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特許7514956ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20240704BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20240704BHJP
   H10K 71/16 20230101ALI20240704BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20240704BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K71/16 164
H10K85/50
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022572253
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2021046464
(87)【国際公開番号】W WO2022138429
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2020216821
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】西村 勇人
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/246764(WO,A1)
【文献】特表2018-531320(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0024733(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0332408(US,A1)
【文献】SANDERS, S. et al.,Showerhead-Assisted Chemical Vapor Deposition of Perovskite Films for Solar Cell Application,MRS Advances,2020年09月17日,Vol. 5,pp. 385-393,DOI: 10.1557/adv.2020.126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
C23C 16/00-16/56
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換薄膜としてペロブスカイト薄膜を用いたペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法であって、
基板上に、前記ペロブスカイト薄膜を形成するペロブスカイト薄膜形成工程を含み、
前記ペロブスカイト薄膜形成工程では、
2次元状に配列された複数の開口を備えるシャワーヘッドを備える真空チャンバを用いた蒸着法を用い、
ハロゲン化鉛PbX材料およびハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料を順にガス化し、ここで、前記Xは、ヨウ化物I、臭化物Br、塩化物Clおよびフッ化物Fのうちの少なくとも1種を含むハロゲン原子であり、
前記シャワーヘッドの複数の開口から前記真空チャンバ内に、ハロゲン化鉛PbX材料ガスおよびハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料ガスを順に導入して、前記基板上にハロゲン化鉛PbX材料膜およびハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料膜を順に製膜することにより、メチルアンモニウムハロゲン化鉛MAPbXからなる前記ペロブスカイト薄膜を形成し、
前記ハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料膜の製膜条件として、
前記ハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料のガス化温度は230度以上280度以下であり、
前記真空チャンバ内圧力は150Pa以上1000Pa以下であり、
前記基板温度が100度以上120度以下となるように、前記基板を冷却する、
ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記ペロブスカイト薄膜形成工程では、
前記ハロゲン化鉛PbX材料膜の製膜条件として、
前記ハロゲン化鉛PbX材料のガス化温度は380度以上400度以下であり、
前記真空チャンバ内圧力は150Pa以上1000Pa以下である、
請求項1に記載のペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記基板上に、第1電極層を形成する第1電極層形成工程と、
