(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】塗工紙
(51)【国際特許分類】
D21H 19/62 20060101AFI20240704BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240704BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20240704BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240704BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20240704BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240704BHJP
D21H 19/60 20060101ALI20240704BHJP
D21H 27/10 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
D21H19/62
B05D7/00 F
B32B27/10
B32B27/36
B32B29/00
B65D65/40 D
D21H19/60
D21H27/10
(21)【出願番号】P 2023215825
(22)【出願日】2023-12-21
【審査請求日】2024-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2023001063
(32)【優先日】2023-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増野 由圭莉
(72)【発明者】
【氏名】大石 有理
(72)【発明者】
【氏名】坂本 信二
(72)【発明者】
【氏名】角田 浩佑
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-195716(JP,A)
【文献】国際公開第2021/256381(WO,A1)
【文献】特開2021-195717(JP,A)
【文献】特開2006-016724(JP,A)
【文献】国際公開第2004/041936(WO,A1)
【文献】特開2020-196259(JP,A)
【文献】国際公開第2021/153250(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102867459(CN,A)
【文献】松井尚,塗工液について,紙パ技協誌,2001年,Vol.55, No.12,p.1668(20)-1686(38)
【文献】鴻野銃二郎,印刷用塗工紙の最新の技術について(IV) 高濃度塗工について,紙パ技協誌,1985年,Vol.39, No.7,p.617(1)-626(10)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H、B05D、B32B、B65D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面上に、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート))と無機顔料と接着剤を含む塗工層を有し、
前記塗工層が、PHBHと無機顔料との固形分重量比(PHBH:無機顔料)が、90:10~0.01:99.99であ
り、
前記無機顔料が、体積50%平均粒子径(D50)が0.1μm以上6.0μm以下である、カオリン、エンジニアードカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムからなる群から選ばれる1以上であり、
前記接着剤が、ポリビニルアルコール類または部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする塗工紙。
【請求項2】
前記塗工層の固形分全体に対する前記接着剤の割合が、0.1~40重量%であることを特徴とする請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
前記塗工層中のPHBHと無機顔料との固形分重量比が、70:30~1:99であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PHBHを含む塗工液を塗工した塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックごみによる環境破壊を防ぐための動きが始まっており、プラスチック製使い捨て製品を、環境への負荷の小さな材料で代替することが求められている。プラスチックの代替材料としては、生分解性プラスチック、木材、紙等が挙げられる。
生分解性プラスチックとして、ポリ乳酸やポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルが知られている。しかし、脂肪族ポリエステルは、温度が低いと生分解に時間がかかり、海洋などの自然環境での分解速度が遅いという問題がある。
【0003】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、好気性、嫌気性下での分解性に優れた、微生物産生の熱可塑性プラスチックであり、海洋中などの水中でも微生物により短期間で分解されるという特筆すべき性能を有している。
特許文献1には、3-ヒドロキシブチレートと3-ヒドロキシヘキサノエートとの共重合体であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(以下、PHBHともいう)を含む生分解性ポリエステル水性分散液が、成膜性に優れ、かつ、塗料、接着剤、繊維加工、シート・フィルム加工、紙加工等に適用する際、柔軟で伸びがよく、折り曲げに対して強い樹脂塗膜を与えることが記載されている。
特許文献2、3には、PHBHを紙基材表面に塗工する場合に、塗工液に接着剤を添加することにより、PHBHの紙基材表面への定着性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2004/041936号
【文献】特開2021-195716号公報
