範囲のDIN EN ISO 787-11に準拠して測定されるタンピング密度(tamped density)を有する。
【0078】
疎水性シリカは、通常は、以下の物性を有する:
・0.1~1000m2/gの範囲のBET表面
・100%未満の残留シラノール含量
・少なくとも30のメタノール数
・250g/100g以下のDBP価
・20~500g/lの範囲のタンピング密度
・0.4重量%以上の炭素の炭素含有量
【0079】
疎水性シリカは、好ましくは、以下の物性を有する:
・10~500m2/gの範囲のBET表面積
・75%未満の残留シラノール含量
・少なくとも40のメタノール数
・150g/100g~250g/100gの範囲のDBP価
・30~200g/lの範囲のタンピング密度
・0.5~15重量%の炭素の範囲の炭素含有量
【0080】
疎水性シリカは、特に好ましくは、以下の物性を有する:
・100~400m2/gの範囲のBET表面
・50%未満の残留シラノール含量
・少なくとも50のメタノール数
・150g/100g~250g/100gの範囲のDBP価
・30~200g/lの範囲のタンピング密度
・0.75~10重量%の炭素の範囲の炭素含有量
【0081】
使用できる他の充填剤としては、任意の一般的に使用される助剤および補強充填剤、例えば、石英、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタンまたは酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、ケイ酸カルシウムなどの金属ケイ酸塩、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、硫酸カルシウムなどの硫酸塩、着色顔料およびカーボンブラックが挙げられる。
【0082】
本発明はさらに、本発明のシロキサン組成物の成分a)~d)を、スクレーパーを有するディゾルバーを用いて分散させる、低粘度で導電性のCNT含有シロキサンの製造方法を提供する。
【0083】
分散は、ディゾルバー(高速ミキサー)を用いて行われ、ここでCNTの均一な分布を達成するためにスクレーパーも通常は使用される。スクレーパーを有する遊星型ディゾルバーを使用することが好ましい。スクレーパーとクロスビームスターラーとを有する真空遊星型ディゾルバーを使用することが特に好ましい。任意の配置および歯数を有するディゾルバーディスクを使用することができる。
【0084】
分散を効果的に行うために、本発明のシロキサン組成物の成分a)~d)は、任意の所望の順序で加え、分散させることができる。
【0085】
上記方法の特定の実施形態(変形例A)では、必要量のシロキサンを最初に装入し、次いで、最初にCNT、次に疎水性シリカを混入させて、分散させる。シロキサン、疎水性シリカおよびCNTの量は、最終混合物中の疎水性シリカおよびCNTの所望の固形分量に対応するように計算してもよく、いわゆるマスターバッチの製造も可能である。マスターバッチの場合、シロキサン量および/または疎水性シリカおよびCNTの量のいずれかが、混合物中において、後に必要とされるよりも高い固形分量となるように計算される。分散が完了したら、濃縮された固形分分散系は、さらなるシロキサンで固形分目標値まで希釈することができる。これは、分散後直ちにまたは後で、任意に別の混合装置で行うことができる。希釈は、式(I)の同じシロキサンまたは異なるシロキサンを使用して行うことができる。
【0086】
上記方法のさらなる特定の実施形態(変形例B)では、まず、必要量のシロキサンを最初に装入し、次いで、最初に疎水性シリカ、次にCNTを混入させて、分散させる。上述したマスターバッチアプローチに、ここでも任意に従ってもよい。
【0087】
上記方法のさらなる好ましい実施形態(変形例C)では、疎水性シリカおよびCNTを一緒にシロキサン中に混合し、その後、一緒に分散させる。上述のマスターバッチアプローチに、ここでも任意に従ってもよい。
【0088】
上記方法のさらなる好ましい実施形態(変形例D)では、疎水性シリカおよびCNTを互いに独立してシロキサン中に混合して分散させ、すなわち、異なる混合容器中で混入ささせ分散させた後、2つの混合物を、混練しおよび必要に応じてさらに分散させて組み合わせる。
【0089】
変形例BおよびCが特に好ましく、変形例Cが非常に特に好ましい。
【0090】
成分a)~d)の添加は、それぞれの場合に、正確な工程とは独立して、数回に分けて(portion wise)、または総量の添加によって行ってもよい。それぞれの場合に、総量の添加が好ましい。
【0091】
