(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】エンジンのバルブ構造
(51)【国際特許分類】
F01L 3/06 20060101AFI20240704BHJP
F02B 31/04 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
F01L3/06 G
F02B31/04 540A
(21)【出願番号】P 2023139171
(22)【出願日】2023-08-29
【審査請求日】2023-08-29
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】396021427
【氏名又は名称】長野 茂
(72)【発明者】
【氏名】長野 茂
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-047706(JP,U)
【文献】特開2001-107714(JP,A)
【文献】実開平06-004303(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/06
F02B 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に吸入される燃焼用空気または燃焼用空気と燃料との混合気を、吸気通路から前記燃焼室に導くように管状に形成された前記吸気通路の末端である燃焼室吸込口部に備えられ、カムの駆動によってバルブの開閉を行う吸気バルブに
あって、前記吸気バルブの吸気バルブ傘部の中心にある前記吸気バルブのバルブステムと前記吸気バルブ傘部との境界を始点とし、前記吸気バルブ傘部と前記吸気バルブのバルブフェースとの境界の手前を終点として、前記バルブステム側の始点から前記バルブフェース側の終点に向けて螺旋状に旋回羽根を前記吸気バルブ傘部の複数箇所に
設けられた前記吸気バルブにおいて、前記吸気バルブ傘部に設けられた前記旋回羽根の突端部までの高さは、前記旋回羽根の前記バルブステム側の始点である位置から前記バルブフェースに近づくにつれて徐々に高くなるように形成され、前記吸気バルブ傘部上において前記バルブステムと前記バルブフェースとの最短となる直線距離の中間位置の箇所にて前記旋回羽根の突端部の高さが最大となるピーク点となり、前記旋回羽根の前記ピーク点から前記旋回羽根の前記バルブフェース側の終点に向けて徐々に低くなるように形成され、前記吸気バルブ傘部の前記旋回羽根のねじれ角αは、前記旋回羽根の始点である前記バルブステム側から前記旋回羽根の終点である前記バルブフェース側に近づくにつれて徐々に大きくなるように形成されるとともに、前記吸気バルブ傘部に設けられた前記旋回羽根の断面形状は、同旋回羽根の突端部から前記吸気バルブ傘部表面に近づくにつれて徐々に幅広に緩やかに傾斜させ、かつ旋回羽根自体の内側に凹む弧を描いた状態となるように形成された内側側面と外側側面とした旋回羽根が設けられた前記吸気バルブにて、前記吸気通路から前記燃焼室に吸入される燃焼用空気または燃焼空気と燃料の混合気を、前記吸気バルブ傘部に設けられた前記旋回羽根にて旋回させながら、前記燃焼室内に流れ込ませるようにすることを特徴とするエンジンのバルブ構造。
【請求項2】
燃焼室にて燃焼された後の排気ガスを、前記燃焼室から排気通路に導くように管状に形成された前記排気通路の末端である燃焼室排気口部に備えられたカムの駆動によってバルブの開閉を行う排気バルブに
あって、前記排気バルブの排気バルブ傘部の中心にある前記排気バルブのバルブステムと前記排気バルブ傘部との境界を始点とし、前記排気バルブ傘部と前記排気バルブのバルブフェースとの境界の手前を終点として、前記バルブステム側の始点から前記バルブフェース側の終点に向けて螺旋状に旋回羽根を前記排気バルブ傘部の複数箇所に
設けられた前記排気バルブにおいて、前記排気バルブ傘部に設けられた前記旋回羽根の突端部までの高さは、前記旋回羽根の前記バルブステム側の始点である位置から前記旋回羽根の終点である前記バルブフェース側に近づくにつれて徐々に高くなるように形成され、前記排気バルブ傘部上において前記バルブステムと前記バルブフェースとの最短となる直線距離の中間位置の箇所にて前記旋回羽根の突端部の高さが最大となるピーク点となり、前記旋回羽根の前記ピーク点から前記旋回羽根の前記バルブフェース側の終点に向けて徐々に低くなるように形成され、前記排気バルブ傘部の前記旋回羽根のねじれ角αは、前記旋回羽根の始点である前記バルブステム側から前記旋回羽根の終点である前記バルブフェースに近づくにつれて徐々に大きくなるように形成されるとともに、前記排気バルブ傘部に設けられた前記旋回羽根の断面形状は、同旋回羽根の突端部から前記排気バルブ傘部表面に近づくにつれて徐々に幅広に緩やかに傾斜させ、かつ旋回羽根自体の内側に凹む弧を描いた状態となるように形成された内側側面と外側側面とした旋回羽根が設けられた前記排気バルブにて、前記燃焼室から前記排気通路へ排出される前記排気ガスを、前記排気バルブ傘部に設けられた旋回羽根にて旋回させながら、前記燃焼室から前記排気通路へ排出させるように構成することを特徴とするエンジンのバルブ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガソリンエンジン及びディーゼルエンジンに関し、詳しくはガソリンエンジン及びディーゼルエンジンにおいて、吸気通路から燃焼室内に燃焼用空気または燃焼用空気と燃料との混合気を導入する吸気系統の吸気バルブ構造と燃焼室から排気通路へ排出させる排気系統の排気バルブ構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストンの往復運動を、コネクティングロッドを介してクランク軸の回転運動に変換して動力を得る、いわゆるレシプロエンジンが知られている。このタイプのエンジンでは、燃料消費率の向上、燃焼ガスの浄化等の観点から、燃焼室内に強力な混合気の流動を発生させることが有効とされている。
【0003】
燃焼室内に強力な混合気の流動を発生させるために吸気ポートの形状を螺旋流入形(スパイラル形)または接線流入形(タンジェンシャル形)などが設けられ用いられている。吸気ポートにこれらの螺旋流入形(スパイラル形)または接線流入形(タンジェンシャル形)を設けることにより、燃焼室内に流入する燃焼空気または燃焼空気と燃料との混合気は、燃焼室内でスワールと呼ばれる旋回流が発生する。このスワールにより混合気の乱れ強さが強くなり、火炎伝播が速くなる。燃焼室内での混合気の燃焼期間が短くなり、燃焼が安定して行われる。そして、燃料消費率の向上に止まらず、出力の向上及び燃焼ガスの浄化の対策としても同様の手段を用いられている。また一つの燃焼室に吸気ポートが複数設置されている場合は、燃焼室の運転状況により片側の吸気ポートの吸気通路にバタフライ弁を設置して流入量を調整させる可変スワール構造とする方法なども用いられている。