【文献】特開2021-195717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、これら従来技術を参考に塗工紙の開発を行っていた所、PHBHと接着剤を含む塗工液で塗工紙を製造する際、乾燥条件が弱くなると、紙基材表面への塗工層の定着性が悪くなることを見出した。例えば、ドライヤー乾燥温度が変動して低くなった場合、塗工層の定着性が低下し、結果、塗工層剥がれ等の不良品が発生する。このため、乾燥条件が弱い場合でも、塗工層の定着性を向上させる技術が求められていた。
また、塗工液に含まれる接着剤の配合率が高くなると、塗工層の紙基材表面への接着性は改善される反面、接着剤配合の影響でヒートシール性が悪くなることが知られている(特許文献2、3の実施例等参照)。これは、塗工層中の接着剤(PVAや澱粉)が熱融着性を有さないため、ヒートシールを阻害するためと考えられる。しかし、そのような場合でも良好なヒートシール性を実現できる技術が求められていた。
本発明は、このような背景に基づいて検討されたものであり、乾燥時の乾燥条件が弱い場合でも紙基材への定着性に優れる塗工層を有する塗工紙を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、塗工層に接着剤が含まれていても良好なヒートシール性を有する塗工紙を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.紙基材の少なくとも一方の面上に、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート))と無機顔料と接着剤を含む塗工層を有し、
前記塗工層が、PHBHと無機顔料との固形分重量比(PHBH:無機顔料)が、90:10~0.01:99.99であることを特徴とする塗工紙。
2.前記無機顔料の体積50%平均粒子径(D50)が、6.0μm以下であることを特徴とする1.に記載の塗工紙。
3.前記塗工層中のPHBHと無機顔料との固形分重量比が、70:30~1:99であることを特徴とする1.または2.に記載の塗工紙。
4.前記塗工層上に、PHBHを含む第2塗工層を有することを特徴とする1.に記載の塗工紙。
5.前記無機顔料の体積50%平均粒子径(D50)が、8.0μm以下であることを特徴とする4.に記載の塗工紙。
6.前記塗工層中のPHBHと無機顔料との固形分重量比が、90:10~5:95であることを特徴とする4.または5.に記載の塗工紙。
7.前記第2塗工層中のPHBHの重量平均分子量が、前記塗工層中のPHBHの重量平均分子量よりも大きいことを特徴とする4.~6.のいずれかに記載の塗工紙。
8.ヒートシール強度が、5.2N/15mm以上であることを特徴とする4.~7.のいずれかに記載の塗工紙。
9.JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41:2000によるキットナンバーの平均値が4以上であることを特徴とする4.~8.のいずれかに記載の塗工紙。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塗工紙は、塗工層の定着性に優れており、塗工層の剥がれ等が起こりにくい。
第2塗工層を有する本発明の塗工紙は、ヒートシール強度に優れており、ヒートシール紙として好適に用いることができる。さらに、塗工層が体積50%平均粒子径(D50)が8.0μm以下の無機顔料を含む場合には、耐油性、耐水性に優れており、耐油性ヒートシール紙、耐水性ヒートシール紙、耐水耐油性ヒートシール紙として好適に用いることができる。
本発明の塗工紙は、塗工紙全体に対する生分解性材料の比率が高く、仮に環境中に流出しても、迅速に分解される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の塗工紙は、紙基材の少なくとも一方の面上に、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート))と無機顔料と接着剤を含む塗工層を有し、
この塗工層が、PHBHと無機顔料との固形分重量比(PHBH:無機顔料)が、90:10~0.01:99.99である。
なお、本明細書において「A~B」(A、Bは数値や比率)との記載は、A、Bを含む数値範囲を意味する。
【0009】
(紙基材)
紙基材は、主としてパルプからなるシート(以下、「基紙」ともいう。)であり、さらに填料、各種助剤等を含む紙料を抄紙して得られる。
パルプとしては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未漂白パルプ(NUKP)、サルファイトパルプなどの化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプなどの機械パルプ、脱墨パルプ、古紙パルプなどの木材繊維、ケナフ、竹、麻などから得られた非木材繊維などが挙げられ、これらの1種または2種以上を適宜配合して用いることができる。これらの中でも、紙基材中への異物混入が発生し難いこと、古紙原料としてリサイクル使用する際に経時変色が発生し難いこと、高い白色度を有するため印刷時の面感が良好となり、特に包装材料として使用した場合の使用価値が高くなることなどの理由から、木材繊維の化学パルプ、木材繊維の機械パルプを用いることが好ましく、木材繊維の化学パルプを用いることがより好ましい。具体的には、全パルプに対するLBKP、NBKP等の木材繊維の化学パルプの配合量は80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましく、100重量%が最も好ましい。
【0010】
填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの無機填料、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール系樹脂、微小中空粒子等の有機填料等の公知の填料を使用することができる。なお、填料は、必須材料ではなく、使用しなくてもよい。
【0011】
各種助剤としては、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などのサイズ剤、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、嵩高剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が例示可能であり、必要に応じて適宜選択して使用可能である。
