(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】回転機器の技術的状態を診断する方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240704BHJP
【FI】
G01M99/00 A
(21)【出願番号】P 2023512791
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(86)【国際出願番号】 RU2020000639
(87)【国際公開番号】W WO2022050865
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-05-10
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】518312460
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー“ロスエネルゴアトム”
(73)【特許権者】
【識別番号】523060909
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ ニュークリア ユニバーシティ メフィ(モスクワ エンジニアリング フィジックス インスティチュート)
(73)【特許権者】
【識別番号】520514768
【氏名又は名称】サイエンス アンド イノヴェーションズ - ニュークリア インダストリー サイエンティフィック デベロップメント,プライベート エンタープライズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】アビドバ, エレナ・アレクサンドロフナ
(72)【発明者】
【氏名】バベンコ, ローマン・ゲンナデヴィッチ
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-291738(JP,A)
【文献】特開2016-057999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045,99/00
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機器の技術的状態を診断する方法であって、
当該機器における機械的振動の特定および評価を含み、
検査対象の回転機器と同じタイプで、故障していないことが既知である機器からの参照用診断信号を、予め検査期間に亘って測定して、記録し、
当該検査対象の機器の動作中の診断信号を、検査期間に亘って測定して、記録し、
記録した参照用信号および当該検査対象の機器の信号を、少なくとも2秒間持続する少なくとも5つのセグメントに分割し、
記録した参照用信号および検査用信号をセグメントごとに、周波数に対する振幅の分布を表すスペクトルに変換し、
前記検査対象の機器および故障のない機器からの診断信号スペクトルの振幅を、検査用信号と参照用信号との間に偏差が現れる周波数でサンプリングし、
故障のない機器の
、前記サンプリングされたスペクトル振幅から、検査対象の機器の、前記サンプリングされたスペクトル振幅を差し引いた値の絶対差を計算し、
当該絶対差
が小さいほど低いランクを割り当てるランク付けして、
スペクトル振幅の差が負である絶対差のランクの合計値を求め、
当該得られたランクの合計値を閾値と比較し
、前記得られたランクの合計値が閾値を超える場合
、前記検査用信号の振幅が、欠陥が疑われる診断特徴を表していないと結論付ける
ことを特徴とする回転機器の技術的状態を診断する方法。
【請求項2】
前記診断信号として振動加速度を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の回転機器の技術的条件を診断する方法。
【請求項3】
ウィルコクソンT検定による有意水準および標本サイズに応じて、前記閾値を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の回転機器の技術的状態を診断する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、技術的診断の分野、特に、電気駆動機器の技術的状態を診断する方法に関し、原子力発電所の回転機器の振動を監視するために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
ミスアライメントといった回転要素の摩耗現象に関連する欠陥や、モーターのローターとステーターの間のエアギャップのばらつきを検出したり、ベアリング、キネマティックペアといったギアボックス部品の欠陥を特定したりするためには、回転機器の技術的状態の管理が必要となる。
【0003】
電気機器を診断するための既知の方法(特許文献1)においては、外部の低周波電磁界の「ポートレート」から直接電気駆動機器の技術的状態を判断するために、モーターのステーター巻線の前部の領域に測定素子を配置して、測定素子のコイル内の磁気強度の作用下で誘導される信号を変換および登録した後、データバンクに保存され、電気モーターのさまざまな動作モードに対応する外部フィールドの初期値と当該信号とを比較する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】ロシア国特許出願公開第2117957号明細書
【文献】ロシア国特許出願公開第2456629号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の技術的解決策の欠点は、追加の機器を使用するために、材料および運用のコストが増大し、診断プロセスが複雑になることである。
【0006】
請求された技術的解決策に最も近い類似技術は、電動バルブの技術的状態を診断する方法である(特許文献2)。この方法は、測定したモーター電流のスペクトル値をデータベースに保存されている初期値と比較する関するものであって、誘導モーターのステーターを振動センサーとして使用し、モーターの動作中に、その巻線電流信号に記録された機械的振動の測定を含み、前記誘導モーターのステーターからの電流信号を測定した後、それを処理して変換し、その電流スペクトルを診断パラメーターとして使用し、電流信号の周波数を電源周波数に正規化し、バルブと電動機器の固有振動数の振幅の変化から欠陥の進行を判断し、振幅に変化が無ければ、診断結果を「正常」とし、振幅がやや線形に増加していたら、診断結果を「運用可能」とし、振幅が指数関数的または放物関数的に増加していたら、診断結果を「機器の故障に先立つ状態」とし、スペクトルの測定値と基本値に差が、許容できる不一致の限界を超えた場合には、当該電動バルブが故障した結論する。