【0004】
そこで燃焼室内に流入する燃焼空気または燃焼空気と燃料との混合気に燃焼室内でスワールを発生させるために、吸気系統の吸気バルブの傘部の表面に旋回流を発生させる考案が幾つかある。例えば特許文献1では、インレットバルブの傘部表面に、吸気流れに旋回を起こす複数枚の羽根を設けた吸気装置が考案されている。特許文献2では、燃焼室内に吸気バルブを介して吸入充填される燃焼用空気または燃焼用空気と燃料との混合気の気体を、燃焼室に導くように管状に形成された吸気通路の吸込口部において、その半径方向内側に突出する旋回羽根を、吸気通路の内壁部に沿って螺旋状に設けることにより、燃焼用空気または燃焼用空気と燃料との混合気の気体に旋回流を発生させる吸気系統の吸込口部構造が考案されている。
【0005】
ところが特許文献1では、羽根の形状は特許文献1の
図4に示すように断面は長方形の形状であり、
図2と
図3に示すように羽根のステム側からフェース側にかけての形状も長方形であり、特許文献1に記載の羽根では、吸気バルブが開き高速で燃焼室に流入する空気に対して障壁となり、ここで流入空気が滞留してしまい流入空気に旋回流を生じさせるよりも燃焼用空気の流入が滞るポンプ損失の方が大きくなると想定される。
特許文献2では、旋回羽根は、吸気通路の吸込口部の吸気通路の内壁部に沿って設けることに限定されている。吸気バルブと排気バルブに関しては触れられていない。一般的に吸気行程により吸気バルブが燃焼室に開いたときに燃焼室に入る燃焼用空気は、吸気バルブの傘部の形状に沿って流れ360度に拡散させて流入する構造となっている。燃焼室に入る燃焼用空気に旋回流を生じさせるには、この吸気バルブの傘部によって旋回流を与えた方が効率よく効果的である。そして排気行程により排気バルブが燃焼室に向けて開き燃焼室にて燃焼後の排気ガスを排気通路へと排出する時は、排気バルブの傘部の形状に沿って排気通路へと排出する構造となっている。燃焼室にて燃焼後の排気ガスに旋回流を生じさせ燃焼室内の排気ガスを速く排出させるには、排気行程によって排気バルブが燃焼室に向けて開いた時に排気ガスが最初に接触する排気バルブの傘部によって旋回流を与えた方が効率よく効果的に排気ガスに旋回流を与え効率よく排気ガスを排気通路へと誘導することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、燃焼室内に吸気バルブを介して吸入充填される燃焼用空気または燃焼用空気と燃料との混合気が、燃焼室へ流入充填する時に生じる種々の損失を低減させるべく、その燃焼室に吸気バルブを介して吸入充填される直前の燃焼用空気または燃焼用空気と燃料との混合気に吸気バルブ傘部にて旋回流(スワール)を発生させる旋回羽根を吸気バルブ傘部に設けるようにしたエンジンの吸気系統のバルブ構造と、燃焼室にて燃焼された後の排気ガスを、排気バルブが開いて排気ガスを排出する排気行程時に、円滑に排出すべく、排気バルブ傘部にて排気ガスを旋回流(スワール)として発生させる旋回羽根を設けるようにしたエンジンの排気系統の排気バルブ構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1.燃焼室に吸入される燃焼用空気または燃焼用空気と燃料との混合気を、吸気通路から前記燃焼室に導くように管状に形成された前記吸気通路の末端である燃焼室吸込口部に備えられ、カムの駆動によってバルブの開閉を行う吸気バルブにあって、前記吸気バルブの吸気バルブ傘部の中心にある前記吸気バルブのバルブステムと前記吸気バルブ傘部との境界を始点とし、前記吸気バルブ傘部と前記吸気バルブのバルブフェースとの境界の手前を終点として、前記バルブステム側の始点から前記バルブフェース側の終点に向けて螺旋状に旋回羽根を前記吸気バルブ傘部の複数箇所に設けられた前記吸気バルブにおいて、前記吸気バルブ傘部に設けられた前記旋回羽根の突端部までの高さは、前記旋回羽根の前記バルブステム側の始点とする位置から前記バルブフェースに近づくにつれて徐々に高くなるように形成され、前記吸気バルブ傘部上において前記バルブステムと前記バルブフェースとの最短となる直線距離の中間位置の箇所にて前記旋回羽根の突端部の高さが最大となるピーク点となり、前記旋回羽根の前記ピーク点から前記旋回羽根の前記バルブフェース側の終点に向けて徐々に低くなるように形成され、前記吸気バルブ傘部の前記旋回羽根のねじれ角αは、前記旋回羽根の始点である前記バルブステム側から前記旋回羽根の終点である前記バルブフェース側に近づくにつれて徐々に大きくなるように形成され、前記吸気バルブ傘部に設けられた前記旋回羽根の断面形状は、同旋回羽根の突端部から前記吸気バルブ傘部表面に近づくにつれて徐々に幅広に緩やかに傾斜させ、かつ旋回羽根自体の内側に凹む弧を描いた状態となるように形成された内側側面と外側側面とした旋回羽根が設けられた前記吸気バルブにて、前記吸気通路から前記燃焼室に吸入される燃焼用空気または燃焼空気と燃料との混合気を前記吸気バルブ傘部に設けられた前記旋回羽根にて旋回させながら、前記燃焼室内に流れ込ませるようにすることを特徴としている。
2.燃焼室にて燃焼された後の排気ガスを、前記燃焼室から排気通路に導くように管状に形成された前記排気通路の末端である燃焼室排気口部に備えられたカムの駆動によってバルブの開閉を行う排気バルブにあって、前記排気バルブの排気バルブ傘部の中心にある前記排気バルブのバルブステムと前記排気バルブ傘部との境界を始点とし、前記排気バルブ傘部と前記排気バルブのバルブフェースとの境界の手前を終点として、前記バルブステム側の始点から前記バルブフェース側の終点に向けて螺旋状に旋回羽根を前記排気バルブ傘部の複数箇所に設けられた前記排気バルブにおいて、前記排気バルブ傘部に設けられた前記旋回羽根の突端部までの高さは、前記旋回羽根の前記バルブステム側の始点である位置から前記バルブフェースに近づくにつれて徐々に高くなるように形成され、前記排気バルブ傘部上において前記バルブステムと前記バルブフェースとの最短となる直線距離の中間位置の箇所にて前記旋回羽根の突端部の高さが最大となるピーク点となり、前記旋回羽根の前記ピーク点から前記旋回羽根の前記バルブフェース側の終点に向けて徐々に低くなるように形成され、前記排気バルブ傘部の前記旋回羽根のねじれ角αは、前記旋回羽根の始点である前記バルブステム側から前記旋回羽根の終点である前記バルブフェース側に近づくにつれて徐々に大きくなるように形成され、前記排気バルブ傘部に設けられた前記旋回羽根の断面形状は、同旋回羽根の突端部から前記排気バルブ傘部表面に近づくにつれて徐々に幅広に緩やかに傾斜させ、かつ旋回羽根自体の内側に凹む弧を描いた状態となるように形成された内側側面と外側側面とした旋回羽根を設けられた前記排気バルブにて、前記燃焼室から排気通路へと排出される前記排気ガスを前記排気バルブ傘部に設けられた前記旋回羽根にて旋回させながら前記燃焼室から前記排気通路へ排出させるように構成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、吸気バルブの傘部に設けられた旋回羽根の効果により、燃焼室内へ吸気通路を通過し吸気バルブを介して吸い込まれる燃焼用空気または燃焼用空気と燃料との混合気の気体に旋回流を生じさせて、吸気バルブが燃焼室へ開動作したときに燃焼用空気または燃焼用空気と燃料との混合気の気体を効率良く流れ込ませることができ、流れ込む時に生じる種々の損失を低減させて燃焼室に充填させることができる。