前記第1電極層の上に、電子および正孔のうちの一方である第1キャリアを輸送する第1キャリア輸送層を形成する第1キャリア輸送層形成工程と、
前記第1キャリア輸送層の上に、前記ペロブスカイト薄膜を形成する前記ペロブスカイト薄膜形成工程と、
前記ペロブスカイト薄膜の上に、電子および正孔のうちの他方である第2キャリアを輸送する第2キャリア輸送層を形成する第2キャリア輸送層形成工程と、
前記第2キャリア輸送層の上に、第2電極層を形成する第2電極層形成工程と、
を含む、請求項1または2に記載のペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池として、光電変換部に結晶シリコン基板を用いた結晶シリコン系太陽電池、光電変換部にアモルファスシリコン薄膜等の無機系薄膜を用いた薄膜系太陽電池が知られている。また、薄膜系太陽電池として、光電変換部に有機系薄膜(詳細には、有機/無機ハイブリット系薄膜)であるペロブスカイト薄膜を用いたペロブスカイト薄膜系太陽電池が知られている。
【0003】
このようなペロブスカイト薄膜の製膜方法として、印刷法、塗布法または溶液法等のウエットプロセスと、蒸着法等のドライプロセスとが知られている。特許文献1には、ペロブスカイト材料を溶媒に溶解させた溶液を塗布する溶液法を用いて、ペロブスカイト薄膜を製膜する技術が開示されている。溶液法によれば、太陽電池の面積によらず、ペロブスカイト薄膜を容易に形成することができる。
【0004】
一方、特許文献2には、蒸着法を用いて、有機物および無機物の複合薄膜を製膜する技術が開示されている。この蒸着法では、シャワーヘッドを備える真空チャンバを用い、ガス化した材料をバッファガスでガスキャリアして、シャワーヘッドの複数の開口から真空チャンバ内に材料ガスを導入する。これにより、太陽電池の面積が大きくなっても、ペロブスカイト薄膜を均一に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6339203号公報
【文献】特許第5036516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ペロブスカイト薄膜の製膜方法としては、ペロブスカイト薄膜の劣化要因となる水分を除去した環境下で製膜を行うことができることから、溶液法等のウエットプロセスよりも蒸着法(ドライプロセス)が好ましい。しかし、蒸着法においても、水分の影響によりペロブスカイト薄膜の性能が低下することがある。
【0007】
例えば、特許文献1には、メチルアンモニウムヨウ化鉛MAPbIからなるペロブスカイト薄膜において、ヨウ化鉛PbI材料膜とヨウ化メチルアンモニウムMAI材料膜との反応温度は100℃~130℃であることが開示されている。また、ヨウ化メチルアンモニウムMAI材料膜等のハロゲン化メチルアンモニウムMAXの気化温度は約120℃である。これらの特性を考慮すると、MAI材料膜の製膜時、MAI材料の基板10への着膜、および、PbI材料膜とMAI材料膜との反応のために、材料ガスの温度を上げることができず、真空チャンバ内温度は100度未満となることがある。この場合、材料中に含まれており、真空チャンバ内に導入される水分が十分に気化され排気されず、MAI材料膜に含有される。これにより、ペロブスカイト薄膜の性能が低下することがある。
【0008】
本発明は、水分に起因するペロブスカイト薄膜の性能の低下を低減することができるペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法は、光電変換薄膜としてペロブスカイト薄膜を用いたペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法であって、基板上に、前記ペロブスカイト薄膜を形成するペロブスカイト薄膜形成工程を含む。前記ペロブスカイト薄膜形成工程では、2次元状に配列された複数の開口を備えるシャワーヘッドを備える真空チャンバを用いた蒸着法を用い、ハロゲン化鉛PbX材料およびハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料を順にガス化し、ここで、前記Xは、ヨウ化物I、臭化物Br、塩化物Clおよびフッ化物Fのうちの少なくとも1種を含むハロゲン原子であり、前記シャワーヘッドの複数の開口から前記真空チャンバ内に、ハロゲン化鉛PbX材料ガスおよびハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料ガスを順に導入して、前記基板上にハロゲン化鉛PbX材料膜およびハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料膜を順に製膜することにより、メチルアンモニウムハロゲン化鉛MAPbXからなる前記ペロブスカイト薄膜を形成する。前記ハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料膜の製膜条件として、前記ハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料のガス化温度は230度以上280度以下であり、前記真空チャンバ内圧力は150Pa以上1000Pa以下であり、前記基板温度が100度以上120度以下となるように、前記基板を冷却する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水分に起因するペロブスカイト薄膜の性能の低下を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る太陽電池の一例を示す断面図である。