【0012】
紙基材は、その表面が各種薬剤で処理されていてもよい。薬剤としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、表面サイズ剤、耐水化剤、保水剤、増粘剤、滑剤などを例示することができ、これらを単独あるいは2種類以上を混合して用いることができる。さらに、これらの各種薬剤と顔料を併用してもよい。顔料としてはカオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコアーシェル型などの有機顔料などを単独または2種類以上混合して使用することができる。
【0013】
紙基材の坪量は、所望される各種品質やその用途等により適宜選択可能であるが、通常は20g/m2以上600g/m2以下が好ましく、25g/m2以上600g/m2以下がより好ましい。
例えば、包装紙、紙袋、蓋材、敷き紙、牛乳パックなどの液体紙容器等の包装材、屋外で使用されるポスター等に使用する場合、紙基材の坪量は、20g/m2以上350g/m2以下が好ましい。軟包装材として使用する場合、紙基材の坪量は、20g/m2以上100g/m2以下が好ましく、20g/m2以上80g/m2以下がより好ましい。なお、軟包装材とは、包装材の中でも、特に20g/m2から100g/m2程度の薄手の紙を用いた、柔軟性に富んだ包装材である。また、紙コップ、紙容器、紙箱、紙皿、紙トレー等に使用する場合、紙基材の坪量は、150g/m2以上300g/m2以下が好ましい。
また、紙基材の密度は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は0.5g/cm3以上1.0g/cm3以下のものが好ましい。
【0014】
紙基材の製造(抄紙)方法は特に限定されるものではなく、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、ギャップフォーマー型、ハイブリッドフォーマー型(オントップフォーマー型)等のツインワイヤー抄紙機等、公知の製造(抄紙)方法、抄紙機が選択可能である。また、抄紙時のpHは酸性領域(酸性抄紙)、疑似中性領域(疑似中性抄紙)、中性領域(中性抄紙)、アルカリ性領域(アルカリ性抄紙)のいずれでもよく、酸性領域で抄紙した後、紙層の表面にアルカリ性薬剤を塗工してもよい。また、紙基材は1層であってもよく、2層以上の多層で構成されていてもよい。
また、紙基材の表面を薬剤で処理する場合、表面処理の方法は特に限定されるものでなく、ロッドメタリングサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、カーテンコーターなど公知の塗工装置を用いることができる。
【0015】
(塗工層)
塗工層は、PHBHと無機顔料と接着剤を含む。なお、塗工層は、PHBH、無機顔料、接着剤の他に、必要に応じて、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸等の他の生分解性樹脂、分散剤、粘性改良剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、蛍光染料、着色染料、着色顔料、界面活性剤、pH調整剤、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、紫外線吸収剤、金属塩など、製紙分野において塗工液に配合される各種助剤を含むことができる。
【0016】
<PHBH>
PHBHは、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBともいう。)と3-ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHともいう。)との共重合体であり、微生物が産生することが知られている生分解性樹脂である。本発明において、PHBHは、微生物由来のものを用いてもよく、石油資源由来のものを用いてもよいが、微生物由来のものを用いることが環境負荷低減の点から好ましい。
【0017】
PHBHを産生する微生物としては、細胞内にPHBHを蓄積する微生物であればとくに限定されないが、A.lipolytica、A.eutrophus、A.latusなどのアルカリゲネス属(Alcaligenes)、シュウドモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、アゾトバクター属(Azotobacter)、ノカルディア属(Nocardia)、アエロモナス属(Aeromonas)などの菌があげられる。なかでも、PHBHの生産性の点で、とくにアエロモナス・キャビエなどの菌株、さらにはPHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユウトロファス AC32(受託番号FERM BP-6038、寄託日平成9年8月7日、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、あて名;日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)(J.Bacteriol.,179,4821-4830頁(1997))などが好ましい。また、アエロモナス属の微生物であるアエロモナス・キャビエ(Aeromonas.caviae)からPHBHを得る方法は、たとえば、特開平05-093049号公報に開示されている。なお、これらの微生物は、適切な条件下で培養して、菌体内にPHBHを蓄積させて用いられる。
培養に用いる炭素源、培養条件は、特開平05-093049号公報、特開2001-340078号公報等に記載の方法に従い得ることができるが、これらには限定されない。
【0018】
PHBHの組成比(モル%)は、3HB:3HH=97:3~75:25が好ましく、95:5~85:15がより好ましい。3HHの組成が3モル%未満ではPHBHの特性が3HBホモポリマーの特性に近くなり柔軟性が失われるとともに成膜加工温度が高くなりすぎて好ましくない傾向がある。3HHの組成が25モル%を超えると結晶化速度が遅くなりすぎ成膜加工に適さず、また、結晶化度が下がることで、樹脂が柔軟になり曲げ弾性率が低下する傾向がある。PHBHの組成比は、水性分散液を遠心分離したのち、乾燥させて得られたパウダーをNMR分析により測定することができる。