さらに吸気バルブの傘部に設けられた緩やかな形状の旋回羽根の効果は、流速の損失をできるだけ抑えながら、燃焼室入り口に近いところで効果的に旋回流を発生させることができ、旋回羽根が直接作用しない吸気バルブ傘部の表面においても、旋回流を効果的に発生させて傘部表面の流速の遅い境界層の気体を、より流速の速い中心付近に誘導することにより、燃焼用空気または燃焼用空気と燃料との混合気の気体の流れをスムーズにして吸気バルブが燃焼室へ開動作したときに効率良く燃焼室に流れ込ませることができる。
【0011】
第2の発明によれば、排気バルブの傘部に設けられた旋回羽根の効果により、燃焼サイクルの排気行程の時に燃焼室から排気バルブを介して排気通路に排出される排気ガスに旋回流を生じさせて、排気バルブが開動作したときに燃焼室から排気通路に排出される排気ガス自体に渦を形成させて効率良く排気通路へと流れ込ませることができ排気バルブが開いたときに生じる種々の損失を低減させて燃焼室から排気ガスを排気通路に排出させることができる。さらに排気バルブの傘部に設けられた緩やかな形状の旋回羽根の効果は、流速の損失をできるだけ抑えながら、燃焼室入り口に近いところで効果的に旋回流を発生させることができ、旋回羽根が直接作用しない排気バルブ傘部表面においても、誘導的に旋回流を渦として効果的に発生させて、傘部表面の流速の遅い境界層の気体を、より流速の速い中心付近に誘導することにより、排気ガスの気体の流れをスムーズにして排気バルブが開動作したときに効率良く燃焼室から排気ガスを排気通路へと排出させる掃気効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】吸気バルブの傘部に旋回羽根機構を設けた吸気バルブの外観図である
【
図2】吸気バルブの傘部に旋回羽根機構を設けた吸気バルブの上部から観た外観図である
【
図3】吸気バルブの傘部における旋回羽根機構の1つを、
図2でのAーB間を概略的に示す図である。
【
図4】吸気バルブの傘部における旋回羽根機構の1つを、
図1でのCーD間を概略的に示す断面図である。
【
図5】排気バルブの傘部に旋回羽根機構を設けた排気バルブの外観図である
【
図6】排気バルブの傘部に旋回羽根機構を設けた排気バルブの上部から観た外観図である
【
図7】排気バルブの傘部における旋回羽根機構の1つを、
図6でのMーN間を概略的に示す図である。
【
図8】吸気バルブの傘部における旋回羽根機構の1つを、
図1でのJーK間を概略的に示す断面図である。
【
図9】一般的な筒内噴射式エンジンの概略構成を示す燃焼室と周辺部分の断面図である。
【
図10】一般的な排気バルブを燃焼室に向けて開閉するバルブを駆動する直動方式のバルブを駆動する機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の吸気バルブ8と排気バルブ9に関しての説明をする。一般的に自動車用エンジンには、ガソリンを燃料とするガソリンエンジンと軽油を燃料とするディーゼルエンジンがあるが、ここでは4ストロークサイクルのガソリンエンジンを実施例として説明する。またガソリンエンジンを搭載する4輪の自動車と2輪の自動二輪において、本実施例では、4輪の自動車に搭載するエンジン1を実施例として説明する。現在、4輪の自動車に搭載するガソリンエンジンは、ガソリンを筒内に噴射する筒内噴射エンジンが主流であることから実施例では筒内噴射エンジン1を実施例として説明する。
図1から
図4に関しては吸気バルブ8に関する説明図であり、
図5から
図8に関しては排気バルブ9に関する説明図となっている。
図9はガソリンエンジンにおける燃焼室内に燃焼用空気を吸気し、燃料を燃焼室16に直接噴射する一般的な筒内噴射式のエンジン1の主要部を示す断面図である。尚、
図9は、一般的なエンジン1の吸気バルブ8と排気バルブ9の位置関係を示す図としている事から本実施例のバルブの傘部における旋回羽根機構は、あえて
図9の図面から外しており記載されていない。吸気バルブ8と排気バルブ9を燃焼室2に向けて開閉するバルブを駆動するカム機構は一般的に直動方式とスイングアーム方式またはロッカーアーム方式があるが、
図10では代表として一般的な直動方式のバルブを駆動する機構の断面図である。
図9と同様に本実施例のバルブの傘部における旋回羽根機構は、あえて
図10の図面から外しており記載されていない。本発明では、どのカム駆動機構であっても同じ効果を得ることから本実施形態ではカム機構に関しての説明を省略する。吸気系統の吸気バルブ8に関する実施形態を実施例1として説明を行い、排気系統の排気バルブ9に関する実施形態を実施例2として説明を行う。本実施例の吸気バルブと排気バルブの各バルブのバルブ傘部の表面において、バルブステムとバルブフェースとの最短となる直線距離の中間位置の箇所を共通して中間位置Sと呼称する。
【0014】
図9に示すように、本実施形態のエンジン1は、ピストン3が往復運動可能に収容されたシリンダーと、前記シリンダー及びピストン3の少なくともいずれか一方に設けられた燃焼室2と、前記燃焼室2に接続された吸気通路6と排気通路7を備える。このシリンダー上部の燃焼室2に接続されている吸気通路6は、燃焼室2の上部において開口している。開口口には吸気バルブ8が備えられ、通常は吸気バルブ8によって開口口は閉じられており、吸気バルブ8上端に備わるカム10の駆動によって押されると吸気バルブ8は燃焼室2に向かって開き、燃焼用空気が吸気通路6から燃焼室2に流入する。同様にシリンダー上部の燃焼室2に接続されている排気通路7は、燃焼室2の上部において開口している。開口口には排気バルブ9が備えられ、通常は排気バルブ9によって開口口は閉じられており、排気バルブ9上端に備わるカム10の駆動によって押されると排気バルブ9は燃焼室2に向かって開き、排気ガスが燃焼室2から排気通路7へと排出される。