図2】本実施形態に係る太陽電池の他の一例を示す断面図である。
図3】真空チャンバを備えるガスキャリア型蒸着装置の一例を示す図である。
図4図3に示すガスキャリア型蒸着装置におけるシャワーヘッドの一例を示す図である。
図5】実施例および比較例のサンプルのペロブスカイト薄膜のX線回折スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一または相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。
【0013】
(太陽電池)
図1は、本実施形態に係る太陽電池の一例を示す断面図であり、図2は、本実施形態に係る太陽電池の他の一例を示す断面図である。図1および図2に示す太陽電池1は、光電変換薄膜としてペロブスカイト薄膜を用いたペロブスカイト薄膜系の太陽電池である。太陽電池1は、基板10と、第1電極層21と、第1キャリア輸送層31と、ペロブスカイト薄膜40と、第2キャリア輸送層32と、第2電極層22とを備える。
【0014】
なお、図1に示す太陽電池1と図2に示す太陽電池1とでは、極性が異なる。具体的には、図1に示す太陽電池1では、第1キャリア輸送層31および第2キャリア輸送層32がそれぞれ正孔輸送層(Hole Transfer Layer:HTL)および電子輸送層(Electron Transport Layer:ETL)であり、第1電極層21および第2電極層22がそれぞれ陽極および陰極である。一方、図2に示す太陽電池1では、第1キャリア輸送層31および第2キャリア輸送層32がそれぞれ電子輸送層(ETL)および正孔輸送層(HTL)であり、第1電極層21および第2電極層22がそれぞれ陰極および陽極である。
【0015】
基板10は、絶縁性かつ光透過性を有する透明基板からなる。基板10の材料としては、ガラスまたは樹脂等が挙げられる。
【0016】
第1電極層21は、基板10上に形成されており、陽極(図1)または陰極(図2)として機能する。第1電極層21は、導電性かつ光透過性を有する透明導電膜(Transparent Conductive Oxide:TCO)からなる。第1電極層21の材料としては、透明導電性金属酸化物、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタンおよびそれらの複合酸化物等が用いられる。これらの中でも、酸化インジウムを主成分とするインジウム系複合酸化物が好ましい。高い導電率と透明性の観点からは、インジウム酸化物が特に好ましい。更に、信頼性またはより高い導電率を確保するため、インジウム酸化物にドーパントを添加すると好ましい。ドーパントとしては、例えば、Sn、W、Zn、Ti、Ce、Zr、Mo、Al、Ga、Ge、As、Si、またはS等が挙げられる。例えば、インジウム酸化物にスズが添加されたITO(Indium Tin Oxide)が広く知られている。
【0017】
第1キャリア輸送層31は、第1電極層21上に形成されており、正孔輸送層(HTL)(図1)または電子輸送層(ETL)(図2)として機能する。第1キャリア輸送層31は、光透過性を有する半導体材料からなる。
【0018】
具体的には、図1では、第1キャリア輸送層31は、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの正孔(第1キャリア)を第1電極層21に輸送する正孔輸送層(HTL)として機能する。正孔輸送層(HTL)としての第1キャリア輸送層31の主材料としては、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、PTAA(Poly(bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine))、または、Spiro-MeOTAD等が挙げられる。
【0019】
一方、図2では、第1キャリア輸送層31は、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの電子(第1キャリア)を第1電極層21に輸送する電子輸送層(ETL)として機能する。電子輸送層(ETL)としての第1キャリア輸送層31の主材料としては、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、PTAA(Poly(bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine))、または、Spiro-MeOTAD等が挙げられる。