微生物産生PHBHはランダム共重合体である。共重合体のモル比を調整するために、菌体の選択、原料となる炭素源の選択、異なるモル比のPHBHとのブレンド、3HBホモポリマーとのブレンドなどの方法がある。
【0019】
PHBHの重量平均分子量は、5万~150万が好ましい。PHBHの重量平均分子量がこの範囲内であると、塗工後に乾燥する際に、低温での成膜が可能となる。PHBHの重量平均分子量は、10万~50万がより好ましく、15万~45万がさらに好ましい。なお、PHBHの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、昭和電工社製「Shodex GPC-101」等)によって、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K-804」等)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。なお、測定用試料としては、PHBHを含む水性分散液を遠心分離した後、乾燥させて得られたパウダーを用いる。
【0020】
PHBHの平均粒径は、0.1~50μmであることが好ましい。平均粒径が0.1μm未満のPHBHは微生物産生では生成困難であり、また、化学合成法で得る場合にも、微粒子化するという操作が必要となる。平均粒径が50μmを超えるとPHBHを含有する塗工液を塗布した場合に表面に塗布むらが起こる場合がある。PHBHの平均粒径は、0.5~10μmであることがより好ましい。なお、PHBHの平均粒径は、マイクロトラック粒度計(日機装製、FRA)など汎用の粒度計を用い、PHBHの水懸濁液を所定濃度に調整し、正規分布の全粒子の50%蓄積量に対応する粒径をいう。
塗工液中のPHBHの固形分濃度は、特に制限されず、その塗工方法等に適した粘度等となるように調整することができるが、例えば、5~70重量%が好ましい。固形分濃度が5重量%未満では塗膜の形成がうまくいかない傾向があり、70重量%を超えると塗工液の粘度が高くなりすぎ、塗工が困難になる傾向がある。塗工液中のPHBHの固形分濃度は、10~55重量%がより好ましい。
【0021】
<無機顔料>
無機顔料としては、紙への塗工に用いられているものを特に制限することなく使用することができ、例えば、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、ベントナイト、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中で、カオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、ベントナイトの1種以上が好ましい。
【0022】
無機顔料は、塗工層の定着性の点から、レーザー回折/散乱法で測定した体積50%平均粒子径(D50)(以下、「平均粒子径」ともいう。)が6.0μm以下であることが好ましい。なお、レーザー回折/散乱法の測定装置としては、例えば、堀場製作所社の粒子径分布測定装置「Partica」、マルバーン社の粒度分布測定装置「MASTER SIZER S」などが例示可能である。塗工層の定着性の点からは、無機顔料の平均粒子径は、5.0μm以下がより好ましく、4.0μm以下がさらに好ましく、3.0μm以下がよりさらに好ましく、2.0μm以下がよりさらに好ましい。無機顔料の平均粒子径の下限は特に制限されないが、分散性等の点から、例えば、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。2種以上の無機顔料を含む場合は、少なくとも1種の平均粒子径が上記した数値範囲であることが好ましく、無機顔料全体に対するこの平均粒子径を満足する無機顔料の割合が50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。
【0023】
また、塗工層上に第2塗工層を設けた場合の耐油性、耐水性の点からは、無機顔料の平均粒子径は8.0μm以下であることが好ましい。第2塗工層を設けた場合の耐油性、耐水性の点からは、無機顔料の平均粒子径は7.0μm以下がより好ましく、6.0μm以下がさらに好ましく、5.0μm以下がよりさらに好ましく、4.0μm以下がよりさらに好ましく、3.0μm以下がよりさらに好ましく、2.0μm以下がよりさらに好ましい。無機顔料の平均粒子径の下限は特に制限されないが、分散性等の点から、例えば、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。2種以上の無機顔料を含む場合は、少なくとも1種の平均粒子径が上記した数値範囲であることが好ましく、無機顔料全体に対するこの平均粒子径を満足する無機顔料の割合が50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。
【0024】
無機顔料は、アスペクト比が60以下であることが、塗工層上に第2塗工層を設けた場合の耐油性、耐水性の点から好ましい。なお、アスペクト比は、粒子径測定装置による測定値を用いて、紙パルプ技協誌 第65巻 第12号「塗工顔料物性と塗工紙品質の関係についての基礎研究」に記載された計算方法で算出することができる。無機顔料のアスペクト比は、40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましく、25以下がよりさらに好ましく、20以下がよりさらに好ましい。無機顔料のアスペクト比の下限は特に制限されない。2種以上の無機顔料を含む場合は、少なくとも1種のアスペクト比が上記した数値範囲であることが好ましく、無機顔料全体に対するこのアスペクト比を満足する無機顔料の割合が50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。
【0025】
塗工層におけるPHBHと無機顔料との固形分重量比(PHBH:無機顔料、合計が100)は、90:10~0.01:99.99である。PHBHと接着剤を含む塗工液に、さらに無機顔料を配合することにより、得られる塗工層の定着性が向上する。そのメカニズムは不明であるが、本発明者らは、無機顔料は有機物であるPHBHと接着剤よりも熱伝導性に優れるため、加熱時に無機顔料が素早く昇温し、この熱が無機顔料からPHBHに伝わることにより、PHBHが十分に加熱されるためであると推測している。
【0026】