実際の分散の前に、混合ツールの低い回転速度でシロキサン中に固形分を攪拌または混合することが有利である場合がある。これにより、シロキサンによる固形分の対応する事前湿潤化を達成することが可能となる。
【0092】
混合容器およびしたがってそこに存在する混合物は、任意に、分散中に温度制御されてもよく、すなわち、冷却または加熱によって目標温度に維持されてもよい。温度は、通常は0~200℃の範囲であり、好ましくは20~100℃の範囲である。
【0093】
本発明の方法は、任意に、真空下で行うことができる。分散、すなわち分散休止を含む分散区間は、好ましくは真空下で行われる。真空は、通常は1000mbar以下、好ましくは800mbar以下、特に好ましくは500mbar以下である。
【0094】
分散後に真空を適用することがさらに有利である場合がある。これは、分散と同じ装置で行ってもよく、異なる装置で行ってもよい。真空は、通常は、攪拌しながら適用される。真空は、通常は1000mbar以下、好ましくは800mbar以下、特に好ましくは500mbar以下である。
【0095】
分散は、好ましくは、ディゾルバーの最大パワーで行われ、1分~60分の範囲の少なくとも1回の分散休止がとられ、ここで最大パワーは、ディゾルバー速度を5分毎に250rpm増加させ、ディゾルバーの速度に対する分散力を評価することにより決定され、したがって特定の最大パワーに対するディゾルバーの最適回転速度の決定が可能となる。これにより、材料の伝導性についてはるかに良い値を得ることが可能となる。
【0096】
分散は、分散ツールの高い回転速度で、特にディゾルバーディスクの高い回転速度で行われる。このようにして得られた高いパワー入力により、シロキサン中のCNTの所望の微分散分布が得られる。混合ツールの最大パワー入力は、分散結果、したがってCNT-シロキサン混合物の最適に高い電気伝導性を得るために不可欠である。
【0097】
最大パワー入力は、選択した混合ツール、その幾何学的配置、回転速度(特にディゾルバーディスクの)、温度、および混合物の有効粘度、すなわち特にシロキサンの重合度とCNT添加量に依存するシロキサンの粘度に依存する。パワー入力に影響を与えるパラメータが多数あることから、所定の混合装置および所望のCNT-シロキサン混合物に対する最大パワー入力を実験的に一度決定する必要がある。この目的のために、混合物を所望の組成および量で供給し、次に分散ツールの回転速度を階段状に、すなわち段階的に(例えば、毎分250rpm)増加させる。パワー入力は、各段階について記録される。これは、例えば、歪みゲージや他の慣用的な測定手段などを用いて分散シャフトのトルクを測定したり、市販の電力計(ワットメータ)を用いて分散モーターの消費電力を測定したりすることによって行うことができる。
【0098】
最大パワー入力の範囲は、分散ツールの回転速度の関数であり、得られた曲線から容易に読み取ることができる。パワー最大時の分散手段の回転速度は、通常は、分散ツールの技術的に可能な最大回転速度に対応しない。
【0099】
分散は、少なくとも1回の分散休止によって中断される。この文脈では、分散休止は、分散ツール(ディゾルバーディスク)が停止していることを意味するものと理解される。存在する、低いパワー入力を有する他の混合ツール、例えばクロスビームスターラーは、それでもなお任意に運転することができる。分散休止中の機械的なパワー入力がゼロとなるように、全ての混合ツールを停止することが好ましい。1~10回の分散休止をとることが好ましく、1~5回の分散休止をとることが特に好ましく、1回のみの分散休止をとることが非常に特に好ましい。
【0100】
分散休止の時間は、それぞれの場合に、1分以上である。空時収量の理由から、分散休止の時間は、好ましくは1分~60分の範囲である。分散休止の時間は、特に好ましくは5分~45分の範囲であり、非常に特に好ましくは5分~30分の範囲である。
【0101】
分散休止の時点は、分散中に任意に、例えば一定の間隔または任意の間隔で、選択することができる。一定の間隔が好ましい。
【0102】
分散休止の間の分散区間の時間は、1分~300分の範囲である。分散区間の時間は、好ましくは1分~120分の範囲、特に好ましくは5分~60分の範囲、非常に特に好ましくは5分~30分の範囲である。
【0103】
この特許の文脈では、分散休止のない分散区間の合計、すなわち純粋な分散時間は、総分散時間として定義される。これは、例えば、30分間の分散休止によってそれぞれ中断された3回の10分間の分散区間の場合、総分散時間は30分間であることを意味するものと理解される。
【0104】