図10では排気バルブを例にして直動式バルブシステムを説明している。バルブ駆動システムは、排気バルブを例にすると楕円状のカム10の動きによって排気バルブ9が燃焼室に向けて押し出されて開く状態になったり、引っ込んで閉じた状態になったりする構造とすることによってバルブの開閉動作を行っている。楕円状のカム10の動きによって排気バルブ9が燃焼室2に向けて押し出されて開く状態になると燃焼後の排気ガスが燃焼室2から排気通路7へと排気される構造となっている。同様に吸気バルブ8も同じバルブ駆動システムである。
【0015】
4ストロークサイクルエンジンでは、吸気行程と圧縮行程と膨張行程と排気行程の4回ストロークすることで1サイクルを完了する燃焼機関のエンジンである。燃焼室2に吸入される燃焼用空気は、燃焼サイクルの吸気行程時にピストン3が上死点から下死点に向かうと同時に吸気バルブ8が開き、吸気通路6から燃焼用空気を燃焼室2に吸引流入させてピストン3が下死点に達した時に吸気バルブ8は閉じる。その後、圧縮行程としてピストン3が下死点から上死点に向かうとき燃焼用空気は圧縮される。圧縮行程時にピストン3が上死点達する直前に燃料噴射ノズル4から燃料が筒内に噴射され、ピストン3が上死点に達する直前に点火プラグ5から点火されて燃焼し、膨張行程として燃焼ガスの燃焼圧力がピストン3を下死点に向けて押す。膨張行程において燃焼ガスの燃焼圧力がピストン3を下死点に向けて押す力がエンジン1の動力(出力)となる。排気行程としてピストン3が下死点に達して上死点に向かうと同時に排気バルブ9が開き、燃焼室2の燃焼後の排気ガスを排気通路7に排出させる。これが4ストロークサイクルエンジンの一連の行程である。
【実施例1】
【0016】
図1に示すように、吸気バルブ8の構造は、大きく分けて上端部のコレットと棒状のバルブステム21と傘部22と傘部22の外周のバルブフェース23となっている。バルブステム21の傘部22へと繋がる部分は、燃焼室へ流入する燃焼用空気の空気抵抗が小さくなるように若干細くなっている。吸入バルブ8の傘部22には、燃焼室2へ流入する燃焼用空気に旋回流を生じさせる目的から旋回羽根24が設けられている。旋回羽根24の始点はバルブステム21と傘部22との境界から始まり傘部22とバルブフェース23との境界の手前を終点としている。
【0017】
続いて、本発明の特徴部分である吸気バルブ8の傘部22に備えられた旋回羽根24の構成について詳細に説明する。
図2は吸気バルブ8をバルブステム21の上部から観た図であり、
図3は吸気バルブ傘部22に設けられる旋回羽根24の1つを、
図2でのAーB間を概略的に示す説明図であり、
図4は
図1での吸気バルブ傘部22に設けられた旋回羽根24のCーD間の断面図である。
【0018】
図9に示すように、吸気通路6は、燃焼用空気を燃焼室2に導くように管状に形成され、末端は燃焼室吸込口部に接続されている。吸気通路6の末端の燃焼室吸込口部には吸気バルブ8が取り付けられ、吸気バルブ8の開閉動作により、燃焼室内2へ燃焼用空気が供給される。
図1と
図2に示すように吸気バルブ8の傘部22には、複数枚(
図2では3枚)の旋回羽根24が一定の間隔で設けられる。
図1から
図3で示すように各旋回羽根24は、吸気バルブ傘部22を矢印Fの方向に吸気バルブ傘部22の表面に沿って流れる燃焼用空気の気体をR方向に旋回させるべく、旋回方向Rの方向に曲げられ螺旋状になるように設けられている。
【0019】
図1から
図3に示すように、旋回羽根24は、旋回方向Rに向けて、ねじれた形状とした羽根状に形成されている。旋回羽根24は、まず、吸気バルブ傘部22から突端部28までの高さが、矢印Fの方向、すなわち旋回羽根24の始点となる吸気バルブ8のバルブステム21と吸気バルブ傘部22との境界の位置から、その吸気バルブ傘部22において、バルブステム21とバルブフェース23との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所であるピーク点27に近づくにつれて、徐々に高くなるように形成され、吸気バルブ傘部22から突端部28までの高さは、吸気バルブ傘部22上においてバルブステム21とバルブフェース23との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所にて旋回羽根24の突端部28の高さが最大となるピーク点27となるようにしてある。吸気バルブ傘部22において、バルブステム21とバルブフェース23との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所にて吸気バルブ傘部22から突端部28までの高さが最大となった旋回羽根24は、バルブステム21とバルブフェース23との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所から終点である吸気バルブ8の傘部22とバルブフェース23との境界手前に近づくにつれて、徐々に低くなるように形成されている。
【0020】
また、旋回羽根24のねじれ角αは、矢印Fの方向、すなわち旋回羽根24の始点となる吸気バルブ8のバルブステム21と吸気バルブ傘部22との境界の位置からその終点である吸気バルブ8の傘部22とバルブフェース23との境界手前に向かうにつれて、徐々にねじれ角αが大きくなるようにして設けられる。さらに、旋回羽根24の内側側面25は、その突端部28の位置から旋回羽根24の内側基点29にかけて緩やかに傾斜させ、内側側面部25は、旋回羽根24自体の内側に凹む弧を描いた状態となるようにして設けられる。また一方、旋回羽根24の外側側面は、その突端部28の位置から旋回羽根の外側基点30にかけて緩やかに傾斜させ、側面部26は、旋回羽根自体の内側に凹む弧を描いた状態となるようにして設けられている。
【0021】
次いで、上記のように構成される吸気バルブの作用及び効果について説明する。
【0022】