PHBHと無機顔料との固形分重量比(PHBH:無機顔料、合計が100)は、塗工層の定着性の点から、70:30~1:99が好ましく、60:40~2:98がより好ましく、50:50~3:97がさらに好ましい。
また、塗工層上に第2塗工層を設けた場合のヒートシール強度の点からは、PHBHと無機顔料との固形分重量比(PHBH:無機顔料、合計が100)は、90:10~5:95が好ましく、80:20~10:90がより好ましく、70:30~10:90がさらに好ましく、65:35~10:90がよりさらに好ましく、60:40~15:85がよりさらに好ましく、50:50~20:80がよりさらに好ましい。特に、無機顔料の平均粒子径が8.0μmを超える場合は、耐油性、耐水性の点から、PHBHと無機顔料との固形分重量比(PHBH:無機顔料)は、90:10~40:60が好ましく、90:10~50:50がより好ましい。
塗工層の固形分全体に対するPHBHと無機顔料の合計の割合は60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。
【0027】
<接着剤>
接着剤は、PHBH、無機顔料、紙基材等を接着するものである。本発明の塗工紙は、塗工層が接着剤を含むことにより、クラック、ピンホール等の塗工欠陥が抑制された均一な塗工層を得ることができる。
接着剤は、水に溶解または分散して、PHBH、無機顔料、紙基材等を接着できるものであれば、特に限定することなく使用することができる。例えば、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アマイド変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、ブチラール変性ポリビニルアルコール、オレフィン変性ポリビニルアルコール、ニトリル変性ポリビニルアルコール、ピロリドン変性ポリビニルアルコール、シリコーン変性ポリビニルアルコール、その他の変性ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール類、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉などの澱粉類、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロース、ナノセルロースなどのセルロース誘導体、部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、スチレン-無水マレイン酸共重合体ラテックス、ポリ塩化ビニルラテックス、ポリ酢酸ビニルラテックス等が挙げられ、これらの1種類以上を適宜選択して使用することができる。
【0028】
これらの中で、ポリビニルアルコール類、澱粉類、セルロース誘導体、部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックスからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことが好ましく、この群より選ばれる少なくとも1種類からなることがより好ましい。また、生分解性であるため、ポリビニルアルコール類、澱粉類、セルロース誘導体、部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことがより好ましく、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことがさらに好ましい。
【0029】
紙基材への定着性の点から、接着剤として完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコールの少なくとも1種を含むことが好ましく、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコールの少なくとも1種からなることがより好ましい。
また、塗工層の耐水性の点から、接着剤として部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことが好ましく、部分ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体からなることがより好ましい。
【0030】
塗工層の固形分全体に対する接着剤の割合は0.1~40重量%であることが好ましい。接着剤が0.1重量%未満では、接着剤による定着性向上効果がほとんど期待できず、40重量%を超えると接着剤が多くなりすぎてPHBHに由来する性能が十分に発揮できない場合があり、また、耐水性が低下するため、塗工紙の用途によっては好ましくない。塗工層の固形分全体に対する接着剤の割合は、1重量%以上がより好ましく、3重量%以上がさらに好ましく、5重量%以上がよりさらに好ましく、また、30重量%以下がより好ましく、25重量%以下がさらに好ましく、20重量%以下がよりさらに好ましい。
【0031】
(第2塗工層)
本発明の塗工紙において、塗工層上にPHBHを含む第2塗工層を形成することができる。無機顔料を含む塗工層上に、第2塗工層を形成することにより、ヒートシール強度が向上する。そのメカニズムは不明であるが、本発明者らは、無機顔料を含む塗工層は高温に達するまでの時間が短く、熱融着加工の際に第2塗工層がより長い時間高温に晒されるためであると推測している。
【0032】
第2塗工層は、上記したPHBHと重量平均分子量の範囲以外は同等のものを含むことができ、第2塗工層のPHBHは重量平均分子量が5万~150万であることが好ましい。
第2塗工層のPHBHは、塗工層のPHBHよりも重量平均分子量が大きいことが好ましい。PHBHは、分子量が大きいほどMFRが小さくなりヒートシール加工に高温が必要となるが、本発明の第2塗工層はヒートシール性に優れているため、高分子量のPHBHも好適に用いることができる。そして、第2塗工層が重量平均分子量の大きなPHBHを含むことにより、PHBHに由来する耐油性、耐水性等の性質をより発揮することができる。
【0033】
