(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】ファイナルドライブ
(51)【国際特許分類】
F16H 48/34 20120101AFI20240704BHJP
【FI】
F16H48/34
(21)【出願番号】P 2023520682
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2021018206
(87)【国際公開番号】W WO2022239185
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】廣田 功
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 学
(72)【発明者】
【氏名】堀口 奨斗
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-287106(JP,A)
【文献】特開2004-270741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軸に向けられたシャフトに入力されたトルクを第2の軸に向けられた一対の車軸へ伝達するファイナルドライブであって、
前記シャフトと噛合するリングギアを備えて前記第2の軸の周りに回転可能なケーシングと、前記ケーシングに収容され前記車軸とそれぞれ結合するサイドギアと、を備えたデファレンシャル装置と、
前記ケーシングに収容され、前記サイドギアの一方と連結して前記ケーシングにロックする
ドッグ歯またはキーを備えたクラッチ部材と、
前記ケーシング外に配置されたアクチュエータであって、
少なくとも部分的に前記第2の軸に直角に向けられた平板であり、前記第2の軸周りに回転可能であって前記第2の軸の方向に可動なアクションメンバであって、前記クラッチ部材に駆動的に結合したアクションメンバと、
前記アクションメンバにギア結合して前記第2の軸周りに回転させるモータと、
少なくとも部分的に前記第2の軸に直角に向けられた平板であり、前記アクションメンバに当接したカウンタメンバと、
前記カウンタメンバに対する前記アクションメンバの回転を前記第2の軸の方向の運動に変換して前記クラッチ部材を前記サイドギアの一方から脱連結させるカム構造と、を備えたアクチュエータと、
前記デファレンシャル装置と前記アクションメンバと前記カウンタメンバとを囲み、前記カウンタメンバを回り止めするハウジングと、
を備え
、
前記カム構造は、前記アクションメンバおよび前記カウンタメンバからそれぞれ一体的に前記第2の軸の方向に突出して互いに当接したカム斜面である、ファイナルドライブ。
【請求項2】
前記カム斜面は、前記第2の軸の周りに周方向に傾いている、請求項
1のファイナルドライブ。
【請求項3】
前記ハウジングは、前記車軸の一方が貫通する壁部と、前記車軸の他方が貫通する分離可能なカバーと、を備え、前記壁部から前記カバーに向かって、前記壁部、前記リングギア、前記クラッチ部材、前記アクションメンバ、前記カバーの順に配列している、請求項1のファイナルドライブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、特に幅方向にコンパクトなファイナルドライブに関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、例えば後輪駆動(FR)型の自動車において、エンジンおよび/またはモータが発生するトルクは、トランスミッションからプロペラシャフトを介してファイナルドライブに伝達される。ファイナルドライブはデファレンシャルギア組を内蔵しており、伝達されたトルクを右および左の駆動輪に差動的に分配する。
【0003】
ファイナルドライブはさらに、デファレンシャルギア組の差動を制限したり、あるいは駆動輪へのトルク伝達を切断する等の目的のために、クラッチとそのアクチュエータとを包含することがある。
【0004】
特許文献1はアクチュエータの全体がハウジングの内部にある装置の例を開示し、特許文献2,3はモータを外部に置いて、カム機構によって内部のクラッチを操作する装置の例を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許出願公開2017-067257号
【文献】国際特許出願公開WO2017/060963A1
【文献】日本国特許出願公開昭61-130646号
【発明の概要】
【0006】
比較的に軽量な車両、例えば三輪スクータ、ゴルフカート、マイクロカーあるいはバギーは、左右の駆動輪間を狭くせざるを得ない。その間に介在するファイナルドライブの幅が大きければ、車軸が揺動する余地を削ってしまう。すなわち軽量車においては特に、ファイナルドライブをいかに幅方向にコンパクトにするかが重要な技術的課題である。以下に開示されるものは、かかる課題に鑑みて創作された。