【0020】
ペロブスカイト薄膜40は、第1キャリア輸送層31上に形成されており、光電変換層として機能する。ペロブスカイト薄膜40の主材料としては、有機原子A、金属原子B、およびハロゲン原子Xを含む下記式で表される化合物が挙げられる。
ABX
Aとしては、1価の有機アンモニウムイオンおよびアミジニウム系イオンのうちの少なくとも1種を含む有機原子が挙げられる。Bとしては、2価の金属イオンを含む金属原子が挙げられる。Xとしては、ヨウ化物イオンI、臭化物イオンBr、塩化物イオンCl、およびフッ化物イオンFのうちの少なくとも1種を含むハロゲン原子が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、蒸着法(ドライプロセス)の場合、有機原子AとしてはメチルアンモニウムMA(CHNH)が好ましく、金属原子Bとしては鉛Pbが好ましく、ハロゲン原子Xとしてはヨウ化物I、臭化物イオンBrおよび塩化物イオンClのうちの少なくとも1つが好ましい。すなわち、蒸着法等のドライプロセスの場合、ペロブスカイト薄膜40の主材料としては、メチルアンモニウムハロゲン化鉛MAPbX(CHNHPbX)、例えばMAPbI、MAPbBr、MAPbCl等が挙げられる。なお、ハロゲン原子Xとしては複数種類を含んでもよい。例えばヨウ化物Iと他のハロゲン原子Xとを含む場合、ペロブスカイト薄膜40の主材料としては、メチルアンモニウムヨウ化鉛MAPbI(3-y)(CHNHPbI(3-y))、例えばMAPbIBr(3-y)、MAPbICl(3-y)等が挙げられる(yは任意の正の整数)。
【0022】
メチルアンモニウムハロゲン化鉛MAPbX(CHNHPbX)薄膜は、ハロゲン化鉛PbX材料およびハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料を順に製膜し、これらの材料の薄膜を反応温度で反応させることにより形成される。また、メチルアンモニウムヨウ化鉛MAPbI(3-y)(CHNHPbI(3-y))薄膜は、例えばハロゲン化鉛PbX材料およびヨウ化メチルアンモニウムMAI材料を順に製膜し、これらの材料の薄膜を反応温度で反応させることにより形成される。更に具体的な一例によれば、メチルアンモニウムヨウ化鉛MAPbI(CHNHPbI)薄膜は、ヨウ化鉛PbI材料およびヨウ化メチルアンモニウムMAI材料を順に製膜し、これらの材料の薄膜を反応温度で反応させることにより形成される。
【0023】
第2キャリア輸送層32は、ペロブスカイト薄膜40上に形成されており、電子輸送層(ETL)(図1)または正孔輸送層(HTL)(図2)として機能する。第2キャリア輸送層32は、光透過性を有する半導体材料からなる。
【0024】
具体的には、図1では、第2キャリア輸送層32は、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの電子(第2キャリア)を第2電極層22に輸送する電子輸送層(ETL)として機能する。電子輸送層(ETL)としての第2キャリア輸送層32の主材料としては、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、PTAA(Poly(bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine))、または、Spiro-MeOTAD等が挙げられる。
【0025】
一方、図2では、第2キャリア輸送層32は、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの正孔(第2キャリア)を第2電極層22に輸送する正孔輸送層(HTL)として機能する。正孔輸送層(HTL)としての第2キャリア輸送層32の主材料としては、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、PTAA(Poly(bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine))、または、Spiro-MeOTAD等が挙げられる。
【0026】
第2電極層22は、第2キャリア輸送層32上に形成されており、陰極(図1)または陽極(図2)として機能する。第2電極層22は、導電性を有する金属層である。第2電極層22の材料としては、Ag、Au、Cu等が挙げられる。
【0027】
このような構成により、太陽電池1は、基板10側から入射する光に応じた電流を生成し、第1電極層21および第2電極層22に出力する。
【0028】
(太陽電池の製造方法)
次に、図3および図4を参照して、本実施形態の太陽電池の製造方法について説明する。図3は、真空チャンバを備えるガスキャリア型蒸着装置の一例を示す図であり、図4は、図3に示すガスキャリア型蒸着装置におけるシャワーヘッドの一例を示す図である。
【0029】
まず、基板10上に、第1電極層21として透明導電膜を形成する(第1電極層形成工程)。透明導電膜の形成方法としては、特に限定されないが、真空チャンバを用いたCVD法(化学気相堆積法)、PVD法(物理気相堆積法)またはスパッタリング法等が用いられる。