第2塗工層は、PHBHを50重量%以上含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、95重量%以上含むことがよりさらに好ましく、98重量%以上含むことがよりさらに好ましく、99重量%以上含むことがよりさらに好ましい。第2塗工層は、PHBHの他に、必要に応じて、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸等の他の生分解性樹脂、上記した接着剤、無機顔料、分散剤、粘性改良剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、蛍光染料、着色染料、着色顔料、界面活性剤、pH調整剤、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、紫外線吸収剤、金属塩など、製紙分野において塗工液に配合される各種助剤を含むことができる。
【0034】
(塗工層、第2塗工層の塗工)
本発明において、塗工層と、任意の第2塗工層の塗工方法については特に限定されるものではなく、公知の塗工装置及び塗工系で塗工することができる。例えば、塗工装置としてはブレードコーター、バーコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、リバースロールコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーターなどが挙げられる。また、塗工系としては、水等の溶媒を使用した水系塗工、有機溶剤等の溶媒を使用した溶剤系塗工などが挙げられるが、水系であることが好ましい。
塗工層、第2塗工層を乾燥させる手法としては、例えば、蒸気加熱ヒーター、ガスヒーター、赤外線ヒーター、電気ヒーター、熱風加熱ヒーター、マイクロウェーブ、シリンダードライヤー等の通常の方法が用いられる。
また、第2塗工層は、塗工層と同時に塗工することもでき、塗工層の乾燥前に塗工することもでき、塗工層の乾燥後に塗工することもできる。
【0035】
塗工層の塗工量は、乾燥重量で1g/m2以上50g/m2以下とすることが好ましい。塗工層の塗工量が1g/m2未満であると、塗工層による効果がほとんど見込めない場合がある。一方、50g/m2より多いと、塗工時の乾燥負荷が大きくなる。塗工層の塗工量は、3g/m2以上がより好ましく、5g/m2以上がさらに好ましく、40g/m2以下がより好ましく、30g/m2以下がさらに好ましい。
【0036】
第2塗工層を形成する場合、第2塗工層の塗工量は、0.5g/m2以上20g/m2以下とすることが好ましい。第2塗工層の塗工量が0.5g/m2未満であると、第2塗工層による効果がほとんど見込めない場合がある。一方、20g/m2より多いと、塗工時の乾燥負荷が大きくなる。第2塗工層の塗工量は、1g/m2以上がより好ましく、3g/m2以上がさらに好ましく、17g/m2以下がより好ましく、14g/m2以下がさらに好ましい。
【0037】
・塗工紙
塗工層と任意の第2塗工層は、PHBHを含むため、PHBHの有する機能性を発揮させることができ、例えば、ヒートシール層、耐油層、耐水層等として用いることができる。なお、塗工層は、紙基材の片面のみ、または両面に設けることができる。また、塗工層が両面に設けられている場合に、第2塗工層は、一方の塗工層上、または両方の塗工層上に設けることができる。
【0038】
ヒートシール層とは、ヒートシール適性を有する層であり、具体的には、加熱圧着することで接着対象に接着することができる層である。本発明の塗工紙にヒートシール性を付与する場合、加圧温度130℃、加圧圧力2kgf/cm2、加圧時間0.5秒でヒートシールし、引張速度200mm/min、T型で剥離したときのヒートシール強度が、5.0N/15mm以上であることが好ましい。このヒートシール強度は5.2N/15mm以上がより好ましく、5.5N/15mm以上がさらに好ましく、5.9N/15mm以上がよりさらに好ましく、6.2N/15mm以上がよりさらに好ましい。このヒートシール強度の上限は特に制限されないが、例えば、8.5N/15mm程度である。
【0039】
耐油層とは、J.TAPPI No.41:2000に規定される「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」に準拠して、層表面の任意の5点で測定したキットナンバーの平均値が4以上の層である。本発明の塗工紙に耐油性を付与する場合、このキットナンバーの平均値は、6以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、11以上がよりさらに好ましく、12であることが最も好ましい。
耐水層とは、JIS P 8140:1998に規定される「紙及び板紙-吸水度試験方法-コッブ法」に準拠して、接触時間120秒で測定した吸水度(コッブ値)が20g/m2以下の層である。本発明の塗工紙に耐水性を付与する場合、この吸水度は、10g/m2以下が好ましく、5g/m2以下がより好ましく、3g/m2以下がさらに好ましく、2g/m2以下がよりさらに好ましく、1g/m2以下がよりさらに好ましい。
【0040】
本発明の塗工紙は、成形、形状の維持、密封性の確保が容易であるため、紙袋、紙容器、紙箱、紙コップ、(軟)包装材、蓋材等として好適に用いることができる。
塗工層がヒートシール層である本発明の塗工紙は、包装紙、紙容器、紙箱、紙コップ、(軟)包装材、紙皿、紙トレー等として好適に用いることができる。
塗工層が、ヒートシール層かつ耐油層でもある本発明の塗工紙は、ハンバーガー、ホットドッグ、フライドポテト、唐揚げ、ポテトチップス等の油分を多く含む食品用の(軟)包装材や包装紙、天ぷら等の揚げ物用の敷き紙、紙皿、紙トレー、紙コップ等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、もちろんこれらの例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、例中の部および%は、それぞれ重量部、重量%を示す。
【0042】
・PHBH
特許文献1に記載の方法で、PHBHの固形分濃度が50重量%のPHBH水性分散液を得た。次いで、このPHBH水性分散液を60℃で加水分解して分子量を調整し、下記PHBHの固形分濃度50%の水性分散液を得た。
PHBH1:重量平均分子量20万
PHBH2:重量平均分子量60万
【0043】
・無機顔料
無機顔料1:カオリン(白石工業社、KCS)
平均粒子径3.6μm、アスペクト比10~15
無機顔料2:カオリン(CADAM社、アマゾンプラス)
平均粒子径0.4μm、アスペクト比9
無機顔料3:カオリン(リオカピム社、カピムDG)
平均粒子径1.2μm、アスペクト比13
無機顔料4:カオリン(白石工業社、バリサーフHX)
平均粒子径8.7μm、アスペクト比80~100