燃焼によって生まれた膨張エネルギーをできだけ多くピストン3を押す力に変えるには燃焼する速さができるだけ速い方が良い。それには、燃料であるガソリン微粒子と燃焼用空気が充分に混ざっている事が大切である。そのために燃焼用空気をいかにうまくシリンダー内に入れるかが重要である。混合気が燃える速さ、火炎速度が大きいほど運動エネルギーに変わる熱エネルギーは多く膨張エネルギーは大きい。燃焼を速くするには、まず燃料であるガソリン微粒子が燃焼用空気とよく混ざり、炭化水素の分子が酸素分子とすぐに化学反応ができる状態にしておくことが望ましい。さらに火炎速度を速くするには燃焼ガスの流れを強く、大きくするのが有効な手段である。燃焼室内の混合気の流れが特に問題になるのはエンジン1の回転数が低い時である。エンジンが高回転で回っている時には、それなりに燃焼室2に充填される燃焼用空気は速く流れているので混合気は充分に攪拌され、火炎速度も速い、しかし低速から中速にかけてはピストンが下がる速度が遅いので、燃焼室2に充填される燃焼用空気の速度も遅くなりシリンダー内でのガソリン微粒子も気化しにくくなる傾向となる。そこで、シリンダー内の燃焼用空気に縦方向の渦であるダンブルや横方向の渦であるスワールなどの渦流を作ることが必用になってくる。本発明では、燃焼室内2にスワールの渦を強化することに重点を置いている。スワールで大切な事は、吸気行程でできた渦が圧縮行程で減衰せずに残り、さらに渦流が強まって点火から膨張行程へとうまくつなげていき膨張エネルギーとして効果的にピストン3を押す力に変えていくことである。
【0023】
4ストロークサイクルエンジンの一連の行程にて吸気行程では吸気バルブ8の開閉動作により吸い込まれる燃焼用空気の気体は、吸気通路6を通じて吸気バルブ8の上面に導かれる。吸気バルブ8が燃焼室2に向けて開いたとき、吸気通路6を流れ吸気バルブ傘部22に接触する燃焼用空気は、吸気バルブ傘部22に設けられた旋回羽根24の内側面部25に接触し、燃焼用空気は螺旋状に設けられた旋回羽根24の内側側面25に沿って流れる。これにより、燃焼用空気の気体には円周方向Rの流れ成分が与えられ、次第にその円周方向Rに旋回するようになる。そして、旋回流の流れを維持しながら燃焼室2へ流れ込んでいく。通常のエンジン1において、吸気通路6を流れる燃焼用空気の気体が、整流状態となっていることはほとんどない。燃焼室2に燃焼用空気の気体が流れ込むと燃焼室内2での圧力等の影響によりスワール(旋回流)効果の損失の発生を伴う。しかし、本実施例のように、燃焼室2に流入する直前に燃焼用空気に旋回流を与えて燃焼室2に流れ込ませるようにすれば、このような損失をある程度低減させることができる。
【0024】
旋回羽根24を上述したような構成とすることにより、旋回流を効果的に発生させることができる。吸気行程にて吸気バルブ8が燃焼室2に向けて開くと、吸気通路6の燃焼用空気は、高速の流速にて燃焼室2に流入を開始する。旋回羽根24とはいえ、この高速の流速にて燃焼室2に向けて流入する燃焼用空気の妨げになってはいけない。吸気バルブ8の傘部22において、旋回羽根24の始点を高速の流速にて燃焼室2に流入する燃焼用空気の妨げにならない位置である流速が遅い吸気バルブ8のバルブステム21と吸気バルブ傘部22との境界の位置から始まり、吸気バルブ傘部22の中間位置となる吸気バルブ傘部22上にてバルブステム21とバルブフェース23との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所にて旋回羽根の突端部の高さが最大となるピーク点27となるようにしてある。即ち、旋回羽根の高さを旋回羽根の始点から中間位置Sの箇所であるピーク点27に向けて徐々に高くすることによって吸気バルブ8の傘部22において高速の流速にて燃焼室2に向けて流入する燃焼用空気に対して流速が遅い箇所の吸気バルブの傘部22の境界層にある燃焼用空気から旋回流を発生させるようにしてある。逆に旋回羽根24によって生じた旋回流を維持し成長させるために、吸気バルブ8のバルブフェース23付近での吸気バルブ8の開閉の邪魔にならないようにバルブステム21とバルブフェースとの最短となる直線距離の中間位置Sの箇所にて吸気バルブ傘部22から突端部28までの高さが最大となった旋回羽根24は、バルブステム21とバルブフェース23との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所から終点である吸気バルブ8の傘部22とバルブフェース23との境界手前に近づくにつれて、徐々に低くなるように形成され、吸気バルブ8の傘部22とバルブフェース23との境界線では旋回羽根24は終了しており高さはゼロとなっている。燃焼室2に流入する燃焼用空気の量を多くするため吸気バルブ8が開いた時に開口部が360度広くなるように吸気バルブ8の末端であるバルブフェース23付近を広くしておかなければならない。このような構造とすることによって4ストロークサイクルエンジンの一連の行程の吸気行程において吸気バルブ8の開閉動作の邪魔にならないように回避している。
【0025】
また、吸気バルブ8の傘部22に設けられた旋回羽根24で得られた旋回渦を成長させ燃焼用空気自体に誘導させて燃焼用空気全体に波及させる目的から、旋回羽根24は、吸気バルブ8のねじれ角αは、矢印Fの方向、すなわち旋回羽根24の始点となる吸気バルブ8のバルブステム21と吸気バルブ傘部22との境界の位置からその終点である吸気バルブ8の傘部22とバルブフェース23との境界手前に向かうにつれて、徐々に大きくなるようにして設けられている。この構造により、吸気バルブ傘部22の表面を通過する燃焼用空気ができるだけ旋回羽根24のいずれかの箇所に接触できるようにし、旋回羽根24の表面に生成された旋回流を燃焼用空気全体へと誘導させる構造としている。
【0026】
高速で流れる気流の方向は急には変えられない。変えようとすると変えようとする箇所にて気流の流速の抵抗となり流速の損失を招いてしまう。本発明では、いきなりバルブ傘部22の表面の流れる燃焼用空気を強制的にいきなり旋回させるのではなく、旋回羽根の高さを旋回羽根の始点から中間位置Sの箇所であるピーク点27に向けて徐々に高さを上げていき傘部22の表面において、高速の流速で燃焼室2に向けて流入する燃焼用空気に対して流速が遅い傘部22表面の境界層にある燃焼用空気から旋回させつつ、旋回羽根24のねじれ角αを少しずつ大きく(増やして)していき、旋回流を成長させていく形状としている。吸気行程にて吸気バルブ8が開き、燃焼用空気を狭い吸気通路6から広い燃焼室2へと拡散していくには、最初にゆるく徐々に向きを変えた方が効率的に効果的に燃焼用空気に対して旋回流(スワール)を発生させることができる。
【0027】
さらに、吸気バルブ8の傘部22表面においてバルブステム21側からバルブフェース23側に向けて流れてくる燃焼空気に対して、すくい上げるように円滑に旋回羽根24にて旋回渦が得られるように旋回羽根24の内側側面は、その突端部28の位置から旋回羽根24の内側基点29にかけて緩やかに傾斜させ、内側側面25は、旋回羽根24自体の内側に凹む弧を描いた状態となるようにして設けられている。吸気行程に入って吸気バルブ8が燃焼室2に向けて開いた時に燃焼室2に流入する燃焼用空気の流速が一番速い箇所は、何処かと言えば吸気バルブ8の末端のバルブフェース23と吸気通路6との区間の中心付近であり、吸気通路6の壁と吸気バルブ8の影響を受けにくく、一番流速が速い。旋回羽根24の内側側面25を旋回羽根24自体の内側に凹む弧を描いた状態とすることによって、吸気行程に入って吸気バルブ8が燃焼室2に向けて開いた時に吸気バルブ8の傘部22表面では、燃焼用空気が勢いよくバルブステム21側からバルブフェース23側に向けて高速で流れてくる燃焼用空気は、旋回羽根24の内側側面25の弧の区間に入り燃焼空気はすくい上げられるような状態に回転して流速の速い流速の中心部へと加速され誘導されていく。旋回羽根24の内側側面25の弧の区間で生成されていく旋回渦が多く強くなれば燃焼室2へ流入する燃焼用空気全体へと波及していき、燃焼用空気全体に大きく強い横方向の渦であるスワールを形成することができる。