その後、透明導電膜の表面の洗浄(例えば、PW/IPA(イソプロピルアルコール))、乾燥(例えば、150度、1時間)、およびオゾン処理が行われてもよい。
【0030】
次に、第1電極層21上に、第1キャリア輸送層31を形成する(第1キャリア輸送層形成工程)。第1キャリア輸送層31の形成方法としては、特に限定されないが、例えばCVD法、PVD法またはスパッタリング法等のドライプロセス、或いは塗布法、印刷法等のウエットプロセスが挙げられる。これらの中でも、緻密な膜の製膜の観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0031】
次に、第1キャリア輸送層31上に、ペロブスカイト薄膜40を形成する(ペロブスカイト薄膜形成工程)。ペロブスカイト薄膜40の形成方法としては、蒸着法(ドライプロセス)が用いられる。蒸着法(ドライプロセス)によれば、印刷法、塗布法または溶液法等のウエットプロセスと比較して、ペロブスカイト薄膜の劣化要因となる水分を除去した環境下で製膜を行うことができる。蒸着法の中でも、図3および図4に示すように、シャワーヘッド130を備える真空チャンバ110(蒸着装置100)を用いたガスキャリア型蒸着法が好ましい。
【0032】
一般に、蒸着法では、真空チャンバ内で材料を加熱する方法が知られている。しかし、この方法では、太陽電池の面積が大きくなると、ペロブスカイト薄膜を均一に形成することが困難となる。
【0033】
この点に関し、ガスキャリア型蒸着法では、2次元状に配列された複数の開口131を備えるシャワーヘッド130を用い、ガス化した材料をバッファガスでガスキャリアして、シャワーヘッド130の複数の開口131から真空チャンバ110内に材料ガスを導入する。これにより、太陽電池の面積が大きくなっても、ペロブスカイト薄膜を均一に形成することができる。
【0034】
例えば、図3に示すように、蒸着装置100の真空チャンバ110内の基板温度制御部140に基板10を配置し、真空チャンバ110内の基板10の製膜面と対向する位置に配置されたシャワーヘッド130の開口131から材料ガスを供給する。
【0035】
図4に示すように、シャワーヘッド130は、基板10と対向する面において、2次元状に配列された複数の開口131を有する。開口131のサイズは直径1mm程度であり、開口131の間隔は12mm程度である。例えば、基板10のサイズが約180mm×約180mmの場合、直径1mmの開口を12mmの間隔で169個配置する(開口率0.4%)。
【0036】
例えば、蒸着装置100の材料ガス化部121によって、ヨウ化鉛PbI材料(気化温度250℃~350℃)をガス化する(例えば380℃~400℃)。ヨウ化鉛PbI材料ガスは、Arガス等のバッファガスによってシャワーヘッド130へガスキャリアされる。次に、シャワーヘッド130の複数の開口131から真空チャンバ110内に、ヨウ化鉛PbI材料ガスを導入して、基板10上にヨウ化鉛PbI材料膜を製膜する。
【0037】
次に、蒸着装置100の材料ガス化部122によって、ヨウ化メチルアンモニウムMAI材料(気化温度約120℃)をガス化する(例えば230℃~280℃)。ヨウ化メチルアンモニウムMAI材料ガスは、Arガス等のバッファガスによってシャワーヘッド130へガスキャリアされる。次に、シャワーヘッド130の複数の開口131から真空チャンバ110内に、ヨウ化メチルアンモニウムMAI材料ガスを導入して、基板10上にヨウ化メチルアンモニウムMAI材料膜を製膜する。
【0038】
このとき、基板温度制御部140によって基板10の温度を材料の反応温度に制御することにより、ヨウ化鉛PbI材料とヨウ化メチルアンモニウムMAI材料とが反応し、メチルアンモニウムヨウ化鉛MAPbIからなるペロブスカイト薄膜が形成される(ポストアニール:例えば120度、30分)。
【0039】
ここで、ヨウ化鉛PbI材料膜の製膜条件は以下のとおりである。
・材料ガス化部121によるガス化温度、バッファガスによる材料ガスのガスキャリア温度およびシャワーヘッド130温度:380℃以上400℃以下
・真空チャンバ110内圧力:150Pa以上1000Pa以下(真空チャンバ110内温度:200℃以上)
・基板10温度:制御せず
【0040】
一方、ヨウ化メチルアンモニウムMAI材料膜の製膜条件は以下のとおりである。
・材料ガス化部122によるガス化温度、バッファガスによる材料ガスのガスキャリア温度およびシャワーヘッド130温度:230℃以上280℃以下
・真空チャンバ110内圧力:150Pa以上1000Pa以下(真空チャンバ110内温度:100℃以上)
・基板10温度:100℃以上120℃以下に冷却制御
【0041】
次に、ペロブスカイト薄膜40上に、第2キャリア輸送層32を形成する(第2キャリア輸送層形成工程)。第2キャリア輸送層32の形成方法としては、特に限定されないが、例えばCVD法、PVD法またはスパッタリング法等のドライプロセス、或いは塗布法、印刷法等のウエットプロセスが挙げられる。