無機顔料5:重質炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社、ハイドロカーブ90)
平均粒子径<2μm
無機顔料6:デラミネーテッドカオリン(エンゲルハード社、ニューサーフ)
平均粒子径6.3μm、アスペクト比16
・接着剤
PVA1 :クラレ社製:28-98、ケン化度98モル%、重合度1700
【0044】
(評価方法)
・セロピック
乾燥後24時間経過後の塗工層表面に、セロハンテープ(幅25mm)を貼合し、セロハンテープの上で幅130mm、重量1.8kgのゴムローラーを自重で10往復させて、セロハンテープを塗工層表面に密着させた。直後にセロハンテープを勢いよく剥離し、セロハンテープを貼合した面積に対するセロハンテープに付着して塗工層が紙基材表面から剥離した面積(界面破壊の面積)の割合、または、塗工層とともに紙基材の一部がセロハンテープに付着して紙基材が破壊された面積(紙基材内部破壊の面積)の割合を算出し、以下の基準で紙基材との接着性を評価した。
評価が◎〇△であれば実用上問題がない。なお、塗工層が剥離した面積の割合と紙基材が破壊された面積の割合とで評価が異なる場合は、より厳しい評価となる方を採用した。[評価基準]
◎:塗工層が剥離した面積の割合が5%未満、
または、紙基材が破壊された面積の割合が95%以上。
〇:塗工層が剥離した面積の割合が5%以上10%未満、
または、紙基材が破壊された面積の割合が90%以上95%未満。
△:塗工層が剥離した面積の割合が10%以上30%未満、
または、紙基材が破壊された面積の割合が70%以上90%未満。
×:塗工層が剥離した面積の割合が30%以上、
または、紙基材が破壊された面積の割合が70%未満。
【0045】
・ヒートシール強度
JIS Z1707:2019 7.4「ヒートシール強さ試験」に準拠して行った。得られた塗工紙から1辺100mmの正方形の試験片を2枚切り出し、塗工層同士を接触させて、加圧温度130℃、加圧圧力2kgf/cm2、加圧時間0.5秒でヒートシールし、さらにそのヒートシールを行った100mm角の試験片から長辺100mm、短辺15mmになるように測定サンプルを切り出した。
その後、縦型引張試験機(エー・アンド・デイ社製、テンシロン)の上下の治具それぞれに、剥離させた長辺端部を挟持し、200mm/minの速度で長辺端部側から測定サンプルを剥離(T型)しながら、剥離強度、すなわち、HS強度を測定した。
【0046】
・耐油性
JAPAN TAPPI No.41:2000に規定される「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」に準拠して、塗工層表面の任意の5点でキットナンバーを測定した。
測定した5点のキットナンバーの平均値を耐油性の値として採用し、以下の基準で耐油性を評価した。評価が〇△であれば実用上問題がない。
[評価基準]
〇:キットナンバーの平均値が8以上。
△:キットナンバーの平均値が4以上8未満。
×:キットナンバーの平均値が4未満。
・耐水性
JIS P 8140:1998に規定される「紙及び板紙-吸水度試験方法-コッブ法」に準拠して、塗工層表面で、接触時間120秒の吸水度(コッブ値)を測定し、耐水性の値とした。
【0047】
[実施例1~9、参考例1、比較例1~3]
表1に示す固形分重量比となるように、PHBH1、無機顔料1、PVA1を加え、さらに水を加えて撹拌し、固形分濃度が40重量%の塗工液を得た。
紙基材(坪量50g/m
2)の片面上に、この塗工液を乾燥重量で10g/m
2となるようにバーブレード法で塗工し、105℃で1分間乾燥させて塗工紙を得た。
得られた塗工紙について、セロピック試験を行った。また、実施例1、3、比較例1で得られた塗工紙についてヒートシール強度測定を行った。結果を表1に示す。
【表1】
【0048】
本発明である実施例1~9、およびPHBHを含まない比較例3で得られた塗工紙は、セロピック評価が○または△であり、塗工層は実用上十分な強度を備えていた。
それに対し、無機顔料が少ない参考例1、比較例1、2で得られた塗工紙は、セロピック評価が×であり、塗工層が脆く剥がれやすかった。また、実施例1、3、比較例1で得られた塗工紙のHS強度の結果より、単層の塗工層を有する場合、無機顔料が増加するとHS強度が低下する傾向が見られた。
【0049】
[実施例1-2~9-2、参考例1-2a、比較例1-2~3-2]
表2に示す固形分重量比となるように、PHBH2、PVA1を混合し、さらに水を加えて撹拌し、PHBHとPVAを合わせた固形分濃度が40重量%の第2塗工層用塗工液を調製した。
実施例1~9、参考例1、比較例1~3で得られた塗工紙の塗工層上に、第2塗工層用塗工液を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようにバーブレード法でテーブル塗工し、160℃で3分間乾燥して、第2塗工層を有する塗工紙を得た。
得られた塗工紙について、セロピック試験とヒートシール強度測定を行った。また、一部の塗工紙について、耐水性測定を行った。結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
第2塗工層は、塗工層強度に優れ、セロピックでの剥離は僅かであった。
また、実施例1~9で得られた塗工紙の塗工層上にさらに第2塗工層を設けた試料(実施例1-2~9-2)は、ヒートシール強度に優れていた。特に、実施例4-2~8-2の結果より、塗工層におけるPHBHと無機顔料のこの範囲の配合比でヒートシール強度のさらなる上昇が確認された。このことから、無機顔料を有する塗工層上に、PHBHを含む塗工層を形成することにより、熱融着が進行しやすくなることが確かめられた。さらに、参考例1-2aより、塗工層が接着剤を含むことにより、耐水性に優れた塗工紙が得られることが確かめられた。
【0052】
[実施例10~14、21]
表3に示す固形分重量比となるように、PHBH1、無機顔料1~5のいずれか、PVA1を加え、さらに水を加えて撹拌し、固形分濃度が40重量%の塗工液を得た。なお、顔料による影響を確かめるため、顔料70部と比較的高い部数にした。
紙基材(坪量50g/m2)の片面上に、この塗工液を乾燥重量で10g/m2となるようにバーブレード法で塗工し、105℃で1分間乾燥させて塗工紙を得た。
得られた塗工紙について、セロピック試験を行った。結果を参考例1とともに表3に示す。
【0053】