【0007】
一局面によれば、第1の軸に向けられたシャフトに入力されたトルクを第2の軸に向けられた一対の車軸へ伝達するファイナルドライブは、前記シャフトと噛合するリングギアを備えて前記第2の軸の周りに回転可能なケーシングと、前記ケーシングに収容され前記車軸とそれぞれ結合するサイドギアと、を備えたデファレンシャル装置と、前記ケーシングに収容され、前記サイドギアの一方と連結して前記ケーシングにロックするドッグ歯またはキーを備えたクラッチ部材と、前記ケーシング外に配置されたアクチュエータであって、少なくとも部分的に前記第2の軸に直角に向けられた平板であり、前記第2の軸周りに回転可能であって前記第2の軸の方向に可動なアクションメンバであって、前記クラッチ部材に駆動的に結合したアクションメンバと、前記アクションメンバにギア結合して前記第2の軸周りに回転させるモータと、少なくとも部分的に前記第2の軸に直角に向けられた平板であり、前記アクションメンバに当接したカウンタメンバと、前記カウンタメンバに対する前記アクションメンバの回転を前記第2の軸の方向の運動に変換して前記クラッチ部材を前記サイドギアの一方から脱連結させるカム構造と、を備えたアクチュエータと、前記デファレンシャル装置と前記アクションメンバと前記カウンタメンバとを囲み、前記カウンタメンバを回り止めするハウジングと、を備え、前記カム構造は、前記アクションメンバおよび前記カウンタメンバからそれぞれ一体的に前記第2の軸の方向に突出して互いに当接したカム斜面である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、後輪駆動車の基本構成を表した模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態によるファイナルドライブの一部を切断してその内部を見せた斜視図である。
【
図3】
図3は、ファイナルドライブの縦断面図である。
【
図4】
図4は、アクチュエータの分解斜視図である。
【
図5】
図5は、主にアクチュエータとクラッチ部材とが結合する部分を見せる、デファレンシャル装置の斜視図である。
【
図6】
図6は、アクチュエータの動作を説明する、周方向に沿うアクションメンバおよびカウンタメンバの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付の図面を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。図面は必ずしも正確な縮尺により示されておらず、従って相互の寸法関係は図示されたものに限られないことに特に注意を要する。
【0010】
本実施形態によるファイナルドライブは、例えば三輪スクータ、ゴルフカート、マイクロカーあるいはバギーのごとき軽量車の後輪を駆動するのに利用できるが、もちろん例えば前輪駆動車や四輪駆動(4WD)車に利用してもよく、あるいは他の駆動形式に応用することができる。添付の各図は例示的な後輪駆動車に関し、
図1,3に共通して、図の上方が車両に対して前方Fであり、図の右および左がそれぞれ右方Rおよび左方Lだが、
図2においては図の右下方が前方Fである。もちろん前後および左右はそれぞれ任意に入れ替えて実施することができる。
【0011】
図1を参照するに、車両1は、概して、エンジン/モータ3と、トランスミッション5とを備える。エンジン/モータ3が生み出したトルクの一部はトランスミッション5を介して両前輪へ分配されてもよく、他の一部はパワートランスファユニット7を介してプロペラシャフト9へ引き出され、ファイナルドライブ11を介して両後輪17R,17Lへ分配される。
【0012】
後輪17R,17Lは、路面の凹凸を吸収するべく、通常は車体に対して浮動可能である。後輪17R,17Lを浮動可能にするべく、例えば車軸19R,19Lにはそれぞれ等速ジョイント25が介在し、これらを支点として車軸19R,19Lが揺動できるように構成される。ファイナルドライブ11が幅方向にコンパクトであれば、支点間をより長くすることができ、従って車軸19R,19Lの揺動の余地を確保するのに有利である。軽量車では後輪17R,17L間に十分なスパンが得られないので、かかる利点は軽量車に特に有利に働く。
【0013】
主に
図2を参照するに、ファイナルドライブ11は、概して横向きのドラム形であるハウジング13を備える。ハウジング13からは軸C1の方向に前方Fにジャケット部が延び、かかるジャケット部から引き出されたシャフト21は軸C1周りに回転可能である。シャフト21は入力トルクを受容し、ハウジング13内のデファレンシャル装置33は軸C1と平行でない軸C2周りにかかるトルクを車軸19R,19Lへ伝達する。デファレンシャル装置33は、ロックされていない時には、トルクを差動的に分配する。