【0042】
スパッタリング法によれば、緻密な膜の製膜が可能となるが、ペロブスカイト薄膜にスパッタダメージが生じ、太陽電池の変換効率が低下してしまう可能性がある。このような観点から、ペロブスカイト薄膜上にキャリア輸送層を形成する方法としては、塗布法または溶液法が一般的である。
【0043】
次に、第2キャリア輸送層32上に、第2電極層22として金属膜を形成する。金属膜の形成方法としては、特に限定されないが、例えば真空チャンバを用いたCVD法、PVD法またはスパッタリング法等のドライプロセス、或いは印刷法または塗布法等のウエットプロセスが挙げられる。これらの中でも、スパッタリング法が好ましい。
以上により、図1または図2に示す本実施形態のペロブスカイト薄膜系の太陽電池1が得られる。
【0044】
ここで、本願発明者(ら)が本発明に至る過程で考案した比較例の太陽電池の製造方法、およびその問題点について説明する。比較例では、上述した本実施形態の太陽電池の製造方法において、ペロブスカイト薄膜形成工程におけるMAI材料膜の製膜条件が異なる。具体的には以下のとおりである。
・材料ガス化部122によるガス化温度、バッファガスによる材料ガスのガスキャリア温度およびシャワーヘッド130温度:170℃
・真空チャンバ110内圧力:150Pa(真空チャンバ110内温度:100℃未満)
・基板10温度:100℃に加熱制御
【0045】
詳説すれば、比較例では、MAI材料膜の製膜時、MAI材料の気化温度約120℃を考慮して、材料ガス化部122によるガス化温度、バッファガスによる材料ガスのガスキャリア温度、およびシャワーヘッド130温度を170度に制限していた。
しかし、真空チャンバ110内圧力150Paの条件では、真空チャンバ110内温度がPbI材料とMAI材料との反応温度約100℃よりも低くなる。そのため、基板10温度が、PbI材料とMAI材料との反応温度以上かつMAI材料の気化温度以下である例えば100℃となるように、基板10を加熱制御していた。
【0046】
ここで、上述したように、蒸着法(ドライプロセス)によれば、印刷法、塗布法または溶液法等のウエットプロセスと比較して、ペロブスカイト薄膜の劣化要因となる水分を除去した環境下で製膜を行うことができ、ペロブスカイト薄膜の性能を向上することができる。しかし、蒸着法においても、水分の影響によりペロブスカイト薄膜の性能が低下することがある。
【0047】
例えば、ヨウ化メチルアンモニウムMAI材料膜の気化温度は約120℃であり、ヨウ化鉛PbI材料膜とヨウ化メチルアンモニウムMAI材料膜との反応温度は約100℃である。上述した比較例では、MAI材料膜の製膜時、MAI材料の基板10への着膜、および、PbI材料膜とMAI材料膜との反応のために、材料ガスの温度を上げることができず、真空チャンバ110内温度は100℃未満となることがある。この場合、材料中に含まれており、真空チャンバ内に導入される水分が十分に気化され排気されず、MAI材料膜に含有される。これにより、ペロブスカイト薄膜の性能が低下することがある。
【0048】
この点に関し、上述した本実施形態では、ペロブスカイト薄膜形成工程におけるMAI材料膜の製膜条件が以下のとおりである。
・材料ガス化部122によるガス化温度、バッファガスによる材料ガスのガスキャリア温度およびシャワーヘッド130温度:230℃以上280℃以下
・真空チャンバ110内圧力:150Pa以上1000Pa以下(真空チャンバ110内温度:100℃以上)
・基板10温度:100℃以上120℃以下に冷却制御
【0049】
このように、本実施形態では、MAI材料膜の製膜時、MAI材料の気化温度約120℃を超えて、材料ガス化部122によるガス化温度、バッファガスによる材料ガスのガスキャリア温度、およびシャワーヘッド130温度を230℃以上280℃以下と高くする。これにより、真空チャンバ110内圧力150Paの条件において、真空チャンバ110内温度が水の気化温度100度以上となる。そのため、材料中に含まれており、真空チャンバ110内に導入された水分が気化し排気され、MAI材料膜への水分の含有が低減される。これにより、ペロブスカイト薄膜の性能の低下を低減することができる。
【0050】
しかし、真空チャンバ110内温度が、MAI材料の気化温度120℃以上であるため、MAI材料が基板10に着膜しない。また、真空チャンバ110内温度が、PbI材料とMAI材料との反応温度100度以上であるため、PbI材料とMAI材料とが反応せず、ペロブスカイト薄膜の性能が低下する。
【0051】
この点に関し、本実施形態では、MAI材料膜の製膜時、基板10温度が、PbI材料とMAI材料との反応温度100℃以上、かつMAI材料の気化温度120℃以下となるように、基板10を冷却制御する。これにより、MAI材料の着膜の低下、および、ペロブスカイト薄膜の性能の低下を回避することができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の太陽電池の製造方法によれば、
・水分に起因するペロブスカイト薄膜の性能の低下を低減し、かつ