【0028】
また一方、旋回羽根24の外側側面26は、内側側面25と同様にその突端部28の位置から旋回羽根24の外側基点30にかけて緩やかに傾斜させ、外側側面26は、旋回羽根24自体の内側に凹む弧を描いた状態となるようにして設けられる。内側側面25と異なる点は、旋回羽根24自体による燃焼用空気が滞留する死角を作らない事。燃焼用空気が吸気バルブ8の傘部22の旋回羽根24の外側側面26にて滞留しない事に重点が置かれている。吸気バルブ8のバルブステム21側からバルブフェース23側を見ると旋回羽根24の外側側面26は影になってしまう。吸気行程により吸気バルブ8が燃焼室2に向けて開くと燃焼用空気は、吸気バルブ8の傘部22の表面ではバルブステム21側からバルブフェース23側に向けて一気に流れてくる。旋回羽根24の何れかに影になる箇所があるとその部分だけ吸気される燃焼用空気の流速を弱めてしまう事になりかねない。また吸気行程により吸気バルブ8が燃焼室2に向けて開くと燃焼用空気は高速で燃焼室に向けて流れる。高速で流れる燃焼用空気は圧の強い所から弱い所に向けて流れる傾向がある。本発明では、ここに着目し吸気バルブ8のバルブステム21側からバルブフェース23側を見ると影になる旋回羽根24の外側側面26に滞留させない構造としている。外側側面26は、旋回羽根24自体の内側に凹む弧を描いた状態となるような構造とする事によって旋回羽根の外側側面に滞留しようとする燃焼空気に内側に凹む弧を描いている区間にてすくい上げられるような状態に回転させて流速の速い領域へと誘導させている。
【0029】
以上のように、本発明の実施例1のエンジン1の吸気バルブ8構造によれば、吸気行程での吸気バルブ8の開動作により燃焼室2に燃焼用空気が流れ込む直前では、吸気バルブ傘部22表面に流れる燃焼用空気に旋回流を発生させることにより、その際に生じる種々の損失を低減させることができ、これにより燃焼室2への流入する燃焼用空気の充填効率を向上させることができる。
【実施例2】
【0030】
図5に示すように、排気バルブ9の構造は、大きく分けて上端部のコレットと棒状のバルブステム31と傘部32と傘部32の外周のバルブフェース33となっている。排気バルブ9の傘部32には、排気行程により排気バルブ9が燃焼室2に向けて開き燃焼室2にて燃焼後の排気ガスを排気通路7へと排出する排気ガスに旋回流を生じさせる目的から旋回羽根34が設けられている。旋回羽根34の始点はバルブステム31と傘部32の境界から始まり傘部32とバルブフェース33の境界の手前を終点としている。
【0031】
続いて、本発明の特徴部分である排気バルブ9の傘部32に備えられた旋回羽根34の構成について詳細に説明する。
図6は排気バルブ9をバルブステム31の上部から観た図であり、
図7は排気バルブ傘部32に設けられる旋回羽根34の1つを、
図6でのMーN間を概略的に示す説明図であり、
図8は
図5での排気バルブ傘部32に設けられた旋回羽根34のJーK間の断面図である。
【0032】
図9に示すように、排気通路7は、膨張行程にて燃焼室2にて燃焼された後の排気ガスを排気通路7へと導くように管状に形成され、末端は燃焼室排気口部に接続されている。燃焼室排気口部には排気バルブ9が取り付けられ、排気バルブ9の開閉動作により、燃焼室内2から排気ガスが排気通路7へと排出される。
図6に示すように排気バルブ9の傘部32には、複数枚(
図2では3枚)の旋回羽根34が一定の間隔で設けられる。
図5から
図8で示すように各旋回羽根34は、排気バルブ傘部32の表面を矢印Fの方向に流れる排気ガスの気体が、排気バルブ傘部32の表面に沿ってR方向に旋回させるべく、旋回方向Rの方向に曲げられて螺旋状になるように設けられている。
【0033】
図5から
図7に示すように、旋回羽根34は、ねじれた形状とした羽根状に形成されている。旋回羽根34は、まず、排気バルブ傘部32から突端部38までの高さが、旋回羽根34の始点となる排気バルブ9のバルブステム31と排気バルブ傘部32との境界の位置から、その排気バルブ傘部32において、バルブステム31とバルブフェース33との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所に近づくにつれて、徐々に高くなるように形成され、排気バルブ傘部32から突端部38までの高さは、排気バルブ傘部32上においてバルブステム31とバルブフェース33との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所にて旋回羽根の突端部38の高さが最大となるピーク点37となるようにしてある。排気バルブ傘部32において、バルブステム31とバルブフェース33との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所にて排気バルブ傘部32から突端部38までの高さが最大となった旋回羽根34は、バルブステム31とバルブフェース33との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所から終点である排気バルブ9の傘部32とバルブフェース33との境界手前に近づくにつれて、徐々に低くなるように形成されている。
【0034】
また、旋回羽根34は、排気バルブ9のねじれ角αは、旋回羽根の始点となる排気バルブ9のバルブステム31と排気バルブ傘部32との境界線の位置からその終点である排気バルブ9の傘部32とバルブフェース33との境界線手前に向かうにつれて、徐々に大きくなるようにして設けられる。さらに、旋回羽根34の内側側面35は、その突端部38の位置から旋回羽根34の内側基点39にかけて緩やかに傾斜させ、内側側面35は、旋回羽根34自体の内側に凹む弧を描いた状態となるようにして設けられる。また一方、旋回羽根34の外側側面36は、その突端部38の位置から旋回羽根34の外側基点40にかけて緩やかに傾斜させ、外側側面36は、旋回羽根34自体の内側に凹む弧を描いた状態となるようにして設けられている。
【0035】