空時収量の理由から、およびCNTの起こり得る機械的損傷を回避するために、総分散時間をできるだけ短くすることが有利である。
【0105】
本発明のシロキサン組成物は、任意に、疎水性シリカおよびCNTに加えて他の充填剤を含んでもよい。これらは、上述の実施形態(変形例A~D)において疎水性シリカ/CNTと一緒に混入させてもよく、疎水性シリカ/CNTと独立して混入させてもよい。
【0106】
独立した添加、すなわち、別のプロセス工程での添加が好ましい。
【0107】
シロキサン組成物の他の充填剤を、疎水性シリカおよびCNTの混入に続いて混入させる場合が好ましい。該混入は、上記のように大きなせん断エネルギーを投入して行ってもよく、せん断を投入せずに、例えば、低速運転の分散ディスクや、例えばクロスビームスターラーまたはアンカースターラーなどの慣用のスターラーを介した単純な攪拌により行ってもよい。スターラーを用いた混入が好ましい。
【0108】
本発明はさらに、第2の好ましい実施形態の本発明のシロキサン組成物の、3D印刷またはスクリーン印刷における成形材料としての使用を提供する。
【0109】
本発明はさらに、
a)第2の好ましい実施形態のシロキサン組成物を製造する工程、
b)ヒドロシリル化触媒を用いてこのシロキサン組成物を反応させる工程、および
c)成形工程
を含む方法によって得られうる弾性導電性成形品を提供する。
【0110】
使用されるヒドロシリル化触媒は、当業者に公知の任意の触媒でよい。Karstedt触媒などのPt(0)触媒を使用することが通常である。触媒の量は、当業者が自由に選択することができる。1~1000ppmのPtを使用することが通常である。
【0111】
ヒドロシリル化における圧力、温度およびモル比などの残りの反応条件は、当業者が自由に選択することができる。
【実施例】
【0112】
化学物質:
CNTs LUCAN BT1001M、LG Chem Ltd.、メーカー仕様書による平均直径:5nm
【0113】
ViPo 1000:Gelest社から入手可能な、1000mPa・sの粘度を有するビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン、製品名DMS-V31(Gelest社カタログ)
【0114】
ViPo 20000:Gelest社から入手可能な、20,000mPa・sの粘度を有するビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン、製品名DMS-V42(Gelest社カタログ)
【0115】
HPo 1000:Gelest社から入手可能な、1000mPa・sの粘度を有するヒドリドジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン、製品名DMS-H31(Gelest社カタログ)
【0116】
疎水性シリカA:トリメチルシロキシ基を有する焼成シリカ、BET表面積:187m2/g、炭素含有量:4.5重量%、メタノール数:72%、残留シラノール含量:25%、DBP価:161g/100g、タンピング密度:150g/ml
【0117】
疎水性シリカB:トリメチルシロキシ基を有する焼成シリカ、BET表面積:89m2/g、炭素含有量:1.9重量%、メタノール数:78%、残留シラノール含量:30%、DBP価:153g/100g、タンピング密度:135g/ml
【0118】
疎水性シリカHDK(登録商標)18:ジメチルシロキシ基を有する焼成シリカ、BET表面積:132m2/g、炭素含有量:4.7重量%、メタノール数:79%、残留シラノール含量:21%、DBP価:165g/100g、タンピング密度:52g/ml(WACKER Chemie AGから入手可能)
【0119】
シリカの特性評価のための分析方法
メタノール数:
水-メタノール混合物(水中の体積%MeOH)による湿潤性のテスト:
等容量のシリカを等容量の水-メタノール混合物で振とうする。
・0体積%のメタノールで開始する。
・非湿潤の場合、シリカの少なくとも一部が浮遊する:
MeOH含有量が5体積%高い混合物を使用するものとする。
・湿潤の場合、シリカの全容量が沈降する:
水中のMeOHの割合(体積%)は、メタノール数を表す。
【0120】
炭素含有量(%C):
炭素の元素分析は、Eltra GmbH社(D-41469 Neuss)のCS-530元素分析器を用いて、DIN ISO 10694に準拠して行った。
【0121】
残留シラノール含量:
残留シラノール含量は、水とメタノールとの1:1混合物中に懸濁させたシリカの酸塩基滴定により、G.W.Searsら(Analytical Chemistry 1956、28、1981ff)に類似して測定した。滴定は、等電点を超え、ケイ酸が溶解するpH範囲未満の範囲で行った。残留シラノール含量(%)は、以下の式で算出することができる。
【0122】
%SiOH = SiOH(silyl)/SiOH(phil)×100
式中、
SiOH(phil):未処理のシリカの滴定からの滴定体積
SiOH(silyl):シリル化シリカの滴定からの滴定体積
【0123】
DBP価:
フタル酸ジブチル吸収量は、DIN 53601に準拠して、Haake社(Karlsruhe)のRHEOCORD 90装置を用いて測定する。この目的のために、12g±0.001gの二酸化ケイ素粉末を混練機に装入し、後者を蓋で密閉し、蓋の穴から所定の計量添加速度0.0667ml/sでフタル酸ジブチルを計量添加する。混練機は、モーター速度125回転/分で運転する。トルク最大値に達した後、混練機およびDBP計量添加は自動的に停止する。DBPの消費量と計量された粒子の量とを用いて、DBP価(g/100g)=(DBPの消費量(g)/粉末の重量(g))×100に従い、DBP吸収量を計算する。
【0124】
タンピング密度(Tamped density):
タンピング密度は、DIN EN ISO 787-11に準拠して測定する。
【0125】
粘度測定:
粘度は、Anton Paar社のエアベアリング式MCR 302レオメーターで25℃にて測定した。105μmのギャップ幅を有するコーン・プレートシステム(25mm、2°)を使用した。余分な材料は、ギャップ幅115μmでスパチュラを使用して除去した(トリミング)。次いで、コーンをギャップ幅105μmに移動し、ギャップ全体を満たした。各測定の前に、試料の準備、塗布およびトリミングから生じるせん断履歴を消去するために、予備せん断を行う。予備せん断は、せん断速度10s-1で60秒間行い、その後300秒間休止させる。せん断粘度は、試料を1s-1、10s-1および100s-1の一定のせん断速度で、それぞれの場合に100秒間せん断するステッププロファイルを用いて測定する。10秒毎に測定値を記録し、せん断速度毎に10点のデータが得られる。これらの10点のデータの平均が、それぞれのせん断速度におけるせん断粘度となる。
【0126】
抵抗測定:
4導体測定(four-conductor measurement)では、2つの接点に電流を流し、測定されるのはすでに試料に流れた電流IUの電圧Uであることから、接触抵抗は測定されない。
【0127】
【0128】
未加硫シロキサンの抵抗Rは、Keithley Instrument社のマルチメーター2110型5 1/2桁と、純PPおよびステンレス鋼(1.4571)の電極で製作した測定装置とを用いて測定する。測定器は、真鍮製の接点と実験用のリード線によって電極に接続されている。測定装置は、L×W×Hが16cm×3cm×0.975cmに定義された型であり、その中に測定用のシロキサンが流し込まれる。2枚の外側の平面電極は、16cmの間隔で取り付けられており、試料全体に電流が流れるようになっている。直径1cmの2点電極は、ベースプレートに12cm(l)の間隔で配置されており、電圧を測定する。測定された抵抗Rから、下記式を用いて比抵抗を算出する。
【0129】
【0130】
試料の高さh[cm]、試料の幅w[cm]および電極距離l[cm]
(ここでは、h=0.975cm、w=3cm、l=12cm)
【0131】
それぞれの場合に、1重量%のCNTに基づく比抵抗が20Ω・cm未満であれば、試料は良好と記載する。
【0132】
緩和測定:
振動-回転-振動(ORO)試験:
第一段階では、一定の変形および角周波数(γ=0.1%、ω=10Hz)で300秒間(10秒毎に1回読み取り)にわたり静止構造(resting structure)を測定する。次いで、せん断速度γ=100s-1で0.5秒間の回転の負荷段階を行い、該負荷段階は、粘度計(Anton Paar社のエアベアリング式MCR 302レオメーター)のコーンを停止させる0.05秒間の休止で終了する。19.6分の最終段階(1~10秒間で対数的に記録した300回の読み取り)では、第一段階と同じパラメータ(γ=0.1%、ω=10Hz)を使用して、構造形成を観察する。
【0133】
【0134】
混合方法:
混合物は、PC Laborsystem GmbH社の容量1リットルのLabotop 1LA内で、真空度300mbar、室温で製造した。使用したツールは、ディゾルバーディスク(歯数14、歯はディスクに対して90°、直径52cm)、クロスビームスターラー(標準ツール)および温度測定付きスクレーパーであった。混合物は可能な限り高いパワーで混合し、該パワーは装置上で読み取ることができる。この混合方法の場合、500rpm~1400rpmの範囲で最高パワー1900ワットが達成される。選択した速度1250rpmでは、回転速度は3.4m/sとなる。