【0014】
シャフト21は、その外端に、例えばコンパニオンフランジを固定的に備え、以ってプロペラシャフト9と駆動的に結合することができる。あるいはコンパニオンフランジに代えて、スプラインや他の結合手段を備えてもよい。
【0015】
シャフト21からデファレンシャル装置33へのトルクの伝達はピニオンギア23とリングギア31との組み合わせによる。異なる軸方向にトルク伝達するために、これらは通常はスパイラルないしハイポイドギアであるが、必ずしもこれらに限られない。ピニオンギア23はシャフト21の内端に一体であってもよい。
【0016】
デファレンシャル装置33は、軸C2周りに回転可能なケーシング35を備え、リングギア31はケーシング35の外周に結合する。結合は、締結、溶接、または他の手段によることができる。ピニオンギア23及びリングギア31を介してデファレンシャル装置33は軸C2周りにトルクを受容して回転する。
【0017】
図2に組み合わせて
図3を参照するに、ケーシング35は、その内部に、トルクをそれぞれ車軸19R,19Lへ出力するためのサイドギア37R,37Lを備えたデファレンシャルギア組と、サイドギア37R,37L間の差動をロックするためのクラッチ部材43とを収容する。
【0018】
デファレンシャルギア組は、単純なデファレンシャルであってもよく、あるいは所謂リミテッドスリップデフ(LSD)であってもよい。また
図2,3に示した例ではデファレンシャルギア組はベベルギア式だが、あるいはフェースギア式やプラネタリギア式等の他のギア組を利用することができる。
【0019】
サイドギア37R,37Lの一方、例えば右サイドギア37Rはドッグ歯を備え、クラッチ部材43は対応するドッグ歯を備え、互いに噛合することにより右サイドギア37Rをケーシング35にロックし、以ってサイドギア37R,37L間の差動をロックする。ドッグ歯に代えて他の連結構造、例えばキーとキー溝の組み合わせを利用してもよい。
【0020】
図2,3に組み合わせて
図4を参照するに、ファイナルドライブ11は、クラッチ部材43を駆動するために、モータ39とアクチュエータ41とを備える。モータ39はギアシャフト39Gを介してアクチュエータ41に回転運動を与え、アクチュエータ41は回転運動を軸方向の運動に変換してクラッチ部材43を駆動する。
【0021】
アクチュエータ41は、ハウジング13内だがケーシング35外であって、クラッチ部材43に近接して配置される。アクチュエータ41は、概して、モータ39に駆動されて軸C2周りに回転するアクションメンバ51と、これに当接する回り止めされたカウンタメンバ53と、を備える。これらをハウジング13に対して位置決めするために、ベースメンバ59をさらに備えてもよい。
【0022】
アクションメンバ51、カウンタメンバ53およびベースメンバ59は、何れも、例えば機械構造用鋼よりなる平板を輪環状に打ち抜き、切削加工したものである。カウンタメンバ53とベースメンバ59との一方または両方は、互いの係合のために部分的に曲げられた爪構造を備え、またアクションメンバ51とカウンタメンバ53との一方または両方は、部分的にプレス加工されてカム斜面51C,53Cを備えるものの、何れも概ね比較的薄い平板である。何れも軸C2に対して略直角に向けられ、アクションメンバ51とカウンタメンバ53とは互いに当接し、ベースメンバ59はこれらから僅かに離れるに過ぎないので、その全体は軸C2の方向にごく小寸法である。
【0023】
アクションメンバ51は、既に述べた通り概ね輪環状だが、その外周の比較的限られた部分が径方向に外方に僅かに延びていてもよく、例えばかかる部分に、ギアシャフト39Gと噛合するためのギア歯51Gを備える。アクションメンバ51はギア歯51Gを介して駆動力を受けて、軸C2の周りに回転する。言うまでもなく、正転と逆転の両方がありうる。
【0024】
図2,3に示した例ではモータ39はハウジング13に固定され、その本体はハウジング13外に突出しており、専らギアシャフト39Gのみがハウジング13内に突き出てギア歯51Gと噛合する。モータ39の配置はこれに限られず、その大部分がハウジング13内であってもよい。またモータ39は軸C2と同軸であってアクチュエータ41を囲む中空軸モータであってもよい。その場合に中空軸はアクションメンバ51の外周に結合してもよく、あるいは中空軸とアクションメンバ51とが一体であってもよい。
【0025】
カウンタメンバ53は、ベースメンバ59と互いに係合しており、以って軸方向と周方向の両方に移動が規制されており、あるいは固定されていてもよい。ベースメンバ59は、また、ハウジング13に係合し、あるいは固定され、以ってこれらの全体が回り止めされる。あるいは