次いで、上記のように構成される排気バルブ9の作用及び効果について説明する。
【0036】
通常、高膨張比の効果は高圧縮化からも得ることができる。しかし、ガソリンエンジンの高圧縮化にはノッキングの問題がある。ノッキングは圧縮時の燃焼室2が高温になることで引き起こされる。この温度の問題に効くのが掃気である。熱の残る燃焼後の排気ガスを充分に排気通路7へと排出することで、圧縮前の温度を下げておけば、圧縮時の温度上昇も抑えることが可能となる。吸入する燃焼用空気を抑制することで圧縮比の実効値を抑えるミラーサイクルエンジンにおいても掃気効果を向上させる事によって出力犠牲にすることなく高効率化が可能となる。
【0037】
4ストロークサイクルエンジンの一連の行程にて排気行程では排気バルブ9の開閉動作により燃焼室2から排出される排気ガスは、排気バルブ9の上面である傘部32の表面に沿って排気通路7に導かれる。排気バルブ9が燃焼室2に向けて開いたとき、燃焼室2から排気バルブ傘部32に接触する排気ガスは、排気バルブ傘部32に設けられた旋回羽根34の外側側面36に接触し、排気ガスは螺旋状に設けられた旋回羽根34の外側側面36に沿って流れる。これにより、排気ガスの気体には円周方向Rの流れ成分が与えられ、次第にその円周方向Rに旋回するようになる。そして、旋回流の流れを維持しながら排気通路7へ流れ込んでいく。通常のエンジン1において、排気行程にて排気バルブ9が開き排気通路7へと流れる排気ガスが、整流状態となっていることはない。排気バルブ9が開き燃焼室2より遙かに狭い排気通路7へと流れ込むと排気ガスは、排気ガス同士が激しく衝突し合い排出されにくくなり掃気効果を低減させている。しかし、本発明の実施例2のように、排気バルブ9が開き排気通路7へと流入する直前に排気バルブ傘部32の表面にて旋回流を与えて燃焼室2から排気通路7へと渦を形成して流れ込ませるようにすれば、掃気効果を向上させることができる。
【0038】
旋回羽根34を上述したような構成とすることにより、旋回流を効果的に発生させることができる。すなわち、排気行程にて排気バルブ9が燃焼室2に向けて開くと、排気ガスは、ピストン3の上昇に押されて高速の流速にて燃焼室2から排気通路7へと排出を開始する。旋回羽根34とはいえ、この高速の流速にて排気通路7へと排出される排気ガスの妨げになってはいけない。本発明の排気バルブ9では、最も排気バルブ9の傘部32において高速の流速にて排気通路7へと排出する排気ガスが遅くまで接触する排気バルブ9のバルブステム32と排気バルブ傘部32との境界の位置から始まり、バルブステム31とバルブフェース33の中間位置となる排気バルブ傘部32上のバルブフェース33との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所にて旋回羽根34の突端部38の高さが最大となるピーク点37となるようにしてある。排気バルブ9の傘部32において高速の流速かつ乱流状態にて排気通路7へと排出される排気ガスに対して排気ガスが排気バルブ傘部32に最初に接種する排気バルブ9の傘部32とバルブフェース33との境界付近の排気バルブ傘部32表面の境界層にある排気ガスから旋回流を発生させるようにしてある。そして排気バルブ9のバルブフェース33付近での排気バルブ9の開閉の邪魔にならないようにバルブステム31とバルブフェース33との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所にて排気バルブ傘部32から突端部38までの高さが最大となった旋回羽根34は、バルブステム31とバルブフェース33との最短となる直線距離の中間位置Sの箇所から終点である排気バルブ9の傘部32とバルブフェース33との境界手前に近づくにつれて、徐々に低くなるように形成され、排気バルブ9の傘部32とバルブフェース33との境界では旋回羽根34は終了しており高さはゼロとなっている。燃焼室2から排気通路7へと排出される排気ガスの量を多くするため排気バルブ9が開いた時に開口部が360度広くなるように排気バルブ9の末端であるバルブフェース33付近を広くしておかなければならない。これで4ストロークサイクルエンジンの一連の行程の排気行程において排気バルブの開閉動作の邪魔にならないように回避している。
【0039】
また、排気バルブ9の傘部32に設けられた旋回羽根34で得られた旋回渦を成長させ排気ガス自体に誘導させて排気ガス全体に波及させる目的から、旋回羽根34において排気バルブ9のねじれ角αについては、旋回羽根34の始点となる排気バルブ9のバルブステム31と排気バルブ傘部32との境界の位置からその終点である排気バルブ9の傘部32とバルブフェース33との境界手前に向かうにつれて、徐々に大きくなるようにして設けられ、排気バルブ傘部32の上部を通過する排気ガスができるだけ旋回羽根34のいずれかの箇所に接触できるようにして、旋回羽根34の表面にて生成された旋回渦を排気ガス全体に誘導させている。また旋回羽根34の始点となる排気バルブ9のバルブステム31と排気バルブ傘部22との境界付近では排気ガス自体が排気通路7へと殆ど流入していることから旋回羽根のねじれ角αは旋回羽根34の始点に向けて小さくなっている。
【0040】
排気行程にて排気バルブ9が開き、排気ガスが燃焼室2から排気通路7へと排出される時に、燃焼室2から排気バルブ傘部32に向けて360度の全方向から勢いよく流れ込んでくる。この時に排気バルブ傘部32からバルブステム31にかけて排気ガス同士が激しく衝突して排気ガスの流速の損失が大きくなってしまう。流速の損失は排気効率が落ちてしまい掃気効果の向上が望めない。一般的に広い箇所から狭い箇所に流体を効率よく流れ込ませるには流れる流体自体に渦を形成させた方が効率的である。燃焼室2から排気バルブ傘部32に向けて360度全方向から排気ガスが流れ込んできても決して360度全方向の排気ガスの流速と圧が均等ではなく乱流の状態にある。排気バルブ傘部32にて乱流の状態にある排気ガス自体に渦を形成し易くなる状態に持ち込んでいけば排気ガス同士が衝突し、排気ガスの流速の損失を減少させることができる。本発明では、排気バルブ傘部32に最初に接触する排気バルブ9とバルブフェース33との境界付近の排気バルブ傘部32表面の境界層にある排気ガスから旋回流を発生させる旋回羽根34を設けることにより、排気行程にて排気バルブ9が開き排気ガス同士が衝突する前に排気バルブ傘部32の旋回羽根34によって傘部32の表面を流れる排気ガス自体に旋回流を発生させて、排気ガス自体が渦を形成し易い状態に持ち込んで排気ガス同士が衝突し、排気ガスの流速の損失を減少させて円滑に排気通路7へと排気ガスを排出させている。排気行程における排気ガスの流速の損失の低減は掃気効果が向上し排気行程での負荷が減りエンジンの出力向上に繋がる。