【0135】
統合パワー表示のないディゾルバーの場合、該パワーは電力計(ワットメーター)を用いて測定することができる。
【0136】
例1:
Zahnディゾルバーディスク(直径40mm)を取り付けたVMA-Getzmann GmbH社の実験室用ミキサー内で、1重量%のCNT(1g)を、ViPo 1000(38重量%)、HPo 1000(39重量%)および22重量%のシリカAの混合物中に、室温および真空(300mbar)下、6000rpm(12.57m/s)で15分間混合した(合計質量:100g)。比抵抗11Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。60秒間の緩和後、構造緩和は、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として74.9%の貯蔵弾性率を示す。粘度は、せん断速度1s-1で529,000mPa・s、せん断速度10s-1で97,200mPa・sであった。
【0137】
良好な粘度値および良好な伝導性とともに、良好な緩和性が得られている。
【0138】
例2:
Zahnディゾルバーディスク(直径40mm)を取り付けたVMA-Getzmann GmbH社の実験室用ミキサー内で、0.5重量%のCNT(1g)を、ViPo 1000(38重量%)、HPo 1000(39重量%)および22重量%のシリカAの混合物中に、室温および真空(300mbar)下、6000rpm(12.57m/秒)で6分間混合した(合計質量:100g)。比抵抗35Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。60秒間の緩和後、構造緩和は、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として76.4%の貯蔵弾性率を示す。粘度は、せん断速度1s-1で173,000mPa・s、せん断速度10s-1で43,400mPa・sであった。
【0139】
良好な粘度値および許容可能な伝導性とともに、良好な緩和性が得られている。
【0140】
例3:
Zahnディゾルバーディスク(直径40mm)を取り付けたVMA-Getzmann GmbH社の実験室用ミキサー内で、ViPo 20000中の1重量%のCNTおよび5重量%のシリカAの混合物100gを、室温および真空(300mbar)下、3000rpm(6.28m/s)で15分間かけて製造した。比抵抗17Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。構造緩和は、2.6秒間の回復後にG''>G'からG''<G'へのクロスオーバーを示し、60秒間の緩和後、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として72.2%の貯蔵弾性率を達成する。粘度は、せん断速度1s-1で371,000mPa・s、せん断速度10s-1で94,300である。
【0141】
良好な粘度値および良好な伝導性とともに、良好な緩和性が得られている。
【0142】
例4:
Zahnディゾルバーディスク(直径40mm)を取り付けたVMA-Getzmann GmbH社の実験室用ミキサー内で、ViPo 20000(38重量%)中の1重量%のCNTおよび10重量%のシリカAの混合物100gを、室温および真空(300mbar)下、3000rpm(6.28m/s)で15分間かけて製造した。比抵抗24Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。構造緩和は、2.5秒間の回復後にG''>G'からG''<G'へのクロスオーバーを示し、60秒間の緩和後、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として72.9%の貯蔵弾性率を達成する。粘度は、せん断速度1s-1で487,000mPa・s、せん断速度10s-1で125,000である。
【0143】
良好な粘度値および許容可能な伝導性とともに、良好な緩和性が得られている。
【0144】
例5:
Zahnディゾルバーディスク(直径40mm)を取り付けたVMA-Getzmann GmbH社の実験室用ミキサー内で、ViPo 20000(38重量%)中の1重量%のCNTおよび15重量%のシリカAの混合物100gを、室温および真空(300mbar)下、3000rpm(6.28m/s)で15分間かけて製造した。比抵抗33Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。構造緩和は、2.4秒間の回復後にG''>G'からG''<G'へのクロスオーバーを示し、60秒間の緩和後、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として70.1%の貯蔵弾性率を達成する。粘度は、せん断速度1s-1で598,000mPa・s、せん断速度10s-1で154,000である。
【0145】
良好な粘度値および許容可能な伝導性とともに、良好な緩和性が得られている。
【0146】
例6:
Zahnディゾルバーディスク(直径40mm)を取り付けたVMA-Getzmann GmbH社の実験室用ミキサー内で、ViPo 20000(38重量%)中の1重量%のCNTおよび20重量%のシリカAの混合物100gを、室温および真空(300mbar)下、3000rpm(6.28m/s)で15分間かけて製造した。比抵抗61Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。構造緩和は、2.4秒間の回復後にG''>G'からG''<G'へのクロスオーバーを示し、60秒間の緩和後、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として65.5%の貯蔵弾性率を達成する。粘度は、せん断速度1s-1で758,000mPa・s、せん断速度10s-1で206,000である。
【0147】
良好な粘度値および許容可能な伝導性とともに、良好な緩和性が得られている。
【0148】
例7:
Zahnディゾルバーディスク(直径40mm)を取り付けたVMA-Getzmann GmbH社の実験室用ミキサー内で、ViPo 20000中の10重量%のシリカAの混合物100gを、室温および真空(300mbar)下、6000rpm(12.57m/s)で1時間かけて製造した。その後、1重量%のCNTを、室温および真空(300mbar)下、3000rpm(6.28m/s)で15分間かけて混入させた。比抵抗19Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。構造緩和は、2.4秒間の回復後にG''>G'からG''<G'へのクロスオーバーを示し、60秒間の緩和後、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として70.8%の貯蔵弾性率を達成する。粘度は、せん断速度1s-1で492,000mPa・s、せん断速度10s-1で128,000である。
【0149】
良好な粘度値および許容可能な伝導性とともに、良好な緩和性が得られている。
【0150】
例8(非発明例)
Zahnディゾルバーディスク(直径40mm)を取り付けたVMA-Getzmann GmbH社の実験室用ミキサー内で、ViPo 20000中の1重量%のCNTの混合物100gを、室温および真空下、6000rpm(12.57m/s)で15分間混合した。比抵抗6Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。負荷段階直後のG'はG''よりも大きいので、構造緩和のクロスオーバーは見られない。構造緩和は、60秒間後、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として貯蔵弾性率の86.3%を達成する。粘度は,せん断速度1s-1で456,000mPa・s、せん断速度10s-1で108,000mPa・sである。
【0151】
良好な粘度値および良好な伝導性とともに、不充分な緩和性が得られている。
【0152】
例9:
クロスビームスターラー、ディゾルバー(ディスク直径52mm)およびスクレーパーを取り付けたPC Laborsystem GmbH社の遊星型ミキサー内で、ViPo 20000中の1重量%のCNTおよび5重量%のシリカAからなる混合物500gを、分散区間の間にそれぞれ30分間の休止を設けて、室温および真空下、1250rpmで5分間、3回混合した。15分間の総分散時間(5分間の分散、30分間の休止、5分間の分散など)の後、比抵抗11Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。構造緩和は、2.9秒間の回復後にG''>G'からG''<G'へのクロスオーバーを示し、60秒間の緩和後、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として70.3%の貯蔵弾性率を達成する。粘度は、せん断速度1s-1で383,000mPa・s、せん断速度10s-1で99,600である。