図2に最もよく示されている通り、回り止めのためにブラケット45がアクチュエータ41から延びて、ハウジング13に係合していてもよい。
【0026】
図2,3に組み合わせて、
図4に戻って参照するに、これまでの説明から理解される通り、カウンタメンバ53は軸C2の周りに回り止めされ、また軸C2の方向に移動が規制されているが、アクションメンバ51は軸C2の周りに回転可能であり軸C2の方向にも可動である。アクションメンバ51をカウンタメンバ53に向けて適度に付勢して常時これに当接させるべく、スプリング55を利用することができる。スプリング55は、例えば、アクションメンバ51とベースメンバ59との間に弾発的に介在することができる。あるいは可能ならば、スプリング55に代えて、他の適宜の付勢手段を利用してもよい。
【0027】
アクションメンバ51の軸方向運動をクラッチ部材43に伝えるべく、その間にトランスファメンバ57が介在してもよい。トランスファメンバ57はアクションメンバ51に係合してもよく、かかる係合は周方向の摺動を許容するが、あるいは相対回転を円滑にするべくボールベアリング等が介在してもよい。クラッチ部材43とトランスファメンバ57との結合は、例えばボルト61によることができ、ボルト結合のためにトランスファメンバ57から延びた脚57Lを利用することができる。
【0028】
クラッチ部材43は概して肉厚の円環であり、その一方の面においてアクションメンバ51ないしトランスファメンバ57と結合し、他方の面はドッグ歯を備える。また例えばその外周には、ケーシング35と結合するためのラグ43Lを備え、これに対応してケーシング35はラグ43Lと係合しつつ軸方向の移動を許容する溝を備える。
【0029】
クラッチ部材43を適度に付勢してサイドギア37Rに常時連結せしめるべく、クラッチ部材43とケーシング35の内面との間にはスプリング29が介在してもよい。可能ならばスプリング29に代えて、他の適宜の付勢手段を利用してもよい。かかる例ではクラッチ部材43はサイドギア37Rから常時連結しており、アクチュエータ41が作動した時にのみ脱連結する。あるいはこれとは逆に、クラッチ部材43はサイドギア37Rに常時脱連結しており、アクチュエータ41が作動した時にのみ連結する構成であってもよい。アクチュエータ41は、クラッチ部材43を双方向に駆動できるので、スプリング29が付勢する方向により、何れの構成も容易に実現できる。
【0030】
図2ないし4に組み合わせて
図5を参照するに、ケーシング35の一端は一以上の貫通孔35Pを備え、トランスファメンバ57の脚57Lはそれぞれ貫通孔35Pを通ってクラッチ部材43に届き、ボルト61等によりこれに結合する。貫通孔35Pは比較的に小さくてよく、従ってケーシング35の強度および剛性が損なわれることはない。
【0031】
図2ないし5に組み合わせて
図6を参照するに、アクションメンバ51とカウンタメンバ53との組み合わせは、モータ39によるアクションメンバ51の回転運動を軸方向の運動に変換するカム構造を備える。その一例は、既に述べたカム斜面51C,53Cである。アクションメンバ51とカウンタメンバ53とがそれぞれ対応してカム斜面51C,53Cを備えてもよく、あるいは何れか一方のみがカム斜面を備え、他方はカム斜面を受容する開口のごとき構造を備えてもよい。何れにせよ、アクションメンバ51とカウンタメンバ53とはカム構造において互いに当接し、好ましくは互いに面接触する。
【0032】
カム斜面51C,53Cは、それぞれアクションメンバ51,カウンタメンバ53から一体的に突出した斜面であり、それぞれ軸C2の回りに周方向に傾きを有する。言うまでもなく、斜面が突出する方向は図と反対であってもよく、傾きも反対向きであってもよい。アクションメンバ51に周方向の回転運動Rmが生じると、カム斜面51C,53Cはアクションメンバ51を案内してこれに軸方向の運動Mを生じさせる。
【0033】
図6において実線の位置においては、クラッチ部材43はサイドギア37Rに連結したままであり、二点鎖線の位置に押し上げられるとアクションメンバ51はクラッチ部材43を脱連結させる。このときデファレンシャル装置33の差動が許容される。既に述べた通り、スプリング55の付勢力により互いの当接は維持されるので、アクションメンバ51が反対方向に回転すれば、二点鎖線の位置から実線の位置へ復帰する。このとき再びデファレンシャル装置33の差動はロックされる。
【0034】
上述の説明より理解される通り、モータ39の回転角はクラッチ部材43の軸方向の運動を正確に反映する。このことを利用して、モータ39の回転角からクラッチが連結しているか脱連結しているかを判定してもよい。
【0035】