【0041】
さらに、排気バルブ9の傘部32表面においてバルブフェース33側からバルブステム31側に向けて流れてくる排気ガスに対して、すくい上げるように円滑に旋回羽根34にて旋回渦が得られるように旋回羽根34の外側側面36は、その突端部38の位置から旋回羽根の外側基点40にかけて緩やかに傾斜させ、外側側面36は、旋回羽根34自体の内側に凹む弧を描いた状態となるようにして設けられている。排気行程に入って排気バルブ9が燃焼室2に向けて開いた時に燃焼室2から排出される排気ガスの流速が一番速い箇所は、何処かと言えば排気バルブ9の末端のバルブフェース33と排気通路7との区間の中心付近であり、排気通路7の壁と排気バルブ9の影響を受けにくく、一番流速が速い。旋回羽根34の外側側面36を旋回羽根34自体の内側に凹む弧を描いた状態とすることによって、排気行程に入って排気バルブ9が燃焼室2に向けて開いた時に排気バルブ9の傘部32表面では、排気ガスが勢いよくバルブフェース33側からバルブステム31側に向けて高速で流れてくる。この排気バルブ9の傘部32表面を流れる排気ガスは、旋回羽根34外側側面36の弧の区間に入り排気ガスは、すくい上げられるような状態に回転して流速の速い流速の中心部へと加速され誘導されていく。旋回羽根34外側側面36の弧の区間で生成されていく旋回渦が多く強くなれば燃焼室から排気通路7へと排出される排気ガス全体へと波及していき、排気バルブ9の傘部32を基点に排気ガス全体に大きく強い渦を形成し排気通路7へ流れる排気ガスを円滑に流速の速い状態にて流す事ができ掃気効果が向上させることができる。
【0042】
また一方、旋回羽根34の内側側面35は、外側側面36と同様にその突端部38の位置から旋回羽根34の内側基点39にかけて緩やかに傾斜させ、内側側面36は、旋回羽根34自体の内側に凹む弧を描いた状態となるようにして設けられる。外側側面36と異なる点は、旋回羽根34自体が影となって傘部32に排気ガスが滞留する死角を作らない事。排気ガスが排気バルブ9の傘部32の旋回羽根34の内側側面35にて滞留しない事に重点が置かれている。排気バルブ9では、排気通路7へ排出される排気ガスから観ると実施例1の吸気バルブ8とは逆に排気バルブ9のバルブフェース33側からバルブステム31側を見ると旋回羽根34の内側側面35が影になってしまう。排気行程により排気バルブ9が燃焼室2に向けて開くと排気ガスは、排気バルブ9の傘部32の表面ではバルブフェース33側からバルブステム31側に向けて一気に流れてくる。旋回羽根34の何れかに気体が滞る箇所があるとその部分だけ排気される排気ガスの流速を弱めてしまう事になりかねない。また排気行程により排気バルブ9が燃焼室2に向けて開くと排気ガスは高速で排気通路7に向けて流れる。高速で流れる排気ガスは圧の強い所から弱い所に向けて流れる傾向がある。本発明では、ここに着目している。排気バルブ9のバルブフェース33側からバルブステム31側を見ると影になる旋回羽根の内側側面35に排気ガスを滞留させない構造としている。内側側面35は、旋回羽根34自体の内側に凹む弧を描いた状態となるような構造とする事によって旋回羽根34の内側側面35に滞留しようとする排気ガスに内側に凹む弧を描いている区間にてすくい上げられるような状態に回転させて流速の速い領域へと誘導させている。
【0043】
従って、本発明の実施例2のエンジン1の排気バルブ9の構造によれば、排気行程での排気バルブ9の開動作により燃焼室2から排気ガスが排気通路7へと流れ込む時に、排気バルブ傘部32の表面に流れる排気ガスに旋回流を発生させることにより、その際に生じる種々の損失を低減させることができ、これにより燃焼室2から排気ガスが排気通路7へと流れ込む時の流速の損失を低減させ掃気効率を向上させることができる。
【0044】
従って、実施例2のエンジン1の排気バルブ9の構造においても、前述した実施例1の作用及び効果と同様の効果が得られ、排気バルブ9の開動作により燃焼室2から排気通路7へと流れ込む時に排気ガスに旋回流を発生させることにより、その際に生じる種々の損失を低減させることができ、これにより燃焼室2の掃気効果の効率を向上させることができる。
【0045】
なお、本発明のエンジン1の吸気バルブ8の構造と排気バルブ9の構造は、上述した実施例1と実施例2に限定されるものではなく、請求項に記載された内容を逸脱しない範囲内において変更が可能である。例えば、次に示すような構成とすることもできる。
【0046】
旋回羽根34の取り付け枚数の条件は適宜変更が可能であり、エンジン1の形式や吸気通路6と排気通路7の内径、吸気バルブ8と排気バルブ9の形状や大きさ、燃焼室の形状、旋回流強度、などに応じて、最適の流れ(旋回流)が得られるように設計してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、ガソリンエンジン及びディーゼルエンジンを搭載する自動車を製造する産業で利用される。
【符号の説明】
【0048】
1.エンジン 2.燃焼室 3.ピストン 6.吸気通路
7.排気通路 8.吸気バルブ 9.排気バルブ 10.カム
11.リフター 12.バルブスプリング 13.アッパーリテーナー
14.ロアリテーナー 15.バルブガイド 21.吸気バルブステム
22.傘部 23.吸気バルブフェース 24.旋回羽根
25.旋回羽根内側側面 26.旋回羽根外側側面
27.旋回羽根ピーク点 28.旋回羽根の突端部
29.旋回羽根内側側面基点 30.旋回羽根外側基点
31.排気バルブステム 32.傘部 33.排気バルブフェース
34.旋回羽根 35.旋回羽根内側側面 36.旋回羽根外側側面
37.旋回羽根ピーク点 38.旋回羽根の突端部
39.旋回羽根内側側面基点 40.旋回羽根外側基点
R. 旋回方向 F. 流速の進行方向
【要約】
【課題】 エンジン1の吸気バルブ8において、燃焼空気に対し旋回流を発生させ、スワール効果により吸気通路6から燃焼室2への充填時に生じる種々の損失を低減させる。そしてエンジン1の排気バルブ9において、排気ガスに対し旋回流を発生させ、燃焼室2から排気通路7へと円滑に掃気効果を向上させる。
【解決手段】 吸気バルブ8の傘部22にバルブステム21と傘部22の境界を始点とし、傘部22とバルブフェース23の境界の手前を終点として、バルブステム側の始点からバルブフェース側の終点に向けて螺旋状に旋回羽根を複数箇所に設け、そして排気バルブ9の傘部32にもバルブステム31と傘部32の境界を始点とし、傘部32とバルブフェース33の境界の手前を終点として、バルブステム側の始点からバルブフェース側の終点に向けて螺旋状に旋回羽根を複数箇所に設ける。
【選択図】
図1