【0007】
最も近い類似技術の欠点は、診断信号が振幅の形で決定され、さまざまな時間周期で変化するために、測定精度が低くなることである。
【0008】
本発明が達成すべき目的は、回転機器の故障の検出品質を改善して、その運用を継続することができるか解析することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の本質は、回転機器の技術的状態を診断する方法であって、当該機器における機械的振動の特定および評価を含むものに関し、検査対象の回転機器と同じタイプで、故障していないことが既知である機器からの参照用診断信号を、予め検査期間に亘って測定して、記録し、当該検査対象の機器の動作中の診断信号を、検査期間に亘って測定して、記録し、記録した参照用信号および当該検査対象の機器の信号を、少なくとも2秒間持続する少なくとも5つのセグメントに分割し、記録した参照用信号および検査用信号の各セグメントを、周波数に対する振幅の分布を表すスペクトルに変換し、前記検査対象の機器および故障のない機器からの診断信号スペクトルの振幅を、検査用信号と参照用信号との間に偏差が現れる周波数でサンプリングし、検査対象の機器および故障のない機器のスペクトルにおける振幅の絶対差を計算し、当該絶対差をランク付けして、得られたランクの合計値を求め、当該得られたランクの合計値を閾値と比較し、前記回転機器の所定の振動値を超過しているかについて総括して、前記得られたランクの合計値が閾値を超える場合には何らかの欠陥が存在し、または、前記得られたランクの合計値が閾値を下回る場合には、前記モーター機器には何ら欠陥は存在しないと結論付けることを提案する。
【0010】
また、前記診断信号として振動加速度を用いることを提案する。
【0011】
ウィルコクソンT検定による有意水準と標本サイズに応じて、前記閾値を決定することを提案する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって達成される技術的成果は、診断信号の測定および分析における誤差が低減することである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、故障していない装置および故障した装置から得られた診断信号のスペクトルを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
提案された方法は、以下のように実施される。
【0015】
AP2043振動音響センサーを用いて振動加速度を測定することによって回転機器振動の診断を行う。振動音響センサーは、GOST ISO 10816に従って設置される。機器の状態に応じた診断頻度の要件は、企業の規則文書で決定される。
【0016】
まず、検査対象の回転機器と同じタイプで、故障していないことが既知である装置の参照用診断信号が、予め検査期間に亘って測定され、記録される。次に、検査対象の装置の動作中の診断信号が検査期間に亘って測定され、記録される。
【0017】
次に、記録しておいた参照用信号および検査対象の装置の信号が、少なくとも2秒間持続する少なくとも5つのセグメントに分割され、記録した参照用信号および検査用信号の各セグメントは、周波数に対する振幅の分布を表すスペクトルに変換される。
【0018】
それから、検査用信号と参照用信号の間に偏差が現れる周波数で、検査対象の装置および故障のない装置からの診断信号スペクトルの振幅がサンプリングされ、検査対象の装置および故障のない装置のスペクトルの振幅の絶対差が計算される。
【0019】
次に、絶対差がランク付けされ、得られたランクが合計され、得られたランクの合計値が閾値と比較される。
【0020】
実行された操作に基づいて、回転機器に対する所定の振動値を超過したかが否か結論され、その結果、得られたランクの合計値が閾値を超えた場合には何らかの故障が存在し、また、得られたランクの合計値が閾値未満には場合のモーター機器の故障は何ら存在しないと結論付けられる。
【0021】
回転機器の技術的状態を診断する方法は、ノヴォヴォロネジ原子力発電所で実施されており、次の例を用いて説明される。
図1は得られた測定・分析結果を示しており、
図2の表と同様に、故障していない装置および故障した装置のスペクトルに関して得られたグラフが表されている。
【0022】
故障していない機器の振動信号と、ベアリングの欠陥が疑われる回転機器のベアリング機器の振動信号が測定された。
【0023】
各信号は持続時間が2秒間の10個のセグメントに分割され、セグメントごとにフーリエスペクトルがプロットされた。
【0024】
保持器の特性周波数7Hzおよび転動体の特性周波数83Hzで振幅を測定し、その結果を
図2の表の第1列から第4列に記録した。
【0025】
両方の周波数について、故障のない状態と故障状態とでスペクトル振幅の差を計算した(
図2の表の第5列および第6列)。
【0026】
絶対差の昇順にソートして、差が小さいほど低いランクを割り当てた(
図2の表の第7列および第8列)。
【0027】
スペクトル振幅の差が負になっている絶対差のランクを合計して(
図2の表の第11行)、2つの異なる優位水準の閾値と比較する(
図2の表の第12および大13行)。
【0028】
保持器の周波数7Hzでの振幅は、10個の例のうち4つの例で何らかの欠陥の存在下で増加し、2つの例では変化せず、4つの例では減少した。
【0029】
ランクの合計値は閾値よりもはるかに大きいことが判明したため、この周波数での振幅は状態を特徴付けなかった。
【0030】
外輪の周波数における振幅は多くの場合に増加し、該振幅が減少することは稀であり且つ重要ではない。ウィルコクソン検定に従えば、これらの振幅は、信頼できる診断特徴を表わしている。
【0031】
ウィルコクソン検定による診断特徴の評価を含むスペクトルの分析は、検査対象の回転機器にベアリングの欠陥が存在することを示している。
【0032】
提案した方法は、原子力発電所で使用できるだけでなく、機械生産、火力発電などの産業に係る企業や施設において回転機器の技術的状態を監視する場合にも使用することができる。
【0033】
提案した方法を使用すれば、原子力発電所のシステムの一部である動的ポンプやファンなどの回転機器の誤動作の検出品質を向上させることができるので、原子力発電所の安全運転のレベルを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本開示に係る回転機器の技術的状態を診断する方法は、電気駆動機器の技術的状態を診断する方法であって、特に、原子力発電所の回転機器の振動を監視するために有用である。