【0153】
良好な粘度値および良好な伝導性とともに、良好な緩和性が得られている。
【0154】
例10:
クロスビームスターラー、ディゾルバー(ディスク直径52mm)およびスクレーパーを取り付けたPC Laborsystem GmbH社の遊星型ミキサー内で、ViPo 20000中の1重量%のCNTおよび10重量%のシリカAからなる混合物500gを、分散区間の間にそれぞれ30分間の休止を設けて、室温および真空下、1250rpmで5分間、3回混合した。15分間の総分散時間(5分間の分散、30分間の休止、5分間の分散など)の後、比抵抗12Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。構造緩和は、2.7秒間の回復後にG''>G'からG''<G'へのクロスオーバーを示し、60秒間の緩和後、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として71.0%の貯蔵弾性率を達成する。粘度は、せん断速度1s-1で498,000mPa・s、せん断速度10s-1で133,000である。
【0155】
良好な粘度値および良好な伝導性とともに、良好な緩和性が得られている。
【0156】
例11:
クロスビームスターラー、ディゾルバー(ディスク直径52mm)およびスクレーパーを取り付けたPC Laborsystem GmbH社の遊星型ミキサー内で、ViPo 1000中の1重量%のCNTおよび10重量%のシリカBからなる混合物500gを、分散区間の間にそれぞれ30分間の休止を設けて、室温および真空下、250rpmで5分間、3回混合した。15分間の総分散時間(5分間の分散、30分間の休止、5分間の分散など)の後、比抵抗16Ω・cmを有する均質な黒色のペーストが得られた。60秒間の緩和後、構造緩和は、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として75.2%の貯蔵弾性率を示す。粘度は、せん断速度1s-1で190,000mPa・s、せん断速度10s-1で29,012.8mPa・sである。
【0157】
良好な粘度値および良好な伝導性とともに、良好な緩和性が得られている。
【0158】
例12:
クロスビームスターラー、ディゾルバー(ディスク直径52mm)およびスクレーパーを取り付けたPC Laborsystem GmbH社の遊星型ミキサー内で、ViPo 1000中の1重量%のCNTおよび10重量%のシリカBからなる混合物500gを、室温および真空下、1250rpmで10分間中断せずに混合した。15分間の純粋な分散時間後に、比抵抗46Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。60秒間の緩和後、構造緩和は、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として77.8%の貯蔵弾性率を示す。粘度は、せん断速度1s-1で172,000mPa・s、せん断速度10s-1で16,988.6mPa・sであった。
【0159】
良好な粘度値および許容可能な導電性とともに、良好な伝導性が得られている。
【0160】
例13:
(非発明例、CN107298859との比較としてのジメチルシロキシ変性)
クロスビームスターラー、ディゾルバー(ディスク直径52mm)およびスクレーパーを取り付けたPC Laborsystem GmbH社の遊星型ミキサー内で、ViPo 20000中の1重量%のCNTおよび10重量%のシリカHDK(登録商標)H18からなる混合物500gを、分散区間の間にそれぞれ30分間の休止を設けて、室温および真空下、1,250rpmで5分間、3回混合した。15分間の総分散時間(5分間の分散、30分間の休止、5分間の分散など)の後、比抵抗26Ω・cmを有する均質な黒色ペーストが得られた。60秒間の緩和後、構造緩和は、20分後の貯蔵弾性率のプラトー値を基準として76.7%の貯蔵弾性率を達成する。粘度は、せん断速度1s-1で1,120,000mPa・s、せん断速度10s-1で254,000mPa・sである。
【0161】
緩和は良好な値を示すが、ジメチルシロキシ変性シリカを使用した場合、望ましくない高粘度(1,000,000mPa・s超)が起こる。また、非相溶性のため、混合物は不均質である。
【0162】