図2,3に戻って参照するに、少なくともデファレンシャル装置33とアクチュエータ41とは、ハウジング13とこれに結合したカバー15との組み合わせに収容される。ハウジング13とカバー15とは、縦方向に(軸C1に沿う方向に)ではなく、幅方向に(軸C2に沿う方向に)分離および結合される、所謂サイドカバー式の形態である。ハウジング13は、デファレンシャル装置33および他の要素を囲む本体部13Bと、これと一体であってその側面を覆う壁部13Wとを備える。壁部13Wは本体部13Bから分離不能だが、カバー15は分離可能であって、壁部13Wとは反対の側面を覆う。壁部13Wは左車軸(言うまでもなく、右車軸であってもよい)を受容する開口を備え、カバー15は右車軸(あるいは左車軸)を受容する開口を備えるが、両車軸を挿入したときには内部は外部から遮断される。
【0036】
ジャケット部は本体部13Bから前方Fに突出し、その前端において開口している。ジャケット部内のボアは、シャフト21を受容して支持する。ボアは少なくともピニオンギア23の通過を許容するに十分な大きさにすることができ、あるいはシャフト21を回転可能に支持するベアリングユニットを支持するべく寸法づけられていてもよい。
【0037】
カバー15がハウジング13から分離すると、本体部13Bの内部へのアクセスを許容する開口が現れ、かかる開口を通ってデファレンシャル装置33およびアクチュエータ41を内部に据え付けることができる。開口は、リングギア31の通過を許容するに十分な大きさであり、また内部の室は、開口から挿入されたリングギア31が軸C2に沿って壁部13Wの近傍まで移動可能なように寸法づけられている。
【0038】
リングギア31は壁部13Wにごく近接しており、ピニオンギア23はこれよりもやや中央よりにあって、互いに噛合する。壁部13Wからカバー15に向かって、あるいは軸C2に沿って見たときに、壁部13W、リングギア31、ピニオンギア23を含むシャフト21、クラッチ部材43、アクチュエータ41は、この順に配列している。また軸C2に沿って見たときには、ケーシング35とピニオンギア23とが互いにオーバーラップした配置にすることができる。このような配置は、ファイナルドライブ11を幅方向に小型化するのに有利である。
【0039】
ケーシング35の左端(あるいは右端)35Lは壁部13Wに支持され、右端(あるいは左端)35Rはカバー15に支持される。回転を許容するべく、それぞれボールベアリングが介在してもよく、もちろんボールベアリングに代えて、ローラーベアリングないしその他の軸受要素であってもよい。
【0040】
それぞれの車軸の周囲から潤滑油のごとき流体が漏れるのを防ぐべく、開口は、それぞれに固定されたシールを備えることができる。シールは、ベアリングよりも径方向に内方に配置することができ、また軸C2の方向には互いにオーバーラップしていてもよい。このような配置は、開口の周囲に軸C2の方向に突出した構造を不要にし、すなわち幅方向の小型化に役立つ。
【0041】
既に述べた通り、リングギア31はピニオンギア23を含むシャフト21よりも壁部13W寄りであるために、ハウジング13内においてカバー15寄りに利用可能な空間が残されており、ここにアクチュエータ41を配置することができる。アクチュエータ41は概して平板の組み合わせによるのでごく薄く、それゆえアクチュエータ41を収納する空間を確保するためにカバー15は側方に突出する必要がない。カバー15を含むハウジング13の全体を幅方向にコンパクトにすることができる。リングギアは全ての内部部品の中で最も大径であるから、これを最も内奥に配置できるようにハウジング13を寸法づけることは、常識に従えばハウジングの小型化に不利であると予想されたところである。本実施形態では敢えてそのような常識に反した配置を採用して幅方向にコンパクトな構成を実現している。既に述べた通り、幅方向にコンパクトな構成は、車軸19R,19Lの揺動の余地を確保できるなど、様々な利益をもたらす。
【0042】
またかかる配置によれば、モータ39はカバー15と共に後から組み込むことができ、ハウジング13内の要素の組み立てはごく容易である。
【0043】
一方、本実施形態による配置では、ピニオンギア23とリングギア31とをどのようにして噛合せしめるかが問題である。従来技術と異なり、ピニオンギア23を先に配置し、後からリングギア31を噛合せしめることはできないからである。本実施形態では、先にリングギア31を配置しておき、後からシャフト21をジャケット部の開口を通って挿入して組み込むことができるので、かかる問題を解決することができる。ギア噛合の調整のために、シャフト21は噛み合い調節機構を備えてもよい。
【0044】
幾つかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正ないし変形をすることが可能である。