【0054】
実施例13、21で得られた塗工紙は、実施例10~12、14で得られた塗工紙よりもセロピックが明らかに劣っていた。このことから、セロピックには、塗工層の顔料の平均粒子径が影響することが示唆された。
【0055】
[実施例10-2~14-2、21-2、参考例1-2b]
表4に示す固形分重量比となるように、PHBH1の水性分散液に水を加えて撹拌し、PHBHの固形分濃度が40重量%の第2塗工層用塗工液2を調製した。
実施例10~14、21、参考例1で得られた塗工紙の塗工層上に、第2塗工層用塗工液2を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようにバーブレード法でテーブル塗工し、160℃で3分間乾燥して、第2塗工層を有する塗工紙を得た。
得られた塗工紙について、セロピック試験、耐油性測定、耐水性測定を行った。結果を表4に示す。
【0056】
【0057】
第2塗工層は、塗工層強度に優れ、セロピックでの剥離は僅かであった。一方、HS強度は、実施例13-2で得られた塗工紙も表4中の他の塗工紙と同等であり、3.8N/15mmであった。
実施例10~12、14、21で得られた塗工紙の塗工層上にさらに第2塗工層を設けた試料は、キットナンバーの平均値が8以上であり、極めて耐油性に優れていた。実施例13で得られた塗工紙の塗工層上にさらに第2塗工層を設けた試料は、キットナンバーの平均値が4以上8未満であり、耐油性にやや優れていた。実施例13で得られた塗工紙は、使用した無機顔料が他の実施例と比較して大きく、塗工層における顔料の間の隙間を、PHBHと接着剤が埋めきれなかったため、耐油性が他の例より劣っていたと推測される。
【0058】
[実施例15~20、比較例4~6]
表5に示す固形分重量比となるように、PHBH1、無機顔料1または4、PVA1、を加え、さらに水を加えて撹拌し、固形分濃度が40重量%の塗工液を得た。
紙基材(坪量50g/m2)の片面上に、この塗工液を乾燥重量で10g/m2となるようにバーブレード法で塗工し、105℃で1分間乾燥させて塗工紙を得た。
さらに、PHBH2の水分散液に水を加えて撹拌し、固形分濃度が40重量%の第2塗工層用塗工液3を調製した。得られた塗工紙の塗工層上に、第2塗工層用塗工液3を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようにバーブレード法でテーブル塗工し、160℃で3分間乾燥して、第2塗工層を有する塗工紙を得た。
得られた塗工紙について、耐油性の測定を行った。結果を参考例1-2aとともに表5に示す。
【0059】
【0060】
参考例1-2aより、PHBH単独では耐油性に劣り、比較例4~6より、PHBHと接着剤、粒径の小さな無機顔料と接着剤を組み合わせることで耐油性を発揮できることが確かめられた。
本発明である実施例15~19は、無機顔料の粒径が小さいため、耐油性に優れていた。
実施例20は、粒径の大きな無機顔料を用いたものであり、他の例よりも耐油性に劣っていた。実施例13-2の結果と合わせて、塗工層中の無機顔料が大きくなると、塗工層における顔料の間の隙間をPHBHと接着剤が埋めきれなくなることが示唆された。ただし、実施例13、13-2が示すように、無機顔料が大きくともヒートシール適性は十分であり、優れた耐油性が要求されない用途には十分に用いることができる。
【0061】
[実施例22~46]
表6に示す固形分重量比となるように、PHBH1、無機顔料2~6、PVA1を加え、さらに水を加えて撹拌し、固形分濃度が40重量%の塗工液を得た。
紙基材(坪量50g/m2)の片面上に、この塗工液を乾燥重量で10g/m2となるようにバーブレード法で塗工し、105℃で1分間乾燥させて塗工紙を得た。
得られた塗工紙についてセロピック試験と、一部の塗工紙についてヒートシール強度測定を行った。結果を表6に示す。
【0062】
【0063】
塗工層が含む無機顔料の平均粒子径が8.7μmである実施例32~36、平均粒子径が6.3μmである実施例42~46は、セロピックに劣っており、無機顔料の平均粒子径が大きくなるとセロピックが低下することが確認できた。
実施例24、29、39が示すように、平均粒子径の小さな無機顔料を用いた場合、塗工層のヒートシール強度はほとんど変わらなかった。
【0064】
[実施例23-2~45-2]
実施例22~46で得られた塗工紙の一部について、塗工層上に実施例1-2等で用いた第2塗工層用塗工液を乾燥重量で塗工量10.0g/m
2となるようにバーブレード法でテーブル塗工し、160℃で3分間乾燥して、第2塗工層を有する塗工紙を得た。
得られた第2塗工層を有する塗工紙について、セロピック試験、ヒートシール強度測定、耐水性測定を行った。結果を表7に示す。
【表7】
【0065】
実施例23-2~25-2、28-2~30-2、38-2~40-2、43-2~45-2で得られた塗工紙は、第2塗工層の塗工層強度に優れ、セロピックでの剥離は僅かであった。また、ヒートシール強度と耐水性にも優れていた。このことから、塗工層上にさらに第2塗工層を設けることにより、塗工紙の熱融着が進行しやすくなることが確かめられた。
実施例35-2は、セロピックに劣り、耐水性も大きく劣っていた。実施例35-2は、平均粒子径8.7μmの無機顔料、PHBH:無機顔料=25:75の条件であり、大きな無機顔料を多く含む試料である。そのため、塗工層中に隙間が多く、第2塗工層を形成しても下層の塗工層の隙間を埋めきれなかったためであると推測される。実施例34-2、45-2で得られた塗工紙が、セロピック、耐水性が良好なことから、第2塗工層の塗工量を増やし、下層の塗工層の隙間を十分に埋められれば、セロピック、耐水性が向上することが示唆された。なお、実施例35-2で得られた塗工紙は、十分なヒートシール強度を有しており、耐水性、耐油性等が要求されない用途であれば使用することができる。
【要約】
【課題】紙基材への定着性に優れる塗工層を有する塗工紙を提供すること、または、良好なヒートシール性を有する塗工紙を提供すること。
【解決手段】紙基材の少なくとも一方の面上に、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート))と無機顔料と接着剤を含む塗工層を有し、前記塗工層が、PHBHと無機顔料との固形分重量比(PHBH:無機顔料)が、90:10~0.01:99.99であることを特徴とする塗工紙。
【選択図】なし