・MAI材料の低い気化温度に起因するMAI材料の着膜の低下、および、PbI材料とMAI材料との低い反応温度に起因するペロブスカイト薄膜の性能の低下を回避することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、ガスキャリア蒸着法を用い、ヨウ化鉛PbI材料膜およびヨウ化メチルアンモニウムMAI材料膜を製膜および反応してなるメチルアンモニウムヨウ化鉛MAPbIを形成するペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法について主に説明した。しかし、本発明はこれに限定されず、ガスキャリア蒸着法を用い、ハロゲン化鉛PbX材料膜およびハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料膜を製膜および反応してなるメチルアンモニウムハロゲン化鉛MAPbXを形成する種々のペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法に適用可能である。
【0054】
また、上述した実施形態では、結晶シリコン系太陽電池またはアモルファスシリコン薄膜系太陽電池と、ペロブスカイト薄膜系太陽電池とを組み合わせたいわゆるタンデム型太陽電池におけるペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造にも適用可能である。
【実施例
【0055】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
本実施形態のペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法における蒸着法によるペロブスカイト薄膜の製膜方法を用いて、ガラス基板にペロブスカイト薄膜を製膜したサンプルを実施例1として作製した。実施例1のサンプルのペロブスカイト薄膜の製膜条件は以下の通りである。
<ヨウ化鉛PbI材料膜の製膜条件>
・材料ガス化部121によるガス化温度、バッファガスによる材料ガスのガスキャリア温度およびシャワーヘッド130温度:380℃
・真空チャンバ110内圧力:150Pa(真空チャンバ110内温度:200℃以上)
・基板10温度:制御せず
<ヨウ化メチルアンモニウムMAI材料膜の製膜条件>
・材料ガス化部122によるガス化温度、バッファガスによる材料ガスのガスキャリア温度およびシャワーヘッド130温度:270℃
・真空チャンバ110内圧力:150Pa(真空チャンバ110内温度:100℃以上)
・基板10温度:100℃に冷却制御
【0057】
(比較例1)
比較例2のサンプルは、実施例1のサンプルにおいて蒸着法によるペロブスカイト薄膜の製膜条件が異なる。比較例2のサンプルのペロブスカイト薄膜の製膜条件は以下の通りである。
<ヨウ化鉛PbI材料膜の製膜条件>
・実施例1と同じ。
<ヨウ化メチルアンモニウムMAI材料膜の製膜条件>
・材料ガス化部122によるガス化温度、バッファガスによる材料ガスのガスキャリア温度およびシャワーヘッド130温度:180℃
・真空チャンバ110内圧力:150Pa(真空チャンバ110内温度:100℃未満)
・基板10温度:100℃に加熱制御
【0058】
(評価1)
XRD:X線回折計(SmartLab、Rigaku製)を用いて、上記の実施例および比較例のサンプルのペロブスカイト薄膜の2θ走査像を測定した。測定結果を図5に示す。図5は、実施例および比較例のサンプルのペロブスカイト薄膜のX線回折スペクトルを示す図である。図5において、横軸は回折角2θであり、縦軸はスペクトル強度である。
【0059】
図5に示すように、実施例1では、比較例1と比べて、11度~12度の回折角2θにおけるMAPbIPbI+HO由来の回折ピークが低減した。また、実施例1では、比較例1と比べて、14度~15度の回折角2θにおけるMAPbI(110)由来の回折ピーク、19度~20度の回折角2θにおけるMAPbI(112)由来の回折ピーク、23度~24度の回折角2θにおけるMAPbI(202)由来の回折ピーク、および28度~29度の回折角2θにおけるMAPbI(220)由来の回折ピークの回折ピークが増大した。なお、24度~25度の回折角2θにおける回折ピークはPbI由来の回折ピークであり、25度~27度の回折角2θにおける回折ピークはガラス基板SnO由来の回折ピークである。
【0060】
これにより、実施例1では、比較例1と比べて、水分HOが除去され、ペロブスカイト薄膜の性能が向上したことがわかる。
【符号の説明】
【0061】
1 ペロブスカイト薄膜系太陽電池
10 基板
21 第1電極層(陽極または陰極)
22 第2電極層(陰極または陽極)
31 第1キャリア輸送層(正孔輸送層または電子輸送層)
32 第2キャリア輸送層(電子輸送層または正孔輸送層)
40 ペロブスカイト薄膜
100 蒸着装置
110 真空チャンバ
121,122 材料ガス化部
130 シャワーヘッド
131 開口
140 基板温度制御部
図1
図2
図3
図4
図5